(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0018】
[導電体]
図1の当該導電体は、複数のカーボンナノチューブ3が併設されるカーボンナノチューブ束1を備える糸状の導電体である。当該導電体のカーボンナノチューブ束1は、
図2に示すように、径方向におけるカーボンナノチューブ3の密度が高い高密度部T
Hと、前記密度が前記高密度部T
Hよりも低い低密度部T
Lとが軸方向に交互に存在する。また、当該導電体は、カーボンナノチューブ束1の表層を被覆する保護層2をさらに備える。
【0019】
<カーボンナノチューブ束>
カーボンナノチューブ束1は、一方向に引き揃えられる複数のカーボンナノチューブ3を含む。ここで、「一方向に引き揃えられる」とは、その配向方向を完全に一致させることまでは要求されず、いわゆる撚りのない状態を含み、また配向方向のランダムなばらつきや撚りのような規則的な偏向を有する状態とされることを含む。
【0020】
カーボンナノチューブ束1は、併設された複数のカーボンナノチューブ3が互いにオーバーラップしながら接触し、電気的に接続されることによって電流パスを形成することで導電性を有する。このような構成のカーボンナノチューブ束1は、特にカーボンナノチューブ3間の接触面積が限られることによってある程度の電気抵抗を示す。このカーボンナノチューブ束1が軸方向に伸縮すると、カーボンナノチューブ3同士の接触具合に変化が起こり、カーボンナノチューブ束1の抵抗値に変化が生じる。このカーボンナノチューブ束1の両端間の抵抗値を測定することで、その伸縮歪みが検出できる。
【0021】
また、カーボンナノチューブ束1は、上述したように高密度部T
Hと低密度部T
Lとがカーボンナノチューブ束1の軸方向に交互に存在する。これらの高密度部T
H及び低密度部T
Lは、軸方向に沿ってそれぞれ同一長さのものが規則的に配列されてもよいし、ランダムな長さのものが配列されてもよい。
【0022】
(高密度部及び低密度部)
高密度部T
H及び低密度部T
Lについて以下に説明する。
図3のカーボンナノチューブ束1の径方向の断面において、破線で示す円は、カーボンナノチューブ束1の平均径Rを有する円である。ここで、「平均径R」は、カーボンナノチューブ束1の体積を長さで除することにより算出される平均断面積と等面積を有する円の直径である。密度規定範囲Sは、高密度部T
H及び低密度部T
Lを判断するための特定の面積を有する範囲であり、一辺の長さがカーボンナノチューブ束1の平均径Rの1/3の正方形で囲まれる範囲である。カーボンナノチューブ束1の径方向の断面において、カーボンナノチューブの密度が平均密度の2倍以上となる密度規定範囲Sが存在する部分が「高密度部T
H」に含まれる。また、カーボンナノチューブ束1のうち、「高密度部T
H」以外の部分が「低密度部T
L」である。
【0023】
カーボンナノチューブ束1の平均径Rの下限としては、10μmが好ましく、50μmがより好ましい。一方、カーボンナノチューブ束1の平均径Rの上限としては、5mmが好ましく、1mmがより好ましい。カーボンナノチューブ束1の平均径Rが前記下限に満たないと、カーボンナノチューブ3の連続的な接触を確保できず導通が得られないおそれがある。逆に、カーボンナノチューブ束1の平均径Rが前記上限を超えると、カーボンナノチューブ束1を形成することが容易ではなくなるおそれや、カーボンナノチューブ束1の中心部のカーボンナノチューブ3が不規則に移動して検出精度が不十分となるおそれがある。
【0024】
(カーボンナノチューブ)
カーボンナノチューブ束1に併設されるカーボンナノチューブ3としては、単層のシングルウォールナノチューブ(SWNT)や、多層のマルチウォールナノチューブ(MWNT)のいずれも用いることができる。中でも、導電性及び熱容量等の点から、MWNTが好ましく、直径1.5nm以上100nm以下のMWNTがさらに好ましい。
【0025】
カーボンナノチューブ3は、公知の方法で製造することができ、例えばCVD法、アーク法、レーザーアブレーション法、DIPS法、CoMoCAT法等により製造することができる。これらの中でも、所望するサイズのカーボンナノチューブ3(MWNT)を効率的に得ることができる点から、鉄を触媒とし、エチレンガスを用いるCVD法が好ましい。この場合、石英ガラス基板や酸化膜付きシリコン基板等の基板に、触媒となる鉄又はニッケル薄膜を成膜した上に、垂直配向して成長した所望の長さのカーボンナノチューブ3の結晶を得ることができる。
