(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
製鉄所での製鉄過程や精錬過程において発生する高炉スラグや製鋼スラグ等の鉄鋼スラグ(以下、単にスラグと称する)は、道路の路盤材を始めとした土木材料や建築材料のほか、河川や海域での埋め戻し材、干潟や浅場造成用のマウンド材等のような海域環境修復資材としても広く利用されているが、これらのスラグにはカルシウム成分、特に水可溶性カルシウム成分(水可溶性Ca成分)である遊離CaOやCa(OH)
2が含まれており、例えば、スラグをそのまま土木材料や建築材料等として利用すると、スラグ中のカルシウム成分が雨水等の水に溶解してpH値の高いスラグ溶出水(pHが約12.5の高アルカリ水)が溶出し、また、このスラグ溶出水中のカルシウム成分が大気中の二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムを生成し、スラグ溶出水中の水分が蒸発した後に白色沈殿物となり、白色痕として周辺の美観を損ねる等の環境保全の面で問題となるおそれがある。
【0003】
そこで、スラグを土木材料や建築材料等として利用する場合、このスラグ中に含まれる水可溶性のカルシウム成分を不溶化させる技術として、古くからスラグとCO
2とを事前に反応させる炭酸化処理が行われている。このような炭酸化処理は、スラグ中の水可溶性Ca成分〔CaOやCa(OH)
2〕が水に溶解して生成するCa
2+イオンとCO
2が水に溶解して生成するCO
32−イオンとが、主としてスラグ表面の付着水(表面付着水)を介して反応し、水に不溶性のCaCO
3をスラグ表面に形成するという水可溶性Ca成分の炭酸化反応を利用するものであり、例えば、積み上げられたスラグの左右側面と上面の三方をビニールシートや鉄板などの囲繞材で囲むと共に、前後の面を開閉可能な囲繞材で囲み、その底部のガス配管からCO
2を含有したCO
2含有ガスを供給してスラグの炭酸化処理を行う固定床式の処理方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
そして、スラグを炭酸化処理して得られる炭酸化処理後のスラグ(処理済スラグ)については、上述したように、これを土木材料、建築材料の代替品や海域環境修復資材等として有効利用するために、この処理済スラグから溶出するスラグ溶出水のpH(溶出水pH)を可及的に低下させることが望ましく、炭酸化処理の理論からすれば、10.0程度まで低下させることができる(CaCO
3の溶解平衡がおよそpH=10である)。
【0005】
ここで、スラグ溶出水のpHについては、JIS K0058-1を参考にし、処理済スラグ40g(S)と水1リットル(L)とを混合し(液固比:L/S=25)、攪拌子で溶液部を攪拌しながら24時間静置し、得られた試料についてガラス電極式pH計を用いて測定した値である。
【0006】
これまでスラグ中の遊離CaOなどを減らしてスラグ溶出水のpHを低下させる目的や、或いは、短時間で炭酸化処理を行う目的から、炭酸化処理方法について様々な検討が行われており、例えば、製鋼スラグの水分量を所定の範囲内に調節すると共に、これに相対湿度が調整された炭酸ガス含有ガスを接触させて炭酸化を行う方法(特許文献2参照)や、また、回転ドラムを有して撹拌羽を設置したロータリータイプの反応容器等を用いて製鋼スラグに機械的撹拌を付与しながら、CO
2含有ガスを供給して炭酸化処理する反応方法(特許文献3、4参照)が提案されている。
【0007】
