特許第6626571号(P6626571)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6626571冷間鍛造性に優れた線材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6626571
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】冷間鍛造性に優れた線材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20191216BHJP
   C22C 38/18 20060101ALI20191216BHJP
   C22C 38/28 20060101ALI20191216BHJP
   C21D 8/06 20060101ALI20191216BHJP
【FI】
   C22C38/00 301Y
   C22C38/18
   C22C38/28
   C21D8/06 A
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-517214(P2018-517214)
(86)(22)【出願日】2016年11月11日
(65)【公表番号】特表2019-500489(P2019-500489A)
(43)【公表日】2019年1月10日
(86)【国際出願番号】KR2016013019
(87)【国際公開番号】WO2017082684
(87)【国際公開日】20170518
【審査請求日】2018年6月1日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0158817
(32)【優先日】2015年11月12日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ムン,ドン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】リュ,グン スゥ
(72)【発明者】
【氏名】イ,サン ユン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ゼ スン
【審査官】 太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−291237(JP,A)
【文献】 特開2001−342544(JP,A)
【文献】 特開2009−242916(JP,A)
【文献】 特表2009−527638(JP,A)
【文献】 特開2000−273580(JP,A)
【文献】 特開2006−274373(JP,A)
【文献】 特開2006−037159(JP,A)
【文献】 特開2003−321742(JP,A)
【文献】 特開2013−234349(JP,A)
【文献】 特開2001−247937(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/057470(WO,A1)
【文献】 特開2008−007853(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第2001−0060772(KR,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2006−0057797(KR,A)
【文献】 国際公開第2011/108459(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 − 38/60
C21D 7/00 − 8/10
C21D 9/52 − 9/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.02〜0.15%、Si:0.05〜0.3%、Mn:0.5〜1.2%、Cr:0.3〜0.9%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、sol.Al:0.01〜0.05%、N:0.01%以下、残部Fe及び不可避不純物からなり
線材の表面から直径方向に1/2dの位置及び1/4dの位置で測定した線材の硬度をそれぞれHv,1/2d(Hv)、Hv,1/4d(Hv)としたときに、下記関係式1及び2を満たし、
下記関係式3及び4を満たし、
微細組織として、70面積%以上(但し100面積%は除外)のフェライトと、30面積%以下(但し0面積%は除外)のパーライトと、を含み、
前記フェライトの平均粒径は、10〜30μmであり、
