特許第6628519号(P6628519)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許66285193次元造形システムおよび3次元造形物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6628519
(24)【登録日】2019年12月13日
(45)【発行日】2020年1月8日
(54)【発明の名称】3次元造形システムおよび3次元造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/40 20170101AFI20191223BHJP
   B29C 64/30 20170101ALI20191223BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20191223BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20191223BHJP
【FI】
   B29C64/40
   B29C64/30
   B33Y30/00
   B33Y10/00
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-153912(P2015-153912)
(22)【出願日】2015年8月4日
(65)【公開番号】特開2017-30275(P2017-30275A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年7月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000116057
【氏名又は名称】ローランドディー.ジー.株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【弁理士】
【氏名又は名称】古市 昭博
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 浩史
【審査官】 一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−101445(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/137890(WO,A1)
【文献】 特開平10−024495(JP,A)
【文献】 特開2000−006252(JP,A)
【文献】 特開平09−019967(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/020033(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00−64/40
B33Y 10/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形対象である対象造形物とサポートとを含む全体造形物を造形する3次元造形装置と、
前記全体造形物から前記サポートを除去する加工機と、
前記3次元造形装置および前記加工機を制御する制御装置と、を備え、
前記対象造形物は、前記サポートが配置されたサポート面と、前記サポート面とは異なる面である非サポート面とを含み、
前記制御装置は、
前記加工機を制御することにより、前記非サポート面に接触する支持面を有しかつ前記全体造形物を支持する固定治具を作製する固定治具作製部と、
前記加工機を制御することにより、前記固定治具に支持された前記全体造形物から前記サポートを除去するサポート除去部と、を有している、3次元造形システム。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記全体造形物の3次元形状を表す3次元データを記憶する記憶部と、
前記3次元データを用いて前記3次元造形装置に前記全体造形物を造形させる造形部と、
前記3次元データを用いて前記固定治具の形状を決定する形状決定部と、を有し、
前記固定治具作製部は、前記形状決定部により決定された形状の固定治具を前記加工機に作製させるように構成され、
前記サポート除去部は、前記3次元データを用いて前記加工機を制御するように構成されている、請求項1に記載の3次元造形システム。
【請求項3】
前記支持面は、前記非サポート面を反転させた形状を有している、請求項1または2に記載の3次元造形システム。
【請求項4】
前記非サポート面は、前記対象造形物のうちの前記サポート面と反対側の面である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の3次元造形システム。
【請求項5】
前記加工機は、切削加工機により構成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載された3次元造形システム。
【請求項6】
前記固定治具の材料と前記全体造形物の材料とが異なっている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の3次元造形システム。
【請求項7】
前記固定治具の材料の硬度は、前記全体造形物の材料の硬度よりも大きい、請求項6に記載の3次元造形システム。
