【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発/革新的新構造太陽電池の研究開発/ペロブスカイト系革新的低製造コスト太陽電池の研究開発(超軽量太陽電池モジュール技術の開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施形態において、半導体素子とは、太陽電池、またはセンサーなどの光電変換素子と、発光素子との両方を意味するものである。そしてこれらは、活性層が光電変換層として機能するか、発光層として機能するかの差があるが、基本的な構造は同様である。
【0009】
以下、実施形態による半導体素子の構成部材について、太陽電池を例に説明するが、共通の構造を有する光電変換素子にも適用できるものである。
【0010】
図1は、実施形態による半導体素子の一態様である太陽電池10の構成の一例を示す模式図である。基板17上に、第一の電極11、第一のバッファー層12、活性層(光電変換層)13、第二のバッファー層14、バリア層15、第二の電極16が積層している。
【0011】
第一の電極11と第二の電極16は、陽極または陰極となり電気が流れる。活性層13は、基板17と第一の電極11と第一のバッファー層12、または第二の電極16と第二のバッファー層14を通して入射した光によって励起され第一の電極11と第二の電極16に電子または正孔を生じる材料である。さらに、第一の電極11と第二の電極16から電子とホールが注入された後、光を生じる材料である。
【0012】
図1において、第一のバッファー層12と第二のバッファー層14は、活性層と第一の電極または第二の電極との間に存在する層である。
図1では、第一のバッファー層と第二のバッファー層は、活性層の両側表面にそれぞれ配置されているが、活性層13の一片側表面に、第一の電極11および第一のバッファー層12と、第二のバッファー層14および第二の電極16との両方が、相互に離間して配置された、いわゆるバックコンタクト方式の構造を有していてもよい。
【0013】
なお、第二のバッファー層は、2層以上の積層構造を有することもできる。
図1には、第2のバッファー層が14Aと14Bの2つの層で構成された構造が開示されているが、例えば活性層側バッファー層14Aが有機物半導体を含む層であり、第2の電極側バッファー層14Bが金属酸化物を含む層であることができる。
【0014】
活性層側バッファー層14Aと第二の電極側バッファー層14Bは電子または正孔を輸送できる材料である。第二の電極側バッファー層14Bは、バリア層15を成膜する時のダメージから活性層13、第一のバッファー層12、活性層側バッファー層14Aを保護する機能を奏する。
【0015】
バリア層15は、第2の電極の劣化を抑制する効果を奏する(詳細後述)。このような効果を十分に発揮するために、バリア層15は、第二の電極側バッファー層14Bよりも緻密な層であることが好ましい。
【0016】
以下、実施形態による半導体素子を構成する各層について説明する。
【0017】
(基板17)
基板17は、少なくとも製造過程において、ほかの構成部材を支持するためのものである。この基板は、太陽電池の製造途中にだけ利用され、製造後、または製造途中に除去されてもよい。この基板17は、その表面に電極を形成することができることが好ましい。このため、電極形成時にかかる熱や、接触する有機溶媒によって変質しにくいものであることが好ましい。基板17の材料としては、例えば、(i)無アルカリガラス、石英ガラス等の無機材料、(ii)ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、液晶ポリマー、シクロオレフィンポリマー等のプラスチック、高分子フィルム等の有機材料、(iii)ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム、チタン、シリコン等の金属材料等が挙げられる。
【0018】
基板17の材料は、目的とする太陽電池の構造によって適切に選択される。基板が太陽電池の製造後、または製造途中に除去されるものである場合には、透明なものであっても、不透明なものであってもよい。また、光電変換素子が基板を具備するものであって、基板17の表面から光が入射する場合には、透明な基板が使用される。また、光電変換素子の光入射面とは反対側に基板17がある場合、不透明な基板を使用することもできる。
【0019】
基板の厚さは、その他の構成部材を支持するために十分な強度があれば、特に限定されない。
【0020】
基板17が光入射面側に配置される場合、基板の光入射面には、例えばモスアイ構造の反射防止膜を設置することができる。このような構造とすることで、光を効率的に取り込み、セルのエネルギー変換効率を向上させることが可能である。モスアイ構造は表面に100nm程度の規則的な突起配列を有する構造をしており、この突起構造により厚み方向の屈折率が連続的に変化するため、無反射フィルムを媒介させることで屈折率の不連続的な変化面がなくなるため光の反射が減少し、セル効率が向上する。
基板は単一材料からなるものであっても、または二種類以上の材料からなる積層構造体であってもよい。さらには、他の半導体素子と組み合わせることで、例えば光電変換素子の機能を発現するものでもよい。具体的には、既に完成されたシリコン太陽電池、または化合物太陽電池等の上に、実施形態による太陽電池を形成してタンデム型太陽電池としてもよい。この場合、等価回路が並列回路になることが好ましい。さらに、第1の電極等がシリコン太陽電池と共有されてもよい。この場合、等価回路が直列回路になることが好ましい。
【0021】
(第一の電極と第二の電極)
第一の電極11は導電性を有するものであれば、従来知られている任意のものから選択することができる。本実施形態においては、第一の電極は光入射面側に配置される。したがって、第一の電極の材料は、透明または半透明の導電性を有する材料から選択すべきである。透明または半透明の電極材料としては、導電性の金属酸化物膜、半透明の金属薄膜等が挙げられる。第一の電極11は、複数の材料が積層された構造を有していてもよい。
【0022】
