特許第6626104号(P6626104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6626104自己持続する拡張状態および縮小状態を有する編組繊維スリーブおよびその構成方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6626104
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】自己持続する拡張状態および縮小状態を有する編組繊維スリーブおよびその構成方法
(51)【国際特許分類】
   D04C 1/02 20060101AFI20191216BHJP
   D04C 1/06 20060101ALI20191216BHJP
【FI】
   D04C1/02
   D04C1/06 Z
【請求項の数】42
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-523477(P2017-523477)
(86)(22)【出願日】2015年10月30日
(65)【公表番号】特表2017-533353(P2017-533353A)
(43)【公表日】2017年11月9日
(86)【国際出願番号】US2015058298
(87)【国際公開番号】WO2016070033
(87)【国際公開日】20160506
【審査請求日】2018年5月24日
(31)【優先権主張番号】14/928,107
(32)【優先日】2015年10月30日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/072,890
(32)【優先日】2014年10月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503170721
【氏名又は名称】フェデラル−モーグル・パワートレイン・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】FEDERAL−MOGUL POWERTRAIN LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファタラー,アメル
(72)【発明者】
【氏名】パネア,アナ・マリア
(72)【発明者】
【氏名】チャン,チョン・ホワイ
(72)【発明者】
【氏名】ティール,ジミー・イー
(72)【発明者】
【氏名】ガオ,ティアンキ
(72)【発明者】
【氏名】クラウザー,リー
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−529719(JP,A)
【文献】 米国特許第05505117(US,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00935017(EP,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0220276(US,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第01258229(EP,A1)
【文献】 特開2011−074526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04C1/00−7/00
D04G1/00−5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護繊維スリーブであって、
両端部間の中心長手方向軸に沿って長手方向に延在する、編組された管状壁を備え、
前記壁は、
前記中心長手方向軸に対して概ね横切って切取られた断面で見たときに、減少した長さ、増加した断面積を有する第1の状態と、
前記中心長手方向軸に対して概ね横切って切取られた断面で見たときに、増加した長さ、減少した断面積を有する第2の状態とを有し、
前記壁に付勢を与える、編組されて熱硬化された糸をさらに含み、前記付勢により、前記壁は、何らかの力が外部から加えられなければ、実質的に前記第1の状態および前記第2の状態を保つ、保護繊維スリーブ。
【請求項2】
前記熱硬化された糸のうちの少なくともいくつかは、互いに撚合せられた複数の糸を含む束にされて編組される、請求項1に記載の保護スリーブ。
【請求項3】
前記束のうちの少なくともいくつかは、別の束と相互に連結されることによって形成される隙間を有する、請求項2に記載の保護スリーブ。
【請求項4】
前記束の各々は、別の束と相互に連結されることによって形成される隙間を有する、請求項2に記載の保護スリーブ。
【請求項5】
前記束のうちの少なくともいくつかは、全体が前記熱硬化された糸で形成される、請求項3に記載の保護スリーブ。
【請求項6】
前記束の各々は全体が前記熱硬化された糸で形成される、請求項5に記載の保護スリーブ。
【請求項7】
前記壁は非熱硬化性糸を含む、請求項5に記載の保護スリーブ。
【請求項8】
前記非熱硬化性糸のうちの少なくともいくつかは、反対の撚り方向である、請求項7に記載の保護スリーブ。
【請求項9】
前記非熱硬化性糸のうちの少なくともいくつかは、前記隙間のうちの少なくともいくつかを通って延在する、請求項7に記載の保護スリーブ。
【請求項10】
前記非熱硬化性糸のうちの少なくともいくつかは、前記束の組の間で同一撚り方向である、請求項9に記載の保護スリーブ。
【請求項11】
前記束のうちの少なくともいくつかは、全体が前記非熱硬化性糸で形成される、請求項7に記載の保護スリーブ。
【請求項12】
前記束のうちの少なくともいくつかは非熱硬化性糸を含む、請求項3に記載の保護スリーブ。
【請求項13】
前記束のうちの少なくともいくつかは、前記熱硬化された糸と撚合せられた前記非熱硬化性糸を含む、請求項12に記載の保護スリーブ。
【請求項14】
前記熱硬化された糸はマルチフィラメント糸である、請求項1に記載の保護スリーブ。
【請求項15】
前記熱硬化された糸はモノフィラメント糸である、請求項1に記載の保護スリーブ。
【請求項16】
前記壁は、前記付勢に打ち勝つと、前記第1の状態と前記第2の状態との間で素早く移行する、請求項1に記載の保護スリーブ。
【請求項17】
前記壁は非熱硬化性糸を含む、請求項1に記載の保護スリーブ。
【請求項18】
前記非熱硬化性糸はマルチフィラメント糸である、請求項17に記載の保護スリーブ。
【請求項19】
前記非熱硬化性糸はモノフィラメント糸である、請求項17に記載の保護スリーブ。
【請求項20】
前記束は隙間を有し、
前記壁は、前記隙間のうちの少なくともいくつかを通って延在する非熱硬化性糸をさらに含む、請求項2に記載の保護スリーブ。
【請求項21】
前記束は、S螺旋方向またはZ螺旋方向のうちの一方のみの撚り方向である、請求項20に記載の保護スリーブ。
【請求項22】
前記束は、反対のS螺旋方向およびZ螺旋方向の撚り方向である、請求項20に記載の保護スリーブ。
【請求項23】
前記壁は、非円形の外周を有する、請求項1に記載の保護スリーブ。
【請求項24】