【請求項8】
3次元造形装置により、造形対象である対象造形物とサポートとを含む全体造形物を造形する造形工程と、
加工機により、前記全体造形物を支持する固定治具を作製する治具作製工程と、
前記造形工程において造形された前記全体造形物を、前記治具作製工程において作製された前記固定治具上に配置する配置工程と、
前記加工機により、前記固定治具上に配置された状態の前記全体造形物から前記サポートを除去するサポート除去工程と、
を包含する3次元造形物の製造方法。
【請求項9】
前記造形工程、前記治具作製工程、および前記サポート除去工程において、前記全体造形物の3次元形状を表す同一の3次元データを利用する、請求項8に記載の3次元造形物の製造方法。
【請求項10】
前記対象造形物は、前記サポートが配置されたサポート面と、前記サポート面とは異なる面である非サポート面とを含み、
前記治具作製工程において、前記固定治具として、前記非サポート面を反転させた形状の支持面を有する固定治具を作製する、請求項8または9に記載の3次元造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元造形システムおよび3次元造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂材料を所定の断面形状の層に形成し、順次積層することによって所望の3次元造形物(以下、対象造形物という。)を造形する3次元造形装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、いわゆる吊り上げ方式の3次元造形装置が開示されている。特許文献1に開示された3次元造形装置においては、樹脂層を吊り上げるホルダを、樹脂層を形成するごとに所定寸法ずつ上昇させる。このことにより、下方に向かって樹脂層が連続的に形成される。このようにして、所望の3次元の対象造形物が造形される。
【0004】
ところで、ホルダを上昇させる際に、既に造形された樹脂層は、当該樹脂層よりも下方に造形される全樹脂層の荷重を支持することになる。そのため、例えば、断面積の小さな樹脂層があった場合、当該樹脂層よりも下方の全樹脂層の荷重を支えきれないことが考えられる。その結果、対象造形物を造形する途中に、対象造形物の一部が破損してしまうことがあり得る。例えばそのような破損を防止するため、対象造形物の一部とホルダとの間に、造形時の対象造形物の荷重の一部を支持するためのサポート造形物を形成し、対象造形物とサポート造形物とが一体となった全体造形物を造形することが行われる。このサポート造形物は、CAD装置などの専用の装置によって演算することで適切に設計される。以下、サポート造形物を単に「サポート」と称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−39564号公報
【特許文献2】特開平10−24495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このサポートは、造形が終了すると不要になるため、全体造形物から除去される。サポートの除去は、一般には手作業にて行われる。その一方で、例えば、特許文献2には、サポートの除去をNC(numerical control machining:数値制御)加工装置にて実施することが開示されている。例えば、特許文献2では、図8に示すように、対象造形物162の一部とホルダ143との間にサポート164を形成するとともに、これら対象造形物162とサポート164とを取り囲む枠状にブロック部168をさらに造形する。そして造形後のサポート164の除去に際しては、対象造形物162とサポート164とブロック部168とで構成される全体造形物166を、サポート164が上方となるようにNC加工装置のワーク載置面に載置する。この際、全体造形物166は、ブロック部168によりワーク載置面に支持される。次いで、サポート164をNC加工装置にて除去する。その後、対象造形物162をブロック部168から切り離す。
【0007】
ブロック部168からの対象造形物162の切り離しは、NC加工装置または手作業にて行う。しかし、NC加工装置を利用して切り離しを実施すると、その途中でブロック部168が対象造形物162から分離するので、対象造形物162を支持するものがなくなってしまい、対象造形物162がワーク載置面上に落下してしまう可能性があった。その結果、対象造形物162が破損するおそれがあった。一方、手作業で上記切り離しを実施する作業には、手間と時間とがかかっていた。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、サポートを含む全体造形物を3次元造形装置により造形し、その全体造形物から対象造形物を加工機により安定して得ることができる3次元造形システム、および、3次元造形物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、造形対象である対象造形物とサポートとを含む全体造形物を造形する3次元造形装置と、全体造形物からサポートを除去する加工機と、3次元造形装置および加工機を制御する制御装置と、を備える3次元造形システムを提供する。ここで対象造形物は、サポートが配置されたサポート面と、サポート面とは異なる面である非サポート面とを含んでいる。制御装置は、固定治具作製部と、サポート除去部と、を有している。固定治具作製部は、加工機を制御することにより、非サポート面に接触する支持面を有しかつ全体造形物を支持する固定治具を作製する。サポート除去部は、加工機を制御することにより、固定治具に支持された全体造形物からサポートを除去する。