具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、およびそれらの複合体であるインジウム・スズ・オキサイド(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、インジウム・亜鉛・オキサイド等からなる導電性ガラスを用いて作製された膜(NESA等)や、アルミニウム、金、白金、銀、銅等が用いられる。特に、第一の電極には、ITOまたはFTOなどの金属酸化物が好ましい。このような金属酸化物からなる透明電極は、一般に知られている方法で形成させることができる。具体的には、酸素等の反応ガスに富む雰囲気下でスパッタリングにより形成される。このような場合、雰囲気中に含まれる酸素等の反応ガスの含有率は0.5%以上であり、その結果、結晶性が高く、導電性の高い金属酸化膜が形成される。
【0023】
第一の電極の厚さは、電極の材料がITOの場合には、30〜300nmであることが好ましい。電極の厚さが30nmより薄いと導電性が低下して抵抗が高くなる傾向にある。抵抗が高くなると光電変換効率低下の原因となることがある。一方、電極の厚さが300nmよりも厚いと、ITO膜の可撓性が低くなる傾向にある。この結果、膜厚が厚い場合には応力が作用するとひび割れてしまうことがある。なお、電極のシート抵抗は可能な限り低いことが好ましく、10Ω/□以下であることが好ましい。電極は単層構造であっても、異なる仕事関数の材料で構成される層を積層した複層構造であってもよい。
【0024】
第一の電極を電子輸送層に隣接して形成させる場合は、電極材料として仕事関数の低い材料を用いることが好ましい。仕事関数の低い材料としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が挙げられる。具体的には、リチウム、インジウム、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、サマリウム、テルビウム、イッテルビウム、ジルコニウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、バリウムおよびこれらの合金を挙げることができる。また、前記した仕事関数の低い材料から選択される金属と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫などから選択される仕事関数が相対的に高い金属との合金であってもよい。電極材料に用いることができる合金の例としては、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、マグネシウム−銀合金、カルシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、カルシウム−アルミニウム合金等が挙げられる。このような金属材料を用いる場合、電極の膜厚は、1nm〜500nmであることが好ましく、10nm〜300nmであることがより好ましい。膜厚が上記範囲より薄い場合は、抵抗が大きくなり過ぎ、発生した電荷を十分に外部回路へ伝達できないことがある。膜厚が厚い場合には、電極の成膜に長時間を要するため材料温度が上昇し、他の材料にダメージを与えて性能が劣化してしまうことがある。さらに、材料を大量に使用するため、成膜装置の占有時間が長くなり、コストアップに繋がることもある。
【0025】
第一の電極材料として有機材料を用いることもできる。例えばポリエチレンジオキシチオフェン(以下、PEDOTということがある)などの導電性高分子化合物などが好ましい。このような導電性高分子化合物は市販されており、たとえばClevios P H 500、Clevios P H、Clevios P VP Al 4083、Clevios HIL 1,1(いずれも商品名、スタルク社製)などが挙げられる。PEDOTの仕事関数(またはイオンン化ポテンシャル)は4.4eVであるが、これに別の材料を組み合わせて電極の仕事関数を調整することができる。例えば、PEDOTにポリスチレンスルホン酸塩(以下、PSSということがある)を混合することで、仕事関数を5.0〜5.8eVの範囲で調製することができる。ただし、導電性高分子化合物と別の材料の組み合わせから形成された層は、導電性高分子化合物の比率が相対的に減少するため、キャリア輸送性が低下する可能性がある。ゆえにこのような場合の電極の膜厚は50nm以下であることが好ましく、15nm以下であることがより好ましい。また、導電性高分子化合物の比率が相対的に減少すると、表面エネルギーの影響で、ペロブスカイト層の塗布液をはじきやすいため、ペロブスカイト層にピンホールが発生しやすい傾向がある。このような場合には、窒素ガス等を吹きつけることで、塗布液がはじかれる前に溶媒の乾燥を完了させることが好ましい。なお、導電性高分子化合物としてはポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンが好ましい。
【0026】
実施形態において、第二の電極は、均一な金属層からなるものが選択される。ここで、均一な金属層とは、光透過性を改善するための開口部などの構造を有さない、連続した被膜構造を有するものをいう。したがって、金属薄膜に複数の貫通孔を有する構造、金属繊維の織物状構造、金属細線を組み合わせた櫛形構造などは、実施形態には包含されない。第二の金属電極の厚さは、10〜60nmであることが好ましい。これにより、第二の電極の表面に光を照射した場合、光を第二バッファー層や活性層へ透過させることができる。また、第一の電極の表面に光を照射した場合には、活性層で吸収されず、第二の電極まで透過した光を均一な金属膜で全て反射させ、再び活性層で吸収させることが可能となる。一方、貫通孔を有する金属膜は、一部の光が反射されず、全ての光を再び活性層で吸収させることができない。
【0027】
第二の電極の材料は、均一な金属層からなるものが選択され、アルミニウム、銀、金、白金、銅等が用いられるが、アルミニウムまたは銀が好ましい。特にアルミニウムは光反射性とコストの面から好ましく用いられる。
【0028】
(活性層)