S螺旋方向またはZ螺旋方向のうちの一方の撚り方向であるすべての糸は、撚合せられた糸の前記束として設けられ、
前記束の螺旋方向とは反対のS螺旋方向またはZ螺旋方向の撚り方向であるすべての糸は、撚合せられていない糸として設けられる、請求項2に記載の保護スリーブ。
【請求項25】
前記束は、全体が前記熱硬化された糸で形成される、請求項24に記載の保護スリーブ。
【請求項26】
前記撚合せられていない糸は非熱硬化性糸である、請求項25に記載の保護スリーブ。
【請求項27】
前記撚合せられていない糸は前記熱硬化された糸である、請求項25に記載の保護スリーブ。
【請求項28】
前記束のうちの少なくともいくつかは、非熱硬化性糸と撚合せられた前記熱硬化された糸で形成される、請求項24に記載の保護スリーブ。
【請求項29】
前記束のうちの前記少なくともいくつかは、全体が前記熱硬化された糸で形成され、前記束のうちの少なくともいくつかは、全体が非熱硬化性糸で形成される、請求項24に記載の保護スリーブ。
【請求項30】
全体が前記熱硬化された糸で形成された前記束と、全体が非熱硬化性糸で形成された前記束とは交互に並ぶ、請求項29に記載の保護スリーブ。
【請求項31】
繊維スリーブを構成する方法であって、
複数の糸を互いに編組することにより、中心長手方向軸に沿った長手方向に延在する、
継ぎ目のない管状壁を形成するステップを含み、前記糸のうちの少なくともいくつかは、熱硬化性糸として設けられ、前記管状壁は、減少した長さ、増加した断面積の第1の状態と、増加した長さ、減少した断面積の第2の状態との間で移行可能であり、前記方法はさらに、
前記壁が前記第1の状態および前記第2の状態のうちの一方の状態で、前記熱硬化性糸を熱硬化することにより、前記熱硬化された糸を介して前記壁に付勢を与えるステップを含み、前記付勢により、前記壁を前記第1の状態または前記第2の状態のうちの他方の状態に移行させる軸方向の力が外部から加えられなければ、前記壁は、前記第1の状態および前記第2の状態の各々を保つ、方法。
【請求項32】
組み紐編組機で前記壁を編組するステップをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記糸のうちの少なくともいくつかを共に撚合せることにより、前記糸の束を形成するステップと、
前記束を互いに編組するステップとをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記束において隙間を形成するステップと、
別々の前記束のうちの少なくともいくつかにおける前記隙間を互いに連結するステップとをさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
非熱硬化性糸を、前記隙間のうちの少なくともいくつかを通して絡み合せるステップをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記非熱硬化性糸のうちの少なくともいくつかを、撚合せられていない糸として設けるステップをさらに含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記束のうちの少なくともいくつかを、非熱硬化性糸および熱硬化性糸で形成するステップをさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
前記束のうちの少なくともいくつかの全体を非熱硬化性糸で形成するステップをさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
前記束のうちの少なくともいくつかの全体を熱硬化性糸で形成するステップをさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項40】
前記束のうちの少なくともいくつかを、熱硬化性糸を含むように形成するステップをさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項41】
前記束の各々の全体を熱硬化性糸で形成するステップをさらに含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記壁に非円形の外周を与えるように、前記熱硬化性糸を熱硬化するステップをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2014年10月30日に出願された米国仮出願第62/072,890号、および2015年10月30日に出願された米国実用出願第14/928,107号の利益を主張し、これらの出願の内容全体を本明細書に引用により援用する。
【0002】
発明の背景
1.技術分野
本発明は、概して繊維スリーブに関し、より特定的には編組繊維スリーブに関する。
【背景技術】
【0003】
2.関連技術
さまざまな環境条件および影響に対して繊維スリーブ内で細長部材を保護すること、または、束ねる目的および経路付ける目的で、繊維スリーブ内に単に細長部材を収容することが公知である。たとえば、編みスリーブ内、織りスリーブ内、または編組スリーブ内などである。編組スリーブの場合、編組壁は一般的に、「閉じた(closed)」壁と呼ばれることもある、周方向に連続的で継ぎ目のない壁として編組される。閉じた編組壁構成の1つの公知の利点は、圧縮するような態様で壁の両端部を手動で押し、物理的に保持することによって、壁を周方向に拡張し、細長部材上での壁の摺動を容易にし得ることである。両端部を互いの方へ押し、軸方向に圧縮した状態で手動で壁を保持することにより、編組壁は、増加した径と減少した長さとを呈する。径が増加した状態にあるとき、壁は容易に細長部材上に配置され得る。次いで、スリーブが細長部材上に取付けられた後、取付けた人は壁を解放してもよく、そうすると、両端部は自動的に軸方向に互いに離れるように素早く動く。これにより、周方向に減少した径と増加した長さとを呈する。
【0004】
上述の編組壁の径を増加および減少させる能力は、織りスリーブなどのいくつかの他の公知の種類のスリーブ構成に勝る利点を有するものの、それには潜在的な欠点が付随する。すなわち、編組スリーブの径を手動で増加させる能力は、取付けの際に継続的に外部からの圧縮力を加えることを必要とし、それは困難であると判明する場合があるため、取付ける人がスリーブを細長部材上に容易に取付けることが難しくなり得る。さらに、スリーブの長さが比較的長い場合、編組スリーブの取付けが難しくなる。スリーブの長さが比較的長い場合、スリーブがその長さに沿って折り重なることなく、または曲がることなく両端部を互いの方へ軸方向に圧縮しなければならないことによって、困難が生じる。さらに、壁が解放されて、スリーブが、伸長して径が減少した状態を取り戻した際に、絡み合せた糸間の摩擦により引き起されるパターン保持現象により、壁は一般的に、少なくとも部分的に、その軸方向に圧縮された構成に向かって跳ね戻る傾向がある。したがって、スリーブの事実上の長さが意図せず減少する可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の概要
