特許第6626894号(P6626894)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6626894水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物、被覆製剤、水溶性酢酸セルロース複合体成形品及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6626894
(24)【登録日】2019年12月6日
(45)【発行日】2019年12月25日
(54)【発明の名称】水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物、被覆製剤、水溶性酢酸セルロース複合体成形品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/12 20060101AFI20191216BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20191216BHJP
   A61K 9/36 20060101ALI20191216BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20191216BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20191216BHJP
【FI】
   C08L1/12
   C08L29/04 B
   A61K9/36
   A61K47/32
   A61K47/38
【請求項の数】12
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2017-524276(P2017-524276)
(86)(22)【出願日】2015年6月19日
(86)【国際出願番号】JP2015067796
(87)【国際公開番号】WO2016203657
(87)【国際公開日】20161222
【審査請求日】2018年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 政博
(72)【発明者】
【氏名】杉村 和紀
(72)【発明者】
【氏名】西尾 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】中村 敏和
(72)【発明者】
【氏名】島本 周
【審査官】 安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−064440(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/142166(WO,A1)
【文献】 特開2011−132448(JP,A)
【文献】 特表2014−520945(JP,A)
【文献】 特開平11−255959(JP,A)
【文献】 特開平07−076632(JP,A)
【文献】 特開昭58−034801(JP,A)
【文献】 特開2006−335842(JP,A)
【文献】 特開平10−317228(JP,A)
【文献】 Thomas A. Wheatley,Water Soluble Cellulose Acetate: A Versatile Polymer for Film Coating,Drug Development and Industrial Pharmacy,2007年,33,p.281-290
【文献】 島本 周 et al.,「相互作用」で見る酢酸セルロースの特徴と新展開,Cellulose Commun.,2013年,20(4),p.193-198
【文献】 島本 周 et al.,酢酸セルロースの特徴と新展開,紙パ技協誌,2014年,68(9),p.58-64
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/12
C08L 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチル総置換度が0.4〜1.4である酢酸セルロース(A1)と、ケン化度が50モル%以上であるポリビニルアルコール(B)とを含む水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物。
【請求項2】
酢酸セルロース(A1)のアセチル総置換度が、0.6〜0.9である、請求項1に記載の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物。
【請求項3】
ポリビニルアルコール(B)のケン化度が、90モル%以上である、請求項1又は2に記載の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物。
【請求項4】
酢酸セルロース(A1)100重量部に対するポリビニルアルコール(B)の割合が500重量部以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物。
【請求項5】
前記酢酸セルロース(A1)が、下記で定義される組成分布指数(CDI)が2.0以下である酢酸セルロースである請求項1〜の何れか1項に記載の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物。
CDI=(組成分布半値幅の実測値)/(組成分布半値幅の理論値)
組成分布半値幅の実測値:酢酸セルロース(試料)の残存水酸基をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートをHPLC分析して求めた組成分布半値幅
【数1】
DS:アセチル総置換度
DPw:重量平均重合度(酢酸セルロース(試料)の残存水酸基をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートを用いてGPC−光散乱法により求めた値)
【請求項6】
請求項1〜の何れか1項に記載の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物から形成された水溶性酢酸セルロース複合体成形品。
【請求項7】
フィルム状である、請求項記載の水溶性酢酸セルロース複合体成形品。
【請求項8】
繊維状である、請求項記載の水溶性酢酸セルロース複合体成形品。
【請求項9】
請求項1〜の何れか1項に記載の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物を含むコーティング層を有する、被覆製剤。
【請求項10】
請求項1〜の何れか1項に記載の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物を、溶融状態を経由して成形することを特徴とする水溶性酢酸セルロース複合体成形品の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜の何れか1項に記載の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物を、溶液を経由して成形することを特徴とする水溶性酢酸セルロース複合体成形品の製造方法。
【請求項12】
前記水溶性酢酸セルロース複合体成形品が、被覆製剤のコーティング層である、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物、該樹脂組成物を含むコーティング層で被覆された被覆製剤、該樹脂組成物から形成される水溶性酢酸セルロース複合体成形品、及びその製造方法に関する。前記水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物は、例えば、医薬や食品等を被覆するコーティング膜の成分として有用である。また、前記水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物は、水溶性且つ生分解性の樹脂成形品、例えば、水に溶け、生分解するたばこフィルター等の製造に有用である。
【背景技術】
【0002】
食品や医薬を、酸化、湿気、光、摩滅、衝撃等の外部要因から保護するために、固形製薬、錠剤、顆粒等をコーティング層で被覆する、いわゆる被覆製剤が広く採用されている。そのようなコーティング層の基剤成分としては、安全性、水溶性、透明性、耐久性等の特性を具備する必要があり、一般に、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンなどの水溶性高分子が広く使用されている。しかし、これら水溶性高分子は、高温、高湿度での安定性が低く、保存状態によっては製剤が劣化するという問題があった。特許文献1には、水溶性酢酸セルロースを含む膜で被覆された製剤は、高温や高湿度条件下で安定性に優れていることが開示されている。しかし、水溶性酢酸セルロースを含む膜は水蒸気透過性が高く、製剤成分が吸湿されやすいという問題があった。
【0003】
一方、酢酸セルロース(セルロースアセテート)は溶融時の流動性が極めて低く、熱成形するには多量の可塑剤を添加する必要があった。特に溶融紡糸の技術においては、細い紡糸孔から吐出された糸は溶融張力が不足するので工業的に酢酸セルロース系の糸の溶融紡糸は行われていなかった。このため、酢酸セルロースを繊維とするには、アセトンや塩化メチレンなどの酢酸セルロースの置換度に応じた良溶媒に溶解した上で、乾式紡糸をするしかなかった。また、特に低置換度の酢酸セルロースについては、乾式紡糸できるような、蒸気圧、沸点が低い良溶媒がなく、乾式紡糸により低置換度セルロースアセテート繊維を工業的に製造することはできなかった。
【0004】
酢酸セルロースと他の合成高分子を混合して、ポリマーブレンドやポリマーアロイとした上で溶融紡糸する技術が提案されている。例えば、特許文献2には、酢化度30〜56%、平均重合度70〜140のセルロースアセテートと、平均分子量500〜1000のカプロラクトンテトラオールとの複合体を溶融紡糸して生分解性セルロースアセテート系繊維を得る方法が開示されている。しかし、この繊維は水に溶けない。また、200℃を超える高い温度で紡糸するために、繊維が着色しやすい。
【0005】
特許文献3及び特許文献4には、水溶性酢酸セルロースの水溶液を乾式紡糸し、繊維とする方法が開示されている。しかし、乾式紡糸には380〜400℃の乾燥空気が必要であり、多大なエネルギーを要する。また、この方法では、10デニールよりも細い繊維は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,206,030号明細書
【特許文献2】特開平10-317228号公報
【特許文献3】特開平7-268724号公報
【特許文献4】特公平1−13481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、酸素透過性、水蒸気透過性が低く、透明な膜を形成可能な水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、水溶性且つ生分解性を有する酢酸セルロース系樹脂成形品を溶融状態で製造できる水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、溶融状態で紡糸することができ、比較的繊度が低く(細く)着色が少ない、水溶性且つ生分解性を有する酢酸セルロース系繊維を得ることのできる水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、上記の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物から形成される水溶性酢酸セルロース複合体成形品を提供することである。
本発明の他の目的は、上記水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物を含むコーティング層を有する被覆製剤を提供することである。
また、本発明の他の目的は、上記水溶性酢酸セルロース複合体成形品又は被覆製剤の工業的に効率のよい製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定のアセチル総置換度を有する酢酸セルロースと特定のケン化度を有するポリビニルアルコールが互いに相溶してガラス転移温度を低くすることができ、透明な樹脂組成物を形成し、当該樹脂組成物を含む膜が低い酸素透過性と水蒸気透過性を示し、酸化や湿度から有効成分を保護する機能に優れ、被覆製剤のコーティング層の基剤成分として極めて適していることを見出した。
さらに、本発明者らは、アセチル総置換度が0.5〜1.0である酢酸セルロースと水溶性有機添加剤(ポリビニルアルコールを除く)とを含む樹脂組成物を成形材料とすると、ガラス転移温度を低くすることができ(好ましくは、200℃よりも十分低くすることができ)、比較的低い温度にて溶融状態で成形することが可能であること、こうして得られた成形品は水溶性で且つ生分解性を有すること、及び上記成形法によれば比較的繊度が低く着色の少ない繊維を簡易に製造できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づき、さらに検討を加えて完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、アセチル総置換度が0.4〜1.6である酢酸セルロース(A1)と、ケン化度が50モル%以上であるポリビニルアルコール(B)とを含む水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物を提供する。
