特許第6625886号(P6625886)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6625886レーザ・アークハイブリッド溶接用ヘッド及びレーザ・アークハイブリッド溶接方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6625886
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】レーザ・アークハイブリッド溶接用ヘッド及びレーザ・アークハイブリッド溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/348 20140101AFI20191216BHJP
   B23K 9/16 20060101ALI20191216BHJP
   B23K 9/173 20060101ALI20191216BHJP
   B23K 26/142 20140101ALI20191216BHJP
   B23K 26/02 20140101ALI20191216BHJP
【FI】
   B23K26/348
   B23K9/16 K
   B23K9/173 D
   B23K26/142
   B23K26/02 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-9762(P2016-9762)
(22)【出願日】2016年1月21日
(65)【公開番号】特開2017-127893(P2017-127893A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2018年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098017
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 宏嗣
(72)【発明者】
【氏名】岡垣内 俊成
【審査官】 奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/026493(WO,A1)
【文献】 特開2005−103591(JP,A)
【文献】 特開昭54−036695(JP,A)
【文献】 特開2015−009254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00−26/70
B23K 9/00− 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接部位にレーザ光を照射するレーザヘッドと、消耗電極と溶接部位との間でアーク放電させるアーク溶接トーチと、アーク放電部位をシールドする1次シールドガスを噴出する1次シールドガスノズルと、レーザ照射位置とアーク放電位置と1次シールドガス噴出位置とを直線上に位置させて前記レーザヘッドと前記アーク溶接トーチと前記1次シールドガスノズルとを保持する保持具とを備え、
前記保持具は、前記消耗電極が前記レーザ照射位置に向けて傾けて延在するように前記アーク溶接トーチを前記レーザヘッドよりも溶接方向の後方に保持し、レーザ照射経路が前記消耗電極の延在方向に対向するように傾けて前記溶接方向の前方に前記レーザヘッドを保持し、前記1次シールドガスノズルの中心軸を前記レーザ照射経路に平行にして前記1次シールドガスノズルを保持してなり、
前記1次シールドガスノズルは、前記1次シールドガスを前記アーク放電部位に対して前記溶接方向の前方から後方に向かって一方向に供給するように形成されてなるレーザ・アークハイブリッド溶接用ヘッド。
【請求項2】
前記1次シールドガスノズルは、前記レーザ照射経路に対して前記アーク溶接トーチの反対側に配置された第1の1次シールドガスノズルと、前記アーク溶接トーチ側に配置された第2の1次シールドガスノズルとを有してなる請求項1に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接用ヘッド。
【請求項3】
前記第1の1次シールドガスノズルは、前記第2の1次シールドガスノズルよりも、ガス噴出口が前記溶接部位の近くに位置されてなる請求項2に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接用ヘッド。
【請求項4】
