(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、填料としてロゼッタ型の軽質炭酸カルシウムを内填した紙に関するものである。
【0017】
ロゼッタ型軽質炭酸カルシウム
軽質炭酸カルシウムの製造法は、一般的に、消石灰スラリーに炭酸ガスを吹き込んで反応させる「液−ガス」法(炭酸ガス法)および炭酸ナトリウムなどを用いる「液−液」法(可溶化塩法)などが挙げられ、本発明においてはいずれの製法で得られた軽質炭酸カルシウムも使用することができる。一般に軽質炭酸カルシウムは、カルサイト型、アラゴナイト型などの結晶系を有し、柱状、針状、紡錘状、立方体状など各種形状を有する。
【0018】
本発明においては、特定の平均粒子径とBET比表面積を有するロゼッタ型の軽質炭酸カルシウムを使用する。本発明者らは、一次粒子が放射状に凝集したロゼッタ型(rosette)軽質炭酸カルシウムを内添填料として使用すると、驚くべきことに引張強さ、引裂強さなどの強度特性に優れた紙が得られることを見いだした。ロゼッタ型でない形状の軽質炭酸カルシウムは、たとえ平均粒子径とBET比表面積が本発明の範囲であっても、本発明と比較すると引張強さ、引裂強さなどの強度特性に優れた紙とはならない。
【0019】
本発明において優れた効果が得られる理由は明らかではないが、本発明の軽質炭酸カルシウムは平均粒子径が比較的大きく、一方BET比表面積は比較的小さいことが特徴である。一般的に、同じ粒子形状・平均粒子径の軽質炭酸カルシウムを比較した場合、BET比表面積が小さい程、一次粒子は大きい。本発明では、これら大きな一次粒子がロゼッタ型に凝集し、平均粒子径の大きな二次粒子となっていることが影響していると考えられる。また、本発明における軽質炭酸カルシウムは、比較的大きな粒子であるにもかかわらず抄紙機のワイヤーを摩耗させにくい。この点にも、ロゼッタ型の形状が寄与していると考えられる。
【0020】
本発明で使用されるロゼッタ型の軽質炭酸カルシウムとは、カルサイト系炭酸カルシウムまたはアラゴナイト系炭酸カルシウムの一次粒子が放射状に凝集して二次粒子を形成したものであり、他の形態の炭酸カルシウムと比較して高い比表面積と吸油性を示す特徴がある。ここで、放射状とは、例えば上記二次粒子の中心近傍から、各一次粒子の長手方向が放射状に伸びたものである。また、各一次粒子は基部の幅(径)がやや大きく、先端に向かって細くなっている。一次粒子の形状は、紡錘状であることが好ましいが、針状や柱状であってもよい。
【0021】
一般に軽質炭酸カルシウムは、生産コストや操業性の点で有利であり、低添加量で高い不透明度を有する紙が得られる点でも優れている。それに加えて、本発明のロゼッタ型軽質炭酸カルシウムは、その特殊な形状のため、基紙に高配合(内添)させると基紙の不透明度が大きく向上し、裏抜けを有効に防止する。
【0022】
図1は、液中に分散した状態のロゼッタ型軽質炭酸カルシウムの一例を示す電子顕微鏡像である。ロゼッタ型の軽質炭酸カルシウムは、フロック凝集などの、不規則に一次粒子が凝集した形態と比較して、粒子同士の結びつきが強く、二次粒子が乖離しにくいという特徴を持つ。そのため、紙に内添してもその粒子形状を維持しやすく、紙の特性を効果的に向上させることができる。
【0023】
本発明のロゼッタ型軽質炭酸カルシウムは、レーザー回析法により測定された平均粒子径(D50)が3.0μm以上15.0μm以下である必要がある。D50が15.0μmを超えると填料歩留は向上するが、紙中での填料が局在化するため、引張強さ、引裂強さが低下する。また、D50が3.0μm未満だと、紙中での填料分布は均一になるが、一方で填料歩留が悪化するため、歩留向上剤などの薬品を増添する必要があり、生産コストへの負荷が増大する。さらには、白水中における灰分と薬品の量が増えるため、スケール堆積などの系内汚れの問題も発生する。そのため、填料としての歩留りが高く、かつ紙の強度特性やサイズ性に優れた紙を得るためには、D50は3.5μm以上が好ましく、4.0μm以上がより好ましく、4.5μm以上がさらに好ましい。また、D50の上限は、10.0μm以下であることが好ましく、8.0μm以下であることがより好ましい。
