特許第6625972号(P6625972)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6625972薬物送達用の自己集積ブラシブロックコポリマーナノ粒子
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6625972
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】薬物送達用の自己集積ブラシブロックコポリマーナノ粒子
(51)【国際特許分類】
   C08F 293/00 20060101AFI20191216BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20191216BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20191216BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20191216BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20191216BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20191216BHJP
   C08F 220/38 20060101ALI20191216BHJP
   C08F 220/26 20060101ALI20191216BHJP
   C08G 61/06 20060101ALI20191216BHJP
【FI】
   C08F293/00
   A61K9/14
   A61K47/32
   A61K47/02
   A61K31/704
   A61P35/00
   C08F220/38
   C08F220/26
   C08G61/06
【請求項の数】27
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2016-521641(P2016-521641)
(86)(22)【出願日】2014年10月7日
(65)【公表番号】特表2016-539206(P2016-539206A)
(43)【公表日】2016年12月15日
(86)【国際出願番号】US2014059517
(87)【国際公開番号】WO2015054269
(87)【国際公開日】20150416
【審査請求日】2017年9月28日
(31)【優先権主張番号】61/887,781
(32)【優先日】2013年10月7日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516104009
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ コネチカット
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ル,シウリン
(72)【発明者】
【氏名】カシ,ラジェスワリ
(72)【発明者】
【氏名】トラン,タン−フェン
(72)【発明者】
【氏名】グェン,キー,タン
(72)【発明者】
【氏名】デーシムク,パラシャント
【審査官】 三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−194533(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/113645(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/022477(WO,A1)
【文献】 Prachant Deshmukh et.al,Hierarchically Self-Assembled Photonic Materials from Liquid Crystalline Random Brush Copolymers,Macromolecules,2013年,46,4558-4566
【文献】 Yu Shao et.al,Multishape Memory Effect of Norbornene-Based Copolymers with Cholic Acid Pendant Groups,Macromolecules,2012年,45,1924-1930
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
【化1】
である第1のブロック、
および式:
【化2】
である第2のブロック、
[式中、
mおよびnは、独立に約3〜約500の整数であり;
は、ノルボルネン、シクロペンテン、シクロオクテン、アクリレート、およびメタクリレートから独立に選択され;
は、任意にリンカーを含むステロイド部分であり;かつ
は、ポリアルキレンオキシド部分である]を含み、コア/殻ナノ粒子形状である、ブロックコポリマー。
【請求項2】
前記ステロイド部分がコレステロール、コール酸、デオキシコール酸、またはタウロコール酸を含む、請求項1に記載のブロックコポリマー。
【請求項3】
前記ステロイド部分がコレステロールを含む、請求項2に記載のブロックコポリマー。
【請求項4】
前記Rのリンカーが、
【化3】

ポリラクトン、またはシロキサンのオリゴマーである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のブロックコポリマー。
【請求項5】
前記ポリアルキレンオキシド部分がポリエチレンオキシドまたはポリエチレンオキシドチオレートを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のブロックコポリマー。
【請求項6】
それぞれのAが独立にノルボルネンである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のブロックコポリマー。
【請求項7】
それぞれのAが独立にアクリレートである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のブロックコポリマー。
【請求項8】
構造:
【化4】
[式中、
xは、約3〜約100の整数であり;
mは、約5〜約200の整数であり;かつ
nは、約5〜約100の整数である]を含む、請求項1に記載のブロックコポリマー。
【請求項9】
xが、約5〜約50である、請求項8に記載のブロックコポリマー。
【請求項10】
xが約8である、またはxが約44である、請求項9に記載のブロックコポリマー。
【請求項11】
mが約10〜約100である、請求項8〜10のいずれか1項に記載のブロックコポリマー。
【請求項12】
nが約15〜約85である、請求項8〜11のいずれか1項に記載のブロックコポリマー。
【請求項13】
前記ブロックコポリマーの分子量が約10,000〜約1,000,000Daである、請求項1〜12のいずれか1項に記載のブロックコポリマー。
【請求項14】
前記ブロックコポリマーの分子量が約40,000〜約750,000Daである、請求項13に記載のブロックコポリマー。
【請求項15】
前記ブロックコポリマーの分子量が約60,000〜約700,000Daである、請求項14に記載のブロックコポリマー。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載のブロックコポリマーおよび疎水性の薬学的に活性な分子を含むナノ粒子。
【請求項17】
前記疎水性の分子がドキソルビシン、ダウノルビシン、ビンクリスチン、パクリタキセル、ドセタキセル、シスプラチン、カンプトテシン、イリノテカン、5−フルオロウラシル、メトトレザト、またはデキサメタゾンである、請求項16に記載のナノ粒子。
【請求項18】
1種または複数種の金属ナノ粒子をさらに含む、請求項16または17に記載のナノ粒子。
【請求項19】
前記金属ナノ粒子が金ナノ粒子である、請求項18に記載のナノ粒子。
【請求項20】
前記金属ナノ粒子が磁気ナノ粒子または量子ドットである、請求項18に記載のナノ粒子。
【請求項21】
前記ナノ粒子が約5〜約500nmの直径である、請求項16〜20のいずれか1項に記載のナノ粒子。
【請求項22】
前記ナノ粒子が約10〜約200nmの直径である、請求項21に記載のナノ粒子。
【請求項23】
前記ナノ粒子が約50〜約150nmの直径である、請求項22に記載のナノ粒子。
【請求項24】
れを必要としている対象に疾患または障害の治療に有効な量で投与されることを特徴とする、請求項1623のいずれか1項に記載のナノ粒子。
【請求項25】
請求項1623のいずれか1項に記載のナノ粒子を調製する工程であって、(a)請求項1〜15のいずれか1項に記載のブロックコポリマーを有機溶媒中に溶解してコポリマー溶液を得ることと、(b)前記コポリマー溶液を水溶液中で混合して前記ナノ粒子を形成することとを含む工程。
【請求項26】
前記有機溶媒がジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、またはこれらの任意の組み合わせである、請求項25に記載の工程。
【請求項27】
前記コポリマー溶液の混合が前記水溶液中で透析により行われる、請求項25または26に記載の工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2013年10月7日出願の米国特許仮出願第61/887,781号に対する優先権の利益を主張する。これらの開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、水溶液中で容易にナノ粒子に自己集積でき、また、疎水性の薬学的に活性な分子の封入を可能とする、両親媒性液体結晶ブラシブロックコポリマーを提供する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
抗癌剤の臨床使用はその疎水性および非特異的毒性により制限される。なぜなら臨床的に使われる抗癌剤の大部分は、身体中の健康な組織および患部組織の両方に急速に拡散し、深刻な副作用を引き起こす低分子量化合物だからである。抗癌剤用の安全で効果的なデリバリーシステムを開発するニーズがますます大きくなっている。自己集積ナノ粒子構造体はコア中への抗癌剤の封入を可能にし、一方で親水性の殻は水溶性および安定性を高めるのを可能とする。適切なサイズおよび表面特性のナノ粒子は、亢進した透過性および滞留性(EPR)効果により腫瘍部位に蓄積する機会を有し得る。EPR効果は腫瘍血液およびリンパ脈管構造の異常性からもたらされる。
【0004】
抗癌剤送達用の種々の自己集積ナノ粒子が開発されてきた。残念ながら、これらの多くは臨床試験において有益な効果を示さなかった。薬物送達ポリマー系に対する主要な障害は、高希釈および低薬物装填量時のポリマーミセルの安定性の欠如である。さらに、多くの合成生分解性コポリマーは、インビボで侵食される際に周辺組織と有害な相互作用を起こすオリゴマーおよびモノマーを生成する。
【0005】
