(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
粉体抵抗測定機により測定される、2kNの圧力を加えたときの粉体抵抗が4500Ω以下であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、本発明が下記実施形態に限定されるものではない。
【0020】
<本正極活物質>
本発明の実施形態の一例に係るリチウム二次電池用正極活物質は、一般式(1):Li
1+xM
1−xO
2(式中、Mは、Mn、Co、Ni、周期律表の第3族元素から第11族元素の間に存在する遷移元素、及び、周期律表の第3周期までの典型元素からなる群のうちの何れか1種或いは2種以上の組合せ(これを「構成元素M」と称する)。)で表される、層状結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物からなる粒子(「本リチウム金属複合酸化物粒子」と称する)の表面に、Al、Ti及びZrからなる群のうちの何れか1種或いは2種以上の組合せ(これを「表面元素A」と称する)が存在する表面部を備えた粒子(「本粒子」と称する)を含有するリチウム二次電池用正極活物質(「本正極活物質」と称する)である。
【0021】
本正極活物質は、本粒子の他に、他の成分を含んでいてもよい。但し、本粒子の特性を効果的に得ることができる観点から、本粒子が80wt%以上、中でも90wt%以上、その中でも95wt%以上(100wt%を含む)を占めるのが好ましい。
【0022】
<本粒子>
本粒子は、本リチウム金属複合酸化物粒子の表面に、表面元素Aを含む表面部を備えた粒子である。
本粒子は、当該表面部を備えていれば、他の層や他の部分を備えていてもよい。
【0023】
(本リチウム金属複合酸化物粒子)
本リチウム金属複合酸化物粒子は、一般式(1):Li
1+xM
1−xO
2(式中、Mは、Mn、Co、Ni、周期律表の第3族元素から第11族元素の間に存在する遷移元素、及び、周期律表の第3周期までの典型元素からなる群のうちの何れか1種或いは2種以上の組合せ(これを「構成元素M」と称する)。)で表される、層状結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物からなる粒子である。
【0024】
一般式(1):Li
1+xM
1−xO
2において、「1+x」は、1.00〜1.07、中でも1.01以上或いは1.07以下、その中でも1.02以上1.06以下であるのが好ましい。
【0025】
上記式(1)中の「M」は、Mn、Co、Ni、及び、周期律表の第3族元素から第11族元素の間に存在する遷移元素、及び、周期律表の第3周期までの典型元素の何れか1種或いは2種以上の組合せであればよい。
ここで、周期律表の第3族元素から第11族元素の間に存在する遷移元素、及び、周期律表の第3周期までの典型元素としては、例えばAl、V、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、In、Cu、Zn、Nb、Zr、Mo、W、Ta、Reなどを挙げることができる。よって、「M」としては、例えばMn、Co、Ni、Al、V、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、In、Cu、Zn、Nb、Zr、Mo、W、Ta及びReのうちの何れか1種或いは2種以上の組合せであればよい。
このように、「M」は、例えばMn、Co及びNiの3元素のみから構成されていてもよいし、当該3元素に前記その他の元素の1種以上を含んでいてもよいし、その他の構成でもよい。
【0026】
上記式(1)中の「M」が、Mn、Co及びNiの3元素を含有する場合、Mn、Co及びNiの含有モル比率は、Mn:Co:Ni=0.10〜0.45:0.03〜0.40:0.30〜0.75であるのが好ましく、中でもMn:Co:Ni=0.10〜0.40:0.03〜0.40:0.30〜0.75であるのがさらに好ましい。
なお、上記一般式(1)において、酸素量の原子比は、便宜上「2」と記載しているが、多少の不定比性を有してもよい。
【0027】
本リチウム金属複合酸化物粒子は、不可避不純物を含んでいてもよい。例えば不可避不純物の元素をそれぞれ0.17wt%以下であれば含んでいてもよい。この程度の量であれば、本リチウム金属複合酸化物粒子の特性にほとんど影響しないと考えられるからである。
【0028】
(表面部)
表面部は、本リチウム金属複合酸化物粒子の表面に、Al、Ti及びZrからなる群のうちの何れか1種或いは2種以上の組合せ(これを「表面元素A」と称する)が存在するのが好ましい。
ここで述べる表面部は、粒子内部よりも表面元素Aの濃度の濃い部分が粒子表面に存在する部分を備えていることを特徴とする。
【0029】
この表面部の厚さは、電解液との反応を抑えて寿命特性を向上させると共に、出力特性とレート特性を維持乃至向上させる観点から、0.1nm〜100nmであるのが好ましく、中でも5nm以上或いは80nm以下、さらにその中でも60nm以下であるのが好ましい。
【0030】
本リチウム金属複合酸化物粒子の表面に上記表面部が存在していれば、リチウム二次電池の正極活物質として使用した場合に、電解液との反応を抑えて寿命特性が向上すると共に、従来提案されている表面処理が施された正極活物質に比べて、レート特性と出力特性を同等若しくはそれ以上にすることができる。よって、本リチウム金属複合酸化物は、リチウム二次電池の正極活物質として使用するのに好適であり、特に車載用の電池、特に電気自動車(EV:Electric Vehicle)やハイブリッド電気自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)に搭載する電池の正極活物質として特に優れている。
【0031】
本リチウム金属複合酸化物粒子の表面に、表面元素Aが存在する表面部が存在するか否かは、表面元素Aの濃度が、粒子内部よりも粒子表面の方が高いか否かで判断することができる。具体的には、例えば走査透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)で当該粒子を観察した際、当該粒子の表面部に表面元素Aのピークが認められるか否かによって判断することができる。
【0032】
本リチウム金属複合酸化物粒子は、X線光電子分光分析法(XPS)により測定される、構成元素Mの濃度(at%)(「C
M」と称する。また、構成元素Mが2種類以上の場合は濃度の合計)に対する、表面元素Aの濃度(at%)(「C
A」と称する。また、表面元素Aが2種類以上の場合は濃度の合計)の比率(C
A/C
M)が0より大きく0.8より小さいことが好ましい。なお、本リチウム金属複合酸化物粒子ではC
M>0である。
当該比率(C
A/C
M)が0.8より小さくなる程度に表面元素Aが存在すれば、電解液との反応を抑えて寿命特性を向上させることができる。また、従来提案されている表面処理が為されたリチウム金属複合酸化物粉体と比べて、低温出力特性を同等または若しくはそれ以上にすることができる。
かかる観点から、当該比率(C
A/C
M)は、0より大きく0.8より小さいことが好ましく、中でも0より大きく0.6以下、その中でも0より大きく0.5以下、さらにその中でも0.4以下であるのが好ましい。
【0033】
また、X線光電子分光分析法(XPS)により測定される、構成元素Niの濃度(at%)(「C
Ni」と称する)に対する、表面元素Aの濃度(at%)(「C
A」と称する。また、表面元素Aが2種類以上の場合は濃度の合計)の比率(C
A/C
Ni)が0より大きく2.0より小さいことが好ましく、中でも0より大きく1.6以下、その中でも0より大きく1.2以下、さらにその中でも0.8以下であるのが好ましい。なお、本リチウム金属複合酸化物粒子ではC
Ni>0である。
Niの濃度が高いと、特に高電圧での寿命劣化が大きくなるため、上記のように当該比率(C
A/C
Ni)を調整することが好ましい。
【0034】
また、上記C
Aは、0at%より大きく10at%より小さいことが好ましく、中でも0.01at%より大きく6at%以下、その中でも0.05at%より大きく5at%以下、さらにその中でも0.1at%より大きく4at%以下であるのが好ましい。 上記C
Mは、0at%より大きく30at%より小さいことが好ましく、中でも1at%より大きく25at%以下、その中でも3at%より大きく20at%以下、さらにその中でも5at%より大きく16at%以下であるのが好ましい。
上記C
Niは、0at%より大きく25at%より小さいことが好ましく、中でも0.5at%より大きく20at%以下、その中でも1at%より大きく15at%以下、さらにその中でも2at%より大きく9at%以下であるのが好ましい。
【0035】
また、構成元素Mの濃度(at%)(「C
