特許第6626661号(P6626661)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6626661
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】圧電振動子
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/19 20060101AFI20191216BHJP
   H03H 9/215 20060101ALI20191216BHJP
【FI】
   H03H9/19 L
   H03H9/215
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-166781(P2015-166781)
(22)【出願日】2015年8月26日
(65)【公開番号】特開2017-46157(P2017-46157A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126583
【弁理士】
【氏名又は名称】宮島 明
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晶子
【審査官】 竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−052922(JP,A)
【文献】 特開2012−015886(JP,A)
【文献】 特開2011−254351(JP,A)
【文献】 特開2004−297343(JP,A)
【文献】 特開2005−020544(JP,A)
【文献】 特開2009−55092(JP,A)
【文献】 特開2013−005194(JP,A)
【文献】 特開2013−231635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/00−9/76
H03H 3/00−3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、前記基台から延出する振動脚と、前記振動脚に形成された励振電極と、前記基台に形成された端子電極と、前記端子電極と前記励振電極とを接続する引き回し配線と、を備え、屈曲振動する圧電振動子であって、
前記引き回し配線は、少なくとも前記振動脚に形成された部分において、前記励振電極より細く、
前記励振電極は、前記振動脚の主面と側面の両方に形成されており、
前記振動脚の延出方向における全長をL、前記振動脚の根元から前記励振電極の前記基台側の端部までの距離をMとするとき、M/Lは0.3以上、0.5以下であり、
前記振動脚の前記側面に形成された前記励振電極と接続する前記引き回し配線は、前記振動脚の前記側面の領域であって、前記振動脚の前記側面に形成された前記励振電極と前記基台との間の前記領域に形成されたことを特徴とする圧電振動子。
【請求項2】
前記M/Lは0.4以上、0.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の圧電振動子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動子の励振電極の構造に関し、特に高い周波数精度が要求される音叉型圧電振動子のエージング性能改善を目的としたものである。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子に代表される圧電振動子は、その周波数精度が良好なことから、時計など高い周波数精度を要求される電子機器の周波数基準として広く用いられている。その中でも特に高い周波数精度を要求される機器に使用される場合は、発振周波数の経時変化(以下、エージングと呼ぶ)の影響が問題となり、改善が望まれている。
【0003】
以降、圧電振動子としては一般的な、音叉型の水晶振動子を例にとり説明していく。まず、従来型の音叉型水晶振動子を、図6〜8を用いて説明する。
【0004】
図6は、従来の音叉型水晶振動子である圧電振動子の構成を示す図であり、図6(a)は圧電振動子の主面側の正面図であり、図6(b)は図6(a)のB方向から見た側面図である。この圧電振動子1は、基台2と、基台2から延出する複数の振動脚3を備え、振動脚3の主面上及び側面上には金属薄膜などの励振電極4が形成されている。ここで振動脚3と基台2との接する部分を根元5とする。また、圧電振動子1は、基台2上に形成した端子電極や、端子電極と励振電極4とを接続する引き回し配線や、周波数調整膜が形成されているが、説明を簡単にするために図示を省略している。音叉形状は、水晶ウェハからフォトエッチングや機械加工などの手法によって切りだされて成型される。
【0005】
