特許第6626478号(P6626478)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6626478シリコンインゴット作製用の容器およびその製造方法、ならびに結晶シリコンインゴットを製造するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6626478
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】シリコンインゴット作製用の容器およびその製造方法、ならびに結晶シリコンインゴットを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/021 20060101AFI20191216BHJP
   C01B 21/082 20060101ALI20191216BHJP
【FI】
   C01B33/021
   C01B21/082 D
【請求項の数】10
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-142563(P2017-142563)
(22)【出願日】2017年7月24日
(65)【公開番号】特開2018-30774(P2018-30774A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2017年7月24日
(31)【優先権主張番号】62/368178
(32)【優先日】2016年7月29日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】15/633777
(32)【優先日】2017年6月27日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514213682
【氏名又は名称】友達晶材股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】AUO Crystal Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100093997
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀佳
(72)【発明者】
【氏名】余 昌和
(72)【発明者】
【氏名】陳 ▲彦▼銘
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/090541(WO,A1)
【文献】 特開2009−269792(JP,A)
【文献】 特開平11−278855(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/192163(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/193
C01B 21/082
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英を含む下地層と、
前記下地層の内面を覆うバリア層とを有し、前記下地層と前記バリア層は、前記バリア層と前記下地層との間に付着力を与える原子結合によって接合され、かつ、前記バリア層が、SixNyOz、1≦x≦2、1≦y≦2、および0.1≦z≦1で表される酸窒化シリコンを有し、
前記下地層が気泡複合材料層と気泡を含まない層とを有し、前記気泡を含まない層が前記気泡複合材料層と前記バリア層との間にあり、前記気泡を含まない層の一部が前記バリア層を構成する、容器。
【請求項2】
前記バリア層の厚さが20μm〜150μmである、請求項1に記載の容器。
【請求項3】
前記バリア層が窒化シリコンを含む、請求項1または2に記載の容器。
【請求項4】
前記バリア層と前記下地層との間の前記付着力が30MPaよりも大きい、請求項1〜3のいずれか1項に記載の容器。
【請求項5】
前記バリア層が粗面化された表面を有し、前記バリア層の粒径が15μm〜55μmの範囲内にある、請求項1〜4のいずれか1項に記載の容器。
【請求項6】
シリコンインゴット作製のための容器を製造するための方法であって、
石英からなる下地層をチャンバ内に準備し、
粉末溶液層を前記下地層の内面の上にコーティングし、ここで前記粉末溶液層は窒化シリコン(Si3N4)、炭素、またはシリコンを含み、
前記下地層の一部が、SixNyOz、1≦x≦2、1≦y≦2、および0.1≦z≦1で表される酸窒化シリコンを含むバリア層を形成するように、前記チャンバに窒素ガスを2時間〜8時間供給しながら、前記粉末溶液層を上にコーティングした前記下地層を1000℃〜1700℃の温度に加熱する方法。
【請求項7】
