特許第6626273号(P6626273)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6626273
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】露光装置及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20191216BHJP
【FI】
   G03F7/20 501
   G03F7/20 521
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-113351(P2015-113351)
(22)【出願日】2015年6月3日
(65)【公開番号】特開2016-224375(P2016-224375A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(72)【発明者】
【氏名】浅石 忠弘
【審査官】 今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−222363(JP,A)
【文献】 特表2011−520271(JP,A)
【文献】 特開2006−134932(JP,A)
【文献】 特開平11−354425(JP,A)
【文献】 特開平10−032160(JP,A)
【文献】 特開平10−340854(JP,A)
【文献】 特開2005−175040(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0244941(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027、21/30
G03F 7/20−7/24、9/00−9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を露光する露光装置であって、
光源からの光を整形して、前記基板上の露光領域の形状を規定する開口を形成するためのブレードと、
前記ブレードの複数の箇所に設けられた複数の駆動部を含み、前記複数の駆動部を駆動することで前記開口の形状を調整する調整部と、
前記調整部を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、前記複数の駆動部のそれぞれの駆動量と、前記開口を通過して前記基板上の前記露光領域の各位置座標に入射する光の光量との関係を示す感度マトリクス及び前記基板上の目標光量に基づいて、前記複数の駆動部のそれぞれの駆動量を決定し、決定した駆動量に基づいて前記複数の駆動部を駆動させ、
前記感度マトリクスは、1つの駆動部の駆動に対する前記各位置座標に入射する光の光量の変化の感度を示す係数を要素として含むことを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記感度マトリクスの逆行列又は擬似逆行列である制御ゲインマトリクスを求め、前記制御ゲインマトリクスを用いて前記複数の駆動部のそれぞれの駆動量を決定することを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
記基板上の前記露光領域内の光量を制御すべき第1位置座標を設定する設定部を更に有し、
前記制御部は、前記第1位置座標に対応する前記感度マトリクスの要素を用いて前記制御ゲインマトリクスを求めることを特徴とする請求項2に記載の露光装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記基板上の前記露光領域内の光量を制御すべき第1位置座標での目標光量を取得し、前記感度マトリクス及び前記第1位置座標での目標光量に基づいて、前記複数の駆動部のそれぞれの駆動量を決定することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1位置座標に対してユーザが設定した設定光量から前記設定露光量が設定されていない位置座標での目標光量を取得することを特徴とする請求項4に記載の露光装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第2位置座標について、前記設定光量を用いた補間処理によって目標光量を取得することを特徴とする請求項5に記載の露光装置。
【請求項7】
記基板上の前記露光領域の各位置座標に入射する光の光量を計測するための計測部を更に有し、
前記制御部は、前記複数の駆動部のそれぞれについて、当該駆動部を少なくとも2つの駆動位置に駆動して、前記2つの駆動位置のそれぞれで前記基板上の前記露光領域の各位置座標について前記計測部による計測を行うことで前記感度マトリクスを求めることを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記基板上の領域における光量むらが閾値以下となる場合の前記複数の駆動部の位置を基準位置として、前記基準位置から予め定められた範囲において前記2つの駆動位置を設定することを特徴とする請求項7に記載の露光装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記基板上の前記露光領域の各位置座標のうち前記1つの駆動部の駆動に対して有効な前記感度を有する範囲内の位置座標のみについて前記計測部計測の結果に基づいて、前記感度マトリクスを求めることを特徴とする請求項7又は8に記載の露光装置。
【請求項10】
前記感度マトリクスを記憶する記憶部を更に有することを特徴とする請求項1乃至9のうちいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項11】
前記基板に転写するパターンを有するマスクを照明する照明光学系を更に有し、
前記照明光学系は、前記マスクを照明する照明条件を変更する変更部を含み、
前記記憶部は、前記照明条件ごとに前記感度マトリクスを記憶することを特徴とする請求項10に記載の露光装置。
【請求項12】
基板を露光する露光装置であって、
光源からの光を整形して、前記基板上の露光領域の形状を規定する開口を形成するためのブレードと、
