【実施例】
【0053】
[実施例1]
この実施例は、マウス抗タウ抗体HJ8.5のヒト化のための取り組みと結果を述べる。この取り組みは、4つのヒト化軽鎖可変領域(VLまたはVK)および4つのヒト化重鎖可変領域(VH)を生じた。
【0054】
ヒト化とは、一般に、慢性処置のために非ヒトモノクローナル抗体を使用することに関連する潜在的免疫性を低減する技術を指す。免疫原性を低減するために典型的に使用される2つの方法は、CDR移植および脱免疫化である。マウス抗体HJ8.5は、Antitopeによって開発された方法を用いて脱免疫化された。
【0055】
CDR移植はタンパク質の遺伝子操作アプローチである。簡単に述べると、これは抗体の基本構造および種間でのこの保存の両方の理解に基づく。マウス抗体とヒト抗体は共通の/保存された構造を共有する。抗体構造は定常領域と可変領域に分けられ
る。可変領域はさらに、いわゆるフレームワーク領域とCDR領域に分けることができ
る。可変領域は4つのフレームワーク(Fwk)と3つのCDRで構成されることがわかる。フレームワークとCDRの配置は、軽鎖と重鎖の可変ドメインにおいて同じである。
【0056】
CDR移植では、非ヒト定常領域をヒト定常領域で置換して、いわゆるキメラ抗体を生じさせる。加えて、マウスCDR領域をヒトフレームワーク領域に移植する;生じる可変ドメインは、ヒトフレームワークとマウスCDRの混合物であ
る。最終段階として、親和性を維持するのに重要な役割を果たすと考えられる、幾つかのマウスフレームワーク残基を移植する(示していない。)。
【0057】
脱免疫化:AntitopeからのComposite Human Antibody(
商標)技術は、CDRおよび結合に役割を果たすと考えられるフレームワーク中の鍵となるアミノ酸の両方を同定することと組み合わせて使用される脱免疫化技術であると言われている。生じる完全ヒト化抗体は、出発モノクローナル抗体の結合親和性と特異性を保持し、同時にCD4+ T細胞エピトープを有さず、これによりヒトにおける望ましくない免疫原性を回避する。
【0058】
Composite Human Antibodies(
商標)は、100,000個の無関係な完全ヒト抗体可変領域配列を含むAntitopeデータベースからのヒト抗体配列の複数のセグメントを組み合わせることによって作製される。HJ8.5抗体の可変領域配列の初期モデリングを使用して、抗体結合に必須のアミノ酸を同定し、次にこれらを使用してヒト配列セグメントの選択を拘束する。この後、CD4+ T細胞エピトープを欠く完全ヒト可変領域配列の選択のために2つのコンピュータによる特許技術(iTope(
商標)およびTCED(
商標))を用いて個々の配列セグメントおよび隣接セグメント間の接合部を分析する。Composite Human Antibodiesについての可変領域をコードするDNAを合成し、ヒト定常領域と共に発現ベクターにクローニングして、ヒト化抗体の生成のために哺乳動物細胞に移植する。
【0059】
HJ8.5のヒト化:HJ8.5マウス抗タウ412抗体V領域の構造モデルを、Swiss PDBを用いて作成し、抗体の結合特性のために必須である可能性が高いV領域中の重要な「拘束」アミノ酸を同定するために分析する。分析から、幾つかの拘束フレームワーク残基を完全ヒト化V領域に含めるための候補物として同定した。これらの残基の1つ以上を含むようにヒト可変領域配列のセグメントを選択した。
【0060】
完全ヒト化HJ8.5抗体を創製するのに使用できるヒト配列セグメントの予備的なセットを選択し、ヒトMHCクラスII対立遺伝子に結合するペプチドのコンピュータ解析のためにiTope(
商標)技術を使用し(Perry et al 2008)、および公知の抗体配列関連T細胞エピトープのTCED(
商標)(T細胞エピトープデータベース)を用いて(Bryson et al 2010)分析した。ヒトMHCクラスIIへの重要な非ヒト生殖細胞系結合因子として同定された、またはTCED(
商標)に対する有意のヒットを得た配列セグメントを廃棄した。セグメント間の接合部が潜在的T細胞エピトープを含まないことを確実にするため、配列セグメントの組合せも分析した。次に選択したセグメントを組み合わせて、合成のために重鎖および軽鎖V領域配列を作製した。HJ8.5のために、4本のVH鎖および4本のVκ鎖を設計し、構築した。
【0061】
図1は、マウスHJ8.5抗体の可変領域配列ならびに重鎖および軽鎖の各々についての4つのヒト化変異体配列(4VHおよび4VL/VK配列)を示す。これら4本のVH鎖および4本のVκ鎖のアミノ酸配列を
図1に示す。Kabat et alによって定義されたCDR配列を赤色でハイライトする(下線を付している。)。もとのマウス配列からのフレームワーク変化を青色および太字でハイライトする。
【0062】
表B−1は、重鎖および軽鎖可変ドメインの各変異体中に導入されたフレームワーク変化の数を要約する。
【0063】
【表2】
【0064】
図2は、重鎖および軽鎖の各々についてのヒト化可変および定常領域配列(4VHおよび4VL/VK配列)の配列を示す。可変重鎖を、S241Pヒンジ安定化変異を含むヒトIgG4の定常重鎖に移植している。可変軽鎖をヒトκ軽鎖の定常軽鎖に移植している。この表は、理論的等電点(PI)および分子量(Mw)も列挙する。
【0065】
図3は、VHおよびVK領域をコードするポリヌクレオチドでトランスフェクトした細胞の2回の一過性発現からの発現データを示す。13のヒト化抗タウ抗体に関する結果を要約する。重鎖と軽鎖の種々の組合せは、観察された著明に異なるレベルの発現をもたらした。1回目では、VHとVL領域のすべての変異体を互いに組み合わせた(試験した16のうち13についての結果だけを示す。2回目には、1回目で認められた6つの最良発現の組合せを試験した。発現を培地mL当たりの抗体μgとして示す。より高いレベルの発現は、抗体が正しく折りたたまれ、予想されたように分泌され、非毒性で一般に安定であることを示唆するので、有益である。
【0066】