図7は振動脚3の励振を説明するための図であり、図6(a)のA−A断面図である。ここで振動脚3の幅方向をX、延出方向をY、振動脚3(基台2)の厚み方向をZとして説明をする。図7に示すように、励振電極4は主面と側面とで互いに異極となるように形成され、この異極間に電界がかかる。図7においては、この電界を矢印11で示し、矢印の方向は高電圧から低電圧方向への電界を表す。上述の電界におけるX軸成分(矢印12として示す)は、図7の左側の振動脚3では、振動脚3の断面中央から両側面方向へ、図7の右側の振動脚3では両側面側から断面中央方向にかかる。水晶にX軸方向の電界がかかると圧電効果により水晶が歪み、これが圧電振動子1の振動の駆動力となる。
【0006】
図8に圧電振動子1の屈曲振動の様子を示す。根元5付近の歪みが最も大きく、振動脚3の先端に行くにしたがって小さくなる。この圧電振動子1を基台2の端側でパッケージにマウント、封止し、発振回路につなぐと、共振周波数近傍の周波数で発振し、これが機器の基準信号として利用される。
【0007】
通常、励振電極4は根元5付近から一様に形成されている。これは、共振時、根元5付近の歪が最も大きく、ここに励振電極4が存在すると電気−機械変換効率よく発振させられるためである。すなわち、共振抵抗であるCI値(クリスタルインピーダンス)が低いためである。
【0008】
根元5まで励振電極4が形成されている通常の圧電振動子1は、CI値が低いという利点があり一般的な構成だが、エージング性能に関しては不利な状況にあるといえる。
【0009】
振動子の発振周波数を決めるのは、主に圧電振動子1の共振周波数である。エージング変化の原因として考えられるのが、水晶上に貼られた励振電極膜の膜応力が経時的に変化することである。振動子を駆動するために水晶上にスパッタなどによって励振電極膜を形
成するが、この励振電極膜の成膜時や熱工程で生じた水晶と励振電極膜との界面に生じた膜応力が、時間が経つにつれて開放されていく。膜応力も共振周波数に影響する要素であり、膜応力が開放されれば共振周波数が変化することになる。共振周波数が変化すれば、振動子の発振周波数も変化する。こうしてエージング変化が生じる。なお、励振用か否かにかかわらず、水晶上に貼られた膜は、同様にエージング変化の原因となる。歪の多い根元5付近の膜応力の変化は特に共振周波数に影響を与えやすい。
【0010】
このような通常の励振電極構造を変更して性能を改善する方法として、たとえば特許文献1や特許文献2の水晶振動子が知られている。
【0011】
特許文献1では、水晶振動子の最大歪み部分を除いて励振電極を配置し、エージング性能及びQ値を改善したと報告されている。励振電極膜が元々形成されていなければ、発振周波数に影響を与える膜応力の変化も存在しないことになる。
【0012】
特許文献2で提案されているのは水晶の母材の上に励振電極及び別途圧電膜を形成し、水晶の圧電性ではなく上に設けた圧電膜の圧電性を利用して面外振動を駆動する振動子で、通常の水晶振動子とは構成が異なるのだが、圧電膜の長さを短くしたことにより振動の安定化を図ったとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭56−52922号公報(第2頁、第5図)
【特許文献2】特開2012−15886号公報(第5頁、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら特許文献1に記載の技術は、最大歪み部分の電極膜を除いているので根元まで励振電極が形成されているものに比べてエージング変化は少ないものの、電極膜を除く具体的な寸法については、基台を含めての寸法のみが述べられており、振動脚中で電極が除かれた寸法については言及されていなかった。特許文献1の図5に図示(ここでは図示しない)されているように最大歪み部分を除いたのみでは、時計など高い精度が要求されるデバイスに必要な高いエージング性能は得られなかった。
【0015】
また、特許文献2では、駆動に使用する圧電膜を形成しない部分の下限寸法については規定されているが、上限寸法については規定されていなかった。この場合は、駆動部位が非常に小さくなる。しかしながら、駆動部位が小さくなりすぎると、共振抵抗であるCI値が高くなり、発振回路の消費電力が大きくなるという問題がでる。さらに、高い周波数精度を要求される用途に振動子を使用する場合は、通常は水晶などの高安定な結晶性材料に電極の薄膜を形成する。圧電材料の中でも電気機械結合定数が小さい水晶などの材料において特許文献2で推奨されている寸法を利用すると、CI値、ならびに消費電力の上昇が特に顕著で実使用が困難である。
【0016】
本発明は、周波数のエージング特性が改善され、かつCI値の上昇を抑制した圧電振動子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の振動子は、上記目的を達成するために、以下の構成を採用する。