実施形態の方法により形成される活性層(光電変換層)13はペロブスカイト構造を少なくとも一部に有するものである。このペロブスカイト構造とは、結晶構造のひとつであり、ペロブスカイトと同じ結晶構造をいう。典型的には、ペロブスカイト構造はイオンA、B、およびXからなり、イオンBがイオンAに比べて小さい場合にペロブスカイト構造をとる場合がある。この結晶構造の化学組成は、下記一般式(1)で表すことができる。
ABX
3 (1)
【0029】
ここで、Aは1級アンモニウムイオンを利用できる。具体的にはCH
3NH
3+、C
2H
5NH
3+、C
3H
7NH
3+、C
4H
9NH
3+、およびHC(NH
2)
2+などが挙げられ、CH
3NH
3+が好ましいがこれに限定されるものではない。また、AはCs、1,1,1−trifluoro−ethyl ammonium iodide(FEAI)も好ましいがこれに限定されるものではない。また、Bは2価の金属イオンであり、Pb
2−またはSn
2−、が好ましいがこれに限定されるものではない。 また、Xはハロゲンイオンが好ましい。例えばF
−、Cl
−、Br
−、I
−、およびAt
−から選択され、Cl
−、Br
−またはI
−が好ましいがこれに限定されるものではない。イオンA、B、またはXを構成する材料は、それぞれ単一であっても混合であってもよい。構成するイオンはABX3の比率と必ずしも一致しなくても機能できる。
【0030】
この結晶構造は、立方晶、正方晶、直方晶等の単位格子をもち、各頂点にAが、体心にB、これを中心として立方晶の各面心にXが配置している。この結晶構造において、単位格子に包含される、一つのBと6つのXとからなる八面体は、Aとの相互作用により容易にひずみ、対称性の結晶に相転移する。この相転移が結晶の物性を劇的に変化させ、電子または正孔が結晶外に放出され、発電が起こるものと推定されている。
【0031】
活性層の膜厚を厚くすると光吸収量が増えて短絡電流密度(Jsc)が増えるが、キャリア輸送距離が増える分、失活によるロスが増える傾向にある。このため最大効率を得るためには最適な膜厚があり、膜厚は30nm〜1000nmが好ましく、60〜600nmがさらに好ましい。
【0032】
例えば活性層の厚みを個々に調整すれば、実施形態による素子と、その他の一般的な素子を太陽光照射条件では同じ変換効率になるように調整が可能である。しかし、膜質が異なるため200luxなどの低照度条件では、実施形態による素子は一般的な素子より高い変換効率を実現できる。
【0033】
(第一のバッファー層12および第二のバッファー層14)
第一のバッファー層12と第二のバッファー層14は、活性層と第一の電極または第二の電極に挟まれている。これらの層は、存在する場合には、いずれかが正孔輸送層として機能し、他方が電子輸送層として機能する。半導体素子が、より優れた変換効率を達成するためには、これらの層を具備することが好ましいが、実施形態においては必ずしも必須ではなく、これらのいずれか、または両方が具備されていなくてもよい。また、第一のバッファー層12と第二のバッファー層14の両方または一方が、異なる材料が積層された構造を有していてもよい。
【0034】
電子輸送層は、電子を効率的に輸送する機能を有するものである。バッファー層が電子輸送層として機能する場合、この層はハロゲン化合物または金属酸化物のいずれかを含むことが好ましい。ハロゲン化合物としてはLiF、LiCl、LiBr、LiI、NaF、NaCl、NaBr、NaI、KF、KCl、KBr、KI、またはCsFが好適な例として挙げられる。これらのうち、LiFが特に好ましい。
【0035】
金属酸化物を構成する元素は、チタン、モリブデン、バナジウム、亜鉛、ニッケル、リチウム、カリウム、セシウム、アルミニウム、ニオブ、スズ、バリウムが好適な例としてあげられる。複数の金属元素が含まれる複合酸化物も好ましい。例えばアルミニウムでドープされた酸化亜鉛(AZO)、ニオブでドープされた酸化チタン等が好ましい。これら金属酸化物では酸化チタンがより好ましい。酸化チタンとしては、ゾルゲル法によりチタンアルコキシドを加水分解することによって得られたアモルファス性酸化チタンが好ましい。
【0036】
電子輸送層には、金属カルシウムなどの無機材料を用いることもできる。
【0037】
実施態様による光電変換素子に電子輸送層を設ける場合、電子輸送層の厚さは20nm以下であることが好ましい。これは電子輸送層の膜抵抗を低くし、変換効率を高めることができるからである。一方で、電子輸送層の厚さは5nm以上とすることができる。電子輸送層を設け、一定以上の厚さとすることで、正孔ブロック効果を十分に発揮させることができ、発生した励起子が電子と正孔とを放出する前に失活することを防止することができる。この結果、効率的に電流を取り出すことができる。
【0038】
n型有機半導体としては、フラーレンおよびその誘導体が好ましいが、特に限定されるものではない。具体的には、C60、C70、C76、C78、C84等を基本骨格として構成される誘導体が挙げられる。フラーレン誘導体は、フラーレン骨格における炭素原子が任意の官能基で修飾されていてもよく、この官能基同士が互いに結合して環を形成していてもよい。フラーレン誘導体には、フラーレン結合ポリマーが含まれる。溶媒に親和性の高い官能基を有し、溶媒への可溶性が高いフラーレン誘導体が好ましい。
【0039】
フラーレン誘導体における官能基としては、例えば、水素原子;水酸基;フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;シアノ基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基、チエニル基、ピリジル基等の芳香族複素環基等が挙げられる。具体的には、C60H36、C70H36等の水素化フラーレン、C60、C70等のオキサイドフラーレン、フラーレン金属錯体等が挙げられる。
【0040】
上述した中でも、フラーレン誘導体として、[60]PCBM([6,6]−フェニルC61酪酸メチルエステル)または[70]PCBM([6,6]−フェニルC71酪酸メチルエステル)を使用することが特に好ましい。
【0041】