前記1次シールドガスノズルのガス噴出方向の後方から2次シールドガスを噴出する2次シールドガスノズルを備え、
前記保持具は、前記2次シールドガスのガス噴出方向に対して前記2次シールドガスノズルを進退可能に保持してなる請求項1乃至3のいずれかに記載のレーザ・アークハイブリッド溶接用ヘッド。
【請求項5】
溶接部位にレーザ光を照射して溶融させるレーザ照射と、前記溶接部位と消耗電極との間でアーク放電させるアーク溶接とを併用して溶接するレーザ・アークハイブリッド溶接方法において、
前記消耗電極をレーザ照射位置に向けて傾けて延在させ、該延在方向に対向するようにレーザ照射経路を傾けて配置し、前記レーザ照射位置とアーク放電位置とを溶接方向の前方から後方に向けて直線上に順次配置し、前記アーク放電をシールドする1次シールドガスを噴出する1次シールドガスノズルを前記レーザ照射位置の前記溶接方向の前方に配置するとともに、ノズル中心軸を前記レーザ照射経路に平行に配置し、前記1次シールドガスを前記アーク放電部位に対して前記溶接方向の前方から後方に向かって一方向に供給することを特徴とするレーザ・アークハイブリッド溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接とアーク溶接とを併用したハイブリッド溶接に使用されるレーザ・アークハイブリッド溶接用ヘッドに係り、特に、比較的厚肉の耐熱鋼材等の狭開先を溶接する際に好適な溶接用ヘッド、及び溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、厚肉材の突合わせ面に設けた狭開先の溶接において、レーザ溶接とアーク溶接とを併用したレーザ・アークハイブリッド溶接が検討されている。このレーザ・アークハイブリッド溶接は、レーザ照射による深い溶込みと、アークの広がりのある熱源によって開先内で溶融金属を幅広く積層させ、レーザとアークの両熱源の複合効果によって溶接速度を高める効果が期待できる。
【0003】
特許文献1には、溶接方向の前方に向かって、アークトーチと、レーザヘッドと、アシストガスノズルを順次配置した溶接装置が開示されている。アークトーチは、ワイヤ供給装置からワイヤが送給されるとともに、ワイヤの外周側から溶接部位にシールドガスを噴出する。アークトーチの中心軸、レーザ光の光軸及びアシストガスノズルの中心軸は、それぞれ溶接面の鉛直方向に対して傾斜しており、アークトーチの傾斜方向とレーザ光の光軸及びアシストガスノズルの傾斜方向は、互いに相対するように配置されている。これによれば、レーザ光の照射によって形成される溶融池に対して溶接方向の前後からシールドガスを供給できるので、溶接速度の増加に伴う溶融池のシールド性の低下を防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2007/026493
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、被溶接部材の溶接部位がレーザ光の照射やアークによって加熱されると、通常、金属蒸気等からなるヒュームが発生する。このヒュームは、レーザ光の照射を受けて励起されると、プルーム(プラズマ)となり、このプルームをレーザ光が通過すると、レーザ光がプルームによって吸収、散乱され、溶接部位に到達するレーザ光のエネルギーの低下を招く。このため、プルームは、レーザ溶接の溶接効率の低下や、溶接ビート幅の不足による溶接不良等を引き起こす要因となっている。
【0006】
ここで、特許文献1の技術では、レーザ光の光軸に対して、溶接方向の前後からシールドガスとアシストガスを互いに対向する方向に傾斜させて供給している。このため、例えば、開先内の溶接時においては、ヒュームがシールドガスとアシストガスの混合ガスの上昇流によって開先内を上昇し、その大部分がレーザ光の照射を受けることになる。そのため、開先内では、レーザ光のエネルギーの低下に伴って、溶接ビート幅が狭くなり、開先内の壁面の溶着が得られない等の溶接不良を招くおそれがある。また、レーザ光の照射によってプルームが成長すると、体積膨張に伴う強い上昇流が発生し、外気の巻き込みによる溶接ビートの酸化が懸念される。
【0007】