前記水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物において、酢酸セルロース(A1)のアセチル総置換度は、0.6〜0.9であってもよい。
前記水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物において、ポリビニルアルコール(B)のケン化度が、90モル%以上であってもよい。
前記水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物において、酢酸セルロース(A1)100重量部に対するポリビニルアルコール(B)の割合が500重量部以下であってもよい。
【0010】
また、本発明は、アセチル総置換度が0.5〜1.0である酢酸セルロース(A2)を50〜95重量%、及び水溶性有機添加剤(C)(但し、ポリビニルアルコールを除く)を5〜50重量%含む水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物を提供する。
前記水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物において、前記水溶性有機添加剤(C)は、ポリエチレングリコール又はポリエチレンオキサイドであってもよい。
前記水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物において、前記水溶性有機添加剤(C)の含有量は、10〜50重量%であってもよい。
前記水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物において、前記水溶性有機添加剤(C)の含有量は、20〜50重量%であってもよい。
【0011】
前記水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物において、前記酢酸セルロース(A1)及び(A2)は、下記で定義される組成分布指数(CDI)が2.0以下である酢酸セルロースであってもよい。
CDI=(組成分布半値幅の実測値)/(組成分布半値幅の理論値)
組成分布半値幅の実測値:酢酸セルロース(試料)の残存水酸基をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートをHPLC分析して求めた組成分布半値幅
【0012】
【数1】
【0013】
DS:アセチル総置換度
DPw:重量平均重合度(酢酸セルロース(試料)の残存水酸基をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートを用いてGPC−光散乱法により求めた値)
【0014】
また、本発明は、前記水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物から形成された水溶性酢酸セルロース複合体成形品を提供する。
前記水溶性酢酸セルロース複合体成形品は、フィルム状であってもよい。
前記水溶性酢酸セルロース複合体成形品は、繊維状であってもよい。
【0015】
また、本発明は、前記水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物を含むコーティング層を有する、被覆製剤を提供する。
また、本発明は、前記水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物を、溶融状態を経由して成形することを特徴とする水溶性酢酸セルロース複合体成形品の製造方法を提供する。
さらに、本発明は、前記水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物を、溶液を経由して成形することを特徴とする水溶性酢酸セルロース複合体成形品の製造方法を提供する。
水溶性酢酸セルロース複合体成形品の製造方法において、前記水溶性酢酸セルロース複合体成形品は、被覆製剤のコーティング層であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の第1態様によれば、特定のアセチル総置換度を有する酢酸セルロースと特定のケン化度を有するポリビニルアルコールを含む水溶性酢酸セルロース系樹脂成形品は、互いの成分が相溶してガラス転移温度が低く、透明な樹脂組成物を形成し、当該樹脂組成物を含む膜が低い酸素透過性と水蒸気透過性を示し、酸化や湿度から有効成分を保護する機能に優れ、被覆製剤のコーティング層の基剤成分として極めて適している。
また、本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の第2態様によれば、水溶性且つ生分解性を有する酢酸セルロース系樹脂成形品を溶融状態を経由して製造することができる。また、特に、比較的繊度が低く(例えば、従来のたばこフィルターと同様の2デニール程度の)、着色が少ない、水溶性且つ生分解性を有する酢酸セルロース系繊維を製造することができる。
さらに、本発明の水溶性酢酸セルロース複合体成形品の製造方法によれば、水溶性且つ生分解性を有する酢酸セルロース系樹脂成形品、特に、比較的繊度が低く、着色が少ない、水溶性且つ生分解性を有する酢酸セルロース系繊維を工業的に効率よく製造することができる。また、溶融状態を経由して成形できるので、乾式紡糸のように400℃程度の乾燥空気を使う必要がなく、省エネルギー化できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、2種類のポリマー(ポリマーAとポリマーB)の各種割合のブレンドを示差走査熱量測定(DSC)にて測定した場合に、ポリマーAとポリマーBが互いに相溶性であると判定されるチャートパターンの1つ(パターン1)を示す模式図である。
図2図2は、2種類のポリマー(ポリマーAとポリマーB)の各種割合のブレンドを示差走査熱量測定(DSC)にて測定した場合に、ポリマーAとポリマーBが互いに非相溶性であると判定されるチャートパターンの1つ(パターン2)を示す模式図である。
図3図3は、2種類のポリマー(ポリマーAとポリマーB)の各種割合のブレンドを示差走査熱量測定(DSC)にて測定した場合に、ポリマーAとポリマーBが互いに相溶性であると判定されるチャートパターンの1つ(パターン3)を示す模式図である。
図4図4は、2種類のポリマー(ポリマーAとポリマーB)の各種割合のブレンドを示差走査熱量測定(DSC)にて測定した場合に、ポリマーAとポリマーBが互いに非相溶性であると判定されるチャートパターンの1つ(パターン4)を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の第1態様は、アセチル総置換度が0.4〜1.6である酢酸セルロース(A1)と、ケン化度が50モル%以上であるポリビニルアルコール(B)とを含有している。
また、本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の第2態様は、アセチル総置換度が0.5〜1.0である酢酸セルロース(A2)と水溶性有機添加剤(C)(ポリビニルアルコールを除く)とを含有している。
【0019】
[酢酸セルロース]
(アセチル総置換度)
本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の第1態様における酢酸セルロースは、アセチル総置換度(平均置換度)が0.4〜1.6である。アセチル総置換度がこの範囲であると水に対する溶解性に優れ、また、酢酸セルロース(A1)とポリビニルアルコール(B)が相溶して透明な樹脂組成物を形成しやすく、この範囲を外れると水に対する溶解性が低下する傾向となる。前記アセチル総置換度の好ましい下限値は、0.45以上であり、より好ましくは0.5以上であり、さらに好ましくは0.55以上であり、特に好ましくは、0.6以上である。一方、前記アセチル総置換度の上限値は、好ましくは1.5以下であり、より好ましくは1.4以下であり、さらに好ましくは1.3以下であり、さらに一層好ましくは1.2以下であり、なおさらに一層好ましくは1.1以下であり、特に好ましくは1.0以下であり、特に一層好ましくは0.9以下である。
【0020】
また、本発明の第2態様における酢酸セルロースは、アセチル総置換度(平均置換度)が0.5〜1.0である。アセチル総置換度がこの範囲であると水に対する溶解性に優れ、この範囲を外れると水に対する溶解性が低下する傾向となる。前記アセチル総置換度の好ましい範囲は0.6〜0.95であり、さらに好ましい範囲は0.6〜0.92である。
アセチル総置換度は、酢酸セルロースを水に溶解し、酢酸セルロースの置換度を求める公知の滴定法により測定できる。また、該アセチル総置換度は、酢酸セルロースの水酸基をプロピオニル化した上で(後述の方法参照)、重クロロホルムに溶解し、NMRにより測定することもできる。
【0021】
アセチル総置換度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテートなどの試験方法)における酢化度の測定法に準じて求めた酢化度を次式で換算することにより求められる。これは、最も一般的なセルロースアセテートの置換度の求め方である。
DS=162.14×AV×0.01/(60.052−42.037×AV×0.01)
DS:アセチル総置換度
AV:酢化度(%)
まず、乾燥した酢酸セルロース(試料)500mgを精秤し、超純水とアセトンとの混合溶媒(容量比4:1)50mlに溶解した後、0.2N−水酸化ナトリウム水溶液50mlを添加し、25℃で2時間ケン化する。次に、0.2N−塩酸50mlを添加し、フェノールフタレインを指示薬として、0.2N−水酸化ナトリウム水溶液(0.2N−水酸化ナトリウム規定液)で、脱離した酢酸量を滴定する。また、同様の方法によりブランク試験(試料を用いない試験)を行う。そして、下記式にしたがってAV(酢化度)(%)を算出する。
AV(%)=(A−B)×F×1.201/試料重量(g)
A:0.2N−水酸化ナトリウム規定液の滴定量(ml)
B:ブランクテストにおける0.2N−水酸化ナトリウム規定液の滴定量(ml)
F:0.2N−水酸化ナトリウム規定液のファクター
【0022】
(組成分布指数(CDI))
本発明において、前記酢酸セルロース(A1)又は(A2)の組成分布(分子間置換度分布)は特に限定されず、組成分布指数(CDI)は、例えば1.0〜3.0である。組成分布指数(CDI)は、好ましくは1.0〜2.0、より好ましくは1.0〜1.8、さらに好ましくは1.0〜1.6、特に好ましくは1.0〜1.5である。組成分布指数(CDI)が2.0以下であると、前記酢酸セルロース(A1)とポリビニルアルコール(B)との相溶性、前記酢酸セルロース(A2)と水溶性有機添加剤(C)との相溶性が向上するためか、成形品の強度(繊維の場合は糸強度)が大きく向上する。
【0023】
組成分布指数(CDI)の下限値は0であるが、これは例えば100%の選択性でグルコース残基の6位のみをアセチル化し、他の位置はアセチル化しない等の特別な合成技術をもって実現されるものであり、そのような合成技術は知られていない。グルコース残基の水酸基の全てが同じ確率でアセチル化および脱アセチル化される状況において、CDIは1.0となるが、実際のセルロースの反応においてはこのような理想状態に近付けるためには相当の工夫を要する。前記組成分布指数(CDI)が小さいほど、組成分布(分子間置換度分布)が均一となる。組成分布が均一であると、アセチル総置換度が通常よりも広い範囲で水溶性を確保でき、均一な溶解がなされ、構造粘性が発現しないので、例えば酢酸セルロースを被覆製剤のコーティング層の基剤などに使用した場合に摂取させやすいなどの利点がある。
【0024】
ここで、組成分布指数(Compositional Distribution Index, CDI)とは、組成分布半値幅の理論値に対する実測値の比率[(組成分布半値幅の実測値)/(組成分布半値幅の理論値)]で定義される。組成分布半値幅は「分子間置換度分布半値幅」又は単に「置換度分布半値幅」ともいう。
【0025】
酢酸セルロースのアセチル総置換度の均一性を評価するのに、酢酸セルロースの分子間置換度分布曲線の最大ピークの半値幅(「半価幅」ともいう)の大きさを指標とすることができる。なお、半値幅は、アセチル置換度を横軸(x軸)に、この置換度における存在量を縦軸(y軸)としたとき、チャートのピークの高さの半分の高さにおけるチャートの幅であり、分布のバラツキの目安を表す指標である。置換度分布半値幅は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析により求めることができる。なお、HPLCにおけるセルロースエステルの溶出曲線の横軸(溶出時間)を置換度(0〜3)に換算する方法については、特開2003-201301号公報(段落0037〜0040)に説明されている。
【0026】
(組成分布半値幅の理論値)
組成分布半値幅(置換度分布半値幅)は確率論的に理論値を算出できる。すなわち、組成分布半値幅の理論値は以下の式(1)で求められる。
【0027】
【数2】
【0028】
m:酢酸セルロース1分子中の水酸基とアセチル基の全数
