(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る神経刺激システムの第1実施形態を、
図1から
図5を参照しながら説明する。
図1および
図2に示すように、本神経刺激システム1は、刺激リード(神経刺激電極)10と、刺激リード10に接続された刺激発生装置40とを備えている。
【0013】
刺激リード10は、弾性変形可能な付勢部材21を有し、患者(生体)Pの上大静脈(血管)Sv内に係止される留置部20と、付勢部材21に設けられた刺激部25と、上大静脈Sv内に留置されたときに生体インピーダンス(生体信号)を検出する生体信号取得部(検出部)30とを有している。
本実施形態では、付勢部材21は、刺激リード10の長手方向に平行な基準線C周りに互いに間隔を空けて複数備えられている。付勢部材21は、詳細には図示しないが、支持ワイヤと、支持ワイヤの外周面を覆う被膜とを有している。支持ワイヤは、各種形状記憶合金等から生体適合性を考慮して選択することができる。被膜は、例えば、ポリウレタンなどの樹脂で形成され、生体適合性を高めたり血栓形成を抑制したりする目的で用いられる。このように、付勢部材21は弾性変形可能な材料で形成されている。
【0014】
各付勢部材21は、長手方向の先端部および基端部が基準線C上に配置されるとともに、長手方向の中央部が基準線Cから離間するように配置されている。各付勢部材21は、互いの先端部同士が接続され、互いの基端部同士が接続されている。
各付勢部材21は、イントロデューサー等に挿通させるときには基準線Cに近づくように弾性的に変形可能である。そして、イントロデューサーを超えて挿入されたときに、自身の弾性力により基準線Cから離間するように変形することができる。
【0015】
刺激部25は、迷走神経(神経)Vnを刺激する刺激信号が印加される一対の刺激電極26、27を有している。本実施形態では、各刺激電極26、27は、導電性の面が外部に露出するように1つの付勢部材21の中央部における基準線Cとは反対側に取付けられている。各刺激電極26、27は、付勢部材21に沿って設けられた図示しない配線により後述する導線部35に接続されている。
なお、本実施形態では一対の刺激電極26、27は1つの付勢部材21に取付けられているが、一対の刺激電極26、27が互いに異なる付勢部材21にそれぞれ取付けられていてもよい。
【0016】
生体信号取得部30は、生体インピーダンスを検出するための一対の測定電極31、32を有している。この場合、生体インピーダンスの検出は公知の二端子法で行われることになるため、測定電極31、32の電極面積は大きいほうが良い。
測定電極31は付勢部材21の先端部に取付けられ、測定電極32は導線部35の先端部に取付けられている。
一対の測定電極31、32の基本構造および付勢部材21、導線部35との接続態様は、おおむね刺激電極26、27と同様であり、4つの電極のすべてにおいて他の電極との絶縁性が確保されている。測定電極31、32は、基準線Cに沿う方向において、刺激電極26、27を挟むように配置されている。
なお、測定電極32は、必ずしも導線部35に取付けられる必要はなく、付勢部材21に取付けられるようにしてもよい。測定電極31、32は、基準線Cに沿う方向において、刺激電極26、27を挟まないように配置されていてもよい。
【0017】
刺激リード10は、長手方向に延びる導線部35の先端部に接合され、導線部35により刺激発生装置40に接続されている。導線部35は、導体からなる導線が絶縁性の材料で被覆されて形成されており、公知の各種のものから生体適合性等を考慮して選択可能である。
なお、導線部35において、留置部20との接続部位から測定電極32が設けられた部位までの範囲の内部には、不図示の芯棒が配置されている。これにより、導線部35のこの範囲の部分が容易に曲がらず、概ね直線状態が保持される。その結果、生体信号取得部30は、留置部20および留置部20に設けられた刺激部25に対して、付勢部材21の変形に伴うわずかな変位を除き実質的に相対移動しない。
【0018】
刺激発生装置40は、
図1に示すように、ケーシング41と、ケーシング41の外面に取付けられたスイッチ42と、ケーシング41に内蔵され、刺激信号を発生させる刺激生成部43、測定電極31、32で検出された生体インピーダンスの測定値の1つを基準生体インピーダンス測定値(基準生体信号測定値)として記憶する記憶部44、留置部20が上大静脈Svに沿って移動したか否かを判定する判定部45、およびスイッチ42、刺激生成部43、記憶部44および判定部45に接続され、刺激発生装置40全体の制御を行う制御部46とを備えている。