また、n型有機半導体として、蒸着で成膜することが可能な低分子化合物を用いることができる。ここでいう低分子化合物とは、数平均分子量Mnと重量平均分子量Mwが一致するものである。いずれかが1万以下である。BCP(bathocuproine)、 Bphen(4,7−diphenyl−1,10−phenanthroline)、 TpPyPB(1,3,5−tri(p−pyrid−3−yl−phenyl)benzene)、DPPS(diphenyl bis(4−pyridin−3−yl)phenyl)silane)がより好ましい。
【0042】
正孔輸送層は、正孔を効率的に輸送する機能を有するものである。バッファー層が正孔輸送層として機能する場合、この層はp型有機半導体材料やn型有機半導体材料を含むことができる。ここでいうp型有機半導体材料とn型有機半導体材料とは、ヘテロ接合、バルクヘテロ接合を形成したときに、電子ドナー材料、電子アクセプター材料として機能できる材料である。
【0043】
正孔輸送層の材料としてp形有機半導体を用いることができる。p形有機半導体は、例えば、ドナーユニットとアクセプタユニットからなる共重合体を含むものが好ましい。ドナーユニットとしては、フルオレンやチオフェンなどを用いることができる。アクセプタユニットとしては、ベンゾチアジアゾールなどを用いることができる。具体的には、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリピロールおよびその誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、オリゴチオフェンおよびその誘導体、ポリビニルカルバゾールおよびその誘導体、ポリシランおよびその誘導体、側鎖または主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリンおよびその誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリンおよびその誘導体、ポリフェニレンビニレンおよびその誘導体、ポリチエニレンビニレンおよびその誘導体、ベンゾジチオフェン誘導体、チエノ[3,2−b]チオフェン誘導体等を用いることができる。正孔輸送層には、これらの材料を併用してもよいし、これらの材料を構成する共単量体からなる共重合体を用いてもよい。これらのうちポリチオフェンおよびその誘導体は、優れた立体規則性を有し、また溶媒への溶解性は、比較的高いので好ましい。
【0044】
このほか、正孔輸送層の材料として、カルバゾール、ベンゾチアジアゾールおよびチオフェンを含む共重合体であるポリ[N−9’−ヘプタデカニル−2,7−カルバゾール−アルト−5,5−(4’,7’−ジ−2−チエニル−2’,1’,3’−ベンゾチアジアゾール)](以下、PCDTBT(ということがある)などの誘導体を用いてもよい。さらにベンゾジチオフェン(BDT)誘導体とチエノ[3,2−b]チオフェン誘導体の共重重合体も好ましい。例えばポリ[[4,8−ビス[(2−エチルヘキシル)オキシ]ベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジイル][3−フルオロ−2−[(2−エチルヘキシル)カルボニル]チエノ[3,4−b]チオフェンジイル]](以下PTB7ということがある)、PTB7のアルコキシ基よりも電子供与性が弱いチエニル基を導入したPTB7−Th(PCE10、またはPBDTTT−EFTと呼ばれることもある)等も好ましい。さらに、正孔輸送層の材料として、金属酸化物を用いることもできる。金属酸化物の好適な例としては、酸化チタン、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化リチウム、酸化カルシウム、酸化セシウム、酸化アルミニウムが挙げられる。これらの材料は、安価であるという利点を有する。さらに正孔輸送層の材料として、チオシアン酸銅などのチオシアン酸塩を用いてもよい。
【0045】
また、spiro−OMeTADなどの輸送材料や前記p型有機半導体に対してドーパントを使用することができる。ドーパントとしては、酸素、4−tert−ブチルピリジン、リチウム−ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド (Li−TFSI)、アセトニトリル、トリス[2−(1H−ピラゾール−1−イル)ピリジン]コバルト(III)トリス(ヘキサフルオロリン酸)塩(商品名「FK102」で市販)、トリス[2−(1H−ピラゾール−1−イル)ピリミジン]コバルト(III)トリス[ビス(トリスフルオロメチルスルフォニル)イミド](MY11)などを使用できる。
【0046】
正孔輸送層としてポリエチレンジオキシチオフェンなどの導電性高分子化合物を利用することができる。このような導電性高分子化合物は電極の項に挙げたものを用いることができる。正孔輸送層においても、PEDOTなどのポリチオフェン系ポリマーに別の材料を組み合わせて、正孔輸送等として適切な仕事関数を有する材料に調整することが可能である。ここで、正孔輸送層の仕事関数が前記活性層の価電子帯よりも低くなるように調整することが好ましい。
【0047】
前記第二のバッファー層は、電子輸送層であることが好ましい。さらに、亜鉛、チタン、アルミニウム、およびタングステンからなる群から選択される金属の酸化物層であることが好ましい。この酸化物層は、2種類以上の金属を含む複合酸化物層であってもよい。これらはライトソーキング効果により電気伝導性が向上するため、活性層で発生する電力を効率的に取り出すことが可能となるからである。この層を活性層の第二の電極側に配置することで、前記バリア層と第二のバッファー層を通過した光、特にUV光でライトソーキングが可能になる。また、基板にポリマー基板のようにUV光を遮断するようの材料が使われた場合であっても、第二の電極側からライトソーキングできる特徴を有する。長期間電気伝導性を維持できる場合、ライトソーキング後に非透過性、または低透過性の材料で隠蔽しても問題ない。
【0048】
なお、第二のバッファー層は、
図1に示されるように複数の層が積層された構造であることが好ましい。このような場合、バリア層に隣接する層が、前記の金属の酸化物層であることが好ましい。そのような構造とすることで、バリア層をスパッタリングにより形成させる場合には、活性層や活性層に隣接する第二のバッファー層がスパッタによるダメージを受けにくくなる。
【0049】
