特許第6626761号(P6626761)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6626761プロトロンビン時間測定用試薬およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6626761
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】プロトロンビン時間測定用試薬およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/86 20060101AFI20191216BHJP
【FI】
   G01N33/86
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-68011(P2016-68011)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-181266(P2017-181266A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 優佑
(72)【発明者】
【氏名】坂東 孝彦
(72)【発明者】
【氏名】小濱 清子
(72)【発明者】
【氏名】山口 温輝
【審査官】 海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−516525(JP,A)
【文献】 国際公開第2001/041740(WO,A2)
【文献】 特表平06−502649(JP,A)
【文献】 米国特許第05314695(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0182225(US,A1)
【文献】 特表平06−506601(JP,A)
【文献】 国際公開第1992/018870(WO,A1)
【文献】 特表2008−530208(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/088741(WO,A2)
【文献】 中国特許出願公開第101151533(CN,A)
【文献】 S.A.SMITH et al.,Phospholipid composition controls thromboplastin sensitivity to individual clotting factors,Journal of Thrombosis and Haemostasis,2006年,Vol.4,PP.820-827
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン脂質層を有する第1のリポソームと、前記第1のリポソームとは異なる組成のリン脂質層を有する第2のリポソームと、組織因子とを含むリポソーム組成物を含有し、
前記第1のリポソームおよび第2のリポソームの少なくとも一方のリン脂質層に前記組織因子が会合しており、
前記第1のリポソームが、ホスファチジルコリン化合物と、ホスファチジルエタノールアミン化合物と、ホスファチジルセリン化合物とを含むリポソームであり、
前記第2のリポソームが、ホスファチジルコリン化合物およびホスファチジルエタノールアミン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種類のリン脂質を含むリポソームである
ことを特徴とするプロトロンビン時間測定用試薬。
【請求項2】
前記第1のリポソームにおける前記ホスファチジルエタノールアミン化合物の質量に対する前記ホスファチジルコリン化合物の質量の割合が3.0未満である請求項1に記載の試薬。
【請求項3】
前記試薬における全リポソームの含有量に対する第2のリポソームの含有量が20〜70質量%である請求項1または2に記載の試薬。
【請求項4】
前記ホスファチジルコリン化合物が、アシル基の炭素数が8〜20であるジアシルホスファチジルコリンであり、前記ホスファチジルエタノールアミン化合物が、アシル基の炭素数が8〜20であるジアシルホスファチジルエタノールアミンであり、前記ホスファチジルセリン化合物が、アシル基の炭素数が8〜20であるジアシルホスファチジルセリンである請求項1〜3のいずれか1項に記載の試薬。
【請求項5】
前記ホスファチジルコリン化合物が、ジオレオイルホスファチジルコリンであり、前記ホスファチジルエタノールアミン化合物が、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンであり、前記ホスファチジルセリン化合物が、ジオレオイルホスファチジルセリンである請求項1〜4のいずれか1項に記載の試薬。
【請求項6】
前記組織因子が組換え組織因子である請求項1〜5のいずれか1項に記載の試薬。
【請求項7】
前記組換え組織因子が組換えヒト組織因子である請求項6に記載の試薬。
【請求項8】
カルシウムイオンをさらに含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の試薬。
【請求項9】
(A)ホスファチジルコリン化合物と、ホスファチジルエタノールアミン化合物と、ホスファチジルセリン化合物とを用いてリン脂質層を有する第1のリポソームを形成させる工程、
(B)ホスファチジルコリン化合物およびホスファチジルエタノールアミン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種類のリン脂質を用いて前記第1のリポソームとは異なる組成のリン脂質層を有する第2のリポソームを形成させる工程、および
(C)前記工程(A)で得られた第1のリポソームおよび前記工程(B)で得られた第2のリポソームの少なくとも一方のリン脂質層と組織因子とを会合させる工程
を含むプロトロンビン時間測定用試薬の製造方法。
【請求項10】
工程(C)において、前記工程(A)で得られた第1のリポソームと前記工程(B)で得られた第2のリポソームとの混合物に組織因子を接触させる請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程(C)において、前記工程(A)で得られた第1のリポソームまたは前記工程(B)で得られた第2のリポソームに組織因子を接触させる請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトロンビン時間測定用試薬およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトロンビン時間の測定には、例えば、ホスファチジルコリンとホスファチジルセリンとからなるリポソームに組換組織因子を会合させた組織因子含有リポソームを含むプロトロンビン時間測定用試薬などが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、近年、凝固検査の標準化の観点から、プロトロンビン時間の評価に用いられるプロトロンビン時間測定用試薬に対し、適正な範囲の凝固時間および適正な国際感受性指標を定めることが提唱されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第98/48283号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のプロトロンビン時間測定用試薬を用いて正常血漿の凝固時間を測定した場合、適正な範囲の凝固時間および適正な国際感受性指標の双方を満たすことが望まれている。
【0006】
