特許第6625912号(P6625912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6625912
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】金属空気電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/08 20060101AFI20191216BHJP
   H01M 2/18 20060101ALI20191216BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20191216BHJP
【FI】
   H01M12/08 K
   H01M2/18 Z
   H01M2/16 P
   H01M2/16 M
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-52842(P2016-52842)
(22)【出願日】2016年3月16日
(65)【公開番号】特開2017-168312(P2017-168312A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2018年12月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 賢
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−165056(JP,A)
【文献】 特開平7−272771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/08
H01M 2/16
H01M 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気極である放電用の正極及び充電用の正極と、金属電極である負極と電解液とを含んで構成される金属空気電池であって、
該充電用の正極は、電解液側の面と外気側の面の両方の面がそれぞれセパレータと接しており、
該外気側の面と接するセパレータは、該電解液側の面と接するセパレータよりも透気度が高いことを特徴とする金属空気電池。
【請求項2】
前記充電用の正極は、多孔性の金属材料を含んで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の金属空気電池。
【請求項3】
前記充電用の正極は、発泡金属材料と、該発泡金属材料の孔部に含まれる親水性粒子状部材とを含んで構成されていることを特徴とする請求項2に記載の金属空気電池。
【請求項4】
前記電解液側の面と接するセパレータは、アニオン伝導性材料により形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属空気電池に関する。より詳しくは、正極として空気極を用い、負極として金属電極を用いる金属空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
金属空気電池は、負極に金属材料を活物質として用い、正極に空気中の酸素を活物質として用いる。従って、正極活物質を充填するスペースが必要なく、その部分に負極活物質を充填できるため、高いエネルギー密度を実現できる電池として知られている。すでに一次電池としては、ボタン電池としての空気亜鉛電池が市場に出回っている。しかしながら、金属空気電池の二次電池化については、技術的な課題が多く、いまだ研究段階にある。
金属空気電池を二次電池として用いる際の最も大きな課題は、充電に耐えきれる正極材料がほとんど存在しないことである。様々な研究がおこなわれているが、実用に耐えきれるだけの充電効率を達成できる正極触媒は見出されていない。そこで、金属空気電池としては、メカニカルチャージ方式や第三電極方式(特許文献1参照)が提案され、実用化にむけた検討がなされている。特に第三電極方式は、充電と放電で用いる正極を切り替えることで、正極触媒の酸化を防ぐことができ、金属空気電池を二次電池として応用できる技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−93022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、金属空気電池を二次電池化するための技術の1つとして第三電極方式の電池が提案されているが、充電用の電極を電解液中に配置すると、充電反応によって電解液量が電池容器から漏れたり、電解液が飛散してしまうことがある。そうすると、周囲に濃厚アルカリ水溶液が付着して腐食を招いたり、電解液が飛散することで全体の電解液量が少しずつ減少し、最終的に液枯れを生じるといった課題があった。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、電解液の漏出や飛散を原因とする電池や周辺部品の腐食、及び、電解液の液枯れを抑制し、長期間安定な充放電をすることが可能な金属空気電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、電解液の漏出や飛散が抑制され、長期間安定な充放電をすることが可能な金属空気電池について種々検討し、充電時に発生する酸素が電解液中に放出されることが、電解液の漏出や飛散の原因であることに着目した。そして、第三極方式の金属空気電池において、充電用の正極を、一方の面が電解液に接し、他方の面が外気に接するように配置したうえで、充電用の正極の外気側の面と接するセパレータが、電解液側の面と接するセパレータよりも透気度が高いものとなるように、外気側の面、電解液側の面の両面にそれぞれセパレータを配置することに想到した。このようにすると、充電用の正極がセパレータを通して電解液と接することから充電反応を支障なく行うことができ、かつ、充電反応により正極から発生する酸素が外気側のセパレータを通して外気に放出されることになって、電解液の漏出や飛散が抑制されて長期間安定な充放電をすることが可能な金属空気電池となることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち本発明は、空気極である放電用の正極及び充電用の正極と、金属電極である負極と電解液とを含んで構成される金属空気電池であって、上記充電用の正極は、電解液側の面と外気側の面の両方の面がそれぞれセパレータと接しており、上記外気側の面と接するセパレータは、上記電解液側の面と接するセパレータよりも透気度が高いことを特徴とする金属空気電池である。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0008】
<金属空気電池>