また、第二のバッファー層は、空隙を含む構造を有することが好ましい。より具体的には、ナノ粒子の堆積体からなり、そのナノ粒子の間に空隙を有する構造、ナノ粒子の結合体からなり、結合されたナノ粒子の間に空隙を有する構造などを有するバッファー層が好ましい。バリア層は他の層から浸透してくる物質による第二の電極の腐食を抑制するため、第二の電極と第二のバッファー層との間に設けられる。一方でペロブスカイト層を構成する材料は高温時には蒸気圧が高い傾向にある。このため、ペロブスカイト層にハロゲンガス、ハロゲン化水素ガス、メチルアンモニウムガスが発生しやすい。これらのガスがバリア層によって閉じ込められると、素子が内圧上昇により内部からダメージを受ける可能性がある。このような場合、特に層界面の剥離が起こりやすくなる。このため、第二のバッファー層が空隙を含むことによって内圧上昇が緩和され、高い耐久性を提供することが可能になる。
【0050】
[バリア層]
実施形態による半導体素子は、活性層と第二の電極との間にバリア層をさらに具備している。このバリア層は、光透過性である金属酸化物からなる。
【0051】
このバリア層により、第二の電極、すなわち金属層は構造的に活性層と隔絶される。この結果、第二の電極が、他の層から浸透してくる物質により腐食されにくくなる。特に活性層がペロブスカイト半導体である場合、活性層からヨウ素や臭素などのハロゲンイオンが素子内部に拡散して、金属電極に到達した成分が腐食の原因となることが知られている。バリア層は、このような物質の拡散を効率的に遮断することができると考えられる。半導体素子が第二のバッファー層を具備する場合には、第二のバッファー層と第二の電極との間にバリア層を設けることが好ましい。このような層構成にすることで、第二のバッファー層から放出される物質の拡散も遮断することができるからである。
【0052】
バリア層はインジウム・スズ・オキサイド(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アルミドープ酸化亜鉛(AZO)を含むことが好ましい。また、バリア層の厚みは5〜100nmが好ましく、10〜70nmであることがより好ましい。このような構造とすると、第二の電極側から光りを照射した場合、光が活性層や第二バッファー層まで透過するので、特にUV光を第二の電極側から照射することでライトソーキング効果により、電気伝導性を向上させ、活性層で発電した電力を効率的に取り出すことも可能になる。
【0053】
なお、バリア層の材料は、一般的に電極に用いられる金属酸化物と同様のものを用いることができるが、バリア層の性質は、電極に利用される一般的な金属酸化物層とは異なることが好ましい。すなわち、バリア層は単純に構成する材料のみによって特徴付けられるものではなく、その結晶性または酸素含有率にも特徴を有している。定性的には、その結晶性または酸素含有率は、一般的に電極として利用される、スパッタリングにより形成される金属酸化物層よりも低い。具体的には、バリア層の酸素含有率は、62.1〜62.3原子%であることが好ましい。また、この酸素含有率はバッファー層に用いられる金属酸化物層よりも高い。一般に、金属酸化物層をバッファー層として利用する場合、そのバッファー層の形成時に隣接する活性層に対してダメージを与えないように、塗布法が採用される。この場合、形成される金属酸化物層の緻密性は低く、例えばその密度は1.2〜5となるが、実施形態におけるバリア層の密度は7以上となる。本発明の構成ではバリア層が受光面と反対側に位置する場合、光触媒作用を有する金属酸化物であっても、活性層やバッファー層が分解される心配がない。なお、ここで受光面とは、素子が主に光を受ける面をいう。
【0054】
バリア層が劣化の原因となる物質の拡散抑制の機能を発揮しているかは、耐久性試験後の断面方向の元素分布を分析することで確認することができる。この目的のために、例えば飛行時間型二次イオン質量分析法(以下、TOF−SIMS法という)等が利用できる。TOF−SIMS法によって実施形態による素子を分析すると、第2の電極側の表面からの距離(深さ)に対する、各種元素の分布が測定できる。バリア層がない素子においては、例えばヨウ素などの劣化物質が、相対的に自由に拡散できるが、バリア層がある素子においては、劣化物質の拡散がバリア層によって遮蔽される。実施形態による素子においては、劣化物質が例えば活性層から拡散する場合、バリア層によって劣化物質が第2の電極に到達することが抑制される。したがって、実施形態による素子をTOF−SIMSによって分析した場合、そのチャートでは典型的には、バリア層に対応する材料、例えば酸化インジウム、のピーク位置を挟むように、劣化物質のピークが2つもしくはそれ以上に分かれて検出される。このうち、バリア層の第2電極側に観察されるピークは、バリア層で遮蔽しきれなかった、劣化物質のピークである。したがって、バリア層が劣化物質の拡散抑制の機能を発揮している場合、第2の電極側のピーク面積が、それ以外のピークの総面積よりも小さくなり、完全に遮蔽できた場合には、第2の電極側のピークは確認することができなくなる。したがって、第2の電極側の劣化物質のピークは小さいことが好ましい。ただし、バリア層で大部分の劣化物質が遮蔽されれば、耐久性は大きく改善される。つまり、バリア層を通過した劣化物質がわずかであれば、第2の電極の極く一部が劣化したとしても、第2の電極の電気抵抗等の特性が大きく変化しないため、太陽電池の変換効率には大きな変化が現れない。一方、バリア層がない場合、第2の電極が劣化物質によって著しく劣化して、太陽電池の変換効率が著しく低下することがある。具体的には、第2の電極側の劣化物質のピーク面積は、それ以外の劣化物質に対応するピークの総面積に対して0.007になることが好ましく、ほとんどゼロになることが好ましい。
【0055】
このようなバリア層は、特定条件下にスパッタリングによって形成させることができる(詳細後述)。
【0056】
アルミニウムや銀を含む第二の電極をバリア層と組み合わせて用いることにより、電極材料として半導体素子の耐久性を改善するために一般的に利用される金を用いる必要がなくなる。金電極のコストはおおよそ15,000円/m
2であるのに対して、ITO、アルミニウム、および銀のコストは、それぞれ100〜1000円/m
2、約1円/m