本発明は、正常血漿の凝固の測定の際に適正な範囲の凝固時間と適正な国際感受性指標とを確保することができる新たなプロトロンビン時間測定用試薬およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの側面は、リン脂質層を有する第1のリポソームと、第1のリポソームとは異なる組成のリン脂質層を有する第2のリポソームと、組織因子とを含むリポソーム組成物を含有し、第1のリポソームおよび第2のリポソームの少なくとも一方のリン脂質層に組織因子が会合しており、第1のリポソームが、ホスファチジルコリン化合物と、ホスファチジルエタノールアミン化合物と、ホスファチジルセリン化合物とを含むリポソームであり、第2のリポソームが、ホスファチジルコリン化合物およびホスファチジルエタノールアミン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種類のリン脂質を含むリポソームであることを特徴とするプロトロンビン時間測定用試薬を含む。
【0008】
本発明の別の側面は、(A)ホスファチジルコリン化合物と、ホスファチジルエタノールアミン化合物と、ホスファチジルセリン化合物とを用いてリン脂質層を有する第1のリポソームを形成させる工程、
(B)ホスファチジルコリン化合物およびホスファチジルエタノールアミン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種類のリン脂質を用いて第1のリポソームとは異なる組成のリン脂質層を有する第2のリポソームを形成させる工程、および
(C)工程(A)で得られた第1のリポソームおよび工程(B)で得られた第2のリポソームの少なくとも一方のリン脂質層と組織因子とを会合させる工程
を含むプロトロンビン時間測定用試薬の製造方法を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、正常血漿の凝固の測定の際に適正な範囲の凝固時間と適正な国際感受性指標とを確保することができる新たなプロトロンビン時間測定用試薬およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】試薬キットの構成を説明する図である。
図2】実施例2および比較例2のプロトロンビン時間測定用試薬を用いたときの凝固時間の変化率とトリグリセリドの濃度との関係を示すグラフである。
図3】実施例2および比較例2のプロトロンビン時間測定用試薬を用いたときの凝固時間の変化率とビリルビンFの濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.プロトロンビン時間測定用試薬
本実施形態に係るプロトロンビン時間測定用試薬(以下、「試薬」という)は、リン脂質層を有する第1のリポソームと、第1のリポソームとは異なる組成のリン脂質層を有する第2のリポソームと、組織因子とを含むリポソーム組成物を含有する。第1のリポソームおよび第2のリポソームの少なくとも一方のリン脂質層に組織因子が会合している。第1のリポソームは、ホスファチジルコリン化合物と、ホスファチジルエタノールアミン化合物と、ホスファチジルセリン化合物とを含むリポソームである。また、第2のリポソームは、ホスファチジルコリン化合物およびホスファチジルエタノールアミン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種類のリン脂質を含むリポソームである。
【0012】
なお、本明細書において、ホスファチジルコリン化合物とは、置換基を有していてもよいホスファチジルコリンをいう。ホスファチジルエタノールアミン化合物とは、置換基を有していてもよいホスファチジルエタノールアミンをいう。ホスファチジルセリン化合物とは、置換基を有していてもよいホスファチジルセリンをいう。
【0013】
置換基を有していてもよいホスファチジルコリンの置換基としては、例えば、炭素数8〜20、好ましくは14〜18のアシル基などが挙げられるが、特に限定されない。置換基を有していてもよいホスファチジルエタノールアミンの置換基としては、例えば、炭素数8〜20、好ましくは14〜18のアシル基などが挙げられるが、特に限定されない。置換基を有していてもよいホスファチジルセリンの置換基としては、例えば、炭素数8〜20、好ましくは14〜18のアシル基などが挙げられるが、特に限定されない。炭素数8〜20のアシル基としては、例えば、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オレオイル基などが挙げられるが、特に限定されない。
【0014】
ホスファチジルコリン化合物としては、例えば、ホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリンなどのアシル基の炭素数が8〜20、好ましくは14〜18であるジアシルホスファチジルコリンなどが挙げられるが、特に限定されない。これらのホスファチジルコリン化合物のなかでは、アシル基の炭素数が8〜20であるジアシルホスファチジルコリンが好ましく、ジオレオイルホスファチジルコリンがより好ましい。
【0015】
ホスファチジルエタノールアミン化合物としては、例えば、ホスファチジルエタノールアミン、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンなどのアシル基の炭素数が8〜20、好ましくは14〜18であるジアシルホスファチジルエタノールアミンなどが挙げられるが、特に限定されない。これらのホスファチジルエタノールアミン化合物のなかでは、アシル基の炭素数が8〜20であるジアシルホスファチジルエタノールアミンが好ましく、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンがより好ましい。
【0016】
ホスファチジルセリン化合物としては、例えば、ホスファチジルセリン、ジラウロイルホスファチジルセリン、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、ジステアロイルホスファチジルセリン、ジオレオイルホスファチジルセリンなどのアシル基の炭素数が8〜20、好ましくは14〜18であるジアシルホスファチジルセリンなどが挙げられるが、特に限定されない。これらのホスファチジルセリン化合物のなかでは、アシル基の炭素数が8〜20であるジアシルホスファチジルセリンが好ましく、ジオレオイルホスファチジルセリンがより好ましい。
【0017】
第1のリポソームにおいて、ホスファチジルエタノールアミン化合物の質量に対するホスファチジルコリン化合物の質量の割合である[ホスファチジルコリン化合物/ホスファチジルエタノールアミン化合物]は、適正な凝固時間および感度を確保する観点から、好ましくは2.0以上であり、適正な凝固時間および感度を確保する観点から、好ましくは3.0未満、より好ましくは2.9以下である。
【0018】
第1のリポソームの粒子径は、適正な凝固時間および感度を確保する観点から、通常、好ましくは400〜600nmである。なお、本明細書において、「粒子径」の値は、粒子径測定装置〔スペクトリス(株)製、商品名:ゼータサイザーナノZSP〕を粒子径測定モードで用い、動的光散乱法により、25℃で測定することによって求められる値である。
【0019】
本実施形態に係る試薬において、第2のリポソームは、ホスファチジルコリン化合物およびホスファチジルエタノールアミン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種類のリン脂質をリン脂質として含むリン脂質層を有する。第2のリポソームは、リン脂質として、ホスファチジルコリン化合物単独またはホスファチジルエタノールアミン化合物単独を実質的に含むリポソームであってもよく、リン脂質として、ホスファチジルコリン化合物とホスファチジルエタノールアミン化合物とを実質的に含むリポソームであってもよい。