p:酢酸セルロース1分子中の水酸基がアセチル置換されている確率
q=1−p
DPw:重量平均重合度(GPC−光散乱法による)
なお、重量平均重合度(DPw)の測定法は後述する。
【0029】
式(1)は、セルロースの全ての水酸基が同じ確率でアセチル化および脱アセチル化された際に必然的に生じる組成分布半値幅であり、所謂二項定理に従って導かれるものである。さらに、組成分布半値幅の理論値を置換度と重合度で表すと、以下のように表される。本発明では下記式(2)を組成分布半値幅の理論値を求める定義式とする。
【0030】
【数3】
【0031】
DS:アセチル総置換度
DPw:重量平均重合度(GPC−光散乱法による)
なお、重量平均重合度(DPw)の測定法は後述する。
【0032】
ところで、式(1)および式(2)においては、より厳密には重合度分布を考慮に入れるべきであり、この場合には式(1)および式(2)の「DPw」は、重合度分布関数に置き換え、式全体を重合度0から無限大までで積分すべきである。しかしながら、DPwを使う限り、式(1)および式(2)は近似的に十分な精度の理論値を与える。DPn(数平均重合度)を使うと、重合度分布の影響が無視できなくなるので、DPwを使うべきである。
【0033】
(組成分布半値幅の実測値)
本発明において、組成分布半値幅の実測値とは、酢酸セルロース(試料)の残存水酸基(未置換水酸基)をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートをHPLC分析して求めた組成分布半値幅である。
【0034】
一般的に、アセチル総置換度2〜3の酢酸セルロースに対しては、前処理なしに高速液体クロマトグラフィ(HPLC)分析を行うことができ、それによって組成分布半値幅を求めることができる。例えば、特開2011−158664号公報には、置換度2.27〜2.56の酢酸セルロースに対する組成分布分析法が記載されている。
【0035】
一方、本発明においては、組成分布半値幅(置換度分布半値幅)の実測値は、HPLC分析前に前処理として酢酸セルロースの分子内残存水酸基の誘導体化を行い、しかる後にHPLC分析を行って求める。この前処理の目的は、低置換度酢酸セルロースを有機溶剤に溶解しやすい誘導体に変換してHPLC分析可能とすることである。すなわち、分子内の残存水酸基を完全にプロピオニル化し、その完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネート(CAP)をHPLC分析して組成分布半値幅(実測値)を求める。ここで、誘導体化は完全に行われ、分子内に残存水酸基はなく、アセチル基とプロピオニル基のみ存在していなければいけない。すなわち、アセチル置換度(DSac)とプロピオニル置換度(DSpr)の和は3である。これは、CAPのHPLC溶出曲線の横軸(溶出時間)をアセチル置換度(0〜3)に変換するための較正曲線を作成するために関係式:DSac+DSpr=3を使用するためである。
【0036】
酢酸セルロースの完全誘導体化は、ピリジン/N,N−ジメチルアセトアミド混合溶媒中でN,N−ジメチルアミノピリジンを触媒とし、無水プロピオン酸を作用させることにより行うことができる。より具体的には、溶媒として混合溶媒[ピリジン/N,N−ジメチルアセトアミド=1/1(v/v)]を酢酸セルロース(試料)に対して20重量部、プロピオニル化剤として無水プロピオン酸を該酢酸セルロースの水酸基に対して6.0〜7.5当量、触媒としてN,N−ジメチルアミノピリジンを該酢酸セルロースの水酸基に対して6.5〜8.0mol%使用し、温度100℃、反応時間1.5〜3.0時間の条件でプロピオニル化を行う。そして、反応後、沈殿溶媒としてメタノールを用い、沈殿させることにより、完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネートを得る。より詳細には、例えば、室温で、反応混合物1重量部をメタノール10重量部に投入して沈澱させ、得られた沈殿物をメタノールで5回洗浄し、60℃で真空乾燥を3時間行うことにより、完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネート(CAP)を得ることができる。なお、後述の多分散性(Mw/Mn)及び重量平均重合度(DPw)も、酢酸セルロース(試料)をこの方法により完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネート(CAP)とし、測定したものである。
【0037】
上記HPLC分析では、異なるアセチル置換度を有する複数のセルロースアセテートプロピオネートを標準試料として用いて所定の測定装置および測定条件でHPLC分析を行い、これらの標準試料の分析値を用いて作成した較正曲線[セルロースアセテートプロピオネートの溶出時間とアセチル置換度(0〜3)との関係を示す曲線、通常、三次曲線]から、酢酸セルロース(試料)の組成分布半値幅(実測値)を求めることができる。HPLC分析で求められるのは溶出時間とセルロースアセテートプロピオネートのアセチル置換度分布の関係である。これは、試料分子内の残存ヒドロキシ基のすべてがプロピオニルオキシ基に変換された物質の溶出時間とアセチル置換度分布の関係であるから、本発明の酢酸セルロースのアセチル置換度分布を求めていることと本質的には変わらない。
【0038】
上記HPLC分析の条件は以下の通りである。
装置: Agilent 1100 Series
カラム: Waters Nova−Pak phenyl 60Å 4μm(150mm×3.9mmΦ)+ガードカラム
カラム温度:30℃
検出: Varian 380−LC
注入量: 5.0μL(試料濃度:0.1%(wt/vol))
溶離液: A液:MeOH/H2O=8/1(v/v),B液:CHCl3/MeOH=8/1(v/v)
グラジェント:A/B=80/20→0/100(28min);流量:0.7mL/min
【0039】
較正曲線から求めた置換度分布曲線[セルロースアセテートプロピオネートの存在量を縦軸とし、アセチル置換度を横軸とするセルロースアセテートプロピオネートの置換度分布曲線](「分子間置換度分布曲線」ともいう)において、平均置換度に対応する最大ピーク(E)に関し、以下のようにして置換度分布半値幅を求める。ピーク(E)の低置換度側の基部(A)と、高置換度側の基部(B)に接するベースライン(A−B)を引き、このベースラインに対して、最大ピーク(E)から横軸に垂線をおろす。垂線とベースライン(A−B)との交点(C)を決定し、最大ピーク(E)と交点(C)との中間点(D)を求める。中間点(D)を通って、ベースライン(A−B)と平行な直線を引き、分子間置換度分布曲線との二つの交点(A'、B')を求める。二つの交点(A'、B')から横軸まで垂線をおろして、横軸上の二つの交点間の幅を、最大ピークの半値幅(すなわち、置換度分布半値幅)とする。
【0040】
このような置換度分布半値幅は、試料中のセルロースアセテートプロピオネートの分子鎖について、その構成する高分子鎖一本一本のグルコース環の水酸基がどの程度アセチル化されているかにより、保持時間(リテンションタイム)が異なることを反映している。したがって、理想的には、保持時間の幅が、(置換度単位の)組成分布の幅を示すことになる。しかしながら、HPLCには分配に寄与しない管部(カラムを保護するためのガイドカラムなど)が存在する。それゆえ、測定装置の構成により、組成分布の幅に起因しない保持時間の幅が誤差として内包されることが多い。この誤差は、上記の通り、カラムの長さ、内径、カラムから検出器までの長さや取り回しなどに影響され、装置構成により異なる。このため、セルロースアセテートプロピオネートの置換度分布半値幅は、通常、下式で表される補正式に基づいて、補正値Zとして求めることができる。このような補正式を用いると、測定装置(および測定条件)が異なっても、同じ(ほぼ同じ)値として、より正確な置換度分布半値幅(実測値)を求めることができる。
Z=(X2−Y21/2
[式中、Xは所定の測定装置および測定条件で求めた置換度分布半値幅(未補正値)である。Y=(a−b)x/3+b(0≦x≦3)である。ここで、aは前記Xと同じ測定装置および測定条件で求めた総置換度3のセルロースアセテートの見掛けの置換度分布半値幅(実際は総置換度3なので、置換度分布は存在しない)、bは前記Xと同じ測定装置および測定条件で求めた総置換度3のセルロースプロピオネートの見掛けの置換度分布半値幅である。xは測定試料のアセチル総置換度(0≦x≦3)である]
【0041】
なお、上記総置換度3のセルロースアセテート(もしくはセルロースプロピオネート)とは、セルロースのヒドロキシル基の全てがエステル化されたセルロースエステルを示し、実際には(理想的には)置換度分布半値幅を有しない(すなわち、置換度分布半値幅0の)セルロースエステルである。
【0042】
本発明において、前記酢酸セルロース(A1)又は(A2)の組成分布半値幅(置換度分布半値幅)の実測値としては、好ましくは0.12〜0.34であり、より好ましくは0.13〜0.25である。
【0043】
先に説明した置換度分布理論式は、すべてのアセチル化と脱アセチル化が独立かつ均等に進行することを仮定した確率論的計算値である。すなわち、二項分布に従った計算値である。このような理想的な状況は現実的にはあり得ない。酢酸セルロースの加水分解反応が理想的なランダム反応に近づくような、および/または、反応後の後処理について組成について分画が生じるような特別な工夫をしない限り、セルロースエステルの置換度分布は確率論的に二項分布で定まるものよりも大幅に広くなる。
【0044】
反応の特別な工夫の一つとしては、例えば、脱アセチル化とアセチル化が平衡する条件で系を維持することが考えられる。しかし、この場合には酸触媒によりセルロースの分解が進行するので好ましくない。他の反応の特別な工夫としては、脱アセチル化速度が低置換度物について遅くなる反応条件を採用することである。しかし、従来、そのような具体的な方法は知られていない。つまり、セルロースエステルの置換度分布を反応確率論通り二項分布にしたがうよう制御するような反応の特別な工夫は知られていない。さらに、酢化過程(セルロースのアセチル化工程)の不均一性や、熟成過程(酢酸セルロースの加水分解工程)で段階的に添加する水による部分的、一時的な沈殿の発生などの様々な事情は、置換度分布を二項分布よりも広くする方向に働き、これらを全て回避し、理想条件を実現することは、現実的には不可能である。これは、理想気体があくまで理想の産物であり、実在する気体の挙動はそれとは多かれ少なかれ異なることと似ている。
【0045】
従来の低置換度酢酸セルロースの合成と後処理においては、このような置換度分布の問題について殆ど関心が払われておらず、置換度分布の測定や検証、考察が行われていなかった。例えば、文献(繊維学会誌、42、p25 (1986))によれば、低置換度酢酸セルロースの溶解性は、グルコース残基2、3、6位へのアセチル基の分配で決まると論じられており、組成分布は全く考慮されていない。
【0046】
本発明者らの検討によれば、後述するように、酢酸セルロースの置換度分布は、驚くべきことに酢酸セルロースの加水分解工程の後の後処理条件の工夫で制御することができる。文献(CiBment, L., and Rivibre, C., Bull. SOC. chim., (5) 1, 1075 (1934)、Sookne, A. M., Rutherford, H. A., Mark, H., and Harris, M. J . Research Natl. Bur. Standards, 29, 123 (1942)、A. J. Rosenthal , B. B. White Ind. Eng. Chem., 1952, 44 (11), pp 2693-2696.)によれば、置換度2.3の酢酸セルロースの沈澱分別では、分子量に依存した分画と置換度(化学組成)に伴う微々たる分画が起こるとされており、本発明者らが見出したような置換度(化学組成)で顕著な分画ができるとの報告はない。さらに、低置換度酢酸セルロースについて、溶解分別や沈澱分別で置換度分布(化学組成)を制御できることは検証されていなかった。
【0047】
本発明者らが見出した置換度分布を狭くするもう1つの工夫は、酢酸セルロースの90℃以上の(又は90℃を超える)高温での加水分解反応(熟成反応)である。従来、高温反応で得られた生成物の重合度について詳細な分析や考察がなされて来なかったにもかかわらず、90℃以上の高温反応ではセルロースの分解が優先するとされてきた。この考えは、粘度に関する考察のみに基づいた思い込み(ステレオタイプ)と言える。本発明者らは、酢酸セルロースを加水分解して低置換度酢酸セルロースを得るに際し、90℃以上の(又は90℃を超える)高温下、好ましくは硫酸等の強酸の存在下、多量の酢酸中で反応させると、重合度の低下は見られない一方で、CDIの減少に伴い粘度が低下することを見出した。すなわち、高温反応に伴う粘度低下は、重合度の低下に起因するものではなく、置換度分布が狭くなることによる構造粘性の減少に基づくものであることを解明した。上記の条件で酢酸セルロースの加水分解を行うと、正反応だけでなく逆反応も起こるため、生成物(低置換度酢酸セルロース)のCDIが極めて小さい値となり、水に対する溶解性も著しく向上する。これに対し、逆反応が起こりにくい条件で酢酸セルロースの加水分解を行うと、置換度分布は様々な要因で広くなり、水に溶けにくいアセチル総置換度0.4未満の酢酸セルロース及びアセチル置換度1.6を超える酢酸セルロースの含有量が増大し、全体として水に対する溶解性が低下する。