【0024】
また、本発明のロゼッタ型軽質炭酸カルシウムは、X線透過法により測定した粒度分布曲線の50体積%の粒子径(d50)が2.0〜5.0μmであると、紙の強度物性にさらに優れるので好ましく、2.2〜3.4μmが特に好ましい。
【0025】
本発明のロゼッタ型軽質炭酸カルシウムのBET比表面積は、1.0以上8.0m
2/g以下である必要がある。1.0m
2/g未満では、印刷時のインキおよび水の吸収性が悪く、乾燥性が低下する。また、BET比表面積が小さすぎる場合、光の散乱が少なく不透明度の低下にもつながる。一方、BET比表面積が8.0m
2/gを超えると、インキおよび水の吸収性は良好であるが、抄紙薬品の吸収性も良くなり、歩留剤や紙力剤、サイズ剤など添加薬品の効果が低下する。インクおよび水の吸収性が良好で、高い薬品添加効果を得るためには、BET比表面積は好ましくは3.0m
2/g以上、より好ましくは4.0m
2/g以上、さらに好ましくは5.0m
2/g以上であり、また、7.5m
2/g以下であることが好ましく、より好ましくは7.0m
2/g以下、さらに好ましくは6.5m
2/g以下である。ある態様において、BET比表面積は4.5m
2/g〜8.0m
2/gが好ましく、6.0m
2/g〜8.0m
2/gがより好ましい。
【0026】
本発明は特に軽質炭酸カルシウムの製造方法を限定しないが、前記「液−ガス」法によって、生石灰に対するモル比が2.5以下の範囲で消和水を添加し混合することにより消石灰を得る工程(A)、該消石灰と水とを混合することにより消石灰スラリーを得る工程(B)、および、温度、撹拌条件を適宜調整して、該消石灰スラリーに二酸化炭素含有ガスを吹き込み炭酸化する工程(C)を経て製造した軽質炭酸カルシウムであれば、所望の粒子形状、粒子径、BET比表面積が得られやすく、最も良好である。
【0027】
ロゼッタ型軽質炭酸カルシウムを内添した紙
ロゼッタ型軽質炭酸カルシウムを填料として使用した本発明の紙は、紙の光学特性を損なうことなく、表面平滑性が良好で、引張強さなどの強度特性が優れており、またサイズの発現性も良好であるため、特に制限なく種々の用途に使用することができる。紙の種類としては、各種塗工用原紙、新聞用紙、上質紙や中質紙、電子写真用転写紙、インクジェット用紙、感熱紙、感圧紙、クラフト用紙、圧着記録紙、包装用紙、紙容器、板紙、壁紙、繊維板、写真用原紙、含浸用原紙、難燃紙などが挙げられる。中でも一つの態様において、本発明の紙はオフセット印刷やグラビア印刷等の各種印刷方式に供される印刷用紙として好適である。
【0028】
以下、本発明の軽質炭酸カルシウムを内填した紙の具体例として、非塗工紙および、塗工原紙および塗工紙、電子写真用転写紙としての利用について詳述する。なお、本発明の紙はこれらの用途に限定されるものではない。
【0029】
(非塗工紙)
本発明の軽質炭酸カルシウムを填料として内填した非塗工紙の坪量については、特に限定は無いが、所望する効果が発揮されるのは、30〜650g/m
2程度の範囲である。一つの態様において本発明に係る非塗工紙の坪量は、35〜200g/m
2程度であり、40〜120g/m
2程度であってもよい。なお、本発明の軽質炭酸カルシウムはこの範囲を超えた多層抄きの板紙、カード等の厚紙にも添加できる。
【0030】
抄紙原料のパルプとしては、例えば、一般に使用されているLBKPやNBKP等の漂白化学パルプ、LUKPやNUKP等の未晒パルプ、砕木パルプ(GP)、加圧式砕木パルプ(PGW)、リファイナ砕木パルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ、脱墨古紙パルプ(DIP)、損紙などが適宜混合使用される。また、ケナフ等の非木材繊維原料から得られるパルプ繊維、合成パルプ、無機繊維等の1種又は2種以上を原紙に配合することもできる。機械パルプやDIPは、必要に応じて漂白して使用することもでき、漂白の程度も任意に行うことができる。