図4は効力アッセイからのデータを示す。ヒト化抗タウ抗体変異体をさらに特性づけるため、効力アッセイは、ELISA型形式で、ヒトタウへの結合に関してもとのマウスHJ8.5(親抗体)と競合する抗体の能力を評価する。このアッセイ形式は、ELISAプレートをヒトタウで被覆し、次に試験抗体ならびにビオチン化HJ8.5をタウへの結合に関して競合させることを含む。アッセイは、各ヒト化抗体変異体に関する相対的IC50値を測定することを可能にする。プレート間での比較を可能にするためIC50値をキメラHJ8.5のIC50値に標準化する。このデータは、ヒト化工程がヒトタウへのヒト化抗体の結合を有意に変化させなかったことを実証する。
【0067】
[実施例2]
この試験は、組換えヒトタウ−412タンパク質と、6つの完全ヒト化(実施例1で上述した、VH1/VK2、VH1/VK3、VH2/VK2、VH2/VK3、VH3/VK2およびVH3/VK3)モノクローナル抗体ならびにHJ8.5に基づく1つのキメラモノクローナル抗体との間の相互作用の結合特性を測定し、比較するためのBiacore T200の使用を説明する。この試験の目的は、タウ−412とこれら7つのmAbとの間の相互作用の高分解能の動態特性づけのためにBiacore T200表面プラズモン共鳴装置を使用することであった。
【0068】
抗体を4℃で保存した。タウ−412を製造者の指示に従って−20℃で保存した。ひとたび再溶解すれば、タウ−412溶液を氷上で保存し、24時間以内に使用した。再溶解したタウ−412のアリコートは、再溶解から30分以内に凍結し、−20℃で保存した。
【0069】
Biacore装置をBiacore T200 Evaluation Software V1.1(Uppsala,Sweden)で作動させた。すべての材料は、特に明記されない限りBiacoreからであった:
Biacore保守保全キット2 BR−1006−51
シリーズS CM5センサーチップ BR−1006−68
アミンカップリングキット BR−1000−50
10mMアセテート pH4.5 BR−1003−51
HBS−EPランニング緩衝液 BR−1006−69
10mMグリシン−HCl pH1.5 BR−1003−54
10mMグリシン−HCl pH2.0 BR−1003−55
プロテインA(Sigma) P6031
4M MgCl
2ヘキサハイドレート(Sigma) M9272−500G
【0070】
すべての実験はBiacore 「wizard」ソフトウェアで開発した。以下のBiacore法を使用した:固定化;動態/親和性;ならびに脱着および消毒。
【0071】
あらゆる試料を試験する前および試験中に、システムチェック(Biacore保守保全キット2)を実施した。試験したすべてのシステムが合格し(試薬ポンプ、屈折計、注入、ノイズ、混合および緩衝液セレクター)、装置が製造者によって定められた基準通りに機能していることを示した。
【0072】
CM5/プロテインAチップの挿入後、システムを準備し、次にBIA標準化溶液(Biacore保守保全キット2)で標準化した。5℃でインキュベートした試料ラックを用いてすべての試料を25℃で検査した。チップをシステムに添加し、HBS−EPをランニング緩衝液として使用した。
【0073】
mAbを供給されたように保存し、すべての固定化(捕捉)試験のために100nMに希釈した。抗原タウ−412を、乾燥粉末からMilli−Q水を用いて1mg/mLの最終濃度に再溶解した;動態試験のためにさらなる希釈を実施した。濃度計算に使用したタウ−412の質量および分子量は、試薬製造によって提供された(100μg/バイアルおよび42.9kDa)。この溶液には担体タンパク質を添加しなかった。抗原のバイアルは必要時にのみ再溶解し、使用時まで粉末形態にて−20℃で保存した。ひとたび再溶解すれば、抗原溶液を氷上に保持し、24時間以内に使用した。
【0074】
プロテインAによる捕捉アッセイをこの試験のために選択した。プロテインA表面の性能は、同じく試験した抗ヒトプロテインA/G、プロテインGおよびプロテインL表面より優れていた。プロテインAチップを、標準的なアミンカップリング化学を用いた固定化を介して調製した。固定化は、CM5シリーズSセンサーチップ(Biacore)で500反射率単位(RU)の標的応答レベルに対して10mMアセテート緩衝液pH4.5中5μg/mLのタンパク質濃度で実施した。
【0075】
プロテインAチップの「全部」および指定F
csについての最終応答レベルを表G−1に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
動態実験に関して、チップの表面での物質移動効果を回避するために固定化/捕捉リガンドの量を制限する必要がある。動態実験のために、表面は、理想的には50−100RUの最大分析物結合レベル(R
max)を有するべきである。固定化するリガンドの量は、それゆえ、方程式1:
【0078】
【数1】
【0079】
を用いて計算する。
【0080】
分析物タウ−412に関しては42.9kDaの平均MW(試薬製造によって提供された。)、リガンドについては150kDa(抗体に関する推定値)(mAb)、R
maxについては100RUを使用し、化学量論(S
m)を1として、300RUの標的をすべての試験抗体の捕捉に関して設定した。試験内で得られた捕捉レベルは約280−400RUまで様々であった。2回目および3回目に関しては、所望の300RU捕捉レベルにより近づくように注入抗体の量を調整した。
【0081】
非特異的結合は、リガンド(非特異的で検出が困難)、捕捉タンパク質またはセンサーチップ表面のいずれかと相互作用する分析物または分析物混入物に起因し得る。タウ−412の比較的高い濃度(40nM)の300秒の注入後にブランクF
c1表面の応答を分析することにより、カルボキシ−デキストラン表面またはプロテインA捕捉表面に対するNSB(非特異的結合)は観察されなかった。タウ−412濃度>100nMでは、カルボキシ−デキストランチップ表面への有意のNSBが認められた;しかしながら、この範囲内の濃度はこの後の動態分析には必要でなかった。
【0082】
