特許第6625198号(P6625198)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6625198適応フィルタモジュール及び補正モジュールを含む分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6625198
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】適応フィルタモジュール及び補正モジュールを含む分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 3/23 20060101AFI20191216BHJP
   H03H 17/02 20060101ALI20191216BHJP
   H03H 21/00 20060101ALI20191216BHJP
【FI】
   H04B3/23
   H03H17/02 613C
   H03H17/02 601N
   H03H21/00
【請求項の数】12
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2018-504634(P2018-504634)
(86)(22)【出願日】2016年7月25日
(65)【公表番号】特表2018-528660(P2018-528660A)
(43)【公表日】2018年9月27日
(86)【国際出願番号】EP2016067653
(87)【国際公開番号】WO2017017056
(87)【国際公開日】20170202
【審査請求日】2018年3月29日
(31)【優先権主張番号】15178698.5
(32)【優先日】2015年7月28日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591037214
【氏名又は名称】フラウンホッファー−ゲゼルシャフト ツァ フェルダールング デァ アンゲヴァンテン フォアシュンク エー.ファオ
(74)【代理人】
【識別番号】100079577
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 全啓
(74)【代理人】
【識別番号】100167966
【弁理士】
【氏名又は名称】扇谷 一
(72)【発明者】
【氏名】ルイス バレロ マリア
(72)【発明者】
【氏名】ハベツ エマヌエル
(72)【発明者】
【氏名】マバンデ エドウィン
(72)【発明者】
【氏名】ロンバード アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】マーネ ダーク
(72)【発明者】
【氏名】ビルツァ ベルンハルト
【審査官】 鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−507923(JP,A)
【文献】 特開2004−349796(JP,A)
【文献】 特開2010−045804(JP,A)
【文献】 特開2010−288174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 3/23
H03H 17/02
H03H 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置であって、
フィルタリングされた信号(FS)を生成するために、複数のフィルタ係数ブロック(FB.1、FB.2、FB.B)から成るフィルタ係数のセットに応じて、時間領域入力信号(IS)の周波数領域表現(FDS)をフィルタ処理するために構成される周波数領域適応フィルタ(2)と、
複数の平行に配置されたフィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)であって、それぞれの前記フィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)は、前記周波数領域表現信号(FDS)のブロック(BFDS.1、BFDS.2、BFDS.B)と、前記フィルタリングされた信号(FS)の表現(RFS)を含む周波数領域制御信号(FCS)との循環相関によって集められた更新信号(US.1、US.2、US.B)に基づいて前記フィルタ係数ブロック(FB.1、FB.2、FB.B)のうちの1つを更新するために構成されるフィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)とを含み、
それぞれの前記フィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)は、
制約行列(FCM)よりも複雑性の低い近似制約行列(ACM)を、それぞれのフィルタ係数ブロックのフィルタ係数のための未制約勾配更新に適用することによって、それぞれのフィルタ係数ブロック(FB.1、FB.2、FB.B)のフィルタ係数について、制約勾配更新の近似(CU.1、CU.2、CU.B)を計算するステップであって、前記未制約勾配更新は前記更新信号(US.1、US.2、US.B)から導出される、制約勾配更新の近似を計算するステップと、
前記未制約勾配更新に前記近似制約行列(ACM)を適用することによって、前記未制約勾配更新にもたらされる累積誤差(CE.1、CE.2、CE.B)を計算するステップと、
を含む適応シーケンス(AS)を実行するために構成される適応モジュール(4.1、4.2、4.B)を備え、
それぞれの前記フィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)は、
前記制約勾配更新の近似(CU.1、CU.2、CU.B)と前記累積誤差(CE.1、CE.2、CE.B)との合計に前記制約行列(FCM)を適用することによって、それぞれの前記フィルタ係数ブロック(FB.1、FB.2、FB.B)の前記フィルタ係数について、補正された制約勾配更新(CCU.1、CCU.2、CCU.B)を計算するステップ、
を含む補正シーケンス(CS)を実行するために構成される補正モジュール(5.1、5.2、5.B)を備える、分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置。
【請求項2】
前記分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置(1)は、前記適応シーケンス(AS)を実行した後に、前記補正シーケンス(CS)が適用されるかどうか、及びどの前記フィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)に前記補正シーケンス(CS)が適用されるかを決定するために構成される補正シーケンス制御モジュール(13)を含む、請求項1に記載する分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置。
【請求項3】
前記補正シーケンス制御モジュール(13)は、前記フィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)の累積誤差に基づいて、前記補正シーケンス(CS)が適用されるかどうか、及びどの前記フィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)に前記補正シーケンス(CS)が適用されるかを決定するために構成される、請求項2に記載する分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置。
【請求項4】
前記補正シーケンス制御モジュール(13)は、それぞれの前記フィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)について、その後でそれぞれの前記フィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)に前記補正シーケンス(CS)が適用される、適応シーケンス(AS)の数を定義する補正スキー(CSC)を含む、請求項2又は請求項3に記載する分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置。
【請求項5】
前記フィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)のそれぞれについて、その後でそれぞれの前記フィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)に前記補正シーケンス(CS)が適用される、適応シーケンス(AS)の実行回数は、前記周波数領域制御信号(FCS)の閾値を越える変化に応じて減少する、請求項1ないし請求項4に記載する分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置。
【請求項6】
