(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6626100
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】5−ヒドロキシメチルフルフラールの選択的酸化のための方法
(51)【国際特許分類】
C07D 307/48 20060101AFI20191216BHJP
C07D 307/68 20060101ALI20191216BHJP
【FI】
C07D307/48
C07D307/68
【請求項の数】14
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-518590(P2017-518590)
(86)(22)【出願日】2015年6月17日
(65)【公表番号】特表2017-518386(P2017-518386A)
(43)【公表日】2017年7月6日
(86)【国際出願番号】EP2015063578
(87)【国際公開番号】WO2015193364
(87)【国際公開日】20151223
【審査請求日】2018年5月31日
(31)【優先権主張番号】14172678.6
(32)【優先日】2014年6月17日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511259474
【氏名又は名称】アニッキ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】ANNIKKI GMBH
(73)【特許権者】
【識別番号】516379434
【氏名又は名称】マイクロイノヴァ エンジニアリング ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100114465
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】ミハイロヴィッチ,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】シェーン,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ドチェフ,シュテファン
【審査官】
伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/054804(WO,A1)
【文献】
特開2009−029759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式
【化1】
の5−ヒドロキシメチル−2−フルフラールから出発して酸化フラン誘導体を溶媒、酸化剤、触媒、ならびに所望により塩
基の存在下で選択的に製造するための方法であって、
− 酸化プロセスがフローで連続的に行われ、
− 反応パラメーターを変更するための手段が提供され、
− 酸化プロセス用の溶媒が水であり、
− 双極性非プロトン性溶媒が共溶媒として存在する
ことを特徴と
し、前記酸化フラン誘導体が、
式
【化2】
の5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸、
式
【化3】
の2,5−ジホルミルフラン、
式
【化4】
の5−ホルミルフラン−2−カルボン酸、および
式
【化5】
の2,5−フランジカルボン酸
から選択される方法。
【請求項2】
N−メチルピロリドンが共溶媒として存在することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応パラメーターが温度、圧力、酸化剤および/または触媒である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
反応温度が50℃から180℃であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
以下を製造するための反応温度が、
− 5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸では、60℃から120℃であり、
− 2,5−ジホルミルフランでは、100から160℃であり、
− 5−ホルミルフラン−2−カルボン酸では、60℃から160℃であり、
− 2,5−フランジカルボン酸では、60℃から160℃である、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
酸化剤が圧縮酸素または圧縮空気であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
使用圧力が5バールから100バールであることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
以下を得るために使用する触媒が、
− 2,5−ジホルミルフランでは、K−OMS−2であり、
− 5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸、5−ホルミルフラン−2−カルボン酸および2,5−フランジカルボン酸では、白金担持活性炭である、
ことを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸、5−ホルミルフラン−2−カルボン酸および2,5−フランジカルボン酸の製造のために、塩基が助触媒として使用される、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