本発明において、充電用の正極は、電解液に対向する側の面の少なくとも一部がセパレータを介して電解液と接していればよいが、充電時の内部抵抗を減らし、充電を短時間で行う点から、電解液に対向する側の面の全体がセパレータを介して電解液と接していることが好ましい。充電用の正極の外気に対向する側の面についても同様であり、外気に対向する側の面の少なくとも一部がセパレータを介して外気と接していればよいが、外気に対向する側の面の全体がセパレータを介して外気と接していることが好ましい。
【0009】
上記充電用の正極の外気側の面と接するセパレータは、電解液側の面と接するセパレータよりも透気度が高いものであればよいが、外気側の面と接するセパレータと電解液側の面と接するセパレータとの透気度の差が10秒以上であることが好ましい。このような透気度の差を有することで、充電時に充電用の正極で発生する酸素の電解液中への放出をより充分に抑制することができる。該セパレータの透気度の差は、より好ましくは、50秒以上であり、更に好ましくは、100秒以上である。また、透気度の差に特に上限はなく、電解液側からイオンが透過するのであれば、透気度の差は無限大が最も好ましい。
セパレータの透気度は、ガーレー透気度試験機(JIS P 8117:2009)により測定することができる。
【0010】
本発明の金属空気電池では、充電用の正極と負極とが、充電用の正極の電解液側の面に接するセパレータを介して対向することになる。好ましくは、負極が充電用の正極の電解液側の面に接するセパレータに接していること、すなわち、充電用の正極と負極とがセパレータを介して密着していることである。これにより、負極のうち、充電用の正極とセパレータを介して密着している面からの重力による負極活物質の滑落や放電生成物(放電時の活物質の形態)の不均一析出が効果的に抑制される。また、充電用の正極と負極とがセパレータを介して密着していることで、充電用の正極と負極の電極面積に対して電極間距離が近くなり、平行電場が形成されやすくなるため、電極面で充放電反応の均一性が高まって、電極のシェイプチェンジが効果的に抑制される。更に、充電用の正極と負極との間に存在するセパレータや電解液は、全てイオンの移動の抵抗となるが、充電用の正極と負極とがセパレータを介して密着していることで、充電用の正極と負極との間には、セパレータに含まれる電解液しか存在しないことになる。また、セパレータも薄くすることができるため、充電用の正極と負極間のイオン移動の抵抗が少なくなって、出力(電圧)の大きな電池とすることができる。
【0011】
本発明の金属空気電池は、負極の一方の面が充電用の正極と対向し、他方の面が放電用の正極と対向するような電極の配置となっていることが好ましい。このような配置にすることで、充電用の正極、放電用の正極の両方の電極面積を大きくすることができるため、より充放電時の内部抵抗を低くすることができ、短時間での充放電が可能となる。より好ましくは、放電用の正極と負極とがセパレータを介して密着していることであり、これにより、上記のように、電極のシェイプチェンジが効果的に抑制される等の効果が得られることになる。
【0012】
本発明の金属空気電池において、充電用の正極の電解液側の面と接するセパレータは、アニオン伝導性材料により形成されていることが好ましい。電解液側の面と接するセパレータがアニオン伝導性材料により形成されたアニオン伝導性膜であることにより、電極反応に必要なアニオンの良好な透過性を確保しつつ、正極と負極との短絡を抑制することができる。更に、充放電に伴ってデンドライトの成長が生じやすい負極活物質を用いた場合の、デンドライトの成長を原因とする電極間の短絡も効果的に抑制することができる。
なお、アニオン伝導性膜とは、陰イオンを優先的に透過する膜を意味する。これは、本発明と同じ又は類似の技術分野に属する下記公知文献に記載のいずれの発明においても共通する概念である。本発明では、アニオン伝導性膜とは、陰イオン、特に水酸化物イオンを透過する膜(層)を意味する。アニオン伝導性膜を形成するアニオン伝導性材料については後述する。
(特表2014−503689号公報、特開2013−145758号公報、特開2013−091598号公報、特開2014−011000号公報、特開2013−211201号公報参照。)
【0013】
<負極>
本発明の金属空気電池における負極の活物質は、カドミウム種・リチウム種・ナトリウム種・マグネシウム種・鉛種・亜鉛種・錫種・シリコン含有材料・水素吸蔵合金材料、白金等の貴金属材料等、電池の負極活物質として通常用いられるものを負極活物質として用いることができる。上記のように、負極と正極との間にアニオン伝導性膜をセパレータとして設置することでデンドライトの成長も効果的に抑制することができるため、負極としては、上記のものの中でも、亜鉛種又はカドミウム種が好ましい。
ここで、亜鉛種とは亜鉛の金属単体又は亜鉛化合物を意味し、カドミウム種とはカドミウムの金属単体又はカドミウム化合物を意味する。リチウム種、ナトリウム種、マグネシウム種、鉛種、亜鉛種、及び、錫種についても同様である。化合物としては、酸化物、硫化物、水酸化物等が挙げられる。
【0014】
上記負極活物質は、平均粒子径が1nm〜500μmであることが好ましい。より好ましくは5nm〜200μmであり、更に好ましくは10nm〜100μmであり、特に好ましくは、10nm〜60μmである。
上記平均粒子径は、粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0015】
上記負極は、集電体上に負極活物質層が形成されたものであることが好ましい。活物質層中に含まれる活物質の質量割合は、活物質層全体100質量%中、40質量%以上であることが好ましい。活物質の配合量がこのような範囲であると、電極の容量を充分なものとすることができる。より好ましくは60質量%以上であり、更に好ましくは80質量%以上であり、特に好ましくは85質量%以上である。また、該質量割合は、99.9質量%以下であることが好ましく、99.5質量%以下であることがより好ましく、99質量%以下であることが更に好ましく、98質量%以下であることが特に好ましい。
【0016】
上記負極活物質層は、活物質以外に結着剤や導電助剤等を含んでいてもよい。
結着剤としては、種々のものを用いることができ、熱可塑性、熱硬化性のいずれであってもよく、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のハロゲン原子含有ポリマー、ポリオレフィン等の炭化水素部位含有ポリマー、ポリスチレン等の芳香族基含有ポリマー;アルキレングリコール等のエーテル基含有ポリマー;ポリビニルアルコール等の水酸基含有ポリマー;ポリアミド、ポリアクリルアミド等のアミド結合含有ポリマー;ポリマレイミド等のイミド基含有ポリマー;ポリ(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有ポリマー;ポリ(メタ)アクリル酸塩等のカルボン酸塩基含有ポリマー;スルホン酸塩部位含有ポリマー;第四級アンモニウム塩や第四級ホスホニウム塩含有ポリマー;イオン交換性重合体;天然ゴム;スチレンブタジエンゴム(SBR)等の人工ゴム;ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース)、カルボキシメチルセルロース等の糖類;ポリエチレンイミン等のアミノ基含有ポリマー;ポリウレタン等が挙げられる。