【0019】
スイッチ42としては、通常は接点間が遮断されているOFF状態になっていて、ボタンを押すことで接点間が導通されているON状態になる公知の構成のものなどを、適宜選択して用いることができる。スイッチ42は、術者などの使用者がOFF状態からON状態に切替えることで指示を入力するためのものである。
刺激生成部43は、定電流方式または定電圧方式による電気的刺激である刺激信号を発生させることができる。刺激生成部43で発生した刺激信号は、刺激リード10の刺激部25に送られる。
【0020】
記憶部44は不図示のメモリーを有していて、このメモリーに基準生体インピーダンス測定値を記憶する。
判定部45は、不図示の演算素子およびメモリーなどを有している。メモリーには、演算素子の制御プログラムや、生体インピーダンスについての正の数である閾値などが記憶されている。判定部45の演算素子は、測定電極31、32が検出する生体インピーダンスの測定値と、記憶部44に記憶された基準生体インピーダンス測定値とを比較して、留置部20が上大静脈Svに沿って移動したか否かを判定する。判定部45が判断した結果は、ケーシング41の外面に取付けられた液晶パネルなどの表示部47に表示される。
【0021】
より具体的に説明すると、生体インピーダンスの測定値が基準生体インピーダンス測定値に閾値を加えた値以上のときには、判定部45は制御部46を介して表示部47に信号を送る。これにより、表示部47に、生体インピーダンスの測定値が大きすぎることを表す警告を表示させる。一方で、生体インピーダンスの測定値が基準生体インピーダンス測定値から閾値を引いた値以下のときには、判定部45は表示部47に信号を送り、生体インピーダンスの測定値が小さすぎることを表す警告を表示させる。判定部45は、表示部47に警告を表示させると同時に、刺激生成部43が発生する刺激信号を停止させる。
判定部45によるこの判定は、例えば数秒などのような刻み時間ごとに繰り返し行われる。
【0022】
次に、以上のように構成された神経刺激システム1の刺激リード10を
図2に示す上大静脈Svに留置し、留置後に上大静脈Svに対する刺激リード10の移動を検知する本実施形態の刺激リード10の移動検知方法について説明する。なお、一般的に上大静脈Svは、心臓Htの右心房Ht1に近づくにしたがって内径が大きくなり、右心房Ht1に近づくにしたがって近傍に収容される血液の量も多くなる。上大静脈Svよりも右心房Ht1の方が、近傍に収容される血液の量が多くなる。留置部20の自然状態における外径は、上大静脈Svの内径より大きく設定される。
【0023】
まず、使用者は、患者Pに対して、詳しい図示はしないが頸部近傍を切開して不図示の開口を形成する。この開口に、公知のイントロデューサー等を装着して、神経刺激システム1の刺激リード10を留置部20側から導入する。このとき、X線下で留置部20の支持ワイヤや導線部35の導線などの位置を確認することで、刺激リード10の位置を確認しながら導入する。留置部20の各付勢部材21は弾性変形可能な材料で形成されているため、イントロデューサーに留置部20を挿入することができる。
上大静脈Svに留置部20を導入すると、留置部20の外径が前述のように設定されているため、上大静脈Svの内壁に留置部20の各付勢部材21および刺激電極26、27が接触する。
【0024】
刺激発生装置40の刺激生成部43により刺激信号を発生させる。発生した刺激信号は刺激電極26、27間に印加される。イントロデューサーから患者Pの体外に突出している導線部35の基端部を操作して、上大静脈Svに対して刺激リード10を基準線C周りに回転させたり、上大静脈Svに沿って押し引きしながら患者Pに取付けた心電計などにより心拍数を測定する。刺激電極26、27が迷走神経Vnに近づいて対向するように配置され、刺激電極26、27から迷走神経Vnに伝達される刺激信号が大きくなったときに、患者Pの心拍数が最も低下する。
使用者は、心拍数が最も低下するように、すなわち、刺激電極26、27が迷走神経Vn側に向き、刺激電極26、27が迷走神経Vnに近づくように、上大静脈Svに対する留置部20の基準線C周りの向きおよび上大静脈Svに沿った位置を位置決めする。
【0025】
上大静脈Svに対する留置部20の位置決めを終えたら、使用者はスイッチ42を押す。測定電極31、32は生体インピーダンスを検出し、使用者がスイッチ42を押して指示を入力した基準時刻における生体インピーダンスの測定値が、基準生体インピーダンス測定値として記憶部44に記憶される。
