特許第6625935号(P6625935)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6625935
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】直接脱硫方法及び重質炭化水素削減原油
(51)【国際特許分類】
   C10G 67/02 20060101AFI20191216BHJP
   C10G 31/10 20060101ALI20191216BHJP
   C10G 45/02 20060101ALI20191216BHJP
【FI】
   C10G67/02
   C10G31/10
   C10G45/02
【請求項の数】1
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-125683(P2016-125683)
(22)【出願日】2016年6月24日
(65)【公開番号】特開2017-226799(P2017-226799A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2019年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100098682
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 賢次
(74)【代理人】
【識別番号】100131255
【弁理士】
【氏名又は名称】阪田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100125324
【弁理士】
【氏名又は名称】渋谷 健
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀一
(72)【発明者】
【氏名】森山 拓
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−092571(JP,A)
【文献】 特開平10−099725(JP,A)
【文献】 特表2015−520271(JP,A)
【文献】 特開平05−117666(JP,A)
【文献】 特開2012−197350(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/029618(WO,A1)
【文献】 特開昭62−011587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原油スラッジ(A)と原油(B)とを、該原油スラッジ(A)及び該原油(B)の合計に対する該原油スラッジ(A)の割合が5〜90質量%となるように混合し、次いで、原油スラッジ(A)と原油(B)の混合物を、40〜95℃で加熱撹拌し、原油スラッジ(A)と原油(B)の加熱撹拌処理物を得る加熱撹拌工程(1)と、
該加熱撹拌処理物を40〜95℃で遠心分離することにより、軽液層と、重液、水分及び固形分の層と、を分離させ、該軽液層を採取することにより、該加熱撹拌処理物から、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を、除去又は減量し、重質炭化水素削減原油(1)を得る重質炭化水素削減工程(1)と、
該重質炭化水素削減原油(1)を原油(C)に混合して、混合原油(D)を得る原油混合工程(1)と、
常圧蒸留により、該混合原油(D)から常圧留出分を分離して、常圧残渣油(1)を得る常圧蒸留工程(1)と、
該常圧残渣油(1)を直接脱硫原料油として用いて、直接脱硫処理を行う直接脱硫工程(1)と、
を有することを特徴とする直接脱硫方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接脱硫の運転条件のシビアリティーを低くすることができる直接脱硫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原油タンクに堆積した原油スラッジは、原油タンクから取り出された後、一般的には、産業廃棄物として処理されるが、その廃棄処理には高い費用を要する。一方で、原油スラッジは、多くの場合30〜80体積%程度の油分を含んでいるため、原油スラッジ中の油分の回収のニーズも大きい。
【0003】
そこで、従来、真空蒸留法、加熱分離法、遠心分離法等により、原油スラッジから油分を回収する試みが行われてきた(例えば、特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2012/141024号
【特許文献2】特開平3−226481号公報
【特許文献3】特開2004−243300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、原油スラッジから回収された油分は、低品質であることから、これを原料油として良好な品質の燃料を製造する場合には、精製コストが高くなってしまう。そのため、原油スラッジから回収された油分は、直接、安価な外燃機関用の燃料油として使用されることが多い。
【0006】
ここで、原油スラッジから回収した油分を原油に混合すれば、安価な燃料油ではなく、より価格の高い原油として販売することが可能となる。ところが、本発明者らが検討したところ、原油スラッジから回収した油分を原油に混合し、得られる回収油分混合原油を、そのまま常圧蒸留し、得られる常圧残渣油を、直接脱硫処理すると、同等の品質の処理油を得るにあたって、原油スラッジからの回収油分を混合しない場合に比べ、直接脱硫処理の運転条件のシビアリティーが上昇することがわかった。
【0007】
また、以前より、直接脱硫処理の原料油の基となる原油種の違いにより、直接脱硫処理の運転条件のシビアリティーが異なることは知られていたが、それが何に起因するかの詳細は、わからなかった。そのため、直接脱硫処理の運転条件のシビアリティーを低くする明確な方法はわからなかった。