前記ブレードの複数の箇所に設けられた複数の駆動部を含み、前記複数の駆動部を駆動することで前記開口の形状を調整する調整部と、
前記調整部を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、前記複数の駆動部のそれぞれの駆動量と、前記開口を通過して前記基板上の前記露光領域の各位置座標に入射する光によって形成されるパターンの寸法との関係を示す感度マトリクス及び前記パターンの目標寸法に基づいて、前記複数の駆動部のそれぞれの駆動量を決定し、決定した駆動量に基づいて前記複数の駆動部を駆動させ、
前記感度マトリクスは、1つの駆動部の駆動に対する前記各位置座標に入射する光によって形成されるパターンの寸法の変化の感度を示す係数を要素として含むことを特徴とする露光装置。
【請求項13】
請求項1乃至12のうちいずれか1項に記載の露光装置を用いて基板を露光する工程と、
露光した前記基板を現像する工程と、
を有することを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ICやLSIなどの半導体素子、液晶パネルなどの表示素子、磁気ヘッドなどの検出素子、CCDなどの撮像素子を含む各種デバイスやマイクロメカニクスで用いる微細パターンを製造する際に、露光装置が用いられている。この種の典型的な露光装置において、光源からの光は、オプティカルインテグレータとして機能するフライアイレンズ又はマイクロフライアイレンズを介して、多数の光源からなる実質的な面光源としての2次光源を形成する。2次光源からの光は、コンデンサレンズによって集光され、パターンが形成されたマスク又はレチクルを重畳的に照明する。マスクを通過した光は、投影光学系を介して、基板上に結像する。これにより、基板には、マスクのパターンが転写される。但し、基板にマスクのパターンを正確に転写するためには、基板上において均一な露光光量を得ることが不可欠となる。
【0003】
そこで、マスクと光学的に共役な位置に、露光光量のむらに応じて開口幅を調整可能な開口幅調整機構を備えた可変ブレード(絞り)を配置して、露光光量のむらを補正する技術が提案されている(特許文献1及び2参照)。例えば、特許文献1には、開口幅の変更にかかわらず、開口幅が変化しない位置を不動位置とし、露光領域の端部を不動位置と略一致させる技術が開示されている。また、特許文献2には、被照明面における照度むら(基板上における露光光量のむら)の2次以上の成分を補正するために、スリット形状の照明領域(露光領域)を規定する長辺のうちの片方を2次以上の成分を含む曲線形状に形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−175040号公報
【特許文献2】特開2006−134932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、デバイスの実装密度を向上させるために、基板に転写されるパターンの微細化が要求されており、それに伴い、基板に転写されるパターンに許容される露光線幅の誤差が厳しくなってきている。露光線幅の誤差を低減するためには、基板上での露光光量を均一にすることが有効である。従って、可変ブレードは、より多くの開口幅調整機構を備える傾向にある。
【0006】
また、基板上での露光光量を更に均一にするためには、可変ブレードを複雑な形状に可変させる必要がある。この場合、可変ブレードにかかる応力を解放するために、可変ブレードと開口幅調整機構との連結部分には、応力を逃がす機構が必要となる。従って、可変ブレードの駆動特性が非常に複雑になるため、露光領域の全域で露光光量を制御することが困難となる。更に、基板上での露光光量の均一性を低下させる要因として、可変ブレードに照射される光の照度分布もあるため、可変ブレードの駆動特性を考慮して、より高い精度で露光光量のむらを補正する技術が要求されている。
【0007】
一方、露光線幅の均一性を向上させるために、基板上での露光光量を積極的に変化させる技術が提案されている。かかる技術は、塗布や現像などのプロセス要因で発生する露光線幅のばらつきを露光光量で補正するものであって、露光線幅制御と呼ばれる。デバイスの製造工程においては、デバイスごとに露光領域などの製造条件が最適化されている。従って、露光線幅制御の精度を向上させるためには、デバイスの製造条件に応じて、可変ブレードを最適に制御しなければならない。
【0008】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、基板上での光量を調整するのに有利な露光装置を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての露光装置は、基板を露光する露光装置であって、光源からの光を整形して、前記基板上の露光領域の形状を規定する開口を形成するためのブレードと、前記ブレードの複数の箇所に設けられた複数の駆動部を含み、前記複数の駆動部を駆動することで前記開口の形状を調整する調整部と、前記調整部を制御する制御部と、を有し、前記制御部は、前記複数の駆動部のそれぞれの駆動量と、前記開口を通過して前記基板上の前記露光領域の各位置座標に入射する光の光量との関係を示す感度マトリクス及び前記基板上の目標光量に基づいて、前記複数の駆動部のそれぞれの駆動量を決定し、決定した駆動量に基づいて前記複数の駆動部を駆動させ、前記感度マトリクスは、1つの駆動部の駆動に対する前記各位置座標に入射する光の光量の変化の感度を示す係数を要素として含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば、基板上での光量を調整するのに有利な露光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一側面としての露光装置の構成を示す概略図である。
図2図1に示す露光装置のスリット部の構成の一例を示す平面図である。
図3図1に示す露光装置の動作を説明するためのフローチャートである。
図4】スリット部の駆動部の駆動量と基板上での露光光量との関係を示す図である。