【0018】
基台と、前記基台から延出する振動脚と、前記振動脚に形成された励振電極と、前記基台に形成された端子電極と、前記端子電極と前記励振電極とを接続する引き回し配線と、を備え、屈曲振動する圧電振動子であって、前記引き回し配線は、少なくとも前記振動脚に形成された部分において、前記励振電極より細く、前記励振電極は、前記振動脚の主面と側面の両方に形成されており、前記振動脚の延出方向における全長をL、前記振動脚の根元から前記励振電極の前記基台側の端部までの距離をMとするとき、M/Lは0.3以上、0.5以下であり、前記振動脚の前記側面に形成された前記励振電極と接続する前記引き回し配線は、前記振動脚の前記側面の領域であって、前記振動脚の前記側面に形成された前記励振電極と前記基台との間の前記領域に形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
このように構成することによって、M/Lが0.3以上なので、高精度用途向けとしてもエージング性能が十分向上している。またM/Lが0.5以下なので、CI値が悪化して消費電力が増大し過ぎることがない。よって、高いエージング性能と良好な消費電力という性質を併せ持った高精度振動子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施例の音叉型圧電振動子の正面図及び側面図である。
図2】M/Lに対するCI値のグラフである。
図3】M/Lに対するエージング率のグラフである。
図4】M/Lを変更したときのCI値に対するエージング率のグラフである。
図5図4の勾配をM/Lに対してプロットしたグラフである。
図6】従来の音叉型圧電振動子の正面図及び側面図である。
図7図6における圧電振動子のA−A断面図である。
図8】従来の音叉型圧電振動子の屈曲振動を表す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、圧電振動子における周波数のエージング特性を改善するとともに、CI値の上昇を抑制することができる範囲に励振電極膜を形成することを特徴とする。以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【実施例】
【0022】
圧電振動子の材料としては、圧電特性を有する水晶、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、サファイアなどが知られているが、本実施例では、圧電振動子として代表的な水晶を用いた音叉型屈曲振動子として説明する。なお、水晶の屈曲振動子に限らず、圧電材料の種類や電極の極性を都度変更すれば、別の形態にも適用できる。また、シリコンなどの弾性材料を基板として、この弾性材料上に圧電膜を形成して駆動するタイプの圧電振動子に対しても本発明を適用できる。
【0023】
図1は、本発明の実施例である圧電振動子の構成を示す図であり、図1(a)は圧電振動子の主面側の正面図であり、図1(b)は図1(a)のC方向から見た側面図である。
【0024】
圧電振動子6は、基台7と、基台7から延出する互いに平行な一対の振動脚8を備え、振動脚8の主面上及び側面上には励振電極9が形成されている。ここで振動脚8と基台7との接する部分を根元10とし、励振電極9の基台7側の端部を励振電極端部13とする。また、圧電振動子6は、基台7上に形成した端子電極や、端子電極と励振電極9とを接続する引き回し配線や、周波数調整膜が形成されているが、説明を簡単にするために図示を省略している。
【0025】
この圧電振動子6は、水晶の結晶軸に対して所定の角度を与えて切り出された板材から、フォトエッチングや機械加工によって形状が加工されている。圧電振動子6の形状加工方法については公知の技術を用いて形成することができるため、説明を省略する。
【0026】
励振電極9は、振動脚8の根元10と所定距離だけ離間した位置から配置されており、金属等の導電性薄膜で形成されている。導電性薄膜の形成方法は、スパッタや蒸着などの既知の方法を用いることができ詳細な説明は省略する。
上述の振動脚8の根元10と所定距離だけ離間した位置、すなわち振動脚8中の励振電
極端部13が形成される位置は、振動脚8の基台7からの延出方向における全長をL、振動脚8の根元10から励振電極端部13までの距離をMとすると、M/Lが0.3以上、0.5以下の範囲にある。言い換えると、この根元10からM/Lが0.3以上、0.5以下となる範囲には励振電極9が形成されていない。
なお、上述した励振電極9に電圧を印加するための引き回し配線は、必要に応じてこの励振電極9が形成されていない範囲に存在してもよい。引き回し配線が形成された場合は、一例として励振電極が距離Mの部分で細くなった形などになる。