前記フィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)のそれぞれについて、その後でそれぞれの前記フィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)に前記補正シーケンス(CS)が適用される、適応シーケンス(AS)の実行回数は、前記周波数領域制御信号(FCS)の大きさに基づいて動的に適応される、請求項4又は請求項5に記載する分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置。
【請求項7】
前記分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置(1)は、前記近似制約行列の複雑性を動的に適応させるために構成される近似制約行列更新モジュール(14)を含む、請求項1ないし請求項6に記載する分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置。
【請求項8】
前記近似制約行列更新モジュール(14)は、前記周波数領域制御信号(FCS)の大きさに応じて、前記近似制約行列(ACM)の複雑性を動的に適応させるために構成される、請求項7に記載する分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置。
【請求項9】
前記近似制約行列更新モジュール(14)は、前記周波数領域制御信号(FCS)の閾値を越える変化に応じて、前記近似制約行列(ACM)の前記複雑性を大きくするために構成される、請求項7又は請求項8に記載する分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置。
【請求項10】
時間領域入力信号(IS)のエコー信号(ES)をキャンセルするための装置であって、前記装置(16)は分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置(1)を含み、前記分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置(1)は、
フィルタリングされた信号(FS)を生成するために、複数のフィルタ係数ブロック(FB.1、FB.2、FB.B)から成るフィルタ係数のセットに応じて、前記時間領域入力信号(IS)の周波数領域表現(FDS)をフィルタ処理するために構成される周波数領域適応フィルタ(2)と、
前記フィルタリングされた信号(FS)を前記エコー信号(ES)の時間領域における推定を表す推定エコー信号(EES)に変換するために構成される、周波数領域から時間領域へのコンバータ(8)と、
前記エコー信号(ES)を含む処理対象信号(STP)から前記推定エコー信号(EES)を減算することによって出力信号(OS)を生成するための減算モジュール(9)と、
複数の平行に配置されたフィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)であって、それぞれの前記フィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)は、前記周波数領域表現信号(FDS)のブロック(BFDS.1、BFDS.2、BFDS.B)と、前記フィルタリングされた信号(FS)の表現を含む周波数領域制御信号(FCS)との循環相関によって集められた更新信号(US.1、US.2、US.B)に基づいて前記フィルタ係数ブロック(FB.1、FB.2、FB.B)のうち1つを更新するために構成されるフィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)とを含み、
それぞれの前記フィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)は、
制約行列(FCM)よりも複雑性の低い近似制約行列(ACM)をそれぞれの前記フィルタ係数ブロックのフィルタ係数のための未制約勾配更新に適用することによって、それぞれの前記フィルタ係数ブロック(FB.1、FB.2、FB.B)のフィルタ係数について、制約勾配更新の近似(CU.1、CU.2、CU.B)を計算するステップであって、前記未制約勾配更新は、前記更新信号(US.1、US.2、US.B)から導出される、制約勾配更新の近似を計算するステップと、
前記未制約勾配更新に前記近似制約行列(ACM)を適用することによって、前記未制約勾配更新にもたらされる累積誤差(CE.1、CE.2、CE.B)を計算するステップと、
を含む適応シーケンス(AS)を実行するために構成される適応モジュール(4.1、4.2、4.B)を備え、
それぞれの前記フィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)は、
前記制約勾配更新の近似(CU.1、CU.2、CU.B)と前記累積誤差(CE.1、CE.2、CE.B)との合計に前記制約行列(FCM)を適用することによって、それぞれの前記フィルタ係数ブロック(FB.1、FB.2、FB.B)のフィルタ係数について、補正された制約勾配更新(CCU.1、CCU.2、CCU.B)を計算するステップ、
を含む補正シーケンス(CS)を実行するために構成される補正モジュール(5.1、5.2、5.B)を備える、装置。
【請求項11】
適応フィルタ処理方法であって、
フィルタリングされた信号(FS)を生成するために、複数のフィルタ係数ブロック(FB.1、FB.2、FB.B)から成るフィルタ係数のセットに応じて、時間領域入力信号の周波数領域表現(FDS)をフィルタ処理するために周波数領域適応フィルタ(2)を使用するステップと、
前記周波数領域表現信号(FDS)のブロック(BFDS.1、BFDS.2、BFDS.B)と前記フィルタリングされた信号(FS)の表現(RFS)を含む周波数領域制御信号(FCS)の循環相関によって集められた更新信号(US.1、US.2、US.B)に基づいて前記フィルタ係数ブロック(FB.1、FB.2、FB.B)のうちの1つを更新するために、複数の平行に配置されたフィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)のうちのそれぞれのフィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)を使用するステップと、
それぞれの前記フィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)の適応モジュール(4.1、4.2、4.B)を使用することによって、それぞれの前記フィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)について、適応シーケンス(AS)を実行するステップとを含み、前記適応シーケンス(AS)は、
制約行列(FCM)よりも複雑性の低い近似制約行列(ACM)をそれぞれの前記フィルタ係数ブロックの前記フィルタ係数のための未制約勾配更新に適用することによって、それぞれの前記フィルタ係数ブロック(FB.1、FB.2、FB.B)の前記フィルタ係数について、制約勾配更新の近似(CU.1、CU.2、CU.B)を計算するステップであって、前記未制約勾配更新は前記更新信号(US.1、US.2、US.B)から導出される、制約勾配更新の近似を計算するステップと、
前記未制約勾配更新に前記近似制約行列(ACM)を適用することによって、前記未制約勾配更新にもたらされる累積誤差(CE.1、CE.2、CE.B)を計算するステップと、を含み、
それぞれの前記フィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)の補正モジュール(5.1、5.2、5.B)を使用することによって、それぞれの前記フィルタ更新ブロック(3.1、3.2、3.B)について補正シーケンス(CS)を実行するステップであって、前記補正シーケンス(CS)は、
前記制約勾配更新の近似(CU.1、CU.2、CU.B)と前記累積誤差(CE.1、CE.2、CE.B)との合計に前記制約行列(FCM)を適用することによって、それぞれの前記フィルタ係数ブロック(FB.1、FB.2、FB.B)の前記フィルタ係数について、補正された制約勾配更新(CCU.1、CCU.2、CCU.B)を計算するステップと、
を含む、適応フィルタ処理方法
【請求項12】
プロセッサ上で実行しているときに、請求項11に係る方法を実行する、適応フィルタ処理のためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置に関する。特に、本発明は、分割ブロック周波数領域適応フィルタ(PBFDAF)装置についての新しい制約概念に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】“Partitioned block frequency domain adaptive filter,” Dutch European Patent PCT/EP2001/009 625, Aug. 13, 2001.