【0010】
上記3次元造形システムによれば、3次元造形装置により、対象造形物にサポートを追加した全体造形物を造形する。その一方で、加工機により、所定の対象造形物に対応した支持面を有する固定治具を作製する。そして作製した全体造形物を固定治具に載置することで、全体造形物の非サポート面を固定治具の支持面に支持させる。このような状態で、加工機によって全体造形物からサポートを除去する。これにより、人手によるサポート除去作業を要することなく、3次元造形物の造形からサポート除去に至るまでを実施することができる。延いては、人手を要することなく、対象造形物を得ることができる。また、全体造形物は固定治具に安定して載置されるため、加工機によるサポートの除去時に全体造形物が落下することを防止することができる。また、固定治具の作製とサポートの除去とを、同一の加工機で実施することができる。これにより3次元造形システムの構成を簡略化することができ、装置の小型化を図ることができる。
【0011】
本発明の好ましい一態様によれば、制御装置は、全体造形物の3次元形状を表す3次元データを記憶する記憶部と、3次元データを用いて3次元造形装置に全体造形物を造形させる造形部と、3次元データを用いて固定治具の形状を決定する形状決定部と、を有している。そして、固定治具作製部は、形状決定部により決定された形状の固定治具を加工機に作製させるように構成されている。またサポート除去部は、3次元データを用いて加工機を制御するように構成されている。
【0012】
上記態様によると、3次元造形装置と加工機とで3次元データを共用することができる。これにより、全体造形物の造形と固定治具の作製とを効率的に実施することができる。
【0013】
本発明の好ましい他の一態様によれば、支持面は、非サポート面を反転させた形状を有している。
【0014】
上記態様によると、固定治具の支持面と全体造形物の非サポート面とが好適に嵌まり合う。これにより、固定治具に載置された全体造形物の横ズレを抑制し、全体造形物を安定的に支持した状態でサポート除去を行うことができる。
【0015】
本発明の好ましい他の一態様によれば、非サポート面は、対象造形物のうちのサポート面と反対側の面である。
【0016】
上記態様によれば、全体造形物が固定治具に載置されたとき、全体造形物の上方にサポートが配置される。これにより、加工機により、サポート除去を全体造形物の上方から作業性良く実施することができる。
【0017】
本発明の好ましい一態様によれば、加工機は、切削加工機により構成されている。
【0018】
切削加工機は、加工精度および加工速度が高いものとして知られている。したがって上記態様によれば、全体造形物を造形している間に固定治具を作製することができる。これにより、例えば、全体造形物を造形したのち、余分な時間を要することなく、引き続きサポート除去を実施することができる。また、切削加工機により、全体造形物のサポート面の形状に精密に対応した支持面を有する固定治具を作製することができる。これにより、全体造形物をより一層安定して支持することが可能な固定治具を作製することができる。さらには、切削加工機により、微細なサポートも精密に切削して除去することができる。したがって、対象造形物の形状を損ねることなくサポートを除去することができる。
【0019】
本発明の好ましい他の一態様によれば、固定治具の材料と全体造形物の材料とが異なっている。
【0020】
上記態様によれば、固定治具を作製するための材料は、全体造形物用を造形するための材料に制限されない。これにより、所望の材料を用いて固定治具を作製することができる。例えば、対象造形物用の材料よりも安価な材料により固定治具を作製することができる。
【0021】
本発明の好ましい他の一態様によれば、固定治具の材料の硬度は、全体造形物の材料の硬度よりも大きい。
【0022】
全体造形物の材料が例えば光硬化性樹脂である場合、かかる材料は造形後十分な硬度が発現されるまでに時間を要する。上記態様によれば、固定治具は、本質的に高硬度であり、例えば硬化時間を要さない。したがって、全体造形物の造形後に直ちに全体造形物を堅固に支持することができる。これにより、例えば硬化のための時間を要することなく、サポート除去を実施することができる。
【0023】
本発明は、他の側面において、造形工程と、治具作製工程と、配置工程と、サポート除去工程とを包含する3次元造形物の製造方法を提供する。造形工程においては、3次元造形装置により、造形対象である対象造形物とサポートとを含む全体造形物を造形する。治具作製工程においては、加工機により、全体造形物を支持する固定治具を作製する。配置工程においては、全体造形物を固定治具上に配置する。サポート除去工程においては、加工機により、全体造形物からサポートを除去する。
【0024】