M」と称する。また、構成元素Mが2種類以上の場合は濃度の合計)が0at%より大きく30at%より小さく、表面元素Aの濃度(at%)(「C
A」と称する。また、表面元素Aが2種類以上の場合は濃度の合計)が0at%より大きく10at%より小さく、構成元素Niの濃度(at%)(「C
Ni」と称する。)が0at%より大きく25at%より小さいことが好ましい。
各濃度を上記範囲に調整すれば、電解液との反応を抑えて寿命特性を向上させることができるうえ、従来提案されている表面処理をした正極活物質と比べて、出力特性とレート特性を同等または若しくはそれ以上にすることができる。
【0036】
このように、C
A/C
M、C
A/C
Ni、C
M、C
Ni及びC
Aのそれぞれを上記範囲に調整するためには、例えば、本リチウム金属複合酸化物粒子を表面処理する際、表面処理剤における表面元素Aの量を調整すると共に、その後の熱処理温度と熱処理時間を調整するようにすればよい。但し、これらの方法に限定するものではない。
【0037】
<結晶構造>
本リチウム金属複合酸化物粒子の結晶構造に関しては、CuKα1線を用いたXRDにより測定されるX線回折パターンにおいて、(104)面由来のピークの積分強度に対する(003)面由来のピークの積分強度の比率(003)/(104)が1.15より大きいことが好ましい。
当該比率(003)/(104)が1.00に近い程、岩塩構造が占める割合が大きいことを意味している。当該比率(003)/(104)が1.15より大きければ、岩塩構造が占める割合が小さくなり、レート特性や出力特性を良好にすることができることが分かった。
かかる観点から、本正極活物質に関しては、当該比率(003)/(104)が1.15より大きいのが好ましく、中でも1.20以上であるのが好ましい。
なお、本正極活物質に関して、当該比率(003)/(104)を1.15より大きくするには、焼成条件を調整したり、表面処理における溶媒または水の量を調整したりすればよい。但し、このような方法に限定するものではない。
【0038】
<表面リチウム不純物量>
本正極活物質は、表面リチウム不純物量が0.40wt%以下であるのが好ましい。
表面リチウム不純物量が0.40wt%以下であれば、未反応分の残存リチウムが電解液と反応して寿命特性の劣化を招く反応を抑制することができるので好ましい。
かかる観点から、本正極活物質の表面リチウム不純物量は0.40wt%以下であるのが好ましく、中でも0wt%より大きい、或いは0.30wt%以下であるのがさらに好ましい。
ここで、上記の表面リチウム不純物は、焼成した際に反応しないで残存するLiに由来するものと考えられる。よって、表面リチウム不純物量を上記範囲に調整するには、原料混合条件、焼成条件を調整して十分に反応させるとともに、表面処理条件、熱処理条件を調整することによって未反応分をさらに反応させるように調整すればよい。但し、それに限定するものではない。
【0039】
<比表面積>
本正極活物質は、比表面積(SSA)が0.2〜3m
2/gであるのが好ましい。
本正極活物質の比表面積(SSA)が0.2〜3m
2/gであれば、Liの挿入脱離する反応場を十分に確保することができるため、出力特性とレート特性を維持することができるので好ましい。
かかる観点から、本正極活物質の比表面積(SSA)は、0.2〜3m
2/gであるのが好ましく、中でも2m
2/g、その中でも1.0m
2/g以下、その中でもさらに0.8m
2/g以下であるのがさらに好ましい。
本リチウム金属複合酸化物粉末の比表面積を上記範囲とするには、焼成条件や解砕条件を調整するのが好ましい。但し、これらの調整方法に限定されるものではない。
【0040】
<表面LiOH量>
本正極活物質は、下記測定方法で測定されるLiOH量は、レート特性や出力特性向上の観点から、0.15wt%未満、その中でも0.12wt%未満であるのが好ましい。
【0041】
本正極活物質において、上記表面LiOH量を0.15wt%未満とするためには、表面処理条件、熱処理条件を調整することによって、未反応分を十分に反応させるのが好ましい。但し、これらの調整方法に限定されるものではない。
【0042】
<表面Li
2CO
3量>
本正極活物質において、下記測定方法で測定されるLi
2CO
3量は、レート特性や出力特性向上の観点から、0.30wt%未満、特に0.25wt%未満、その中でも0.20wt%未満であるのが好ましい。
(表面LiOH量、表面Li
2CO
3量の測定方法)
Winkler法を参考にして次の手順のとおり滴定を行う。試料10.0gをイオン交換水50mlに分散させ、15min浸漬させた後、ろ過し、ろ液を塩酸で滴定する。その際、指示薬としてフェノールフタレインとブロモフェノールブルーを用いて、ろ液の変色とその時の滴定量をもとにして表面LiOH量と表面Li
2CO
3量を算出する。
【0043】
本正極活物質において、上記Li
2CO
3量を0.3wt%未満とするためには、表面処理条件、熱処理条件を調整することによって、未反応分を十分に反応させるのが好ましい。但し、これらの調整方法に限定されるものではない。
【0044】
<粉体抵抗>
本正極活物質は粉体抵抗測定機により測定される、2kNの荷重を加えたときの粉体抵抗が4500Ω以下、中でも3300Ω以下、その中でも2500Ω以下とするのが好ましい。
本正極活物質の粉体抵抗を上記範囲とするには、解砕条件、表面処理条件、熱処理条件を調整するのが好ましい。但し、これらの調整方法に限定されるものではない。
【0045】
<用途>
本正極活物質は、例えば、カーボンブラック等からなる導電材と、テフロン(登録商標)バインダー等からなる結着剤と、を混合して正極合剤を製造することができる。この際、必要に応じて本正極活物質と他の正極活物質とを組み合わせて使用してもよい。
そして、このような正極合剤を正極に用い、例えば負極にはリチウムまたはカーボン等のリチウムを吸蔵・脱蔵できる材料を用い、非水系電解質には六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)等のリチウム塩をエチレンカーボネート−ジメチルカーボネート等の混合溶媒に溶解したものを用いて、リチウム2次電池を構成することができる。但し、このような構成の電池に限定する意味ではない。
【0046】
本正極活物質を正極活物質の少なくとも一つとして備えたリチウム電池は、充放電を繰り返して使用した場合に優れた寿命特性(サイクル特性)を発揮することから、特に電気自動車(EV:Electric Vehicle)やハイブリッド電気自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)に搭載するモータ駆動用電源として用いるリチウム電池の正極活物質の用途に特に優れている。
【0047】
なお、「ハイブリッド自動車」とは、電気モータと内燃エンジンという2つの動力源を併用した自動車である。
また、「リチウム電池」とは、リチウム一次電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー電池など、電池内にリチウム又はリチウムイオンを含有する電池を全て包含する意である。
【0048】
<製造方法>
本正極活物質の製造方法の一例として、例えば、アルミニウム、チタン及びジルコニウムのうちの少なくとも一種を含有する表面処理剤を用いて、層状結晶構造を有する上記リチウム金属複合酸化物の粒子粉末(「本リチウム金属複合酸化物粒子粉末」と称する)の表面処理(「表面処理工程」と称する)を行った後、該表面処理後の本リチウム金属複合酸化物粒子粉末を熱処理(「熱処理工程」と称する)する方法を挙げることができる。但し、このような方法に限定されるものではない。
但し、前記表面処理工程及び前記熱処理工程を備えていればよいから、他の工程をさらに備えていても構わない。例えば、前記熱処理工程後に解砕工程を挿入してもよいし、表面処理工程前に解砕工程や分級工程を挿入してもよい。また、その他の工程を追加してもよい。
また、本正極活物質の製造方法をこの方法に限定する意図ではない。
【0049】
(本リチウム金属複合酸化物粒子粉末の製造方法)
本リチウム金属複合酸化物粒子粉末は、原料を混合し、必要に応じて造粒、乾燥させた後、焼成、必要に応じて熱処理、さらに必要に応じて解砕して得ることができる。
但し、購入するなどして入手したリチウム金属複合酸化物粉末を所定の処理を施して、本リチウム金属複合酸化物粒子粉末として用いることもできる。
【0050】
本リチウム金属複合酸化物粒子粉末の原料に用いるリチウム化合物としては、例えば水酸化リチウム(LiOH及びLiOH・H
2Oを含む)、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、硝酸リチウム(LiNO
3)、酸化リチウム(Li
2O)、その他脂肪酸リチウムやリチウムハロゲン化物等を挙げることができる。
