特許第6625903号(P6625903)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6625903発光体、フィラメント、フィラメントを用いた装置、および、白熱電球
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6625903
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】発光体、フィラメント、フィラメントを用いた装置、および、白熱電球
(51)【国際特許分類】
   H01K 1/10 20060101AFI20191216BHJP
【FI】
   H01K1/10
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-37878(P2016-37878)
(22)【出願日】2016年2月29日
(65)【公開番号】特開2017-157333(P2017-157333A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2019年1月11日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構省エネルギー革新技術開発事業/挑戦研究(事前研究一体型)/メゾスコピック材料を用いた電力光無損失変換技術の研究開発(継続研究),産業技術力強化法19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】特許業務法人 山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小泉 朋朗
(72)【発明者】
【氏名】川上 康之
(72)【発明者】
【氏名】高尾 義史
【審査官】 大門 清
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−046349(JP,A)
【文献】 特開2015−050001(JP,A)
【文献】 特開2015−210909(JP,A)
【文献】 特開2015−176769(JP,A)
【文献】 特開平02−300286(JP,A)
【文献】 特開昭62−167264(JP,A)
【文献】 特表2010−538414(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0096342(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01K 1/00
H01K 3/00
H05B 3/03
H05B 3/10
H05B 3/40
H01J 9/22
H01J 61/30−61/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなる基体と、前記基体の表面の少なくとも一部に配置された放射制御膜とを含み、
前記放射制御膜は、LaまたはLuと、Yとが添加されたHfO膜を含み、
前記HfO膜は、室温で立方晶、または、立方晶と正方晶との混合状態であり、
前記HfO膜に含まれるLaまたはLuの量は、2.8mol%以上、10mol%以下であることを特徴とする発光体。
【請求項2】
請求項1に記載の発光体であって、前記HfO膜は、2.8mol%以上6.7mol%以下のLaを含むことを特徴とする発光体。
【請求項3】
請求項1に記載の発光体であって、前記HfO膜は、3.2mol%以上のLuを含むことを特徴とする発光体。
【請求項4】
請求項1に記載の発光体であって、前記HfO膜に含まれるYの量は、7mol%以上であることを特徴とする発光体。
【請求項5】
請求項1に記載の発光体であって、前記HfO膜に含まれるYの量は、55mol%以下であることを特徴とする発光体。
【請求項6】
金属からなる基体と、前記基体の表面に配置された放射制御膜とを含み、
前記放射制御膜は、LaまたはLuと、Yとが添加されたHfO膜を含み、
前記HfO膜は、室温で立方晶、または、立方晶と正方晶との混合状態であり、
前記HfO膜に含まれるLaまたはLuの量は、2.8mol%以上、10mol%以下であることを特徴とするフィラメント。
【請求項7】
請求項6に記載のフィラメントと、前記フィラメントに電流を供給するリード線とを備え、熱電子および/または光を放出することを特徴とするフィラメントを用いた装置。
