(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記調整部は、前記誤差の絶対値と閾値とを比較して、前記誤差の絶対値が閾値よりも大きい場合に前記供給量を調整することを特徴とする請求項1または2に記載の数値制御装置。
前記誤差検出部は、前記材料が送り出される速度が加工条件に従った速度であるときにおける前記推定値を基に前記誤差を検出することを特徴とする請求項5に記載の数値制御装置。
前記材料が過度な強度で前記被加工物に接触している過負荷状態の判定のための閾値を第1閾値とし、前記材料が前記被加工物に接触しない非接触状態の判定のための閾値を第2閾値として、前記誤差検出部は、前記推定値が第1閾値より小さく、かつ前記推定値が第2閾値より大きい場合に、前記誤差を検出することを特徴とする請求項5または6に記載の数値制御装置。
駆動部の駆動力によって送り出された材料へビームを照射し、溶融させた前記材料を被加工物へ付加して造形物を製造する付加製造装置を数値制御装置が制御する方法であって、
前記材料を堆積させる高さ方向における前記被加工物の高さの誤差を検出する工程と、
前記誤差に基づいて前記材料の供給量を調整する工程と、
を含み、
前記被加工物への前記材料の接触状態を基に前記被加工物の高さを推定することによって、前記誤差を検出することを特徴とする付加製造装置の制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態にかかる数値制御装置、付加製造装置および付加製造装置の制御方法を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。以下の説明では、数値制御装置をNC(Numerical Control)装置と称することがある。
【0012】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかるNC装置1によって制御される付加製造装置100を示す図である。付加製造装置100は、駆動部の駆動力によって送り出された材料へビームを照射し、溶融させた材料を被加工物へ付加して造形物を製造する工作機械である。実施の形態1において、ビームはレーザビームであって、材料は金属材料のワイヤ5であるものとする。
【0013】
付加製造装置100は、ベース材17にビードを堆積させることによって、金属材料による堆積物18をベース材17の表面に形成する。ビードは、溶融したワイヤ5が凝固することによって形成される線状の物体である。ベース材17は、ステージ15に置かれる。以下の説明において、被加工物とは、ベース材17と堆積物18とを指すものとする。造形物とは、加工プログラムにしたがった材料の付加を終えた後のベース材17と堆積物18とを指すものとする。
図1に示すベース材17は板材である。ベース材17は、板材以外のものであっても良い。
【0014】
付加製造装置100は、ビームノズル11とワイヤノズル12とガスノズル13とを有する加工ヘッド10を備える。ビームノズル11は、材料を溶融させるレーザビームを、被加工物へ向けて出射する。ワイヤノズル12は、被加工物におけるレーザビームの照射位置へ向けてワイヤ5を進行させる。ガスノズル13は、堆積物18の酸化抑制およびビードの冷却のためのガスを被加工物へ向けて噴出する。
【0015】
ビーム源であるレーザ発振器2は、レーザビームを発振する。レーザ発振器2からのレーザビームは、光伝送路であるファイバーケーブル3を通ってビームノズル11へ伝搬する。ガス供給装置7は、配管8を通じてガスノズル13へガスを供給する。
【0016】
ワイヤ5が巻き付けられているワイヤスプール6は、材料の供給源である。サーボモータである回転モータ4は、ワイヤスプール6を駆動する駆動部である。回転モータ4は、ワイヤスプール6からワイヤ5を送り出すための駆動力を発生する。回転モータ4の駆動に伴って、ワイヤスプール6は回転する。ワイヤ5は、ワイヤスプール6の回転によって、ワイヤスプール6から送り出される。
【0017】
ワイヤスプール6から送り出されたワイヤ5は、ワイヤノズル12を通されて、レーザビームの照射位置へ供給される。なお、ワイヤノズル12には、ワイヤスプール6からワイヤ5を引き出すための動作機構が設けられても良い。付加製造装置100は、ワイヤスプール6に連結される回転モータ4とワイヤノズル12の動作機構との少なくとも一方が設けられることによって、レーザビームの照射位置へワイヤ5を供給可能とする。かかる動作機構は、材料の供給のための駆動部である。
図1では、ワイヤノズル12の動作機構の図示を省略している。
【0018】
ヘッド駆動部14は、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の各方向へ加工ヘッド10を移動させる。X軸、Y軸およびZ軸は、互いに垂直な3軸である。X軸およびY軸は、水平方向に平行な軸である。Z軸方向は、材料を堆積させる高さ方向であって、鉛直方向である。なお、X軸方向のうち図中矢印で示す方向をプラスX方向、プラスX方向とは逆の方向をマイナスX方向と称することがある。Y軸方向のうち図中矢印で示す方向をプラスY方向、プラスY方向とは逆の方向をマイナスY方向と称することがある。Z軸方向のうち図中矢印で示す方向をプラスZ方向、プラスZ方向とは逆の方向をマイナスZ方向と称することがある。プラスZ方向は鉛直上方向である。マイナスZ方向は鉛直下方向である。
【0019】
ヘッド駆動部14は、X軸方向への加工ヘッド10の移動のための動作機構を構成するサーボモータと、Y軸方向の加工ヘッド10の移動のための動作機構を構成するサーボモータと、Z軸方向への加工ヘッド10の移動のための動作機構を構成するサーボモータとを有する。ヘッド駆動部14は、3軸のそれぞれの方向の並進運動を可能とする動作機構である。
図1では、各サーボモータの図示を省略している。付加製造装置100は、ヘッド駆動部14の駆動によって加工ヘッド10を移動させることで、被加工物におけるレーザビームの照射位置を移動させる。
【0020】