再生条件検討を実施し、プロテインA表面上のキメラおよびVH1/VK2抗体の再生のための最適条件は以下のとおりであった。すべて40μL/分で、10mMグリシン−HCl pH1.7の3回の240秒注入の後に1回の4M MgCl
2の300秒注入を実施した。次の結合サイクルを開始する前に表面を安定させるため、最後の再生注入後に600秒の待機段階を導入した。
【0083】
初期試験は、選択した緩衝液「HBS−EP」が動態分析に適した再現可能な系を生じることを示したので、緩衝液の検討実験は実施しなかった。
【0084】
表面の性能を、開始時、間隔をおいておよび動態試験の最後に2.5nMタウ−412の反復制御注入によって分析した。安定な結合が動態試験全体を通じて認められ、動態分析のための系の適切性を強調した。
【0085】
会合の速度が、チップ表面へのおよびチップ表面からの分析物の移動の速度に関連する有意の成分を含む場合、物質移動制限が起こる。物質移動が有意であると認められる場合、生じる動態分析は不正確であり得る。固定化リガンドの密度を低下させるまたは流量を増加させることにより、質量移動制限を低減することができる。低密度表面および類似の分子量の抗原を使用した以前の実験から、40μL/分の流量をこの試験のために選択した。
【0086】
1対1結合モデルからの逸脱を調べるために、関連反応制御実験を使用してリガンド−分析物相互作用を評価する。分析物を種々の時間(接触時間)表面に注入し、解離速度を分析して、解離速度が接触時間と共に変化するかどうかを決定する。このような関係が認められる場合、これは、表面に安定化複合体を生じる初期結合事象後に2番目の相互作用事象が起こっていることを示す。
【0087】
捕捉アッセイ形式を用いた以前の実験、1.5の見掛け結合化学量論および1対1モデルが生じる動態データに信頼性を持って適合し得ることから、より複雑な動態相互作用を支持するさらなる証拠は存在しないので、関連反応制御実験は実施しなかった。
【0088】
1対1結合モデルを使用して、生じる動態データに適合させた(方程式2)。捕捉される抗体の量に変動があるため、パラメータR
maxは、各々の抗体動態分析の大域解析とは対照的に局所解析に設定した。
【0089】
【数2】
【0090】
抗体特性づけ:プロテインA捕捉表面に関して実施した特性づけおよび制御実験は、これがタウ−412相互作用についての動態値を決定するための適切な系であることを示唆した。試験プロテインA表面の277RUの捕捉VH1/VK2上に飽和濃度のタウ−412(1000nM)を注入することによって結合化学量論を評価した。1000nMのタウ−412の2回の連続注入は、122RUで飽和結合を生じさせると思われた。これは、1個のタウ−412分子に対する1個の抗体分子の結合に関して予想されるよりも高い、150%の結合化学量論をもたらした。この理由には、タウ−412の2個の分子への抗体の結合またはチップの表面でのタウ−412のオリゴマー化が含まれると考えられた。
【0091】
潜在的な質量移動効果を最小限に抑えるために40μL/分の流量で動態データを得た。動態サイクルの間の表面および分析物の両方の安定性を調べるために、ブランク(抗原なし)および2.5nM濃度の分析物の2回の反復を動態試験に組み込んだ。初期動態試験に関しては、40nMから0.156nMのタウ−412の2倍希釈を試験した。動態分析のためおよびこの後の試験時には、20nMから0.625nMの分析物範囲を選択した。この範囲は、報告されているK
Dより上と下の両方の多数の分析物濃度を含んだ。
【0092】
より高濃度の分析物の一部を定常状態に至らせるために会合相を500秒間観測した。動態サイクルの解離相の間の十分なシグナル低下(>10%)を観察するため、解離を1200秒間測定した。第5章で論じたように、F
csを各再生段階後600秒間安定化させた。参照チャネルF
c1からのシグナルをF
c2、F
c3およびF
c4のシグナルから差し引いた。
【0093】
Biacore T200でプロテインA捕捉システムを使用して測定した7つのmAbとタウ−412の相互作用に関する動態パラメータを表F−2に示す。各結合サイクル間の抗体の捕捉レベルの差を補正するため、局所R
maxパラメータを1対1結合モデルで使用した。タウ−412および抗体の新鮮調製物を使用した3回の独立した実験で動態分析を実施した。1回目と2+3回目は、抗原タウ−412の異なるバイアルを使用した;それゆえ平均応答に関連する報告された誤差は、おそらく分析物の調製別の変動およびアッセイの設定と実施における相違である。1回目から2+3回目まで、標的の300RU捕捉レベルにより近づけるように注入抗体の量を調整した。1回目に関しては、キメラ抗体を3回重複して試験し、3つ全部のデータセットの分析を表F−2に示す。これら3つのデータセットから導かれたK
DのCV%は4.3%であり、結果がアッセイの変動性の範囲内であることを示した。
【0094】
【表4】
【0095】
Chi
2値は、会合データと解離データが提案された1対1結合モデルにどの程度良好に適合するかを示し、値が低いほど適合が良好である。速度定数に関する関連SE値は、記述されているモデルにデータを適合させることに関連する不確実性を表し、真の動態値についての全面的な不確実性を示すわけではない。平均応答データは、2または3つの独立した分析からの平均動態値および関連SDを表す。
【0096】
表F−2からの平均K
D値を使用して、親和性に基づき抗体を以下のように順位づけることができる:VH3/VK2>VH3/VK3>キメラ>VH2/VK3>VH1/VK3>VH1/VK2>VH2/VK2。平均動態パラメータに関連するCV%は10−20%の範囲であり、従ってすべての抗体が非常の類似した親和性を有しており、差は純粋にアッセイ変動の結果である可能性が高い。一般に、抗体間結合の差はアッセイ変動に起因すると考えられ、キメラ抗体と比較してヒト化抗体のKD値に有意差はないと考えられる。
【0097】
抗体とタウ−412の間の相互作用に関してBiacore T200でプロテインA捕捉アッセイを用いて測定した動態値の比較
を示す。キメラ抗体は、ヒト化抗体と比較した場合、親和性は同様であるが、有意に異なる結合プロフィールを示すと思われる。