本発明は、レーザ・アークハイブリッド溶接の溶接時におけるプルームの発生を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のレーザ・アークハイブリッド溶接用ヘッドは、溶接部位にレーザ光を照射するレーザヘッドと、消耗電極と溶接部位との間でアーク放電させるアーク溶接トーチと、アーク放電部位をシールドする1次シールドガスを噴出する1次シールドガスノズルと、レーザ照射位置とアーク放電位置と1次シールドガス噴出位置とを直線上に位置させて前記レーザヘッドと前記アーク溶接トーチと前記1次シールドガスノズルとを保持する保持具とを備え、保持具は、消耗電極がレーザ照射位置に向けて傾けて延在するようにアーク溶接トーチをレーザヘッドよりも溶接方向の後方に保持し、レーザ照射経路が消耗電極の延在方向に対向するように傾けてレーザヘッドを溶接方向の前方に保持し、1次シールドガスノズルの中心軸をレーザ照射経路に平行にして1次シールドガスノズルを保持してなり、1次シールドガスノズルは、1次シールドガスをアーク放電部位に対して溶接方向の前方から後方に向かって一方向に供給するように形成されてなることを特徴とする。
【0009】
これによれば、1次シールドガスノズルは、1次シールドガスがアーク放電部位に対して溶接方向の前方から後方に向かって一方向に供給される。特に、レーザ照射位置を挟んでアーク放電位置の反対側に1次シールドガスの噴出流の少なくとも一部が供給される。しかも、1次シールドガス噴出方向をアーク溶接トーチの消耗電極の延在方向と対向する方向に傾けて保持されるから、1次シールドガスノズルから噴出された1次シールドガスは、溶接部位に沿ってレーザ照射経路を通過し、アーク放電位置へ向かって流れる。これにより、溶融地で発生したヒュームは、レーザ光の照射を受けてプルームになる前に、1次シールドガスに同伴して、アーク放電位置に対してレーザ照射経路と反対側へ押し出される。また、アーク放電位置で発生したヒュームは、1次シールドガスの流れに同伴して、レーザ照射経路と反対側へ押し出される。したがって、ヒュームがレーザ光に照射されることによるプルームの発生が抑制され、レーザ溶接の溶接効率の低下を防ぐことができるので、所望の溶接ビート幅が確保され、溶接不良の発生を防ぐことができる。また、プルームの成長による体積膨張に伴ってシールドガスに乱れが生じることがないので、外気の巻き込みによる溶融金属の酸化やスラグ巻き込みが防止され、厚肉材を連続的に溶接することができる。
【0010】
また、シールドガス中の不活性ガスがレーザ光の照射を受けて励起されると、プルームを発生することがあるが、レーザヘッドは、レーザ照射経路がアーク溶接トーチの消耗電極の延在方向と対向する方向に傾けて保持されるから、レーザ光と1次シールドガスとの干渉を抑制することができる。このため、不活性ガスにレーザ光が照射されることによるプルームの発生を抑制することができる。
【0011】
ところで、例えば、厚肉板の突合わせ面に形成された狭開先の内部に1次シールドガスを高速で噴出した場合、狭開先の内部で1次シールドガスの流れに乱れが生じ、外気の巻き込みやアークの乱れが発生し、その結果、溶融金属の酸化や、溶接ビートの内部欠陥(ブローホールやピット等)が発生するおそれがある。しかし、本発明では、1次シールドガスノズルを溶接面と直交する方向から傾けて配置し、溶接部位に向けて1次シールドガスを所定の方向のみから噴出している。このため、1次シールドガスを互いに対向する斜めの方向から噴出する場合と比べて、1次シールドガスの乱れを抑制できるので、1次シールドガスの流速を遅くしても溶融池のシールド性を確保することができ、かつ、溶融金属の酸化と溶接ビットの内部欠陥の発生を防ぐことができる。
【0012】
また、1次シールドガスノズルは、レーザ照射経路に対してアーク溶接トーチと反対側、及び、アーク溶接トーチ側とに、それぞれ配置されていることが好ましい。このように、レーザ照射経路を挟んで2本の1次シールドガスノズルを設けることにより、溶融金属のシールド性を高めることができるので、溶融金属の酸化を効果的に抑制することができる。また、各ノズルから噴出された1次シールドガスは、いずれも、溶接部位に沿ってアーク放電位置へ向かって流れるので、1次シールドガスの流れが安定し、レーザ照射経路にヒュームが入るのを確実に防ぐことができる。さらに、レーザヘッドの角度(レーザの入射角度)は、母材(溶接部位)に対して垂直方向を0°としたときに、垂直方向に対して20±10°とすることが望ましい。
【0013】