図5図2に示すスリット部における開口の近傍を示す図である。
図6図5に示すスリット部の駆動部の駆動に対する基板上の位置座標での露光光量の変化を示す図である。
図7図5に示すスリット部の駆動部のそれぞれに対する基板上の各位置座標の感度の一例を示す図である。
図8】感度マトリクスと、可変ブレードに設けられた各駆動部の駆動量と、基板上の各位置座標での露光光量の調整量との関係を示す図である。
図9図2に示すスリット部における開口の近傍を示す図である。
図10】制御ゲインマトリクスと、可変ブレードに設けられた各駆動部の駆動量と、基板上の各位置座標での露光光量の調整量との関係を示す図である。
図11】基板上での露光光量の制御精度を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。また、各図において、基板面上で互いに直交する方向のうち、走査方向をY軸方向、他方をX軸方向とし、基板面に直交する方向をZ軸方向とする。
【0014】
図1は、本発明の一側面としての露光装置100の構成を示す概略図である。露光装置100は、物品としての半導体素子、表示素子、検出素子、撮像素子などのデバイスの製造に用いられるリソグラフィ装置である。露光装置100は、本実施形態では、ステップ・アンド・スキャン方式を採用し、光源からの光(スリット光)を用いて基板を露光(走査露光)する。
【0015】
露光装置100は、図1に示すように、照明光学系1と、アライメントスコープ2と、投影光学系4と、基板ステージ16と、計測部17と、制御部18とを有する。原版としてのマスク(レチクル)3は、アライメントスコープ2と投影光学系4との間に配置されている。基板15は、基板ステージ16に保持されている。
【0016】
照明光学系1は、基板15に転写するパターンを有するマスク3を照明する光学系である。照明光学系1は、例えば、光源5と、第1コンデンサレンズ6と、フライアイレンズ7と、平面鏡10と、第2コンデンサレンズ8と、スリット部200と、結像光学系9とを含む。
【0017】
光源5は、例えば、高圧水銀ランプや楕円ミラーを含む。光源5から射出された光は、第1コンデンサレンズ6及びフライアイレンズ7を通過し、平面鏡10で反射され(光路を折り曲げられ)、基板15における露光領域の形状を調整する機能を有するスリット部200に入射する。
【0018】
スリット部200は、マスク3における照明領域の形状、即ち、マスク3を照明する光の断面形状を、例えば、X軸方向に長い円弧形状になるように規定する視野絞りとして具現化される。スリット部200は、フライアイレンズ7のフーリエ変換面となっており、マスク3と光学的に共役な位置に配置されている。
【0019】
結像光学系9は、スリット部200を通過した光で、投影光学系4の物体面、即ち、マスク3を照明するように配置されている。
【0020】
また、照明光学系1は、マスク3を照明する照明条件を変更する変更部を含む。照明条件は、例えば、マスク3を照明する光の入射角度分布や照度分布などの光学特性を含む。変更部には、例えば、フライアイレンズ7の射出面に配置された絞りを用いることができる。かかる絞りを変更することで、輪帯照明、大σ照明、小σ照明などの照明条件を切り替えることが可能となる。但し、フライアイレンズ7の射出面に配置された絞りを変更すると、スリット部200に入射する光の照度分布が変化するため、基板上での露光光量のむらも変化する。従って、照明条件を切り替える際には、フライアイレンズ7の射出面に配置された絞りを変更することに加えて、スリット部200を制御して照明条件ごとに基板上での露光光量のむらを最適化する必要がある。但し、照明条件を変更する変更部は、上述した構成に限定されるものではない。例えば、フライアイレンズ7の射出面に配置される絞りは、フライアイレンズ7の入射面側に配置してもよい。
【0021】
アライメントスコープ2は、マスク3に設けられたアライメントマークと基板15に設けられたアライメントマークとを、投影光学系4を介して同時に検出する。
【0022】
投影光学系4は、照明光学系1によって照明されたマスク3のパターンの像を基板15に投影する光学系である。投影光学系4は、例えば、第1平行平板12aと、平面鏡13と、凹面鏡11と、凸面鏡14と、第2平行平板12bとを含む。マスク3は、投影光学系4の物体面に配置され、基板15は、投影光学系4の像面に配置されている。投影光学系4は、等倍光学系、拡大光学系及び縮小光学系のいずれかの光学系として構成されるが、本実施形態では、等倍光学系として構成されている。
【0023】
マスク3を通過した光は、第1平行平板12a、平面鏡13の第1面13a、凹面鏡11の第1面11a、凸面鏡14、凹面鏡11の第2面11b、平面鏡13の第2面13b及び第2平行平板12bを順に経て、基板15に入射する。これにより、照明光学系1によって照明されたマスク3のパターンの像は、基板上に結像する。
【0024】
計測部17は、例えば、基板ステージ16に配置された光量センサを含み、スリット部200を通過して基板上の各位置座標に入射する光の光量を計測する。
【0025】
制御部18は、演算部18aと、記憶部18bとを含み、露光装置100の全体を制御する。換言すれば、制御部18は、露光装置100の各部を統括的に制御することで、露光装置100の動作を制御する。また、制御部18は、後述するように、基板上の露光光量を制御すべき位置座標などを設定(決定)する設定部として機能する。演算部18aは、スリット部200の制御に関する処理、例えば、スリット部200を制御するための指令値の演算処理を行う。記憶部18bは、スリット部200の制御に関するパラメータ、例えば、後述する感度マトリクスや制御ゲインマトリクスを記憶する。
【0026】