【0017】
上記結着剤の活物質層全体中の質量割合は、0.3〜30質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.5〜15質量%であり、更に好ましくは、1〜10質量%であり、特に好ましくは、2〜6質量%である。
【0018】
上記導電助剤としては、特に制限されないが、例えば、導電性カーボン、導電性セラミックス、亜鉛・銅・真鍮・ニッケル・銀・ビスマス・インジウム・鉛・錫等の金属等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0019】
上記負極活物質層が導電助剤を含む場合の導電助剤の割合は、負極活物質層中の活物質100質量%に対して、0.0001〜100質量%であることが好ましい。導電助剤の含有割合がこのような範囲であると、より良好な電池性能を発揮することができる。より好ましくは、0.0005〜60質量%であり、更に好ましくは、0.001〜40質量%である。
【0020】
上記負極活物質層は、その他の成分として、周期表の第1族〜第17族に属する元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素を有する化合物、有機化合物、及び、有機化合物塩からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
上記負極活物質層がその他の成分を含む場合は、該その他の成分の負極活物質層中の含有割合は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。
【0021】
上記負極活物質層の厚さは、100μm以上であることが好ましく、200μm以上であることがより好ましく、500μm以上であることが更に好ましく、1mm以上であることが特に好ましい。該活物質層の厚さは、例えば10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。
上記活物質層の厚さは、マイクロメーターにより測定することができる。
【0022】
上記負極を構成する集電体としては特に制限されず、(電解)銅箔、銅メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡銅、パンチング銅、真鍮等の銅合金、真鍮箔、真鍮メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡真鍮、パンチング真鍮、ニッケル箔、耐食性ニッケル、ニッケルメッシュ(エキスパンドメタル)、パンチングニッケル、金属亜鉛、耐食性金属亜鉛、亜鉛箔、亜鉛メッシュ(エキスパンドメタル)、(パンチング)鋼板、導電性を付与した不織布;Ni・Zn・Sn・Pb・Hg・Bi・In・Tl・真鍮等を添加した(電解)銅箔・銅メッシュ(エキスパンドメタル)・発泡銅・パンチング銅・真鍮等の銅合金・真鍮箔・真鍮メッシュ(エキスパンドメタル)・発泡真鍮・パンチング真鍮・ニッケル箔・耐食性ニッケル・ニッケルメッシュ(エキスパンドメタル)・パンチングニッケル・金属亜鉛・耐食性金属亜鉛・亜鉛箔・亜鉛メッシュ(エキスパンドメタル)・(パンチング)鋼板・不織布;Ni・Zn・Sn・Pb・Hg・Bi・In・Tl・真鍮等によりメッキされた(電解)銅箔・銅メッシュ(エキスパンドメタル)・発泡銅・パンチング銅・真鍮等の銅合金・真鍮箔・真鍮メッシュ(エキスパンドメタル)・発泡真鍮・パンチング真鍮・ニッケル箔・耐食性ニッケル・ニッケルメッシュ(エキスパンドメタル)・パンチングニッケル・金属亜鉛・耐食性金属亜鉛・亜鉛箔・亜鉛メッシュ(エキスパンドメタル)・(パンチング)鋼板・不織布;銀;アルカリ(蓄)電池や空気亜鉛電池に集電体や容器として使用される材料等が挙げられる。
【0023】
<充電用の正極>
本発明の金属空気電池を構成する充電用の正極としては、充電用の正極として機能することができるものである限り特に制限されないが、負極と対向する面に対して垂直方向にイオンを伝導できる構造又は材質を含んで構成されていることが好ましく、多孔性の金属材料を含んで構成されていることが好ましい。多孔性の金属材料としては、上記負極を構成する集電体として用いることができる材料に含まれる、パンチング金属板、発泡金属材料(発泡金属板)を用いることができる。これらの中でも、発泡金属材料が好ましい。発泡金属材料を用いると、正極の表面積が大きくなるため、充電時の内部抵抗を低下させることができる。
【0024】
上記充電用の正極は、発泡金属材料と、該発泡金属材料の孔部に含まれる親水性粒子状部材とを含んで構成されていることがより好ましい。金属発泡体の孔部に親水性粒子状部材を含ませることで、金属発泡体の孔部の隅々にまで電解液を行き渡らせることができ、発泡金属材料の表面をより有効に使用することができることになり、電池性能をより向上させることができる。また、電解液を含んだ親水性粒子状部材が、電解液が充電用の正極中を透過するのを阻止する機能も有するため、電解液の液漏れを抑制する効果も得られる。
【0025】
上記親水性粒子状部材の材料としては、後述するアニオン伝導性材料や、アニオン伝導性膜以外のセパレータの材料の1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。
具体的には、Li、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、ランタノイド、Ti、Zr、Nb、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、Pd、Cu、Zn、Cd、B、Al、Ga、In、Tl、C、Si、Sn、Pb、N、P、及び、Biからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物や水酸化物と、後述するアニオン伝導性材料が含むポリマーの1種又は2種以上とを混合したもの、又は、そこに更に、後述するアニオン伝導性膜以外のセパレータの材料として挙げられた材料を混合したもの;ポリスチレンラテックス粒子等のポリマーラテックス粒子と、後述するアニオン伝導性材料が含むポリマーの1種又は2種以上とを混合したもの、又は、そこに更に、後述するアニオン伝導性膜以外のセパレータの材料として挙げられた材料を混合したもの等が挙げられる。
【0026】
上記充電用の正極の厚さは特に制限されないが、0.01〜2mmであることが好ましい。より好ましくは、0.1〜1mmである。
上記充電用の正極の厚さは、マイクロメーターにより測定することができる。