【0026】
<保護層>
保護層2は、合成樹脂を主成分とし、絶縁性及び伸縮性を有する。保護層2は、カーボンナノチューブ束1の表層を被覆することによって、カーボンナノチューブ束1が周囲の物体に接触して損傷することや、カーボンナノチューブ束1に異物が混入してカーボンナノチューブ3間の電気的接触を阻害することを防止する。また、保護層2は、カーボンナノチューブ束1の収縮をアシストする。
【0027】
保護層2は、
図4に示すようにカーボンナノチューブ束1の少なくとも表層に含浸していることが好ましい。このように、保護層2は、カーボンナノチューブ束1の少なくとも表層に含浸することによって、カーボンナノチューブ束1の外周側のカーボンナノチューブ3を保持し、カーボンナノチューブ3同士の位置関係の保持を補助する機能を果たすことができる。これによって、当該導電体の検出感度及び抵抗変化のリニアリティをさらに向上することができる。ただし、保護層2は、カーボンナノチューブ3を被覆してカーボンナノチューブ3間の電気的接触を阻害するので、カーボンナノチューブ束1の中心部まで完全に含浸してはならない。
図4に示すように、カーボンナノチューブ束1の中心部まで保護層2が含浸していないことにより、カーボンナノチューブ束1の配向方向に対する変形が合成樹脂によって阻害されることを防止できる。
【0028】
保護層2のカーボンナノチューブ束1への含浸度合は、カーボンナノチューブ束1の軸方向の位置に応じて変化するとよい。低密度部では、複数のカーボンナノチューブ3間の隙間が高密度部に比べて大きいので、含浸度合が大きくなり易い。保護層2の含浸度合が軸方向の位置に応じて変化すると、含浸度合の小さい領域に比べて含浸度合の大きい領域でカーボンナノチューブが開裂し易くなるため、カーボンナノチューブ束1の伸縮に対応して低密度部での抵抗値がより変化し易くなり、リニアリティの高い歪みをより容易に検出させ易くできる。
【0029】
保護層2のカーボンナノチューブ束1への含浸度合の下限としては、5%が好ましく、10%がより好ましい。一方、前記含浸度合の上限としては、50%が好ましく、30%がより好ましい。前記含浸度合が前記下限に満たないと、カーボンナノチューブ束1の表層において、カーボンナノチューブ3同士の位置関係が保持され難くなるおそれがある。逆に、前記含浸度合が前記上限を超えると、カーボンナノチューブ束1の表層において、カーボンナノチューブ3が開裂し易くなり過ぎ、耐久性が低下するおそれがある。ここで、「含浸度合」とは、カーボンナノチューブ束1の半径に対する保護層2がカーボンナノチューブ束1に含浸している部分の平均厚さの比である。
【0030】
カーボンナノチューブ束1の外周上の保護層2の平均厚さの下限としては、0.1μmが好ましく、0.2μmがより好ましい。一方、カーボンナノチューブ束1の外周上の保護層2の平均厚さの上限としては、2mmが好ましく、1mmがより好ましい。カーボンナノチューブ束1の外周上の保護層2の平均厚さが前記下限に満たないと、カーボンナノチューブ束1の保護が不十分となるおそれがある。逆に、カーボンナノチューブ束1の外周上の保護層2の平均厚さが前記上限を超えると、当該導電体の伸縮を阻害するおそれがある。
【0031】
保護層2の主成分とする合成樹脂としては、例えばフェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、メラミン樹脂(MF)、尿素樹脂(ユリア樹脂、UF)、不飽和ポリエステル(UP)、アルキド樹脂、ポリウレタン(PUR)、熱硬化性ポリイミド(PI)、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS)、ポリメチルメタアクリル(PMMA)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、環状ポリオレフィン(COP)等を挙げることができる。
【0032】
また、保護層2はカップリング剤を含有しているとよい。保護層2がカップリング剤を含有することで、保護層2とカーボンナノチューブ束1とを架橋し、保護層2とカーボンナノチューブ束1との接合力を向上させることができる。
