(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6625906
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】ハーフブリッジコンバータ回路
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20191216BHJP
【FI】
H02M3/28 Q
H02M3/28 P
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-44034(P2016-44034)
(22)【出願日】2016年3月8日
(65)【公開番号】特開2017-153337(P2017-153337A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2019年1月11日
(31)【優先権主張番号】特願2016-33045(P2016-33045)
(32)【優先日】2016年2月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000144393
【氏名又は名称】株式会社三社電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】特許業務法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 健次
【審査官】
佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−345241(JP,A)
【文献】
特開2009−148118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスと、
前記トランスの一次側に接続された二つの直列接続したスイッチ素子S1、S2と、
前記トランスの一次側に接続された二つの直列接続したコンデンサC1、C2と、
前記トランスの二次側に接続された整流回路と、
前記トランスの一次側に接続され、コンデンサC3、リアクトルL1、およびスイッチ部の直列回路で構成される共振回路と、
前記スイッチ素子S1、S2のPWM制御および前記スイッチ部のオンオフ制御を行う制御回路とを備え、
前記制御回路は、前記スイッチ素子S1、S2をPWM制御する第1制御と、
前記スイッチ素子S1またはS2がターンオンするタイミングで前記スイッチ部を一定時間T1だけオンし、それにより前記共振回路に共振電流を流して前記コンデンサC3を充電し、さらに、前記スイッチ素子S1またはS2のPWM制御信号がオフするタイミングよりも一定時間T2前で前記スイッチ部をオンし、それにより前記コンデンサC3の充電電荷を放電する第2制御と、
を行うハーフブリッジコンバータ回路。
【請求項2】
前記スイッチ部は、逆方向に直列接続したスイッチ素子S3、S4で構成され、該スイッチ素子S3、S4にはそれぞれ逆並列ダイオードが接続されている請求項1記載のハーフブリッジコンバータ回路。
【請求項3】
前記スイッチ部は、第1スイッチ部と第2スイッチ部の直列回路で構成され、
前記第1スイッチ部は、第1の双方向スイッチと、これに前記コンデンサC3への充電方向に対して順方向に接続した第1のダイオードとを含む回路で構成され、
前記第2スイッチ部は、第2の双方向スイッチと、これに前記コンデンサC3への充電方向に対して逆方向に接続した第2のダイオードとを含む回路で構成される、
請求項1記載のハーフブリッジコンバータ回路。
【請求項4】
前記制御回路は、前記整流回路の出力電流が所定以下になったときに、前記第2制御を停止する、請求項1〜3のいずれかに記載のハーフブリッジコンバータ回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スイッチ素子のターンオフ時にZCS動作を行わせるハーフブリッジコンバータ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、ハーフブリッジコンバータ回路の基本回路図である。トランスTrの一次側には、二つの直列接続したスイッチ素子S1、S2と、二つの直列接続したコンデンサC1、C2が接続され、二次側に整流回路が接続されている。
【0003】
スイッチ素子S1、S2は休止期間を挟んで交互にオンオフされ、各スイッチ素子に流れる主電流は同スイッチ素子のオンオフに同期して流れる。
【0004】
以上の動作で、スイッチ素子S1、S2がターンオフするタイミングに主電流が流れていると、いわゆるターンオフZCS動作とならず、損失が大きくなる問題がある。
【0005】
そこで、トランスTrの漏れインダクタンスとコンデンサC1、C2との共振動作により、スイッチ素子S1、S2に流れる主電流を正弦波状の共振波形とし、スイッチ素子S1、S2のターンオフ時に主電流がゼロとなるようにしてターンオフZCS動作を行わせるハーフブリッジコンバータ回路が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】http://itohserver01.nagaokaut.ac.jp/itohlab/paper/2010/SPChokkaido/miyawaki.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記のコンバータ回路では、トランスTrの漏れインダクタンスとコンデンサとの共振動作によるターンオフZCS動作であるため、出力電流の大きさによっては最適な波形とならず、不完全なZCS動作となる可能性がある。また、不完全なZCS動作のときにその動作を停止させることもできない。