前記バリア層が結晶成長によって形成される請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記バリア層が粗面化された表面を有し、前記バリア層の粒径が15μm〜55μmの範囲内にある請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記下地層が気泡複合材料層および気泡を含まない層を有し、前記気泡を含まない層が前記バリア層の前記形成に寄与する請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
結晶シリコンインゴットを製造するための方法であって、
シリコン材料を容器に入れ、ここで前記容器は石英を含む下地層と前記下地層の内面を覆うバリア層とを有し、前記下地層および前記バリア層は、前記バリア層と前記下地層との間に付着力を与える原子結合によって接合され、前記バリア層が、SixNyOz、1≦x≦2、1≦y≦2、および0.1≦z≦1で表される酸窒化シリコンを含み、前記バリア層は、窒素雰囲気下で前記下地層と粉末溶液層とを反応させて形成され、前記粉末溶液層は、窒化シリコン、炭素、又はシリコンを含み、前記下地層の一部は前記バリア層を構成し、
前記シリコン材料を加熱および溶融してシリコン溶融体を形成し、
前記シリコン溶融体を固化して結晶シリコンインゴットを形成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に容器およびその製造方法に関し、特に、シリコンインゴット作製のための容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の結晶シリコン太陽電池に適用される結晶シリコンウエハは、一般に結晶シリコンインゴットを切断することによって形成される。シリコンインゴットは、容器の中でシリコン材料を加熱し、溶融したシリコンを得ることによって製造することができる。その後、溶融シリコンは冷却され、凝縮されて、結晶シリコンインゴットを形成する。しかし、加熱プロセス中に、容器中の分子が結晶シリコンインゴットに拡散することで、得られた結晶シリコンインゴットに高濃度の不純物が含まれるかもしれない。そうすると、作製された太陽電池の光電変換効率が高濃度の不純物を有する結晶シリコンインゴットを使用することで脅かされることになる。そのため、結晶シリコンインゴットの製造プロセス中に生成される結晶シリコンインゴット中の不純物を減らすことが、当分野の研究者にとって重要な課題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、シリコンインゴット中の不純物を効果的に減らすことのできる、シリコンインゴット作製のための容器およびその製造方法を提供する。さらに、結晶シリコンインゴットを製造するための方法も提供される。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、シリコンインゴット作製のための容器を提供する。容器には、下地層と、下地層の内面を覆うバリア層が含まれる。下地層には石英が含まれる。バリア層および下地層は、バリア層と下地層との間に付着力を与える原子結合によって接合される。バリア層には、SixNyOz、1≦x≦2、1≦y≦2、および0.1≦z≦1で表される酸窒化シリコンが含まれる。
【0005】
本発明は、シリコンインゴット作製のための容器を製造するための方法を提供する。本方法には、次の工程が含まれる。石英からなる下地層をチャンバ内に準備する。粉末溶液層を、下地層の内面にコーティングする。粉末溶液層には、窒化シリコン(Si)、炭素、またはシリコンが含まれる。粉末溶液層を上にコーティングした下地層を、チャンバに反応ガスを2時間〜8時間供給しながら1000℃〜1700℃の温度に加熱して下地層の一部にバリア層を形成させる。
【0006】
本発明は、結晶シリコンインゴットを製造するための方法を提供する。本方法には、次の工程が含まれる。シリコン材料を容器の中に入れる。容器は、下地層と下地層の内面を覆うバリア層を有する。下地層には石英が含まれる。バリア層および下地層は、バリア層と下地層との間に付着力を与える原子結合によって接合される。バリア層には、SixNyOz、1≦x≦2、1≦y≦2、および0.1≦z≦1で表される酸窒化シリコンが含まれる。その後、シリコン材料を加熱し、溶融させて、シリコン溶融体を形成する。シリコン溶融体を固化して結晶シリコンインゴットを形成する。
【発明の効果】
【0007】
したがって、下地層の内面を覆うバリア層を形成することによって、容器の原子は、その後に形成される結晶シリコンインゴットに拡散しにくい。言い換えれば、バリア層は、結晶シリコンインゴット中の不純物の量を減らすように、容器由来の不純物の拡散を抑制する。したがって、結晶シリコンインゴットの質を改善することができ、前記結晶シリコンインゴットを使用して作製した太陽電池の効率も増強することができる。
【0008】