【0020】
第2のリポソームに用いられるホスファチジルコリン化合物およびホスファチジルエタノールアミン化合物は、第1のリポソームに用いられるホスファチジルコリン化合物およびホスファチジルエタノールアミン化合物と同様である。
【0021】
第2のリポソームが、リン脂質として、ホスファチジルコリン化合物単独を実質的に含むリポソームである場合、第2のリポソームにおけるホスファチジルコリン化合物の量は、適正な凝固時間および感度を確保する観点から、好ましくは20mg/mL以上、より好ましくは40mg/mL以上であり、適正な凝固時間および感度を確保する観点から、好ましくは100mg/mL以下である。
【0022】
第2のリポソームが、リン脂質として、ホスファチジルエタノールアミン化合物単独を実質的に含むリポソームである場合、第2のリポソームにおけるホスファチジルエタノールアミン化合物の量は、適正な凝固時間および感度を確保する観点から、好ましくは20mg/mL以上、より好ましくは40mg/mL以上であり、適正な凝固時間および感度を確保する観点から、好ましくは100mg/mL以下である。
【0023】
第2のリポソームが、リン脂質として、ホスファチジルコリン化合物とホスファチジルエタノールアミン化合物とを実質的に含むリポソームである場合、第2のリポソームにおけるリン脂質の合計量は、適正な凝固時間および感度を確保する観点から、好ましくは20mg/mL以上、より好ましくは40mg/mL以上であり、適正な凝固時間および感度を確保する観点から、好ましくは100mg/mL以下である。
【0024】
本実施形態に係る試薬において、組織因子は、第1のリポソームおよび第2のリポソームの少なくとも一方のリン脂質層に会合している。第1のリポソームのリン脂質層および第2のリポソームのリン脂質層は、通常、脂質2重層であると考えられる。組織因子は、通常、リン脂質層を貫通した状態でリン脂質層と会合していると考えられる。本実施形態に係る試薬には、以下の態様が包含される:
・ 第1のリポソームのリン脂質層に組織因子が会合しており、第2のリポソームのリン脂質層に組織因子が会合していないリポソーム組成物を含む試薬、
・ 第1のリポソームのリン脂質層に組織因子が会合しておらず、第2のリポソームのリン脂質層に組織因子が会合しているリポソーム組成物を含む試薬、
・ 第1のリポソームのリン脂質層および第2のリポソームのリン脂質層の双方に組織因子が会合しているリポソーム組成物を含む試薬。
【0025】
組織因子は、トロンボプラスチン(「凝固因子の第III因子」ともいう)である。組織因子としては、天然由来の組織因子および組換え組織因子が挙げられる。本実施形態に係る試薬においては、組換え組織因子が好ましい。原料の調達が容易であり、安定的に供給されることおよびロット間の性能の差が小さく、測定結果の再現性に優れるからである。
【0026】
天然由来の組織因子として、例えば、慣用の手法により、種々の動物種の脳、胎盤などから単離された組織因子などを用いることができる。動物種としては、例えば、ヒト、ウサギ、ウシ、サルなどが挙げられるが、特に限定されない、これらの動物種のなかでは、ヒトの血液凝固時間をより的確に測定する観点から、ヒトが好ましい。
【0027】
組換え組織因子は、例えば、所望の動物種の組織因子をコードするcDNAを保持する遺伝子組換え生物内で発現させることなどによって得ることができる。また、組換え組織因子は、市販の組換え組織因子であってもよい。組換え組織因子のなかでは、ヒトの血液凝固時間をより的確に測定する観点から、組み換えヒト組織因子が好ましい。組織因子をコードするcDNAとしてはヒト組織因子をコードするcDNA(GenBankアクセッション番号:NM_001993)、ウシ組織因子をコードするcDNA(GenBankアクセッション番号:NM_173878)などが挙げられるが、特に限定されない。遺伝子組換え生物は、例えば、組織因子をコードするcDNAを保持するベクターを宿主に導入することなどによって得られる。ベクターとしては、例えば、バキュロウイルスベクターABvおよびBEVSなどが挙げられるが、特に限定されない。ベクターは、宿主に応じて適宜選択することができる。宿主としては、例えば、カイコ虫体;例えば、Sf9、Sf21などの昆虫細胞などが挙げられるが、特に限定されない。宿主へのベクターの導入は、ベクターの種類に応じた方法によって行なうことができる。ベクターがウイルスベクターである場合、宿主へのウイルスベクターの導入は、ウイルスベクターから得られた組換えウイルスを宿主に感染させることによって行なうことができる。発現した組換え組織因子は、例えば、以下の操作などを行なうことによって遺伝子組換え生物から取得することができる。まず、遺伝子組換え生物を破砕して破砕液を得る。得られた破砕液を遠心分離に供して組換え組織因子を含む画分を得る。つぎに、得られた画分を可溶化させて組換え組織因子を含む溶液を得ることができる。
【0028】
本実施形態に係る試薬に含まれるリン脂質1mgあたりの組織因子の量は、通常、適正な凝固時間および感度を確保する観点から、好ましくは1.6μg以上、より好ましくは5.0μg以上であり、適正な凝固時間および感度を確保する観点から、好ましくは16.7μg以下、より好ましくは12.0μg以下である。
【0029】
本実施形態に係る試薬におけるカルシウムイオンの量は、第VII因子を活性化させ、凝固反応を進行させるのに適した量であればよい。本実施形態に係る試薬におけるカルシウムイオンの量は、通常、適正な凝固時間および感度を確保する観点から、好ましくは8mM以上、より好ましくは15mM以上であり、適正な凝固時間および感度を確保する観点から、好ましくは45mM以下、より好ましくは30mM以下である。
【0030】
本実施形態に係る試薬は、当該試薬に含まれる組織因子、カルシウムイオンを安定的に保持する観点から、緩衝液をさらに含むことができる。緩衝液としては、例えば、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸〔HEPES〕緩衝液、トリス緩衝液などが挙げられるが、特に限定されない。緩衝液のpHは、本実施形態に係る試薬に含まれる組織因子、カルシウムイオンを安定的に保持するのに適したpHであればよい。緩衝液のpHは、適正な凝固時間を確保するとともに安定性を向上させる観点から、好ましくは7以上、より好ましくは7.5であり、適正な凝固時間を確保するとともに安定性を向上させる観点から、好ましくは8.5以下である。
【0031】
本実施形態に係る試薬は、助剤をさらに含んでいてもよい。助剤としては、例えば、防腐剤、抗酸化剤、賦形剤などが挙げられるが、特に限定されない。防腐剤としては、例えば、アジ化ナトリウムなどが挙げられるが、特に限定されない。抗酸化剤としては、例えば、ブチルヒドロキシアニソールなどが挙げられるが、特に限定されない。腑形剤としては、例えば、アラニン、スクロース、マンニトールなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0032】
本実施形態に係る試薬は、凍結乾燥物であってもよく、凍結乾燥物が溶媒に溶解された溶液であってもよい。
【0033】
本実施形態に係る試薬における全リポソームの含有量に対する第2のリポソームの含有量は、適正な凝固時間および感度を確保する観点から、好ましくは20〜70質量%、より好ましくは30〜50質量%である。
