(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
支持構造物に支持され吊架線の延設方向と直交する方向へ延びる可動ブラケットに固定され、当該可動ブラケットの位置を調整する作業の間、当該可動ブラケットの吊架線支持手段に代わって前記吊架線をその張力に抗して一時的に引き留めておくことが可能な可動ブラケット調整装置であって、
前記可動ブラケットを構成し前記吊架線支持手段が設けられているブラケット構成部材に着脱可能に固定するためのクランプ手段を有する本体フレーム部材と、
前記吊架線を挟持可能な吊架線挟持手段を有し、前記本体フレーム部材により互いに平行な状態を保ったまま移動可能に支持された一対の棒状部材と、
前記一対の棒状部材をそれぞれ個別に軸方向へ移動させる一対の偏位調整手段と、
前記本体フレーム部材に保持され前記一対の棒状部材の移動方向と直交する方向へ移動可能な摺動ブロックと、
前記本体フレーム部材により支承され前記摺動ブロックを移動させることが可能な摺動ブロック送り手段と、
を備えることを特徴とする可動ブラケット調整装置。
前記一対の棒状部材の外周の一部には雄ネジが形成され、該雄ネジにそれぞれナットが螺合されており、前記ナットを回すと前記一対の棒状部材が、軸方向へ移動されるように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の可動ブラケット調整装置。
請求項1〜3のいずれかに記載の可動ブラケット調整装置を用いて、前記吊架線の横張力が前記支持構造物へ向かって作用している可動ブラケットの吊架線方向の位置を調整する可動ブラケットの流れ調整方法であって、
前記吊架線支持手段が設けられている前記ブラケット構成部材の先端側の位置に、前記クランプ手段によって当該可動ブラケット調整装置を固定する工程と、
前記一対の棒状部材に設けられている前記吊架線挟持手段によってそれぞれ吊架線を挟持させる工程と、
可動ブラケットに設けられている前記吊架線支持手段を操作して吊架線の支持状態を解除する工程と、
前記一対の棒状部材を前記吊架線の横張力が作用する方向と反対方向へ移動させて、前記吊架線支持手段から前記吊架線の横張力を解放させる工程と、
前記摺動ブロック送り手段を操作して前記摺動ブロックを所望の方向へ所望の量だけ移動させる工程と、
前記一対の棒状部材を前記ブラケット構成部材の基部側の方向へ移動させて前記吊架線挟持手段による吊架線の挟持状態を解除させる工程と、
前記吊架線支持手段を操作して吊架線を支持する状態に変換させる工程と、
前記クランプ手段のクランプ状態を解除して前記可動ブラケット調整装置を可動ブラケットから取り外す工程と、
を有することを特徴とする可動ブラケットの流れ調整方法。
【背景技術】
【0002】
鉄道軌道に沿って敷設され走行する電気車へ電力を供給するためのトロリ線やこれを吊架する吊架線などの電車線は、所定の間隔を置いて設けられた電柱に固定された可動ブラケットと呼ばれる電車線支持装置により支持され、両端に設けられた自動張力調整装置によってそれぞれ張力が付与されている。
一般に、トロリ線と吊架線はそれぞれ異なる金属材料すなわち線膨張率の異なる材料で構成されているため、年間を通して変動する気温の影響を受けて伸び縮みする。自動張力調整装置は電車線が伸び縮みしても一定の張力を付与することができるが、自動張力調整装置からの張力によってトロリ線と吊架線の相対位置がずれ、これらの電車線を支持する可動ブラケットに線路と平行方向への力が作用して、可動ブラケットを変形させるような力が働くこととなるため、電車線の伸び縮みに応じて可動ブラケットにおける電車線固定部の位置調整が必要になる。
【0003】