この場合において、レーザ照射経路に対してアーク溶接トーチと反対側に位置する1次シールドガスノズルは、レーザ照射経路に対してアーク溶接トーチ側に位置する1次シールドガスノズルよりも、1次シールドガスを噴出するガス噴出口が溶接部位の近くに位置していることが好ましい。これによれば、各1次シールドガスノズルからそれぞれ噴出した1次シールドガス同士の干渉が抑制され、1次シールドガスの乱れを抑制することができるので、ヒュームの排出効果を高めるとともに、外気の巻き込みによる溶融金属の酸化を効果的に防ぐことができる。
【0014】
また、1次シールドガスノズルのガス噴出方向の後方から2次シールドガスを噴出する2次シールドガスノズルを備え、保持具は、2次シールドガスのガス噴出方向に対して2次シールドガスノズルを進退可能に保持することが好ましい。これによれば、狭開先の溶接において、積層が進行すると、開先深さは次第に浅くなるが、レーザヘッド、アーク溶接トーチ及び1次シールドガスノズルをロボットアーム等で一体的に開先上方へ移動させつつ、2次シールドガスノズルを下方へ移動させることができるので、2次シールドガスノズルを狭開先の開口周縁の表面に接触させた状態を保持することができる。
【0015】
また、上記課題を解決するため、本発明のレーザ・アークハイブリッド溶接方法は、レーザ光とアークを併用して溶接するレーザ・アークハイブリッド溶接方法において、レーザ照射位置に対してアーク放電位置と反対側の溶接線上に1次シールドガスの噴出流が位置するように1次シールドガスを噴出し、レーザ光のレーザ照射経路と1次シールドガスの噴出方向をそれぞれ溶接方向の後方へ向けて傾けて溶接することを特徴とする。
【0016】
これによれば、1次シールドガスの噴出流によって、溶融地及びアーク放電位置で発生したヒュームを溶接方向の後方へ押し出すことができるから、プルームの発生を効果的に抑制することができる。したがって、溶接不良の発生を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、レーザ・アークハイブリッド溶接の溶接時において、プルームの発生を抑制することができるので、溶接不良の発生を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明が適用されるレーザ・アークハイブリッド溶接用ヘッドの側面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明が適用されるレーザ・アークハイブリッド溶接用ヘッド1(以下、溶接用ヘッド1と略す。)を用いて、被溶接部材を溶接する状態を示す。被溶接部材は、発電用ボイラの一部を構成する1対の主配管2,2(片方の主配管2を省略)から構成され、各々の表面と突合わせ面を繋ぐように狭開先3が形成される。図1は、狭開先3を突合わせ面(狭開先3の底面4)の断面方向からみた模式図である。この形態では、底面4に沿って、溶接用ヘッド1を図の右側(矢印)へ移動しながら、狭開先3の溶接(多層溶接)を行っている。なお、被溶接部材の主配管2とは、例えば、主蒸気管、高温再熱蒸気管、低温再熱蒸気管等、高温又は高圧に耐えられる大径の厚肉管に用いられるものである。
【0020】
この溶接用ヘッド1を用いる溶接は、レーザ光とアークの2つの熱源を用いて単一の溶融池を形成するレーザ・GMAハイブリッド溶接であり、レーザ溶接によって狭開先3の底面4にレーザ光を照射して、開先幅とほぼ等しい幅の先行溶融池を形成し、続いて、GMA溶接(電極消耗式であるマグ溶接)によってアークを放電して溶融池に溶融金属を供給し、これを繰り返して多層溶接を行うものである。
【0021】
溶接用ヘッド1は、図1に示すように、レーザ光を照射するレーザヘッド5と、アークを放電させるアーク溶接トーチ6と、1次シールドガスを噴出する1次シールドガスノズル7と、2次シールドガスを噴出する2次シールドガスノズル8と、レーザヘッド5とアーク溶接トーチ6と1次シールドガスノズル7と2次シールドガスノズル8とを保持する保持具9とを備える。
【0022】
レーザヘッド5は、集光レンズ(不図示)が内蔵されるとともに、レーザヘッド5の先端部には、レーザノズル10が設けられる。図示しないレーザ発振器から発振されたレーザ光は、集光レンズで集光され、レーザノズル10から狭開先3の底面4(溶接部位)へ照射される。図中の符号11は、レーザ照射経路であり、レーザヘッド5(レーザノズル10)の中心軸に沿って直線状に延びるレーザ光が通過する光路である。
【0023】