図2は、スリット部200の構成の一例を示す平面図である。スリット部200は、基板15における露光領域の形状を調整することで、マスク3と基板15とを走査しながら基板15を露光する際に、かかる露光領域に生じる露光光量のむらを補正する。スリット部200は、例えば、可変ブレード201と、固定ブレード202とを含む。スリット部200は、可変ブレード201と固定ブレード202との間に形成される開口OPによって、基板15における露光領域EEの形状(即ち、開口OPを通過して基板15に入射する光の光量)を規定する。可変ブレード201は、固定ブレード202と協同して、光源5からの光を整形して形状を規定する開口OPを形成する。可変ブレード201及び固定ブレード202は、本実施形態では、円弧形状の開口OPを形成するため、露光領域EEの形状も円弧形状となる。但し、露光領域EEの形状は、円弧形状に限定されるものではなく、例えば、矩形形状であってもよい。
【0027】
また、スリット部200は、可変ブレード201の複数の箇所に設けられた複数の駆動部203、204、205、206、207、208及び209を含む。複数の駆動部203乃至209のそれぞれは、可変ブレード201を押し引きして開口OPのY軸方向の開口幅を局所的に変更する。このように、スリット部200は、複数の駆動部203乃至209を駆動することで開口OPの形状を調整する調整部としての機能も有する。
【0028】
複数の駆動部203乃至209のそれぞれは、例えば、回転方向逃げ機構210と、X軸方向逃げ機構211と、Z軸方向逃げ機構212と、調整部材213とを含む。調整部材213がアクチュエータなどによって押し引きされることで、回転方向逃げ機構210、X軸方向逃げ機構211及びZ軸方向逃げ機構212を介して、可変ブレード201が移動し、開口OPのY軸方向の開口幅が局所的に変更される。これにより、基板15における露光領域EEの形状を調整し、基板上での露光光量のむらを制御することができる。アクチュエータは、例えば、アクチュエータの応答特性に基づいて、オープン・ループ制御方式で駆動すればよい。また、複数の駆動部203乃至209に変位センサ(不図示)を設けて、それぞれの駆動量を計測し、所定の駆動量又は駆動位置に達するまでアクチュエータを駆動するクローズド・ループ制御方式を採用してもよい。
【0029】
以下、スリット部200の制御について説明する。スリット部200は、制御部18によって、開口OPを通過する光の基板上での光量が目標光量となるように制御される。図3(a)及び図3(b)は、スリット部200の制御に関する処理を含む露光装置100の動作を説明するためのフローチャートである。スリット部200の制御に関する処理は、スリット部200の制御に関するパラメータを取得する感度マトリクス取得処理と、スリット部200による基板上での露光光量のむらを制御するスリット駆動処理とを含む。
【0030】
図3(a)を参照して、感度マトリクス取得処理について説明する。S301では、感度マトリクスを取得すべき照明条件を設定する。本実施形態においては、フライアイレンズ7の射出面に配置される絞りやスリット部200(駆動部203乃至209)を駆動することで、照明条件の設定(切り替え)が行われる。
【0031】
S302では、S301で設定された照明条件に応じて、スリット部200の駆動部203乃至209のそれぞれを基準位置へ駆動する。ここで、基準位置とは、感度マトリクスを取得する際における駆動部203乃至209の初期位置であって、例えば、基板上での露光光量むらが閾値以下となる場合の駆動部203乃至209の位置である。
【0032】
図4は、駆動部203乃至209の駆動量と基板上での露光光量との関係を示す図であって、駆動量[mm]を横軸に採用し、露光光量[%]を縦軸に採用している。図4では、駆動部203乃至209の駆動量が0[mm]である場合の基板上での露光光量を100[%]としている。駆動部203乃至209を+2[mm]駆動させると、基板上での露光光量は105[%]となり、駆動部203乃至209を−2[mm]駆動させると、基板上での露光光量は97[%]となる。スリット部200は、駆動部203乃至209を駆動することで、基板上での露光光量を調整するが、駆動部203乃至209の駆動量と基板上での露光光量との関係は、図4に示すように、必ずしもリニアな特性にならない。図4を参照するに、駆動部203乃至209の駆動範囲が広くなるほど、即ち、駆動部203乃至209の駆動量が大きくなるほど、リニアリティエラーが大きくなる。リニアリティエラーを低減するためには、駆動部203乃至209の駆動範囲を狭くすることが有効である。
【0033】
そこで、本実施形態では、照明条件ごとに、駆動部203乃至209の基準位置を変更可能にしている。基板15に転写されるパターンの寸法、所謂、露光線幅の均一性を向上させるために基板上での露光光量を積極的に変化させる露光線幅制御は、塗布や現像などのプロセス要因で発生する露光線幅のばらつきを露光光量で補正するものである。従って、露光線幅制御では、基板上での所定の露光光量のむらを基準として、プロセス要因で発生するエラー成分を調整することになるため、駆動部203乃至209の基準位置を適切に設定することで、リニアリティエラーの影響を最小限に低減することができる。具体的には、基板上での露光光量のむらをフラットに調整したときの駆動部203乃至209の駆動位置を基準位置としてもよいし、デバイスの製造プロセスにおいて、露光線幅が最も均一となるときの駆動部203乃至209の駆動位置を基準位置としてもよい。
【0034】
S303、S304及びS305において、駆動部203乃至209のそれぞれについて、その駆動量と、開口OPを通過して開口OPに対応する基板上の領域の各位置座標に入射する光の光量との関係を示す感度マトリクスを取得する。感度マトリクスは、後述するように、駆動部203乃至209のうちの1つの駆動部の駆動に対する開口OPに対応する基板上の領域の各位置座標に入射する光の光量の変化の感度を示す係数を要素として含む。
【0035】
図5は、図2に示すスリット部200における開口OPの近傍を示す図である。スリット部200は、可変ブレード201に設けられた(複数の駆動部203乃至209に対応する)7つの駆動部A1乃至A7を含む。また、開口OPに対応する基板上の領域内のM1乃至M11は、計測部17によって露光光量を計測すべき基板上の位置座標(露光光量の計測位置)を示している。但し、可変ブレード201に設けられる駆動部の数や露光光量の計測位置は、これに限定されるものではない。例えば、露光光量の計測位置は、可変ブレード201に設けられる駆動部の数以上であればよく、20箇所、或いは、40箇所以上であってもよい。