【0034】
本実施形態に係る試薬は、第1のリポソームと、第1のリポソームに含まれるホスファチジルコリン化合物およびホスファチジルエタノールアミン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種類のリン脂質からなる第2のリポソームとをリポソームとして含む。したがって、本実施形態に係る試薬によれば、正常血漿の凝固の測定の際に適正な範囲の凝固時間、具体的には10.0〜13.0秒間および適正な国際感受性指標、具体的には1.0±0.2の両方を確保することができる。また、本実施形態に係る試薬は、凝固時間の測定の際に、共存物質による影響を受けにくいという利点を有する。
【0035】
2.プロトロンビン時間測定用試薬の製造方法
本実施形態に係るプロトロンビン時間測定用試薬の製造方法(以下、「試薬の製造方法」ともいう)は、(A)ホスファチジルコリン化合物と、ホスファチジルエタノールアミン化合物と、ホスファチジルセリン化合物とを用いてリン脂質層を有する第1のリポソームを形成させる工程、
(B)ホスファチジルコリン化合物およびホスファチジルエタノールアミン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種類のリン脂質を用いて第1のリポソームとは異なる組成のリン脂質層を有する第2のリポソームを形成させる工程、および
(C)工程(A)で得られた第1のリポソームおよび工程(B)で得られた第2のリポソームの少なくとも一方のリン脂質層と組織因子とを会合させる工程
を含むプロトロンビン時間測定用試薬の製造方法を含む。
【0036】
工程(A)では、ホスファチジルコリン化合物と、ホスファチジルエタノールアミン化合物と、ホスファチジルセリン化合物とを用いてリン脂質層を有する第1のリポソームを形成させる。
【0037】
工程(A)では、まず、ホスファチジルコリン化合物と、ホスファチジルエタノールアミン化合物と、ホスファチジルセリン化合物とをクロロホルムに添加して溶解させ、リン脂質のクロロホルム溶液を得る。リン脂質のクロロホルム溶液における[ホスファチジルコリン化合物/ホスファチジルエタノールアミン化合物](質量比)は、適正な凝固時間および感度を確保する観点から、好ましくは2.0以上であり、適正な凝固時間および感度を確保する観点から、好ましくは3.0未満、より好ましくは2.9以下である。
【0038】
つぎに、得られたリン脂質のクロロホルム溶液からクロロホルムを蒸発させことにより、リン脂質の薄膜を形成させる。得られたリン脂質の薄膜をHEPES緩衝液A〔組成:150mM塩化ナトリウムおよび25mM HEPES(pH7.35)〕で膨潤させ、リン脂質2重層を有する第1のリポソームを形成させる。クロロホルムの蒸発は、例えば、エバポレーターなどを用いることによって行なうことができる。
【0039】
つぎに、得られた第1のリポソームを含む混合物を、例えば、スターラーなどによって攪拌させる。撹拌速度は、混合物の成分を十分に混合する観点から、通常、400rpm以上、より好ましくは450rpm以上であり、リポソームの破砕を抑制する観点から、好ましくは650rpm以下、より好ましくは600rpm以下である。撹拌時間は、リポソームの膨潤を達成するのに十分な時間であればよい。撹拌時間は、通常、好ましくは45分間以上、より好ましくは60分間以上であり、好ましくは120分間以下、より好ましくは90分間以下である。
【0040】
その後、混合物に対し超音波を照射し、分散液を得る。これにより、ホスファチジルコリン化合物と、ホスファチジルエタノールアミン化合物と、ホスファチジルセリン化合物とを含むリン脂質2重層を有する第1のリポソームの分散液が得られる。なお、必要に応じ、分散液に対し、所望の粒子径の第1のリポソームを得るのに適切な孔径を有するメンブランを用い、エクストルーダー処理を施して第1のリポソームの粒子径を均一化させてもよい。超音波の周波数は、混合物の液体成分に対し、第1のリポソームを十分に分散させることができる周波数であればよい。超音波の周波数は、通常、37〜40kHzである。超音波の照射時間は、混合物の液体成分に対し、第1のリポソームを十分に分散させることができる時間であればよい。超音波の照射時間は、通常、5〜20分間である。
【0041】
工程(B)では、リン脂質として、ホスファチジルコリン化合物およびホスファチジルエタノールアミン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種類のリン脂質を用いて前記第1のリポソームとは異なる組成のリン脂質層を有する第2のリポソームを形成させる。
【0042】
工程(B)では、まず、ホスファチジルコリン化合物およびホスファチジルエタノールアミン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種類のリン脂質をクロロホルムに添加して溶解させ、リン脂質のクロロホルム溶液を得る。
【0043】
工程(B)において、リン脂質の薄膜の形成から第2のリポソームの形成の操作は、工程(A)におけるリン脂質の薄膜の形成から第1のリポソームの形成の操作と同様である。これにより、ホスファチジルコリン化合物およびホスファチジルエタノールアミン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種類のリン脂質を含むリン脂質2重層を有する第2のリポソームの分散液が得られる。
【0044】
工程(C)では、工程(A)で得られた第1のリポソームおよび工程(B)で得られた第2のリポソームの少なくとも一方のリン脂質層と組織因子とを会合させる。
【0045】
工程(C)では、まず、第1のリポソームの分散液および/または第2のリポソームの分散液を、組織因子含有溶液に混合し、リポソームと組織因子との混合液を得る。なお、工程(C)においては、工程(A)で得られた第1のリポソームの分散液と工程(B)で得られた第2のリポソームの分散液との混合物に組織因子溶液を接触させてもよい。あるいは、工程(C)では、工程(A)で得られた第1のリポソームの分散液または工程(B)で得られた第2のリポソームの分散液に組織因子溶液を接触させた後、得られた産物と組織因子溶液と接触させていないリポソームの分散液とを接触させてもよい。
【0046】
組織因子含有溶液に用いられる溶媒としては、例えば、トリス塩酸緩衝液A〔組成:150mM塩化ナトリウム、10質量%グリセロールおよび20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)〕などが挙げられるが、特に限定されない。組織因子含有溶液における組織因子の量は、所望の試薬の種類に応じて適宜決定することができる。組織因子含有溶液における組織因子の量は、通常、適正な凝固時間および感度を確保する観点から、好ましくは0.1μg/mL以上、より好ましくは0.3μg/mL以上であり、適正な凝固時間および感度を確保する観点から、好ましくは1.0μg/mL以下、より好ましくは0.7μg/mL以下である。
【0047】
組織因子を第1のリポソームのリン脂質層に会合させる場合、第1のリポソームの分散液1mLあたりの組織因子溶液の容量は、第1のリポソーム1mgあたりの組織因子の量が1.6〜16.7μgとなる容量であればよい。組織因子を第1のリポソームのリン脂質層および第2のリポソームのリン脂質層の両方に会合させる場合、第1のリポソームの分散液1mLあたりの組織因子溶液の容量は、第1のリポソーム1mgあたりの組織因子の量が1.6〜16.7μgとなる容量であればよい。
【0048】