本リチウム金属複合酸化物粒子粉末の原料に用いるマンガン化合物の種類は、特に限定するものではない。例えば炭酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、二酸化マンガン、酸化マンガン(III)、四三酸化マンガンなどを用いることができ、中でも炭酸マンガン、二酸化マンガンが好ましい。その中でも、電解法によって得られる電解二酸化マンガンが特に好ましい。
【0051】
本リチウム金属複合酸化物粒子粉末の原料に用いるニッケル化合物の種類も特に制限はなく、例えば炭酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、オキシ水酸化ニッケル、水酸化ニッケル、酸化ニッケルなどを用いることができ、中でも炭酸ニッケル、水酸化ニッケル、酸化ニッケルが好ましい。
本リチウム金属複合酸化物粒子粉末の原料に用いるコバルト化合物の種類も特に制限はなく、例えば塩基性炭酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、オキシ水酸化コバルト、水酸化コバルト、酸化コバルトなどを用いることができ、中でも、塩基性炭酸コバルト、水酸化コバルト、酸化コバルト、オキシ水酸化コバルトが好ましい。
本リチウム金属複合酸化物粒子粉末の原料に用いるアルミニウム化合物の種類も特に制限はなく、例えば炭酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、オキシ水酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウムなどを用いることができ、中でも炭酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウムが好ましい。
【0052】
その他、上記式(1)中のM元素の水酸化物塩、炭酸塩、硝酸塩などを、本リチウム金属複合酸化物粒子粉末の原料として用いることができる。
【0053】
原料の混合方法としては、水や分散剤などの液媒体を加えて湿式混合してスラリー化させるのが好ましい。そして、後述するスプレードライ法を採用する場合には、前述の得られたスラリーを湿式粉砕機で粉砕するのが好ましい。但し、乾式粉砕してもよい。
このような原料の混合では、ニッケル原料の粗粉を除いて原料混合時の均質性を高めるため、原料を混合する前に予め、少なくともニッケル化合物を、必要に応じてニッケル化合物とアルミニウム化合物を粉砕及び分級して、ニッケル化合物の最大粒径(Dmax)が10μm以下、中でも5μm以下、その中でも4μm以下になるように調整するのが好ましい。
【0054】
原料を混合した後、必要に応じて造粒するのが好ましい。
造粒方法は、各種原料が分離せずに造粒粒子内で分散していれば湿式でも乾式でもよく、押し出し造粒法、転動造粒法、流動造粒法、混合造粒法、噴霧乾燥造粒法、加圧成型造粒法、或いはロール等を用いたフレーク造粒法でもよい。
この際、湿式造粒した場合には、焼成前に充分に乾燥させることが必要である。この際の乾燥方法としては、噴霧熱乾燥法、熱風乾燥法、真空乾燥法、フリーズドライ法などの公知の乾燥方法によって乾燥させればよく、中でも噴霧熱乾燥法が好ましい。
噴霧熱乾燥法は、熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー)を用いて行うのが好ましい(本明細書では「スプレードライ法」と称する)。
但し、例えば所謂共沈法によって焼成に供する共沈粉を作製することも可能である(本明細書では「共沈法」と称する)。共沈法では、原料を溶液に溶解した後、pHなどの条件を調整して沈殿させることにより、共沈粉を得ることができる。
【0055】
なお、スプレードライ法では、粉体強度が相対的に低く、粒子間に空隙(ボイド)が生じる傾向がある。そこで、スプレードライ法を採用する場合には、後述する焼成工程後の解砕工程において、従来の粉砕方法、例えば回転数1000rpm程度の粗粉砕機による解砕方法に比べて、解砕強度がより高い粉砕方法を採用するのが好ましい。
【0056】
本リチウム金属複合酸化物粒子粉末を得るための焼成工程では、必要に応じて500〜870℃で仮焼成した後、700〜1000℃で本焼成するのが好ましい。当該仮焼成をせずに、700〜1000℃で本焼成することも可能である。
仮焼成によって、原料に含まれる成分から発生するガス(例えばCO
2)を抜くことができる。よって、例えば炭酸リチウム(Li
2CO
3)や炭酸マンガン、炭酸ニッケル、塩基性炭酸コバルトなどの炭酸塩を原料に用いた場合には、仮焼成することが好ましい。
そして、本焼成では、仮焼成よりも高温で焼成することにより、粒子の結晶性を上げたり、所望する粒径に調整したりすることができる。
【0057】
前記仮焼成は、焼成炉にて、大気雰囲気下、酸素ガス雰囲気下、酸素分圧を調整した雰囲気下、或いは二酸化炭素ガス含有雰囲気下、或いはその他の雰囲気下において、500〜870℃の温度(:焼成炉内の焼成物に熱電対を接触させた場合の温度を意味する。)、中でも600℃以上或いは870℃以下、その中でも650℃以上或いは770℃以下で、0.5時間〜30時間保持するように焼成するのが好ましい。
焼成炉の種類は特に限定するものではない。例えばロータリーキルン、静置炉、その他の焼成炉を用いて焼成することができる。
【0058】
前記本焼成は、焼成炉にて、大気雰囲気下、酸素ガス雰囲気下、酸素分圧を調整した雰囲気下、或いは二酸化炭素ガス含有雰囲気下、或いはその他の雰囲気下において、700〜1000℃温度(:焼成炉内の焼成物に熱電対を接触させた場合の温度を意味する。)、好ましくは750℃以上或いは950℃以下、より好ましくは800℃以上或いは950℃以下、その中でもさらに好ましくは850℃以上或いは910℃以下で0.5時間〜30時間保持するように焼成するのが好ましい。この際、複数の金属元素を含む焼成物が、目的組成のリチウム金属複合酸化物の単一相とみなせる焼成条件を選択するのが好ましい。
焼成炉の種類は特に限定するものではない。例えばロータリーキルン、静置炉、その他の焼成炉を用いて焼成することができる。
【0059】
但し、仮焼成せずに本焼成する場合には、700〜1000℃、中でも750℃以上或いは950℃以下、その中でも800℃以上或いは950℃以下、その中でもさらに850℃以上或いは910℃以下で0.5時間〜30時間保持するように本焼成するのが好ましい。
【0060】
本リチウム金属複合酸化物粒子粉末を得るための焼成後の熱処理は、結晶構造の調整が必要な場合に行うのが好ましい。その際の熱処理雰囲気としては、大気雰囲気下、酸素ガス雰囲気下、酸素分圧を調整した雰囲気下などの酸化雰囲気の条件で熱処理を行うのが好ましい。
【0061】
前記焼成後、若しくは前記熱処理後の解砕は、高速回転粉砕機などを用いて解砕するのが好ましい。高速回転粉砕機によって解砕すれば、粒子どうしが凝集していたり、焼結が弱かったりする部分を解砕することができ、しかも粒子に歪みが入るのを抑えることができる。但し、高速回転粉砕機に限定する訳ではない。
【0062】
当該高速回転粉砕機の一例としてピンミルを挙げることができる。
ピンミルは、円盤回転型粉砕機として知られており、ピンの付いた回転盤が回転することで、内部を負圧にして原料供給口より粉を吸い込む方式の解砕機である。そのため、微細粒子は、質量が軽いため気流に乗りやすく、ピンミル内のクリアランスを通過する一方、粗大粒子は確実に解砕される。そのため、ピンミルで解砕すれば、粒子間の凝集や、弱い焼結部分を確実に解すことができると共に、粒子内に歪みが入るのを抑制することができる。
高速回転粉砕機の回転数は4000rpm以上にするのが好ましく、中でも5000rpm以上或いは12000rpm以下、その中でも7000rpm以上或いは10000rpm以下にするのがさらに好ましい。
【0063】
焼成後の分級は、凝集粉の粒度分布調整とともに異物除去という技術的意義があるため、好ましい大きさの目開きの篩を選択して分級するのが好ましい。
【0064】
このようにして製造される本リチウム金属複合酸化物粒子粉末は、カールフィッシャー法により110〜300℃で測定される水分量が50〜1000ppmであるのが好ましい。当該水分量が50ppm以上であれば、表面処理剤の中でも特にカップリング剤との反応を高め、表面処理効果を高めることができる。他方、水分量が1000ppm以下であれば、電池特性を同等若しくはそれ以上とすることができる点で好ましい。
かかる観点から、本リチウム金属複合酸化物粒子粉末の当該水分量は50〜1000ppmであるのが好ましく、中でも50ppm以上或いは700ppm以下、その中でも50ppm以上或いは500ppm以下、その中でもさらに400ppm以下であるのがさらに好ましい。
なお、カールフィッシャー法により110〜300℃で測定される水分量とは、カールフィッシャー水分計(例えば三菱化学株式会社製CA−100)を用いて、窒素雰囲気中で110℃にした装置内で測定サンプル(試料)を45分間加熱した後に、300℃に昇温して300℃で45分間加熱した際に放出される水分量のことである。