【0036】
本実施形態では、可変ブレード201に設けられた駆動部A1乃至A7を1つずつ(即ち、1軸ごとに)駆動し、基板上の位置座標M1乃至M11のそれぞれについて計測部17による露光光量の計測を行う。図6は、駆動部A1の駆動に対する基板上の位置座標M1での露光光量の変化を示す図であって、駆動部A1の駆動量[mm]を横軸に採用し、基板上の位置座標M1での露光光量[%]を縦軸に採用している。図6では、駆動部A1の駆動量が0[mm]である場合の基板上の位置座標M1での露光光量を100[%]としている。例えば、駆動部A1の基準位置を+1.2[mm]とし、基準位置を中心として、駆動部A1を±0.8mm駆動し、基準位置及び2つの駆動位置のそれぞれで基板上の位置座標M1での露光光量を計測する。このようにして計測された位置座標M1での露光光量、即ち、3つの計測データから求まる直線の傾きを、駆動部A1の駆動に対する位置座標M1に入射する光の光量の変化の感度(以下、「駆動部に対する位置座標の感度」と称する)とする。本実施形態では、基準位置を含む3つの駆動位置に駆動部A1を駆動しているが、少なくとも2つの駆動位置に駆動部A1を駆動すれば、駆動部A1に対する位置座標M1の感度を求めることが可能である。換言すれば、駆動部A1乃至A7のそれぞれについて、駆動対象の駆動部を少なくとも2つの駆動位置に駆動して、かかる2つの駆動位置のそれぞれで基板上の各位置座標M1乃至11について露光光量を計測すればよい。また、各駆動部A1乃至A7の基準位置から予め定められた範囲において、即ち、リニアリティエラーを許容できる範囲において、2つの駆動位置を設定するとよい。
【0037】
図7は、駆動部A1乃至A7のそれぞれに対する基板上の各位置座標M1乃至M11の感度(感度特性)の一例を示す図である。図7では、基板上の各位置座標M1乃至M11を横軸に採用し、各駆動部A1乃至A7に対する基板上の各位置座標M1乃至M11の感度を縦軸に採用している。図7を参照するに、スリット部200は、可変ブレード201の全域に、駆動部A1乃至A7に対する感度を持たせることで、可変ブレード201の全域の制御を可能としている。
【0038】
図3に戻って、S303では、可変ブレード201に設けられた複数の駆動部のうちの1つの駆動部を駆動する。例えば、上述したように、駆動部A1から駆動部A7まで順に、基準位置、基準位置−0.8[mm]の駆動位置及び基準位置+0.8[mm]の駆動位置に駆動するものとする。但し、各駆動部A1乃至A7を1回駆動させるごとに、S304に移行して、基板上の位置座標M1乃至M11のそれぞれについて計測部17による計測を行う。
【0039】
S304では、上述したように、基板上の各位置座標M1乃至M11で露光光量を計測する。但し、露光光量の計測は、必ずしも、基板上の位置座標M1乃至M11の全てについて行わなくてもよい。図7に示すように、駆動部A1乃至A7のうちの駆動対象の駆動部から離れている位置座標ほど、その感度が低下するため、駆動対象の駆動部からある距離以上離れている位置座標は、その感度を無視することができる。従って、露光光量の計測は、基板上の位置座標M1乃至M11のうち、駆動対象の駆動部に対して有効な感度を有する範囲、即ち、駆動対象の1つの駆動部の駆動に対して光量が変化する位置座標のみに限定することが可能である。例えば、図7を参照するに、駆動対象が駆動部A4である場合には、基板上の位置座標M1乃至M11のうち、5つの位置座標M4、M5、M6、M7及びM8について、計測部17による露光光量の計測を行えばよい。なお、露光光量を計測していない位置座標M1、M2、M3、M9、M10及びM11については、その感度を0とする。これにより、露光光量の計測に要する時間を短縮することが可能となり、感度マトリクスを短時間で取得することができる。
【0040】
S305では、可変ブレード201に設けられた複数の駆動部の全てについて、計測部17による露光光量の計測が行われたかどうかを判定する。可変ブレード201に設けられた複数の駆動部の全てについて、計測部17による露光光量の計測が行われていない場合には、S303に移行して、次の駆動部を駆動して(S303)、露光光量を計測する(S304)。一方、可変ブレード201に設けられた複数の駆動部の全てについて、計測部17による露光光量の計測が行われている場合には、S306に移行する。
【0041】
S306では、S304での計測結果から感度マトリクスを求め、かかる感度マトリクスを、スリット部200の制御に関するパラメータとして、記憶部18bに記憶する。感度マトリクスは、上述したように、可変ブレード201に設けられた各駆動部の駆動に対する基板上の各位置座標での光量の変化の感度を示す係数を要素として含むものであって、図6及び図7に示す感度特性を行列化したものである。
【0042】
図8(a)乃至図8(c)は、感度マトリクスGAと、可変ブレード201に設けられた各駆動部A1乃至A7の駆動量SAと、基板上の各位置座標M1乃至11での露光光量の調整量PMとの関係を示す図である。例えば、図8(a)に示す感度マトリクスGAは、7つの駆動部A1乃至A7のそれぞれに対する基板上の11箇所の位置座標M1乃至M11のそれぞれの感度を示す係数を要素として含む11×7の行列である。図8(a)を参照するに、感度マトリクスGAの要素ga3_2は、駆動部A2に対する基板上の位置座標M3の感度を示している。また、駆動量SAの要素sa2は、駆動部A2の駆動量を示し、露光光量の調整量PMの要素pm2は、基板上の位置座標M3での露光光量の調整を示している。従って、感度マトリクスGAと、各駆動部A1乃至A7の駆動量SAとの積で、基板上の各位置座標M1乃至11(露光領域EEの全域)での露光光量の変化量を求めることができる。
【0043】
S307では、感度マトリクスを取得すべき他の照明条件があるかどうかを判定する。感度マトリクスを取得すべき他の照明条件がある場合には、S301に移行して、感度マトリクスを取得すべき他の照明条件を設定する。一方、感度マトリクスを取得すべき他の照明条件がない場合には、感度マトリクス取得処理を終了する。