本発明の一局面によれば、保護繊維スリーブは、両端部間の中心長手方向軸に沿って長手方向に延在する、編組された管状壁を含む。壁は、減少した長さ、増加した断面積の第1の状態と、増加した長さ、減少した断面積の第2の状態とを有する。壁は、熱硬化された編組糸を有する。これにより壁は、何らかの力が外部から加えられなければ、実質的に第1の状態および第2の状態を保つ。
【0006】
本発明の一局面によれば、熱硬化された編組糸は壁に付勢を与え、この付勢により、壁は、何らかの力が外部から加えられなければ、第1の状態および第2の状態を保つ。
【0007】
本発明の別の局面によれば、熱硬化された編組糸のうちの少なくともいくつかは、互いに撚合せられた複数の糸を含む束にされて編組され得る。
【0008】
本発明の別の局面によれば、撚合せられた糸の束のうちの少なくともいくつかは、撚合せられた糸の別の束のループと相互に連結されたループを有するように形成され得る。
【0009】
本発明の別の局面によれば、撚合せられた糸の束のうちの少なくともいくつかは、熱硬化された糸で全体が形成され得る。
【0010】
本発明の別の局面によれば、撚合せられた糸の束のうちの少なくともいくつかは、非熱硬化性糸を含み得る。
【0011】
本発明の別の局面によれば、撚合せられた糸の束のうちの少なくともいくつかは、全体が非熱硬化性糸で形成され得る。
【0012】
本発明の別の局面によれば、壁は、撚合せられた糸の束のうちの少なくともいくつかにおけるループを通って絡み合せた非熱硬化性糸を含み得る。
【0013】
本発明の別の局面によれば、壁は、撚合せられた糸の束のうちの少なくともいくつかにおけるループを通って絡み合せた複数の非熱硬化性糸を含み得る。
【0014】
本発明の別の局面によれば、撚合せられた糸の束のうちの少なくともいくつかにおけるループを通って絡み合せた非熱硬化性糸は、束として設けられ、これらの束は、互いに隣合う関係に配置された複数の非熱硬化性糸を含むとともに、これらの束は、互いに共通のループを通って延在し得る。
【0015】
本発明の別の局面によれば、壁は、1つの螺旋方向のみに編組された、熱硬化性の撚合せられた糸の束を含み得る。これにより、スリーブの材料内容の重量およびコストが軽減される。
【0016】
本発明の別の局面によれば、糸のうちの少なくともいくつかは、熱硬化されたモノフィラメント糸と共に撚合せられ、またはこれと共に用いられた非熱硬化性マルチフィラメント糸を含み得る。これにより、壁によって提供される保護被覆率(coverage protection)が高められる。
【0017】
本発明の別の局面によれば、壁は、熱硬化された糸によって与えられた付勢に打ち勝つと、第1の状態と第2の状態との間で素早く移行し得る。
【0018】
本発明の別の局面によれば、壁は、長さが減少した第1の状態では第1の径を有し、長さが増加した第2の状態では第2の径を有してもよく、第1の径は第2の径よりも大きい。
【0019】
本発明の別の局面によれば、壁は、非円形の外周を有し得る。これにより、壁は、同様の形状をした非円形の部品に合致することが可能である。
【0020】
本発明の別の局面によれば、繊維スリーブを構成する方法は、複数の糸を互いに編組することにより、中心長手方向軸に沿った長手方向に延在する、継ぎ目のない管状壁を形成するステップを含む。糸のうちの少なくともいくつかは、熱硬化性糸として設けられる。この方法は、壁を、減少した長さ、増加した断面積の第1の状態、または、増加した長さ、減少した断面積の第2の状態のうちの一方に移行させ、次いで、壁が第1の状態または第2の状態のうちの一方の状態で、熱硬化性糸を熱硬化するステップをさらに含む。これにより、壁を第1の状態または第2の状態のうちの他方の状態に移行させる軸方向の力が外部から加えられなければ、壁は、実質的に第1の状態および第2の状態の各々を保つ。
【0021】
本発明の別の局面によれば、上記方法は、組み紐編組機(lace-braiding machine)で壁を編組するステップをさらに含み得る。
【0022】
本発明の別の局面によれば、上記方法は、糸のうちの少なくともいくつかを共に撚合せることにより、糸の束を形成するステップと、当該束を互いに編組するステップとをさらに含み得る。
【0023】
本発明の別の局面によれば、上記方法は、束のうちの少なくともいくつかにおいてループを形成するステップと、当該束のうちの1つにおけるループを、当該束のうちの別の束のループと相互に連結するステップとをさらに含み得る。
【0024】
本発明の別の局面によれば、上記方法は、束のうちの少なくともいくつかを、熱硬化性糸を含むように形成するステップをさらに含み得る。
【0025】
本発明の別の局面によれば、上記方法は、束のうちの少なくともいくつかの全体を熱硬化性糸で形成するステップをさらに含み得る。
【0026】
本発明の別の局面によれば、壁の熱形状保持能力を高めるために、上記方法は、撚合せられた糸の束のうちのすべての全体を熱硬化性糸で形成するステップをさらに含み得る。
【0027】
本発明の別の局面によれば、壁の熱形状保持能力を最適化するために、上記方法は、壁の全体を熱硬化性糸で形成するステップをさらに含み得る。
【0028】
本発明の別の局面によれば、壁によって提供される保護被覆率を高めるために、上記方法は、非熱硬化性糸を、撚合せられた糸の束のうちの少なくともいくつかと絡み合せるステップをさらに含み得る。
【0029】
本発明の別の局面によれば、壁によって提供される保護被覆率を高めるために、上記方法は、非熱硬化性糸を、撚合せられた糸の束のうちの少なくともいくつかにおけるループを通して絡み合せるステップをさらに含み得る。
【0030】
本発明の別の局面によれば、スリーブの保護被覆率を高めるために、上記方法は、束のうちの少なくともいくつかを、非熱硬化性糸を含むように形成するステップをさらに含み得る。
【0031】
本発明の別の局面によれば、スリーブの保護被覆率を高めるために、上記方法は、束のうちの少なくともいくつかを、互いに撚合せられておらず隣合う関係に配置された複数の非熱硬化性糸を含むように、形成するステップをさらに含み得る。
【0032】
本発明の別の局面によれば、スリーブの保護被覆率を高めるために、上記方法は、互いに隣合う関係に配置された非熱硬化性糸の束を、撚合せられた糸の他の束の共通のループを通るように延在させるステップをさらに含み得る。
【0033】
本発明の別の局面によれば、壁によって提供される保護被覆率を高めるために、上記方法は、束のうちの少なくともいくつかを、非熱硬化性糸と撚合せられた熱硬化性糸を含むように形成するステップをさらに含み得る。
【0034】
本発明のこれらのならびに他の局面、特徴、および利点は、以下の現在好ましい実施形態および最良の形態の詳細な説明、添付された請求項、ならびに添付図面に関連して考慮されると、より容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1A】本発明の一実施形態に従って構成された管状編組スリーブを、軸方向に圧縮されて長さが減少した第1の状態で示す、概略側面図である。