【0033】
前記カップリング剤としては、例えばアミノシランカップリング剤、アミノチタンカップリング剤、アミノアルミニウムカップリング剤等のアミノカップリング剤やシランカップリング剤などを用いることができる。
【0034】
カップリング剤の保護層2の樹脂成分100質量部に対する含有量の下限としては、0.1質量部が好ましく、0.5質量部がより好ましい。一方、カップリング剤の保護層2の樹脂成分100質量部に対する含有量の上限としては、10質量部が好ましく、5質量部がより好ましい。カップリング剤の含有量が前記下限に満たないと、カーボンナノチューブ束1と保護層2との架橋構造の形成が不十分となるおそれがある。逆に、カップリング剤の含有量が前記上限を超える場合、架橋構造を形成しない残留アミン等が増加し、当該導電体の品質が低下するおそれがある。
【0035】
また、保護層2はカーボンナノチューブ束1に対する吸着性を有する分散剤を含有することが好ましい。このような吸着性を有する分散剤としては、吸着基部分が塩構造になっているもの(例えばアルキルアンモニウム塩等)や、カーボンナノチューブ束1の疎水性の基(例えばアルキル鎖や芳香族リング等)と相互作用できる親水性の基(例えばポリエーテル等)を分子中に有するもの等を用いることができる。
【0036】
前記分散剤の保護層2の樹脂成分100質量部に対する含有量の下限としては、0.1質量部が好ましく、1質量部がより好ましい。一方、分散剤の保護層2の樹脂成分100質量部に対する含有量の上限としては、5質量部が好ましく、3質量部がより好ましい。分散剤の含有量が前記下限に満たないと、カーボンナノチューブ束1と保護層2との接合力が不十分となるおそれがある。逆に、分散剤の含有量が前記上限を超えると、カーボンナノチューブ束1との接合に寄与しない分散剤が増加し、当該導電体の品質が低下するおそれがある。
【0037】
なお、保護層2は、当該導電体の必須の構成ではない。例えば周囲の物体と接触するおそれが小さい場合や周囲に保護部材が設けられるような場合などは、当該導電体は保護層2を備えなくてもよい。
【0038】
<利点>
当該導電体は、カーボンナノチューブ3の高密度部T
Hと低密度部T
Lとが軸方向に交互に存在するので、複数の低密度部T
L内の複数の箇所でカーボンナノチューブ3が開裂し易くなるため、軸方向のある1つの特定の位置で全てのカーボンナノチューブ3が切断してカーボンナノチューブ束1が断線することが無い。また、当該導電体は、開裂し易い低密度部T
Lが軸方向に断続的に存在することにより、カーボンナノチューブ束1の伸縮に対応して複数個所でカーボンナノチューブ3が開裂していき抵抗値が変化するため、リニアリティの高い歪みの検出ができる。また、当該導電体は、伸縮し易い低密度部T
Lが軸方向に複数存在することにより、比較的大きな伸縮歪みを検出できる。
【0039】
また、当該導電体は、合成樹脂を主成分とし、伸縮性を有する保護層2がカーボンナノチューブ束1の表層を被覆するので、伸縮を繰り返した後にも複数のカーボンナノチューブ3間の距離が保持され、伸縮を阻害することなく伸縮歪みの検出精度を維持させ易い。
【0040】
[歪みセンサー]
図5の当該歪みセンサーは、上述した導電体と、この導電体の両端に配設される一対の電極4a、4bとを備える。
【0041】
当該歪みセンサーは、例えば
図1に示す導電体の両端の一部の保護層2を剥離し、カーボンナノチューブ束1の端部と当接するよう一対の電極4a、4bを導電性接着剤により接合することで作製される。当該歪みセンサーは、導電体が備えるカーボンナノチューブ束1の伸縮に対応して2つの電極4a、4b間の抵抗が変化するので、この電極4a、4b間の抵抗を測定することで導電体に生じる歪みを検出できる。
【0042】
<利点>
当該歪みセンサーは、前記導電体を備えるので、軸方向のある1つの位置での全てのカーボンナノチューブ3の切断が生じ難いため、リニアリティの高い歪みの検出ができる。
【0043】
[導電体の製造方法]
次に、当該導電体の製造方法について説明する。
【0044】
当該導電体の製造方法は、複数のカーボンナノチューブが併設されるカーボンナノチューブ束を形成する工程(束形成工程)と、束形成工程で形成したカーボンナノチューブ束の軸方向に高密度部及び低密度部を交互に形成する工程(高密度部及び低密度部形成工程)とを備える。
【0045】
