【実施例】
【0018】
本発明の実施例として、
図1に示すような、圧延機1基と入側テンションリール、出側テンションリールより構成されるシングルスタンド圧延機へ適用する場合につき説明する。
【0019】
図1に、シングルスタンド圧延機の制御構成を示す。シングルスタンド圧延機は、圧延機1の圧延方向(本図の場合は左から右方向)に対して入側に入側テンションリール2、出側に出側テンションリール3を持ち、圧延は、入側テンションリール2から巻き出された被圧延材30を圧延機1で圧延した後、出側テンションリール3で巻き取る事により行われる。圧延機1は、被圧延材30をはさんで被圧延材30側から上作業ロール121A、下作業ロール121B、上中間ロール122A、下中間ロール122B、上バックアップロール123A、下バックアップロール123Bより構成され、上下作業ロール間のロールギャップを変更する事で、被圧延材30の板厚を制御する事を可能とするためのロールギャップ制御装置7と圧延機1の速度を制御するためのミル速度制御装置4が設置される。入側テンションリール2および出側テンションリール3は電動機にて駆動されるが、その電動機と電動機を駆動するための装置として、入側テンションリール制御装置5および出側テンションリール制御装置6が設置される。
【0020】
圧延時は、圧延速度設定装置10より速度指令がミル速度制御装置4に対して出力され、ミル速度制御装置4は、圧延機1の速度を一定とするような制御を実施する。圧延機1の入側、出側では、被圧延材30に張力をかける事で圧延を安定かつ効率的に実施する。そのために必要な張力を計算するのが入側張力設定装置11および出側張力設定装置12である。張力設定装置11および12にて計算された入側および出側張力設定値より、入側テンションリール2および出側テンションリール3に入側テンションリール制御装置5および出側テンションリール制御装置6を経て、設定張力を被圧延材30に加えるために必要な電動機トルクを得るための電流値を、入側張力電流変換装置15および出側張力電流変換装置16により求めて、入側テンションリール制御装置5および出側テンションリール制御装置6に与える。入側テンションリール制御装置5および出側テンションリール制御装置6では、与えられた電流となるように電動機電流を制御し、電動機電流より入側テンションリール2および出側テンションリール3に与えられる電動機トルクにより被圧延材に所定の張力を与える。
【0021】
張力電流変換装置15、16は、テンションリールの制御モデルに基き張力設定値となるような電流設定値(電動機トルク設定値)を演算するが、制御モデルに誤差を含むため、圧延機1の入側および出側に設置された入側張力計8および出側張力計9で測定された実績張力を用いて、入側張力制御装置13および出側張力制御装置14により張力設定値に補正を加えて、張力電流変換装置15、16に与え、入側テンションリール制御装置5および出側テンションリール制御装置6へ設定する電流値を変更する。
【0022】
また、被圧延材の板厚は製品品質上重要であるため、板厚制御が実施される。圧延機1出側の板厚は、出側板厚計17にて検出された実績板厚より出側板厚制御装置18が圧延機1のロールギャップを、ロールギャップ制御装置7を用いて操作することで制御される。また、圧延機1入側の板厚は、入側板厚計19にて検出された実績板厚より入側板厚制御装置20が、圧延機出側板厚が一定となるように圧延機1のロールギャップを、ロールギャップ制御装置7を用いて操作することで制御される。なお
図1において210は入側デフロール、211は出側デフロールであり、220は本発明により追加された圧延速度制限装置である。圧延速度制限装置220の働きについて後述する。
【0023】
図1に示すようなシングルスタンド圧延機において、被圧延材30がその長手方向に硬度ムラを有している場合において硬度ムラにより発生する板厚変動を最小限とするような制御方法を検討する。
【0024】
圧延は、