上記の3次元造形物の製造方法によれば、3次元造形装置により全体造形物を造形するとともに、この全体造形物を載置するための固定治具を加工機により作製する。そして作製した全体造形物を固定治具に載置した状態で、加工機により全体造形物からサポートを除去する。これにより、人手によるサポート除去作業を要することなく、3次元造形物の造形からサポート除去に至るまでを実施することができる。延いては、人手を要することなく、対象造形物を得ることができる。また、全体造形物は固定治具に安定して載置されるため、加工機によるサポートの除去時に全体造形物が落下することを防止することができる。さらに固定治具の作製とサポートの除去とを、同一の加工機で実施することができる。これにより簡便に3次元造形物を製造することができる。
【0025】
本発明の好ましい他の一態様によれば、造形工程、治具作製工程、およびサポート除去工程において、全体造形物の3次元形状を表す同一の3次元データを利用する。
【0026】
本発明の好ましい他の一態様によれば、対象造形物は、サポートが配置されたサポート面と、サポート面とは異なる面である非サポート面とを含み、治具作製工程において、固定治具として、非サポート面を反転させた形状の支持面を有する固定治具を作製する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、サポートを含む全体造形物を3次元造形装置により造形し、その全体造形物から対象造形物を加工機により安定して得ることができる3次元造形システム、および、3次元造形物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】一実施形態に係る3次元造形システムのブロック図である。
図2】(a)〜(d)は、一実施形態に係る3次元造形物の製造の様子を説明する模式図である。
図3】一実施形態に係る3次元造形装置の断面図である。
図4】一実施形態に係る加工機の概念図である。
図5】一実施形態に係る3次元造形物の製造方法のフロー図である。
図6】全体造形物の非サポート面と固定治具の支持面との関係を例示した断面模式図である。
図7】全体造形物の非サポート面と固定治具の支持面との他の関係を例示した断面模式図である。
図8】従来技術において全体造形物を造形する様子を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る3次元造形システム、および、3次元造形物の製造方法について説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。
【0030】
図1は、本実施形態に係る3次元造形システム1の構成を示すブロック図である。3次元造形システム1は、3次元造形装置40と、切削加工機50と、制御装置10とを備えている。図2に示すように、3次元造形システム1は、(a)対象造形物62およびサポート64を含む全体造形物66を3次元造形装置40により造形すると共に、(b)対象造形物62の非サポート面62aに対応した形状の支持面72aを有する固定治具72を切削加工機50により作製し、(c)全体造形物66を固定治具72で支えながらサポート64を切削加工機50により除去することによって、(d)対象造形物62を得るシステムである。
【0031】
図3は、一実施形態に係る3次元造形装置40の断面図である。なお、図面中の符号U、Dは、それぞれ上、下を示している。3次元造形装置40は、未硬化で液体状態の光硬化性樹脂を硬化させることで、全体造形物66の断面形状に対応した形状の樹脂層を造形する。そして、この樹脂層を順次積層することによって、全体造形物66を造形する。ここで、「断面形状」とは、全体造形物66を複数の層に分割したときの各層の断面の形状のことである。「光硬化性樹脂」とは、所定の波長を含む光が照射されると重合や架橋を開始して硬化する樹脂である。
【0032】
3次元造形装置40として、公知の各種の3次元造形装置を用いることができる。3次元造形装置40の構成は何ら限定されないが、本実施形態に係る3次元造形装置40は、台41と、槽42と、ホルダ43と、光学装置44とを備えている。光学装置44はプロジェクタ44aおよびミラー44bを備えている。プロジェクタ44aから発せられた光はミラー44bに反射され、台41の開口41aを通じて、槽42内の液体の光硬化性樹脂60に照射される。これにより、液体の光硬化性樹脂60のうち光が照射された部分は硬化し、樹脂層が造形される。ホルダ43は昇降自在に構成されている。ホルダ43が上昇するときに、硬化してホルダ43に結合した光硬化性樹脂60が吊り上げられる。その後、次の樹脂層が造形される。このような動作を繰り返すことにより、全体造形物66が造形される(図2(a)参照)。全体造形物66は、例えば、各種の光硬化性樹脂により構成されている。
【0033】
