(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6625013
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】ビナフトール骨格を有するビスホスホイミノ配位子とそれを用いた触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 31/24 20060101AFI20191216BHJP
C07F 9/50 20060101ALN20191216BHJP
C07C 271/22 20060101ALN20191216BHJP
C07C 269/06 20060101ALN20191216BHJP
C07B 53/00 20060101ALN20191216BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20191216BHJP
【FI】
B01J31/24 Z
!C07F9/50
!C07C271/22
!C07C269/06
!C07B53/00 B
!C07B61/00 300
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-102020(P2016-102020)
(22)【出願日】2016年5月21日
(65)【公開番号】特開2017-205741(P2017-205741A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2019年3月4日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第70回記念 有機合成化学協会関東支部シンポジウム 新潟(長岡)シンポジウム講演要旨集 1
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(72)【発明者】
【氏名】荒井 孝義
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝哉
【審査官】
中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−038052(JP,A)
【文献】
特開2002−080415(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0256345(US,A1)
【文献】
特開2002−220366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00− 38/74
C07B 53/00
C07B 61/00
C07C 269/06
C07C 271/22
C07F 9/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される配位子。
【化1】
ここでR
1、R
2、R
3は、水素、アルキル基、フェニル基(置換基を有していてもよい。)又はナフチル基(置換基を有していてもよい。)であり、R
1とR
2は結合して環を形成していてもよい。R
1とR
2とは、同じであっても、異なっていてもよい。R
4は、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、ニトロ基、アルキル基、アルコキシ基又はフェニル基(置換基を有していてもよい。)である。
【請求項2】
下記式(1)で示される配位子を金属又は金属塩に配位させてなる触媒。
【化2】
ここでR
1、R
2、R
3は、水素、アルキル基、フェニル基(置換基を有していてもよい。)又はナフチル基(置換基を有していてもよい。)であり、R
1とR
2は結合して環を形成していてもよい。R
1とR
2とは、同じであっても、異なっていてもよい。R
4は、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、ニトロ基、アルキル基、アルコキシ基又はフェニル基(置換基を有していてもよい。)である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビナフトール骨格を有するビスホスホイミノ配位子とそれを用いた触媒に関する。
【0002】
光学活性なアミノ酸や糖を基本構成単位とする生体高分子は、高度な不斉空間を構築しており、この生体高分子を受容体とする医薬品も光学活性を有している必要がある。このような光学活性な物質を合成する方法は不斉合成法と呼ばれており、不斉合成法の中でも少量の不斉源から理論上無限の光学活性体を合成することが可能な触媒的不斉合成法は極めて有用、重要なものとなっている。
【0003】
現在、触媒的不斉合成法は様々な金属触媒を用いることにより達成されているが、これら触媒には高い触媒活性を発現可能にするため、複数の金属を有することができる綿密に設計された配位子が用いられており、例えば、公知の技術として、配位子と金属塩から複合金属錯体を調製し、触媒として用いたものが下記非特許文献1及び2に記載されている。また、有機触媒、金属触媒を用いた不斉マンニッヒ反応の例が下記非特許文献3及び4に記載されている。
【0004】
【非特許文献1】Arai,T.;Sugiyama,N.;Masu,H.;Kado,S.;Yabe,S.;Yamanaka,M.Chem.Comm.2014,42,8287
【非特許文献2】Sasai,H;Suzuki,T.;Arai,S.;Arai,T.;Shibasaki,M.J.Am.Chem.Soc.1992,114,4418
【非特許文献3】Zhijin,L.;Chen,X.;Wei,Z.;Zhiqiang,D.;Jianlin,H.;Yi,P.Chin.J.Chem.2012,60,2333.