(束形成工程)
束形成工程では、例えば成長用基材上に触媒層を形成し、CVD法により一定の方向に配向した複数のカーボンナノチューブを成長させ、引き出すことにより、複数のカーボンナノチューブが略一方向に併設したカーボンナノチューブ束を得る。
【0046】
(高密度部及び低密度部形成工程)
高密度部及び低密度部形成工程では、束形成工程で形成したカーボンナノチューブ束の軸方向に、高密度部及び低密度部を交互に形成する。例えば、カーボンナノチューブ束の軸方向に、断続的に複数の高密度部を形成させる。これにより、軸方向に高密度部及び低密度部が交互に存在するカーボンナノチューブ束を形成できる。
【0047】
当該導電体のより具体的な製造方法について、以下に説明する。
【0048】
<第1製造方法>
当該導電体の第1製造方法は、前記高密度部及び低密度部形成工程が、カーボンナノチューブ束に撚りをかける工程(撚り形成工程)と、撚り形成工程でかけたカーボンナノチューブ束の撚りを戻す工程(撚り戻し工程)とを有する。
【0049】
(撚り形成工程)
撚り形成工程では、
図6(a)に示すように、束形成工程で形成したカーボンナノチューブ束1に撚りをかける。具体的には、例えばカーボンナノチューブ束1の両端を支持し、その支持した一端を軸方向を中心として回転することで撚りをかける。なお、カーボンナノチューブ束1に撚りをかけた後、カーボンナノチューブ束1にエタノールやイソプロピルアルコール(IPA)を噴射してもよい。カーボンナノチューブ束1にエタノール等のアルコールを噴射することで、カーボンナノチューブを縮ませると共にカーボンナノチューブ同士を付着させることができ、カーボンナノチューブ束1の強度を向上させることができる。
【0050】
(撚り戻し工程)
撚り戻し工程では、
図6(b)に示すように、撚り形成工程でかけたカーボンナノチューブ束1の撚りを戻す。具体的には、例えば撚り形成工程で支持したカーボンナノチューブ束1の両端を撚り形成工程と反対向きに回転させてもよいし、撚り形成工程で支持したカーボンナノチューブ束1の両端のうち一方の端部の支持を解除するだけでもよい。また、撚り戻し工程後のカーボンナノチューブ束1は、撚りが無い状態でもよいし、撚りがかかった状態でもよい。
【0051】
撚り戻し工程後、さらに保護層を形成する工程(保護層形成工程)を行ってもよい。具体的には、例えば保護層を形成する液状の組成物をカーボンナノチューブ束1の外周に塗布し、乾燥することで保護層を形成させる。
【0052】
このようにして作成したカーボンナノチューブ束1は、当該導電体として用いることができる。撚り戻し工程後のカーボンナノチューブ束1は、カーボンナノチューブ3の高密度部T
Hと低密度部T
Lとが軸方向に交互に存在する状態となるので、軸方向のある1つの位置での全てのカーボンナノチューブ3の切断が生じ難く、リニアリティの高い歪みの検出が可能となる。
【0053】
<第2製造方法>
次に、第1製造方法とは異なる当該導電体の第2製造方法について説明する。
【0054】
当該導電体の第2製造方法は、前記束形成工程でカーボンナノチューブシートを形成し、前記高密度部及び低密度部形成工程で、台に載置したカーボンナノチューブシートの一方の面側の長手方向の複数箇所を押圧する。
【0055】
(束形成工程)
第2製造方法では、カーボンナノチューブ束として平面視略帯状の比較的幅の小さいカーボンナノチューブシート10を用いる。束形成工程では、例えば成長用基材上に触媒層を形成し、CVD法により一定の方向に配向した複数のカーボンナノチューブを成長させ、撚糸せずにそのまま引き出し、他の板材又は筒材等に巻き付けた後に、必要な分のカーボンナノチューブを取り出すことにより、幅の狭いカーボンナノチューブシート10を得る。次に、
図7に示すように、このようにして形成したカーボンナノチューブシート10を上面が平坦な台11の上に載置する。台11は、例えば金属等の変形し難い硬質のものを用いる。なお、
図7は、カーボンナノチューブシート10の長手方向が、図面上で左右方向となるように記載した図である。
【0056】
(高密度部及び低密度部形成工程)
高密度部及び低密度部形成工程では、束形成工程で載置したカーボンナノチューブシート10の一方の面を上型12により押圧する。
