特許第6626656号(P6626656)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6626656
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】繊維状強化材および繊維強化樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/227 20060101AFI20191216BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20191216BHJP
   C08F 8/46 20060101ALI20191216BHJP
   C08F 10/00 20060101ALI20191216BHJP
   C08J 5/06 20060101ALI20191216BHJP
【FI】
   D06M15/227
   C08L23/26
   C08F8/46
   C08F10/00 510
   C08J5/06CES
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-151705(P2015-151705)
(22)【出願日】2015年7月31日
(65)【公開番号】特開2017-31522(P2017-31522A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年7月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森本 亮平
(72)【発明者】
【氏名】大藤 晴樹
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−117839(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0075078(US,A1)
【文献】 特開2011−099186(JP,A)
【文献】 特開平08−133794(JP,A)
【文献】 特開2006−124847(JP,A)
【文献】 特開2006−233346(JP,A)
【文献】 特開2009−215492(JP,A)
【文献】 特開平06−107442(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/038574(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00−15/715
B29B11/16
15/08−15/14
C08C19/00−19/44
C08F6/00−246/00
301/00
C08J5/04−5/10
5/24
C08K3/00−13/08
C08L1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維に繊維収束剤が被覆された繊維状強化材であって、
前記繊維収束剤は、酸変性ポリプロピレン樹脂が不揮発性水性化助剤を実質的に含有せずに水性媒体中に分散されたものであり、
酸変性ポリプロピレン樹脂は、融点が135℃以上であって、不飽和カルボン酸を1.5〜10.0質量%含有し、ポリプロピレン成分がアイソタクチック構造であることを特徴とする繊維状強化材
【請求項2】
酸変性ポリプロピレン樹脂の180℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)値が400g/10分以下である繊維収束剤を用いた請求項1に記載の繊維状強化材
【請求項3】
重量平均粒子径が150nm以下である繊維収束剤を用いた請求項1または2に記載の繊維状強化材
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の繊維状強化材と、熱可塑性マトリックス樹脂を含むことを特徴とする繊維強化樹脂組成物。
【請求項5】
熱可塑性マトリックス樹脂がポリプロピレンであることを特徴とする請求項4に記載の繊維強化樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチックに使用される繊維状強化材の繊維収束剤に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチックとして、ポリプロピレン樹脂をガラス繊維や炭素繊維などの繊維状強化材で強化することにより、耐衝撃性、剛性、耐熱性、引張り強度や曲げ強度などの機械特性の性能向上が図られている。
一般的に繊維状強化材は多数本の細いフィラメントで構成されており、繊維収束剤(サイジング剤とも呼ばれる)により表面処理されている。
【0003】
例えば、特許文献1のように不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン樹脂水性エマルジョンからなる繊維収束剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−107442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で開示されている繊維収束剤を用いた繊維強化プラスチックを自動車部品や建築材料等に用いる場合、高温環境下での機械特性や吸水後の機械特性が十分ではない場合があった。
【0006】
本発明は、従来技術の問題点を解決するものであって、高温環境下で使用した場合の機械特性(高温機械特性)や吸水後の機械特性(耐水性)に優れた繊維強化樹脂組成物を得るための繊維収束剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定構造の不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン樹脂を含有する水性分散体が、繊維収束剤として好適であることを見出し、さらにこの繊維収束剤を用いて処理した繊維状強化材と熱可塑性マトリックス樹脂との複合材料である繊維強化樹脂組成物は、高温環境下における機械特性(高温機械特性)および吸水後の機械特性(耐水性)に優れることを見出し本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)炭素繊維に繊維収束剤が被覆された繊維状強化材であって、
前記繊維収束剤は、酸変性ポリプロピレン樹脂が不揮発性水性化助剤を実質的に含有せずに水性媒体中に分散されたものであり、
酸変性ポリプロピレン樹脂は、融点が135℃以上であって、不飽和カルボン酸を1.5〜10.0質量%含有し、ポリプロピレン成分がアイソタクチック構造であることを特徴とする繊維状強化材
(2)酸変性ポリプロピレン樹脂の180℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)値が400g/10分以下である繊維収束剤を用いた(1)に記載の繊維状強化材
(3)重量平均粒子径が150nm以下である繊維収束剤を用いた(1)または(2)に記載の繊維状強化材
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の繊維状強化材と、熱可塑性マトリックス樹脂を含むことを特徴とする繊維強化樹脂組成物。
