(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セルロース繊維を含んでいる紙に対して、0.1質量%以上のカチオン性界面活性剤を含有するクレープ紙であって、クレープ処理前の紙の長手方向の引張弾性率が5GPa以上であり且つ引張破断伸びが5%以下であり、水中伸度法によるクレープ率が5%以上であるクレープ紙。
叩解されたセルロース繊維を含む紙料を湿式抄紙し、それによって得られた紙匹にカチオン性界面活性剤を付与し、次いで該紙匹を乾燥して得られた紙をクレープ処理する工程を有するクレープ紙の製造方法であって、
前記セルロース繊維のフリーネスが250cc以上550cc以下になるまで循環叩解する、クレープ紙の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。本発明のクレープ紙は、襞や皺を有する紙である。襞や皺が紙に伸縮性を持たせるので、クレープ紙はこれを伸ばしたときの表面積が一般的な紙よりも大きくなる。また、クレープ処理することによって風合いや手触りの良さが向上したものとなる。本発明のクレープ紙は、原紙にクレープ処理が施されてなるものである。原紙は、セルロース繊維を含んでなる基材にカチオン性界面活性剤が含有されたものである。したがって原紙をクレープ処理してなるクレープ紙もカチオン界面活性剤を含有するものである。
【0014】
図1には、本発明のクレープ紙の好適な製造方法の一実施形態が模式的に示されている。同図に示すとおり抄造工程(図示せず)によって湿式抄造された紙匹、すなわち繊維シート20は、湿潤状態のまま搬送ベルト21に搬送されてヤンキードライヤ22に導入される。湿式抄紙には、叩解されたセルロース繊維を含む紙料が用いられる。セルロース繊維の叩解については後述する。
【0015】
ヤンキードライヤ22の導入部には、該ヤンキードライヤ22の周面に対向するようにタッチロール23が配置されている。湿潤状態の繊維シート20は搬送ベルト21とともに、タッチロール23に案内されてヤンキードライヤ22に導入される。そして繊維シート20は、ヤンキードライヤ22に導入される直前に、タッチロール23の周面に保持された状態下、該繊維シート20の一面に、噴霧ノズル16から噴霧されたカチオン性界面活性剤が付与される。このように、本工程においては、第1面及びそれと反対側に位置する第2面を有する繊維シート20における一方の面(例えば第1面)からのみ、カチオン性界面活性剤が噴霧によって付与される。
【0016】
カチオン性界面活性剤が付与された繊維シート20は、湿潤状態のままヤンキードライヤ22の周面に保持されて搬送される。そして、その搬送の間に加熱されて水分が除去され乾燥される。このようにして得られた紙24は、ドクターブレード25によってクレープ処理が施されるとともに、ヤンキードライヤ22の周面から剥離される。これによってクレープ紙26が得られる。
【0017】
本発明のクレープ紙26におけるクレープの程度は、水中伸度法によって測定されたクレープ率で表して5%以上であり、8%以上であることが更に好ましく、12%以上であることが一層好ましい。また30%以下であることが好ましく、25%以下であることが更に好ましく、18%以下であることが一層好ましい。クレープ率は、5%以上30%以下であることが好ましく、8%以上25%以下であることが更に好ましく、12%以上25%以下であることが一層好ましい。
【0018】
水中伸度法によるクレープ率は以下の手順で測定される。
(1)紙の寸法よりも大きい浸漬容器に紙が浸る十分量の水を入れる。
(2)試料1枚を紙の縦方向に100〔mm〕、横方向に25〔mm〕切り取る。
(3)試料を浸漬容器に浸漬する。
(4)60秒経過後、紙の縦方向の長さを測定する。
水中伸度〔%〕は、以下の式により求める。
水中伸度〔%〕=(L2−L1)/L1×100
L1:浸漬前の試料の縦方向長さ
L2:浸漬後の試料の縦方向長さ
試料が小さく縦方向の長さL1が100mm以上確保できない場合は、最低でも30mm以上の長さで切り取ればよく、上式に従い計算して水中伸度が求められる。
【0019】