【0048】
(2,3,6位の置換度の標準偏差)
本発明において、前記酢酸セルロースのグルコース環の2,3,6位の各アセチル置換度は、手塚(Tezuka,Carbonydr.Res.273,83(1995))の方法に従いNMR法で測定できる。すなわち、酢酸セルロース試料の遊離水酸基をピリジン中で無水プロピオン酸によりプロピオニル化する。得られた試料を重クロロホルムに溶解し、13C−NMRスペクトルを測定する。アセチル基の炭素シグナルは169ppmから171ppmの領域に高磁場から2位、3位、6位の順序で、そして、プロピオニル基のカルボニル炭素のシグナルは、172ppmから174ppmの領域に同じ順序で現れる。それぞれ対応する位置でのアセチル基とプロピオニル基の存在比から、元のセルロースジアセテートにおけるグルコース環の2,3,6位の各アセチル置換度を求めることができる。なお、このように求めた2,3,6位の各アセチル置換度の和はアセチル総置換度であり、この方法でアセチル総置換度を求めることもできる。なお、アセチル総置換度は、13C−NMRのほか、1H−NMRで分析することもできる。
【0049】
2,3,6位の置換度の標準偏差σは、次の式で定義される。
【0050】
【数4】
【0051】
本発明においては、酢酸セルロース(A1)又は(A2)のグルコース環の2,3及び6位のアセチル置換度の標準偏差が0.08以下(0〜0.08)であることが好ましい。該標準偏差が0.08以下である酢酸セルロースは、グルコース環の2,3,6位が均等に置換されており、水に対する溶解性に優れる。
【0052】
(多分散性(分散度、Mw/Mn))
本発明において、分子量分布(重合度分布)の多分散性(Mw/Mn)は、酢酸セルロース(試料)の残存水酸基をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートを用いてGPC−光散乱法により求めた値である。
【0053】
本発明における前記酢酸セルロース(A1)又は(A2)の多分散性(分散度、Mw/Mn)は、1.2〜2.5の範囲であることが好ましい。多分散性Mw/Mnが上記の範囲にある酢酸セルロースは、分子の大きさが揃っており、水に対する溶解性に優れる。
【0054】
酢酸セルロースの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び多分散性(Mw/Mn)は、HPLCを用いた公知の方法で求めることができる。本発明において、酢酸セルロースの多分散性(Mw/Mn)は、測定試料を有機溶剤に可溶とするため、前記組成分布半値幅の実測値を求める場合と同様の方法で、酢酸セルロース(試料)を完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネート(CAP)とした後、以下の条件でサイズ排除クロマトグラフィー分析を行うことにより決定される(GPC−光散乱法)。
装置:Shodex製 GPC 「SYSTEM−21H」
溶媒:アセトン
カラム:GMHxl(東ソー)2本、ガードカラム(東ソー製TSKgel guardcolumn HXL−H)
流速:0.8ml/min
温度:29℃
試料濃度:0.25%(wt/vol)
注入量:100μl
検出:MALLS(多角度光散乱検出器)(Wyatt製、「DAWN−EOS」)
MALLS補正用標準物質:PMMA(分子量27600)
【0055】
(重量平均重合度(DPw))
本発明において、重量平均重合度(DPw)は、酢酸セルロース(試料)の残存水酸基をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートを用いてGPC−光散乱法により求めた値である。
【0056】
本発明における前記酢酸セルロース(A1)又は(A2)の重量平均重合度(DPw)は、50〜800の範囲であることが好ましい。重量平均重合度(DPw)が高すぎると、濾過性が悪くなりやすい。前記重量平均重合度(DPw)は、好ましくは55〜700、さらに好ましくは60〜600である。
【0057】
上記重量平均重合度(DPw)は、前記多分散性(Mw/Mn)と同じく、前記組成分布半値幅の実測値を求める場合と同様の方法で、酢酸セルロース(試料)を完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネート(CAP)とした後、サイズ排除クロマトグラフィー分析を行うことにより求められる(GPC−光散乱法)。
【0058】
上述のように、水溶性の酢酸セルロースの分子量(重合度)、多分散性(Mw/Mn)はGPC−光散乱法(GPC−MALLS、GPC−LALLSなど)により測定される。なお、光散乱の検出は、一般に水系溶媒では困難である。これは水系溶媒は一般的に異物が多く、一旦精製しても二次汚染されやすいことによる。また、水系溶媒では、微量に存在するイオン性解離基の影響のため分子鎖の広がりが安定しない場合があり、それを抑えるために水溶性無機塩(例えば塩化ナトリウム)を添加したりすると、溶解状態が不安定になり、水溶液中で会合体を形成したりすることがある。この問題を回避するための有効な方法の一つは、水溶性酢酸セルロースを誘導体化し、異物が少なく、二次汚染されにくい有機溶媒に溶解するようにし、有機溶媒でGPC−光散乱測定を行うことである。この目的の水溶性酢酸セルロースの誘導体化としてはプロピオニル化が有効であり、具体的な反応条件及び後処理は前記組成分布半値幅の実測値の説明箇所で記載した通りである。
【0059】
(6%粘度)
本発明における前記酢酸セルロース(A1)又は(A2)の6%粘度は、例えば5〜500mPa・s、好ましくは6〜300mPa・sである。6%粘度が高すぎると濾過性が悪くなる場合がある。
【0060】
酢酸セルロースの6%粘度は、下記の方法で測定できる。
50mlのメスフラスコに乾燥試料3.00gを入れ、蒸留水を加え溶解させる。得られた6wt/vol%の溶液を所定のオストワルド粘度計の標線まで移し、25±1℃で約15分間整温する。計時標線間の流下時間を測定し、次式により6%粘度を算出する。
6%粘度(mPa・s)=C×P×t
C:試料溶液恒数
P:試料溶液密度(0.997g/cm3
t:試料溶液の流下秒数
試料溶液恒数は、粘度計校正用標準液[昭和石油社製、商品名「JS−200」(JIS Z 8809に準拠)]を用いて上記と同様の操作で流下時間を測定し、次式より求める。
試料溶液恒数={標準液絶対粘度(mPa・s)}/{標準液の密度(g/cm3)×標準液の流下秒数}
【0061】
(低置換度酢酸セルロースの製造)
本発明における前記酢酸セルロース(A1)又は(A2)(低置換度酢酸セルロース)は、例えば、(A)中乃至高置換度酢酸セルロースの加水分解工程(熟成工程)、(B)沈殿工程、及び、必要に応じて行う(C)洗浄、中和工程により製造できる。
【0062】
[(A)加水分解工程(熟成工程)]
この工程では、中乃至高置換度酢酸セルロース(以下、「原料酢酸セルロース」と称する場合がある)を加水分解する。原料として用いる中乃至高置換度酢酸セルロースのアセチル総置換度は、例えば、1.5〜3、好ましくは2〜3である。原料酢酸セルロースとしては、市販のセルロースジアセテート(アセチル総置換度2.27〜2.56)やセルローストリアセテート(アセチル総置換度2.56超〜3)を用いることができる。
【0063】
加水分解反応は、有機溶媒中、触媒(熟成触媒)の存在下、原料酢酸セルロースと水を反応させることにより行うことができる。有機溶媒としては、例えば、酢酸、アセトン、アルコール(メタノール等)、これらの混合溶媒などが挙げられる。これらの中でも、酢酸を少なくとも含む溶媒が好ましい。触媒としては、一般に脱アセチル化触媒として用いられる触媒を使用できる。触媒としては、特に硫酸が好ましい。
【0064】
有機溶媒(例えば、酢酸)の使用量は、原料酢酸セルロース1重量部に対して、例えば、0.5〜50重量部、好ましくは1〜20重量部、さらに好ましくは3〜10重量部である。
【0065】
触媒(例えば、硫酸)の使用量は、原料酢酸セルロース1重量部に対して、例えば、0.005〜1重量部、好ましくは0.01〜0.5重量部、さらに好ましくは0.02〜0.3重量部である。触媒の量が少なすぎると、加水分解の時間が長くなりすぎ、酢酸セルロースの分子量の低下を引き起こすことがある。一方、触媒の量が多すぎると、加水分解温度に対する解重合速度の変化の度合いが大きくなり、加水分解温度がある程度低くても解重合速度が大きくなり、分子量がある程度大きい酢酸セルロースが得られにくくなる。
【0066】
加水分解工程における水の量は、原料酢酸セルロース1重量部に対して、例えば、0.5〜20重量部、好ましくは1〜10重量部、さらに好ましくは2〜7重量部である。また、該水の量は、有機溶媒(例えば、酢酸)1重量部に対して、例えば、0.1〜5重量部、好ましくは0.3〜2重量部、さらに好ましくは0.5〜1.5重量部である。水は、反応開始時において全ての量を系内に存在させてもよいが、酢酸セルロースの沈殿を防止するため、使用する水の一部を反応開始時に系内に存在させ、残りの水を1〜数回に分けて系内に添加してもよい。
【0067】
加水分解工程における反応温度は、例えば、40〜130℃、好ましくは50〜120℃、さらに好ましくは60〜110℃である。特に、反応温度を90℃以上(或いは90℃を超える温度)とする場合には、正反応(加水分解反応)に対する逆反応(アセチル化反応)の速度が増加する方向に反応の平衡が傾く傾向があり、その結果、置換度分布が狭くなり、後処理条件を特に工夫しなくとも、組成分布指数CDIの極めて小さい低置換度酢酸セルロースを得ることができる。この場合、触媒として硫酸等の強酸を用いるのが好ましく、また、反応溶媒として酢酸を過剰に用いるのが好ましい。また、反応温度を90℃以下とする場合であっても、後述するように、沈殿工程において、沈殿溶媒として2種以上の溶媒を含む混合溶媒を用いて沈殿させたり、沈殿分別及び/又は溶解分別を行うことにより、組成分布指数CDIが非常に小さい低置換度酢酸セルロースを得ることができる。
【0068】
[(B)沈殿工程]
この工程では、加水分解反応終了後、反応系の温度を室温まで冷却し、沈殿溶媒を加えて低置換度酢酸セルロースを沈殿させる。沈殿溶媒としては、水と混和する有機溶剤若しくは水に対する溶解度の大きい有機溶剤を使用できる。例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール;酢酸エチル等のエステル;アセトニトリル等の含窒素化合物;テトラヒドロフラン等のエーテル;これらの混合溶媒などが挙げられる。
【0069】
沈殿溶媒として2種以上の溶媒を含む混合溶媒を用いると、後述する沈殿分別と同様の効果が得られ、組成分布(分子間置換度分布)が狭く、組成分布指数(CDI)が小さい低置換度酢酸セルロースを得ることができる。好ましい混合溶媒として、例えば、アセトンとメタノールの混合溶媒、イソプロピルアルコールとメタノールの混合溶媒などが挙げられる。
【0070】
また、沈殿して得られた低置換度酢酸セルロースに対して、さらに沈殿分別(分別沈殿)及び/又は溶解分別(分別溶解)を行うことにより、組成分布(分子間置換度分布)が狭く、組成分布指数CDIが非常に小さい低置換度酢酸セルロースを得ることができる。
【0071】
沈殿分別は、例えば、沈殿して得られた低置換度酢酸セルロース(固形物)を水に溶解し、適当な濃度(例えば、2〜10重量%、好ましくは3〜8重量%)の水溶液とし、この水溶液に貧溶媒を加え(又は、貧溶媒に前記水溶液を加え)、適宜な温度(例えば、30℃以下、好ましくは20℃以下)に保持して、低置換度酢酸セルロースを沈殿させ、沈殿物を回収することにより行うことができる。貧溶媒としては、例えば、メタノール等のアルコール、アセトン等のケトンなどが挙げられる。貧溶媒の使用量は、前記水溶液1重量部に対して、例えば1〜10重量部、好ましくは2〜7重量部である。
【0072】
溶解分別は、例えば、前記沈殿して得られた低置換度酢酸セルロース(固形物)或いは前記沈殿分別で得られた低置換度酢酸セルロース(固形物)に、水と有機溶媒(例えば、アセトン等のケトン、エタノール等のアルコールなど)の混合溶媒を加え、適宜な温度(例えば、20〜80℃、好ましくは25〜60℃)で撹拌後、遠心分離により濃厚相と希薄相とに分離し、希薄相に沈殿溶剤(例えば、アセトン等のケトン、メタノール等のアルコールなど)を加え、沈殿物(固形物)を回収することにより行うことができる。前記水と有機溶媒の混合溶媒における有機溶媒の濃度は、例えば、5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%である。
【0073】
[(C)洗浄、中和工程]
沈殿工程(B)で得られた沈殿物(固形物)は、メタノール等のアルコール、アセトン等のケトンなどの有機溶媒(貧溶媒)で洗浄するのが好ましい。また、塩基性物質を含む有機溶媒(例えば、メタノール等のアルコール、アセトン等のケトンなど)で洗浄、中和することも好ましい。なお、中和工程は加水分解工程の直後に設けても良く、その場合には塩基性物質またはその水溶液を加水分解反応浴に添加するのが好ましい。