2、約200円/m
2である。つまり安価に耐久性を有する光電変換素子を提供することが可能になる。
【0057】
以上、本実施形態の方法で製造する光電変換素子の構造について説明した。ここで、例えばペロブスカイト半導体を含む、活性層は発光層としても機能しえる。このため、実施形態による構造を有する半導体素子は、光電変換素子だけでなく発光素子としても機能する。
【0058】
[半導体素子の製造方法]
実施形態による半導体素子は、バリア層を形成させることの他は、一般的な半導体素子と同様の方法で製造することができる。基板、第一の電極、第二の電極、活性層、必要に応じて形成させるバッファー層については、材料や製造方法に制限は無い。以下に実施形態による半導体素子の製造方法について説明する。
【0059】
まず、基材上に第一の電極を形成させる。電極は任意の方法で形成させることができる。例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法、塗布法等から選択される方法が用いられる。
【0060】
次に、必要に応じてバッファー層または下地層を形成させる。バッファー層も真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法、塗布法等から選択される方法で形成させることができる。下地層(詳細後述)は、通常、塗布法により形成される。
【0061】
次に、電極上に直接、または電極上に、バッファー層または下地層を介して、活性層を形成させる。
【0062】
実施形態による方法において、活性層は任意の方法により形成させることができる。ただし、活性層を塗布法で形成させることはコストの観点から有利である。例えば、ペロブスカイト半導体を含む活性層は塗布法によって形成させることができるので好ましい。すなわち、ペロブスカイト構造の前駆体化合物と前記前駆体化合物を溶解し得る有機溶媒とを含む塗布液を、第一の電極または第一のバッファー層の上に塗布して塗膜を形成させる。
【0063】
塗布液に用いられる溶媒は、例えばN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが用いられる。溶媒は材料を溶解できるものであれば制約されず、混合してもよい。塗布液は、ペロブスカイト構造を形成する複数の原材料を1つの溶液に溶かしたものでもよい。また、ペロブスカイト構造を形成する複数の原材料を個々に溶液に調整して順次、スピンコーター、スリットコーター、バーコーター、ディップコーターなどで塗布してもかまわない。
【0064】
塗布液は添加剤をさらに含んでいても良い。このような添加剤としては、1,8−diiodooctane (DIO)、N−cyclohexyl−2−pyrrolid
one(CHP)が好ましい。
【0065】
なお、一般的に素子構造にメソポーラス構造体が含まれる場合、活性層にピンホール、亀裂、ボイドなどが発生しても、電極間の漏れ電流が抑えられることが知られている。素子構造がメソポーラス構造を有しない場合には、そのような効果が得られにくい。しかし、実施形態において塗布液にペロブスカイト構造の複数の原料が含まれる場合、活性層形成時の体積収縮が少ないため、よりピンホール、亀裂、ボイドが少ない膜が得られやすい。さらに、塗布液の塗布後に、ヨウ化メチルアンモニウム(MAI)、金属ハロゲン化合物等を含む溶液を塗布すると、未反応の金属ハロゲン化合物との反応が進み、さらにピンホール、亀裂、ボイドが少ない膜が得られやすい。したがって、塗布液の塗布後に、活性層の表面にMAIを含む溶液を塗布することが好ましい。
【0066】
ペロブスカイト構造の前駆体を含む塗布液を2回以上塗布してもよい。このような場合には、最初の塗布で形成される活性層は格子不整合層となりやすいので比較的薄い厚さとなる様に塗布されることが好ましい。2回目以降の塗布の条件は、具体的には、スピンコーターの回転数が相対的に早い、スリットコーターやバーコーターのスリット幅が相対的に狭い、ディップコーターの引き上げ速度が相対的に速い、塗布溶液中の溶質濃度が相対的に薄い等の膜厚を薄くするような条件であることが好ましい。
【0067】
ペロブスカイト構造形成反応の完了後、溶媒を乾燥させるためにアニールを行うことが好ましい。このアニールはペロブスカイト層に含まれる溶媒を取り除くために行われるため、バッファー層の形成前に行うことが好ましい。アニール温度は50℃以上、さらに好ましくは90℃以上であること、上限は200℃以下、さらに好ましくは150℃以下で実施される。アニール温度が低いと溶媒が十分に除去できない問題があり、アニール温度が高過ぎると、ペロブスカイト層表面が荒れて、平滑面が得られなくなる問題がある。
【0068】
(下地層)
活性層を形成するのに先だって、第一または第二のバッファー層に加えて、またはそれらの代わりに、下地層を形成させておくことができる。
【0069】
下地層は、低分子化合物からなることが好ましい。ここでいう低分子化合物とは、数平均分子量Mnと重量平均分子量Mwが一致するものであり1万以下である。例えば有機硫黄分子、有機セレン・テルル分子、ニトリル化合物、モノアルキルシラン、カルボン酸、ホスホン酸、リン酸エステル、有機シラン分子、不飽和炭化水素、アルコール、アルデヒド、臭化アルキル、ジアゾ化合物、ヨウ化アルキル等の低分子化合物を含むものが用いられる。例えば4−フルオロ安息香酸(FBA)が好ましい。
【0070】
下地層は、上記した様な低分子化合物を含む溶液を塗布し、乾燥することにより形成させることができる。このような下地層を形成させることで、ダイポールによる真空準位シフトを利用してペロブスカイト層から電極へのキャリアの収集効率を向上させたり、ペロブスカイト層の結晶性の改善、ペロブスカイト層のピンホール生成の抑制効果、受光面側の光透過量の増加などの効果が得られる。これにより電流密度の増加、フィルファクターの改善の効果があり、光電変換効率や発光効率を改良することができる。特に酸化チタンと酸化アルミニウム以外の格子不整合の大きな結晶系のバッファー層や電極上にペロブスカイト構造を形成させる際に、下地層を設けることにより、下地層自体が応力緩和層となったり、下地層に近接したペロブスカイト構造の一部に応力緩和の機能をもたせることができる。下地層によってペロブスカイト層の結晶性の改善だけでなく、結晶成長に伴う内部応力を緩和し、ピンホールの生成抑制や、良好な界面接合を実現できる。
