特許第6625237号(P6625237)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6625237測位補強装置、測位補強システムおよび測位補強方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6625237
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】測位補強装置、測位補強システムおよび測位補強方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/28 20100101AFI20191216BHJP
   G01S 19/08 20100101ALI20191216BHJP
【FI】
   G01S19/28
   G01S19/08
【請求項の数】17
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2018-548536(P2018-548536)
(86)(22)【出願日】2016年11月7日
(86)【国際出願番号】JP2016082999
(87)【国際公開番号】WO2018083803
(87)【国際公開日】20180511
【審査請求日】2019年1月16日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 「3K08 準天頂衛星システム:センチメータ級測位補強サービスの開発状況−測位衛星の選択的補強−」 JSASS−2016−4524 第60回宇宙科学技術連合講演会講演集 一般社団法人日本航空宇宙学会 平成28年(2016年)9月6日発行 一般社団法人日本航空宇宙学会 第60回宇宙科学技術連合講演会 函館アリーナ(〒042−0932 北海道函館市湯川町1丁目32−2)平成28年(2016年)9月8日発表資料
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002491
【氏名又は名称】溝井国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】宮 雅一
(72)【発明者】
【氏名】藤田 征吾
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友紀
【審査官】 田中 純
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/088654(WO,A1)
【文献】 特開2013−242316(JP,A)
【文献】 特開2012−093362(JP,A)
【文献】 特表2004−502135(JP,A)
【文献】 特開平8−327719(JP,A)
【文献】 特表2008−524596(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/068275(WO,A1)
【文献】 米国特許第5808581(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 19/00 − G01S 19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ測位信号を送信する複数の衛星の中から測位補強の対象となる衛星を選択し、前記測位補強用の補強情報を複数のエリアに配信するためのメッセージを生成する測位補強装置であって、
前記測位補強の対象となる衛星の選択において、選択候補となる衛星の集合である候補集合から選択条件を満たす部分集合を前記複数のエリアのそれぞれについて選択し、選択したエリアごとの部分集合を示す計画データをメモリに保存する計画立案部と、
座標値が既知の電子基準点で前記測位信号が前記部分集合の衛星のそれぞれについて観測された結果から求められる前記測位信号の衛星ごとの品質を前記複数のエリアのそれぞれについて示すインテグリティ情報を取得し、エリアごとに、前記測位信号の衛星ごとの品質を該当エリアについて示すインテグリティ情報に基づいて、前記計画立案部により選択された該当エリアの部分集合から前記測位信号の該当エリアの品質が品質条件を満たしていない衛星を検出し、当該部分集合において、検出した衛星を前記候補集合に含まれる別の衛星に置換することで、前記メモリに保存されている計画データを、前記測位補強の対象となる衛星の選択における前記選択条件を満たす別の部分集合を該当エリアについて示す計画データに変更する計画修正部と、
前記候補集合に含まれる衛星のうち、前記メモリに保存されている計画データが示す部分集合に含まれる衛星を前記測位補強の対象として、前記測位補強用の補強情報を前記複数のエリアに配信するためのメッセージを生成するメッセージ生成部と
を備える測位補強装置。
【請求項2】
前記計画立案部は、前記候補集合に含まれる衛星の仰角と当該衛星の配置による精度劣化とに応じて、前記選択条件を満たす部分集合を選択する請求項1に記載の測位補強装置。
【請求項3】
前記計画立案部は、前記候補集合から仰角が閾値以上の衛星を選択する第1処理の後、次の衛星を選択しても、選択した衛星の集合が前記選択条件を満たす場合に限り、前記候補集合から、選択した衛星の配置による精度劣化を小さくする衛星を選択する第2処理を繰り返すことで、前記選択条件を満たす部分集合を選択する請求項2に記載の測位補強装置。
【請求項4】
前記計画立案部は、複数の第2単位時間からなる第1単位時間ごとに、前記選択条件を満たす部分集合として、第2単位時間ごとの部分集合を選択する請求項3に記載の測位補強装置。
【請求項5】
前記計画立案部は、前記第2処理の開始時点で、同じ第1単位時間における、選択した衛星の配置による精度劣化が最大の第2単位時間であるピーク時間に対し、前記第2処理として、前記候補集合から、選択した衛星の配置による精度劣化を最小にする衛星を選択する処理を行うとともに、前記ピーク時間に続く1つ以上の第2単位時間に対し、前記第2処理と同じ衛星を選択する第3処理を行う請求項4に記載の測位補強装置。
【請求項6】
前記計画立案部は、前記複数のエリアのそれぞれに対し、前記第1処理を行い、前記第2処理の開始時点で、同じ第1単位時間における、選択した衛星の配置による精度劣化が最大の第2単位時間およびエリアの組み合わせに対し、前記第2処理として、前記候補集合から、選択した衛星の配置による精度劣化を最小にする衛星を選択する処理を行う請求項4または5に記載の測位補強装置。
【請求項7】
前記選択条件には、前記計画データが示す各エリアの部分集合に含まれる衛星の総数の条件と、前記計画データが示す全エリアの部分集合の和集合に含まれる衛星の総数の条件とが含まれている請求項6に記載の測位補強装置。
【請求項8】
前記計画立案部は、前記複数のエリアのそれぞれについて、前記選択条件を満たす部分集合を選択し、
前記計画修正部は、前記計画立案部により選択された全エリアの部分集合の和集合に含まれる衛星を前記候補集合に含まれる残りの衛星よりも優先して、前記別の衛星を選択する請求項1に記載の測位補強装置。
【請求項9】
前記計画立案部は、前記選択条件を満たす部分集合として、複数の第3単位時間からなる第2単位時間ごとの部分集合を選択し、
前記計画修正部は、第3単位時間ごとに、前記インテグリティ情報を取得し、前記インテグリティ情報に基づいて、前記計画立案部により選択された、対応する第2単位時間の1つのエリアの部分集合から前記測位信号の品質が前記品質条件を満たしていない衛星を検出した場合、前記インテグリティ情報に基づいて、検出した衛星よりも前記測位信号の品質が高い衛星が、前記計画立案部により選択された、対応する第2単位時間の全エリアの部分集合の和集合に含まれているかどうかを判定し、当該和集合に含まれていれば、当該1つのエリアの部分集合において、検出した衛星を当該和集合に含まれる当該品質が高い衛星に置換する請求項8に記載の測位補強装置。
【請求項10】
前記計画修正部は、前記計画立案部により選択された、対応する第2単位時間の1つのエリアの部分集合から前記測位信号の品質が前記品質条件を満たしていない衛星を検出した場合、検出した衛星よりも前記測位信号の品質が高い衛星が、前記計画立案部により選択された、対応する第2単位時間の全エリアの部分集合の和集合に含まれていなければ、前記インテグリティ情報に基づいて、検出した衛星よりも前記測位信号の品質が高い衛星が、前記候補集合に含まれているかどうかを判定し、前記候補集合に含まれていれば、次の第2単位時間の少なくとも当該1つのエリアの部分集合において、検出した衛星を前記候補集合に含まれる当該品質が高い衛星に置換する請求項9に記載の測位補強装置。
【請求項11】
前記計画修正部は、検出した衛星よりも前記測位信号の品質が高い衛星が1つの集合に含まれているかどうかを判定する際に、検出した衛星よりも前記測位信号の全エリアの品質が高い衛星が当該1つの集合に含まれている場合に、当該品質が高い衛星が当該1つの集合に含まれていると判定する請求項9または10に記載の測位補強装置。
【請求項12】
前記計画修正部は、1つの第2単位時間の部分集合において、検出した衛星を前記別の衛星に置換する際に、当該1つの第2単位時間に続く1つ以上の第2単位時間の部分集合に含まれる同じ衛星を前記別の衛星に置換する請求項9から11のいずれか1項に記載の測位補強装置。
【請求項13】
前記メッセージ生成部は、前記補強情報を配信する衛星に、前記メッセージを送信する請求項1から12のいずれか1項に記載の測位補強装置。
【請求項14】
各衛星の運用状態を示す運用情報を取得し、前記運用情報に基づいて、前記候補集合を決定する候補決定部をさらに備える請求項1から13のいずれか1項に記載の測位補強装置。
【請求項15】
