(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フレーム部材はさらに、前記複数の支持金具の先端近傍に張り渡され、前記長尺材を中心とする枠の外周骨格を形成する第2のワイヤロープを有することを特徴とする請求項4に記載の塗装用ブース。
前記端面シートと側面シートの接合部には、それぞれ互いに接合する面ファスナが取り付けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の塗装用ブース。
前記端面シートまたは側面シートには、温風を入気される入気口と、前記作業空間内の空気を排気する排気口が設けられていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の塗装用ブース。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、送電鉄塔の全体を養生シートで覆う場合には、その鉄塔の送電を停止する必要がある。送電を停止すると他の送電線の負荷が増大するため、仮設鉄塔を建てる必要が生じるなど、作業時間も費用も大掛かりなものとなってしまうという問題がある。また養生シート内で作業をする場合、内部は塗料粒子が飛散しているため、作業員はマスクを着用するなど対策をする必要がある。
【0008】
さらに、塗装は上記のように防錆、下塗り、上塗りと重ねていくものであるが、それぞれ半日から1日は乾燥を待つ必要がある。これが養生シートの内側となると、風通しが悪いためにさらに待ち時間が長くなってしまうという問題がある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、長尺材が露出した構造物の塗装工事において、塗装時の塗料粒子の飛散を防止して環境汚染の回避および作業員の作業環境を改善し、かつ短期で塗装作業を完了させることを可能にする塗装用ブースおよび塗装方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明にかかる塗装用ブースの代表的な構成は、長尺材の軸方向の少なくとも2か所に取り付けられ長尺材を中心とする枠を形成する複数のフレーム部材と、複数のフレーム部材同士に張り渡される複数のワイヤロープと、フレーム部材に張られ作業空間の端面となる端面シートと、フレーム部材およびワイヤロープを骨格として張り渡されて作業空間の側面となる側面シートと、を備えることを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、塗膜形成時の防風および防塵が可能なだけでなく、スプレー塗装の塗料粒子に発生する粉塵の環境中への放出も防止可能な空間を、長尺材に沿って極めて簡単に構築することができる。また上記構成では、側面シートの接合部等に作業用の開口を設けてスプレーガン等の器具を挿入することで、作業者は塗装用ブースの外にいながら長尺材を塗装することができるため、作業員の作業環境を改善することができる。そして、塗装箇所にこのブースを取り付け、塗装が済んだら取り外し、また次の塗装箇所に取り付けることを繰り返すことにより、長尺材が露出した構造物の全体について塗装工事を行うことができる。すると、例えば鉄塔のように屋外の高所作業であっても部分的なスプレー塗装を行うことが可能となり、送電を停止する必要がない。これにより、工事期間の短縮や費用の低コスト化を図ることが可能となる。
【0012】
上記のフレーム部材は複数のパーツに分割されていて、複数のパーツは、互いに組み合わせることで長尺材を中心とする枠を形成してもよい。この構成によって、長尺材の周囲に当該塗装用ブースの骨格を好適に形成できる。なお、フレーム部材の外周の形状は、四角形、丸、多角形など、いずれの形状であってもよい。
【0013】
上記の長尺材はアングル材であって、フレーム部材を構成する複数のパーツは、アングル材に締め付け固定される第1フレームと、第1フレームに固定される第2フレームとから構成されてもよい。この構成によって、フレーム部材を、アングル材を中心とした枠状に好適に取り付けることができる。
【0014】
