(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6625345
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】電気二重層キャパシタの電圧保持率特定装置および電気二重層キャパシタの電圧保持率特定方法
(51)【国際特許分類】
H01G 13/00 20130101AFI20191216BHJP
H01G 11/00 20130101ALI20191216BHJP
H02J 7/10 20060101ALI20191216BHJP
H02J 7/02 20160101ALI20191216BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20191216BHJP
【FI】
H01G13/00 361F
H01G11/00
H02J7/10 B
H02J7/10 H
H02J7/10 J
H02J7/02 F
H02J7/00 Q
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-98765(P2015-98765)
(22)【出願日】2015年5月14日
(65)【公開番号】特開2016-219447(P2016-219447A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104787
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 伸司
(72)【発明者】
【氏名】小林 健二
(72)【発明者】
【氏名】池田 正和
【審査官】
須藤 竜也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−133189(JP,A)
【文献】
特開2003−153454(JP,A)
【文献】
特開2001−257008(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/128635(WO,A1)
【文献】
特開2016−143580(JP,A)
【文献】
特表2016−539320(JP,A)
【文献】
特開2001−289924(JP,A)
【文献】
特開2002−162451(JP,A)
【文献】
特開2004−101188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/00
H01G 13/00
H01M 10/48
G01R 31/36 − 31/396
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
定格電圧に充電されている検査対象の電気二重層キャパシタに対して当該定格電圧で定電圧充電する充電部と、
前記定格電圧での定電圧充電状態において前記電気二重層キャパシタに流れる電流を検出すると共に電圧信号に変換して出力する電流検出部と、
前記定電圧充電状態において前記電流の値が徐々に減少する過渡期間を経た後に前記電流の値がほぼ一定となる定常期間に移行する前記電流の当該過渡期間における、前記電流の値の変化の度合いが大きな前記過渡期間の前半の期間での過渡電流波形の特徴を前記電圧信号に基づいて取得すると共に、当該取得した特徴に基づいて前記電気二重層キャパシタの電圧保持率を特定する特定処理を実行する処理部とを備えている電気二重層キャパシタの電圧保持率特定装置。
【請求項2】
前記検査対象と同じ仕様の複数の電気二重層キャパシタを前記特徴の類似するもの同士にグループ化して生成した複数のグループと、当該複数のグループのそれぞれについてのグループ化した前記電気二重層キャパシタの前記電圧保持率が含まれる保持率範囲とを関連付ける関連付け情報が記憶された記憶部を有し、
前記処理部は、前記特定処理において、前記関連付け情報を参照することにより、前記取得した特徴に関連付けされた前記保持率範囲内に前記検査対象の電気二重層キャパシタの前記電圧保持率が含まれると特定する請求項1記載の電気二重層キャパシタの電圧保持率特定装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記過渡電流波形の形状を前記特徴として取得する請求項1または2記載の電気二重層キャパシタの電圧保持率特定装置。
【請求項4】