【請求項8】
光を透過する容器と、前記容器内に配置された発光体と、前記発光体に電流を供給するためのリード線とを有し、前記発光体は、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の発光体であることを特徴とする白熱電球。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射制御膜を備えた発光体に関し、特にエネルギー利用効率を改善した耐熱温度の高い発光体に関する。
【背景技術】
【0002】
タングステンフィラメント等に電流を流すことにより、フィラメントを加熱し、発光させる光源が広く用いられている。近年、フィラメントを用いた光源のエネルギー変換効率を向上させるために、必要な波長の放射効率を向上させ、他の波長の放射効率を抑制する放射制御膜をその表面に配置する技術が特許文献1等に開示されている。
【0003】
特許文献1の技術では、放射制御膜の積層構造や膜厚を設計することにより、所望の波長域の放射効率を向上させる。放射制御膜を構成する材料は、フィラメントの通電時の高温でも溶融せず、蒸発または昇華もしない材料であることが必要である。特許文献1では、室温での結晶構造が立方晶、あるいは、立方晶と正方晶との混合状態のZrO膜あるいはHfO膜を用いることが提案されている。ZrO膜やHfO膜は、通常、室温では単斜晶系であり、フィラメント通電時の高温で正方晶や立法晶へ相変態し、これに伴って体積収縮が起こり、光学特性が変化する。特許文献1の技術では、Yのようなアルカリ土類金属の酸化物をZrOあるいはHfOに添加し、室温においても立方晶、あるいは、立方晶と正方晶との混合状態にしている。これにより、通電時の相変態を抑制し、安定した光学特性が得られることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−46349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のようにYをHfOに添加した放射制御膜を備えたフィラメントは、通電量を増加させて2300Kを超える高温にすると、放射制御膜が、結晶系を維持したまま変形し、粒状になる(以下、粒化と呼ぶ)現象が生じることが分かった。図1に、2400Kに加熱されたことにより粒化したY添加HfO膜のSEM像を示す。図1からわかるように、Yを添加したHfO膜は、粒化により材料が粒状に集まり、その部分の膜厚が厚く、その周囲は膜厚が薄くなるか、膜が存在せずにフィラメントが露出している。そのため、Y添加HfO膜は、一様な膜ではなくなり、放射制御膜としての機能が低下する。よって、放射制御膜の機能を低下させないためには、光束効率が向上する2300K以上にフィラメントを加熱することは難しい。
【0006】
本発明は、上記課題を解決して、エネルギー変換効率の高い発光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発光体は、金属からなる基体と、基体の表面の少なくとも一部に配置された放射制御膜とを含む。放射制御膜は、LaまたはLuと、Yとが添加されたHfO膜を含み、HfO膜は、室温で立方晶、または、立方晶と正方晶との混合状態である。HfO膜に含まれるLaまたはLuの量は、2.8mol%より大きい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の発光体は、高温に加熱しても放射制御膜の粒化を抑制できるため、エネルギー変換効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】比較例のYを添加したHfO膜を備えたWフィラメントを点灯により2400Kまで加熱した後の表面のSEM像である。
図2】実施形態の発光体の断面図である。
図3】YとHfOとの二元系相図である。
図4】実施形態の白熱電球の切欠き断面図である。
図5】実施例1〜5および比較例のHfO膜のYとLaまたはLuの含有量を示す図である。
図6】実施例1の発光体の放射スペクトルを示すグラフである。
図7】比較例の発光体の放射スペクトルを示すグラフである。
図8】実施例1の発光体を2400Kで点灯させた後の放射制御膜の表面のSEM像である。
図9】実施例2の発光体を2400Kで点灯させた後の放射制御膜の表面のSEM像である。