上記の長尺材は円柱状であって、フレーム部材を構成する複数のパーツは、長尺材に締め付けられたバンドに固定され、長尺材を中心として放射状に張り出す支持金具であってもよい。この構成によれば、例えば円柱状の鋼管等の長尺材の周囲に当該塗装用ブースの骨格を好適に形成することができる。なお、支持金具の外周の形状は、四角形、丸、多角形など、いずれの形状であってもよい。
【0015】
上記のフレーム部材はさらに、複数の支持金具の先端近傍に張り渡され、長尺材を中心とする枠の外周骨格を形成する第2のワイヤロープを有してもよい。この第2のワイヤロープも支持金具と共に骨格として利用することで、端面シートおよび側面シートを好適に張ることができる。
【0016】
上記の端面シートと側面シートの接合部には、それぞれ互いに接合する面ファスナが取り付けられているとよい。面ファスナによって、各シートを容易かつ確実に接合することが可能になり、隙間を解消して塗料粒子の漏れを防止できる。
【0017】
上記の側面シートは、長尺材を巻回する方向に分割された複数の分割シートを含み、分割シートは、それぞれ互いに接合する面ファスナが取り付けられていてもよい。側面シートとして予め分割された分割シートを用いることにより、様々な形状のフレーム部材に張り渡すことが可能になり、作業現場においてシートを切断等する必要もなくなる。また、分割シートであれば、面ファスナによって容易かつ確実に接合可能であるため、隙間を解消して塗料粒子の漏れを好適に防止できる。
【0018】
また分割シートの合わせ目が面ファスナで接合されることで、当該塗装用ブースの長手方向(長尺材の軸方向)に沿って任意の箇所で合わせ目の任意の範囲を開閉することが可能になる。したがって、後述する作業口や覗窓等の開口作業が不要となり、作業の省力化が図れる。さらに、上記構成によれば、塗装位置が上部から下部部材へ多少移動しても容易に作業口や覗窓の位置変更が可能となるため、ブースの配置換え作業が不要となり、作業をより省力化することが可能となる。
【0019】
上記の端面シートまたは側面シートには、温風を入気される入気口と、作業空間内の空気を排気する排気口が設けられているとよい。この構成によって、塗膜を強制乾燥させることができ、短時間で下塗り塗膜を十分に乾燥させて上塗り塗料を塗り重ねることも可能になるため、工期の短縮化を図ることができる。
【0020】
上記の側面シートは、開閉可能な線ファスナを有してもよい。この構成であれば、線ファスナの位置で作業空間を簡単に開閉することが可能になる。また、上記の線ファスナは、両側から開閉可能な両開きファスナであってもよい。これによって、開閉する位置の自由度が向上する。
【0021】
当該塗装用ブースはさらに、両開きファスナにはさんで固定可能な作業口を備えてもよい。これにより、作業員は塗装用ブースの外にいながら、作業空間内にスプレーガン等の器具を挿入して施工を行うことが可能になる。
【0022】
当該塗装用ブースは、さらに、両開きファスナにはさんで固定可能な覗窓を備えてもよい。このような覗窓であれば、汚れが付着した場合は簡単に交換することもできるため、良好な作業性を得ることができる。
【0023】
上記課題を解決するために、本願発明にかかる塗装方法の代表的な構成は、長尺材を塗装する塗装方法であって、長尺材の軸方向の少なくとも2か所に長尺材を中心とする枠を形成する複数のフレーム部材を取り付ける工程と、複数のフレーム部材同士に複数のワイヤロープを張り渡す工程と、複数のフレーム部材それぞれに作業空間の端面となる端面シートを張る工程と、フレーム部材およびワイヤロープを骨格として作業空間の側面となる側面シートを張り渡す工程と、側面シートに設けた作業口から作業空間内の長尺材に塗料を塗布する工程と、端面シートまたは側面シートに設けた入気口から作業空間内に温風を送って塗料を乾燥させる工程と、を有することを特徴とする。
【0024】