【0031】
本発明のロゼッタ型軽質炭酸カルシウムは、一般的に使用されている填料、例えば、重質炭酸カルシウム、本願以外の軽質炭酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、石膏、タルク、カオリン、エンジニアードカオリン、焼成カオリン、ホワイトカーボン、非晶質シリカ、デラミネートカオリン、ケイソウ土、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、製紙スラッジ、脱墨フロスからの再生無機粒子等の無機系填料や尿素ホルマリン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、尿素/ホルマリン樹脂、メラミン系樹脂、スチレン/ブタジエン系共重合体系樹脂、フェノール樹脂、プラスチック中空粒子等の有機系填料等と混合して使用することもできる。混合比率は紙の品質に応じて調整することが可能であり、特に限定しないが、本発明のロゼッタ型軽質炭酸カルシウムを10重量部以上使用すると本発明の効果が大きくなる。填料としての歩留りがよく、サイズ性、表面平滑性が良好で、かつ紙の強度特性が大きく向上した紙を得るためには、本発明のロゼッタ型軽質炭酸カルシウムを紙の内添填料100重量部中に50重量部以上含有することが好ましく、さらに好ましくは60重量部以上を含有することであり、70重量部以上を含有するのが特に好ましい。
【0032】
紙中灰分としては、5重量%未満では紙の光学特性、主に白色度、不透明度が不足しやすいため、本発明の紙の灰分は、5重量%以上とすることが好ましく、10重量%以上とすることがより好ましい。一方、灰分が30重量%超えるとワイヤーの磨耗や抄紙機系内の汚れなどの問題が生じやすい。そのため、一般に、5〜30重量%の範囲となるように填料を添加することが好ましく、5〜20重量%の範囲となるように添加することが特に好ましい。
【0033】
また、紙料としてパルプや填料の他に、内添サイズ剤、アニオン性、ノニオン性、カチオン性もしくは両性の歩留り向上剤、濾水性向上剤、紙力増強剤、染料、蛍光染料、嵩高剤等で例示される各種の抄紙用内添助剤を、必要に応じて使用することができる。内添サイズ剤の具体例としては、アルキルケテンダイマー系、アルケニル無水コハク酸系、スチレン−アクリル系、高級脂肪酸系、石油樹脂系サイズ剤、ロジン系サイズ剤等が挙げられる。また、歩留向上剤、濾水性向上剤、紙力増強剤の具体例としては、アルミニウム等の多価金属化合物(具体的には、硫酸バンド、塩化アルミニウム、アルミン酸ソーダ、塩基性アルミニウム化合物等)、各種澱粉類、セルロースナノファイバー、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースなどのセルロース誘導体ポリアクリルアミド、尿素樹脂、ポリアミド・ポリアミン樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド等が挙げられる。本発明のロゼッタ型軽質炭酸カルシウムを内添した紙は、前述の通り、薬品の添加効率が高くサイズ発現性に優れる。
【0034】
本発明のロゼッタ型軽質炭酸カルシウムを含む填料をパルプ原料に添加する際には、パルプ原料を十分に攪拌しながら填料を添加することが好ましく、添加場所としてはマシンチェスト流入口、ファンポンプ吸込口が挙げられる。
【0035】
抄造条件は特に限定はなく、抄紙機としては、例えば、長網式抄紙機、ツインワイヤー式抄紙機、オントップ式抄紙機、円網式抄紙機、短網式抄紙機等の商業規模の抄紙機が挙げられ、目的に応じて適宜選択して使用できる。
【0036】