本発明の上記およびその他の特徴および利点をより分かりやすくするために、図を伴う実施形態を以下の通り詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
添付図面は、本発明のさらなる理解を提供するために含められ、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部をなす。図面は、本発明の実施形態を例示し、説明とともに、本発明に原理を説明する働きをする。
【0010】
図1】本発明の一実施形態による結晶シリコンインゴット成長システムを示す概略図を示す図である。
【0011】
図2A】本発明の一実施形態による容器の製造工程を示す図1の領域Rにおける容器の拡大図を示す図である。
図2B】本発明の一実施形態による容器の製造工程を示す図1の領域Rにおける容器の拡大図を示す図である。
図2C】本発明の一実施形態による容器の製造工程を示す図1の領域Rにおける容器の拡大図を示す図である。
図2D】本発明の一実施形態による容器の製造工程を示す図1の領域Rにおける容器の拡大図を示す図である。
【0012】
図3A】結晶シリコンインゴットと、図2A図2Dに従って製造した容器との間の界面の光学顕微鏡写真を示す図である。
【0013】
図3B】結晶シリコンインゴットと、バリア層を含まない従来容器との間の界面の光学顕微鏡写真を示す図である。
【0014】
図4A】本発明の別の実施形態による容器の製造工程を示す図1の領域Rにおける容器の拡大図を示す図である。
図4B】本発明の別の実施形態による容器の製造工程を示す図1の領域Rにおける容器の拡大図を示す図である。
図4C】本発明の別の実施形態による容器の製造工程を示す図1の領域Rにおける容器の拡大図を示す図である。
図4D】本発明の別の実施形態による容器の製造工程を示す図1の領域Rにおける容器の拡大図を示す図である。
【0015】
図5A】結晶シリコンインゴットと、図4A図4Dに従って製造した容器との間の界面の光学顕微鏡写真を示す図である。
【0016】
図5B】結晶シリコンインゴットと、バリア層を含まない従来容器との間の界面の光学顕微鏡写真を示す図である。
【0017】
図6】本発明の別の実施形態による結晶シリコンインゴット成長システムを示す概略図を示す図である。
【発明の詳細な説明】
【0018】
本発明の本実施形態への詳しい言及が行われ、その例は添付の図面に示される。可能な限り、同じ参照番号を図面および説明中で使用して同様の部品を言及する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態による結晶シリコンインゴット成長システムを示す概略図である。図1を参照すると、結晶シリコンインゴット成長システムには、容器100、結晶シリコンインゴット200、および熱源300が含まれる。容器100には、内面100aと外面100bが含まれる。結晶シリコンインゴット200は、容器100に含まれ、容器100の内面100aの上に形成される。熱源300は、一定の距離で容器100から離れていて、熱放射(熱エネルギー)Hを容器100に与える。熱源300は、例えば、グラファイトヒーターである。結晶シリコンインゴット200は、次の工程によって形成されてよい。まず、シリコン材料(図示せず)を容器100の中に入れる。その後、熱源300によって与えられる熱放射Hによって、容器100に含まれるシリコン材料を加熱し、溶融させて、シリコン溶融体を形成する。その後、シリコン溶融体を固化して結晶シリコンインゴット200を形成する。一部の実施形態では、結晶シリコンインゴット200を形成する工程は、結晶シリコンインゴット200および容器100が互いに離れるように、容器100および結晶シリコンインゴット200を異なる方向で回転させることを含む。例えば、容器100は時計回りの方向に回転させてよく、一方、結晶シリコンインゴット200は反時計回りの方向に回転させてよい。
【0020】
容器100は、例えば、シリコンインゴット成長のためのるつぼである。容器100には、下地層110およびバリア層112が含まれる。下地層110は、石英からなっていてよい。一部の実施形態では、下地層110は、純粋な二酸化シリコン(SiO)からなるが、それは本発明において制限と解釈されない。一部の代替実施形態では、下地層110には、SiO以外の分子が含まれてもよい。例えば、下地層110には、炭化シリコン(SiC)または窒化シリコン(SiN)も含まれてもよい。下地層110には、気泡複合材料層102および気泡を含まない層104が含まれる。気泡複合材料層102の方が熱源300に近く、気泡を含まない層104の方が結晶シリコンインゴット200に近い。言い換えれば、気泡を含まない層104は、気泡複合材料層102と結晶シリコンインゴット200(またはバリア層112)の間に位置する。気泡複合材料層102は、複数の気泡を包含し(図示せず)、一方、気泡を含まない層104は、気泡が中に形成されていない、実質的に中実構造である。代替実施形態では、気泡を含まない層104は、それでも少数の気泡を含む(図示せず)。