上述した塗装用ブースにおける技術的思想に対応する構成要素やその説明は、当該塗装方法にも適用可能である。したがって、当該塗装方法によって、工事期間の短縮や費用の低コスト化を図ることが可能な信頼性および耐久性の高い塗装工事を施工することが可能になる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、長尺材が露出した構造物の塗装工事において、塗装時の塗料粒子の飛散を防止して環境汚染の回避および作業員の作業環境を改善し、かつ短期で塗装作業を完了させることを可能にする塗装用ブースおよび塗装方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0028】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態にかかる塗装用ブース(以下、単に「ブース100」という。)の概要を示した図である。ブース100は、長尺材が露出した構造物の塗装工事に使用されるものであり、塗装時の塗料粒子の飛散を防止し、環境汚染の回避および作業員の安全な作業環境を確保する。本実施形態では長尺材の例として、鉄塔10(
図10参照)の鉄骨に使用されているL型のアングル材102(山形鋼)に塗装を行う場合を想定している。
【0029】
ブース100は、大別して上下のフレーム部材104、106、これらの間に張り渡される複数のワイヤロープ108、側面シート110、およびフレーム部材104、106それぞれに張られる端面シート112、114から構成される。
【0030】
複数のフレーム部材104、106は、アングル材102の軸方向の少なくとも2か所に取り付けられ、アングル材102を中心とする枠を形成する。本実施形態では、上下方向に延びたアングル材102にブース100を設置するため、天井を構成する上側のフレーム部材104と、底面を構成する下側のフレーム部材106の、計2カ所にてフレーム部材を設置している。これらフレーム部材104、106は、アングル材102の周囲に枠状の端面を形成する。なお、フレーム部材104、106の外周の形状は、本実施形態に例示した四角形のほか、丸、多角形など、いずれの形状であってもよい。
【0031】
フレーム部材104、106同士の間には、複数のワイヤロープ108が張り渡されている。ワイヤロープ108は、主に側面シート110を張る際に骨格として使用する。本実施形態では、ワイヤロープ108は、各フレーム部材の四隅に計4本設置している。ワイヤロープ108は、ターンバックル115が設けられていて、ターンバックル115のボルトを締めることで張力を調整することができる。
【0032】
図2は、
図1のフレーム部材104の構成を示した図である。
図1のフレーム部材104、106は、互いに上下対称な同じ構造を有しているため、代表して、上側のフレーム部材104を例に挙げて説明を行う。
【0033】
図2(a)は
図1のフレーム部材104を斜め上方から観察した斜視図であり、
図2(b)はフレーム部材104を上方から観察した概略図である。
図2(a)に示すように、本実施形態においてフレーム部材104は複数のパーツとして、L字型をした第1フレーム116と、ほぼ正方形の第2フレーム118とに分割された構成になっている。
図2(b)に示すように、第1フレーム116および第2フレーム118は、互いに組み合わせることでアングル材102を中心とする枠を形成する。
【0034】
図2(a)に示すように、第1フレーム116は、フック120、122を有している。フック120、122は、それぞれアングル材102(
図1参照)に引っかけ、そしてナット124を締めることでアングル材102に締め付け固定することができる。第2フレーム118は、第1フレーム116に締結するボルト126、127によって第1フレーム116に固定される。これら構成によって、フレーム部材104は、アングル材102を挟み込んで、アングル材102を中心とした枠状に好適に取り付けられる。そして、これら構成のフレーム部材104およびフレーム部材106(
図1参照)によって、アングル材102の周囲に当該ブース100の骨格を好適に形成することができる。
【0035】
なお、第1フレーム116と第2フレーム118との結合の他の例として、一方のパーツのうち他方と隣接する面にフックを設け、そのフックに他方のパーツの側面を噛み合わせる、いわゆる嵌め合い固定としてもよいし、Cクランプで締めたり、パッチン錠で固定したりしてもよい。さらに、複数のパーツを蝶番で接続しておき、開閉してアングル材102を挟み込むように構成してもよい。
【0036】
再び