カールフィッシャー法により110〜300℃で測定される水分は、本リチウム金属複合酸化物粒子粉末内部に化学的に結合している水分が主であると考えられる。
【0065】
本リチウム金属複合酸化物粒子粉末の水分量を上記範囲に調整する手段としては、主として、上記のようにして製造された本リチウム金属複合酸化物粒子粉末を、乾燥させたり、除湿させたり、保管での湿度を制御したりする方法などを挙げることができる。但し、このような方法に限定するものではない。
【0066】
(表面処理工程)
上記のようにして製造された本リチウム金属複合酸化物粒子粉末を表面処理する方法としては、アルミニウム、チタン及びジルコニウムのうちの少なくとも一種を含有する表面処理剤と、上記のようにして得られた本リチウム金属複合酸化物粉末とを接触させればよい。
例えば、アルミニウム、チタン及びジルコニウムのうちの少なくとも一種を含む有機金属化合物、例えばチタンカップリング剤又はアルミニウムカップリング剤又はジルコニウムカップリング剤又はチタン・アルミニウムカップリング剤又はチタン・ジルコニウムカップリング剤又はアルミニウム・ジルコニウムカップリング剤又はチタン・アルミニウム・ジルコニウムカップリング剤などの表面処理剤を、有機溶媒に分散させてディスパージョンを作り、該ディスパージョンと、上記のようにして得た本リチウム金属複合酸化物粒子粉末と、を接触させて表面処理を行う方法を挙げることができる。
【0067】
前記の表面処理剤としては、有機官能基と加水分解性基を分子中に有する化合物を例示することができる。中でも、側鎖にリン(P)を有するものが好ましい。側鎖にリン(P)を有するカップリング剤は、バインダーとのなじみがより良いため、バインダーとの結着性に特に優れている。
【0068】
前記表面処理工程では、リチウム金属複合酸化物粉末100wt%に対し、0.1〜20wt%相当の表面処理剤を接触させるのが好ましく、中でも0.5wt%以上或いは10wt%以下、その中でも1wt%以上或いは5wt%以下、その中でもさらに1wt%以上或いは3wt%以下の表面処理剤を、本リチウム金属複合酸化物粉末に接触させるのがさらに好ましい。
【0069】
より具体的には、例えば、本リチウム金属複合酸化物粉末のモル数に対する、表面処理剤中のアルミニウム、チタン及びジルコニウムの合計モル数の割合{(M/リチウム金属複合酸化物粉末)×100(M:Al、Ti、Zr)}が0.005〜4%となるように、中でも0.04%以上或いは2%以下となるように、その中でも0.08%以上或いは1%以下となるように、その中でも特に0.08%以上或いは0.6%以下となるように、本リチウム金属複合酸化物粉末と表面処理剤とを接触させることが好ましい。
【0070】
また、本リチウム金属複合酸化物粉末中のニッケルのモル数に対する、表面処理剤中のアルミニウム、チタン及びジルコニウムの合計モル数の割合{(M/Ni)×100(M:Al、Ti、Zr)}が0.01〜13%となるように、中でも0.05%以上或いは7%以下となるように、その中でも0.1%以上或いは3.5%以下となるように、その中でも特に0.1%以上或いは2%以下となるように、リチウム金属複合酸化物粉末と表面処理剤とを接触させることが好ましい。
Niの含有量が高いと、相対的に高電圧での寿命劣化が大きくなるため、表面処理剤中のアルミニウム、チタン及びジルコニウムの合計量を含有Ni量に対する比率で調整することが好ましい。
【0071】
表面処理剤を有機溶媒又は水に分散させたディスパージョンの量については、本リチウム金属複合酸化物粉末100wt%に対し、0.2〜20wt%、中でも1wt%以上或いは15wt%以下、その中でも2wt%以上或いは10wt%以下の量、さらにその中でも2wt%以上或いは7wt%以下の量に調整し、この量のディスパージョンを本リチウム金属複合酸化物粉末に接触させるのが好ましい。
【0072】
層状結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物の場合、接触させる有機溶媒又は水の量が多いと、層状結晶構造中のリチウムが溶出してしまうため、表面処理剤の量あるいは表面処理剤を有機溶媒又は水に分散させたディスパージョンの量を、上記のように制限するのが好ましい。
また、このように少量の表面処理剤あるいは表面処理剤を、有機溶媒又は水に分散させたディスパージョンを、リチウム金属複合酸化物粉末に接触させることにより、大気又は酸素と混ざりながら表面処理剤をリチウム金属複合酸化物粉末に接触させることができる。これにより、粒子表面に酸素を残存させることができるため、後の熱処理時の有機物の酸化反応で消費される酸素の供給に寄与するものと推察することができる。
この際、上記の量の表面処理剤あるいは表面処理剤を、有機溶媒に分散させたディスパージョンは一度にリチウム金属複合酸化物粉末に接触させて混合するのではなく、何回かに分けて接触させて混合する処理を繰り返すのが好ましい。
【0073】
その他、表面処理剤として、無機化合物粉体を利用して乾式処理することも可能である。前記無機化合物粉体としては、酸化アルミニウムなど、金属酸化物が好ましい、また、水酸化アルミニウムなど金属水酸化物が好ましい。
ただし、無機化合物粉体を使用する場合は、XPSにより測定される構成元素Mの濃度C
M(構成元素Mが2種類以上の場合は濃度の合計)(at%)に対する、表面元素Aの濃度C
A(表面元素Aが2種類以上の場合は濃度の合計)(at%)の比率(C
A/C
M)や、表面部の厚みなどを制御し、抵抗成分が増加しないように条件を調整するのが好ましい。
【0074】
(表面部の付着処理)
上記のような表面処理剤を用いて表面処理を行う場合、有機溶媒又は水を揮発させるために、例えば40〜120℃に加熱して乾燥させた後、次工程の熱処理を施すのが好ましい。表面処理剤の種類によっては、120℃以上950℃未満で付着処理を行うのが好ましい。表面処理剤の種類によっては、付着処理と熱処理工程を同時に行うことができる。
【0075】
(熱処理工程)
上記表面処理工程後の熱処理工程では、表面処理後のリチウム金属複合酸化物粉末を、酸素濃度20〜100%の雰囲気下において、700〜950℃温度(:炉内の焼成物に熱電対を接触させた場合の温度、すなわち品温を意味する
。)を所定時間保持するように熱処理するのが好ましい。
このような熱処理により、有機溶媒又は水を揮発させたり、表面処理剤の側鎖を分解させたりすることができると共に、表面処理剤中のアルミニウム又はチタン又はジルコニウムを、表面からより深層方向に拡散させることができ、電解液との反応を抑えて寿命特性を向上させることができると共に、表面処理が施された従来の正極活物質に比べて、レート特性や出力特性を同等若しくはそれ以上にすることができる。
さらに、熱処理温度は本焼成温度以下とすることで、熱処理後の解砕負荷を低減できるため、好ましい。
【0076】
このような熱処理による効果をさらに高める観点から、熱処理工程における処理雰囲気は、酸素含有雰囲気とするのが好ましい。中でも、酸素濃度20〜100%の酸素含有雰囲気であるのが好ましく、中でも30%以上或いは100%以下、その中でも50%以上或いは100%以下、さらにその中でも60%以上或いは100%以下、さらにその中でも80%以上或いは100%以下である酸素含有雰囲気であるのがさらに好ましい。
【0077】
また、熱処理工程における処理温度は、700〜950℃(:焼成炉内の焼成物に熱電対を接触させた場合の温度を意味する。)であるのが好ましく、中でも750℃以上或いは900℃以下、その中でも850℃以下、さらにその中でも800℃以下であるのがさらに好ましい。
さらにまた、熱処理工程における処理時間は、処理温度にもよるが、0.5〜20時間であるのが好ましく、中でも1時間以上或いは10時間以下、その中でも3時間以上或いは10時間以下であるのがさらに好ましい。
炉の種類は特に限定するものではない。例えばロータリーキルン、静置炉、その他の焼成炉を用いて焼成することができる。
【0078】
(解砕)
上記熱処理工程後、リチウム金属複合酸化物粉末を解砕してもよい。
この際、解砕前後の比表面積(SSA)の変化率が100〜250%となる解砕強度で、リチウム金属複合酸化物粉末を解砕するのが好ましい。
熱処理後の解砕は、表面処理の効果を保持するように、表面処理層の下の新生面が露出し過ぎないように行うのが良いから、解砕前後の比表面積(SSA)の変化率が100〜200%であるのが好ましく、中でも175%以下、その中でも150%以下、その中でもさらに125%以下となるように解砕するのが好ましい。
【0079】
このような解砕方法の好ましい一例として、相対方向に高速回転する粉砕板に取り付けられたピンにより粉砕する解砕装置(例えばピンミル)を使用することができる。
表面処理後の工程で解砕を行う場合は、表面部を削りとらないように、4000〜7000rpm、中でも6500rpm以下、その中でも6000rpm以下で解砕することが好ましい。