塩基が、水酸化物、炭酸塩または重炭酸塩であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
先行する脱水反応からの5−ヒドロキシメチル−2−フルフラールを濃厚にしたストリームが、出発物質として使用されることを特徴とする、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
以下の特徴
− 炭酸塩および重炭酸塩の群から選択される塩基が助触媒として使用されること、
− 使用圧力が80から100バールであること
の組合せを特徴とする、5−ヒドロキシメチル−2−フルフラールから出発して2,5−フランジカルボン酸を選択的に製造するための請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
温度が120℃から160℃であることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
白金担持活性炭が触媒として使用されることを特徴とする、請求項12および13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5−ヒドロキシメチルフルフラールの選択的酸化に関する。
【背景技術】
【0002】
式
【化1】
の5−ヒドロキシメチル−2−フルフラール(HMF)は、再生可能な炭水化物技術において重要な役割を果たし、フラン化学における中心的な中間体を表す。糖の三重炭水化物モノマー脱水は、HMFの形成をもたらし、このことは文献で広く知られている。HMFは化学的に興味深い3つの部位である、5−ヒドロキシメチル基、2−カルバルデヒド基およびフラン環それ自体、を提供する。工業的に圧倒的に最も関心が高いのは、酸化されて種々のフラン誘導体を得ることができる2本の側鎖である。
【0003】
本発明によれば、4種の酸化HMF誘導体である、
式
【化2】
の5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸(HMFCA)、
式
【化3】
の2,5−ジホルミルフラン(DFF)、
式
【化4】
の5−ホルミルフラン−2−カルボン酸(FFCA)、および
式
【化5】
の2,5−フランジカルボン酸(FDCA)は、特に興味深い。
【0004】
HMFCAは、HMF中のアルデヒド基の選択的酸化の結果としてカルボン酸を得たと見なすことができる。そのような選択的酸化に対して、ごく少数のプロトコールが公知である。多くの場合、高価な銀系試薬を化学量論量で使用してHMFCAを合成する。塩基性(NaOH)水性媒体中の酸化銀(Bull.Soc.Chim.Fr.1987、5、855−860)ならびに銀−銅混合触媒Ag
2O−CuO/O
2/NaOH/H
2O(米国特許第3,326,944号、1967)が、最も一般的に使用される試薬である。経済的には、これらの試薬は工業的大規模では適用できない。そのため貴金属触媒(特に白金触媒)が提案されたが、例えば、ChemSusChem 2009、2、1138−1144;ChemSusChem 2009、2、672−675;Catal.Today 2011、160、55−60;Green Chem.2011、13、824−827;Green Chem.2011、13、2091−2099またはルテニウム系触媒(Top Catal.2011、54,1318−1324;Catal.Lett.2011、141、1752−1760)に記載されている通りである。酸化プロセスは主として空気の存在下および水性反応環境下で行われ、良好な収率および高い触媒回転率(TOF)でHMFCAを合成し、このプロセスを経済的および環境的に優しいものとした。
【0005】
DFFの合成では、より多くのプロトコールが公知である。バッチ合成では、硝酸を用いる古典的な酸化反応(J.Chem.Soc.Trans.1912、101、1074−1081)、酢酸鉛(IV)/ピリジン(Tetrahedron 1970、26、1291−1301)、CrO
3/ピリジンまたはAc
2O/DMSO(野口研究所時報 1978、21、25−33;日本国特許第7909260号、1979;日本国特許第8049368号、1980)、BaMnO
4/ベンゼン/CCl
4/1,2−ジクロロエタン(Bull.Soc.Chim.Fr.1987、5、855−860;J.Heterocycl.Chem.1983、20、233−235)または4−置換TEMPO/NaOCl/KBr(J.Heterocycl.Chem.1995、32、927−930)が公知である。
【0006】
触媒作用の利益を得るために、均一系および不均一系の触媒作用を使用して、すでに広範な研究が行われた。DFFは、コバルト、マンガン、亜鉛、セリウムまたはジルコニウムの塩をガス状酸化剤と共に使用して、バッチで合成できる(米国特許公開第2003/055271 A1号、2003;Adv.Synth.Catal.2001、343、102−111;WO 01/072732 A2、2001;カナダ国特許第2400165 A1号、2001;WO 2010/132740 A2、2010;Catal.Sci.Technol.2012、2、79−81)。さらにまた、多様なバナジウム触媒が報告された(ChemSusChem 2011、4、51−54;Green Chem.2011、13、554−557;J.Mater.Chem.2012、22、3457−3461)。不均一系触媒作用においては、主としてバナジウム系(Pure Apple.Chem.2012、84、765−777;ChemCatChem 2013、5、284−293)、マンガン系(Green Chem.2012、14、2986−2989)および銀系の触媒(WO 2012/073251 A1、2012;Appl.Catal. B 2014、147、293−301)が有機溶媒中で適用された。