【0071】
[バリア層の形成方法]
バリア層の形成はスパッタリング、真空蒸着、物理的気相法(PVD)、化学的気相法(CVD)、塗布、スピンコート、スプレーなどを用いることができる。しかし、いずれの方法においても光電変換層やバッファー層にダメージを与える可能性がある。ダメージを受けた場合、完成した光電変換素子において、変換効率が低下、または、不安定になることがある。ダメージの原因としては、酸素、熱、UV、劣化原因物質(イオン、化合物、ガス等)等が揚げられ、優れた特性の半導体素子を得るためにはこれらを排除することが重要となる。
【0072】
実施形態において、バリア層の形成はスパッタリングにより行うことが好ましい。そしてスパッタリングの場合、
(1)ターゲットから反射したアルゴン等の入射イオンによる逆スパッタ、
(2)放電現象に伴い発生するγ電子の入射、
(3)反応ガスとして導入した酸素から放射される紫外線の入射、
(4)反応ガスから発生した酸素ラジカル等のラジカル種との反応、
が主要なダメージ原因となりうる。(1)と(2)に関しては、投入する電力量を必要最小限とすることで抑制できる。具体的には、投入する電力量を1200W以下とすることが好ましい。さらに好ましくはDC電源で200〜300Wとすることが好ましい。特に電圧400V、電流0.6Aのように、電流量を小さく、具体的には1A未満に設定すると良い。酸素のような反応ガスが少なくい分、ターゲットからの酸素供給を増やすことができる。
【0073】
また、マグネトロンスパッタや対向ターゲットのように、磁力線でγ電子の閉じ込めを行って、γ線によるダメージを抑制することが可能である。(3)および(4)については反応ガスを使用しない、または反応ガスの量を少なくすることで抑制可能である。この結果得られるバリア層は、反応ガスが少ないため、元素比率において酸素含有率が少ない特徴を有する。具体的には、バリア層中に含まれる酸素含有率が62.1〜62.3原子%であることが好ましい。このような酸素含有率は、光受光面側に電極として用いられる金属酸化膜より少ない。したがって、第一の電極としてITOを用いた場合、第一の電極の元素比率における酸素比よりもバリア層の酸素比が少なくなる。酸素比が少なくなることで電気抵抗と透過率は悪化する傾向にあるため、バリア層の膜厚は薄いことが好ましい。その膜厚は100nm以下、さらに好ましくは10〜50nmである。膜厚が厚くなるほど成膜時間が長くなり、単位面積当たりの成膜コストが上昇するので、薄膜を用いることができることは、安価な耐久性素子を提供する上で有利である。
【実施例】
【0074】
従来、ペロブスカイト構造を利用した素子の評価は、発電エリアが2mm角程度の小さな素子で評価されていた。ペロブスカイト構造を利用した素子は結晶成長を伴う成膜で作製されるため、体積収縮などによる内部応力が発生するため、ピンホールの発生や層間剥離等を起こす問題がある。ゆれに、構造欠陥の少ない層構造の作製が困難であった。このために大量生産の場では、変換効率の再現性は低く、ばらつきは大きかった。このため、偶発的に一部で欠陥が少ない場合、特異的に高い変換効率が得られることがあったが、広い範囲で均一に高い変換効率を得ることは困難であった。
【0075】
一方で、実用化のためには、より広い範囲で高い効率を実現できる素子を製造する必要がある。そのため以下の実施例は発電エリアが1cm角の素子を製造して比較検討を行った。塗布で作製される太陽電池は、通常幅1cm程度の短冊状のセルを直列構造にして作られる。ゆえに発電エリアが1cm角の素子は実際のモジュール性能の指標になる適切な大きさである。
【0076】
[実施例1]
ガラス基板上に第一の電極としてITO膜を形成させた。この上に正孔輸送層をスピンコートで形成した後、光電変換層としてペロブスカイト層を形成した。ペロブスカイト層は非特許文献1の2ステップを参考にして成膜した。窒素雰囲気のグローブボックス内で、はじめにヨウ化鉛(PbI
2)と等モル量もしくはそれ以上のDMSOを含むDMF溶液をスピンコートした後、ヨウ化メチルアンモニウム(MAI)のイソプロピルアルコール(IPA)溶液をスピンコートした。これを135℃で30分アニールした。MAPbI
3のペロブスカイト構造を形成した。最後に電子輸送層として、ジクロロベンセンに溶解したPCBMをスピンコートした積層物を作製した。PCBMの厚みは100nmである。本実施例ではさらにAZO層としてAZOナノパーティクル分散液(ナノグレード社, N−20X)をスピンコートにより塗布した後、75℃でアニールした。膜厚は約50nmとした。これをスパッタ装置に導入して、バリア層としてITO膜をスパッタリングにより成膜した。スパッタ圧は2.7mTorr、投入電力は0.9kW、成膜速度は0.408オング/秒とした。アルゴンガス中でスパッタリングを行った。酸素等の反応ガスは導入しなかった。膜厚は約43nmとした。最後に金属膜として銀を真空蒸着装置で約60nm成膜した。最後にガラス板をUV硬化樹脂で貼り合わせて封止した。
【0077】
図2に実施例1による半導体素子(太陽電池)の耐熱試験の結果を示した。耐熱試験は、基板にガラス板をUV硬化樹脂で貼り合わせて封止した後、JIS8938に準拠して85℃の雰囲気に素子を保管して行った。他実施例も同様である。縦軸の変換効率はソーラーシミュレーターで測定した。測定時は適宜、背面に疑似太陽光を照射して測定を行うことでライトソーキングを行った。以後、特別な記述が無い限り、同様の手順で変換効率を測定した。
図2からわかるように実施形態による太陽電池は、1000時間後も劣化率は10%以内であった。劣化率は、変換効率の初期値に対する低下率を示している。このときの素子の断面写真は
図3に示した通りである。観察サンプルは素子からFIB(収束イオンビーム)法で切り出した切片である。切片の厚みは約100nmである。透過型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、商品名:H−9000NAR)を用い、加速電圧200kVで観察した。 活性層から2つのバッファー層、バリア層、均一な電極が積層されていることがわかる。また、1つのバリア層は、積層方向とは異なる方向にも空隙が連続していることがわかる。