図1に示す加工ヘッド10は、ビームノズル11からマイナスZ方向へレーザビームを進行させる。ワイヤノズル12は、XY面内においてビームノズル11とは離れた位置に設けられており、Z軸に対して斜めの方向へワイヤ5を進行させる。この他、加工ヘッド10は、ビームノズル11から出射されるレーザビームの中心軸に沿うようにワイヤ5を進行させることとしても良い。すなわち、ビームノズル11とワイヤノズル12とが互いに同軸上に配置されていても良い。ビームノズル11は、ワイヤ5を中心とするリング状にビーム断面の形状が調整されたレーザビーム、あるいはワイヤ5を中心としてワイヤ5の周囲に分散させた複数のビームを出射しても良い。かかるレーザビームは、被加工物の照射位置にて収束するように調整される。
【0021】
図1に示す加工ヘッド10において、ガスノズル13は、XY面内においてビームノズル11とは離れた位置に設けられており、Z軸に対して斜めの方向へガスを噴出する。この他、加工ヘッド10は、ビームノズル11から出射されるレーザビームの中心軸に沿うようにガスを噴出しても良い。すなわち、ビームノズル11とガスノズル13とは、同軸上に配置されていても良い。
【0022】
回転駆動部16は、2軸のそれぞれを中心とする回転運動を可能とする動作機構である。回転駆動部16は、Z軸周りにステージ15を回転させるための動作機構を構成するサーボモータと、X軸周りにステージ15を回転させるための動作機構を構成するサーボモータとを有する。
図1では、各サーボモータの図示を省略している。回転駆動部16は、ステージ15とともに被加工物を回転させる。付加製造装置100は、回転駆動部16によってステージ15を回転させることで、被加工物の姿勢を加工に適した姿勢にさせることができる。
【0023】
NC装置1は、加工プログラムに従って付加製造装置100を制御する。NC装置1は、ヘッド駆動部14へ軸指令を出力することによって、ヘッド駆動部14を制御する。NC装置1は、ビーム出力の条件に応じた指令である出力指令をレーザ発振器2へ出力することによって、レーザ発振器2によるレーザ発振を制御する。
【0024】
NC装置1は、材料の供給量の条件に応じた指令である供給指令を回転モータ4へ出力することによって、回転モータ4を制御する。NC装置1は、回転モータ4を制御することによって、ワイヤスプール6から照射位置へ向かうワイヤ5の速度を調整する。以下の説明にて、かかる速度を、供給速度と称することがある。供給速度は、時間当たりの材料の供給量を表す。
【0025】
NC装置1は、ガスの供給量の条件に応じた指令をガス供給装置7へ出力することによって、ガス供給装置7からガスノズル13へのガスの供給量を制御する。NC装置1は、回転駆動部16へ回転指令を出力することによって、回転駆動部16を制御する。なお、NC装置1は、付加製造装置100の構成要素の1つであっても良く、付加製造装置100の外部の装置であっても良い。
【0026】
図2は、
図1に示す付加製造装置100を制御するNC装置1の機能構成を示す図である。NC装置1には、コンピュータ支援製造(Computer Aided Manufacturing:CAM)装置によって作成されたNCプログラムである加工プログラム20が入力される。加工プログラム20は、ステージ15に置かれた被加工物に対して加工ヘッド10を移動させる移動経路の指示によって、レーザビームの照射位置を移動させる経路である加工経路を指定する。
【0027】
NC装置1は、各種加工条件のデータが格納されている加工条件テーブル21を有する。加工プログラム20には、加工条件テーブル21にデータが格納されている加工条件の中から加工条件を選択するための指令が含まれている。
【0028】
NC装置1は、加工プログラム20を解析するプログラム解析部22と、プログラム解析部22による解析結果を基に軸指令を生成する軸指令生成部23とを有する。プログラム解析部22は、加工プログラム20に記述されている処理の内容を基に、加工ヘッド10を移動させる移動経路を解析する。プログラム解析部22は、解析された移動経路を示すデータを軸指令生成部23へ出力する。軸指令生成部23は、移動経路上の単位時間ごとの補間点群である軸指令を生成する。
【0029】
NC装置1は、加工条件を設定する条件設定部24と、加工条件を調整する条件調整部25と、加工条件に従った指令を生成する条件指令生成部26とを備える。プログラム解析部22は、加工条件を指定するための情報を加工プログラム20から取得し、取得された情報を条件設定部24へ出力する。条件設定部24は、プログラム解析部22からの情報を基に、加工プログラム20において指定されている加工条件のデータを加工条件テーブル21から読み出す。これにより、条件設定部24は、付加加工のための加工条件を設定する。
【0030】
なお、NC装置1は、加工条件テーブル21にあらかじめ格納されている各種加工条件のデータの中から、指定された加工条件のデータを得る以外に、加工条件のデータが記述されている加工プログラム20を基に、加工条件のデータを得ることとしても良い。この場合も、プログラム解析部22は、加工プログラム20を解析することによって、加工条件のデータを得ることができる。プログラム解析部22は、得られた加工条件のデータを、条件調整部25へ出力する。
【0031】
条件調整部25は、設定された加工条件のデータを条件設定部24から取得して、加工条件の調整を行う。条件調整部25は、調整された加工条件のデータを条件指令生成部26へ出力する。条件調整部25は、被加工物の高さの誤差に基づいてワイヤ5の供給量を調整する調整部である。
【0032】
条件指令生成部26は、加工条件のデータを条件調整部25から取得して、加工条件に従った各種指令を生成する。条件指令生成部26は、レーザビームの出力の制御のための出力指令を生成する出力指令生成部27と、ワイヤ5の供給の制御のための供給指令を生成する供給指令生成部28とを有する。NC装置1は、軸指令生成部23によって生成された軸指令と、出力指令生成部27によって生成された出力指令と、供給指令生成部28によって生成された供給指令とを出力する。
【0033】
図1に示すヘッド駆動部14は、ヘッド駆動部14が有する各サーボモータの駆動を制御するサーボアンプ32を備える。サーボアンプ32は、NC装置1から出力される軸指令にしたがって各サーボモータの駆動を制御する。
【0034】