上述の方法で得られたクレープ紙26は0.1質量%以上のカチオン性界面活性剤を含有することが好ましい。これによってクレープ紙26の風合いや柔軟性が向上し、該クレープ紙26は吸収性物品の一構成部材として好適なものとなる。この観点から、クレープ紙26に含まれるカチオン性界面活性剤の量0.3質量%以上であることが更に好ましく、0.6質量%以上であることが一層好ましい。一方、クレープ紙26に含まれるカチオン性界面活性剤の量が過度に多い場合にはべたつきが発生し、また風合い向上の効果が飽和することから、クレープ紙26に含まれるカチオン性界面活性剤の量は、8質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることが更に好ましく、3質量%以下であることが一層好ましい。具体的には、クレープ紙26に含まれるカチオン性界面活性剤の量は、0.1質量%以上8質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上5質量%以下であることが更に好ましく、0.6質量%以上3質量%以下であることが一層好ましい。
【0020】
クレープ紙26に含まれるカチオン性界面活性剤の含有坪量は次の方法で測定される。市販の製品等から分析する場合には、ドライヤやコールドスプレーなどを用いて、各部材を剥がし、対象となるクレープ紙を得る。その後、クレープ紙中の前記のカチオン性抗菌剤の含有坪量を、液体クロマトグラフ/質量分析計(アジレント・テクノロジー株式会社製6140 LC/MS、イオン化法:ESI)にて測定する。あるいは、検量線を作成し、これに基づいてカチオン性抗菌剤の含有量を測定することもできる。
【0021】
カチオン性界面活性剤としては、紙に含有させることで、紙の風合いや柔軟性を向上させ得るものが用いられる。そのようなカチオン性界面活性剤の例としては、例えば塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム及びセチルリン酸ベンザルコニウムなどを好適に用いることができ、特にセチルリン酸ベンザルコニウム(C
38H
74NO
4P)を用いることが、クレープ紙に抗菌性が発現し、且つその安全性及び即効性が高い点から好ましい。つまりカチオン性界面活性剤は抗菌剤であることが好ましい。クレープ紙に抗菌性が発現することは、該クレープ紙を吸収性物品の構成部材と用いる場合に非常に有利である。セチルリン酸ベンザルコニウムとしては、花王株式会社より商品名サニゾールPとして販売されている抗菌剤を用いることができる。なおサニゾールには、これ以外に、サニゾールB−50(アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド)及びサニゾールC(アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド)なども知られており、これらを用いてもよい。
【0022】
カチオン性界面活性剤は、クレープ紙の面方向の全域に満遍なく施すことができる。あるいはクレープ紙の面方向において、カチオン性界面活性剤の存在部と非存在部とが形成されるように施すこともできる。例えば
図1に示す製造工程における長手方向に沿って延びるストライプ状の存在部と非存在部とが、幅方向に交互に位置するように、カチオン性界面活性剤を施すことができる。
【0023】
一方、クレープ紙の厚み方向に関しては、カチオン性界面活性剤は、厚み方向の全域にわたって存在していてもよく、あるいはクレープ紙における2つの面のうちの一方の面側に偏在していてもよい。
【0024】
本発明のクレープ紙は、クレープ処理されていることに加えてカチオン性界面活性剤を含んでいることで、風合いや柔軟性が高いものとなっている。カチオン性界面活性剤を含んでいるクレープ紙の加工性について検討したところ、かかるクレープ紙はカチオン性界面活性剤を含んでいないクレープ紙よりも、加工性のうち、カッター刃による切断性に劣ることが判明した。本発明者はこの原因の究明を鋭意推し進めたところ、クレープ処理に付される前の紙、すなわちカチオン性界面活性剤を含む紙匹がヤンキードライヤで乾燥されてなる紙(以下、この紙のことを「原紙」とも言う。)の物性がクレープ紙の切断性に大きく影響していることを知見した。本発明は、かかる知見に基づきなされたものである。