【0080】
上記のようにした解砕後は必要に応じて分級してもよい。この際の分級は、凝集粉の粒度分布調整とともに異物除去という技術的意義があるため、好ましい大きさの目開きの篩を選択して分級するのが好ましい。
【0081】
<語句の説明>
本明細書において「X〜Y」(X、Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例】
【0082】
次に、実施例及び比較例に基づいて、本発明について更に説明する。但し、本発明が以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0083】
<実施例1>
平均粒径(D50)7μmの炭酸リチウムと、平均粒径(D50)23μmで比表面積が40m
2/gの電解二酸化マンガンと、平均粒径(D50)22μmの水酸化ニッケルと、平均粒径(D50)14μmのオキシ水酸化コバルトと、平均粒径(D50)1.4μmの水酸化アルミニウムとを、モル比でLi:Ni:Co:Mn:Al=1.05:0.46:0.21:0.27:0.01となるように秤量した。
【0084】
イオン交換水中へ、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩水溶液(サンノプコ(株)製SNディスパーサント5468)を添加した。分散剤の添加量は前記の秤量した水酸化ニッケルと水酸化アルミニウムに対して、6wt%になるようにした。
水酸化ニッケルと水酸化アルミニウムを、前述のイオン交換水中に加えて、混合攪拌して固形分濃度40wt%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式粉砕機(日本コークス製SC220/70A−VB−ZZ)を用いて1300rpm、60分間湿式粉砕し、平均粒径(D50)が0.56μm、最大粒径(Dmax)が1.9μmである粉砕スラリーを得た。
次いで、前記の秤量した電解二酸化マンガン、オキシ水酸化コバルト及び炭酸リチウムとイオン交換水とを、前記の水酸化ニッケル及び水酸化アルミニウムを含む前記粉砕スラリーに加えて、固形分濃度60wt%のスラリーに調整した。その際、分散剤を、スラリー中の固形分量に対して6wt%となるように追加した。
そのスラリーを、上記と同じ湿式粉砕機を用いて1300rpm、50分間湿式粉砕して、平均粒径(D50)が0.45μm、最大粒径(Dmax)が1.6μmである混合粉砕スラリーを得た。
得られた混合粉砕スラリーを、熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製OC−16)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には2流体ノズルを用い、噴霧圧0.6MPa、スラリー供給量14kg/hr、乾燥塔の出口温度100〜110℃となるように、温度を調節して造粒乾燥を行った。
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気雰囲気下720℃で5時間仮焼成した後、大気中905℃で22時間本焼成した。焼成して得られた焼成塊を乳鉢に入れて乳棒で解砕し、篩目開き5mmで篩分けした。篩下品を高速回転粉砕機(ピンミル、槙野産業(株)製)で解砕した(解砕条件:回転数7000rpm)。その後、目開き53μmの篩で分級し、篩下のリチウム遷移金属酸化物粉末を回収した。
【0085】
得られたリチウム金属複合酸化物粉末の、カールフィッシャー法により110〜300℃で測定される水分量は350ppmであった。
焼成して得られたリチウム金属複合酸化物粉末の化学分析を行った結果、Li
1.05Ni
0.46Co
0.21Mn
0.27Al
0.01O
2であった。
【0086】
次に、表面処理剤としてのアルミニウムカップリング剤(味の素ファインテクノ株式会社 プレンアクト(登録商標)AL−M)をリチウム金属複合酸化物粉末の重量に対して3.0wt%と、溶媒としてのイソプロピルアルコール4.0wt%とを混合して、溶媒中にアルミニウムカップリング剤が分散してなるディスパージョンを調製した。その後、焼成して得られたリチウム金属複合酸化物粉末100wt%に対して、前記ディスパージョン7.0wt%を添加して、カッターミル(岩谷産業株式会社製ミルサー720G)を用いて混合した。
次に、80℃で1時間真空乾燥し、その後、大気下、100℃で1時間、乾燥器内に置いて乾燥を行った。その後、酸素濃度100%の雰囲気下で品温を780℃で5時間維持するように熱処理してリチウム金属複合酸化物粉末を得た。
熱処理して得られたリチウム金属複合酸化物を目開き53μmの篩で分級して、篩下のリチウム金属複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0087】
<実施例2>
表面処理後の乾燥を大気下、100℃で1時間行った点と、表面処理後の熱処理温度を900℃に変更した以外、実施例1と同様にして、リチウム金属複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0088】
<実施例3>
表面処理に使用するディスパージョンを、表面処理剤としてのアルミニウムカップリング剤(味の素ファインテクノ株式会社 プレンアクト(登録商標)AL−M)をリチウム金属複合酸化物粉末の重量に対して1.0wt%と、溶媒としてのイソプロピルアルコール1.3wt%とを混合して、溶媒中にアルミニウムカップリング剤が分散してなるディスパージョンに変更した点と、表面処理後の熱処理温度770℃に変更した以外、実施例1と同様にして、リチウム金属複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0089】
<実施例4>
表面処理に使用するディスパージョンを、表面処理剤としてのアルミニウムカップリング剤(味の素ファインテクノ株式会社 プレンアクト(登録商標)AL−M)をリチウム金属複合酸化物粉末の重量に対して1.5質量部と、溶媒としてのイソプロピルアルコール2.0質量部とを混合して、溶媒中にアルミニウムカップリング剤が分散してなるディスパージョンに変更した点と、表面処理後の熱処理温度770℃に変更した以外、実施例1と同様にして、リチウム金属複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0090】
<実施例5>
表面処理後の熱処理の大気雰囲気下(酸素濃度21%)に変更した点以外は、実施例4と同様にして、リチウム金属複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0091】
<実施例6>
平均粒径(D50)7μmの炭酸リチウムと、平均粒径(D50)23μmで比表面積が40m
2/gの電解二酸化マンガンと、平均粒径(D50)22μmの水酸化ニッケルと、平均粒径(D50)14μmのオキシ水酸化コバルトと、平均粒径(D50)1.4μmの水酸化アルミニウムとを、モル比でLi:Ni:Co:Mn=1.04:0.48:0.20:0.28となるように秤量した。
【0092】
イオン交換水中へ、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩水溶液(サンノプコ(株)製SNディスパーサント5468)を添加した。分散剤の添加量は前記の秤量した水酸化ニッケルと水酸化アルミニウムに対して、6wt%になるようにした。
前記の秤量した水酸化ニッケルと水酸化アルミニウムを、前述のイオン交換水中に加えて、混合攪拌して固形分濃度40wt%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式粉砕機(日本コークス製SC220/70A−VB−ZZ)を用いて1300rpm、60分間湿式粉砕し、平均粒径(D50)が0.57μm、最大粒径(Dmax)が2.0μmである粉砕スラリーを得た。
次いで、前記の秤量した電解二酸化マンガン、オキシ水酸化コバルト及び炭酸リチウムとイオン交換水とを、水酸化ニッケル及び水酸化アルミニウムを含む前記粉砕スラリーに加えて、固形分濃度60wt%のスラリーに調整した。その際、分散剤を、スラリー中の固形分量に対して6wt%となるように追加した。
そのスラリーを、上記と同じ湿式粉砕機を用いて1300rpm、50分間湿式粉砕して、平均粒径(D50)が0.46μm、最大粒径(Dmax)が1.7μmである混合粉砕スラリーを得た。
得られた混合粉砕スラリーを、熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製OC−16)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には2流体ノズルを用い、噴霧圧0.6MPa、スラリー供給量14kg/hr、乾燥塔の出口温度100〜110℃となるように、温度を調節して造粒乾燥を行った。