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】J. J. Shynk, “Frequency-domain and multirate adaptive filtering,” IEEE Signal Process. Mag., vol. 9, no. 1, pp. 14-37, Jan. 1992.
【非特許文献2】S. Haykin, Adaptive Filter Theory, 4th ed. Prentice-Hall, 2002.
【非特許文献3】A. Oppenheim and R. W. Schafer, Digital Signal Processing, 2nd ed. Prentice-Hall Inc., Englewood Cliff, NJ, 1993.
【非特許文献4】J. Benesty and D. R. Morgan, “Frequency-domain adaptive filtering revisited, generalization to the multi-channel case, and application to acoustic echo cancellation,” in Proc. IEEE ICASSP, vol. 2, pp. 289−292, 2000.
【非特許文献5】P. C. W. Sommen, “Partitioned frequency-domain adaptive filters,” in Proc. Asilomar Conf. on Signals, Systems and Computers, pp. 677−681, 1989.
【非特許文献6】D. Mansour and A. J. Gray, Jr, “Unconstrained frequency-domain adaptive filter,” IEEE Trans. Acoust., Speech, Signal Process., vol. 30, no. 5, pp. 726−734, Oct. 1982.
【非特許文献7】J. S. Soo and K. K. Pang, “Multidelay block frequency domain adaptive filter,” IEEE Trans. Acoust., Speech, Signal Process., vol. 38, pp. 373−376, Feb. 1990.
【非特許文献8】M. Joho and G. S. Moschytz, “Connecting partitioned frequency-domain filters in parallel or in cascade,” IEEE Trans. Circuits Syst. II, vol. 47, no. 8, pp. 685−697, Aug. 2000.
【非特許文献9】R. M. M. Derkx, G. P. M. Engelmeers, and P. C. W. Sommen, “New constraining method for partitioned block frequency-domain adaptive filters,” IEEE Trans. Signal Process., vol. 50, no. 3, pp. 2177−2186, 2002.
【非特許文献10】M. A. Iqbal and S. L. Grant, “A novel normalized cross-correlation based echo-path change detector,” in 2007 IEEE Region 5 Conference, Fayetteville, AR, pp. 249−251, Apr. 2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置は、例えば、参考文献[10]から知られている。参考文献[10]による装置の1つの欠点は、高い複雑性である。
【0005】
改良された分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置であって、
フィルタリングされた信号を生成するために、複数のフィルタ係数ブロックから成るフィルタ係数のセットに応じて、時間領域入力信号の周波数領域表現をフィルタ処理するために構成される周波数領域適応フィルタと、
複数の平行に配置されたフィルタ更新ブロックであって、それぞれのフィルタ更新ブロックは、周波数領域表現信号のブロックと、フィルタリングされた信号の表現を含む周波数領域制御信号との循環相関によって集められた更新信号に基づいてフィルタ係数ブロックのうちの1つを更新するために構成されるフィルタ更新ブロックとを含み、
それぞれのフィルタ更新ブロックは、
制約行列よりも複雑性の低い近似制約行列を、それぞれのフィルタ係数ブロックのフィルタ係数のための未制約勾配更新に適用することによって、それぞれのフィルタ係数ブロックのフィルタ係数について、制約勾配更新の近似を計算するステップであって、未制約勾配更新は更新信号から導出されるステップと、
未制約勾配更新に近似制約行列を適用することによって、未制約勾配更新にもたらされる累積誤差を計算するステップと、
を含む適応シーケンスを実行するために構成される適応モジュールを備え、
それぞれのフィルタ更新ブロックは、
制約勾配更新の近似と累積誤差との合計に制約行列を適用することによって、それぞれのフィルタ係数ブロックのフィルタ係数について、補正された制約勾配更新を計算するステップ、
を含む補正シーケンスを実行するために構成される補正モジュールを備える分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置によって達成される。
【0007】
【0008】
【0009】
近似制約行列という用語は、周波数領域において制約行列の近似に関し、制約行列のように行と列とが同じ数を有するが、制約行列よりも低い複雑性を有する。複雑性の減少は、特に、いくつかの要素をゼロに設定することによって達成しうる。
【0010】
本発明は、制約操作を単純化することによって、分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置の複雑性を減少する。他の以前に提案された装置とは対照的に、本発明による装置は、適応フィルタ処理の収束率を著しく減少させることなく複雑性を減少することができ、設計パラメータに関して柔軟であり、そのブロックの累積誤差だけに基づいて1つのブロックの勾配更新の近似を補正するので、完全に並列化可能である。
【0011】