【0007】
技術的には異なるが、音響化学(Org.Prep.Proced.Int.1995、27、564−566;Pol.J.Chem.1994、68、693−698)および電気化学(Synthesis 1996、11、1291−1292)のアプローチも行われたが、ともに工業的規模での選択的な大規模プロセスに対して興味は低かった。
【0008】
HMFからDFFへの選択的酸化に特化した多くの出版物が文献として出版されているが、限定された数の記載された条件のみが工業的応用を見出し、安全で、早い、環境的および経済的に優しいプロセスに対する要件を満たす可能性がある。しかしながら、報告されたプロセスは有機溶媒の使用に依存しており、これらの有機溶媒は、純酸素などの強力な、加圧された酸化剤と組み合わせて使用するときにはやっかいである。加えて、連続フロー技術はこれまで、超原子価ヨウ素種(BAIB)またはHNO
3を触媒量のTEMPOと組み合わせて使用する極めて特異的な反応ストラテジーでのみ使われた(Beilstein J.Org.Chem.2013、9、1437−1442;Green Chem.2013、15、1975−1980)。
【0009】
HMFのさらに酸化された誘導体がFFCAであるが、その高い反応性および不安定性のために、文献ではわずかに報告されているのみである。FFCAは、二相反応媒体中で4−BzOTEMPO/塩化アセチルコリン/Py*HBr
3などの複合触媒系(Bull.Chem.Soc.Jpn.2009、82、1000−1002)、金触媒作用下での強酸性条件(Catal.Sci.Technol. 2012、2、79−81)またはフロー中の貴金属触媒を使用して合成することができるが、滞留時間および空時収量の正確な決定なしでは、そのプロセスはFFCAのコスト効率的な生産としては魅力が劣る。(Top Catal.2010、53、1264−1269)。
【0010】
FDCAはまた、ポリエステル合成におけるテレフタル酸代替としての潜在的用途のために、特に興味深い酸化フラン誘導体としても報告された。そこではまた、硝酸を用いて(Chem.Weekblad 1910、6、717−727;野口研究所時報 1979、22、20−27;Pol.J.Chem.1994、68、693−698)または過マンガン酸塩を用いて(Bull.Soc.Chim.Fr.1987、5、855−860)古典的な酸化が行われて、生成物としてFDCAを選択的に得た。触媒プロセスの分野では、コバルト−、マンガン−、亜鉛−、セリウム−およびジルコニウム−型からの均一系触媒は良く知られている(米国特許公開第2003/055271 A1号、2003;Adv.Synth.Catal.2001、343、102−111;WO 01/72732 A2、カナダ国特許第2400165 A1号、2001;WO 2010/132740 A2、2010;米国特許公開第2009/0156841 A1号、2009;WO 2011/043661 A1(A2)、2011;Catal.Sci.Technol.2012、2、79−81;WO 2012/161967 A1、WO 2012/161970 A2;米国特許公開第2012/0302769 A1号、2012)。
【0011】
不均一系触媒作用を使用する場合には、金触媒(ChemSusChem 2009、2、1138−1144;ChemSusChem 2009、2、672−675;Top Catal.2012、55、24−32)、ルテニウム触媒(Top Catal.2011、54、1318−1324;Catal.Lett.2011、141、1752−1760)および白金触媒(Top Catal.2000、13、237−242;米国特許第3,326,944号、1967;Stud.Surf.Sci.Catal.1990、55、147−157;Stud.Surf.Sci.Catal.1991、59、385−394;Top Catal.2010、53、1264−1269)が使用されたが、やがてフローでも使用された。
【0012】
HMFを酸化生成物にする反応に関係するさらなるプロセスは、WO 2012/017052 A1およびWO 2008/054804 A2から知得される。
【0013】
しかしながら、プロセスパラメーターおよび特徴をまとめてみると、正確には決定されておらず、HMFCA、DFF、FFCAおよびFDCAのモジュラー合成のための、環境的および経済的に優しく、本質的に安全でスケーラブルなプロセスは、未だ報告されていない。
【発明の概要】
【0014】
ここで驚くべきことには、5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸(HMFCA)、2,5−ジホルミルフラン(DFF)、5−ホルミルフラン−2−カルボン酸(FFCA)および2,5−フランジカルボン酸(FDCA)などの、異なる酸化5−ヒドロキシメチルフルフラール誘導体を、HMFから同一の反応装置で製造するためのプロセスを見出した。
【0015】
一態様では、本発明は、式
【化6】