【非特許文献4】Arai,T.;Moribatake,T.;Masu,H.Chem.Eur.J.2015,21,10671−10675.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記非特許文献1の技術では、複雑な不斉空間を有しているが、ソフト性の高い金属を有した触媒の例は記載されていない。それに対し、本発明によってもたらされる配位子は、複雑な不斉空間を保持したまま、ハード性の高い金属やソフト性の高い金属を有し、様々な反応に柔軟に対応する反応場を供給すると期待される。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、ビナフチル骨格の軸不斉、フェノール性水酸基、及びイミノ基を基盤として、新たにホスホ基を導入した配位子とすることで、複雑な配位場を維持しつつ、様々な金属と錯体を調整することで、より多様な触媒的不斉合成の実現を目的とする。
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を行ったところ、光学活性なホスホアミンに3、3’位をホルミル化したビナフトールを反応させることでリンを有する配位子の合成に成功し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明の一手段に係る配位子は、下記式(1)で示される。
【化1】
【0009】
ここでR
1、R
2、R
3は、水素、アルキル基、フェニル基(置換基を有していてもよい。)又はナフチル基(置換基を有していてもよい。)であり、R
1とR
2は結合して環を形成していてもよい。R
1とR
2とは、同じであっても、異なっていてもよい。R
4は、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、ニトロ基、アルキル基、アルコキシ基又はフェニル基(置換基を有していてもよい。)である。
【0010】
また、本発明の他の一手段に係る触媒は、下記式(1)で示される配位子に金属又は金属塩が配位してなる。
【化2】
【0011】
ここでR
1、R
2、R
3は、水素、アルキル基、フェニル基(置換基を有していてもよい。)又はナフチル基(置換基を有していてもよい。)であり、R
1とR
2は結合して環を形成していてもよい。R
1とR
2とは、同じであっても、異なっていてもよい。R
4は、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、ニトロ基、アルキル基、アルコキシ基又はフェニル基(置換基を有していてもよい。)である。
【発明の効果】
【0012】
以上、本発明によると、ホスホアミノ基を組み込むことにより、より多様な反応の用いることができる。また、光学活性ホスホアミノ基の置換基を変化させることで、電子的効果、立体的効果により自由度の高い配位子及びこれを用いた触媒反応を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる様態で実施することが可能であり、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(実施形態1)
本実施形態に係る配位子は、下記化学式(1)で示されることを特徴とする。
【化3】
【0015】
本実施形態に係る配位子において、R
1、R
2、R
3は、ホスホアミンの置換基として種々のものを採用することができる。例えば水素、アルキル基、フェニル基(置換基を有していてもよい。)又はナフチル基(置換基を有していてもよい。)であることが望ましく、R
1とR
2は結合して環を形成していてもよい。R
1とR
2とは、同じであっても、異なっていてもよい。
【0016】
また、本実施形態に係る配位子において、R
4は、芳香環に導入できる置換基である限り限定されることはなく種々のものを採用することができる。例えば水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、ニトロ基、アルキル基、アルコキシ基又はフェニル基(置換基を有していてもよい。)を例示することができる。
【0017】
さらに、本実施形態に係る配位子は、金属または金属塩に配位させることで触媒として利用することができる。配位子を配位させる金属としては、配位させることができる限りにおいてこれに限定されるわけではないが、例えば、パラジウム、亜鉛、銅、ニッケル、コバルト、ルテニウム、ロジウム又は鉄を例示することができる。また配位子を金属に配位させる方法としては、周知の方法を採用することができ、限定されるわけではないが、金属塩と配位子を混合することで配位させることができる。金属塩としては、限定されるわけではないが、金属がパラジウムである場合、Pd(OAc)
2、PdCl
2、Pd(OTf)
2等を用いることができる。
【0018】
本実施形態に係る配位子を用いた触媒は、種々の反応に用いることができると考えられ、限定されるわけではないが、マンニッヒ反応に好適に用いることができる。
【0019】
(配位子の製造)
【0020】
まず、下記式(2)で示されるビナフトールに対し、水素化ナトリウム存在の下、メトキシメチルクロリドを作用させることで、下記式(3)で示されるフェノール性水酸基をMOM保護化したビナフトールを得ることができる。
【化4】
【化5】
【0021】
次に、上記式(3)で示されるビナフトールに対し、ブチルリチウム存在の下、DMFを反応させることで、下記式(4)で示されるフェノール性水酸基がMOM保護化されたホルミルビナフトールを得ることができる。
【化6】
【0022】
次に、(4)で示されるビナフトールに対し、塩酸存在の下、MOM基を外すことで、下記式(5)に示されるホルミルビナフトールを得ることができる。
【化7】
【0023】
上記式(5)で示されるビナフトールに対し、下記式(6)で示されるホスホアミン
を反応させることで上記(1)に示される配位子を得ることができる。
【化8】
【0024】
