(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高分子アクチュエータとなる積層構造体を一方向に連結して個々の積層構造体を湾曲させるような変位を発生させる場合、複数の積層構造体の連結による負荷によって個々の積層構造体の変位が抑制され、十分な変位量を得られないという問題が生じる。
【0006】
本発明は、複数の積層構造体を備えた高分子素子において、それぞれの積層構造体について十分な変位量を得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の高分子素子は、第1フィルムと、第2フィルムと、第1フィルムと第2フィルムとの間に設けられ互いに離間して配置される複数の積層構造体と、を備え、積層構造体は、第1フィルムに形成された第1集電層と、第2フィルムに形成された第2集電層と、第1集電層と第2集電層との間に設けられた電解質層と、第1集電層と電解質層との間に設けられ、第1集電層と電解質層とのそれぞれと導通する第1電極層と、第2集電層と電解質層との間に設けられ、第2集電層と電解質層とのそれぞれと導通する第2電極層と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、第1フィルムと第2フィルムとの間で複数の積層構造体を保持することができるとともに、隣り合う積層構造体が離間しているため、個々の積層構造体が互いの動作に与える負荷を軽減することができる。
【0009】
本発明の高分子素子において、第1フィルムおよび第2フィルムの少なくとも一方にはスリットが設けられていてもよい。このようなスリットが設けられていることで、第1フィルムや第2フィルムの剛性が低下して、この剛性による積層構造体への負荷が軽減する。
【0010】
本発明の高分子素子において、第1フィルムおよび第2フィルムの少なくとも一方には、第1電位用配線パターンと、第2電位用配線パターンとが設けられ、複数の積層構造体のそれぞれは、第1電位用配線パターンおよび第2電位用配線パターンと導通していてもよい。これにより、複数の積層構造体のそれぞれに、第1電位用配線パターンおよび第2変位用配線パターンから電位を与えたり、複数の積層構造体のそれぞれから第1電位用配線パターンおよび第2電位用配線パターンに電位を与えたりすることができる。
【0011】
本発明の高分子素子において、第1電位用配線パターンには第1電位が与えられ、第2電位用配線パターンには第2電位が与えられ、複数の積層構造体のそれぞれには、第1電位用配線パターンおよび第2電位用配線パターンから第1電位と第2電位との電位差が与えられるようにしてもよい。これにより、複数の積層構造体のそれぞれに与えられた電位差に応じて各積層構造体を変位させることができる。
【0012】
本発明の高分子素子において、複数の積層構造体のうちの1つである第1積層構造体と、複数の積層構造体のうちの他の1つであって第1積層構造体と隣り合う第2積層構造体とを有し、第1積層構造体の第1集電層に与えられる電位の前記第2集電層に与えられる電位に対する差である第1電位差と、第2積層構造体の第1集電層に与えられる電位の前記第2集電層に与えられる電位に対する差である第2電位差とは、互いに極性が異なるようになっていてもよい。これにより、隣り合う積層構造体は互いに反対方向に変位するようになる。
【0013】
本発明の高分子素子において、複数の積層構造体のうちの1つである第1積層構造体と、複数の積層構造体のうちの他の1つであって第1積層構造体と隣り合う第2積層構造体とを有し、第1積層構造体の第1集電層に与えられる電位の第2集電層に与えられる電位に対する差である第1電位差と、第2積層構造体の第1集電層に与えられる電位の第2集電層に与えられる電位に対する差である第2電位差とは、互いに極性が等しくなるようになっていてもよい。これにより、隣り合う積層構造体は互いに同じ方向に変位するようになる。
【0014】
本発明の高分子素子において、第1集電層には第1給電部が設けられ、第2集電層には第2給電部が設けられ、第1給電部および第2給電部から積層構造体に電位が与えられた場合の積層構造体の変位量は、第1給電部および第2給電部から離れるほど少なくなるよう設けられていてもよい。これにより、第1給電部および第2給電部からの距離に応じた変位量を設定することができる。
【0015】