図1を参照して、端面シート112、114および側面シート110について説明を行う。端面シート112、114は、フレーム部材104、106にそれぞれ張り渡されることで、作業空間の端面を形成する。側面シート110は、フレーム部材104、106およびワイヤロープ108を骨格として張り渡されて、作業空間の側面を形成する。
【0037】
各シートは、後述するように温風を作業空間内に入気することから、耐熱性の高いポリプロピレンや塩化ビニルなどを主材とした樹脂を用いることが好ましい。後述するように、本実施形態の側面シート110は、アングル材102を巻回する方向に分割された複数の分割シート110a〜110h(
図4参照)からなり、各分割シートそれぞれの端辺に取り付けられた面ファスナ136(
図3(b)参照)によって互いに接合される。
【0038】
各シートの材質は、作業空間の内部の様子がわかりやすいように透明であることが望ましいが、透明であっても塗料が付着すると視界は悪くなっていく。このため各シートは、透明性よりもむしろ丈夫さを優先させて網目状に繊維を含有させた複合シートであってもよい。その場合、後述する
図5(b)に示すように、線ファスナ138や分割シート同士の接合部142(
図4参照)に、ブース100内を観察するための覗窓146を設けてもよい。
【0039】
図3は、
図1の端面シート112および側面シート110をそれぞれ示す図である。
図3(a)は、
図1の上側の端面シート112を単独で示した図である。端面シート112は、四角形状になっていて、アングル材102(
図1参照)を囲い込んで取り付けられるように切込部128が設けられている。端面シート112には、後述するように、入気口152(
図6(b)参照)用の開口部130が設けられている。なお、端面シート112と下側の端面シート114(
図1参照)とには大きな構成の違いは無いため、端面シート114の単独での説明は省略する。
【0040】
端面シート112の周囲の縁には、側面シート110(
図3(b)参照)との接合部として、面ファスナ134が取り付けられている。面ファスナ134を接合部に利用することで、各シートを容易かつ確実に接合することが可能になり、隙間を解消して塗料粒子の漏れを防止できる。また、面ファスナ134であれば、各シート同士の接合を簡単に解消できるため、作業空間の任意の箇所に開口を形成して手を挿入するなど、作業性が向上する。
【0041】
図1の側面シート110は、アングル材102を巻回する方向に分割された複数の分割シート110a〜110h(
図4参照)によって構成されている。各分割シートは、アングル材102の軸方向に延びた長方形になっている。側面シート110として予め分割された分割シート110a〜110hを用いることにより、様々な形状の他のフレーム部材にも張り渡すことが可能になり、作業現場においてシートを切断等する必要もなくなる。
【0042】
図3(b)は、
図1の分割シート110c、110dを示した図である。分割シート110cに代表されるように、各分割シートは長辺に面ファスナ136を有していて、面ファスナ136を利用して互いに接合されている。さらに、一部の分割シートである分割シート110c、110dは、線ファスナ138によって接合されている。
【0043】
線ファスナ138は、分割シート110c、110dの間の位置で作業空間を簡単に開閉可能にする。線ファスナ138は、上下の両側から開閉可能な両開きファスナになっていて、開閉する位置の自由度が向上している。
【0044】
分割シート110cを例にして、各分割シートに共通する構成を説明する。各分割シートは、長辺に設けられた面ファスナ136で他の分割シートと互いに接合し、上下の短辺に設けた面ファスナ140で端面シート112、114(
図1参照)と接合する。各分割シートは、面ファスナ136によって容易かつ確実に接合可能であるため、隙間を解消して塗料粒子の漏れを好適に防止できる。
【0045】
なお、端面シート112、114および側面シート110の分割シートは、フレーム部材104、106(
図1参照)にも面ファスナを設置することで、フレーム部材104、106に直接接合することも可能である。また、端面シート112、114と各分割シート、および各分割シート同士の接合にも、線ファスナ138を使用可能である。線ファスナ138を使用することで、各所にてより自由に作業空間を開閉することが可能になる。