図1に示すレーザ発振器2は、レーザ発振を制御する発振制御部33を備える。発振制御部33は、NC装置1から出力される出力指令にしたがってレーザ発振を制御する。
図1に示す回転モータ4は、回転動作を制御するサーボアンプ34を有する。サーボアンプ34は、NC装置1から出力される供給指令にしたがって回転モータ4の駆動を制御する。また、サーボアンプ34は、回転モータ4に掛かる外乱トルクの推定値を出力する。
【0035】
この他、条件指令生成部26は、ガスの供給量の条件に応じた指令をガス供給装置7へ出力する。軸指令生成部23は、回転駆動部16へ回転指令を出力する。
図2では、ガス供給装置7への指令の出力と回転駆動部16への回転指令の出力とについての図示を省略している。NC装置1は、各種指令を出力することによって、付加製造装置100の全体を制御する。
【0036】
NC装置1は、回転モータ4に掛かる外乱トルクの推定値をサーボアンプ34から取得する取得部29と、ワイヤ5と被加工物との接触状態を判定する状態判定部30と、被加工物の高さの誤差を検出する誤差検出部31とを備える。取得部29は、サーボアンプ34から取得された推定値を状態判定部30と誤差検出部31とへ出力する。
【0037】
状態判定部30は、取得部29から取得された推定値を基に、ワイヤ5と被加工物との接触状態を判定する。状態判定部30は、接触状態の判定による判定結果を条件調整部25へ出力する。条件調整部25は、状態判定部30からの判定結果を基に、加工条件を調整する。
【0038】
誤差検出部31は、取得部29から取得された推定値を基に、Z軸方向における被加工物の高さの誤差を検出する。誤差検出部31は、接触状態が安定した加工が可能な状態であることが状態判定部30によって判定された場合に、誤差を検出する。誤差検出部31は、誤差の検出による検出結果を条件調整部25へ出力する。条件調整部25は、誤差検出部31からの検出結果を基に、加工条件を調整する。条件調整部25は、接触状態が安定した加工が可能な状態と状態判定部30において判定された場合に、誤差検出部31にて検出された誤差に基づいてワイヤ5の供給量を調整する。
【0039】
次に、NC装置1のハードウェア構成について説明する。
図2に示すNC装置1の各機能部は、実施の形態1の付加製造装置100の制御方法を実行するためのプログラムである制御プログラムがハードウェアを用いて実行されることによって実現される。
【0040】
図3は、実施の形態1にかかるNC装置1のハードウェア構成を示すブロック図である。NC装置1は、各種処理を実行するCPU(Central Processing Unit)41と、データ格納領域を含むRAM(Random Access Memory)42と、不揮発性メモリであるROM(Read Only Memory)43と、外部記憶装置44と、NC装置1への情報の入力およびNC装置1からの情報の出力のための入出力インタフェース45とを有する。
図3に示す各部は、バス46を介して相互に接続されている。
【0041】
CPU41は、ROM43および外部記憶装置44に記憶されているプログラムを実行する。
図2に示すプログラム解析部22、軸指令生成部23、条件設定部24、条件調整部25、条件指令生成部26、出力指令生成部27、供給指令生成部28、状態判定部30および誤差検出部31は、CPU41を使用して実現される。
【0042】
外部記憶装置44は、HDD(Hard Disk Drive)あるいはSSD(Solid State Drive)である。外部記憶装置44は、制御プログラムと各種データとを記憶する。外部記憶装置44は、
図2に示す加工プログラム20と加工条件テーブル21とを記憶する。ROM43には、NC装置1であるコンピュータまたはコントローラの基本となる制御のためのプログラムであるBIOS(Basic Input/Output System)あるいはUEFI(Unified Extensible Firmware Interface)といったブートローダであって、ハードウェアを制御するソフトウェアまたはプログラムが記憶されている。なお、制御プログラムは、ROM43に記憶されても良い。
【0043】
ROM43および外部記憶装置44に記憶されているプログラムは、RAM42にロードされる。CPU41は、RAM42に制御プログラムを展開して各種処理を実行する。入出力インタフェース45は、NC装置1の外部の装置との接続インタフェースである。入出力インタフェース45には、加工プログラム20と、加工条件テーブル21に格納されるデータとが入力される。また、入出力インタフェース45は、各種指令を出力する。
図2に示す取得部29は、入出力インタフェース45を使用して実現される。NC装置1は、キーボードおよびポインティングデバイスといった入力デバイス、およびディスプレイといった出力デバイスを有しても良い。
【0044】
制御プログラムは、コンピュータによる読み取りが可能とされた記憶媒体に記憶されたものであっても良い。NC装置1は、記憶媒体に記憶された制御プログラムを外部記憶装置44へ格納しても良い。記憶媒体は、フレキシブルディスクである可搬型記憶媒体、あるいは半導体メモリであるフラッシュメモリであっても良い。制御プログラムは、他のコンピュータあるいはサーバ装置から通信ネットワークを介して、NC装置1となるコンピュータあるいはコントローラへインストールされても良い。
【0045】
NC装置1の機能は、付加製造装置100の制御のための専用のハードウェアである処理回路によって実現されても良い。処理回路は、単一回路、複合回路、プログラム化されたプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はこれらの組み合わせである。NC装置1の機能は、一部を専用のハードウェアで実現し、他の一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしても良い。
【0046】
次に、状態判定部30による判定について説明する。
図4は、
図2に示すNC装置1が有する状態判定部30による判定について説明する図である。
図4では、
図1に示す付加製造装置100のうち、加工ヘッド10と、加工ヘッド10に設けられているビームノズル11およびワイヤノズル12とを簡略化して示している。