つまり、気泡を含まない層104の気泡の密度は、気泡複合材料層102気泡の密度よりも低い。気泡複合材料層102の気泡は、熱源300によって与えられる熱放射Hを散乱させることがある。言い換えれば、気泡複合材料層102の気泡は、熱放射Hが全方向に移動して均一な加熱を達成することを助ける。そのため、結晶シリコンインゴット200の均一な成長を達成することができる。他方、加熱によって、結晶シリコンインゴット200に近い下地層110は溶融することがある。下地層110を強化するために、気泡を含まない層104を結晶シリコンインゴット200に近い側に形成する。気泡を含まない層104は密度が高いので、下地層110の耐久性および耐熱性を強化することができ、それにより容器100の耐用年数を延長することができる。
【0021】
下地層110は、結晶シリコンインゴット200に面している内面110aを有する。バリア層112は、下地層110の内面110aの上に形成される。言い換えれば、バリア層112は、下地層110と結晶シリコンインゴット200に挟まれている。バリア層112は、実質的に、SixNyOz(式中、1≦x≦2、1≦y≦2、および0.1≦z≦1である)で表される酸窒化シリコンからなる。バリア層112が酸窒化シリコンからなり、下地層110が二酸化シリコンからなるので、これらの2つの層の格子のマッチングを観察することができる。言い換えれば、バリア層112および下地層110は、バリア層112と下地層110との間に強い付着力を与える原子結合によって接合される。バリア層112と下地層110との間の強い付着力は、容器100と結晶シリコンインゴット200との間の相対回転の剪断応力のためにバリア層112の一部が剥離することを防ぐことができる。一部の実施形態では、バリア層112と下地層110との間の付着力は、30MPaよりも大きいことがある。例えば、バリア層112と下地層110との間の付着力は、50MPa〜60MPaでありうる。一方、バリア層112は焼結および結晶化プロセスによって形成されているので、その厚さは比較的薄いことがある。例えば、バリア層112の厚さは20μm〜150μmであってよい。一部の実施形態では、バリア層112は、60μm〜100μmの厚さを有することが好ましい。さらに、バリア層112は、粒径が15μm〜55μmの範囲内にある楕円状の粒表面形状が観察される粗面化された表面を有する。例えば、一部の実施形態では、バリア層112の粗面化された表面の粒径は、28μm〜43μmの範囲内でありうる。バリア層112は、不純物(例えば、酸素原子)が下地層110から結晶シリコンインゴット200に拡散することを防ぐことができる。よって、得られる結晶シリコンインゴット200の品質を改善することができる。得られた結晶シリコンインゴット200は、さいの目に切断されて複数の結晶シリコンウエハを形成することができる。結晶シリコンウエハは、その後、電子デバイスを製造するために使用される。そのため、結晶シリコンインゴット200を利用することによって製造された装置の性能も同様に強化されることになる。バリア層112を形成する方法は、以下に詳細に説明される。
【0022】
図2A図2Dは、本発明の一実施形態による容器100の製造工程を示す図1の領域Rにおける容器の拡大図である。図2Aを参照すると、下地層110がチャンバCに準備される。チャンバCには、後のプロセスで反応ガスを供給するための管Pが含まれる。本実施形態では、下地層110は石英(SiO)からなり、気泡複合材料層102および気泡を含まない層104を含む。本実施形態では、気泡複合材料層102の厚さは、実質的に、気泡を含まない層104の厚さと等しい。しかしながら、それは本発明において制限と解釈されない。一部の代替実施形態では、気泡を含まない層104の厚さは、気泡複合材料層102の厚さよりも小さくてよい。粉末溶液層106は、大気条件(760トルおよび100℃)下で下地層110の内面110aの上にコーティングされる。粉末溶液層106のための粉末溶液は、例えば、粉末を溶媒に溶解することによって調製されてよい。本実施形態では、粉末には窒化シリコン(Si)粒子が含まれる。一方、溶媒には蒸留水、エタノール、またはメタノールが含まれてよい。さらに、偏析係数の低い分散剤または結合剤が含まれてよい。粉末溶液層106がコーティングされた下地層110は、30分間放置される。
【0023】