前記処理部は、前記過渡期間の始期から所定時間を経過した時点での前記過渡電流波形の電流値を前記特徴として取得する請求項1または2記載の電気二重層キャパシタの電圧保持率特定装置。
【請求項5】
定格電圧に充電されている電気二重層キャパシタに対して当該定格電圧で定電圧充電する処理と、
前記定格電圧での定電圧充電状態において前記電気二重層キャパシタに流れる電流を検出すると共に電圧信号に変換して出力する処理と、
前記定電圧充電状態において前記電流の値が徐々に減少する過渡期間を経た後に前記電流の値がほぼ一定となる定常期間に移行する前記電流の当該過渡期間における、前記電流の値の変化の度合いが大きな前記過渡期間の前半の期間での過渡電流波形の特徴を前記電圧信号に基づいて取得すると共に、当該取得した特徴に基づいて前記電気二重層キャパシタの電圧保持率を特定する特定処理とを実行する電気二重層キャパシタの電圧保持率特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層キャパシタの電圧保持率を特定する電圧保持率特定装置および電圧保持率特定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の電圧保持率特定装置の一例として、下記の特許文献1に開示された漏れ電流の検査システムが知られている。なお、後述するように、漏れ電流は電気二重層キャパシタの充電電圧の減少比率にほぼ比例し、したがって、漏れ電流は電気二重層キャパシタの充電電圧の保持率(電圧保持率)にほぼ反比例することから、この漏れ電流の検査システムは、電圧保持率を特定する電圧保持率特定装置でもある。
【0003】
この漏れ電流の検査システム(電圧保持率特定装置)は、電気二重層キャパシタ(以下、単にキャパシタともいう)を充放電する充放電装置と、充放電装置にデータ通信回線を通じて接続し充放電装置を制御する制御装置とを備えたキャパシタの漏れ電流の検査システムである。この検査システムでは、充放電装置は、設定時間の間、設定電圧を保ちながらキャパシタを充電しつつキャパシタに流れる電流(緩和充電時に流れる電流)を測定し、制御装置は、充放電装置から電流のデータを取得して、上記の設定時間の間にキャパシタに流れる定常電流を演算する。
【0004】
この場合、この緩和充電時に流れる定常電流は、漏れ電流と密接な関係を持ち、従来の放置試験(キャパシタを一定電圧まで充電し、そのまま一定時間(JIS D1401では、72時間(3日間))放置した後の電圧を充電完了直後の電圧と比較して漏れ電流の程度を間接的に把握する試験)において漏れ電流の評価に用いられてきた自己放電時のキャパシタの充電電圧の減少比率にほぼ比例することが確認されている。したがって、この検査システムでは、緩和充電時に流れている定常電流を測定することで、漏れ電流を評価することが可能となっている。なお、この検査システムでは、この評価に際して、算出した定常電流を、従来の放置試験において漏れ電流の評価に用いられてきた充電電圧の減少比率に換算することも可能となっている。
【0005】
この漏れ電流の検査システムは、上記のようにして漏れ電流を評価するものであり、従来のように電気二重層キャパシタの充電電圧の低下の度合いから漏れ電流を間接的に測定するものではなく、緩和充電時の定常電流に基づいて判断するものであることから、この漏れ電流の検査システムによれば、キャパシタの漏れ電流(つまり、充電電圧の減少比率)、ひいては充電電圧の保持率を検査する際の試験時間を短縮することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−133189号公報(第2−4頁、第1−2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記した漏れ電流の検査システム(電圧保持率特定装置)には、以下のような解決すべき課題が存在している。すなわち、近年では、キャパシタの漏れ電流についての検査(減少比率についての検査)に要する時間、つまり、等価的にはキャパシタの電圧保持率についての検査に要する時間の更なる短縮が望まれている。しかしながら、この電圧保持率特定装置では、定常電流を測定しなければならないために、緩和充電時に流れる電流が定常状態となるまで常に待つ必要があることに起因して、電圧保持率の特定に要する時間の更なる短縮が難しいという解決すべき課題が存在している。