の5−ヒドロキシメチル−2−フルフラールから出発して酸化フラン誘導体を溶媒、酸化剤、触媒、ならびに所望により塩基および/または共溶媒の存在下で選択的に製造するためのプロセスであって、
− 酸化プロセスがフローで連続的に行われ、
− 温度、圧力、酸化剤および/または触媒などの反応パラメーターを変更するための手段が提供される、
ことを特徴とするプロセスを提供する。
【0016】
本発明により提供されるプロセスはまた、本発明に係る「プロセス」として本明細書で明示される。
【0017】
好ましくは本発明のプロセスでは、酸化プロセス用の溶媒は水であり、双極性非プロトン性溶媒が共溶媒として存在する。特に好ましくは、N−メチルピロリドンが共溶媒として存在する。
【0018】
本発明のプロセスにおける酸化フラン誘導体は、少なくとも1つのアルデヒド基および/または少なくとも1つのカルボン酸基、好ましくは5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸(HMFCA)、2,5−ジホルミルフラン(DFF)、5−ホルミルフラン−2−カルボン酸(FFCA)および2,5−フランジカルボン酸(FDCA)を含む。
【0019】
本発明のプロセスは溶媒中、好ましくは水中で行われる。所望により、共溶媒が存在してもよい。そのような共溶媒はより良好な溶解性のために有用であり得、または先行する脱水反応からの濃厚なHMFのストリームを出発物質として使用することを可能にする。共溶媒の典型例は、双極性非プロトン性溶媒であり、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどであり、好ましくはN−メチルピロリドンである。
【0020】
溶媒としてNMPを使用すること必要とする、炭水化物、特にフルクトースからHMFを製造するためのプロセスは、WO 2014/033289に開示されている。WO 2014/033289で開示されたプロセスの、NMPを含む濃厚HMF生成物ストリームを使用して本発明のプロセスを行うことが可能であることが見出されている。したがって、酸化工程の前に前記濃厚HMFストリームに含まれるNMPを除去する必要はない。
【0021】
したがって、本発明のさらに好ましい一実施形態では、先行する脱水反応、特に糖の脱水からの5−ヒドロキシメチル−2−フルフラールを濃厚にしたストリームを出発物質として使用する。この実施形態では、好ましくは溶媒としてNMPを含むストリームを使用し、そのプロセスは、酸化工程の前にNMPを除去する工程を含まない。
【0022】
本発明のこの実施形態では、所望により、酸化工程の前に、
(i)水で所望の濃度に実際のストリームを希釈すること
(ii)ストリームの調製の間に形成されるいかなる黒色タールも分離するために遠心分離すること
(iii)ろ過すること
(iv)活性炭を満たした充填層カートリッジに溶液を通過させること
から選択される1種または複数の前処理工程が行われてもよい。
【0023】
さらに、NMPを含む双極性非プロトン性溶媒は、特にHMFをFDCAなどの極性生成物に酸化する場合に、反応混合物の均一化の観点から有利な特性を有することが一般的に見出されている。
【0024】
最後に、触媒の安定性(非活性化から防護する)に対する、NMPを含む双極性非プロトン性溶媒のプラスの影響が認められてきた。
【0025】
本発明に係るプロセスは、50℃から180℃、好ましくは60℃から160℃の反応温度で行われる。
【0026】
本発明に係るプロセスにおいては、以下を製造するための反応温度は、
− 5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸では、60℃から120℃、特に80℃から120℃、特に100℃から120℃であり、
− 2,5−ジホルミルフランでは、100から160℃、特に120〜160℃、特に140℃から160℃であり、
− 5−ホルミルフラン−2−カルボン酸では、60℃から160℃、特に80℃から140℃、特に100℃から120℃であり、
− 2,5−フランジカルボン酸では、60℃から160℃、特に60℃から120℃、特に80℃から120℃である。
【0027】
本発明に係るプロセスにおいて、水を溶媒として使用し、NMPを共溶媒として使用するとき、ややより苛酷な反応条件が有利であり、特に所望の酸化生成物がFDCAである場合に有利であることが見出されている。120℃から160℃、特に140℃から160℃の温度範囲が有利であることが見出されている。
【0028】
本発明に係るプロセスは酸化剤の存在下で行われる。そのような酸化剤は、好ましくは酸素または空気であり、特に圧縮酸素または圧縮空気である。
【0029】
本発明に係るプロセスは、加圧下で行われる。好ましい使用圧力は、5バールから100バール、特に10バールから80バールである。
【0030】
本発明に係るプロセスでは触媒が使用される。HMFの酸化生成物の製造用触媒は公知である。本発明のプロセスにおけるDFF製造用の好ましい触媒は、K−OMS−2であり、HMFCA、FFCAおよびFDCAの製造用の好ましい触媒は、10%Pt/Cである。
【0031】
K−OMS−2および触媒作用におけるその使用は公知である。「OMS−2」は、クリプトメレン型結晶性混合原子価マンガン(酸化物)系の八面体モレキュラーシーブを表す。「K−OMS−2のK」はカリウムを表す。K−OMS−2は、2×2ホランダイト構造を有する、おおよそKMn
8O
16の分子式を有する。「K−OMS−2」は、OMS−2の細孔(トンネル)が、稜線および隅点が共有される[MnO
6]八面体からなるOMS−2骨格の負電荷を中和するK