この上大静脈Svに留置部20を接触させ係止させた状態で、上大静脈Sv内に刺激リード10を留置する。この例では、留置時において刺激発生装置40は患者Pの体外に配置される。
【0026】
刺激リード10を留置した後は、所定のタイミングで刺激電極26、27により刺激信号を印加し、上大静脈Svの管壁越しに迷走神経Vnを刺激し、患者Pに対する神経刺激治療を行う。
これと並行して、測定電極31、32は刻み時間ごとに生体インピーダンスを検出する。判定部45は、生体インピーダンスの測定値と、記憶部44に記憶された基準生体インピーダンス測定値とを比較して、留置部20が上大静脈Svに沿って移動したか否かを判定する。
【0027】
上大静脈Svに沿って留置部20が右心房Ht1側に移動したときには、留置部20の近傍に収容される血液の量が多くなる。筋肉などの固体よりも血液などの液体の方がインピーダンスが小さいため、留置部20が右心房Ht1側に移動したときに生体インピーダンスの測定値が小さくなる。判定部45は、生体インピーダンスの測定値が基準生体インピーダンス測定値から自身のメモリーに記憶された閾値を引いた値以下になったときに、表示部47に生体インピーダンスの測定値が小さすぎること、すなわち、留置部20が右心房Ht1側に移動したことを表す警告を表示させる。
一方で、上大静脈Svに沿って留置部20が右心房Ht1とは反対側、すなわち頭側に移動したときには、留置部20の近傍に収容される血液の量が少なくなるため生体インピーダンスの測定値が大きくなる。判定部45は、生体インピーダンスの測定値が基準生体インピーダンス測定値から自身のメモリーに記憶された閾値を加えた値以上になったときに、表示部47に生体インピーダンスの測定値が大きすぎること、すなわち、留置部20が頭側に移動したことを表す警告を表示させる。
【0028】
判定部45は、表示部47に警告を表示させると同時に、刺激生成部43が発生する刺激信号を停止させる。
【0029】
表示部47に表示された警告を見た使用者は、警告の内容にしたがって導線部35の基端部を操作し、上大静脈Svに沿った留置部20の位置を調節する。制御部46を操作して、刺激生成部43による刺激信号の発生を再開させる。
【0030】
以上説明したように、本実施形態の刺激リード10の移動検知方法および神経刺激システム1によれば、使用者は刺激リード10を導入したときに留置部20の上大静脈Svに沿った位置を位置決めする。使用者がスイッチ42により指示を入力した基準時刻において、生体インピーダンスの測定値が基準生体インピーダンス測定値として記憶部44に記憶される。
判定部45が、測定電極31、32による生体インピーダンスの測定値と記憶部44に記憶された基準生体インピーダンス測定値とを比較し、刺激リード10が上大静脈Svに沿って移動したか否かを判定するため、刺激リード10の上大静脈Svに沿った移動を好適に検知することができる。
【0031】
なお、本実施形態では、
図3に示す神経刺激システム1Aのように導線部35に取付けられた測定電極32を備えてもよい。測定電極32は、刺激リード10を留置したときに、患者Pの頸部P1の皮膚直下の部分の血管内に配される。
このように構成することで、測定電極32が基準となり、該測定電極32と血管内壁との間の距離が体動などにより変化することによる、生体インピーダンスの変化を測定することができる。
【0032】
図4に示す神経刺激システム1Bのように、生体信号取得部50が、一対の測定電極31、32に加えて、一対の測定電極51、52を有するように構成してもよい。この例では、測定電極51、52は1つの付勢部材21に取付けられている。基準線Cに沿う方向において、測定電極51、52は測定電極31、32に挟まれるように配置されている。この場合、生体インピーダンスの検出は公知の四端子法で行われることになり、例えば、測定電極31、32により電流を印加し、測定電極51、52により電位差を測定する。測定した電位差から生体インピーダンスを検出する。
神経刺激システム1Bをこのように構成することで、生体信号取得部50が有する測定電極の数は4つとなるが、生体インピーダンスをより正確に測定することができる。
【0033】
なお、神経刺激システム1Bでは、互いに距離が近い測定電極を用いて血液の組成の変化による血液導電度の変化を測定してもよい。
例えば