(5)熱可塑性マトリックス樹脂がポリプロピレンであることを特徴とする(4)に記載の繊維強化樹脂組成物。




【発明の効果】
【0009】
本発明の繊維収束剤は、繊維状強化材の収束性や繊維状強化材と熱可塑性マトリックス樹脂との接着性に優れているため、これを用いた繊維状強化材によって補強効果に優れる繊維強化樹脂組成物を得ることができる。また、本発明の繊維収束剤によって処理された繊維状強化材と熱可塑性マトリックス樹脂の複合材料である繊維強化樹脂組成物は、高温機械特性および耐水性に優れているものである。
【0010】
本発明の繊維収束剤により被覆された繊維状強化材を熱可塑性マトリックス樹脂と複合した繊維強化樹脂組成物は、高温機械特性および耐水性に優れるため、自動車部品、家電製品、建築材料、OA機器等、各種用途に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の繊維収束剤は、酸変性ポリプロピレン樹脂が水性媒体中に分散された、いわゆる水性分散体の形態をなすものである。
【0012】
本発明の繊維収束剤を構成する酸変性ポリプロピレン樹脂は、不飽和カルボン酸の含有量が1.5〜10.0質量%であり、ポリプロピレン成分が、アイソタクチック構造からなるホモポリプロピレンであることが必要である。ポリプロピレンが、アイソタクチック構造以外の、シンジオタクチック構造、アタクチック構造などの構造である場合、得られた繊維強化樹脂組成物の高温機械特性に劣る傾向がある。ここで、アイソタクチック構造とは、ポリプロピレン主鎖に対して側鎖であるメチル基が同一方向に位置する構造のことをいう。
【0013】
ポリプロピレン樹脂は、一般に、プロピレン成分のみからなるホモポリプロピレン、エチレン成分を1〜10質量%含有したランダムポリプロピレンやブロックポリプロピレン、エチレン成分や1−ブテン成分などを含有したポリプロピレン3元共重合体であるターポリマーなどに分類できる。
本発明の繊維収束剤を構成する酸変性ポリプロピレン樹脂のポリプロピレン成分は、オレフィン成分がプロピレン成分のみからなるホモポリプロピレンであることが必要である。酸変性ポリプロピレン樹脂のポリプロピレン成分が、ホモポリプロピレン以外の、ランダムポリプロピレンやブロックポリプロピレン、ターポリマーなどのポリプロピレンである場合には、繊維状強化材および熱可塑性マトリックス樹脂との接着性や、得られた繊維強化樹脂組成物の高温機械特性に劣る傾向がある。
【0014】
本発明の繊維収束剤を構成する酸変性ポリプロピレン樹脂は、上記のようなアイソタクチック構造からなるホモポリプロピレンが、不飽和カルボン酸成分により酸変性されたものである。
酸変性に用いられる不飽和カルボン酸成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、フマル酸、クロトン酸などのほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミドなどや、それらの各種誘導体が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、(無水)マレイン酸が、接着性の観点から好ましく、特に(無水)マレイン酸が好ましい。なお、「(無水)〜酸」とは、「〜酸または無水〜酸」を意味する。すなわち、(無水)マレイン酸とは、マレイン酸または無水マレイン酸を意味する。
不飽和カルボン酸成分は、酸変性ポリプロピレン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、共重合の状態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)などが挙げられ、製造のし易さや接着性の観点から、グラフト共重合が好ましい。
【0015】
不飽和カルボン酸成分を、ポリプロピレン樹脂へ導入するグラフト共重合方法は、特に限定されず、例えば、ラジカル発生剤存在下、ポリプロピレン樹脂と不飽和カルボン酸とをポリプロピレン樹脂の融点以上に加熱溶融して反応させる方法や、ポリプロピレン樹脂と不飽和カルボン酸とを有機溶媒に溶解させた後、ラジカル発生剤の存在下で加熱、攪拌して反応させる方法が挙げられる。操作が簡便である点から、前者の方法が好ましい。
グラフト共重合に使用するラジカル発生剤としては、例えば、ジ−tert−ブチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、tert−ブチルヒドロパーオキシド、tert−ブチルクミルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジラウリルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、エチルエチルケトンパーオキシド、ジ−tert−ブチルジパーフタレート等の有機過酸化物類や、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾニトリル類が挙げられる。これらは反応温度やその他の条件によって適宜選択して使用すればよい。
【0016】
酸変性ポリプロピレン樹脂における共重合成分としての不飽和カルボン酸成分の含有量は、1.5〜10.0質量%が必要であり、2.0〜5.0質量%がより好ましい。不飽和カルボン酸成分の含有量が1.5質量%未満であると、後述するような方法で不揮発性水性化助剤を実質的に含まずに分散させることが困難であるだけでなく、繊維状強化材および熱可塑性マトリックス樹脂との接着性に劣る場合がある。一方、10.0質量%を超えると、熱可塑性マトリックス樹脂との接着性が低下する傾向にある。
【0017】
本発明において、酸変性ポリプロピレン樹脂は、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分以外の成分、たとえば(メタ)アクリル酸エステルのような成分を、共重合成分として含有してもよい。このような共重合成分の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、酸変性ポリプロピレン樹脂の20質量%以下であることが好ましい。
【0018】
本発明における酸変性ポリプロピレン樹脂の最も好ましい具体例としては、アイソタクチックポリプロピレン−(無水)マレイン酸二元共重合体が挙げられる。不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン樹脂が、アイソタクチックポリプロピレン−(無水)マレイン酸二元共重合体であることで、炭素繊維やガラス繊維などの繊維状強化材との接着性がより良好なものとなる。なお、アイソタクチックポリプロピレン−(無水)マレイン酸二元共重合体における(無水)マレイン酸は、無水マレイン酸、マレイン酸のいずれであってもよく、両者が混在していてもよい。
【0019】
酸変性ポリプロピレン樹脂の分子量の目安となる180℃、2160g荷重におけるメルトフローレートは、400g/10分以下であることが好ましく、320g/10分以下であることがより好ましく、270g/10分以下であることがさらに好ましく、240g/10分以下であることが特に好ましい。メルトフローレートが400g/10分を超える場合は、高温機械特性が低下する傾向にある。