5〜25%の伸線加工量(D)で伸線加工する場合、伸線加工後の線材の硬度は下記関係式5を満たすことを特徴とする線材。
[関係式1](Hv,1/2d+Hv,1/4d)/2≦150
[関係式2]Hv,1/2d/Hv,1/4d≦1.2
(ここで、dは線材の直径を意味する)
[関係式3]1.2≦[Mn]/[Cr]≦1.8
(ここで、[Mn]及び[Cr]はそれぞれ、当該元素の含有量(質量%)を意味する)
[関係式4]9.33[C]+0.97[Mn]+0.51[Cr]+0.26[Nb]+0.66[V]≦2.1
(ここで、[C]、[Mn]、[Cr]、[Nb]及び[V]はそれぞれ、当該元素の含有量(質量%)を意味する)
[関係式5]Hv,−10≦(Hv,1/2d+Hv,1/4d)/2≦Hv,+10
(ここで、Hv,は「(Hv,1/2d+Hv,1/4d)/2+85.45×{1−exp(−D/11.41)}」を意味し、Hv,1/2d、Hv,1/4dはそれぞれ、伸線加工後の線材の表面から直径方向に1/2dの位置及び1/4dの位置で測定した線材の硬度を意味する)
【請求項2】
前記不可避不純物はTi、Nb及びVを含み、質量%で、Ti:0.02%以下、Nb及びV:合計0.06%以下に抑えられることを特徴とする請求項1に記載の線材。
【請求項3】
下記式1で定義される炭素当量(Ceq)が0.23以上0.33以下であることを特徴とする請求項1に記載の線材。
[式1]Ceq=[C]+[Si]/9+[Mn]/5+[Cr]/12
(ここで、[C]、[Si]、[Mn]及び[Cr]はそれぞれ、当該元素の含有量(質量%)を意味する)
【請求項4】
請求項1に記載の線材を製造する方法において、
質量%で、C:0.02〜0.15%、Si:0.05〜0.3%、Mn:0.5〜1.2%、Cr:0.3〜0.9%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Sol.Al:0.01〜0.05%、N:0.01%以下、残部Fe及び不可避不純物からなり、下記式1で定義される炭素当量(Ceq)が0.23以上0.33以下であり、下記関係式3及び4を満たす鋼片を加熱する段階と、
加熱された前記鋼片を仕上げ圧延温度900℃〜1000℃の条件下で熱間圧延して線材を得る段階と、
前記線材を巻き取った後、冷却する段階と、を含むことを特徴とする線材の製造方法。
[式1]Ceq=[C]+[Si]/9+[Mn]/5+[Cr]/12
[関係式3]1.2≦[Mn]/[Cr]≦1.8
[関係式4]9.33[C]+0.97[Mn]+0.51[Cr]+0.26[Nb]+0.66[V]≦2.1
(ここで、[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Nb]及び[V]はそれぞれ、当該元素の含有量(質量%)を意味する)
【請求項5】
前記不可避不純物は、Ti、Nb及びVを含み、質量%で、Ti:0.02%以下、Nb及びV:合計0.06%以下に抑えられることを特徴とする請求項に記載の線材の製造方法。
【請求項6】
前記加熱時の加熱温度は1050℃〜1250℃であることを特徴とする請求項に記載の線材の製造方法。
【請求項7】
前記巻取時の巻取温度は800℃〜900℃であることを特徴とする請求項に記載の線材の製造方法。
【請求項8】
前記冷却時の冷却速度は0.1℃〜1℃/secであることを特徴とする請求項に記載の線材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間鍛造性に優れた線材及びその製造方法にかかり、より詳細には、自動車用材料又は機械部品用材料として用いるのに適した、冷間鍛造性に優れた線材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷間加工法は、熱間加工法や機械切削加工法に比べて、生産性に優れるだけでなく、熱処理コストを低減させる効果が大きいため、自動車用材料又はボルト、ナットなどの機械部品用材料の製造方法として広く用いられている。
【0003】
しかし、かかる冷間加工法を用いて機械部品を製造するためには、本質的に鋼材が冷間加工性に優れていることが求められる。より具体的には、冷間加工時の変形抵抗が低く、且つ延性に優れていることが求められる。これは、鋼の変形抵抗が高い場合は、冷間加工時に使用する工具の寿命が低下し、鋼の延性が低い場合には、冷間加工時に割れが発生しやすくなって不良品発生の原因となるためである。
【0004】