ところが、これら従来の炭酸化処理方法では、実際にスラグの炭酸化を行うとpHが10程度まで低下するものから11以上になるものまで様々であってばらつきが生じ、スラグ溶出水のpHを理論値のpH=10程度まで安定して下げることは難しく、しかも、ある程度のpH値まで低下させるために要する時間が比較的長くなってしまう。そのため、炭酸化処理後のスラグ溶出水を安定して理論上可能なpH=10程度まで低下させることができると共に、短い処理時間でそれを達成できる炭酸化処理方法が望まれている。
【0008】
ところで、スラグに含まれた遊離CaOが水と接触してCa(OH)
2となると体積が約2倍に膨張し、例えば、路盤材として利用した際に、割れや隆起を発生させてしまうことから、通常、スラグ中の遊離CaOの膨張を事前に進行させて割れ等の発生を防止するエージング処理が行われる。そして、特許文献5には、遊離CaOを含むスラグを所定の圧力及び温度を有する水蒸気雰囲気中で加圧・加熱処理することで、エージング処理時間を画期的に短くすることが記載されており、その際、水蒸気とCO
2ガスとの混合雰囲気中で処理することで、遊離CaOを効率的にCa(OH)
2やCaCO
3に安定化させることができるとする(段落0012等参照)。すなわち、この方法では、水蒸気によるいわゆるエージング処理とCO
2ガスによる炭酸化処理とを同時に行うとするが、実際にこのような同時処理では炭酸化処理によってスラグ表面には徐々に不溶性のCaCO
3が形成されることから、スラグ内部への水の浸入が阻害されてエージング処理が不十分となり、また、炭酸化処理もこれ以上進まなくなることから、スラグ内部に遊離CaOなどが残存する。
【0009】
また、特許文献6には、スラグを含む原料に炭酸ガス含有ガスを吹き込むことにより、スラグ中のCaOを炭酸化反応によりCaCO
3として固結・塊状化させて人工石材を得るにあたり、炭酸ガス(CO
2)含有ガスを加圧して処理効率を上げることが記載されているが(段落0041参照)、この方法はあくまで人工石材を製造する方法であり、炭酸化処理後のスラグにおけるスラグ溶出水のpHを安定して低下させる方法については何ら示されていない。また、この特許文献6の方法における炭酸化処理では、原料スラグを固結するために、スラグ粒子の表面に所定の厚さの水膜を形成しているが、このようなスラグは、スラグ粒子どうしが水を介して固結するため、スラグとCO
2含有ガスとの反応効率が劣る傾向があり、結果的に炭酸化処理が進まない(炭酸化できない)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳しく説明する。
先ず、本発明の炭酸化処理においては、圧力容器内に処理対象となる鉄鋼スラグを収容して密閉し、加圧したCO
2含有ガスを圧力容器内に導入して、圧力容器内の圧力が0.1MPaG以上2.0MPaG以下、好ましくは0.5MpaG以上2.0MPaG以下で保持しながら、鉄鋼スラグにCO
2含有ガスを接触させるようにする。処理時の圧力が0.1MPaG未満であると、後述の通り、スラグ表面の細孔や亀裂部分における炭酸化が不十分になって、結果として、スラグ溶出水のpHが高くなるとともに、白色沈殿物による白色痕の発生に繋がる。また、スラグ溶出水のpHを低下させるまでに要する時間が長くなる。反対に、処理時の圧力が高ければ高いほど炭酸化が十分に行なわれて処理時間も短くなるものの、2.0MPaGよりも高い場合には、その作用効果が飽和すると共に、高圧にするために設備が複雑となってしまう。このような方法で鉄鋼スラグの炭酸化処理を行うことにより、後述の
図5(グラフ)の通り、スラグ溶出水のpHが理論値近傍のpH=10程度まで安定して低下すると共に、しかもpHが安定して低下するまでに要する時間を従来の方法よりも格段に短くすることができる。
【0017】
このように加圧状態において鉄鋼スラグの炭酸化処理が確実に行われ、しかも速やかに行なわれる理由については、本発明者らは以下のように推測している。すなわち、容器内を加圧することにより、容器内の圧力とスラグ内部の圧力とに圧力差が生じて、
