(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも平均粒子径が0.3μm以上の樹脂粒子を5質量%以上と、ブテンジオール・ビニルアルコール共重合体を0.05〜10質量%とを含有することを特徴とする筆記具用水性インク組成物。
【背景技術】
【0002】
従来において、筆記具用水性インク組成物に特定の機能を付与する目的で樹脂粒子を配合することがある。このようなインクを用いた筆記具は、キャップを外した状態で放置すると、インクの吐出性の低下(ドライアップ)、粒子の分散安定性の低下に起因する粘度等の物性変動、筆記性の低下が発生しやすい傾向がみられる。これらの物性変動や筆記性の低下などは、特に、樹脂粒子の配合量や大きさの影響を受けやすいものであった。
【0003】
ドライアップが発生するメカニズムは、水分の揮発により樹脂粒子の分散状態が崩れて凝集を生じ、これが筆記部のインクの吐出性を低下させると推測される。
これを抑制するためには、凝集を発生させない、若しくは緩い凝集を生じさせることにより「蓋」のような状態をつくる方法が考えられる。しかしながら、緩い凝集であっても「嵩高い」凝集であると、粘度が高いインクのダマのような状態となるので、耐ドライアップ性は発現するものの、このダマが描線に転写されるため描線品位が低下するなどの課題がある。
【0004】
一方、耐ドライアップ性能を向上させた筆記具用インク組成物としては、例えば、特定範囲の粒子径の顔料と保湿剤と水とから少なくともなるインクにおいて、保湿剤が尿素とエチレン尿素とからなりその比率が重量比で1:3〜5:1であることを特徴とする水性顔料インク組成物(例えば、特許文献1参照)や、着色樹脂粒子を含む着色剤と、水と、剪断減粘性付与剤と、エチレンオキサイド変性ポリビニルアルコール(PVA)とを含有するボールペン用水性インク組成物(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1では、未だ耐ドライアップ性能が不十分であったり、カスレ等の筆記不良が生じ易いなどの課題がある。上記特許文献2では、エチレンオキサイド変性PVAを配合することで確かにノンドライ性は向上するが、キャップオフ後の書き初めにインクの凝集塊によるダマが発生することがあるという課題がある。また、粘度が経時的に上昇するという課題もある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも平均粒子径が0.3μm以上の樹脂粒子を5質量%以上と、ブテンジオール・ビニルアルコール共重合体を0.05〜10質量%とを含有することを特徴とするものである。
【0013】
<樹脂粒子>
本発明に用いる樹脂粒子としては、その機能、種類は特に限定されない。例えば、色材として用いられる樹脂粒子、バインダーや目止効果を目的した樹脂粒子であってもよい。また、樹脂粒子を構成する素材も限定されない。例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、ウレア系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、シリコーン系樹脂及びこれらの共重合体、各種ラテックス粒子などが挙げられる。
【0014】
色材として用いられる樹脂粒子は、着色された樹脂粒子から構成されるものであり、例えば、(1)樹脂粒子中にカーボンブラック、酸化チタン等の無機顔料、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料等の有機顔料などの顔料からなる着色剤が分散された着色樹脂粒子、(2)樹脂粒子の表面が上記顔料からなる着色剤で被覆された着色樹脂粒子、(3)樹脂粒子に直接染料、酸性染料、塩基性染料、食料染料などの染料からなる着色剤が染着された着色樹脂粒子、(4)ロイコ色素、光変色色素等を用いて熱変色性、または、光変色性とした着色樹脂粒子などが挙げられる。
上記(1)〜(3)の着色樹脂粒子の樹脂成分としては、例えば、上述の各種樹脂から選択される少なくとも1種が挙げられ、必要に応じて架橋などの処理を行ったものであってもよい。これらの樹脂への着色方法としては、樹脂粒子の重合に際して着色剤を添加する方法、樹脂粒子の表面にハイブリダイゼーション法により着色剤を被覆させる方法、樹脂粒子を染料で染着する方法など、従来公知の方法が用いられる。
【0015】
上記4)の熱変色性の着色樹脂粒子としては、ロイコ色素と、該ロイコ色素を発色させる能力を有する成分となる顕色剤及び上記ロイコ色素と顕色剤の呈色において変色温度をコントロールすることができる変色温度調整剤を少なくとも含む熱変色性組成物を、所定の平均粒子径となるように、マイクロカプセル化することにより製造された熱変色性の着色樹脂粒子、また、光変色性の着色樹脂粒子としては、室内照明環境において無色であり、紫外線照射環境で発色する性質を有する光変色性色素となるフォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素を、マイクロカプセル化することにより製造された光変色性の着色樹脂粒子が挙げられる。