抄紙方式としては、酸性抄紙、中性抄紙、弱アルカリ性抄紙等のいずれの方式も使用することができるが、炭酸カルシウムは酸性領域で溶解してしまうため、中性〜弱アルカリ性の範囲で抄紙することが望ましい。
【0037】
表面強度向上や耐水性付与、インキ着肉性改良などを付与するために、紙に表面処理剤を塗布してもよい。表面処理剤の種類は特に限定はないが、生澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉、アセチル化したタピオカ澱粉を原料として製紙工場内で熱化学変性あるいは酵素変性によって生成される自家変性澱粉などの澱粉、アルデヒド化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉などの編成澱粉を含むのが好ましい。カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、セルロースナノファイバーなどのセルロース誘導体、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル化ポリビニルアルコールなどの変性アルコール、スチレン−ブタジエン系共重合体、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル酸エステルなどを併用することも可能である。また、サイズ性を高める目的で、スチレン系サイズ剤、オレフィン系サイズ剤、アクリレート系サイズ剤、スチレン−アクリル系サイズ剤、カチオン性サイズ剤などの表面サイズ剤を併用することも可能である。また、本発明においては、必要に応じて分散剤、増粘剤、保水材、消泡剤、耐水化剤、着色剤、導電剤等、通常のクリア塗工に配合される各種助剤を適宜使用される。
【0038】
表面処理塗布液を塗布する装置としては、公知のサイズプレス装置、例えば、2ロールタイプ、3ロールタイプ、ゲートロールタイプ、フィルム転写タイプなどを使用することができる。フィルム転写タイプは、アプリケーターロール上に、湿潤状態にある塗布膜を形成し、塗布膜を基紙表面に転写する方式で、例えば、トランスファーロールコーター、ロッドメタリングサイズプレスコーターなどが挙げられる。また、カーテンコーター、スプレーコーター、ブレードコーターなどのコーター(塗工機)を使用して塗布してもよい。
【0039】
これら塗布装置で表面処理塗布液を紙に片面あたり0.1〜5.0g/m2塗布した後に、ドライヤーで乾燥し、仕上げることもできるが、印刷適性向上のため、マシンカレンダ、ソフトカレンダ、シューカレンダ等のカレンダ装置で処理するのが好ましい。また、表面処理液は両面に塗布してもよい。
【0040】
(塗工原紙および塗工紙)
本発明の軽質炭酸カルシウムを内填した紙を塗工原紙とし、顔料と接着剤を主成分とする塗工層を少なくとも1層有する塗工紙とすることもできる。本発明の軽質炭酸カルシウムを内添することで、層間強度が向上するため、ブリスター適性に優れ、かつ、良好なサイズ性発現性が得られるため、表面平滑性に優れる塗工紙が得られる。
【0041】
通常、上述の軽質炭酸カルシウムを内填した紙に表面処理剤を含む塗布液を塗布したものを塗工原紙としてもよい。この表面処理を施すことで、塗工原紙の表面強度を向上させる、あるいは塗工原紙表面の異物をクリーニングする効果があり、ストリークなどの発生を抑制させることができる。しかしながら、塗工原紙を抄紙し、顔料と接着剤を主成分とする塗工層を塗工、乾燥させるオンマシンコーターの場合、乾燥能力の制限や断紙の危険性を回避するため、表面処理が省略されることもある。
【0042】
塗工原紙は、マシンカレンダ、ソフトカレンダなどによる平滑化仕上げ処理をすることもできる。
【0043】