【0008】
そこで、この発明の目的は、出力電流の大きさが変動してもより確実にZCS動作が可能なハーフブリッジコンバータ回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明のハーフブリッジコンバータ回路は、
トランスと、
前記トランスの一次側に接続された二つの直列接続したスイッチ素子S1、S2と、
前記トランスの一次側に接続された二つの直列接続したコンデンサC1、C2と、
前記トランスの二次側に接続された整流回路と、
前記トランスの一次側に接続され、コンデンサC3、リアクトルL1、およびスイッチ部の直列回路で構成される共振回路と、
前記スイッチ素子S1、S2のPWM制御および前記スイッチ部のオンオフ制御を行う制御回路とを備え、
前記制御回路は、
前記スイッチ素子S1、S2をPWM制御する第1制御と、
前記スイッチ素子S1またはS2がターンオンするタイミングで前記スイッチ部を一定時間T1だけオンし、それにより前記共振回路に共振電流を流して前記コンデンサC3を充電し、さらに、前記スイッチ素子S1またはS2のPWM制御信号がオフするタイミングよりも一定時間T2前で前記スイッチ部をオンし、それにより前記コンデンサC3の充電電荷を放電する第2制御と、を行う。
【0010】
スイッチ素子S1がターンオンすると、前記共振回路のコンデンサC3が共振電流で充電開始される。その後スイッチ素子S1のPWM制御信号がオフするが、そのオフタイミングのT2前でコンデンサC3の充電電荷が放電される。このとき、スイッチ素子S1に電源側から流れる電流は前記放電電流の分だけ減少しようとするため(トランス一次側に流れる電流値はリアクトルの作用で変化がないため)、その結果、スイッチ素子S1の電流がはやくゼロとなる。これにより、スイッチ素子S1のターンオフZCS動作が確実となる。
【0011】
スイッチ素子S2についても同様である。
【発明の効果】
【0012】
この発明では、共振回路の充電電荷を放電することで、スイッチ素子のターンオフ時の主電流を早いタイミングでゼロにする動作となるため、出力電流の変化があって共振条件が多少変わっても、主電流(スイッチ素子を流れる電流)がゼロになりやすい。また、共振条件が大きくずれるようなときは、スイッチ部のオンオフ制御を停止すれば良いので動作が不安定になるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ハーフブリッジコンバータ回路の基本回路図である。
【
図2】この発明の実施形態であるハーフブリッジコンバータ回路の回路図である。
【
図3】この発明の実施形態であるハーフブリッジコンバータ回路の動作波形図。
【
図4】この発明の実施形態であるハーフブリッジコンバータ回路の動作モード遷移図である。
【
図5】この発明の実施形態であるハーフブリッジコンバータ回路の動作モード遷移図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図2は、この発明の実施形態であるハーフブリッジコンバータ回路の回路図である。
【0015】
トランスTrの一次側には、二つの直列接続したスイッチ素子S1、S2と、二つの直列接続したコンデンサC1、C2が接続され、二次側に整流ダイオードD1、D2とリアクトルL2を含む整流回路が接続されている。
【0016】
また、前記トランスTrの一次側に、コンデンサC3、リアクトルL1、およびスイッチ部の直列回路で構成される共振回路1が接続されている。スイッチ部は、本例では逆方向に直列接続したスイッチ素子S3、S4で構成され、該スイッチ素子S3、S4にはそれぞれ逆並列ダイオードが接続されている。
【0017】
前記スイッチ素子S1、S2のゲートには制御回路2からPWM制御信号が出力され、スイッチ素子S3、S4にはオンオフ信号が出力される(第1制御)。PWM制御信号は、図示していない出力電流検出センサで検出した電流値が目標値になるようにパルス幅が制御された信号とされる。
【0018】
次に、
図3〜
図5を参照して動作を説明する。
図3は、本発明のハーフブリッジコンバータのタイミングチャートを示し、
図4、5は、各動作モードにおける電流の流れを示すものである。
【0019】
図3において、のこぎり波は、PWM制御信号を生成するための信号で、制御回路2において、こののこぎり波と出力電流目標値を比較することでPWM(A)、(B)を生成する。Delay(A1)、(A2)は、PWM(A)から生成し、Delay(B1)、(B2)は、PWM(B)から生成する。これらのPWM(A)、(B)信号とDelay信号は、スイッチ素子S1、S2のゲートに与えるPWM制御信号であるP−SW(S1)、P−SW(S2)と、スイッチ素子S3、S4のゲートに与えるオンオフ信号であるZCS―SW(S3)、ZCS―SW(S4)を生成するのに使用される。
【0020】
t0より前は、PWM制御信号P−SW(S1)、P−SW(S2)、ZCS−SW(S4)がオフ、ZCS−SW(S3)がオンで、共振回路1とトランスTrの一次側には電流が流れていない状態にある。この状態から、期間t0−t1のMode1になるとP−SW(S1)がオンして、スイッチ素子S1がオンされ、トランスTrの一次側に電流が流れる。また、ZCS―SW(S3)がオンしていることで、S1→C3→L1→S3→S4の逆並列ダイオードの経路で共振回路1にも電流が流れる。このとき共振回路1に流れるリアクトルL1の電流波形は、L1_currentで示すようにコンデンサC3とリアクトルL1で共振する共振波形となり、コンデンサC3の電圧は、この共振電流により、C3_voltageで示すように上昇する。この共振回路1に共振電流を流す期間t0−t1が本発明の一定時間T1である。