【0046】
図4は、
図1のブース100の水平方向におけるA−A断面図である。本実施形態では、分割シート110a〜110hは、隣接する分割シート同士の端辺をつまんで互いの面ファスナ136同士をそれぞれ圧着させることによって接合され、アングル材102を囲う1つの大きな側面シート110となる。
【0047】
分割シート同士の接合部142は、隣接する分割シートそれぞれの端辺が共に外側に突出する向きに接合されてもよい(例えば接合部142)。仮に、隣接する分割シート同士の接合部が、一方の分割シートの外面に他方の分割シートを被せる、すなわち引き違いに接合されると、分割シート同士の接合部を両側(外側および内側)から押さえ込めないため、圧着が不十分になり、接合部に隙間が生じる可能性がある。
【0048】
これに対し、本実施形態の接合部142の構成によれば、分割シート同士の端辺が共に外側に突出しているため、かかる接合部142を両側からつまんで圧着させることができ、複数の分割シート1110a〜110hを容易且つ確実に接合可能である。また本実施形態のブース100では、後述するように分割シート同士の接合部142に作業口144や覗窓146(
図5参照)を設けることもできるが、分割シート同士の接合部142が共に外側に突出していることによって、作業口144および覗窓146を設置した際の隙間の発生を防ぐことが可能になる。
【0049】
上記説明したように、本実施形態では、面ファスナ134等を使用した側面シート110(分割シート110a〜110h)および端面シート112、114(
図1参照)によって、アングル材102を囲う作業空間を容易に形成することが可能となる。
【0050】
図5は、
図3(b)の線ファスナ138の使用例を示す図である。
図5(a)は、
図1の作業口144を示す図である。本実施形態では、側面シート110には、作業時に手やスプレーガン150(
図6(a)参照)を挿入するための挿入口となる作業口144を設けている。
図5(a)に示すように、作業口144は、線ファスナ138を利用することで、より簡単に設置することが可能である。
【0051】
作業口144は、線ファスナ138を一部開口し、その開口に挿入して上下から挟むように開口を閉めることで、側面シート110の切開等を行うことなく簡単に固定することができる。作業口144を設置することで、作業員はブース100の外にいながら、作業空間内にスプレーガン150等の器具を挿入して施工を行うことが可能になる。なお、作業口144は、分割シート110a〜110h(
図4参照)同士の面ファスナ136による接合部142を一部開口し、その開口に挿入することでも設置可能である。
【0052】
側面シート110には、他の構造物も設けることが可能である。
図5(b)は、
図5(a)の線ファスナ138に設置した覗窓146を示す図である。覗窓146は、透明の板材148を有して構成されていて、作業口144(
図5(a)参照)と同様に、線ファスナ138の開口に設けることができる。板材148としては、硬質で傷つきにくいポリカーボネートやアクリルなどの透明な樹脂板を好適に用いることができる。覗窓146は、汚れが付着した場合は簡単に交換することもできるため、良好な作業性を得ることができる。覗窓146もまた、
図4の分割シート110a〜110h同士の面ファスナ136による接合部142を一部開口することでも設置可能である。
【0053】
なお、本実施形態のブース100では、分割シート110a〜110h(
図4参照)の合わせ目が面ファスナ136で接合されているため、ブース100の長手方向(アングル材102の軸方向)に沿って任意の箇所で合わせ目の任意の範囲を開閉することが可能になっている。したがって、
図5(a)の作業口144や
図5(b)の覗窓146はあえて設けずとも良好な作業が行えるようになっている。また、線ファスナ138や面ファスナ136の開口に作業口144および覗窓146等を設ける構成であると、側面シート110を切開等する必要が無いだけでなく、塗装範囲が上下に多少移動しても作業口144等の位置変更が容易にできるため、ブース100の配置換え作業が不要となって作業をより省力化することが可能となる。
【0054】
図6は、
図1のブース100の実施風景を示す図である。