kd対kaのプロットは、Biacore T200でプロテインA捕捉アッセイを用いて測定した試験抗体とタウ−412との相互作用の相対的動態値を示
す。破線の対角線は等親和性のラインを表す。プロット上のヒト化抗体の明瞭さを高めることを目的として、軸は異なるデータ範囲を示すことに留意されたい。
【0098】
図5は、ヒトタウに対する6つの最良発現ヒト化構築物の結合動態を測定する、表面プラズモン共鳴(SPR)分析からの結果を要約する。試験抗体を種々の濃度のヒトタウと共にSPRチップ上に固定化し、次にチップの上を流動させる。測定された結合事象に基づき会合速度と解離速度ならびに親和性を変異体の各々に関して計算する。キメラ変異体も試験した。
【0099】
[実施例3]
図6は、サンドイッチ型ELISAにおける可溶性ヒトタウへの4つのヒト化抗体変異体の結合を示す。受動吸着に依存するアッセイ方法は、人為的結合結果を作り出す潜在的可能性を有する。この可能性を克服するため、ヒト化抗体変異体の結合活性を測定する溶液ベースの方法を用いた。このアッセイ形式では、抗原(ヒトタウ)を、HJ8.5とは異なるエピトープを認識するモノクローナル抗ヒトタウ抗体によって捕捉する。捕捉されたヒトタウへのヒト化抗タウ抗体のこの後の結合は抗原濃度に依存するが、IgG4アイソタイプ対照は全く結合を示さない。このアッセイは、ヒトタウへのヒト化抗タウ抗体の結合が特異的であり、抗体が可溶性ヒトタウに結合することを明らかにする。
【0100】
[実施例4]
図7(A−H)は、野生型マウス(陰性対照組織)、P301Sマウス(P301S変異を有するヒトタウを発現し、加齢に関連するタウ病変を発症する。)およびアルツハイマー病または進行性核上性麻痺(PSP)のいずれかを有するヒト由来の組織へのヒト化抗体および対照抗体の結合を示す。この試験の目的は、ヒト化抗体が、キメラ形態のHJ8.5と比較して組織中の凝集タウに結合する能力を保持することを確認することであった。図は、ヒト化HJ8.5抗体の種々の変異体でヒトおよびマウス脳を染色した代表的な画像を示す。4か月齢および9か月齢のP301Sマウスを試験し、両方の時点のマウスがタウの病的凝集体を示し、9か月齢のマウスは4か月齢のマウスよりも多くのタウ病変を有していた。ヒト染色に関しては、PSPを有する1名の被験者由来の脳組織の試料およびADを有する1名の被験者由来の脳組織の試料を検査した。
図7Aは、マウスおよびヒトAD組織に関するキメラHJ8.5での染色を例示する。
図7Bは、陰性対照抗体(非特異的ヒトIgG4)での染色を例示する。
図7C−7Hは、6つのヒト化抗体での染色を例示する。マウスHJ8.5抗体のすべてのヒト化変異体は、P301Sマウス脳において認められるタウ凝集体ならびにADまたはPSPのいずれかを有すると診断された被験者の脳組織中で認められるタウ凝集体に結合する。
【0101】
[実施例5]
図
8は、ヒトタウ中のHJ8.5のエピトープを示す。酵母ディスプレイを用いてエピトープをマッピングした。この方法のために、酵母を使用してヒトタウの配列をカバーする様々なペプチドを発現させた。培養下の酵母へのHJ8.5抗体の結合を免疫蛍光検査によって測定した。最初の34個のアミノ酸を含むタウの変異体を発現する酵母への結合が認められたが、酵母がタウの最初の32個のアミノ酸だけを発現する場合は結合が認められなかっ
た。これは、エピトープが最初の34個のアミノ酸内に存在することを示唆する。加えて、HJ8.5は、ペプチドがアミノ酸27−135個を含む場合は結合するが、ペプチドがアミノ酸30−135個にわたる場合は結合しない。これは、エピトープがアミノ酸27個より大きいアミノ酸を含むことを示唆する。このデータに基づき、エピトープはヒトタウの27−34個の配列(GYTMHQDQ)
(配列番号10)内に含まれる。図
8はまた、アカゲザルおよびマウスタウ配列も示し、ヒトタウからのアミノ酸変化を赤色でハイライトする。
【0102】
図9は、HJ8.5およびC
2N−8E12のより詳細なペプチドベースのエピトープマッピングを示す。ヒトタウの完全配列(IN4R、412個のアミノ酸)にわたる線状15量体のペプチドライブラリを創製した。加えて、アミノ酸10個および11個がアラニンに変化したこれらのペプチドの二重アラニン型も作製した。二重アラニンライブラリのために、10または11位の任意の天然に存在するアラニンをグリシンに変異させた。すべてのペプチドをペプチドアレイ上にスポットし、次にHJ8.5またはC
2N−8E12でプローブして、結合を測定した。両抗体のタウ結合エピトープを、これらのペプチドアレイを用いて信頼できるようにマッピングした。C
2N−8E12の結合エピトープは
25DQGGYT
30(配列番号9)であり、マウス親、HJ8.5のエピトープにマッチする。HJ8.5およびC
2N−8E12のタウペプチドへの結合は、エピトープ中のアミノ酸D、Q、YまたはTをアラニンで置き換えた場合、大きく低下し、これらが抗体結合において極めて重要な役割を果たすことを示唆した。しかし、エピトープ中の中央の2個のグリシンをアラニンで置き換えた場合は、タウペプチドへの抗体の結合はあまり低下しなかった(PEP 2875811)。これは、これらのアミノ酸が結合に重要ではないことを示すのではなく、アラニンとグリシンアミノ酸との間の置換の保存的性質に起因する可能性が高い。これらのより詳細な方法を用いてマッピングしたエピトープは、酵母ディスプレイを使用してマッピングしたものとわずかに異なる(図
8)。この相違は結合アッセイの相違に帰せられ、酵母ディスプレイシステムではより大きなペプチドが使用される。15量体ペプチドアレイの方法は酵母ディスプレイ法よりも優れていると考えられる。
【0103】
[実施例6]
図10は、ヒトまたはアカゲザルタウのいずれかへの種々の抗ヒトタウ抗体の結合結果を例示する。ヒト化変異体VH1/VK2(
C2N−8E12とも称される。)と共にマウス抗ヒトタウ抗体HJ8.5およびHJ8.7を試験した。図
8は、特許請求される結合エピトープ配列GYTM(H/L)QDQ
(配列番号57)において、ヒトとアカゲザルタウの間で32位に1個のアミノ酸相違が存在することを示す。図