また、可動ブラケットには、先端部が線路平行方向へ移動できるようにするヒンジが可動ブラケットの取付け基部に設けられているものがあり、気温変動でトロリ線や吊架線に生じる位置ずれの程度に応じて、可動ブラケットの先端部を電車線に沿って移動させる流れ調整と呼ばれる作業が行われている。なお、従来、このような流れ調整作業においては、可動ブラケットを電車線に作用している張力から一旦解放するために、作業対象の可動ブラケットが支持する電車線と反対線路(隣接線)側の電車線を支持する隣接可動ブラケットとの間にワイヤを張って、シメラーと呼ばれる工具でワイヤを引っ張ったり、軌道上に台棒と呼ばれる高さが4〜5mにも及ぶ支持柱を立てて、この柱に電車線の張力を仮受けさせたりすることが行われていた。
【0004】
さらに、可動ブラケットにおいては、トロリ線の局所的な摩耗を防止するため、可動ブラケットの取付バンドの位置等を調整してトロリ線や吊架線を把持している箇所の上下位置や水平位置を調整する作業も行われることがある。しかし、トロリ線や吊架線には多大な張力が作用しているので、トロリ線や吊架線を支持した状態のままで取付けバンドの位置を微調整することは実質的に不可能である。
そこで、トロリ線や吊架線の支持位置の調整作業を行う際に、トロリ線や吊架線を一時的に引き留める支持位置調整作業用の電車線仮引き装置に関する発明が提案されている(例えば、特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したような流れ調整作業の際に可動ブラケットを電車線に作用している張力から解放するため、ワイヤとシメラーを使用する従来の方法は、準備作業として隣接線の検電接地や隣接線へのハシゴ掛け、ワイヤの取付け、シメラーの締付けなど複数の作業が必要であり、全体の作業時間が長くなるという課題がある。また、台棒と呼ばれる長い支持柱を使用する方法は、台棒の移動や設置が大掛かりな作業になってしまうという課題がある。
一方、特許文献1に記載されている電車線仮引き装置によれば、トロリ線や吊架線を一時的に引き留めることで、可動ブラケットにかかるトロリ線や吊架線の張力を仮受けすることができるため、流れ調整作業を行うこともできる。しかし、その場合、可動ブラケットを手押しで横移動させる必要があるとともに、可動ブラケット全体にかかるトロリ線や吊架線の張力を完全に開放できるものではないため、正確な流れ調整は困難であるという課題がある。
【0007】
また、可動ブラケットには、線路のカーブの内側位置等に設けられて電車線の張力に起因して電柱の方向へ向かって作用する力を受けるO形可動ブラケットと呼ばれるものと、線路のカーブの外側位置等に設けられて電車線の張力に起因して電柱から離れる方向へ向かって作用する力を受けるI形可動ブラケットと呼ばれるものとがある。つまり、O形とI形の可動ブラケットでは、電車線の張力に起因して可動ブラケットに作用する力が逆になる。
ところで、可動ブラケットの調整作業を行う際には、仮受けしている張力が誤って解放された場合、弓矢を引いた状態で矢を離すと弦が急激に元に戻るように、電車線が仮受けしていた張力の方向とは反対側へ、作業者の想定しない位置へ急激に電車線が移動してしまう恐れがある。そのため、具体的には、仮受けしている張力が誤って解放された際に電車線が移動する側と反対の側に張力の仮受け金具を設ける等の工夫が必要である。
【0008】
特許文献1の発明に係る電車線仮引き装置も、そのような安全性を考慮して仮引き装置を電柱に近い側に設けていると考えられる。しかるに、特許文献1の電車線仮引き装置は、I形可動ブラケットに対応して開発された装置であり、構造的には本願発明が対象とするO形可動ブラケットに適用することも可能ではあるものの、O形可動ブラケットに使用したとすると、仮受けしている張力が誤って解放された場合に、電車線が仮受けしていた張力とは反対側に電車線が急激に戻ってしまう可能性がある。なお、特許文献1においては、形状(特に先端部)の特徴の違いから、
図6のものがI形可動ブラケットで、
図13のものがO形可動ブラケットであることが分かる。
【0009】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、容易かつ正確に位置調整を行うことができる可動ブラケット調整装置を提供することを目的とするものである。
