(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態について説明する。なお、
図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。また、
図1を含め、以下の図面において、同一の符号を付したものは、同一又はこれに相当するものであり、このことは明細書の全文において共通することとする。さらに、明細書全文に表わされている構成要素の形態は、あくまでも例示であって、これらの記載に限定されるものではない。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態に係る防音装置(以下、単に防音装置と称する)を備えたエレベータ用巻上機(以下、巻上機150と称する)の概略構成を示す概略側面図である。
図2は、防音装置、巻上機150、エレベータ300の構成を概略的に示す概略側面図である。
図3は、巻上機150を吸込み面側から見た概略構成を示す概略正面図である。以下、
図1〜
図3を参照しながら、防音装置、巻上機150及びエレベータ300について説明する。なお、
図2には、冷却ファン8によって形成される空気の流路を破線矢印で表している。
【0020】
防音装置は、複合制振材100及び多段複合層材70を有し、巻上機150に搭載され、巻上機150を備えたエレベータ300が設置される建物の最上階に設けられている機械室500に収容されている巻上機150の回転駆動に伴う振動に起因して発生する騒音を低減するようにしたものである。エレベータ300とは、ビル等などの建物に設置され、電力等の動力を用いて人や貨物をかごを介して上下に運搬する装置である。また、巻上機150は、モータ部が回転駆動されることで、ロープを巻き回し、ロープに連結されているかごを昇降する装置である。巻上機150のモータ部の駆動により、巻上機150から騒音が発生する。
【0021】
図1〜
図3に示すように、エレベータ300は、巻上機150、建物構造体1の上面に設けられ、巻上機150を下方から支持する支持台座2、建物の各階を上下方向に貫いている昇降路501内に設置され、巻上機150のロープ巻上回転部4に巻き回されたロープ151の一端に取り付けられたかご302、ロープ151の他端に取り付けられたバランス錘303等により構成されている。かご302及びバランス錘303は、ロープ151によって、上下方向に走行する。このとき、かご302及びバランス錘303は、図示省略のガイドレールに案内されて上下方向に走行する。
【0022】
ロープ151のうち、かご302に取り付けられるロープ151をロープ151Aと称する。ロープ151のうち、バランス錘303に取り付けられるロープ151をロープ151Bと称する。ロープ151A及びロープ151Bは、たとえば
図3に示すようにそれぞれ一対ずつ設けられている。ロープ151A及びロープ151Bの本数や種類(材質)、強度等は、エレベータ300に応じて決定されるものであって、特に限定されるものではない。
【0023】
なお、図示省略しているが、エレベータ300は、巻上機150を制御する加速機、定速機、減速機、インバータ電源等を有する制御装置を備えている。具体的には、制御装置は、巻上機150を構成するモータ部3の駆動を制御する。また、制御装置は、モータ部3の駆動に連動させるように冷却ファン8の駆動も制御する。
【0024】
昇降路501は、建物構造体1及び支持台座2によって囲まれた空間である。一般的には、昇降路501には各階のエレベータホール502が乗降口503を介して連なっている。乗降口503にはドア504が設けられており、ドア504が開放されることによって、昇降路501とエレベータホール502とが連通することになる。ただし、ドア504が開放される際には、開放されたドア504に対応する位置にかご302が停止しているため、乗降口503を介してかご302が停止したエレベータホール502と連通することになる。なお、
図1及び
図2に示すように、支持台座2にダンパ装置301を設置し、ダンパ装置301を介して巻上機150を設置するとよい。
【0025】