本発明による分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置は、音響エコーキャンセルに使用しうる。さらに、本発明は、特定のアプリケーションから独立して、分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置の複雑性を減少するために使用しうる。更に詳細には、システム同定、雑音減少、チャンネル等化のような他のアプリケーションで使用しうる。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態によると、分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置は、適応シーケンスを実行した後に、補正シーケンスが適用されるかどうか、及びどのフィルタ更新ブロックに補正シーケンスが適用されるかを決定するために構成される補正シーケンス制御モジュールを含む。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態によると、補正シーケンス制御モジュールは、フィルタ更新ブロックの累積誤差に基づいて、補正シーケンスが適用されるかどうか、及びどのフィルタ更新ブロックに補正シーケンスが適用されるかを決定するために構成される。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態によると、補正シーケンス制御モジュールは、それぞれのフィルタ更新ブロックについて、その後でそれぞれのフィルタ分割に補正シーケンスが適用される、適応シーケンスの数を定義する補正スキーマを含む。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態によると、フィルタ更新ブロックのそれぞれについて、その後でそれぞれのフィルタ分割に補正シーケンスが適用される、適応シーケンスの数は、周波数領域制御信号の閾値を越える変化に応じて減少する。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態によると、フィルタ更新ブロックのそれぞれについて、その後でそれぞれのフィルタ分割に補正シーケンスが適用される、適応シーケンスの数は、周波数領域制御信号の大きさに基づいて動的に適応される。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態によると、分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置は、近似制約行列の複雑性を動的に適応させるために構成される近似制約行列更新モジュールを含む。
【0018】
本発明の好ましい実施の形態によると、近似制約行列更新モジュールは、周波数領域制御信号の大きさに応じて、近似制約行列の複雑性を動的に適応させるために構成される。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態によると、近似制約行列更新モジュールは、周波数領域制御信号の閾値を越える変化に応じて、近似制約行列の複雑性を大きくするために構成される。
【0020】
別の態様において、本発明は、時間領域入力信号のエコー信号をキャンセルするための装置を提供する。装置は分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置を含み、分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置は、
フィルタリングされた信号を生成するために、複数のフィルタ係数ブロックから成るフィルタ係数のセットに応じて、時間領域入力信号の周波数領域表現をフィルタ処理するために構成される周波数領域適応フィルタと、
フィルタリングされた信号をエコー信号の時間領域における推定を表す推定エコー信号に変換するために構成される、周波数領域から時間領域へのコンバータと、
エコー信号を含む処理対象信号から推定エコー信号を減算することによって出力信号を生成するための減算モジュールと、
複数の平行に配置されたフィルタ更新ブロックであって、それぞれのフィルタ更新ブロックは、周波数領域表現信号のブロックと、フィルタリングされた信号の表現を含む周波数領域制御信号との循環相関によって集められた更新信号に基づいてフィルタ係数ブロックのうち1つを更新するために構成されるフィルタ更新ブロックとを含み、
それぞれのフィルタ更新ブロックは、
制約行列よりも複雑性の低い近似制約行列をそれぞれのフィルタ係数ブロックのフィルタ係数のための未制約勾配更新に適用することによって、それぞれのフィルタ係数ブロックのフィルタ係数について、制約勾配更新の近似を計算するステップであって、未制約勾配更新は、更新信号から導出されるステップと、
未制約勾配更新に近似制約行列を適用することによって、未制約勾配にもたらされる累積誤差を計算するステップと、
を含む適応シーケンスを実行するために構成される適応モジュールを備え、
それぞれのフィルタ更新ブロックは、
制約勾配更新の近似と累積誤差との合計に制約行列を適用することによって、それぞれのフィルタ係数ブロックのフィルタ係数について、補正された制約勾配更新を計算するステップ、
を含む補正シーケンスを実行するために構成される補正モジュールを備える。
【0021】
別の態様において、本発明は、適用フィルタ処理方法であって、
フィルタリングされた信号を生成するために、複数のフィルタ係数ブロックから成るフィルタ係数のセットに応じて、時間領域入力信号の周波数領域表現をフィルタ処理するために周波数領域適応フィルタを使用するステップと、
周波数領域表現信号のブロックとフィルタリングされた信号の表現を含む周波数領域制御信号との循環相関によって集められた更新信号に基づいてフィルタ係数ブロックのうちの1つを更新するために、複数の平行に配置されたフィルタ更新ブロックのうちのそれぞれのフィルタ更新分割を使用するステップと、
それぞれのフィルタ更新ブロックの適応モジュールを使用することによって、それぞれのフィルタ更新ブロックについて、適応シーケンスを実行するステップとを含み、適応シーケンスは、
制約行列よりも複雑性の低い近似制約行列をそれぞれのフィルタ係数ブロックのフィルタ係数のための未制約勾配更新に適用することによって、それぞれのフィルタ係数ブロックのフィルタ係数について、制約勾配更新の近似を計算するステップであって、未制約勾配更新は更新信号から導出されるステップと、
未制約勾配更新に近似制約行列を適用することによって、未制約勾配にもたらされる累積誤差を計算するステップと、を含み、
それぞれのフィルタ更新ブロックの補正モジュールを使用することによって、それぞれのフィルタ更新ブロックについて補正シーケンスを実行するステップであって、補正シーケンスは、