本発明の他の目的は、O形可動ブラケットに使用した場合に、仮受けが何かの拍子に外れて電車線が作業者の想定外の方向へ移動してしまう事態に陥ることなく調整作業を行うことができる可動ブラケット調整装置およびそれを用いた流れ調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本発明は、
支持構造物に支持され吊架線の延設方向と直交する方向へ延びる可動ブラケットに固定され、当該可動ブラケットの位置を調整する作業の間、当該可動ブラケットの吊架線支持手段に代わって前記吊架線をその張力に抗して一時的に引き留めておくことが可能な可動ブラケット調整装置であって、
前記可動ブラケットを構成し前記吊架線支持手段が設けられているブラケット構成部材に着脱可能に固定するためのクランプ手段を有する本体フレーム部材と、
前記吊架線を挟持可能な吊架線挟持手段を有し、前記本体フレーム部材により互いに平行な状態を保ったまま移動可能に支持された一対の棒状部材と、
前記一対の棒状部材をそれぞれ個別に軸方向へ移動させる一対の偏位調整手段と、
前記本体フレーム部材に保持され前記一対の棒状部材の移動方向と直交する方向へ移動可能な摺動ブロックと、
前記本体フレーム部材により支承され前記摺動ブロックを移動させることが可能な摺動ブロック送り手段と、を備えるようにしたものである。
【0011】
上記した手段によれば、吊架線挟持手段に吊架線を挟持させて偏位調整手段で偏位させることで吊架線の張力を仮受けした状態のまま、摺動ブロック送り手段によって摺動ブロックを移動させることで可動ブラケットの位置を容易かつ正確に調整することができる。
【0012】
ここで、望ましくは、
前記本体フレーム部材は、前記一対の棒状部材の移動方向と直交する方向に長い矩形枠状に形成され、
前記摺動ブロックは、前記本体フレーム部材の前壁と後壁との間に摺動可能に保持され、
前記摺動ブロック送り手段は、前記本体フレーム部材の対向する側壁間に回転可能に支承された送りネジであり、
前記送りネジの前記本体フレーム部材の側壁から突出した部位にそれぞれボルトヘッドを設けるようにする。
かかる構成によれば、送りネジの端部のボルトヘッドを工具で操作して送りネジを回してやるだけで、可動ブラケットを吊架線に対して相対的に移動させて可動ブラケットの流れ調整を行うことができるため、調整結果にバラツキが生じにくく、精度の高い流れ調整が可能になる。
【0013】
また、望ましくは、前記一対の棒状部材の外周の一部には雄ネジが形成され、該雄ネジにそれぞれナットが螺合されており、前記ナットを回すと前記一対の棒状部材が、軸方向へ移動されるように構成する。
かかる構成によれば、左右一対の棒状部材をそれぞれ適切な量だけ移動させることで、線条のなりに合わせて左右均等に吊架線を引くことが可能となり、可動ブラケット調整装置に無理な力がかかるのを回避することができる。
【0014】
さらに、前記一対の棒状部材の外周には移動量を読み取り可能な目盛りが付されたスケール部を設けるようにしてもよい。
かかる構成によれば、目盛りを見ながらナットを回して所望の量だけネジを締め込むことで吊架線の偏位調整を正確に行うことができる。
【0015】
本出願に係る他の発明は、上記のような構成を有する可動ブラケット調整装置を用いて、前記吊架線の横張力が前記支持構造物へ向かって作用している可動ブラケットの吊架線方向の位置を調整する可動ブラケットの流れ調整方法であって、
前記吊架線支持手段が設けられている前記ブラケット構成部材の先端側の位置に、前記クランプ手段によって当該可動ブラケット調整装置を固定する工程と、
前記一対の棒状部材に設けられている前記吊架線挟持手段によってそれぞれ吊架線を挟持させる工程と、
可動ブラケットに設けられている前記吊架線支持手段を操作して吊架線の支持状態を解除する工程と、