図1B】軸方向に圧縮されて長さが減少した第1の状態において、図1Aのスリーブを、保護すべき細長部材の周囲に配置した状態で示す、概略側面図である。
図1C図1Aのスリーブを、細長部材の周囲で、軸方向に伸張して長さが増加した第2の状態で示す、側面図である。
図2図1のスリーブの壁の拡大部分図である。
図3A】中央に位置するコネクタを有する細長部材の周囲に配置されたスリーブの、図1Cに類似の図である。
図3B】中間に位置する複数のコネクタを有する細長部材の周囲に配置されたスリーブの、図1Cに類似の図である。
図4】本発明の別の局面に従って構成されたスリーブを、細長部材の周囲に配置した状態で示す、図1Cに類似の図である。
図5A】本発明の別の局面に従って構成されたスリーブの壁の拡大部分図を示す、図2に類似の図である。
図5B】本発明のさらに別の局面に従って構成されたスリーブの壁の拡大部分図を示す、図2に類似の図である。
図5C】本発明のさらに別の局面に従って構成されたスリーブの壁の拡大部分図を示す、図2に類似の図である。
図5D】本発明のさらに別の局面に従って構成されたスリーブの壁の拡大部分図を示す、図2に類似の図である。
図5E】本発明のさらに別の局面に従って構成されたスリーブの壁の拡大部分図を示す、図2に類似の図である。
図5F】本発明のさらに別の局面に従って構成されたスリーブの壁の拡大部分図を示す、図2に類似の図である。
図5G】本発明のさらに別の局面に従って構成されたスリーブの壁の拡大部分図を示す、図2に類似の図である。
図5H】本発明のさらに別の局面に従って構成されたスリーブの壁の拡大部分図を示す、図2に類似の図である。
図5I】本発明のさらに別の局面に従って構成されたスリーブの壁の拡大部分図を示す、図2に類似の図である。
図5J】本発明のさらに別の局面に従って構成されたスリーブの壁の拡大部分図を示す、図2に類似の図である。
図5K】本発明のさらに別の局面に従って構成されたスリーブの壁の拡大部分図を示す、図2に類似の図である。
図5L】本発明のさらに別の局面に従って構成されたスリーブの壁の拡大部分図を示す、図2に類似の図である。
図5M】本発明のさらに別の局面に従って構成されたスリーブの壁の拡大部分図を示す、図2に類似の図である。
図6】本発明のさらに別の局面に従って構成されたスリーブの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
現在好ましい実施形態の詳細な説明
図面をより詳細に参照すれば、図1A図1Cは、本発明の一局面に従って構成された編組保護繊維スリーブ(以下でスリーブ10と呼ばれる)を示す。スリーブ10は、編組された、周方向に連続的で継ぎ目のない管状壁12を有する。管状壁12は、両端部16、18間で中心長手方向軸14に沿って長手方向に延在する。端部16、18は両方とも開口端として示されるが、端部16、18のうち一方または両方が開口端または閉口端として形成され得る。壁12は、組立て前の第1の状態を得るために、軸方向に圧縮可能である。第1の状態は、減少した長さL1、および、増加した径D1、および/または、中心長手方向軸14に対して概ね横切って切取った横断面で見たときの、増加した断面積を有する(図1Aおよび図1B)。壁12は、完全に組立てられた第2の状態を得るために、軸方向に伸張可能である。第2の状態は、増加した長さL2、および、減少した径D2、および/または減少した断面積を有する(図1C)。壁12は、熱硬化性の編組糸20を含む。編組糸20は、熱硬化されると、何らかの力が外部から加えられなければ、熱硬化された糸20が含まれる壁12の少なくとも一部を、第1の状態および第2の状態のうちの選択された状態に保たせるか、または実質的に保たせる。外部から加えられる力は、付勢に打ち勝つように選択的に加えられ得て、その結果、所望通りに第1の状態と第2の状態との間で壁12を軸方向に縮小および伸張させ得る。熱硬化された糸20は、壁12に付勢を与える。外部から加えられた力によって付勢に打ち勝つと、壁12は、新たに選択された状態(第1の状態または第2の状態)を保つ。当該状態は、壁12が好適な外力によってさらに作用され、壁12が異なる安定した構成に再び移行するまで保たれる。その後、好適な外力により作用されるまで、壁12は当該新たな安定した構成を保つ。よって、壁12は、双安定で自己持続する、軸方向に圧縮された第1の状態と、軸方向に伸張された第2の状態とを有する。ただし、第1の状態と第2の状態との間において、両端部16、18間の壁12の個々の領域を所望の数だけ処理することができることから、壁12は多安定構成を呈するように容易に処理され得ることを認識すべきである。
【0037】
壁12は、好ましくは、組み紐編組機で編組されるが、本明細書において他の編組機構も企図される。本発明の一局面によれば、糸は、全体が熱硬化性糸で設けられる場合であれ、一部のみ熱硬化性糸で設けられる場合であれ、少なくとも部分的に糸の束21として編組され得る。束21は、互いに撚合せられ得る糸の複数の端部を含む。ある糸はS方向に、他の糸はZ方向に編組され得る。これにより、個々の糸の束21を1本の糸として編組することが可能になる。図1図3に示す実施形態は、少なくとも部分的に、個々の束21が互いに編組されて構成されてもよく、各束21は、互いに撚合せられた複数の糸(糸の対として示される(図2))を含み得る。意図する用途のために、必要に応じて3つ以上の糸の端部を互いに束ねてもよいことを認識すべきである。撚合せられた糸の個々の束21は、単一のS方向もしくはZ方向、または、S方向およびZ方向の両方に編組され得る(Sは第1の螺旋方向を表わし、Zは反対の螺旋方向を表わす)。束21は、撚合せられた糸の対の各々の内に形成され、かつ、相互に連結して周方向に閉じた隙間すなわちループ22(図2)により、交差位置で互いに連結するものとして示される。したがって、束ねられた糸21の個々の対は、互いから分離できないように、互いに効果的に連結およびロックされる。壁12を第1および第2の双安定状態間で移行させるために、および、壁12または壁12の一部を、選択された状態に維持するために、熱硬化された糸20で与えられる付勢の効果は、ループ22を相互に連結することによって大幅に高まる。しかしながら、本明細書において、糸同士は連結されずに編組されてもよいことが企図される。ただし、それは、上述の安定状態があまりはっきりしなくなる可能性があるという了解の下でのことである。
【0038】