アーク溶接トーチ6は、レーザノズル10及びレーザ照射経路11と干渉しないように溶接前後方向の一方に位置をずらして設けられる。アーク溶接トーチ6には、図示しないワイヤ供給装置からワイヤ12(消耗電極)が送給される。ワイヤ12は、アーク溶接トーチ6で給電されるとともに、アーク溶接トーチ6に接続された絶縁パイプ13を通り、狭開先3の底面4の近傍まで案内され、底面4(溶接部位)との間でアーク放電する。
【0024】
1次シールドガスノズル7は、レーザ照射経路11に対してアーク溶接トーチ6と反対側に位置する1次シールドガスノズル7aと、レーザ照射経路11に対してアーク溶接トーチ6側(レーザ照射経路11とアーク溶接トーチ6との間)に位置する1次シールドガスノズル7bとの2本で構成される。1次シールドガスノズル7a,7bは、それぞれ、1次シールドガスの噴出方向の前後に延び、狭開先3の幅方向の両側面とそれぞれ対向する面が扁平の筒状に形成され、後端部に供給された1次シールドガスを狭開先3の底面4へ向けて、前端部のガス噴出口14a,14bから噴出するようになっている。
【0025】
2次シールドガスノズル8は、溶接方向に延在する筒状に形成され、狭開先3の底面4と対向する面に2次シールドガスを噴出する複数のガス噴出口16を有する。2次シールドガスノズル8は、狭開先3の開口周縁の表面15と当接しながら溶接方向に沿って移動し、1次シールドガスノズル7a,7bのガス噴出口14a,14bに対してガス噴出方向の後方から2次シールドガスを底面4へ向けて噴出するようになっている。
【0026】
保持具9は、レーザヘッド5と1次シールドガスノズル7a,7bとを保持する第1取付板部17と、アーク溶接トーチ6を保持する第2取付板部18と、2次シールドガスノズル8を保持する第3取付板部19とを有する。第1取付板部17と第2取付板部18と第3取付板部19は、それぞれ金属製の板材等が用いられる。
【0027】
第1取付板部17は、長手方向の後端部にレーザヘッド5を保持し、前端部に1次シールドガスノズル7a,7bを保持する。レーザヘッド5は、狭開先3の底面4に対してレーザ照射経路11が所定の角度で交わるように傾けて保持される。1次シールドガスノズル7a,7bは、レーザ照射経路11に対して溶接方向の前後に位置し、それぞれ1次シールドガスの噴出方向の中心軸がレーザ照射経路11とほぼ平行になるように傾けて保持される。第2取付板部18は、レーザ照射経路11とほぼ直交する方向に延び、第1取付板部17に固定される。アーク溶接トーチ6は、絶縁パイプ13及びワイヤ12がレーザ照射経路11と干渉しない位置に保持される
【0028】
第3取付板部19は、第1取付板部17に対してアーク溶接トーチ6と反対側に位置するとともに、保持具9によって第1取付板部17に沿って移動可能に支持される。第3取付板部19は、第1取付板部17に施設されたラック20と、第3取付板部19に回動可能に支持された2個のピニオン21との噛み合いによって、自重あるいは電動モータ等で、第1取付板部17に沿ってレーザ照射経路11とほぼ平行に移動する。第2シールドガスノズル8は、溶接方向の前後に延在して第3取付板部19の端部に固定され、第3取付板部19の移動に伴って、第2シールドガスの噴出方向(下向きの矢印方向)に対して進退可能に保持される。なお、第2シールドガスノズル8は、アーク溶接トーチ6の絶縁パイプ13、レーザ照射経路11及び1次シールドガスノズル7a,7bと干渉しないように、狭開先3の幅方向に位置をずらして配置される。
【0029】
次に、このように構成される溶接用ヘッド1において、レーザヘッド5、アーク溶接トーチ6、1次シールドガスノズル7a,7bの相対的な位置及び角度について詳細に説明する。
【0030】
溶接用ヘッド1は、狭開先3の底面4を狭開先3の開口側からみると、レーザ照射位置とアーク放電位置と1次シールドガス噴出位置とが、互いに直線上に位置するように、レーザヘッド5、アーク溶接トーチ6及び1次シールドガスノズル7a,7bが、それぞれ保持具9に保持される。保持具9は、レーザヘッド5、アーク溶接トーチ6及び1次シールドガスノズル7a,7bをそれぞれ狭開先3の底面4との垂直方向に対して傾けた状態で保持している。ここで、レーザ照射位置とは、レーザ照射経路11が底面4と交わる位置(レーザスポット)であり、アーク放電位置とは、ワイヤ12の先端部から底面4に向けてアークを飛ばしたときにアークが底面4を照射する位置である。また、1次シールドガス噴出位置とは、1次シールドガスノズル7a,7bの中心軸が底面4と交わる位置を中心に、1次シールドガスが最初に底面4と接触する位置である。