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、電気二重層キャパシタの電圧保持率の特定に要する時間をさらに短縮し得る電気二重層キャパシタの電圧保持率特定装置および電気二重層キャパシタの電圧保持率特定方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく請求項1記載の電気二重層キャパシタの電圧保持率特定装置は、定格電圧に充電されている検査対象の電気二重層キャパシタに対して当該定格電圧で定電圧充電する充電部と、前記定格電圧での定電圧充電状態において前記電気二重層キャパシタに流れる電流を検出すると共に電圧信号に変換して出力する電流検出部と、前記定電圧充電状態において
前記電流の値が徐々に減少する過渡期間を経た後に前記
電流の値がほぼ一定となる定常期間に移行する前記電流の当該過渡期間
における、前記電流の値の変化の度合いが大きな前記過渡期間の前半の期間での過渡電流波形の特徴を前記電圧信号に基づいて取得すると共に、当該取得した特徴に基づいて前記電気二重層キャパシタの電圧保持率を特定する特定処理を実行する処理部とを備えている。
【0010】
請求項2記載の電気二重層キャパシタの電圧保持率特定装置は、請求項1記載の電気二重層キャパシタの電圧保持率特定装置において、前記検査対象と同じ仕様の複数の電気二重層キャパシタを前記特徴の類似するもの同士にグループ化して生成した複数のグループと、当該複数のグループのそれぞれについてのグループ化した前記電気二重層キャパシタの前記電圧保持率が含まれる保持率範囲とを関連付ける関連付け情報が記憶された記憶部を有し、前記処理部は、前記特定処理において、前記関連付け情報を参照することにより、前記取得した特徴に関連付けされた前記保持率範囲内に前記検査対象の電気二重層キャパシタの前記電圧保持率が含まれると特定する。
【0011】
請求項3記載の電気二重層キャパシタの電圧保持率特定装置は、請求項1または2記載の電気二重層キャパシタの電圧保持率特定装置において、前記処理部は、前記過渡電流波形の形状を前記特徴として取得する。
【0012】
請求項4記載の電気二重層キャパシタの電圧保持率特定装置は、請求項1または2記載の電気二重層キャパシタの電圧保持率特定装置において、前記処理部は、前記過渡期間の始期から所定時間を経過した時点での前記過渡電流波形の電流値を前記特徴として取得する。
【0013】
請求項5記載の電気二重層キャパシタの電圧保持率特定方法は、定格電圧に充電されている電気二重層キャパシタに対して当該定格電圧で定電圧充電する処理と、前記定格電圧での定電圧充電状態において前記電気二重層キャパシタに流れる電流を検出すると共に電圧信号に変換して出力する処理と、前記定電圧充電状態において
前記電流の値が徐々に減少する過渡期間を経た後に前記
電流の値がほぼ一定となる定常期間に移行する前記電流の当該過渡期間
における、前記電流の値の変化の度合いが大きな前記過渡期間の前半の期間での過渡電流波形の特徴を前記電圧信号に基づいて取得すると共に、当該取得した特徴に基づいて前記電気二重層キャパシタの電圧保持率を特定する特定処理とを実行する。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の電気二重層キャパシタの電圧保持率特定装置および請求項
5記載の電気二重層キャパシタの電圧保持率特定方法では、検査対象の電気二重層キャパシタの電圧保持率の特定に際しては、定常期間に移行する前の過渡期間
における、電気二重層キャパシタに流れる電流の値の変化の度合いが大きなこの過渡期間の前半の期間での過渡電流波形の特徴を取得し、この特徴に基づいて、検査対象の電圧保持率を特定する。具体的には、請求項2記載の電気二重層キャパシタの電圧保持率特定装置のように、取得しておいた関連付け情報を参照することにより、取得した過渡電流波形についての特徴に関連付けられている保持率範囲を検査対象の電圧保持率が含まれる保持率範囲であると特定する。
【0015】
したがって、この電気二重層キャパシタの電圧保持率特定装置およびこの電気二重層キャパシタの電圧保持率特定方法によれば、背景技術で説明した漏れ電流の検査システム(電圧保持率特定装置)とは異なり、電気二重層キャパシタに流れる電流が定常状態となるまで待つ必要が無いため、検査対象の電圧保持率の特定に要する時間を十分に短縮することができる。
【0016】