【0008】
従って、本発明の課題は、運転条件のシビアリティーを低くすることができる直接脱硫方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の本発明により解決される。
すなわち、本発明は、 原油スラッジ(A)と原油(B)とを、該原油スラッジ(A)及び該原油(B)の合計に対する該原油スラッジ(A)の割合が5〜90質量%となるように混合し、次いで、原油スラッジ(A)と原油(B)の混合物を、40〜95℃で加熱撹拌し、原油スラッジ(A)と原油(B)の加熱撹拌処理物を得る加熱撹拌工程(1)と、
該加熱撹拌処理物を40〜95℃で遠心分離することにより、軽液層と、重液、水分及び固形分の層と、を分離させ、該軽液層を採取することにより、該加熱撹拌処理物から、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を、除去又は減量し、重質炭化水素削減原油(1)を得る重質炭化水素削減工程(1)と、
該重質炭化水素削減原油(1)を原油(C)に混合して、混合原油(D)を得る原油混合工程(1)と、
常圧蒸留により、該混合原油(D)から常圧留出分を分離して、常圧残渣油(1)を得る常圧蒸留工程(1)と、
該常圧残渣油(1)を直接脱硫原料油として用いて、直接脱硫処理を行う直接脱硫工程(1)と、
を有することを特徴とする直接脱硫方法を提供するものである。
【0010】
また、本発明(2)は、原油(E)から、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を、除去又は減量し、重質炭化水素削減原油(2)を得る重質炭化水素削減工程(2)と、
常圧蒸留により、該重質炭化水素削減原油(2)から常圧留出分を分離して、常圧残渣油(2)を得る常圧蒸留工程(2)と、
該常圧残渣油(2)を直接脱硫原料油として用いて、直接脱硫処理を行う直接脱硫工程(2)と、
を有することを特徴とする直接脱硫方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明(3)は、直接脱硫原料油(F)から、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を、除去又は減量し、重質炭化水素削減直接脱硫原料油(3)を得る重質炭化水素削減工程(3)と、
該重質炭化水素削減直接脱硫原料油(3)を直接脱硫原料油として用いて、直接脱硫処理を行う直接脱硫工程(3)と、
を有することを特徴とする直接脱硫方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明(4)は、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素の含有量が多い常圧残渣油(G)に、該常圧残渣油(G)に比べ、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素の含有量が少ない常圧残渣油(H)を混合して、重質炭化水素減量直接脱硫原料油(4)を得る直接脱硫原料混合工程(4)と、
該重質炭化水素減量直接脱硫原料油(4)を直接脱硫原料油として用いて、直接脱硫処理を行う直接脱硫工程(4)と、
を有することを特徴とする直接脱硫方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明(5)は、原油スラッジ(A)と原油(B)とを、該原油スラッジ(A)及び該原油(B)の合計に対する該原油スラッジ(A)の割合が5〜90質量%となるように混合し、次いで、原油スラッジ(A)と原油(B)の混合物を、40〜95℃で加熱撹拌し、原油スラッジ(A)と原油(B)の加熱撹拌処理物を得る加熱撹拌工程(1)と、
該加熱撹拌処理物から、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を、除去又は減量し、重質炭化水素削減原油(1)を得る重質炭化水素削減工程(1)と、
該重質炭化水素削減原油(1)を原油(C)に混合して、混合原油(D)を得る混合工程(1)と、
を行い得られる重質炭化水素削減原油(1)を提供するものである。
【0014】
また、本発明(5)は、原油(E)から、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を、除去又は減量し、重質炭化水素削減原油(2)を得る重質炭化水素削減工程(2)を行い得られる重質炭化水素削減原油(2)を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、運転条件のシビアリティーを低くすることができる直接脱硫方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】原油スラッジaのGPC分析チャートである。
図2】常圧残渣油cのGPC分析チャートである。
図3】軽液dのGPC分析チャートである。
図4】重質炭化水素含有油eのGPC分析チャートである。
図5】直接脱硫原料油fのGPC分析チャートである。
図6】直接脱硫原料油gのGPC分析チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第一の形態の直接脱硫方法は、原油スラッジ(A)と原油(B)とを、該原油スラッジ(A)及び該原油(B)の合計に対する該原油スラッジ(A)の割合が5〜90質量%となるように混合し、次いで、原油スラッジ(A)と原油(B)の混合物を、40〜95℃で加熱撹拌し、原油スラッジ(A)と原油(B)の加熱撹拌処理物を得る加熱撹拌工程(1)と、
該加熱撹拌処理物から、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を、除去又は減量し、重質炭化水素削減原油(1)を得る重質炭化水素削減工程(1)と、