そのため、通常の冷間加工用の鋼材の場合は、冷間加工前に球状化焼鈍熱処理を行う。これは、球状化焼鈍熱処理を行った場合は、鋼材が軟化し、変形抵抗が減少し、延性が向上して冷間加工性が向上するからである。ところが、この場合には追加コストが発生し、製造効率が低下する。従って、追加の熱処理を行わなくても、優れた冷間加工性を確保できる線材の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的の一つは、追加の熱処理を行わなくても、優れた冷間鍛造性を確保できる線材及びそれを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、重量%で、C:0.02〜0.15%、Si:0.05〜0.3%、Mn:0.5〜1.2%、Cr:0.3〜0.9%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、sol.Al:0.01〜0.05%、N:0.01%以下、残部Fe及び不可避不純物を含み、線材の直径方向における1/2dの位置及び1/4dの位置で測定した線材の硬度をそれぞれHv,1/2d(Hv)、Hv,1/4d(Hv)としたときに、下記関係式1及び2を満たす線材を提供する。
[関係式1](Hv,1/2d+Hv,1/4d)/2≦150
[関係式2]Hv,1/2d/Hv,1/4d≦1.2
(ここで、dは線材の直径を意味する)
【0007】
本発明の他の一側面は、重量%で、C:0.02〜0.15%、Si:0.05〜0.3%、Mn:0.5〜1.2%、Cr:0.3〜0.9%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Sol.Al:0.01〜0.05%、N:0.01%以下、残部Fe及び不可避不純物を含み、下記式1で定義される炭素当量(Ceq)が0.23以上0.33以下であり、下記関係式3及び4を満たす鋼片を加熱する段階と、加熱された上記鋼片を仕上げ圧延温度900℃〜1000℃の条件下で熱間圧延して線材を得る段階と、上記線材を巻き取った後、冷却する段階と、を含む線材の製造方法を提供する。
[式1]Ceq=[C]+[Si]/9+[Mn]/5+[Cr]/12
[関係式3]1.2≦[Mn]/[Cr]≦1.8
[関係式4]9.33[C]+0.97[Mn]+0.51[Cr]+0.26[Nb]+0.66[V]≦2.1
(ここで、[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Nb]及び[V]はそれぞれ、当該元素の含有量(%)を意味する)
【発明の効果】
【0008】
本発明による様々な効果のうちの一つの効果は、球状化焼鈍熱処理を省略しても、冷間加工時の変形抵抗を十分に抑えることができる線材を提供できることである。
【0009】
本発明の多様で有益な特徴と効果とは上述した内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程で、より容易に理解することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一側面である冷間鍛造性に優れた線材について詳細に説明する。
本発明者らは、伸線加工後にも所定の強度を有すると共に、優れた冷間鍛造性を確保することができる線材を提供するために、様々な角度から検討を行った。その結果、線材の平均硬度と、線材の中心偏析部及び非偏析部の硬度比と、を適宜制御することにより、伸線加工後にも所定の強度を有しながら、冷間鍛造性が劣化しない線材及びその製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の線材は、線材の直径方向における1/2dの位置及び1/4dの位置において測定した線材の硬度を、それぞれHv,1/2d(Hv)、及びHv,1/4d(Hv)としたとき、下記関係式1及び2を満たす。下記関係式1を満たさない場合は、伸線加工後の強度が高くなりすぎて冷間鍛造性が低下することがある。一方、下記関係式2を満たさない場合は、伸線加工後の冷間鍛造時に線材の内部に割れが発生し得るため、冷間鍛造性が低下することがある。
[関係式1]
(Hv,1/2d+Hv,1/4d)/2≦150
[関係式2]
Hv,1/2d/Hv,1/4d≦1.2
(ここで、dは線材の直径を意味する)
【0012】
上記関係式1及び2を満足させるために、本発明の線材は、下記のような合金組成及び成分範囲を有することができる。後述する各成分の含有量は、別途に記載しない限り、いずれも重量基準であることを前以て明らかにしておく。
【0013】
炭素(C):0.02〜0.15%