コレステロール末端基を有するコポリマーもまた、ポリマー足場の土台を形成する、細胞付着および増殖用の膜としての役割、および改善された血液適合性を有する材料としての役割を含む種々の生物医学的適用に興味を持たれている。しかし、コレステロールを含む報告された両親媒性ポリマー構造は、1つまたは2,3のコレステロール分子のみを有する複合体または直鎖コポリマーである。これにより、これらのコレステロール含有コポリマーにおける低い安定性、低い封入効率による20%(w/w)までの限られた薬物装填容量、および急速な薬物放出がもたらされる。
【発明の概要】
【0006】
薬物装填容量を高めるが、同時にポリマーキャリアの毒性およびその分解生成物を最小化する適切な構造および組成を有するブロックコポリマーの設計は、依然として難しい問題である。コレステロール分子を含む液体結晶ポリマー(LCP)は、生理活性材料およびバイオテクノロジーなどの種々の分野で適用されてきたが、LCPを薬物送達システムとして利用しているのはほんのわずかの研究者に過ぎない。本発明は、新規液体結晶ブラシブロックコポリマー(「LCbrushBCP」または「ブロックコポリマー」)を提供する。本開示のブロックコポリマーは、水溶液中で自己集積ナノ粒子を容易に形成した。これらのナノ粒子は、超音波処理またはホモジナイゼーション操作を行うことなく、単純に自己集積により疎水性の薬物の装填を可能にする。また、本開示のナノ粒子は、高ステロイド含量疎水性コアの優れた安定性を示し、かつ疎水性薬物の高容量の封入を実証し、一方で表面上のブラシ状の親水性分子が水性媒体中でのナノ粒子の安定性を可能にした。また、親水性表面は、細網内皮系(RES)の取り込みを遮り、体内での長時間循環を容易にした。本開示の自己集積ナノ粒子は、良好な生体適合性、高薬物装填容量、長時間の循環滞留性、多様な方式の可能性を有し、大規模で容易に製造でき、このことがそれらを薬物送達に適切にする。
【0007】
疎水性抗癌剤を封入した本開示のナノ構造体は、遊離抗癌剤に比べて、毒性の大きく低減された高い腫瘍蓄積性および抗腫瘍効力を示した。これらの性質は本開示のナノ粒子を抗癌剤薬物送達での使用に特に適切にする。
【0008】
最後に、本開示のブロックコポリマーは官能化(例えば、チオール、リン酸、カルボン酸基で)されていてよく、かつこのようなコポリマーも水性媒体中で自己集積してよく定義されたナノ粒子を形成した。例えば、チオール官能化ナノ粒子は、物理的捕捉による疎水性抗癌剤およびチオール基への共有結合による金ナノ粒子(Au NP)の二重封入用の多官能キャリアとしての役割を果たした。均一な粒度分布および良好な安定性と共に、高薬物装填量および高封入効率は、例えば光熱癌治療および生物学的センシングにおいて、官能化ナノ粒子を抗癌剤および金属ナノ粒子の送達のために使用することを可能にした。
したがって、広義の態様では、本開示は、
式:
【化1】
の第1のブロック、
および式:
【化2】
の第2のブロック、
[式中、
mおよびnは、独立に約3〜約500の整数であり;
Aは、ポリノルボルネン、ポリシクロペンテン、ポリシクロオクテン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、およびポリシロキサンから独立に選択され;
は、任意にリンカーを含むステロイド部分であり、
は、ポリアルキレンオキシド部分である]を含むブロックコポリマーを提供する。
【0009】
別の態様では、本開示はコア/殻ナノ粒子形状の本開示のブロックコポリマーを提供する。一実施形態では、コア/殻ナノ粒子形状は、本開示のブロックコポリマーが水溶液中で自己集積したものである。
【0010】
一態様では、本開示は、本開示のブロックコポリマーおよび疎水性の薬学的に活性な分子を含むナノ粒子を提供する。別の態様は、このナノ粒子を含む治療のためのデリバリーシステムを提供する。さらに別の態様は、対象にこのナノ粒子を投与することを含む、薬学的に活性な分子を送達する方法を提供する。さらに別の態様は、対象にこのナノ粒子を投与することを含む、疾病または障害を治療する方法を提供する。例えば、疎水性の薬学的に活性な分子が抗癌剤の場合、疾患または障害は癌である。
【0011】
最後に、本開示は本開示のナノ粒子を調製する工程も提供し、この行程は、(a)本開示のブロックコポリマーを有機溶媒中に溶解してコポリマー溶液を得る行程と、(b)コポリマー溶液を水溶液中で混合してナノ粒子を形成する行程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、水性媒体中でのAu NPおよびDOX二重封入P(PEOASH−b−C5A)の自己集積を示す。
図2図2は、水性媒体中でのP(NBCh9−b−NBPEG)の自己集積を示す。
図3図3は、1mg/mLの濃度での自己集積および二重封入brush−chol−BCPナノ粒子を示す。赤色の二重封入ナノ粒子はAu NP封入P(PEOA−b−PC5MA)−SHナノ粒子より黒っぽく、DOXの存在を示している。1:水中のブランクNP;2:DMF中のAuNPテンプレートbrush−chol−BCP;3:水中のAuNP封入NP;4:水中のDOX封入NP;および5:水中の二重封入剤
図4A図4Aは、自己集積および二重封入brush−chol−BCP、P(PEOA−b−PC5A)−SH:(a)ブランクbrush−chol−BCPナノ粒子、(b)DMF中のAuNPテンプレートbrush−chol−BCP、(c)Au NP封入したbrush−chol−BCP、(d)水中のDOX封入NP、および(e)Au NP+DOX二重封入brush−chol−BCPの透過電子顕微鏡(TEM)像を示す。スケールバーは100nm。TEM像は、brush−chol−BCPナノ粒子が均一のサイズ分布を有する球形状であることを示した。
図4B図4Bは、AuNPテンプレートbrush−chol−BCPおよび二重封入NP内のAuNPのエネルギー分散X線(EDX)分光を示す。
図5図5は、25℃での動的光散乱(DLS)測定による、(a、b):P(PEOASH−b−PC5A36)、および(c、d):P(PEOASH−b−C5A)の二重封入前(a、c)および後(b、d)のbrush−chol−BCPナノ粒子の粒度分布を示す。
図6A図6Aは、4℃で貯蔵されたPBS/FBS(1:1)中の二重封入P(PEOASH−b−PC5A36)およびP(PEOASH−b−C5A13)ナノ粒子の安定性を示す。
図6B図6Bは、PBS(pH7.4)中のDOX装填P(PEOASH−b−PC5A)ナノ粒子の放出プロファイルを示す。
図6C図6Cは、4℃で貯蔵されたPBS/FBS(1:1)中の二重封入P(PEO−b−PC5MA)−SHナノ粒子の安定性を示す。
図6D図6Dは、PBS(pH7.4)中のDOX装填および二重装填P(PEOA−b−PC5MA)−SHナノ粒子の放出プロファイルを示す。
図7図7は、400kDa−50(a)、600kDa−75(b)、600kDa−180(c)、400kDa−50−DOX(d)、600kDa−75−DOX(e)、および600kDa−180−DOX(f)のTEM像を示す。(a)、(b)、(d),(e)、および(f)画像のナノ粒子は、1%のリン酸タングステン酸でネガティブ染色された。
図8A図8Aは、4℃で貯蔵されたPBS/FBS(1:1)中のDOX装填400kDa−50、600kDa−75および600kDa−180ナノ粒子の安定性を示す。
図8B図8Bは、0.1%ツイーン80を含むPBS(pH7.4)中のDOX装填400kDa−50、600kDa−75、および600kDa−180ナノ粒子の100rpm、37℃での放出プロファイルを示す。
図9A図9Aは、種々の濃度のブランク400kDa−50、600kDa−75、および600kDa−180ナノ粒子と共に48時間インキュベートしたヒーラ細胞の生存率を示す。
図9B図9Bは、種々の濃度のDOXの、遊離DOX、DOX装填400kDa−50、600kDa−75、および600kDa−180ナノ粒子と共に24時間インキュベートしたヒーラ細胞の生存率を示す。
図9C図9Cは、種々の濃度の、遊離DOX、DOX装填P(PEOASH−b−PC5A)NPおよびAu+DOX装填P(PEOASH−b−PC5A)NPと共に24時間インキュベートしたヒーラ細胞の生存率を示す。
図10図10は、25μg/mLのDOX当量の、遊離DOX、DOX装填400kDa−50、600kDa−75、および600kDa−180ナノ粒子と共に2時間インキュベートしたヒーラ細胞の生存率を示す。P<0.05。
図11A図11Aは、遊離DOXおよびDOX−NPのインビボ循環時間を示す。
図11B図11Bは、担腫瘍SCIDマウスにおける、注入の24時間後のDOXおよびDOX−NPの組織分布を示す。データは、平均±SD(n=5)、P<0.05、**P<0.01で示す。
図12A図12Aは、担腫瘍SCIDマウスにおける、注入後1時間、5時間、24時間後のDiR装填ナノ粒子のインビボ蛍光像を示す。
図12B図12Bは、SCIDマウスにおける、注入24時間後の器官および腫瘍のエクスビボ蛍光像を示す。
図13図13は、担腫瘍SCIDマウスにおけるDOX−NPの抗腫瘍効力を示す。(A)腫瘍体積、(B)試験終了時点の(a)対照、(b)DOX−NPで治療したマウスの腫瘍組織の写真、(C)体重変化、および(D)生存率。データは、平均±SD(n=5)、**P<0.01で示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
開示方法および材料を説明する前に、本明細書で記載の態様は、特定の実施形態、方法、装置、または構成に限定されるものではなく、従って、当然のことながら、変えることが可能であることを理解されたい。また、本明細書で用いられる用語は、特定の態様のみを説明することを目的とするものであり、特に定めのない限り限定することを意図したものではないということも理解されたい。
【0014】
本開示を考慮すると、当業者であれば、本明細書記載の方法を所望の必要性に適合するように構成できる。例えば、特定の態様において、開示のコポリマーはステロイド含有ブロックおよびポリアルキレンオキシド含有ブロックからなる。このようなコポリマーは、超音波処理またはホモジナイゼーションを行うことなく水溶液中でナノ粒子として容易に自己集積し、良好な生体適合性、高薬物装填容量、長時間の循環滞留性、多様な方式の可能性を有し、大規模で容易に製造できる。別の例では、本開示のナノ構造体を使って、抗癌剤などの疎水性の治療的に活性な分子を封入できる。抗癌剤を封入するナノ粒子は、遊離抗癌剤に比べて大きく低減された毒性と共に高い腫瘍蓄積性および抗腫瘍効力を示した。別の例では、本開示のブロックコポリマーは官能化(例えば、チオールで)されていてよく、かつこのようなコポリマーも水性媒体中で自己集積して、官能基を有するよく定義されたナノ粒子を形成できる。チオール官能化ナノ粒子は、物理的捕捉による疎水性抗癌剤およびチオール基への共有結合による金ナノ粒子(Au NP)の二重封入用の多官能キャリアとしての役割を果たした。これらの二重ナノ粒子は、高薬物装填量、高封入効率、均一な粒度分布、および良好な安定性を示した。