本発明の高分子素子において、第1電位用配線パターンには複数の積層構造体のそれぞれから第1電位が与えられ、第2電位用配線パターンには複数の積層構造体のそれぞれから第2電位が与えられるようにしてもよい。これにより、複数の積層構造体のそれぞれの変位に応じて発生した電位を第1電位用配線パターンおよび第2変位用配線パターンに与えることができる。
【0016】
本発明の高分子素子において、複数の積層構造体は一方向に配列されていてもよい。これにより、一方向に配列された複数の積層構造体がそれぞれ独立して変位することになる。
【0017】
本発明の高分子素子において、第1フィルムと接続され、第1フィルムと第1集電層との間に設けられた第1支持部と、第2フィルムに接続され、第2フィルムと第2集電層との間に設けられた第2支持部と、をさらに備え、第1支持部と第2支持部との間で積層構造体の一部を挟持してもよい。これにより、第1支持部と第2支持部とで挟持された部分を支点として積層構造体が変位することになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、複数の積層構造体を備えた高分子素子において、それぞれの積層構造体について十分な変位量を得ることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、同一の部材には同一の符号を付し、一度説明した部材については適宜その説明を省略する。
【0021】
(高分子素子の構造)
図1(a)〜(c)は、本実施形態に係る高分子素子の構造を例示する模式図である。
図1(a)には高分子素子1の平面図が示され、
図1(b)には
図1(a)のA−A線断面図が示され、
図1(c)には
図1(a)のB−B線断面図が示される。
【0022】
本実施形態に係る高分子素子1は、第1フィルム10と、第2フィルム20と、複数の積層構造体50とを備える。複数の積層構造体50は、第1フィルム10と第2フィルム20との間に設けられ、互いに離間して配置される。
図1に示す例では、複数の積層構造体50は一方向に一列で配置される。説明の都合上、
図1(a)および(b)には3つの積層構造体50が示されるが、さらに多くの積層構造体50が並んでいてもよい。
【0023】
第1フィルム10および第2フィルム20には、例えばPET(Polyethylene Terephthalate)、PVDC(Polyvinylidene Chloride)、PVDF(PolyVinylidene DiFluoride)、シリコーン、ポリイミドが用いられる。本実施形態では、一例として、厚さ12μm程度のPVDCや、厚さ15μm程度のPVDFが用いられる。
【0024】
図1(b)に示すように、複数の積層構造体50のそれぞれは同じ構成を有する。説明の便宜上、1つ目の積層構造体50を第1積層構造体50−1、2つ目の積層構造体50を第2積層構造体50−2、3つ目の積層構造体50を第3積層構造体50−3と称し、これらを区別しない場合には積層構造体50と称するものとする。
【0025】
積層構造体50は、電解質層51、第1電極層52、第2電極層53、第1集電層54および第2集電層55を有する。第1集電層54は第1フィルム10の一方面に形成される。第2集電層55は第2フィルム20の一方面に形成される。第1集電層54および第2集電層55には、第1電極層52および第2電極層53よりも比抵抗の低い材料が用いられる。
【0026】
例えば、第1集電層54および第2集電層55には金属、導電性高分子樹脂、導電性インクが用いられる。第1集電層54および第2集電層55として金属を用いる場合、例えばスパッタや蒸着によって第1フィルム10および第2フィルム20の上に成膜される。金属の第1集電層54および第2集電層55としては、多層膜であってもよい。多層膜としては、例えば、第1電極層52および第2電極層53に近位な位置から順に、第1金属膜(Ti)/第2金属膜(Au)の積層膜が用いられる。第1金属膜(Ti)の厚さは、例えば10nm以上15nm以下、第2金属膜(Au)の厚さは、例えば100nm以上200nm以下である。
【0027】
第1集電層54および第2集電層55として導電性高分子樹脂を用いる場合、例えば蒸着によって第1フィルム10および第2フィルム20の上に成膜される。導電性インクの場合、例えば塗布によって第1フィルム10および第2フィルム20の上に成膜される。
【0028】