壁12を編組した後、壁12が、選択された構成の状態(たとえば、完全にまたは少なくとも部分的に軸方向に圧縮されて長さが減少した状態)で、熱硬化性糸20が熱硬化される。熱硬化性糸20は、たとえば、限定ではなく例として、約0.1mm〜0.40mmの径を有する、または、限定ではなく例として、約0.15mm〜0.25mmの厚さおよび約1.0mm〜3.5mmの幅を有する概ね平らな、ナイロン、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、またはポリプロピレン(PP)などから成る熱硬化性モノフィラメントまたは熱硬化性マルチフィラメントとして設けられ得る。付勢を最大にするために、壁12の全体が、限定ではなく例として図2に示すような、熱硬化性モノフィラメント20の撚合せられた束から形成されてもよい。ただし、たとえば、被覆率、熱的干渉、音響干渉、または電磁干渉(EMI:electromagnet interference)の改善など、摩耗以外の追加の種類の保護を提供することが望まれる場合、糸のうちの少なくともいくつかは、非熱硬化性糸24として設けられてもよい(図4)。非熱硬化性糸24としては、たとえば、玄武岩、シリカ、もしくはセラミックなどの鉱物繊維もしくはガラス繊維、または、ワイヤ、金属被覆ポリマー糸フィラメント、もしくはハイブリッド糸から成るフレキシブル導電性フィラメントなどがある。ハイブリッド糸は、たとえば、熱硬化性または非熱硬化性のモノフィラメントおよび/またはマルチフィラメントなどの別の糸フィラメントと共に用いられ、またはこれと共に撚合せられた導電性フィラメントまたは非導電性フィラメントを含む。したがって、第1の位置および第2の位置に壁12を維持するために必要な付勢を与えるのに十分な熱硬化性糸20が含まれるならば、個々の撚合せられた束21は、所望の数の熱硬化性糸20の端部と、所望の数の非熱硬化性糸24の端部とを有し得る。壁12が、非熱硬化性糸24の含有量に対して比較的低いパーセンテージの熱硬化性糸20(たとえば、限定ではなく例として、50%未満の含有量)を含む場合、熱硬化性糸20の径を増加させることができ、径範囲の上限であることができる。これにより、熱硬化性糸20が径範囲の下限近くで設けられる場合と比較して、より大きい付勢を与えることができる。
【0039】
熱硬化性糸20を熱硬化する前に、壁12が第1の状態となるまで、壁12の両端部16、18は互いの方へ軸方向に圧縮される。第1の状態とは、径方向に拡張して増加した径D1、および/または増加した断面積(中心長手方向軸14に対して概ね横切って切取った横断面で見たときに、壁12によって境界付けされた面積)、減少した長さL1の状態である。次いで、好適な度合いの熱が熱硬化性糸20に加えられる。これにより、熱硬化性糸20は熱硬化を呈する。熱硬化されると、壁12は、熱硬化された糸20により与えられた付勢を得る。この付勢は、壁12を、選択された使用時の第2の状態の構成(軸方向に伸張した長さL2、減少した径D2、および/または減少した断面積を有する:図1C)、または、組立て前の第1の状態の構成(軸方向に減少した長さL1、径方向に拡張した径D1、および/または増加した断面積を有する:図1Aおよび図1B)に維持するのに役立つ。スリーブ10がいずれの状態にあるかにかかわらず、スリーブ10は、熱硬化された糸20により与えられた付勢に打ち勝つのに十分な外部からの軸方向の力が加えられるまで、その状態を保つ。スリーブ10の中心長手方向軸14の方向に概ね沿った好適な力が壁12に加えられるとき、軸方向の力により作用された壁12の部分またはセクションがさっと素早く動き、壁12を一方の状態から他方の状態へ移行させる。その後、壁12は、第1の状態から第2の状態に移る場合であれ、その逆であれ、外部から軸方向に加えられる好適な力により再び作用されるまで、変化した状態を保つ。したがって、壁12の全体の長さが、減少した長さの第1の状態、または、増加した長さの第2の状態のうちの一方に形成されてもよいし、または、長手方向に延在する壁12の任意の数の個々の部分または区分が、所望通りに前述の第1の状態と第2の状態との間で変化するように処理されてもよいことを認識すべきである。よって、軸方向に延在する、壁12の互いに隣接する区分は、必要に応じて、第1の状態および第2の状態のうちの互いに異なる状態を保つように付勢され得る。これにより、壁は、その長さに沿ってさまざまな外形を呈することが可能である。
【0040】
熱硬化ステップの前に、スリーブの壁12は、減少した長さL1の第1の状態となるように軸方向に圧縮されながら、壁12の外周が円形以外に成形され得る。よって、外周は、中心長手方向軸14に対して概ね横切って切取った横断面で見たときに、非円形の形状に形成されてもよい。非円形の形状は、特定の最終用途のために有益であり得る如何なる所望の形状、たとえば、正方形、長方形、三角形、または如何なる多角形の非円形の形状であってもよい。次いで、減少した長さL1の第1の状態となるように壁12を形成し、壁12の外周を所望の断面形状となるように構成すると、熱硬化性糸20に熱硬化を与えるために、壁12に熱が加えられ得る。これにより、壁12は双安定の機能性を与えられるとともに、外周が、選択された形状(横断面で見たときに円形または非円形(図6))に形成される。壁12を所望の減少した長さとなるように軸方向に圧縮(完全に圧縮、または部分的に圧縮)してもよく、さらに、スリーブを仕上がりの長さに切断する前に壁12のセクションを圧縮して熱硬化してもよく、または、壁12をある長さに切断した後、壁12を所望の長さに圧縮し、次いで熱硬化してもよいことを認識すべきである。壁12を圧縮している間、壁12を曲げることなく均一に圧縮することを容易にするために、中心マンドレル(mandrel)の周囲に壁12を配置し得ることが企図される。さらに、完全に、または部分的に圧縮した状態で壁12を熱硬化することを容易にするために、マンドレルは加熱され得る。
【0041】
束ねて保護すべき細長部材23(たとえば、ワイヤハーネス、コンジット(conduit)、またはその他)の周囲にスリーブ10を組立てる際、壁12は、完全にまたは部分的に圧縮された第1の状態(図1A)となるように、その中心長手方向軸14に沿って軸方向に圧縮され得る。壁12は、当該壁12を異なる構成となるように移行させるのに十分な何らかの外部からの力が加えられなければ、第1の状態を保つか、または、実質的に第1の状態を保つ。壁12が、比較的長い場合(たとえば、約2フィート以上)、壁12全体が少なくとも部分的に軸方向に圧縮されるまで、長手方向に延在する別々の領域が軸方向に圧縮され得る。これにより、壁12の全体の長さを、第1の、軸方向に圧縮された状態に変形させることが容易になる。したがって、スリーブ10は増加した径D1および/または増加した断面積を呈し、これにより、限定ではなく例として図1Bに概略的に示すように、壁12を、より容易に即座に、保護すべき細長部材23の上に、ならびに、それに取付けられた任意の拡張コネクタまたは付属品26の上および周囲に配置することが可能になる。次いで、径方向に拡張された壁12内を通るように細長部材23を配置した後、たとえば、両端部16、18のうちの少なくとも一方を他方から軸方向に離れるように引っ張ることなどにより、軸方向の張力が壁12に加えられ得る。これにより、壁12が軸方向に伸張するとともに、壁12は、径方向に拡張して長さが減少した第1の状態から、限定ではなく例として図1Cに概略的に示すような、径方向に縮小して長さが増加した第2の状態へ、さっと移行し、または変形する。