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気雰囲気下700℃で5時間仮焼成した後、大気中910℃で20時間本焼成した。焼成して得られた焼成塊を乳鉢に入れて乳棒で解砕し、篩目開き5mmで篩分けした。篩下品を高速回転粉砕機(ピンミル、槙野産業(株)製)で解砕した(解砕条件:回転数7000rpm)。その後、目開き53μmの篩で分級し、篩下のリチウム遷移金属酸化物粉末を回収した。
【0093】
得られたリチウム金属複合酸化物粉末の、カールフィッシャー法により110〜300℃で測定される水分量は320ppmであった。
焼成して得られたリチウム金属複合酸化物粉末の化学分析を行った結果、Li
1.04Ni
0.48Co
0.20Mn
0.28O
2であった。
【0094】
次に、表面処理剤として、イオン交換水、クエン酸、ポリアクリル酸、アンモニアと、Evonix Industries AG製のAEROXIDE(登録商標)AluC(型番)を分散させたディスパージョンを、リチウム金属複合酸化物粉末に対して0.3wt%分を秤量し、2.0wt%のイオン交換水で希釈した。その後、前記の希釈ディスパージョン2.3wt%をリチウム金属複合酸化物粉末に添加して、カッターミル(岩谷産業株式会社製ミルサー720G)を用いて混合した。その後、酸素濃度100%の雰囲気下で品温を770℃で5時間維持するように熱処理してリチウム金属複合酸化物粉末を得た。
熱処理して得られたリチウム金属複合酸化物を目開き53μmの篩で分級して、篩下のリチウム金属複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0095】
<実施例7>
表面処理条件を、表面処理剤として、イオン交換水、クエン酸、ポリアクリル酸、アンモニアと、Evonix Industries AG製のAEROXIDE(登録商標)AluC(型番)を分散させたディスパージョンを、リチウム金属複合酸化物粉末に対して0.7wt%分を秤量し、5.3wt%のイオン交換水で希釈した点以外は、実施例6と同様にして、リチウム金属複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0096】
<実施例8>
イオン交換水へ分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩水溶液(サンノプコ(株)製SNディスパーサント5468)を添加した。後述するLi原料、Ni原料、Co原料、Mn原料などの合計量に対して、分散剤量が6wt%になるように、前記分散剤を添加した。分散剤をイオン交換水中へ十分に溶解混合させた。
【0097】
D50:7μmの炭酸リチウムと、D50:22μmの水酸化ニッケルと、D50:14μmのオキシ水酸化コバルトと、D50:23μmで比表面積が40m
2/gの電解二酸化マンガンとを、モル比でLi:Ni:Co:Mn=1.05:0.51:0.19:0.26となるように秤量した。
秤量した原料を、予め分散剤を溶解させた前述のイオン交換水中へ、混合攪拌して固形分濃度50wt%のスラリーを調製した。湿式粉砕機で1300rpm、40分間粉砕してD50を0.55μmとした。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製OC−16)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には回転ディスクを用い、回転数24000rpm、スラリー供給量220ml/min、乾燥塔の出口温度100℃になるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気中730℃で仮焼を行った。続いて、得られた仮焼粉を、静置式電気炉を用いて、900℃で20時間、本焼成した。
本焼成して得られた焼成塊を乳鉢に入れて乳棒で解砕し、篩目開き5mmで篩分けした。篩下品を高速回転粉砕機(ピンミル、槙野産業(株)製)で解砕した(解砕条件:回転数10000rpm)。その後、目開き53μmの篩で分級し、篩下のリチウム遷移金属酸化物粉体を回収した。
【0098】
次に、表面処理剤としてのチタンカップリング剤(味の素ファインテクノ株式会社 プレンアクト(登録商標)KR 46B)2.0wt%と、溶媒としてのイソプロピルアルコール5.0wt%とを混合して、溶媒中にチタンカップリング剤が分散してなるディスパージョンを調整した。その後、焼成して得られたリチウム金属複合酸化物粉末100wt%に対して、前記ディスパージョン7.0wt%を添加して、カッターミル(岩谷産業株式会社製ミルサー720G)を用いて混合した。
次に、80℃で1時間真空乾燥し、その後、大気下、100℃で1時間、乾燥機内に置いて乾燥を行った。その後、酸素濃度100%の雰囲気下で品温を770℃で5時間維持するように熱処理してリチウム金属複合酸化物を得た。
熱処理して得られたリチウム金属複合酸化物を篩目開き5mmで篩分けし、篩下品を高速回転粉砕機(ピンミル、槙野産業(株)製)で解砕した(解砕条件:回転数4000rpm)後、目開き53μmの篩で分級して、篩下のリチウム金属複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0099】
<実施例9>
表面処理に使用するディスパージョンを、表面処理剤としてのジルコニウムカップリング剤(Kenrich Petrochemicals,Inc, Ken−React(登録商標)NZ(登録商標)12)2.2wt%と、溶媒としてのイソプロピルアルコール4.9wt%とを混合して、溶媒中にジルコニウムカップリング剤が分散してなるディスパージョンに変更した点以外、実施例3と同様にして、リチウム金属複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0100】
<実施例10>
イオン交換水へ分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩水溶液(サンノプコ(株)製SNディスパーサント5468)を添加した。後述するLi原料、Ni原料、Co原料、Mn原料などの合計量に対して、分散剤量が6wt%になるように、前記分散剤を添加した。分散剤をイオン交換水中へ十分に溶解混合させた。
【0101】
D50:7μmの炭酸リチウムと、D50:22μmの水酸化ニッケルと、D50:14μmのオキシ水酸化コバルトと、D50:23μmで比表面積が40m
2/gの電解二酸化マンガンとを、モル比でLi:Ni:Co:Mn=1.05:0.51:0.19:0.26となるように秤量した。
秤量した原料を、予め分散剤を溶解させた前述のイオン交換水中へ、混合攪拌して固形分濃度50wt%のスラリーを調製した。湿式粉砕機で1300rpm、40分間粉砕してD50を0.55μmとした。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製OC−16)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には回転ディスクを用い、回転数24000rpm、スラリー供給量220ml/min、乾燥塔の出口温度100℃になるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気中700℃で仮焼を行った。続いて、得られた仮焼粉を、静置式電気炉を用いて、900℃で20時間、本焼成した。
本焼成して得られた焼成塊を乳鉢に入れて乳棒で解砕し、篩目開き5mmで篩分けした。篩下品を高速回転粉砕機(ピンミル、槙野産業(株)製)で解砕した(解砕条件:回転数10000rpm)。その後、目開き53μmの篩で分級し、篩下のリチウム遷移金属酸化物粉体を回収した。
【0102】
次に、表面処理の条件を、焼成して得られたリチウム金属複合酸化物粉末100wt%に対して、表面処理剤としての水酸化アルミニウム(昭和電工株式会社(登録商標)ハイジライト(登録商標)H−43M)0.25wt%をカッターミル(岩谷産業株式会社製ミルサー720G)を用いて混合した。その後、酸素濃度100%の雰囲気下で品温を770℃で5時間維持するように熱処理して得られたリチウム金属複合酸化物を目開き53μmの篩で分級して、篩下のリチウム金属複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0103】
<比較例1>
イオン交換水へ分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩水溶液(サンノプコ(株)製SNディスパーサント5468)を添加した。後述するLi原料、Ni原料、Co原料、Mn原料などの合計量に対して、分散剤量が6wt%になるように添加した。分散剤をイオン交換水中へ十分に溶解混合させた。
【0104】