制約勾配更新の近似と累積誤差との合計に周波数領域制約行列を適用することによって、それぞれのフィルタ係数ブロックのフィルタ係数について、補正された制約勾配更新を計算するステップと、
を含む適応フィルタ処理方法を備える。
【0022】
プロセッサ上で実行しているときに、本発明の方法を実行する、適応フィルタ処理のためのコンピュータプログラム。
【0023】
本発明の好ましい実施の形態は、添付の図面を参照して以下説明される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、参考文献[1]から引用される、概略図において、従来技術による周波数領域適応フィルタ(FDAF)装置の一般的な構造の概要を提供する。
図2図2は、概略図において、従来技術による周波数領域適応フィルタ(PBFDAF)装置の一般的な構造の概要を提供する。
図3図3は、概略図において、本発明による分割ブロック周波数領域フィルタ装置の第1の実施の形態を示す。
図4A図4Aは、概略図において、本発明による分割ブロック周波数領域フィルタ装置の第2の実施の形態を示す。
図4B図4Bは、概略図において、本発明による分割ブロック周波数領域フィルタ装置の第2の実施の形態を示す。
図5図5は、概略図において、本発明による制約操作を示す。
図6図6は、異なる制約行列に対応する時間領域制約ウィンドウの例を提供し、50%のウィンドウオーバーラップが想定される。
図7図7は、異なる制約行列に対応する時間領域制約ウィンドウの例を提供し、75%のウィンドウオーバーラップが想定される。
図8図8は、ブロック図の形式で補正シーケンス制御モジュールの第1の実施の形態の操作原理を示す。
図9図9は、補正スキームの例を提供する。
図10図10は、ブロック図の形式で補正シーケンス制御モジュールの第2の実施の形態の操作原理を示す。
図11図11は、周波数領域において、時間領域ウィンドウ及びそれらに対応する制約行列の例を提供する。
図12図12は、概略図において、本発明による時間領域入力信号のエコー信号をキャンセルするための装置の第1の実施の形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の新しい特徴の説明の前に、まず、離散フーリエ変換領域(DFT領域)においてコンボリューションを実行することによって提示される問題と、制約操作の説明の洞察が与えられる。これは、音響エコーキャンセル(AEC)の具体的な文脈で、周波数範囲適応フィルタの問題と、それらの分割されたブロックベースの実装との式に従う。
【0026】
音響エコーキャンセルは、例えばハンズフリー通話シナリオにおいて、ラウドスピーカーとマイクロフォンとの間の電気的な音響結合に対処するために使用される。電気的な音響エコー結合は、結果として、部屋を通して伝播され、マイクロフォンによって取得されるラウドスピーカー又は遠端の信号である。結果として、マイクロフォンの信号は、望ましい近端の音声と背景雑音を含むだけではなく、音響エコー信号も含む。音響エコーキャンセルは、音響エコー信号を推定するために必要である音響エコー経路を識別するために、例えば参考文献[1]及び参考文献[2]に示す、適応フィルタアルゴリズムを使用する。
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
PBFDAFアルゴリズムのアルゴリズムに関する複雑性を減少するためのいくつかの従前に提案された方法は、
・参考文献[6]及び参考文献[7]の未制約のFDAFとPBFDAF
・参考文献[7]の代わりの未制約のPBFDAF
・参考文献[8]の代わりの制約方法
・参考文献[9]の変更された代わりの制約方法
である。
【0036】
すべてのこれらの方法と本発明の目的は、フレームごとのFFTの総数を減らすことである。参考文献[6]及び参考文献[7]で提案されるように、従前述べられた未制約方法は、制約操作を直接的に省略する。すなわち、
である。
【0037】
【0038】
【0039】
時間領域における結果のウィンドウは、上昇サインウィンドウであり、ラップアラウンド誤差を減少することができる。しかしながら、線形係数も変更され、補正ステップにおいて補わなければならず、残りのラップアラウンド誤差も取り除かなければならない。
【0040】
参考文献[10]に示される隣接するブロックにおいて、1つのブロックの線形係数でもたらされた誤差を補うために、変更された代わりの制約方法は、前と後ろのブロックのラップアラウンド成分を使用する。したがって、1つのブロックの線形成分を完全に補うことができる2つのブロックを補正する必要がある。すなわち、結果として最初と最後のブロックが完全に補われない。
【0041】
図3は、概略図において、本発明による分割ブロック周波数領域フィルタ装置1の第1の実施の形態を示す。
【0042】
分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置1であって、
フィルタリングされた信号FSを生成するために、複数のフィルタ係数ブロックFB.1、FB.2、FB.Bから成るフィルタ係数のセットに応じて、時間領域入力信号ISの周波数領域表現FDSをフィルタ処理するために構成される周波数領域適応フィルタ2と、
複数の平行に配置されたフィルタ更新ブロック3.1、3.2、3.Bであって、それぞれのフィルタ更新ブロック3.1、3.2、3.Bは、周波数領域表現信号FDSのブロックBFDS.1、BFDS.2、BFDS.Bと、フィルタリングされた信号FSの表現RFSを含む周波数領域制御信号FCSとの循環相関によって集められた更新信号US.1、US.2、US.Bに基づいてフィルタ係数ブロックFB.1、FB.2、FB.Bのうちの1つを更新するために構成されるフィルタ更新ブロック3.1、3.2、3.Bとを含み、
それぞれのフィルタ更新ブロック3.1、3.2、3.Bは、
制約行列FCMよりも複雑性の低い近似制約行列ACMを、それぞれのフィルタ係数ブロックのフィルタ係数のための未制約勾配更新に適用することによって、それぞれのフィルタ係数ブロックFB.1、FB.2、FB.Bのフィルタ係数について、制約勾配更新の近似CU.1、CU.2、CU.Bを計算するステップであって、未制約勾配更新は更新信号US.1、US.2、US.Bから導出されるステップと、
未制約勾配更新に近似制約行列ACMを適用することによって、未制約勾配更新にもたらされる累積誤差CE.1、CE.2、CE.Bを計算するステップと、
を含む適応シーケンスASを実行するために構成される適応モジュール4.1、4.2、4.Bを備え、
それぞれのフィルタ更新ブロック3.1、3.2、3.Bは、