前記計画立案部により選択された部分集合に含まれる衛星の配置による精度劣化を評価し、評価結果を運用者に通知する評価通知部をさらに備える請求項1から14のいずれか1項に記載の測位補強装置。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか1項に記載の測位補強装置と、
前記補強情報を配信する衛星と
を備える測位補強システム。
【請求項17】
それぞれ測位信号を送信する複数の衛星の中から測位補強の対象となる衛星を選択し、前記測位補強用の補強情報を複数のエリアに配信するためのメッセージを生成する測位補強方法であって、
計画立案部が、前記測位補強の対象となる衛星の選択において、選択候補となる衛星の集合である候補集合から選択条件を満たす部分集合を前記複数のエリアのそれぞれについて選択し、選択したエリアごとの部分集合を示す計画データをメモリに保存し、
計画修正部が、座標値が既知の電子基準点で前記測位信号が前記部分集合の衛星のそれぞれについて観測された結果から求められる前記測位信号の衛星ごとの品質を前記複数のエリアのそれぞれについて示すインテグリティ情報を取得し、エリアごとに、前記測位信号の衛星ごとの品質を該当エリアについて示すインテグリティ情報に基づいて、前記計画立案部により選択された該当エリアの部分集合から前記測位信号の該当エリアの品質が品質条件を満たしていない衛星を検出し、当該部分集合において、検出した衛星を前記候補集合に含まれる別の衛星に置換することで、前記メモリに保存されている計画データを、前記測位補強の対象となる衛星の選択における前記選択条件を満たす別の部分集合を該当エリアについて示す計画データに変更し、
メッセージ生成部が、前記候補集合に含まれる衛星のうち、前記メモリに保存されている計画データが示す部分集合に含まれる衛星を前記測位補強の対象として、前記測位補強用の補強情報を前記複数のエリアに配信するためのメッセージを生成する測位補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測位補強装置、測位補強システムおよび測位補強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、衛星を用いた測位では、衛星と受信機との間の距離観測値の品質が良い、加えて、利用できる衛星の数が多いほど、品質の良い測位結果を得ることができる。近年では、ユーザの距離観測値の品質を向上させるため、座標値が既知の基準局の距離観測値を用いて、衛星クロック誤差、軌道誤差、信号間バイアス、電離層遅延および対流圏遅延といった要因別の誤差状態の全部あるいは一部を推定し、補強情報として提供する方式が実用化されている。日本においても、高精度測位を広く利用可能とするため、補強情報を準天頂衛星から送信する研究が行われてきた。
【0003】
近年では、世界各国で衛星測位システムの整備と性能向上とが行われている。米国のGPS、および、ロシアのGLONASSの衛星システムと地上システムとの近代化に加え、欧州のGalileo、中国のBeidou、および、インドのIRNSSの整備が行われている。日本では、2010年に準天頂衛星1号機が打ち上げられ、2018年に4機体制、2023年を目途に7機体制のQZSSが構築されることが決定している。これらを合わせると、2020年代には、一般に利用できる測位衛星の数が100機を超えることが予想され、前述の誤差補正による高精度化と相まって、衛星測位の利便性は益々向上していくことが期待される。ここで、「GPS」は、Global Positioning Systemの略語である。「GLONASS」は、Global Navigation Satellite Systemの略語である。「IRNSS」は、Indian Regional Navigational Satellite Systemの略語である。「QZSS」は、Quasi−Zenith Satellite Systemの略語である。GPS、GLONASS、GalileoおよびQZSSといった衛星測位システムを総称してGNSSという。「GNSS」は、Global Navigation Satellite Systemの略語である。
【0004】
特許文献1には、衛星測位システムを利用した列車位置検知システムに関する技術が開示されている。この技術では、列車の沿線上に基準局が設置される。基準局は、マルチパス誤差の影響が少ない衛星を判定する。基準局は、判定結果を近くの列車に伝送する。列車の車上装置は、基準局でマルチパス誤差が小さい衛星を優先的に利用してGPS位置算出を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−163118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
4機体制のQZSSの実用サービスの1つとして、CLASと呼ばれる、L6信号を用いたセンチメータ級測位補強サービスの開発が進められている。「CLAS」は、Centimeter Level Augmentation Serviceの略語である。CLASでは、日本全国で1分以内のTTFFでのセンチメータ級測位を可能とする補強情報が準天頂衛星から送信される。「TTFF」は、Time To First Ambiguity Fixの略語である。CLASでは、具体的には、静止水平精度6cm(95%)以下、静止垂直精度12cm(95%)以下、移動体水平精度12cm(95%)以下、および、移動体垂直精度24cm(95%)以下の測位が可能となる。このような高精度かつ利便性が高い測位を可能とするための、1測位衛星の補強に必要なデータ量は多い。しかし、準天頂衛星のL6信号のビットレートは、1695bpsである。よって、マルチGNSS化により利用可能な測位衛星が増加しても、ビットレートの制約のため、すべての測位衛星の補強情報を送信することができない。そこで、すべての可視の測位衛星を一様に補強するのではなく、補強対象とする衛星を選択し、選択した衛星を補強することが考えられる。
【0007】
特許文献1に開示されている技術では、列車での測位に利用される衛星が、その列車の沿線上に設置された基準局によって選択される。このような方法は、列車の沿線という狭い範囲でなく、比較的広い範囲に配信される補強情報の量を低減させるために、補強対象とする衛星を選択する方法としては適用できない。
【0008】
本発明は、各衛星からの測位信号の品質に応じて、補強対象とする衛星を精選することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る測位補強装置は、
選択候補となる衛星の集合である候補集合から選択条件を満たす部分集合を選択し、選択した部分集合を示す計画データをメモリに保存する計画立案部と、
各衛星から送信される測位信号の品質を示すインテグリティ情報を取得し、前記インテグリティ情報に基づいて、前記計画立案部により選択された部分集合から前記測位信号の品質が品質条件を満たしていない衛星を検出し、当該部分集合において、検出した衛星を前記候補集合に含まれる別の衛星に置換することで、前記メモリに保存されている計画データを、前記選択条件を満たす別の部分集合を示す計画データに変更する計画修正部と、
前記候補集合に含まれる衛星のうち、前記メモリに保存されている計画データが示す部分集合に含まれる衛星を測位補強の対象として、前記測位補強に利用される補強情報を配信するためのメッセージを生成するメッセージ生成部とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、補強対象として事前に選択された衛星の集合から、測位信号の品質が品質条件を満たしていない衛星が検出され、検出された衛星が別の衛星に置換されることで、補強対象とする衛星の集合が変更される。よって、本発明によれば、各衛星からの測位信号の品質に応じて、補強対象とする衛星を精選することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1に係るシステムの構成を示す図。
図2】実施の形態1に係る補強情報のコンテンツを示す図。
図3】実施の形態1に係るCompact SSRのSub Typeを示す表。
図4】実施の形態1に係る測位補強装置の構成を示すブロック図。
図5】実施の形態1に係る衛星選択の処理の擬似コード。
図6】実施の形態1に係る計画立案の処理手順を示すフローチャート。
図7】実施の形態1に係る計画立案の処理の擬似コード。
図8】実施の形態1に係る継ぎ代調整の概念を示す図。
図9】実施の形態1に係る継ぎ代調整の概念を示す図。
図10】実施の形態1に係る、衛星をエポックに追加で割り当てる条件を示す表。
図11】実施の形態1に係る共通衛星内修正の処理手順を示すフローチャート。
図12】実施の形態1に係る共通衛星内修正の処理の擬似コード。
図13】実施の形態1に係る共通衛星修正の処理手順を示すフローチャート。
図14】実施の形態1に係る共通衛星修正の処理の擬似コード。
図15】実施の形態1の適用例に係るDOPの評価地点および離島の位置を示す図。
図16】実施の形態1の適用例に係るHDOPの統計値を示すグラフ。
図17】実施の形態1の適用例に係るVDOPの統計値を示すグラフ。
図18】実施の形態1の適用例に係るHDOPの統計値を示すグラフ。
図19】実施の形態1の適用例に係るVDOPの統計値を示すグラフ。
図20】実施の形態1の変形例に係る測位補強装置の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図を用いて説明する。各図中、同一または相当する部分には、同一符号を付している。実施の形態の説明において、同一または相当する部分については、説明を適宜省略または簡略化する。なお、本発明は、以下に説明する実施の形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。例えば、以下に説明する実施の形態は、部分的に実施されても構わない。
【0013】
実施の形態1.