該重質炭化水素削減原油(1)を原油(C)に混合して、混合原油(D)を得る原油混合工程(1)と、
常圧蒸留により、該混合原油(D)から常圧留出分を分離して、常圧残渣油(1)を得る常圧蒸留工程(1)と、
該常圧残渣油(1)を直接脱硫原料油として用いて、直接脱硫処理を行う直接脱硫工程(1)と、
を有することを特徴とする直接脱硫方法である。
【0018】
なお、本発明において高分子炭化水素の分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定される、ポリスチレン換算の分子量である。
【0019】
本発明の第一の形態の直接脱硫方法に係る加熱撹拌工程(1)は、原油スラッジ(A)と原油(B)とを混合し、次いで、原油スラッジ(A)と原油(B)の混合物を、40〜95℃で加熱撹拌して、原油スラッジ(A)と原油(B)の加熱撹拌処理物を得る工程である。
【0020】
加熱撹拌工程(1)に係る原油スラッジ(A)は、原油が貯蔵されている原油中から発生し、原油タンクの底に堆積したスラッジである。原油スラッジ(A)としては、原油採掘後に固形分や水分等が除去されて原油タンクに貯蔵され、製油所に出荷される前の原油タンク中の原油から発生し、原油タンクの底部に堆積した原油スラッジ;原油タンカーの原油タンクの底部に堆積した原油スラッジ;製油所で精製される前の貯蔵用の原油タンク中の原油から発生し、原油タンクの底部に堆積した原油スラッジ等が挙げられる。原油スラッジ(A)は、1種類の原油から生成したものであってもよいし、複数種の原油から生成したものであってもよい。
【0021】
原油スラッジ(A)は、油分、アスファルテン、鉄分、砂、水等を含有している。原油スラッジ(A)中の油分は、主に、炭素数40以上のパラフィン及び芳香族炭化水素である。
【0022】
原油タンク内に堆積した原油スラッジ(A)を、原油タンク外へ取り出す方法としては、特に制限されず、例えば、原油タンク内の原油を原油タンク外へ抜き出した後に、原油タンク内に堆積した原油スラッジ(A)に高圧の原油を噴射し、破砕又は一部溶解した原油スラッジ(A)を原油で原油タンク外へ押し出す方法(COW:Crude Oil Washing)、原油タンク内の原油を原油タンク外へ抜き出した後に、人手により、原油タンク内に堆積した原油スラッジ(A)を取り出す方法等が挙げられる。
【0023】
原油スラッジ(A)と混合する原油(B)は、特に制限されず、原油採掘後に固形分や水分等を除去し原油タンクに貯蔵する前の原油であってもよいし、原油採掘後に固形分や水分等を除去し原油タンクに貯蔵し間もない原油であり、原油スラッジが発生する前の原油であってもよいし、一定期間原油タンクに貯蔵することにより、原油タンクの底部に原油スラッジが発生した後の、原油タンク内の上澄みの原油であってもよい。原油(B)は、原油スラッジ(A)の生成源の原油と同じ種類の原油であっても、異なる種類の原油であってもよい。
【0024】
なお、原油スラッジ(A)を原油タンクから取り出すときに、原油で原油スラッジ(A)を原油タンク外へ押し出すこと(例えば、COW)により、原油スラッジ(A)を取り出した場合、原油タンクから取り出されたものは、原油スラッジ(A)と原油スラッジ(A)の取り出しに用いられた原油の混合物であるが、この場合、原油スラッジ(A)の取り出しに用いられた原油は、原油(B)に含まれる。
【0025】
加熱撹拌工程(1)においては、先ず、原油スラッジ(A)及び原油(B)の合計に対する原油スラッジ(A)の割合が、20〜95質量%、好ましくは40〜90質量%、より好ましくは60〜90質量%となるように、原油スラッジ(A)と原油(B)を混合する。原油スラッジ(A)及び原油(B)の合計に対する原油スラッジ(A)の割合が、上記範囲未満だと、次工程で分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を、除去又は減量する際に、処理量が嵩み費用対効果が悪くなり、また、上記範囲を超えると、ハンドリングが悪く、過剰な加熱設備が必要となる。
【0026】
なお、原油スラッジ(A)を原油タンクから取り出すときに、原油で原油スラッジ(A)を原油タンク外へ押し出すこと(例えば、COW洗浄)により、原油スラッジ(A)を取り出した場合、原油スラッジ(A)の取り出しに用いられた原油を、原油(B)に含めて、原油スラッジ(A)及び原油(B)の合計に対する原油スラッジ(A)の割合を算出する。そのため、この場合、原油タンクの底部に堆積している原油スラッジ(A)及び原油スラッジ(A)の取り出しに用いる原油の合計に対する原油スラッジ(A)の割合が、所定の混合割合、すなわち、原油スラッジ(A)及び原油(B)の合計に対する原油スラッジ(A)の割合が、20〜95質量%、好ましくは40〜90質量%、より好ましくは60〜90質量%となる量の原油を用いて、原油スラッジ(A)を原油タンク外へ取出し、取り出した原油スラッジ(A)と原油の混合物を、そのまま加熱撹拌に用いる原油スラッジ(A)と原油(B)の混合物としてもよい。あるいは、原油タンクの底部に堆積している原油スラッジ(A)を、少量の原油を用いて、原油タンク外へ取出し、取り出した原油スラッジ(A)と原油の混合物に、更に、原油スラッジ(A)の取り出しに用いた原油と同じ種類の原油又は異なる種類の原油を混合して、所定の混合割合、すなわち、原油スラッジ(A)及び原油(B)の合計に対する原油スラッジ(A)の割合が、20〜95質量%、好ましくは40〜90質量%、より好ましくは60〜90質量%にして、得られる混合物を、加熱撹拌に用いる原油スラッジ(A)と原油(B)の混合物としてもよい。
【0027】