【0015】
本開示のブロックコポリマーは、第1のブロックが任意にリンカーを含むステロイド部分を含むことを必要とする。当業者であればわかるように、所望の必要性に適合するように適切なステロイドを選択できる。例えば、本開示の材料に適するステロイド部分は、コレステロール、コール酸、デオキシコール酸、タウロコール酸などを含む。一実施形態では、ステロイド部分はコレステロールを含む。
【0016】
ステロイド部分は適切なリンカーを介してポリマー主鎖に結合していてよい。リンカーのいくつかの例には、
【化3】
ポリラクトン、またはシロキサンのオリゴマーが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、Rにおけるリンカーは、
【化4】
である。
【0017】
別の実施形態では、Rにおけるリンカーは、
【化5】
【0018】
ステロイドを含有する第1のブロックは、ブロックコポリマーの総重量の約1%〜約80%(すなわち、約1%〜約80%の重量分率)であってよい。例えば、第1のブロックの重量分率は、ブロックコポリマーの総重量を基準として、50%超、または50%未満、または約5%〜約70%、または約40%〜約70%、または約40%〜約50%、または約60%〜約70%、または約2%〜約30%、または約3%〜約30%、または約5%〜約30%、または約2%〜約20%、または約3%〜約20%、または約5%〜約20%、または約7%〜約20%であってよい。
【0019】
本開示のブロックコポリマーは、第2のブロックがポリアルキレンオキシド部分を含むことを必要とする。当業者であればわかるように、所望の必要性に適合するように適切なポリアルキレンオキシドを選択できる。いくつかの実施形態では、ポリアルキレンオキシド部分はポリエチレンオキシドまたはポリエチレンオキシドチオレートを含む。別の実施形態では、ポリアルキレンオキシド部分はポリエチレンオキシドを含む。
【0020】
ポリアルキレンオキシドを含有する第2のブロックは、ブロックコポリマーの総重量の約20%〜約99%(すなわち、約20%〜約99%の重量分率)であってよい。例えば、第2のブロックの重量分率は、ブロックコポリマーの総重量を基準として、50%超、または50%未満、または約30%〜約95%、または約30%〜約60%、または約50%〜約60%、または約30%〜約40%、または約70%〜約98%、または約70%〜約97%、または約70%〜約95%、または約80%〜約98%、または約8%〜約97%、または約80%〜約95%、または約80%〜約93%であってよい。
【0021】
本開示のブロックコポリマーは、主鎖部分Aを必要とする。本明細書で記載のブロックコポリマーは、当業者が利用可能な、例えば、ポリノルボルネン、ポリシクロペンテン、ポリシクロオクテン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、およびポリシロキサン主鎖Aを含んでよく、所望の生成物に応じて変化してよい。一実施形態では、開示ブロックコポリマーは、それぞれのAが独立にポリノルボルネンまたはポリアクリレートであるものである。別の実施形態では、Aは独立にポリノルボルネンである。別の実施形態では、それぞれのAは独立にポリアクリレートである。
【0022】
一実施形態では、本開示のブロックコポリマーは、構造、
【化6】
または、
[式中、xは約3〜約100の整数であり、mは約5〜約200の整数であり、nは約5〜約100の整数である]を含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、xは約5〜約50である。他の実施形態では、xは約8であるか、またはxは約44である。
【0024】
当業者なら、本開示のブロックコポリマーが1種または複数種の追加の官能基をさらに含んでもよいことを理解するであろう。官能基の例としては、チオール、リン酸、カルボン酸基、などが挙げられるが、これらに限定されない。当業者なら、特定用途に基づき所望の官能基を選択できるであろう。例えば、チオール官能化ブロックコポリマーは、疎水性抗癌剤(すなわち、物理的捕捉による)およびチオール基への共有結合による金ナノ粒子(Au NP)の二重封入用の多官能キャリアとしての役割を果たし得る。同様に、リン酸またはカルボン酸官能化ブロックコポリマーは、量子ドット(例えば、CdSeなど)または磁気ナノ粒子を封入するのに使用できる。
【0025】
mおよびnの値は、当業者が選択でき、所望の生成物に応じて変わり得る。例えば、mは約10〜約100であってよく、および/またはnは約15〜約85であってよい。本開示のブロックコポリマーの分子量は、約10,000〜約1,000,000Daであってよい。一実施形態では、本開示のブロックコポリマーは、約40,000〜約750,000Da、または約60,000〜約700,00Da、または約60,000〜約100,000Da、または約40,000〜約200,000Daである。
【0026】
本明細書で開示のブロックコポリマーは、例えば、比較的低い多分散性を含む、多くの望ましい特性を有する。本発明の実施形態では、任意選択で、ポリマー鎖は、M/Mが約1.0〜約2.5であるような多分散指数を示す。いくつかの実施形態では、多分散指数は、約1.0〜約2.0、または約1.0〜約1.9、または約1.1〜約1.9、または約1.0〜約1.8、または約1.1〜約1.8、または約1.0〜約1.5、または約1.5〜約1.5、または約1.0〜約1.3、または約1.0〜約1.2、または約1.0、または約1.1、または約1.2、または約1.3、または約1.4、または約1.5、または約1.6、または約1.7、または約1.8、または約1.9、またはさらには約2.0である。特定の実施形態では、ポリマーは、M/Mが約1.0〜約1.5の多分散度を示す。いくつかのその他の実施形態では、ポリマーは、M/Mが約1.0〜約1.2の多分散度を示す。
【0027】
別の態様では、本開示はコア/殻ナノ粒子形状の本開示のブロックコポリマーを提供する。一実施形態では、コア/殻ナノ粒子形状は、本開示のブロックコポリマーが水溶液中で自己集積したものである。一態様では、本開示は本開示のブロックコポリマーおよび疎水性の薬学的に活性な分子を含むナノ粒子を提供する。任意の好適な疎水性の薬学的に活性な分子は、所望の治療効果に応じて使用できる。いくつかの実施例は、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ビンクリスチン、パクリタキセル、ドセタキセル、シスプラチン、カンプトテシン、イリノテカン、5−フルオロウラシル、メトトレザト、またはデキサメタゾンを含むが、これらに限定されない。
【0028】
本開示のナノ粒子は、金ナノ粒子などの1種または複数種の金属ナノ粒子および/または磁気ナノ粒子および/または量子ドット(例えば、CdSeなど)をさらに含んでよい。
【0029】
本明細書で開示のブロックコポリマーは、例えば、均一な粒度分布を有するよく定義されたものを含む、多くの望ましい特性を有する。本開示のナノ粒子は、約5〜約500nmの範囲のいずれの大きさであってもよい。例えば、ナノ粒子は、約10〜約200nm、または約50〜約150nm、または約100〜約250nm、または約100〜約200nm、または約120〜約150nm、または約110〜約150nm、または約120〜約180nm、または約150〜約250nm、または約150〜約200nmであってよい。
【0030】
定義
文脈上異なる解釈を要する場合を除き、本明細書の全体を通して、用語の「含む(comprise)」および「含む(include)」、ならびに「含む(comprises)」、「含むこと(comprising)」、「含む(includes)」、「含むこと(including)」などの変形は、記述した成分、特徴、要素、もしくはステップまたは一群の成分、特徴、要素もしくはステップを含むが、いかなる他の整数もしくはステップまたは一群の整数もしくはステップを除外するものではないことを意味すると理解されよう。
【0031】
明細書および付随する請求項の記載で用いられ単数形の「a」「an」、および「the」は、文脈上別段の明確な記載がない限り、複数形の指示対象を包含する。
【0032】
本明細書では、範囲を、「約(about)」1つの特定の値から、および/または「約(about)」別の特定の値までとして表記できる。そのような範囲が表記される場合、別の態様は、その1つの特定の値からおよび/またはその他の特定の値までを含む。同様に、値が先行詞「約」を用いることにより近似値として表される場合、その特定の値が別の態様を形成するものと理解される。さらに、複数の範囲の各々の終点が、その他の終点と関連して、およびその他の終点から独立して有効であることが理解されるであろう。
【0033】
本明細書で使用する場合、用語の「混ぜ合わせる(combining)」は、1種または複数種のものを反応混合物に加えることを含む。
【0034】
本明細書で使用する場合、用語の「分散度」、「多分散度」、「多分散指数」、「PDI」、および「M/M」は同じ意味で用いられ、分子量の分布を基準にしたポリマーの均一性の尺度を意味する。分散度は、重量平均分子量(M)を数平均分子量(M)で除算して計算できる(すなわち、M/M)。特定の実施形態では、分散度は重合度に従って計算でき、この場合、分散度はX/Xに等しく、式中、Xは重量平均重合度でありXは数平均重合度である。
【0035】
本明細書での全てのパーセンテージ、比率および割合は、他に規定されない限り、重量による。成分の重量パーセント(重量%、wt%とも表す)は、そうでない記載が特にない限り、その成分が含まれる組成物の総重量(例えば、反応混合物の総量)を基準とする。
【0036】
実施例
本開示の材料および方法が次の実施例によりさらに説明される。これらの実施例は、本開示の範囲または趣旨をそれらに記載の特定の手順および材料に制限するものと解釈されるべきものではない。
【0037】
材料および方法