本実施の形態について、図1から図19を用いて説明する。
【0014】
***構成の説明***
図1を参照して、本実施の形態に係るシステムの構成を説明する。
【0015】
本実施の形態に係るシステムは、GPS、GLONASSおよびGalileoのうちいずれかのGNSSに属し、それぞれ測位信号11を送信する複数の衛星10と、日本各地に設置され、それぞれ観測データ21を送信する複数の電子基準点20と、日本全国にCLASを提供する測位補強システム30とを備える。なお、一部または全部の衛星10が、BeidouまたはIRNSSといった上記以外の衛星測位システムに属していてもよい。一部または全部の電子基準点20が、日本以外に設置されていてもよい。測位補強システム30が、日本以外の国または地域にCLASと同等のセンチメータ級測位補強サービスを提供していてもよい。
【0016】
測位補強システム30は、測位補強装置40と、地上局50と、準天頂衛星60とを備える。測位補強装置40は、測位補強に利用される補強情報を配信するためのメッセージ41を地上局50に送信する。地上局50は、測位補強装置40からメッセージ41を受信し、メッセージ41をアップリンク信号51に載せて準天頂衛星60に送信する。準天頂衛星60は、地上局50からアップリンク信号51を受信し、アップリンク信号51に含まれるメッセージ41をL6信号61に載せて送信することで、補強情報を配信する。なお、地上局50が、測位補強装置40に統合されてもよい。準天頂衛星60の代わりに、他の種類の衛星、または、地上に設置された装置が、補強情報を配信してもよい。準天頂衛星60が、衛星10を兼ねてもよい。
【0017】
CLASは、準天頂衛星60のL6信号61を用いて、測位補強サービスのデファクトスタンダードであるRTCM SC−104におけるRTK−PPPに対応する補強情報を日本の領土および領海に送信するサービスである。「RTCM」は、「Radio Technical Commission for Maritime Services」の略語である。「RTK−PPP」は、Real Time Kinematic Precise Point Positioningの略語である。測位補強装置40は、日本の測地系に整合する位置情報を移動体31の搭載機器等によってユーザが得られるよう、国土地理院のGNSS連続観測システムで得られる、多周波の擬似距離および搬送波位相の観測データ21と、公開される各電子基準点20の位置情報とを用いて、補強情報を生成する。補強情報には、衛星クロック誤差、衛星軌道誤差、衛星信号間バイアス、電離層遅延および対流圏遅延の情報が含まれる。衛星信号間バイアスの情報としては、ユーザ側で整数アンビギュイティのリカバリが可能な情報が含まれる。電離層遅延の情報としては、視線方向の総電子数であるSTECが衛星10ごとに含まれる。「STEC」は、Slant TECの略語である。「TEC」は、Total Electron Contentの略語である。対流圏遅延の情報としては、乾燥および湿潤のそれぞれについて、垂直方向の遅延の情報が含まれる。補強情報は、ユーザが補強情報の受信開始から1分以内にセンチメータ級測位が行えるよう、設計されている。「1分」の内訳は、受信に30秒、アンビギュイティの整数化に30秒である。補強情報を含むメッセージ41の形式は、任意の形式でよいが、本実施の形態では、RTCM STANDARDS 10403.x section 3.5.12のSSRメッセージを、衛星送信向けにコンパクト化したCompact SSRメッセージに準じている。Compact SSRは、Type 4073に該当する。
【0018】
補強情報のコンテンツを図2に示す。補強情報は、30秒分を1つのメインフレーム62、5秒ごとの固まりをサブフレーム63として構成される。図3に示すように、各サブフレーム63のコンテンツに対応するメッセージは、Compact SSRのSub Typeから構成される。時間的な変動が速い衛星クロック誤差のメッセージ(Sub Type 3)は、5秒周期で送信される。その他の誤差要因のメッセージ(Sub Type 2、Sub Type 6、Sub Type 8およびSub Type 9、または、Sub Type 2、Sub Type 4、Sub Type 5、Sub Type 8およびSub Type 9)は、30秒周期で送信される。ユーザの場所により異なる電離層遅延(Sub Type 8およびSub Type 9の一部)と対流圏遅延(Sub Type 9の別の一部)は、ユーザが最新の状態の情報を得られるよう、日本全国を12のエリアと9つの離島とに分け、2エリアずつ、5秒ずつ時刻をずらして送信される。9つの離島は、6つのサブフレーム63に割り振られる。電離層については、日本全国に約50km間隔で定義されたグリッドでの衛星ごとの視線方向の電離層遅延の情報が、エリアごとの多項式(Sub Type 8)と各グリッドでの多項式からの残差(Sub Type 9の一部)とに分けて送信される。離島も含むグリッドの総数Ngridは、344である。対流圏については、電離層と同じグリッドでの垂直方向の乾燥および湿潤の遅延量の情報(Sub Type 9の別の一部)が送信される。Sub Type 2からSub Type 9の各情報のビット数は、ユーザが図3に示す1通りのメッセージを受信完了後、30秒以内にアンビギュイティを整数化できる精度を維持するために必要な数値分解能と、数値範囲とを反映している。
【0019】
衛星10の可視状況は、場所により異なる。よって、前述の12エリアと9離島とのそれぞれについて、STECを補正する衛星10の組み合わせが変えられ、それらの和集合が、メインフレーム62ごとに衛星起因の誤差を補正する共通衛星となる。各エリアまたは各離島の衛星数はMsat、共通衛星の衛星数はNsatと表記する。衛星10の番号の対応付けを行うSub Type 1が5秒周期で、Sub Type 7が30秒周期で送信されるものとし、以下に合計のビット数を示す。可変の項として、Sub Type 2は49ビットを、Sub Type 8は54ビットを、Sub Type 9は12エリアのグリッドは7ビット、9つの離島は16ビットを用いるとする。Sub Type 8はエリアごとに必要であること、Sub Type 9はエリアごとおよび離島ごとに必要であることより、30秒ごとの合計のビット数は次式で表わされる。
{49+(61+Nsat*Nsig)*Nsys}*6+ :Sub Type 1
37+49*Nsat+ :Sub Type 2
{37+15*Nsat}*6+ :Sub Type 3
37+28*Nsig*Nsat+ :Sub Type 6
37+6*Nsat+ :Sub Type 7
{44+Nsat+54*Nsat}*12+ :Sub Type 8
{57+Nsat}*(12+9)+ :Sub Type 9のヘッダ
(17+7*Msat)*(Ngrid−9)+(17+16*Msat)*9 :SubType 9のデータ
なお、Sub Type 10は無視している。Nsigは周波の異なる信号数、NsysはGNSS数である。3周波、かつ、GPS、QZSS、GLONASSおよびGalileoの補強、すなわち、Nsig=3かつNsys=4を前提とすると、例えば、Nsat=14かつMsat=11とすることで合計が48847ビットとなり、30秒分の最大ビット数である50850ビット(=1695×30)以下となる。30秒分の最大ビット数に対する合計ビット数の余裕は、サブフレーム63間でメッセージを跨がないことと、Sub Type 10による非定常な情報提供の考慮による。
【0020】
図4を参照して、本実施の形態に係る測位補強装置40の構成を説明する。
【0021】
測位補強装置40は、コンピュータである。測位補強装置40は、プロセッサ71を備えるとともに、メモリ72、レシーバ73およびトランスミッタ74といった他のハードウェアを備える。プロセッサ71は、信号線を介して他のハードウェアと接続され、これら他のハードウェアを制御する。
【0022】
測位補強装置40は、機能要素として、誤差状態推定部81と、インテグリティ情報生成部82と、候補決定部83と、計画立案部84と、計画修正部85と、評価通知部86と、メッセージ生成部87とを備える。誤差状態推定部81、インテグリティ情報生成部82、候補決定部83、計画立案部84、計画修正部85、評価通知部86およびメッセージ生成部87の機能は、ソフトウェアにより実現される。
【0023】