8は、特許請求される結合エピトープ配列DQ(G/E)GYT
(配列番号58)において、ヒトとアカゲザルタウの間で27位に1個のアミノ酸相違が存在することを示す。2つの種のタウの間でのこれらのアミノ酸相違が抗体HJ8.5/C
2N−8E12の結合能力に影響を及ぼすかどうかを調べるため、以下の実験を実施した。ヒトおよびアカゲザルタウへの
C2N−8E12、HJ8.5(
C2N−8E12のマウス前駆体)およびHJ8.7(ヒトとアカゲザルのアミノ酸配列が100%保存されているタウのエピトープに結合するマウス抗ヒトタウ抗体)の結合を、96ウェルELISAプレートを様々な濃度のヒトタウまたはアカゲザルタウのいずれかで被覆することによって測定した。本発明者らの結果は、C
2N−8E12およびHJ8.5はアカゲザルタウには結合しないが、これらがヒトタウへの明確な結合を示すことを明らかにした。予想されたように、HJ8.7はヒトおよびアカゲザルの両方のタウに結合する。
【0104】
[実施例7]
図11は、様々なタウオパチーを有するヒト被験者由来のCSF中のタウへのヒト化抗タウ抗体の結合を示す。様々なタウオパチーを有すると診断された被験者ならびに年齢がマッチする健常対照および若年健常対照被験者由来のCSF試料中のタウへのC
2N−8E12の結合を評価した。サンドイッチELISAを使用して、AD、CBD、FTDまたはPSPを有する被験者ならびに年齢がマッチするおよび若年/成人対照由来のヒトCSF中のタウへのC
2N−8E12の結合を明らかにした。C
2N−8E12を、CSF試料中のタウを捕捉するための被覆抗体として使用した。ビオチン化マウスモノクローナルタウ抗体HJ8.7を検出抗体として使用した。対照ヒトIgG4で被覆したウェルは実験の陰性対照としての役割を果たした。C
2N−8E12被覆ウェルと対照IgG4被覆ウェルからのシグナルには大きな差が観察され、ヒトCSF試料中のタウへのC
2N−8E12の特異的結合を明らかにした。標準曲線(組換えタウ)を含めることにより、これらのCSF試料中のタウ濃度に関する定量的情報を得ることが可能である。
【0105】
[実施例8]
この試験は、最大10施設までで実施される無作為化、二重盲検、プラセボ対照、単回増加量(SAD)第1相試験である。C
2N−8E12の単回与の安全性、耐容性、免疫原性およびPKを評価し、今後の反復投与試験において使用されるMTDを確立するように設計されている。
【0106】
この試験の主要目的は、PSPを有する被験者においてC
2N−8E12の単回投与の安全性、耐容性、免疫原性および最大耐容量(MTD)を決定することである。安全性評価には、理学的および神経学的検査、臨床安全性検査室検査、免疫原性、有害事象、生命徴候および併用薬検査が含まれる。
【0107】
副次的目的は、単回注入後の最大血漿濃度;単回注入後の曲線下面積(AUC);注入後に最大濃度が達成される時間;C
2N−8E12の終末半減期;脳脊髄液(CSF)へのC
2N−8E12の分配;ならびに血液およびCSF中の可溶性タウレベルの測定を介した生物学的標的係合を含む、単回投与の全身薬物動態を測定することならびにC
2N−8E12−タウ複合体の存在を評価することである。
【0108】
この試験は、PSPを有する32名の被験者(処置群24名およびプラセボ群8名)を登録する予定である。被験者は、4名の患者の8ブロックに登録され、各ブロック中の1名の患者がプラセボに無作為に割り当てられ、3名がMTDの現在の推定値に割り当てられる。DLTが起こる場合は付加的な被験者が登録され得る。しかし、用量増加工程の間に、用量を飛ばして進むことはできない。
【0109】
統計的設計の章で述べるように用量増加に関する連続再評価法(CRM)を使用する。用量ごとのDLTの確率を同定するためにロジスティックモデルを使用する。
【0110】
C
2N−8E12は、20mg/mLの名目濃度で使い捨てボトル中の凍結液体として臨床施設に発送される。各ボトルはC
2N−8E12 300mgを含有し、−70℃から−80℃で保存しなければならない。
【0111】
患者は、選択基準および除外基準を満たすどうかを評価するスクリーニングを受ける。スクリーニングは、血液およびCSFの評価ならびにMRIも含む。投与の当日(0日目)、C
2N−8E12の単回用量を、IVラインを介して投与し、投与後24時間、臨床施設で被験者を注意深く観察する。これは、安全性およびPK評価のための血液試料を含む。これに続く3日間ならびに注入後1週目と2週目に、さらなる臨床検査と血液採取を行う。さらなる安全性MRIおよびCSF試料採取を注入後4日目に実施する。被験者を、投与の日から2か月間以上、28日ごと(例えば56日目)に追跡調査する。この後、以下の事象のいずれかが早期に発生するまで、月1回の測定を継続する:(i)C
2N−8E12がもはや血液中で検出できない;(ii)主催者が試験の完了を決定する;(iii)被験者が試験への参加を早期に中止することを決定する。
【0112】
第1相試験の目標は、この後の第2相/MAD試験における評価のための用量の推奨範囲を決定するための、臨床検査室検査、理学的および神経学的検査ならびに有害事象の発生を含む安全性評価によって評価される、MTDの確立を含む。被験者の無作為な割り当ておよびプラセボ群を含めることにより、バイアスを回避し、既知および未知の両危険因子が処置群の間で均一に分布する可能性を高める。
【0113】
データ安全性監視委員会(DSMC)は、安全性データを継続的に検討する。安全性監視委員会は、最小限で2名の独立した医師、1名の生物統計解析者、PSPに関する専門知識を有する1名の医師および主催者からの投票権のない1名の成員で構成される。いずれかの個別の試験被験者がSAEを経験した場合、この被験者に関するすべての利用可能な安全性データを検討し、事象がDLTの定義に合致するかどうかおよびMTDが確立されているかどうかを判定する。MTDが確立されておらず、および患者の登録が継続される場合、DSMCは、この後の登録患者の安全性を確保するために何らかのさらなる措置またはプロトコルの修正が必要かどうかの勧告を主催者に提供する。主催者は、試験の何らかの修正または早期中止に関する最終的な決定を下す。