【0025】
クレープ紙の切断性に影響する原紙の物性として、原紙の長手方向の引張弾性率及び原紙の長手方向の引張破断伸びの二つが主な支配要因であることを、本発明者は知見した。ここで言う「長手方向」とは原紙の製造における抄紙方向(MD)のことである。
【0026】
原紙の長手方向の引張弾性率に関しては、これを5GPa以上に設定することが有利であることが本発明者らの検討の結果判明した。これによって、該原紙をクレープ処理して得られるクレープ紙の切断性が良好になる。これとは対照的に、引張弾性率が5GPa未満である原紙をクレープ処理して得られるクレープ紙ではカッター刃による切断を首尾よく行うことができない。カッター刃による切断を一層首尾よく行う観点から、原紙の引張弾性率は5.5GPa以上に設定することが更に好ましく、6GPa以上に設定することが一層好ましい。また、9GPa以下に設定することが好ましく、8GPa以下に設定することが更に好ましく、7.5GPa以下に設定することが一層好ましい。原紙の引張弾性率は、5GPa以上9GPa以下に設定することが好ましく、5.5GPa以上8GPa以下に設定することが更に好ましく、6GPa以上7.5GPa以下に設定することが一層好ましい。
【0027】
原紙の長手方向の引張弾性率は、次の方法で測定される。幅が25mmで、長さが150mmの測定片を用意する。この測定片においては、その長手方向が製造時の抄紙方向MDと一致するようにする。この測定片を、引張試験機のチャックに把持させる。チャック間距離は100mmとする。引張速度300mm/minで引張試験行い応力−伸びの関係を求める。この関係のなかで、弾性変形領域の傾きを求め、その値を試験片の断面積(厚み:50μm×25mm)で除して得られた値を引張弾性率とする。ここで指定した条件以外はJIS P8113:2006の規格に準じた試験方法で行う。
【0028】
引張弾性率の算出において、試験片の厚みを50μmとした理由は以下のとおりである。一般的には紙の引張弾性率の算出においては、前記のJIS規格に記載されているとおり、実測した紙の厚みと幅から断面積を求める。しかし、紙の厚みは、紙の表面性や紙の製造過程でのプレス工程(ロール間の脱水工程など)により変動し、実質的に同じ坪量で切断性が同じ紙であっても、その影響を受け引張弾性率は変動し、切断性と相関がないことが本発明者の検討の結果判明した。本発明者は、加工機における切断過程において、原紙が切断直前に刃先から受ける高圧縮の状態での切断性を種々検討した結果、原紙の厚さが50μmであると仮定したときの引張弾性率が、加工機での切断性と高い相関があることを見出した。この理由によって、本発明では引張弾性率の算出に、厚み50μmでの断面積を採用したものである。
【0029】
原紙の長手方向の引張破断伸びに関しては、これを5%以下に設定することが有利であることが本発明者らの検討の結果判明した。これによって、該原紙をクレープ処理して得られるクレープ紙の切断性が良好になる。これとは対照的に、引張破断伸びが5%超である原紙をクレープ処理して得られるクレープ紙ではカッター刃による切断を首尾よく行うことができない。カッター刃による切断を一層首尾よく行う観点から、原紙の引張破断伸びは4%以下に設定することが更に好ましい。原紙の引張破断伸びはクレープ処理後のクレープ紙を柔らかく風合いを良くする観点から、好ましくは1.5%以上、更に好ましくは2.5%以上である。以上の観点から、原紙の引張破断伸びは、好ましくは1.5%以上5%以下、更に好ましくは2.5%以上4%以下に設定することが好ましい。
【0030】
原紙の長手方向の引張破断伸びは、次の方法で測定される。上述の引張弾性率の測定において、測定片が破断するまで引張試験を行う。破断が起こったときの測定片の長さを測定し、〔(破断時の測定片の長さ−100)/100〕×100の値を引張破断伸び(%)とする。
【0031】