プロセッサ71は、各種処理を行うICである。「IC」は、Integrated Circuitの略語である。プロセッサ71は、例えば、CPUである。「CPU」は、Central Processing Unitの略語である。
【0024】
メモリ72は、後述する計画データ43等のデータを記憶する媒体である。メモリ72は、例えば、フラッシュメモリまたはRAMである。「RAM」は、Random Access Memoryの略語である。
【0025】
レシーバ73は、前述した観測データ21、および、後述する軌道情報12等のデータを受信するデバイスである。トランスミッタ74は、前述したメッセージ41、および、後述するアラート42等のデータを送信するデバイスである。レシーバ73とトランスミッタ74は、統合されていてもよい。レシーバ73およびトランスミッタ74、または、これらの組み合わせは、例えば、通信チップまたはNICである。「NIC」は、Network Interface Cardの略語である。
【0026】
測位補強装置40は、ハードウェアとして、入力装置およびディスプレイを備えていてもよい。入力装置は、例えば、マウス、キーボードまたはタッチパネルである。ディスプレイは、例えば、LCDである。「LCD」は、Liquid Crystal Displayの略語である。
【0027】
メモリ72には、誤差状態推定部81、インテグリティ情報生成部82、候補決定部83、計画立案部84、計画修正部85、評価通知部86およびメッセージ生成部87の機能を実現するプログラムである測位補強プログラムが記憶されている。測位補強プログラムは、プロセッサ71に読み込まれ、プロセッサ71によって実行される。メモリ72には、OSも記憶されている。「OS」は、Operating Systemの略語である。プロセッサ71は、OSを実行しながら、測位補強プログラムを実行する。なお、測位補強プログラムの一部または全部がOSに組み込まれていてもよい。
【0028】
測位補強プログラムおよびOSは、補助記憶装置に記憶されていてもよい。補助記憶装置は、例えば、フラッシュメモリまたはHDDである。「HDD」は、Hard Disk Driveの略語である。補助記憶装置に記憶されている測位補強プログラムおよびOSは、メモリ72にロードされ、プロセッサ71によって実行される。
【0029】
測位補強装置40は、プロセッサ71を代替する複数のプロセッサを備えていてもよい。これら複数のプロセッサは、測位補強プログラムの実行を分担する。それぞれのプロセッサは、プロセッサ71と同じように、各種処理を行うICである。
【0030】
誤差状態推定部81、インテグリティ情報生成部82、候補決定部83、計画立案部84、計画修正部85、評価通知部86およびメッセージ生成部87の処理の結果を示す情報、データ、信号値および変数値は、メモリ72、補助記憶装置、または、プロセッサ71内のレジスタまたはキャッシュメモリに記憶される。
【0031】
測位補強プログラムは、磁気ディスクおよび光ディスクといった可搬記録媒体に記憶されてもよい。
【0032】
***動作の説明***
図4を参照して、本実施の形態に係る測位補強装置40の動作を説明する。測位補強装置40の動作は、本実施の形態に係る測位補強方法に相当する。
【0033】
誤差状態推定部81は、第4単位時間ごとに、レシーバ73を介して、複数の電子基準点20から観測データ21を受信する。第4単位時間は、任意の単位時間でよいが、本実施の形態では1秒である。誤差状態推定部81は、受信した観測データ21から、各衛星10から送信される測位信号11の誤差状態を推定する。誤差状態推定部81は、第3単位時間ごとに、推定結果を出力する。第3単位時間は、第4単位時間以上であれば、任意の単位時間でよいが、本実施の形態ではサブフレーム63と同じ時間、すなわち、5秒である。
【0034】
インテグリティ情報生成部82は、誤差状態推定部81より出力された推定結果からインテグリティ情報を生成する。インテグリティ情報は、各衛星10から送信される測位信号11の品質を示す情報である。インテグリティ情報生成部82は、第3単位時間ごとに、生成したインテグリティ情報を出力する。
【0035】
候補決定部83は、任意の単位時間ごとに、レシーバ73を介して、各衛星10またはインターネット上のサーバからアルマナックおよびエフェメリスといった軌道情報12を受信する。軌道情報12には、各衛星10の運用状態を示す運用情報が含まれている。すなわち、候補決定部83は、運用情報を取得する。候補決定部83は、運用情報に基づいて、選択候補となる衛星10の集合である候補集合を決定する。具体的には、候補決定部83は、運用情報で、ある衛星10がunhealthyな状態であることが示されている場合、その衛星10を候補集合から排除する。また、候補決定部83は、運用情報で、ある衛星10が打ち上げから数日または数十日しか経っていないこと等から不安定な状態であることが示されている場合、その衛星10を候補集合から排除する。
【0036】
計画立案部84は、候補決定部83により決定された候補集合から選択条件を満たす部分集合を選択する。計画立案部84は、選択した部分集合を示す計画データ43をメモリ72に保存する。なお、候補集合は、候補決定部83により決定されたものでなくてもよく、例えば、測位補強装置40の外部で決定されたもの、または、あらかじめ固定されたものであってもよい。すなわち、測位補強装置40は、候補決定部83を備えていなくてもよい。
【0037】
本実施の形態において、計画立案部84は、候補集合に含まれる衛星10の仰角と当該衛星10の配置による精度劣化とに応じて、選択条件を満たす部分集合を選択する。
【0038】
また、本実施の形態において、計画立案部84は、複数の第2単位時間からなる第1単位時間ごとに、選択条件を満たす部分集合として、第2単位時間ごとの部分集合を選択する。第2単位時間は、第3単位時間以上であれば、任意の単位時間でよいが、本実施の形態ではメインフレーム62と同じ時間、すなわち、30秒である。第1単位時間は、第2単位時間よりも長ければ、任意の単位時間でよいが、本実施の形態では1時間である。
【0039】
また、本実施の形態において、計画立案部84は、補強情報が配信される複数のエリアのそれぞれについて、選択条件を満たす部分集合を選択する。それぞれのエリアは、任意のエリアでよいが、本実施の形態では前述した12のエリアである。
【0040】
計画修正部85は、インテグリティ情報生成部82からインテグリティ情報を取得する。計画修正部85は、取得したインテグリティ情報に基づいて、計画立案部84により選択された部分集合から測位信号11の品質が品質条件を満たしていない衛星10を検出する。そのような衛星10を検出した場合、計画修正部85は、当該部分集合において、検出した衛星10を候補集合に含まれる別の衛星10に置換することで、メモリ72に保存されている計画データ43を、選択条件を満たす別の部分集合を示す計画データ43に変更する。なお、インテグリティ情報は、インテグリティ情報生成部82により生成されたものでなくてもよく、例えば、測位補強装置40の外部で生成されたものであってもよい。すなわち、測位補強装置40は、誤差状態推定部81およびインテグリティ情報生成部82を備えていなくてもよい。
【0041】
本実施の形態において、計画修正部85は、計画立案部84により選択された全エリアの部分集合の和集合に含まれる衛星10を候補集合に含まれる残りの衛星10よりも優先して、上記別の衛星10を選択する。
【0042】
メッセージ生成部87は、候補集合に含まれる衛星10のうち、メモリ72に保存されている計画データ43が示す部分集合に含まれる衛星10を測位補強の対象として、その測位補強に利用される補強情報を配信するためのメッセージ41を生成する。
【0043】
本実施の形態において、メッセージ生成部87は、トランスミッタ74を介して、準天頂衛星60に、地上局50経由でメッセージ41を送信する。なお、メッセージ生成部87は、準天頂衛星60に、直接メッセージ41を送信してもよい。
【0044】
評価通知部86は、計画立案部84により選択された部分集合に含まれる衛星10の配置による精度劣化を評価する。評価通知部86は、評価結果を運用者に通知する。
【0045】