図6(a)は、
図5(a)の作業口144からの塗装作業を示している。作業口144からは、ブース100の内部にスプレーガン150を挿入し、作業者はブース100の外にいながらアングル材102にスプレー塗装を行うことができる。
【0055】
図6(b)は、
図1のブース100の上部の拡大図である。本実施形態のブース100では、ブース内の強制換気を行うことが可能になっている。そのため、端面シート112には、開口部130(
図3(a)参照)に入気口152を設置することができる。また、
図6(c)は、
図1のブース100の下部の拡大図である。ブース100の下側の端面シート114にも、所定の開口部を設けて排気口154を設置することができる。
【0056】
本実施形態ではさらに、入気口152(
図6(b)参照)に所定の加熱送風手段156(例えば工業用ドライヤー)を接続して温風を作業空間内に入気し、排気口154(
図6(c)参照)に所定の排気手段158(例えばバキューム装置)から作業空間内の空気を排気する。温風によって塗膜を強制乾燥させることができるため、短時間で防錆、下塗りおよび上塗りまでの計3工程の塗装を行うことも可能になる。例えば、イソシアネート硬化型塗料を使用する場合では、外気温が0℃以上あれば、1日の間に防錆、下塗り、上塗りの3層の塗装作業を施工しても塗膜性能を十分に担保することができる。すると工期の短縮化を図ることができるため、作業員の人工(にんく)、工事車両の出動費用、役所への許可申請などの負担が極めて軽減される。
【0057】
これらのように、本実施形態にかかるブース100によれば、塗膜形成時の防風および防塵が可能なだけでなく、スプレー塗装の塗料粒子の環境中への放出も防止可能な空間を、アングル材102に沿って極めて簡単に構築することができる。また、塗装が済んだら取り外し、また次の塗装箇所に取り付けることを繰り返すことにより、アングル材102が露出した構造物の全体について塗装工事を行うことができる。
【0058】
なお、上記実施形態においてアングル材102は上下方向に延びていて、フレーム部材104、106は上下に配置されていたが、これら各フレーム部材は当然ながら梁(横方向)や補助材(斜め方向)に取り付けることもできる。梁に取り付ける場合には各フレーム部材は横に並ぶことになるが、この場合にも全く同様に側面シート110等を張って、粉塵の飛散を防止できる空間を極めて簡単に構築することができる。
【0059】
(第2実施形態)
図7は、本発明の第2実施形態にかかる塗装用ブース(以下、単に「ブース200」という。)の概要を示した図である。なお、以下では、第1実施形態のブース100にて既に説明した構成要素と同じものについては、同じ符号を付することによって説明を省略する。また、第1実施形態とは異なった符号を付していても、同じ名称の構成要素については基本的な作用および効果は第1実施形態と同じものとする。
【0060】
本実施形態のブース200は、長尺材の例として円柱状の鋼管202に塗装を行う場合を想定していて、フレーム部材204等の構造において第1実施形態のブース100と異なっている。
【0061】
ブース200は、大別して上下のフレーム部材204、206、これらの間に張り渡される複数のワイヤロープ108、側面シート110、およびフレーム部材204、206に張られる端面シート208、209から構成される。なお、本実施形態は、ブース200は上下方向に延びた鋼管202に取り付けているが、横方向に延びた他の鋼管に取り付けることも可能である。
【0062】
複数のフレーム部材204、206は、鋼管202の軸方向の少なくとも2か所に取り付けられ、鋼管202を中心とする枠を形成する。本実施形態では、天井を構成する上側のフレーム部材204と、底面を構成する下側のフレーム部材206の、計2カ所にてフレーム部材を設置している。これらフレーム部材204、206は、鋼管202の周囲に枠状の端面を形成する。
【0063】
図8は、
図7のフレーム部材204の構成を示した図である。
図7のフレーム部材204、206は、互いに上下対称な同じ構造を有しているため、代表して、上側のフレーム部材204を例に挙げて説明を行う。
【0064】
図8(a)は、
図7のフレーム部材204を上方から観察した図である。本実施形態では、フレーム部材110は複数のパーツとして、鋼管202(