【0074】
前記塩基性物質としては、例えば、アルカリ金属化合物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属カルボン酸塩;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等のナトリウムアルコキシドなど)、アルカリ土類金属化合物(例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩;酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム等のアルカリ土類金属カルボン酸塩;マグネシウムエトキシド等のアルカリ土類金属アルコキシドなど)などを使用できる。これらの中でも、特に、酢酸カリウム等のアルカリ金属化合物が好ましい。
【0075】
洗浄、中和により、加水分解工程で用いた触媒(硫酸等)などの不純物を効率よく除去することができる。
【0076】
このようにして得られた低置換度酢酸セルロースは、必要に応じて、粉砕、篩別又は造粒して、特定粒度の範囲に調整することができる。
【0077】
[ポリビニルアルコール(B)]
本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の第1態様のポリビニルアルコール(B)としては、ケン化度が50モル%以上のものを特に限定なく使用することができる。ポリビニルアルコール(B)のケン化度が50モル%以上であれば、水に対する溶解性に優れ、また、酢酸セルロース(A1)とポリビニルアルコール(B)が相溶して透明な樹脂組成物を形成しやすくなる。前記ケン化度の好ましい下限値は、60モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくはモル75%以上、さらに一層好ましくは80モル%以上、なおさらに好ましくは85モル%以上、特に好ましくは90モル%以上である。前記ケン化度の上限値は、特に限定されないが、好ましくは100モル%以下、より好ましくは99モル%以下、さらに好ましくは95モル%以下である。
【0078】
また、ポリビニルアルコール(B)の平均重合度は、特に限定されないが、好ましくは200〜3500であり、より好ましくは500〜2500である。
なお、ポリビニルアルコールのケン化度及び平均重合度は、下記式で表される値であり、JIS K 6726に準拠する方法にて測定することができる
【0079】
【化1】
【0080】
ポリビニルアルコール(B)は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ポリビニルアルコール(B)は、公知乃至慣用の方法により製造することもできるし、例えば、商品名「ゴーセノールEG−05」(ケン化度:86.5〜89.0モル%)、「ゴーセノールNH−17Q」、(ケン化度:100.0モル%)、「ゴーセノールKH−20」(ケン化度:78.5〜81.5モル%)、「ゴーセノールKH−17」(ケン化度:78.5〜81.5モル%)、「ゴーセノールKL−05」(ケン化度:78.5〜82.0モル%)、「ゴーセノールKL−03」(ケン化度:78.5〜82.0モル%)、「ゴーセノールKM−11」(ケン化度:76.7〜79.3モル%)、「ゴーセノールKP−08R」(ケン化度:71.0〜73.5モル%)、「ゴーセノールNK−05R」(ケン化度:71.0〜75.0モル%)(以上、日本合成化学工業(株)製)、商品名「ポバールPVA−203」(ケン化度:88モル%)「ポバールPVA−205」(ケン化度:88モル%)、「ポバール424H」(ケン化度:78.5〜80.5モル%)(以上、クラレ(株)製)等のケン化度が50%以上のポリビニルアルコールの市販品を使用することもできる。
【0081】
[水溶性有機添加剤(C)]
本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の第1態様に含まれる水溶性有機添加剤(C)としては、ポリビニルアルコールを除く、水溶性の有機化合物であれば特に限定されず、用途に応じて適宜選択できる。水溶性有機添加剤(C)は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。水溶性有機添加剤(C)として、例えば、水溶性高分子、水溶性低分子化合物などが挙げられる。
【0082】
前記水溶性高分子としては、例えば、デンプン、マンナン、ペクチン、アルギン酸、デキストラン、プルラン、にかわ、ゼラチン等の天然ポリマー;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系ポリマー(酢酸セルロースを除く)などの半合成ポリマー;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレンオキサイドなどのポリアルキレングリコールやポリアルキレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン等の合成ポリマーなどが挙げられる。水溶性高分子の重量平均分子量(又は、分子量)は、例えば、150〜1000000、好ましくは200〜100000、さらに好ましくは200〜10000、特に好ましくは200〜1000である。水溶性高分子の重量平均分子量(又は、分子量)が大きすぎると、酢酸セルロースとの相溶性が低下する傾向にあり、また、重量平均分子量(又は、分子量)が小さすぎると成形品の強度や伸度が低下する傾向にある。
【0083】
前記水溶性低分子化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等の多価アルコール(高分子化合物を除く);グルコース等の単糖類;2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、スルホラン等のヘテロ原子含有低分子化合物などが挙げられる。
【0084】
本発明における前記水溶性有機添加剤(C)としては、成形品の物性、外観、安定性等の観点から、上記の中でも、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール、ポリエチレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイド;グリセリン等の多価アルコール(高分子化合物を除く)が好ましく、特に、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイドが好ましく、とりわけポリエチレングリコールが好ましい。
【0085】
ポリエチレングリコールの平均重量分子量(又は、分子量)は、例えば150〜5000、好ましくは200〜1000である。
【0086】
[水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物]
本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の第1態様は、アセチル総置換度が0.4〜1.6である酢酸セルロース(A1)と、ケン化度が50モル%以上であるポリビニルアルコール(B)とを含む。本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の第1態様では、前記酢酸セルロース(A1)及び前記ポリビニルアルコール(B)が互いに相溶して、透明な樹脂組成物(ポリマーアロイ)を形成し、さらに酸素や水蒸気等の気体の透過性が低く、すなわち、ガスバリヤ性能が高い。さらに、本発明の第1態様の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物は、生分解性であり、且つ水溶性、安全性も高い。
【0087】
本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の第1態様は、上述の優れた特性を有するため、例えば、被覆製剤のコーティング層の基剤、後述の水溶性酢酸セルロース複合体成形品等の用途の好適に使用することができる。詳細は、後掲にて説明する。
【0088】
[相溶性の定義]
ポリマーの非晶部分は、昇温過程でガラス状態からゴム状態に、降温過程でゴム状態からガラス状態に転移する。この転移温度(ガラス転移温度、あるいは、ガラス転移点)は、ポリマーを特徴付ける物性の一つである。2種類のポリマーをブレンドすると、もともとのポリマーに特徴的なそれぞれのガラス転移温度が観察される場合がある。この状況は、二種類のポリマーは分子レベルで相互作用していないと判定される。つまり、ポリマーブレンドにおいて、もともとのポリマーに特徴的なガラス転移温度が観察される場合、そのポリマーブレンドは非相溶性である(非相溶である)と判定される。
2種類のポリマーをブレンドすると、もともとのポリマーには現れないガラス転移温度が一つだけ観察される場合がある。この状況は、2種類のポリマーは分子レベルで相互作用していると判定される。つまり、ポリマーブレンドにおいて、もともとのポリマーに特徴的なガラス転移温度が消失し、あらたに一つのガラス転移温度が観察される場合、そのポリマーブレンドは相溶性である(相溶である)と判定される。言い換えれば、もともとのポリマーに特徴的なガラス転移温度が消失し、あらたに一つのガラス転移温度が観察される状況をもって、「相溶性」を定義して良い。
なお、2種類のポリマーのブレンドにおいて、非晶部分は相溶しており、加えて、もともとのポリマーの片方あるいは両方の結晶が混在する場合がある。この場合にも、ガラス転移温度は一つのみ観察されることとなる。この状況もまた、相溶性であると定義される。
【0089】
2種類のポリマー及びそのポリマーブレンドのガラス転移点、結晶性を示す融点は、いずれも示差走査熱量測定(DSC)を用いた熱分析により観察することができる。例えば、2種類のポリマー(ポリマーAとポリマーB)の相溶性を判定する場合には、各種割合のポリマーブレンドを熱分析して、ガラス転移点、結晶性を示す吸熱ピークが以下のチャートパターン1〜4の何れかに該当するか否かを調べることにより判定することができる。
ガラス転移点では、熱分析のチャートのベースラインが吸熱側(下側)にシフトする変曲点が観察され、融点では吸熱ピークが観測される。
【0090】
図1は、2種類のポリマー(ポリマーAとポリマーB)の各種割合のブレンドを示差走査熱量測定(DSC)にて測定した場合に、ポリマーAとポリマーBが互いに相溶性であると判定されるチャートパターンの1つ(パターン1)を示す模式図である。
パターン1は、ポリマーAとポリマーBはいずれも結晶性を示す吸熱ピークを有さず、ポリマーAとポリマーBの各種割合(重量%)のブレンド(例えば、ポリマーA/ポリマーB=80/20〜20/80)では、いずれもポリマーA又はポリマーBに由来するガラス転移点(↓)を示さず、ポリマーブレンド特有の単一のガラス転移点(↓)のみが観察される場合である。
【0091】
図2は、2種類のポリマー(ポリマーAとポリマーB)の各種割合のブレンドを示差走査熱量測定(DSC)にて測定した場合に、ポリマーAとポリマーBが互いに非相溶性であると判定されるチャートパターンの1つ(パターン2)を示す模式図である。
パターン2は、ポリマーAとポリマーBはいずれも結晶性を示す吸熱ピークを有さず、ポリマーAとポリマーBの各種割合(重量%)のブレンド(例えば、ポリマーA/ポリマーB=80/20〜20/80)では、いずれもポリマーA及びポリマーBに由来する2つのガラス転移点(↓)が観察される場合である。
なお、あらかじめポリマーA及びポリマーBのそれぞれのガラス転移点が分かっており、それらがガラス転移点の測定精度(測定条件によるが、例えば±3℃程度)を考慮しても十分に分離している状況では、これらポリマーのブレンドにおいて1つのガラス転移点のみが観察され、それがそれぞれのポリマーに特徴的なガラス転移点の何れかと同一とみなされ、測定感度その他の理由により他方のガラス転移点が観察されない場合も、実質的にパターン2と同じものと判別される。
【0092】
図3は、2種類のポリマー(ポリマーAとポリマーB)の各種割合のブレンドを示差走査熱量測定(DSC)にて測定した場合に、ポリマーAとポリマーBが互いに相溶性であると判定されるチャートパターンの1つ(パターン3)を示す模式図である。
パターン3は、ポリマーAは結晶性を示す吸熱ピークを有さないが、ポリマーBは結晶性を示す吸熱ピーク(*)を有し、ポリマーAとポリマーBの各種割合(重量%)のブレンド(例えば、ポリマーA/ポリマーB=80/20〜20/80)では、いずれもポリマーA又はポリマーBに由来するガラス転移点(↓)を示さず、ポリマーブレンド特有の単一のガラス転移点(↓)を示し、さらに特定の割合(重量%)のポリマーAとポリマーBのブレンド(例えば、ポリマーA/ポリマーB=40/60〜20/80)では、ポリマーBに由来する結晶性を示す吸熱ピーク(*)が観察される場合である。
【0093】
図4は、2種類のポリマー(ポリマーAとポリマーB)の各種割合のブレンドを示差走査熱量測定(DSC)にて測定した場合に、ポリマーAとポリマーBが互いに非相溶性であると判定されるチャートパターンの1つ(パターン4)を示す模式図である。