巻上機150は、一対の建物構造体1の上面に設けられた支持台座2の上面に設置される。巻上機150は、モータ部3と、モータ部3の駆動力により回転するロープ巻上回転部4を備えている。ロープ巻上回転部4が回転することにより、ロープ151の巻上げ又は巻下げが行われる。ロープ巻上回転部4によってロープ151が巻上げられた場合、エレベータ300のかご302が上昇する。これに対し、ロープ巻上回転部4によってロープ151が巻下げられた場合、かご302が下降する。この際、かご302は、利用者の都合に応じて、加速、定速、減速を繰り返す。速度制御には、上述したように一般的にはインバータ電源が用いられる。
【0026】
モータ部3の内部には、ロータとステータで構成されたモータ(図示省略)が設けられる。そして、モータの外周面を覆うように、ステータカバー5が配置される。
ステータカバー5は、複数枚用いて、円筒状に形成されている。本実施の形態では、ステータカバー5が、ステータカバーA50と、ステータカバーB51と、で構成されている場合を例に示している。つまり、ステータカバー5は、2分割状態となっている。
ステータカバーA50及びステータカバーB51には、それぞれ複合制振材100が固着される。
【0027】
なお、高速で運転させる巻上機150は、外観形状が非常に大型となる。そのために、モータ部3も必然的に大型となり、ステータカバー5は複数枚の円弧を有する金属等の構造体で構成し、モータの外周を遮蔽するものである。よって、
図2で示すように、ステータカバー5は、図面的に見える範囲では2枚に分割固着していることとなり、この分割した複数枚のステータカバー5に対して、複合制振材100をそれぞれに装着することとなる。
【0028】
ステータカバー5に関し、ステータカバー5のロープ巻上回転部4側とは反対側の開口部は、吸込み面カバー6によって覆われる。吸込み面カバー6の中央には、吸込み口7が形成されている。ステータカバー5のロープ巻上回転部4側は、開口部を介してロープ巻上回転部4が接続されている。
【0029】
また、ステータカバー5のロープ巻上回転部4側の上部には、1つ以上の冷却ファン8が設けられる。モータの回転が多く行われる場合には、冷却ファン8が回転する。つまり、冷却ファン8は、モータを冷却する機能を果たす。冷却ファン8が回転することにより、空気が吸込み口7からモータ部3の内部に進入する。モータ部3の内部に進入した空気は、風となってモータを冷却する。モータを冷却した空気は、冷却ファン8の吹出口8aを介してモータ部3の外部に放射される。
【0030】
なお、冷却ファン8は、軸流型送風機、遠心型送風機(代表的なものにシロッコファン)、又は多翼式送風機と呼ばれるもの、あるいはターボ型送風機の何れを用いてよく、これら全ての方式の送風機を含む概念である。また、
図2では、冷却ファン8をステータカバー5のロープ巻上回転部4側の上部に設けた場合を例に図示しているが、冷却ファン8の設置位置を特に限定するものではなく、モータ部3の内部に冷却空気を吸込めるような位置に冷却ファン8を設置すればよい。さらに、冷却ファン8の個数も限定するものではない。
【0031】
図3を用いて、吸込み面カバー6、吸込み口7、冷却ファン8について説明する。
図3に示すように、吸込み面カバー6は、環状に形成されている。つまり、吸込み面カバー6は、円筒状に形成されているステータカバー5のロープ巻上回転部4側とは反対側の開口部を覆うため外周が周状に形成され、中央に吸込み口7が形成されていることで、全体として環状になっている。
【0032】
吸込み口7は、吸込み面カバー6の中央を軸方向に貫通するように形成されている。吸込み口7が形成されることによって、モータ部3の内部に空気が吸込まれることになる。なお、吸込み口7には、モータ部3に吸込まれる空気に含まれている塵埃を捕集する網目状のフィルタを設けるようにするとよい。冷却ファン8は、たとえばステータカバー5の上部の両側に設けられる。
吸込み面カバー6の外側表面には、複合制振材及び吸音層で構成された多段複合層材70が固着する。
なお、防音装置を構成している複合制振材100、多段複合層材70については、後段で詳細に説明する。
【0033】
次に、
図4を用いて、モータで発生する振動状態を説明する。
図4は、防音装置が利用される巻上機150のモータで発生する振動状態を説明するための説明図である。
図4(a)が振動レベルを色の濃淡で示す表示例である。
図4(b)がモータ部3の側面図である。
図4(c)がステータカバー5の振動状態の一例を示す概略図である。
図4(d)がステータカバー5の振動状態の一例を示す概略図である。