請求項3記載の電気二重層キャパシタの電圧保持率特定装置によれば、電気二重層キャパシタに流れる電流についての過渡電流波形の形状に現れる特徴(形状についての特徴)を取得する構成のため、所定の時間における電流値だけではなく、この電流値の減少の度合いなどを考慮してより正確にグループ化することが可能となる結果、このような正確なグループ化によって生成されたグループと、このグループに関連付けされた保持率範囲とに基づいて、検査対象の電圧保持率をより正確に特定することができる。
【0017】
請求項4記載の電気二重層キャパシタの電圧保持率特定装置によれば、所定時間での過渡電流波形の電流値だけを測定するだけで済むため、過渡電流波形についての波形を測定する構成と比較して、装置構成を簡略化でき、その結果として装置コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】電圧保持率特定装置1が電気二重層キャパシタ11を充電する際の充電電流Ichの波形図である。
【
図3】複数のサンプルについての
図2における期間T1aでの過渡電流波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、電気二重層キャパシタの電圧保持率特定装置および電圧保持率特定方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0020】
最初に、電気二重層キャパシタの電圧保持率特定装置の構成について、図面を参照して説明する。
【0021】
図1に示す電気二重層キャパシタの電圧保持率特定装置としての電圧保持率特定装置1は、充電部2、電流検出部3、記憶部4および処理部5を備え、検査対象の電気二重層キャパシタ(以下、キャパシタともいう)11の電圧保持率Aを特定する。
【0022】
充電部2は、処理部5によって制御されることにより、電圧保持率特定装置1の検出端子P1,P2間にプローブPL1,PL2を介して接続されたキャパシタ11に対して、定電流充電する動作(定電流充電動作)と、定電圧充電する動作(定電圧充電動作)とを切り替えて実行可能に構成されている。
【0023】
電流検出部3は、充電部2によるキャパシタ11に対する充電動作の際に流れる電流(充電電流)Ichの電流ループ内に配設されて、この充電電流Ichを連続的に時系列に検出すると共に、電圧信号Vi(例えば、充電電流Ichの電流値に比例して電圧値が変化する信号)に変換して出力する。
【0024】
記憶部4は、ハードディスク装置や半導体メモリなどで構成されている。この記憶部4には、検査対象のキャパシタ11を定電圧充電した際に測定(取得)される後述の過渡電流波形の特徴に基づいて、このキャパシタ11の電圧保持率Aを特定するための情報Dreが予め記憶されている。具体的には、この情報Dreは、関連付け情報として機能して、検査対象のキャパシタ11と同じ仕様の複数の電気二重層キャパシタ(良品)がグループ化されて生成される複数(n個:nは2以上の整数)のグループGP1,GP2,・・・,GPn(電気二重層キャパシタの過渡電流波形に現れる特徴の類似する(特徴が共通する)もの同士をグループ化することで生成されるグループ:以下、区別しないときには「グループGP」ともいう)と、この複数のグループGP1,GP2,・・・,GPnのそれぞれについてのグループ化された電気二重層キャパシタの電圧保持率Bが含まれる保持率範囲Rb1,Rb2,・・・,Rbn(以下、区別しないときには「保持率範囲Rb」ともいう)とを関連付ける。
【0025】
この関連付け情報Dreの取得手順について説明する。まず、検査対象のキャパシタ11と同じ仕様の電気二重層キャパシタをランダムに複数個選択し、選択した各電気二重層キャパシタに対して、JIS D1401に規定されている下記の試験手順(第1〜第3ステップ)に従って第1試験を実施して、電圧保持率Bを測定(取得)する。
第1ステップ:放電状態の電気二重層キャパシタを、充電電圧が定格電圧になるまで定電流充電する。ここで、「定格電圧」とは、電気二重層キャパシタが安全に使用し得る充電電圧の限度の電圧であり、電気二重層キャパシタのカタログや仕様書に記載されている定格電圧を意味する。
第2ステップ:定格電圧に充電されている電気二重層キャパシタを、上記の規格に規定されている時間(300秒間)だけ、さらに定格電圧と同じ電圧で定電圧充電する。
第3ステップ:定電圧充電が完了した電気二重層キャパシタの端子間を開放状態に設定して、上記の規格に規定されている時間(72時間)放置後の端子間電圧(充電電圧)を測定し、定格電圧に対するこの測定された端子間電圧の比率を電圧保持率Bとして算出する。