マイクロカプセル化法としては、例えば、界面重合法、界面重縮合法、insitu重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライニング法などを挙げることができ、用途、マイクロカプセルの形状、構造特性に応じて適宜選択することができる。
好ましい樹脂粒子としては、安定性、より充実した機能を発揮せしめる点から、コアシェル型のマイクロカプセル化した樹脂粒子が望ましい。
【0016】
バインダーや目止効果を目的した樹脂粒子としては、特に限定されないが、例えば、ポリスチレン系樹脂粒子、ポリウレタン系樹脂粒子、アクリル系樹脂粒子、ポリエチレンワックスエマルション、ポリプロピレンワックスエマルションなどのオレフィン系ワックスエマルションなどから選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0017】
これらの色材として用いられる樹脂粒子や、バインダーや目止効果を目的とした樹脂粒子などの本発明の樹脂粒子は、所定の機能の発揮(着色力、分散安定性、バインダーや目止効果)と上述のドライアップなどの本発明の課題の解消を高度に両立する点から、好適な平均粒子径となるように調製される。
【0018】
本発明において、樹脂粒子の含有量が多いほど、また、平均粒子径が大きいほどインクの性能に与える影響が大きくなり、樹脂粒子の含有量がインク組成物全量に対して、5質量%以上、平均粒子径が0.3μm以上となるにつれ、本発明の課題が顕在化する傾向がみられることとなる。
用いる樹脂粒子の平均粒子径、及びその含有量は、樹脂粒子の機能、筆記具の種類、用途などにより変動するが、平均粒子径では、0.3〜15μm、その含有量はインク組成物全量に対して、5〜30質量%に調整されることが好ましい。
なお、本発明(実施例等含む)で規定する「平均粒子径」は、粒子径分布解析装置HRA9320−X100(日機装株式会社製)を用いて、体積基準により算出されたD50の値である。
【0019】
<ブテンジオール・ビニルアルコール共重合体>
本発明に用いるブテンジオール・ビニルアルコール共重合体(BVOH)は、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)が持つ高い水素結合力(一方、非結晶性は低い)と、ポリビニルアルコール共重合体(PVOH)が持つ高い非結晶性(一方、水素結合力は低い)、すなわち、「低結晶性と高い水素結合力」という、相反する性質を持つことにより、優れた透明性と耐溶剤性に加え、従来のPVOHではトレードオフの関係にあった機能を発揮する素材であり、本発明では、上述の樹脂粒子を用いたインク組成物中において、本発明の効果、すなわち、樹脂粒子の分散安定性を低下することなく、耐ドライアップ性、描線品位の低下もなく筆記性能に優れ、経時的な粘度上昇もない機能を発揮するものとなる。
【0020】
用いることができるブテンジオール・ビニルアルコール共重合体(BVOH)は、側鎖に1,2−ジオール構造などを有するポリビニルアルコール系樹脂であり、例えば、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンと酢酸ビニルの反応によって得られたものを加水分解する製造法などにより得ることができ、各成分をコントールすることにより、ラメラ結晶構造から完全アモルファスまで、結晶成分量をコントロールすることができ、この結晶性を制御することにより水溶解性もコントロールすることができるものである。
用いるブテンジオール・ビニルアルコール共重合体(BVOH)としては、上記製造方法等により合成しても良く、また、市販の日本合成化学工業社製のニチゴーGポリマー(NichigoG―Polymer)シリーズの各種グレード、例えば、AZF8035W、OKS−1011、OKS−1028、OKS−8041、OKS−8118などを用いることができる。
【0021】
本発明に用いるブテンジオール・ビニルアルコール共重合体(BVOH)の含有量は、インク組成物全量に対して、0.05〜10質量%、好ましくは、0.1〜5質量%含有される。
この含有量が0.05%未満では、本発明の目的の効果が得られず、一方、10質量%超過ではインクの粘度が高くなるため、好ましくない。
【0022】
本発明の筆記具用水性インク組成物において、上記各成分の他、色材、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)、更に、アニオン性界面活性剤、筆記具水性インク組成物に通常用いられる各成分、例えば、水溶性有機溶剤、増粘剤、潤滑剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤、pH調整剤などを本発明の効果を損なわない範囲で、適宜含有することができる。
【0023】
本発明において、樹脂粒子を色材として用いる場合は、着色樹脂粒子以外の他の色材(着色剤)を補色成分として併用でき、また、樹脂粒子を色材として用いない場合は、インクの着色成分に用いることができる。