【0027】
<空気極(放電用の正極)>
本発明の金属空気電池を構成する空気極は、空気極として機能するものである限り特に制限されないが、空気極用触媒を含むものであることが好ましく、集電体上に空気極用触媒層を形成したものであることがより好ましい。
空気極用触媒としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、デンカブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン等の導電性カーボン、金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属硫化物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0028】
上記空気極用触媒層に含まれる空気極用触媒の質量割合は、空気極用触媒層全体100質量%中、5質量%以上であることが好ましい。空気極用触媒の割合がこのような範囲であると、空気極の機能を充分なものとすることができる。より好ましくは10質量%以上であり、更に好ましくは20質量%以上である。また、該質量割合は98質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
上記空気極用触媒層は、空気極用触媒以外に結着剤を含んでいてもよい。
結着剤としては、上述した負極活物質層が含む結着剤と同様のものを用いることができる。
結着剤の空気極用触媒層中の質量割合は、0.1〜10質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.5〜8質量%であり、更に好ましくは、1〜5質量%である。
【0030】
上記空気極用触媒層は、空気極用触媒、結着剤以外にその他の成分として撥水剤等を含んでいてもよい。
これらその他の成分の空気極用触媒層中の質量割合は、5質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、3質量%以下であり、更に好ましくは、2質量%以下である。
【0031】
上記空気極用触媒層の厚さは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることが更に好ましい。該活物質層の厚さは、例えば1mm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。
上記活物質層の厚さは、マイクロメーターにより測定することができる。
【0032】
上記空気極用触媒を構成する集電体としては、上述した負極となる金属電極を構成する集電体と同様のものを用いることができる。
【0033】
<電解液>
本発明の金属空気電池を構成する電解液は、蓄電池の電解液として通常用いられるものを用いることができ、特に制限されないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジエトキシエタン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、イオン性液体、フッ素含有カーボネート類、フッ素含有エーテル類、ポリエチレングリコール類、フッ素含有ポリエチレングリコール類等が挙げられる。上記有機溶剤系電解液は、1種でも2種以上でも使用することができる。水系電解液としては、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、硫酸亜鉛水溶液、硝酸亜鉛水溶液、リン酸亜鉛水溶液、酢酸亜鉛水溶液等などが挙げられる。これらの中でも、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液といったアルカリ性電解質が好ましい。上記水系電解液は、1種でも2種以上でも使用することができる。水系電解液は、上記有機溶剤系電解液を含んでいてもよい。
【0034】
<セパレータ>
本発明における正極(充電用の正極及び放電用の空気極)の外気側の面に接するセパレータは、酸素が透過可能な撥水性材料で形成されていることが好ましい。セパレータが撥水性材料で形成されていることで電解液の液漏れを抑制することができる。
酸素が透過可能な撥水性材料としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン製不織布;ポリテトラフルオロエチレン部位含有ポリマー、ポリフッ化ビニリデン部位含有ポリマー等のフッ素含有ポリマーで形成された撥水膜;セルガード2501、TEMISH(登録商標)(日東電工http://www.nitto.com/jp/ja/products/group/temish/about/)等の撥水性多孔質膜等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0035】
上記正極(充電用の正極及び放電用の空気極)の外気側の面に接するセパレータの厚みは特に制限されないが、1μm〜1000μmであることが好ましい。より好ましくは、5μm〜500μmであり、更に好ましくは、10μm〜100μmである。
セパレータの厚みは、マイクロメーターにより測定することができる。
【0036】
本発明の金属空気電池がアニオン伝導性膜をセパレータとして有する場合、セパレータの厚みは特に制限されないが、1μm〜1000μmであることが好ましい。より好ましくは、5μm〜500μmであり、更に好ましくは、10μm〜100μmである。
セパレータの厚みは、マイクロメーターにより測定することができる。
【0037】
本発明の金属空気電池の放電用の正極と負極との間、及び、負極と充電用の正極との間にセパレータを有する場合、これらのセパレータの少なくとも一方がアニオン伝導性膜であることが好ましいが、より好ましくは、負極と充電用の正極との間のセパレータがアニオン伝導性膜であることである。
【0038】
上記アニオン伝導性膜以外のセパレータとしては、不織布、濾紙、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン部位含有ポリマー、ポリフッ化ビニリデン部位含有ポリマー、セルロース、フィブリル化セルロース、ビスコースレイヨン、酢酸セルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール含有ポリマー、セロファン、ポリスチレン等の芳香環部位含有ポリマー、ポリアクリロニトリル部位含有ポリマー、ポリアクリルアミド部位含有ポリマー、ポリフッ化ビニル部位含有ポリマー等のハロゲン含有ポリマー、ポリアミド部位含有ポリマー、ポリイミド部位含有ポリマー、ナイロン等のエステル部位含有ポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸部位含有ポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸塩部位含有ポリマー、ポリイソプレノールやポリ(メタ)アリルアルコール等の水酸基含有ポリマー、ポリカーボネート等のカーボネート基含有ポリマー、ポリエステル等のエステル基含有ポリマー、ポリウレタン等のカルバメートやカルバミド基部位含有ポリマー、寒天、ゲル化合物、有機無機ハイブリッド(コンポジット)化合物、イオン交換膜性ポリマー、環化ポリマー、スルホン酸塩含有ポリマー、第四級アンモニウム塩含有ポリマー、第四級ホスホニウム塩ポリマー、環状炭化水素基含有ポリマー、エーテル基含有ポリマー、セラミックス等の無機物等が挙げられる。