図3に示すように、上下作業ロール121A、121B間で被圧延材30を変形させることにより実施される。この時、被圧延材30は、入側張力Tbおよび出側張力Tfにより引っ張られ、上下作業ロール121A、121B間のギャップ(ロールギャップ)Sにより決定される、圧延荷重Pにより変形されることで入側板厚Hは出側板厚hとなる。同時に圧延現象により作業ロール速度より入側板速度は遅くなり、出側板速度は速くなる。作業ロール速度VRと、入側速度Veおよび出側速度Voの関係は
図3に示すように、先進率fおよび後進率bを用いて表すことができる。
【0025】
シングルスタンド圧延機においては、リバース圧延が行われる。
図1においては、圧延方向に従って、圧延は入側テンションリール2から巻き出した被圧延材を、出側テンションリール3で巻き取る事(圧延方向右行)で行われる。入側テンションリール2の被圧延材が出側テンションリール3に巻き取られたら、今度は出側テンションリール3より被圧延材を巻き出して、入側テンションリール2で巻き取る事で右側から左側への圧延操業(圧延方向左行)が行われる。
【0026】
図2Aに入側板厚制御装置20、
図2Bに出側板厚制御装置18の概要を示す。フィードフォワード板厚制御装置204においては、圧延機入側の板厚計(圧延方向右行の場合は19、圧延方向左行の場合は17)にて測定した入側板厚偏差ΔHを、圧延機1の直下まで移送処理し、入側板厚偏差とロールギャップの変換ゲイン、制御ゲインG
FFをかけたフィードフォワード制御を行い、制御出力を圧延機1のロールギャップ制御装置7に出力する。なお201は入側板厚計19と圧延機1直下間の被圧延材30の移送時間T
EX−MILLと、入側板厚制御用制御出力タイミングシフト量ΔT
FFの差時間T
FFで定まる時間補償を行う移送時間補償部である。202は、塑性定数Qとミル定数Mの比を与える変換ゲイン、はゲインG
FFを与える制御ゲインである。
【0027】
(1)式は、移送時間補償部201における補償時間T
FFを定める式である。
【0028】
【数1】
【0029】
フィードバック板厚制御装置205においては、圧延機出側の板厚計(圧延方向左行の場合は19、圧延方向右行の場合は17)にて測定した出側板厚偏差Δhに、出側板厚偏差〜ロールギャップへの変換ゲイン、制御ゲインG
FBをかけて積分処理するフィードバック制御を行い、圧延機1のロールギャップ制御装置7に出力する。なお、181は、塑性定数Qとミル定数Mで定まる比を与える変換ゲイン、182はゲインG
FBを与える制御ゲイン、183は積分要素である。
【0030】
入側板厚制御装置20は、フィードフォワード制御装置204およびフィードバック制御装置205を持ち、圧延方向右行の場合は、入側板厚計19からの信号を
図2Aの圧延方向右行51側に接続し、フィードフォワード制御装置204に入力する事で、フィードフォワード制御として機能し、圧延方向左行の場合は入側板厚計19からの信号を
図2Aの圧延方向左行52側に接続し、フィードバック制御装置205に入力することでフィードバック制御として機能する。
【0031】
同様に出側板厚制御装置18は、フィードフォワード制御装置204およびフィードバック制御装置205を持ち、圧延方向左行の場合は、出側板厚計17からの信号を
図2Bの圧延方向左行54側に接続しフィードフォワード制御装置204に入力する事で、フィードフォワード制御として機能し、圧延方向右行の場合は出側板厚計17からの信号を
図2Bの圧延方向右行53側に接続しフィードバック制御装置205に入力することでフィードバック制御として機能する。
【0032】
一般に、フィードフォワード制御装置204は比例制御で実施し、フィードバック制御装置205は積分制御で実施する。
【0033】
これによりロールギャップ制御装置7には、圧延方向右行の場合は、出側板厚制御装置18からの積分出力と、入側板厚制御装置20からの比例出力の和により定まる信号が制御指令値として印加され、圧延方向左行の場合は、出側板厚制御装置18からの比例出力と、入側板厚制御装置20からの積分出力の和により定まる信号が制御指令値として印加される。
【0034】