塗工層に使用される顔料としては特に限定するものではなく、通常の塗工紙分野で使用される顔料、例えば、重質炭酸カルシウム、本発明またはそれ以外の軽質炭酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、石膏、タルク、カオリン、エンジニアードカオリン、焼成カオリン、ホワイトカーボン、非晶質シリカ、デラミネートカオリン、ケイソウ土、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、製紙スラッジ、脱墨フロスからの再生無機粒子等の無機系填料や尿素ホルマリン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、尿素/ホルマリン樹脂、メラミン系樹脂、スチレン/ブタジエン系共重合体系樹脂、フェノール樹脂、プラスチック中空粒子等の有機系填料等を必要に応じて1種あるいは2種以上を適宜選択して併用することができる。混合比率は紙の品質に応じて調整することが可能であり、特に限定しない。
【0044】
前記の顔料塗工液には、接着剤として、通常の塗工紙分野で使用される接着剤および、上記非塗工紙で表面処理剤として使用された各種表面処理剤を接着剤として使用してもよい。また、これらの接着剤は1種もしくは2種以上併用することも可能である。
【0045】
接着剤の配合量については、特に限定されるものではないが、顔料100重量部あたり1〜50重量部、好ましくは5〜30重量部を配合する。
【0046】
また、必要に応じて、有色染料や有色顔料、蛍光増白染料、増粘剤、保水剤、酸化防止剤、老化防止剤、導電誘導剤、消泡剤、紫外線吸収剤、分散剤、pH調整剤、離型剤、耐水化剤、撥水剤等の各種助剤を適宜配合することができる。
【0047】
顔料塗工液の固形分濃度としては、25〜80質量%の範囲で選択できる。塗工量の調整や操業性を考慮すると、50〜70質量%の範囲が望ましい。
【0048】
塗工原紙上に設ける塗工層は、1層または2層以上の多層にするかは特に限定しない。多層の場合、全てが同一である必要はなく、要求される品質レベルに応じて適宜調整することが可能である。また、塗工層の塗工量も、特に限定されるものではなく、塗工紙の白紙品質、印刷品質などに応じて調整することが可能であるが、一般的には、片面あたり0.5〜40.0g/m
2程度である。
【0049】
本発明における塗工層を設ける際の塗工方式については、通常の塗工紙製造分野で使用されている各種の塗工装置、例えばエアーナイフコーター、各種のブレードコーター、ゲートロールコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター等を適宜使用することができる。
【0050】
上記顔料塗工液を原紙に塗工した後は、塗工層を乾燥させ、塗工紙を得る。この乾燥方法としては、例えば、蒸気加熱ヒーター、ガスヒーター、赤外線ヒーター、電気ヒーター、熱風加熱ヒーター、マイクロウェーブ、シリンダードライヤー等の通常の方法を任意に選択して使用することができる。
【0051】
このようにして得られた塗工紙は、各種公知公用の仕上げ装置、例えばスーパーカレンダ、グロスカレンダ、ソフトカレンダ、マットカレンダ等に通紙して製品仕上げを施してもよい。
【0052】
(電子写真用転写紙)
本発明の特定の軽質炭酸カルシウムを内添した紙を用いて電子写真用転写紙を製造することができる。本発明の軽質炭酸カルシウムを内填することで、相関強度が向上するため、印刷時のカールや紙粉が発生しにくい電子写真用転写紙を得ることができる。また、本発明の軽質炭酸カルシウムは抄紙機のワイヤーを摩耗させにくいため、一般的な抄紙機を用いる抄紙に使用することができる。特に、電子写真用転写紙を抄造するために用いられる抄紙機は、両面脱水機構を有しているハイブリッドフォーマー、オントップフォーマーなどが望ましいが、これに限定されるものではない。
【0053】
本発明で製造される電子写真用転写紙のパルプ原料としては、特に限定されるものではなく、非塗工紙で例示した各種パルプなど、一般的に抄紙原料として使用されているものであればよい。中でも、環境面から脱墨パルプの使用が多いほど望ましい。
【0054】