【0034】
上述したように、モータは、ステータ(図示省略)とロータ(図示省略)を備え、モータ部3が形成される。
モータ部3のロータが回転すると、ステータとロータとの磁石のギャップ間で電磁振動が発生する。これらの振動は、ステータを介して、ステータカバーA50、ステータカバーB51、及び、吸込み面カバー6に伝達される。
【0035】
つまり、電磁振動は、ステータ全体で発生し、ステータカバー5に伝搬する。このとき、ステータカバー5においては、振動モードの次数時に応じた振動が発生することになる。この振動の周波数がモータそのものの構造で決まる固有振動数と一致すると、強烈なビビリ音や連続的な振動音が発生し、ステータカバー5の振動がそのまま音放射(騒音)として空中伝搬を繰り返すことになる。
【0036】
ステータでの振動がステータカバー5に伝搬すると、
図4(c)及び
図4(d)に示すような振動状態を発生させる。振動状態を個々に説明する。
ステータカバー5に伝搬したステータからの振動は、分割した円弧状態となっているステータカバー5の円弧の大きな部分を中心として上下振動を行う。これは、ステータカバー5の端部が固定されているために、端部では大振幅の振動が発生しにくい状況となるが、円弧の中心部分は強制的な固定が行なわれないので大振幅の振動が発生しやすい条件となっているからである。この振動状態は「縦波」でもあり、ステータカバー5は
図4(c)に示すような太鼓状となって振動する。
【0037】
ステータカバー5の両端部はカバーとしての機能を行わせるために、ステータにネジ等で固定されることになる。この固定部分をステータカバー固定端80と称する。このときに、円弧部を中心として発生する振動は、ステータカバー固定端80に伝搬する状態を生む。この振動伝搬に関して、ステータカバー5の中心部となる円弧部分の頂点付近で発生した振動がカバー材料中を伝搬することで発生する振動は、「横波」であり、このときに、カバー材料の表面上を伝搬する「表面波」とが材料中及び材料面上で発生する。
【0038】
この横波及び表面波は、ステータカバー5の端部と縦波発生個所とを往復するような振動伝搬状態となっている。よって、ステータカバー5で発生する振動は、縦波、横波、表面波の複雑な振動現象を繰り返しており、それぞれの振動伝搬状態に応じた音(騒音)が発生していることになる。
【0039】
このような振動現象に的確に対策するためには、広い周波数帯域で振動抑制効果を発揮する必要があることが分かる。そのため、従来の吹付による手段や伝搬先を覆うような手段では、広い周波数を持つ騒音には対処できず、振動源又は振動源近傍での対策を施さなければ、振動の伝搬先に何らかの手段を施したとしても効果的な振動−音放射現象を対策することは困難となっていた。
【0040】
特に重量則に則った手段での従来の防音装置では、装置に用いる防振材や制振材に重量を重くするための鉛や金属材料などをいれたり、材料そのものの厚みを増やすことで重くしたりするなどの手段が図られており、結果的に、重く、厚く、取り扱いが非常に困難になっていた。
【0041】
様々な振動伝搬現象によって音変換された騒音は広い周波数特性を持つために、重量でカバーするような防振対策や、囲いを用いた遮音対策だけでは騒音低減効果は得られない。広い周波数帯域の振動−音放射を確実に対策するためには、振動エネルギを熱エネルギに変換することで振動の力を物理的に減衰させるための『制振効果(単に制振)』を必要とする。よって、本実施の形態に係る防音装置では、各振動方向に対応する制振力を発揮できる材料での効果発現を行わせる方法を実施するようにしている。
【0042】
次に、
図2、
図3及び
図5を用いて、吸込み面カバー6からの音発生状態を説明する。
図5は、巻上機150の吸込み面カバー6の音放射状態を分析した音響インテンシティ分析結果を示す図である。
【0043】
ロータの回転に伴う電磁成分音や回転成分音、更に冷却ファン8の動作による吸込み口7からの外気吸込みに伴う流体音などが吸込み面となる吸込み面カバー6から巻上機150のモータ部3から外部に放射される。吸込み面側の音の放射状態を測定した音響インテンシティ計測結果を
図5に示している。
図5において、音響インテンシティ結果は以下となって表記される。矢印の方向が音の放射方向を示し、矢印の長さが音の強さを示している。
【0044】