ロールギャップ制御装置7においては、入側板厚制御装置20および出側板厚制御装置18より受け取った制御指令値に、実際のロールギャップが合致するように制御を行う。圧延機1の出側板厚変動は、変動発生位置の圧延機1直下では検出できず、圧延機1から離れた位置に設置された出側板厚計17にて検出するため、板厚変動発生から検出までの無駄時間が存在する。そのため、フィードバック制御は通常積分制御としている。従って、出側板厚変動の高周波成分を除去することは困難である。
【0035】
そのため、出側板厚変動の原因のひとつである入側板厚変動が、出側板厚変動とならないようにフィードフォワード制御するのがフィードフォワード制御装置204である。フィードフォワード制御は比例制御であり、対象となる制御偏差に位相と振幅を合わせて出力する事で制御効果を最大限とすることが可能となる。
【0036】
制御偏差として、正弦波を仮定し、それに対して制御ゲインをかけた制御出力を与え、結果として振幅がどのようになるかを
図10に示す。正弦波sin(ωt)に対する制御出力として、制御ゲインGおよび位相シフトΔをかけた正弦波を作成し、得られた結果をyとする。この場合制御出力yは、(2)式のように表される。またyの振幅は(3)式、位相は(4)式のように表すことができる。なお
図10において101は位相部、102は制御ゲイン部、103は減算部を表している。
【0037】
【数2】
【0038】
【数3】
【0039】
【数4】
【0040】
図11に、制御出力yの振幅Xを、制御ゲインGおよび位相シフトΔを変化させた場合につきグラフに示す。
図11より、位相シフトΔが大きくなると振幅も大きくなり、60度を超えると制御効果が得られないばかりか逆効果となる事がわかる。また、制御を行う事により、位相シフトΔが有る場合は、結果として得られる制御結果yの位相が元の正弦波sin(ωt)からずれてしまう事がわかる。
【0041】
つまり、比例制御であるフィードフォワード制御の制御ゲインを増大させても、制御対象と制御出力の位相がずれている場合(位相シフトΔが存在する場合)は制御効果が小さくなるばかりでなく、かえって悪化させてしまう場合も存在する。従って、充分な制御効果を得るためには、位相シフトΔを可能な限り小さくする必要が有る。本発明においては、充分な制御効果が得られる位相シフトΔを30度以下として説明する。なお、この値は目的とする製品条件等によっても変化するので、適時変更しても良い。
【0042】
圧延方向右行の場合、入側板厚制御装置20においては、入側板厚計19にて検出した入側板厚偏差を用いて制御を実施する。入側板厚計19は、一般的にX線等の放射線を被圧延材に投射し、放射線の透過率を放射線検出器により検出することで板厚を測定する。検出時に発生するノイズ除去のためローパスフィルタリング処理が行われており、応答遅れが存在する。また、板厚計においても各種演算処理が計算機により実施されており、無駄時間が存在する。
【0043】
板厚偏差の検出を行う入側板厚計19における無駄時間と応答遅れに加えて入側板厚制御装置20は計算機で実施されるため、計算機のサンプリング〜計算〜出力までの無駄時間、制御操作端であるロールギャップ制御装置7での無駄時間と応答遅れが存在する。そのため、それらの検出器から制御操作端までの、無駄時間、応答遅れを考慮して入側板厚制御用制御出力タイミングシフト量ΔT
FFを決定し、位相シフトΔをできるだけ小さくする事が必要である。
【0044】
ロールギャップ制御装置7においても同様に無駄時間と時間応答が存在する。
図4に、圧延機1におけるロールギャップ操作方法の概要を示す。ここでは、油圧によりロールギャップを操作する場合を例に説明する。
【0045】
