(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、複数種類の防錆鉄筋を作製し、この防錆鉄筋の基端部分をコンクリートブロックに埋設することで、複数種類の供試体を作製した。作製した供試体に対して防錆鉄筋の引き抜き試験を行うことで防錆鉄筋とコンクリートの付着性状を評価した。この鉄筋引き抜き試験は、土木学会規準JSCE−E516「エポキシ樹脂塗装鉄筋の付着強度試験方法」を参考にして行った。
【0014】
図1は、鉄筋引き抜き試験に用いた防錆鉄筋を説明する図である。同図に示すように、今回の鉄筋引き抜き試験では、供試体D−PVB,供試体D−PVB−S7,供試体D−PVB−S8,供試体D−PVB−S9に用いられる4種類の防錆鉄筋を作製した。これらの防錆鉄筋において、母材はJIS G 3112に規定される異形棒鋼SD345(公称直径D=19.1mm,朝日工業株式会社製)を使用した。この母材の表面を、ポリビニルブチラール(以下、PVBという)を主成分とするPVB樹脂で被覆し、防錆被膜を形成した。防錆被膜は、母材の表面にPVB樹脂の粉体塗料を付着させた後、粉体塗料を溶融させることで形成した。なお、本実施形態における防錆被膜の厚さは、220±40μmである。
【0015】
供試体D−PVB用の防錆鉄筋は、母材に防錆被膜を形成したもの、言い換えれば、砂状粒子を防錆被膜に保持させていないものであり、本発明の比較例である。この防錆鉄筋は、母材の表面に防錆被膜を形成することで作製される。
【0016】
供試体D−PVB−S7用の防錆鉄筋は、前述の防錆被膜に7号硅砂(具体的には
図2Aに示す硅砂サンプルAの7号硅砂)を吹き付け、保持させたものである。この供試体D−PVB−S7も本発明の防錆異形鉄筋に対する比較例である。
【0017】
供試体D−PVB−S8用の防錆鉄筋は、前述の防錆被膜に8号硅砂(同じく硅砂サンプルAの8号硅砂)を吹き付け、保持させたものである。この供試体D−PVB−S8は本発明の防錆異形鉄筋に係る実施例である。
【0018】
供試体D−PVB−S9用の防錆鉄筋は、前述の防錆被膜に9号硅砂(同じく硅砂サンプルAの9号硅砂)を吹き付け、保持させたものである。この供試体D−PVB−S9は本発明の防錆異形鉄筋に対する比較例である。
【0019】
図2Aに示すように、この硅砂サンプルAにおいて、7号硅砂は、SiO
2が95.35%,Al
2O
3が2.51%,Fe
2O
3が0.11%の比率で含まれている。8号硅砂は、SiO
2が94.08%,Al
2O
3が3.03%,Fe
2O
3が0.40%の比率で含まれている。9号硅砂は、SiO
2が92.95%,Al
2O
3が3.83%,Fe
2O
3が0.34%の比率で含まれている。すなわち、これらの硅砂は、SiO
2を主成分とする粒状の鉱物である。
【0020】
ここで、7号硅砂、8号硅砂、9号硅砂について説明する。これらの7号〜9号硅砂は、砂状粒子の一例であって粒度毎に分類されたものである。
図2A〜
図2Eは、メーカーや採石地が異なる複数種類の硅砂サンプルA〜Eについて、粒度分布を示している。なお、前述したように硅砂サンプルAは、各供試体用の防錆鉄筋の作製時に使用したものである。
【0021】
7号硅砂に関し、硅砂サンプルA〜Dでは、50メッシュ(目開0.300mm)の篩を通過し、かつ、70メッシュ(目開0.212mm)から140メッシュ(目開0.106mm)の篩に保持される大きさの粒子が多数(全体の88%以上)を占めている。また、硅砂サンプルEでは、48メッシュ(目開0.29mm)の篩を通過し、かつ、65メッシュ(目開0.21mm)から150メッシュ(目開0.10mm)の篩に保持される大きさの粒子が多数(全体の71%以上)を占めている。
【0022】
採石地や製品のばらつきを考慮すると、7号硅砂は、粒径0.30mm未満であって粒径0.11mm以上の粒子が全体の70%以上を占めている砂状粒子であるといえる。