【0047】
付加製造装置100は、レーザビームの照射位置へワイヤ5を供給しながら加工ヘッド10を移動させることによって、ビードを形成する。
図4に示す例では、付加製造装置100は、プラスX方向へ加工ヘッド10を移動させることによって、X軸方向を長手方向とするビードを形成する。1層目のビードは、ベース材17に直接載せられて形成される。2層目のビードは、1層目のビードに載せられて形成される。付加製造装置100は、複数のビードを堆積させることによって堆積物18を形成する。
図4には、堆積物18に形成された1つのビード50を示している。
図4に示す加工ヘッド10は、当該ビード50の1つ上のビードが形成されるときにおける加工ヘッド10を表している。
【0048】
付加製造装置100は、Z軸方向におけるビード50の厚みを均一な厚みとさせるための一定の加工条件でビード50を形成したとする。ここで、ビード50と加工ヘッド10との距離を、ピッチPとする。ビード50が均一な厚みで形成された場合におけるピッチPを、基準ピッチとする。
【0049】
均一な厚みのビード50が形成されるように付加製造装置100が制御された場合であっても、堆積物18における蓄熱あるいはその他の要因によって、形成されるビード50に凹凸が生じる場合がある。ビード50に生じた凹凸によって、当該堆積物18を含む被加工物には高さ誤差が生じている。
【0050】
高さH0は、ビード50が形成されたときの被加工物の高さであって、均一な厚みのビード50が形成された場合における高さとする。被加工物の高さは、基準面からの高さとする。基準面は、例えば、ステージ15のうちベース材17が置かれる面とする。凸部51は、ビード50のうち高さH0よりもプラスZ方向側へ凸とされている部分とする。凹部52は、ビード50のうち高さH0よりもマイナスZ方向へ凹んでいる部分とする。
【0051】
図4において、位置x1,x2,x3は、それぞれX軸方向における位置とする。位置x1におけるビード50の上端の高さは、高さH0である。レーザビームのビーム断面中心が位置x1にあるとき、ピッチPは基準ピッチとなる。このとき、供給指令に従った供給速度で送り出されたワイヤ5の先端は、ビーム断面中心へ向けて進行することによって、ビード50に到達する。ワイヤ5は、適度な強度でビード50に接触して、溶融する。安定状態とは、ワイヤ5が適度な強度でビード50に接触して、安定した加工を行い得る適度な負荷がワイヤ5に加わっているときの接触状態とする。
【0052】
位置x2は、凸部51が形成されている位置である。レーザビームのビーム断面中心が位置x2にあるとき、ピッチPは基準ピッチよりも短い。ビーム断面中心が位置x2にあるとき、供給指令に従った供給速度で送り出されたワイヤ5の先端は、ビーム断面中心へ向けて進行することによって、ビーム断面中心へ到達せずにビード50の表面に当たる。ピッチPが基準ピッチである場合よりも、ビード50のうちワイヤ5が当たる位置とワイヤノズル12との距離が短くなる一方で、回転モータ4が、供給指令に従った供給速度でのワイヤ5の送り出しを続けようとすることによって、ワイヤ5は、過度な強度でビード50に接触する。このときのワイヤ5とビード50との接触状態を、過負荷状態とする。過負荷状態では、ワイヤ5の振動あるいはワイヤ5の破損といった現象が生じることがある。
図4では、ビーム断面中心が位置x2にあるときにワイヤ5が振動している様子を示している。過負荷状態は、安定した加工を行い得ない程度の過大な負荷がワイヤ5に加わっているときの接触状態とする。
【0053】
位置x3は、凹部52が形成されている位置である。レーザビームのビーム断面中心が位置x3にあるとき、ピッチPは基準ピッチよりも長い。ビーム断面中心が位置x3にあるとき、供給指令に従った供給速度で送り出されたワイヤ5の先端は、ビーム断面中心へ向けて進行することによって、ビード50に接触しない状態にて溶融する。このとき、ワイヤ5とビード50とは非接触状態である。非接触状態において、ワイヤ5には負荷が加わっていない。非接触状態では、ビード50よりも高い位置においてワイヤ5が溶融し、溶融した材料による液滴53がビード50へ滴下する現象が生じることがある。ビード50のうち液滴53が落下した部分は、上記の安定状態での加工が行われる場合と比べて材料の供給量が増加することとなるため、形状精度が悪化することになる。
【0054】
状態判定部30は、外乱トルクの推定値を基に、接触状態が、安定状態と過負荷状態と非接触状態のいずれに該当するかを判定する。以下の説明にて、外乱トルクの推定値を推定外乱トルクと称することがある。過負荷状態における推定外乱トルクは、安定状態における推定外乱トルクよりも高くなる。状態判定部30は、推定外乱トルクがあらかじめ設定された閾値を超える場合に、過負荷状態と判定する。当該閾値は、ワイヤ5にかかる負荷が、安定した加工が可能な負荷の上限であるときの外乱トルクを表す。一方、ワイヤ5が非接触状態である場合、ワイヤ5を通じた回転モータ4の外乱要素は存在しないため、推定外乱トルクはゼロとなる。状態判定部30は、推定外乱トルクがゼロである場合に、非接触状態と判定する。状態判定部30は、過負荷状態と非接触状態とのどちらとも判定されない場合に、安定状態と判定する。このように、状態判定部30は、推定外乱トルクを基にワイヤ5の状態を推定することによって、接触状態が、安定状態と過負荷状態と非接触状態のいずれに該当するかを判定する。
【0055】
なお、状態判定部30は、ワイヤ5に加わる負荷がきわめて低く、わずかに接触があるがすぐに非接触となり得る状態を、非接触状態に含めることとしても良い。この場合、状態判定部30には、過負荷状態の判定のための閾値である第1閾値とは異なる閾値である第2閾値があらかじめ設定される。状態判定部30は、推定外乱トルクが第2閾値未満である場合に、非接触状態と判定する。
【0056】
ここで、外乱トルクについて説明する。サーボアンプ34は、回転モータ4に掛かる推定外乱トルクを算出する。回転モータ4が駆動するためのトルクである実トルクは、軸の回転に必要とされるトルクである回転トルクと、ワイヤ5を通じて軸に加わる外乱トルクとの和である。回転トルクは、軸の回転モーメントによるトルクを表す慣性項と、摩擦によるトルクを表す粘性項との和と推定される。慣性項および粘性項の和である推定トルクは、回転体である軸の物性値を基に算出される。したがって、推定外乱トルクは、実トルクから推定トルクを差し引くことによって算出される。