図1の模式図のように、常圧雰囲気であるスラグの細孔や亀裂部分などにも加圧された雰囲気ガス(CO
2含有ガス)や炭酸イオンが浸入しやすくなる。それにより、スラグの細孔や亀裂部分等においても炭酸化が十分に行なうことができることから、スラグ内部に存在する水可溶性Ca分〔CaOやCa(OH)
2〕の溶出を抑えることができると考えられる。また、加圧状態では、共存する水に溶解するCO
2が増加することから、炭酸イオンの量が増し、それにより、スラグ表面において、前記炭酸イオンとスラグ中から溶解してくるカルシウムイオンとの反応が促進され、炭酸化反応が促進されると考えられる。
【0018】
ここで、本発明において炭酸化処理の対象となる鉄鋼スラグとしては、製鉄所での製鉄過程や精錬過程で発生する高炉スラグや製鋼スラグ等のように、鉄鋼製造工程で発生するスラグであれば特に制限されない。なかでも、靭性・加工性のある鋼にする製鋼工程で生じる製鋼スラグは石灰分を主体としたものであることから遊離CaOをより多く含み、本発明のような方法で処理することで、例えば、スラグを天然砕石、骨材等の土木材料、建築材料等の代替品とする、海域環境を修復する資材として利用するなどした際に、スラグから高アルカリ水や白濁水が溶出するのを抑制する上で好適であると言える。
【0019】
また、処理対象の鉄鋼スラグについては、天然砕石や骨材の代替品などに利用することなどを考慮すると、0−50mmの範囲で粒度分布を有するものであるのがよい。なかでも微分が少ない方が望ましく、1mm以下の微分が質量分率で20%以下であるのがよい。特に本発明においては、炭酸化処理による造粒が抑えられることから、例えば、CS−40(粒度範囲40〜0mm)、CS−30(同30〜0mm)、CS−20(同20〜0mm)等のようなJIS A5015に規定される道路用路盤材に相当する粒度に粒度調整された鉄鋼スラグを炭酸化処理することで、その後に有効利用する上で有利である。
【0020】
また、本発明で使用する鉄鋼スラグについては、その水分量は、スラグ内部の空隙表面や外表面が湿気を帯びる程度の水分で十分であり、好ましくは、0.5〜5質量%とし、通常は外部からの水の添加は不要である。反対に、スラグの表面に水膜が形成されるような多量の水分が存在する場合には、本発明で言うようなスラグ表面の細孔や亀裂部分へのCO
2ガスや炭酸イオンの浸入が阻害され、炭酸化が不十分になると考えられる。この点、炭酸化処理の前に蒸気エージング処理を行う場合には、系外からの水の補給は行なわずに、蒸気エージング処理後にスラグが保有する水分(2〜5質量%)で炭酸化を行なうことが可能である。
【0021】
本発明において、炭酸化処理に用いられるCO
2含有ガスとしては、CO
2ガス単独とすることや、CO
2ガスに空気や不活性なガスなどを混合した混合ガスを用いることができるが、できる限りCO
2濃度が高いものを使用することが、炭酸化処理時間を短くする上で好ましい。また、排ガスのようなCO
2濃度が数%程度の低濃度のものを用いることもでき、この場合は、排出するCO
2ガスを減らして有効利用することができる点で好ましい。更には、CO
2含有ガスの相対湿度によって、炭酸化処理中の水分量を調整することも可能であるが、前述の通りのスラグが保有する水分量が満足されるのであれば、水分を含まない乾燥したCO
2含有ガスを用いることが好適である。
【0022】
本発明において、鉄鋼スラグの炭酸化処理を行う圧力容器については、例えば、
図2に示したように、開閉蓋などを備えて処理する鉄鋼スラグを密閉することができ、且つCO