電解質層51は、第1集電層54と第2集電層55との間、すなわち積層構造体50の中央部分に配置される。電解質層51は、イオン液体および電解質用ベースポリマーを有する。この電解質層51の厚さは、例えば10μm以上30μm以下程度である。イオン液体の種類は限定されない。積層構造体50の動作安定性を高める観点などから、通常、第1電極層52および第2電極層53が備えるイオン液体と同種の材料からなる。
【0029】
また、イオン液体のCNT(カーボンナノチューブ)分散効果を利用している為、高分子素子のカチオンはイミダゾリウム系かピリジウム系(但し、ピリジウム系は電位窓が狭いので、ほとんどの場合イミダゾリウム系カチオンを使用)のEMI−TfO、BMI−TfOなどを使用する。
【0030】
電解質用ベースポリマーの材料は限定されない。電解質用ベースポリマーの材料の例として、ポリフッ化ビニリデン、フィブリル化されたポリテトラフルオロエチレン(Fb−PTFE)、フィブリル化されていないポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。ここで、フィブリル化とは、フィブリル構造さらにはミクロフィブリル構造を形成するための繊維化または紡糸化のことであって、例えば、固体の対象物を粉体とともに混練して剪断力を与えることによってフィブリル化し、さらにはミクロフィブリル化する。
【0031】
第1電極層52は、第1集電層54と電解質層51との間に設けられる。第1電極層52は、第1集電層54と電解質層51とのそれぞれと導通する。第2電極層53は、第2集電層55と電解質層51との間に設けられる。第2電極層53は、第2集電層55と電解質層51とのそれぞれと導通する。
【0032】
第1電極層52および第2電極層53には、例えば炭素含有フィルムが用いられる。炭素含有フィルムは、ベースポリマーとカーボン材料とイオン液体とを備える。炭素含有フィルムの厚さは限定されない。炭素含有フィルムの厚さは、例えば50μm以上250μm程度である。
【0033】
本発明の一実施形態に係る炭素含有フィルムは、Fb−PTFE以外の材料をベースポリマーの一部として含有していてもよい。かかる材料の例として、フィブリル化されていないポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどが例示される。
【0034】
本発明の一実施形態に係る炭素含有フィルムが備えるカーボン材料の種類は限定されない。カーボン材料として、活性炭、カーボンブラック、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブ、ナノ炭素材、などが例示される。
【0035】
第1電極層52と第1集電層54との間、および第2電極層53と第2集電層55との間の少なくとも一方には、導電性材料層56が設けられていてもよい。導電性材料層56としては、導電性を有し、第1集電層54および第2集電層55に比べて弾性率の低い材料(例えば、アクリル系の導電性粘着材)が用いられる。これにより、積層構造体50の変位に与える影響を少なくして、積層構造体50を保護することが可能である。
【0036】
第1フィルム10と第2フィルム20との間であって積層構造体50の周囲には、粘着剤層60が設けられる。粘着剤層60によって第1フィルム10と第2フィルム20とが貼り合わされる。粘着剤層60には、例えばアクリル系の粘着シートが用いられる。粘着剤層60を絶縁性とすれば、第1電極層52と第2電極層53との間の短絡を防ぐことができる。
【0037】
第1フィルム10には第1電位用配線パターン71aおよび第2電位用配線パターン72bが設けられる。第2フィルム20には第1電位用配線パターン71bおよび第2電位用配線パターン72aが設けられる。第1電位用配線パターン71aおよび第2電位用配線パターン72bは、第1フィルム10の縁部分に沿って延在する。
【0038】
図1(a)に示すように、第1電位用配線パターン71aは第1フィルム10の長手方向に沿った縁部の一方側に設けられ、第2電位用配線パターン72bは第1フィルム10の長手方向に縁部の他方側に設けられる。また、第1電位用配線パターン71bは第2フィルム20の長手方向に沿った縁部の一方側に設けられ、第2電位用配線パターン72aは第2フィルム20の長手方向に縁部の他方側に設けられる。
【0039】
積層構造体50を高分子アクチュエータとして機能させる場合、第1電位用配線パターン71aおよび71bに第1電位が与えられ、第2電位用配線パターン72aおよび72bには第2電位が与えられる。積層構造体50は、第1電位と第2電位との電位差に応じて変位することになる。