【0021】
期間t1−t2のMode2では、P−SW(S1)オンから一定時間T1後のt1で、ZCS―SW(S3)をオフすることで共振回路1に電流が流れなくなり、コンデンサC3の充電が停止する。コンデンサC3は、その充電電位に維持される。S1はオンしてるため、トランスTrに電流が流れ続ける。
【0022】
期間t2−t3のMode3では、P−SW(S1)がオフするt4よりも一定時間T2だけ前のタイミングのt2で、ZCS―SW(S4)をオンする。ZCS―SW(S4)をオンすることで、スイッチ素子S4がオンされて、コンデンサC3の充電電荷の放電が行われる。このとき、放電経路は、C3→Tr→S4→S3の逆並列ダイオード→L1であり、共振回路1に流れるリアクトルL1の電流L1_currentは図示のようにマイナスとなる(放電方向)。このとき、トランスTrへの一次側電流の大きさは大きく変化しないから、スイッチ素子S1に流れる電流SIIdはL1_currentの分だけ減少する。その結果、スイッチ素子S1の電流S1Idは、共振回路1を設けない場合に比して大きく減少し、t3でゼロになる。
図3の電流S1Idにおいて、矢印Aで示す部分は、共振回路1を設けない場合の電流がt2のタイミングからL1_current分だけ減少することを示している。なお、矢印Bで示す部分は、共振回路1を設けない場合のスイッチ素子S1の両端電圧S1Vdsがt4のタイミングから電源電圧Eに上昇することを示しており、この場合スイッチ素子S1のターンオフがZCS動作とならずスイッチング損失が発生する。
【0023】
期間t3−t4のMode4になると、時刻t3でコンデンサC3からの放電電流がさらに増大し、その電流値は、トランスTrへの一次側に流れる電流値を超えようとする。すると、その超えようとした分はコンデンサC3から電源側に流れる。そのとき、スイッチ素子S1の電流S1Idが、若干マイナス方向に流れる。t4でP−SW(S1)がオフすると、コンデンサC3から電源側に流れる放電電流の経路がスイッチ素子S1から同素子の逆並列ダイオードに変わり、スイッチ素子S1の電流S1Idがゼロになるt4でP−SW(S1)がオフすることにより、スイッチ素子S1はZCSでターンオフすることとなる。そのため、スイッチ素子S1のターンオフ時のスイッチング損失は発生しない。
【0024】
期間t4−t5のMode5では、P−SW(S1)、P−SW(S2)、ZCS−SW(S3)がオフ、ZCS−SW(S4)がオンしており、Mode4のスイッチ素子S1に代えて、このスイッチ素子S1の逆並列ダイオードを通って、Mode4と同方向に、コンデンサC3の充電電荷の放電が継続する。
【0025】
期間t5−t7のMode6、Mode7では、t5でスイッチ素子S1の逆並列ダイオードがオフして転流が開始し、トランスTrの二次側のリアクトルL2を電流源として共振回路1に電流が流れ続ける。また、コンデンサC3の電位は減少していく。t6−t7のMode7では、t6でコンデンサC3が完全放電し、リアクトルL1電流L1_currentが減少し始める。
【0026】
期間t7−t8のMode8では、t7でリアクトルL1電流L1_currentがゼロとなり、次にP−SW(S2)がオンするサイクルに入る。以下、上記と同様の動作が行われる。なお、P−SW(S2)がオンするサイクルでは、コンデンサC3に負の電流が流れ、
図3のように、負の方向に充電される。
【0027】
以上のように、期間t0−t1において共振回路1のコンデンサC3に充電を行い、P−SW(S1)がオフするタイミングよりも一定時間T2だけ前にコンデンサC3の充電電荷を放電することで(第2制御)、期間t2−t4でスイッチ素子S1を流れる電流SIIdをより早くゼロに持っていくことができる。これにより、スイッチ素子S1のターンオフを確実にZCS動作とすることができる。
【0028】
また、軽負荷時など出力電流の変化があるときには共振回路1での共振条件が変化するため、期間t0−t1や期間t2−t4においての電流変化が不安定になることがあるが、その場合であっても、本実施形態の回路は、共振回路1の充電電荷を放電することで、スイッチ素子のターンオフ時の主電流(スイッチ素子を流れる電流)を早いタイミングでゼロにする動作をするため、主電流がゼロになりやすい。また、軽負荷時など出力電流が所定以下になって共振条件が大きくずれるようなときは、制御回路2でスイッチ部のオンオフ制御を停止して共振回路1を切り離すように制御を行えば動作が不安定になるのを防止できる。スイッチ部のオンオフ制御の停止は、S3、S4のゲートに与える信号をオフしておけば良いため極めて簡単な制御で良い。
【0029】
なお、スイッチ素子S3とS4で構成されるスイッチ部は、
図6(A)、(B)に示すような、双方向のスイッチで構成することも可能である。
図6(A)は、スイッチ素子S3とS4に代えてハードスイッチ等の双方向スイッチS5を設けた例である。
【0030】
また、
図6(B)は、第1スイッチ部と第2スイッチ部の直列回路で構成された例である。前記第1スイッチ部は、第1の双方向スイッチS6と、これに前記コンデンサC3への充電方向に対して順方向に接続した第1のダイオードD6とを含む回路で構成され、前記第2スイッチ部は、第2の双方向スイッチS7と、これに前記コンデンサC3への充電方向に対して逆方向に接続した第2のダイオードD7とを含む回路で構成される。双方向スイッチS6、S7は、それぞれ、
図2のスイッチ素子S4、S3に対応し、双方向スイッチS6、S7にそれぞれ並列接続されるダイオードD6、D7は、スイッチ素子S4、S3に逆並列接続される逆並列ダイオードに対応している。
【符号の説明】
【0031】
1−共振回路
2−制御回路