+イオンに占有されていることを意味する。
【0032】
HMFCA、FFCAおよびFDCA製造のための本発明のプロセスにおいては、塩基、例えば水酸化物、炭酸塩または重炭酸塩、例えば水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムもしくは重炭酸ナトリウムなどの水酸化アルカリ、炭酸アルカリもしくは重炭酸アルカリは、助触媒として、ならびに溶解度向上のために使用できる。
【0033】
5−ヒドロキシメチル−2−フルフラールから出発して2,5−フランジカルボン酸を選択的に製造するための本発明のプロセスにおいては、以下の特徴
− 炭酸塩および重炭酸塩の群から選択される塩基、特に炭酸ナトリウムおよび/または重炭酸ナトリウムが助触媒として使用されること、
− 使用圧力が80から100バールであること
の組合せは、特に有利であることが見出されている。
【0034】
この実施形態は、酸化剤が圧縮酸素である場合に特に好ましい。特に、圧力が80バールよりも低い場合には、用いた触媒の非活性化が認められ、FDCAの収率低下および選択性の低下をもたらした。
【0035】
本発明のこの実施形態での好ましい温度は、120℃から160℃、より好ましくは140℃から160℃である。
【0036】
さらに好ましくは、白金担持活性炭が、本発明のこの実施形態で触媒として使用される。
【0037】
さらにまたこの実施形態では、好ましくは、水が溶媒として使用される。さらに、好ましくは、双極性非プロトン性溶媒、特にNMPが共溶媒として使用される。
【0038】
公知のプロセスと対照的に、本発明は、温度、圧力、酸化剤および/または触媒などの反応パラメーターを変化させるだけで、同一の反応装置を使用して、HMFの4種の異なるフラン誘導体を合成する単一のプロセスを提供する。このことは、プロセス最適化時間、プロセスコストおよび全体的なプロセス効率に、バッチ化学では達成不可能な莫大な利益をもたらす。
【0039】
選択した化学に反応容器を適合させて、反応条件を最初から最適化する必要がある既存のバッチプロトコールとは異なり、連続フローアプローチはこれらの欠点を洗練された様式で回避する。開発したプロセスの最も重要な利点は、実際の反応体積を非常に小さな体積(通常1mL未満)に減少させることであり、それはまた安全性ハザードを桁違いに減少させる。好ましくは反応体積を増大させるよりもむしろ連続フロー反応器の並列化によって、高圧純酸素さえも同様に安全に取り扱いおよびスケーリングできる。
【0040】
以下の反応スキーム1では、HMFから出発して4種のフラン誘導体である、5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸(HMFCA)、2,5−ジホルミルフラン(DFF)、5−ホルミルフラン−2−カルボン酸(FFCA)および2,5−フランジカルボン酸(FDCA)、を本発明に係る連続フローで選択的に得る酸化反応を、図式的に概説している。
【実施例】
【0042】
以下の実施例では、すべての温度は摂氏(℃)である。
【0043】
以下の略記を使用する。
DFF 2,5−ジホルミルフラン
FDCA 2,5−フランジカルボン酸
FFCA 5−ホルミルフラン−2−カルボン酸
HMF 5−ヒドロキシメチル−2−フルフラール
HMFCA 5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸
HPLC 高速(以前は高圧)液体クロマトグラフィー
K−OMS−2 マンガン八面体モレキュラーシーブ
min 分
NMP N−メチル−2−ピロリドン
PDA フォトダイオードアレイ
RI 屈折率
T 温度
TFA トリフルオロ酢酸
【0044】
以下の表中の%での収率は、出発物質HMFの量に対して計算している。
【0045】
反応性能は、HPLCを使用して、HMFの転化およびHMFCA、DFF、FFCAまたはFDCAの収率/選択性の点から評価した(カラム:Phenomenex Rezex RHM 150×7.8mm、移動相:H
2O中の0.1重量%のTFA、温度:85℃、流速:0.6mL/分、方法の継続時間:23分(NMPフリー試料)/60分(NMP含有試料)、検出:RIまたはPDA、内部標準:フェノール)。
【実施例1】
【0046】
HMFを酸化してHMFCAを得る
反応物質 水中のHMF(5mg/mL)
塩基性添加剤 NaOH(HMFに対して2当量、第2のHPLCポンプによりHMFの溶液とin situで混合し、0.08Mの水溶液として供給)
触媒 10%Pt/C(280mgの10%Pt/C+20mgのセライト545)
酸化剤 合成空気
反応器システム ThalesNano社 X−Cube、ポンプ流速:2×0.5mL/分、滞留時間:1分
【0047】
まず、それぞれのCatCart(70×4mm)を20mgのセライト545で満たし、その後280mgの10%Pt/Cを添加した。システム圧力を変更したときは、毎回未使用のCatCartを使用した。それぞれのスクリーニングシリーズの前に、全反応ラインをH
2Oでパージし(HPLCグレード)、システムバルブのテフロン(登録商標)フリットを交換し、ThalesNano社 X−Cubeシステムのセルフテストを実行した。NaOH/H