【0023】
8号硅砂に関し、硅砂サンプルA〜Dでは、100メッシュ(目開0.150mm)の篩を通過し、かつ、140メッシュ(目開0.106mm)から280メッシュ(目開0.053mm)の篩に保持される大きさの粒子が多数(全体の70%以上)を占めている。また、硅砂サンプルEでは、100メッシュの篩を通過し、かつ、150メッシュ(目開0.10mm)から270メッシュ(目開0.05mm)の篩に保持される大きさの粒子が多数(全体の94%以上)を占めている。
【0024】
採石地や製品毎のばらつきを考慮すると、8号硅砂は、粒径0.15mm未満であって粒径0.05mm以上の粒子が全体の70%以上を占めている砂状粒子であるといえる。
【0025】
9号硅砂に関し、サンプルA〜Cでは、200メッシュ(目開0.075mm)の篩を通過する大きさの粒子(280メッシュ,330メッシュ,UNDER)が多数(全体の65%以上)を占めている。
【0026】
採石地や製品毎のばらつきを考慮すると、9号硅砂は、粒径0.075mm未満の粒子が全体の65%以上を占めている砂状粒子であるといえる。
【0027】
次に、鉄筋引き抜き試験に用いたコンクリートについて説明する。
図3に示すように、コンクリートは、上水道水(W)、セメント(C)、細骨材(S)、粗骨材(G)、混和剤(WR,AE)を用いて作製した。セメントは、太平洋セメント株式会社製の普通ポルトランドセメントを用いた。細骨材は木更津産のものを、粗骨材は青梅産のものをそれぞれ用いた。混和剤は、AE減水剤と空気連行剤を用いた。AE減水剤はBASFジャパン株式会社製のマスターポゾリスNo.70を、空気連行剤はBASFジャパン株式会社製のマスターエア775Sを用いた。
【0028】
コンクリートは、粗骨材の最大寸法が20mm、目標スランプが10±2.5cm、目標圧縮強度が30.0±3.0N/mm
2となるように配合を定めた。具体的には、
図4に示すように、単位量(m
3)あたり、上水道水を165kg使用し、セメントを280kg使用した(水セメント比W/C=59.0)。また、単位量あたり、細骨材を838kg使用し、粗骨材を1008kg使用した(細骨材率s/a=45.8)。さらに、AE減水剤をセメント量の0.25%使用し、空気連行剤をセメント量0.002%使用した。
【0029】
これらの各材料を公称容量60Lの強制2軸練りミキサで練り混ぜた。その際、1バッチあたりの練り混ぜ量を40Lとして2回練り混ぜた。フレッシュ状態のコンクリートに関し、スランプや空気量などのフレッシュ性状を測定した。あわせて、フレッシュ状態のコンクリートを型枠に打設して養生することで円柱状供試体を作製し、円柱状供試体における材齢28日の圧縮強度を測定した。
【0030】
さらに、防錆鉄筋の基端部分を箱状の型枠にセットし、この型枠にフレッシュ状態のコンクリートを打設して養生することで、防錆鉄筋とコンクリートが一体になった供試体を作製した。
【0031】
図5(A),(B)に示すように、本実施形態の供試体1は、一辺が150mmの直方体形状とされたコンクリートブロック2と、基端部分3aをコンクリートブロック2に貫通させた防錆鉄筋3とを有している。防錆鉄筋3の基端部分3aは、コンクリートブロック2と75mmに亘って付着され、残りの75mmは付着していない状態になっている。また防錆鉄筋3の基端は、コンクリートブロック2の上面2aの面方向中心から、基端が下面2bよりも下方に突出する状態に配置されている。本実施形態において、防錆鉄筋3の基端は、コンクリートブロック2の下面2bよりも5mm突出されている。
【0032】
鉄筋引き抜き試験では、引張試験機を用いて防錆鉄筋3の引張荷重p(N)を測定し、次式(1)に基づいて付着応力度τ(N/mm
2)を算出した。また、引張荷重の測定時において、ダイヤルゲージを用いて防錆鉄筋3の変位を記録した。
【0033】
τ=222α・p×10