【0044】
上述したように、感度マトリクスは、照明光学系1が設定する照明条件ごとに、スリット部200及び計測部17を用いて取得する。従って、照明光学系1からの光の光量分布のむらやスリット部200の駆動特性に起因する基板上での露光光量のむらを、感度マトリクスを用いて補正することが可能となる。また、照明条件に応じて、照明光学系1からの光の光量分布のむらが大きく変化するような場合であっても、基板上での露光光量のむらを、感度マトリクスを用いて補正することが可能となる。
【0045】
次いで、図3(b)を参照して、スリット駆動処理について説明する。S308では、露光パラメータを設定する。露光パラメータは、露光装置100の各部の動作条件を決定する重要なパラメータであって、ユーザが露光装置100に設定する露光条件から求めることができる。例えば、露光条件の1つとして、基板15を露光する際の積算露光量がある。また、積算露光量に関係する露光パラメータとしては、基板ステージ16の走査速度と、基板15に入射する露光光量がある。露光装置100は、設定された積算露光量に基づいて、基板15を露光するため、基板ステージ16の走査速度及び露光光量を以下の式(1)から求める。
積算露光量[J]=露光光量[mm・W]/基板ステージ16の走査速度[mm/sec] ・・・(1)
また、ユーザは、露光条件として、露光線幅補正パラメータ(設定光量)を設定することができる。露光線幅補正パラメータは、基板上の位置座標ごとに設定可能な露光光量又は露光光量の調整量である。例えば、デバイスの製造において、基板15に塗布するレジストの膜厚は、必ずしも均一になるとは限らない。このような場合、最終的に基板15に転写されるパターンの寸法、即ち、露光線幅の均一性が損なわれることになる。従って、基板上の位置座標ごとに、露光線幅のばらつきを相殺するように露光量を調整する露光線幅制御が有効である。露光線幅と露光量との関係は、一般的に、以下の式(2)で表すことができる。
露光線幅[μm]=露光量[J]×露光敏感度[μm/J] ・・・(2)
露光敏感度は、基板15に塗布するレジストの物理特性や露光光の波長などによって決定されるパラメータであり、レジストや光源5を変更しない限り、一定の係数となる。従って、露光敏感度を予め求めておくことで、露光量を調整して露光線幅を制御することが可能となる。また、露光補正パラメータが設定された基板上の位置座標は、後の工程(S311やS312)で用いられる。
【0046】
本実施形態では、露光条件は、ユーザによって設定されているが、これに限定されるものではない。例えば、デバイスの製造に用いる露光装置100と露光線幅を検査する検査装置とをネットワークで接続し、露光線幅補正パラメータなどの露光条件を自動でフィードバックするシステムを構築してもよい。
【0047】
S309では、基板15における露光領域のX軸方向の範囲を決定する。露光装置100において、最大露光領域は、可変ブレード201の大きさ、或いは、照明光学系1で決定される照明領域に応じて決定されるが、デバイスの製造においては必ずしも最大露光領域を用いるとは限らない。デバイスの製造において必要な露光領域は、マスク3のパターンの範囲によって決定することができるが、マスク3のパターンは、基本的に、デバイスの生産性が最も高くなるように設計されている。従って、露光領域は、デバイスの製造やその工程ごとに、最適なサイズが異なる。本実施形態では、露光領域、詳細には、基板15における露光領域のX軸方向の範囲を、ユーザが設定した設定値に応じて決定する。S309で決定される露光領域のX軸方向の範囲は、後の工程(S310)で用いられる。
【0048】
S310では、基板上の露光光量を制御すべき位置座標(第1位置座標)及びかかる位置座標での目標光量、例えば、露光光量又は露光光量の調整量を設定(決定)する。例えば、図9に示すように、S308で設定された露光線幅補正パラメータの基板上の位置座標(露光線幅補正パラメータが設定された位置座標)が、露光光量が計測された基板上の位置座標M2、M4、M6、M8及びM10と同じである場合を考える。また、S309では、基板15における露光領域のX軸方向の範囲EE’が決定されたものとする。但し、基板上の露光光量を制御すべき位置座標は、可変ブレード201に設けられた駆動部の数以上設定する必要がある。これは、後述する制御ゲインマトリクスの算出に必要な条件を満足させるためである。
【0049】
以下、基板上の露光光量を制御すべき位置座標及びかかる位置座標での露光光量又は露光光量の調整量を決定する具体的な決定方法(1)乃至(3)を説明する。
【0050】
決定方法(1):
決定方法(1)では、基板上の露光光量を制御すべき位置座標として、露光装置100において標準的に設定されている位置座標、例えば、図9に示す基板上の位置座標M1乃至M11を用いる。このように、決定方法(1)では、S308で設定された露光線幅補正パラメータの基板上の位置座標に関わらず、常に同じ位置座標を用いる。但し、この場合には、図9に示す基板上の位置座標M1、M3、M5、M7、M9及びM11、即ち、基板上の露光光量を制御すべき位置座標のうち露光線幅補正パラメータ(設定光量)が設定されていない位置座標に対して、目標光量を求める必要がある。換言すれば、基板上の位置座標M2、M4、M6、M8及びM10に対しては、ユーザが設定した露光線幅補正パラメータから目標光量を取得(決定)することができる。一方、基板上の位置座標M1、M3、M5、M7、M9及びM11に対しては、目標光量を求めなければならない。例えば、基板上の位置座標M1、M3、M5、M7、M9及びM11に対する目標光量は、ユーザが設定した露光線幅補正パラメータを用いた補間処理(各種の線形補間処理など)によって求めることが可能である。例えば、位置座標M3の目標光量は、位置座標M2に設定された露光線幅補正パラメータと位置座標M4に設定された露光線幅補正パラメータとの中間値とすればよい。また、位置座標M2、M4、M6、M8及びM10に設定された露光線幅補正パラメータからスプライン補間を行ってもよい。決定方法(1)において、感度マトリクスGAと、各駆動部A1乃至A7の駆動量SAと、基板上の各位置座標M1乃至11での露光光量の調整量PMとの関係は、図8(a)に示す関係となる。