図2Bを参照すると、熱エネルギーTがチャンバCに与えられる。具体的には、チャンバCは1000℃〜1700℃の温度に加熱される。好ましい実施形態では、チャンバCは1400℃〜1600℃の温度に加熱される。その間に、反応ガスGが管Pを通じてチャンバCに供給される。反応ガスGは、例えば窒素ガスである。チャンバCは20トル〜200トルの範囲の圧力に保たれ、そして下地層110が2時間〜8時間の間粉末溶液と反応させられる。さらに、別の実施形態では、4時間〜6時間の反応時間でチャンバCが50トル〜100トルの範囲の圧力に保たれることが好ましい。下地層110と粉末溶液との間の反応は窒素富化環境(高濃度の窒素ガス)で起こるので、下地層110の中の酸素原子と、粉末溶液層106と反応ガスGに由来する窒素原子との間で内部拡散が起こって、図2Cに例示されるように下地層110の内面110aの上にバリア層112が形成されることがある。バリア層112は、実質的に酸窒化シリコンで構成される。一部の実施形態では、バリア層112には、純粋な酸窒化シリコンが含まれる。一部の代替実施形態では、酸窒化シリコンに加えて窒化シリコンや酸化シリコンのようなわずかな量の微量化合物がバリア層112に形成されることがある。通常、窒化シリコンはバリア層112において見出されることがある。バリア層112の酸窒化シリコンの分子式は、SixNyOz(式中、1≦x≦2、1≦y≦2、および0.1≦z≦1である)によって表されることができる。バリア層112は、焼結および内部拡散によって形成されるので、バリア層112および下地層110は、バリア層112と下地層110との間に付着力を与える原子結合によって接合される。例えば、バリア層112と下地層110との間の付着力は、30MPaよりも大きくすることができる。一部の実施形態では、バリア層112と下地層110との間の付着力は、50MPa〜60MPaの範囲にすることができる。さらに、バリア層112の厚さは比較的薄くてよく、その厚さは20μm〜150μmの範囲内であってよく、より好ましくは60μm〜100μmの範囲内であってよい。さらに、バリア層112は結晶成長によって形成されるので、当該バリア層112は、粒径が15μm〜55μmの範囲内にある楕円状の粒表面形状が観察される粗面化された表面を有する。言い換えれば、結晶粒子または結晶粒を、バリア層112の表面に見出すことができる。一部の実施形態では、反応パラメータを調節することによって、バリア層112の表面の結晶粒子または結晶粒の配向を制御することが可能である。例えば、バリア層112の表面上の結晶のx、y、およびz方向の配向は、特定の表面特性を得るように制御することができる。上述のように、本発明の実施形態において、バリア層112の成長前、気泡複合材料層102の厚さは、気泡を含まない層104の厚さと実質的に等しい。しかしながら、気泡を含まない層104および粉末溶液層106は両方ともバリア層112を形成する反応に寄与するので、これらの2つの層の厚さは、図2Cに示されるようにバリア層112が形成された後に、わずかに減少することに留意する必要がある。言い換えれば、気泡を含まない層104の一部はバリア層112となり、反応した気泡を含まない層104は未反応の気泡複合材料層102と比較して厚さが薄い。さらに、チャンバCに与えられる熱エネルギーTは、Si粒子の残っている未反応残留物を含む残余層108を形成するように、粉末溶液層106中の溶媒を蒸発させることができる。Siの未反応残留物は粉末の形態をとることがある。
【0024】
図2Dを参照すると、バリア層112が形成された後に、残余層108が除去される。Siの未反応残留物は粉末の形態であるので、残余層108はスクレイピングまたはエアの吹き付けによって除去することができる。
【0025】
図3Aは、結晶シリコンインゴット200と、図2A図2Dに従って製造された容器100との間の境界面の光学顕微鏡写真である。図3Bは、結晶シリコンインゴット200と、バリア層を含まない従来の容器100’との間の境界面の光学顕微鏡写真である。図3Aおよび図3Bを参照すると、濡れ試験が、結晶シリコンインゴット200と、容器100、100’との間の境界面で実施される。結晶シリコンインゴット200と容器100、100’との間の接触角θは、ヤング−デュプレの式:
γSG=γSL+γLGcosθ
(式中、γSG、γSL、およびγLGは表面張力である)によって計算することができる。図3Aおよび図3Bに示されるように、図3Aの結晶シリコンインゴット200のバリア層112との接触角θは108°であるが、図3Bの結晶シリコンインゴット200の容器100’との接触角θは62°である。言い換えれば、バリア層112は、結晶シリコンインゴット200と容器100との間の相互作用を防ぐことができる。さらに、結晶シリコンインゴット200と容器100、100’との間の境界面に近い結晶シリコンインゴット200中の格子間酸素含有量は、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)によって測定された。図3Aの実施形態において、格子間酸素含有量は、約12.35原子百万分率(ppma)である。反対に、図3Bの格子間酸素含有量は、約19.73ppmaである。これらの実験値から、バリア層112が、下地層110から結晶シリコンインゴット200への不純物(例えば、酸素原子)の拡散を効果的に防止することができることがさらに確認される。
【0026】