【0031】
図1に示すように、狭開先3を底面4の断面方向からみると、アーク溶接トーチ6は、ワイヤ12の延在方向を溶接線に対して所定方向に傾けて保持され、レーザヘッド5及び1次シールドガスノズル7a,7bは、それぞれ、レーザ照射経路11と1次シールドガス噴出方向(底面4へ向かう1次シールドガスの噴出方向)を溶接線に対してワイヤ12の延在方向と反対方向に傾けて保持される。すなわち、レーザヘッド5と1次シールドガスノズル7a,7bは、レーザ照射経路11と1次シールドガス噴出方向をそれぞれワイヤ12の延在方向と対向する方向に傾けて保持される。なお、ワイヤ12の先端部は、レーザ照射位置に向かって延びているが、アーク放電位置がレーザ照射位置と重ならないように配置される。
【0032】
また、1次シールドガスノズル7aは、レーザ照射位置を挟んでアーク放電位置の反対側に1次シールドガス噴出位置、つまり、1次シールドガスの噴出流が位置するように配置され、1次シールドガスノズル7bは、レーザ照射位置を挟んでアーク放電位置側に1次シールドガス噴出位置、つまり、1次シールドガス噴出流が位置するように配置される。
【0033】
更に、1次シールドガスノズル7aのガス噴出口14aとガス噴出口14aと対向する底面4との距離は、1次シールドガスノズル7bのガス噴出口14bとガス噴出口14bと対向する底面4との距離よりも短く設定され、ガス噴出口14aがガス噴出口14bよりも底面4の近くに配置される。
【0034】
次に、このような溶接用ヘッド1を用いて、狭開先3を溶接する方法について説明する。この方法では、図1に示すように、アーク溶接トーチ6から延びるワイヤ12と1次シールドガスノズル7a,7bをそれぞれ狭開先3の内部に挿入し、溶接部位である底面3に沿って、レーザヘッド5、1次シールドガスノズル7a,7b及びアーク溶接トーチ6の姿勢を保持したまま、溶接用ヘッド1を溶接方向(右側)に移動させながら溶接を行う。具体的には、1次シールドガスノズル7a,7bから噴出する1次シールドガスによって狭開先3の底面4の外気遮断(ガスシールド)を行うとともに、先行するレーザヘッド5から底面4にレーザ光を照射して溶融池を形成し、後行するアーク溶接トーチ6によってワイヤ12の先端部をアークで溶融させながら溶接金属を供給して積層する。また、狭開先3の表面15に沿って移動する2次シールドガスノズル18から狭開先3の内部へ2次シールドガスを噴出することで、底面4のガスシールド効果を高める。
【0035】
1次シールドガスノズル7a,7bは、1次シールドガスとしてアルゴンや窒素、二酸化炭素あるいはこれらの混合気体を噴出する。1次シールドガスの噴出流量(ガス流量)は、それぞれ、10〜15L/分である。2次シールドガスノズル8は、1次シールドガスと同種のガスを噴出する。2次シールドガスの噴出流量(ガス流量)は、10〜20L/分である。
【0036】
レーザヘッド5から照射されるレーザ光の断面形状は、特に制限されないが、レーザ光によって狭開先3の底面4を溶融させるため、レーザ照射位置のエネルギー密度は、100W/mm以上であることが好ましく、狭開先3の底面4の幅方向全体を照射する。
【0037】
ここで、溶融地やアーク放電位置から発生するヒュームは、レーザ光の照射を受けると、励起されてプルーム(プラズマ)になる。このプルームをレーザ光が通過すると、プルームによってレーザ光が吸収、散乱され、底面4に到達するレーザ光のエネルギーが低下する。したがって、レーザ溶接を行う際は、レーザ光がプルームを照射しないようにすることが求められる。
【0038】
本実施形態の溶接用ヘッド1を用いた溶接方法では、狭開先3の底面4において、レーザ照射位置に対してアーク放電位置と反対側の溶接線上に1次シールドガスの噴出流が位置するように1次シールドガスノズル7aから1次シールドガスを噴出し、更に、底面4に対するアークの照射方向(ワイヤ12の延在方向)と対向する方向に、1次シールドガスの噴出方向を傾けて溶接する。図1の例では、アークを溶接方向の前方に対して所定の前進角で傾けて照射し、レーザ光を溶接方向の後方に対して所定の後進角で傾けて照射し、かつ、1次シールドガスを溶接方向の後方に対して所定の後進角(レーザ光の後進角と略同じ角度)で傾けて噴出する。
【0039】