その後、工程(C)では、リポソームと組織因子との混合液を、例えば、スターラーなどにより、攪拌させる。これにより、第1のリポソームのリン脂質層および第2のリポソームのリン脂質層の少なくとも一方に組織因子が会合したリポソーム組成物が得られる。撹拌速度は、適正な凝固時間および感度を確保する観点から、好ましくは850rpm以上、より好ましくは900rpm以上であり、適正な凝固時間および感度を確保する観点から、好ましくは1050rpm以下、より好ましくは1000rpm以下である。撹拌時間は、リポソームと組織因子とが十分に会合する時間であればよい。撹拌時間は、通常、好ましくは100時間以上、より好ましくは140時間以上であり、好ましくは300時間以下、より好ましくは200時間以下である。
【0049】
工程(C)で得られたリポソーム組成物には、さらにカルシウム溶液を添加し、得られた混合物を撹拌する。これにより、前述のプロトロンビン時間測定用試薬を得る。また、工程(C)で得られたリポソーム組成物には、必要により、安定化剤などをさらに添加してもよい。得られたプロトロンビン時間測定用試薬は、適宜凍結乾燥させることができる。カルシウム溶液としては、例えば、塩化カルシウム水溶液などが挙げられるが、特に限定されない。カルシウム溶液におけるカルシウムイオンの濃度は、通常、適正な凝固時間および感度を確保する観点から、好ましくは37.5mM以上、より好ましくは50mM以上であり、適正な凝固時間および感度を確保する観点から、好ましくは75mM以下、より好ましくは62.5mM以下である。リポソーム組成物に対するカルシウム溶液の添加量は、試薬におけるカルシウムイオンの量が好ましくは8mM以上、より好ましくは15mM以上となり、好ましくは45mM以下、より好ましくは30mM以下となる量であればよい。
【0050】
本実施形態に係る試薬には、当該試薬に含まれる組織因子、カルシウムイオンを安定的に保持する観点から、緩衝液をさらに混合することができる。
【0051】
3.試薬キット
前述の試薬は、容器に封入された試薬キットとして提供することができる。本実施形態に係る試薬キットの一例を図1に示す。図1に示される試薬キット10は、試薬21が入った容器22と、添付文書31と、箱41とを含む。試薬21は、第1のリポソーム101と、第2のリポソーム102とを含む。第1のリポソーム101のリン脂質層200には、組織因子210が貫通した状態で会合している。本実施形態では、第1のリポソーム101のリン脂質層200は、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン201とジオレオイルホスファチジルコリン202とジオレオイルホスファチジルセリン203とから構成されている。本実施形態では、第2のリポソーム102は、ジオレオイルホスファチジルコリン202からなるリン脂質層からなる。なお、図1に示される実施形態では、第2のリポソーム102のリン脂質層には組織因子210が会合していないが、第2のリポソーム102のリン脂質層に組織因子210が結合していてもよい。試薬キット10には、例えば、希釈用の水系溶媒、対照血漿などが含まれていてもよい。水系溶媒は、血液凝固能の臨床検査に通常用いられる水系溶媒から適宜選択できる。水系溶媒としては、例えば、水、生理食塩水などが挙げられるが、特に限定されない。対照血漿としては、例えば、正常血漿などが挙げられるが、特に限定されない。添付文書31は、試薬キット10を用いてプロトロンビン時間の測定を行なう操作手順などの記載を含む。箱41は、試薬21が入った容器22と、添付文書31とを収容する。
【実施例】
【0052】
以下において、「リポソームA」は前述の第1のリポソームを示す。また、「リポソームB」は前述の第2のリポソームを示す。さらに、以下の実施例などにおいて、各略語の意味は、以下のとおりである。
<略語>
DOPE: ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン
DOPC: ジオレオイルホスファチジルコリン
DOPS: ジオレオイルホスファチジルセリン
PE: ホスファチジルエタノールアミン化合物
PC: ホスファチジルコリン化合物
PS: ホスファチジルセリン化合物
HEPES: 4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸〔4−(2−hydroxyethyl)−1−piperazineethanesulfonic acid〕
ISI: 国際感受性指標(International Sensitivity Index)
【0053】
(実施例1および比較例1)
(1)リポソームA1の調製
25mg/mLリン脂質−クロロホルム溶液A〔DOPE 510mg、DOPC 1020mgおよびDOPS 510mg含有〕をナスフラスコに添加した。つぎに、リン脂質−クロロホルム溶液Aが入ったナスフラスコをロータリエバポレーターで回転させながら、クロロホルムを蒸発させた。これにより、ナスフラスコの内壁面にリン脂質の薄膜を形成させた。HEPES緩衝液A〔組成:150mM塩化ナトリウムおよび25mM HEPES(pH7.35)〕850mLを用いてリン脂質の薄膜を膨潤させ、リポソームを含む混合物を得た。つぎに、スターラーを用いて混合物を500rpmで60分間攪拌させた。その後、水浴型超音波装置〔シャープ(株)製、商品名:UT−306H〕を用い、混合物に対し15分間37kHzの超音波を照射してリポソームA1含有液を得た。得られたリポソームA1におけるDOPE、DOPCおよびDOPSそれぞれの濃度は、0.6mg/mL(DOPE濃度)、1.2mg/mL(DOPC濃度)および0.6mg/mL(DOPS濃度)であった。
【0054】
(2)リポソームB1の調製
DOPE 510mg、DOPC 1020mg、DOPS 510mgを用いる代わりに、DOPC 1280mgを用いたことおよびHEPES緩衝液A 800mLを用いてリン脂質の薄膜を膨潤させたことを除き、(1)と同様の操作を行ない、リポソームB含有液を得た。リポソームBにおけるDOPC濃度は、1.6mg/mLであった。
【0055】
(3)プロトロンビン時間測定用試薬の調製
(1)のリポソームA1含有液775mLと、(2)のリポソームB1含有液775mLと、50μg/mL組織因子溶液310mLと、HEPES緩衝液B〔組成:22mM塩化カルシウム、1mM塩化マグネシウム、1質量%スクロース、0.1質量%アジ化ナトリウムおよび25mM HEPES(pH7.5)〕1240mLとを混合した。得られた混合物を37℃に加温しながら、950rpmで8日間撹拌させることにより、リポソームと組織因子とを再構成させ、リポソーム組成物を得た。得られたリポソーム組成物3LとHEPES緩衝液C〔組成:0.75mMアラニン、0.075mMスクロース、2.5mM塩化マグネシウム、60mM塩化カルシウムおよび25mM HEPES(pH7.5)〕12Lとを混合した。得られた混合物をバイアルに2mLずつ分注した。バイアル中の混合物を凍結乾燥させ、実施例1のプロトロンビン時間測定用試薬を得た。実施例1の試薬における全リポソームの含有量に対するリポソームB1の含有量は、40質量%であった。
【0056】
また、(1)のリポソームA1含有液775mLと、HEPES緩衝液A 775mLと、50μg/mL組織因子溶液310mLと、HEPES緩衝液B 1240mLとを混合した。得られた混合物を37℃に加温しながら、950rpmで8日間撹拌させることにより、リポソームと組織因子とを再構成させ、リポソーム組成物を得た。得られたリポソーム組成物3LとHEPES緩衝液C 12Lとを混合した。得られた混合物をバイアルに2mLずつ分注した。バイアル中の混合物を凍結乾燥させ、比較例1のプロトロンビン時間測定用試薬を得た。