D50:7μmの炭酸リチウムと、D50:22μmの水酸化ニッケルと、D50:14μmのオキシ水酸化コバルトと、D50:23μmで比表面積が40m
2/gの電解二酸化マンガンと、D50:3μmの酸化マグネシウムをモル比でLi:Ni:Co:Mn:Mg=1.044:0.512:0.186:0.257:0.001となるように秤量した。
秤量した原料を、予め分散剤を溶解させた前述のイオン交換水中へ、混合攪拌して固形分濃度50wt%のスラリーを調製した。湿式粉砕機で1300rpm、80分間粉砕してD50を0.45μmとした。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製OC−16)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には二流体ノズルを用い、噴霧圧0.6MPa、スラリー供給量160ml/min、乾燥塔の出口温度110℃になるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気中850℃で仮焼を行った。
続いて、得られた仮焼粉を、静置式電気炉を用いて、910℃で20時間焼成した。
焼成して得られた焼成塊を乳鉢に入れて乳棒で解砕し、目開き53μmの篩で分級し、篩下のリチウム遷移金属酸化物粉末(サンプル)を回収した。
得られたリチウム遷移金属酸化物粉末(サンプル)の化学分析を行った結果、Li
1.044Ni
0.512Co
0.186Mn
0.257Mg
0.001O
2であった。
【0105】
<比較例2>
イオン交換水へ分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩水溶液(サンノプコ(株)製SNディスパーサント5468)を添加した。後述するLi原料、Ni原料、Co原料、Mn原料などの合計量に対して、分散剤量が6wt%になるように、前記分散剤を添加した。分散剤をイオン交換水中へ十分に溶解混合させた。
【0106】
D50:7μmの炭酸リチウムと、D50:22μmの水酸化ニッケルと、D50:14μmのオキシ水酸化コバルトと、D50:23μmで比表面積が40m
2/gの電解二酸化マンガンとを、モル比でLi:Ni:Co:Mn=1.05:0.51:0.19:0.26となるように秤量した。
秤量した原料を、予め分散剤を溶解させた前述のイオン交換水中へ、混合攪拌して固形分濃度50wt%のスラリーを調製した。湿式粉砕機で1300rpm、40分間粉砕してD50を0.55μmとした。
得られた粉砕スラリーを熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー、大川原化工機(株)製OC−16)を用いて造粒乾燥させた。この際、噴霧には回転ディスクを用い、回転数24000rpm、スラリー供給量220ml/min、乾燥塔の出口温度100℃になるように温度を調節して造粒乾燥を行なった。
得られた造粒粉を、静置式電気炉を用いて、大気中700℃で仮焼を行った。
続いて、得られた仮焼粉を、静置式電気炉を用いて、900℃で20時間、本焼成した。
本焼成して得られた焼成塊を乳鉢に入れて乳棒で解砕し、篩目開き5mmで篩分けした。篩下品を高速回転粉砕機(ピンミル、槙野産業(株)製)で解砕した(解砕条件:回転数10000rpm)。その後、目開き53μmの篩で分級し、篩下のリチウム遷移金属酸化物粉体を回収した。
こうして得られたリチウム遷移金属酸化物粉体68.2wt%と、表面処理剤としてアルミミニウムイソプロポキシドを0.8wt%とをエタノール31.0wt%中で10分間混合撹拌した。30分静置後、ろ過をした。その後、酸素濃度100%の雰囲気下で品温を770℃で5時間維持するように熱処理してリチウム金属複合酸化物粉末(サンプル)を得た。
【0107】
<表面部の分析>
リチウム金属複合酸化物(サンプル)の粒子表面付近の断面を、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JEM−ARM200F」)で観察すると共に、エネルギー分散型X線分析(EDS:Energy dispersive X-ray spectrometry)で分析した。
この結果、上記実施例で得られた各実施例で得られたリチウム金属複合酸化物(サンプル)については、各粒子の表面にAl元素を多く含む層が存在していることを確認することができた。
表面部の厚みは、粒子表面部でライン分析を行い、Al元素のピークの両端の長さを表面部の厚みとして計測した。
【0108】
<XPSによる分析>
XPS(アルバック・ファイ社製「XPS Quantam2000」)により、スパッタリングしながら深さ方向の存在元素の割合を分析した。なお、表面元素、構成元素の濃度および比率は、リチウム金属複合酸化物(サンプル)の最表面の存在元素の割合を分析した。
測定に使用した機器仕様・条件等は以下の通りである。
X線源:AlKα1(1486.8eV)
管電圧:17kV
管電流:2.35mA
X線照射面積:200μmφ
測定条件:状態・半定量用ナロー測定
パスエネルギー:23.5eV
測定間隔:0.1eV
スパッタレート:1−10nm/min(SiO2換算)
【0109】
データ解析ソフト(アルバック・ファイ社製「マルチパックVer6.1A」)を用いてXPSデータの解析を行った。元素ごとに計算に用いる軌道を決定し、感度係数を考慮して解析を実施した。
Ni:2p3 感度係数2.309
Co:2p3 感度係数2.113
Mn:2p1 感度係数0.923
Al:2p 感度係数0.256
Ti:2p 感度係数2.077
Zr:3d 感度係数2.767
C:1s 感度係数0.314
O:1s 感度係数0.733
上記にて計算される元素比率はNi LMMピークの干渉を考慮し、前述の化学分析結果の組成比率と照らし合わせて、確認を実施した。
【0110】
この結果、上記実施例で得られた各リチウム金属複合酸化物(サンプル)については、構成元素Mの濃度(構成元素Mが2種類以上の場合は濃度の合計)に対する、表面元素Aの濃度(表面元素Aが2種類以上の場合は濃度の合計)の比率(C
A/C
M)が0より大きく0.8より小さいことを確認できた。
【0111】
<表面LiOH量・表面Li
2CO
3量>
Winkler法に参考にして次の手順のとおり滴定を行った。試料10.0gをイオン交換水50mlに分散させ、15min浸漬させた後、ろ過し、ろ液を塩酸で滴定する。その際、指示薬としてフェノールフタレインとブロモフェノールブルーを用いて、ろ液の変色とその時の滴定量をもとにして表面LiOH量と表面Li
2CO
3量を算出した。
【0112】
<表面リチウム不純物量の算出>
前述の滴定から計算される水酸化リチウムの量と炭酸リチウムの量を足したものを表面リチウム不純物量とした。
【0113】
<D50の測定>
実施例及び比較例で得られたリチウム金属複合酸化物粉末(サンプル)について、レーザー回折粒子径分布測定装置用自動試料供給機(日機装株式会社製「Microtorac SDC」)を用い、リチウム金属複合酸化物粉末(サンプル)を水溶性溶媒に投入し、40%の流速中、40Wの超音波を360秒間照射した後、日機装株式会社製レーザー回折粒度分布測定機「MT3000II」を用いて粒度分布を測定し、得られた体積基準粒度分布のチャートからD50を求めた。
なお、測定の際の水溶性溶媒は60μmのフィルターを通し、溶媒屈折率を1.33、粒子透過性条件を透過、粒子屈折率2.46、形状を非球形とし、測定レンジを0.133〜704.0μm、測定時間を30秒とし、2回測定した平均値をD50とした。
【0114】
<比表面積の測定>
リチウム金属複合酸化物粉末(サンプル)0.5gを秤量し、流動方式ガス吸着法比表面積測定装置MONOSORB LOOP(ユアサアイオニクス株式会社製「製品名MS‐18」)用ガラスセルに入れて、前記MONOSORB LOOP用前処理装置にて、30mL/minのガス量で窒素ガスをフローさせながら、5分間ガラスセル内を置換した後、前記窒素ガス雰囲気中で250℃10分間、処理を行った。その後、前記MONOSORB LOOPを用い、サンプル(粉末)をBET一点法にて測定した。
なお、測定時の吸着ガスは、窒素30%:ヘリウム70%の混合ガスを用いた。
【0115】
<X線回折>
実施例および比較例で得られたリチウム金属複合酸化物についてX線回折測定を行い、得られたX線回折パターンにおいて、(104)面由来のピークの積分強度に対する(003)面由来のピークの積分強度の比率(003)/(104)を算出した。
【0116】
X線回折の測定は、X線回折分析装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製D8 ADVANCE))を用いて行った。測定に使用した機器仕様・条件等は以下の通りである。
X線源:CuKα
操作軸:2θ/θ
測定方法:連続
係数単位:cps
開始角度:10°
終了角度:120° Detector:PSD