制約勾配更新の近似CU.1、CU.2、CU.Bと累積誤差CE.1、CE.2、CE.Bとの合計に制約行列FCMを適用することによって、それぞれのフィルタ係数ブロックFB.1、FB.2、FB.Bのフィルタ係数について、補正された制約勾配更新CCU.1、CCU.2、CCU.Bを計算するステップ、
を含む補正シーケンスCSを実行するために構成される補正モジュール5.1、5.2、5.Bを備える。
【0043】
分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置1は、次のように機能する。すなわち、時間領域入力信号ISは、時間領域から周波数領域へのコンバータ6によって、周波数領域表現信号FDSに変換される。ブロックプロセッサ7は、周波数領域表現信号FDSのブロックBFDS.1、BFDS.2、BFDS.Bを抽出し、共役ブロックBFDS’.1、BFDS’.2、BFDS’.Bを取得するために共役させ、DFT領域において相関を計算する必要がある。周波数領域表現信号FDSは、周波数領域適応フィルタによって、周波数領域において、フィルタリングされた信号FSに変換され、フィルタ係数ブロックFB.1、FB.2、FB.Bは使用される。フィルタリングされた信号FSは、その次に、周波数領域から時間領域へのコンバータ8によって、時間領域フィルタ処理信号FTSに転送される。その後、時間領域フィルタ処理信号FTSは、減算モジュール9によって、処理対象信号STPから減算される。そのようにして生成された出力信号OSは、時間領域から周波数領域へのコンバータ10によって周波数領域に反対に変換され、フィルタリングされた信号FSの表現RFSを備える周波数領域制御信号FCSを出力する。
【0044】
循環相関モジュール11.1は、更新信号US.1を生成するために、周波数領域制御信号FCSと周波数領域表現信号FDSの共役ブロックBFDS’.1とを乗算することによって循環相関を実行する。同様に、循環相関モジュール11.2は、更新信号US.2を生成するために、周波数領域制御信号FCSと周波数領域表現信号FDSの共役ブロックBFDS’.2とを乗算することによって循環相関を実行する。同様に、循環相関モジュール11.Bは、更新信号US.Bを生成するために、周波数領域制御信号FCSと周波数領域表現信号FDSの共役ブロックBFDS’.Bとを乗算することによって循環相関を実行する。
【0045】
それぞれの更新信号US.1、US.2及びUS.Bは、適応モジュール4.1、4.2、4.Bのうち1つに供給される。それぞれの適応モジュールは、制約勾配更新の近似CU.1、CU.2、CU.Bと累積誤差CE.1、CE.2、CE.Bとを計算する。累積誤差CE.1、CE.2、CE.Bは、補正モジュール5.1、5.2、5.Bに転送され、一方で、制約勾配更新の近似CU.1、CU.2、CU.Bは、補正モジュール5.1、5.2、5.B、又は、スイッチ12.1、12.2、12.Bのそれぞれのスイッチを切り替えることによってフィルタ係数ブロックFB.1、FB.2、FB.Bに代わりに転送しうる。
【0046】
本発明の好ましい実施の形態によると、分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置1は、適応シーケンスASを実行した後に、補正シーケンスCSが適用されるかどうか、及びどのフィルタ更新ブロック3.1、3.2、3.Bに補正シーケンスCSが適用されるかを決定するために構成される補正シーケンス制御モジュール13を含む。
【0047】
別の態様において、本発明は、適応フィルタ処理方法であって、
フィルタリングされた信号FSを生成するために、複数のフィルタ係数ブロックFB.1、FB.2、FB.Bから成るフィルタ係数のセットに応じて、時間領域入力信号の周波数領域表現FDSをフィルタ処理するために周波数領域適応フィルタ2を使用するステップと、
周波数領域表現信号FDSのブロックBFDS.1、BFDS.2、BFDS.Bとフィルタリングされた信号FSの表現RFSを含む周波数領域制御信号FCSの循環相関によって集められた更新信号US.1、US.2、US.Bに基づいてフィルタ係数ブロックFB.1、FB.2、FB.Bのうちの1つを更新するために、複数の平行に配置されたフィルタ更新ブロック3.1、3.2、3.Bのうちのそれぞれのフィルタ更新ブロック3.1、3.2、3.Bを使用するステップと、
それぞれのフィルタ更新ブロック3.1、3.2、3.Bの適応モジュール4.1、4.2、4.Bを使用することによって、それぞれのフィルタ更新ブロック3.1、3.2、3.Bについて、適応シーケンスASを実行するステップとを含み、適応シーケンスASは、
制約行列FCMよりも複雑性の低い近似制約行列ACMをそれぞれのフィルタ係数ブロックのフィルタ係数のための未制約勾配更新に適用することによって、それぞれのフィルタ係数ブロックFB.1、FB.2、FB.Bのフィルタ係数について、制約勾配更新の近似CU.1、CU.2、CU.Bを計算するステップであって、未制約勾配更新は更新信号US.1、US.2、US.Bから導出されるステップと、
未制約勾配更新に近似制約行列ACMを適用することによって、未制約勾配にもたらされる累積誤差CE.1、CE.2、CE.Bを計算するステップと、を含み、
それぞれのフィルタ更新ブロック3.1、3.2、3.Bの補正モジュール5.1、5.2、5.Bを使用することによって、それぞれのフィルタ更新ブロック3.1、3.2、3.Bについて補正シーケンスCSを実行するステップであって、補正シーケンスCSは、
制約勾配更新の近似CU.1、CU.2、CU.Bと累積誤差CE.1、CE.2、CE.Bとの合計に周波数領域制約行列FCMを適用することによって、それぞれのフィルタ係数ブロックFB.1、FB.2、FB.Bのフィルタ係数について、補正された制約勾配更新CCU.1、CCU.2、CCU.Bを計算するステップと、
を含む。
【0048】
別の態様において、本発明は、プロセッサ上で実行しているときに本発明に係る方法を実行する、適応フィルタ処理のためのコンピュータプログラムを備える。
【0049】
図4は、概略図において、本発明による分割ブロック周波数領域フィルタ装置の第2の実施の形態を示す。便宜上、適応モジュール4.Bと補正モジュール5.Bだけが示されている。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
図5は、概略図において、本発明による制約操作を示す。適応シーケンスASと補正シーケンスCSとは共に周波数領域において実行されるが、グラフは、時間領域において、等価窓要素を示す。
【0055】
【0056】
【0057】
図6は、異なる制約行列に対応する時間領域制約ウィンドウの例を提供し、50%のウィンドウオーバーラップが想定される。
【0058】
図7は、異なる制約行列に対応する時間領域制約ウィンドウの例を提供し、75%のウィンドウオーバーラップが想定される。