図10】実施例3の発光体を2400Kで点灯させた後の放射制御膜の表面のSEM像である。
図11】実施例4の発光体を2400Kで点灯させた後の放射制御膜の表面のSEM像である。
図12】実施例3の発光体を2400Kで点灯させた後の放射制御膜の表面のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。
【0011】
本実施形態の発光体は、図2に示すように、金属からなる基体31と、基体31の表面の少なくとも一部に配置された放射制御膜32とを含む。放射制御膜32は、LaまたはLuと、Yとが添加されたHfO膜を含む。HfO膜は、室温で立方晶、または、立方晶と正方晶との混合状態である。HfO膜に含まれるLaまたはLuの量は、2.8mol%以上10mol%以下である。
【0012】
HfO膜は、融点が高く、基体が発光する温度まで加熱でき、蒸発も昇華しにくいため、層構造や膜厚を設計することにより、特定の波長域の放射効率を高める等、発光体表面の放射特性を制御する放射制御膜32として機能できる。HfO膜は、何も添加されていなければ、通常は室温において単斜晶系であるため、基体を加熱して高温となった場合には、立方晶、または、立方晶と正方晶との混合状態に相転移し、体積収縮および光学特性の変化が生じるが、本実施形態ではHfO膜にYを添加したことにより、その結晶系を室温においても、立方晶、または、立方晶と正方晶との混合状態にすることができる。よって、基体を加熱して高温になっても相転移が生じず、体積収縮および光学特性の変化を防ぐことができる。
【0013】
さらに本実施形態では、Yが添加されたHfO膜に、さらにLaまたはLuを2.8mol%以上添加したことにより、2300K以上の高温になった場合でも、Y添加HfO膜が結晶構造を維持したまま変形して粒状に集まる(粒化)現象が生じるのを防ぐことができる。LaまたはLuの添加により粒化を防止できる理由は、2300K以上の高温になっても、膜の表面エネルギーが低く維持され、表面エネルギーが小さくなる粒形状に変形が抑制されるためであると推測される。
【0014】
HfO膜のLaまたはLuの含有量は、10mol%以下である。
【0015】
なお、HfO膜にLuが含まれる場合、粒化を確実に抑制するために、3.2mol%以上であることが望ましい。
【0016】
HfO膜にLaが含まれる場合、2.8mol%以上6.7mol%以下であることが望ましい。
【0017】
一方、HfO膜に含まれるYの量は、7mol%以上、55mol%以下であることが望ましい。
【0018】
図3を用いて、YのHfO膜への添加量について説明する。図3は、YとHfOの状態図(出典:Lei Shi et al., J. Appl. Phys. 107, 014104 (2010))。図3において、CとFは立方晶、Tは正方晶、Mは単斜晶、Hは六方晶を示す。また、Liquidは液相であることを示す。また、図3に示す温度範囲は1700〜2800Kであるが、1700K以下においても1700Kと同じ結晶相を示す。
【0019】
例えば、Yを添加して、立方晶のHfOからなる放射制御膜を成膜する場合、その添加量は、図3の状態図より、融点以下の温度範囲において、立方晶を維持することのできる7mol%以上55mol%以下とすればよい。成膜時の偏析を考慮してより安定化させるために、10mol%以上55mol%以下とすることが好ましい。また、高い融点(2600℃以上)を維持するために、10mol%以上30mol%以下とすることが好ましい。
【0020】
なお、HfO膜のLaまたはLuの含有量は、HfO膜に含まれるHfOとYとLa(またはLu)の総和に対するLa(またはLu)の割合を算出することにより求めることができる。HfO膜に含まれるHfとYとLa(またはLu)の量は、例えば、X線光電子分光(XPS)法によって計測したHfとYとLa(またはLu)の原子組成(at%)から求めることができる。
【0021】
発光体3における基体31は、電流を流すことにより発熱する抵抗体であって、赤外波長の反射率が高く融点が2000K以上の高融点材料より形成される。例えばTa(融点3269K)、Os(融点3318K)、Ir(融点2716K)、Mo(融点2896K)、Re(融点3453K)、W(融点3653K)、Ru(融点2523K)、Nb(融点2740K)、V(融点2000K)、Cr(融点2176K)、Rh(融点2239K)、Hf(融点2128K)、およびHf(融点2503K)のうちのいずれか、または、これらのいずれかを含有する合金からなる融点が2000K以上、特に好ましくは、融点が2300K以上の金属材料によって形成することができる。