2含有ガスを導入して排出する手段を備えた圧力容器であれば特に限定されるものではなく、処理する鉄鋼スラグの量などに応じて、その大きさや形状が適宜設計される。また、当該圧力容器は、炭酸化処理だけを行うものでもよく、或いは、エージング処理と炭酸化処理とを併用できるものでもよく、その使用手段に応じた適切な改造などが施されたものであってもよい。そして、このような圧力容器を用いた本発明の炭酸化処理については、例えば、以下の手順で行うことができる。
すなわち、先ず、鉄鋼スラグが投入されたスラグ容器1を圧力容器2に収容し、圧力容器2にCO
2含有ガスを送り込むためのCO
2配管5と、圧力容器内の雰囲気ガスを排気するための排気配管8との両方のバルブ9を開けて、CO
2配管5から加圧したCO
2含有ガスを供給すると共に排気配管6から圧力容器内の雰囲気ガスを外部に排出して、圧力容器内をCO
2含有ガス雰囲気に置換する。その際、好ましくは、圧力容器内が大気圧下でCO
2濃度が80vol%以上になるようにするのがよい。次いで、排気配管8のバルブを閉めて、圧力容器内を前述の通りの圧力範囲でCO
2含有ガス雰囲気にして、スラグの炭酸化を行うことができる。炭酸化処理が終了した後は、圧力容器内を一旦大気圧に開放した上で、圧力容器の開閉蓋2aを開けるなどしてスラグ容器を外部に取り出すようにする。
【0023】
ここで、本発明の炭酸化処理方法においては、炭酸化処理を確実且つ迅速に行うことに加えて、使用するCO
2含有ガス中のCO
2の利用損失などを避けてより効率的に炭酸化を行なうなどの目的から、1)使用するCO
2含有ガスの積算総流量に基づいて、また、2)圧力容器内における圧力低下の変化量に基づいて、炭酸化処理時間を設定することも可能である。この点、加圧式エージング処理のように水蒸気を用いる場合には、スラグの持ち込み熱や圧力容器からの放熱などの影響で液滴(ドレイン水)が発生するため、圧力容器内における圧力低下の変化量や使用する水蒸気の積算総流量に基づいた反応終時間の予測や設定は実質上不可能であるが、炭酸化処理ではCO
2含有ガスを使用することから、放熱などによるガスの収縮が無く、上記のような処理時間の設定が可能となる。具体的には、以下のような方法を用いることができる。
【0024】
先ず、1)使用するCO
2含有ガスの積算総流量により炭酸化処理時間を設定する方法としては、予め実測データを用いて定めることが可能である。すなわち、各圧力条件において、炭酸化処理に要したCO
2ガスの総供給量A(kg)と、使用した圧力容器空間へのガス充填量B(kg)と、鉄鋼スラグの処理量C(kg)とを実測した上で、「(A−B)/C」から炭酸化反応で消費された単位スラグ量当たりのCO
2ガス消費量(kg/kg−slag)を算出し、これと各圧力条件との関係式を、例えば
図3のように導く。そして、この関係式を用いて実機における炭酸化処理時間を設定するためには、(i)使用するガスがCO
2100vol%の場合には、実機でのCO
2ガスの流量V(L/min)を実測して、これと、標準状態での1molのCO
2ガスの体積(22.4 L/mol)と、CO
2の分子量(44g/mol)とに基づいて、(V/22.4)×44/1000(単位:kg/min)を算出し、この(V/22.4)×44/1000を時間(min)で積算し、さらにその積算値を鉄鋼スラグの処理量C(kg)で割って求めたCO
2消費量(kg/kg-slag)が、予め、近似式から求められるCO
2消費量(kg/kg−slag)になった際に炭酸化反応が終了したとすることができる。
【0025】
また、(ii)CO
2濃度100vol%でない混合ガス(CO
2含有ガス)を用いる場合には、炭酸化処理の進行により消費したCO
2分を補填するために新たに混合ガス(CO
2含有ガス)を供給していくと、圧力容器内のCO
2濃度が徐々に低下してしまう。CO
2濃度が低い状態で炭酸化処理を継続すると炭酸化時間が長くなってしまうので、圧力容器内があるCO