すべてのガラス器具を120℃の乾燥オーブン内で数時間保持した。ドキソルビシン塩酸塩(DOX・HCl)およびイダルビシン塩酸塩をBiotangInc(Waltham,MA,USA)から購入した。ピレンをSigma−Aldrich Chemical Co.(St.Louis,MO,USA)から入手した。トリエチルアミン(TEA)およびジメチルホルムアミド(DMF)をFisher Scientific(Boston,MA,USA)から購入した。ペニシリン−ストレプトマイシン、0.25%(W/V)トリプシン−0.03%(W/V)EDTA溶液、RPMI 1640、およびDMEM培地をアメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(Rockville,MD,USA)から購入した。ヒト子宮頸癌(Hela)およびヒト肺癌細胞株(A549)を米国国立癌研究所(Frederick,MD,USA)から購入した。ウシ胎仔血清(FBS)をAtlanta Biologicals(Norcross,GA,USA)から購入した。Draq5、1,1’−ジオクタデシル−3,3,3’ ,3’−テトラメチルインドトリカルボシアニンヨウ化物(DiR)およびインビトロ毒性アッセイキット(MTTベース)をInvitrogen(Carlsbad,CA,USA)から入手した。Spectra/Pro膜をSpectrum Laboratories,Inc.(Rancho Dominguez,CA,USA)から購入した。 2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、チオグリコール酸(98%)、p−トルエンスルホン酸1水和物(PTSA)、D,L−ジチオトレイトール(DTT)、塩化金酸(HAuCl4・3H2O)、クエン酸ナトリウム、コレステロール(96%)、1,5−ペンタンジオール(97%超)をAldrich,USAから入手した。トリエチルアミン(TEA)およびジメチルホルムアミド(DMF)をFisher Scientific(Boston,MA,USA)から購入した。ポリエチレングリコール(MW=1500)、1,4−ジオキサン(99.8%、超乾燥(extra dry))、ジクロロメタン(DCM)(99.9%、超乾燥)、塩化アクリロイル(>97%)をAcros Organics USAから購入した。5−コレステリルオキシペンチルアクリレート(C5A)は報告された手順に従って調製した。RAFT剤のS−1−ドデシルーS’−(α,α’−ジメチル−α”−酢酸)トリカーボネート(CTA)を報告された手続きに従って合成した。ツイーン(登録商標)80(ポリソルベート80)をCroda(Columbus Circle Edison,NJ)から寄贈品として入手した。全ての化学薬品は、分析等級であり、精製しないで使用した。
【0038】
データは、平均±標準偏差として表す。実験群と対照群との間の差異の統計的有意性は、スチューデントのt検定を使って決定した。0.05未満の確率(p)であれば、統計的に有意であると見なした。
【0039】
実施例1:P(PEOASH−b−C5A)の合成および精製
スキーム1
【化7】
【0040】
C.T.Nguyen,et al.(Polymer Chemistry 2014,5 (8),2774−2783)に記載の可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)などの制御ラジカル重合を使ってブロックコポリマーを合成した。簡単に説明すると、ポリエチレングリコール(MW=1500Da)(1mmol)およびPTSA(0.1mmol)を丸底フラスコ中に加え、トルエン(10ml)を添加した。この反応混合物に、チオグリコール酸(0.5mmol)をゆっくり加え、この混合物を窒素雰囲気下で一晩還流した。反応混合物を冷却した後、溶媒を留去し、残留物をDCM/水を使って分配し、硫酸マグネシウム上で乾燥させた。有機層を集めて、減圧下で濃縮した。ジスルフィド官能基を還元するために、集めた化合物をメタノールに溶解し、続けてDTT(1mmol)を加え、室温で3時間撹拌した。その後、得られた溶液をジエチルエーテル中で沈殿させてDTTを除去し、チオール化PEO(PEOSH)生成物を白色固体として得た。H NMR(CDCl,δppm):4.27(t,2H,−COOCH−、PEO末端基中)、3.79−3.44(m,−CHCHO−,PEOの反復単位)、3.35(s,2H)、1.55(s,’SH)。13C NMR(CDCl,δppm):170.9(−COO)、70.3および64.8(PEOの反復単位中の−CH)、27.7(−CH−S)。
【0041】
最初に、PEOSHを10重量%の濃度でDCM中に溶解した。次に、塩化アクリロイルおよびTEAをその溶液中に加えて、窒素雰囲気下で一晩攪拌した。PEOSH、塩化アクリロイルおよびTEAのモル比は、1:2:2であった。反応の完結後、不溶性の塩(TEA・HCl)を濾過して除去し、溶液を集めた。ポリエチレンオキシドチオレートアクリレート(PEOASH)を過剰の冷ジエチルエーテル中で沈殿させ、淡黄色固体として集めた。H NMR(CDCl,δppm):4.27(t,2H,−COOCH−、PEO末端基中)、3.79−3.44(m,−CHCHO−,PEOの反復単位)、6.42,6.09,5.54(m,3H,CH−CH=COO−)。13C NMR(CDCl,δppm):170.9(−COO)、133,126.6(ビニル基中の−CH,CH),70.3および64.8(−CHPEO中の反復単位)、27.7(−CH−S)。
【0042】
RAFT重合を使用してP(PEOASH)マクロ連鎖移動剤を合成した。モノマーPEOASH(0.5g、0.93mmol)を、撹拌棒を備えたシュレンクチューブ中で3mLのトルエンに溶解し、続けて、RAFT剤CTA(18.3mg、0.05mmol)、および開始剤AIBN(0.82mg、0.005mmol)を加えた。シュレンクチューブを3回の凍結−排気−解凍サイクルにより脱気した後、70℃の油浴中に置いた。反応を20時間進行させた。反応混合物をジエチルエーテル中で濃縮し、沈殿させた。ポリアクリレート含有PEOSH(P(PEOASH))ポリマーを集めて、真空下で一晩乾燥した。H NMR(CDCl,δppm):4.27(t,2H,−COOCH−、PEO末端基中)、3.79−3.44(m,−CHCHO−,PEOの反復単位)、3.15(t,2H,CH1020CH−S−),1.60−1.75(m,6H,−S−C(CHCOO−),1.25(m,20H,CH1020CHS−),0.87(t,3H,CH1020CHS−)。GPC(40℃、THF移動相、ポリスチレン標準):M=8540g/mol、PDI=1.18。
【0043】
代表的手順では、P(PEOASH)マクロ連鎖移動剤(1.2g、0.2mmol)、C5A(3.8g、28.0mmol),およびAIBN(6mg、0.04mmol)の混合物を1,4−ジオキサン(3mL)に溶解し、3回の凍結−排気−解凍サイクルを行うことにより脱気した。この反応混合物を密閉した後、予熱した75℃の油浴中に20時間置いた。得られた混合物をジエチルエーテル中で濃縮し、沈殿させた。生成物を集めて、真空下で乾燥した。H NMR(CDCl,δppm):5.33(d,1H,−C=CH−,コレステリル部分のオレフィン基),3.9(m,2H,−COOCHCH),3.64(m,−CHCHO−PEOの反復単位),3.45(m,2H,−CHOCH−),3.12(m,1H,−CHOCH−),2.50−0.55(m,54H,コレステリル中の−CH,−CH−,−CH−,−CH−(CH)−,スペーサー中の−CH−C(CH)COO−,−CHCH−CHCHCH−)。GPC(40℃、THF移動相、ポリスチレン標準):M=15270g/mol、PDI=1.21。
【0044】
H−NMRにより、得られたLCPブロックコポリマーのモル組成(n:m)および分子量を決定できた。5.3、3.9および2.5−0.55ppmでの信号は、コレステロールのプロトンに帰属された。さらに、6.42、6.09および5.54ppmでのモノマーオレフィンピークは、brush−chol−BCPには存在しなかったが、これはモノマーからポリマーへの完全な変換を示している。PEO反復単位およびPEO末端基のCHに対応するPEOブロックの信号は、それぞれ、3.6ppmおよび4.25ppmに観察された。5.33ppm(コレステリル部分のオレフィン基)と3.64ppm(PEO反復単位)でのNMRスペクトルによるピークの積分を比較することにより、2つの異なるブロックの重量分率を決定した。ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)を使って、brush−chol−BCPの数平均分子量(M)および多分散指数(PDI)を測定した。brush−chol−BCPは、狭い分子量分布の高分子量領域に明確にシフトした。結果は、単峰性対称分布を示し、良好にコントロールされた重合プロセスであることを示している。コレステロール比率を調整することによりPC5Aの分子量を7000〜18000g/molに制御しながら分子量を9000g/molに固定したP(PEOASH)マクロ連鎖移動剤を使って、異なる重量分率(またはMW)のコレステロールブロックを有する2つの異なるbrush−chol−BCPを得た。
【表1】
【0045】
実施例2:P(PEO−b−C5MA)−SHの合成および精製
スキーム2
【化8】
メタクリル酸塩グラフトポリエチレンオキシド(MA−g−PEO):マクロモノマーのMA−g−PEOを合成するために、ポリエチレンオキシドメチルエーテル(MW:2000Da、4g、2mmol)をDCMに溶解し、続けて、メタクリロイルクロライドおよびトリエチルアミン(TEA)を加え、窒素下で一晩撹拌した。PEO、メタクリロイルクロライドおよびTEAのモル比は、1:2:2であった。12時間後、不溶性の塩(TEA・HCl)を濾過して除去し、溶液を集めた。マクロモノマー生成物を過剰の冷ジエチルエーテル中で沈殿させ、淡黄色固体として集めた。H NMR(CDCl,δppm):6.15,5.54(m,2H,CH−CH=COO−),4.27(t,2H,−COOCH−、PEO末端基中),3.79−3.44(m,−CHCHO−,PEOの反復単位),3.36(s,−OCH)。13C NMR(CDCl,δppm):170.9(−COO),133,126.6(ビニル基中の−CH,CH),70.3および64.8(−CH,PEO中の反復単位)。
【0046】
PEOマクロ開始剤(PMA−g−PEO−チオエステル):RAFT重合を使用してPMA−g−PEO−チオエステルマクロ連鎖移動剤を合成した。撹拌棒を備えたシュレンクチューブ中で、マクロモノマー(MA−g−PEO、0.5g、0.93mmol)を1,4−ジオキサン(3mL)に溶解し、続けて、RAFT剤(CTA、18.3mg、0.05mmol)、および開始剤(AIBN、0.82mg、0.005mmol)を加えた。シュレンクチューブを3回の凍結−排気−解凍サイクルにより脱気した後、80℃の油浴中に置いた。反応を24時間進行させた。反応混合物をジエチルエーテル中で濃縮し、沈殿させた。生成物を集めて、真空下で一晩乾燥した。H NMR(CDCl,δppm):4.27(t,2H,−COOCH−、PEO末端基中)、3.79−3.44(m,−CHCHO−,PEOの反復単位)、3.36(s,−OCH),3.2(t,2H,CH1020CH−S−),1.60−1.75(m,6H,−S−C(CHCOO−),1.25(m,20H,CH1020CHS−),0.87(t,3H,CH1020CHS−)。13C NMR(CDCl,δppm):170.9(−COO),133,126.6(ビニル基中の−CH,CH),74.5(−COOCH−),70.3および64.8(−CH,PEO中の反復単位),51.3−11.2(−CH−C(CH)COO−)。GPC(40℃、THF移動相、ポリスチレン標準):M=8950g/mol、PDI=1.27。
【0047】