なお、原紙をクレープ処理して得られるクレープ紙について上述の引張弾性率及び引張破断伸びを測定した場合、切断性の良好なクレープ紙とそうでないクレープ紙との間で引張弾性率及び引張破断伸びの値に有意差は観察されなかった。切断性の良好なクレープ紙とそうでないクレープ紙との間で引張弾性及び引張破断伸びの値に有意差は観察されるのは、クレープ処理前の原紙に関してのみであることを本発明者は確認している。
【0032】
原紙の長手方向の引張弾性率及び引張破断伸びを上述した範囲に設定するためには、原紙の原料となるセルロース繊維の種類や処理方法を適切に選択すればよい。セルロース繊維としては、例えば針葉樹クラフトパルプや広葉樹クラフトパルプのような木材パルプ、木綿パルプ及びワラパルプ等の天然セルロース繊維が挙げられる。あるいはレーヨン及びキュプラ等の再生セルロース繊維を用いることができる。更に、アセテート等の半合成セルロース繊維を用いることもできる。特に、原紙の原料となるセルロース繊維として木材パルプを用い、該木材パルプの処理を適切に行うことが有効であることが、本発明者の検討の結果判明した。
【0033】
木材パルプに対する処理としては、紙料の調製前に行われる木材パルプの叩解処理において、循環叩解処理を行うことが有利である。循環叩解処理は、
図2に示すとおり、リファイナ30と、その下流側に配置されたポーチャー31との間に循環流路32を設け、リファイナ30で叩解された木材パルプの一部を、ポーチャー31を介してリファイナ30へ戻して再度叩解する処理のことである。
【0034】
図2に示す装置において、リファイナ30の上流側に設置されているパルパー33において離解された木材パルプは、リファイナ30に送られて叩解される。叩解された木材パルプは貯留槽としてのポーチャー31に送られる(1パス叩解)。ポーチャー31に貯留されているパルプは配管を伝い、順次リファイナ30に戻される。リファイナ30に戻された木材パルプは再び叩解されて叩解が進行する。このように2回リファイナで処理されたパルプは、1パス叩解によって1回処理されたパルプがあるポーチャーへ移送され混合される。この繰り返しによって、リファイナを1回ないし複数回通過して処理されたパルプが混在する状態となる。このようにして循環叩解セルロース繊維としての循環叩解木材パルプが得られる。
【0035】
循環叩解による木材パルプの叩解の程度はフリーネスで表して250cc以上とすることが好ましく、350cc以上とすることが更に好ましく、400cc以上とすることが一層好ましい。また、550cc以下とすることが好ましく、500cc以下とすることが更に好ましく、450cc以下とすることが一層好ましい。木材パルプのフリーネスは、250cc550cc以下とすることが好ましく、350cc500cc以下とすることが更に好ましく、400cc450cc以下とすることが一層好ましい。
【0036】
フリーネスは、JIS P8121に規定するカナダ標準ろ水度(CSF)で示される値であり、木材パルプの叩解の度合いを示す値である。通常、フリーネスの値が小さいほど、叩解の度合いが強く、叩解による繊維の損傷が大きくてフィブリル化が進行している。フリーネスが前記範囲にある木材パルプは、フィブリル化が進行しているため繊維どうしが絡み合い易く、そのことに起因して原紙の引張弾性率が高くなり、また引張破断伸びが低くなる。
【0037】
循環叩解によって木材パルプのフリーネスを上述のとおりに設定するには、例えばリファイナ30のトルクや回転数を調整したり、叩解の処理時間を調整したりすればよい。叩解機としては、例えばダブルディスクリファイナ、シングルディスクリファイナ及びダブルコニファイナなどを用いることができ、特にダブルディスクリファイナを用いることが有利である。
【0038】
循環叩解によって叩解された木材パルプは、パルプ繊維1本当たりに存在するフィブリルの数が非常に多いものから、少ないものまで、多岐にわたって含んでいることが特徴の一つである。また、循環叩解が進むことによって、紙料中にはフィブリル化の進行とともに繊維が切断された非常に多数の微細繊維が存在することになる。これらの結果、