【0020】
酸変性ポリプロピレン樹脂は、融点が135℃以上である必要があり、140℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。融点が135℃未満では、繊維状強化材と熱可塑性マトリックス樹脂より得られる繊維強化樹脂組成物を高温条件下にて使用した場合、その機械特性が損なわれる傾向にある。
【0021】
本発明の繊維収束剤における水性媒体は、水または水を主成分とする液体のことであり、後述する塩基性化合物や有機溶剤を含有していてもよい。
【0022】
水性媒体には、塩基性化合物が含有されていることが好ましい。酸変性ポリプロピレン樹脂のカルボキシル基が、塩基性化合物によって中和され、生成したカルボキシルアニオン間の電気反発力によって、微粒子間の凝集が防がれ、分散安定性が付与される。塩基性化合物としてはカルボキシル基を中和できるものであればよいが、繊維強化樹脂組成物の性能を良好に保つ観点から、揮発性のものを用いることが好ましい。
【0023】
塩基性化合物としては、アンモニアや有機アミンが好ましい。有機アミンの具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、イソプロピルアミン、アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、エチルアミン、ジエチルアミン、イソブチルアミン、ジプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、n−ブチルアミン、2−メトキシエチルアミン、3−メトキシプロピルアミン、2,2−ジメトキシエチルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、ピロール、ピリジン等が挙げられる。
塩基性化合物の含有量は、酸変性ポリプロピレン樹脂中のカルボキシル基に対して0.5〜10倍当量であることが好ましく、0.8〜5倍当量であることがより好ましく、0.9〜3.0倍当量であることが特に好ましい。塩基性化合物の含有量が0.5倍当量未満であると、塩基性化合物の添加効果が認められず、一方、含有量が10倍当量を超えると、接着層形成時の乾燥時間が長くなったり、水性分散体の安定性が低下することがある。
【0024】
水性媒体は、有機溶剤を含有していることが好ましい。後述する酸変性ポリプロピレン樹脂の水性化の際に有機溶剤を配合することで、酸変性ポリプロピレン樹脂の水性化を促進し、分散粒子径を小さくできる。
本発明の繊維収束剤中の有機溶剤の含有量は、50質量%以下がであることが好ましく、1〜45質量%であることがより好ましく、2〜40質量%であることがさらに好ましく、3〜35質量%であることが特に好ましい。有機溶剤の含有量が50質量%を超えると、水性分散体としての安定性が低下する場合がある。
【0025】
前記有機溶剤は、水性分散化促進性能や分散安定性良好な繊維収束剤を得るという点から、20℃の水に対する溶解性が10g/L以上であることが好ましく、20g/L以上であることがより好ましく、50g/L以上であることがさらに好ましい。
【0026】
有機溶剤としては、製膜の過程で効率よく塗膜から除去させる観点から、沸点が150℃以下のものが好ましい。沸点が150℃を超える有機溶剤は、塗膜から乾燥により飛散させることが困難となる傾向にあり、特に塗膜の接着性が悪化する場合がある。好ましい有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、さらには、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル、1,2−ジメチルグリセリン、1,3−ジメチルグリセリン、トリメチルグリセリン等が挙げられる。
中でも、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルは、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散化促進により効果的であり好ましい。
本発明では、これらの有機溶媒を複数混合して使用してもよい。
【0027】
本発明において、酸変性ポリプロピレン樹脂粒子の重量平均粒子径は、接着性の観点から150nm以下であることが好ましい。さらに、低温造膜性の観点から120nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましい。重量平均粒子径が150nmを超えると低温造膜性が劣り、緻密な塗膜が得られにくいことがあり、結果として繊維状強化材との接着性が不十分になる場合がある。
【0028】
本発明の繊維収束剤における固形分濃度としては、製膜条件や塗膜の厚さ、性能等に応じて適宜選択でき、特に限定されるものでないが、水性分散体の粘性を適度に保ち、かつ良好な塗膜形成能を発現させる点で、1〜60質量%が好ましく、3〜55質量%がより好ましく、5〜50質量%がさらに好ましく、10〜45質量%が特に好ましい。本発明の繊維収束剤の固形分濃度は、後述するストリッピングによって有機溶媒を留去することや、水性媒体で希釈することにより調整することができる。
【0029】
本発明の繊維収束剤は、不揮発性の水性化助剤を実質的に含有しないものである。本発明は、不揮発性水性化助剤の使用を排除するものではないが、水性化助剤を用いずとも、酸変性ポリプロピレン樹脂を重量平均粒子径150nm以下の範囲で水性媒体中に安定的に分散することができる。このため、本発明の繊維収束剤は繊維状強化材との接着性や耐水性に優れるものが得られる。
【0030】
ここで、「水性化助剤」とは、水性分散体の製造において、水性化促進や水性分散体の安定化の目的で添加される薬剤や化合物のことであり、「不揮発性」とは、常圧での沸点を有さないか、もしくは常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。「不揮発性水性化助剤を実質的に含有しない」とは、こうした助剤を製造時(樹脂の水性化時)に用いず、得られる分散体が結果的にこの助剤を含有しないことを意味する。したがって、こうした水性化助剤は、含有量がゼロであることが特に好ましいが、本発明の効果を損ねない範囲で、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン樹脂成分に対して0.5質量%未満程度含まれていても差し支えない。
【0031】
本発明でいう不揮発性水性化助剤としては、例えば、後述する乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子などがあげられる。
【0032】
乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤があげられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等があげられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等があげられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等があげられる。