【0059】
【0060】
【0061】
図8は、ブロック図の形式で補正シーケンス制御モジュールの第1の実施の形態の操作原理を示す。
【0062】
【0063】
【0064】
図9は、補正スキームCSCの例を提供する。
【0065】
本発明の好ましい実施の形態によると、補正シーケンス制御モジュール13は、フィルタ更新ブロック3.1、3.2、3.Bの累積誤差に基づいて、補正シーケンスCSが適用されるかどうか、及びどのフィルタ更新ブロック3.1、3.2、3.Bに補正シーケンスCSが適用されるかを決定するために構成される。
【0066】
本発明の好ましい実施の形態によると、補正シーケンス制御モジュール13は、それぞれのフィルタ更新ブロック3.1、3.2、3.Bについて、その後でそれぞれのフィルタ分割3.1、3.2、3.Bに補正シーケンスCSが適用される、適応シーケンスASの数を定義する補正スキーマCSCを含む。
【0067】
本発明の好ましい実施の形態によると、フィルタ更新ブロック3.1、3.2、3.Bのそれぞれについて、その後でそれぞれのフィルタ分割3.1、3.2、3.Bに補正シーケンスCSが適用される、適応シーケンスASの数は、周波数領域制御信号FCSの閾値を越える変化に応じて減少する。
【0068】
本発明の好ましい実施の形態によると、フィルタ更新ブロック3.1、3.2、3.Bのそれぞれについて、その後でそれぞれのフィルタ分割3.1、3.2、3.Bに補正シーケンスCSが適用される、適応シーケンスASの数は、周波数領域制御信号FCSの大きさに基づいて動的に適応される。
【0069】
【0070】
図10は、ブロック図の形式で補正シーケンス制御モジュールの第2の実施の形態の操作原理を示す。
【0071】
本発明の好ましい実施の形態によると、分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置1は、任意の近似制約行列の複雑性を動的に適応させるために構成される近似制約行列更新モジュール14を含む。
【0072】
本発明の好ましい実施の形態において、近似制約行列更新モジュール14は、周波数領域制御信号FCSの大きさに応じて、近似制約行列ACMの複雑性を動的に適応させるために構成される。
【0073】
本発明の好ましい実施の形態において、近似制約行列更新モジュール14は、周波数領域制御信号FCSの閾値を越える変化に応じて、近似制約行列ACMの複雑性を大きくするために構成される。
【0074】
任意に設計されるとき、提案された方法のために、制約ウィンドウの近似もフレームオーバーラップも明記されていないことを強調しなければならない。更に、それぞれのブロックFB.1、FB.2、FB.B(その後で補正シーケンスCSがそれぞれのフィルタブロックで適用された適応シーケンスASの数)について補正シーケンスCSの間の制約行列とフレーム間隔の異なる近似を使用することさえ可能である。これらのパラメータは、図12に示される、例えば、正規化平均二乗誤差(NMSE)のように、例えば、エコー経路変化探知器16(EPC探知器)又は周波数領域制御信号FCSの大きさに応じて、オンラインで変更しうる。
【0075】
本発明は、ほぼすべての設計パラメータ、すなわち、近似制約行列ACM、フレームオーバーラップ、補正の順序及びそれぞれのブロックのための補正の間の異なる間隔に関して、柔軟に提供される。さらに、固定されたフレームオーバーラップのために、他の設計パラメータのすべてが、適応アルゴリズムを再構成することなく、オンラインで変更しうる。これは、アルゴリズムの複雑性とPBFDAF装置の収束速度との間のトレードオフを制御できる。しかしながら、アルゴリズムの複雑性は、近似制御行列ACMの設計とそれぞれのブロックのための補正スキームとの両方ともに高く依存するだろう。
【0076】
図11は、周波数領域において時間領域ウィンドウ及びそれらに対応する制約行列の例を提供する。図11(a)は制約行列FCMを示し、一方、図11(b)及び図11(c)は、制約行列FCMよりも低い複雑性を有する近似制約行列ACMをそれぞれ示す。グレースケールの値は、それぞれの行列の要素の値に対応する。
【0077】
図12は、概略図において、本発明による時間領域入力信号ISのエコー信号ESをキャンセルするための装置の第1の実施の形態を示す。装置16は分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置1を含み、分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置1は、
フィルタリングされた信号FSを生成するために、複数のフィルタ係数ブロックFB.1、FB.2、FB.Bから成るフィルタ係数のセットに応じて、時間領域入力信号ISの周波数領域表現FDSをフィルタ処理するために構成される周波数領域適応フィルタ2と、
フィルタリングされた信号FSをエコー信号ESの時間領域における推定を表す推定エコー信号EESに変換するために構成される、周波数領域から時間領域へのコンバータ8と、
エコー信号ESを含む処理対象信号STPから推定エコー信号EESを減算することによって出力信号OSを生成するための減算モジュール9と、
複数の平行に配置されたフィルタ更新ブロック3.1、3.2、3.Bであって、それぞれのフィルタ更新ブロック3.1、3.2、3.Bは、周波数領域表現信号FDSのブロックBFDS.1、BFDS.2、BFDS.Bと、フィルタリングされた信号FSの表現を含む周波数領域制御信号FCSとの循環相関によって集められた更新信号US.1、US.2、US.Bに基づいてフィルタ係数ブロックFB.1、FB.2、FB.Bのうち1つを更新するために構成されるフィルタ更新ブロック3.1、3.2、3.Bとを含み、
それぞれのフィルタ更新ブロック3.1、3.2、3.Bは、
制約行列FCMよりも複雑性の低い近似制約行列ACMをそれぞれのフィルタ係数ブロックのフィルタ係数のための未制約勾配更新に適用することによって、それぞれのフィルタ係数ブロックFB.1、FB.2、FB.Bのフィルタ係数について、制約勾配更新の近似CU.1、CU.2、CU.Bを計算するステップであって、未制約勾配更新は、更新信号US.1、US.2、US.Bから導出されるステップと、
未制約勾配更新に近似制約行列ACMを適用することによって、未制約勾配にもたらされる累積誤差CE.1、CE.2、CE.Bを計算するステップと、
を含む適応シーケンスASを実行するために構成される適応モジュール4.1、4.2、4.Bを備え、
それぞれのフィルタ更新ブロック3.1、3.2、3.Bは、
制約勾配更新の近似CU.1、CU.2、CU.Bと累積誤差CE.1、CE.2、CE.Bとの合計に周波数領域制約行列FCMを適用することによって、それぞれのフィルタ係数ブロックFB.1、FB.2、FB.Bのフィルタ係数について、補正された制約勾配更新CCU.1、CCU.2、CCU.Bを計算するステップ、