パターン4は、ポリマーAは結晶性を示す吸熱ピークを有さないが、ポリマーBは結晶性を示す吸熱ピーク(*)を有し、ポリマーAとポリマーBの各種割合(重量%)のブレンド(例えば、ポリマーA/ポリマーB=80/20〜20/80)では、いずれもポリマーA及びポリマーBに由来する2つのガラス転移点(↓)を示し、さらに特定の割合(重量%)のポリマーAとポリマーBのブレンド(例えば、ポリマーA/ポリマーB=80/20〜20/80)では、ポリマーBに由来する結晶性を示す吸熱ピーク(*)が観察される場合である。
なお、ポリマーAまたはポリマーBが結晶性を示す吸熱ピークを有する場合であって、あらかじめポリマーA及びポリマーBのそれぞれのガラス転移点が分かっており、それらがガラス転移点の測定精度(測定条件によるが、例えば±3℃程度)を考慮しても十分に分離している状況では、これらポリマーのブレンドにおいて1つのガラス転移点のみが観察され、それがそれぞれのポリマーに特徴的なガラス転移点の何れかと同一とみなされ、測定感度その他の理由により他方のガラス転移点が観察されない場合も、実質的にパターン4と同じものと判別される。
【0094】
本発明の第1態様の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物のDSCによる熱分析は、セイコーインスツルメンツ(株)製DSC6200/EXSTAR6000を用い、測定は全て窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで行い、各試料約5mgを280℃まで昇温していったんポリビニルアルコールの結晶を溶融した後、速やかに−30℃まで冷却し、その後再び280℃まで昇温して安定なサーモグラムを得ることにより行うことができる。
【0095】
本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の第1態様において、前記酢酸セルロース(A1)100重量部に対する前記ポリビニルアルコール(B)の含有量の上限値は、特に限定されないが、好ましくは500重量以下であり、より好ましくは400重量部以下であり、より一層好ましくは300重量部以下であり、さらに好ましくは200重量部以下であり、さらに一層好ましくは100重量部以下であり、なおさらに一層好ましくは50重量部以下であり、特に好ましくは25重量部以下である。前記ポリビニルアルコール(B)の含有量が500重量部以下であることにより、前記酢酸セルロース(A1)と前記ポリビニルアルコール(B)が相溶して、透明な樹脂組成物が得られやすくなる。一方、記酢酸セルロース(A1)100重量部に対する前記ポリビニルアルコール(B)の含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは5重量部以上であり、より好ましくは10重量部以上であり、さらに好ましくは15重量部以上である。前記ポリビニルアルコール(B)の含有量が5重量部以下であることにより、得られる水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の酸素透過性、水蒸気透過性を低くしやすくなる。
【0096】
本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の第1態様において、前記酢酸セルロース(A1)の含有量は、好ましくは5〜95重量%、より好ましくは10〜90重量%、特に好ましくは15〜85重量%である。また、前記ポリビニルアルコール(B)の含有量は、好ましくは5〜95重量%、より好ましくは10〜90重量%、特に好ましくは15〜85重量%である。
【0097】
本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の第1態様は、前記酢酸セルロース(A1)及びポリビニルアルコール(B)のほか、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。
【0098】
前記他の成分として、例えば、医薬品、食品等に使用される各種添加剤(例、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、pH調整剤、界面活性剤、安定化剤、酸味料、香料、流動化剤等)、他の水溶性且つ生分解性を有する樹脂、熱劣化防止剤、熱着色防止剤、生分解促進剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、染料、顔料、潤滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、香料などが挙げられる。
【0099】
本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の第1態様において、前記酢酸セルロース(A1)及びポリビニルアルコール(B)の総含有量は、例えば、70重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上であり、100重量%であってもよい。
【0100】
本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の第1態様は、例えば、所定量の酢酸セルロース(A1)及びポリビニルアルコール(B)を、必要に応じて他の成分及び溶媒と共に混合した後に溶媒を蒸発させることにより調製できる。例えば、各成分及び溶媒をヘンシェルミキサー等の混合器内で混合した後、ガラス板状の平板上に流延し、室温で風乾、又は40〜60℃で温風乾燥することによりフィルム状に成形された水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物を得ることができる。
酢酸セルロース(A1)及びポリビニルアルコール(B)を溶解させる溶媒としては、水、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0101】
こうして得られる樹脂組成物(フィルム状等)のガラス転移温度(Tg)(Tgが複数存在する場合は低温側のTg)は、例えば、50〜230℃、好ましくは60〜220℃、より好ましくは70〜210℃である。
【0102】
本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の第2態様は、前記アセチル総置換度が0.5〜1.0である酢酸セルロース(A2)を50〜95重量%、及び水溶性有機添加剤(C)を5〜50重量%含む。本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の第2態様は、前記酢酸セルロース(A2)及び水溶性有機添加剤(C)を上記の範囲で含有するので、比較的低い温度にて溶融状態とすることができ、比較的低い温度で成形が可能となるため、着色の少ない成形物を製造することができる。また、繊維を得る場合、比較的繊度が低く(例えば、2デニール程度)、水溶性で且つ生分解性の酢酸セルロース繊維を得ることができる。前記酢酸セルロース(A2)の含有量が50重量%未満の場合や、前記水溶性有機添加剤(C)の含有量が50重量%を超えると、酢酸セルロース本来の特性が得られず、また、成形品の強度が低下するため好ましくない。また、酢酸セルロース(A2)の含有量が95重量%を超える場合や、前記水溶性有機添加剤(C)の含有量が5重量%未満の場合は、組成物のガラス転移温度が上がり、溶融温度が高くなり、成形品の着色が顕著となる。また、成形性が低くなるためか、成形品(例えば、繊維)の強度(例えば、糸強度)が低下する。
【0103】
本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の第2態様において、前記酢酸セルロース(A2)の含有量は、好ましくは50〜90重量%、より好ましくは50〜80重量%、特に好ましくは55〜75重量%である。また、前記水溶性有機添加剤(C)の含有量は、好ましくは10〜50重量%、より好ましくは20〜50重量%、特に好ましくは25〜45重量%である。
【0104】
本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の第2態様は、前記酢酸セルロース(A2)及び水溶性有機添加剤(C)のほか、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。
【0105】
前記他の成分として、例えば、他の水溶性且つ生分解性を有する樹脂、熱劣化防止剤、熱着色防止剤、生分解促進剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、染料、顔料、潤滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、香料などが挙げられる。
【0106】
本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の第2態様において、前記酢酸セルロース(A2)及び水溶性有機添加剤(C)の総含有量は、例えば、70重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上であり、100重量%であってもよい。
【0107】
本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の第2態様は、例えば、所定量の酢酸セルロース(A2)及び水溶性有機添加剤(C)を、必要に応じて他の成分と共に混合することにより調製できる。例えば、各成分をヘンシェルミキサー等の混合器内で混合した後、ストランド状に溶融押出しし、適当な大きさに切断することによりペレット状の樹脂組成物を得ることができる。
【0108】
こうして得られる樹脂組成物(ペレット等)のガラス転移温度(Tg)(Tgが複数存在する場合は低温側のTg)は、例えば、90〜230℃、好ましくは100〜200℃、より好ましくは130〜170℃である。
【0109】
[水溶性酢酸セルロース複合体成形品]
本発明の水溶性酢酸セルロース複合体成形品は、前記本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物(第1態様および第2態様を含む。以下、同様)を、溶融状態を経由して成形することにより製造できる。すなわち、溶融紡糸法(メルトブロー紡糸法を含む)を用いることにより前記水溶性酢酸セルロース複合体成形品を製造することができる。
【0110】
例えば、前記水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物(ペレット等)を、公知の溶融押出紡糸機において、加熱溶融した後、口金から紡糸し、紡出された連続長繊維フィラメント群をエジェクターにより高速高圧エアーで延伸し巻き取るか、あるいは、開繊して捕集用の支持体面上に捕集してウェブを形成することにより繊維状の水溶性酢酸セルロース複合体成形品を得ることができる。また、押出機で溶融した前記水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物を、例えば幅方向1m当たり数百から数千個の口金を持つダイから、高温・高速の空気流で糸状に吹き出し、繊維状に延伸された樹脂をコンベア上で集積し、その間に繊維同士の絡み合い及び融着を生じさせることにより不織布を製造することができる(メルトブロー紡糸法)。溶融紡糸時の紡糸温度は、例えば、130〜240℃、好ましくは140〜200℃、より好ましくは150〜188℃である。紡糸温度が高すぎると成形品の着色が顕著になる。また、紡糸温度が低すぎると、組成物の粘度が低くなり、紡糸ドラフト比を高くするのが困難となり生産性が低下しやすくなる。紡糸ドラフト比は、例えば200〜600程度である。
【0111】
上記溶融紡糸法により得られる糸の繊度は、例えば1〜9デニール(d)、好ましくは1.3〜5デニール(d)である。また、前記糸の強度は、例えば0.3〜1.5g/d程度である。
【0112】
また、本発明の水溶性酢酸セルロース複合体成形品は、前記本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物を射出成形することにより製造することもできる。射出成形により、種々の形状を有する成形品を得ることができる。
【0113】
水溶性酢酸セルロース複合体成形品としては、例えば、たばこフィルター、不織布、各種射出成形品などが挙げられる。本発明の水溶性酢酸セルロース複合体成形品は、水溶性で且つ生分解性を有するので、自然や人間に負荷を掛けないという利点を有する。また、製造するのに、乾式紡糸のように400℃程度の乾燥空気を用いる必要がないので、エネルギー消費量を少なくできる。さらに、着色の少ない成形品(例えば、繊維)が得られるので、品質面でも優れる。
【0114】
[被覆製剤]
前記本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物(第1態様および第2態様を含む。以下、同様)は、被覆製剤のコーティング層の基剤として好適に使用することができる。特に、本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の第1態様は、前記酢酸セルロース(A1)及び前記ポリビニルアルコール(B)が互いに相溶して、透明な樹脂組成物(ポリマーアロイ)を形成し、さらに酸素や水蒸気等の気体の透過性が低く、生分解性であり、且つ水溶性、安全性も高いため、被覆製剤のコーティング層の基剤に極めて適している。
【0115】