必要に応じて、壁12の任意の一部分または複数の部分は、残りの一部分または複数の部分を、軸方向に圧縮され径方向に拡張された第1の状態に保ったまま、減少した長さL1の状態から所望通りに伸長され得ることを認識すべきである。したがって、壁12は、任意の所望の軸方向長さにわたって延在するように編組され得て、保護すべき細長部材23の所望の長さにわたって軸方向に伸張され得る。壁12が、増加した長さL2、減少した径D2、および/または減少した断面積の第2の状態に移行された状態において、壁12は、たとえば所望の覆い内にワイヤハーネスなどの細長部材23を収容することにより、細長部材23を所望通りにきちんと束ねて経路付けることができる。さらに、特にワイヤハーネスが複数の個別の露出したワイヤを有する場合、編組壁12が細長部材23を束ねる役割を果たすことに加えて、壁12は、特に熱硬化性糸20がモノフィラメントとして設けられる場合に、摩耗からの保護を細長部材23に提供する役割を果たす。所望通りに、意図された用途に必要な被覆率を提供するようなインチ当たりの打込本数が定められ得ることを認識すべきである。したがって、より低い被覆率が必要な場合は、より少ないインチ当たりの打込本数を用いることが可能であり、より高い被覆率が必要な場合は、より多いインチ当たりの打込本数を用いることが可能である。さらに、インチ当たりの打込本数は、意図された用途で所望される通りに、壁12の長さに応じて変化し得る。より低い被覆率の場合、壁12を透かして見るという利点が得られる。これにより、限定ではなく例として、個々のワイヤのそれぞれの色など、スリーブ内の中身を見ることが可能になる。別の状況では、より高い被覆率を有する場合、汚れの侵入に対するさらなる保護、または、改善された音響および/または熱保護が提供され得る。
【0042】
図3Aでは、スリーブ10を、両端コネクタ26間の中央に位置するコネクタ26を有する細長部材23の周囲に延在する状態で示す。スリーブ10は、当該スリーブ10の長さの一部にわたって、第1の状態において局部的に拡張されたままであることができるため、壁12は、中央コネクタ26を収容可能である。スリーブ10の残りの部分は、組立て後、第2の状態まで長手方向に容易に伸張可能である。たとえば図3Bに示すように、所望通りに、スリーブ10の両端部16、18間に、第1の状態で拡張された領域、および第2の状態で縮小された領域が如何なる数だけ形成されてもよいことを認識すべきである。図3Bでは、細長部材23は、スリーブ10内に収容されるべき複数の中間コネクタ26を含む。これにより、スリーブ10は、当該スリーブ10の長さに沿って細長部材23の多数の異なる径方向寸法および起伏を収容し、これらに合致することが可能である。
【0043】
図4では、本発明の別の局面に従って構成されたスリーブ110を示す。ここでは、上で使用した参照番号に100を足した同じ参照番号を用いて同様の特徴を特定する。スリーブ110は、参照番号112により総称的に特定される編組壁を有する。この編組壁は上述したように熱硬化性糸120を含み、熱硬化性糸120は、熱硬化されると壁112に付勢を与える。この付勢により、壁112は、選択された第1の状態および第2の状態を保つ。したがって、壁112を移行させる何らかの力が外部から加えられなければ、壁112は、第1の状態および第2の状態のうちの選択された状態を保つ。上述したように、外部から加えられる力は、壁112(その全体、または個々の領域)に、選択的に加えられて、壁112または壁112の部分を、所望通りに、第1の状態および第2の状態のうちの一方から他方へ移行させることができる。スリーブ110の壁112は、熱硬化性糸120と編組された非熱硬化性糸124をさらに含む。非熱硬化性糸124は、所望の種類の保護を提供するような、上述した非熱硬化性材料から成るマルチフィラメント糸、および/またはモノフィラメント糸として設けられ得る。マルチフィラメント糸として設けられた場合、図4に一般的に示すように、より高い被覆率が提供されて、細長部材23が外部のごみによる汚れから保護される。さらに、マルチフィラメントはスリーブ110の柔軟性を高める。これにより、近隣の物に対する壁112の摩耗作用が減る。壁112に関して、以下で説明する実施形態の複数の編組パターンが企図される。
【0044】
図5Aでは、図4のスリーブ110の、一実施形態の壁212を示す。ここでは、上で使用した参照番号に200を足した同じ参照番号を用いて同様の特徴を特定する。分かり易くするために、壁212の拡大断片部分が示され、壁212の残りの部分は同じであると理解される。壁212は非熱硬化性糸224を含む。非熱硬化性糸224は、熱硬化性糸220と撚合せられた関係に束ねられ、個々の束221を形成するものとして示される。限定ではなく例として、1本の非熱硬化性糸224が1本の熱硬化性糸220と撚合せられているものとして示される。本発明の別の局面によれば、個々の束221は互いに編組されて壁212の全体を形成し、各束の各ループ222は、別の束221のループ222と相互に連結されるものとして示される。したがって、各束221は、熱硬化性糸220が熱硬化された際に付勢を与えることができ、一方、各束は、たとえば比較的太いマルチフィラメントなどの非熱硬化性糸224を含むことにより、より高い保護被覆率を提供することもできるという、二重の利点を提供する。
【0045】
図5Bでは、図4のスリーブ310の、別の実施形態の壁312を示す。ここでは、上で使用した参照番号に300を足した同じ参照番号を用いて同様の特徴を特定する。分かり易くするために、壁312の拡大断片部分が示され、壁312の残りの部分は同じであると理解される。本発明の別の局面によれば、壁312は非熱硬化性糸324を含み、非熱硬化性糸324は、互いに撚合せられた関係に束ねられ、撚合せられた非熱硬化性糸で個々の束321′の全体を形成するものとして示される。個々の束321′は、熱硬化性糸320を含む他の束321″(たとえば、熱硬化性糸320のみの束)と編組され得る。各束321′、321″の各ループ322は、別の束321′、321″のループ322と相互に連結されるものとして示される。非熱硬化性糸324の撚合せられた束321′と、熱硬化性糸320の撚合せられた束とは、S方向およびZ方向の各々に交互に並ぶものとして示される。
【0046】
図5Cでは、図4のスリーブ110の、別の実施形態の壁412を示す。ここでは、上で使用した参照番号に400を足した同じ参照番号を用いて同様の特徴を特定する。分かり易くするために、壁412の拡大断片部分が示され、壁412の残りの部分は同じであると理解される。壁412は、非熱硬化性糸424のみを含む束421′を含む。個々の束421′は、熱硬化性糸420および非熱硬化性糸424の両方を含む他の束421と編組され得る。各束420、421′の各ループ422は、別の束420、421′のループ422と相互に連結されるものとして示される。本実施形態では、束421は、全体が第1のS螺旋方向またはZ螺旋方向に延在するものとして示される一方、束421′は、全体が束421とは反対の第2のS螺旋方向またはZ螺旋方向に延在するものとして示される。したがって、熱硬化性糸420の使用が減る。これにより、非熱硬化性糸424によって提供される被覆率の度合いが増し、スリーブ110の可撓性の度合いがさらに向上する。