【0022】
本発明の発光体における基体31は、材料金属の焼結や線引き等の公知の工程により作製される。基体31の形状は、高温に加熱できる形状であればどのような形状でもよく、線状のフィラメント(所定形状に巻きまわされた巻き線構造も含む)、棒状、薄板状等所望の形状に形成することができる。なお、基体31は、電流供給により発熱するものに限られるものではなく、マイクロ波照射等の別の方法により直接加熱される構造であってもよい。
【0023】
また、HfO膜には、Yと、LaまたはLuの他に、何らかの材料を添加することも可能である。例えば、アルカリ土類金属の酸化物や、希土類元素の酸化物等をさらに添加(固溶)することも可能である。
【0024】
放射制御膜32は、Yと、LaまたはLuが添加されたHfO膜単層であってもよいし、HfO膜と他の材料の膜(例えばMgOやCeO2やZrOなどの誘電体)とを積層した構造であってもよい。放射効率を高めたい波長域や用途に応じて、放射制御膜32の積層構造や膜厚を設計することにより、発光体3の表面の放射率を制御して、特定波長の光を放出することができる。
【0025】
例えば、放射制御膜32により発光体の放射率を制御するために、発光体の反射率を制御することができる。キルヒホッフの法則より放射率とε(λ)と反射率R(λ)との間には、式(1)の関係がある。
(数1)
ε(λ)=1−R(λ) ・・・(1)
【0026】
したがって、発光体3の所定の波長λ0以上の光の反射率が、波長λ0よりも短波長の光の反射率よりも高くなるように放射制御膜32を設計することにより、放射制御膜32を備えない基体31と比較して、所定の波長λ0よりも短波長の光が多く放射される発光体が得られる。例えば、可視光から近赤外光を高効率で放射する発光体3を提供する場合には、上記所定の波長λ0は、1μm以上5μm以下であることが好ましく、特に、3μm以上4μm以下であることが好ましい。
【0027】
例えば、放射制御膜32は、発光体3表面の所望の波長域の光の反射率を低下させる膜(特定波長域反射率低下膜と呼称する)となるように設計することができる。具体的には、放射制御膜32は、所望の波長域の光に対して透明で、放射制御膜32の表面で反射された所定の波長域の光と、放射制御膜32を透過して基体31表面で反射された所定の波長域の光とを打ち消し合わせるように、屈折率や膜厚を設計する。これにより、発光体の所定の波長域の反射率を低下させることができ、その波長域の放射率を高めることができる。例えば、放射制御膜32をYとLaまたはLuとが添加されたHfO膜単層で構成する場合、その膜厚、すなわち所定の波長域の光に対する光学的光路長(λ/n0、ただし、n0は放射制御膜32の屈折率)が1/4波長程度になるように膜厚を設計することにより、特定波長域反射率低下膜を実現できる。
【0028】
具体的には、例えば白熱電球に好適な可視光域の放射率が高い発光体3を得る場合には、波長4000nm以上の赤外光領域で略0%の放射率を有し,700nm以下の可視光領域で略100%の放射率を有する(波長700nm以下の可視光領域で0%に近い低反射率を有し、波長4000nm以上の赤外光領域で100%に近い反射率を有する)ように放射制御膜32を構成することが好ましい。
【0029】
また、放射制御膜32は、発光体3表面の所定の波長域の反射率を高める膜(特定波長域反射膜と呼称する)となるように設計することができる。具体的には、Yと、LaまたはLuとが添加されたHfO膜を第1層とし、他の材料の膜(例えば誘電体)を第2層とし、第1層と第2層とを繰り返し複数組積層した干渉膜の構造にする。第1層(YとLaまたはLuとが添加されたHfO膜)および第2層は、所定の波長域の光を透過するように波長または材料を選択する。第1層が、屈折率n、厚さdであり、第2の層が、屈折率n、厚さdである場合、所定の波長域の各波長λに対して
・d=n・d=λ/4
の関係を満たすように設計する。これにより、放射制御膜32は、所定の波長域の各波長λの光を反射することができ、この波長域の反射率を高めて放射率を抑制し、この波長域以外の波長域の放射率を高めることができる。例えば、放射制御膜32が赤外域の反射率を高める赤外光反射膜である場合、可視光放射率を高めることができる。なお、第1および第2の層の各組は、反射する赤外光の所定の波長が、少しずつ異なるように設計することもできる。