圧延機1の下バックアップロール123Bの下に油圧シリンダー111を設置し、油圧シリンダー111を操作することにより、ピストン118の位置を変更し、ロッド117で下バックアップロール123Bの位置を変更して、上作業ロール121Aと下作業ロール121B間の間隔(ロールギャップS)を変更する。油圧シリンダー111には、下バックアップロール123B側(ロッド117側、背圧側)に固定圧力をかけ、反対側(圧下側)の油圧を油圧調整装置112にて調整することで、ピストン118にかかる圧力を変更し、ピストン118の位置を変更する。ピストン118の油圧シリンダー111内のピストン位置は、位置検出器113にて検出される。
【0046】
ロールギャップ制御装置7においては、検出したピストン位置114と、位置指令値115より位置偏差を求め、制御ゲイン116をかけて油圧調整装置112を操作する。この処理は一般に計算機処理にて実施されており無駄時間が存在する。油圧シリンダー111のロッド117には、下作業ロール121B、下中間ロール122B、下バックアップロール123Bの重量に加えて、被圧延材30を圧延するのに要する圧延荷重がかかる。これらの力(圧延力)を上回る圧力が圧下側にかかればピストン118は上昇し、ロールギャップは小さくなる。圧延力より圧下側の圧力を小さくすれば、ピストン118は下降し、ロールギャップは大きくなる。
【0047】
圧延機のロールギャップ制御は、上記のように実施するため、ピストン位置114が位置指令値115と一致するまでには時間応答が存在する。時間応答により、一般に位置指令値115の振幅よりピストン位置114の振幅が、位置指令値115の周波数が高くなるほど小さくなり、入側板厚制御20の制御効果が減少する。
【0048】
以上のように、圧延方向右行の場合、出側板厚制御装置18からの積分出力と、入側板厚制御装置20からの比例出力の和により定まる信号が制御指令値として印加され入側板厚計19、入側板厚制御装置20、ロールギャップ制御装置7より構成される入側板厚制御系においては、無駄時間と時間応答が存在するため入側板厚偏差の変動周期により制御効果が異なる事になる。時間応答は周波数が大となると振幅が小となる特性であるため、入側板厚外乱周波数が大きいほど制御効果は小さくなる。なお、被圧延材の硬度ムラに起因する板厚偏差の変動周期を、以下では入側板厚外乱周波数として取り扱う。入側板厚外乱周波数は、板厚偏差の変動周期の逆数である。
【0049】
圧延機1の出側板厚精度は、製品品質上重要であり、予め定められた一定値(保証値)以下となることが要求される。そのためには、入側板厚変動に起因する出側板厚偏差の、入側板厚制御による減衰量を入側板厚偏差減衰量とすると、入側板厚偏差実績と保証値より入側板厚減衰量を定める事ができる。入側板厚外乱周波数に応じて入側板厚制御系の制御効果が変化するため、出側板厚偏差が保証値未満となるのに必要な入側板厚偏差減衰量を得るためには、入側板厚外乱周波数をそのために必要な制御効果が得られる周波数fdlimit以下とすればよい。入側板厚外乱は、被圧延材の板上に発生する板厚変動であるから、板上の長さにより周期が決まる。そのため、被圧延材の速度により入側板厚外乱周波数は変動する。被圧延材の速度は、圧延機1の作業ロール121周速度によって決まるため、圧延機1の作業ロール速度である圧延速度を制限すれば良い。
【0050】
ここで、ある被圧延材において、出側板厚偏差を保証値以下とするには、入側板厚変動に起因する出側板厚偏差を50%以下とするような入側板厚偏差減衰量とする事が必要であるとする。また、制御系に存在する遅れ時間、無駄時間を下記のように設定する。これは一例であって、圧延機や検出器の構成により変化する。まず板厚計は、20ms程度のフィルター(1次遅れ)特性を有するとする。制御装置は、20msサンプリング(計算周期)の無駄時間、PIO取込で10ms程度の無駄時間、制御操作端への出力で10ms程度の無駄時間をそれぞれの部分で有しているとする。また制御操作端自体は、20ms程度の応答(8Hz程度90度位相遅れ)(1次遅れ)特性を有するとする。これにより、合計で80ms程度の無駄時間となる。これを、30度の範囲内に収めるには、960msより周期の大きな板厚変動である事が必要で有る。それにより、制御ゲインGが0.75〜1.0であれば、入側板厚外乱に起因する出側板厚偏差を50%以下に制御することが可能となる。960msより周期の小さな板厚変動である場合、出側板厚偏差を50%以下とすることができない。従って、この場合出側板厚偏差を保証値以下とできるような充分な制御効果を得るためには、外乱となる板厚変動の周波数を1Hz以下とすることが必要である。