【0047】
図5Dでは、図4のスリーブ110の、別の実施形態の壁512を示す。ここでは、上で使用した参照番号に500を足した同じ参照番号を用いて同様の特徴を特定する。分かり易くするために、壁512の拡大断片部分が示され、壁512の残りの部分は同じであると理解される。図2に示すスリーブに関連して上述したように、壁512は熱硬化性糸520のみを含む撚合せられた束521を含み、束521は、S方向およびZ方向の両方に延在するものとして示される。しかしながら、壁512は、S方向およびZ方向の両方に延在する撚合せられていない非熱硬化性糸524も含む。撚合せられていない非熱硬化性糸524は、隣合う糸2本1組で編組され、各組が、撚合せられた束521の共通ループ522を通るものとして示される。撚合せられていない非熱硬化性糸524の各々は、以下のように編組される。すなわち、S方向に延在する各糸524は、S方向に延在する束521と同一螺旋方向(co-helically)に延在し、かつ、S方向に延在する束521の間に延在し、かつ、Z方向に延在する糸524の上および下に波打ち、かつ、ループ522の領域において対応する熱硬化性糸520の上および下にも波打つように編組される。また、Z方向に延在する各糸524は、Z方向に延在する束521と同一螺旋方向に延在し、かつ、Z方向に延在する束521の間に延在し、かつ、S方向に延在する糸524の上および下に波打ち、かつ、ループ522の領域において対応する熱硬化性糸520の上および下にも波打つように編組される。図面から分かるように、各糸520、524は、ある糸の上、次いで、次の糸の下に波打つ。これにより、平織に見られるパターンと同様の(ただし、当然編組されたものであるが)単純な編組が形成される。非熱硬化性糸524の存在は、柔軟性、可撓性、および、より高い保護被覆率をスリーブ110に与えるように機能する。図示の実施形態では、S方向およびZ方向の両方において、隣接する熱硬化性の束521の間に1組の非熱硬化性糸524が延在する。
【0048】
図5Eでは、図4のスリーブ110の、別の実施形態の壁612を示す。ここでは、上で使用した参照番号に600を足した同じ参照番号を用いて同様の特徴を特定する。分かり易くするために、壁612の拡大断片部分が示され、壁612の残りの部分は同じであると理解される。壁612は構成が壁512に類似している。しかしながら、撚合せられた束全体が熱硬化性糸で形成されるのではなく、撚合せられた束621(S方向またはZ方向のうちの少なくとも一方に延在し、図ではS方向およびZ方向両方に延在するものとして示される)は、非熱硬化性糸624と撚合せられた熱硬化性糸620として提供される。他の点では、壁612は、壁512に関して上述したような、撚合せられていない非熱硬化性糸624を含む。よって、壁512と比較すると、壁612には、若干減少した熱硬化性糸620が存在するとともに、若干増加した非熱硬化性糸624が存在する。
【0049】
図5Fでは、図4のスリーブ110の、別の実施形態の壁712を示す。ここでは、上で使用した参照番号に700を足した同じ参照番号を用いて同様の特徴を特定する。分かり易くするために、壁712の拡大断片部分が示され、壁712の残りの部分は同じであると理解される。壁712は構成が壁512に類似している。しかしながら、撚合せられた熱硬化性糸720の各束721の間に、撚合せられていない非熱硬化性糸が1組延在するのではなく、別個の2組の撚合せられていない非熱硬化性糸724が、撚合せられた熱硬化性糸720の各束721の間に延在する。壁512と同様に、各糸720、724は、ある糸の上、次いで、次の糸の下に波打つ。これにより、平織に見られるパターンと同様の(ただし、当然編組されたものであるが)単純な編組が形成される。熱硬化された束721の間に延在する非熱硬化性糸724の数は、意図された用途の必要条件次第で、図示のものと異なり得ることを認識すべきである。よって、さらに高い保護被覆率が所望される場合に、より多くの非熱硬化性糸724を含むことができる。
【0050】
図5Gでは、図4のスリーブ110の、別の実施形態の壁812を示す。ここでは、上で使用した参照番号に800を足した同じ参照番号を用いて同様の特徴を特定する。分かり易くするために、壁812の拡大断片部分が示され、壁812の残りの部分は同じであると理解される。壁812は構成が壁612に類似している。しかしながら、撚合せられた熱硬化性糸および非熱硬化性糸の各束の間に、撚合せられていない非熱硬化性糸が1組延在するのではなく、別個の2組の撚合せられていない非熱硬化性糸824が、撚合せられた熱硬化性糸820および非熱硬化性糸824の各束821の間に延在する。壁512と同様に、各糸820、824は、ある糸の上、次いで、次の糸の下に波打つ。これにより、平織に見られるパターンと同様の(ただし、当然編組されたものであるが)単純な編組が形成される。熱硬化された束821の間に延在する非熱硬化性糸824の数は、意図された用途の必要条件次第で、図示のものと異なり得ることを認識すべきである。よって、さらに高い保護被覆率が所望される場合に、より多くの非熱硬化性糸824を含むことができる。
【0051】
図5Hでは、図4のスリーブ110の、別の実施形態の壁912を示す。ここでは、上で使用した参照番号に900を足した同じ参照番号を用いて同様の特徴を特定する。分かり易くするために、壁912の拡大断片部分が示され、壁912の残りの部分は同じであると理解される。壁912は、S螺旋方向またはZ螺旋方向のうちの一方のみに延在する、撚合せられた熱硬化性糸920の束921と、S螺旋方向およびZ螺旋方向の両方に延在する、撚合せられていない非熱硬化性糸924とを含む。上述したのと同様に、熱硬化性糸920とは反対のS方向またはZ方向に延在する非熱硬化性糸924は、2本1組で、撚合せられた束921のループ922を通って延在する。図示のように、各組のうちの一方の非熱硬化性糸924は、ループ922の一方側の上および下に延在し、各組のうちの他方の非熱硬化性糸924は、それぞれのループ922の反対側の上および下に延在する。熱硬化性糸920に対して同じS方向またはZ方向に延在し、ひいては、熱硬化性糸920と平行かつ同一螺旋方向である非熱硬化性糸924は、熱硬化性糸920を横切る熱硬化性糸920の上および下に延在する。これは、たとえば平織に見られるようなものである(ただし、当然編組されたものであるが)。図示の実施形態では、合計6本の非熱硬化性糸が、隣接する撚合せられた束921の間に延在して示されるが、本明細書では、意図された用途の必要に応じて、その数がこれより多くてもよいし、または少なくてもよいことが企図される。
【0052】