【0026】
次いで、電圧保持率Bを算出した各電気二重層キャパシタに対して、以下の試験手順(第aおよび第bステップ)に従って第2試験を実施して、後述の過渡電流波形の特徴を測定(取得)する。
第aステップ:放電状態の電気二重層キャパシタをその充電電圧が定格電圧になるまで、
図2に示すように、一定の電流値の充電電流Ichで定電流充電する。
第bステップ:定格電圧に充電された電気二重層キャパシタをさらに定格電圧と同じ電圧で定電圧充電しつつ、この定電圧充電状態での充電電流Ichの波形を測定(取得)する。具体的には、定電圧充電状態での充電電流Ichは、
図2に示すように、電流値が徐々に減少する過渡期間T1を経た後に、電流値が一定となる定常期間T2に最終的に移行するが、この第bステップでは、この定常期間T2に移行する前の過渡期間T1(特に、電流値の変化の度合いが大きな過渡期間T1の前半の期間T1a)での充電電流Ichの波形(過渡電流波形)を測定する。なお、電気二重層キャパシタによっては、上記の期間T1a中に、電流値の変化の度合いが小さくなることもあるが、この場合でも、他の電気二重層キャパシタと同じ期間T1aの波形を測定する。
【0027】
続いて、特徴を取得した各電気二重層キャパシタに対して、特徴が類似(共通)するもの同士をグループ化する。次いで、グループ化によって生成された複数のグループGPのそれぞれについて、グループGPに含まれる各電気二重層キャパシタの電圧保持率Bの範囲を保持率範囲Rbとして求める。最後に、複数のグループGPのそれぞれについて求めた保持率範囲Rbを、対応するグループGPに関連付けて、関連付け情報Dreとして記憶部4に記憶させる。これにより、関連付け情報Dreの取得が完了する。
【0028】
このように、電気二重層キャパシタには、上記の定電圧充電中の充電電流Ichについての過渡期間での過渡電流波形に現れる特徴と、電圧保持率が含まれる保持率範囲との間に相関関係があることについて、1000Fの電気二重層キャパシタを例に挙げて説明する。
【0029】
まず、この電気二重層キャパシタの複数のサンプルに対して第1試験を実施して、各サンプルの電圧保持率Bを測定(取得)した。この結果、これらのサンプルでは、昇順で、68.0%,88.0%,89.7%,90.3%,91.0%,94.3%,94.4%,95.7%、95.7%という電圧保持率Bが取得された。
【0030】
次いで、第2試験を実施して、各サンプルの過渡期間T1の前半の期間T1aでの充電電流Ichの波形(過渡電流波形)を測定(取得)した。この結果を
図3に示す。
【0031】
この
図3の各波形に基づくと、取得した充電電流Ichの波形は、以下のような互いに異なる特徴に着目して、3つのグループGP(第1グループGP1,第2グループGP2,第3グループGP3)に分類された。
【0032】
まず、第1グループGP1としてグループ化された電気二重層キャパシタについての充電電流Ichの過渡電流波形の特徴(波形の形状についての特徴)は、電流値が、定電圧充電の開始(
図3中の0時間)から比較的早い時間ta(同図では約5時間後)にある程度小さい値(同図ではIa(約0.003A)未満の値)に達し、かつその後も減少の度合いが徐々に少なくなりながら定常状態での値(定常値。例えば、0.0003A)に向けて低下するという第1の特徴である。
【0033】
また、第2グループGP2としてグループ化された電気二重層キャパシタについての充電電流Ichの過渡電流波形の特徴(波形の形状についての特徴)は、電流値が、定電圧充電の開始から上記の時間taが経過した時点では上記の値Iaには達してはいないものの、その後も減少の度合いは徐々に少なくなりながらも減少し続けて、
図3には記載されていないが、最終的には(例えば、40時間程度経過した時点においては)、上記した第1グループGP1の電気二重層キャパシタについての定常値とほぼ同程度の小さい値に達するという第2の特徴である。
【0034】
また、第3グループGP3としてグループ化された電気二重層キャパシタについての充電電流Ichの過渡電流波形の特徴(波形の形状についての特徴)は、電流値が、定電圧充電の開始から上記の時間taに上記の値Ia未満の値に達するものの、その後は急激に減少の度合いが低下することで、比較的短時間に上記した他のグループGP1,GP2の電気二重層キャパシタについての定常値よりも極めて高い値(例えば、0.001Aのように一桁以上高い値)で定常状態に達するという第3の特徴である。