2濃度以下になった際に容器内のガスを全て排気して、入れなおすガス置換を行う必要がある。したがって、混合ガス(CO
2含有ガス)の場合は、前記(i)における式に修正を加えて、〔(a−b)/100〕×(V/22.4)×44/1000〔単位:kg/min、但し、式中のaは使用する混合ガス中のCO
2濃度(単位:vol%)を示し、また、式中bは、ガス置換する際の圧力容器内の混合ガス中のCO
2濃度(vol%)を示す。〕を算出し、この〔(a−b)/100〕×(V/22.4)×44/1000を時間(min)で積算し、さらにその積算値を鉄鋼スラグの処理量C(kg)で割って求めたCO
2消費量(kg/kg-slag)が、予め、近似式から求められるCO
2消費量(kg/kg−slag)になった際に、炭酸化反応が終了したとする。なお、ガス置換を行なう必要が生じるCO
2濃度や、上述の算出方法などについては、使用する鉄鋼スラグの成分、特に塩基度やフリーライム量などによって変化することが想定されるため、事前実験などを行なって定めることが可能である。
【0026】
一方、2)圧力容器内における圧力低下の変化量により炭酸化処理時間を設定する方法としては、例えば、
図4のように、炭酸化処理の圧力(処理圧力)P1が、炭酸化処理の進行によりCO
2が消費されて下限値P2まで下がった場合にCO
2含有ガスを圧力容器へ供給するシステムにおいて、反応開始当初の圧力P1がP2に降下するまでの時間t1とし、炭酸化反応が進行途中のある時点の圧力P1がP2に降下するまでの時間をt2とした場合に、t2がt1の2倍超過となった時点(t2>2×t1)を、CO
2消費が飽和したものと見なしてこれを炭酸化反応の終点とし、炭酸化処理時間を設定することができる。なお、前記のt1やt2、P1やP2、及びt1に掛ける倍数などについては、使用する鉄鋼スラグや圧力容器やCO
2含有ガスなどの条件によって変動することが考えられるため、事前実験などを行なって予め定めることが可能である。
【0027】
そして、本発明による鉄鋼スラグの炭酸化処理方法により得られる炭酸化処理後のスラグについては、前述の通り、不溶性のCaCO
3の形成が促進され、且つスラグの細孔や亀裂部分等の内部にまで炭酸化が進んで不溶性のCaCO
3が形成されていることから、スラグ粒子の周囲には不溶性のCaCO
3膜が厚み100μm以上で断続的に形成され、CaCO
3膜が形成されていない部分は炭酸化しないメタル鉄や炭酸化されにくいCaO−Fe
2O
3系化合物などが存在しているため、このような構造を有することから、スラグ内部に残存する水可溶性Ca分〔CaOやCa(OH)
2〕の溶出を効果的に抑えてpH値の高いスラグ溶出水の溶出や白色沈殿物による白色痕の発生を効果的に抑えることができ、更には、耐摩耗性や剥離性にも優れる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づいて、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は下記の内容に制限されるものではない。
【0029】
〔実施例1〕
先ず、
図2に示した処理装置を用いて炭酸化処理を行う前に、下記表1に示した組成を有するスラグA:約100kgをオートクレーブによりエージング処理した。このとき、オートクレーブ内は水蒸気により圧力0.45MPaGで維持して5時間のエージング処理を行った。ここで、スラグAは、銑鉄を脱リン処理と脱炭処理とに分けて精錬する精錬工程において脱リン処理で排出されたスラグであり、粒度範囲0−35mmに粒度調整されたものである。そして、このエージング終了後のスラグAについて、JIS A5015“道路用鉄鋼スラグ”で規定される水浸膨張比を測定したところ1.2%であった。
【0030】
【表1】
【0031】