加熱撹拌工程(1)では、次いで、原油スラッジ(A)と原油(B)の混合物を、40〜95℃、好ましくは50〜95℃、より好ましくは60〜95℃で加熱撹拌し、原油スラッジ(A)と原油(B)の加熱撹拌処理物を得る。加熱撹拌温度が、上記範囲未満だと、次工程で分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を、除去又は減量する際に、処理量が嵩み費用対効果が悪くなり、また、上記範囲を超えると、ハンドリングが悪く、過剰な加熱設備が必要となる。原油スラッジ(A)と原油(B)の混合物を、加熱撹拌する方法としては、特に制限されず、例えば、原油タンクから取り出された原油スラッジ(A)が貯留されるタンク内で、原油スラッジ(A)と原油(B)の混合物を、加熱撹拌する方法が挙げられる。加熱撹拌時間は、特に制限されず、均一な混合状態となるよう、撹拌条件に応じて選択される。
【0028】
原油スラッジ(A)中の油分の含有量は、特に制限されないが、通常、30〜80質量%である。そして、この原油スラッジ(A)中の油分は、加熱撹拌工程(1)において、原油スラッジ(A)と原油(B)の混合物を40〜95℃、好ましくは50〜95℃、より好ましくは60〜95℃で加熱撹拌することにより、原油(B)に溶解する。
【0029】
本発明の第一の形態の直接脱硫方法に係る重質炭化水素削減工程(1)は、加熱撹拌処理物から、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を、除去又は減量し、重質炭化水素削減原油(1)を得る工程である。
【0030】
重質炭化水素削減工程(1)において、加熱撹拌処理物から分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を除去又は削減する方法としては、特に制限されず、加熱撹拌処理物中の分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を除去又は削減することができる方法が、適宜選択される。
【0031】
重質炭化水素削減工程(1)において、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を除去又は削減する方法としては、例えば、加熱撹拌工程(1)を行い得られた原油スラッジ(A)と原油(B)の加熱撹拌処理物を、40〜95℃で遠心分離することにより、軽液と重液、水分、固形分とを分離して、軽液を得る方法(以下、遠心分離法とも記載する。)が挙げられる。そして、重質炭化水素削減工程(1)に係る遠心分離法を行い得られる軽液が、重質炭化水素削減原油(1)である。
【0032】
重質炭化水素削減工程(1)に係る遠心分離法おいて、原油スラッジ(A)と原油(B)の加熱撹拌処理物の遠心分離を行うときの温度は、40〜95℃、好ましくは50〜95℃、より好ましくは60〜95℃である。遠心分離温度が、上記範囲未満だと、遠心分離中に、原油スラッジ(A)と原油(B)の加熱撹拌処理物の一部が凝固したり、加熱撹拌処理物の流動性が大きく低下したりするため、遠心分離が行えなくなり、また、上記範囲を超えると、軽質留分の損失によるデメリットが発生する。また、重質炭化水素削減工程(1)に係る遠心分離法において、原油スラッジ(A)と原油(B)の加熱撹拌処理物の遠心分離を行うときの温度は、加熱撹拌工程(1)における、原油スラッジ(A)と原油(B)の混合物の加熱撹拌温度と同じ程度である。
【0033】
重質炭化水素削減工程(1)に係る遠心分離法を行い得られる原油スラッジ(A)と原油(B)の加熱撹拌処理物は、比重が小さい軽液(重質炭化水素削減原油(1))と軽液より比重が大きい重液、水及び固形分からなる混合物であり、遠心分離法では、比重差により軽液と重液とを分離する。そして、軽液(重質炭化水素削減原油(1))は、加熱撹拌工程(1)で原油スラッジ(A)中の油分が原油(B)に溶解することにより得られる液体である。つまり、軽液(重質炭化水素削減原油(1))は、基本的に原油(B)と原油(B)に溶解した原油スラッジ(A)中の油分とからなる。重液は、加熱撹拌工程(1)で原油(B)には溶解しなかった原油スラッジ(A)中の油分を含み、主に、ワックス、アスファルテンを抱き込んで分離され難い状態にある油分などであり、原油スラッジ(A)中の分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を多く含んでいる。
【0034】
重質炭化水素削減工程(1)に係る遠心分離法において、加熱撹拌処理物を遠心分離するための遠心分離装置としては、特に制限されず、上記遠心分離温度を保ったまま、連続的に軽液と重液とを、比重の差により分離できるものであればよい。例えば、デカンター式遠心分離機、ディスクセパレータ式遠心分離機、又はこれらを組み合わせた遠心分離機が挙げられる。
【0035】
重質炭化水素削減工程(1)を行い得られる軽液(重質炭化水素削減原油(1))の物性は、特に制限されないが、密度は好ましくは0.80〜0.95g/cm、より好ましくは0.80〜0.88g/cmであり、融点は好ましくは40〜95℃、より好ましくは40〜95℃、さらに好ましくは40〜95℃であり、凝固点は好ましくは30〜90℃、より好ましくは30〜85℃、さらに好ましくは30〜80℃であり、油分含有量は60質量%以上である。
【0036】
重質炭化水素削減工程(1)において、加熱撹拌処理物から分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を除去又は削減する方法としては、他に、加熱撹拌処理物に高分子凝集剤を添加し、生成する沈殿凝集物を加熱撹拌処理物から分離除去する方法や、加熱撹拌処理物にパラフィン溶剤を混合し、高分子炭化水素を加熱撹拌処理物から抽出除去する方法が挙げられる。
【0037】