図5に示す結果から、吸込み口7からの音放射はあるものの、吸込み面カバー6の構造面から放射される音が、吸込み口7よりも音の強さは大きいことが分かると共に、構造面の振動が元になった音放射が行われていることが確認できる。
【0045】
吸込み口7で矢印が両方に出ていることから、音の位相的には吸込み口7から出る音と、吸込み口7の内部で発生している音と、が存在することになる。このことから、吸込み面カバー6に音放射に原因となる振動を対策するだけでなく、モータ部3の内部からの透過音による音成分も含まれていることがわかり、その透過音成分に対しても『遮音』的な対策(=吸音)を施す必要があるということが分かる。
【0046】
次に、
図2、
図3、
図6及び
図7を用いて、防振方法を説明する。
図6は、制振層の構成例を説明するための説明図であり、複合層を形成している状態を例に示している。
図7は、制振層と吸音層による多段形成例を説明するための説明図であり、吸音、制振、遮音を兼ねるようにした状態を例に示している。
【0047】
複合制振材100は、ステータカバー5(
図2では、ステータカバーA50とステータカバーB51を図示)の外周面全体を外側から覆うように配置される。
この複合制振材100は、高分子系材料と合成ゴム系材料の2種類以上の層を成して構成されており、何れかの層の一面には、制振を行わせる材料(本実施の形態の場合はステータカバー)に固着させるための粘着層115を保有している。
図6に示すように、複合制振材100は、第1の制振層111、第2の制振層112によって、構成されている。
複合制振材100を構成する各材料について説明する。
【0048】
第1の制振層111は、高分子系材料を主成分として構成されている。具体的には、カーボン、雲母、アルミなどの金属紛体を主原料としたフィラーを高分子系材料であるポリエステルなどの樹脂に混ぜ合わせて第1の制振層111としている。
なお、第1の制振層111を構成する各材料の結合状態を強めるために、混錬及び制振材としての平板に成形するときに、150度前後の熱を掛けて(熱処理を施し)、融解を起こさせるようにしている。そして、第1の制振層111は、硬度が30度ほどになるように処理される。
【0049】
この第1の制振層111にステータカバー5の振動が伝搬したときに、混錬材料同士が摩擦を起こして熱変換を起こすことで振動減衰が行われる。さらに、第1の制振層111は、硬度的には30度ほどに適正処理されるために、ステータカバー5の縦方向の振動に対して追従するような動きが確実にできるようになる。
【0050】
第1の制振層111には、合成ゴム系による第2の制振層112が熱溶着される。なお、第1の制振層111への第2の制振層112の熱溶着前に、第2の制振層112は以下の材料構成で成形される。
第2の制振層112は、合成ゴム系材料を主成分として構成されている。
第2の制振層112は、特に横波への対応を発現、追従させるために、制振層の動きとしては柔らかめの硬度を有する。
【0051】
合成ゴムの材料としては、イソブチレンを5%前後含めたブチル系を主原料として、ウレタン樹脂を5%前後混錬したものを採用している。
この材料を130度前後で熱処理して混錬することで内部混錬したウレタンが混錬材料内で材料の水平方向に対して連続発泡する。
イソブチレンによる粘着性の高さと、ブチル系とウレタン樹脂との混錬により、材料は硬度20度以下の柔らかい材料構成となり、材料全体が動きやすくなる。この動き良さが、材料の横波や表面波の振動に追従し、振動吸収によって振動エネルギを熱エネルギとして消耗することで、結果的に振動減衰をもたらすことができる。
【0052】
第1の制振層111と第2の制振層112とを重ねた状態で110度前後の熱を掛けると溶解する粘着剤を両制振層の間に入れることで、熱処理後に両制振層が固着されて、複合制振材100としての材料構造が形成される。つまり、両制振層を複雑な構成によることなく固着することができる。
最後に、複合制振材100のどちらかの面にステータカバー5に装着するための粘着層115を固着する。
【0053】
粘着層115は、振動源からの振動を確実に複合制振材100に伝搬させるために、強固の粘着性能を有する必要がある。そのために、アクリルやシリコン系の粘着剤を含浸した布材を持つ材料を粘着層115として適用させる。