【0051】
以上のように、入側板厚偏差実績と被圧延材の保証値より決定される、入側板厚偏差減衰量を得るために必要な入側板厚偏差の最大周波数を、入側板厚制御系の制御応答より定める事ができる。
【0052】
図5に圧延機の操業動作例を示す。圧延機1の側には、オペレータが操作するための操作盤300が設置されている。操作盤300上には、操業動作に必要なスイッチ(操作スイッチ)類が設置され、操作スイッチを操作することで操業が実施される。
【0053】
操業に際してはまず、操業モード選択スイッチ150にて、圧延機の操業モードを選択する。操業モードとしては、通常の「圧延」操業152、圧延操業を停止する「操業停止」153および「ロール組替」151がある。「ロール組替」151は、圧延操業により作業ロールや中間ロール、バックアップロール等が磨耗するため、定期的またはロール表面状態の悪化が著しい場合に各ロールを交換するモードである。
【0054】
さらに操作盤300上には、運転状態を選択する運転状態選択スイッチ160が、操業モード毎に設けられている。例えば圧延操業を実施する「圧延」モード選択時についてみると、運転状態選択スイッチ160には運転状態として「徐動」、「加速」、「保持」、「停止」についてのスイッチ161、162、163、164が設けられており、これらのスイッチを用いて、圧延機の圧延速度を操作して圧延操業を実施する。「徐動」選択で、圧延機1は予め定められた徐動速度まで加速してその速度で運転する。「加速」選択により、圧延速度は予め定められた設定速度まで加速される。「保持」選択でその時点での圧延速度で運転を継続し、「徐動」選択で徐動速度へ減速して徐動速度で運転、「停止」選択で徐動速度から圧延速度=0として圧延機を停止する。
【0055】
被圧延材30の板厚外乱要因である硬度ムラの発生要因として、バッチ焼鈍時の温度ムラが有る。
図6に示すように、バッチ焼鈍は被圧延材加工の一環として実施され、コイル状に巻かれた被圧延材201をカバー202の中に入れ、バーナー200で加熱する事で行われる。バーナー200が、
図6に示すように円周方向に2ヶ所設置されている場合、バーナー付近は被圧延材201の板温度が他の部分より高い状態となるため、円周方向で温度差が発生し、例えば板温度が高い部分203は、硬さが他の部分と比較して柔らかい部分として残ってしまう。このコイル201をバッチ焼鈍炉から圧延機の入側テンションリールに移し、被圧延材を巻きだした場合、コイル201より、被圧延材を巻き出した場合、板の柔らかい部分の位置の間隔は、コイル状になっていた時の半径方向位置に応じて変化し、巻き出した被圧延材の先端部分が間隔が長く、後端部分に行くに従って間隔が短くなる。また、変動の間隔はコイル状になっていた時の円周の1/2となる。
【0056】
硬さのムラが板厚変化となって出てくるため、このような場合の出側板厚変動は、
図7に示すようになる。
図7は圧延速度と出側板厚偏差の時間変化を示している。圧延速度一定の場合、コイルから巻き出された先端部分(
図7の右端部分)は板厚変動の周期が長く、後端部分(
図7の左端部分)は板厚変動の周期が短くなることが見て取れる。リバース圧延の場合は、
図7において時間の流れの方向が逆転した状態となり、板厚変動の周期が短い状態から長い状態へと徐々に変化する事となる。
【0057】
以上述べたように、バッチ焼鈍に起因する硬度ムラの場合、被圧延材の先端部から後端部にかけて、板厚変動周期が変動する。従って、板厚変動周波数を一定値に制限するためには、圧延速度を板厚変動周期に応じて変更する必要がある。これを圧延機のオペレータが手動操作で圧延速度を変化させ、実現するのは困難であり、過去の経験から板厚変動周期の最短部にあわせて圧延機の速度を決定しそのままの速度で操業する事が行われている。この場合、出側板厚精度としては問題無いが、板厚変動周期が長くなった部分においては圧延速度を上げられるにも関わらず、一定速度での圧延操業となるため操業効率が低下する。