用いることができる色材としては、水に溶解もしくは分散する染料、酸化チタン等の従来公知の無機系顔料や有機系顔料、シリカや雲母を基材とし表層に酸化鉄や酸化チタンなどを多層コーティングした顔料等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜量使用することができる。
染料としては、例えば、エオシン、フオキシン、ウォーターイエロー#6−C、アシッドレッド、ウォーターブルー#105、ブリリアントブルーFCF、ニグロシンNB等の酸性染料;ダイレクトブラック154、ダイレクトスカイブルー5B、バイオレットB00B等の直接染料;ローダミン、メチルバイオレット等の塩基性染料などが挙げられる。
【0024】
有機系顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、ニトロソ顔料などが挙げられる。より具体的には、カーボンブラック、チタンブラック、亜鉛華、べんがら、アルミニウム、酸化クロム、鉄黒、コバルトブルー、酸化鉄黄、ビリジアン、硫化亜鉛、リトポン、カドミウムエロー、朱、カドミウムレッド、黄鉛、モリブデードオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、ホワイトカーボン、クレー、タルク、群青、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、炭酸カルシウム、鉛白、紺白、紺青、マンガンバイオレット、アルミニウム粉、真鍮粉等の無機顔料、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー27、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド22、C.I.ピグメントレッド38、C.I.ピグメントレッド48、C.I.ピグメントレッド49、C.I.ピグメントレッド53、C.I.ピグメントレッド57、C.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントレッド104、C.I.ピグメントレッド146、C.I.ピグメントレッド245、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー34、C.I.ピグメントイエロー55、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー166、C.I.ピグメントイエロー167、C.I.ピグメントオレンジ5、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ16、C.I.ピグメントバイオレット1、C.I.ピグメントバイオレット3、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット23、C.I.ピグメントバイオレット50、C.I.ピグメントグリーン7等の有機顔料が挙げられる。
これらの色材は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
用いることができるアニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルアリル硫酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステルが挙げられる。これらの中でも芳香環を有するものが好ましく、特に、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩が好ましい。これらのアニオン性界面活性剤はインク物性を更に安定させる効果を有する。
これらのアニオン性界面活性剤の含有量は、インク組成物全量に対して、0.05〜10質量%の範囲で適宜調整される。
【0026】
用いることができる水溶性有機溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3−ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられ、これらは一種もしくは二種以上を混合して使用することができる。
これらの水溶性有機溶剤の含有量は、インク組成物毎に適宜調整され、インク組成物全量に対して、おおよそ10質量%〜30質量%の範囲であることが一般的である。
描線乾燥性に優れた機能を発揮せしめるため、これらの水溶性有機溶剤の含有量を10質量%以下とすることは有効な手段であるが、一方で耐ドライアップ性が損なわれやすい。本願発明によれば、10質量%以下、更には7質量%以下、更には5質量%以下の含有量であっても耐ドライアップ性が損なわれることがない。
【0027】