【0035】
続いて、各グループGP1,GP2,GP3のそれぞれについて、グループGPに含まれるサンプルの電圧保持率Bの範囲を保持率範囲Rbとして求めた。この例では、第1グループGP1に含まれるサンプルの電圧保持率Bは、94.3%,94.4%,95.7%、95.7%であり、第2グループGP2に含まれるサンプルの電圧保持率Bは、89.7%,90.3%,91.0%であり、第3グループGP3に含まれるサンプルの電圧保持率Bは、68.0%,88.0%であった。
【0036】
したがって、第1グループGP1に含まれる各サンプルの電圧保持率Bについての保持率範囲Rb1を93%以上と規定し、第2グループGP2に含まれる各サンプルの電圧保持率Bについての保持率範囲Rb2を89%以上93%未満と規定し、第3グループGP3に含まれる各サンプルの電圧保持率Bについての保持率範囲Rb3を89%未満と規定することで、保持率範囲Rb1と第1グループGP1とを、また保持率範囲Rb2と第2グループGP2とを、また保持率範囲Rb3と第3グループGP3とをそれぞれ関連付けできることが確認された。つまり、電気二重層キャパシタには、上記の定電圧充電中の充電電流Ichについての過渡期間での過渡電流波形に現れる特徴と、電圧保持率が含まれる保持率範囲との間に相関関係があることが確認された。
【0037】
処理部5は、例えば、A/D変換器、メモリおよびCPUなどを備えて、充電部2に対する制御処理(具体的には、定電流充電時の充電電流Ichの電流値を設定する処理、および定電圧充電時の電圧値を設定する処理)と、電流検出部3から出力される電圧信号Viに基づいて充電電流Ichの過渡電流波形を測定する波形測定処理と、測定した過渡電流波形の特徴を取得する特徴取得処理と、この取得した特徴に基づいて検査対象となっているキャパシタ11の電圧保持率Aを特定する特定処理とを実行する。また、処理部5は、特定した電圧保持率Aを出力する出力処理についても実行可能に構成されている。この出力処理では、電圧保持率特定装置1にディスプレイ装置などの出力装置を設けて、この出力装置に電圧保持率Aを出力したり、電圧保持率特定装置1の外部に設けられた他の装置に対して電圧保持率Aを出力したりすることができる。
【0038】
次に、電圧保持率特定装置1の動作を、電圧保持率特定方法と併せて図面を参照して説明する。なお、本例では一例として、上記したサンプルと同一仕様のキャパシタ11を検査対象とし、記憶部4には、このサンプルについての上記した関連付け情報Dre(
図3に記載されている情報)が予め記憶されているものとする。
【0039】
電圧保持率特定装置1では、検査対象とするキャパシタ11がプローブPL1,PL2を介して検出端子P1,P2間に接続されている状態において、処理部5が、キャパシタ11の電圧保持率Aを特定するための処理を実行する。
【0040】
この処理では、処理部5は、まず、充電部2に対する制御処理を実行して、定電流充電時での充電電流Ichの電流値と、定電圧充電時での充電電圧の電圧値(本例では、定電流充電時にキャパシタ11を定格電圧まで充電するため、定格電圧値)とを充電部2に設定すると共に、充電部2に対して充電動作を開始させる。
【0041】
これにより、充電部2は、まず、設定された電流値の充電電流Ichでの定電流充電をキャパシタ11に対して実行し、その後、キャパシタ11の充電電圧値が定格電圧値に達した時点で、定電流充電から定電圧充電に切り替えてキャパシタ11への充電を継続する。なお、他の充電装置などによって既に定格電圧に充電されているキャパシタ11を検査対象とするときには、電圧保持率特定装置1は、定電流充電動作を省いて、定電圧充電動作から開始する。
【0042】
電流検出部3は、充電部2がキャパシタ11を充電している際にキャパシタ11に流れる充電電流Ichを連続的に時系列に検出すると共に電圧信号Viに変換して処理部5に出力する。
【0043】
次いで、処理部5は、波形測定処理を実行する。この波形測定処理では、処理部5は、
図2に示す期間T1aにおいて電流検出部3から出力される電圧信号Viに基づいて、この期間T1aでの充電電流Ichの波形(過渡電流波形)を測定(取得)する。
【0044】