【0030】
具体的には、放射制御膜32を赤外光反射膜の構成として、例えば熱放出装置に好適な発光体3を構成することができる。その場合、放射制御膜32が波長1〜3μmの赤外光を反射する赤外光反射膜となるように設計し、基体31に赤外光を再吸収させ、波長3〜25μmの遠赤外光を高い放射率で放出する発光体3を形成することができる。このような熱放出装置は、融雪装置や赤外ヒーター光源に好適である。
【0031】
また、放射制御膜32を赤外光反射膜の構成とする別の具体例としては、例えば、熱電子放出装置の熱陰極に好適な発光体3を構成することができる。その場合、放射制御膜32が2μm以上の赤外光を反射する赤外光反射膜となるように設計する。これにより、放射制御膜32が赤外放射を抑制し、赤外光のエネルギーを発光体の再加熱に利用できるため、熱電子の放出効率を高めることができる。
【0032】
上述してきたように、本実施形態によればエネルギー変換効率の高い発光体を提供することができる。この発光体は、フィラメントとして用いるのに好適である。
【0033】
つぎに、本実施形態の発光体を用いた白熱電球について図4を用いて説明する。図4に示すように、本実施形態に係る白熱電球1は、透光性気密容器2と、発光体3と、発光体に電流を供給するためのリード線4,5とを有する。ここでは発光体3はフィラメント形状であり、透光性気密容器2の内部に配置され、リード線4,5によって支持され、リード線4,5と電気的に接続されている。透光性気密容器2の封止部には、口金9が接合されている。口金9は、側面電極6、中心電極7、および、側面電極6と中心電極7とを絶縁する絶縁部8を備える。なお、発光体3のリード線4,5との接続部には、放射制御膜32は形成されていない。
【0034】
透光性気密容器2は、例えばガラスバルブにより構成される。透光性気密容器2の内部は、例えば、10−1〜10−6Paの高真空状態にしてもよい。なお、透光性気密容器2の内部に10〜10−1PaのO、H、ハロゲンガス、不活性ガス、並びにこれらの混合ガスを導入することによって、従来のハロゲンランプと同様に、フィラメント上に成膜された可視光反射率低下膜の昇華並びに劣化を抑制し、寿命の延伸効果を期待できる。
上述してきた実施形態の発光体は、HfO膜がLuまたはLaを含む構成であったが、LuおよびLaの両方を含む構成であっても構わない。
【実施例】
【0035】
本発明の実施例について説明する。
【0036】
<実施例1〜2の発光体の製造>
実施例1,2のフィラメント形状の発光体を製造した。
【0037】
まず、フィラメント形状のWを基体31として用意した。
【0038】
HfOにYを20%添加し固溶させ、結晶相を安定させた材料(YSHと呼ぶ)からなるスパッタターゲットと、Luからなるスパッタターゲットをそれぞれ用意し、両者を同時にスパッタすることにより、YとLuが添加されたHfO膜を基材31の表面に成膜した。スパッタ時のYSHスパッタターゲットと、Luスパッタターゲットのスパッタ条件を変化させて、YとLuの含有量の異なる実施例1、2の発光体を製造した。
【0039】
<実施例3〜4の発光体の製造>
実施例3,4のフィラメント形状の発光体を製造した。実施例1、2とは異なり、実施例3,4ではLaからなるスパッタターゲットを用いる。
【0040】
実施例1と同様のHfOにYを20%固溶させたYSHからなるスパッタターゲットと、Laからなるスパッタターゲットをそれぞれ用意し、両者を同時にスパッタすることにより、YとLaが添加されたHfO膜を基体31の表面に成膜した。基体31は、実施例1,2と同じである。スパッタ時のYSHスパッタターゲットと、Laスパッタターゲットのスパッタ条件を変化させて、YとLaの含有量の異なる実施例3、4の発光体を製造した。
【0041】
<実施例5の発光体の製造>
実施例5のフィラメント形状の発光体を製造した。実施例5では、実施例1,2と同様にLuからなるスパッタターゲットを用いるが、YSHのYの含有量が異なる。
【0042】
HfOにYを15%添加し固溶させ、結晶相を安定させたYSHからなるスパッタターゲットと、Luからなるスパッタターゲットを用意し、両者を同時にスパッタすることにより、YとLuが添加されたHfO膜を基体31の表面に成膜した。基体31は、実施例1、2と同じである。これにより、実施例5の発光体を製造した。