図7に示すように、上型12のカーボンナノチューブシート10に当接させる側の面には、複数の突起が形成されている。この複数の突起がカーボンナノチューブシート10の長手方向の複数の箇所に当接し、カーボンナノチューブシート10の厚さ方向に押圧される。
【0057】
上型12の突起が当接する箇所では、カーボンナノチューブシート10が圧縮され、この箇所が高密度部となる。一方、上型12の隣接する突起間に対応する箇所はカーボンナノチューブシート10が押圧されず、この箇所が低密度部となる。上型での押圧後、カーボンナノチューブシート10の表面にエタノール又はイソプロピルアルコールを噴射する。これにより、カーボンナノチューブシート10が縮むため、高密度部と低密度部とが長手方向に交互に形成される。これにより、高密度部と低密度部とを有する無撚のカーボンナノチューブ糸を得ることができる。
【0058】
なお、高密度部及び低密度部形成工程後、さらに保護層形成工程を行い、カーボンナノチューブシート10の外周に保護層を形成してもよい。
【0059】
このようにして加工したカーボンナノチューブシート10は、当該導電体として用いることができる。
【0060】
<第3製造方法>
次に、当該導電体の第3製造方法について説明する。
【0061】
当該導電体の第3製造方法は、前記束形成工程で、カーボンナノチューブシートを形成する。また、前記高密度部及び低密度部形成工程が、カーボンナノチューブシートの長手方向の複数箇所を圧縮糸の巻き付けにより圧縮する工程(圧縮工程)と、前記巻き付けた圧縮糸を外す工程(圧縮糸除去工程)とを有する。
【0062】
(束形成工程)
第3製造方法では、カーボンナノチューブ束として平面視略帯状の比較的幅の小さいカーボンナノチューブシート10を用いる。束形成工程では、例えばCVD法を用いる第2製造方法の束形成工程と同様の方法によりカーボンナノチューブシート10を得る。
【0063】
(圧縮工程)
圧縮工程では、カーボンナノチューブシート10の長手方向の複数箇所を圧縮糸で圧縮する。具体的には、
図8に示すように、カーボンナノチューブシート10の長手方向の複数箇所を圧縮糸13で縛る。
【0064】
圧縮糸13としては、カーボンナノチューブシート10の周囲を縛ることで圧力を付与できるものであればよく、例えば天然繊維、金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維などで形成された糸を用いることができる。従って、カーボンナノチューブ繊維で形成された糸を圧縮糸13として用いてもよい。また、圧縮糸13として、針金などを用いてもよい。
【0065】
図8では、複数の圧縮糸13を用いてカーボンナノチューブシート10の長手方向の複数箇所を縛ることとしたが、
図9のように、カーボンナノチューブシート10の周囲に螺旋状に1本の圧縮糸13を巻き付けて、カーボンナノチューブシート10に圧力を付加してもよい。
【0066】
圧縮糸13によりカーボンナノチューブシート10の周囲から圧力を付加した部分では、カーボンナノチューブが密集する状態となる。圧縮工程では、カーボンナノチューブの密集状態が維持されるよう、カーボンナノチューブシート10が塑性変形するまで、圧縮糸13により圧力を付加する状態を維持する。
【0067】
(圧縮糸除去工程)
圧縮糸除去工程では、圧縮工程でカーボンナノチューブの密集状態が維持されるよう圧力を付加した後、圧縮糸13をカーボンナノチューブシート10から除去する。これにより、カーボンナノチューブの密集状態となった部分が高密度部となる。これにより、カーボンナノチューブシート10の長手方向に高密度部と低密度部とが交互に形成される。これにより、高密度部と低密度部とを有する無撚のカーボンナノチューブ糸を得ることができる。
【0068】
なお、圧縮糸除去工程後、さらに保護層形成工程を行い、カーボンナノチューブシート10の外周に保護層を形成してもよい。
【0069】
<第4製造方法>
次に、当該導電体の第4製造方法について説明する。
【0070】
当該導電体の第4製造方法は、前記束形成工程でカーボンナノチューブシートを形成し、前記高密度部及び低密度部形成工程で、台に載置したカーボンナノチューブシートの一方の面の長手方向の複数箇所にエタノールを滴下する。
【0071】
(束形成工程)
第4製造方法では、カーボンナノチューブ束として平面視略帯状の比較的幅の小さいカーボンナノチューブシート10を用いる。束形成工程では、第2製造方法の束形成工程と同様の方法により形成したカーボンナノチューブシート10を台11の上に載置する。