続いて、処理部5は、特徴取得処理を実行する。この特徴取得処理では、処理部5は、取得した過渡電流波形に現れている特徴が、関連付け情報Dreに含まれている各グループGPにグループ化する際の各特徴(この例では、第1の特徴、第2の特徴および第3の特徴)のうちのいずれに該当するかを判別することで、充電電流Ichの過渡電流波形の特徴を取得する。
【0045】
次いで、処理部5は、特定処理を実行する。この特定処理では、処理部5は、記憶部4に記憶されている関連付け情報Dreを参照することにより、取得した充電電流Ichの過渡電流波形についての特徴に関連付けられている保持率範囲Rbを特定する(本例では、保持率範囲Rb1〜Rb3のいずれか1つを特定する)。これにより、特定処理が完了する。最後に、処理部5は、出力処理を実行して、検査対象のキャパシタ11の電圧保持率Aが、このようにして特定した保持率範囲Rbに含まれる値であることを出力する。これにより、キャパシタ11の電圧保持率Aを特定するための処理が完了する。
【0046】
このように、このキャパシタ(電気二重層キャパシタ)の電圧保持率特定装置1およびその電圧保持率特定方法では、定電圧充電されている状態において測定される充電電流Ichの電流値が一定となる定常期間T2に移行する前の過渡期間T1(具体的には、期間T1a)での充電電流Ichについての過渡電流波形の特徴に基づいて、キャパシタ11の電圧保持率Aを特定する。具体的には、検査対象と同じ仕様の複数の電気二重層キャパシタを上記の特徴の類似(共通)するもの同士にグループ化して生成した複数のグループGPと、複数のグループGPのそれぞれについてのグループ化した電気二重層キャパシタの電圧保持率Bが含まれる保持率範囲Rbとを関連付ける関連付け情報Dreを予め取得しておき、検査対象のキャパシタ11の電圧保持率Aの特定に際しては、上記した充電電流Ichについての過渡電流波形の特徴を測定(取得)し、取得しておいた関連付け情報Dreを参照することにより、取得した充電電流Ichの過渡電流波形についての特徴に関連付けられている保持率範囲Rbを検査対象の電気二重層キャパシタの電圧保持率Aが含まれる保持率範囲であると特定する。
【0047】
したがって、このキャパシタ(電気二重層キャパシタ)の電圧保持率特定装置1およびその電圧保持率特定方法によれば、背景技術で説明した漏れ電流の検査システム(電圧保持率特定装置)とは異なり、充電電流Ichが定常状態となるまで待つ必要が無いため、キャパシタ11の電圧保持率Aの特定に要する時間を十分に短縮することができる。
【0048】
また、このキャパシタの電圧保持率特定装置1およびその電圧保持率特定方法によれば、充電電流Ichについての過渡電流波形の形状に現れる特徴(形状についての特徴)を取得(測定)する構成のため、所定の時間における電流値だけではなく、この電流値の減少の度合いなどを考慮してより正確にグループ化することが可能となる結果、このような正確なグループ化によって生成されたグループGPと、このグループGPに関連付けされた保持率範囲Rbとに基づいて、キャパシタ11の電圧保持率Aをより正確に特定することができる。
【0049】
なお、充電電流Ichの過渡電流波形をグループ化する際に使用されるこの過渡電流波形の特徴については、上記した例のように、過渡電流波形の形状についての特徴に限定されず、例えば、
図4に示すように、過渡期間T1の始期(0時間のとき)から所定時間tb(この例では13時間)を経過した時点での過渡電流波形の電流値(同図中において○印での電流値)を、過渡電流波形の特徴として取得する構成を採用することもできる。この場合、同図に示すように、過渡電流波形の所定時間tbでの電流値が、電流閾値Ith1以下となる過渡電流波形についての特徴を有するキャパシタを第1グループとしてグループ化し、電流閾値Ith1を超え電流閾値Ith2以下となる過渡電流波形についての特徴を有するキャパシタを第2グループとしてグループ化し、電流閾値Ith2を超えるという過渡電流波形についての特徴を有するキャパシタを第3グループとしてグループ化する。
【0050】
この構成によれば、所定時間tbでの過渡電流波形の電流値だけを測定するだけで済むため、過渡電流波形についての波形を測定する構成と比較して、装置構成を簡略化でき、その結果として装置コストの低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 電圧保持率特定装置
2 充電部
3 電流検出部
5 処理部
11 キャパシタ
Dre 関連付け情報
Ich 充電電流