P(PEO−b−C5MA)−チオエステル(Brush−chol−BCP−チオエステル;または(PMA−g−PEO)−b−PC5MA−チオエステル):代表的手順では、PMA−g−PEOマクロ連鎖移動剤(1.2g、0.2mmol)、C5MA(3.8g、28.0mmol)、およびAIBN(6mg、0.04mmol)の混合物を1,4−ジオキサン(3mL)に溶解し、3回の凍結−排気−解凍サイクルを行うことにより脱気した。この反応混合物を密閉した後、90℃に維持した油浴中に20時間置いた。得られた混合物を大過剰のメタノール中で濃縮し、沈殿させた。粗生成物を集めて、メタノールを使って一晩ソックスレー抽出して未反応のモノマーを除去した後、THFで抽出し、メタノール中で沈殿させた。生成物のbrush−chol−BCP−チオエステルを集めて、真空下で乾燥した。紫外可視分光法により測定すると、チオエステルピークが310nmの位置に現れた。H NMR(CDCl,δppm):5.33(d,1H,−C=CH−,コレステリル部分のオレフィン基),4.5(m,1H,−CH−COO−CH),3.9(m,2H,−COOCHCH),3.64(m,−CHCHO−PEOの反復単位),3.45(m,2H,−CHOCH−),3.36(s,−OCH),3.2(t,2H,CH1020CH−S−),2.50−0.55(m,56H,コレステリル部分中の−CH,−CH−,−CH−,−CH−(CH)−,スペ−サー中の−CH−C(CH)COO−,−CHCH−CHCHCH−)。13C NMR(CDCl,δppm):170.9(−COO),140.9(−C=CH,コレステロール中のオレフィン基),121.9(−C=CH−,コレステロール中のオレフィン基),133,126.6(ビニル基中の−CH,CH),74.5(−COOCH−),70.3および64.8(−CH,PEO中の反復単位),51.3−11.2(−CH−C(CH)COO−、−コレステロ−ル)。GPC(40℃、THF移動相、ポリスチレン標準):M=18320g/mol、PDI=1.16。
【0048】
P(PEO−b−C5MA)−チオール((PMA−g−PEO)−b−PC%MA−チオール;またはbrush−chol−BCP−チオール):brush−chol−BCP−チオールを得るために、brush−chol−BCP−チオエステルをTHF中のn−ブチルアミンで還元した。代表的手順では、brush−chol−BCP−チオエステル(0.35g、0.02mmol)およびn−ブチルアミン(80mg、1.1mmol)を窒素雰囲気下でTHFに溶解し、溶液の色が淡黄色から無色に変化するまで撹拌した。その後、余剰メタノール中でポリマーを沈殿させた。粗生成物を集めて、メタノールを使って一晩ソックスレー抽出して未反応のモノマーを除去した後、THFで抽出し、最終的にメタノール中で沈殿させた。生成物を集めて、真空下で乾燥した。反応動力学を確立するために、THF中のbrush−chol−BCP−チオエステル溶液(1mg/mL)を紫外可視分光装置の試料室に備えられた石英キュベット中に置いた。適切な量のTHF中n−ブチルアミン溶液を加え、310nmでの溶液の吸光度を時間の関数として測定した。構造をH NMRおよび13C NMRで確認した。
【0049】
brush−chol−BCP−チオールの形成をFT−IRで確認し、2450cm−1にチオールピークが認められた。加えて、H NMR分光法は、brush−chol−BCP−チオールのチオエステル基のプロトンに対応する3.2ppmでのピークの不存在を示し、チオエステル基がチオール基でうまく置換されたことが認められた。紫外可視スペクトルでは、元のbrush−chol−BCP−チオエステルは、チオエステル基に帰属される310nmを中心とする強い吸収を示したが、還元後にはこのスペクトル領域における吸収を検出できない。この結果により、brush−chol−BCP−チオールにおけるチオール基の形成が確証された。さらに、紫外可視スペクトルは、brush−chol−BCP−チオエステル溶液中へのn−ブチルアミンの注入時の310nmでの吸収の経時的減少を測定することにより、還元ステップの動力学も提供した。吸収強度はn−ブチルアミン添加時に2時間以内に急速に減少して低い一定値に到達し、還元が96%を超える効率で完結したことを示した。ブラシ状ブロックコポリマーの分子キャラクタリゼーションを表2にまとめている。

【表2】
【0050】
実施例3:P(PEOASH−b−C5A)またはP(PEOA−b−C5MA)−SHを用いた自己集積ナノ粒子およびDOX−NPの調製およびキャラクタリゼーション
P(PEOASH−b−C5A)をベースにした自己集積ナノ粒子をナノ沈殿法により調製した。簡単に説明すると、P(PEOASH−b−C5A)(10mg)をTHF(2mL)に溶解し、続けて、20,000rpmでのホモジナイゼーション下で、ツイーン(登録商標)80を含む(1%、W/V)蒸留水(10mL)中に滴下注入した。その後、THFを周囲温度にて窒素流下で蒸発させた。50,000rpmで60分間の超遠心分離によりツイーン(登録商標)80を除去してナノ粒子を集め、続けて、蒸留水中に分散させた。同一手順を使ってP(PEOA−b−C5A)−SHナノ粒子を調製した。
【0051】
ピレンを疎水性プローブとして用いる蛍光技術により、臨界凝集濃度(CAC)を測定した。アセトン中のピレン溶液(3x10−4M)を試験チューブに加え、続けて、蒸発させて有機溶媒を除去した。その後、蒸留水(10mL)中の種々の濃度のコポリマー溶液を試験チューブに加え、60℃で3時間超音波処理してピレンとナノ粒子を平衡化した。試料溶液の濃度を0.005〜0.5mg/mLの範囲で変化させた。ピレンの最終濃度は6.0x10−7Mであった。336nmの励起波長で蛍光分光光度計(Perkin Elmer LS−55B、USA)を使って、350〜450nmの範囲でピレンの発光スペクトルを記録した。ピレン発光スペクトルの第1に高いエネルギーバンド(374.5nm)および第3に高いエネルギーバンド(386nm)の強度比の測定のために、励起および発光スペクトル用のスリット開口を2.5nmに設定した。
【0052】
LCP濃度の増加に伴い直線的な減少が観察された。このプロトコルに基づくと、P(PEOASH−b−C5A13)のCAC値はP(PEOASH−b−PC5A36)コポリマーの値より小さく、それぞれの値は9.4および15.8を示し(表3)、より高いコレステロール含量を有するP(PEOASH−b−PC5A36)ナノ粒子の内側コアでのより強力な疎水性相互作用を示唆した。チオール官能化コポリマーP(PEOA−b−C5A)−SHのCMC値は15.2であった(表3)。brush−chol−BCPのこれらの低いCAC値は、brush−chol−BCPが全身性の薬物送達に望ましく、自己集積ナノ粒子としてインビボで長期間循環可能であることを示唆した。

【表3】
【0053】
実施例4:P(PEOASH−b−C5A)またはP(PEOA−b−C5MA)−SHを有する二重装填ナノ粒子の調製およびキャラクタリゼーション
Au NP封入P(PEOASH−b−C5A)を調製するために、凝縮器を備えた50mLの丸底フラスコ中で、最初に、10mLのDI水中0.01重量%のHAuClを激しく撹拌しながら沸騰するまで加熱した。次に、0.2mLのDI水中1重量%のクエン酸ナトリウムを素早く添加し、青色から暗紅色への色の変化が生じた。同一温度でさらに10分間撹拌後、得られた溶液を、撹拌を続けながら室温まで冷却してクエン酸塩キャップされたAu NPを得た。P(PEOASH−b−C5A)溶液(2mLのTHF中10mg)をツイーン(登録商標)80を含む(1%、W/V)Au NP溶液中に15分間かけて滴下注入した。その後、溶液を室温で2時間撹拌し、クエン酸塩分子をPEOのチオール基と完全に交換させた。得られた溶液を3000rpmで10分間遠心分離して沈殿したAu NPを取り出した。同一手順を使って二重装填P(PEOA−b−C5MA)−SHナノ粒子を調製した。
【0054】
二重封入ナノ粒子を調製するために、最初にDOX・HClを2当量のTEAを含むDMFに溶解し、暗所で一晩撹拌して疎水性DOXを形成させた。真空乾燥機で有機溶媒を除去して乾燥した疎水性DOXを得た。疎水性DOXをTHFに溶解し、その溶液を20,000rpmのホモジナイゼーション下でAu NP封入brush−chol−BCP溶液中に滴下注入した。得られた溶液を3000rpmで10分間遠心分離し、続けて0.45μmシリンジを通して濾過して全ての沈殿した遊離DOXを除去した。超遠心分離および凍結乾燥後に、最終生成物を得た。動的光散乱(DLS)装置(Malvern)を使って、二重封入ナノ粒子(1mg/mL)の平均粒径および粒度分布を測定した。80KV加速電圧のTecnai Biotwin G2透過電子顕微鏡(TEM)により二重封入ナノ粒子の形態を撮像した。フォルムバール膜をコートした銅グリッド上にナノ粒子溶液を滴下し、続けて風乾することにより試料を調製した。
【0055】
二重封入ナノ粒子中のDOXの量を比色分析法により測定した。凍結乾燥した二重封入ナノ粒子(0.5mg)をTHF(2mL)に溶解して透明溶液を得た。可視・紫外分光法分光光度計により480nmにおける吸光度を検出した。種々の濃度のDOX標準溶液を調製し、480nmでの吸光度を測定して薬剤装填量を計算するための較正曲線を作成した。薬剤装填量(DLC)および封入効率(EE)を次のように計算した:
【数1】
【0056】
静脈内経路を介して投与されるナノキャリアは、キャリアの安定性と組織分布を変え得る血液成分中の主要化学種である血清タンパク質との相互作用を起こす。したがって、血清タンパク質に遭遇するときにナノキャリアがその完全性を維持すれば、標的組織への効果的薬物送達が期待できる。安定性試験のために、凍結乾燥した二重封入ナノ粒子をリン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)/ウシ胎仔血清(FBS)(1:1)中に1mg/mLの濃度で懸濁させ、続けて、約10分間の超音波処理および0.45μmシリンジフィルター膜を通して濾過を行った。4℃で貯蔵中、Zetasizer(Malvern)を使ってナノ粒子の粒径をモニターした。
【0057】
結果
特定の理論に拘泥するものではないが、ナノ粒子は、疎水性薬物のリザーバーとして機能し得る疎水性のコレステロール内側コア、およびチオール基を含む親水性のPEO殻を有するコア/殻構造を有するであろうと考えられる。溶液相中で生成されたAu NPは、Auとチオール基との間の相互作用に起因して、brush−chol−BCP境界面に沈着しているであろうと考えられる。TEMで確認したように、Au NPはbrush−chol−BCP中へうまく封入された(図3および4を参照)。Au NP装填brush−chol−BCPは、金属ナノ粒子のより高い密度が理由で、Au NPを含まないナノ粒子に比べてTEM像中でより黒っぽい球状ナノ粒子として認められた。加えて、2.1keVにピークのあるエネルギー分散X線(EDX)スペクトルは、自己集積brush−chol−BCP内にAuの存在を示した(データは示さず)。