【0057】
(4)凝固時間の測定およびISIの算出
(3)のプロトロンビン時間測定用試薬の3ロットそれぞれを精製水4mLに再溶解させ、試薬溶液を得た。
【0058】
凝固測定装置〔シスメックス(株)製、商品名:CS−2000i〕内において、検体50μLを37℃で1〜2分間インキュベーションした。つぎに、試薬溶液100μLを凝固測定装置内の検体に添加した後、得られた測定試料について、凝固測定装置を用いて波長660nmでの透過光量の変化を測定した。なお、検体として、コントロール血漿〔プレシジョン・バイオロジック・インク(Precision BioLogic Inc.)製、商品名:CRYOcheck Pooled Normal Plasma〕およびキャリブレーター〔テクノクローン(Technoclone)製、商品名:AK Calibrant〕を用いた。
【0059】
キャリブレーターの凝固時間の測定値を用い、式(I):
ISI=[標準試薬を用いたときのISI]×[(評価対象の試薬を用いたときのキャリブレーターの凝固時間の対数)と(標準試薬を用いたときのキャリブレーターの凝固時間の対数)とをプロットして得られた直線の傾き]
(I)
にしたがってISIを求めた。
【0060】
実施例1および比較例1のプロトロンビン時間測定用試薬を用いたときの凝固時間およびISIを調べた結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示された結果から、実施例1のプロトロンビン時間測定用試薬を用いたときのコントロール血漿の凝固時間は、適正な凝固時間の範囲(10.0〜13.0)であることがわかった。これに対し、表1に示された結果から、比較例1のプロトロンビン時間測定用試薬を用いたときのコントロール血漿の凝固時間は、適正な凝固時間の範囲(10.0〜13.0)から逸脱した範囲の時間であることがわかった。
【0063】
実施例1のプロトロンビン時間測定用試薬のリポソームAのリン脂質の組成は、比較例1のプロトロンビン時間測定用試薬にリポソームのリン脂質の組成と同じである。しかし、実施例1のプロトロンビン時間測定用試薬では、リン脂質の組成が異なる2種類のリポソームが含まれている。これに対し、比較例1のプロトロンビン時間測定用試薬では、1種類のリポソームが含まれている。したがって、これらの結果から、実施例1のプロトロンビン時間測定用試薬のリポソームAと同じリン脂質の組成を有するリポソームを単独で用いても、適正な凝固時間を確保することができないことがわかった。
【0064】
また、表1に示された結果から、実施例1のプロトロンビン時間測定用試薬を用いたときのISIは、適正なISIの範囲(1.0±0.2)であることがわかった。これに対し、表1に示された結果から、比較例2のプロトロンビン時間測定用試薬を用いたときのISIは、1.34であり、適正なISIの範囲から大きく逸脱していることがわかった。したがって、比較例2のプロトロンビン時間測定用試薬は、実用に適した性質を有していないことがわかった。
【0065】
これらの結果から、実施例1のプロトロンビン時間測定用試薬は、適正な範囲の凝固時間および適正なISIを確保することができることがわかった。
【0066】
(実施例2および比較例2)
(1)リポソームA2の調製
DOPE 15mgと、DOPC 30mgと、DOPS 15mgとを含むリン脂質−クロロホルム溶液Aをガラス製容器に入れた。つぎに、リン脂質−クロロホルム溶液Aが入ったガラス製容器をローテーター〔アズワン(株)製、商品名:MIX ROTOR VMR−5R〕で回転させながら、クロロホルムを蒸発させた。これにより、ガラス製容器の内壁面にリン脂質の薄膜を形成させた。HEPES緩衝液A 25mLを用いてリン脂質の薄膜を膨潤させ、リポソームA2を含む混合物を得た。つぎに、スターラーを用いて混合物を500rpmで60分間攪拌させた。その後、水浴型超音波装置〔シャープ(株)製、商品名:UT−306H〕を用い、混合物に対し15分間超音波を照射してリポソームA2含有液を得た。得られたリポソームA2におけるDOPE、DOPCおよびDOPSそれぞれの濃度は、0.6mg/mL(DOPE濃度)、1.2mg/mL(DOPC濃度)および0.6mg/mL(DOPS濃度)であった。
【0067】
(2)リポソームB2の調製
DOPE 15mg、DOPC 30mgおよびDOPS 15mgを用いる代わりに、DOPC 40mgを用いたことを除き、(1)と同様の操作を行ない、リポソームB2含有液を得た。リポソームB2におけるDOPC濃度は、1.6mg/mLであった。
【0068】
(3)プロトロンビン時間測定用試薬の調製
(1)のリポソームA2含有液20mLと、(2)のリポソームB2含有液20mLと、50μg/mL組織因子溶液8mLと、HEPES緩衝液B 32mLとを混合した。得られた混合物を37℃に加温しながら、650rpmで撹拌させることにより、リポソームと組織因子とを再構成させ、リポソーム組成物を得た。得られたリポソーム組成物を得た。得られたリポソーム組成物80mLとHEPES緩衝液C 320mLとを混合した。得られた混合物をバイアルに2mLずつ分注した。バイアル中の混合物を凍結乾燥させ、実施例2のプロトロンビン時間測定用試薬を得た。実施例2の試薬における全リポソームの含有量に対するリポソームB2の含有量は、40質量%であった。
【0069】
また、(1)のリポソームA2含有液20mLと、50μg/mL組織因子溶液8mLとをHEPES緩衝液B 32mLに添加した。得られた混合物を37℃に加温しながら、650rpmで撹拌させることにより、リポソームと組織因子とを再構成させ、リポソーム組成物を得た。得られたリポソーム組成物を得た。得られたリポソーム組成物60mLと、HEPES緩衝液A 20mLと、HEPES緩衝液C 320mLとを混合した。得られた混合物をバイアルに2mLずつ分注した。バイアル中の混合物を凍結乾燥させ、比較例2のプロトロンビン時間測定用試薬を得た。
【0070】
(4)凝固時間に対するトリグリセリドの影響
実施例2のプロトロンビン時間測定用試薬および比較例2のプロトロンビン時間測定用試薬を用い、トリグリセリドを含む検体またはトリグリセリドを含まない検体を用いたことを除き、実施例1および比較例1の(4)と同様の操作を行ない、凝固時間を測定した。つぎに、トリグリセリドを含まない検体の凝固時間に対するトリグリセリドを含む検体の凝固時間の変化率を求めた。なお、トリグリセリドを含む検体は、以下のように調製した。まず、正常血漿〔シスメックス(株)製、商品名:コアグトロールIX〕とトリグリセリド含有液〔日本製薬(株)製、商品名:イントラファット注20%〕とを、正常血漿/トリグリセリド(体積比)が9.5/0.5となるように混合し、サンプルAを得た。また、正常血漿と生理食塩水とを、正常血漿/生理食塩水(体積比)が9.5/0.5となるように混合し、サンプルBを得た。つぎに、サンプルAとサンプルBとをサンプルA/サンプルB(体積比)が1/9となるように混合し、トリグリセリド濃度100mg/dLの検体を得た。また、サンプルAとサンプルBとをサンプルA/サンプルB(体積比)が1/4となるように混合し、トリグリセリド濃度200mg/dLの検体を得た。なお、サンプルBを、トリグリセリドを含まない検体(トリグリセリド濃度0mg/dLの検体)とした。
【0071】