次いで、エージング処理後のスラグAについて、炭酸化処理を行った。なお、この炭酸化処理にあたっては、系外からの水の補給は行なわずに、エージング処理後のスラグAが保有する水分(水分量2〜5質量%)で炭酸化反応を進行させた。そして、炭酸化処理に使用した装置は、
図2に示したような構成をしており、縦40cm×横80cm×高さ25cmであってエージング処理後のスラグAが投入されるスラグ容器1と、このスラグ容器1を収容して密閉することができる直径80cm×長さ120cmの円筒状の圧力容器2(容量530 L)とを備えると共に、地面に横向きに据え置いた圧力容器2の頂上部側にはCO
2排気配管8が接続され、圧力容器2の底面部側にはCO
2配管5が接続されている。上記のスラグ容器1にスラグAを100kg(50L)入れ、圧力容器2にスラグ容器1ごと収容して開閉蓋2aを閉じた。そして、この圧力容器内にCO
2配管5から加圧したCO
2ガス(濃度100vol%)を供給すると共にCO
2排気配管8から圧力容器内の雰囲気ガスを外部に排出して、圧力容器2内が大気圧下でCO
2濃度が80vol%になるまで置換した。引き続き、CO
2排気配管8のバルブ9を閉めて、圧力容器2内がCO
2ガスにより圧力0.50MPaGで維持されるようにして、60分間スラグAを炭酸化反応させた。炭酸化終了後、圧力容器2内を大気圧に開放した上で、圧力容器2の開閉蓋2aを開けてスラグ容器1を取り出して処理を終了した。
【0032】
炭酸化終了後のスラグAについて、水中に入れて炭酸化処理後のスラグAから溶出されるスラグ溶出水のpHを測定した。このpH測定にあたっては、JIS K0058-1を参考にして、スラグ40g(S)と純水1リットル(L)とを混合し(液固比:L/S=25)、150rpmの回転速度で溶液部分を攪拌しながら24時間静置した後、ガラス電極式pH計を用いて測定した。その結果、得られた炭酸化終了後のスラグAのスラグ溶出水のpHはpH=10.2まで低下していた。また、後述する実施例2及び比較例1と対比のために、炭酸化反応の時間を15分、30分、及び90分にして同様に炭酸化処理を行い、それぞれ取り出したスラグAのスラグ溶出水のpHを測定した。結果は
図5に示したとおりである。
【0033】
〔実施例2〕
実施例1と同様にしてエージング処理したスラグAについて、炭酸化処理での圧力容器内の圧力を0.95MPaGにした以外は実施例1と同様にして炭酸化処理を行った。
【0034】
上記で得られた炭酸化終了後のスラグAについて、実施例1と同様にスラグ溶出水のpHを測定したところ、pH=10.3まで低下していた。また、この実施例2において炭酸化反応の時間を15分及び30分にして同様に炭酸化処理を行い、それぞれ取り出したスラグAのスラグ溶出水のpHを測定したところ、結果は
図5に示したとおりであった。
【0035】
〔比較例1〕
実施例1と同様にしてエージング処理したスラグAについて、炭酸化処理での圧力容器内の圧力を0.02MPaGにした以外は実施例1と同様にして炭酸化処理を行った。
【0036】
上記で得られた炭酸化終了後のスラグAについて、実施例1と同様にスラグ溶出水のpHを測定したところ、pH=10.4まで低下していた。また、この実施例3において炭酸化反応の時間を30分及び90分にして同様に炭酸化処理を行い、それぞれ取り出したスラグAのスラグ溶出水のpHを測定した。結果は、
図5に示したとおりであった。
【0037】
これら実施例1〜2及び比較例1(