【0039】
上記アニオン伝導性膜は、ポリマーと、周期表の第1族〜第17族から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物とを含むアニオン伝導性材料によって形成されるものであることが好ましい。このようなアニオン伝導性材料によって形成されたアニオン伝導性膜は、良好な水酸化物イオン透過性を有しながら、アニオンであってもイオン半径の大きな金属イオンの拡散は充分に防止することができるため、負極と正極(第三極方式の場合は、充電用正極)との間にセパレータとしてこのような膜が存在しても本発明の金属空気電池が良好な性能を発揮することができる。
この場合、アニオン伝導性材料はポリマーと、周期表の第1族〜第17族から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物をそれぞれ1種含んでいても2種以上含んでいてもよく、また、これら以外の成分を含んでいてもよい。
以下に、アニオン伝導性材料が含むポリマー、及び、周期表の第1族〜第17族から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物(以下、単に無機化合物ともいう。)について順に説明する。
【0040】
上記アニオン伝導性材料が含むポリマーとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等の炭化水素部位含有ポリマー、ポリスチレン等に代表される芳香族基含有ポリマー;アルキレングリコール等に代表されるエーテル基含有ポリマー;ポリビニルアルコールやポリ(α−ヒドロキシメチルアクリル酸塩)等に代表される水酸基含有ポリマー;ポリアミド、ナイロン、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドンやN−置換ポリアクリルアミド等に代表されるアミド基含有ポリマー;ポリマレイミド等に代表されるイミド基含有ポリマー;ポリ(メタ)アクリル酸、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリメチレングルタル酸等に代表されるカルボキシル基含有ポリマー;ポリ(メタ)アクリル酸塩、ポリマレイン酸塩、ポリイタコン酸塩、ポリメチレングルタル酸塩等に代表されるカルボン酸塩基含有ポリマー;ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のハロゲン含有ポリマー;エポキシ樹脂等のエポキシ基が開環することにより結合したポリマー;スルホン酸塩部位含有ポリマー;ARB(Aは、N又はPを表す。Bは、ハロゲンアニオンやOH等のアニオンを表す。R、R、Rは、同一又は異なって、炭素数1〜7のアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルキルカルボキシル基、又は、芳香環基を表す。R、R、Rは、結合して環構造を形成してもよい。)で表される基が結合したポリマーに代表される第四級アンモニウム塩や第四級ホスホニウム塩含有ポリマー;陽イオン・陰イオン交換膜等に使用されるイオン交換性重合体;天然ゴム;スチレンブタジエンゴム(SBR)等に代表される人工ゴム;セルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース)、カルボキシメチルセルロース、キチン、キトサン、アルギン酸(塩)等に代表される糖類;ポリエチレンイミンに代表されるアミノ基含有ポリマー;カルバメート基部位含有ポリマー;カルバミド基部位含有ポリマー;エポキシ基部位含有ポリマー;複素環、及び/又は、イオン化した複素環部位含有ポリマー;ポリマーアロイ;ヘテロ原子含有ポリマー;低分子量界面活性剤などが挙げられる。
【0041】
上記のものの中でも、アニオン伝導性材料が含むポリマーは、芳香族基、ハロゲン原子、カルボキシル基、カルボン酸塩基、水酸基、アミノ基、及び、エーテル基からなる群より選択される少なくとも1種を含有するか、又は、炭化水素であることが好ましい。
ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましい。より好ましくは、フッ素原子である。また、カルボン酸塩基は、カルボン酸リチウム塩基、カルボン酸ナトリウム塩基、カルボン酸カリウム塩基が好ましい。より好ましくは、カルボン酸ナトリウム塩基である。上記炭化水素は、例えばポリオレフィンが挙げられる。中でも、上記ポリマーは、(1)絶縁物であること、(2)アニオン伝導性材料の粉末を増粘・結着させることができること、(3)物理的強度に優れることの3点を総合的に考慮して適宜選択することが好ましく、このような観点からは、炭化水素部位含有ポリマー、芳香族基含有ポリマー、エーテル基含有ポリマー、カルボキシル基含有ポリマー、カルボン酸塩基含有ポリマー、ハロゲン含有ポリマー、スルホン酸塩部位含有ポリマー、第四級アンモニウム塩や第四級ホスホニウム塩含有ポリマー、糖類が好ましい。上記ポリマーは熱や圧力等により繊維化された状態になってもよい。ポリマーの繊維化により、活物質(層)やアニオン伝導性材料の強度、アニオン伝導度等を調節することもできる。
【0042】
上記ポリマーの重量平均分子量は、200〜7000000であることが好ましい。これにより、アニオン伝導性材料のイオン伝導性、粘性、可とう性、強度等を調節することができる。該重量平均分子量は、より好ましくは、400〜6500000であり、更に好ましくは、500〜5000000である。
上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0043】
上記ポリマーの質量割合は、アニオン伝導性材料100質量%に対して、0.1質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、1質量%以上であり、更に好ましくは、25質量%以上であり、一層好ましくは、30質量%を超えることであり、特に好ましくは、40質量%を超えることであり、最も好ましくは45質量%を超えることである。また、99.9質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、99.5質量%以下であり、更に好ましくは、99質量%以下であり、一層好ましくは、97質量%以下であり、特に好ましくは、80質量%以下である。これにより、アニオン伝導性材料のクラックを生じにくくすることができる。