前記一対の棒状部材を前記吊架線の横張力が作用する方向と反対方向へ移動させて、前記吊架線支持手段から前記吊架線の横張力を解放させる工程と、
前記摺動ブロック送り手段を操作して前記摺動ブロックを所望の方向へ所望の量だけ移動させる工程と、
前記一対の棒状部材を前記ブラケット構成部材の基部側の方向へ移動させて前記吊架線挟持手段による吊架線の挟持状態を解除させる工程と、
前記吊架線支持手段を操作して吊架線を支持する状態に変換させる工程と、
前記クランプ手段のクランプ状態を解除して前記可動ブラケット調整装置を可動ブラケットから取り外す工程と、を有するようにしたものである。
【0016】
上記した方法によれば、可動ブラケットの流れ調整を容易かつ正確に行うことができるとともに、可動ブラケット調整装置を可動ブラケットの先端側に取り付けて吊架線の張力を仮受けすることができるため、可動ブラケット調整装置の取付け作業および流れ調整作業を吊架線の外側(横張力が作用する方向と反対の側)で行うことができる。そのため、作業の途中で誤って可動ブラケット調整装置から吊架線の張力が解放されて、電車線が作業者の想定外の方向へ移動してしまうのを防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の可動ブラケット調整装置によれば、容易かつ正確に可動ブラケットの位置調整を行うことができる。また、本発明の可動ブラケット調整装置および調整方法によれば、O形可動ブラケットに適用した場合に、仮受けが何かの拍子に外れて電車線が作業者の想定外の方向へ移動してしまう事態に陥ることなく正確に可動ブラケットの流れ調整作業を行うことができるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る実施形態に係る可動ブラケット調整装置の実施形態について説明するが、その前に、実施形態の可動ブラケット調整装置が使用される電車線支持装置としてのO形可動ブラケットの概略について説明する。
図1には、本実施形態に係る可動ブラケット調整装置が使用される電車線支持装置としてのO形可動ブラケットの一例が示されている。このうち、
図1(A)は可動ブラケットの全体図、(B)は可動ブラケットのほぼ中央にある吊架線固定部の拡大図である。なお、以下の説明では、
図1(A)における矢印Aの方向から見た図を正面図と称する。従って、
図1(A)は可動ブラケットの側面図に当たる。
【0020】
図1の可動ブラケット10は、電車線を電柱Pに吊垂支持するために水平方向前方へ延出された主パイプ11と、該主パイプ11の荷重を下方から支えるように斜めに配設された傾斜パイプ12と、主パイプ11の先端部と傾斜パイプ12の先端部との間に架設された振止パイプ13とを備える。
主パイプ11は、基端側において電柱Pに取付バンドB1で固定され、碍子G1を介して水平方向に延び、先端部は下方へ向かって湾曲しながら下り傾斜するように形成されている。傾斜パイプ12は、同じく基端側において電柱Pに取付バンドB2で固定され、碍子G2を介して斜め上方に延び、先端が主パイプ11の中央よりも先端寄り位置に結合され、主パイプ11と協働してトラスを形成する。なお、主パイプ11と傾斜パイプ12は、それぞれその基部がヒンジ11H,12Hによって電柱Pに対して左右に回動可能となるように結合されている。
【0021】
振止パイプ13は、主パイプ11と傾斜パイプ12との間に架設され主パイプ11の下方にて並行するようにほぼ水平に延設されており、その基部が傾斜パイプ12に結合され、先端が主パイプ11の先端部に結合されている。さらに、振止パイプ13には、支持金具14によって上部が振止パイプ13に回動可能に結合され下部に弧状のアーム15が結合された曲線引装置16が設けられており、曲線引装置16は振止パイプ13によって支持される。そして、アーム15の先端部に、トロリ線Tを把持するイヤ17が固着されている。なお、図示しないが、トロリ線Tは延線方向に所定間隔で設けられたハンガーと呼ばれるワイヤによって、上方に敷設されている吊架線に懸架される。