本発明の第一の形態の直接脱硫方法に係る原油混合工程(1)は、重質炭化水素削減工程(1)を行い得られる重質炭化水素削減原油(1)を原油(C)に混合する工程である。重質炭化水素削減工程(1)を行い得られる重質炭化水素削減原油(1)を、原油(C)に混合する方法としては、特に制限されず、例えば、原油(C)の移送管中に、重質炭化水素削減原油(1)を導入する方法や、原油(C)の原油タンクに重質炭化水素削減原油(1)を供給する方法等が挙げられる。
【0038】
原油混合工程(1)において、重質炭化水素削減原油(1)を混合する原油(C)は、特に制限されず、原油採掘後に固形分や水分等を除去し原油タンクに貯蔵する前の原油であってもよいし、原油採掘後に固形分や水分等を除去し原油タンクに貯蔵し間もない原油であり、原油スラッジが発生する前の原油であってもよいし、一定期間原油タンクに貯蔵することにより、原油タンクの底部に原油スラッジが発生した後の、原油タンク内の上澄みの原油であってもよい。原油(C)は、原油スラッジ(A)の生成源の原油と同じ種類の原油であっても、異なる種類の原油であってもよく、また、原油(B)と同じ種類の原油であっても、異なる種類の原油であってもよい。
【0039】
原油混合工程(1)において、原油(C)への重質炭化水素削減原油(1)の混合量は、原油(C)100体積部に対し、好ましくは45体積部以下、より好ましくは2〜15体積部である。
【0040】
重質炭化水素削減工程(1)において、遠心分離法により、重質炭化水素削減原油(1)である軽液を得た場合は、原油混合工程(1)では、軽液を融点以上の温度にし、融点以上の温度の軽液を原油移送管内の原油(C)に混合することが、原油中にスラッジが発生し難い点で好ましい。そして、原油スラッジ(A)中の油分は、炭素数が40以上と、分子量が大きい炭化水素が主であるため、軽液(重質炭化水素削減原油(1))の温度が、加熱撹拌工程(1)で加熱撹拌を行ったときの温度より低くなり過ぎると、軽液が凝固するか又は軽液の流動性が著しく低くなるため、混合工程(1)では、軽液を融点以上の温度にして、軽液を原油(C)に混合する。軽液の温度は、好ましくは融点以上の温度で、且つ40〜200℃、より好ましくは50〜150℃、さらに好ましくは60〜100℃の範囲内である。また、原油混合工程(1)において、原油(C)に軽液を混合するときの原油(C)と軽液の温度の関係であるが、原油(C)の温度が軽液の温度以上の温度である場合は、原油(C)の温度と軽液の温度の差は、好ましくは10℃以内、より好ましくは5℃以内である。但し、原油(C)の温度が高過ぎると、軽質留分の損失によるデメリットが発生するので、原油(C)の温度は、60℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましい。また、原油(C)の温度が軽液の温度未満の温度である場合は、原油(C)の温度は、軽液の温度より低く且つ軽液の温度と原油(C)の温度の差が40℃以内である。
【0041】
重質炭化水素削減工程(1)において、遠心分離法により、重質炭化水素削減原油(1)である軽液を得た場合は、原油混合工程(1)においては、原油移送管内の原油(C)に軽液を混合することにより、原油(C)に軽液を混合する。原油移送管は、原油(C)を移送するための移送管であり、原油(C)はその中を流れているので、軽液を原油移送管内の原油(C)に混合するとは、原油移送管内を流れている状態の原油(C)に軽液を混合することを指す。そして、原油混合工程(1)では、流れている状態の原油(C)に軽液を混合する。軽液を原油移送管内の原油(C)に混合する方法としては、ラインミキシング、スタティックミキサー、インジェクションノズル、ミキシングバルブ等による混合が挙げられる。原油混合工程(1)において、原油(C)への軽液の混合量は、原油(C)100体積部に対し、好ましくは45体積部以下、より好ましくは2〜15体積部である。原油(C)への軽液の混合量が上記範囲にあることにより、原油(C)中でスラッジが生じ難くなる。また、原油混合工程(1)において、原油移送管内を流れる原油(C)に軽液を混合する場合、原油移送管内を流れる原油(C)の線速度は、好ましくは1cm/秒以上、より好ましくは4cm/秒以上、さらに好ましくは6cm/秒以上である。原油移送管内を流れる原油(C)の線速度が上記範囲にあることにより、原油(C)中で析出した原油スラッジ(A)の油分が分散し易くなるので、原油(C)中でスラッジが生じ難くなる。なお、原油移送管内を流れる原油(C)の線速度に上限値はないが、通常の原油移送配管内の原油の線速度は500cm/秒以下となることが多い。
【0042】
そして、原油混合工程(1)を行うことにより、重質炭化水素削減原油(1)を原油(C)に混合させた混合原油(D)を得る。
【0043】
本発明の第一の形態の直接脱硫方法に係る常圧蒸留工程(1)は、混合原油(D)の常圧蒸留を行い、常圧蒸留により、混合原油(D)から常圧留出分を分離して、常圧残渣油(1)を得る工程である。
【0044】
常圧蒸留工程(1)は、通常、石油精製プロセスにおいて行われる常圧蒸留である。つまり、常圧蒸留工程(1)は、石油精製プロセスの常圧蒸留の蒸留対象の原油として、混合工程(1)を行い得られる混合原油(D)を用いて、常圧蒸留を行う工程である。
【0045】
本発明の第一の形態の直接脱硫方法に係る直接脱硫工程(1)は、常圧蒸留工程(1)を行い得られた常圧残渣油(1)を、直接脱硫原料油として用いて、直接脱硫処理を行う工程、すなわち、常圧残渣油(1)を、脱硫触媒の存在下に、水素化脱硫する工程である。直接脱硫工程(1)における直接脱硫方法は、通常の石油精製プロセスにおいて行われる直接脱硫方法と同様である。例えば、直接脱硫工程(1)における運転条件としては、水素圧が5〜15MPa、脱硫温度が250〜450℃である。直接脱硫工程(1)に用いられる水素化脱硫触媒は、通常の石油精製プロセスにおいて行われる直接脱硫に用いられる水素化脱硫触媒である。
【0046】