【0044】
本発明に係るアニオン伝導性材料における、ポリマーと、無機化合物との質量割合は、5000000/1〜1/100000であることが好ましい。より好ましくは、2000000/1〜1/50000であり、更に好ましくは、1000000/1〜1/10000である。一層好ましくは、1000000/1〜1/100である。より一層好ましくは、100/3〜75/100である。特に好ましくは、100/50〜75/100である。本発明に係るアニオン伝導性材料に含まれる無機化合物がハイドロタルサイトである場合に上記質量割合を満たすことにより、アニオン伝導性材料におけるアニオン伝導性を優れたものとする効果及びクラックを生じにくくする効果の両方を顕著に優れたものとすることができる。
【0045】
上記周期表の第1族〜第17族から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物(本明細書中、単に無機化合物とも言う。)は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Sc、Y、ランタノイド、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、Pd、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、B、Al、Ga、In、Tl、C、Si、Ge、Sn、Pb、N、P、Sb、Bi、S、Se、Te、F、Cl、及び、Brからなる群より選択される少なくとも1つの元素であることが好ましい。より好ましくは、Li、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、ランタノイド、Ti、Zr、Nb、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、Pd、Cu、Zn、Cd、B、Al、Ga、In、Tl、C、Si、Sn、Pb、N、P、及び、Biからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含むものである。
【0046】
上記無機化合物は、酸化物、水酸化物、層状複水酸化物、硫酸化合物、及び、リン酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物であることが好ましい。
酸化物としては、例えばアルカリ金属、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、ランタノイド、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、Pd、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、B、Al、Ga、In、Tl、C、Si、Ge、Sn、N、P、Sb、Bi、S、Se、Te、F、Cl、及び、Brからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物であることが好ましい。より好ましくは、Li、Na、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、ランタノイド、Ti、Zr、Nb、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、Pd、Cu、Zn、Cd、B、Al、Ga、In、Tl、Si、Sn、Pb、及び、Biからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含む酸化物である。更に好ましくは、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化ビスマス、酸化コバルト、酸化セリウム、酸化ニオブ、酸化錫、酸化ジルコニウムであり、特に好ましくは、酸化マグネシウム、酸化ビスマス、酸化セリウム、酸化ニオブ、酸化錫、酸化ジルコニウムである。また、酸化セリウムは、例えば、酸化サマリウム、酸化ガドリニウム、酸化ビスマス等の金属酸化物がドープされたものや、酸化ジルコニウム等の金属酸化物との固溶体であってもよい。上記酸化物は、酸素欠陥を持つものであってもよい。
【0047】
上記水酸化物としては、例えば水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化セリウム、水酸化ジルコニウムが好ましい。なお、本明細書中、水酸化物は、層状複水酸化物以外の水酸化物を言う。
【0048】
上記層状複水酸化物は、例えばハイドロタルサイトが好ましい。これにより、上記アニオン伝導性材料のアニオン伝導性を際立って優れたものとすることができる。
上記ハイドロタルサイトは、下記式(1);
[M1−x(OH)](An−x/n・mHO (1)
(式中、M=Mg、Fe、Zn、Ca、Li、Ni、Co、Cu、Mn等;M=Al、Fe、Mn、Co、Cr、In等;An−=CO2−、OH、Cl、NO、CO2−、COO等、mは0以上の正数、nは1〜3、xは、0.20≦x≦0.40程度)で示される化合物であることが好ましい。この化合物を、150℃〜900℃で焼成することにより脱水した化合物や、層間内の陰イオンを分解させた化合物、天然鉱物であるMgAl(OH)16CO・mHO等を上記無機化合物として使用してもよい。上記ハイドロタルサイトには、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、シラノール基等の官能基を持つ化合物が配位していてもよい。層間内に有機物を有していてもよい。
【0049】
上記硫酸化合物は、例えばエトリンガイトが好ましい。
上記リン酸化合物は、例えばヒドロキシアパタイトが好ましい。
上記ヒドロキシアパタイトは、Ca10(PO(OH)に代表される化合物であり、調製時の条件によりCaの量を減らした化合物や、Ca以外の元素を導入したヒドロキシアパタイト化合物等を上記無機化合物として使用してもよい。
【0050】
上記無機化合物は、それを電解液原料、電解液、ゲル電解質等に導入した際に、溶解状態、コロイド等の分散状態、不溶状態等のいずれであっても良く、その表面の一部がプラスやマイナスの電荷に帯電するものが好ましく、ゼータ電位の測定等により、粒子の帯電状態を推察することができる。これら無機化合物は、後述するように、ポリマーが有する官能基との共有結合、配位結合や、イオン結合、水素結合、π結合、ファンデルワールス結合、アゴスチック相互作用等の非共有性結合により相互作用することもできる。ハイドロタルサイト等の層状化合物を用いる場合には、その層内にポリマーが形成されていてもよいし、有機物を含んでいてもよい。また、上記無機化合物は、それを電解液原料、電解液、ゲル電解質等に導入した際に、その表面の一部がプラスやマイナスの電荷に帯電しない状態(等電点に相当)で使用してもよい。