【0022】
一方、主パイプ11のほぼ中央の傾斜パイプ12の先端部との結合部近傍には、
図1(B)に示すように、上記トロリ線を吊支する吊架線Mを把持して固定する吊架線固定手段18が設けられている。
吊架線固定手段18は、
図2に拡大して示すように、上部が開口した断面ほぼC字状の受け金具81と、該受け金具81の下面に垂設された一対の連結部81aを介して一体的に設けられ当該吊架線固定手段18を主パイプ11の上面に固定するための半円筒状の固定金具82と、受け金具81の底壁に形成されたスリット81bと側壁に形成された孔81cに挿通されたJボルト83と、
図1(B)に示すように、Jボルト83の側壁突出側端部に形成されている雄ネジ部83aに螺合する締付けナット84とを有する。
【0023】
固定金具82の左右の側壁には複数のボルト挿通穴82aが形成されており、固定金具82を主パイプ11に上方から係合させた後、上記ボルト挿通穴82aにボルト85を挿通してナット86を螺合させ締め付けることによって、吊架線固定手段18を主パイプ11の上面に固定するようになっている。
また、
図2に示すように、Jボルト83には鍔部83bが設けられており、締付けナット84を締め付けると該鍔部83bの上面が受け金具81の底壁のスリット81bの周縁に接触しながらJボルト83はスリット81bに沿って移動してJボルト83の曲り部と受け金具81の曲り部との間に吊架線Mを挟持して固定するように構成されている。また、締付けナット84を緩めるとJボルト83が受け金具81の側壁から離れ、吊架線Mが解放されて移動可能となる。
【0024】
図3〜
図5は、本発明の実施形態に係る可動ブラケット調整装置の一実施形態を示すもので、
図3(A)は斜視図、
図3(B)は正面図である。また、
図4(A)は可動ブラケット調整装置の平面図、
図4(B)は側面図、
図5(A)は使用状態を示す平面図、
図5(B)は使用状態を示す側面図である。
図3(A)に示すように、本実施形態の可動ブラケット調整装置20は、左右に細長い矩形枠状の本体フレーム21と、該本体フレーム21の下面に設けられ可動ブラケットの主パイプ11を把持することで主パイプに着脱可能に固定するためのクランプ手段を有する摺動ブロック22と、本体フレーム21の前後壁間に水平に横架され先端に吊架線Mを挟持するグリップ部を有する一対のグリップロッド23A,23Bと、本体フレーム21の左右側壁間に上記グリップロッド23A,23Bと直交する向きで横架され摺動ブロック22を本体フレーム21に対して相対的に移動させる流れ調整ネジ24(
図4参照)を備える。
【0025】
摺動ブロック22には、流れ調整ネジ24が螺合される雌ネジ部(図示省略)が形成され送りネジと同様な機能を有するように構成されている。また、摺動ブロック22はその前面と後面が本体フレーム21の前壁21aと後壁21bに接触して摺動可能に位置規制されており、流れ調整ネジ24を回すと、摺動ブロック22が本体フレーム21に対して左右に移動されるようになっている。さらに、上記流れ調整ネジ24は、両端にナット25A,25Bを溶着することで形成されたボルトヘッドがそれぞれ設けられており、該ボルトヘッドに工具を係合させてネジを回すことで摺動ブロック22を移動させる可動ブラケットの流れ調整作業を、本体フレーム21の両側から行うことができるように構成されている。なお、流れ調整ネジ24は、本体フレーム21の側壁にそれぞれ形成されているネジの径よりも僅かに大きな径を有する孔に遊嵌されており、流れ調整ネジ24を回してもネジが本体フレーム21に対して移動することはない。
【0026】
また、上記摺動ブロック22の下端部には、
図3(B)に示すように、互いに向かい合って接合し合うことで内側に主パイプ11の断面形状(円形)に対応した形状の開口を構成する2個の半円筒状部材22A,22Bと、これらを回動可能に結合するヒンジ22Cと、半円筒状部材22A,22Bのヒンジ22Cと反対側の端部を接合/解放可能に結合する固定用ボルト22Dを備えるクランプ手段が設けられている。
