特許第6625909号(P6625909)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6625909
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】熱処理装置
(51)【国際特許分類】
   F27D 7/02 20060101AFI20191216BHJP
   C22F 1/04 20060101ALN20191216BHJP
【FI】
   F27D7/02 A
   !C22F1/04 M
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-45334(P2016-45334)
(22)【出願日】2016年3月9日
(65)【公開番号】特開2017-161140(P2017-161140A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2018年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593065899
【氏名又は名称】草野産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598148913
【氏名又は名称】株式会社エコム
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100129861
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 滝治
(72)【発明者】
【氏名】有吉 徹
(72)【発明者】
【氏名】永井 美智夫
(72)【発明者】
【氏名】菅原 基
【審査官】 橋本 憲一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−268450(JP,A)
【文献】 特開2002−331357(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/078450(WO,A1)
【文献】 実開平02−017548(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 7/00−7/06
F27B 9/00−9/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを収容する加熱炉と、
前記加熱炉に流体連通して熱風が流通する熱風管と、
前記熱風管における前記加熱炉への吹き出し口において、熱風を複数の分流に分ける複数のスリット流路と、を備え
複数の前記スリット流路は、前記ワークの幅方向に延びるスリット状に設けられ、前記ワークの長さ方向に間隔をあけて配置され、
前記ワークの長さ方向の中央部に配置される前記スリット流路は、前記ワークの長さ方向の両端部に配置される前記スリット流路よりも広幅であり、下流端に当該スリット流路を流通する熱風を分流する分流竿が設けられ、
前記両端部に配置される前記スリット流路は、上流端の開口幅よりも下流端の開口幅が狭い先細状に設けられている熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加熱炉内でワークを熱処理する熱処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
比較的小さなアルミニウム部品等のワークを熱処理する場合、従来は、パレットに複数のワークを収容し、熱風管が流体連通している加熱炉にパレットを収容して各ワークを熱処理する方法が用いられている。
【0003】
この方法では、パレットに収容されたワークのうち、熱風管に近い位置にあるワークの温度上昇は高い一方で、熱風管から遠い位置にあるワークの温度上昇は低くなり易く、ワークの位置によって各ワークの昇温時間に大きな差が生じるといった課題があった。
【0004】
さらに、加熱炉内に収容されたワークは位置ずれが生じ易いが、ワークの載置位置がずれてしまうと、熱風管から加熱炉内に提供される熱風のワークへの当たり方に分布が生じ、ワークの加熱にムラが生じるといった課題もあった。
【0005】
ここで、特許文献1には、複数の熱風供給孔からの熱風の供給を処理対象のワークの大きさに応じて切り替える急速加熱装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−160431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の急速加熱装置によれば、大きさの異なるワークを加熱ばらつきを抑制しながら高速で効率よく加熱処理できるとしている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の急速加熱装置を適用した場合でも、仮にワークの位置ずれが生じている状態では加熱ムラを解消するために熱風の供給を切り替える精度の高い制御が要求されることから、このような制御が困難なことに加えて、上記する課題、すなわち、加熱炉内でワークが位置ずれした場合にワークの加熱にムラを生じさせないといった課題を解消するには至らない。
【0009】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、加熱炉内でワークが位置ずれした場合でも、高度な制御を要することなく、ワークの加熱にムラを生じさせることのない熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明による熱処理装置は、ワークを収容する加熱炉と、前記加熱炉に流体連通して熱風が流通する熱風管と、前記熱風管における前記加熱炉への吹き出し口において、熱風を複数の分流に分ける複数のスリット流路と、を備えているものである。
【0011】
本発明による熱処理装置は、熱風管における加熱炉への吹き出し口において、熱風を複数の分流に分ける複数のスリット流路を備えている点に特徴を有する装置である。
【0012】
熱風管を流通してきた熱風が複数のスリット流路で分流されることで、複数の分流をワークに提供することができるため、ワークの位置ずれが生じている場合でもワークの全体に対して可及的均等に熱風を提供することが可能になる。そのため、ワークの加熱にムラが生じるといった課題は効果的に解消される。
【0013】
また、熱風が分流になることで熱風の風速が高まりながらワークに直接提供されることにより、ワークの昇温時間を従来の熱処理装置に比して格段に短縮することが可能になる。