各励振電極9に電圧を印加することによって励振する原理については、従来例の図7の断面図に示したのと同様であるため、省略する。
【0027】
こうして製造された圧電振動子は、パッケージにマウント、封止され、圧電デバイスとして、発振回路に接続されて使用される。
【0028】
次に、上述した振動脚8上に形成される励振電極端部13の位置M/Lが、0.3以上0.5以下である根拠を図2〜5を用いて説明する。
【0029】
図2〜5は、距離Mの寸法を変更したときの、エージング性能とCI値との関係を示す図であり、図2は全長Lに対する距離Mの比(M/L)に対するCI値、図3はM/Lに対するエージング比率のグラフである。図4は、所定のM/LにおけるCI値を横軸に、エージング比率を縦軸にしてプロットしたグラフであり、図5は、図4の勾配をM/Lに対してとったグラフである。ここで、エージング比率とは、M=0、すなわち従来例の図6の形状のときのエージング変化を100%としたときのエージング変化の率で表しており、値が少ないほど経時変化が少ない、良好な振動子であると言える。
【0030】
図2に示すように、M/Lが大きくなるにつれてCI値は指数関数的に上昇する。これは距離Mが大きいほど励振電極9の面積が小さくなり、励振の効率が悪くなるためである。
図2よりM/Lが0.5を超えるとCI値が急上昇していることがわかる。CI値が上昇してしまうと励振効率が悪くなり発振するための消費電力が増加するため使用に適さない。また、CI値が急上昇するということは、多少の寸法誤差が発生した場合にCI値の製造バラツキが大きくなることを示しており、M/Lが0.5を超えた範囲では製造に適さない。
【0031】
次に、図3に示すように、エージング比率はM/Lが大きくなるにつれて小さくなり、エージング特性が良くなることを示す。これは、距離Mが大きいほど励振電極9の面積が小さくなる結果、振動脚8と励振電極9間に発生する膜応力の変化が少なくなるためである。つまり、CI値とエージング比率はトレードオフの関係にあるといえる。
【0032】
図4は、各々のM/LでのCI値に対するエージング比率のグラフである。グラフ上の点DはM/L=0.2、点EはM/L=0.3、点FはM/L=0.4、点GはM/L=0.5、点HはM/L0.6のときの値である。図4に示すとおり、あるところまではエージング特性の改善が見られる割にはCI値の上昇(悪化)を示さないことが分かる。あまりCI値の上昇を示さずエージングを改善出来る領域では、なるべく距離Mを大きくしてエージング特性の改善をするべきである。
【0033】
図4のグラフの近似曲線を求め、その勾配を対応するM/Lに対してプロットしたのが図5である。図5に示すように、M/Lが0.3付近で勾配の絶対値が小さく収束している。よって、M/Lが0.3以上の領域では、CI値の兼ね合いを考えても、エージングが良い領域である。また、M/Lが0.3未満の範囲では、多少の寸法誤差が発生した場合にエージング比率の製造バラツキが大きくなることを示しており、M/Lが0.3未満
の範囲では信頼性に欠けるため適さない。現状の20%以下にエージングを改善でき、高精度を目的とするデバイス用途に対しても十分な性能である。
【0034】
ここで、本実施例の圧電振動子を発振デバイスに応用することを考える。一例として、時計に代表される携帯機器の発振回路では、通常要求される電池サイズと電池寿命を考えると、消費電流が100nA以下であることが要求される。この場合、通常は振動子に要求されるCI値は100kΩ程度である。また、例えばCMOSトランジスタのプロセスを変更し、発振のしきい値電圧を下げることなどによって発振回路の消費電力を下げることができるが、その場合においてもCI値の許容値は750kΩ程度以下である。
【0035】
このように、時計などの高い周波数精度を要求される発振デバイスに使用するためには、振動脚8上に形成される励振電極9の基台7側の端部である励振電極端部13の位置を、M/Lが0.3以上、0.5以下の範囲となるように形成する必要がある。
このようにして作製された圧電振動子は、高いエージング精度を得られるとともに、CI値が上昇を抑制した振動子として利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の圧電振動子は、エージング性能を十分に改善されながらも、CI値が上昇し過ぎることがない。そのため、時計などの周波数特性に高い精度を求められる用途などに対して、実用上十分なエージング性能と低消費電力を示す圧電振動子である。
【符号の説明】
【0037】
1、6 圧電振動子
2、7 基台
3、8 振動脚
4、9 励振電極
5、10 根元
11 電界
12 X方向電界
13 励振電極端部
M 根元から励振電極端部までの距離
L 振動脚の全長
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8