【0057】
次に、状態判定部30による判定結果に基づいた条件調整部25による加工条件の調整について説明する。条件調整部25は、接触状態が過負荷状態と判定された場合と、非接触状態と判定された場合とにおいて、供給速度の調整を行う。NC装置1は、条件調整部25による供給速度の調整によって、過負荷状態あるいは非接触状態から安定状態へ、ワイヤ5の接触状態を改善させる。
【0058】
図5は、
図2に示すNC装置1が有する状態判定部30による判定結果に基づいた調整について説明する図である。条件調整部25は、位置x2について、過負荷状態から安定状態への改善のための調整を行う。条件調整部25は、位置x2について、条件設定部24での設定に基づく供給速度の値よりも速度値を下げる調整を行う。加工条件の設定よりもワイヤ5の進行を遅らせることによって、ワイヤ5は、設定に基づく供給速度で進行する場合よりもプラスZ方向側の位置で溶融する。付加製造装置100は、ビード50のうちワイヤ5が当たる位置においてワイヤ5を溶融させることによって、過負荷状態から安定状態への改善が可能となる。
【0059】
条件調整部25は、位置x3について、非接触状態から安定状態への改善のための調整を行う。条件調整部25は、位置x3について、条件設定部24での設定に基づく供給速度の値よりも速度値を上げる調整を行う。加工条件の設定よりもワイヤ5の進行を速めることによって、ワイヤ5は、設定に基づく供給速度で進行する場合よりもマイナスZ方向側の位置で溶融する。付加製造装置100は、ビード50のうちワイヤ5が当たる位置においてワイヤ5を溶融させることによって、非接触状態から安定状態への改善が可能となる。
【0060】
NC装置1は、状態判定部30による判定結果に基づいた供給速度の調整によって、加工を安定化させることができる。NC装置1は、かかる安定化の後に、誤差検出部31による誤差の検出を行う。さらに、NC装置1は、誤差の検出結果を基に、被加工物の高さの均一化のための調整を行う。
【0061】
次に、誤差検出部31による誤差の検出について説明する。NC装置1は、安定した加工が可能な程度に堆積物18における凹凸が改善されてから、誤差検出部31による誤差の検出を行う。誤差検出部31は、取得された推定外乱トルクが、状態判定部30において安定状態と判定される範囲内の値である場合に、誤差の検出を行う。すなわち、誤差検出部31は、取得された推定外乱トルクが第1閾値より小さく、かつ取得された推定外乱トルクが第2閾値より大きい場合において、誤差を検出する。
【0062】
誤差検出部31は、取得された推定外乱トルクが、状態判定部30において安定状態と判定される範囲
外の値である場合には、誤差の検出を行わない。すなわち、誤差検出部31は、取得された推定外乱トルクが第1閾値より大きい場合と、取得された推定外乱トルクが第2閾値より小さい場合とにおいて、誤差の検出を行わない。なお、誤差検出部31は、取得された推定外乱トルクが第1閾値と同じである場合と、取得された推定外乱トルクが第2閾値と同じである場合とにおいて、誤差を検出することとしても良く、または誤差を検出しないこととしても良い。なお、誤差検出部31は、状態判定部30による判定結果を状態判定部30から取得して、取得された判定結果を基に、誤差の検出の可否を判断しても良い。
【0063】
ピッチPが基準ピッチよりも短いほど、ワイヤ5にかかる負荷が大きくなることから、推定外乱トルクは大きくなる。また、ピッチPが基準ピッチよりも長くなるほど、ワイヤ5にかかる負荷が小さくなることから、推定外乱トルクは小さくなる。誤差検出部31は、推定外乱トルクを基に、被加工物の高さの推定値を求める。誤差検出部31は、ピッチPが基準ピッチであるときの被加工物の高さを基準高さとして、基準高さと当該推定値との差分である誤差を算出する。
【0064】
このように、誤差検出部31は、推定外乱トルクを基に被加工物の高さを推定することによって、誤差を検出する。なお、ワイヤ5が被加工物から乖離している状態、すなわち推定外乱トルクがゼロである場合、誤差検出部31は、推定外乱トルクに基づいた高さの推定を行い得ない。このため、誤差検出部31は、状態判定部30による判定結果に基づいた調整による安定化がなされた後に、誤差の検出を行う。
【0065】
NC装置1は、回転モータ4の推定外乱トルクを基に被加工物の高さを推定することによって、付加製造装置100の既存の構成要素である回転モータ4を使用して被加工物の高さを求めることができる。付加製造装置100は、被加工物の高さを検出するためのセンサが別途必要である場合に比べて、部品点数を少なくすることができる。また、レーザセンサといった非接触式のセンサが用いられる場合と比べて、付加製造装置100の製造コストの低減が可能となる。
【0066】
次に、誤差検出部31による検出結果に基づいた条件調整部25による加工条件の調整について説明する。
図6は、
図2に示すNC装置1が有する誤差検出部31による検出結果に基づいた調整について説明する図である。
【0067】
図6において、ビード60は、上記の安定化がなされた後に形成されたものであって、上記のビード50の形成よりも後に形成されたものとする。ビード60には、ビード50における凸部51よりも低い凸部62と、ビード50における凹部52よりも浅い凹部63とが形成されている。ビード60に生じた凹凸によって、当該ビード60を含む被加工物には高さ誤差が生じている。
【0068】
高さH1は、ビード60が形成されたときの被加工物の高さであって、均一な厚みのビード60が形成された場合における高さとする。高さH1は、ピッチPが基準ピッチであるときの基準高さである。
図6に示す加工ヘッド10は、当該ビード60の1つ上のビード61が形成されるときにおける加工ヘッド10を表している。
【0069】