−6 ・・・ (1)
式(1)において、αは、コンクリートの圧縮強度に対する補正係数であり、α=30.0/σ
cで算出される。なお、σ
cは、同時に作製したコンクリートの円柱供試体の試験時材齢(28日)における圧縮強度である。
【0034】
次に、すべり量が0.002D(D:防錆鉄筋3の公称直径)における付着応力度と最大付着応力度を、3個の供試体1の平均値として算出した。また、各供試体1に関し、すべり量0.002Dにおける付着応力度と最大付着応力度のそれぞれについて、硅砂を保持させていない防錆鉄筋3(供試体D−PVB)に対する比率Pを次式(2)に基づいて算出した。
【0035】
P=τ
c/τ
p ・・・ (2)
式(2)において、τ
cは、各供試体1(D−PVB,D−PVB−S7〜S9)における付着応力度であり、τ
pは、基準の供試体1(D−PVB)における付着応力度である。
【0036】
以下、試験結果について説明する。まず、コンクリートの性状について説明する。
【0037】
図6に示すように、1バッチ目のコンクリートは、スランプが12.5cm、空気量が3.8%、単位容積質量が2313kg/m
3、温度が20.6℃であった。2バッチ目のコンクリートは、スランプが12.0cm、空気量が2.9%、単位容積質量が2335kg/m
3、温度が20.5℃であった。また、材齢28日における圧縮強度は37.1N/mm
2であった。前述したように目標スランプは10±2.5cmであることから、スランプについては目標範囲内であった。また、目標圧縮強度は30.0±3.0N/mm
2であることから、圧縮強度については目標値に近い値が得られた。
【0038】
次に、鉄筋引き抜き試験の結果について説明する。
【0039】
図7に示すように、硅砂無しの防錆鉄筋3を用いた供試体1(供試体D−PVB)における付着応力度τの最大値は平均で11.9N/mm
2であった。7号硅砂を吹き付けた防錆鉄筋3を用いた供試体1(供試体D−PVB−S7)における付着応力度τの最大値は平均で13.5N/mm
2であった。8号硅砂を吹き付けた防錆鉄筋3を用いた供試体1(供試体D−PVB−S8)における付着応力度τの最大値は平均で13.4N/mm
2であった。9号硅砂を保持した防錆鉄筋3を用いた供試体1(供試体D−PVB−S9)における付着応力度τの最大値は平均で12.3N/mm
2であった。
【0040】
付着応力度τの最大値に関し、硅砂無しの供試体D−PVBを基準にすると、7号硅砂を用いた供試体D−PVB−S7は1.13倍であった。また、8号硅砂を用いた供試体D−PVB−S8では1.12倍であり、9号硅砂を用いた供試体D−PVB−S9では1.03倍であった。このように、付着応力度τの最大値については、各供試体で大きな差が見られなかった。
【0041】
すべり量が0.002Dよりも大きい範囲では、防錆被膜32及び珪砂粒子33とコンクリートの界面の摩擦ではなく、母材である異形鉄筋のふしによる機械的な摩擦抵抗が卓越しており、各供試体1において大きな差が見られなかったと考えられる。
【0042】
硅砂を保持させた各供試体では、すべり量が0.002Dの付着応力度に有意の差が生じた。具体的には、硅砂無しの供試体D−PVBでは平均で2.98N/mm
2であった。これに対し、7号硅砂を用いた供試体D−PVB−S7では平均で5.70N/mm
2であり、8号硅砂を用いた供試体D−PVB−S8では平均で6.88N/mm
2であった。また、9号硅砂を用いた供試体D−PVB−S9では平均で3.64N/mm
2であった。
【0043】
すべり量が0.002Dの付着応力度に関し、供試体D−PV
Bを基準にすると、供試体D−PVB−S7は1.91倍であり、供試体D−PVB−S8は2.31倍であった。一方で、供試体D−PVB−S9は1.22倍であった。すなわち、供試体D−PVB−S9<供試体D−PVB−S7<供試体D−PVB−S8の順に、付着応力度が大きくなった。