を含む補正シーケンスCSを実行するために構成される補正モジュール5.1、5.2、5.Bを備える。
【0078】
図12の分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置1は、上述した分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置1と同じである。図12の例において、遠端音声を含むエコー音信号SESは、入力信号ISが供給されるラウドスピーカーLSによって生成される。マイクロフォンMIは、近端音声と背景雑音とを備えうる希望音信号SWSと同様に、エコー音信号SESを取得して、処理対象信号STPは、エコー音信号SESに基づくエコー信号ESと、希望信号SWSに基づく希望信号WSとを備える。推定されたエコー信号EESは、処理対象信号STPから減算されるときに、エコー信号ESは、出力信号OSで効果的にキャンセルされる。
【0079】
説明された実施の形態の装置及び方法に関して、以下の事項を述べなければならない。すなわち、
いくつかの態様が、装置の文脈で述べられているけれども、これらの態様は、対応する方法の説明も示すことは明らかであり、ブロック又は装置が、方法ステップ又は方法ステップの特徴に対応する。同様に、方法ステップの文脈に説明された態様も、対応するブロック又はアイテムの説明、又は対応する装置の特徴の説明も示す。
【0080】
特定の実装要求に応じて、本発明の実施の形態は、ハードウェアにおいて、又は、ソフトウェアにおいて実装しうる。実装は、それぞれの方法が実行されるように、プログラム可能なコンピュータシステムと協働する(又は協働することができる)保存された電気的に読み込み可能な制御信号を有する、デジタル記録媒体、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、DVD、CD、ROM、PROM、EPROM、EEPROM(登録商標)又はFLASHメモリを使用して実行しうる。
【0081】
本発明によるいくつかの実施の形態は、本願明細書において説明された方法の1つが実行されるように、プログラム可能なコンピュータシステムと協働することができる電気的に読み込み可能な制御信号を有するデータ記録媒体を含む。
【0082】
一般的に、本発明の実施の形態は、プログラムコードを有するコンピュータプログラム製品として実装しうり、コンピュータプログラム製品がコンピュータ上で動くときに、プログラムコードは、方法の1つを実行するために動作する。プログラムコードは、例えば、機械読み取り可能な媒体に保存されうる。
【0083】
他の実施の形態は、本願明細書において説明される方法の1つを実行するためのコンピュータプログラムを含み、機械読み取り可能な媒体、又は、非一時的記憶媒体に保存される。
【0084】
言い換えれば、本発明の方法の実施の形態は、したがって、コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行するときに、本願明細書において説明される方法の1つを実行するためのプログラムコードを有するコンピュータプログラムである。
【0085】
本発明の方法の別の実施形態は、したがって、そこに記録され、本願明細書において説明される方法の1つを実行するためのコンピュータプログラムを含むデータ記録媒体(又はデジタル記憶媒体、又はコンピュータ読み取り可能な媒体)である。
【0086】
本発明の方法の別の実施形態は、したがって、本願明細書において説明される方法の1つを実行するためのコンピュータプログラムを表すデータストリーム又は一連の信号である。例えば、データストリーム又は一連の信号は、データ通信接続を経て、例えばインターネットを経て、送信されるよう構成しうる。
【0087】
別の実施の形態は、本願明細書において説明される方法の1つを実行するように構成、又は、適合された、例えばコンピュータのような処理手段、又は、プログラム可能な論理装置、特にハードウェアを含むプロセッサを含む。
【0088】
別の実施の形態は、本願明細書において説明される方法の1つを実行するためのコンピュータプログラムがインストールされるコンピュータを含む。
【0089】
いくつかの実施の形態では、プログラム可能な論理装置(例えば、現場でプログラム可能なゲート配列)が、本願明細書において説明される方法の機能のいくつか又は全てを実行するために使用しうる。いくつかの実施の形態では、現場でプログラム可能なゲート配列は、本願明細書において説明される方法の1つを実行するために、マイクロプロセッサーと協働できる。一般に、方法は、いかなるハードウェア装置によって、有利に実行しうる。
【0090】
この発明がいくつかの実施の形態に関して説明されているが、本発明の範囲内にある変更、置換、等化がある。実装方法や本発明の構成の多くの代わりの方法があることも留意されたい。したがって、以下の添付の特許請求の範囲は、本発明の真の精神及び範囲内に入るような変更、置換及び均等物のすべてを含むように解釈されることが意図される。
【符号の説明】
【0091】
1 分割ブロック周波数領域適応フィルタ装置
2 周波数領域適応フィルタ
3 フィルタ更新ブロック
4 適応モジュール
5 補正モジュール
6 時間領域から周波数領域へのコンバータ
7 ブロックプロセッサ
8 周波数領域から時間領域へのコンバータ
9 減算モジュール
10 時間領域から周波数領域へのコンバータ
11 循環相関モジュール
12 スイッチ
13 補正シーケンス制御モジュール
14 近似制約行列更新モジュール
15 エコー経路変化探知器
16 エコー信号をキャンセルする装置
FDS 周波数領域表現信号
IS 時間領域入力信号
FB フィルタ係数ブロック
FS フィルタリングされた信号
US 更新信号
BFDS 周波数領域表現信号のブロック
BFDS´ 周波数領域表現信号の共役ブロック
FCS 周波数領域制御信号
RFS フィルタリングされた信号の表現
CU 制約勾配更新の近似
CE 累積誤差
CCU 補正された制約勾配更新
FTS 時間領域フィルタ処理信号
STP 処理対象信号
OS 出力信号
CSC 補正スキーム
AS 適応シーケンス
CS 補正シーケンス
FCM 制約行列
ACM 近似制約行列
EES 推定エコー信号
ES エコー信号
WS 希望信号
LS ラウドスピーカー
MI マイクロフォン
【0092】
参考文献
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図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12