【0043】
<比較例の発光体の製造>
【0044】
比較例として、実施例1で用いたYを20%添加したYSHのスパッタターゲットのみを用い、基体31上にYのみが添加されたHfO膜を備えた発光体を成膜した。
【0045】
(組成)
実施例1〜5および比較例の発光体の放射制御膜32の表面層を除去した後、XPSによりHf、Y、La、Luの原子組成比(at%)を測定した。
【0046】
得られた原子組成比と次式(2)〜(4)により、Y含有量(mol%)とLa含有量(mol%)とLu含有量(mol%)を算出した。式(2)〜(4)において、Yは、Yの原子組成比(at%)に1/2をかけたもの、Laは、Laの原子組成比(at%)に1/2をかけたもの、Luは、Luの原子組成比(at%)に1/2をかけたものである。
含有量(mol%)=Y/(Hf+Y+La) ・・・(2)
La含有量(mol%)=La/(Hf+Y+La+Lu) ・・・(3)
Lu含有量(mol%)=Lu/(Hf+Y+La+Lu) ・・・(4)
【0047】
同様に比較例の発光体の放射制御膜32についても、実施例1〜5と同様に、XPSによりHf、Yの原子組成比(at%)を測定した。得られた原子組成比と次式(5)により、Y含有量(mol%)を算出した。式(5)において、Yは、Yの原子組成比(at%)に1/2をかけたものである。
含有量(mol%)=Y/(Hf+Y) ・・・(5)
【0048】
実施例1〜5と比較例の放射制御膜のY含有量(mol%)とLa含有量(mol%)図5に示す。実施例1、2、5は、それぞれLuを10.0mol%、3.2mol%、7.8mol%含む。実施例3,4は、それぞれLaを6.7mol%、2.8mol%含む。比較例は、LaまたはLuを含有していない。
【0049】
(放射スペクトル)
実施例1の発光体と、比較例の発光体を、それぞれ図4の白熱電球のフィラメント3として用い、2400Kで点灯させたときの、点灯直後と点灯から10分後の放射スペクトルを測定した。その結果を図6図7に示す。図6より、実施例1の発光体は、点灯開始してから10分経過後も放射スペクトルは変化せず、放射制御膜32の機能が維持されていることがわかる。一方、比較例の発光体は、図7のように、点灯してから10分経過すると放射スペクトルはシフトし、放射制御膜32の機能が変化している。
【0050】
(SEM像)
実施例1〜5の発光体と比較例の発光体を、2400Kで10分点灯させ後、放射制御膜32の表面のSEM像を撮影した。実施例1〜5の放射制御膜32のSEM像を図8図12に、比較例の放射制御膜32のSEM像を図1にそれぞれ示す。
【0051】
図8図12から明らかなように、実施例1〜5の放射制御膜32は、いずれも膜全体の粒化が抑制され、一様な膜のままである。これに対し、図1の比較例の放射制御膜32は、膜全体に粒化が生じ、膜が変形して粒状(島状)にまとまった部分と、その周囲で膜がなくなり基体表面が露出している部分とが生じている。このため、比較例の放射制御膜は、一様な膜ではなくなっていることがわかる。これらのことから、LaまたはLuを含有することにより、Y添加HfO膜の粒化が抑制できることが確認された。
【0052】
(結晶構造)
また、実施例1の発光体と、比較例の発光体について、2400Kで10分点灯する前と後の放射制御膜の結晶構造を、ラマン分光法により調べたところ、両者とも点灯前後いずれも立法晶系であることが確認された。
【0053】
上述してきたように、実施例1〜5の発光体のY添加HfO膜は、LaまたはLuを2.8mol%以上含有するため、2400K以上の高温に加熱した場合でも、放射制御膜の粒化を防ぐことができ、放射制御膜の機能を維持できる。また、放射スペクトルのシフトも生じない。よって、2400K以上の高温まで加熱して放射効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0054】
1:白熱電球
2:透光性気密容器
3:フィラメント
4:リード線
5:リード線
6:側面電極
7:中心電極
8:絶縁部
9:口金
31:基体
32:放射制御膜
図1
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図12