図4A図4Dは、本発明の別の実施形態による容器の製造工程を示す図1の領域Rにおける容器の拡大図である。図4A図4Dを参照すると、この実施形態は、図2A図2Dの実施形態に類似し、本発明の実施形態では、粉末溶液層106の粉末が炭素でありうる点が異なっている。本実施形態では、炭素原子は、シリコン還元の触媒として作用する。詳細には、粉末溶液層106中の炭素原子は、下地層110の二酸化シリコンが炭素熱還元を受けて遊離シリコン原子になるのを助ける。その他の実施形態では、粉末溶液層106の粉末は、純粋なシリコンであってよい。粉末溶液層106のシリコン粉末も、次の工程のための遊離シリコン原子を与える。その後、遊離シリコン原子は、管Pによって供給される窒素ガス(反応ガスG)および下地層110の酸素原子と反応して、下地層110の内面110aの上にバリア層112を形成することがある。言い換えれば、下地層110の一部はバリア層112となる。この実施形態の反応パラメータは、図2A図2Dの実施形態の反応パラメータと同じであってよいことに留意する必要がある。
【0027】
図2A図2Dの実施形態と同様に、バリア層112中の酸窒化シリコンの分子式は、SixNyOz(式中、1≦x≦2、1≦y≦2、および0.1≦z≦1である)によって表すことができる。バリア層112は焼結および結晶成長によって形成されるので、バリア層112と下地層110は、バリア層112と下地層110との間に付着力を与える原子結合によって接合される。例えば、バリア層112と下地層110との間の付着力は、30MPaよりも大きくすることができる。一部の実施形態では、バリア層112と下地層110との間の付着力は、50MPa〜60MPaの間の範囲にすることができる。さらに、バリア層112の厚さは比較的薄くすることができ、その厚さは20μm〜150μmの範囲内、より好ましくは60μm〜100μmの範囲内にすることができる。さらに、バリア層112は結晶成長によって形成されるので、バリア層112は、粒径が15μm〜55μmの範囲内になる楕円状の粒表面形状が観察される粗面化された表面を有する。言い換えれば、結晶粒子または結晶粒を、バリア層112の表面に見出すことができる。気泡を含まない層104はバリア層112を形成する反応に寄与するので、図4Cに示されるように、気泡を含まない層104の厚さはバリア層112が形成された後にわずかに減少することに留意する必要がある。一方、粉末溶液層106中の炭素原子は、単に触媒として作用するので、粉末溶液層106の厚さの低下は溶媒の蒸発だけに由来する。
【0028】
図5Aは、結晶シリコンインゴット200と、図4A図4Dに従って製造した容器100との間の境界面の光学顕微鏡写真である。図5Bは、結晶シリコンインゴット200と、バリア層を含まない従来の容器100’との間の境界面の光学顕微鏡写真である。図3Aおよび図3Bと同様に、図5Aおよび図5Bにおいて、濡れ試験は、結晶シリコンインゴット200と容器100、100’との間の境界面で実施される。図5Aおよび図5Bに示されるように、図5Aの結晶シリコンインゴット200のバリア層112との接触角θは96°であるが、図5Bの結晶シリコンインゴット200の容器100’との接触角θは67°である。言い換えれば、バリア層112は、結晶シリコンインゴット200と容器100との間の相互作用を防ぐことができる。さらに、結晶シリコンインゴット200と容器100、100’との間の境界面に近い結晶シリコンインゴット200中の平均酸素含有量が、不活性ガス融解分析法(IGFA)によって測定された。図5Aの実施形態において、平均酸素含有量は約15重量百万分率(ppmw)である。反対に、図5Bの平均酸素含有量は約22ppmwである。これらの実験値から、バリア層112が、下地層110から結晶シリコンインゴット200への不純物(例えば、酸素原子)の拡散を効果的に防止することができることがさらに確認される。
【0029】
上述のように、バリア層112は、本発明の実施形態において結晶成長によって形成される。そのため、本発明のバリア層112は、コーティング技術によって下地層110の上に形成された酸窒化シリコン層とは異なる性質を示すことになる。結晶成長によって形成された本発明のバリア層112、コーティング技術によって形成された酸窒化シリコン層(比較例1)、およびコーティング技術と焼結によって形成された酸窒化シリコン層(比較例2)の比較を下の表1に示す。
【0030】
比較例1では、酸窒化シリコン粉末(粉末粒子の平均粒径は5μmである)を、溶媒(例えば、蒸留水)に溶解して酸窒化シリコン溶液を形成し、次に酸窒化シリコン溶液を50mm×50mm×10mmの寸法の石英基板の上にコーティングした。比較例2では、比較例1の石英基板の上に酸窒化シリコン層をコーティングしたものが準備された。酸窒化シリコン層をコーティングした石英基板が1500℃の温度に加熱された。
【0031】
【表1】
【0032】