【0058】
さらに、DOXとコレステロール部分との疎水性相互作用により、疎水性DOX分子はAu NP封入brush−chol−BCP中へうまく封入された。25%(w/w)のDOX供給比を使って、P(PEOASH−b−PC5A36)ナノ粒子中の23.8%(w/w)の高薬物装填量(DLC)を、95.2%の高封入効率(EE)で達成できた。薬物装填量は、brush−chol−BCPの分子量により影響を受けた。例えば、より少ない疎水性ブロックを有するP(PEOASH−b−PC5A13)は、19.3%(w/w)のより低い薬物装填量およびより大きな粒径(約200nm)をもたらした。特定の理論に拘泥するものではないが、これは、自己集積ナノ粒子における親水性セグメントと疎水性セグメントとの間のバランスの変化が原因であると思われ、これが今度は疎水性コアとDOXの相互作用に影響を与えると考えられる。コレステロール側鎖の分子内相互作用および交絡特性に起因して、brush−chol−BCP内の疎水性相互作用が安定性を高め、このことがナノ粒子の全身性の薬物送達に有益であると思われる。加えて、これらのポリマーにおける分子間および分子内の両方の疎水性相互作用が薬物封入に好ましい影響を与え、薬物装填容量および効率の改善に繋がる。また、薬物装填容量は、優れたコレステロール−DOX適合性に起因して、コレステロール部分の存在により大きく影響を受ける。
【0059】
brush−chol−BCPナノ粒子の平均粒径は、128〜175nmの範囲であり、狭い粒度分布(0.1より小さいPDI)であった(表3)。ナノスケールサイズおよび狭い単峰性PDIは、brush−chol−BCP集積ナノ粒子がAu NPおよびDOX封入用のナノキャリアとして良好な物理的特性を有することを示している。ナノ粒子の平均サイズは、より密な疎水性の内側コアの形成が原因で、コレステロール含量の増加と共に減少した。TEM像は、ナノ粒子brush−chol−BCP集積ナノ粒子が、ブランクナノ粒子では100〜170nmのサイズの、Au NP封入ナノ粒子ではより大きいサイズの150〜200nmの球形状であり(図4)、これはDLSで測定したサイズよりわずかに小さかったことを示した。DOXの物理的封入はナノ粒子の粒径および多分散度を大きくし、二重封入P(PEOASH−b−PC5A13)、およびP(PEOASH−b−PC5A36)についてそれぞれ230.2nm、および183.8nmのサイズを示した。二重封入Au NP+DOXを含むナノ粒子は、TEM像で示されるように182〜230nmのサイズの球形状であった(図4)。インビボ適用を考慮すると、粒径はナノ粒子の体内分布に影響すると思われるので重要である。直径200nmより小さいナノ粒子は、亢進した透過性および滞留性(EPR)効果により腫瘍塊中に優先的に蓄積し留まり、一方より大きな直径を有する薬物キャリアは網内系により容易に除去される。
【0060】
二重封入ナノ粒子の物理的安定性を調査するために、DLSを使ってリン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)/ウシ胎仔血清(FBS)溶液中のナノ粒子のサイズ変化をモニターした。二重封入ナノ粒子の平均粒径は50%FBS中、4℃での1週間の貯蔵後で大きくは変化せず(図6Aおよび6C)、かつ沈殿または凝集は観察されなかった。このことは、コレステロール分子間および/またはコレステロール、Au NPおよびDOXの間の疎水性相互作用により優れた安定性が達成されたことを示している。この知見は、二重封入brush−chol−BCPナノ粒子が安定であり、水性媒体中でそれらの形態および構造を保持し、かつインビボ適用に対し適切であることを示している。
【0061】
実施例5:P(NBCh9−b−NBPEG)の合成および精製
スキーム3
【化9】
【0062】
ノルボルネン官能化モノマー、5−{9−(コレステリルオキシカルボニル)−ノニルオキシカルボニル}−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(NBCh9)およびメトキシポリエチレングリコール(MPEG)(M=2kg/mol)官能化ノルボルネン(NBPEG)の合成は以前に報告された。全てのブロックコポリマーを、Deshmukh,P.,et al.(Macromolecules 2013,46,8245−8252)に記載の開環メタセシス重合(ROMP)を使用して合成した。この文献は参照により本明細書に組み込まれる。ブラシ状ブロックコポリマーの分子キャラクタリゼーションを表4にまとめている。

【表4】
【0063】
この方法に従って追加のブラシ状ブロックコポリマーを調製し、結果を表4Aにまとめている。これらのブロックコポリマーもまたナノ構造体を形成できる。
【表5】
【0064】
実施例6:自己集積ナノ粒子およびDOX−NPの調製およびキャラクタリゼーション
透析法によりブランク自己集積ナノ粒子を調製した。簡単に説明すると、超音波の補助によりP(NBCh9−b−NBPEG)をDMFに溶解した。その後、溶液を透析バッグ(MWCO:10,000Da)に移し、蒸留水に対し48時間透析した。DOX装填P(NBCh9−b−NBPEG)ナノ粒子(DOX−NP)を調製するために、最初にDOX・HClを2当量のTEAを含むDMFに溶解し、暗所で一晩撹拌して疎水性DOXおよびTEA・HClを形成させた。それぞれのコポリマーを加え、溶液を暗所でさらに1時間撹拌した。その後、溶液を蒸留水に対し48時間透析してDOXおよび溶媒を除去した。8000rpmで10分間の遠心分離、続いて0.45μmシリンジを通す濾過により沈殿したDOXを除去した。凍結乾燥後に最終生成物を集めた。
【0065】
実施例4に記載のように、動的光散乱(DLS)を使ってDOX−NP(1mg/mL)の平均粒径、粒度分布およびゼータ電位を測定した。実施例3に記載のように、ピレンを疎水性プローブとして用いる蛍光測定により、P(NBCh9−b−NBPEG)コポリマーの臨界凝集濃度(CAC)を測定した。励起および発光スペクトル用のスリット開口を5nmに設定した。実施例4に記載のように、比色分析法によりナノ粒子中のDOX装填量を測定した。
【0066】
結果
MW400kDa(400kDa−50)および600kDa(600kDa−75および600kDa−180)の3種の両親媒性P(NBCh9−b−NBPEG)ブラシ状コポリマーは、コレステロール部分間の疎水性相互作用により、水溶液中で容易に自己集積してナノ粒子を形成した。自己凝集形成の閾値濃度であるCACを、ピレンの2つの蛍光発光ピークの強度比(I374/I385)により決定した。P(NBCh9−b−NBPEG)濃度の増加に伴い直線的な減少が観察された。400kDa−50コポリマーのCAC値は、コレステロール含有600kDaコポリマーのいずれの値よりも小さく(表4)、400kDa−50コポリマーのより大きな安定性を示している。同じ分子量では、より高いコレステロール含量を有する600kDaコポリマー(600kDa−180)が、より低いコレステロール含量を有する600kDaコポリマー(600kDa−75)より大きなCAC値を有し、より高いコレステロール含量を有するP(NBCh9−b−NBPEG)ナノ粒子の内側コアにおけるより強い疎水性相互作用を示している。これらのCAC値は、PEGベースブロックコポリマーの典型的な範囲内にあり、P(NBCh9−b−NBPEG)コポリマーが自己集積ナノ粒子として長期間インビボ循環可能であることを示している。特定の理論に拘泥するものではないが、ナノ粒子は、疎水性薬物のリザーバーとして機能し得る疎水性のコレステロール内側コアを有するコア/殻構造を有するであろうと考えられる。
【0067】
透析法を使用して、疎水性DOXがP(NBCh9−b−NBPEG)自己集積ナノ粒子中へうまく封入された。25%(w/w)のDOX供給比では、400kDa−50ナノ粒子のDLCは88.4%のEEで約22.1%であった。薬物装填量は、コポリマーの分子量により影響を受けた。400kDa−50コポリマーより高いコレステロール含量を有するにもかかわらず、600kDa−180コポリマーのDLCおよびEE値はより低かった(表5)。これは、ナノ粒子の異なる自己集積挙動をもたらす600kDa−180親水性セグメントと疎水性セグメントとの間のバランスの変化に起因すると思われる。より高いコレステロール含量を有する600kDa−180コポリマーは、600kDa−75コポリマーよりわずかに大きなDLCおよびEE値を有した。

【表6】
【0068】
ブランクP(NBCh9−b−NBMPEG)ナノ粒子およびDOX−NPの粒径および形態を、それぞれ、DLSおよびTEMにより測定した。ブランクP(NBCh9−b−NBPEG)ナノ粒子の平均粒径は、124〜179nmの範囲であり、狭い粒度分布(0.1より小さいPDI)であった(表5)。分子サイズが400kDaから600kDaに増加するに伴い、ナノ粒子の平均サイズは増加した。600kDaの同じMWでは、ナノ粒子のサイズは、より密な疎水性の内側コアの形成が原因で、コレステロール含量の増加と共に減少した。DOXの物理的封入は、ナノ粒子の粒径および多分散度を大きくした(表5)。TEM像は、DOX装填の有無のナノ粒子が、ブランクナノ粒子では100〜160nmおよびDOX−NPでは120〜170nmの直径を有する球形状であることを示した(図7)。TEMで測定した粒径は、DLSで測定したサイズよりわずかに小さかった。インビボ適用を考慮すると、粒径はナノ粒子の体内分布に影響するので重要であり、自己集積ナノ粒子がEPR効果により腫瘍組織に蓄積するのに理想的なサイズは200nm未満である。したがって、EPR効果による受動的腫瘍ターゲティングのためには、ナノスケール粒径(200nm以下)のDOX−NPが好ましい。400kDa−50、600kDa−75、および600kDa−180に対してそれぞれ、−18.8、−14.9、および−6.9mVのゼータ電位値に反映されているように、コレステロール誘導体のペンダント型カルボニルヒドロキシル基のために、400kDa−50、600kDa−75、および600kDa−180ナノ粒子はそれらの表面で負に帯電した。標的腫瘍部位に薬物を効率的に送達するために、ナノ粒子は、単核食細胞系(MPS)により排除されることなく、かなりの時間、血流中に残る能力を有する必要がある。この能力は、それらのサイズおよび表面特性に依存する。親水性表面を有するナノ粒子がマクロファージの捕捉から逃れられることは、負に帯電した約200nmの直径のリポソームが中性のリポソームに比べて増大した肝臓取り込み比率を示したという報告とともによく知られている。−40mVから−15mVへの負電荷の低減により、肝臓取り込み比率の大きな減少および長期の血中循環がもたらされた。したがって、親水性表面および中性表面電荷を有するDOX−NPは、血漿タンパク質吸着およびMPSによる排出を妨げるのに適する。
【0069】
実施例7:ナノ粒子からのDOXの安定性およびインビトロ放出