ステータカバー5に装着した複合制振材100には、ステータカバー5の振動が伝搬し、特に円弧部分での振幅が大きい低周波帯域の振動モードが発生しやすく、縦波振動が発生することとなる。この振動を第1の制振層111で振動減衰させる。
【0054】
同時に、ステータカバー5で発生した面内及び面上を伝搬する横波及び表面波の振動成分は第1の制振層111にも伝搬した後に第2の制振層112に伝搬する。横波及び表面波振動の減衰を第2の制振層112で減衰させる。
これにより、ステータカバー5から放射されるモータ部3の振動音は減衰され、これに伴う低騒音が実施できる。
【0055】
なお、ステータカバー5の振動レベルの強弱によって、各制振層の厚みは任意に設定することができる。
但し、複合制振材100には従来のような重比重の金属材料などを含まないために、重量及び厚みは2mm〜4mm程の厚みを持つ程度のものであり、従来のような重量則に伴うような過重量になることはない。
【0056】
次に、
図7及び
図8を用いて、吸込み面カバー6での音放射を低減する方法を説明する。
図8は、本実施の形態に係る防音装置に用いる吸音層201の端部構造の一例を示す概略図である。
吸込み面カバー6には複合制振材及び吸音層の多段複合層材70を用いて、面振動と遮音(=吸音)の要素を発現するようにしている。つまり、多段複合層材70は、複合制振材100、樹脂膜吸音層200により構成されている。
【0057】
複合制振材100は、ステータカバー5での性能と同様の効果を発揮でき、吸込み面カバー6の振動を減衰させることができる。
吸込み面カバー6からの音放射には、板振動に寄与しない『透過音』も含まれるために、複合制振材100の外周面に任意の厚みを有する樹脂膜吸音層200を保持する。
樹脂膜吸音層200は、吸音層201と吸音層201の表面となる部分に樹脂薄膜層205とで構成されている。
【0058】
吸音層201は、パルプ系繊維とケブラー繊維とを混ぜ合わせた不燃処理を施しており、且つ、パルプ系繊維に元々ある空気層と繊維同士の空間によって、音響減衰効果を発現する。パルプ系繊維は20ミクロン〜100ミクロンを基本としており、ケブラー繊維は10ミクロン前後を基本としている。太径のパルプ系繊維のために、各繊維を混ぜ合わせるときに繊維を自由落下させて積層させる製造方法を行うことができる。そのために、結果的に繊維間に隙間ができやすくなり、隙間が空気室として働くことで高い吸音効果を発現する。
【0059】
図8に示すように、積層後の吸音層201の断面端部は粘着剤を熱溶着することで端部を塞ぐ処理ができる。そのため、吸音層201内からの材料飛散が対策されることになる。
【0060】
さらに、吸音層201の外周面にはPP(ポリプロピレン)及びABS(アクリロ二トリル・ブタジエン・スチレン)樹脂などの樹脂薄膜層205を、熱溶融材を用いて固着させる。これにより、樹脂薄膜層205は、吸音材に進行した音響エネルギ成分によって暴露されることとなる。この音響エネルギ成分は、樹脂薄膜層205を音響エネルギ成分により圧力振動させることになり、樹脂薄膜層205が振動して、エネルギ変換により、音響エネルギ成分の減衰効果をもたらすことができる。
【0061】
この減衰効果は、樹脂薄膜層205の厚みと面密度に寄与して、エネルギ減衰を行う周波数帯域を選択することができる。例えば、巻上機150の場合のモータ部3の振動では、回転成分の高次成分として、1kHz前後にピーク周波数の発生があり、この周波数の減衰を狙った薄膜層成形ができる。本実施の形態の場合では、例えばPP樹脂で0.5ミリの厚みを持たせており、この樹脂薄膜層205によって、特異的な周波数特性のピーク成分を確実に減衰することが可能となる。
【0062】
次に、
図9を用いて、複合制振材100の温度特性について説明する。
図9は、本実施の形態に係る防音装置に用いる複合制振材100の温度特性を説明するための説明図である。
図9の横軸は材料への暴露温度を、縦軸は損失係数を、それぞれ示している。
【0063】
モータの回転が少ない運転時は、ビルの屋上や途中階等、巻上機150の設置環境に応じ、巻上機150の温度は、部屋の温度又は20℃前後となる。
モータの回転が多い運転時は、モータの回転に伴い、モータ自体の温度が上昇する。この際、モータ部3及びステータカバー5の表面温度は、70度以上になる。
【0064】
そこで、