実施例2および比較例2のプロトロンビン時間測定用試薬を用いたときの凝固時間の変化率とトリグリセリド濃度との関係を調べた結果を図2に示す。図中、白丸は実施例2のプロトロンビン時間測定用試薬を用いたときの凝固時間の変化率とトリグリセリド濃度との関係、黒丸は比較例2のプロトロンビン時間測定用試薬を用いたときの凝固時間の変化率とトリグリセリド濃度との関係を示す。
【0072】
図2に示された結果から、実施例2のプロトロンビン時間測定用試薬を用いたときの凝固時間の変化率は、比較例2のプロトロンビン時間測定用試薬を用いたときの凝固時間の変化率よりも小さいことがわかった。したがって、これらの結果から、リポソームAと、リポソームAに含まれるPCからなるリポソームBとをリポソームとして含むプロトロンビン時間測定用試薬は、血漿に含まれる共存物質のトリグリセリドによる影響を受けにくいことがわかった。
【0073】
(5)凝固時間に対するビリルビンF濃度の影響
実施例2のプロトロンビン時間測定用試薬および比較例2のプロトロンビン時間測定用試薬を用い、ビリルビンFを含む検体を用いたことを除き、実施例1および比較例1の(4)と同様の操作を行ない、凝固時間を測定した。つぎに、ビリルビンFを含まない検体の凝固時間に対するビリルビンFを含む検体の凝固時間の変化率を求めた。なお、ビリルビンFを含む検体は、以下のように調製した。まず、正常血漿〔シスメックス(株)製、商品名:コアグトロールIX〕とビリルビンF含有液〔シスメックス(株)製、商品名:干渉チェックAプラス〕とを、正常血漿/ビリルビンF(体積比)が8/2となるように混合し、サンプルAを得た。また、正常血漿と生理食塩水とを、正常血漿/生理食塩水(体積比)が8/2となるように混合し、サンプルBを得た。つぎに、サンプルAとサンプルBとをサンプルA/サンプルB(体積比)が表2に示される体積比となるように混合し、ビリルビンFを含む検体を得た。サンプルBを、ビリルビンFを含まない検体(ビリルビンF濃度0mg/mLの検体)とした。
【0074】
【表2】
【0075】
実施例2および比較例2のプロトロンビン時間測定用試薬を用いたときの凝固時間の変化率とビリルビンF濃度との関係を調べた結果を図3に示す。図中、白丸は実施例2のプロトロンビン時間測定用試薬を用いたときの凝固時間の変化率とビリルビンF濃度との関係、黒丸は比較例2のプロトロンビン時間測定用試薬を用いたときの凝固時間の変化率とビリルビンF濃度との関係を示す。
【0076】
図3に示された結果から、実施例2のプロトロンビン時間測定用試薬を用いたときの凝固時間の変化率は、比較例2のプロトロンビン時間測定用試薬を用いたときの凝固時間の変化率よりも小さいことがわかった。したがって、これらの結果から、リポソームAと、リポソームAに含まれるPCからなるリポソームBとをリポソームとして含むプロトロンビン時間測定用試薬は、血漿に含まれる共存物質のビリルビンFによる影響を受けにくいことがわかった。
【0077】
(実施例3〜7および比較例3)
(1)リポソームA3およびA4の調製
DOPE 15mgと、DOPC 30mgと、DOPS 15mgとを含むリン脂質−クロロホルム溶液Aをガラス製容器に入れた。つぎに、リン脂質−クロロホルム溶液Aが入ったガラス製容器をローテーター〔アズワン(株)製、商品名:MIX ROTOR VMR−5R〕で回転させながら、クロロホルムを蒸発させた。これにより、ガラス製容器の内壁面にリン脂質の薄膜を形成させた。HEPES緩衝液A 25mLを用いてリン脂質の薄膜を膨潤させ、リポソームA3を含む混合物を得た。つぎに、スターラーを用いて混合物を500rpmで60分間攪拌させた。その後、水浴型超音波装置〔シャープ(株)製、商品名:UT−306H〕を用い、混合物に対し15分間超音波を照射してリポソームA3含有液を得た。得られたリポソームA3におけるDOPE、DOPCおよびDOPSそれぞれの濃度は、0.6mg/mL(DOPE濃度)、1.2mg/mL(DOPC濃度)および0.6mg/mL(DOPS濃度)であった。
【0078】
また、DOPE 15mg、DOPC 30mgおよびDOPS 15mgを用いる代わりに、DOPE 15mg、DOPC 70mgおよびDOPS 15mgを用いたことを除き、リポソームA3の調製と同様の操作を行ない、リポソームA4含有液を得た。リポソームA4におけるにおけるDOPE、DOPCおよびDOPSそれぞれの濃度は、0.6mg/mL(DOPE濃度)、2.8mg/mL(DOPC濃度)および0.6mg/mL(DOPS濃度)であった。
【0079】
(2)リポソームB3〜B7の調製
DOPE 15mg、DOPC 30mgおよびDOPS 15mgを用いる代わりに、DOPC 20mgを用いたことを除き、(1)のリポソームA3の調製と同様の操作を行ない、リポソームB3含有液を得た。リポソームB3におけるDOPC濃度は、0.8mg/mLであった。
【0080】
DOPE 15mg、DOPC 30mgおよびDOPS 15mgを用いる代わりに、DOPC 40mgを用いたことを除き、(1)のリポソームA3の調製と同様の操作を行ない、リポソームB4含有液を得た。リポソームB4におけるDOPC濃度は、1.6mg/mLであった。
【0081】
DOPE 15mg、DOPC 30mgおよびDOPS 15mgを用いる代わりに、DOPC 60mgを用いたことを除き、(1)のリポソームA3の調製と同様の操作を行ない、リポソームB5含有液を得た。リポソームB5におけるDOPC濃度は、2.4mg/mLであった。
【0082】
DOPE 15mg、DOPC 30mgおよびDOPS 15mgを用いる代わりに、DOPC 80mgを用いたことを除き、(1)のリポソームA3の調製と同様の操作を行ない、リポソームB6含有液を得た。リポソームB6におけるDOPC濃度は、3.2mg/mLであった。
【0083】
DOPE 15mg、DOPC 30mgおよびDOPS 15mgを用いる代わりに、DOPC 100mgを用いたことを除き、(1)のリポソームA3の調製と同様の操作を行ない、リポソームB7含有液を得た。リポソームB7におけるDOPC濃度は、4.0mg/mLであった。
【0084】
(3)プロトロンビン時間測定用試薬の調製
リポソームA1含有液20mLと、50μg/mL組織因子溶液8mLと、HEPES緩衝液B 32mLとを混合した。得られた混合物を37℃に加温しながら、650rpmで撹拌させることにより、リポソームと組織因子とを再構成させ、リポソーム組成物を得た。得られたリポソーム組成物60mLと、リポソームB3含有液20mLと、HEPES緩衝液C 320mLとを混合した。得られた混合物をバイアルに2mLずつ分注した。バイアル中の混合物を凍結乾燥させ、実施例3のプロトロンビン時間測定用試薬を得た。実施例3の試薬における全リポソームの含有量に対するリポソームB3の含有量は、25質量%であった。
【0085】
リポソームB3含有液を用いる代わりに、リポソームB4含有液(実施例4)、リポソームB5含有液(実施例5)、リポソームB6含有液(実施例6)またはリポソームB7含有液(実施例7)を用いたことを除き、実施例3と同様の操作を行ない、実施例4〜7のプロトロンビン時間測定用試薬を得た。実施例4の試薬における全リポソームの含有量に対するリポソームB4の含有量は、40質量%であった。実施例5の試薬における全リポソームの含有量に対するリポソームB5の含有量は、50質量%であった。実施例6の試薬における全リポソームの含有量に対するリポソームB6の含有量は、57質量%であった。実施例7の試薬における全リポソームの含有量に対するリポソームB7の含有量は、63質量%であった。
【0086】