この形態によれば、1次シールドガスノズル7aから噴出した1次シールドガス22は、底面4に沿ってレーザ照射経路11を通過し、アーク放電位置へ向かって流れる。また、1次シールドガスノズル7bから噴出した1次シールドガス23は、1次シールドガス22と合流し、底面4に沿ってアーク放電位置へ向かって流れる。そのため、溶融地で発生したヒュームは、レーザ光の照射を受けてプルームになる前に、1次シールドガス22,23に同伴して、アーク放電位置に対してレーザ照射経路11と反対側(溶接方向の後方)へ押し出される。また、アーク放電位置で発生したヒュームは、1次シールドガスの流れに同伴して、レーザ照射経路11と反対側の後方へ押し出される。符号24は、溶接方向の後方へ押し出されたヒュームを表したものである。これによれば、ヒュームにレーザ光が照射されることによるプルームの発生が抑制され、レーザ溶接の溶接効率の低下を防ぐことができるので、所望の溶接ビート幅が確保され、狭開先3の壁面との融合が促進され、溶接不良の発生を防ぐことができる。また、プルームの成長による体積膨張に伴ってシールドガスに乱れが生じることがないので、外気の巻き込みによる溶融金属の酸化やスラグ巻き込みが防止され、厚肉材を連続的に溶接することができる。
【0040】
また、シールドガス中の不活性ガスがレーザ光の照射を受けて励起されると、プルームが発生することがあるが、レーザ光は、1次シールドガスと同様に、底面4に対するアークの照射方向(ワイヤ12の延在方向)と対向する方向に傾けて、1次シールドガスの噴出方向と略平行に照射されるから、レーザ光と1次シールドガスとの干渉を抑制することができる。このため、不活性ガスにレーザ光が照射されることによるプルームの発生を抑制することができる。
【0041】
ところで、例えば、厚肉板の突合わせ面に形成された狭開先3の内部に1次シールドガスを高速で噴出すると、狭開先3の内部で1次シールドガスの流れに乱れが生じ、外気の巻き込みやアークの乱れが発生し、その結果、溶融金属の酸化や溶接ビットの内部欠陥(ブローホールやピット等)が発生するおそれがある。しかし、この実施形態では、1次シールドガスの噴出方向が底面4に対して所定の後進角となるように1次シールドガスノズル7a,7bをそれぞれ傾けて配置している。このため、1次シールドガスを互いに対向する斜めの方向からそれぞれ噴出する場合と比べて、1次シールドガスの乱れを抑制することができるので、1次シールドガスの流速を遅くしても溶融池のシールド性を確保することができ、かつ、溶融金属の酸化と溶接ビットの内部欠陥の発生を防ぐことができる。
【0042】
また、本実施形態では、レーザ照射経路11を挟んで2本の1次シールドガスノズル7a,7bを設けているので、溶融金属のシールド性が高められ、溶融金属の酸化を効果的に抑制することができる。また、各ノズル7a,7bから噴出された1次シールドガス22,23は、互いに底面4に対する噴出角度が同一に設定されているので、ガス同士の干渉が抑制されるとともに、底面4に沿って溶接方向の後方へ流れるガス流が安定し、レーザ照射経路11にヒュームが入るのを確実に防ぐことができる。
【0043】
また、1次シールドガスノズル7aのガス噴出口14aは、1次シールドガスノズル7bのガス噴出口14bよりも底面4の近くに位置しているので、各1次シールドガスノズル7a,7bから噴出した1次シールドガス22,23の干渉をより効果的に抑制することができ、1次シールドガスの乱れを抑制することができる。これにより、ヒュームの排出効果を高めることができるとともに、外気の巻き込みによる溶融金属の酸化を効果的に防ぐことができる
【0044】
ところで、狭開先の溶接では、積層が進行すると、開先深さが次第に浅くなるので、溶接用ヘッド1を段階的に上方へ移動させなければならないが、2次シールドガスノズル8が上方へ移動すると、狭開先3の開口周縁の表面4と2次シールドガスノズル8との間に隙間が発生し、2次シールドガスが隙間から漏れてシールド効果の低下を招くことになる。これに対し、本実施形態では、2次シールドガスノズル8がラック20とピニオン21を介して溶接用ヘッド1に進退可能に保持されているので、レーザヘッド、アーク溶接トーチ及び1次シールドガスノズルをロボットアーム等で図1の上方へ一体的に移動させる一方、2次シールドガスノズル8を自重あるいは電動モータ等で下方へ移動させることができる。これにより、狭開先3の開先深さに因らず、2次シールドガスノズル8を常時狭開先3の開口周縁の表面4に接触させた状態で移動させることができるので、底面4のシールド効果の低下を防ぐことができる。