【0072】
(高密度部及び低密度部形成工程)
高密度部及び低密度部形成工程では、まず、カーボンナノチューブシート10の長手方向に沿って複数箇所に貫通孔が形成されたマスク板14をカーボンナノチューブシート10の一方の面に載置する。次に、マスク板14の貫通孔を介してエタノール16をカーボンナノチューブシート10の一方の面に滴下する。エタノール16が滴下された部分は、カーボンナノチューブが縮むと共にカーボンナノチューブ同士が付着するため、高密度部となる。一方、カーボンナノチューブシート10のエタノール16と接触しない部分は、カーボンナノチューブ同士が付着せず、低密度部となる。このように、カーボンナノチューブシート10の長手方向の複数箇所にエタノール16を滴下することにより、高密度部と低密度部とがカーボンナノチューブシート10の長手方向に交互に形成される。これにより高密度部と低密度部とを有する無撚のカーボンナノチューブ糸を得ることができる。
【0073】
なお、マスク板14は、
図10に示すように、カーボンナノチューブシート10の一方の面に当接する側の面に吸収材15を有するものが好ましい。吸収材15は、カーボンナノチューブシート10よりもエタノール16を吸収し易い部材である。マスク板14が吸収材15を有しない場合、マスク板14の貫通孔を介して滴下したエタノール16が、カーボンナノチューブシート10のうちマスクされている領域の部分まで拡散し易く、高密度部の範囲が拡大し易い。これに対し、吸収材15を有するマスク板14を用いることで、カーボンナノチューブシート10のうちマスクされている領域の部分へのエタノール16の拡散を抑制できる。これにより、カーボンナノチューブ10の長手方向に、より小さい間隔で高密度部及び低密度部を交互に形成させ易くなる。
【0074】
また、高密度部及び低密度部形成工程後、さらに保護層形成工程を行い、カーボンナノチューブシート10の外周に保護層を形成してもよい。
【0075】
[その他の実施形態]
前記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、前記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて前記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0076】
例えば、
図11に示すように、当該導電体は、最外層に配設される伸縮規制部材22をさらに備えてもよい。伸縮規制部材22は、糸状又は帯状の部材であり、導電体の最外層に螺旋状に巻き付けるように配設される。伸縮規制部材22を備えることでカーボンナノチューブ束21の伸縮が抑制され、過大な外力によるカーボンナノチューブ束21の破断を防止できる。このような伸縮規制部材22として、例えばナイロンやポリエステルなどの化学繊維、金属繊維等を用いた糸や帯状の布帛を用いることができる。また、銅メッキ化学繊維や極細金属繊維等の導電繊維を用いた糸や帯状の布帛を用いるとよい。このように導電繊維を用いた糸や帯状の布帛を使用することにより、シールド効果が得られ、当該導電体による検出精度を維持し易い。なお、
図11は、最外層がカーボンナノチューブ束21である構成を示しているが、最外層が保護層である場合、伸縮規制部材22は保護層の周囲に螺旋状に巻き付けるように配設される。
【0077】
また、当該導電体は、カーボンナノチューブ束の内部又は外部に他の繊維をさらに備えてもよい。例えば当該導電体が、カーボンナノチューブ束の内部に絶縁性繊維を備えると、カーボンナノチューブ束の電気抵抗率を調節することができる。
【0078】
また、当該導電体は、カーボンナノチューブ束を樹脂層で被覆することで、編物や織物等の布帛に組み込むことも可能である。このような布帛にユーザーが任意に電気的な接続を行うことで、布帛の中に任意に歪みセンサーや配線を形成することができる。例えば、屈曲したり多層構造になったりした歪みセンサーや配線を形成することも可能になる。また、平行に配置された複数の歪みセンサー又は配線を連結することで抵抗値を下げることもできる。また、歪みセンサーと計測部等とを連結する配線として、樹脂被覆された導電性の糸を歪みセンサーと同様に布帛に組み込むことも可能である。