【0058】
操業効率の低下を防止するには、板厚変動周期に応じて圧延機1の圧延速度を変化させればよい。
図8に速度制限の考え方を示している。
図8上の事例のように板厚変動周期が長周期から短周期に変動する場合は、最初は圧延速度を上げ、板厚変動周期の変化に合わせて圧延速度を下げていけば良い。また、
図8下の事例のように板厚変動周期が短周期から長周期に変動する場合は、最初は圧延速度を下げ、板厚変動周期の変化に合わせて圧延速度を上げていけば良い。
【0059】
以下においては、
図6に示すようなバッチ焼鈍を行った場合の板厚変動に対して本発明を実施する場合について説明する。バーナー200が対向する2ヶ所に設置されている事から、リール円周の1/2の周期で板厚変動が発生する事が予測される。また、バッチ焼鈍後のコイルはそのまま
図1に示す圧延機の入側テンションリール2に挿入されて、被圧延材が巻き出されるとする。
【0060】
図1における圧延速度制限装置220にて本発明を実施する。圧延速度制限装置220の具体的な構成事例を
図9に示している。
【0061】
入側テンションリール2および出側テンションリール3のコイル径は、
図9に示すような方法により圧延機1の操業中に求める事が可能である。入側デフロール210および入側テンションリール2の回転速度N
EDR、N
ETRは、それぞれの回転軸に取り付けられた回転数計により検出可能である。
図9では、入側デフロール210の回転速度N
EDRを入側デフロール速度検出器210Sにより検出し、入側テンションリール2の回転速度N
ETRを入側テンションリール制御装置5から得た例を示している。また、入側デフロール210の直径D
EDRは機械的に測定可能で有るので既知である。
【0062】
入側テンションリール周速度V
ETRと入側デフロール周速度V
EDRは同じであるから、入側テンションリールの直径D
ETRは、(5)式により求める事が可能である。
【0063】
【数5】
【0064】
図9の入側テンションリール径演算部222においては、入側デフロール回転速度N
EDR、入側テンションリール回転速度N
ETRおよび入側デフロール直径D
EDRより、上記計算式に従って、入側テンションリール直径D
ETRを算出する。なお
図9においては、入側テンションリール2の直径を求める方法を述べたが、同様の方法を用いて出側テンションリール3の直径D
ETRを求める事ができる。
【0065】
硬度ムラとして、バッチ焼鈍時に発生する
図6に示すような場合を考えると、被圧延材30のコイルが挿入された入側テンションリール2のリール円周方向で2回硬度ムラの周期が発生するはずである。従って、硬度ムラの周波数f
dETRは、入側テンションリール2の周速度をV
ETRとすると、(6)式の関係が成立する。
【0066】
【数6】
【0067】
図9の変動周期演算部223においては、(6)式を実行して変動周期fを算出する。
【0068】
さらに圧延機1の速度V
MILLは、後進率bを用いて、(7)式で表すことができる。
【0069】
【数7】
【0070】
以上のことから、(8)式で定まる圧延機の速度制限V
MILLlimitを想定する。
【0071】
【数8】
【0072】
(8)式の速度制限V
MILLlimitに圧延機1の速度V
MILLを制限すれば、硬度ムラの周波数をf
dlimitに制限することが可能である。制限演算部224においては、上記(8)式にもとづき、入側テンションリール直径D
ETRに応じた最高圧延速度V
Milllimitを求める。
【0073】
図9の速度制限演算部225においては、制限演算部224において求めた最高圧延速度V
MILLlimitを超えないように圧延速度設定装置10の出力Vinである圧延速度指令を制限し、ミル速度制御装置4に速度指令Voutを出力する。
【0074】
圧延機としてリバース圧延機を想定する場合には、