位置x1におけるビード60の上端の高さは、高さH1である。位置x1における誤差は、誤差検出部31によってゼロと検出される。条件調整部25は、位置x1における供給速度について、条件設定部24での設定に基づく供給速度からの調整を行わない。回転モータ4は、位置x1へ、設定に基づく供給速度でワイヤ5を送り出す。
【0070】
位置x2は、凸部62が形成されている位置である。位置x2における誤差は、誤差検出部31によってプラスの誤差と検出される。プラスの誤差とは、被加工物の高さが高さH1よりも高い場合の誤差である。条件調整部25は、位置x2について、条件設定部24での設定に基づく供給速度の値よりも速度値を下げる調整を行う。条件調整部25は、誤差に応じた調整幅で速度値を調整する。回転モータ4は、位置x2へ、設定に基づく供給速度よりも低い速度でワイヤ5を送り出す。
【0071】
位置x3は、凹部63が形成されている位置である。位置x3における誤差は、誤差検出部31によってマイナスの誤差と検出される。マイナスの誤差とは、被加工物の高さが高さH1よりも低い場合の誤差である。条件調整部25は、位置x3について、条件設定部24での設定に基づく供給速度の値よりも速度値を上げる調整を行う。条件調整部25は、誤差に応じた調整幅で速度値を調整する。回転モータ4は、位置x3へ、設定に基づく供給速度よりも高い速度でワイヤ5を送り出す。
【0072】
付加製造装置100は、位置x2では、設定に基づく供給速度よりも低い速度でワイヤ5を送り出すことによって、位置x1におけるワイヤ5の供給量よりも位置x2におけるワイヤ5の供給量を減少させる。位置x2では、ワイヤ5の供給量が減少することによって、上記のプラスの誤差が相殺される。付加製造装置100は、位置x3では、設定に基づく供給速度よりも高い速度でワイヤ5を送り出すことによって、位置x1におけるワイヤ5の供給量よりも位置x3におけるワイヤ5の供給量を増加させる。位置x3では、ワイヤ5の供給量が増加することによって、上記のマイナスの誤差が相殺される。付加製造装置100は、ビード61が形成されたときにおける被加工物の高さの誤差を低減させる。これにより、付加製造装置100は、被加工物の高さを均一化させることができる。
【0073】
図7は、
図1に示す付加製造装置100による動作の手順を示すフローチャートである。NC装置1は、被加工物にて加工を進行させる方向において区分けされた複数の区間の各々についての接触状態の判定と高さの誤差の検出とを行う。
図7には、複数の区間のうちのいずれかにおいて高さの均一化のための調整が実行されるまでにおける動作の手順を示している。
【0074】
ステップS1において、付加製造装置100は、被加工物の加工を開始する。ステップS2において、状態判定部30は、区間における推定外乱トルクであるTdを取得部29から読み込む。ステップS3において、状態判定部30は、当該区間のTdがThb≦Td≦Thaを満たすか否かを判定する。Thaは、過負荷状態の判定のための第1閾値である。Thbは、非接触状態の判定のための第2閾値である。
【0075】
図8は、
図2に示すNC装置1が有する状態判定部30での判定に使用される閾値について説明する図である。ピッチPが大きくなるにしたがってTdは小さくなる。ワイヤ5が被加工物から乖離すると、Tdはゼロになる。Thb≦Td≦Thaを満たさないと判定された場合(ステップS3,No)、状態判定部30は、過負荷状態または非接触状態と判定する。Tha<Tdである場合、状態判定部30は、過負荷状態と判定する。Td<Thbである場合、状態判定部30は、非接触状態と判定する。過負荷状態または非接触状態と判定されると、ステップS4において、条件調整部25は、当該区間についての供給速度を調整する。
【0076】
条件調整部25には、推定外乱トルクの基準値があらかじめ設定されている。条件調整部25は、供給指令に従った駆動におけるTdを当該基準値に近づけるように、速度値の増加あるいは減少を調整する。NC装置1は、Tdと当該基準値との差を埋めるような供給指令のフィードバック制御によって、過負荷状態から安定状態への改善のための調整と、非接触状態から安定状態への改善のための調整とを行う。
【0077】
供給指令生成部28は、調整された供給速度に従った供給指令を生成する。ステップS8において、付加製造装置100は、当該区間へ、生成された供給指令に従った加工を実施する。被加工物の加工が完了していない場合(ステップS9,No)、付加製造装置100は、ステップS2からの手順による動作を繰り返す。NC装置1は、加工が安定化するまで、ステップS4の工程を繰り返す。
【0078】
ステップS3においてThb≦Td≦Thaを満たすと判定された場合(ステップS3,Yes)、ステップS5において、誤差検出部31は、当該区間における被加工物の高さの誤差であるΔHを検出する。
【0079】
NC装置1は、ワイヤ5の先端部を、被加工物の高さの推定のための接触式のセンサとして機能させる。誤差検出部31は、ワイヤ5が被加工物に接触したときにワイヤ5にかかった負荷を表すTdを基に、被加工物の高さを推定する。ワイヤ5の先端部を接触式のセンサとして機能させるために、高さを推定するときに、ワイヤ5の先端部は、レーザビーム内の常に同じ位置において溶融している必要がある。
【0080】
図9は、
図1に示す付加製造装置100においてワイヤ5が溶融する位置について説明する図である。ワイヤ5の先端部が溶融する位置である点Aは、レーザビームの出力とワイヤ5の供給速度との関係によって決定される。ワイヤ5の温度は、ワイヤ5へレーザビームが照射する時間に比例して上昇する。ワイヤ5の温度が金属材料の融点に到達すると、ワイヤ5は溶融する。
【0081】
ワイヤ5の先端部は、先端部がレーザビームのビーム断面内に進入してからワイヤ5が融点に到達するまでの時間Twにおいて、ビーム断面内を移動する。ビーム断面の外縁と点Aとの間のX軸方向における距離Dは、次の式(1)を満足する。距離Dの単位はmmとする。Vは、ワイヤ5の供給速度とする。供給速度Vの単位はm
2/秒とする。θは、上記の基準面に対するワイヤ5の進行方向の角度とする。角度θの単位はradとする。時間Twの単位は秒とする。式(1)によると、ビーム断面における点Aの位置を表す距離Dと供給速度Vとには、比例関係が成り立つ。
D=Vcosθ×Tw ・・・(1)
【0082】
図10は、