炭素は、線材の強度を向上させる役割をする。本発明において、かかる効果を得るためには、炭素が0.02%以上含有されることが好ましく、0.03%以上含有されることがより好ましい。但し、その含有量が過剰である場合は、鋼の変形抵抗が急激に増加するため、冷間鍛造性が低下するという問題がある。従って、上記炭素含有量の上限は0.15%であることが好ましく、0.14%であることがより好ましい。
【0014】
シリコン(Si):0.05〜0.3%
シリコンは、脱酸剤として有効な元素である。本発明において、かかる効果を得るためには、0.05%以上含有されることが好ましい。但し、その含有量が過剰である場合は、固溶強化により鋼の変形抵抗が急激に増加するため、冷間鍛造性が低下化するという問題がある。従って、上記シリコン含有量の上限は0.3%であることが好ましく、0.2%であることがより好ましい。
【0015】
マンガン(Mn):0.5〜1.2%
マンガンは、脱酸剤及び脱硫剤として有効な元素である。本発明において、かかる効果を得るためには、0.5%以上含有されることが好ましく、0.52%以上含有されることがより好ましい。但し、その含有量が過剰である場合は、鋼自体の強度が高くなりすぎて鋼の変形抵抗が急激に増加するため、冷間鍛造性が低下するという問題がある。従って、上記マンガン含有量の上限は1.2%であることが好ましく、1.0%であることがより好ましい。
【0016】
クロム(Cr):0.3〜0.9%
クロムは、熱間圧延時のフェライト及びパーライト変態を促進させる役割をする。また、鋼自体の強度を必要以上に増加させずに、鋼中に炭化物を析出させることで固溶炭素量を低減させる。従って、固溶炭素による動的ひずみ時効の減少に寄与する。本発明において、かかる効果を得るためには、0.3%以上含有されることが好ましく、0.32%以上含有されることがより好ましい。但し、その含有量が過剰である場合は、線材の中心偏析部にクロムが偏析して、線材の位置別の硬度差が大きくなり、且つ鋼自体の強度が高くなりすぎて鋼の変形抵抗が急激に増加する。そのため、冷間鍛造性が低下するという問題がある。従って、上記クロム含有量の上限は0.9%であることが好ましく、0.8%であることがより好ましく、0.6%であることが更に好ましい。
【0017】
リン(P):0.02%以下
リンは、不可避的に含有される不純物であって、結晶粒界に偏析して鋼の靭性を低下させ、且つ遅延破壊抵抗性を減少させる主な原因となる元素である。そのため、その含有量をできるだけ低く制御することが好ましい。理論上は、リン含有量を0%に制御することが有利であるが、製造工程上必然的に含有されざるを得ない。従って、上限を管理することが重要であり、本発明では、上記リン含有量の上限を0.02%に制限する。
【0018】
硫黄(S):0.02%以下
硫黄は、不可避的に含有される不純物であって、結晶粒界に偏析して鋼の延性を大きく低下させ、且つ鋼中に硫化物を形成して遅延破壊抵抗性及び応力弛緩特性を低下させる主な原因となる元素である。そのため、その含有量をできるだけ低く制御することが好ましい。理論上、硫黄の含有量を0%に制御することが有利であるが、製造工程上必然的に含有されざるを得ない。従って、上限を制限することが重要であり、本発明では、上記硫黄含有量の上限を0.02%とする。
【0019】
酸可溶性アルミニウム(Sol.Al):0.01〜0.05%
アルミニウムは、脱酸剤として有効な元素である。本発明において、かかる効果を得るためには、0.01%以上含有されることが好ましく、0.015%以上含有されることがより好ましく、0.02%以上含有されることがさらに好ましい。但し、その含有量が過剰である場合は、AlNの形成により、オーステナイト粒の微細化効果が高くなって、冷間鍛造性が低下し得る。従って、本発明では、上記アルミニウム含有量の上限を0.05%とする。
【0020】
窒素(N):0.01%以下
窒素は、不可避的に含有される不純物であって、その含有量が過剰である場合は、固溶窒素量が増加して鋼の変形抵抗が急増するため、冷間鍛造性が低下するという問題がある。理論上、窒素の含有量を0%に制御することが有利であるが、製造工程上必然的に含有せざるを得ない。従って、上限を管理することが重要であり、本発明では、上記窒素含有量の上限を0.01%、より好ましくは0.008%、更に好ましくは0.007%に管理する。
【0021】
上記合金組成の他の残部はFeである。本発明の線材は、更に、鋼の工業的生産過程で含有され得るその他の不純物を含むことができる。かかる不純物は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、誰でも分かる内容であるため、本発明では、特にその種類と含有量を制限しない。