図5)の結果から分かるように、炭酸化処理の圧力条件を0.50MPaGとした場合(実施例1)や0.95MPaGとした場合(実施例2)においては、いずれも炭酸化反応の時間が60分でスラグ溶出水のpHが10程度まで低下すると共に、90分の結果からも推測されるように、炭酸化反応の時間をそれより長くすれば安定してpHが理論値近傍の10程度を維持できることが分かった。これに対して、炭酸化処理の圧力条件を0.02MPaGとした比較例1では、上記実施例1及び2と同じ60分の炭酸化反応では、スラグ溶出水のpHが10.4で比較的高く、また、90分の結果から推測されるように、炭酸化時間をそれより長くしてもスラグ溶出水のpHを理論値近傍の10程度まで下げるためには、非常に長い時間を要するか、或いは、pHが10までは下がらないと見込まれる。
【0038】
[炭酸化処理後のスラグの観察]
また、上記実施例2のうち炭酸化反応を60分行って得られた炭酸化処理後のスラグ(粒子径約5mm)についてFT-IR(日本分光株式会社製FT/IR-6100)を用いて分析及び観察を行なった。先ず、試料を樹脂埋めし、スラグ粒子断面が観察できるような状態になるまで研磨した後、分析を行った。得られた画像を
図6に示す。
図6(a)はスラグ粒子外縁部の一部をSEM(日本電子株式会社製 JSM-6390 型)で観察した図であり、図中の符合14などの灰色部分はスラグ基質、符号15などの黒色部分は前記樹脂を示す。また、
図6(b)は、
図6(a)で観察される視野について前記のFT−IR装置を用いて炭酸基(CO
32-)が存在する部分を可視化したものであり、
図6(b)の白色〜灰色部分が他の黒色部分よりも吸収が強く、この部分には炭酸基塩が分布していることが示される。そして、これらの図からスラグ粒子の周囲には厚さおよそ100〜500μmのCaCO
3膜の形成が確認され、また、
図6(a)における白点線で囲んだ部分から把握されるように、炭酸化により形成されたCaCO
3膜がスラグ細孔の入り組んだ部分にも形成されており、スラグの細孔を塞ぐように形成されていることも確認できる〔なお、
図6(a)の白矢印で示した部分は、炭酸化反応しないメタル鉄や炭酸化されにくいCa−Fe−Si系化合物などが分布している層と思われる〕。
【0039】
[CO
2ガスの積算総流量による炭酸化処理時間の設定]
使用したCO
2ガスの積算総流量による炭酸化処理時間の設定のために、炭酸化反応のCO
2ガス消費量と圧力との関係式を以下のように求めた。先ず、前述の実施例1〜2及び比較例1のデータから、各圧力条件における炭酸化処理に要したCO
2ガスの供給量の実績値A(kg)を求めた。この際、炭酸化反応の終了時間は、
図5における溶出水pHの変化量がpH計の誤差範囲内(0.15未満)となった時間と決め、実施例1(0.50MPaG)では60分、実施例2(0.95MPaG)では60分、比較例1で(0.02MPaG)では90分と決め、その時間内に要したCO
2ガス量をA(kg)とした。また、使用した圧力容器空間へのガス充填量B(kg)については、使用した圧力容器容積(530L)からスラグ体積(50L)を差し引いた480L(大気圧)を用い、これとボイルの法則とを利用して各圧力条件における圧力容器内に充填されるCO
2ガス質量(kg)を計算し、大気圧に換算してBとした。そして、スラグの処理量C(kg)は100kgであることから、「(A−B)/C」から、炭酸化反応で消費された単位スラグ量当たりのCO
2ガス消費量(kg/kg−slag)を算出した。これらの結果を表2に示す。その算出したガス消費量と圧力との関係式(近似式)を、
図3のように導いた。そして、実機での処理時間の設定には、実機でのCO
2ガスの流量V(L/min)を実測して、(V/22.4)×44/1000(kg/min)を算出し、この(V/22.4)×44/1000を時間(min)で積算し、さらにその積算値を鉄鋼スラグの処理量C(kg)で割って求めたCO
2消費量(kg/kg-slag)が、予め、近似式から求められるCO
2消費量(kg/kg−slag)になった際に、炭酸化反応が終了したとする。
【0040】
【表2】