リポソームA2含有液20mLと、50μg/mL組織因子溶液8mLと、HEPES緩衝液A 20mLと、HEPES緩衝液B 32mLとを混合した。得られた混合物を37℃に加温しながら、650rpmで撹拌させることにより、リポソームと組織因子とを再構成させ、リポソーム組成物を得た。得られたリポソーム組成物を得た。得られたリポソーム組成物80mLと、HEPES緩衝液C 320mLとを混合した。得られた混合物をバイアルに2mLずつ分注した。バイアル中の混合物を凍結乾燥させ、比較例3のプロトロンビン時間測定用試薬を得た。
【0087】
(4)凝固時間の測定およびISIの算出
実施例3〜7および比較例3のプロトロンビン時間測定用試薬を用いたことを除き、実施例1および比較例1の(4)と同様の操作を行ない、凝固時間の測定およびISIの算出を行なった。
【0088】
実施例3〜7および比較例3のプロトロンビン時間測定用試薬を用いたときの凝固時間およびISIを調べた結果を表3に示す。
【0089】
【表3】
【0090】
表3に示された結果から、リン脂質としてDOPCを含むリポソームBを含む実施例3〜7のプロトロンビン時間測定用試薬を用いたときの凝固時間およびISIは、リポソームBにおけるDOPCの含有量の如何を問わず、いずれも、適正な凝固時間およびISIであることがわかった。しかし、リン脂質としてDOPCを含むリポソームBを含まず、リポソームAにおけるDOPCの含有量が多い比較例3のプロトロンビン時間測定用試薬のISIは、適正なISIの範囲から逸脱していることがわかった。したがって、これらの結果から、リポソームAと、リポソームAに含まれるPCからなるリポソームBとをリポソームとして含むプロトロンビン時間測定用試薬によれば、適正な凝固時間およびISIを確保することができることがわかった。
【0091】
(実施例8〜10および比較例4)
(1)リポソームA5の調製
DOPE 15mgと、DOPC 30mgと、DOPS 15mgとを含むリン脂質−クロロホルム溶液Aをガラス製容器に入れた。つぎに、リン脂質−クロロホルム溶液Aが入ったガラス製容器をローテーター〔アズワン(株)製、商品名:MIX ROTOR VMR−5R〕で回転させながら、クロロホルムを蒸発させた。これにより、ガラス製容器の内壁面にリン脂質の薄膜を形成させた。HEPES緩衝液A 25mLを用いてリン脂質の薄膜を膨潤させ、リポソームA5を含む混合物を得た。つぎに、スターラーを用いて混合物を500rpmで60分間攪拌させた。その後、水浴型超音波装置〔シャープ(株)製、商品名:UT−306H〕を用い、混合物に対し15分間超音波を照射してリポソームA5含有液を得た。得られたリポソームA5におけるDOPE、DOPCおよびDOPSそれぞれの濃度は、0.6mg/mL(DOPE濃度)、1.2mg/mL(DOPC濃度)および0.6mg/mL(DOPS濃度)であった。
【0092】
(2)リポソームB8〜B11の調製
DOPE 15mg、DOPC 30mgおよびDOPS 15mgを用いる代わりに、DOPE 40mgを用いたことを除き、(1)のリポソームA5の調製と同様の操作を行ない、リポソームB8含有液を得た。リポソームB8におけるDOPE濃度は、1.6mg/mLであった。
【0093】
DOPE 15mg、DOPC 30mgおよびDOPS 15mgを用いる代わりに、DOPE 20mgおよびDOPC 20mgを用いたことを除き、(1)のリポソームA5の調製と同様の操作を行ない、リポソームB9含有液を得た。リポソームB9におけるDOPEおよびDOPCそれぞれの濃度は、0.8mg/mLおよび0.8mg/mLであった。
【0094】
DOPE 15mg、DOPC 30mgおよびDOPS 15mgを用いる代わりに、DOPC 40mgを用いたことを除き、(1)のリポソームA5の調製と同様の操作を行ない、リポソームB10含有液を得た。リポソームB10におけるDOPC濃度は、1.6mg/mLであった。
【0095】
DOPE 15mg、DOPC 30mgおよびDOPS 15mgを用いる代わりに、DOPS 40mgを用いたことを除き、(1)のリポソームA5の調製と同様の操作を行ない、リポソームB11含有液を得た。リポソームB11におけるDOPS濃度は、1.6mg/mLであった。
【0096】
(3)プロトロンビン時間測定用試薬の調製
(1)のリポソームA5含有液20mLと、(2)のリポソームB8含有液20mLと、50μg/mL組織因子溶液8mLと、HEPES緩衝液B 32mLとを混合した。得られた混合物を37℃に加温しながら、950rpmで8日間撹拌させることにより、リポソームと組織因子とを再構成させ、リポソーム組成物を得た。得られたリポソーム組成物80mLとHEPES緩衝液C320mLとを混合した。得られた混合物をバイアルに2mLずつ分注した。バイアル中の混合物を凍結乾燥させ、実施例8のプロトロンビン時間測定用試薬を得た。実施例8の試薬における全リポソームの含有量に対するリポソームB8の含有量は、40質量%であった。
【0097】
リポソームB8含有液を用いる代わりに、リポソームB9含有液(実施例9)、リポソームB10含有液(実施例10)またはリポソームB11含有液(比較例4)を用いたことを除き、実施例8と同様の操作を行ない、実施例9〜10および比較例4のプロトロンビン時間測定用試薬を得た。実施例9の試薬における全リポソームの含有量に対するリポソームB9の含有量は、40質量%であった。実施例10の試薬における全リポソームの含有量に対するリポソームB10の含有量は、40質量%であった。比較例4の試薬における全リポソームの含有量に対するリポソームB11の含有量は、40質量%であった。
【0098】
(4)凝固時間の測定およびISIの算出
実施例8〜10および比較例4のプロトロンビン時間測定用試薬を用いたことを除き、実施例1および比較例1の(4)と同様の操作を行ない、凝固時間の測定およびISIの算出を行なった。
【0099】
実施例8〜10および比較例4のプロトロンビン時間測定用試薬を用いたときの凝固時間およびISIを調べた結果を表4に示す。
【0100】
【表4】
【0101】
表4に示された結果から、リポソームBを構成するリン脂質がDOPE単独(実施例8)、DOPCとDOPEとの混合物(実施例9)またはDOPC単独(実施例10)であるプロトロンビン時間測定用試薬の凝固時間およびISIは、いずれも、適正な凝固時間およびISIであることがわかった。したがって、これらの結果から、リポソームAと、リポソームAに含まれるPEおよびPCからなる群より選ばれた少なくとも1種類のリン脂質からなるリポソームBとをリポソームとして含むプロトロンビン時間測定用試薬によれば、適正な凝固時間およびISIを確保することができることがわかった。
【0102】
以上説明したように、本実施形態に係るプロトロンビン時間測定用試薬によれば、第1のリポソームと、第1のリポソームに含まれるホスファチジルコリン化合物およびホスファチジルエタノールアミン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種類のリン脂質からなる第2のリポソームとをリポソームとして含むので、正常血漿の凝固時間の測定の際に適正な凝固時間およびISIを確保することができ、しかも共存物質による影響を受けにくいことが示唆された。
【符号の説明】
【0103】
10 試薬キット
21 試薬
22 容器
31 添付文書
41 箱
101 第1のリポソーム
102 第2のリポソーム
200 リン脂質
201 ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン
202 ジオレオイルホスファチジルコリン
203 ジオレオイルホスファチジルセリン
210 組織因子
図1
図2
図3