【0051】
上記アニオン伝導性材料は、電解液原料、電解液、ゲル電解質等に導入した際に水和物となるようなものであってもよい。水和物であることにより、電池反応に関与する水酸化物イオン等の伝導性を更に高めることができる。
【0052】
上記無機化合物の質量割合としては、アニオン伝導性材料100質量%に対して、0.1質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、0.5質量%以上であり、更に好ましくは、1質量%以上であり、一層好ましくは3質量%以上であり、特に好ましくは20質量%以上である。また、99.9質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、99質量%以下であり、更に好ましくは、75質量%以下であり、一層好ましくは、70質量%未満であり、特に好ましくは、60質量%未満であり、最も好ましくは55質量%未満である。
上記無機化合物の質量割合を上記範囲内とすることにより、本発明の効果を発揮できるとともに、アニオン伝導性材料のクラックを生じにくくする効果を発揮することができる。中でも、層状複水酸化物の質量割合を上記範囲内とすることが特に好ましい。
【0053】
上記アニオン伝導性材料は、ポリマーと、無機化合物とを含む限り、更にその他の成分を含んでいてもよい。
【0054】
上記その他の成分は、特に限定されないが、例えば、粘土化合物;固溶体;合金;ゼオライト;ハロゲン化物;カルボキシラート化合物;炭酸化合物;炭酸水素化合物;硝酸化合物;スルホン酸化合物;亜リン化合物;次亜リン酸化合物、ホウ酸化合物;ケイ酸化合物;アルミン酸化合物;硫化物;オニウム化合物;塩;有機化合物等を1種又は2種以上含んでいても良い。上記その他の成分は、上記無機化合物や上記ポリマーとは異なる化合物である。上記その他の成分は、イオン伝導性を補助したり、溶媒・熱・焼成・電気等の手法を用いて除去されることによって後述するアニオン伝導性材料中の空孔を形成したりする等の働きも可能である。
【0055】
上記その他の成分の質量割合は、その他の成分を用いる場合は、アニオン伝導性材料100質量%に対して、0.001質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、0.01質量%以上であり、更に好ましくは、0.05質量%以上である。また、90質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、70質量%以下であり、更に好ましくは、45質量%以下である。その他の成分は、全く含まなくてもよい。
【0056】
本発明に係るアニオン伝導性材料は、上述したポリマー、無機化合物、その他の成分を、それぞれ、1種のみ含んでいてもよいし2種以上を含んでいてもよい。なお、ポリマーが2種以上含まれる場合、ポリマーの質量とは、特に断らない限り、2種以上のポリマーの合計質量を言う。無機化合物、その他の成分のそれぞれが2種以上含まれる場合についても同様である。
【発明の効果】
【0057】
本発明の金属空気電池は、上述の構成よりなり、充電時に発生する酸素の影響による電解液の漏出や飛散が効果的に抑制され、長期間安定な充放電をすることが可能な金属空気電池である。また第三極方式の電池である本発明の金属空気電池は、充電時と放電時とで電流の流れる方向が異なるため、放電電流のルートに分厚いセパレータが不要であり、放電時の内部抵抗を下げることができるため高出力化することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】実施例1で作製した金属空気電池の構成を示した図である。
図2】実施例2で作製した金属空気電池の構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0060】
セパレータの透気度は、ガーレー透気度試験機(JIS P 8117:2009)により測定した。
【0061】
下記実施例、比較例において、負極、放電用の正極、電解液、セパレータとしては、それぞれ以下のものを用いた。
(1)負極(亜鉛負極)
錫メッキされたパンチング鋼板を集電体とし、酸化亜鉛とポリフルオロエチレン水分散体(ポリフロンD210C、ダイキン社製)を98:2の質量比で混合したペーストを集電体に圧延によって圧着して負極を形成した。負極容量は、800mAh/cm程度とした。
(2)放電用の正極(空気極)
天然黒鉛と60%濃度のテトラフルオロエチレン水分散液(ポリフロン D−210C、ダイキン社製)を9:1の質量比で混合しペースト化したものを、Niメッキされたパンチング鋼板に圧延によって圧着し、さらに電解液側にポリプロピレン製不織布、空気側にテフロン(登録商標)製不織布がくるような3層構成を圧延によって圧着して形成し、セパレータを密着させた空気極を作製した。
(3)電解液
8M濃度のKOH水溶液に酸化亜鉛を飽和濃度まで溶かしたものを電解液とした。
(4)セパレータ(アニオン伝導性膜)
ハイドロタルサイト(商品名:DHT−6、協和化学工業社製、平均粒子径は0.20μm)とスチレン−ブタジエン共重合体の水分散体(製品名:TRD2001、JSR社製、Tg=−2℃、固形分量48%)とポリテトラフルオロエチレン水分散体(商品名:D210C、ダイキン工業社製、固形分60%)とカルボキシメチルセルロース(商品名:ダイセル1380、ダイセルファインケム社製)と純水とを100:100:5:3:15の質量比でニーダー混練し、ロール圧延を行うことで、厚さ100μmのアニオン伝導性膜を作製し、これを充電用の正極と電解液との間のセパレータとして用いた。このアニオン伝導性膜の透気度は、10000以上であった。
【0062】
実施例1
表面をNiメッキしたパンチング鋼板の外気側に透気度100cc/secの不織布を貼り、上記(4)と同様の方法で作成した100μm厚のアニオン伝導性膜を電解液側に形成したものを、セパレータを密着させた充電用の正極として用い、図1に示すようにアクリル製容器に負極、セパレータを密着させた充電用の正極、セパレータを密着させた空気極、及び、電解液をそれぞれ配置して金属空気電池を構成した。
この電池について、以下の条件で充放電試験を行った。結果を表1に示す。
[測定条件]
充電電流:30mA/cm(充電極の開口部に対して30mA/cmとした)
放電電流:30mA/cm(放電極の開口部に対して30mA/cmとした)
充電時間:5時間(150mAh/cmまで負極を充電)
放電停止条件:放電極と負極間の電圧が0.9V以下になったところで放電停止とした。
充電停止・放電停止の間には、5分間の休止時間(電流を流さない時間)を置き、サイクル試験を実施した。
【0063】
実施例2