Detector Type:VANTEC−1
High Voltage:5585V
Discr. Lower Level:0.25V
Discr. Window Width:0.15V
Grid Lower Level:0.075V
Grid Window Width:0.524V
Flood Field Correction:Disabled
Primary radius:250mm
Secondary radius:250mm
Receiving slit width:0.1436626mm
Divergence angle:0.3°
Filament Length:12mm
Sample Length:25mm
Receiving Slit Length:12mm
Primary Sollers:2.623°
Secondary Sollers:2.623°
Lorentzian,1/Cos:0.004933548Th
【0117】
<電池特性評価>
実施例及び比較例で得たリチウム金属複合酸化物粉末(サンプル)8.0gと、アセチレンブラック(電気化学工業製)1.0gとを正確に計り取り、10分間乳鉢で混合した。その後、NMP(N-メチルピロリドン)中にPVDF(キシダ化学製)12wt%溶解した液8.3gを正確に計り取り、そこにリチウム金属複合酸化物粉末とアセチレンブラックの混合物を加えてさらに混合した。その後、NMPを5ml加えて十分に混合し、ペーストを作製した。このペーストを集電体であるアルミ箔上にのせ、100μm〜280μmのギャップに調整したアプリケーターで塗膜化し、140℃一昼夜真空乾燥した後、線圧が0.3t/cm
2になるようにロールプレスし、φ16mmで打ち抜き、正極とした。
電池作製直前に200℃で300min以上真空乾燥し、付着水分を除去し電池に組み込んだ。また、予めφ16mmのアルミ箔の重さの平均値を求めておき、正極の重さからアルミ箔の重さを差し引き正極合材の重さを求めた。また、リチウム金属複合酸化物粉末(正極活物質)とアセチレンブラック、PVDFの混合割合から正極活物質の含有量を求めた。
負極はφ19mm×厚み0.5mmの金属Liとし、電解液は、ECとDMCを3:7体積混合したものを溶媒とし、これに溶質としてLiPF
6を1mol/L溶解させたものを用い、
図1に示す電気化学評価用セルTOMCEL(登録商標)を作製した。
【0118】
(初期活性)
上記のようにして準備した電気化学用セルを用いて次に記述する方法で初期活性を行った。25℃にて0.2Cで4.25Vまで定電流定電位充電した後、0.2Cで3.0Vまで定電流放電した。これを2サイクル繰り返した。なお、実際に設定した電流値は正極中の正極活物質の含有量から算出した。
【0119】
(高温サイクル寿命評価:55℃高温サイクル特性)
上記のようにして初期活性を行った後の電気化学用セルを用いて下記に記述する方法で充放電試験し、高温サイクル寿命特性を評価した。
電池を充放電する環境温度を55℃となるようにセットした環境試験機内にセルを入れ、充放電できるように準備し、セル温度が環境温度になるように4時間静置後、充放電範囲を4.25V〜3.0Vとし、充電は0.2C定電流定電位、放電は0.2C定電流で1サイクル充放電行った後、1Cにて充放電サイクルを30回行った。
30サイクル目の放電容量を2サイクル目の放電容量で割り算して求めた数値の百分率(%)を高温サイクル寿命特性値として求めた。
表1には、各実施例及び比較例の高温サイクル寿命特性値を、比較例1の高温サイクル寿命特性値を100とした場合の相対値として示した。
【0120】
(高温高電圧サイクル寿命評価:45℃高温サイクル特性)
前述のようにして準備した電気化学用セルを用いて次に記述する方法で初期活性を行った。25℃にて0.2Cで4.5Vまで定電流定電位充電した後、0.2Cで3.0Vまで定電流放電した。これを2サイクル繰り返した。なお、実際に設定した電流値は正極中の正極活物質の含有量から算出した。
上記のようにして初期活性を行った後の電気化学用セルを用いて下記に記述する方法で充放電試験し、高温サイクル寿命特性を評価した。
電池を充放電する環境温度を45℃となるようにセットした環境試験機内にセルを入れ、充放電できるように準備し、セル温度が環境温度になるように4時間静置後、充放電範囲を4.5V〜3.0Vとし、充電は0.2C定電流定電位、放電は0.2C定電流で1サイクル充放電行った後、1Cにて充放電サイクルを30回行った。
30サイクル目の放電容量を2サイクル目の放電容量で割り算して求めた数値の百分率(%)を高温サイクル寿命特性値として求めた。
表1には、各実施例及び比較例の高温サイクル寿命特性値を、比較例1の高温サイクル寿命特性値を100とした場合の相対値として示した。
【0121】
(レート特性評価試験:5C/0.2C放電容量維持率)
別途、初期活性を行った後の電気化学用セルを、25℃にて4.25Vまで0.2Cで定電流充電した。充電後、3Vまで5Cで定電流放電した。5Cで3Vまで定電流放電したときの放電容量を0.2Cで3Vまで放電したときの放電容量で割ったものをレート特性の指標とした。数値が大きいほどレート特性が向上したことを示す。
【0122】
(出力特性評価試験:25℃における抵抗評価)
別途、初期活性を行った後の電気化学用セルを、25℃にてSOC50%に0.2Cで定電流充電した。充電後、3Cの電流値で10秒間放電して、充電後の電位から放電後の電位を引いたものを電位差とし、電位差を3Cの電流値で割ることによって抵抗値を求め、25℃における抵抗の指標とした。表1には、比較例1の抵抗値を100.0%とした場合の相対値(%)で示した。数値が小さいほど25℃における抵抗が小さい、つまり出力特性が向上したことを示す。
【0123】
【表1】
【0124】
<粉体抵抗値の測定>
粉体抵抗測定機を用いて、下記のようにして、2kNの圧力を加えたときの粉体抵抗値を測定した。
粉体抵抗の測定には株式会社三菱化学アナリテック製の粉体抵抗率測定ユニット「MCP−PD51」を使用した。 リチウム金属複合酸化物粉末(サンプル)3.0gを秤量し、低抵抗プローブシリンダー内に充填した。低抵抗プローブを装置本体にセット後、粉末に2kNの荷重がかかるように、プローブピストンと油圧ポンプを使って圧力調整を行った。続いて、粉末に2kNの荷重がかかった状態で、低抵抗率計「ロレスタGP(MCP−T610)」を使って、粉体の抵抗値(Ω)を測定した。
【0125】
【表2】
【0126】
(考察)
上記の実施例・比較例並びにこれまで発明者が行ってきた試験結果から、層状結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物からなる粒子の表面に、Al、Ti及びZrからなる群のうちの何れか1種或いは2種以上の組合せが存在する表面部を備えた活性粒子を含むリチウム二次電池用正極活物質に関し、XPSにより測定される構成元素Mの濃度(構成元素Mが2種類以上の場合は濃度の合計)に対する、表面元素Aの濃度(表面元素Aが2種類以上の場合は濃度の合計)の比率(C
A/C
M)が0より大きく0.8より小さければ、電解液との反応を抑えて寿命特性を向上できるとともに、従来提案されている表面処理をした正極活物質に比べて、出力特性とレート特性を同等若しくはそれ以上にできることが分かった。
【0127】
さらに、CuKα1線を用いた粉末X線回折装置(XRD)により測定されるX線回折パターンにおいて、(104)面由来のピークの積分強度に対する(003)面由来のピークの積分強度の比率(003)/(104)が1.15より大きければ、レート特性と出力特性を良好にすることができることが分かった。
【0128】
なお、上記の実施例は特定組成の層状結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物についての実施例であるが、これまで本発明者が行ってきた試験結果や技術常識からすれば、層状結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物は共通する課題を有しており、また、表面処理及び熱処理による影響も同様であるから、層状結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物であれば、その組成にかかわらず、共通して同様の効果を得ることができるものと考えることができる。
中でも、一般式Li
1+xM
1−xO
2(式中、Mは、Mn、Co、Ni、周期律表の第3族元素から第11族元素の間に存在する遷移元素、及び、周期律表の第3周期までの典型元素からなる群のうちの何れか1種或いは2種以上の組合せ(これを「構成元素M」と称する。)で表される、層状結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物からなる粒子を芯材とするものは、共通した課題及び性質を有していることから、同様の効果を得ることができるものと考えることができる。