【0044】
このように、すべり量が0.002Dの付着応力度については、供試体D−PVB−S8の付着応力度が、供試体D−PVB−S7や供試体D−PVB−S9の付着応力度よりも有意に高かった。このことは、すべりに対して最も大きく抵抗する珪砂の最適粒径が存在することを示唆している。以下、この点について考察する。
【0045】
供試体D−PVB−S7では、7号硅砂を構成する粒子に粒径の大きいものが多く含まれており、防錆被膜32及び珪砂粒子33とコンクリートの界面の摩擦(試験時の引っ張り荷重)によって、粒径の大きい粒子が容易に離脱したことが考えられる。
【0046】
例えば
図8(A)に示すように、母材31の表面に形成された防錆被膜32の膜厚(220±40μm)に対して粒径の大きい硅砂粒子33は、防錆被膜32の内側に浅く入り込むと考えられる。この状態で界面に摩擦が作用すると、硅砂粒子33は防錆被膜32から容易に離脱してしまう。そして、離脱した硅砂粒子33の分だけ付着応力度が低下すると考えられる。
【0047】
反対に、供試体D−PVB−S9では、9号硅砂を構成する粒子に粒径の小さいものが多く含まれており、吹き付けによって防錆被膜の内側に深く入り込むと考えられる。例えば
図8(B)に示すように、防錆被膜32の膜厚に対して粒径の小さい硅砂粒子33は、防錆被膜32の内側に深く入り込むことが考えられる。この状態では、硅砂粒子33における、防錆被膜32よりも外側に突出する部分の高さが低くなり、界面に摩擦が作用しても硅砂粒子33は大きな抵抗力を発揮できず、付着応力度が低下すると考えられる。
【0048】
これらに対し、供試体D−PVB−S8では、
図8(C)に示すように、硅砂粒子33における、防錆被膜32の内側に入り込む部分と、防錆被膜32の外側に突出する部分のバランスがよく、界面に摩擦が作用しても硅砂粒子33は離脱され難く、かつ、適切な高さの微細突起を形成できることから、十分な付着応力度が得られると考えられる。
【0049】
このように、本実施形態の供試体D−PVB−S8では、防錆被膜32の表面に保持される砂状粒子33に関し、粒径が0.15mm未満であって0.05mm以上の範囲に属する砂状粒子33の割合が全体の70%以上であることから、砂状粒子33によって防錆被膜の表面に適切な微細突起を形成でき、コンクリートとの付着強度を高めることができる。これにより、重ね継手の長さをより短くすることができる。
【0050】
以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれる。例えば、次のように構成してもよい。
【0051】
砂状粒子に関し、前述の実施形態では硅砂を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、アルミナ粒子であってもよいし、スラグであってもよい。すなわち、粒径が0.15mm未満であって0.05mm以上の範囲に属する粒子の割合が全体の70%以上である砂状粒子であれば、同様の作用効果が得られると解される。なお、硅砂とアルミナ粒子は、スラグよりも化学的な安定性に優れるので好ましい。また、硅砂は、アルミナ粒子よりも粒度が安定しているのでさらに好ましい。
【0052】
防錆被膜に関し、膜厚を220±40μmにしたものを例示したが、これに限定されるものではない。防錆被膜の膜厚は、その強度と施工性等によって定められる。
【0053】
母材に関し、公称直径が19.1mmの異形棒鋼(D19)を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、公称直径が9.53mmの異形棒鋼(D10)〜公称直径が50.8mmの異形棒鋼(D51)に対しても、本発明は同様に適用できる。そして、これらの異形棒鋼に適用した場合もコンクリートとの付着強度を高めることができ、重ね継手の長さを従来よりも短くできるといった作用効果を奏する。