本発明者らは、直接脱硫処理において、直接脱硫原料油中に、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素が多く存在すると、直接脱硫処理の運転条件のシビアリティーが上昇してしまうこと、例えば、処理油中の硫黄分の量を同じ目標値とした場合に、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素の含有量が多い直接脱硫原料油は、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素の含有量が少ない直接脱硫原料油に比べ、要求処理温度が高くなってしまうことを見出した。言い換えると、本発明者らは、直接脱硫原料油から、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を除去又は削減することにより、直接脱硫処理の運転条件のシビアリティーを低くすることができることを見出した。
【0047】
そして、本発明の第一の形態の直接脱硫方法では、加熱撹拌工程(1)及び重質炭化水素削減工程(1)を行うことにより、直接脱硫工程(1)における直接脱硫処理の原料油中の分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を削減することができるので、本発明の第一の形態の直接脱硫方法によれば、直接脱硫処理の運転条件のシビアリティーを低くすることができる。
【0048】
本発明の第二の形態の直接脱硫方法は、原油(E)から、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を、除去又は減量し、重質炭化水素削減原油(2)を得る重質炭化水素削減工程(2)と、
常圧蒸留により、該重質炭化水素削減原油(2)から常圧留出分を分離して、常圧残渣油(2)を得る常圧蒸留工程(2)と、
該常圧残渣油(2)を直接脱硫原料油として用いて、直接脱硫処理を行う直接脱硫工程(2)と、
を有することを特徴とする直接脱硫方法。
【0049】
本発明の第二の形態の直接脱硫方法に係る重質炭化水素削減工程(2)は、原油(E)から、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を、除去又は減量し、重質炭化水素削減原油(2)を得る工程である。
【0050】
重質炭化水素削減工程(2)に係る原油(E)は、特に制限されず、原油採掘後に固形分や水分等を除去し原油タンクに貯蔵する前の原油であってもよいし、原油採掘後に固形分や水分等を除去し原油タンクに貯蔵し間もない原油であり、原油スラッジが発生する前の原油であってもよいし、一定期間原油タンクに貯蔵することにより、原油タンクの底部に原油スラッジが発生した後の、原油タンク内の上澄みの原油であってもよい。
【0051】
重質炭化水素削減工程(2)において、原油(E)から分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を除去又は削減する方法としては、特に制限されず、原油(E)中の分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を除去又は削減することができる方法が、適宜選択される。重質炭化水素削減工程(2)において、原油(E)から分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を除去又は削減する方法としては、例えば、遠心分離法、原油(E)に高分子凝集剤を添加し、生成する沈殿凝集物を原油(E)から分離除去する方法、原油(E)にパラフィン溶剤を混合し、高分子炭化水素を原油(E)から抽出除去する方法等が挙げられる。
【0052】
本発明の第二の形態の直接脱硫方法に係る常圧蒸留工程(2)は、常圧蒸留により、重質炭化水素削減原油(2)から常圧留出分を分離して、常圧残渣油を得る工程である。常圧蒸留工程(2)は、常圧蒸留を行う対象が、重質炭化水素削減原油(1)ではなく、重質炭化水素削減原油(2)であること以外は、常圧蒸留工程(1)と同様である。
【0053】
本発明の第二の形態の直接脱硫方法に係る直接脱硫工程(2)は、常圧残渣油(2)を直接脱硫原料油として用いて、直接脱硫処理を行う工程である。直接脱硫工程(2)は、直接脱硫の原料油が、常圧残渣油(1)ではなく、常圧残渣油(2)であること以外は、直接脱硫工程(1)と同様である。
【0054】
本発明の第二の形態の直接脱硫方法では、重質炭化水素削減工程(2)を行うことにより、直接脱硫工程(2)における直接脱硫原料油中の分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を削減することができるので、本発明の第二の形態の直接脱硫方法によれば、直接脱硫処理の運転条件のシビアリティーを低くすることができる。
【0055】
本発明の第三の形態の直接脱硫方法は、直接脱硫原料油(F)から、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を、除去又は減量し、重質炭化水素削減直接脱硫原料油(3)を得る重質炭化水素削減工程(3)と、
該重質炭化水素削減直接脱硫原料油(3)を直接脱硫原料油として用いて、直接脱硫処理を行う直接脱硫工程(3)と、
を有することを特徴とする直接脱硫方法である。
【0056】
本発明の第三の形態の直接脱硫方法に係る重質炭化水素削減工程(3)は、直接脱硫原料油(F)から、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を、除去又は減量し、重質炭化水素削減直接脱硫原料油(3)を得る工程である。
【0057】
重質炭化水素削減工程(3)に係る直接脱硫原料油(F)は、通常の石油精製プロセスにおいて直接脱硫処理の原料油として用いられる油分である。