【0040】
積層構造体50をセンサとして機能させる場合、積層構造体50の変位に応じて発生した第1電位が第1電位用配線パターン71aおよび71bに与えられ、第2電位が第2電位用配線パターン72aおよび72bに与えられる。第1電位と第2電位との電位差に応じて積層構造体50の変位量を検出することができる。
【0041】
第1フィルム10と第1集電層54との間には第1支持部81が設けられる。また、第2フィルム20と第2集電層55との間には第2支持部82が設けられる。第1支持部81は第1フィルム10に接続され、第2支持部82は第2フィルム20に接続される。この第1支持部81と第2支持部82との間で積層構造体50の一部を挟持する。
図1に示す例では、積層構造体50の積層方向からみて積層構造体50の中央部に棒状の第1支持部81および第2支持部82が設けられる。これにより、第1支持部81と第2支持部82とで挟持された部分を支点として積層構造体50が変位することになる。
【0042】
このような高分子素子1の構成によれば、第1フィルム10と第2フィルム20との間で複数の積層構造体50を保持することができるとともに、隣り合う積層構造体50が離間しているため、個々の積層構造体50が互いの動作に与える負荷を軽減することができる。
【0043】
第1フィルム10および第2フィルム20の少なくとも一方にはスリットSLが設けられていてもよい。
図1に示す例では、第1フィルム10および第2フィルム20のそれぞれにスリットSLが設けられる。スリットSLは、第1フィルム10および第2フィルム20の短手方向に延びるよう複数設けられる。スリットSLが設けられることで第1フィルム10および第2フィルム20の剛性が低下し、スリットSLが設けられていない場合に比べて積層構造体50の動作に与える負荷をさらに軽減することができる。
【0044】
1本のスリットSLは連続していても、断続的に設けられていてもよい。スリットSLの長さ、幅、配置によって第1フィルム10および第2フィルム20の剛性を設定することができる。例えば、スリットSLを長く、広く、密に配置するほど剛性を低くすることができる。したがって、積層構造体50の動作に応じてスリットSLの長さ、幅、配置を決定すればよい。
【0045】
また、第1フィルム10と第2フィルム20との間に粘着剤層60が無い領域(空間SP)を設けてもよい。この空間SPが広いほど高分子素子1の全体の剛性が低くなる。特に、隣り合う積層構造体50の間に空間SPを設けることで、一方の積層構造体50の動作が他方の積層構造体50に与える影響を軽減することができる。
【0046】
本実施形態に係る高分子素子1を製造するには、予め第1フィルム10に第1電極層52、第1集電層54および第1支持部81を形成しておき、第2フィルム20に第2電極層53、第2集電層55および第2支持部82を形成しておく。そして、この第1フィルム10と第2フィルム20との間に電解質層51を挟み、粘着剤層60を介してプレス圧着やプレス融着することで一体化する。
【0047】
このように第1フィルム10および第2フィルム20で挟むことで複数の積層構造体50が安定化する。また、予め第1フィルム10および第2フィルム20に積層構造体50の一部構成を形成しておくことで、第1フィルム10および第2フィルムで電解質層51を挟むだけで高分子素子1を製造することができ、作業工程の簡素化を図ることができる。
【0048】
(高分子素子の動作)
次に、高分子素子1を高分子アクチュエータとして機能させる場合の動作について説明する。複数の積層構造体50は、第1電位用配線パターン71a、71bから与えられる第1電位および第2電位用配線パターン72a、72bから与えられる第2電位によって、これらの電位差に応じた変位が発生する。
【0049】
図1に示す例では、隣り合う積層構造体50について、互いの第1集電層54に異なる電位が与えられる。すなわち、第1積層構造体50−1の第1集電層54は第1電位用配線パターン71aと導通し、第2積層構造体50−2の第1集電層54は第2電位用配線パターン72bと導通し、第3積層構造体50−3の第1集電層54は第1電位用配線パターン71aと導通する。これにより、第1積層構造体50−1および第3積層構造体50−3の第1集電層54には第1電位が与えられ、第2積層構造体50−2の第1集電層54には第2電位が与えられる。
【0050】
