(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6624862
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】イオン注入装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/317 20060101AFI20191216BHJP
H01J 27/08 20060101ALI20191216BHJP
H01J 37/08 20060101ALI20191216BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20191216BHJP
【FI】
H01J37/317 Z
H01J27/08
H01J37/08
H01L21/265 603A
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-184478(P2015-184478)
(22)【出願日】2015年9月17日
(65)【公開番号】特開2016-72243(P2016-72243A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2018年7月5日
(31)【優先権主張番号】特願2014-202017(P2014-202017)
(32)【優先日】2014年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】715010864
【氏名又は名称】エイブリック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤村 隆
【審査官】
道祖土 新吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−241589(JP,A)
【文献】
特開2006−302701(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2005−0096516(KR,A)
【文献】
特表2010−521765(JP,A)
【文献】
特開平03−219541(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0022144(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 27/00−27/26
H01J 37/04−37/08
H01J 37/248
H01J 37/30−37/36
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンを発生するアークチャンバを有するイオン注入装置であって、
前記アークチャンバは、
筐体と、
前記筐体に設けられたフィラメントと、
前記アークチャンバの一面に備えられた第1のスリットを有するフロントスリットと、
前記フロントスリットの内面に固定された、第2のスリットを規定しているスペーサ板と、からなり、
前記第1のスリットと前記第2のスリットは重なり合って、スリット部を形成しており、
前記スペーサ板は、複数の薄型スペーサ板の積層体であって、
前記フロントスリットと接する最上位の前記薄型スペーサ板は、前記第1のスリットの幅である第1のスリット幅を超えない前記第2のスリットの幅である第2のスリット幅を有し、前記スリット部の幅を実質的に規定しており、中位および最下位の前記薄型スペーサ板のスリット幅は、前記第2のスリット幅よりも大きいことを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記第2のスリットは、2枚の前記スペーサ板の離間領域であることを特徴とする請求項1記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記第2のスリットは、1枚の前記スペーサ板の中心部に設けられた開口部であることを特徴とする請求項1記載のイオン注入装置。
【請求項4】
前記スペーサ板は、シリコンカーバイド、または、チタンカーバイドからなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のイオン注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造工程において用いられるイオン注入装置及びイオン注入方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では、半導体装置として必要な特性を得るため、半導体基板に不純物の導入が必要である。半導体基板に不純物を導入する方法として、イオン注入により行うことが一般的である。このイオン注入には、イオン注入装置が用いられている。
【0003】
図5は、イオン注入装置の構成図である。
イオン注入装置は、ガスボンベ12に接続されたイオンを発生させるイオン発生装置11と、このイオン発生装置11から引き出されたイオンの中から必要なイオンを選別するための質量分析装置8と、質量分析装置8で選別されたイオンを加速させてイオンビームにする加速装置9と、半導体基板を保持し、イオンビームを半導体基板に照射して半導体基板にイオンを注入する注入室10からなっている。イオン発生装置はアークチャンバ1と引き出し電極7からなり、アークチャンバ1で発生したイオンは引き出し電極7により引き出される。(例えば、非特許文献1を参照)