本発明の被覆製剤は、例えば、医薬、食品、農薬等であってよい。
医薬としては、特に制限はないが、例えば、鎮痛剤、解熱鎮痛剤、頭痛治療剤、鎮咳剤、去痰剤、鎮静剤、鎮けい剤、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、抗プラスミン剤、気管支拡張剤、喘息治療剤、糖尿病治療剤、肝疾患治療剤、潰瘍治療剤、胃炎治療剤、健胃消化剤、消化管運動賦活剤、高血圧治療剤、狭心症治療剤、血圧降下剤、低血圧治療剤、高脂血症治療剤、ホルモン剤、抗生物質、抗ウイルス剤、サルファ剤、抗炎症剤、精神神経用剤、眼圧降下剤、制吐剤、止瀉薬、痛風治療剤、不整脈治療剤、血管収縮剤、消化剤、睡眠又は催眠導入(誘導)剤、交感神経遮断剤、貧血治療剤、抗てんかん剤、抗めまい剤、平行傷害治療剤、結核治療剤、ビタミン欠乏症治療剤、痴呆治療剤、尿失禁治療剤、鎮うん剤、口内殺菌剤、寄生虫駆除剤、ビタミン剤、アミノ酸類、ミネラル類などが挙げられる。これら医薬は2種以上を適宜の割合で混合して用いてもよい。
【0116】
食品としては、青汁粉末、アグリコン、アガリクス、アシュワガンダ、アスタキサンチン、アセロラ、アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、ヒスチジン、シスチン、チロシン、アルギニン、アラニン、アスパラギン酸、海藻粉末、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、プロリン、セリン等)、アルギン酸、いちょう葉エキス、イワシペプチド、ウコン、ウロン酸、エキナセア、エゾウコギ、オリゴ糖、オレイン酸、核タンパク、カツオブシペプチド、カテキン、カリウム、カルシウム、カロチノイド、ガルシニア、L一カルニチン、キトサン、共役リノール酸、キダチアロエ、ギムネマシルベスタエキス、クエン酸、クミスクチン、グリセリド、グリセノール、グルカゴン、グルタミン、グルコサミン、L一グルタミン、クロレラ、クランベリーエキス、キャッツクロー、ゲルマニウム、酵素、高麗人参エキス、コエンザイムQIO、コラーゲン、コラーゲンペプチド、コリウスフォルスコリン、コンドロイチン、サイリウムハスク末、サンザシエキス、サポニン、脂質、L一シスチン、シソエキス、シトリマックス、脂肪酸、植物ステロール、種子エキス、スピルリナ、スクワレン、セイヨウシロヤナギ、セラミド、セレン、セントジョーンズワートエキス、大豆インフラボン、大豆サポニン、大豆ペプチド、大豆レシチン、単糖、タンパク質、チェストツリーエキス、鉄、銅、ドコサヘキサエン酸、トコトリエノール、納豆キナーゼ、納豆菌培養エキス、ナイアシンナトリウム、ニコチン酸、二糖、乳酸菌、ニンニク、ノコギリヤシ、発芽米、ハトムギエキス、ハーブエキス、バレリヤンエキス、パントテン酸、ヒアルロン酸、ビオチン、ピコリン酸クロム、ビタミンA、A2ビタミンB1、B2、B6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ヒドロキシチロソール、ビフィズス菌、ビール酵母、フラクトオリゴ糖、フラボノイド、ブッチャーズブルームエキス、ブラックコホシュ、ブルーベリー、プルーンエキス、プロアントシアニジン、プロテイン、プロポリス、ブロメライン、プロバイオティクス、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、β一カロチン、ペプチド、ベニバナエキス、マイタケエキス、マカエキス、マグネシウム、マリアアザミ、マンガン、ミトコンドリア、ミネラル、ムコ多糖、メラトニン、メシマコブ、メリロートエキス末、モリブデン、野菜粉末、葉酸、ラクトース、リコピン、リノール酸、リポ酸、燐(リン)、ルテイン、レシチン、ロズマリン酸、ローヤルゼリー、DHA、EPA等の健康食品が好適に使用できる。これら食品は、2種以上を適宜の割合で混合して用いてもよい。
【0117】
農薬としては、特に限定されないが、例えば、抗菌剤、抗ウイルス剤、殺菌剤、殺ダニ剤、殺虫剤、殺線虫剤、殺鼠剤、除草剤、植物生長調節剤、肥料、薬害軽減剤などが挙げられる。また、これら農薬は2種以上を適宜の割合で混合して用いてもよい。
本発明の被覆製剤における、医薬、農薬、食品等の含量は、被覆製剤中5〜90重量%の範囲から適宜選択できる。
【0118】
本発明の被覆製剤においてコーティング層で被覆される核(以下、「素錠」という)は、上記医薬品、食品、農薬等の成分を含む、錠剤、顆粒、粉末等の固体製剤であってもよく、さらに、各種添加剤を含んでいてもよく、当該技術分野で周知な方法で製造することができる。
前記添加剤としては、医薬品、食品、農薬等の常用されるものを制限なく使用することができ、例えば、コーンスターチ、αスターチ、乳糖、白糖、マルトース、トレハロース、環状四糖、デキストリン、デンプン、結晶セルロース、重炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム等の賦形剤(担体);カルボキシメチルセルロース、寒天、ゼラチン末等の崩壊剤;ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の結合剤;シリカ、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤;界面活性剤;乳化剤;可塑剤;防腐剤(抗菌剤);保湿剤;増粘剤;増粘安定剤;抗酸化剤;キレート剤;色素;香料;酸味料;調味料;pH調整剤;ビタミン剤;各種アミノ酸;ミネラル;油脂;栄養補助剤;水溶性高分子;電解質;希釈剤;水;生理食塩水;アルコール類;有機溶媒;動物や植物のエキスなどが挙げられる。これら添加剤は2種以上を適宜の割合で混合して用いてもよい。
【0119】
本発明の被覆製剤のコーティング層を形成するためのコーティング液には、本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の他、酸化チタン、タルク、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄などの遮光剤および/または着色剤;ポリエチレングリコール、クエン酸トリエチル、ヒマシ油、ポリソルベート類などの可塑剤;クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスコルビン酸などの有機酸;乳糖、マンニトールなどの糖、糖アルコール等の各種添加剤が含まれていてもよい。
【0120】
また、前記コーティング液には、本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物以外の水溶性フィルムコーティング基剤、腸溶性フィルムコーティング基剤、徐放性フィルムコーティング基剤などが含まれていてもよい。
水溶性フィルムコーティング基剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース系高分子;ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE〔オイドラギットE(商品名)、ロームファルマ社〕、ポリビニルピロリドンなどの合成高分子;プルランなどの多糖類などが挙げられる。
【0121】
腸溶性フィルムコーティング基剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース フタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロース アセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロースなどのセルロース系高分子;メタアクリル酸コポリマーL〔オイドラギットL(商品名)、ロームファルマ社〕、メタアクリル酸コポリマーLD〔オイドラギットL−30D55(商品名)、ロームファルマ社〕、メタアクリル酸コポリマーS〔オイドラギットS(商品名)、ロームファルマ社〕などのアクリル酸系高分子;セラックなどの天然物などが挙げられる。
【0122】
徐放性フィルムコーティング基剤としては、例えば、エチルセルロースなどのセルロース系高分子;アミノアルキルメタアクリレートコポリマーRS〔オイドラギットRS(商品名)、ロームファルマ社〕、アクリル酸エチル・メタアクリル酸メチル共重合体懸濁液〔オイドラギットNE(商品名)、ロームファルマ社〕などのアクリル酸系高分子などが挙げられる。
【0123】
コーティング液(100重量%、溶媒は除く)中の本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物の含有量は、特に限定されないが、10〜100重量%の範囲から適宜選択することができる。
【0124】
本発明の被覆製剤は、市販のパンコーティング装置、流動層コーティング装置、通期式回転ドラムコーティング装置等のフィルムコーティング装置を用いて、前記素錠に前記コーティング液を被覆させることにより製造することができる。コーティング層の厚さは、通常100μm以下であり、好ましくは2〜50μmである。
また、本発明の被覆製剤は、さらに前記コーティング液又は他のコーティング液で被覆した、多層被覆製剤としてもよい。
【0125】
このようにして得らえた本発明の被覆製剤は、速放性製剤であっても、徐放性製剤であっても、また、腸溶性製剤であってもよい。
速放性製剤は、第十六改正日本薬局方の溶出試験において、第1液(pH1.2)及び第2液(pH6.8)で速やかに成分を放出する(例えば、10分で放出率85%以上)ものをいう。
徐放性製剤は、第十六改正日本薬局方の溶出試験において、第1液(pH1.2)及び第2液(pH6.8)で成分の放出速度が遅い(例えば、10分で放出率85%未満)ものをいう。
腸溶性製剤は、第十六改正日本薬局方の溶出試験において、第1液(pH1.2)で成分の放出速度が遅く(例えば、10分で放出率85%未満)、第2液(pH6.8)で成分の放出速度が速い(例えば、10分で放出率85%以上)ものをいう。
【実施例】
【0126】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0127】
合成例1
酢酸セルロース(ダイセル社製、商品名「L−50」、アセチル基総置換度2.43、6%粘度:110mPa・s)1重量部に対して、5.1重量部の酢酸および2.0重量部の水を加え、40℃で5時間撹拌して外観均一な溶液を得た。この溶液に0.13重量部の硫酸を加え、得られた溶液を70℃に保持し、加水分解(部分脱アセチル化反応;熟成)を行った。なお、この熟成過程においては、途中で2回、水を系に添加した。すなわち、反応を開始して1時間後に0.67重量部の水を加え、さらに2時間後、1.67重量部の水を加え、さらに3時間反応させた。合計の加水分解時間は6時間である。なお、反応開始時から1回目の水の添加までを第1熟成、1回目の水の添加から2回目の水の添加までを第2熟成、2回目の水の添加から反応終了(熟成完了)までを第3熟成という。
加水分解を実施した後、系の温度を室温(約25℃)まで冷却し、反応混合物に15重量部のアセトン/メタノール=1/2(重量比)混合溶媒(沈殿化剤)を加えて沈殿を生成させた。
固形分15重量%のウェットケーキとして沈殿を回収し、8重量部のメタノールを加え、固形分15重量%まで脱液することにより洗浄した。これを3回繰り返した。洗浄した沈殿物を、酢酸カリウムを0.004重量%含有するメタノール8重量部でさらに2回洗浄して中和し、乾燥して、酢酸セルロース(低置換度酢酸セルロース)を得た。
【0128】
(合成例2〜13)
反応温度、第1熟成時間、第2熟成時間、第3熟成時間、沈殿化剤を表1及び2に示すように変更したこと以外は、合成例1と同様にして酢酸セルロース(低置換度酢酸セルロース)を得た。
【0129】
(合成例14)(特開平10−317228号公報の実施例2の方法)
針葉樹サルファイトパルプ(αセルロース含量96%)13重量部、硫酸2重量部、無水酢酸35重量部および氷酢酸50重量部からなる混合物を、36℃で3時間アセチル化反応を行い、反応後反応物を酢酸カリウムで部分中和し、残存する硫酸を1重量部、揮発分中の水の量を10重量%とし、60℃で9時間加水分解し、その後完全中和、沈澱化、洗浄、乾燥して酢化度40.2%(置換度(DS)1.51)の酢酸セルロース(CA−40)を得た。この酢酸セルロースを、特開平10−317228号公報(段落0016)に記載される方法で極限粘度を定め、平均重合度を求めたところ、107であった。また、後述の方法で測定したDPwは210、DPw/DPnは2.1であった。
【0130】
各合成例で得られた酢酸セルロースのアセチル基総置換度(DS)、重量平均重合度(DPw)、分散度(DPw/DPn)を下記の方法で測定した。製造条件および得られた低置換度酢酸セルロースの物性の測定結果(分析値)を表1、2に示す。なお、表1、2の「サンプル番号」は、得られた低置換度酢酸セルロースのサンプル番号を意味する。
【0131】
(置換度(DS)の測定)
手塚の方法(Carbohydr. Res. 273, 83(1995))に準じて水溶性酢酸セルロース試料の未置換水酸基をプロピオニル化した。プロピオニル化低置換度酢酸セルロースのアセチル基総置換度は、手塚の方法(同)に準じて13C−NMRにおける169〜171ppmのアセチルカルボニルのシグナルおよび172〜174ppmのプロピオニルカルボニルのシグナルから決定した。
【0132】
(組成分布指数(CDI)の測定)