上記(4)と同様の方法で作成した100μm厚のアニオン伝導性膜を発泡ニッケル(厚さ2mm)の電解液側に形成したものをセパレータを密着させた充電用の正極として用い、図2に示すようにアクリル製容器に負極、セパレータを密着させた充電用の正極、セパレータを密着させた空気極、及び、電解液をそれぞれ配置して金属空気電池を構成した。
この電池について、実施例1と同様の条件で充放電試験を行った。結果を表1に示す。
【0064】
実施例3−1
発泡ニッケル(厚さ2mm)の孔部に以下のようにして親水性粒子1を充填した後、上記(4)と同様の方法で作成した100μm厚のアニオン伝導性膜を発泡ニッケルの電解液側に形成したものをセパレータを密着させた充電用の正極として用いた以外は実施例2と同様にアクリル製容器に負極、セパレータを密着させた充電用の正極、セパレータを密着させた空気極、及び、電解液をそれぞれ配置して金属空気電池を構成した。
この電池について、実施例1と同様の条件で充放電試験を行った。結果を表1に示す。
[親水性粒子1の充填]
ハイドロタルサイト(商品名:DHT−6、協和化学工業社製、平均粒子径は0.20μm)とポリテトラフルオロエチレン水分散体(商品名:D210C、ダイキン工業社製、固形分60%)とカルボキシメチルセルロース(商品名:ダイセル1380、ダイセルファインケム社製)と純水とを100:1:1:20の質量比で混合したスラリーを調製し、そのスラリー中に発泡ニッケルを導入し、充分に含浸したところで引き揚げて乾燥することで孔部に粒子を充填した。
【0065】
実施例3−2
実施例3−1の親水性粒子1の充填に代えて、以下の方法により親水性粒子2を充填したこと以外は実施例3−1と同様にして金属空気電池を構成した。
この電池について、実施例1と同様の条件で充放電試験を行った。結果を表1に示す。
[親水性粒子2の充填]
酸化ジルコニア(平均粒子径は0.30μm)とポリテトラフルオロエチレン水分散体(商品名:D210C、ダイキン工業社製、固形分60%)とカルボキシメチルセルロース(商品名:ダイセル1380、ダイセルファインケム社製)と純水とを100:1:1:20の質量比で混合したスラリーを調製し、そのスラリー中に発泡ニッケルを導入し、充分に含浸したところで引き揚げて乾燥することで孔部に粒子を充填した。
【0066】
実施例3−3
実施例3−1の親水性粒子1の充填に代えて、以下の方法により親水性粒子3を充填したこと以外は実施例3−1と同様にして金属空気電池を構成した。
この電池について、実施例1と同様の条件で充放電試験を行った。結果を表1に示す。
[親水性粒子3の充填]
酸化カルシウム(平均粒子径は0.45μm)とポリテトラフルオロエチレン水分散体(商品名:D210C、ダイキン工業社製、固形分60%)とカルボキシメチルセルロース(商品名:ダイセル1380、ダイセルファインケム社製)と純水とを100:1:1:20の質量比で混合したスラリーを調製し、そのスラリー中に発泡ニッケルを導入し、充分に含浸したところで引き揚げて乾燥することで孔部に粒子を充填した。
【0067】
実施例3−4
実施例3−1の親水性粒子1の充填に代えて、以下の方法により親水性粒子4を充填したこと以外は実施例3−1と同様にして金属空気電池を構成した。
この電池について、実施例1と同様の条件で充放電試験を行った。結果を表1に示す。
[親水性粒子4の充填]
ポリスチレンラテックス粒子(平均粒子径は10μm)とポリテトラフルオロエチレン水分散体(商品名:D210C、ダイキン工業社製、固形分60%)とカルボキシメチルセルロース(商品名:ダイセル1380、ダイセルファインケム社製)と純水とを100:1:1:20の質量比で混合したスラリーを調製し、そのスラリー中に発泡ニッケルを導入し、十分に含浸したところで引き揚げて乾燥することで孔部に粒子を充填した。
【0068】
実施例4−1
実施例3−1の充電用の正極の外気側にポリオレフィン不織布(透気度10)を配置したものをセパレータを密着させた充電用の正極として用いたこと以外は実施例3−1と同様にして金属空気電池を構成した。
この電池について、実施例1と同様の条件で充放電試験を行った。結果を表1に示す。
【0069】
実施例4−2
実施例3−1の充電用の正極の外気側に多孔膜(セルガード2501)(透気度50)を配置したものをセパレータを密着させた充電用の正極として用いたこと以外は実施例3−1と同様にして金属空気電池を構成した。
この電池について、実施例1と同様の条件で充放電試験を行った。結果を表1に示す。
【0070】
実施例4−3
実施例3−1の充電用の正極の外気側に多孔性撥水膜(日東電工社製エアフィルタ用ふっ素樹脂多孔質フィルム TEMISH(登録商標))(透気度25)を配置したものをセパレータを密着させた充電用の正極として用いたこと以外は実施例3−1と同様にして金属空気電池を構成した。
この電池について、実施例1と同様の条件で充放電試験を行った。結果を表1に示す。
【0071】
比較例
表面をNiメッキしたパンチング鋼板の電解液側に上記(4)と同様の方法で作成した100μm厚のアニオン伝導性膜を形成したものを、セパレータを密着させた充電用の正極として用いた以外は実施例2と同様に、アクリル製容器に負極、セパレータを密着させた充電用の正極、セパレータを密着させた空気極、及び、電解液をそれぞれ配置して金属空気電池を構成した。
この電池について、実施例1と同様の条件で充放電試験を行った。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
上記表1において、外観変化は、実施例1〜4−3については100サイクル後の観察結果であり、比較例については21サイクル後の観察結果である。
上記表1に示されているように、充電極の集電体として発泡ニッケルを用いた実施例2では、Niメッキしたパンチング鋼板を充電極の集電体として用いた実施例1に比べて充電時の内部抵抗が大幅に減少する結果となった。
また、発泡ニッケルの孔内に親水性粒子状部材を充填した実施例3−1〜3−4では、実施例2よりも更に充電時の内部抵抗が減少するとともに、100サイクル後の充電極表面の炭酸塩の生成も実施例2よりも少なくなっており、親水性粒子状部材の作用で電解液の液漏れを抑制できることが確認された。
実施例3−1の充電用正極の外気側に撥水性のセパレータを配置した実施例4−1〜4−3では、100サイクル後の充電極表面に変化がなく、撥水性のセパレータの作用により電解液の液漏れが充分に抑制できることが確認された。
充電用の正極を電解液中に設置した比較例では、21サイクルで電解液枯れとなり、外観にも電解液の飛散が確認された。
【符号の説明】
【0074】
A:充電用正極の外気側セパレータ
B:充電用正極
C:充電用正極の電解液側セパレータ
D:負極
E:負極集電体
F:放電用正極(空気極)の電解液側セパレータ
G:放電用正極(空気極)
H:放電用正極(空気極)の外気側セパレータ
I:電解液
J:電池容器
図1
図2