図3(a)に示すとおり、循環叩解によって叩解された木材パルプは、その叩解度が、低いものから高いものまでが平均化されて存在している。これとは対照的に、循環叩解を行わず、1パスで叩解を行った場合には、
図3(b)に示すとおり、ある特定の叩解度にピークを有するものとなり、パルプ繊維1本1本のフィブリル化の程度や叩解度のばらつきは小さいものとなる。
【0039】
原紙の引張弾性率及び引張破断伸びを上述の範囲に設定するための別の手段として、原紙に紙力増強剤を配合することが挙げられる。紙の技術分野において紙力増強剤としては、一般に湿潤紙力増強剤と乾燥紙力増強剤とが知られているところ、本発明においてはいずれの紙力増強剤を用いることもできる。両紙力増強剤を併用することもできる。紙力増強剤は、好適には、紙料中に含有させておく内添法が、均一な分散性の点から好ましい。
【0040】
湿潤紙力増強剤としては、カチオン性基を有するカチオンポリマーが好適なものとして挙げられる。そのような湿潤紙力増強剤としては、例えばポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(エポキシ化ポリアミドポリアミン樹脂(PAE))、尿素−ホルマリン樹脂、メアミン−ホルマリン樹脂、ジアルデヒドデンプン、ポリエチレンアミン、メチロール化ポリアミド等が挙げられる。これらの湿潤紙力増強剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの湿潤紙力増強剤の中でも、使用可能な抄紙pH域が広い、ホルマリンを含有していない環境負荷の低減等の観点から、エポキシ化ポリアミドポリアミン樹脂(PAE)が好ましい。
【0041】
乾燥紙力増強剤としては、低分子量のものと高分子量のものとの双方を用いることができる。低分子量の乾燥紙力増強剤としては、重量平均分子量(Mw)が0.2以上50万以下のアニオン性基を有する低分子アニオンポリマーが好適に用いられる。ヤンキードライヤへの貼り付き性及び地合の観点から、低分子アニオンポリマーは、アニオン性基を有し、重量平均分子量(Mw)が0.5〜45万、特に1〜40万の低分子アニオンポリマーであることが好ましい。低分子量の乾燥紙力増強剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)の塩及びポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの低分子量の乾燥紙力増強剤の中でも、汎用性及び溶解性の観点から、カルボキシメチルセルロース(CMC)の塩が好ましい。CMCの置換度(エーテル化度)は理論的に3まで可能であるが、生産性等の観点から0.5以上1.5以下の範囲にあることが好ましい。CMCの塩としては、ナトリウム塩が主に用いられる。
【0042】
高分子量の乾燥紙力増強剤としては、その重量平均分子量(Mw)が500以上3000万以下のアニオン性基を有する高分子ポリマーが好適に用いられる。特に、重量平均分子量(Mw)が600以上2500万以下、特に800以上2000万以下のアクリル系ポリアクリルアミド樹脂(PAM)を用いることが好ましい。PAMにおけるアクリル酸ソーダの割合は0.1%mol以上80%mol以下であることが好ましく、1%mol以上50%mol以下であることが更に好ましい。
【0043】
クレープ紙に含まれる紙力増強剤の量は、0.02質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることが更に好ましく、0.5質量%以上であることが一層好ましい。また、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることが更に好ましく、2質量%以下であることが一層好ましい。クレープ紙に含まれる紙力増強剤の量は、0.02質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上3質量%以下であることが更に好ましく、0.5質量%以上2質量%以下であることが一層好ましい。2種類以上の紙力増強剤を組み合わせて用いる場合には、使用したすべての紙力増強剤の合計量に基づき前記の割合を算出する。
【0044】
