【実施例】
【0022】
圧電振動子の材料としては、圧電特性を有する水晶、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、サファイアなどが知られているが、本実施例では、圧電振動子として代表的な水晶を用いた音叉型屈曲振動子として説明する。なお、水晶の屈曲振動子に限らず、圧電材料の種類や電極の極性を都度変更すれば、別の形態にも適用できる。また、シリコンなどの弾性材料を基板として、この弾性材料上に圧電膜を形成して駆動するタイプの圧電振動子に対しても本発明を適用できる。
【0023】
図1は、本発明の実施例である圧電振動子の構成を示す図であり、
図1(a)は圧電振動子の主面側の正面図であり、
図1(b)は
図1(a)のC方向から見た側面図である。
【0024】
圧電振動子6は、基台7と、基台7から延出する互いに平行な一対の振動脚8を備え、振動脚8の主面上及び側面上には励振電極9が形成されている。ここで振動脚8と基台7との接する部分を根元10とし、励振電極9の基台7側の端部を励振電極端部13とする。また、圧電振動子6は、基台7上に形成した端子電極や、端子電極と励振電極9とを接続する引き回し配線や、周波数調整膜が形成されているが、説明を簡単にするために図示を省略している。
【0025】
この圧電振動子6は、水晶の結晶軸に対して所定の角度を与えて切り出された板材から、フォトエッチングや機械加工によって形状が加工されている。圧電振動子6の形状加工方法については公知の技術を用いて形成することができるため、説明を省略する。
【0026】
励振電極9は、振動脚8の根元10と所定距離だけ離間した位置から配置されており、金属等の導電性薄膜で形成されている。導電性薄膜の形成方法は、スパッタや蒸着などの既知の方法を用いることができ詳細な説明は省略する。
上述の振動脚8の根元10と所定距離だけ離間した位置、すなわち振動脚8中の励振電
極端部13が形成される位置は、振動脚8の基台7からの延出方向における全長をL、振動脚8の根元10から励振電極端部13までの距離をMとすると、M/Lが0.3以上、0.5以下の範囲にある。言い換えると、この根元10からM/Lが0.3以上、0.5以下となる範囲には励振電極9が形成されていない。
なお、上述した励振電極9に電圧を印加するための引き回し配線は、必要に応じてこの励振電極9が形成されていない範囲に存在してもよい。引き回し配線が形成された場合は、一例として励振電極が距離Mの部分で細くなった形などになる。
各励振電極9に電圧を印加することによって励振する原理については、従来例の
図7の断面図に示したのと同様であるため、省略する。
【0027】
こうして製造された圧電振動子は、パッケージにマウント、封止され、圧電デバイスとして、発振回路に接続されて使用される。
【0028】
次に、上述した振動脚8上に形成される励振電極端部13の位置M/Lが、0.3以上0.5以下である根拠を
図2〜5を用いて説明する。
【0029】
図2〜5は、距離Mの寸法を変更したときの、エージング性能とCI値との関係を示す図であり、
図2は全長Lに対する距離Mの比(M/L)に対するCI値、
図3はM/Lに対するエージング比率のグラフである。
図4は、所定のM/LにおけるCI値を横軸に、エージング比率を縦軸にしてプロットしたグラフであり、
図5は、
図4の勾配をM/Lに対してとったグラフである。ここで、エージング比率とは、M=0、すなわち従来例の
図6の形状のときのエージング変化を100%としたときのエージング変化の率で表しており、値が少ないほど経時変化が少ない、良好な振動子であると言える。
【0030】
図2に示すように、M/Lが大きくなるにつれてCI値は指数関数的に上昇する。これは距離Mが大きいほど励振電極9の面積が小さくなり、励振の効率が悪くなるためである。
図2よりM/Lが0.5を超えるとCI値が急上昇していることがわかる。CI値が上昇してしまうと励振効率が悪くなり発振するための消費電力が増加するため使用に適さない。また、CI値が急上昇するということは、多少の寸法誤差が発生した場合にCI値の製造バラツキが大きくなることを示しており、M/Lが0.5を超えた範囲では製造に適さない。
【0031】
次に、
図3に示すように、エージング比率はM/Lが大きくなるにつれて小さくなり、エージング特性が良くなることを示す。これは、距離Mが大きいほど励振電極9の面積が小さくなる結果、振動脚8と励振電極9間に発生する膜応力の変化が少なくなるためである。つまり、CI値とエージング比率はトレードオフの関係にあるといえる。
【0032】
図4は、各々のM/LでのCI値に対するエージング比率のグラフである。グラフ上の点DはM/L=0.2、点EはM/L=0.3、点FはM/L=0.4、点GはM/L=0.5、点HはM/L0.6のときの値である。
図4に示すとおり、あるところまではエージング特性の改善が見られる割にはCI値の上昇(悪化)を示さないことが分かる。あまりCI値の上昇を示さずエージングを改善出来る領域では、なるべく距離Mを大きくしてエージング特性の改善をするべきである。
【0033】
図4のグラフの近似曲線を求め、その勾配を対応するM/Lに対してプロットしたのが
図5である。
図5に示すように、M/Lが0.3付近で勾配の絶対値が小さく収束している。よって、M/Lが0.3以上の領域では、CI値の兼ね合いを考えても、エージングが良い領域である。また、M/Lが0.3未満の範囲では、多少の寸法誤差が発生した場合にエージング比率の製造バラツキが大きくなることを示しており、M/Lが0.3未満
の範囲では信頼性に欠けるため適さない。現状の20%以下にエージングを改善でき、高精度を目的とするデバイス用途に対しても十分な性能である。
【0034】
ここで、本実施例の圧電振動子を発振デバイスに応用することを考える。一例として、時計に代表される携帯機器の発振回路では、通常要求される電池サイズと電池寿命を考えると、消費電流が100nA以下であることが要求される。この場合、通常は振動子に要求されるCI値は100kΩ程度である。また、例えばCMOSトランジスタのプロセスを変更し、発振のしきい値電圧を下げることなどによって発振回路の消費電力を下げることができるが、その場合においてもCI値の許容値は750kΩ程度以下である。
【0035】
このように、時計などの高い周波数精度を要求される発振デバイスに使用するためには、振動脚8上に形成される励振電極9の基台7側の端部である励振電極端部13の位置を、M/Lが0.3以上、0.5以下の範囲となるように形成する必要がある。
このようにして作製された圧電振動子は、高いエージング精度を得られるとともに、CI値が上昇を抑制した振動子として利用できる。