図2に示すNC装置1が有する誤差検出部31による被加工物の高さの推定について説明する図である。
図10には、被加工物の高さと推定外乱トルクとの関係を表すグラフを示している。
図9に示す点Aが指令にしたがったワイヤ5の先端位置であるとして、被加工物の高さが基準高さよりも高かった場合、ワイヤ5の先端位置は、点Aからずれた位置となる。回転モータ4は、サーボアンプ34によって、ワイヤ5の先端位置と指令上における点Aとのずれに応じた比例制御が行われることから、当該ずれに比例した外乱トルクが発生する。よって、推定外乱トルクの大きさと被加工物の高さとには、比例関係が成り立つ。
【0083】
図10に示すように、被加工物の高さHが点Aにおける高さである高さH1よりも高くなるにしたがい、Tdは大きくなる。被加工物の高さHが高さH1よりも低い場合、Tdはゼロとなる。誤差検出部31は、被加工物の高さHが高さH1よりも高い場合において、
図10に示す関係を基に、被加工物の高さHを推定する。誤差検出部31は、推定された高さHと高さH1との誤差であるΔHを検出する。
【0084】
ステップS6では、条件調整部25は、ΔHの絶対値|ΔH|と第3閾値であるThcとを比較して、|ΔH|がThcよりも大きいか否かを判断する。Thcは、かかる長さの誤差があっても、被加工物の高さを高さH1と均一であるとみなすことが可能な長さとする。|ΔH|>Thcを満足する場合(ステップS6,Yes)、ステップS7において、条件調整部25は、当該区間についての供給速度を調整する。供給指令生成部28は、調整された供給速度に従った供給指令を生成する。ステップS8において、付加製造装置100は、当該区間へ、生成された供給指令に従った加工を実施する。このように、条件調整部25は、|ΔH|>Thcを満足する場合、被加工物の高さが均一な高さではないとみなして、供給速度を調整する。
【0085】
一方、|ΔH|>Thcを満足しない場合、すなわち|ΔH|がThc以下である場合(ステップS6,No)、条件調整部25は、ステップS7による動作をスキップする。供給指令生成部28は、条件設定部24にて設定された供給速度に従った供給指令を生成する。ステップS8において、付加製造装置100は、当該区間へ、生成された供給指令に従った加工を実施する。このように、条件調整部25は、|ΔH|>Thcを満足しない場合、被加工物の高さが均一な高さであるものとみなして、供給速度の調整を省略する。
【0086】
ステップS8の後、付加製造装置100は、ステップS9にて、被加工物の加工が完了したか否かを判断する。被加工物の加工が完了していない場合(ステップS9,No)、付加製造装置100は、ステップS2からの手順による動作を繰り返す。被加工物の加工が完了した場合(ステップS9,Yes)、付加製造装置100は、
図7に示す手順による動作を終了する。
【0087】
次に、NC装置1での処理における複数の区間の設定について説明する。
図11は、
図2に示すNC装置1での処理における複数の区間の設定について説明する図である。被加工物において、高さの誤差は、被加工物における加工の進行方向において連続的に変化するように生じる。これに対し、条件調整部25は、回転モータ4の加減速処理あるいは回転モータ4の応答速度といった影響により、ワイヤ5の供給速度を連続的に変化させることが困難である。したがって、条件調整部25は、被加工物における加工の進行方向において区分けされた複数の区間の各々におけるワイヤ5の供給速度を調整する。
【0088】
図11には、被加工物に形成された1つのビード70を示している。
図11に示す例では、ビード70が形成されるときにおける加工の進行方向は、X軸方向である。状態判定部30は、X軸方向において被加工物を複数の区間に区分けし、区間ごとの推定外乱トルクを取得部29から読み込む。各区間は、X軸方向においてΔxの長さを有する。状態判定部30は、区間ごとに読み込まれた推定外乱トルクを基に、区間ごとの接触状態を判定する。条件調整部25は、状態判定部30において過負荷状態と判定された区間について、供給速度を低くする調整を行う。条件調整部25は、状態判定部30において非接触状態と判定された区間について、供給速度を高くする調整を行う。
【0089】
誤差検出部31は、状態判定部30と同様に、区間ごとの推定外乱トルクを取得部29から読み込む。誤差検出部31は、区間ごとに読み込まれた推定外乱トルクを基に、区間ごとにおける高さの誤差を検出する。
【0090】
図12は、
図2に示すNC装置1による区間ごとの誤差の検出と区間ごとの供給量の調整とについて説明する図である。ビード71は、ビード70の1つ上に形成されるビードとする。誤差検出部31は、ビード71を形成するときに、ビード70の区間ごとにおける誤差を検出する。
【0091】
ビード71のうち、複数の区間のうちマイナスX方向側の端の区間である区間72の加工が開始される位置73にビーム断面中心が到達してから、推定外乱トルクが整定するまでの時間が経過したときに、誤差検出部31は、区間72における推定外乱トルクを読み込む。誤差検出部31は、読み込まれた推定外乱トルクと、上記の
図10に示す関係とを基に、区間72についての高さの推定値を求める。かかる推定値は、H1と算出される。誤差検出部31により、算出された推定値であるH1と基準高さである高さH1との誤差であるΔHは、ゼロと算出される。付加製造装置100は、ΔHがゼロであるとの検出結果に基づいて、条件設定部24にて設定された供給速度の調整を行わずに、区間72へワイヤ5を供給する。これにより、付加製造装置100は、区間72では加工条件に従った供給量での加工を行うことによって、高さH2に到達するビード71を形成する。
【0092】
誤差検出部31は、区間72以外の区間についても、区間72と同様に誤差を検出する。