酢酸セルロースのCDIは、プロピオニル化酢酸セルロースに導いた後に次の条件でHPLC分析を行うことで決定した。
装置: Agilent 1100 Series
カラム: Waters Nova−Pak phenyl 60Å 4μm(150mm×3.9mmΦ)+ガードカラム
カラム温度: 30℃
検出: Varian 380−LC
注入量: 5.0μL(試料濃度:0.1%(wt/vol))
溶離液: A液:MeOH/H2O=8/1(v/v),B液:CHCl3/MeOH=8/1(v/v)
グラジェント:A/B=80/20→0/100(28min);流量:0.7mL/min
まず、アセチルDS(アセチル基総置換度)が0〜3の範囲でDS既知の標品をHPLC分析することで、溶出時間対DSの較正曲線を作成した。較正曲線に基づき、未知試料の溶出曲線(時間対検出強度曲線)をDS対検出強度曲線(組成分布曲線)に変換し、この組成分布曲線の未補正半値幅Xを決定し、次式により組成分布の補正半値幅Zを決定した。
Z=(X2−Y21/2
なお、Yは次式で定義される装置定数である。
Y=(a−b)x/3+b
a: アセチルDS=3の標品のX値
b: アセチルDS=0の標品のX値
x: 未知試料のアセチルDS
補正半値幅Zから、次式により組成分布指数(CDI)を決定した。
CDI=Z/Z0
ここに、Z0は全ての部分置換酢酸セルロースの調製におけるアセチル化および部分脱アセチル化が全ての分子の全ての水酸基(又はアセチル基)に対して等しい確率で生じた場合に生成する組成分布であり、次式で定義される。
【0133】
【数5】
【0134】
DPw:重量平均重合度
p:(未知試料のアセチルDS)/3
q:1−p
このように求めた水溶性酢酸セルロースのCDIは1.4であった。
【0135】
(重量平均重合度(DPw)、分散度(DPw/DPn)の測定)
酢酸セルロースの重量平均重合度および分散度は、プロピオニル化酢酸セルロースに導いた後に次の条件でGPC−光散乱測定を行うことで決定した。
装置:Shodex製 GPC 「SYSTEM−21H」
溶媒:アセトン
カラム:GMHxl(東ソー)2本、ガードカラム(東ソー製TSKgel guardcolumn HXL−H)
流速:0.8ml/min
温度:29℃
試料濃度:0.25%(wt/vol)
注入量:100μl
検出:MALLS(多角度光散乱検出器)(Wyatt製、「DAWN−EOS」)
MALLS補正用標準物質:PMMA(分子量27600)
【0136】
【表1】
【表2】
【0137】
実施例1〜25、比較例1〜36、参照例1〜4
表3〜5に示された組成で、種々のアセチル総置換度を有する酢酸セルロースとケン化度の異なるポリビニルアルコールをN,N−ジメチルホルムアミド又はN,N−ジメチルアセトアミドに混合し攪拌した後、ガラスシャーレに流延し、風乾することによりブレンドフィルムを調製した。表3〜5中、「比率」は重量%である。
得られたフィルムについて、以下の評価を行った。結果を表3〜5に示す。
【0138】
[外観]
得られたフィルムを目視で観察し、透明又はやや白濁している場合を合格、白濁している場合を不合格とした。
【0139】
[走査熱量測定(DSC)]
DSCによる熱分析はセイコーインスツルメンツ(株)製DSC6200/EXSTAR6000を用いて行った。測定は全て窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで行った。各試料約5mgを280℃まで昇温していったんビニルポリマーの結晶を溶融した後、速やかに−30℃まで冷却し、その後再び280℃まで昇温して安定なサーモグラムを得、ガラス転移温度及び融点の吸熱ピークの有無を観察した。
各種のアセチル総置換度を有する酢酸セルロースとケン化度の異なるポリビニルアルコールの各種割合(重量%)の(酢酸セルロース/ポリビニルアルコール=80/20〜20/80)のポリマーブレンドにおいてガラス転移温度(↓)及び融点の吸熱ピーク(*)が、図1〜4に示すチャートパターン1〜4のいずれかに該当するか判定し、相溶性を判定した。
また、実施例9〜13、29〜32、参照例1〜4については、ガラス転移温度(Tg)と融点(Tm)の観察の有無または温度(℃)を表3、5にそれぞれ示す。
Tg:ベースラインと吸熱側への変曲点の接線の交点の温度(℃)
Tm:吸熱ピークのピークトップの温度(℃)
【0140】
【表3】
【表4】
【表5】
【0141】
表3〜5中の記号は下記化合物を示す。なお、酢酸セルロースのサンプル番号は、表1に示すサンプル番号に対応する。
L−0302:ポリビニルアルコール(商品名「ゴーセノールL−0302」、日本合成化学工業(株))、ケン化度:約43モル%
EG−05:ポリビニルアルコール(商品名「ゴーセノールEG−05」、日本合成化学工業(株))、ケン化度:約90モル%
NH−17Q:ポリビニルアルコール(商品名「ゴーセノールNH−17Q」、日本合成化学工業(株))、ケン化度:約100モル%
LM−80:酢酸セルロース(商品名「LM−80」(株)ダイセル製)、アセチル総置換度:約2.1
LL−10:酢酸セルロース(商品名「LL−10」(株)ダイセル製)、アセチル総置換度:約1.7
【0142】
実施例26(WSCA−1.0/PVA混合材料フィルムの調製)
上記合成例で得られた低置換度酢酸セルロース(WSCA−1.0、置換度1.0)90重量部に対し、ポリビニルアルコール(商品名「ゴーセノールEG−05PW」、日本合成化学工業(株)製)10部、水を900重量部添加し、撹拌装置(商品名「ラボリアクターRE162/P」、IKA社製)を用いて、10rpmで充分撹拌した。低置換度酢酸セルロースの溶解を確認後、撹拌を終了させ、得られた水溶液をガラス基板上に拡げて乾燥させることで、WSCA−1.0/PVA混合材料フィルム(WSCA−1.0/PVA=9/1、厚み:約100μm)を得た。
【0143】
実施例27〜37
低置換度酢酸セルロース及びポリビニルアルコールの組成を表6に示す通りにしたこと以外は、実施例25と同様にして、混合材料フィルムを得た。表6中、「部」は重量部を示す。
【0144】
比較例37(PVAフィルムの調製)
ポリビニルアルコール(PVA、日本合成化学工業社製ゴーセノールEG−05PW)100部に対して水を900重量部添加し、撹拌装置(商品名「ラボリアクターRE162/P」、IKA社製)を用いて、10rpmで充分撹拌した。溶解を確認後、撹拌を終了させ、得られた水溶液をガラス基板上に拡げて乾燥させることで、PVAフィルム(厚み:約100μm)を得た。
【0145】
比較例38(WSCA−0.7フィルムの調製)
上記合成例で得られた低置換度酢酸セルロース(WSCA−0.7、置換度0.7)100重量部に対し、水を900重量部添加し、撹拌装置(商品名「ラボリアクターRE162/P」、IKA社製)を用いて、10rpmで充分撹拌した。低置換度酢酸セルロースの溶解を確認後、撹拌を終了させ、得られた水溶液をガラス基板上に拡げて乾燥させることで、WSCA−0.7フィルム(厚み:約100μm)を得た。
【0146】
比較例39(HPCフィルムの調製)
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC、商品名「L−HPC」、信越化学工業社(株)製)100重量部に対し、水を900重量部添加し、撹拌装置(商品名「ラボリアクターRE162/P」、IKA社製)を用いて、10rpmで充分撹拌した。溶解を確認後、撹拌を終了させ、得られた水溶液をガラス基板上に拡げて乾燥させることで、HPCフィルム(厚み:約100μm)を得た。
【0147】
比較例40(HPMCフィルムの調製)
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC、信越化学工業社製TC−5)100重量部に対し、水を900重量部添加し、撹拌装置(商品名「ラボリアクターRE162/P」、IKA社製)を用いて、10rpmで充分撹拌した。溶解を確認後、撹拌を終了させ、得られた水溶液をガラス基板上に拡げて乾燥させることで、HPMCフィルム(厚み:約100μm)を得た。
実施例26〜37及び比較例37〜40で得られたフィルムについて以下の評価を行った。結果を表6に示す。
【0148】
[ガスバリアー性の評価]
実施例26〜37及び比較例37〜40で得られたフィルムの酸素透過度を、MOCON社製「OXTRAN2/20」を用い、40℃、75%RHの条件下で測定した。
また、水蒸気透過度をJIS Z0208に基づき、カップ法を用いて、40℃、75%RHの環境下の条件で測定した。
[外観]
実施例26〜37及び比較例37〜40で得られたフィルムを目視で観察し、上記と同じ基準で評価した。
【0149】
【表6】
【0150】
表6中の記号は下記化合物を示す。なお、酢酸セルロースのサンプル番号は、表1に示すサンプル番号に対応する。
PVA:ポリビニルアルコール(商品名「ゴーセノールEG−05PW」、日本合成化学工業(株))、ケン化度:約90モル%
HPC:ヒドロキシプロピルセルロース(商品名「L−HPC」、信越化学工業社(株)製)
HPMC:ヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名「TC−5」、信越化学工業社(株)製)
【0151】
実施例38〜45、比較例41
(ペレット調製)
所定量の酢酸セルロースと添加剤をヘンシェルミキサーで混合した後、エクストルーダーに移し、所定の紡糸温度よりも10℃低い温度で溶融し、ストランドとして押し出し、冷却した後長さ3mmに切断し、80℃の熱風乾燥機中で10時間乾燥させペレット状のサンプルを調製した。添加剤として以下のものを用いた。
【0152】
実施例38〜45:青木油脂社製、商品名「ブラウノン PEG−400」(ポリエチレングリコール、分子量400)
比較例41:ダイセル社製、商品名「プラクセル405D」(カプロラクトンテトラオール、分子量500)
【0153】
(ペレット・サンプルのガラス転移温度(Tg)の測定)
DSC−Q2000(TAインスツルメント社製)を用いてペレット状サンプルの小片を使いTgを測定した。まず、サンプルを40℃から250℃に10℃/分で昇温し、その後室温付近まで降温させた。その後、1℃/分で昇温し、このときのDSC曲線からTgを求めた。結果を表7に示す。なお、実施例40及び41ではTgが2つ存在するが、高温側は酢酸セルロースのTg、低温側は複合体(酢酸セルロース−添加剤複合体)のTgと考えられる。
【0154】
(溶融紡糸)
特開平10−317228号公報に記載された方法に準じ、前記各ペレットを用いて溶融紡糸した。
キャピラリーレオメーター(株式会社東洋精機製作所製、キャピログラフ1B)のシリンダーにペレット状サンプルを入れ、シリンダーを所定の紡糸温度とし、口径0.3mmのキャピラリーから吐出し、吐出したフィラメントをエジェクターを通すことで線速3450m/分、ドラフト比550で紡糸し、1.9デニール(d)の糸を得た。溶融条件を表7に示す。
【0155】
評価試験
(糸強度)
実施例38〜45、比較例41で得られた糸の糸強度を、JIS L 1013に記載される方法に準じて測定した。結果を表7に示す。
【0156】
(糸色相)
実施例38〜45、比較例41で得られた糸の色相を目視観察した。結果を表7に示す。
【0157】
(糸の水溶性)
実施例38〜45、比較例41で得られた糸約2×10-5g(約10cm)を、水100gと混合し、よく振り混ぜた後、糸の水溶性を目視観察した。
【0158】
(生分解性評価)
装置:大倉電気(株)クーロメータOM3001
活性汚泥:福岡県多々良川浄化センターから入手した活性汚泥。1時間静置して得られる上澄み液を1培養瓶あたり300ml使用(活性汚泥濃度360ppm)。
被検体量:30mg
温度:25℃
クーロメータで培養瓶中の生物化学的酸素要求量(BOD)を測定した(培養開始から10日後、20日後、30日後、60日後)。ブランク測定を行い、BODは被検体の値からブランクの値を差し引いたものとした。被検体の化学組成に基づく完全分解における理論上のBOD値を求め、これに対する実測値のパーセンテージを分解率とした。結果を表7に示す。
【0159】
【表7】
【0160】
なお、酢酸セルロースのサンプル番号は、表2に示すサンプル番号及び合成例14で得られた酢酸セルロースに対応する。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物によれば、成分が相溶して透明な樹脂組成物を形成し、当該樹脂組成物を含む膜が低い酸素透過性と水蒸気透過性を示し、酸化や湿度から有効成分を保護する機能に優れる。従って、本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物は、被覆製剤のコーティング層の基剤等に有用である。
また、本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物によれば、水溶性且つ生分解性を有する酢酸セルロース系樹脂成形品を溶融状態で製造することができる。従って、本発明の水溶性酢酸セルロース系樹脂組成物は、たばこフィルター、不織布、各種射出成形品等の材料としても有用である。
【符号の説明】
【0162】
↓ ポリマーA、ポリマーB、又はそのポリマーブレンドのガラス転移点
* ポリマーBの融点(吸熱ピーク)
図1
図2
図3
図4