本実施の形態において、評価通知部86は、エリアごとに、計画立案部84により選択された部分集合に含まれる衛星10のPDOPの、第1単位時間における平均値を計算する。「PDOP」は、Position DOPの略語である。「DOP」は、Dilution of Precisionの略語である。いずれかのエリアの部分集合について計算した平均値が上限値を超えていれば、評価通知部86は、トランスミッタ74を介して、運用者に、そのエリアを識別するIDと、PDOPの計算結果、および、PDOPが異常値であることの少なくともいずれかとを示すアラート42を送信する。「ID」は、Identifierの略語である。運用者は、アラート42の内容に基づいて、候補集合またはインテグリティ情報を手動で変更することにより、衛星選択の適正化を図ることができる。
【0046】
図5から図14を参照して、本実施の形態に係る測位補強装置40の動作をさらに説明する。
【0047】
衛星10の組み合わせの計画は、軌道情報12を用いた幾何学的配置を評価指標として準リアルタイムで計画立案部84により立案される。この計画に対して、リアルタイムで得られる衛星10およびエリアの組み合わせごとのインテグリティ情報が計画修正部85により反映され、衛星10の組み合わせが30秒のメインフレーム62ごとに決定される。インテグリティ情報は、各衛星10の誤差補正後の観測値の品質情報であり、測距精度を評価したものである。誤差状態の推定とインテグリティ情報の生成は、補強対象となる衛星10の組み合わせによらず誤差状態推定部81およびインテグリティ情報生成部82によりそれぞれ行われる。決定された組み合わせに含まれる衛星10の誤差状態とインテグリティ情報とがメッセージ生成部87により抽出され、補強情報として送信される。なお、CLASのアベイラビリティ確保のため、4機体制では複数の準天頂衛星60が同じ補強情報を送信する。
【0048】
図5に、衛星選択の処理の擬似コードを示す。衛星選択の処理は、補強情報のサブフレーム63を生成する5秒ごとに呼び出される。衛星選択の処理では、計画に従い、衛星起因の誤差を補正する共通衛星の組み合わせCSが決定される。エリアごとの衛星10の選択では、同エリアでの品質の条件を満たさない衛星10が計画に含まれている場合、そのエリアにおける現時刻と次時刻以降の組み合わせが、共通衛星を変えない範囲内で修正される。この処理を共通衛星内修正の処理という。共通衛星を変えない範囲で修正ができない場合、次時刻以降の計画が、共通衛星も変えて修正される。この処理を共通衛星修正の処理という。離島については、CSに含まれる衛星10のうち、品質の条件を満たす衛星10から、PDOPを最小にするMsat機の衛星10の組み合わせが選択される。品質の条件を満たす衛星10がMsat機に満たない場合は、不足分に他の衛星10が品質の良い順に割り当てられる。現時刻が、次の正時の10分前である場合、次の正時を初期時刻とした1時間分の計画が立案される。この処理を計画立案の処理という。
【0049】
計画立案の処理は、計画立案部84により実行される。共通衛星内修正および共通衛星修正の処理は、計画修正部85により実行される。
【0050】
図6から図10を参照して、計画立案の処理の詳細を説明する。
【0051】
計画立案部84は、毎正時を初期時刻とした1時間分の計画を1時間に1回、その正時の10分前の時点で得られている軌道情報12を用いて立案する。組み合わせは、前述の30秒のメインフレーム62ごとであるため、1時間あたり120時刻における組み合わせが決定される。1時刻あたり、エリアごとに異なるMsat機の組み合わせと、共通衛星であるNsat機の組み合わせとが決定される。候補決定部83によって、軌道情報12に含まれる、各GNSSのメンテナンス運用およびチェックアウト運用の情報が反映され、定常の運用状態にある衛星10のみが選択候補とされる。また、本実施の形態では、候補決定部83によって、エリアの指定の4隅での仰角が15度以上の衛星10のみが、それらエリアでの選択候補とされる。幾何学的配置を評価指標とした1時間分の計画の立案を、次の最適化問題で表わす。
【0052】
【数1】
【0053】
Tは、30秒刻みの時刻のインデックスである。Thourは、該当する1時間の初期時刻、すなわち、正時である。zGPSsv,A,T=1のときに、番号svのGPS衛星がエリアAおよび時刻Tで補強対象となる。zGalsv,A,T=1のときに、番号svのGalileo衛星がエリアAおよび時刻Tで補強対象となる。zGLOsv,A,T=1のときに、番号svのGLONASS衛星がエリアAおよび時刻Tで補強対象となる。準天頂衛星60は、互換性のため、GPS衛星に含まれる。nGPS、nGalおよびnGLOは、それぞれGPS、GalileoおよびGLONASSに含まれる衛星10の数である。評価関数Fは、各エリアAおよび各時刻Tにおける補強対象の衛星10のPDOPの、全エリアおよび全時刻での最大値を、以下の拘束条件の下で最小化する関数である。
【0054】
【数2】
【0055】
拘束条件C1は、各エリアAおよび各時刻Tで補強対象となる衛星10の総数がMsat機以下であるという選択条件である。拘束条件C2は、各時刻Tの共通衛星数がNsat機以下であるという選択条件である。拘束条件C3は、都市部等での利便性のため、PDOPによらずNhigh機以上の高仰角のGPS衛星を補強するという選択条件である。例えば、仰角40度以上のGPS衛星の集合が、高仰角のGPS衛星の集合highとして扱われる。拘束条件C4から拘束条件C6は、ユーザ側でのアンビギュイティのフィックスの計算回数を低減するため、それぞれGPS衛星、Galileo衛星およびGLONASS衛星をpminエポック以上連続して補強するという選択条件である。1エポックはメインフレーム62と同じ時間、すなわち、30秒である。例えば、pmin=10とすると、pminエポックは300秒である。T−GPSsv,A,Tは、時刻T以前の時刻で、時刻Tから数えて初めてzGPSsv,A,T=0となる直前の時刻である。T+GPSsv,A,Tは、時刻T以降の時刻で、時刻Tから数えて初めてzGPSsv,A,T=0となる直前の時刻である。ただし、時刻Tが初期時刻か終端時刻に近いとき、これらの時刻は、当該1時間の前後の1時間の時刻になる場合がある。Galileo衛星およびGLONASS衛星についても、GPS衛星と同様である。拘束条件C7は、各エリアAおよび各時刻Tで補強対象とする衛星10の数が1つのGNSSについて2機以上または0機であるという選択条件である。すなわち、拘束条件C7は、各GNSSについて補強対象とする衛星10の数を1機のみとはしないという選択条件である。これでユーザが同じGNSSの衛星10間で一重差計算を行えるようにする。拘束条件C8から拘束条件C10は、選択候補の衛星10のみから補強対象となる衛星10を選択するという選択条件である。本実施の形態では、候補決定部83により決定された候補集合が、選択候補の衛星10の集合candとして扱われる。
【0056】
図6は、1時間ごとに呼び出される計画立案の処理のフローを示している。
【0057】
ステップS101の処理が行われる前は、各時刻および各エリアの部分集合は空である。
【0058】
ステップS101において、計画立案部84は、候補集合candから、仰角が閾値以上であり、かつ、いずれの部分集合も拘束条件を満たさなくなることがないGPS衛星および準天頂衛星60を、各時刻および各エリアの部分集合に追加する。
【0059】
ステップS102において、計画立案部84は、各時刻および各エリアの部分集合に含まれる衛星10の数がNsat機に達しているかどうかを判定する。いずれかの部分集合に含まれる衛星10の数がNsat機に達していなければ、ステップS103の処理が行われる。いずれの部分集合に含まれる衛星10の数もNsat機に達していれば、ステップS105の処理が行われる。
【0060】
ステップS103において、計画立案部84は、PDOPが最大の時刻TおよびエリアAの組み合わせを抽出する。すなわち、計画立案部84は、すべての部分集合の中から、PDOPが最大の部分集合AST,Aを特定する。
【0061】
ステップS104において、計画立案部84は、候補集合candから、時刻TおよびエリアAのPDOPを最小にし、かつ、いずれの部分集合も拘束条件を満たさなくなることがない衛星10を、時刻TおよびエリアAの部分集合AST,Aと、時刻Tから最長でpminエポック後までの各時刻およびエリアAの部分集合に追加する。ステップS104の処理の後、ステップS102の処理が再び行われる。
【0062】
ステップS105において、計画立案部84は、各時刻および各エリアの部分集合を示す計画データ43をメモリ72に保存する。
【0063】
ステップS105の直前に、または、ステップS105と並行して、評価通知部86は、各時刻および各エリアの部分集合のPDOPを評価する。評価通知部86は、評価結果を運用者に通知する。