【0033】
保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸及びその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン−プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類及びその塩、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体及びその塩、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の不飽和カルボン酸含有量が10質量%以上のカルボキシル基含有ポリマー及びその塩、ポリイタコン酸及びその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物等があげられる。
【0034】
次に、本発明の繊維収束剤の製造方法について説明する。
酸変性ポリプロピレン樹脂と水性媒体とを含有する水性分散体を製造する方法としては、酸変性ポリプロピレン樹脂と、水性媒体(必要に応じて有機溶剤や塩基性化合物等を含有)とを、密閉可能な容器中で加熱、攪拌する方法などが知られている。
しかしながら、本発明の繊維収束剤を構成する酸変性ポリプロピレン樹脂のポリプロピレン成分は、アイソタクチック構造からなるホモポリプロピレンであり、結晶化度が高く、高融点であり、酸、アルカリ、有機溶媒などの薬品や水に対して安定であるため、水性分散化が困難な特性を有している。水性分散体を得られたとしても、当該水性分散体の重量平均粒子径を好ましい範囲にすることはさらに困難であった。
そのため、本発明の繊維収束剤の製造方法は、このような方法の中でも、後述する製造方法を採用することが好ましい。以下に、本発明における好ましい製造方法について具体的に説明する。
【0035】
水性分散化に用いる装置としては、固/液撹拌装置や乳化機として使用されている容器を使用することができ、0.1MPa以上の加圧が可能な装置を使用することが好ましい。撹拌の方法、撹拌の回転速度は特に限定されないが、酸変性ポリプロピレン樹脂が水性媒体中で浮遊状態となる程度の低速の撹拌でよい。したがって、高速撹拌(例えば1000rpm以上)やホモジナイザーの使用は必須ではなく、簡便な装置でも水性分散体の製造が可能である。
【0036】
上記の装置に、本発明の繊維収束剤を構成する酸変性ポリプロピレン樹脂、塩基性化合物、有機溶媒および水などの原料を投入し、好ましくは40℃以下の温度で攪拌混合しておく。次いで、槽内の温度を80〜240℃、好ましくは100〜220℃、さらに好ましくは110〜200℃、特に好ましくは120〜190℃の温度に保ちつつ、好ましくは粗大粒子が無くなるまで攪拌を続ける(例えば、5〜300分間)。
上記工程において、槽内の温度が80℃未満であると、酸変性ポリプロピレン樹脂の水性分散化が進行し難くなる。一方、槽内の温度が240℃を超えると、酸変性ポリプロピレン樹脂の分子量が低下することがある。
【0037】
ここまでの工程で、酸変性ポリプロピレン樹脂は水性媒体におおよそ分散した状態となっている。しかし、本発明においては、酸変性ポリプロピレン樹脂の分散化をより良好なものとし、酸変性ポリプロピレン樹脂の数平均粒子径を、本発明で規定する好ましい範囲にするために、その後さらに系内に、塩基性化合物、有機溶媒および水から選ばれる少なくとも1種を加え、密閉容器中で、再度、100〜240℃の温度下で加熱(再昇温)、攪拌することが好ましい。このように、水性媒体を構成するものを追加し、再度加熱、攪拌することで、水性分散体中の酸変性ポリプロピレン樹脂の数平均粒子径や粒子径分布にかかる分散度を好ましい範囲に調整することができる。
再昇温の工程において、槽内の温度が100℃未満であると、酸変性ポリプロピレン樹脂の水性分散化が進行し難くなり、一方、槽内の温度が240℃を超えると、酸変性ポリプロピレン樹脂の分子量が低下することがある。
なお、塩基性化合物、有機溶媒、水を追加配合する方法は特に限定されないが、ギヤポンプなどを用いて加圧下で配合する方法や、一旦系内温度を下げ常圧になってから配合する方法などがある。
追加配合する塩基性化合物と、有機溶媒と、水との割合は、所望する固形分濃度、粒子径、分散度等に応じて適宜決めればよい。また、塩基性化合物、有機溶媒、水の合計は、配合した後の固形分濃度が1〜50質量%となるよう調整することが好ましく、2〜45質量%となる量がより好ましく、3〜40質量%となる量が特に好ましい。
【0038】
水性分散体の製造時に上記の有機溶媒を用いた場合には、水性分散化の後に、その一部またはすべてを、一般に「ストリッピング」と呼ばれる脱溶媒処理によって系外へ留去させ、有機溶媒の含有量を低減させてもよい。ストリッピングにより、水性分散体中の有機溶媒含有量を50質量%以下とすることが、水性分散体の安定性の観点から好ましい。
ストリッピングの工程では、水性分散化に使用した有機溶媒を実質的に全て留去することもできる。しかし、有機溶媒を実質的に全て留去するためには、装置の減圧度を高めたり、操業時間を長くする必要があり、生産性を考慮すると、有機溶媒含有量の下限は0.01質量%程度が好ましい。
ストリッピングの方法としては、常圧または減圧下で水性分散体を攪拌しながら加熱し、有機溶媒を留去する方法が挙げられる。また、水性媒体が留去されることにより、固形分濃度が高くなるので、例えば、粘度が上昇して作業性が低下するような場合には、予め水性分散体に水を添加しておいてもよい。
【0039】
上記の方法により、水性媒体中に、酸変性ポリプロピレン樹脂の未分散樹脂がほとんどまたは全く残存することなく、水性分散化することが可能となる。容器内の異物や少量の未分散樹脂を除くために、水性分散体を装置から払い出す際に、濾過工程を設けてもよい。濾過方法は限定されないが、例えば、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(例えば空気圧0.5MPa)する方法が挙げられる。このような濾過工程を設けることで、異物や未分散樹脂が存在した場合であってもそれらを除去できるので、得られた水性分散体を繊維収束剤として問題なく使用することができる。
【0040】
本発明における接着層には、繊維状強化材と熱可塑性マトリックス樹脂との接着性を向上させることなどを目的に、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン樹脂以外の他の重合体が少量含有されていてもよい。
【0041】
他の重合体としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、変性ナイロン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などがあげられる。
【0042】
これらの他の重合体は、熱可塑性マトリックス樹脂、特にポリプロピレン樹脂との接着性を損なわない範囲で使用されることが好ましく、含有量としては繊維収束剤の30質量%以下であることが好ましい。