【0114】
用量制限毒性は、i)C
2N−8E12が事象を引き起こした妥当な可能性が存在する、リウマチ学共通毒性基準(Rheumatology Common Toxicity Criteria)v2による何らかのグレード3以上のAE;(ii)臨床的に有意と見なされ、C
2N−8E12が事象を引き起こした妥当な可能性が存在する、NCIの有害事象に関する共通用語基準(Common Terminology Criteria for Adverse Events)v4.0(CTCAE)の神経系および精神障害の器官別大分類の何らかのグレード2のAE;または(iii)C
2N−8E12の注入中または注入の完了後24時間以内に発生し、注入速度の低下および/または支持療法で速やかに消失しない、何らかの注入関連毒性(例えばアレルギー反応/過敏症)と定義される。
【0115】
用量増加:用量コホートへの被験者の割り当ては以下の規則によって決定される:(1)4名の患者の各ブロック内で、1名の患者はプラセボ群に割り当てる;(2)より高い用量レベルに増加する前の用量レベルで少なくとも3名の患者に関して完全な毒性情報が必要である;(3)1つのコホートから次のコホートへの増加の最大増分は1用量レベルである;および(4)少なくとも12名の被験者(3ブロック)はMTD用量レベルで投与されるべきである。
【0116】
各々4名の患者のコホート内で、患者に連続的に投与し、安全性保証のさらなる測定を提供するために連続する被験者の投与の間には少なくとも2日の最低間隔をおく。
【0117】
最初のコホートはd
1に割り当てる。コホートごとに完全な毒性情報が得られた後、統計モデルを更新する。規則に従って、直近のコホートのすべての被験者についての完全な毒性情報が得られる前に1つの追加コホートを登録し得る。次のコホートが登録され、無作為化されるまで、3名以下の患者に関しては不完全な毒性データが許容される。
【0118】
後続の各コホートは、上記の定義に従ってMTDであると推定される用量に割り当てる。患者の集積が遅れる場合は、各患者が登録され、後続の各患者が現在の推定MTDを投与されるときにモデルを更新し得る。
【0119】
試験集団:この試験は、50歳から85歳までの進行性核上性麻痺(PSP)を有する男性および女性被験者を登録する。
【0120】
選択基準:試験に組み入れるために、各被験者はインフォームドコンセントを提供する意思があり、提供することができなければならない。処置プロトコルの開始前に、各患者が処置プロトコルについての同意を提供できることが確認される。被験者は試験に参加することを要請され、インフォームドコンセント書式に署名した後、スクリーニング手順が実施される。被験者が選択基準を満たすことができないまたは除外基準のいずれかに合致する場合、被験者はスクリーニング評価または処置スケジュールに登録されない。
【0121】
各被験者は、この試験に登録されるには以下の基準を満たさなければならない:男性または女性;50歳から85歳までの年齢;以下を含む、NNIPPSおよびAL−108−231臨床試験に関して修正されたNINDS−SPSPの可能性または蓋然性基準を満たす:(d)核上性注視麻痺または衝動性眼球運動速度低下、(ii)症状の最初の3年以内の歩行不安定性または転倒;スクリーニング時の脳MRIがPSPと一致する(<4の微小出血および大きな脳卒中または重篤な白質疾患なし);PSP評価スケールで20から50のスコア;基線時に参加に対するインフォームドコンセントを提供することができるまたはインフォームドコンセントを提供することができない場合は、参加への同意を提供することができ、およびコンセントを与えることができる正式な医療担当者を有している;少なくとも週に5時間患者に会い、患者の試験参加のための受診および同意に付き添うことができる試験パートナーを有している;他の併用非生物学的製剤療法は許容されるが、登録前の少なくとも30日間用量が安定していなければならない;最小限の補助(一方の腕の安定化または杖/歩行具の使用)で5歩歩くことができる;レボドパ、ドーパミンアゴニスト、ラサギリン、COMT阻害剤、アマンタジン、メマンチンまたはコリンエステラーゼ阻害剤を含む、スクリーニング前少なくとも2か月間のパーキンソン症候群のための安定な薬物治療;4−18か月間にわたる3回までの腰椎穿刺、被験者が第1相/SAD試験と第2相/MAD試験の両方に参加する場合は6回までの腰椎穿刺に同意する;被験者から署名と日付の入った書面のインフォームドコンセントが得られる;プロトコルで規定された避妊方法を使用することに同意する(下記参照)。
【0122】
以下の基準のいずれかに合致する被験者は試験から除外される:以下を含む、PSP以外の神経障害のタイプの基準により良好に合致する進行性神経障害の徴候:(a)蓋然的アルツハイマー病の基準を満たすまたは(b)レヴィー小体を伴うパーキンソン認知症、多系統萎縮症(MSA)もしくは筋委縮性側索硬化症(ALS)の研究基準を満たす;スクリーニングの5年以内の何らかの悪性疾患(皮膚の非転移性基底細胞癌以外);試験者の専門的判断に基づく、スクリーニング時の臨床的に有意の腎または肝機能不全;試験者の専門的判断に基づく、試験登録前3か月以内の臨床的に有意の心臓血管事象;試験者の専門的判断に基づく、スクリーニングの間の臨床的に有意の血液学的異常または化学検査室検査結果の異常;直近90日以内に何らかの理由で事前のモノクローナル抗体療法を受けているまたは過去30日以内もしくは5半減期以内(いずれか長い方)に何らかの他の試験薬を摂取した。C
2N−8E12の事前投与はこの除外基準には適用されず、それゆえ被験者が第2相/MAD試験に参加することは不適格と見なさない;現在何らかの他の生物学的または免疫調節療法を受けている:症状の発症以来5年を超える疾患持続期間;スクリーニングMRIスキャンで中脳体積>8,600mm