【0014】
このように熱処理時間を大幅に短縮できることは装置のコンパクト化にも繋がり、熱処理装置のコンパクト化によってたとえば熱処理装置と鋳造装置を同一エリア内に配置することが可能になる。この場合、鋳造されたワークが冷めない間に熱処理装置にワークを移載することができ、ワークの処理時間のさらなる短縮に繋がる。
【0015】
従来の熱処理工程では、パレットに複数個のワーク(粗材)を収容して熱処理しており、パレット分の在庫が発生する傾向にあった。さらに、熱処理時間が長かったことから、加熱炉内にも大量の在庫が発生する傾向にあった。これに対し、本発明の熱処理装置を適用することで、高効率の熱処理が実現できる結果、ワークの処理時間が大幅に短縮することから、ワークを一個ずつ連続的に流しながら熱処理することができ、在庫の大幅な低減が期待できる。
【発明の効果】
【0016】
以上の説明から理解できるように、本発明の熱処理装置によれば、熱風管における加熱炉への吹き出し口において、熱風を複数の分流に分ける複数のスリット流路を備えていることにより、風速の高められた複数の分流をワークに提供することができるため、ワークの位置ずれが生じている場合でもワークの全体に対して可及的均等に熱風を提供することが可能になり、ワークの加熱に際して加熱ムラを生じ難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の熱処理装置の一部を拡大して示した模式図である。
図2】実施例と比較例の熱処理時間を比較した実験結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の熱処理装置の実施の形態を説明する。なお、図示例の熱処理装置は三つのスリット流路を備えているが、スリット流路の基数やその形状が図示例に限定されるものでないことは勿論のことである。
【0019】
(熱処理装置の実施の形態)
図1は本発明の熱処理装置の一部を拡大して示した模式図である。
【0020】
図示する熱処理装置10は、ワークWを載置する載置台3を備えた加熱炉1と、加熱炉1に流体連通して熱風が流通する(X1方向)熱風管2と、から大略構成されている。
【0021】
熱風管2における加熱炉1への吹き出し口には、熱風を複数の分流に分ける複数のスリット流路4,5,6が配設されている。
【0022】
さらに、中央のスリット流路5は左右のスリット流路4,6に比して広幅であり、このスリット流路5を流通する熱風をさらに分流するべく、その下流端に分流竿7が設けられている。
【0023】
ワークWは、たとえば車両のバルブボディーを構成するアルミニウム部品等からなる。
【0024】
熱風管2を流通した(X1方向)熱風は、その下流にて複数のスリット流路4,5,6に入って分流され(X2方向)、各スリット流路4,5,6から吹き出された熱風の分流が載置台3上に位置決めされているワークWに提供される(X3方向)。
【0025】
このように、熱風管2を流通してきた熱風が複数のスリット流路4,5,6で分流されることで、複数の分流をワークWに提供することができる。そのため、ワークWが位置ずれを生じている場合でも、ワークWの全体に対して可及的均等に熱風を提供することが可能になる。したがって、ワークWの加熱にムラが生じるといった課題は生じ難い。
【0026】
また、熱風が分流になることで風速が高まりながらワークWに直接提供されることにより、ワークWの昇温時間を従来の熱処理装置に比して格段に短縮することが可能になる。
【0027】
このように熱処理時間を大幅に短縮できることは熱処理装置10のコンパクト化にも繋がる。この熱処理装置10のコンパクト化により、熱処理装置10と不図示の鋳造装置を同一エリア内に配置することが可能になる。この場合、鋳造されたワークWが冷めない間に熱処理装置10にワークWを移載することができ、ワークWの処理時間のさらなる短縮に繋がる。
【0028】
そして、このようにワークWの処理時間が大幅に短縮されることから、ワークWを連続的に流しながら熱処理することが可能となり、従来の熱処理装置にて大量に発生していた在庫を大幅に低減することに繋がる。
【0029】
(熱処理時間を検証した実験とその結果)
本発明者等は、本発明の熱処理装置(実施例)と従来の熱処理装置(比較例)を用いて、鋳造後のワークを各装置に収容し、熱処理した際に所定の温度に昇温するまでの熱処理時間を測定する実験をおこなった。図2は実験結果を示した図である。
【0030】
図2より、比較例では所定の温度までの昇温時間がt1分かかっていたのに対して、実施例ではその15%程度の時間t2分で達成され、昇温時間が格段に短縮されることが実証されている。
【0031】
また、同一エリア内に鋳造装置と熱処理装置を配置することで鋳造後のワークの熱ロスを低減することができ、図2で示すように比較例の昇温時間t1の10%程度のt3分に短縮できることが実証されている。
【0032】
このような熱処理時間の大幅な短縮により、以下の効果も期待できる。
【0033】
まず、在庫低減効果である。従来装置ではワークの冷却までに2時間の処理時間を要しており、この処理時間分の在庫が発生していた。また、長時間の処理のためにバッチ処理をすることが多く、パレットにワークを収容するためのバッファも要していた。これに対し、本発明の熱処理装置では処理時間が大幅に短縮できることから、ワークを一個ずつ連続的に流しながら熱処理することが可能になり、在庫を実施例では95%程度も低減できることが予測される。
【0034】
次に、省スペース化である。従来装置では長時間の処理をバッチでおこなっていたために、設備据付面積が広かったが、本発明の熱処理装置では処理の短時間化が図れることで装置に要するスペースを小さくすることが可能になり、従来装置に比して70%程度もスペースを低減できることが予測される。
【0035】
最後に、生産性の向上である。従来は加熱炉が大きいことから稼働前の予熱に時間を要していた。それに対し、本発明の装置では加熱炉内に循環する熱風を高温化してワークに提供することから、加熱炉全体の予熱を不要とでき、この予熱に要する時間を短縮でき、従来装置に比して15%程度の生産性の向上が予測される。
【0036】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0037】
1…加熱炉、2…熱風管、3…載置台、4,5,6…スリット流路、7…分流竿、10…熱処理装置、W…ワーク
図1
図2