【0043】
本発明の繊維収束剤には、さらに必要に応じて、粘着付与剤、無機粒子、架橋剤、顔料、染料、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤、増粘剤、耐候剤、難燃剤等の各種添加剤を含有してもよく、性能向上の観点から架橋剤を添加する方が好ましい。
【0044】
本発明で用いる架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤、不飽和カルボン酸成分と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、多価の配位座を有する金属等を用いることができる。
具体的には、オキサゾリン基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が挙げられ、必要に応じて複数のものを混合使用してもよい。中でも、取り扱い易さ及び密着性の観点から、オキサゾリン基を含有する化合物及び/又はエポキシ基を含有する化合物及び/又はシランカップリング剤を添加することが好ましい。
【0045】
オキサゾリン基含有化合物としては、分子中にオキサゾリン基を2つ以上有しているものが好ましく使用できる。例えば、2,2′−ビス(2−オキサゾリン)、2,2′−エチレン−ビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレン−ビス(2−オキサゾリン)、ビス(2−オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド等のオキサゾリン基を有する化合物や、オキサゾリン基含有ポリマー等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、取り扱いのし易さからオキサゾリン基含有ポリマーが好ましい。
【0046】
オキサゾリン基含有ポリマーは、一般に2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン等の付加重合性オキサゾリンを重合させることにより得られる。オキサゾリン基含有ポリマーには、必要に応じて他の単量体が共重合されていてもよい。オキサゾリン基含有ポリマーの重合方法としては、特に限定されず、公知の重合方法を採用することができる。オキサゾリン基含有ポリマーの市販品としては、日本触媒社製のエポクロスシリーズ等が挙げられる。具体的な商品名としては、例えば、水溶性タイプの「WS−500」、「WS−700」;エマルションタイプの「K−1010E」、「K−1020E」、「K−1030E」、「K−2010E」、「K−2020E」、「K−2030E」等が挙げられる。
【0047】
エポキシ基含有化合物は、分子中に少なくとも2つ以上のエポキシ基を有しているものであれば特に限定されない。例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAβ−ジメチルグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、テトラヒドロキシフェニルメタンテトラグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ブロム化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、クロル化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物のジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールジグリシジルエーテル、エポキシウレタン樹脂等のグリシジルエーテル型;p−オキシ安息香酸グリシジルエーテル・エステル等のグリシジルエーテル・エステル型;フタル酸ジグリシジルエステル、テトラハイドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサハイドロフタル酸ジグリシジルエステル、アクリル酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル等のグリシジルエステル型;グリシジルアニリン、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルイソシアヌレート、トリグリシジルアミノフェノール等のグリシジルアミン型;エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の線状脂肪族エポキシ樹脂;3,4−エポキシ−6メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシシクロヘキサン)カルボキシレート、ビス(3,4−エポキシ−6メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジエポキサイド、ジシクロペンタジエンオキサイド、ビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、リモネンジオキサイド等の脂環族エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの1種または2種以上を用いることができる。
市販のエポキシ化合物としては、本発明に適した水系のものとして、例えば、ナガセケムテックス社製のデナコールシリーズ(EM−150、EM−101など)、ADEKA社製のアデカレジンシリーズ等が挙げられ、UVインキ密着性や耐スクラッチ性向上の点から多官能エポキシ樹脂エマルションである旭電化社製のアデカレジンEM−0517、EM−0526、EM−11−50B、EM−051Rなどが好ましい。
【0048】
シランカップリング剤としては既知のものを使用することができ、具体的には、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランなどのアミノ基含有シランカップリング剤;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシメチルジメトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのグリシドキシ基(もしくはエポキシ基)含有シランカップリング剤;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シランなどのビニル基含有シランカップリング剤;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのメタクリロキシ基含有シランカップリング剤;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランなどのメルカプト基含有シランカップリング剤;γ−クロロプロピルメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシランなどのハロゲン基含有シランカップリング剤などが挙げられる。これらのシランカップリング剤は、単独で用いも良いし、2種以上を併用してもよい。これらの中では、最終的に得られる金属板複合樹脂成形品全体の接合強度が良好な点で、アミノ基含有シランカップリング剤、グリシドキシ基(もしくはエポキシ基)含有シランカップリング剤が好ましい。