図7参照)を中心として放射状に張り出した複数の支持金具210に分割された構成になっている。支持金具210は、鋼管202に締め付けたバンド212に固定され、鋼管202を中心とする枠を形成する。
【0065】
図8(b)は、
図8(a)の支持金具210を側方から観察した図である。支持金具210は、バンド212(
図8(a)参照)に接続される基部216と、基部216から延びたアーム218、およびアーム218を支える脚部220を有し、全体的に三角形をかたどった構造になっている。アーム218の先端近傍にはループ222が設けられていて、ループ222には第2のワイヤロープ224(
図8(a)参照)が設けられる。
【0066】
図8(a)に示すように、ワイヤロープ224は、複数の支持金具210のループ222に張り渡され、鋼管202を中心とする枠(作業空間の端面)の外周骨格を形成する。このワイヤロープ224も支持金具210と共に骨格として利用することで、
図7に示す端面シート208、209および側面シート110を好適に張ることができる。なお、ワイヤロープ224で構成される支持金具210の外周の形状は、円形だけでなく、四角形や多角形など、いずれの形状であってもよい。
【0067】
図8(c)は、支持金具210を支えるバンド212を例示した図である。バンドは、鋼管202(
図7参照)に締め付けて固定される。バンド212は鋼管202の支持金具210を取り付ける箇所に計2本設けられ、支持金具210の基部216および脚部220がそれぞれ接続される。これらバンド212および支持金具210を利用することで、円柱状の鋼管202等の長尺材の周囲に当該ブース200の骨格を好適に形成することができる。
【0068】
図9は、
図7のブース200の各所を示した図である。
図9(a)は、
図7の上側の端面シート208を単独で示した図である。端面シート208は、中央が開口したドーナツ形になっていて、鋼管202に周り込んで取り付けられるように切込部226が設けられている。端面シート208には、
図6(b)に示した入気口152用の開口部130が設けられている。
図7の下側の端面シート209は、上側の端面シート208とほぼ同じ構成であるため、単独での説明は省略する。
【0069】
端面シート208の外周の縁には、側面シート110(
図7参照)との接合部として、面ファスナ228が取り付けられている。
【0070】
図9(b)は、
図7のブース200の水平方向におけるB−B断面図である。ブース200の側面シート110もまた、鋼管202を巻回する方向に分割された複数の分割シート110iによって構成されている。各分割シートの構成は、
図3(b)等を参照して説明した第1実施形態における各分割シート110a〜110hと同様であり、シートの周囲に面ファスナ136a、136b(
図3(b)の面ファスナ136参照)が設けられているとともに、一部または全部の分割シートに線ファスナ138が設けられている。
【0071】
本実施形態においても、分割シート110iは、隣接する分割シート同士の端辺の面ファスナ136a、136bをそれぞれ圧着させて接合部142を形成している。これによって複数の分割シート110i同士が接合され、鋼管を囲う1つの大きな側面シート110となっている。
【0072】
以上のように、本実施形態にかかるブース200によれば、円柱状の鋼管202に対しても、塗膜形成時の防風および防塵が可能なだけでなく、スプレー塗装の塗料粒子の環境中への放出も防止可能な空間を極めて簡単に構築することができる。
【0073】
(塗装用ブースを用いた塗装方法)
図10は、第1実施形態のブース100を用いた塗装方法の概要を示す図である。以下、第1実施形態のブース100を代表して例に挙げ、その塗装方法について説明する。
【0074】
図10では、鉄塔10の梁12の上に足場14を構築し、アングル材102にブース100を上記説明したように取り付けている。足場14には、スプレー塗装用の電源16や、コンプレッサ18等を設置している。
【0075】
当該塗装方法の第1の工程では、アングル材102の軸方向の少なくとも2か所に、アングル材102を中心とする枠を形成する複数のフレーム部材104、106を取り付ける。第2の工程では、フレーム部材104、106同士にワイヤロープ108(