【0022】
但し、Ti、Nb及びVは、本発明の効果を得るために含有量を抑える代表的な不純物である。従って、以下では、これについて簡略に説明する。
【0023】
チタン(Ti):0.02%以下
チタンは、炭窒化物形成元素であって、鋼中にチタンが含まれている場合にはC及びNの固定には有効であるが、高温で粗大なTi(C、N)が析出するため、冷間鍛造性が低下し得る。従って、その上限を制限することが重要であり、本発明では、上記チタン含有量の上限を0.02%に制限することが好ましく、0.015%に制限することがより好ましい。
【0024】
ニオブ(Nb)及びバナジウム(V):合計0.06%以下
ニオブ及びバナジウムも、炭窒化物形成元素であって、これらの含有量が過剰である場合には、冷却中に微細な炭窒化物が形成されることにより、析出強化や結晶粒の微細化が発生するために、鋼の強度が必要以上に増加する。その結果、冷間鍛造性が低下し得る。従って、その上限を制限することが重要であり、本発明では、上記ニオブ及びバナジウム含有量の合計上限を0.06%に制限することが好ましく、0.05%に制限することがより好ましい。
【0025】
一例によると、本発明における線材の炭素当量(Ceq)は、0.23以上0.33以下であることができる。ここで、炭素当量(Ceq)は下式1により定義することができる。もし、炭素当量(Ceq)が0.23未満であるか、又は0.33を超える場合は、所定の強度を得ることが難しくなる。
[式1]
Ceq=[C]+[Si]/9+[Mn]/5+[Cr]/12
(ここで、[C]、[Si]、[Mn]及び[Cr]は、それぞれ、当該元素の含有量(%)を意味する。)
【0026】
一例によると、Mn及びCrの含有量は、下記関係式3を満たすことができる。もし、[Mn]/[Cr]が1.2未満である場合は、所望の強度を得ることが難しくなり、[Mn]/[Cr]が1.8を超える場合は、線材の中心偏析部にマンガン及びクロムが偏析して、線材の位置別の硬度差が大きくなる。そのため、冷間鍛造時に割れが発生する可能性が高くなり得る。
[関係式3]
1.2≦[Mn]/[Cr]≦1.8
(ここで、[Mn]及び[Cr]はそれぞれ、当該元素の含有量(%)を意味する)
【0027】
一例によると、C、Mn、Cr、Nb及びVの含有量は、下記関係式4を満たすことができる。もし、下記関係式4を満たさない場合は、中心部偏析により、線材の中心偏析部と非偏析部との硬度差が大きくなる。そのため、冷間鍛造加工時に内部割れが発生する可能性が高くなる恐れがある。
[関係式4]
9.33[C]+0.97[Mn]+0.51[Cr]+0.26[Nb]+0.66[V]≦2.1
(ここで、[C]、[Mn]、[Cr]、[Nb]及び[V]はそれぞれ、当該元素の含有量(%)を意味する)
【0028】
一例によると、本発明の線材は、その微細組織としてフェライト(ferrite)及びパーライト(Pearlite)を含むことができ、より好ましくは、面積分率で、70%以上(但し100%は除外)のフェライトと、30%以下(但し0%は除外)のパーライトと、を含むことができる。上記のような組織を確保した場合は、優れた冷間鍛造性を確保できるとともに、伸線加工を適宜行った後に強度を確保できるという特徴がある。
【0029】
また、一例によると、上記フェライトの平均粒径は10〜30μmであることができ、より好ましくは15〜25μmであることができる。上記フェライトの平均粒径が10μm未満である場合は、結晶粒の微細化によって強度が増加するため、冷間鍛造性が減少する恐れがある。一方、30μmを超える場合は、強度が低下する恐れがある。
【0030】
一方、フェライトと共に形成されるパーライトの平均粒径は、上記フェライトの平均粒径により影響を受けるため、特に制限しない。ここで、平均粒径とは、線材の長さ方向における一断面を観察して検出した粒子の平均円相当径(equivalent circular diameter)を意味する。
【0031】
一例によると、本発明の線材は、線材の状態で断面減少率(RA)が70%以上であるため、延性に非常に優れるという特徴がある。
【0032】
一例によると、本発明の線材を5〜25%の伸線加工量(D)で伸線加工した場合、伸線加工後の線材の硬度は、下記関係式5を満たすことが好ましい。もし、伸線加工後の線材の硬度が関係式5を満たさない場合は、加工硬化により強度が急増するため、冷間鍛造性が急激に低下することがある。
[関係式5]
Hv,1−10≦(Hv,1/2d+Hv,1/4d)/2≦Hv,+10