図5に示す神経刺激システム1Cの測定電極31、51の組合せによる2端子法による測定、もしくは測定電極32、52の組合せによる2端子法による測定を用いてもよい。そして4端子法を用いて測定した生体インピーダンスへの血液組成の変化による影響を補正する。血液導電度の変化を測定するための測定電極の距離は、血液以外のインピーダンスによる影響を避けるため、できるだけ近い距離であることが望ましい。具体的には、測定電極31と測定電極51との距離、測定電極32と測定電極52との距離は、できるだけ近い距離であることが望ましい。
神経刺激システム1Cが測定電極51、52を備えずに、刺激電極26、27が測定電極を兼ねるように構成してもよい。このように構成することで、神経刺激システム1Cを小型化することができる。
【0034】
神経刺激システム1において、導線部35における測定電極32の近傍に新たに測定電極を設け、新たに設けた測定電極と測定電極32とを用いた二端子法での生体インピーダンスの測定で、血液の組成の変化による血液導電度の変化を測定してもよい。そして、測定電極31、32で測定する生体インピーダンスの補正を行う。
公知の二重周波数法を用いて留置部20の周囲の血液の量を測定し、その測定結果に基づいて測定電極31、32で測定する生体インピーダンスの補正を行ってもよい。
【0035】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について
図6および
図7を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図6に示すように、本神経刺激システム2は、第1実施形態の神経刺激システム1の生体信号取得部30に代えて、血管内圧(血液の圧力、生体信号)を検出するための圧力センサ56、ケーシング41に内蔵された圧力変換部57、および圧力センサ56と圧力変換部57とを接続する接続チューブ58を有する生体信号取得部55を備えている。
【0036】
圧力センサ56は、公知のバルーンで形成されていて、留置部20の各付勢部材21の基端部に取付けられている。圧力変換部57は、接続チューブ58を介して圧力センサ56に生理食塩水などの流体を供給することができる。
圧力センサ56および接続チューブ58を介して圧力変換部57に作用する圧力により、圧力変換部57は圧力センサ56が取付けられた部分における血管内圧を測定することができる。
【0037】
このように構成され上大静脈Svに留置された神経刺激システム2の刺激リード60の移動を検知する本実施形態の刺激リード60の移動検知方法について説明する。
なお、一般的に上大静脈Svは、心臓Htの右心房Ht1に近づくにしたがって、静脈圧が低くなり、静脈圧の圧力変動が大きくなる。
【0038】
上大静脈Svに対する留置部20の位置決めを終えたら、使用者はスイッチ42を押す。生体信号取得部55は静脈圧を検出し、使用者がスイッチ42を押して指示を入力した基準時刻における静脈圧の測定値が、基準静脈圧測定値として記憶部44に記憶される。
上大静脈Sv内に刺激リード60を留置すると、生体信号取得部55は刻み時間ごとに静脈圧を検出する。判定部45は、静脈圧の測定値と、記憶部44に記憶された基準静脈圧測定値とを比較して、留置部20が上大静脈Svに沿って移動したか否かを判定する。
より詳しく説明すると、判定部45は、静脈圧の測定値が基準静脈圧測定値から自身のメモリーに記憶された閾値を引いた値以下になったときに、表示部47に静脈圧の測定値が低すぎること、すなわち、留置部20が右心房Ht1側に移動したことを表す警告を表示させる。一方で、判定部45は、静脈圧の測定値が基準静脈圧測定値から自身のメモリーに記憶された閾値を加えた値以上になったときに、表示部47に静脈圧の測定値が高すぎること、すなわち、留置部20が頭側に移動したことを表す警告を表示させる。
判定部45は、表示部47に警告を表示させると同時に、刺激生成部43が発生する刺激信号を停止させる。
【0039】
なお、静脈圧は呼吸により変動を受ける。しかし、呼吸の呼気終末に圧力測定のタイミングを揃え、呼吸による静脈圧の変動をキャンセルし、留置部20の移動による静脈圧の変動を測定することで、留置部20の移動をより正確に検知をすることができる。
また、体位によっても静脈圧の変動が発生する。体位変動による静脈圧の変動をキャンセルするために、神経刺激システム2が加速度センサを備えてもよい。加速度センサにより患者Pの体位が同一であることを検知し、同一体位での静脈圧の変化を比較することで、留置部20の移動による静脈圧の変化をより正確に検知することができる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態の刺激リード60の移動検知方法および神経刺激システム2によれば、刺激リード60の上大静脈Svに沿った移動を好適に検知することができる。