【0004】
図4は、従来技術に係るアークチャンバの図であって、(a)は断面図、(b)は上面図、(c)は要部拡大断面図である。
アークチャンバ1内のフィラメント2に電流を流すことにより、フィラメント2が抵抗加熱され熱電子を放出する。そして、アークチャンバ1内に不純物ガスを導入すると、前記熱電子との衝突によりイオン化され、アークチャンバ1内はプラズマ状態となる。このプラズマ中のイオンは引き出し電極によってアークチャンバのフロントスリット3に設けられたスリット4Aより引き出される。スリット4Aは引き出されたイオンの経路を制限している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「半導体プロセス教本」SEMIジャパン出版、2002年、P65〜67
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のイオン発生装置では、アークチャンバのスリット部が、アークチャンバ内に発生したプラズマおよびスリット部を通過するイオンにより、摩耗し、スリット幅が広がってくるため、フロントスリットを定期的に交換する必要がある。フロントスリットの耐用寿命を延ばすことでランニングコストを抑えることが可能となり、イオン注入装置を用いて製造される半導体装置のコストも下げることが可能となる。
そこで、本発明は、耐用寿命が延ばされたフロントスリットを有するイオン注入装置および、イオン注入方法を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題解決のために以下の手段を用いた。
まず、イオンを発生するアークチャンバを有するイオン注入装置において、前記アークチャンバは筐体と、前記筐体に設けられたフィラメントと、前記アークチャンバの一面に備えられたフロントスリットと、前記フロントスリットに固定されたスペーサ板と、からなり、前記スペーサ板にはスリット部が設けられていることを特徴とするものである。
【0008】
また、前記スリット部における前記スペーサ板の第2のスリット幅は、前記フロントスリットの第1のスリット幅より大きいことを特徴とするイオン注入装置とした。
また、前記スリット部は、2枚の前記スペーサ板の離間領域であることを特徴とするイオン注入装置とした。
また、前記スリット部は、1枚の前記スペーサ板の中心部に設けられた開口部であることを特徴とするイオン注入装置とした。
【0009】
また、前記スペーサ板は、複数の薄型スペーサ板の積層体からなることを特徴とするイオン注入装置とした。
また、前記スペーサ板はシリコンカーバイド、またはチタンカーバイドからなることを特徴とするイオン注入装置とした。
【発明の効果】
【0010】
上記方法を用いることにより、アークチャンバのスリット部が、アークチャンバ内に発生したプラズマおよびスリット部を通過するイオンにより、摩耗しにくくなるので、長寿命化されたフロントスリットを有するイオン注入装置およびイオン注入方法の提供に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るアークチャンバの図である。(a)は断面図、(b)は上面図、(c)要部拡大断面図である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係るアークチャンバの上面図である。
【
図3】本発明の第3実施形態に係るアークチャンバの要部拡大断面図である。
【
図4】従来技術に係るアークチャンバの図である。(a)は断面図、(b)は上面図、(c)要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参考に本発明を実施例により説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るアークチャンバの図である。(a)は断面図、(b)は上面図、(c)は要部拡大断面図である。
【0013】
図1(a)の断面図に示すように、アークチャンバ1の筐体の側面にはフィラメント2が取付けられ、上面にはフロントスリット3が設けられている。フロントスリット3は断面視的に周辺部が肉厚で中心部が肉薄という形状である。そして、中心部には開口部である第1のスリット4Aを有している。第1のスリット4Aを含む領域の断面図における下面、すなわち、フロントスリット3が筐体と向かいあう面であるロントスリット3の内面には2枚のスペーサ板6が脱着可能に固定されている。
図1(b)の上面図に示すように、フロントスリット3の中心に設けられた第1のスリット4Aは横長の矩形で長さ10〜50mm、幅1〜4mm、周囲の肉厚である厚さは0.5〜1mmである。
【0014】
スペーサ板6は離間して2枚設けられ、離間した領域が第1のスリット部4Aに対応しており、離間した領域が第2のスリット4Bを形成している。第1のスリット4Aと第2のスリット4Bとは重なるように配置され、スリット部4を形成している。イオンが通過するスリット部4の幅であるスリット幅はスペーサ板の間隔で決まるように設定する。一方、スリット幅に直交するスリット長さはフロントスリット3に設けられた第1のスリット4Aによって決められる。なお、スペーサ板6の材料には高融点金属のモリブデン(Mo)、タングステン(W)などの他、多元系物質であるシリコンカーバイド(SiC)、タングステンカーバイド(WC)、チタンカーバイド(TiC)、モリブデンカーバイド(Mo2C)などを利用しても良い。
【0015】