図5Iでは、図4のスリーブ110の、別の実施形態の壁1012を示す。ここでは、上で使用した参照番号に1000を足した同じ参照番号を用いて同様の特徴を特定する。分かり易くするために、壁1012の拡大断片部分が示され、壁1012の残りの部分は同じであると理解される。壁1012は壁912に類似しており、S螺旋方向またはZ螺旋方向のうちの一方のみに延在する、撚合せられた束1021と、S螺旋方向およびZ螺旋方向の両方に延在する、撚合せられていない非熱硬化性糸1024とを含む。壁912と異なり、撚合せられた束1021は、熱硬化性糸1020と撚合せられた非熱硬化性糸1024を含む。したがって、壁912と比較すると、壁1012に含まれる熱硬化性糸は少ないが、壁912と比較すると、壁1012に含まれる非熱硬化性糸1024は多い。したがって、壁1012は、若干可撓性が高く、被覆保護の面積がより広いが、第1の状態と第2の状態との間で素早く移行する能力が若干低い。他の点では、壁1021は、壁912に関して上述したものと同じである。
【0053】
図5Jでは、図4のスリーブ110の、別の実施形態の壁1112を示す。ここでは、上で使用した参照番号に1100を足した同じ参照番号を用いて同様の特徴を特定する。分かり易くするために、壁1112の拡大断片部分が示され、壁1112の残りの部分は同じであると理解される。壁1112は壁912に類似している。しかしながら、壁1112は、S螺旋方向またはZ螺旋方向のうちの一方のみに延在する、撚合せられた束1121と、撚合せられた束1121とは反対のS螺旋方向またはZ螺旋方向のみに延在する、撚合せられていない糸1124とを含む。よって、S方向またはZ方向のうちの一方に延在するすべての糸は撚合せられた束1121である一方、撚合せられた束1121の螺旋方向とは反対のS方向またはZ方向に延在するすべての糸は、撚合せられていない糸1124である。撚合せられた束1121は、すべて熱硬化性糸1120を含むものとして示される。熱硬化性糸1120は、限定ではなく例として熱硬化性モノフィラメントとして示されるが、熱硬化性マルチフィラメントが使用されてもよいことが企図される。さらに、撚合せられていない糸1124は、すべて、たとえば上述した材料から提供され得るような非熱硬化性マルチフィラメントを含むものとして示される。撚合せられていない糸1124は、撚合せられた糸のループ1122を通って延在し、当該ループ1122により捉えられ、当該ループ1122と付勢相互作用する。したがって、S方向またはZ方向のうちの一方に延在する撚合せられた束1121は、細長部材に保護を提供して摩耗から保護することに加えて、上述したように、壁1112内に付勢を与えて、壁1112に双安定状態を提供する。一方、反対の螺旋方向SまたはZに延在する非熱硬化性の撚合せられていない糸1124は、スリーブ内に収容される細長部材に望まれる、さらなる被覆保護の種類を提供する。
【0054】
図5Kでは、図4のスリーブ110の、別の実施形態の壁1212を示す。ここでは、上で使用した参照番号に1200を足した同じ参照番号を用いて同様の特徴を特定する。分かり易くするために、壁1212の拡大断片部分が示され、壁1212の残りの部分は同じであると理解される。壁1212は壁1112に類似しており、壁1212は、S螺旋方向またはZ螺旋方向のうちの一方のみに延在する、撚合せられた束1221と、撚合せられた束1221とは反対のS螺旋方向またはZ螺旋方向のみに延在する、撚合せられていない糸1220とを含む。よって、S方向またはZ方向のうちの一方に延在するすべての糸は、撚合せられた束1221である一方、撚合せられた束1221の螺旋方向とは反対のS方向またはZ方向に延在するすべての糸は、撚合せられていない糸1220である。撚合せられた束1221は、すべて熱硬化性糸1220を含むものとして示される。熱硬化性糸1220は、限定ではなく例として熱硬化性モノフィラメントとして示されるが、熱硬化性マルチフィラメントが使用されてもよいことが企図される。壁1112と異なり、撚合せられていない糸1220は、すべて熱硬化性モノフィラメント1220を含むものとして示される。熱硬化性モノフィラメント1220は、撚合せられた糸のループ1222を通って延在し、当該ループ1222により捉えられ、当該ループ1222と付勢相互作用する。
【0055】
図5Lでは、図4のスリーブ110の、別の実施形態の壁1312を示す。ここでは、上で使用した参照番号に1300を足した同じ参照番号を用いて同様の特徴を特定する。分かり易くするために、壁1312の拡大断片部分が示され、壁1312の残りの部分は同じであると理解される。壁1312は壁1112に類似しており、顕著な相違点のみを以下に述べる。壁1312は、熱硬化性糸のみから成る撚合せられた束を含むのではなく、壁1312が含む撚合せられた束1321は、各束1321が、図5Iの壁1021に関して図示および記述したのと同様に、互いに撚合せられた熱硬化性糸1320と非熱硬化性糸1324とを含む(熱硬化性糸1320はモノフィラメントとして示されるが、本明細書では、熱硬化性マルチフィラメントも企図される)。一方、撚合せられた糸1321とは反対の螺旋方向SまたはZに延在する非熱硬化性の撚合せられていない糸1324は、撚合せられた糸1321のループ1322を通って延在し、当該ループ1322により捉えられ、当該ループ1322と付勢相互作用する。
【0056】
図5Mでは、図4のスリーブ110の、別の実施形態の壁1412を示す。ここでは、上で使用した参照番号に1400を足した同じ参照番号を用いて同様の特徴を特定する。分かり易くするために、壁1412の拡大断片部分が示され、壁1412の残りの部分は同じであると理解される。壁1412は壁1112に類似しており、顕著な相違点のみを以下に述べる。壁1412は、熱硬化性糸のみから成る撚合せられた束を含むのではなく、壁1412は、熱硬化性糸1420のみの撚合せられた束1421(モノフィラメントとして示されるが、本明細書では、熱硬化性マルチフィラメントも企図される)と、非熱硬化性糸1424のみの撚合せられた束1421′(非熱硬化性マルチフィラメントとして示される)とを含む。それぞれの撚合せられた束1421、1421′は交互に並ぶものとして示される。しかしながら、本明細書において、それぞれの撚合せられた束1421、1421′の任意の所望の数およびパターンが企図されることを認識すべきである。一方、撚合せられた糸1421、1421′とは反対の螺旋方向SまたはZに延在する非熱硬化性の撚合せられていない糸1424は、撚合せられた糸1421、1421′のループ1422を通って延在し、当該ループ1422により捉えられ、当該ループ1422と付勢相互作用する。
【0057】
上述の教示を考慮して、本発明の多くの修正および変形が可能である。加えて、本発明のさまざまな局面に従って構成された、編組された管状壁は、限定ではなく例として、保護部材、束ねる部材、または、新規な項目の用途をも含む多数の用途を呈し得ることを認識すべきである。したがって、本発明は具体的に説明されたこと以外の態様で実践され得ること、および、本発明の範囲は最終的に許可される請求項によって定義されることを理解すべきである。
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図5H
図5I
図5J
図5K
図5L
図5M
図6