そして、一方の半円筒状部材22Aは外周面が溶接等により摺動ブロック22の下面に固着され、他方の半円筒状部材22Bはヒンジ22Cによって半円筒状部材22Aに回動可能に結合されている。半円筒状部材22A,22Bのヒンジ22Cと反対側には、互いに所定の間隔をおいて平行姿勢にて対向可能な係合片22Aa,22Baが形成されているとともに、該係合片22Aa,22Baにはそれぞれボルト挿通孔(図示省略)が形成されている。
【0027】
そのため、
図3(B)に鎖線Fで示すように、固定用ボルト22Dを外して半円筒状部材22Bを垂下させた状態で、半円筒状部材22A,22B間に可動ブラケットの主パイプ11を位置させてからボルト挿通孔に固定用ボルト22Dを挿通して先端にナット22Eを螺合させて締め付けることで、可動ブラケット調整装置20を可動ブラケットの主パイプ11に固定できるように構成されている。従って、半円筒状部材22A,22Bと、これらを回動可能に結合するヒンジ22Cと、半円筒状部材22A,22Bとヒンジ22Cと固定用ボルト22Dとによって、可動ブラケット調整装置20を主パイプに着脱可能に固定するためのクランプ手段が構成されている。
なお、本実施形態では、
図4(B)に示されているように、係合片22Aa,22Baにはそれぞれ2本の固定用ボルト22Dを挿通させることができるように、2個のボルト挿通孔(図示省略)が形成されており、より強固に可動ブラケット調整装置20を可動ブラケットの主パイプ11に固定できるようになっている。
【0028】
上記グリップロッド23A,23Bは、各々後端部の外周面に雄ネジ部23Aa,23Baが形成され、該雄ネジ部23Aa,23Baにそれぞれ偏位調整用ナット31A,31Bが螺合されている。グリップロッド23A,23Bは、本体フレーム21の前壁21aと後壁21bにそれぞれ形成されている上記ロッドの径よりも僅かに大きな径を有する孔に挿入されており、先端に吊架線Mを挟持した状態(張力がかかった状態)で、偏位調整用ナット31A,31Bを回すとナットは移動せずにグリップロッド23A,23Bが前後(軸方向)に移動するように構成されている。
なお、グリップロッド23A,23Bの上面は平坦に形成されており、本体フレーム21の前壁21aと後壁21bに形成されているロッド挿入孔がロッドの断面に対応する形状に形成されることで、グリップロッド23A,23Bの空回りを防止できる。
【0029】
また、グリップロッド23A,23Bの先端部には、吊架線Mの径に対応する凹部を有し互いに向かい合って接合し合うことで内側に吊架線Mの断面形状(円形)に対応した形状の孔を構成する把持部材32A,32Bと、これらを回動可能に結合するピン32Cと、把持部材32Aの基部と把持部材32Bのピン32Cと反対側の端部を接合/解放可能に結合する締付け用ボルト33をそれぞれ備える。把持部材32Aの基部には、締付け用ボルト33が螺合可能なネジ穴が形成されている。
【0030】
一方の把持部材32Aはグリップロッド23A(23B)の先端に溶接等により一体に固着され、他方の把持部材32Bはピン32Cによって把持部材32Aの先端に回動可能に結合されている。把持部材32A,32Bのピン32Cと反対側にはそれぞれ締付け用ボルト33が螺合可能な雌ネジ部とボルト挿通孔(図示省略)がそれぞれ形成されており、把持部材32A,32B間に吊架線を挟み込んでから締付け用ボルト33を螺合させて締め付けることによってグリップロッド23A,23Bの先端に吊架線を挟持できるように構成されている。
【0031】
図5(A),(B)には、本実施形態の可動ブラケット調整装置20の使用状態が示されている。