2O溶液を使用してシステムの初期安定化を毎回行い、反応パラメーターが一定に維持されたときに、反応溶液のポンピングを開始した。その後システムを安定化させ、新条件で10分間平衡させ、その後1mL毎の2個の試料を採取した。次に温度を上昇させ、システムを再度安定化させた(実験シリーズ内のすべての温度に対して同一の手順を適用した)。すべての場合において、良好なシステムの安定性のために、システム圧力と外部ガス圧力との間に40バールの差を設けた。HMFからHMFCAへの選択的酸化では、完全に酸化したFDCAを優先するために、HMFCAの合成に温度媒介触媒不活性化を使用した。
【0048】
以下の表1に、次のパラメーターを使用したフローでのHMF−HMFCA酸化スクリーニングからの結果の要約を示す:0.5mL HMF(5mg/mL)、0.5mL NaOH(0.08M)、H
2O、10%Pt/C、80バールの空気、60〜120℃、0.5mL/分×0.5mL/分、1分。
【0049】
【表1】
【0050】
表1から、所与の条件下で、温度上昇に伴ってHMFCA収率が増加していることが明白である。好ましくは、反応を60℃から120℃、特に80℃から120℃、特に100から120℃で行う。温度が100℃を超えると、HMFCA収率が急増する。したがって、特に好ましい温度は、105から130℃、例えば110から125℃、例としては115から120℃である。
【実施例2】
【0051】
HMFを酸化してDFFを得る
反応物質 水中のHMF(5mg/mL)
触媒 K−OMS−2(263.4mgのK−OMS−2+50mgのセライト545)をAngew.Chem.Int.Ed.2012、51、544−547に従って調製。
酸化剤 酸素または合成空気
反応器システム ThalesNano社 X−Cube、ポンプ流速:0.5mL/分、滞留時間:2/4分
【0052】
まず、それぞれのCatCart(70×4mm)を50mgのセライト545で満たし、その後263.4mgのK−OMS−2を添加した。システム圧力を変更したときは、毎回未使用のCatCartを使用した。それぞれのスクリーニングシリーズの前に、全反応ラインをH
2Oでパージし(HPLCグレード)、システムバルブのテフロン(登録商標)フリットを交換し、ThalesNano社 X−Cubeシステムのセルフテストを実行した。H
2Oを使用してシステムの初期安定化を毎回行い(HPLCグレード)、反応パラメーターが一定に維持されたときに、反応溶液のポンピングを開始した。その後システムを安定化させ、新条件で10分間平衡させ、その後1mL毎の2個の試料を採取した。次に温度を上昇させ、システムを再度安定化させた(実験シリーズ内のすべての温度に対して同一の手順を適用した)。すべての場合において、良好なシステムの安定性のために、システム圧力と外部ガス圧力との間に40バールの差を設けた。
【0053】
実験は、理想的な反応条件をもたらす1個または2個の触媒カートリッジを使用して行い、10バールの酸素分圧を必要とするだけで、DFFを良好な収率(約70%)で製造した。
【0054】
純酸素の潜在的危険性を低減するために、反応を、酸素を合成空気に置き換えても実施した。しかしながら、同様の収率に達するためには、圧縮空気を80バールに増圧しなければならなかった。
【0055】
以下の表2に、次のパラメーターを使用したフローでのHMF−DFF酸化スクリーニングからの結果の要約を提示する:
1mLのHMF(5mg/mL)、H
2O、K−OMS−2/セライト、10バールのO
2、100〜160℃、0.5mL/分、2分(1個の触媒カートリッジを使用)。
【0056】
【表2】
【0057】
以下の表3に、次のパラメーターを使用したフローでのHMF−DFF酸化スクリーニングからの結果の要約を提示する:
1mLのHMF(5mg/mL)、H
2O、2×K−OMS−2/セライト、10バールのO
2、100〜160℃、0.5mL/分、4分(2個の触媒カートリッジを使用)。
【0058】
【表3】
【0059】
以下の表4に、次のパラメーターを使用したフローでのHMF−DFF酸化スクリーニングからの結果の要約を提示する:
1mLのHMF(5mg/mL)、H
2O、K−OMS−2/セライト、80バールの空気、100〜160℃、0.5mL/分、2分(1個の触媒カートリッジを使用)。
【0060】
【表4】
【0061】
以下の表5に、次のパラメーターを使用したフローでのHMF−DFF酸化スクリーニングからの結果の要約を提示する:
1mLのHMF(5mg/mL)、H
2O、2×K−OMS−2/セライト、80バールの空気、100〜160℃、0.5mL/分、4分(2個の触媒カートリッジを使用)。
【0062】
【表5】
【0063】
表2から表5から、所与の条件下で、DFFの高収率およびDFFの高選択性が達成できることが明白である。温度上昇に伴って平均収率が増加している。触媒を2倍量にしても結果に大差なく、80バールの圧力でも10バールの圧力と比較して大差ない。
【0064】
出発物質のHMFに関係する概ね50から70%の範囲のDFF収率をもたらす温度は、概ね100から160℃、例えば120℃から160℃、例えば140℃から160℃の範囲である。
【実施例3】
【0065】
HMFを酸化してFFCAを得る
反応物質 水中のHMF(5mg/mL)
塩基性添加物 Na
2CO
3(HMFに対して2当量で、HMF溶液と事前混合)
触媒 10%Pt/C(280mgの10%Pt/C+20mgのセライト545)
酸化剤 合成空気
反応器システム ThalesNano社 X−Cube、ポンプ流速:0.5mL/分、滞留時間:2分
【0066】
まず、それぞれのCatCart(70×4mm)を20mgのセライト545で満たし、その後280mgの10%Pt/Cを添加した。システム圧力を変更したときは、毎回未使用のCatCartを使用した。それぞれのスクリーニングシリーズの前に、全反応ラインをH