なお、本実施形態では、留置部20の移動を静脈圧の測定値で検出したが、静脈圧の圧力変動で検出してもよい。
【0041】
本実施形態では、
図7に示す神経刺激システム2Aのように、生体信号取得部55が、圧力センサ56とは別の第2圧力センサ59を備えるように構成してもよい。第2圧力センサ59は、不図示の接続チューブを介して圧力変換部57と接続されている。
第2圧力センサ59は、刺激リード60を留置したときに、患者Pの頸部P1の皮膚直下の部分の血管内に配される。生体信号取得部55は、圧力センサ56、第2圧力センサ59により、それぞれ静脈圧を測定することができる。
【0042】
このように構成された神経刺激システム2Aでは、刺激リード60が上大静脈Svに沿って移動しても、第2圧力センサ59は患者Pの頸部P1の皮膚直下の部分の血管内に配された状態が維持される。この頸部P1の皮膚直下の部分の血管における静脈圧は、血管に沿った移動による影響をほとんど受けない。一方で、患者Pが驚いた場合などには、患者Pの静脈圧は一時的ではあるが全体的にほぼ等しく上昇する。圧力センサ56による静脈圧の測定値に代えて、圧力センサ56による静脈圧の測定値と第2圧力センサ59による静脈圧の測定値との差を用いることで、静脈圧の一時的な上昇による影響を抑え、刺激リード60の上大静脈Svに沿った移動をより好適に検知することができる。
【0043】
本実施形態の神経刺激システム2では、圧力センサ56をバルーンで形成するのでなく、圧電素子を用いて構成してもよい。
神経刺激システム2が加速度センサにより体位を検知し、例えば立位と臥位での第1圧力センサと第2圧力センサの差を記憶してもよい。記憶した差に基づいて体位による圧力変化をキャンセルすることで、留置部20の移動による圧力変動を正確に検知することができる。
【0044】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について
図8を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図8に示すように、本神経刺激システム3は、第1実施形態の神経刺激システム1の生体信号取得部30に代えて、血液の流速(生体信号)を検出するための流速センサ66を有する生体信号取得部65を備えている。流速センサ66としては、血液の流速を検出可能な公知の構成のものを適宜選択して用いることができる。
流速センサ66は、留置部20の各付勢部材21の基端部に取付けられている。
【0045】
このように構成され上大静脈Svに留置された神経刺激システム3の刺激リード70の移動を検知する本実施形態の刺激リード70の移動検知方法について説明する。
なお、一般的に上大静脈Sv内では、心臓Htの右心房Ht1に近づくにしたがって血液の流速が遅くなる。
【0046】
上大静脈Svに対する留置部20の位置決めを終えたら、使用者はスイッチ42を押す。生体信号取得部65は血液の流速を検出し、使用者がスイッチ42を押して指示を入力した基準時刻における血液の流速の測定値が、基準血流速測定値として記憶部44に記憶される。
上大静脈Sv内に刺激リード70を留置すると、生体信号取得部65は刻み時間ごとに血液の流速を検出する。判定部45は、血液の流速の測定値と、記憶部44に記憶された基準血流速測定値とを比較して、留置部20が上大静脈Svに沿って移動したか否かを判定する。
【0047】
より詳しく説明すると、判定部45は、血液の流速の測定値が基準血流速測定値から自身のメモリーに記憶された閾値を引いた値以下になったときに、表示部47に血液の流速の測定値が遅すぎること、すなわち、留置部20が右心房Ht1側に移動したことを表す警告を表示させる。一方で、判定部45は、血液の流速の測定値が基準血流速測定値から自身のメモリーに記憶された閾値を加えた値以上になったときに、表示部47に血液の流速の測定値が速すぎること、すなわち、留置部20が頭側に移動したことを表す警告を表示させる。
判定部45は、表示部47に警告を表示させると同時に、刺激生成部43が発生する刺激信号を停止させる。
【0048】
なお、静脈内の血液の流速は呼吸により変動を受ける。しかし、呼吸の呼気終末に圧力測定のタイミングを揃え、呼吸による血液の流速の変動をキャンセルし、留置部20の移動による血液の流速の変動を測定することで、留置部20の移動をより正確に検知をすることができる。