本発明の軽質炭酸カルシウムは、それ単独で用いることもでき、また、他の製紙用填料と併用することもできる。他の製紙用填料と併用する場合は、非塗工紙で例示した公知の填料を単独でまたは適宜2種類以上を組み合わせて使用することができる。混合比率は紙の品質に応じて調整することが可能であり印刷時のカールや紙粉を低減し、抄造時のワイヤー摩耗を抑制するためには、本発明の特定の軽質炭酸カルシウムを紙の内添填料100重量部中に50重量部以上含有することが好ましく、さらに好ましくは60重量部以上を含有することであり、70重量部以上を含有するのが特に好ましい。
【0055】
紙中灰分としては、5重量%未満では紙の光学特性、主に白色度、不透明度が不足しやすいため、5重量%以上とすることが好ましく、10重量%以上とすることがより好ましい。一方、灰分が30重量%超えるとワイヤーの磨耗や抄紙機系内の汚れ、曲げこわさの低下に起因する電子写真方式印刷機での搬送性(重送、ジャムトラブル等)、紙粉発生量などの問題が生じやすい。そのため、一般に、5〜30重量%の範囲となるように添加することが好ましく、5〜20重量%の範囲となるように添加することが特に好ましい。
【0056】
本発明の軽質炭酸カルシウムを内填した電子写真用転写紙を製造する場合、上記非塗工紙で例示したような各種抄紙用薬品や、助剤を1種もしくは2種以上を併用して使用することができる。これらの助剤は、本発明の軽質炭酸カルシウムのスラリーに予め添加してから抄紙機に施用してもよく、また、本発明の軽質炭酸カルシウムのスラリーと別々に抄紙機に施用してもよい。電子写真用転写紙においても、前述と同様に、高い薬品添加効率が得られるため、サイズ発現性に優れる。
【0057】
表面強度を高める目的で、本発明の特定の軽質炭酸カルシウムを内填した
電子写真用転写紙の上に表面処理剤を塗工してもよい。表面処理剤としては、上記非塗工紙で例示した表面処理剤を使用してもよい。また、電気抵抗性をコントロールしてトナー定着性を向上させるために、導電剤として塩化ナトリウムや硫酸ナトリウム、塩化カリウムなどの無機導電剤やジメチルアミノエチルメタアクリレートなどの有機導電剤を加えて、外添で塗布することが好ましい。導電剤を含む表面処理剤の塗布量は適宜調製されるものであるが、通常の塗布量は、両面で0.5〜4.0g/m
2程度である。また、導電剤の塗布量としては、両面で0.02〜0.5g/m
2程度である。
【0058】
本発明の電子写真用転写紙の坪量は、例えば40〜80g/m
2とすることができ、通常の電子写真用転写紙の摩擦係数などを有するレベルに物性を調整すれば良い。
【実施例】
【0059】
以下に、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は勿論これらに限定されるものではない。なお、本明細書において、特に断らない限り、「%」はすべて「重量%」であり、数値範囲はその端点を含むものとする。
【0060】
評価方法
各項目を以下の評価方法によって評価した。
(1)平均粒子径:レーザー回折/散乱式粒度分布測定器(マルバーン製、マスターサイザー2000)を用いて、体積累積分布の50%点(D50)を平均粒子径とした。
(2)BET比表面積:JIS Z 8830−2001に準じて測定を行った。
(3)坪量:JIS P 8124に準じて測定した。
(4)紙厚:JIS P 8118に準じて測定した。
(5)密度:JIS P 8118に準じて坪量と紙厚から求めた。
(6)引張り強さ:JIS P 8113に準じて測定した。
(7)裂断長:JIS P 8113に準じて測定した。
(8)曲げこわさ:JIS P 8125に準じて測定した。
(9)層間剥離強度:TAPPIT569に準じて、インターナルボンドテスター (熊谷理機工業製)を用いて測定した。
(10)ステキヒトサイズ度:JIS P 8122に準じて測定した。
(11)灰分:JIS−P8251に順じ、灰化温度は525℃とした。
【0061】
軽質炭酸カルシウム凝集体