【0058】
重質炭化水素削減工程(3)において、直接脱硫原料油(F)から分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を除去又は削減する方法としては、特に制限されず、直接脱硫原料油(F)中の分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を除去又は削減することができる方法が、適宜選択される。重質炭化水素削減工程(3)において、直接脱硫原料油(F)から分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を除去又は削減する方法としては、例えば、直接脱硫原料油(F)に高分子凝集剤を添加し、生成する沈殿凝集物を直接脱硫原料油(F)から分離除去する方法、直接脱硫原料油(F)にパラフィン溶剤を混合し、高分子炭化水素を直接脱硫原料油(F)から抽出除去する方法等が挙げられる。
【0059】
本発明の第三の形態の直接脱硫方法に係る直接脱硫工程(3)は、重質炭化水素削減直接脱硫原料油(3)を直接脱硫原料油として用いて、直接脱硫処理を行う工程である。直接脱硫工程(3)は、直接脱硫の原料油が、減圧残渣油(1)ではなく、重質炭化水素削減直接脱硫原料油(3)であること以外は、直接脱硫工程(1)と同様である。
【0060】
本発明の第三の形態の直接脱硫方法では、重質炭化水素削減工程(3)により、直接脱硫工程(3)における直接脱硫処理の原料油中の分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を削減するので、本発明の第三の形態の直接脱硫方法によれば、直接脱硫処理の運転条件のシビアリティーを低くすることができる。
【0061】
本発明の第四の直接脱硫方法は、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素の含有量が多い常圧残渣油(G)に、該常圧残渣油(G)に比べ、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素の含有量が少ない常圧残渣油(H)を混合して、重質炭化水素減量直接脱硫原料油(4)を得る直接脱硫原料混合工程(4)と、
該重質炭化水素減量直接脱硫原料油(4)を直接脱硫原料油として用いて、直接脱硫処理を行う直接脱硫工程(4)と、
を有することを特徴とする直接脱硫方法である。
【0062】
本発明の第四の直接脱硫方法に係る直接脱硫原料混合工程(4)は、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素の含有量が多い常圧残渣油(G)に、常圧残渣油(G)に比べ、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素の含有量が少ない常圧残渣油(H)を混合して、重質炭化水素減量直接脱硫原料油(4)を得る工程である。
【0063】
直接脱硫原料混合工程(4)に係る常圧残渣油(G)及び常圧残渣油(H)は、いずれも、通常の石油精製プロセスにおいて常圧蒸留を行うことにより、原油から常圧留出分を分離して得られる常圧残渣油である。そして、原油の油種により、原油中に含まれている分子量が2500〜15000の高分子炭化水素の含有量は異なり、常圧残渣油中の分子量が2500〜15000の高分子炭化水素の含有量は、原油中の分子量が2500〜15000の高分子炭化水素の含有量に依存する。そのため、常圧残渣油(H)は、常圧残渣油(G)の常圧蒸留原料となった原油に比べ、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素の含有量が少ない原油を常圧蒸留して得られる常圧残渣油である。言い換えると、常圧残渣油(G)は、常圧残渣油(H)の常圧蒸留原料となった原油に比べ、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素の含有量が多い原油を常圧蒸留して得られる常圧残渣油である。
【0064】
直接脱硫原料混合工程(4)では、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素の含有量が多い常圧残渣油(G)に、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素の含有量が少ない常圧残渣油(H)を混合することにより、直接脱硫工程(4)に用いられる直接脱硫原料油(重質炭化水素減量直接脱硫原料油(4))中の分子量が2500〜15000の高分子炭化水素の含有量を、常圧残渣油(G)中の分子量が2500〜15000の高分子炭化水素の含有量に比べ少なくする。
【0065】
常圧残渣油(G)中の分子量が2500〜15000の高分子炭化水素の含有量と、常圧残渣油(H)中の分子量が2500〜15000の高分子炭化水素の含有量の差((G)−(H))及び常圧残渣油(G)と常圧残渣油(H)の混合割合は、直接脱硫原料油中の分子量が2500〜15000の高分子炭化水素の含有量を、常圧残渣油(G)に比べどの程度少なくするかにより、適宜選択される。
【0066】
本発明の第四の形態の直接脱硫方法に係る直接脱硫工程(4)は、重質炭化水素減量直接脱硫原料油(4)を直接脱硫原料油として用いて、直接脱硫処理を行う工程である。直接脱硫工程(4)は、直接脱硫の原料油が、減圧残渣油(1)ではなく、重質炭化水素減量直接脱硫原料油(4)であること以外は、直接脱硫工程(1)と同様である。
【0067】
本発明の第四の形態の直接脱硫方法では、直接脱硫原料混合工程(4)により、直接脱硫工程(4)における直接脱硫処理の原料油中の分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を少なくするので、本発明の第四の形態の直接脱硫方法によれば、直接脱硫処理の運転条件のシビアリティーを低くすることができる。