また、体位によっても静脈内の血液の流速の変動が発生する。体位変動による血液の流速の変動をキャンセルするために、神経刺激システム3が加速度センサを備えてもよい。加速度センサにより患者Pの体位が同一であることを検知し、同一体位での血液の流速の変化を比較することで、留置部20の移動による血液の流速の変化をより正確に検知することができる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態の刺激リード70の移動検知方法および神経刺激システム3によれば、刺激リード70の上大静脈Svに沿った移動を好適に検知することができる。
なお、本実施形態では、刺激リード70を留置したときに、患者Pの頸部P1の皮膚直下の部分の血管内に配される第2流速センサを生体信号取得部65が備えてもよい。この頸部P1の皮膚直下の部分の血管における血液の流速は、血管に沿った移動による影響をほとんど受けない。一方で、患者Pが驚いた場合などには、患者Pの血液の流速は一時的ではあるが全体的にほぼ等しく上昇する。流速センサ66による血液の流速の測定値に代えて、流速センサ66による血液の流速の測定値と第2流速センサによる血液の流速の測定値との差を用いることで、血液の流速の一時的な上昇による影響を抑え、刺激リード70の上大静脈Svに沿った移動をより好適に検知することができる。
【0050】
加速度センサにより体位を検知し、例えば立位と臥位の両方での第1流速センサと第2流速センサの差を記憶してもよい。記憶した差に基づいて体位による流速変化をキャンセルすることで、留置部20の移動による流速変化を正確に検知することができる。
【0051】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について
図9を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図9に示すように、本神経刺激システム4は、第1実施形態の神経刺激システム1の生体信号取得部30に代えて、付勢部材21の変形量を検出するひずみセンサ76を有する検出部75を備えている。
ひずみセンサ76は、公知の構成のものを適宜選択して用いることができる。ひずみセンサ76は、付勢部材21に接着剤などで取付けられている。
【0052】
このように構成され上大静脈Svに留置された神経刺激システム4の刺激リード80の移動を検知する本実施形態の刺激リード80の移動検知方法について説明する。
上大静脈Svに対する留置部20の位置決めを終えたら、使用者はスイッチ42を押す。検出部75は付勢部材21の変形量(ひずみ)を検出し、使用者がスイッチ42を押して指示を入力した基準時刻における付勢部材21の変形量の測定値が、基準変形量測定値として記憶部44に記憶される。
上大静脈Sv内に刺激リード80を留置すると、検出部75は刻み時間ごとに付勢部材21の変形量を検出する。判定部45は、付勢部材21の変形量の測定値と、記憶部44に記憶された基準変形量測定値とを比較して、留置部20が上大静脈Svに沿って移動したか否かを判定する。
【0053】
より詳しく説明すると、判定部45は、付勢部材21の変形量の測定値が基準変形量測定値から自身のメモリーに記憶された閾値を引いた値以下になったときに、表示部47に付勢部材21の変形量の測定値が小さすぎること、すなわち、留置部20が右心房Ht1側に移動したことを表す警告を表示させる。一般的に上大静脈Svは、心臓Htの右心房Ht1に近づくにしたがって内径が大きくなるため、留置部20が右心房Ht1側に移動すると付勢部材21の変形量が小さくなる。ここで、体動などで瞬間的に血管の内径が変化したとしても、変形量の数値の変化が連続的でなかったり、急激に変化したりするような場合には、その変化率を測定場所や測定時間ごとに比較することによって判別し、正確な判定を保つようにすることもできる。
一方で、判定部45は、付勢部材21の変形量の測定値が基準変形量測定値から自身のメモリーに記憶された閾値を加えた値以上になったときに、表示部47に付勢部材21の変形量の測定値が大きすぎること、すなわち、留置部20が頭側に移動したことを表す警告を表示させる。
判定部45は、表示部47に警告を表示させると同時に、刺激生成部43が発生する刺激信号を停止させる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態の刺激リード80の移動検知方法および神経刺激システム4によれば、刺激リード80の上大静脈Svに沿った移動を好適に検知することができる。