用いることができる増粘剤としては、例えば、合成高分子、セルロースおよび多糖類からなる群から選ばれた少なくとも一種が望ましい。具体的には、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、ダイユータンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸及びその塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸及びその塩、ポリエチレシオキサイド、酢酸ビニルとポリビニルピロリドンの共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体及びその塩などが挙げられる。
【0028】
潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステルなどのノニオン系や、リン酸エステル、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。
また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類など、防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、ベンゾイソチアゾリン、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、モルホリン、トリエチルアミン等のアミン化合物、アンモニア等が挙げられる。
【0029】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、上記平均粒子径が0.3μm以上の樹脂粒子を5質量%以上と、ブテンジオール・ビニルアルコール共重合体を0.05〜10質量%と、アニオン性界面活性剤、水溶性有機溶剤、その他の各成分を筆記具用(ボールペン用、マーキングペン用等)インクの用途に応じて適宜組み合わせて、ホモミキサー、ホモジナイザーもしくはディスパー等の攪拌機により攪拌混合することにより、更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去すること等によって筆記具用水性インク組成物を調製することができる。
【0030】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、ボールペンチップ、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップなどのペン先部を備えたボールペン、マーキングペン等に搭載される。
本発明におけるボールペンとしては、上記組成の筆記具用水性インク組成物をボールペン用インク収容体(リフィール)に収容すると共に、該インク収容体内に収容された水性インク組成物とは相溶性がなく、かつ、該水性インク組成物に対して比重が小さい物質、例えば、ポリブテン、シリコーンオイル、鉱油等がインク追従体として収容されるものが挙げられる。
なお、ボールペン、マーキングペンの構造は、特に限定されず、例えば、軸筒自体をインク収容体として該軸筒内に上記構成の筆記具用水性インク組成物を充填したコレクター構造(インク保持機構)を備えた直液式のボールペン、マーキングペンであってもよいものである。
【0031】
このように構成される本発明の樹脂粒子を含む筆記具用水性インク組成物が、何故、樹脂粒子の分散安定性を低下することなく、耐ドライアップ性、描線品位の低下もなく筆記性能に優れ、経時的な粘度上昇もない筆記具用水性インク組成物となるのは以下のように推測される。
従来において、樹脂粒子を含む筆記具用水性インク組成物を用いた場合に、水分の揮発により分散状態が崩れ、インク中で樹脂粒子同士の凝集が発生したり、また、筆記部で凝集が生じるとインクの吐出が阻害され筆記不良となるドライアップの課題が発生することとなる。更に、ドライアップを抑制するために、変性エチレンオキサイドPVAなどを含有して緩い凝集を生じさせるなどの方法があるが、緩い凝集であっても「嵩高い」凝集であると、粘度が高いインクのダマのような状態となるので、耐ドライアップ性は発現するものの、このダマが描線に転写されるため描線品位が低下したりするなどの課題があった。
従来の筆記具用水性インク組成物において、用いる樹脂粒子の含有量が多いほど、また、平均粒子径が大きいほど、上記の課題が顕在化する傾向がみられるものであるが、本発明では、上述の樹脂粒子を用いたインク組成物中に、「低結晶性と高い水素結合力」という、相反する性質を有するブテンジオール・ビニルアルコール共重合体を0.05〜10質量%含有せしめることにより、水分が揮発しても適度な嵩高さを有する緩い凝集体を形成できるので、樹脂粒子の分散安定性を低下することなく、耐ドライアップ性に優れ、筆記描線がインクダマとなるような描線品位の低下もなく筆記性能に優れ、経時的な粘度上昇もない機能を発揮するものとなる。
【実施例】
【0032】
次に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0033】
〔実施例1〜9及び比較例1〜5〕
下記表1に示す配合組成により各筆記具用水性インク組成物を調製した。
実施例1、2の色材として用いる樹脂粒子である熱変色性マイクロカプセル顔料1,2は下記製造法1、2により得たものを用いた。
(製造例1:熱変色性マイクロカプセル顔料1)