凍結乾燥したDOX−NP(1mg/mL)を血清含有リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)溶液(50%FBS)中に懸濁させ、続けて10分間の超音波処理および0.45μmシリンジフィルター膜を通して濾過を行った。4℃で貯蔵したナノ粒子の粒径を、Malvern Zetasizerを使って貯蔵時間中モニターした。
【0070】
ナノ粒子からのDOXのインビトロ放出を透析法を用いて調査した。簡単に説明すると、凍結乾燥したDOX−NP(6mg)を3mLのPBS(0.01M、pH7.4)中に懸濁し、続けて、超音波処理を10分間行い、光学的に透明な懸濁液を得た。懸濁液を5mLの透析器(MWCO:10,000Da)に導入し、100rpmの振盪恒温水槽中で37℃にてツイーン80(0.1%、W/V)を含む20mLのPBS中に浸漬した。選択された時間間隔で、一定分量(10mL)を溶解培地から取り出し、等容量の新しい培地を補った。DOXの濃度を480nmのUVにより直ちに測定した。放出されたDOXのパーセンテージを既知のDOX濃度の検量線に基づき計算した。
【0071】
P(NBCh9−b−NBPEG)ナノ粒子が静脈内(iv)投与を意図していることを考慮して、血清を含む培地中でのそれらの安定性を評価した。ナノ粒子のサイズ変化をモニターするDLSを使ってDOX−NPの安定性を調査した。DOX装填400kDa−50、600kDa−75、および600kDa−180の平均粒径は50%FBS中4℃での1週間の貯蔵後に大きな変化はなく(図8A)、かつ沈殿または凝集は認められなかった。
【0072】
P(NBCh9−b−NBPEG)ナノ粒子の薬物キャリアとしての可能性を更に評価するために、透析法を使って0.1%ツイーン80を含むPBS(pH7.4、37℃)中でDOX放出試験を実施した。P(NBCh9−b−NBPEG)ナノ粒子は初期のバースト放出を起こさずに徐放パターンでDOXを放出し、第1日目の後に約2%を放出し、および13日後に、400kDa−50−DOXナノ粒子では約25%および600kDa−180−DOXナノ粒子では17%を放出した。400kDa−50ナノ粒子からの薬物放出は、600kDaナノ粒子からの放出よりも比較的早かった。コレステロール含量の大きな差異にも関わらず、600kDa−75および600kDa−180からのDOX放出は類似していた。バーストのないナノ粒子の遅い放出特性は抗癌剤の送達に有用であり、その場合、ナノ粒子が腫瘍組織に達するまでは限定量の薬物が血流中に放出され、腫瘍組織において酵素の存在下でコポリマーの分解により細胞内部での薬物放出を高めることができる。
【0073】
実施例8:DOX−NPの細胞傷害性
ヒーラ細胞(7500細胞/ウエル)を96ウエルプレートに播種し、10%FBS、1%の抗生物質、および1%のL−グルタミンを補充した200μLのDMEM中、37℃、5%CO下で24時間培養した。インキュベーション後、サプリメントのないDMEMに溶解した種々の濃度のブランクナノ粒子(0.2〜1mg/mL)、DOX−NP、および遊離DOX(1〜50μg/mLのDOX当量)を加えた。遊離DOXおよびDOX−NPとのインキュベーションの24時間後、およびブランクナノ粒子とのインキュベーションの48時間後、マイクロプレートリーダー(Twcan group Ltd.,Mannedorf,Switzerland)を用いて540nmでの3−[4,5−ジメチルチアゾール−2−イル]−3,5−ジフェニルテトラゾリウムブロマイド染料(MTT染料、0.5mg/mLの最終濃度)の取り込みを使って細胞傷害性を測定した。
【0074】
図9A〜Bは、異なるナノ粒子および等価DOX濃度にてブランクP(NBCh9−b−NBPEG)ナノ粒子、遊離DOX、およびDOX−NPで処理したヒーラ細胞の生存率を示す。ブランクP(NBCh9−b−NBPEG)ナノ粒子は、1mg/mLの濃度においてさえもヒーラ細胞に対し無視できる毒性を示し、処理の48時間後の細胞生存率は90%以上であり(図9A)、P(NBCh9−b−NBPEG)ナノ粒子の細胞に対する低毒性および良好な適合性を明らかにした。遊離DOXおよびDOX−NPは、インキュベーションの24時間後に用量依存的(1〜50μg/mLのDOX)に細胞生存率を40〜95%減少させ(図9B)、P(NBCh9−b−NBPEG)ナノ粒子がDOXを放出してその目的の細胞部位に送達したことを示唆する。DOX濃度を1μg/mLから50μg/mLまで増やすことにより、遊離DOXは細胞生存率を急激に低下させ、一方、DOX−NPは細胞生存率を徐々に低下させた。全てのDOX濃度で、遊離DOXはDOX−NPより著しく高い細胞傷害性を示した。大きな細胞傷害性を示すためには、細胞により取り込まれたDOX−NPは遊離型のDOXを放出する必要がある。図8Bに示すように、24時間以内に3%のみのDOXがナノ粒子から放出されたにすぎない。その結果、ナノ粒子から放出されたDOXの濃度は、特定のインキュベーション時間後の遊離DOXの濃度よりも遙かに低かった。したがって、遊離DOXとDOX−NPとの間の細胞傷害性の差異は、おそらく遊離DOXおよびDOX−NPの取り込み経路の差異、ならびにDOX−NPの徐放特性に起因するものであろう。類似のDOX量では、DOX装填400kDa−50の細胞傷害性はDOX装填600kDa−75よりも著しくより高く、10μg/mLのDOX量で、DOX装填400kDa−50では40%、およびDOX装填600kDa−75では70%の生存率値を示した。DOX装填400kDa−50およびDOX装填600kDa−180の細胞傷害性は、25μg/mLのDOXの場合を除いて、大きな差異はなかった。
【0075】
同様に、図9Cは、遊離DOX、DOX装填P(PEOASH−b−PC5A)NP、およびAuとDOX装填P(PEOASH−b−PC5A)NPで処理したヒーラ細胞の生存率を示す。
【0076】
実施例9:DOX−NPの細胞内取り込み
細胞取り込みを観察するために、1.0x10細胞/ウエルの密度で、Lab−Tek IIチャンバースライドの8ウエルチャンバー中にヒーラ細胞を播種し、37℃、5%CO下で24時間プレインキュベートした。等価用量(25μg/mL)で遊離DOXおよびDOX−NPを含む無血清DMEMを各ウエルに加え、続いて、37℃で2時間インキュベートした。その後、細胞をPBSで濯ぎ、10μMのDraq5で染色し、4%のホルムアルデヒド溶液で10分間固定した。次に、カバーガラスをスライドガラス上に置いた。遊離DOXおよびDOX−NPの細胞取り込みを、DOXに対しては488nmおよびDraq5に対しては633nmでの励起波長を使って共焦点レーザー走査顕微鏡(Leica、England)により撮像した。
【0077】
細胞取り込みを定量化するために、0.5mL中でヒーラ細胞(5x10細胞/ウエル)を24ウエルプレートで、37℃、5%COの加湿雰囲気下、24時間増殖させた。等価用量(25μg/mL)で遊離DOXおよびDOX−NPを含む無血清DMEMを各ウエルに加え、その後、2時間インキュベートした。その後、細胞をPBSで3回洗浄し、トリプシン処理により採取し、蛍光励起セルソーター(FACS)チューブ中に移した。全ての試料をフローサイトメトリー(FACSCalibur,BD Biosciences,San Jose,CA)により分析し、細胞内部移行を測定した。細胞内DOXの蛍光測定値をFL2チャネルで行った。
【0078】
共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)を用いて、ヒーラ細胞におけるDOX−NPの細胞取り込み挙動を、遊離DOXの場合と比較して調査した。DOXそれ自体が蛍光性であるので、ナノ粒子中に追加のマーカーを加えることなく、それを直接に細胞取り込みの調査に使用した。細胞核をDraq5で染色し、共焦点ソフトウェアで青色に変更した。2時間のインキュベーション後、遊離DOX(25μg/mL)−処理細胞は、細胞核中で強い赤色を呈し、遊離DOXが素早く細胞質に運ばれ細胞核に拡散したことを示している(結果は図示せず)。DOX−NPとインキュベートした細胞におけるDOXの細胞内分布は、大きく異なっていた。インキュベーションの2時間後、強いDOX蛍光が細胞核中ではなく細胞質中で観察され、DOX−NPがヒーラ細胞により効果的に内部移行され得たことを意味する。遊離DOXおよびDOX−NPの細胞取り込みを比較するために、フローサイトメトリー分析を行った。蛍光強度は細胞により内部移行されたDOXの量に比例するので、平均蛍光強度を使って細胞取り込みの定量的比較を行った。DOX装填400kDa−50、600kDa−75および600kDa−180で処理した細胞の蛍光強度の差異は無視できたが、遊離DOXで処理した細胞は、同じ当量DOX濃度およびインキュベーション時間にてDOX−NPで処理したものより大きな蛍光強度を示した。細胞膜が1kDaより大きい分子量の複合体に対して本来不透過性であることは、以前に報告されている。DOXの分子量は543.52Daであるが、P(NBCh9−b−NBMPEG)ナノ粒子の分子量は400kDaを超える。したがって、遊離DOX分子の急速細胞取り込みは細胞膜を介する小分子の急速な拡散によるものであったが、一方、ナノ粒子の細胞取り込みはエンドサイトーシス経路によるものと思われ、それらは細胞核に侵入できない。その急速な細胞取り込みに起因して、癌治療での遊離DOXの使用は、遊離DOXが身体を通って健康組織および患部組織の両方へ急速に拡散できるので、重篤な毒性を引き起こす場合がある。理想的なサイズを有するナノ粒子がEPR効果により腫瘍微小環境内に蓄積されることはよく知られている。しかし、抗癌剤がそれらの生物学的機能を腫瘍細胞内部で発揮するためには細胞内部移行が必要であるために、腫瘍組織内への蓄積が必ずしも治療結果と相関するとは限らない。この結果は、薬学的に活性な分子を装填したNPの効果的な細胞取り込みにより、それらの薬学的に活性な分子の癌に対する治療効果を改善できることを示唆している。
【0079】
実施例10:DOX−NPのインビボ循環時間および組織分布
循環時間のインビボ測定のために、自家育成した6〜8週齢のBalb/cマウスをランダムに各群5匹のマウスの2つの群に分割し、遊離DOXおよびDOX−NPを5mg/kgの等価DOXの単回投与で静脈内に注射した。注射後の5分、15分、30分、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、24時間で、血液(150μL)を2つの時点について顔面静脈からヘパリン処置チューブ中に採血し、その後、次の時点の心臓穿刺による採血のためにマウスを屠殺した。各群のマウスを、3つの時点で採血した。血漿を遠心分離(3000rpm、10分、4℃)により分離し、分析するまで−80℃で貯蔵した。
【0080】