図1参照)を張り渡す。そして、第3の工程としてフレーム部材104、106それぞれに作業空間の端面となる端面シート112、114を張り、第4の工程としてフレーム部材104、106およびワイヤロープ108を骨格として作業空間の側面となる側面シート110を張り渡す。第5の工程として、側面シート110に設けた作業口144から作業空間内のアングル材102に塗料を塗布する。そして、第6の工程として、端面シート112に設けた入気口152から加熱送風手段156(工業用ドライヤ)によって作業空間内に温風を送って塗料を乾燥させる。加熱送風手段156の稼働時には、排気手段158から排気を行う。
【0076】
上記第1から第6の工程によって塗装が完了したらブース110を取り外し、また次の塗装箇所にブース110を取り付けて第1から第6の工程を繰り返す。これにより、アングル材102が露出した構造物の全体について塗装工事を行うことができる。
【0077】
なお、上記各実施形態では被塗装物である長尺材としてL型のアングル材102や鋼管202(
図7参照)を例に挙げたが、本発明を実施可能な長尺物はこれらに限らず、H型鋼やI型鋼などの鋼鉄材、さらには木材など、様々な長尺材を被塗装物として現地での塗装が可能である。
【0078】
(塗装用ブースの性能試験)
図11は、第1実施形態のブース100の性能試験の概要を示した図である。本試験では、ブース100による強制乾燥の有効性を評価するために、塗装間隔の異なる二つの試験体をブース内で作成し、各試験体の塗膜の付着力を測定した。
【0079】
図11(a)は、試験装置250を示した図である。試験装置250は、DeFelsko社製のプルオフ法による機器(品番:PosiTest AT-A)を使用した。プルオフ法は、塗膜に対して垂直方向に対するはがれや破れが生じるのに必要な張力を測定することで、塗膜の付着力を評価する方法である。試験装置250には、引張部であるシリンダ252と、試験体に貼り付けてシリンダ252で引っ張る試験円筒(ドリー254)が付属している。
【0080】
図11(b)は、実験条件を示した図である。試験体1、2は、共通して、ブラスト処理を行った鉄骨に、ブース内にて23℃の環境を作り、刷毛で下塗りおよび上塗りを行った。膜厚は、試験体1が76.4μm(素地4.1μm、下塗り+上塗り72.3μm)、試験体2が90.3μm(素地3.8μm、下塗り+上塗り86.5μm)であった。
【0081】
試験体1、2の違いとして、試験体1は下塗りと上塗りの間隔を1時間のみとし、試験体2は下塗りと上塗りの間隔を従来通り1日とした。
【0082】
試験手順としては、試験前外観に表しているように、試験体1、2それぞれに対して接着剤でドリー254(
図11(a)参照)を固定する。そして、ドリー254の周囲に所定の切込具で円形に切込みを入れ、ドリー254にシリンダ252をかぶせて測定を開始する。測定は、シリンダ252がドリー254を塗膜が剥がれるまで垂直に引っ張ることで行われ、塗膜の付着力が得られる。
【0083】
図11(c)は、実験結果を示した図である。試験体1、2ともに、下塗り塗膜の凝縮破壊が生じ、塗膜の付着力が測定された。試験体1の測定値は6.61MPaであり、試験体2の測定値は5.05MPaであった。
【0084】
仮に従来通りに外気にさらした状態で塗装を行った場合として考えると、塗装間隔を1時間のみとした試験体1は、塗装間隔が1日の試験体2と比べて、付着力は低下することが予想される。特に冬場のように気温が低い状態では乾燥が遅いため、短時間で重ね塗りをすると塗膜の強度が得られない。しかしながら、本発明にかかるブース100を使用して塗装を行った本試験では、加熱送風手段156によって強制乾燥を行ったことで、試験体1は試験体2と比べても付着力の低下は観察されなかった。
【0085】
以上の実験結果から、本発明にかかるブース100による強制乾燥を行えば、塗膜強度を下げることなく短時間で下塗り作業から上塗り作業に移行することができ、問題なく工期の短縮化が実現可能であることが証明された。
【0086】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。