ロイコ色素として、ETAC(山田化学工業社製)1質量部(以下、単に「部」という)、顕色剤として、ビスフェノールA2部、及び変色性温度調整剤として、ミリスチン酸ミリスチル24部を100℃に加熱溶融して、均質な組成物27部を得た。
上記で得た組成物27部の均一な熱溶液にカプセル膜剤として、イソシアネート10部及びポリオール10部を加えて攪拌混合した。次いで、保護コロイドとして12%ポリビニルアルコール水溶液60部を用いて、25℃で乳化して分散液を調製した。次いで、5%の多価アミン5部を用いて、80℃で60分間処理してコアシェル型のマイクロカプセルを得た。
(製造例2:熱変色性マイクロカプセル顔料2)
ロイコ色素として、RED520(山田化学工業社製)色素1部、顕色剤として、4,4′−(2−エチルヘキシリデン)ビスフェノール2部、及び変色性温度調整剤として、4,4′−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフェノールジミリステート24部を100℃に加熱溶融して、均質な組成物27部を得た。
上記で得た組成物27部の均一な熱溶液を、保護コロイド剤として、メチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重合樹脂〔ガンツレッツAN−179:ISP(株)社製〕40部をNaOHにてpH4に溶解させた90℃の水溶液100部中に徐々に添加しながら、加熱攪拌して直径約0.5〜1.0μmの油滴状に分散させ、次いでカプセル膜剤として、メラミン樹脂(スミテックスレジンM−3、(株)住友化学製)20部を徐々に添加し、90℃で30分間処理してコアシェル型のマイクロカプセルを得た。
【0034】
上記で得られた各インク組成物を用いて水性ボールペンを作製した。具体的には、ボールペン〔三菱鉛筆株式会社製、商品名:シグノUM−100〕の軸を使用し、内径4.0mm、長さ113mmポリプロピレン製インク収容管とステンレス製チップ(超硬合金ボール、ボール径0.7mm)及び該収容管と該チップを連結する継手からなるリフィールに上記各水性インクを充填し、インク後端に鉱油を主成分とするインク追従体を装填し、水性ボールペンを作製した。
【0035】
得た各水性ボールペンを用いて、下記評価方法で耐ドライアップ性、初筆描線状態、ペン体経時安定性を評価した。また、得られた各筆記具用水性インク組成物のインク経時安定性(初期粘度と経時後の粘度)を評価した。
これらの評価結果などを下記表1に示す。
【0036】
〔耐ドライアップ性の評価方法〕
得られた各水性ボールペンを、ペン先が暴露された状態で25℃、60%RH環境の恒温恒湿槽で10日間下向きに放置した後、PPC用紙へ直径2cm程度の円を連続して描くように20周螺旋筆記し、下記評価基準で耐ドライアップ性を評価した。
評価基準:
○:カスレが無く良好に筆記できる。
△:5周以内のカスレが発生。
×:5周を超えるカスレが発生。
【0037】
〔初筆描線状態の評価方法〕
上記試験における○評価の例について、筆記初めの描線状態を下記評価基準及び
図1に準拠して評価した。
○:描線ダマ(最初に出渋ってボタッとかたまりが落ちた状態)が認められず一様である〔
図1(b)参照〕。
×:描線ダマが認められる〔
図1(c)参照〕。
【0038】
〔ペン体経時安定性の評価方法〕
得られた各水性ボールペンを50℃、65%RHの条件で1ヶ月間保管した後、JIS規格:S6039−2001に準拠した筆記試験機(ミニテック筆記試験機、三菱鉛筆)を用い、筆記速度4.5m/分、筆記角度60°、筆記加重1.96Nの筆記条件で、JIS規格P3201に準拠した筆記試験紙上に螺旋筆記することにより筆記試験を行い、0−100mの任意の箇所の描線濃度と300−400mの任意の箇所の描線濃度を比較した。
○:描線濃度に差がない。
△:描線濃度に僅かな差が認められる。
×:描線濃度に明らかな差が認められる。
【0039】
〔インク経時安定性の評価方法〕
得られた各インク組成物をガラス瓶に充填し、50℃、65%RHの条件で1ヶ月間保管した後の粘度値(剪断速度3.83/s)を初期(製造直後)と比較した。このインク粘度値が初期と1ヶ月間保管した経時後の粘度値の差が少ないほどインクの安定性に優れていることの指標となる。
【0040】
【表1】
【0041】
上記表1の結果から明らかなように、本発明となる実施例1〜9の筆記具用水性インク組成物は、本発明の範囲外となる比較例1〜5に較べ、樹脂粒子の分散安定性を低下することなく、耐ドライアップ性、描線品位の低下もなく筆記性能に優れ、経時的な粘度上昇もない筆記具用水性インク組成物が得られることが判明した。
比較例1〜5を見ると、比較例1〜4は、実施例1〜4と同じ樹脂粒子を含有したものであって、ブテンジオール・ビニルアルコール共重合体を含有しない筆記具用水性インク組成物であり、比較例5はブテンジオール・ビニルアルコール共重合体の代わりに従来の特開2015−120777号公報に記載の変性エチレンオキサイドポリビニルアルコール共重合体(PVA)を含有したものであり、これらの場合、本発明の効果を発揮できないことが確認された。