3;高度看護施設または認知症ケア施設に居住する被験者;ALS病変と一致する、検査での運動ニューロン疾患の明確な証拠を有する(これはCBS(大脳皮質基底核症候群)の症状を伴うC90RF72遺伝子保因者において記述されている。);試験者の専門的判断に基づく、認知障害を説明し得る他の何らかの重要な無関係の神経または精神障害(例えば活動性発作障害、脳卒中、血管性認知症)の診断;臨床判断およびGDS(高齢者うつ病評価尺度)の結果に基づく、基線評価時の未処置の大うつ病;他の重要な精神疾患の病歴;自殺未遂の前歴;試験者の見解で転帰測定の収集を不可能にする、MMSEによって評価される重度の認知障害(<17);評価プロトコルに参加することができない;安全上のリスクを高めるまたは試験データの適切な解釈を妨げる、一般にスクリーニング時に採取された血液試料からの有意の異常値;臨床的に有意の細菌、真菌またはミコバクテリア感染の現在または最近の既往歴(スクリーニング前4週間以内);スクリーニング時のMRIスキャンを耐容できないまたはMRIに対する他の何らかの禁忌;ワルファリンなどの抗凝固薬の使用を含む、スクリーニング時の腰椎穿刺に対する何らかの禁忌または腰椎穿刺を耐容できない。81mgのアスピリンまたは類似の抗凝固薬の毎日の投与は、用量がスクリーニング前30日間安定である限り、許容される;試験者の見解で、投与スケジュールまたは試験評価に従うことができないまたは従わない可能性が高い被験者;スクリーニングの3か月以内の別の介入的臨床試験への参加;スクリーニングの30日以内の別試験薬での処置;450ミリ秒を超える何らかの既存のQTcF持続時間;被験者が主催者の従業員もしくは家族の一員または試験施設の職員もしくは職員の家族の一員である。
【0123】
被験者は、試験全体を通しておよび最後の処置期間の最後の試験薬投与後56日目まで、基線受診時に開始される許容される避妊方法を使用する(および/またはパートナーに使用させる。)ことに同意しなければならない。許容される避妊方法を以下に列挙する。
【0124】
試験薬:第1相/SAD試験は、拡大アクセス(治験用新薬利用範囲拡大制度)IND 119404において現在使用されているDPロット番号1018775−研究細胞バンク(Research Cell Bank)(RCB)材料からのC
2N−8E12を使用する。これはpH5.5の25mMアセテート緩衝液中に製剤されており、20mg/mLの濃度で提供される。プラセボ:プラセボは、活性試験薬を含まずにC
2N−8E12と同一に製剤されている。
【0125】
用量の理論的根拠:最大推奨出発用量(MRSD)は、食品医薬品局(FDA)の製薬業界向けガイダンス「Estimating the Safe Starting Dose in the Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers」を用いて計算した。ガイダンスにより、IV投与される分子量>100,000ダルトンの試験治療用タンパク質に関して、MRSDは、体表面積スケーリングによってではなく種間で標準化することによって推定されるべきである。マウス毒性試験で認められた250mg/kgの無影響量(No Observed Effect Level)(NOEL)に基づき、10の標準安全係数で用量を25mg/kgに制限する。
【0126】
第1相/SAD試験の出発用量はIV投与で2.5mg/kgである。この出発用量は、4週間のマウス毒性試験に基づく最大許容出発用量より10倍低く、拡大アクセスおよびC
2N−8E12を含む例外的使用のヒト処置プロトコルで投与される現在の最大用量(15mg/kg)より6倍低い(「試験者資料集」参照)。
【0127】
単一患者試験からの予備的血漿PKに基づき、2.5mg/kg用量のC
2N−8E12投与後の様々な時点でC
2N−8E12によって結合されるCSF中のタウのパーセントを推定することが可能である。この計算のために、ヒト化抗体のCSF濃度は血漿濃度の0.1%であり、CSF中のタウの濃度は500pg/mLであると仮定する。これらの仮定に基づき、2.5mg/kgの用量は、最初の1か月間にわたってCSF中のタウのモル濃度より3から40倍高いC
2N−8E12のCSF濃度をもたらす。C
2N8E12のK
Dに基づき、2.5mg/kg用量は抗体によるCSF中のタウの3−26%の結合を生じさせる。同様のモデリングを、これまでにヒトに投与された最高用量(15mg/kg)からのPKデータに関して実施し、28日間にわたる平均タウ結合は約50%(最大72%、最小40%結合)であると推定された。また、CSF区画を介してアクセスできないが、抗体が結合することができる細胞外タウが脳内に豊富に存在する可能性も高い。それゆえ、脳内で有意の標的係合をもたらす可能性が高い用量の安全性を評価するために用量増加を25mg/kgに進める。
【0128】
試験者によって承認されない限り、処置期間中、試験被験者は以下を摂取してはならない:何らかの他の生物学的または免疫調節療法;何らかの他の試験薬;ワルファリン;CSF試料採取前の処置の一時的な停止が医学的危険性を与える状態に対しての何らかの抗凝固薬(81mgの毎日のアスピリン以外)。
【0129】
インフォームドコンセント:インフォームドコンセントを提供した後、各被験者は、選択基準を満たし得ることおよびこのプロトコルの下で処置を受けることに対していかなる禁忌も存在しないことを再確認するスクリーニング評価を受ける。具体的には、各被験者を、スクリーニング時に診断を確認するための臨床および神経学的検査で評価する。PSP評価尺度による簡単な認知スクリーニングおよび面接を伴ううつ病スケールを実施し、完全な病歴および薬物/薬歴を得る。被験者がすべての選択基準を満たし、除外基準を有さない場合、さらなる検査を実施する。スクリーニング受診は、基線/0日目受診の28日前から7日前までに行われる。
【0130】
薬物動態評価:以下の表3に示す様々な時点でPK分析のために試料を収集する。
【0131】
【表5】
(
*)早期中止が起こる場合は、最終PK評価のために早期中止受診時に最終血液試料を得る;
(#)注入完了から15分以内;
(@)28日目以降、以下の事象のいずれかの早期発生まで28日ごとにPK試料を採取する:(i)試験中止;(ii)C
2N−8E12の検出可能な血液レベルの不在。
【0132】