図12に示す区間74は、ビード70の凸部が含まれる区間の1つである。区間74について、誤差検出部31は、区間74の加工が開始される位置75にビーム断面中心が到達してから、推定外乱トルクが整定するまでの時間が経過したときに、区間74における推定外乱トルクを読み込む。区間74についての高さの推定値がH3と算出されたとすると。誤差検出部31により、ΔHは(H3−H1)と算出される。ΔHの絶対値である|H3−H1|が上記Thcよりも大きい場合、条件調整部25は、条件設定部24での設定に基づく供給速度の値よりも区間74における速度値を下げる調整を行う。これにより、付加製造装置100は、区間74では加工条件に従った供給量よりも少ない供給量での加工を行う。付加製造装置100は、このように供給量を調整して、区間74における高さの誤差を相殺させることによって、区間74においても高さH2に到達するビード71を形成する。このようにして、付加製造装置100は、被加工物の高さを均一化させることができる。
【0093】
条件調整部25は、各区間において、ビーム断面中心が区間を通過する間に供給速度を変化させる調整を行う。
図13は、
図2に示すNC装置1による区間内における供給速度の調整について説明する図である。
図13に示すグラフは、2つの区間内における供給速度の推移を表している。グラフの縦軸はワイヤ5の供給速度Vを表し、横軸は時刻tを表す。速度値V1は、加工条件に従った速度値とする。
【0094】
NC装置1は、区間ごとの誤差検出と供給速度の調整とを繰り返すことによって、被加工物の高さを均一化させる。NC装置1は、高さの均一化のための制御において、次に示す第1から第5の工程を実行する。
【0095】
第1の工程では、条件調整部25は、供給速度Vを速度値V1とする調整を行う。第2の工程では、誤差検出部31は、速度値V1でのワイヤ5の供給時における推定外乱トルクを基に被加工物の高さを推定し、誤差を検出する。第3の工程では、条件調整部25は、検出された誤差を相殺可能とするワイヤ5の供給量を算出する。第4の工程では、条件調整部25は、算出された供給量を、供給速度Vの時系列データに変換する。第5の工程では、供給指令生成部28は、時系列データに基づいた供給指令を生成し、生成された供給指令を出力する。
【0096】
図13において、時間Taは、
図12に示す区間74をビーム断面中心が通過する時間とする。時間Taは、加工条件に従った送り速度F1で加工ヘッド10をΔxだけ移動させるのに必要な時間である。時間Taの開始時の前までにおいて、区間74における高さ推定のための第1の工程によって、時間Taの開始時において供給速度Vは速度値V1に調整されている。時間t1は、速度値V1までの供給速度の加速後に推定外乱トルクが整定するまでに必要な時間である。時間t1において、NC装置1は、第2の工程から第4の工程までを行う。
【0097】
誤差検出部31は、ワイヤ5が送り出される速度である供給速度Vが速度値V1であってかつ整定しているときの推定外乱トルクを基に、高さの誤差を検出する。これにより、誤差検出部31は、ワイヤ5の先端の位置が安定した状態において誤差を検出することができる。
【0098】
時間Taのうち時間t1以降の時間t2,t3では、加工条件に従った供給量と算出された供給量との差に応じて供給速度Vを変化させる。区間74では、誤差が上記のプラス誤差であることから、加工条件に従った供給量よりも少ない供給量が算出される。条件調整部25は、時間t1に続く時間t2においてワイヤ5の供給を速度値V1から減速させ、時間t2に続く時間t3においてワイヤ5の供給を加速させる。条件調整部25は、時間t2と時間t3とにおいて、加工条件に従った供給量よりも供給量を少なくさせる調整を行う。
【0099】
時間t2において、供給速度Vは速度値V1から速度値Vaにまで低下する。時間t3において、供給速度Vは速度値Vaから速度値V1にまで増加する。かかる時間t3では、プラスX方向において区間74の隣に位置する区間における高さ推定のための第1の工程が行われる。時間t2と時間t3とは、同じ長さの時間であっても良い。条件調整部25は、算出された供給量に応じて速度値Vaを決定する。
【0100】
ビーム断面中心が距離xを移動する間における供給量をWとして、次の式(2)が成り立つ。供給量Wの単位はmmとする。時間t1、時間t2および時間t3の単位は秒とする。速度値V1および速度値Vaの単位はmm/秒とする。式(2)の右辺は、
図13において、時間Taにおける供給速度Vのグラフと横軸とに挟まれた部分の面積を表す。
W=V1×t1+{(V1+Va)×t2}/2+{(V1+Va)×t3}/2 ・・・(2)
【0101】
t2=t3が成り立つとして、式(2)のt3へt2を代入し、かつ式(2)を変形することによって、次の式(3)が得られる。条件調整部25は、算出された供給量Wと式(3)とを基に、速度値Vaを算出する。
Va={W−V1(t1+t2)}/t2 ・・・(3)
【0102】
時間Tbは、
図12に示す区間74の隣の区間をビーム断面中心が通過する時間であって、時間Taと同じ長さの時間である。時間Tbにおいても、NC装置1は、時間Taと同様に供給速度Vを推移させる。条件調整部25は、当該区間について算出された供給量に応じて、時間Tbにおける速度値Vbを決定する。
【0103】
実施の形態1によると、NC装置1は、外乱トルクの推定値に基づいて被加工物の高さの誤差を検出し、誤差に基づいてワイヤ5の供給量を調整する。付加製造装置100は、NC装置1による供給量の調整によって、被加工物の高さを均一化することができる。これにより、NC装置1は、高い加工精度による加工を付加製造装置100に行わせることができるという効果を奏する。
【0104】
なお、実施の形態1において、ビームはレーザビーム以外のビームであっても良く、電子ビームであっても良い。付加製造装置100は、ビーム源である電子ビーム発生源を備えるものであっても良い。NC装置1は、ビームがレーザビーム以外のビームである場合も、高い加工精度による加工を付加製造装置100に行わせることができる。
【0105】
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
数値制御装置(1)は、駆動部である回転モータ(4)の駆動力によって送り出された材料であるワイヤ(5)へビームを照射し、溶融させた材料を被加工物へ付加して造形物を製造する付加製造装置(100)を制御する。数値制御装置(1)は、材料を堆積させる高さ方向における被加工物の高さの誤差を検出する誤差検出部(31)を備える。数値制御装置(1)は、誤差に基づいて材料の供給量を調整する調整部である条件調整部(25)を備える。