また、第1積層構造体50−1の第2集電層55は第2電位用配線パターン72aと導通し、第2積層構造体50−2の第2集電層55は第1電位用配線パターン71bと導通し、第3積層構造体50−3の第2集電層55は第2電位用配線パターン72aと導通する。これにより、第1積層構造体50−1および第3積層構造体50−3の第2集電層55には第2電位が与えられ、第2積層構造体50−2の第2集電層55には第1電位が与えられる。
【0051】
その結果、第1積層構造体50−1の第1集電層54に与えられる電位(第1電位)の第2集電層55に与えられる電位(第2電位)に対する差である第1電位差(第1電位−第2電位)と、第2積層構造体50−2の第1集電層54に与えられる電位(第2電位)の第2集電層55に与えられる電位(第1電位)に対する差である第2電位差(第2電位−第1電位)とは、極性が異なるようになる。第2積層構造体50−2と第3積層構造体50−3との間でも同様に、生じた電位差の極性が互いに異なるようになる。このような配線による電圧印加によって、隣り合う積層構造体50では互いに反転した変位が発生する。
【0052】
図2(a)〜(c)は上記の反転変位の例について示す模式図である。
図2(a)には電圧が印加されていない状態が示され、
図2(b)には電圧が印加された状態が示される。
図2(c)には
図2(b)とは反転した電圧が印加された状態が示される。
図2に示す高分子素子1では、隣り合う積層構造体50に互いに異なる極性の電位差が生じるように電位が与えられる配線になっている。
【0053】
図2(a)に示すように、高分子素子1の各積層構造体50に電圧が印加されていない場合には、変位は発生しない。
図2(b)に示すように、隣り合う積層構造体50に互いに反転した電位が与えられた場合、隣り合う積層構造体50はそれぞれ反対向きに変位する。例えば、第1積層構造体50−1は上に凸となるよう変位し、第2積層構造体50−2は下に凸となるよう変位し、第3積層構造体50−3は上に凸となるよう変位する。したがって、高分子素子1は波形に変位することになる。
【0054】
一方、
図2(c)に示すように、
図2(b)とは反転した電圧が印加されると、各積層構造体50のそれぞれは
図2(b)とは反対向き変位する。例えば、第1積層構造体50−1は下に凸となるよう変位し、第2積層構造体50−2は上に凸となるよう変位し、第3積層構造体50−3は下に凸となるよう変位する。したがって、高分子素子1は、
図2(b)に示す波形とは反転した波形に変位することになる。
【0055】
本実施形態に係る高分子素子1では、個々の積層構造体が分離して設けられていたり、スリットSLが設けられていたりすることで、互いの動作に与える負荷が軽減される。したがって、十分な変位量を得られるとともに、バランスの良い波形に変位させることが可能となる。
【0056】
図3(a)〜(c)は他の変位の例について示す模式図である。
図3(a)には電圧が印加されていない状態が示され、
図3(b)には電圧が印加された状態が示される。
図3(c)には
図3(b)とは反転した電圧が印加された状態が示される。
図3に示す高分子素子1では、隣り合う積層構造体50の第1集電層54に与えられる電位の第2集電層55に与えられる電位に対する差である電位差の極性が互いに等しくなるように電位が与えられる配線になっている。
【0057】
図3(a)に示すように、高分子素子1の各積層構造体50に電圧が印加されていない場合には、変位は発生しない。
図3(b)に示すように、隣り合う積層構造体50に同じ電位が与えられた場合、各積層構造体50はそれぞれ同じ向きに変位する。
図3(b)に示す例では、第1積層構造体50−1、第2積層構造体50−2および第3積層構造体50−3ともに上に凸となるよう変位する。したがって、高分子素子1は上向きの凸が連続する形に変位することになる。なお、原理的には第1積層構造体50−1、第2積層構造体50−2および第3積層構造体50−3のそれぞれが同じ向きに変位すると、全体として環状に変位することになるが、実際には第1積層構造体50−1、第2積層構造体50−2および第3積層構造体50−3のそれぞれの自重の影響によって
図3(b)に示すような凸が連続する形に変位することになる。
【0058】
一方、
図3(c)に示すように、
図3(b)とは反転した電圧が印加されると、各積層構造体50のそれぞれは
図3(b)とは反対向き変位する。すなわち、第1積層構造体50−1、第2積層構造体50−2および第3積層構造体50−3はともに下に凸となるよう変位する。したがって、高分子素子1は、