A−Aにおける断面を拡大した図が1(c)である。フロントスリット3は外周部で一定の厚みを有し、中心に向うに従い漸減する。そして中心部には第1のスリット幅S1を有する第1のスリット4Aが形成されている。フロントスリット3の下面には第1のスリット4Aを挟んでより狭い第2のスリット4Bを形成するように左右2枚のスペーサ板6がフロントスリットに重畳して固定されている。左右2枚のスリット板6は第2のスリット幅S2の隙間をもって離間している。ここで、第2のスリット幅S2は第1のスリット幅S1と同等か、それより狭くなるように調整され、S2の隙間からフロントスリット3の端部が露出することはない。
図4(c)に示した従来技術のアークチャンバにおいては、フロントスリット自身でスリット幅S2を有するスリット4Aを形成していたが、本発明では、フロントスリット下のスペーサ板によって第2のスリット幅S2のスリット部を形成するという構成となっている。
【0016】
なお、このアークチャンバ1を含むイオン注入装置は
図5に示す構成である。すなわち、基本となる構成は変わらず、イオン注入装置は、ガスボンベ12に接続されたイオンを発生させるイオン発生装置11と、このイオン発生装置11から引き出されたイオンの中から必要なイオンを選別するための質量分析装置8と、質量分析装置8で選別されたイオンを加速させてイオンビームにする加速装置9と、半導体基板を保持し、イオンビームを半導体基板に照射して半導体基板にイオンを注入する注入室10からなっている。イオン発生装置にはアークチャンバ1と引き出し電極7からなり、アークチャンバ1で発生したイオンを引き出し電極7で引き出される。
【0017】
アークチャンバ1内のフィラメント2に電流を流すことにより、フィラメント2が抵抗加熱され熱電子を放出する。そして、アークチャンバ1内に不純物ガスを導入すると、前記熱電子との衝突によりイオン化されアークチャンバ1内はプラズマ状態となる。このプラズマ中のイオンは引き出し電極によってアークチャンバのスリット部4より引き出され、アークチャンバのスリット部が、アークチャンバ内に発生したプラズマおよびスリット部を通過するイオンにより、スリット部が摩耗し、そのスリット幅が広がるという課題を有していたが、本発明の場合はスペーサ板6のみが摩耗し、その上のフロントスリット3はダメージを受けにくい構成である。よって、フロントスリット3の定期的交換は抑制され長寿命化が図れる。フロントスリット3はモリブデンを材料とする非常に高価なものであるが、それに比べて薄く、平面積の小さい平板であるスペーサ板は相対的に安価であるので、定期的交換におけるランニングコストを低減することができる。また、左右のスペーサ板が均等ではなく片側が特に摩耗することでスリット幅が変化する場合は片側のスペーサ板の交換だけで良い。または、交換せずに片側のスペーサ板の位置調整を行うことで再度使用可能となる。
【0018】
図2は、本発明の第2実施形態に係るアークチャンバの上面図である。第1の実施形態との違いはスペーサ板6が一枚の板であって、その中心部にスリット4Bを有している点である。当然、スリット4Bの幅はスペーサ板6の幅よりも小さいことになる。このように一体型のスペーサ板6を用いることで定期交換時のスリット幅調整を省くことが可能となる。
【0019】
図3は、本発明の第3実施形態に係るアークチャンバの要部拡大断面図である。
フロントスリット3は外周部で一定の厚みを有し、中心に向うに従い漸減する。そして中心部では第1スリット幅S1の第1のスリット4Aを有する。フロントスリット3の下面にはスリット部を挟んで左右2枚のスペーサ板6がフロントスリットに重畳して脱着可能に固定されており、第2のスリット4Bを形成している。左右2枚のスリット板6は第2のスリット幅S2の隙間をもって離間している。ここで、第2のスリット幅S2は第1のスリット幅S1と同等か、それより狭くなるように調整され、S2の隙間からフロントスリット3の端部が露出することはない。
図3(a)に示すようにスペーサ板6は3層構造で薄型スペーサ板61、62、63を重ね合わせたものである。重畳した3枚の薄型スペーサ板はいずれも第2のスリット幅S2を有するように配置されることが望ましいが、少なくとも、最上位の薄型スペーサ板63が第2のスリット幅S2を有することが必要で、中位の薄型スペーサ板62や最下位の薄型スペーサ板61におけるスリット幅はS2より僅かに大きくても構わない。
【0020】
なお、ここでは3層構造をなす薄型スペーサ板61、62、63は左右2枚のスリット板から構成されるとして説明したが、
図2と同様に薄型スペーサ板61、62、63は各々その中心部にスリット4Bを有する一枚の板であってもよい。
【0021】
図3(b)は、プラズマやイオンによるダメージを受け部分的に欠損部を有するスペーサ板の要部拡大断面図である。最下位の薄型スペーサ板ほど欠損部が大きくなっている。
そこで、
図3(c)に示すように、最下位の薄型スペーサ板61を外して最上位に新たな薄型スペーサ板64を固定することでスペーサ板6の修復することがこの実施例の構成においては可能となっている。
【符号の説明】
【0022】
1 アークチャンバ
2 フィラメント
3 フロントスリット
4 スリット部
5 イオンビーム
6 スペーサ板
7 引き出し電極
8 質量分析器
9 加速器
10 注入室
11 イオン発生装置
12 ガスボンベ
13 欠損部
61 薄型スペーサ板
62 薄型スペーサ板
63 薄型スペーサ板
64 薄型スペーサ板
S1 第1のスリット幅
S2 第2のスリット幅