以下の形状を有する軽質炭酸カルシウムを炭酸ガス法において、反応時の温度と撹拌条件を適宜調整して合成し、これらの軽質炭酸カルシウムを用いて紙を製造した。なお、下表の炭酸カルシウム5の電子顕微鏡写真を
図1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
実験1:非塗工紙の製造(手抄き紙)
カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)を500mLに調整した広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)75%とCSFを475mLに調整した針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)25%を混合したスラリーを攪拌しながら、パルプ絶乾重量当たり、カチオン化澱粉0.7%、硫酸アルミニウム2.0%、中性ロジンサイズ剤0.5%を順次添加し、紙中灰分が約10〜28%になるように軽質炭酸カルシウム1〜4を加えた。パルプスラリーを希釈した後、歩留向上剤をパルプ絶乾重量当たり、100ppm加えて紙料を調成した。
【0064】
この紙料を用いて角型シートマシンで手抄きを行い、坪量64g/m
2のシートを得た。プレス搾水後、シリンダードライヤーで110℃にて乾燥し、手差しチルドカレンダにて、紙厚90μmとなるように処理を行った。
【0065】
(参考例1)
参考例として、針状の1次粒子が凝集して2次粒子を形成している炭酸カルシウム(炭酸カルシウム4:同等粒径のロゼッタ型炭酸カルシウムと比較して比表面積が小さい)を填料として用いて紙を製造した。カナディアンスタンダードフリーネスを450mLに調製した広葉樹晒クラフトパルプ100%のスラリーを攪拌しながら、パルプ絶乾重量当たり、カチオン化澱粉0.8%、硫酸アルミニウム0.5%、アルキルケテンダイマー0.1%を順次添加し、紙中灰分が12.0%になるように軽質炭酸カルシウム4(平均粒子径7.0μm、BET比表面積7.9m
2/g)を加えた。パルプスラリーを希釈した後、歩留向上剤をパルプ絶乾重量当たり、0.1%加えて紙料とし、角型シートマシンで手抄きを行い坪量60g/m
2のシートを得た。プレス搾水後、シリンダードライヤーで110℃にて乾燥し、手差しチルドカレンダにて、紙厚90μmとなるように処理を行った。
【0066】
結果を以下の表に示すが、実施例1、2の手すき紙は比較例1と比べ、同等灰分の時のステキヒトサイズ度、裂断長が高かった。また、灰分を増加させた時も、本発明のロゼッタ型軽質炭酸カルシウムを使用した場合の方が、高いステキヒトサイズ度、裂断長を維持していた。
【0067】
【表2】
【0068】
実験2:非塗工紙の製造(上質紙)
(上質紙1:坪量64g/m
2)
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、CSF:360ml)91%と広葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、CSF:500ml)9%からなるパルプスラリーに、パルプスラリーの全固形分に対して硫酸アルミニウム0.5%、カチオン澱粉0.9%、アルキルケテンダイマーサイズ剤0.08%、紙中灰分が約18〜23%になるようにロゼッタ型軽質炭酸カルシウム5〜6を添加した後、歩留剤0.1%と0.1%を順次添加し、紙料を調成した。
【0069】
この紙料から長網式抄紙機を用いて運転抄速560m/分で紙層を形成し、搾水、乾燥した後、原紙片面当たり固形量として0.85g/m
2となるように澱粉8.3%、表面サイズ剤0.24%よりなる表面処理剤を両面に塗布し、1ニップのマシンカレンダで平滑化処理して坪量が約65g/m
2の上質紙を得た。
【0070】
結果を表3に示すが、実施例3と比較例2において、実施例3−1は比較例2−1、2−2より灰分が高いにもかかわらず、ステキヒトサイズ度、引張り強さ、層間剥離強度に優れていた。また、さらに実施例3−2や3−3のように灰分を高くしてもステキヒトサイズ度の低下はわずかだった。