【0064】
上記のように、ステップS101において、計画立案部84は、候補集合candから仰角が閾値以上の衛星10を選択する第1処理を行う。本実施の形態では、計画立案部84が、12のエリアのそれぞれに対し、第1処理を行う。
【0065】
ステップS102からステップS104において、計画立案部84は、次の衛星10を選択しても、選択した衛星10の集合が選択条件を満たす場合に限り、候補集合candから、選択した衛星10の配置による精度劣化を小さくする衛星10を選択する第2処理を繰り返す。選択条件には、計画データ43が示す各エリアの部分集合に含まれる衛星10の総数の条件として、拘束条件C1が含まれている。選択条件には、さらに、計画データ43が示す全エリアの部分集合の和集合に含まれる衛星10の総数の条件として、拘束条件C2が含まれている。
【0066】
計画立案部84は、第2処理の開始時点で、同じ第1単位時間における、選択した衛星10の配置による精度劣化が最大の第2単位時間であるピーク時間Tに対し、第2処理として、候補集合candから、選択した衛星10の配置による精度劣化を最小にする衛星10を選択する処理を行う。また、計画立案部84は、ピーク時間に続く1つ以上の第2単位時間に対し、第2処理と同じ衛星10を選択する第3処理を行う。本実施の形態では、計画立案部84が、第2処理の開始時点で、同じ1時間における、選択した衛星10のPDOPが最大の時刻TおよびエリアAの組み合わせに対し、第2処理として、候補集合candから、選択した衛星10のPDOPを最小にする衛星10を選択する処理を行う。また、計画立案部84が、時刻Tに続く最大でpminエポック分の時刻に対し、第2処理と同じ衛星10を選択する第3処理を行う。
【0067】
以下では、計画立案の近似解法を説明する。
【0068】
最適化問題の変数zの次元について、エリア数が12、エポック数が120、拘束条件C8から拘束条件C10により不可視の衛星10に関する変数の値は0となることを考慮し、可視衛星数が30程度とすると、変数zの次元のオーダーは10である。さらに、評価関数F、拘束条件C2および拘束条件C4から拘束条件C6が非線形であることから、大域的な最適解を厳密に求めることは困難である。よって、本実施の形態では、地上系に求められる信頼性と計算リソースとを考慮し、反復計算の不要な貪欲法に基づく近似的アプローチにより、計画立案が行われる。図7に、計画立案の処理の擬似コードを示す。この擬似コードは、図6のフローとほぼ同じアルゴリズムをコード化したものである。
【0069】
まず、計画立案部84は、計画を立案する1時間の範囲を決めるため、次の正時の時刻インデックスを取得する。続いて、計画立案部84は、拘束条件C3を考慮して、エリアおよび時刻の組み合わせごとで独立に、エリアの指定の4隅での仰角が高い順番にNhigh機のGPS衛星を割り当てる。Nhigh機のGPS衛星の中には、準天頂衛星60が含まれる。仰角が閾値である40度以上のGPS衛星がNhigh機以上存在しない場合があるが、これは許容してもよい。GPS衛星のみを対象とすることで、割り当てられる衛星10が天頂付近に集中することを避けられる。続いて、計画立案部84は、計画済の1つ前の1時間について、その終端から数えてpmin−1個のエポックを、現処理で計画を行う1時間との継ぎ代とする。計画立案部84は、継ぎ代内のいずれかのエポックから補強が開始される各衛星10について、その衛星10が連続して補強されるエポック数がpminとなるよう、現処理で計画を行う1時間側に割り当てを拡張する。継ぎ代調整の処理の概念を図8に示す。
【0070】
続いて、計画立案部84は、PDOPを評価指標とした貪欲法に基づく衛星10の割り当てを行う。貪欲法に基づく衛星10の割り当てとは、全エリアおよび全時刻の中で最もPDOPの大きいエリアAおよび時刻Tを抽出し、エリアAおよび時刻TでのPDOPを最小にする選択候補の衛星10を、エリアAおよび時刻Tと周辺時刻に新たに割り当て、これを拘束条件の下、衛星10が追加できなくなるまで繰り返すことである。周辺時刻も含めるのは、衛星10をpminエポック以上連続して補強するためである。連続して割り当てられる時間が時刻Tを含んでpminエポック以上となり、かつ、それら時刻で拘束条件を満たすことが割り当ての条件となる。追加の割り当てにより、割り当て済の他の区間に接続することで、連続時間をpminエポックとしてもよい。なお、PDOPは、エリアの指定の4隅の平均の座標値を用いて計算される。まず、計画立案部84は、全時刻での共通衛星を上限まで拡大する。その後、計画立案部84は、各エリアについて全時刻で衛星10が追加できなくなるまで、共通衛星の範囲内で衛星10の割り当てを行う。エリアAおよび時刻Tの抽出では、計画立案部84は、割り当て済の衛星10の数がMsat機未満であることに加え、割り当て済の衛星10の集合に含まれる各GNSSの衛星数も考慮する。計画立案部84は、割り当て済の衛星10の集合に含まれるいずれかのGNSSの衛星10が1機のみであるエリアおよび時刻が存在する場合は、そのようなエリアおよび時刻のみから抽出を行う。これにより拘束条件C7が満たされるようにする。時刻Tおよび時刻Tの周辺時刻へ衛星10の追加の概念を図9に示す。
【0071】
図9のケース1またはケース2のように、衛星10は、図10の条件を満たす、時刻Tを含む連続したpminエポックに追加される。図9のケース3のように、既に時刻Tに近接する時刻、すなわち、時刻Tとのエポック差がpmin以下の時刻に同じ衛星10が割り当てられた区間が存在する場合には、時刻Tとそのような区間との間の全エポックが図10の条件を満たす場合、それらのエポックに衛星10が追加される。計画立案部84は、そのような追加が可能な衛星10のうち、エリアAおよび時刻TでのPDOPを最小にする衛星10を割り当てる。なお、共通衛星拡大と共通衛星内追加では、拘束条件C4から拘束条件C6のため、衛星数が実際の上限NsatおよびMsatに満たない時刻が生じる場合がある。このような時刻が存在する場合、計画立案部84は、pminを一時的に1エポックずつ減らしていき、衛星数に余裕がなくなるか、pminが0になるまで、衛星10の割り当ての処理を繰り返す。
【0072】
図11および図12を参照して、共通衛星内修正の処理の詳細を説明する。
【0073】
各エリアの衛星10の組み合わせは、5秒ごとに2エリアずつ決定される。通常は、計画通りの組み合わせが選択される。リアルタイムで得られるインテグリティ情報により、計画に品質の条件を満たさない衛星10が含まれる場合、30秒のメインフレーム62の共通衛星内での変更が可能である。
【0074】
図11は、5秒ごとに呼び出される共通衛星内修正の処理のフローを示している。
【0075】
ステップS201の処理が行われる前に、計画立案部84により各時刻および各エリアの部分集合が選択されている。
【0076】
ステップS201において、計画修正部85は、インテグリティ情報を取得する。計画修正部85は、インテグリティ情報に基づいて、計画立案部84により選択された、対応する時刻のいずれかのエリアの部分集合に、測位信号11の品質が品質条件を満たしていない衛星svがあるかどうかを判定する。計画修正部85が、計画立案部84により選択された、対応する第2単位時間の1つのエリアAの部分集合から測位信号11の品質が品質条件を満たしていない衛星svを検出した場合、ステップS202の処理が行われる。検出されなかった場合、ステップS205の処理が行われる。
【0077】
ステップS202において、計画修正部85は、インテグリティ情報に基づいて、検出した衛星svよりも測位信号11の品質が高い衛星svalternativeが、計画立案部84により選択された、対応する時刻の全エリアの部分集合の和集合に含まれているかどうかを判定する。本実施の形態において、インテグリティ情報は、測位信号11のエリアごとの品質を示す情報である。計画修正部85は、衛星svよりも測位信号11の品質が高い衛星svalternativeが1つの集合に含まれているかどうかを判定する際に、衛星svよりも測位信号11の全エリアの品質が高い衛星10が当該1つの集合に含まれている場合に、品質が高い衛星svalternativeが当該1つの集合に含まれていると判定する。品質が高い衛星svalternativeが和集合に含まれていれば、ステップS203の処理が行われる。和集合に含まれていなければ、ステップS204の処理が行われる。
【0078】