【0055】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態について
図10を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図10に示すように、本神経刺激システム5は、第1実施形態の神経刺激システム1の生体信号取得部30、スイッチ42および記憶部44に代えて、留置部20の加速度を検出する加速度センサ86を有する検出部85を備えている。すなわち、本神経刺激システム5には、スイッチ42および記憶部44は備えられていない。
加速度センサ86は、6分力を測定可能な公知の構成のものを用いることが好ましい。6分力とは、加速度センサ86に固定された互いに直交する3軸に平行な力、および、各軸周りのモーメントのことを意味する。
加速度センサ86は、留置部20の付勢部材21に接着剤などで取付けられている。
【0056】
このように構成され上大静脈Svに留置された神経刺激システム5の刺激リード90の移動を検知する本実施形態の刺激リード90の移動検知方法について説明する。
上大静脈Svに対する留置部20の位置決めを終えたら、使用者は上大静脈Sv内に刺激リード90を留置する。
検出部85は刻み時間ごとに留置部20の加速度を検出する。判定部45は、留置部20の加速度の測定値と自身のメモリーに記憶された閾値とを比較して、留置部20が上大静脈Svに対して移動したか否かを判定する。例えば、3つの力を合成したものの大きさ、または、3つのモーメントを合成したものの大きさのいずれかが閾値以上であれば、留置部20が上大静脈Svに対して移動したと判定する。
この場合、判定部45は、表示部47に留置部20の加速度の測定値が大きすぎること、すなわち、留置部20が上大静脈Svに対していずれかの軸方向、または軸周りに移動したことを表す警告を表示させる。
判定部45は、表示部47に警告を表示させると同時に、刺激生成部43が発生する刺激信号を停止させる。
【0057】
本実施形態では、判定部45は、刺激リード90の上大静脈Svに沿った方向への移動だけでなく、3次元空間内の任意の方向への移動や回転を検出することができる。
以上説明したように、本実施形態の刺激リード90の移動検知方法および神経刺激システム5によれば、刺激リード90の上大静脈Svに対する任意の方向の移動や回転を好適に検知することができる。
【0058】
なお、本実施形態では、検出部85が加速度センサ86とは別の第2加速度センサを備えるように構成してもよい。第2加速度センサは刺激発生装置40に設けられている。体動により心臓Htとの位置が変化しないように、刺激発生装置40は、体表、例えば胸部などに固定されている。第2加速度センサは、導線部35の先端部などに設けてもよい。
加速度センサ86による留置部20の加速度の測定値に代えて、加速度センサ86による留置部20の加速度の測定値と第2加速度センサによる加速度の測定値との差を用いることで、体動による刺激リード90の加速度を、上大静脈Svに対する刺激リード90の加速度から分離することができる。したがって、上大静脈Svに対する刺激リード90の加速度をより正確に検出することができる。
【0059】
以上、本発明の第1実施形態から第5実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。さらに、各実施形態で示した構成のそれぞれを適宜組み合わせて利用できることは、言うまでもない。
例えば、前記第1実施形態から第5実施形態では、神経刺激システムに表示部47を備え、判定部45の判定結果に応じて表示部47に警告を表示することで使用者に注意を促すとともに、刺激生成部43が発生する刺激信号を停止させた。しかし、神経刺激システム1に表示部47に代えてスピーカーを備え、このスピーカーが発する音により使用者に注意を促してもよい。また、神経刺激システム1に表示部47を備えずに、刺激生成部43が発生する刺激信号を停止させるだけでもよい。
【0060】
刺激リードを上大静脈Sv内に留置する場合について説明した。しかし、刺激リードを留置する血管は上大静脈Svに限られず、上大静脈Sv以外の静脈や動脈などでもよい。例えば、刺激リードを膝窩静脈内に留置して、腓骨神経などの神経に刺激信号を印加してもよい。
生体インピーダンス、血圧、血液の流速である生体信号を検出して、刺激リードが上大静脈Svに対して移動したか否かを判定した。しかし、刺激リードに移動の判定に用いられる生体信号はこれに限られず、心電波形など生体が発する任意の生体信号を用いることができる。