【0051】
決定方法(2):
決定方法(2)では、基板上の露光光量を制御すべき位置座標として、ユーザによって設定された位置座標を用いる。但し、基板上の露光光量を制御すべき位置座標は、可変ブレード201に設けられた駆動部の数以上設定する必要があるため、それを満たさない場合には、基板上の露光光量を制御すべき位置座標を追加(新たに設定)しなければならない。例えば、図9では、可変ブレード201には7つの駆動部A1乃至A7が設けられているが、露光光量を制御すべき位置座標として設定された位置座標は5つの位置座標M2、M4、M6、M8及びM10であるため、2つ以上の位置座標を追加する必要がある。露光光量を制御すべき位置座標として追加する位置座標は、例えば、ユーザが任意に設定することが可能である。ここでは、露光光量を制御すべき位置座標として、位置座標M3及びM9を追加するものとする。また、決定方法(2)では、露光線幅補正パラメータから基板上の露光光量を制御すべき位置座標の目標光量を取得する。但し、露光光量を制御すべき位置座標として追加した位置座標M3及びM9に対しては、目標光量を求めなければならない。かかる位置座標M3及びM9の目標光量は、決定方法(1)で説明したように、例えば、露光線幅補正パラメータを用いた補間処理によって求めることが可能である。決定方法(2)において、感度マトリクスGAと、各駆動部A1乃至A7の駆動量SAと、基板上の各位置座標M2、M3、M4、M6、M8、M9及びM10での露光光量の調整量PMとの関係は、図8(b)に示す関係となる。
【0052】
決定方法(3):
決定方法(3)では、基板上の露光光量を制御すべき位置座標は、基本的に、決定方法(1)と同じプロセスで決定する。従って、決定方法(3)では、S308で設定された露光線幅補正パラメータの基板上の位置座標に関わらず、常に同じ位置座標を用いる。但し、決定方法(3)では、S309で決定した露光領域のX軸方向の範囲EE’が露光装置100で精度保証された露光領域EEよりも狭い場合、範囲EE’から外れる位置座標、図9では、位置座標M1及びM11を、露光光量を制御すべき位置座標から除く。決定方法(3)において、感度マトリクスGAと、各駆動部A1乃至A7の駆動量SAと、基板上の各位置座標M2乃至M10での露光光量の調整量PMとの関係は、図8(c)に示す関係となる。
【0053】
S310で決定された基板上の露光光量を制御すべき位置座標及びかかる位置座標での露光光量又は露光光量の調整量は、後の工程(S311やS312)で用いられる。本実施形態では、S310として、3つの決定方法(1)乃至(3)について説明したが、決定方法(2)と決定方法(3)とを組み合わせて、基板上の露光光量を制御すべき位置座標及びかかる位置座標での露光光量又は露光光量の調整量を決定してもよい。また、ユーザが露光装置100に予め条件などを設定することで、決定方法(1)乃至(3)から任意の決定方法を選択できるものとする。
【0054】
S311では、制御ゲインマトリクスを算出する。制御ゲインマトリクスは、S310で設定された基板上の露光光量を制御すべき位置座標、及び、S306で記憶された感度マトリクスから求めることが可能であり、感度マトリクスの逆行列又は擬似逆行列で求められる行列である。
【0055】
例えば、S310において、決定方法(1)を用いて設定される基板上の露光光量を制御すべき位置座標は、上述したように、位置座標M1乃至M11である。この場合、図8(a)に示す感度マトリクス(11×7の行列)の擬似逆行列を、制御ゲインマトリクスとする。
【0056】
また、S310において、決定方法(2)を用いて設定される基板上の露光光量を制御すべき位置座標は、上述したように、位置座標M2、M3、M4、M6、M8、M9及びM10である。この場合、図8(b)に示す感度マトリクス(7×7の行列)の逆行列を、制御ゲインマトリクスとする。
【0057】
また、S310において、決定方法(3)を用いて設定される基板上の露光光量を制御すべき位置座標は、上述したように、位置座標M2、M3、M4、M5、M6、M7、M8、M9及びM10である。この場合、図8(c)に示す感度マトリクス(9×7の行列)の擬似逆行列を、制御ゲインマトリクスとする。
【0058】
このように、制御ゲインマトリクスは、S310で設定された基板上の露光光量を制御すべき位置座標に対応する感度マトリクスの要素を用いて求めることができる。制御ゲインマトリクスは、演算部18aで算出されて記憶部18bに記憶される。
【0059】
S312では、基板上での露光光量を制御するために、スリット部200の可変ブレード201に設けられた複数の駆動部A1乃至A7を駆動する。具体的には、まず、S310で決定された基板上の露光光量を制御すべき位置座標及びかかる位置座標での露光光量又は露光光量の調整量、及び、S311で算出した制御ゲインマトリクスを用いて、複数の駆動部A1乃至A7のそれぞれの駆動量を求める。感度マトリクスGAと、各駆動部A1乃至A7の駆動量SAと、基板上の各位置座標M1乃至11での露光光量の調整量PMとの関係は、上述したように、図8(a)乃至図8(c)に示す関係である。例えば、図8(a)に示す関係を変形すると、各駆動部A1乃至A7の駆動量SAは、図10に示す関係から求めることができる。図10に示す制御ゲインマトリクスGA+は、図8(a)に示す感度マトリクスから求まる7×11の行列である。換言すれば、図10に示す制御ゲインマトリクスGA+は、図8(a)に示す感度マトリクスの逆行列又は擬似逆行列であって、S311で算出される。なお、図8(b)や図8(c)についても同様に、それぞれに示す感度マトリクスの逆行列又は擬似逆行列を求めることで制御ゲインマトリクスを算出することができる。露光光量の調整量PMは、基板上の光量を制御すべき位置座標での露光光量又は露光光量の調整量(目標光量)であり、S310で設定されている。各駆動部A1乃至A7の駆動量SAは演算部18aで算出され、かかる駆動量SAに基づいて、各駆動部A1乃至A7を駆動する。
【0060】