【0049】
本発明において、架橋剤の含有量は、接着性や高温機械特性向上の観点から、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して0.1〜50質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜40質量部、さらに好ましくは1〜30質量部である。
【0050】
本発明における繊維収束剤を各種繊維強化材に含浸させ、乾燥することで繊維収束剤によって被覆(表面処理)された繊維状強化材を得ることができる。
【0051】
本発明で用いる繊維状強化材は、特に限定されないが、例えば炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリアリレート繊維、ポリアセタール繊維、PBO繊維、LCP繊維、ポリフェニレンサルフィド繊維及びポリケトン繊維、ビニロン繊維、セルロース繊維等から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、炭素繊維又はガラス繊維が特に好ましい。
【0052】
繊維状強化材への繊維集束剤の付着量は、繊維状強化材が所望の機能を有するための必要量とすればよいが、繊維収束剤の付着量が少ないと繊維状強化材の収束性、繊維状強化材と熱可塑性マトリックス樹脂との接着性に関して、本発明の効果が十分に得られない場合がある。また、繊維収束剤の付着量が多すぎた場合、繊維状強化材が剛直になりすぎて取り扱い性が悪化する場合があるため好ましくない。上記理由より、本発明の繊維収束剤の付着量はこれに限定されるものではないが、繊維状強化材に対して0.1〜20質量%であることが好ましく、更に好ましくは、0.5〜10質量%である。
【0053】
繊維収束剤によって繊維状強化材を表面処理させる方法については、特に限定はないが、キスローラー法、ローラー浸漬法、スプレー法やその他公知の方法が挙げられる。これらの方法の中でも、ローラー浸漬法が、繊維収束剤を繊維状強化材に均一付着できるので好ましい。
【0054】
得られた繊維状強化材の乾燥方法については、特に限定はなく、例えば、加熱ローラー、熱風、熱板等で加熱乾燥することができる。
【0055】
本発明の繊維強化樹脂組成物は、熱可塑性マトリックス樹脂と前述の繊維状強化材を含むものである。繊維状強化材は本発明の繊維収束剤により表面処理されているので、繊維状強化材及び熱可塑性マトリックス樹脂との接着性に優れた繊維強化樹脂組成物となる。
【0056】
ここで、熱可塑性マトリックス樹脂とは、熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂をいい、1種又は2種以上含んでいてもよい。熱可塑性マトリックス樹脂としては、特に制限はなく、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂、フェノキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリフェニレンサルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂等が挙げられる。これらの中でも本発明の繊維収束剤による接着性向上効果がより高いポリオレフィン樹脂が好ましく、中でもポリプロピレンが好ましい。ここで、ポリオレフィン樹脂とは、単純なオレフィン類をモノマーとして合成される高分子化合物であり、ホモポリマーやコポリマー(共重合体)なども含まれる。また、主鎖や末端に置換基を導入した変性体でもよい。
【0057】
繊維強化樹脂組成物の製造方法としては、特に制限なく、公知の手法のいずれも好適に使用できる。繊維状強化材がチョップドファイバーの場合、生産性とコストの観点から溶融混練法を用いることが好ましい。熱可塑性マトリックス樹脂と繊維状強化材を溶融混練する際には、熱可塑性マトリックス樹脂が汎用エンジニアプラスチックやスーパーエンジニアプラスチックの様な高融点の場合、融点以上の温度200℃〜400℃で強化繊維と溶融混練し、繊維強化樹脂組成物を製造する。特に、熱可塑性マトリックス樹脂がポリプロピレン樹脂である場合、200〜300℃が好ましく、230〜260℃であることがより好ましい。長繊維形態の繊維状強化材を用いる場合、連続ロービングを引きながら、マトリックス樹脂を含浸する引抜成形法が好ましい。
【0058】
繊維強化樹脂組成物中の繊維状強化材の含有量についても特に限定はなく、繊維状強化材の種類、形態、熱可塑性マトリックス樹脂の種類などにより適宜選択すればよいが、得られる繊維強化樹脂組成物に対して、2〜70質量%が好ましく、10〜50質量%がより好ましい。
【0059】
また、本発明の効果を損なわない限り、本発明の繊維強化樹脂組成物中には、用途に応じて適宜に着色材などの他の添加剤を含有してもよい。特に、本発明の繊維強化樹脂組成物は耐光性に優れており、長時間使用した時の退色を抑制できるため、より効果的に着色材を混合して使用できる。
【0060】
着色材としては、一般的に使用されている着色材であれば特に限定されず、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、スレン系、染料レーキ系、アントラキノン系、メチン系、キサンテン系、アジン系、ニグロシン系、オキサジン系、チアジン系、チアゾール系、キノリノン系、アミノケトン系、ニトロ系、ニトロソ系、フタロシアニン系、アクリジン系、インダミン系、インドフェノール系等の有機顔料、カーボンブラック、金属酸化物系、クロム酸モリブデン系、硫黄物・セレン化物系、フェロシアン化物系、金属粉末等の無機顔料等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
他の添加剤を使用する場合の配合量は特に限定されないが、好ましい配合量としては、繊維強化樹脂組成物全体の0.01〜10質量%であり、より好ましくは0.1〜5質量%程度である。添加剤の配合量が少ない場合、十分な効果が得られにくく、多すぎた場合、成形体の強度が低下するなどの問題が生じる可能性がある。
【0061】
上記の繊維強化樹脂組成物は、公知の成形法により成形でき、任意の形状の成形品を提供することができる。本発明の繊維強化樹脂組成物から得られる成形品は、機械特性に優れる。また、高温条件下にて使用した場合でも、その機械特性が損なわれにくい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各種の特性は以下の方法により測定又は評価した。
【0063】
1.酸変性ポリプロピレン樹脂の特性
(1)酸変性ポリプロピレン樹脂の組成、立体規則性
Varian社製、GEMINI2000/300核磁気共鳴装置(磁場強度7.05T)にて、組成は1HNMR、立体規則性13C NMR測定をおこない、決定した。前者はテトラクロロエタン(d)を、後者はオルトジクロロベンゼンを測定溶媒とし、120℃で測定した。
(2)酸変性ポリプロピレン樹脂のメルトフローレート(MFR)