(ここで、Hv,は「(Hv,1/2+Hv,1/4)/2+85.45×{1−exp(−D/11.41)}」を意味し、Hv,1/2d、Hv,1/4dはそれぞれ、伸線加工後の線材の直径方向における1/2dの位置及び1/4dの位置で測定した線材の硬度を意味する。)

【0033】
以上で説明した本発明の伸線用線材は、様々な方法により製造することができ、その製造方法は、特に制限されない。但し、一実施例として、次のような方法により製造することができる。
【0034】
以下では、本発明の他の一側面である冷間鍛造性に優れた線材の製造方法について詳細に説明する。
【0035】
まず、上記成分系を満たす鋼片を加熱する。この時、加熱温度は1050℃〜1250℃であることができ、好ましくは1100℃〜1200℃であることができる。もし、加熱温度が1050℃未満である場合は、熱間変形抵抗が増加して、生産性の低下をもたらす恐れがある。一方、加熱温度が1250℃を超える場合は、フェライト結晶粒が過度に粗大となって、延性が低下する恐れがある。
【0036】
次いで、加熱された上記鋼片を熱間圧延して線材を得る。この時、仕上げ圧延温度は900℃〜1000℃であることができ、好ましくは920℃〜1000℃であることができる。もし、仕上げ圧延温度が900℃未満である場合は、フェライト結晶粒が微細化することによって強度が増加するため、変形抵抗が増加する恐れがある。一方、1000℃を超える場合は、フェライト結晶粒が過度に粗大になって、延性が低下する恐れがある。
【0037】
次に、上記線材を巻き取った後、冷却する。この時、上記線材の巻取温度は800℃〜900℃であることができ、好ましくは800℃〜850℃であることができる。もし、巻取温度が800℃未満である場合は、冷却時に発生した表層部のマルテンサイトが復熱により回復されず、且つ焼戻マルテンサイトが生成されて、硬くて脆い鋼になる。その結果、冷間鍛造性が低下する恐れがある。一方、巻取温度が900℃を超える場合は、その表面に厚いスケールが形成されて、脱スケール時にトラブルが発生しやすくなるだけでなく、冷却時間が長くなって、生産性が低下する恐れがある。
【0038】
一方、上記冷却時の冷却速度は、0.1℃〜1℃/secであることができ、好ましくは0.3℃〜0.8℃/secであることができる。もし、冷却速度が0.1℃/sec未満である場合は、パーライト組織中のラメラ間隔が大きくなって、延性が不足する恐れがあり、1℃/secを超える場合は、フェライト分率が減少して、冷間鍛造性が低下する恐れがある。
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、かかる実施形態の記載は、本発明の実施を例示するためのものであって、この実施例の記載によって本発明が制限されるものではない。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載の事項と、それから合理的に類推される事項によって決定される。
【0040】
下記表1のような組成を有する鋼片を1200℃で8時間加熱した後、熱間圧延して線径25mmの線材を製造した。この時、仕上げ圧延温度は950℃、圧延比は80%と一定にした。次に、850℃の温度で巻き取った後、0.5℃/secの速度で冷却した。以後、冷却された線材の微細組織を観察し、直径方向における1/2dの位置及び1/4dの位置で硬度を測定して、その結果を下記表2に示した。
【0041】
また、冷却された線材の冷間鍛造性を評価して表2に示した。冷間鍛造性の評価は、切欠き圧縮試験片を真歪み0.8下で圧縮する試験を行い、割れが発生したか否かを示した。この時、割れが発生していない場合を「GO」、割れが発生した場合を「NG」として評価した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
以後、それぞれの線材にそれぞれ10%、20%、30%の伸線加工量を印加して鋼線を製造した。製造されたそれぞれの鋼線に対して、直径方向における1/2dの位置及び1/4dの位置で硬度を測定して冷間鍛造性を評価し、その結果を下記表3に示した。
【0045】
【表3】
【0046】
表3から分かるように、本発明で提案する合金組成と製造条件を満たす発明例1〜8の場合は、線材の平均硬度と線材の中心偏析部及び非偏析部の硬度比が、本発明で提供する範囲を満たすため、冷間鍛造性が非常に優れることが分かる。一方、比較例1〜11の場合には、線材の中心偏析部と非偏析部との硬度比が、本発明で提供する範囲を超えるため、伸線加工後の冷間鍛造時に内部割れが発生し、発明鋼に比べて冷間鍛造性が劣ることが分かる。