図1において、入側テンションリール2から被圧延材30を巻き出し、出側テンションリール3にて巻き取る、
図1における左から右方向への圧延(1パス目)が終了すると、出側テンションリール3から被圧延材30を巻き出し、入側テンションリール2にて巻き取る右から左方向への圧延(2パス目)が開始される。
【0075】
この場合においても入側テンションリール2のコイル径D
ETRにより、入側テンションリール2に挿入した状態における板厚変動周期がわかる。ただし、圧延により、板厚が薄くなっている分被圧延材上の板長さは長くなっている。これらの関係は、(9)式のマスフロー一定則で求める事ができる。但し(9)式においてHは入側板厚、hは出側板厚、Lは入側板長、lは出側板長である。
【0076】
【数9】
【0077】
今回の場合、左から右への圧延により、被圧延材の板厚は、被圧延材板厚H
0より、1パス目出側板厚h
1に変化している。そのため、制限演算部224における(8)式の計算式は、(10)式とする必要がある。
【0078】
【数10】
【0079】
2パス目の圧延が終了すると、被圧延材の仕様に応じて圧延方向を変えることにより、3パス目以降の圧延も実施される。
【0080】
複数の逆転による上記の関係を一般化して示すと、制限演算部224においては1パス目は(8)式により、また2パス目以降は(11)式により制限速度V
MILLlimitを演算すればよい。但し、h
p−1は、1パス前の出側板厚である。
【0081】
【数11】
【0082】
以上述べたような方法を用いる事により、予想される硬度ムラの周期に応じて圧延速度を変更する事で、板厚制御系の制御効果を最大限に維持しつつ、操業効率を最大限に高める事が可能となる。
【0083】
本実施例においては、
図6に示すようなバッチ焼鈍における硬度ムラの変動周期がコイル径の変化に応じて変化するときの圧延速度制限方法について説明した。
【0084】
図12には、本発明を計算機システムにより実現する場合の装置構成が示されている。
図12の計算機システム70は、入力部Iと、出力部Oと、プログラム記憶用のメモリROMと、データ記憶用のメモリRAMと、演算部Cと、これらを接続する母線Busを含んで構成されている。計算機システム70は、
図1の圧延機の全体制御装置を纏めて制御するものであってもよいが、ここでは本発明の圧延速度制限装置220の機能に特化して説明する。
【0085】
圧延速度制限装置220の機能を実現する計算機システム70は、その演算に必要な入力として、圧延速度設定装置10の出力Vinである圧延速度指令、入側デフロール回転速度N
EDR、入側テンションリール回転速度N
ETRを適宜の一定周期で、入力部Iを介して入力している。さらには必要に応じて、例えば入側デフロール直径D
EDRを得ている。出力部Oからは、演算結果としてミル速度制御装置4に速度指令Voutを出力する。これらの入力や出力及び中間生成物としての各種データは、一時的にデータ記憶用のメモリRAMに収納される。
【0086】
演算部Cは、プログラム記憶用のメモリROMから、圧延速度制限装置220の機能を実現するためのプログラム群を逐次読みだしてこれを実行し、データ記憶用のメモリRAMから必要なデータを取り込み、また内部での演算結果を中間生成物の各種数値と共にデータ記憶用のメモリRAMに収納、一時記憶する。
【0087】
プログラム記憶用のメモリROMに記憶された、圧延速度制限装置220の機能を実現するためのプログラム群は、(5)式の演算に相当する入側テンションリール径演算プログラムPr1、(8)式の演算に相当する制限速度設定演算プログラムPr2、圧延速度制限演算プログラムPr3などである。これらのプログラム群の各プログラムは、
図9の入側テンションリール径演算部222、制限演算部224、速度制限演算部225にそれぞれ対応するものであり、その都度必要なデータをデータ記憶用のメモリRAMから取り出し、最終的に圧延速度制限演算プログラムPr3が出力部Oを介してミル速度制御装置4に速度指令Voutを出力する。