JIS K7210:1999記載の方法に準じ、180℃、2160g荷重で測定した。
(3)酸変性ポリプロピレン樹脂の融点
パーキンエルマー社製DSC7を用いて昇温速度10℃/minの条件でDSC法にて測定した。
【0064】
2.繊維収束剤の特性
(1)酸変性ポリプロピレン樹脂粒子の数平均粒子径、重量平均粒子径
日機装社製、Nanotrac Wave−UZ152粒度分布測定装置を用いて、数平均粒子径(mn)、重量平均粒子径(mw)を測定した。なお、樹脂の屈折率は1.5とした。
【0065】
3.繊維状強化材の特性
(1)繊維収束剤の付着量測定
繊維収束剤で表面処理された繊維状強化材を約20g採取し質量(W1)を測定した。その後、繊維状強化材を50リットル/分の窒素気流中、温度450℃に設定したマッフル炉(ヤマト科学株式会社製、製品名:F0100)に15分間静置し、繊維収束剤を完全に熱分解させた。そして、常温に冷却した後、繊維束を秤量(W2)して、次式より繊維収束剤付与量を求めた。
繊維収束剤付与量(質量%)=(W1−W2)/W1×100 (i)
(2)接着性
複合材料界面特性評価装置HM410(東栄産業株式会社製)を使用し、マイクロドロップレット法により接着性を評価した。実施例及び比較例で得られた繊維収束剤で表面処理された繊維状強化材をサンプルとし、複合材料界面特性評価装置にセッティングする。装置上で溶融したポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製、製品名:ノバテックMA3)のドロップをサンプル上に形成させ、室温で十分に冷却し、測定用の試料を得た。再度測定試料を装置にセッティングし、ドロップを装置ブレードで挟み、サンプルを装置上で0.06mm/分の速度で走行させ、サンプルからドロップを引き抜く際の最大引き抜き荷重Fを測定した。
次式により界面剪断強度τを算出し、繊維状強化材とポリプロピレン樹脂との接着性を評価した。
界面剪断強度τ(単位:MPa)=F/πdl
(F:最大引き抜き荷重 d:炭素繊維フィラメント直径 l:ドロップの引き抜き方向の粒子径)
(3)収束性
実施例および比較例で得られた繊維状強化材のチョップドストランド50gと、ポリプロピレン樹脂ペレット(日本ポリプロ株式会社製、製品名:ノバテックMA3)100gを容積1Lのタンブラーに入れ、10分間混合した後、発生した毛羽を採取して重量を測定し、下記判定基準により評価を行った。
○;0.15g未満、△;0.15g以上1.5g未満、×;1.5g以上
【0066】
4.繊維強化樹脂組成物の特性
(1)曲げ強度
実施例および比較例で得られた繊維強化樹脂組成物のペレットを乾燥させた後、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、230℃で長さ130±1mm、幅25±0.2mmのテストピースを作製し、ASTM D−790(2004)に規定する試験方法に従い、3点曲げ試験冶具(圧子10mm、支点10mm)を用いて支持スパンを100mmに設定し、クロスヘッド速度5.3mm/分で曲げ強度を測定した。なお、本実施例においては、試験機としてインストロン万能試験機4201型(インストロン社製)を用いた。測定数はn=5とし、平均値を曲げ強度とした。
(2)高温機械特性
恒温槽で試験温度を120℃に保ち、高温環境下で(1)曲げ強度と同様にして3点曲げ試験を行い、高温時の曲げ強度を測定した。下記判定基準により、高温機械特性の評価を行った。
◎;45MPa以上
○;40MPa以上45MPa未満
△;35MPa以上40MPa未満
×;35MPa未満
(3)耐水性
テストピースをプレッシャークッカーで120℃、0.2MPa条件下で15時間吸水させた後、(1)曲げ強度と同様にして3点曲げ試験を行い、吸水後の曲げ強度を測定した。下記判定基準により、耐水性の評価を行った。
○;50MPa以上
△;40MPa以上50MPa未満
×;40MPa未満
【0067】
(製造例1:酸変性ポリプロピレン樹脂「P−1」の製造)
アイソタクチック構造のホモポリプロピレン樹脂(MFR=2g/10分−180℃・2160g)100質量部に、無水マレイン酸5.5質量部、ジ−t−ブチルパーオキシド1.0質量部を、170℃に設定した二軸押出機を用いて反応させて、酸変性ポリプロピレン樹脂を得た。
この樹脂をアセトンで数回洗浄後、減圧乾燥機で乾燥し、酸変性ポリプロピレン樹脂「P−1」を得た。
【0068】
(製造例2:酸変性ポリプロピレン樹脂「P−2」の製造)
製造例1において、無水マレイン酸の添加量を6.0質量部とし、ジ−t−ブチルパーオキシドの添加量を1.5質量部とした以外は同様に操作を行うことにより、酸変性ポリプロピレン樹脂「P−2」を得た。
【0069】
(製造例3:酸変性ポリプロピレン樹脂「P−3」の製造)
製造例1において、無水マレイン酸の添加量を6.0質量部とし、ジ−t−ブチルパーオキシドの添加量を1.8質量部とした以外は同様に操作を行うことにより、酸変性ポリプロピレン樹脂「P−3」を得た。
【0070】
(製造例4:酸変性ポリプロピレン樹脂「P−4」の製造)
製造例1において、無水マレイン酸の添加量を3.8質量部とし、ジ−t−ブチルパーオキシドの添加量を0.8質量部とした以外は同様に操作を行うことにより、酸変性ポリプロピレン樹脂「P−4」を得た。
【0071】
(製造例5:酸変性ポリプロピレン樹脂「P−5」の製造)
製造例1において、無水マレイン酸の添加量を2.8質量部とし、ジ−t−ブチルパーオキシドの添加量を0.5質量部とした以外は同様に操作を行うことにより、酸変性ポリプロピレン樹脂「P−5」を得た。
【0072】
(製造例6:酸変性ポリプロピレン樹脂「P−6」の製造)
製造例1において、アイソタクチック構造のホモポリプロピレン樹脂に変え、ランダムポリプロピレン(プロピレン/エチレン/ブテン=89/5/6(質量比)、MFR=10g/10分−180℃・2160g)を用いた以外は同様に操作を行うことにより、酸変性ポリプロピレン樹脂「P−6」を得た。
【0073】
(製造例7:酸変性ポリプロピレン樹脂「P−7」の製造)
製造例1において、アイソタクチック構造のホモポリプロピレン樹脂に変え、シンジオタクチック構造のホモポリプロピレン樹脂(MFR=5g/10分−180℃・2160g)を用いた以外は同様に操作を行うことにより、酸変性ポリプロピレン樹脂「P−7」を得た。
【0074】
(製造例8:酸変性ポリプロピレン樹脂「P−8」の製造)
製造例1において、アイソタクチック構造のホモポリプロピレン樹脂に変え、ランダムポリプロピレン(プロピレン/エチレン=96/4(質量比)、MFR=10g/10分−180℃・2160g)を用いた以外は同様に操作を行うことにより、酸変性ポリプロピレン樹脂「P−8」を得た。
【0075】
酸変性ポリプロピレン樹脂(P−1〜P−8)の特性を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
(調製例1)