付着試験は、50mm×50mm×10mmの寸法のサンプルを、蒸留水を満たした超音波処理装置の槽に浸漬することによって実施した。超音波処理装置の槽の中の蒸留水の温度は25℃である。その後、超音波処理装置の槽の電源を入れ、400Wの電力を加えて超音波処理装置の槽を40kHzの周波数で15分間振動させる。サンプルの表面を検査する。
【0033】
表1で明らかに示されるように、バリア層112の表面上の粒子の粒径は、コーティングによって形成された酸窒化シリコン層の粒径よりも大きい。言い換えれば、本発明のバリア層112は、粗さの大きい表面形状を有する。一方、本発明の実施形態において結晶成長によって形成されたバリア層112の厚さは、比較例1の酸窒化シリコン層よりも著しく薄い。さらに、付着試験の後、残留物はなお本発明のバリア層112の上で見つけられるが、比較例1では全ての残留物が除去されている。ちなみに、比較例2の酸窒化シリコン層は、焼結後は亀裂または亀裂状である。そのため、比較例2の全ての残留物は、付着試験の後に除去される。言い換えれば、本発明の実施形態におけるバリア層112と下地層110との間の付着は、コーティング技術によって形成された酸窒化シリコン層と下地層110との間の付着よりも著しく強い。
【0034】
比較例2の酸窒化シリコン層の亀裂は、酸窒化シリコン層と石英基板との間の熱膨張係数の不一致に起因して、焼結後に観察されることに留意する必要がある。実際的には、比較例1および2の酸窒化シリコン層の残留物は、シリコンインゴット中の不純物の量を増やすように、その後形成されるシリコンインゴットを汚染することになる。
【0035】
図6は、本発明の別の実施形態による結晶シリコンインゴット成長システムを示す概略図である。図6を参照すると、この実施形態は図1の実施形態に類似し、本発明の実施形態では、容器100が、下地層110の外面110bの上に形成された保護層114をさらに含む点が異なる。保護層114の材料および製造方法は、バリア層112のものと同一であってよい。言い換えれば、保護層114は、実質的に酸窒化シリコンで構成される。保護層114の酸窒化シリコンの分子式は、SixNyOz(式中、1≦x≦2、1≦y≦2、および0.1≦z≦1である)によって表すことができる。保護層114は、図2A図2Dまたは図4A図4Dに示される方法によって製造することができる。上述のように、熱源300は、グラファイトヒーターであってよい。熱放射Hを与えるプロセスの間、熱源300の不純物が放出されることがある。これらの不純物は、容器100の外面100bを汚染し、容器100の結晶化および亀裂を引き起こすことがある。そのため、保護層114を下地層110の外面110bの上に形成することによって、容器100に亀裂を引き起こす相互作用を防ぐことができる。そのため、容器100の耐用年数を効果的に延長することができる。
【0036】
まとめると、バリア層は、結晶シリコンインゴット中の不純物の量を減らすように、容器から出た不純物の拡散を抑制する。したがって、結晶シリコンインゴットの品質を改善することができ、前記結晶シリコンインゴットを使用して作製した太陽電池の効率も増強することができる。さらに、バリア層と下地層との間の付着力は、バリア層の一部が、容器と結晶シリコンインゴットとの間の相対回転の剪断応力のために剥離するのを防ぐことができる。結晶シリコンインゴットの品質はさらに改善することができる。
【0037】
当業者であれば、本発明の範囲または精神から逸脱することなく、本発明の構造に様々な変更および改変を行うことができることは明らかである。前述の内容を考えると、以下の特許請求の範囲およびその等価物の範囲内にあるならば、本発明は本発明の変更形態および改変形態を包含することを意図する。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本開示において、バリア層は、結晶シリコンインゴット中の不純物の量を減らすように、容器から出た不純物の拡散を抑制する。したがって、結晶シリコンインゴットの品質を改善することができ、前記結晶シリコンインゴットを使用して作製した太陽電池の効率も増強することができる。そのため、本開示の容器から作製するシリコンインゴットは、様々な半導体産業、例えば太陽エネルギー産業、ディスプレイパネル産業、メモリ装置産業などに使用することができる。
【符号の説明】
【0039】
100、100’:容器
100a:内面
100b:外面
102:気泡複合材料層
104:気泡を含まない層
106:粉末溶液層
108:残余層
110:下地層
110a:内面
110b:外面
112:バリア層
114:保護層
200、200’ :結晶シリコンインゴット
300:熱源
C:チャンバ
G:反応ガス
H:熱放射
T:熱エネルギー
P:管
R:領域
θ:接触角
γSG、γSL、およびγLG:表面張力
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図6