S313では、基板15を露光(走査露光)する。本実施形態では、スリット部200の制御、特に、可変ブレード201に設けられた駆動部A1乃至A7の駆動について詳細に説明しているが、実際には、基板ステージ16を露光開始位置へ移動させるなどの事前準備もある。これらの事前準備が完了したタイミングで基板15を露光することで、マスク3のパターンが基板15に転写される。基板内で複数の露光を繰り返す(例えば、複数のショット領域を露光する)場合、或いは、複数の基板を露光する場合には、図3(b)に示す処理を繰り返せばよい。また、本実施形態では、可変ブレード201に設けられた駆動部A1乃至A7を駆動させた後に基板15を露光する場合を例に説明したが、基板15の露光中に駆動部A1乃至A7を駆動させてもよい。
【0061】
このように、露光装置100において、制御ゲインマトリクスは、事前に取得した感度マトリクスの要素を任意に選択して算出することができる。また、感度マトリクスの要素は、上述したように、基板15における露光領域内の全ての位置座標について求めることが可能である。例えば、基板15における露光領域を100分割する位置座標について、感度マトリクスの要素を求めてもよい。換言すれば、露光装置100では、基板上の露光光量を制御すべき位置座標を任意に選択することが可能となり、これは、特に、露光線幅制御で有効である。デバイスの製造における品質管理は、ユーザごと、工場ごと、デバイスごとに異なる場合がある。このような場合には、露光線幅の管理においても、基板上で露光線幅を計測すべき位置座標(管理対象位置座標)及びその数が異なる。露光線幅制御では、これらの計測データをフィードバックしている。基板内の任意の位置座標に対して露光光量を高精度に制御可能であることは、露光線幅の管理対象位置座標と同じ位置座標の露光光量を制御可能であることを意味し、デバイスを安定的に製造することに寄与する。
【0062】
更に、露光光量を制御すべき位置座標を任意に選択することが可能となることで、基板上での露光光量のむらを高精度に制御することができる。露光装置100では、可変ブレード201に設けられた7つの駆動部に対して、基板内の7つ以上の位置座標の露光光量を制御することを可能としている。但し、露光光量を制御すべき位置座標が少ないほど、基板上での露光光量の制御精度は向上する。
【0063】
図11(a)乃至図11(c)を参照して、露光光量を制御すべき位置座標が17箇所である場合と、露光光量を制御すべき位置座標が13箇所である場合とについて、基板上での露光光量の制御精度に与える影響を説明する。ここでは、図11(a)に示すように、最大露光領域EE1に対して、S308で決定される露光領域のX軸方向の範囲EE2が狭いものとする。図11(b)は、基板15の露光光量を制御すべき位置座標M1乃至M17のそれぞれの露光光量の調整量(目標光量)を示している。図11(b)では、位置座標M1乃至M17を横軸に採用し、露光光量の調整量を縦軸に採用している。なお、露光領域のX軸方向の範囲EE2から外れている位置座標M1、M2、M16及びM17については、その露光光量の調整量を補間処理から求める必要がある。本実施形態では、位置座標M1及びM2の露光光量の調整量を位置座標M3の位置座標の露光光量の調整量と同じとし、位置座標M16及びM17の露光光量の調整量を位置座標M15の位置座標の露光光量の調整量と同じとしている。
【0064】
図11(c)は、本実施形態の露光装置100において、図11(b)に示す露光光量の調整量に基づいて、可変ブレード201に設けられた複数の駆動部A1乃至A7を駆動した場合のシミュレーション結果を示している。図11(c)では、位置座標M1乃至M17を横軸に採用し、露光光量の補正誤差を縦軸に採用している。図11(c)を参照するに、露光光量を制御すべき位置座標を17箇所から13箇所に減らすことで、基板上での露光光量の補正誤差を20%程度低減することができる。
【0065】
本実施形態では、感度マトリクスは、可変ブレードに設けられた複数の駆動部のそれぞれについて、その駆動量と、基板上の領域の各位置座標に入射する光の光量との関係を示すものとして説明したが、これに限定されるものではない。感度マトリクスは、可変ブレードに設けられた複数の駆動部のそれぞれの駆動量と、基板上の領域の各位置座標に入射する光によって形成されるパターンの寸法(線幅)との関係を示すものであってもよい。この場合、感度マトリクスは、可変ブレードに設けられた複数の駆動部のうちの1つの駆動軸の駆動に対する各位置座標に入射する光によって形成されるパターンの寸法の変化の感度を示す係数を要素として含む。この場合、スリット部200は、制御部18によって、開口OPに対応する基板上の領域の各位置座標に入射する光によって形成されるパターンの寸法が目標寸法(目標線幅)となるように制御される。
【0066】
このように、本実施形態の露光装置100は、基板上での光量を調整するのに有利である。従って、露光装置100は、基板15にマスク3のパターンを正確に転写すること、即ち、基板15を高精度に露光することができる。
【0067】
本発明の実施形態における物品の製造方法は、例えば、デバイス(半導体素子、磁気記憶媒体、液晶表示素子など)などの物品を製造するのに好適である。かかる製造方法は、露光装置100を用いて、感光剤が塗布された基板を露光する工程と、露光された基板を現像する工程を含む。また、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージングなど)を含みうる。本実施形態における物品の製造方法は、従来に比べて、物品の性能、品質、生産性及び生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0068】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0069】
100:露光装置 200:スリット部 201:可変ブレード 203乃至209:駆動部 3: マスク 15:基板 18:制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11