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、75.0gの酸変性ポリプロピレン樹脂「P−1」、30.0gのイソプロパノール、170.0gのテトラヒドロフラン、15.0gのトリエチルアミンおよび210.0gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を150℃に保ってさらに60分間撹拌した後、ヒーターの電源を切り自然冷却した。
内温が80℃まで冷えたところで容器を開封して、60.0gのテトラヒドロフラン、10.0gのジメチルエタノールアミンおよび50.0gの蒸留水からなる原料を追加投入した。その後、容器を密閉し、ヒーターの電源を入れ、撹拌翼の回転速度を300rpmの状態で再度加熱(再昇温)した。系内温度を140℃に保ってさらに60分間撹拌した後、ヒーターの出力を、内温80℃になるように調整した。
内温が80℃まで冷えたところで、真空ポンプを使って系内を徐々に減圧して、イソプロパノール、テトラヒドロフランと水を除去した。テトラヒドロフラン、イソプロパノールと水を400g以上除去した後、ヒーターの電源を切り、系内温度が35℃になったところで、水を添加して水性分散体中の「P−1」の濃度が20質量%となるように調整し、180メッシュのステンレス製フィルターで加圧濾過して、均一な酸変性ポリプロピレン樹脂の水性分散体、即ち、繊維収束剤を得た。この繊維収束剤を「E−1」とした。なお加圧濾過の後、フィルター上に樹脂の未分散物は確認できなかった。
【0078】
(調製例2〜8)
酸変性ポリプロピレン樹脂としてP−2〜P−8をそれぞれ用いた以外は、調製例1と同様の方法で繊維収束剤E−2〜4、6〜8を得た。なお、P−5では、安定した繊維収束剤を得ることができなかった。
【0079】
(調製例9)
調製例4において、トリエチルアミンに変え、ジメチルエタノールアミンを用いた以外は、同様の方法で繊維収束剤E−9を得た。
【0080】
(調製例10)
25.0gの不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン樹脂「P−1」をトルエン100gに加え、撹拌しながら加温して均一に溶解させた。一方、別の容器にポリオキシアルキル系界面活性剤2.0gを水100gに加えて溶解させた。前記不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン樹脂のトルエン溶液と界面活性剤の水溶液を撹拌した。さらに、DMEAを加えて、pHを調整した後、ロータリーエバポレーターでトルエンを留去させて、繊維収束剤E−10を得た。
【0081】
調製例1〜10で得られた繊維収束剤E−1〜4、6〜10の特性を表2に示す。
【0082】
【表2】
【0083】
実施例1
ローラーを介して繊維収束剤に浸漬する方法により、未処理の炭素繊維ストランド(東邦テナックス社製 「ベスファイトSTS−24KN00」、直径7μm×24000フィラメント、繊度1.6g/m、引張強度4000MPa(408kgf/mm)、引張弾性率238GPa(24.3ton/mm))に、水で希釈した繊維収束剤E−1を含浸させて、150℃で30秒間乾燥を行って、繊維収束剤で表面処理した繊維状強化材を得た。得られた繊維状強化材を、ロービングカッターで6mmの長さに切断して繊維状強化材のチョップドストランドを作製した。日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)を使用し、ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製、製品名:ノバテックMA3)80質量部と、繊維状強化材のチョップドストランド20質量部をドライブレンドしたものを押出機のホッパーに供給し、設定温度240℃で溶融混練してストランド状に押出し、水中で冷却後切断して、ペレット状の繊維強化樹脂組成物を得た。前記繊維強化樹脂組成物のペレットを乾燥させた後、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度230℃で射出成形を行った。金型は長さ130±1mm、幅25±0.2mmのテストピースを作製できるものを用い、得られたテストピースで曲げ強度、高温機械特性(高温時曲げ強度)、耐水性(吸水後曲げ強度)の試験をそれぞれ行った。
【0084】
実施例2
実施例1において、繊維収束剤E−1に変えて繊維収束剤E−2を用いた以外は同様の操作を行い、繊維状強化材および繊維強化樹脂組成物を得た。
【0085】
実施例3
実施例1において、繊維収束剤E−1に変えて繊維収束剤E−3を用いた以外は同様の操作を行い、繊維状強化材および繊維強化樹脂組成物を得た。
【0086】
実施例4
実施例1において、繊維収束剤E−1に変えて繊維収束剤E−4を用いた以外は同様の操作を行い、繊維状強化材および繊維強化樹脂組成物を得た。
【0087】
実施例5
実施例1において、繊維収束剤E−1に変えて繊維収束剤E−9を用いた以外は同様の操作を行い、繊維状強化材および繊維強化樹脂組成物を得た。
【0088】
比較例1
実施例1において、繊維収束剤E−1に変えて繊維収束剤E−6を用いた以外は同様の操作を行い、繊維状強化材および繊維強化樹脂組成物を得た。
【0089】
比較例2
実施例1において、繊維収束剤E−1に変えて繊維収束剤E−7を用いた以外は同様の操作を行い、繊維状強化材および繊維強化樹脂組成物を得た。
【0090】
比較例3
実施例1において、繊維収束剤E−1に変えて繊維収束剤E−8を用いた以外は同様の操作を行い、繊維状強化材および繊維強化樹脂組成物を得た。
【0091】
比較例4
実施例1において、繊維収束剤E−1に変えて繊維収束剤E−10を用いた以外は同様の操作を行い、繊維状強化材および繊維強化樹脂組成物を得た。
【0092】
実施例1〜5、比較例1〜4で得られた繊維状強化材、繊維強化樹脂組成物の特性を表3に示す。
【0093】
【表3】
【0094】
実施例1〜5で得られた本発明で規定する繊維収束剤で表面処理された繊維状強化材は優れた収束性を示し、熱可塑性マトリックス樹脂との接着性に優れるものであった。この繊維状強化材によって補強された繊維強化樹脂組成物は、高い曲げ強度を示し、高温機械特性(高温時の曲げ強度)や、耐水性(吸水後の曲げ強度)に優れていた。
一方、不飽和カルボン酸成分の含有量が本発明の規定化から外れる酸変性ポリプロピレン樹脂を用いた場合、調製例5に示すように水性分散化することが困難であり、繊維収束剤を得ることができなかった。比較例1および3は、繊維収束剤を構成する酸変性ポリプロピレン樹脂がアイソタクチック構造からなるホモポリプロピレンではなかった。比較例1では酸変性ポリプロピレン樹脂の融点が低く、得られた繊維強化樹脂組成物は高温機械特性に劣るものであった。比較例3は繊維状強化材の収束性に劣り、繊維状強化材とポリプロピレン樹脂との接着性に劣るものであった。比較例2は、シンジオタクチック構造を有する酸変性ポリプロピレン樹脂を用いたものであり、本発明で規定したアイソタクチック構造ではないため、酸変性ポリプロピレン樹脂の融点が低く、得られた繊維強化樹脂組成物は高温機械特性に劣るものであった。比較例4は繊維収束剤に界面活性剤を含有しているため、繊維状強化材の収束性に劣り、繊維状強化材とポリプロピレン樹脂との接着性に劣るものであり、得られた繊維強化樹脂組成物は耐水性にも劣っていた。