組織分布調査のために、担腫瘍重症複合型免疫不全(SCID)の6〜8週齢マウスの右脇腹に、2x10個のヒト肺癌細胞(A549)を含む0.1mLのPBSを接種した。腫瘍注入の4週後、2.5mg/kgの等価DOXで遊離DOXおよびDOX−NP(100μL)を尾静脈中に注射した。注射の24時間後、血液ならびに腫瘍、肝臓、脾臓、腎臓、肺、および心臓を含む器官採取のためにマウスを屠殺した。その後、組織を秤量し、溶解緩衝液(0.1Mトリス塩酸、2mMのEDTA、0.1%のトリトンX−100)中でプローブ超音波処理器(Qsonica LLC,CT)を使ってホモジナイズした。各組織のライセートを14,000rpm、4℃で20分間遠心分離した。血液を3000rpm、4℃で10分間遠心分離した。
【0081】
いくつかの変更を加え報告された手順を使って試料抽出を行った。簡単に説明すると、血漿(50μL)または組織(100μL)に内部標準(IS)として100μLのイダルビシン(1μg/mL)を加えた。100μLの1.0Mトリス緩衝液を加えた後で、2.5mLのクロロホルム/メタノール(75:25、v/v)混合物を加え5分間ボルテックスすることによりDOXおよびISの抽出を2回行った。8000rpmで10分間遠心分離後、有機相中の試料を集め、周囲温度、窒素流下で蒸発乾固させた。血漿および組織からの乾燥残留物を100μLのメタノール中に溶解し、続けて、遠心分離して全ての沈殿物を除去した。得られた上清をオートサンプラーおよび蛍光検出器を備えたHPLC装置(島津製作所、京都、日本)を使って分析した。0.05Mの酢酸ナトリウム(pH4.0)およびアセトニトリル(73.5:26.5)を移動相として使用して、20μLの試料をC18カラム(Kinetex 5μm、150x4.6mm、Phenomenex、CA)に注入した。流量を1ml/分とし、480/558nmの励起および放出波長(Ex/Em)での蛍光検出により信号をモニターした。
【0082】
図11Aは、5mg/kg用量での遊離DOXおよびDOX−NPのiv注射後のDOXの血漿中濃度−時間プロファイルを示す。遊離DOXの血漿中濃度は、注射後5分で75.6±5μg/mLであったが、注射後1時間で5.3±0.3μg/mLへと急激に減少し、注射4時間で1.4±0.1μg/mLまで減少し、遊離DOXの循環からの急速な排出を示す。対照的に、DOX−NPは著しく遅れた血液排出を示し、注射後5分で88.0±5.2μg/mL、注射後1時間で68.8±7.3μg/mLおよび注射後4時間で45.4±7.1μg/mLのDOXの血漿中濃度を示した。特に、DOX−NPの投与の24時間後、DOX血漿中濃度はまだ12.6±1.9μg/mLであり、一方、遊離DOXの場合この時点ではほとんど検出限界以下であった。遊離DOXの急速排出の結果として、血清中で見出される薬物は、ナノ粒子中に封入されていると考えられる。このような循環時間の増加は、DOX分子がP(NBCh9−b−NBPEG)ナノ粒子のコア内で安定化されており、それらの腎臓排出および肝臓内での酵素による代謝を防ぐことができることによると思われる。それらのナノサイズおよび親水性PEG殻により誘導されたP(NBCh9−b−NBPEG)ナノ粒子のこのような挙動により、単核食細胞系(MPS)取り込み比率を減らし、かつ血漿タンパク質吸収を減らすことができる。腫瘍組織への受動的薬物ターゲティングの成功は、EPR効果を活用するためのナノ粒子の血流内の長い循環時間、およびナノ粒子コア中の薬物封入の安定性に基づく。したがって、安定性および長い循環時間を有する、薬学的に活性な分子を装填したNPは、優先的に腫瘍組織に蓄積する可能性がある。
【0083】
図11Bからわかるように、遊離DOXの投与後のDOXの濃度は、肝臓で最大であり腫瘍で最小であった。対照的に、DOX−NPの投与後のDOXの濃度は血液中で最大であり、腫瘍中濃度は遊離DOXの投与後に観察されるより顕著に大きかった。この結果から、遊離DOXは体内で広範にわたって分布するが、肝臓、脾臓、肺、および腎臓などの宿主の防御および代謝器官に主として捕捉され、これらの器官により代謝または急速に排泄されて腫瘍中での低い薬物濃度をもたらすことが示唆された。特に、遊離DOXの投与に比べてDOX−NPの投与の24時間後に、DOXの肝臓での6.5倍低い濃度および腫瘍中の2.3倍高い濃度が達成された。DOX−NP投与後のDOXの血漿中レベルは、遊離DOXの同用量投与後の場合より11倍大きかった。血漿中のこの高い薬物濃度は、ナノ粒子の血液循環時間の増加に伴うDOX−NPの腫瘍組織中でのさらなる蓄積に寄与するであろう。さらに、DOX−NPは心臓中の薬物濃度を遊離薬物に比べて3.9倍低減させた。したがって、心筋症が遊離DOXの用量制限副作用であるので、P(NBCh9−b−NBPEG)ナノ粒子はDOXの心臓毒性を大きく低減できる。一方で、ナノ粒子は肺中のDOX量も遊離DOXに比べて10倍低減させ、このことは肺に対する損傷を抑え、そのバイオセーフティを高める可能性がある。この結果は、PEG遮蔽効果および優れた安定性を有するDOX−NPが、遊離薬物に比べてより長い血液循環、MPSによるより少ない取り込みおよびより高い腫瘍蓄積を示すことを確証した。
【0084】
実施例11:P(NBCh9−b−NBPEG)ナノ粒子のインビボイメージング
P(NBCh9−b−NBPEG)自己集積ナノ粒子の体内分布を、インビボ近赤外線(NIR)イメージングにより評価した。NIRフルオロフォアであるDiRを、セクション2.5に記載のように透析法によりナノ粒子中に装填した。簡単に説明すると、P(NBCh9−b−NBPEG)(10mg)およびDiR(0.6mg)をDMF(3mL)に溶解した。得られた溶液を蒸留水に対し48時間透析し、0.45μm膜を通して濾過した後、凍結乾燥した。DiRの装填量は、750nmの波長での分光測定により決定した。
【0085】
雄SCIDマウスの側腹部へのA549細胞(100μLのPBS中の2x10細胞)の皮下注射により、腫瘍モデルを確立した。腫瘍が許容可能なサイズに達すると、マウスを尾静脈注射によりDiR装填自己集積ナノ粒子(5μg/kgの等価DiR)で治療した。Maestroインビボイメージングシステム(Cambridge Research & Instrumentation,Inc.,Woburn,MA)を使って、注射の1、5、および24時間後に全身像を得た。注射の24時間後のマウスの屠殺後に、心臓、腎臓、肝臓、脾臓、肺、および腫瘍を含む種々の器官の画像も取得した。
【0086】
注射後1時間で、動物全体の蛍光が検出可能であり、強い蛍光信号が肝臓で可視化され、ナノ粒子が主として肝臓中に蓄積したことを示す(図12A)。注射後5時間に強い全身の蛍光が連続的に観察され、DiR装填P(NBCh9−b−NBPEG)ナノ粒子の長い循環時間を示している。さらに、動物の周辺組織と比べて腫瘍中のDiR信号のコントラストは、P(NBCh9−b−NBPEG)ナノ粒子の注射後5時間ですでに明らかであった。24時間後、腫瘍組織中で強い赤色信号が観察され、肝臓中では弱い信号のみが観察された。注射後24時間で、マウスを屠殺し主要器官を分離してDiR装填ナノ粒子の組織分布を分析した。図12Bに示すように、最高のNIRF強度は腫瘍組織中で観察され、一方で、その他の組織では信号強度はより低く、心臓での蛍光信号は特に低かった。結果は、P(NBCh9−b−NBPEG)ナノ粒子の腫瘍組織中での効果的な蓄積を示した。特定の理論に拘泥するものではないが、P(NBCh9−b−NBPEG)ナノ粒子のこの顕著な腫瘍特異的送達は、ナノ粒子の安定性により実現された長期の循環時間およびそれらの小さいサイズによる腫瘍組織中でのEPR効果から得られたものであろう。
【0087】
実施例12:抗腫瘍活性の評価
DOXおよびDOX−NPの抗腫瘍効力を、2x10個のA549細胞を含む0.1mLのPBSを右脇腹皮下に接種したSCIDマウスで評価した。腫瘍が約20〜30mmに成長したとき(腫瘍注入の9日後)、マウスをランダムに3つの群(n=5〜6)に分割し、この日を0日目とした。マウスに尾部静脈経由で週2回、食塩水(対照)、2.5mg/kgの等価DOXでの遊離DOXおよびDOX−NP(100μL)を静脈内注射した。抗腫瘍活性を腫瘍体積にの観点から評価し、腫瘍体積は、次の式を用いて計算した:腫瘍体積(mm)=幅x長さ/2。同時に、全身性の毒性の指標として体重を測定した。
【0088】
図13は、2.5mg/kgのDOXにて遊離DOXおよびDOX−NPで治療したマウスの腫瘍体積、体重、および生存率の変化を示す。対照群(食塩水)およびDOX−NPで治療した群での腫瘍体積は、24日以内に、それぞれ、約230.7±98.2mmおよび176.6±44.0mmまでゆっくり増加した(図13A)。腫瘍成長は遊離DOX治療により抑制されたが、この動物群の体重は、対照群およびDOX−NP治療群に比べて急激に低下し(図13C)、所定の用量の遊離DOXにより重篤な毒性が誘発されたことを示している。最終的に、遊離DOX群の全ての動物は人道的理由から11日目に終了しなければならなかった。24日後、対照群の腫瘍体積が急速に増加し、52日目に883.4±165.7mmに達した。対照的に、DOX−NPで治療した群の腫瘍体積はわずかに増加して224.8±84.7mmになり、注射の38日後には縮小し始め、52日目には130±102.0mmまで縮小し、治療群が対照群より有意に低い平均腫瘍体積(p、<0.01)を有したことを示した。加えて、初期の腫瘍体積(約30mm)に比べて、DOX−NP治療マウスでは、腫瘍体積はほとんど増加しなかった。この結果は、DOX−NPが効果的に腫瘍成長を抑制したことを示す。治療の52日後、全てのマウスを屠殺し腫瘍を摘出した。図13Bは、実験の終了時点での各群の代表的な写真を示す。対照群の腫瘍サイズは治療群のサイズより大きく、この結果は相対的腫瘍体積測定の結果と一致した。高められたインビボ効力は腫瘍部位でのDOX−NPの蓄積の向上により説明でき、それはコア内でのDOXのそれらの効果的な維持、したがって長期の血液循環中に血流中でのそれらの漏出を防止することによると考えられる。加えて、一旦DOX−NPが腫瘍組織に蓄積されると、ナノ粒子からのDOXの徐放により腫瘍細胞へのDOXの暴露時間が増加し、腫瘍成長の抑制が起こる。
【0089】
体重変化は、担腫瘍動物における薬物関連毒性の重要な指標である。図13C〜Dに示すように、担腫瘍SCIDマウスの2.5mg/kgでの遊離DOXによる治療は、体重の急速な低下(28.1±1.2%)および3回目の注射後11日以内に全てのマウスの死亡を生じ、遊離薬物が担腫瘍SCIDマウス中で有毒であったことを実証した。DOX−NPによる治療は耐容性良好であるように見え、対照群に比べて体重の減少はほとんどなく、かつ生存率の変化もなかった。これらの結果は、P(NBCh9−b−NBPEG)ナノ粒子に組み込まれた場合のDOXの向上した抗腫瘍活性および大きく低減された毒性を実証した。
【0090】
本文で記述された実施例および実施形態が説明の目的のみのものであり、それらを考慮すれば種々の修正または変更が当業者に対して示唆され、また、それらの修正または変更は、本出願の趣旨および範囲内に、ならびに添付請求項の範囲内に包含されるべきであることは、理解されよう。本明細書に引用された全ての出版物、特許、および特許出願は本出願において参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図13