図9に示すように、複合制振材100においては、2つの温度帯域に対応するように材料混錬処理を施すようにしている。例えば、第1の制振層111は、カーボン、雲母、金属紛体を主原料としたフィラーをポリエステルなどの樹脂に、ポリアミド繊維(線径10〜30μm程度)等を任意の比率で混練させて広い温度帯域に対応し得るように形成するとよい。そうすると、複合制振材100は、モータの低速回転が多いときの温度上昇に対応するだけでなく、モータの回転時間が多いときや高速回転時の温度上昇にも対応可能になる。その結果、複合制振材100は、10度〜70度前後の広い温度帯域で損失特性を維持できることになる。
【0065】
次に、
図10を用いて、複合制振材100の制振層同士の損失係数の効果比較を説明する。
図10は、本実施の形態に係る防音装置に用いる複合制振材100の制振材個々の振動特性発揮領域を説明するための説明図である。
図10の横軸は周波数を、縦軸は損失係数を、それぞれ示している。
【0066】
図10に示すように、第1の制振層111は500Hz以下の低周波帯域において振動減衰効果を発揮する。これは、低周波の振動成分は縦波に寄与していることが主因にある。
一方、第2の制振層112は500Hz以上の高周波帯域において振動減衰効果を発揮する。これは、高周波振動は横波及び表面波振動が寄与していることが主因にある。
この2つの特性によりそれぞれの振動減衰を受け持つ制振層を複合して用いることで、複合制振材100は、広い周波数特性で減衰効果を発現できる。
【0067】
次に、
図11を用いて、本実施の形態に係る防音装置による騒音の低減結果を説明する。
図11は、本実施の形態に係る防音装置による騒音の低減結果を説明するための説明図である。
図11の実線は防音装置を設けない場合の騒音の周波数特性である。
図11の一点破線は従来の一方向だけに減衰効果をもたらしていた材料による防音装置を設けた場合の騒音の周波数特性である。
図11の破線は各振動波の方向に対して各振動伝搬方向の成分に対して最適な制振力を発揮する防音装置を設けた場合の騒音の周波数特性である。
図11の横軸は周波数を、縦軸は音圧レベルを、それぞれ示している。
【0068】
図11に示すように、巻上機150の騒音の周波数特性は、複数のピーク周波数成分を持つ特性傾向を示す。ピーク周波数成分の一方は、振動に起因した成分であり、複合制振材100により減衰効果をもたらす。ピーク周波数成分の他方(5kHz周辺以上の周波数帯域)は、透過音に起因した成分である。
【0069】
振動に寄与した成分について対策効果をもたらすために従来から制振材による防音装置を用いる手段もあったが、従来の防音装置は一方向に対してだけ振動減衰効果を発揮することができた。そのために、
図10の一点鎖線のように減衰効果を得られる周波数範囲が100Hz以下の周波数帯域だけと狭い帯域であり、厚みを増したことと重量による効果が大きかった。振動減衰効果としては、振動している周波数をずらす手段が主因となっており、周波数一つの機械(巻上機)から広い周波数帯域で振動伝搬音が発生する場合には振動減衰効果を得られる範囲が狭いことが分かる。
【0070】
これに対して、振動伝搬方向全てに対して減衰効果を得られる複合制振材100を用いることで、防振装置そのものの厚みを増やすことなく、従来よりも広い周波数帯域で振動減衰効果を得ることができ、音圧レベルの減衰効果としては−30dB以上の効果を発揮する。
【0071】
さらには、モータ回転に伴うモータ部3の内部での音がカバーを透過して出てくる場合が確認できており、この周波数成分は、多段複合層材70の吸音層201と樹脂薄膜層205との組み合わせにより減衰する。
【0072】
以上に説明したように、本実施の形態では、ステータカバー5の振動音は、振動方向別で減衰効果を発現させる複合制振材100により減衰し、巻上機150の外部への透過音は、多段複合層材70の吸音層201と樹脂薄膜層205との組み合わせにより減衰する。このため、本実施の形態に係る防音装置は、巻上機150の騒音を簡単な構成で効率的に低減することができる。
【0073】
本実施の形態に係る防音装置によれば、ステータカバー5の外周面及び内周面の少なくとも一方に設けられた複合制振材100と、ステータカバー5の一側面を覆う吸込み面カバー6の外面及び内面の少なくとも一方に設けられた多段複合層材70と、を有するので、振動音が複合制振材100により、透過音が多段複合層材70により、それぞれ効果的に減衰することができる。