図3(b)に示す波形とは反転した下向きの凸が連続する形に変位することになる。
【0059】
ここで、波型や連続する凸型などの変位量は、給電部からの距離によって変化させることができる。例えば、第1支持部81を第1給電部、第2支持部82を第2給電部とした場合、第1給電部および第2給電部から離れるほど小さく積層構造体50の変位量が少なくなるようにしてもよい。第1給電部および第2給電部からの距離と積層構造体50の変位量との関係は、例えば第1給電部および第2給電部からの距離と電気抵抗との関係や、剛性との関係、電解質層51の特性との関係を調整すればよい。
【0060】
(高分子素子の他の構造)
図4(a)および(b)は、本実施形態に係る高分子素子の他の構造を示す断面図である。
図4(a)に示す高分子素子1Bにおいては、積層構造体50の側面に絶縁性の粘着剤層61が設けられる。粘着剤層61は積層構造体50の側面と接しており、大気中の水蒸気や水分から積層構造体50を保護する役目を果たす。
【0061】
第1フィルム10と第2フィルム20との間に設けられる粘着剤層60と、積層構造体50の側面を覆う粘着剤層61との間には空間SPが設けられる。この空間SPによって高分子素子1の全体の剛性が低くなり、積層構造体50の変位に与える影響を軽減することができる。
【0062】
図4(b)に示す高分子素子1Cにおいては、第1フィルム10および第2フィルム20に設けられたスリットSLが第1フィルム10および第2フィルム20の厚さの途中まで設けられている。すなわち、スリットSLは、第1フィルム10および第2フィルム20を厚さ方向に貫通していない。スリットSLが貫通していないことで、大気中の水蒸気や水分がスリットSLから積層構造体50に達することを防止できる。また、スリットSLを設ける深さによって第1フィルム10および第2フィルム20の剛性を調整することもできる。
【0063】
また、図示しないが、スリットSLは、第1集電層54および第2集電層55の少なくとも一方に設けられていてもよい。すなわち、第1集電層54および第2集電層55は、第1電極層52および第2電極層53の全面を一様に覆う場合のみならず、一部に隙間が設けられていてもよい。また、第1集電層54および第2集電層55の少なくとも一方は、櫛歯型に設けられていてもよい。
【0064】
図5は、積層構造体の他の例について示す断面図である。
図5に示すように、積層構造体50の電解質層51には中間電位層57が設けられていてもよい。中間電位層57は、電解質層51の厚さ方向のほぼ中央に配置される。中間電位層57には基準電位が与えられる。これにより、電解質層51には基準電位に対して第1電位および第2電位が与えられ、安定した動作を行うことができる。
【0065】
図6は、積層型の例を示す断面図である。
図6に示すように、本実施形態に係る高分子素子1、1Bおよび1Cは、積層方向に複数重ねられてもよい。
図6に示す例では、高分子素子1、1Bおよび1Cが2段に積層される。この場合、中間のフィルムは第1フィルム10および第2フィルム20を兼用にすることができる。複数の高分子素子1、1Bおよび1Cを積層方向に重ねることで、積層構造体50の可動による力を増加させることができる。
【0066】
以上説明したように、実施形態によれば、複数の積層構造体50を備えた高分子素子1,1B,1Cにおいて、それぞれの積層構造体50について十分な変位量を得ることが可能になる。
【0067】
なお、上記に本実施形態を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。例えば、本実施形態では複数の積層構造体50を一方向に一列で配置する例を示したが、縦横マトリクス状に配列してもよい。また、前述の実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、各実施形態の構成例の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含有される。
【0068】
例えば、高分子素子が備える複数の積層構造体50の第1集電層54および第2集電層55に与えられる電位は個別に制御可能であってもよい。この場合には、連続する積層構造体50の動作のタイミングをずらすなど高分子素子に複雑な動作を行わせることができる。あるいは、第1フィルム10上に2次元的に複数の積層構造体50が配置されていてもよい。この場合には、高分子素子は3次元的に複雑な動作を行うことが可能である。