図5(B)に示すように、可動ブラケット調整装置20は、摺動ブロック22に設けられているクランプ手段(22A,22B,22D,22E)によって、本体フレーム21が上方に来るようにして、可動ブラケットの主パイプ11に固定される。そして、グリップロッド23A,23Bの先端の把持部材32A,32B間に吊架線Mを挟み込んだ状態で、偏位調整用ナット31A,31Bを回すとグリップロッド23A,23Bを前後(図の左右方向)に移動させることができる。
【0032】
また、吊架線固定手段18を構成する締付けナット84を緩めてJボルト83を受け金具81に対して移動可能にすることで当該吊架線固定手段18から吊架線Mを解放させた状態で、流れ調整ネジ24の端部のナット25Aまたは25Bを回すと、吊架線Mを掴んでいるグリップロッド23A,23Bが移動不能であるため、摺動ブロック22が本体フレーム21に対して左右に移動される。このとき、摺動ブロック22は主パイプ11に固定されており受け金具81も主パイプ11に固定されているため、
図5(A)に鎖線で示すように、受け金具81が本体フレーム21に対して左右(図では上下方向)に移動される。
【0033】
なお、トロリ線を把持しているアーム15を有する曲線引装置16(
図1参照)の基部が振止パイプ13に対して回動可能に結合されているため、アーム15の先端は主パイプ11に対して相対的に左右に移動可能であり、可動ブラケット10の流れ調整の妨げとならない。そのため、流れ調整ネジ24を回すと受け金具81が固定されている可動ブラケット10の主パイプ11が容易に左右に移動して、可動ブラケットの流れ調整をすることができる。
また、引上箇所のように可動ブラケットを中心に左右で線条の距離が違う場合、前述の特許文献1に記載されている先行技術のように左右一対の滑車により一括で引く構造であると、線条のなりと滑車のなりが合わず均等に引くことができない。
【0034】
これに対し、本実施形態の可動ブラケット調整装置20では、流れ調整作業の途中でグリップロッド23A,23Bにより吊架線の横張力を仮受けする際に、左右それぞれのグリップロッド23A,23Bによって吊架線を異なる距離だけ引くことができるので、ネジの締め込みを調整し線条のなりに合わせて左右均等の力で吊架線を引くことが可能となり、可動ブラケット調整装置20に無理な力がかかるのを回避することができる。
さらに、本実施形態の可動ブラケット調整装置20では、グリップロッド23A,23Bの上面に、例えば1mm単位の目盛りが付されているスケール部23As,23Bsが設けられているため、ナット31A,31Bによるネジの締め込みに伴うグリップロッド23A,23Bの移動量を把握することができ、吊架線の偏位調整を正確に行うことができる。
【0035】
次に、上記実施形態の可動ブラケット調整装置20を用いた可動ブラケット10の流れ調整作業の手順について、
図7のフローチャートを用いて説明する。なお、以下の作業は、例えば昇降可能な作業台を備えた保守用車を作業現場すなわち流れ調整をしたい可動ブラケットが設けられている位置へ移動して、作業者が作業台に乗ってから作業台を所定の高さまで上昇させて実施するのが、作業の効率、安全確保の観点から望ましい。
なお、可動ブラケット調整装置20を使用するのは、吊架線の張力が、当該可動ブラケットが取り付けられている電柱の方向へ向いている箇所である。吊架線の張力が電柱から離れる方向へ働いている可動ブラケットに関しては、吊架線と電柱との間にワイヤを張架してシメラーで締め付けることで吊架線の張力を仮受けしてから、手押しで可動ブラケットを横へ移動させる作業を行うことで可動ブラケットの流れ調整をすることができる。
【0036】
図7のフローチャートに従うと、流れ調整をしたい可動ブラケットであって吊架線の張力が取り付けられている電柱の方向へ向いている箇所に到着した作業者は、作業台で所定の高さまで移動してから、先ず可動ブラケット調整装置20のクランプ手段(22A〜22E)を用いて可動ブラケット10の先端側すなわち吊架線の横張力の作用方向と逆の側に可動ブラケット調整装置20を取り付ける(ステップS1)。