ステップS203において、計画修正部85は、エリアAの部分集合において、検出した衛星svを和集合に含まれる品質が高い衛星svalternativeに置換することで、メモリ72に保存されている計画データ43を変更する。本実施の形態において、計画修正部85は、1つの時刻Tの部分集合において、検出した衛星svを別の衛星svalternativeに置換する際に、時刻Tに続く1つ以上の時刻の部分集合に含まれる同じ衛星svを別の衛星svalternativeに置換する。そして、共通衛星内修正の処理が終了する。
【0079】
ステップS204において、計画修正部85は、検出した衛星svを代替要求リストに追加する。代替要求リストは、メモリ72に保存される。続いて、ステップS205の処理が行われる。
【0080】
ステップS205において、計画修正部85は、メモリ72に保存されている計画データ43を変更することなく、共通衛星内修正の処理を終了する。
【0081】
図12に、共通衛星内修正の処理の擬似コードを示す。この擬似コードは、図11のフローとほぼ同じアルゴリズムをコード化したものである。
【0082】
計画修正部85は、計画された部分集合AST,Aに含まれる各衛星svについて、衛星svが現時刻Tで品質の条件を満たさない場合、時刻Tから時刻T+dTまで、部分集合AST:T+dT,Aに含まれない別の衛星svalternateで衛星svを置き換える。dTは、衛星svおよび衛星svalternateの既存の割り当てから決定され、次式で表わされる。
dT=min(τ1−1,τ2−1,pmin−1)
τ1は、時刻T以降の時刻で初めて衛星svが部分集合AST+τ1,Aに含まれなくなる時刻までのエポック数である。τ2は、時刻T以降の時刻で初めて衛星svalternateが部分集合AST+τ2,Aに含まれる時刻までエポック数である。
【0083】
衛星svalternateは、現時刻Tで品質の条件を満たし、時刻Tから時刻T+dTの全時間で共通衛星CST:T+dTに含まれ、エリアAで選択候補であり、置き換えを行っても拘束条件C7を満たす衛星10で、最も品質の良い衛星10である。計画修正部85は、そのような衛星10が存在しない場合は、衛星svを次の時刻以降で置き換えるため、衛星svを代替要求リストに追加する。なお、dT=τ1−1の場合、すなわち、時刻T以降pminエポック以内に衛星svがエリアAの補強対象から外れる場合は、衛星svalternateの継続時間が短く、拘束条件C4から拘束条件C6が満たされない場合があるが、これは許容してもよい。また、置き換えられた衛星svの継続時間がpminエポックより短くなる場合があるが、これも許容してもよい。
【0084】
図13および図14を参照して、共通衛星修正の処理の詳細を説明する。
【0085】
図13は、30秒ごとに呼び出される共通衛星修正の処理のフローを示している。
【0086】
ステップS301において、計画修正部85は、候補集合candに含まれているが、対応する時刻の全エリアの部分集合の和集合に含まれていない衛星10を残りリストに追加する。残りリストは、メモリ72に保存される。
【0087】
ステップS302において、計画修正部85は、衛星svが、メモリ72に保存されている代替要求リストに含まれているかどうかを判定する。衛星svが代替要求リストに含まれていれば、ステップS303の処理が行われる。代替要求リストに含まれていなければ、共通衛星修正の処理が終了する。
【0088】
ステップS303において、計画修正部85は、インテグリティ情報に基づいて、代替要求リストに含まれている衛星svよりも測位信号11の品質が高い衛星svalternativeが、メモリ72に保存されている残りリストに含まれているかどうかを判定する。すなわち、計画修正部85は、衛星svよりも測位信号11の品質が高い衛星svalternativeが、候補集合candに含まれているかどうかを判定する。本実施の形態において、インテグリティ情報は、測位信号11のエリアごとの品質を示す情報である。計画修正部85は、衛星svよりも測位信号11の品質が高い衛星svalternativeが1つの集合に含まれているかどうかを判定する際に、衛星svよりも測位信号11の全エリアの品質が高い衛星10が当該1つの集合に含まれている場合に、品質が高い衛星svalternativeが当該1つの集合に含まれていると判定する。品質が高い衛星svalternativeが候補集合に含まれていれば、ステップS304の処理が行われる。候補集合に含まれていなければ、ステップS306の処理が行われる。
【0089】
ステップS304において、計画修正部85は、次の時刻の、少なくとも代替要求リストに含まれている衛星svと同じエリアAの部分集合において、衛星svを候補集合に含まれる品質が高い衛星svalternativeに置換することで、メモリ72に保存されている計画データ43を変更する。本実施の形態において、計画修正部85は、1つの時刻Tの部分集合において、衛星svを別の衛星svalternativeに置換する際に、時刻Tに続く1つ以上の時刻の部分集合に含まれる同じ衛星svを別の衛星svalternativeに置換する。
【0090】
ステップS305において、計画修正部85は、残りリストから衛星svalternativeを削除する。そして、ステップS306の処理が行われる。
【0091】
ステップS306において、計画修正部85は、代替要求リストから衛星svを削除する。そして、ステップS302の処理が再び行われる。
【0092】
図14に、共通衛星修正の処理の擬似コードを示す。この擬似コードは、図13のフローとは多少異なるアルゴリズムをコード化したものである。いずれかのアルゴリズムを採用するかは任意である。
【0093】
共通衛星修正の処理は、30秒に1回、全12エリアでの組み合わせが決定した後に行われる。まず、計画修正部85は、代替要求リストに含まれる各衛星svについて、代替衛星svalternateが存在する場合、時刻T+1から時刻T+pminの共通衛星CST+1:T+pminから衛星svを削除する。代替衛星svalternateは、全エリアでの測距精度の平均値と最悪値との両方が衛星svより小さい衛星10である。続いて、計画修正部85は、削除した衛星svのリストに含まれる衛星10を選択候補から外して、時刻T+1から時刻T+pminの共通衛星CST+1:T+pminの拡大を行う。計画修正部85は、拡大後の共通衛星数に余裕がある場合は、削除した衛星svのうち最も品質の良い衛星10をリストから除き、再度拡大を行う。計画修正部85は、これを共通衛星数がNsat機に達するか、リストが空になるまで繰り返す。続いて、計画修正部85は、各エリアについて、時刻Tで品質の条件を満たさなかった衛星10を選択候補から外して、時刻T+1から時刻T+pminに共通衛星内衛星追加の処理を行う。計画修正部85は、処理後の衛星数に余裕がある場合は、同様に削除された衛星svのうち最も品質の良い衛星10をリストから除いて追加する処理を繰り返す。その後、繰り返し処理して得られた結果の衛星svのリスト(PRN番号等)をメッセージ生成部87に渡す。
【0094】
なお、本実施の形態では、12のエリアのそれぞれについて、衛星10の組み合わせが選択されるが、エリアの数は12に限らず、1以上の任意の数でよい。
【0095】
***実施の形態の効果の説明***
本実施の形態では、補強対象として事前に選択された衛星10の集合から、測位信号11の品質が品質条件を満たしていない衛星10が検出され、検出された衛星10が別の衛星10に置換されることで、補強対象とする衛星10の集合が変更される。よって、本実施の形態によれば、各衛星10からの測位信号11の品質に応じて、補強対象とする衛星10を精選することが可能となる。
【0096】
本実施の形態によれば、ユーザの利便性低下を招かない範囲で、衛星10の幾何学的配置、および、補正後の距離観測値の品質に応じて補強対象とする衛星10を精選し、精選した衛星10を高精度に補強することができる。
【0097】
本実施の形態において、計画立案部84が、軌道情報12に基づき、幾何学的配置を評価基準に現在からpminエポック後まで選択する衛星10の組み合わせの計画を立案する。計画修正部85は、インテグリティ情報に応じて、計画立案段階の衛星10の組み合わせを修正する。これにより、ユーザレンジ誤差が小さく、かつ、幾何学的配置が良好な衛星10を優先的に選択することができる。
【0098】