2Oでパージし(HPLCグレード)、システムバルブのテフロン(登録商標)フリットを交換し、ThalesNano社 X−Cubeシステムのセルフテストを実行した。H
2O(HPLCグレード)を使用してシステムの初期安定化を毎回行い、反応パラメーターが一定に維持されたときに、反応溶液のポンピングを開始した。その後システムを安定化させ、新条件で10分間平衡させ、その後1mL毎の2個の試料を採取した。次に温度を上昇させ、システムを再度安定化させた(実験シリーズ内のすべての温度に対して同一の手順を適用した)。すべての場合において、良好なシステムの安定性のために、システム圧力と外部ガス圧力との間に40バールの差を設けた。温度100℃で、FFCA生成物に関して、基質の転換と生成物選択性との間に理想的な折り合いが付いた。
【0067】
以下の表6に、次のパラメーターを使用したフローでのHMF−FFCA酸化スクリーニングからの結果の要約を提示する:
1mLのHMF(5mg/mL)、2当量のNa
2CO
3、H
2O、10%Pt/C、80バールの空気、60〜160℃、0.5mL/分、2分。
【0068】
【表6】
【0069】
表6から、所与の条件下で、FFCAの高収率およびFFCAの高選択性が達成できることが明白である。概ね120℃までの温度上昇に伴って平均収率が増加している。出発物質のHMFに関係する概ね45から60%の範囲のFFCA収率をもたらす温度は、60℃から160℃、特に80℃から140℃、例えば100から120℃の範囲である。
【実施例4】
【0070】
HMFを酸化してFDCAを得る
反応物質 水中のHMF(5mg/mL)
塩基性添加剤 NaOH(HMFに対して2当量、第2のHPLCポンプによりHMFの溶液とインサイチュで混合し、0.08Mの水溶液として供給)またはNa
2CO
3(HMFに対して2当量で、HMF溶液と事前混合)またはNaHCO
3(HMFに対して4当量で、HMF溶液と事前混合)
触媒 10%Pt/C(280mgの10%Pt/C+20mgのセライト545)
酸化剤 酸素または合成空気
反応器システム ThalesNano社 X−Cube、 ポンプ流速:2×0.5mL/分(NaOH)、0.5mL/分(Na
2CO
3)、0.5mL/分(NaHCO
3)、滞留時間:1分(NaOH)、2分(Na
2CO
3)、2分(NaHCO
3)
【0071】
まず、それぞれのCatCart(70×4mm)を20mgのセライト545で満たし、その後280mgの10%Pt/Cを添加した。システムの圧力を変更したときは、毎回未使用のCatCartを使用した。それぞれのスクリーニングシリーズの前に、全反応ラインをH
2Oでパージし(HPLCグレード)、システムバルブのテフロン(登録商標)フリットを交換し、ThalesNano社 X−Cubeシステムのセルフテストを実行した。NaOH/H
2O溶液またはH
2O(HPLCグレード)のいずれかを使用してシステムの初期安定化を毎回行った。Na
2CO
3またはNaHCO
3のいずれかを塩基性添加剤として使用して、Na
2CO
3またはNaHCO
3の水溶液ではなく、H
2O(HPLCグレード)のみをポンピングしながらシステムを安定化させた。反応パラメーターが一定に維持されたときに、反応溶液のポンピングを開始した。その後システムを安定化させ、新条件で10分間平衡させ、その後1mL毎の2個の試料を採取した。次に温度を上昇させ、システムを再度安定化させた(実験シリーズ内のすべての温度に対して同一の手順を適用した)。すべての場合において、良好なシステムの安定性のために、システム圧力と外部ガス圧力との間に40バールの差を設けた。
【0072】
初期の実験はNaOHを塩基として使用して実施した。残念ながら、HMF溶液をNaOH溶液で処理すると、直ちに溶液が黒色となり、続いて黒色固形物が沈殿し、溶液がフローに不適当となった。この問題を克服するために、HMF溶液とNaOH溶液とをインサイチュで混合することを行った。しかしながら、NaOH溶液からNa
2CO
3またはNaHCO
3の溶液に切り替えることで、さらにより良好な結果が得られた。
【0073】
以下の表7に、次のパラメーターを使用したフローでのHMF−FDCA酸化スクリーニングからの結果の要約を提示する:
0.5mLのHMF(5mg/mL)、0.5mLのNaOH(0.08M)、H
2O、10%Pt/C、40バールのO
2、60〜160℃、0.5mL/分×0.5mL/分、1分。
【0074】
【表7】
【0075】
以下の表8に、次のパラメーターを使用したフローでのHMF−FDCA酸化スクリーニングからの結果の要約を提示する:
0.5mLのHMF(5mg/mL)、0.5mLのNaOH(0.08M)、H
2O、10%Pt/C、80バールのO
2、60〜160℃、0.5mL/分×0.5mL/分、1分。
【0076】
【表8】
【0077】
表7および表8から、所与の条件下で、FDCAの高収率およびFDCAの高選択性がほぼ温度から独立に達成できることが明白である。出発物質のHMFに関係する概ね60から80%の範囲のFDCA収率をもたらす温度は、60から160℃、例えば80から150℃の範囲である。
【0078】
以下の表9に、次のパラメーターを使用したフローでのHMF−FDCA酸化スクリーニングからの結果の要約を提示する:
0.5mLのHMF(5mg/mL)、0.5mLのNaOH(0.08M)、H