以上のとおりの構成を有する本発明のクレープ紙は、風合いや柔軟性が高いだけではなく、切断加工のしやすいものでもある。切断加工に際しては一般に、クレープ紙を、カッターユニット(図示せず)を備えた加工機(図示せず)でカットする。カッターユニットは一般に、カッターと、該カッターの刃先を受ける部位、すなわちアンビルとを有している。この加工機を用いた切断加工においては、カッターの刃先とアンビルとの間にクリアランスを設けることが、刃先やアンビルの摩耗や損傷を防ぐ点から好ましい。実質クリアランスは0になるように調整される(カッター刃はリシャープされ再利用される)。おむつ等の加工機において吸収体の切断を繰り返すと刃先の摩耗が進み、クリアランスが開く。クリアランスが実質0の場合、引張弾性率が5GPaに満たないどのような紙でも切断することが可能であるが、首尾よく切断する観点からクリアランスは100μm以下であることが好ましい。この観点から、クリアランス、すなわちカッターの刃先とアンビルとの距離は、0を超え100μm以下に設定することが好ましい。
【0045】
以下に述べる
図4に示すような吸収体の加工においては、クレープ紙26の長手方向X1がおむつ等の製品の長手方向X2と一致するように該クレープ紙26が吸収性コア40を被覆する。このとき、クレープ紙26はアンビルに接した状態で切断され、その後に液透過性の不織布からなる表面シートや液不透過性のバックシート等の部材と組み合わされる加工が行われる。
【0046】
本発明のクレープ紙は、好適には吸収性物品の構成部材として用いられる。
図4には、本発明のクレープ紙を使い捨ておむつや生理用ナプキンなどの吸収性物品に適用したときの一例が示されている。同図には、吸収性物品の吸収性コア40の表面全域を被覆する被覆シート41として、クレープ紙26を用いた実施形態が示されている。吸収性コア40は、フラッフパルプなどの吸液性繊維、又は吸液性繊維及び高吸収性ポリマーを含んで構成されている。この吸収性コア40における面のうち、少なくとも着用者の肌に対向する面をクレープ紙26で被覆している。この場合、クレープ紙26の二つの面のうち、カチオン性界面活性剤が多く存在している側の面41aを着用者の肌に対向するように配置することが好ましい。特に、カチオン性界面活性剤が抗菌剤である場合、該抗菌剤が多く存在している側の面を着用者の肌に対向するように配置することが好ましい。なお吸収性物品は、一般に、液透過性の表面シート、液不透過性ないし難透過性の裏面シート及び両シート間に配置された液保持性の吸収体を備えている。
【0047】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば本発明のクレープ紙は、吸収性物品の構成部材として好適に用いられるものであるが、それ以外の用途に本発明のクレープ紙を用いることは何ら妨げられない。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0049】
〔実施例1〕
セルロール繊維としてNBKP(商品名Cariboo、Cariboo Pulp and Paper Company社製)を用いた。これを
図2に示す循環叩解に付して、フリーネスを以下の表1に示す値とした。このセルロース繊維を含む紙料に表1に示す紙力増強剤を添加した。湿潤紙力増強剤としてポリアミンエピクロロヒドリン(商品名WS−4024、星光PMC株式会社製)を用い、乾燥紙力剤としてポリアクリルアミド(商品名アコフロックA95、MTアクアポリマー株式会社製)、及びカルボキシメチルセルロース(商品名セロゲンWS−C、第一工業製薬株式会社製)を用いた。各紙力増強剤の量は、最終的に得られるクレープ紙中での割合が同表になるような値とした。このようにして得られた紙料を用い、円網を用いた湿式抄紙を行い、それによって得られた紙匹を