多数の衛星10が利用できる環境で瞬時のDOPおよび仰角に応じて補強対象とする衛星10を選択すると、衛星10の組み合わせの時間的な変化の頻度が早く、ユーザ測位において測位演算のカルマンフィルタが安定しない、高仰角の衛星10ばかりでDOPが悪い等により、ユーザの利便性が低下するおそれがある。しかし、本実施の形態では、一旦選択された衛星10の選択継続時間が、指定された最短時間よりも長くなるように、衛星10の組み合わせの計画が立案される。各衛星10について2つの近接する連続選択時間の間隔が上記最短時間より短い場合は、それらが繋げられて1つの連続選択時間となる。よって、ユーザ測位において測位演算のカルマンフィルタが安定しやすくなる、DOPが良くなる等により、ユーザの利便性が向上する。すなわち、本実施の形態によれば、測位演算での収束時間よりも十分に長い間、衛星10が継続的に選択され、ユーザにとって安定した測位ができる補強情報を提供できる。
【0099】
***実施の形態の適用例***
GPS、QZSS、GLONASSおよびGalileoを対象とし、本実施の形態に係る衛星選択アルゴリズムを適用した例を示す。
【0100】
衛星数については、Nsat=14、Msat=11、および、Nhigh=4とした。連続エポック数については、pmin=10、すなわち、pminエポックを300秒とした。伝搬性の電離層擾乱が発生したと見られる2016年5月13日を選んだ。GPS、準天頂衛星1号機、GLONASS、Galileoの軌道は、航法暦を用いて計算した。準天頂衛星60については、2機の準天頂軌道衛星の軌道は1号機の昇交点赤経を±135度オフセット、1機の静止軌道衛星は東経127度の軌道として4機体制を模擬した。品質の評価は、エリア中心付近での電子基準点20の観測値から算出したROTIの値でインテグリティ情報を代用した。このように測位信号の品質や測距誤差と関連性がある指標であれば、インテグリティ情報は他の指標値で代用し、使用しても良い。「ROTI」は、Rate of TEC Change Indexの略語である。衛星svのROTIは、次式に示すTEC変化率の、時刻Tを中心時刻とした5分間での標準偏差である。
【0101】
【数3】
【0102】
ROTIは、空間スケールの小さい電離層擾乱の指標である。ROTIについては、補正後の測距誤差の要因のうち最も支配的な電離層補正誤差との高い相関が確認されている。本シミュレーションでは、ROTIの値が0.3以下であることを、品質の条件とした。観測データ21のない3機の準天頂衛星60は、常に条件を満たすこととした。9つの離島については、上記GNSSに対応した電子基準点20が揃っていないため、観測値に基づく品質の評価は行わず、12エリアで決定した共通衛星からPDOPを最小にするMsat機の組み合わせを選択した。
【0103】
12エリア内のDOPの評価地点と9つの離島との位置を図15に示す。各地点および各離島における、組み合わせの衛星10によるDOPを、計画時について評価した結果を図16および図17に示す。各地点および各離島における、組み合わせの衛星10によるDOPを、組み合わせ決定後について評価した結果を図18および図19に示す。図16および図18は、HDOPの評価結果を示している。「HDOP」は、Horizontal DOPの略語である。図17および図19は、VDOPの評価結果を示している。「VDOP」は、Vertical DOPの略語である。実用的なオープンスカイ環境を想定し、仰角マスクは22.5度とした。CLASでは、端末で2周波数の搬送波位相のアンビギュイティが決定される。電離層補正誤差の影響を取り除いた後の補正誤差、具体的には、衛星クロック、軌道、信号間バイアスおよび対流圏遅延の補正誤差の合計は5cm(95%)以下となる。HDOPおよびVDOPの上限をそれぞれ2.5および5として、移動体31の測位精度が水平方向12cm(95%)以下、および、垂直方向24cm(95%)以下となる。図16および図17より計画時、すなわち、電離層擾乱が発生しない場合に適用される組み合わせでは、全エリアの全時刻においてDOPが上限値以下となっている。図18および図19より組み合わせ決定後では、幾何学的配置の良い一部の衛星10が置き換えられ、一時的に上限値を超える場合があるが、ほとんど(99%以上)の時刻でDOPが上限値以下となっている。
【0104】
***他の構成***
本実施の形態では、誤差状態推定部81、インテグリティ情報生成部82、候補決定部83、計画立案部84、計画修正部85、評価通知部86およびメッセージ生成部87の機能がソフトウェアにより実現されるが、変形例として、これらの機能がハードウェアにより実現されてもよい。この変形例について、主に本実施の形態との差異を説明する。
【0105】
図20を参照して、本実施の形態の変形例に係る測位補強装置40の構成を説明する。
【0106】
測位補強装置40は、処理回路79、レシーバ73およびトランスミッタ74といったハードウェアを備える。
【0107】
処理回路79は、誤差状態推定部81、インテグリティ情報生成部82、候補決定部83、計画立案部84、計画修正部85、評価通知部86およびメッセージ生成部87の機能を実現する専用の電子回路である。処理回路79は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ロジックIC、GA、FPGAまたはASICである。「GA」は、Gate Arrayの略語である。「FPGA」は、Field−Programmable Gate Arrayの略語である。「ASIC」は、Application Specific Integrated Circuitの略語である。
【0108】
測位補強装置40は、処理回路79を代替する複数の処理回路を備えていてもよい。これら複数の処理回路は、全体として、誤差状態推定部81、インテグリティ情報生成部82、候補決定部83、計画立案部84、計画修正部85、評価通知部86およびメッセージ生成部87の機能を実現する。それぞれの処理回路は、処理回路79と同じように、専用の電子回路である。
【0109】
別の変形例として、誤差状態推定部81、インテグリティ情報生成部82、候補決定部83、計画立案部84、計画修正部85、評価通知部86およびメッセージ生成部87の機能がソフトウェアとハードウェアとの組み合わせにより実現されてもよい。すなわち、誤差状態推定部81、インテグリティ情報生成部82、候補決定部83、計画立案部84、計画修正部85、評価通知部86およびメッセージ生成部87の機能の一部が専用の電子回路により実現され、残りがソフトウェアにより実現されてもよい。
【0110】
プロセッサ71、メモリ72および処理回路79を、総称して「プロセッシングサーキットリ」という。つまり、測位補強装置40の構成が図4および図20のいずれに示した構成であっても、誤差状態推定部81、インテグリティ情報生成部82、候補決定部83、計画立案部84、計画修正部85、評価通知部86およびメッセージ生成部87の機能は、プロセッシングサーキットリにより実現される。
【0111】
測位補強装置40の「装置」を「方法」に読み替え、誤差状態推定部81、インテグリティ情報生成部82、候補決定部83、計画立案部84、計画修正部85、評価通知部86およびメッセージ生成部87の「部」を「工程」に読み替えてもよい。あるいは、測位補強装置40の「装置」を「プログラム」、「プログラムプロダクト」または「プログラムを記録したコンピュータ読取可能な媒体」に読み替え、誤差状態推定部81、インテグリティ情報生成部82、候補決定部83、計画立案部84、計画修正部85、評価通知部86およびメッセージ生成部87の「部」を「手順」または「処理」に読み替えてもよい。
【符号の説明】
【0112】
10 衛星、11 測位信号、12 軌道情報、20 電子基準点、21 観測データ、30 測位補強システム、31 移動体、40 測位補強装置、41 メッセージ、42 アラート、43 計画データ、50 地上局、51 アップリンク信号、60 準天頂衛星、61 L6信号、62 メインフレーム、63 サブフレーム、71 プロセッサ、72 メモリ、73 レシーバ、74 トランスミッタ、79 処理回路、81 誤差状態推定部、82 インテグリティ情報生成部、83 候補決定部、84 計画立案部、85 計画修正部、86 評価通知部、87 メッセージ生成部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
図16
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図18
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図20