2O、10%Pt/C、40バールの空気、60〜120℃、0.5mL/分×0.5mL/分、1分。
【0079】
【表9】
【0080】
表9から、所与の条件下で、FDCAの高収率およびFDCAの高選択性が達成できることが明白である。出発物質のHMFに関係する概ね60から80%の範囲のFDCA収率をもたらす温度は、60から120℃、例えば60から110℃の範囲である。
【0081】
以下の表10に、次のパラメーターを使用したフローでのHMF−FDCA酸化スクリーニングからの結果の要約を提示する:
1mLのHMF(5mg/mL)、2当量のNa
2CO
3、H
2O、10%Pt/C、80バールのO
2、60〜120℃、0.5mL/分、2分。
【0082】
【表10】
【0083】
表10から、所与の条件下で、概ね50℃から140℃で、HMFの高い転化率および高選択性を伴うFDCAの高収率が達成でき、概ね70から130℃の温度範囲でHMFがFDCAにほぼ完全に転化することが明白である。
【0084】
O
2圧力を40バールに減少させたことを唯一の相違として、同一の反応装置でこの実施例を行い、以下の結果を得た。
【0085】
【表11】
【0086】
表11は、酸素圧力の低下に伴って、特に高温の上昇に伴って、FDCA収率および選択性の両方が減少することを示している。これは明らかに触媒の非活性化に起因する。
【0087】
以下の表12に、次のパラメーターを使用したフローでのHMF−FDCA酸化スクリーニングからの結果の要約を提示する:
1mLのHMF(5mg/mL)、4当量のNaHCO
3、H
2O、10%Pt/C、80バールのO
2、60〜120℃、0.5mL/分、2分。
【0088】
【表12】
【0089】
表12から、所与の条件下で、概ね50℃から140℃で、HMFの高い転化率および高選択性を伴うFDCAの高収率が達成でき、100℃を超える温度、例えば概ね110℃から130℃の温度で、HMFがFDCAにほぼ完全に転化することが明白である。
【0090】
さらに、O
2圧力を40バールに減少させたことを唯一の相違として、同一の反応装置でこの実施例を行い、以下の結果を得た。
【0091】
【表13】
【0092】
ここでも、表13によれば、酸素圧力の低下に伴って、特に温度の上昇に伴って、触媒の非活性化に起因して、FDCAの収率および選択性の両方が減少する。
【0093】
したがって、上記実施例は、炭酸アルカリまたは重炭酸アルカリを助触媒として使用し、より高い酸素圧力を使用する、特にFDCAへのHMFの酸化が、非常に良好な結果を、わずか2分の滞留時間でもたらすことを示す。
【実施例5】
【0094】
水を溶媒として、NMPを共溶媒として使用して、HMFを酸化してFDCAを得る:
この実施例では、先行する糖の脱水から生成したストリームを模してHMFを濃厚にした人工ストリームを出発物質として使用した。
人工ストリーム溶液: 5mg/mLのHMF、
HMF:NMP比=4.7重量%:95.3重量%
塩基性添加物: NaHCO
3、HMFに対して4当量
溶媒: H
2Oを人工ストリーム溶液に1mLまで添加、
人工ストリーム溶液のNMPは共溶媒として作用
触媒: 10%Pt/C/セライト545(280mg/20mg)
酸化剤: O
2、圧力:80バール
温度: 60℃、80℃、100℃、120℃、140℃、160℃
流速: 0.5mL/分
滞留時間: 2分
【0095】
反応は、上記実施例4の記載に従って行った。
【0096】
以下の表14に、次のパラメーターを使用したフローでのHMF−FDCA酸化スクリーニングからの結果の要約を提示する:
1mLのHMF(5mg/mL)、4当量のNaHCO
3、H
2O/NMP、10%Pt/C、80バールのO
2、60〜160℃、0.5mL/分、2分。
【0097】
【表14】
【0098】
上記表14から、NMPを含む生成物ストリームに基づいても、FDCA収率およびFDCA選択性の良好な結果を得ることができることが明らかになる。しかしながら、最良の結果は、120℃から160℃などのややより高い温度で得られる。
【実施例6】
【0099】
先行する糖の脱水工程の未処理生成物ストリームからHMFを酸化してFDCAを得る:
WO2014/033289に開示されている、NMPを溶媒とするフルクトースの脱水により得られた生成物ストリームを上記実施例5で開示したのと同一の条件で処理した。ここでも、この生成物ストリーム中のHMFとNMPとの比は、HMF:NMP=4.7重量%:95.3重量%であった。
【0100】
この未処理ストリームを、酸化の前に以下のように前処理した:
(i)5mg/mLの所望のHMF濃度に純水で実際のストリームを希釈する、
(ii)ストリームの調製の間に形成されたいかなる黒色タールも分離するために遠心分離する、
(iii)ろ紙を通してろ過する、
(iv)活性炭を満たした充填層カートリッジに、生成した溶液を通過させる。
【0101】
以下の表15に、次のパラメーターを使用したフローでのHMF−FDCA酸化スクリーニングからの結果の要約を提示する:
1mLのHMF(5mg/mL)、4当量のNaHCO
3、H
2O/NMP、10%Pt/C、80バールのO
2、60〜160℃、0.5mL/分、2分。
【0102】
【表15】
【0103】
表15は、−実施例5による人工ストリームの結果よりもやや悪い結果ではあるが−、ここでも特に、140℃から160℃などのより高い温度で、生成物ストリームからNMPを前もって除去する必要なしに、FDCAの収率および選択性において許容できる結果を得ることができることを示す。