【0078】
表1に実施例1による半導体素子に具備される2つのITO膜の電気抵抗率を示した。これら2つのITO膜は、それぞれ第一の電極と、バリア層とに対応するものであり、電気抵抗率が異なることがわかる。光電変換層やその他のバッファー層へのダメージを低減したため、特性が異なるITOで構成される。バッファー層のITO膜電気抵抗率が高いため、数十nmの薄膜が好ましいことも理解できる。同じく表1には酸素含有率を示した。酸素含有率はX線光電子分光装置(アルバック・ファイ株式会社製、製品名:Quantera II)を用いて測定した。このときのX線源は単色化Al(1486.6eV)を使用した。
【0079】
実施例1による素子の断面方向に対するイオンの分布を調べるためTOF-SIMS分析を行った。得られた結果は
図4と
図5に示すとおりであった。
図5は
図4の一部について、拡大したものである。装置はTOF.SIMS5−300(ION−TOF社製)を用いた。測定条件における一次イオン条件は、1次イオン源がBi
3++、加速電圧が30kV、イオン電流が0.2pA、測定面積が150μm角、耐電補正ありとし、スパッタ条件は、スパッタイオン源がCs、加速電圧が2kV、電流量が153.6nA、スパッタ面積が450μm角とした。第2の電極はAg、バリア層はInO
2を代表値とし、第2の電極の劣化物質はIである。チャートのX軸の左側が第2の電極側である。バリア層に対応するピークを挟んで、劣化物質に対応する2つのピークが確認できる。第2の電極側のIのピーク面積は、それ以外の部分におけるIに対応する部分のピーク総面積に対して0.007であった。
【0080】
【表1】
【0081】
[実施例2]
基本的には実施例1と同じだが、第一の電極として300nmのITO膜を成膜したときのライトソーキングの効果を
図6に示した。まず、第一の電極側から光照射した場合、変換効率0.1%であった(
図6(A))。次に第二の電極側から光照射すると、変換効率1.7%が得られた(
図6(B))。最後に、再び第一の電極側から光照射すると変換効率10.3%が得られるようになった(
図6(C))。
【0082】
図7には実施例2による太陽電池素子の透過スペクトルを示した。平均透過率1.4%(400〜830nm)、最大透過率5.9%(800nm))であった。
【0083】
[実施例3]
基本的には第一の実施例と同じだが、AZO膜およびバリア層の厚さを増加させた。具体的にはAZO層の塗布を3回として、AZO層の膜厚は約75nmとし、バリア層のITO膜の膜厚は40nmとした。最後に基板にガラス板をUV硬化樹脂で貼り合わせることで封止した。
図8に実施例3による素子(太陽電池)の耐光試験の結果を示した。耐光試験はJIS8938に準拠して連続的に光を照射した。図からわかるようにこの実施例による素子は、500時間後も劣化は10%以内であった。この時の素子の断面写真は
図9に示した通りである。測定条件は実施例1と同様である。活性層から2つのバッファー層、バリア層、均一な電極が積層されていることがわかる。また、1つのバリア層は、積層方向とは異なる方向にも空隙が連続していることがわかる。
【0084】
実施例3による素子の断面方向に対するイオンの分布を調べるためTOF−SIMS分析を行った。得られた結果は
図10と
図11に示すとおりであった。測定条件は実施例1の素子を分析した場合と同様とした。この素子においても、バリア層に対応するピークを挟んで劣化物質に対応する2つのピークが確認できる。第2の電極側のIのピーク面積は、それ以外の部分におけるIに対応する総面積に対して0.0025であった。
【0085】
[比較例1]
基本的には第一の実施例と同じだが、AZO層、およびバリア層が無い素子を作製した。ただし、PCBM上に直接銀を成膜すると、銀への電子収集効率が低下して変換効率が半分程度に低下することは明らかであるため、第二のバッファー層としてBCPを10nm挿入した。
【0086】
図12に耐熱試験の結果を示した。図からわかるように、素子がバリア層を含まない場合、初期効率を1とした場合、1000時間に満たない時間で0.27(27%)劣化することがわかった。これに対して、実施例1による素子は、1000時間後でも劣化率は10%未満であった。
図13には耐光試験の結果を示した。図からわかるように比較例1による素子の500時間後の劣化率は88%であり、実施例3の劣化率(約10%)に比較して、著しく劣っていた。
【0087】
[実施例4および比較例2]
基本的には実施例1と同じだが、AZO層のみが無い素子(実施例4)と、バリア層のみが無い素子(比較例2)を作製して耐熱性試験を実施した。表2からわかるように比較例2による素子は、耐熱性試験において大きく変換効率が低下することがわかった。AZO層が無いとバリア層を成膜したときのダメージが蓄積し、耐久性が損なわれる傾向にあるが、バリア層がない場合にAZO層のみを挿入しても耐久性は著しく劣る(劣化率95%24時間後)ことがわかる。
【0088】
【表2】
【0089】
[実施例5]
基本的には第一の実施例と同じだが、AZO層の膜厚を変えた素子を作製して耐熱試験を実施した。
図14に528時間後の変換効率の相対変換効率を示した。25nmと0nmは実施例1と実施例4による素子のデータである。図からわかるようにAZO層の膜厚が20〜50nmの範囲で特に優れた耐熱性を示し、おおよその劣化率が10%以内に収まることがわかる。
【0090】
[実施例6]
基本的には第一の実施例と同じだが、ITO層の膜厚を変えた素子を作製して耐熱試験を実施した。
図15にITOが300nmのデータを示した。図からわかるように200時間までは、比較例1などに比べて維持率が高くなっている。
【0091】
[実施例7]
基本的には実施例1と同じだが、AZO層をニオブドープTiO
x層に変更した素子を作製して耐熱試験を実施した。ニオブドープTiOxナノ粒子をスピンコートした後、75℃でアニールした。
図16に示したように、1000時間後も劣化率10%以内であった。これにより第二バッファー層としてニオブドープTiO
x(酸化チタン層)を用いることができることがわかる。