【0045】
上述したように、本実施形態の溶接用ヘッド1を用いて溶接を行うことにより、溶融金属の酸化や、溶接ビートの内部欠陥(ブローホールやピット等)ならびに溶融不良のない溶接ビートを狭開先3の内部に形成できるようになり、信頼性の高い溶接継手の形成が可能になる。また、レーザ溶接の溶接効率が向上することで、溶接に必要なレーザ出力を低減できるので、より出力の小さいレーザ発振器を使用して良好な溶接が可能になり、信頼性の高い溶接装置を低コストで構築することが可能になる。
【0046】
以上、本発明が適用される実施形態について説明したが、これは代表的な例に過ぎず、本発明は、その趣旨を逸脱することのない範囲で様々な形態で実施することができる。
【0047】
例えば、本実施形態では、図1の右側を溶接方向とし、1次シールドガス22,23の流れによって、ヒュームを溶接方向の後方へ押し出しながら溶接する例を説明したが、これに代えて、図1の左側を溶接方向とし、1次シールドガス22,23の流れによって、ヒュームを溶接方向の前方へ押し出しながら溶接することも可能である。ただし、ヒュームを溶接方向の前方へ押し出す場合、溶接速度が速くなると、押し出されたヒュームがレーザ照射経路11に戻されるおそれがあるので、ヒュームは、溶接方向の後方へ押し出すことが好ましい。
【0048】
また、本実施形態では、溶接方法として、レーザ溶接とGMA溶接を併用する例を説明したが、GMA溶接に代えて、他のアーク溶接を用いることも可能である。
【0049】
(実施例)
以下、本実施形態の溶接用ヘッド1を用いて溶接する際の溶接条件の一例を示す。
(1)開先寸法
開先幅:9mm(底部)、15mm(上部)
(2) レーザ
レーザ出力:4kW
レーザ照射位置のエネルギー密度:100W/mm以上
レーザ照射位置の寸法:9mm×3mmの矩形状
(3) アーク
アーク溶接条件:200A−25V
ワイヤの送り速度:約8m/分
(4)溶接速度
700mm/分
(5)溶接ヘッド傾斜角度(レーザ入射角度):20°
【0050】
上記の溶接条件でレーザ・GMAハイブリッド溶接を行った結果、溶融金属の酸化や溶接ビートの内部欠陥(ブローホールやピット等)が品質的に問題のないレベルまで低減できることが確認された。また、開先壁面の融合が可能な溶接ビート幅を確保することができた。
【0051】
(比較例)
比較例では、図1において、レーザ照射経路11の入射角度が底面4に対して垂直になるようにレーザヘッド5からレーザ光を照射し、かつ、レーザ照射経路11の前後において、1次シールドガスノズル7a,7bから1次シールドガスを底面4に対して垂直方向に噴出させ、その他の条件は、実施例と同じ条件で溶接を行った。
【0052】
比較例によれば、1次シールドガスノズル7a,7bから噴出した1次シールドガス22,23は、底面4に接触した後、1次シールドガスノズル7a,7bの間を上昇する上昇流を形成する。溶融池から発生したヒュームは、この1次シールドガス22,23の上昇流に同伴して上昇し、レーザ照射経路11の大部分と干渉する。このため、レーザ光の吸収によるプルームの成長と、さらなるレーザ光の吸収が繰り返され、大きなプルームが形成され、体積膨張に伴う強い上昇流が生じる。その結果、外気の巻き込みによる溶融金属の酸化が進行し、実施例に対して溶接ビートの品質の低下が確認された。
【0053】
また、実施例の条件において、レーザ照射経路11の入射角度が底面4に対する垂直方向に対して40°になるように、溶接用ヘッド1を傾けたところ、溶接部位と対向する溶接用ヘッド1の所定部位に焼損が生じた。すなわち、レーザ入射角度を大きくとると、溶融地表面でのレーザの反射が生じやすくなるため、レーザのエネルギーの一部が母材の溶融に使用されなくなり、レーザとアークの複合効果が小さくなる。この点、レーザ照射経路11の入射角度は、例えば20±10°の範囲に設定することで、溶接用ヘッド1の焼損がなく、溶接部の品質が実施例のレベルに維持されることがわかった。
【符号の説明】
【0054】
1 溶接用ヘッド
3 狭開先
4 底面
5 レーザヘッド
6 アーク溶接トーチ
7a,7b 1次シールドガスノズル
8 2次シールドガスノズル
9 保持具
11 レーザ照射経路
12 ワイヤ
14a,14b ガス噴出口
22,23 1次シールドガス
24 ヒューム
図1