有害事象評価:AEを観測するために以下の安全性評価を実施する:生命徴候(血圧、脈拍/心拍数、体温、呼吸速度、SPO2);認知評価(精神状態検査)を含む、完全な神経学的検査;検査室検査:(1)血液学パネル:白血球分画、ヘマトクリットおよびヘモグロビン(Hb)、血小板数を伴う完全血球算定(CBC);(2)化学パネル:血清電解質、グルコース、尿酸、血液尿素窒素(BUN)、クレアチニン、総タンパク質量、アルブミン、ビリルビン(総、直接および間接)、アルカリホスファターゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、肝酵素(AST、ALTおよびGGT)、鉄、コレステロールパネル、CPK、アミラーゼおよびリパーゼ;(3)凝固パネル:プロトロンビン時間(PT)、INRおよび部分トロンボプラスチン時間(PTT);Hb、WBCおよびタンパク質含量の測定を含む尿検査;ECG−連続モニタリングまたは12誘導ECG;フレアー法(fluid attenuated inversion recovery)(FLAIR)を含むMRI脳イメージング;細胞数(WBCおよびRBC)、総タンパク質量およびグルコースの測定を伴うCSFサンプリング。
【0133】
ヒト血漿およびCSF中のC2N−8E12の定量:血漿およびCSF中のC2N−8E12の濃度を測定するためにサンドイッチELISAアッセイを開発した。Charles River Laboratoriesは、様々な異なるマトリックスにおける使用のためにこれらのアッセイの有効性を確認した(表4参照)。
【0134】
【表6】
【0135】
ヒト血漿中の抗C2N−8E12抗体の定量:初回投与前および薬剤の投与後14日目と28日目に抗薬剤抗体(ADA)開発の評価のために血液試料を収集した。終了時に最終測定を実施する。血漿中のC
2N−8E12に対する抗体(ADA)の存在を測定するためにECLに基づくサンドイッチELISAアッセイを開発した。Charles River Laboratoriesは、ヒト血漿中のADA応答の検出のためにこのアッセイの有効性を確認した(表5参照)。
【0136】
【表7】
【0137】
臨床および機能評価は、コロンビア自殺重大度評価尺度(Columbia−Suicide Severity Rating Scale)を含む:安全性パラメータとして、自殺念慮に関するコロンビア自殺重大度評価尺度(C−SSRS)を使用する(Posner et al.2011)。高齢者うつ病評価尺度(Geriatric Depression Scale):C−SSRSと同様に、試験期間中の全体的な気分を評価するために高齢者うつ病評価尺度(GDS)を使用する。高齢者うつ病評価尺度(GDS)は、高齢者におけるうつ病を同定するために使用される30項目の自己報告評価である(Yesavage et al.1983)。PSP評価尺度:PSP評価尺度(PSPRS)を、選択のためのスクリーニング時ならびに基線時と試験の最後に経時的な尺度の変化を評価するために使用する(Golbe and Ohman−Strickland 2007)。臨床全般印象尺度(Clinical Global Impressions):症状の重症度を評価するために臨床全般印象変化度(CGIc)および重症度(CGIs)スケールを使用する。シュワブ・イングランド日常生活活動(Schwab and England Activities of Daily Living):シュワブ・イングランド日常生活活動(SEADL)スケールを、日常活動を実施する被験者の能力を評価する手段として用いる(Schwab and England 1969)。臨床的認知症重症度判定尺度−前頭側頭葉型認知症(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes Frontotemporal Lobe Dementia):臨床的認知症重症度判定尺度−前頭側頭葉型認知症(CDR−SB−FTLD)は、行動、態度、人格および言語の評価を含む、CDR−SB認知評価検査の一種である(Knopman et al.2008)。精神状態短時間検査(Mini Mental State Examination):精神状態短時間検査(MMSE)は、認知障害を測定する信頼性のある30問の質問表である(Folstein,Folstein,and McHugh 1975)。
【0138】
脳脊髄液:CSFを腰椎穿刺によってL3−4間から採取する。CSF試料採取が成功しない場合は、ローカルプロトコルに従って地域の臨床施設職員の裁量でCT/X線透視下腰椎穿刺を用いることができる。CSFに関する安全性検査室検査は、各々の腰椎穿刺/CSF収集後に該当臨床施設において地域で分析される。これらの測定は、細胞数(WBCおよびRBC)、総タンパク質量およびグルコースを含む。他のCSF測定(例えばC
2N−8E12濃度、標的係合および他の探索的バイオマーカー)は、該当する指定検査室によって分析される。
【0139】
イメージング:被験者はまた、構造、フレアー、拡散強調および磁化率強調画像による基線MRIスキャンを受ける。投与後の画像解析は事象スケジュール(Schedule of Events)に従って実施される。
【0140】
探索的薬理ゲノム解析:基線時にDNA抽出のために血液試料を収集する。すべての個人は、H1(A−D)およびH2保因状態を調べるために拡張MAPTハプロタイプ配列解析を受ける。DNAを試料から抽出し、このDNAをこの試験のための指定薬理ゲノムコア施設に発送する。
【0141】
以下の事象のいずれかの早期発生まで被験者をこの試験に登録する:(i)被験者が自らの参加および事象スケジュール全体を完了する;(ii)被験者または試験者が被験者の参加を中止することを決定する;(iii)該当する被験者が、試験者がこの試験へのさらなる参加を不可能にすると判断し、この後の第2相/MAD試験についての適格性を除外する、何らかのDLTまたはSAEを経験する。加えて、試験者の裁量で、何らかの選択基準を満たさなくなった、または試験期間中に1つ以上の除外基準に合致した被験者は、試験への参加を継続する資格がないまたはこの後の第2相/MAD試験に参加する資格がないと決定され得る。