【0074】
本実施の形態に係る防音装置によれば、複合制振材100は、高分子系材料を主成分とした第1の制振層111と、合成ゴム系材料を主成分とした第2の制振層112と、を有し、第1の制振層111と第2の制振層112とは熱溶着されているので、複雑な構成によることなく第1の制振層111と第2の制振層112とを固着することができる。
【0075】
本実施の形態に係る防音装置によれば、第1の制振層111は、金属紛体を主原料としたフィラーを高分子系材料に混練させて構成されているので、広い温度帯域に対応することができる。
【0076】
本実施の形態に係る防音装置によれば、第1の制振層111は、熱処理を施して硬度が30度にされるので、ステータカバー5の縦方向の振動に対して追従するような動きが確実にできるようになる。
【0077】
本実施の形態に係る防音装置によれば、第2の制振層112は、ブチル系を主原料として、ウレタン樹脂を混錬させて構成されているので、材料全体が動きやすくなるという効果を有する。
【0078】
本実施の形態に係る防音装置によれば、第2の制振層112は、硬度が20度以下にされるので、材料の横波や表面波の振動に追従することができる。
【0079】
本実施の形態に係る防音装置によれば、複合制振材100は、布材を持つ粘着層でステータカバー5に固着されるので、強固にステータカバー5に固着することができ、振動源からの振動が確実に伝搬される。
【0080】
本実施の形態に係る防音装置によれば、多段複合層材70は、複合制振材100と、樹脂薄膜層205を表面に持つ吸音層201と、を有し、複合制振材100と吸音層201とは熱溶着されているので、面振動と遮音の要素を発現する。
【0081】
本実施の形態に係る防音装置によれば、吸音層201は、パルプ系繊維とケブラー繊維とを混ぜ合わせて構成されているので、繊維間に隙間ができやすくなり、隙間が空気室として働くことで高い吸音効果を発現する。
【0082】
本実施の形態に係る防音装置によれば、樹脂薄膜層205は、熱溶融材を用いて吸音層201に固着されるので、吸音層201に進行した音響エネルギ成分によって暴露され、振動して、エネルギ変換により、音響エネルギ成分の減衰効果をもたらすことができる。
【0083】
本実施の形態に係る防音装置によれば、吸音層201の端部は、粘着剤を熱溶着することで塞いでいるので、吸音層201内からの材料飛散が対策されることになる。
【0084】
なお、ステータカバー5内に余裕があれば、複合制振材100をステータカバー5の内周面に取り付けてもよい。つまり、複合制振材100は、ステータカバー5の外周面及び内周面の少なくとも一方に取り付けられていればよい。
【0085】
また、吸込み面カバー6内に余裕があれば、多段複合層材70を吸込み面カバー6の内面に取り付けてもよい。つまり、多段複合層材70は、吸込み面カバー6の外面及び内面の少なくとも一方に取り付けられていればよい。
【0086】
本実施の形態に係る防音装置においては、騒音の発生要因別に複数のパッシブ対策手段が用いられる。このため、防音装置の軽量化、低コスト化、制御の安定化が実現される。その結果、巻上機150の信頼性維持期間である25年間、騒音対策が維持されることになる。
【0087】
本実施の形態に係る巻上機150によれば、複合制振材100及び多段複合層材70を有する防音装置と、ステータカバー5の他側面側の上部に設けられ、回転することにより吸込み口7からステータカバー5内に空気を進入させる冷却ファン8と、を備えたので、防音のための構成を複雑なものにすることなく、騒音の低減化を図れることになる。
【0088】
本実施の形態に係るエレベータ300によれば、巻上機150を備え、巻上機150に備えられているモータが回転駆動されることでロープ151を巻き回し、ロープ151に連結されているかご302を昇降するので、騒音の発生が低減されたものになっている。
【0089】
本実施の形態では、ステータカバー5の外周表面及び吸込み面カバー6の外側表面に防音装置を搭載しており、外観的に防音装置を構成している複合制振材100及び多段複合層材70が露出している。これにより、既に設置した巻上機150に対して、後付け処理も行えるようになっており、防音装置を構成している吸音膜等の表面を様々に着色することなどが可能で、モータ部3のデザイン処理も行える。