【0068】
本発明の第一の形態の重質炭化水素削減原油(1)は、原油スラッジ(A)と原油(B)とを、該原油スラッジ(A)及び該原油(B)の合計に対する該原油スラッジ(A)の割合が5〜90質量%となるように混合し、次いで、原油スラッジ(A)と原油(B)の混合物を、40〜95℃で加熱撹拌し、原油スラッジ(A)と原油(B)の加熱撹拌処理物を得る加熱撹拌工程(1)と、
該加熱撹拌処理物から、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を、除去又は減量し、重質炭化水素削減原油(1)を得る重質炭化水素削減工程(1)と、
該重質炭化水素削減原油(1)を原油(C)に混合して、混合原油(D)を得る原油混合工程(1)と、
を行い得られる重質炭化水素削減原油(1)である。
【0069】
また、本発明の第二の形態の重質炭化水素削減原油(2)は、原油(E)から、分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を、除去又は減量し、重質炭化水素削減原油(2)を得る重質炭化水素削減工程(2)を行い得られる重質炭化水素削減原油(2)である。
【0070】
本発明の第一の形態の重質炭化水素削減原油(1)は、本発明の第一の形態の直接脱硫方法に用いられる重質炭化水素削減原油(1)である。つまり、本発明の第一の形態の重質炭化水素削減原油(1)を用いて、本発明の第一の形態の直接脱硫方法に係る常圧蒸留工程(1)及び直接脱硫工程(1)を順に行うことができる。また、本発明の第二の形態の重質炭化水素削減原油(2)は、本発明の第二の形態の直接脱硫方法に用いられる重質炭化水素削減原油(2)である。つまり、本発明の第二の形態の重質炭化水素削減原油(2)を用いて、本発明の第二の形態の直接脱硫方法に係る常圧蒸留工程(2)及び直接脱硫工程(2)を順に行うことができる。
【0071】
なお、本発明において、油中の分子量が2500〜15000の高分子炭化水素の含有量、及び油中の分子量が2500〜15000の高分子炭化水素の含有量が、削減されたことは、GPC分析により確認される。
【0072】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【実施例】
【0073】
<GPC分析>
装置:Shodex GPC−101
カラム:Shodex GPC LF−804×3本(排除限界200万)
検出器:RI(示唆屈折検出器)(40℃)
移動相:テトラヒドロフラン
流量:1mL/分
試料濃度:0.8mass/vol%
*試料の全てについて、THFに溶解後、0.45μmフィルターによりろ過を実施した。
注入量:100μL
分子量計算:ポリスチレン換算
【0074】
<原油スラッジ>
原油タンクから回収された原油スラッジa
分析値:油分64.3質量%、アスファルテン分11.4質量%、水分21.0質量%、セジメント分3.3質量%、GPC分析結果を図1に示す。
<原油>
以下の分析値を有する原油b
API 37.9°、水泥分 0体積%
<常圧残渣油>
GPC分析結果が図2の常圧残渣油cを用意した。
分析値:油分98.8質量%、アスファルテン分1.2質量%
【0075】
<軽液及び重質炭化水素含有油の採取>
原油スラッジaと原油bとを、その合計に対する原油スラッジaの割合が70質量%になるように撹拌容器に加え、混合物を80℃で加熱撹拌した。
次いで、80℃を保ったまま、加熱撹拌処理物を、80℃に設定された遠心分離器に入れ、80℃、1000G、1分間の条件で、遠心分離を行った。遠心分離により、加熱撹拌処理物は、4層に分離した。
次いで、デカンテーションにより、1層目の軽液d(1番上の層)と、2層目の重質炭化水素含有油e(上から2番目の層)を採取した。得られた軽液dのGPC分析結果を図3に、重質炭化水素含有油eのGPC分析結果を図4に示す。
【0076】
<直接脱硫原料油の調製>
常圧残渣油cに、常圧残渣油cに対し3質量%の軽液dを混合して、直接脱硫原料油fを得た。また、常圧残渣油cに、常圧残渣油cに対し8質量%の重質炭化水素含有油eを混合して、直接脱硫原料油gを得た。得られた直接脱硫原料油fのGPC分析結果を図5に、直接脱硫原料油gのGPC分析結果を図6に示す。
【0077】
(実施例1)
直接脱硫原料油fを原料に用いて、水素化脱硫触媒を10mL充填した固定床流通式マイクロリアクターで、プロダクトの硫黄分が0.25質量%となるようにして、水素化脱硫試験を行った。運転条件は、LHSVが0.2h−1、水素分圧が10MPaであった。その結果を表1に示す。
【0078】
(比較例1)
直接脱硫原料油gを原料に用いて、水素化脱硫触媒を10mL充填した固定床流通式マイクロリアクターで、プロダクトの硫黄分が0.25質量%となるようにして、水素化脱硫試験を行った。運転条件は、LHSVが0.2h−1、水素分圧が10MPaであった。その結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
1)表1中、高分子炭化水素(Area%)とは、直接脱硫原料油のGPC分析チャート中のポリスチレン換算の分子量が2500〜15000に相当する部分の面積%である。
【0080】
実施例1と比較例1の対比は、直接脱硫処理に用いる原料油中の分子量が2500〜15000の高分子炭化水素を削減した場合と削減しなかった場合の直接脱硫処理のシビアリティーの対比と同等な結果と推測される。そして、それらの結果、直接脱硫原料油中の分子量が2500〜15000の高分子炭化水素が、少ないと、原料油中の硫黄分量が同じであっても、要求温度が低くなる、つまり、直接脱硫処理のシビアリティーが低くなることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6