図1に示す装置を用いて乾燥させ、且つクレープ処理した。乾燥に際しては、表1に示すカチオン性抗菌剤を紙匹に噴霧した。カチオン性抗菌剤としてはセチルリン酸ベンザルコニウム(商品名サニゾールP、花王株式会社製)、塩化ベンザルコニウム(商品名サニゾールC、花王株式会社製)、塩化ベンゼトニウム(和光純薬工業株式会社製)を用いた。カチオン性抗菌剤の噴霧量は、最終的に得られるクレープ紙中での割合が同表になるような値とした。このようにして、目的とするクレープ紙を得た。得られたクレープ紙について、上述の方法でクレープ率を測定し、更に以下の方法で風合い及び切断適性を評価した。また、クレープ処理する前の原紙について長手方向の引張弾性率及び引張破断伸びを測定した。これらの結果を表1に示す。
【0050】
〔実施例2ないし10〕
以下の表1に示す条件を採用する以外は実施例1と同様にしてクレープ紙を得た。得られたクレープ紙について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。それらの結果を表1に示す。
【0051】
〔比較例1〕
本比較例は、実施例1において原紙に対して、低いクレープ率でクレープ処理を行った例である。それ以外は実施例1と同様にした。得られた紙について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。それらの結果を表2に示す。
【0052】
〔比較例2〕
本比較例は、実施例1で用いたセルロース繊維に代えて、該セルロース繊維よりもフリーネスの高いセルロース繊維を用いた例である。このセルロースは、1パスの叩解によって得られたものである。それ以外は実施例1と同様にした。得られたクレープ紙について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。それらの結果を表2に示す。
【0053】
〔比較例3〕
本比較例は、実施例1で用いたセルロース繊維に対して、その質量の10%をレーヨン繊維(繊維長38mm、ダイワボウレーヨン株式会社製)に置き換えた例である。それ以外は実施例1と同様にした。得られたクレープ紙について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。それらの結果を表2に示す。
【0054】
<風合い>
専門パネル5人(不織布の研究開発従事者)に、実施例と比較例のシートを手に持たせ、実施例3のシートの官能値を5.0、比較例1のシートの官能値を1.0として基準を設け、他の実施例と比較例について基準と相対比較しながら風合いの官能評価を行わせた。各シート3枚を評価し、全パネラーの平均値を風合いの官能値とした。
5:非常に柔らかい
4:柔らかい
3:やや柔らかい
2:やや硬い
1:硬い
【0055】
<切断適性>
生理用ナプキンの加工機においてロール状のクレープ紙をMD方向に搬送し、パルプ150g/m
2、吸収性ポリマー150g/m
2の混合積繊体(吸収性コア)をクレープ紙の上に載せ、
図4に示すようにクレープ紙で被覆して吸収体を得た。カッター刃を有するロータリーカッターと、それに対向するアンビルロールとの間に吸収体を通過させて、該吸収体を連続して切断した。吸収体の切断は、その大きさが幅70mm、長手方向の長さが200mmとなるようにした。ロータリーカッターの速度は吸収体300個/分に設定し、30分の加工を行った。クレープ紙の切断不良による吸収体の搬送不良や、吸収体が切断されず連結される等の加工不良が起きず、連続して30分加工できた場合はそのクレープ紙の切断適性を○と評価し、クレープ紙の切断不良が生じ、そのことが原因で吸収体が連結されていたり(製品不良)、吸収体がめくれる等の搬送不良が生じた場合はそのクレープ紙の切断適性を×と評価した。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
表1及び表2に示す結果から明らかなとおり、所定の引張弾性率及び引張破断伸びを有する原紙を5%以上の高いクレープ率でクレープ処理して得られた各実施例のクレープ紙は、良好な風合いを呈するとともに加工適性に優れたものであることが判る。これに対して5%未満の低いクレープ率でクレープ処理を施した比較例1の紙は風合いに劣るものであることが判る。フリーネスの高いセルロースを原料とする比較例2のクレープ紙や、循環叩解セルロース繊維に加えて他の繊維を原料とする比較例3のクレープ紙は、切断適性に劣るものであることが判る。