以上、本実施形態により、例えばマンニッヒ反応において広範な基質にて高い不斉収率を与える配位子及びそれを用いた触媒を提供することができる。
【0025】
以下、上記実施形態の配位子及び触媒について実際に作製し、その効果について確認を行った。以下説明する。
【0026】
(実施例)
本実施例では、下記式(7)で示される配位子を作製し、その配位子をマンニッヒ反応に用いた。
【化9】
【0027】
(配位子の合成)
まず、下記反応式に従い、下記式(5)の合成を行った。
【化10】
【化11】
【0028】
まず、上記反応式(8)に従い、(R)−2、2’−binaphthol(1.145g、4mmol)を無水THF(10ml)に溶かし、氷浴しながら、無水THF(3ml)に溶かしたsodium hydride(60% in oil、0.576g、12mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、0℃で30分間攪拌する。その後、methoxymethyl chloride(1.27mmol、16mmol)を加え、室温4時間攪拌し、蒸留水(10ml)を加えた後、ジエチルエーテル、飽和食塩水の順に抽出する。有機層を芒硝により乾燥し、減圧濃縮する。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒6:1 n−ヘキサン/酢酸エチル)により精製し、白色固体状のフェノール性水酸基をMOM保護化したビナフトールを91%の収率で得た。
【0029】
次に、上記で得たフェノール性水酸基をMOM保護化したビナフトール(150mg、0.4mmol)とtetramethylethylendiamineを無水ジエチルエーテル(10.5ml)に溶かし、氷浴しながらbutyllithium(1.64M、0.72ml、1.2mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、0℃で1時間30分間攪拌する。無水DMFを加え、室温で12時間攪拌し、塩酸を加え、ジエチルエーテル、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、蒸留水、飽和食塩水の順で抽出する。有機層を芒硝により乾燥し、減圧濃縮する。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒5:1 n−ヘキサン/酢酸エチル)により精製し、黄色オイル状のフェノール性水酸基がMOM保護化されたホルミルビナフトールを83%の収率で得た。
【0030】
次に、上記で得たフェノール性水酸基がMOM保護化されたホルミルビナフトール(133mg、0.31mmol)を無水THF(2.6ml)に溶かし、氷浴しながら塩酸(12M、1.1ml)を加え、アルゴン雰囲気下、1時間30分間攪拌し、酢酸エチル、蒸留水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順に抽出する。有機層を芒硝により乾燥し、減圧濃縮し、上記式(5)に示される黄色粉末状のホルミルビナフトールを99%の収率で得た。
【0031】
次に、下記反応式(9)に従い、上記で得たホルミルビナフトール(5)(51.4mg、0.15mmol)と下記のホスホアミン(12)(89.5mg、0.33mmol)を無水エタノール(25ml)に溶かし、アルゴン雰囲気下、80℃で24時間攪拌し、減圧濃縮することで上記式(7)に示す(R)−3,3’−bis((E)−(((S)−1−(diphenylphosphino)−3−methylbutan−2−yl)imino)methyl)−[1,1’−binaphthalene]−2,2’−diol(A)を90%の収率で得た。
(A)の機器データ:
1H NMR(400MHz、 CDCl
3)δ0.89(d、J=2.92、6H)、0.91(d、J=2.92、6H)1.95−2.07(m、2H)2.35(dd、J=13.9、2H)2,48(dd、J=14.0Hz、2H)、 3.07−3.14 (m、2H)、7.15−7.29(m 、22H、aromatic)、7.80−7.87(m、4H,aromatic)、8.38(s、2H);
13C NMR (100MHz, CDCl
3)δ17.6、19.8、32.8、33.6、116.5、120.9、123.1、124.9、127.4、128.0、128.4−128.7(multi),132.9、133.4、135.2、138.12、238.2、154.8、164.5;HRMS calcd for C
56H
54N
2O
2P
2(M
++H) 849.3689: found 849.3745
【化12】
【化13】
【0032】
次に、この得られた配位子(9)を4.3mg用い、これに塩化メチレン溶媒中酢酸パラジウム(II)2.3mg、酢酸亜鉛(II)0.9mgを配位させることで触媒として不斉マンニッヒ反応を行った。
【0033】
不斉マンニッヒ反応は、上記触媒の存在下でmalononitlile9.9mgに(E)−tert−butyl benzylidencarbamate20.5mgを4時間かけて滴下した。この結果、反応が72%進行し、マンニッヒ生成物のエナンチオ選択性が91%であった。この結果、本発明に係る配位子及びこれを用いた触媒の有用性を確認することができた。また、(E)−tert−butyl 2−methylbenzylidencarbamateを基質に用いて反応を行った場合、反応は60%進行し、目的物は96%eeであった。さらに(E)−tert−butyl 3−fluorobenzylidencarbamateを基質に用いて反応を行った場合、反応は87%進行し、目的物は94%eeであった。
【化14】
【0034】
以上本実施例により本触媒の効果を確認することができ、広範な基質において高い不斉収率を与える配位子及びそれを用いた触媒を提供することができるのを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、触媒及びそれらに用いられる配位子として産業上の利用可能性がある。