【0071】
【表3】
【0072】
(上質紙2:坪量約81g/m
2)
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、CSF:300ml)95%と広葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、CSF:460〜500ml)5%からなるパルプスラリーに、パルプスラリーの全固形分に対して硫酸アルミニウム0.9%、カチオン澱粉0.9%、アルキルケテンダイマーサイズ剤0.08%、紙中灰分が約18〜23%になるようにロゼッタ型軽質炭酸カルシウム7〜8を添加した後、歩留剤0.1%と0.1%を順次添加し、紙料を調成した。
【0073】
この紙料から長網式抄紙機を用いて運転抄速660m/分で紙層を形成し、搾水、乾燥した後、原紙片面当たり固形量として1.0g/m
2となるように澱粉8.0%、表面サイズ0.200%よりなる表面処理剤を両面に塗布し、マシンカレンダで平滑化処理して坪量が約81g/m
2の上質紙を得た。
【0074】
実施例4と比較例3とを比較すると明らかなように、実施例4−1は比較例3と比べ、灰分が高いにもかかわらずステキヒトサイズ度、引張り強さ、層間剥離強度に優れており、更に実施例4−2や4−3のように灰分を増添しても、比較例3より高いステキヒトサイズ度や層間剥離強度を示した。
【0075】
【表4】
【0076】
実験3:非塗工紙の製造(新聞用紙)
古紙パルプ(DIP、CSF:220ml)80%、機械パルプ(MP、CSF:70ml)15%、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、CSF:520ml)5%を混合したスラリーを攪拌しながら、パルプ絶乾重量当たり、硫酸アルミニウム2.0%を添加し、紙中灰分が約18%になるようにロゼッタ型軽質炭酸カルシウム11〜14を加えた。パルプスラリーを0.5%に希釈した後、パルプ絶乾重量当たり100ppmの歩留向上剤を加えて紙料を調成した。
【0077】
この紙料を用いて丸型シートマシンで手抄きを行い、坪量43g/m
2のシートを得た。プレス搾水後、シリンダードライヤーで120℃にて乾燥した。
【0078】
結果を以下の表に示すが、実施例5、6、7の紙は、比較例4より灰分が高いにも関わらず、比較例4と同等もしくはそれ以上の引張り強さ、曲げこわさであった。
【0079】
【表5】
【0080】
実験4:塗工紙の製造
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、CSF:350ml)86%と広葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、CSF:600ml)8%、古紙パルプ(DIP、CSF:240ml)6%からなるパルプスラリーに、パルプスラリーの全固形分に対して硫酸アルミニウム0.9%、MK0.4%、紙力剤0.3%、紙中灰分が約15〜17%になるように軽質炭酸カルシウム9〜10を添加した後、歩留剤80ppmを添加し、紙料を調成した。
【0081】
この紙料から長網式抄紙機を用いて運転抄速910m/分で紙層を形成し、搾水、乾燥後、2ニップのマシンカレンダで平滑化処理して54.5g/m
2の原紙を得た。
【0082】
この原紙に、軽質炭酸カルシウム70部、重質炭酸カルシウム30部からなる顔料スラリーに顔料100部に対し澱粉4部、ラテックス8部、さらに助剤と染料を添加した塗料を、片面あたり10.5g/m2となるように両面に塗布、乾燥して坪量75.5g/m
2の塗工紙を得た。
【0083】
結果を以下の表に示すが、実施例8の塗工紙原紙は、比較例5と同等以上の灰分でも、高い裂断長と層間剥離強度を示し、また、塗工後の品質においては、平滑度と光沢度に優れており、印刷適性に関しても優れていると考えられる。
【0084】
【表6】