次に、作業者は、グリップロッド23A,23B先端の把持部材32A,32Bに吊架線を係合させてから、締付け用ボルト33を締め付けることによって吊架線を挟持させる(ステップS2)。
【0037】
続いて、作業者は、吊架線固定手段18の締付けナット84を回してJボルト83を緩め、受け金具81から吊架線を解放させる(ステップS3)。それから、グリップロッド23A,23Bの後端の偏位調整用ナット31A,31Bを締め込んでグリップロッド23A,23Bを後方へ偏位させることで、可動ブラケット調整装置20によって吊架線の張力を仮受けする(ステップS4)。このとき、グリップロッド23A,23Bの偏位量は、グリップロッド23A,23Bの上面に設けられているスケール部23As,23Bsの目盛りを目視で確認しながら調整する。
【0038】
次に、作業者は、流れ調整ネジ24を回して、摺動ブロック22および受け金具81が固定されている可動ブラケット10の主パイプ11を左方向または右方向へ移動させて、可動ブラケットの流れを調整する(ステップS5)。その後、偏位調整用ナット31A,31Bを緩めてグリップロッド23A,23Bを前方へ移動させることで、吊架線の張力を可動ブラケット調整装置20から受け金具81へ戻す(ステップS6)。
続いて、作業者は、吊架線固定手段18の締付けナット84を回してJボルト83を締め付けて、受け金具81によって吊架線を挟持させる(ステップS7)。その後、可動ブラケット調整装置20のクランプ手段(22A〜22E)を緩めて可動ブラケット10から可動ブラケット調整装置20を取り外して作業が終了する(ステップS8)。
【0039】
本実施形態の可動ブラケット調整装置20を使用すれば、作業者が以上の作業を吊架線の外側で行うことができるため、作業の途中で誤って吊架線の張力が解放され、電車線が作業者の想定外の方向へ移動してしまうのを防止することができるという利点がある。
また、従来は吊架線の張力をワイヤ等で仮受けしてから行う可動ブラケットの流れ調整を、可動ブラケットを手押しで横方向へ移動させることで実行していたため、調整結果にバラツキが生じ易いという欠点があった。これに対し、本実施形態の可動ブラケット調整装置20を使用すれば、流れ調整ネジ24を回すことで可動ブラケットの流れ調整を行うことができるため、調整結果にバラツキが生じにくく、精度の高い流れ調整が可能になるという利点がある。
【0040】
なお、現在各地の鉄道沿線に敷設されている吊架線およびトロリ線を支持する可動ブラケットは、新幹線の軌道用と在来線の軌道用のように、主パイプの太さが異なるものがあるが、前記実施形態の可動ブラケット調整装置20においては、クランプ手段を構成する半円筒状部材22A,22Bが摺動ブロック22に固着されているため、そのままでは他の種類の可動ブラケットに対応することが難しい。
そこで、
図6(A)に示すように、互いに厚みの異なる複数の半割り可能な円筒状スペーサ40A,40B……を用意しておいて、可動ブラケット調整装置を使用する調整対象の可動ブラケットの主パイプの太さに応じてスペーサを使い分け、
図6(B)に示すように半円筒状部材22A,22Bの内側へスペーサ40Aまたは40B……を介在させて主パイプに嵌合させるようにしても良い。
【0041】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態では、摺動ブロック22の側面と可動ブラケット調整装置20の本体フレーム21の側壁との距離から目視で摺動ブロック22の移動量すなわち可動ブラケット10の流れ調整量を把握することができるが、フレーム21の前壁21aまたは後壁21bの上面に目盛りをつけるとともに、摺動ブロック22の中心に基線をつけて、目盛りと基線との比較によって摺動ブロック22の移動量を読み取れるようにして、可動ブラケット10の流れ調整量の精度を高めるようにすることも可能である。
また、前記実施形態では、摺動ブロックの送り手段として送りネジ24を使用しているが、ラチェット機構等を利用した送り手段であっても良い。