切削加工機50は、加工対象である被加工物70(図4参照)を切削して、目的の形状の加工物を作製する。3次元造形装置40には、切削加工機50では作製できないような立体的に複雑な形状の物を造形できるという利点がある。一方、切削加工機50には、3次元造形装置40よりも、使用できる材料が多いという利点がある。また、被加工物のサイズや3次元造形装置40の造形精度にもよるが、切削加工機50には、3次元造形装置40よりも、総じてより短時間でより精密な表面加工を施せるという利点がある。切削加工機50は、まず、固定治具72を作製する(図2(b)参照)。固定治具72は、全体造形物66とは異なる別個の部材であり、全体造形物66を支持するものである。固定治具72用の材料は特に制限されない。広範な材料の中から、固定治具72に応じた材料を適宜選択することができる。例えば、固定治具72用の材料として、蝋材(モデリングワックスなど)、合成木材(ツーリングマテリアルなど)、朴,バルサ等の木材、アクリル樹脂,アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)共重合体,ポリカーボネート(PC)等の合成樹脂、石膏等の無機材料等を利用することができる。全体造形物66を固定治具72で安定して支える観点から、固定治具72の材料の硬度は全体造形物66の材料の硬度よりも大きいことが好ましい。
【0034】
切削加工機50として、公知の各種の切削加工機を用いることができる。切削加工機50の構成は何ら限定されない。図4に示すように、本実施形態に係る切削加工機50は、ケース52と、被加工物70を支持するベース51と、被加工物70を加工する加工ツール55とを備えている。加工ツール55は、図示しないモータによって駆動され、回転する。また、加工ツール55は、図示しない他のモータによって駆動され、被加工物70に対して3次元移動する。すなわち、加工ツール55は、被加工物70に対して前方、後方、左方、右方、上方、および下方に移動可能に構成されている。本実施形態では、切削加工機50は3次元造形装置40と別体に構成されている。しかし、切削加工機50と3次元造形装置40とは一体化されていてもよい。
【0035】
図1に示すように、制御装置10は、記憶部11と、造形部12と、形状決定部13と、固定治具作製部14と、サポート除去部15とを備えている。制御装置10は、中央演算処理装置(以下、CPUという。)と、CPUが実行するコンピュータプログラムなどを格納したROMと、RAMなどを備えていてもよい。記憶部11、造形部12、形状決定部13、固定治具作製部14、およびサポート除去部15は、ハードウェアにより構成されていてもよく、CPUがコンピュータプログラムを実行することにより機能的に実現されるようになっていてもよい。
【0036】
記憶部11は、全体造形物66の3次元形状を表す3次元データを記憶している。この3次元データは、3次元造形装置40および切削加工機50の両方で利用される。
【0037】
造形部12は、記憶部11に記憶された3次元データを用いて、3次元造形装置40に全体造形物66を造形させる。造形部12は、上記3次元データから、全体造形物66を複数の断面形状に分割したときの各断面形状を表す断面データを作成する。そして、造形部12は、上記断面データを用いて、図2(a)に示したように、3次元造形装置40に全体造形物66を造形させる。すなわち、3次元造形装置40は、上記断面データに基づいて、各断面形状の造形物を造形し、それらを順次積層することにより、全体造形物66を造形する。全体造形物66は、造形対象である対象造形物62の一部とホルダ43との間に、造形時の対象造形物62の荷重の一部を支持するためのサポート64を有している。
【0038】
形状決定部13は、記憶部11に記憶された3次元データを用いて、固定治具72の形状を決定する。固定治具72は、全体造形物66の表面のうち、対象造形物62の表面において全体造形物66を支持する。対象造形物62は、サポートが配置されたサポート面と、サポート面とは異なる面である非サポート面62a,62dとを含む。固定治具72は、全体造形物66の表面のうち、非サポート面62aに接触して全体造形物66を支持する。固定治具72は、対象造形物62の非サポート面62aに対応した形状の支持面72aを有する(図2(b)参照)。そこで形状決定部13は、非サポート面62a,62dのうち、固定治具72が接触する非サポート面(被支持面)62aを決定する。図2(a)の例では、被支持面62aは、対象造形物62の表面のうちのサポート面とは反対側の面に決定されている。そして形状決定部13は、支持面72aが対象造形物62の被支持面62aに対応した形状になるように、固定治具72の形状を決定する。例えば、形状決定部13は、被支持面62aを反転した形状の面を支持面72aとする。これにより、支持面72aと被支持面62aとの密着度が高まり、固定治具72により全体造形物66を安定して支持することができる。
【0039】
固定治具作製部14は、切削加工機50を制御し、図2(b)に示したように、切削加工機50に固定治具72を作製させる。
【0040】
サポート除去部15は、切削加工機50を制御し、固定治具72に支持された全体造形物66からサポート64を除去する(図2(c)参照)。サポート64の位置、形状、および寸法は、記憶部11に記憶された3次元データに含まれている。そこで、サポート除去部15は、この3次元データを用いて切削加工機50を制御する。
【0041】
制御装置10は、3次元造形装置40および切削加工機50とは別体に構成されていてもよい。例えば、制御装置10は汎用のパーソナルコンピュータにより構成されていてもよい。あるいは、制御装置10の一部または全部は、3次元造形装置40または切削加工機50に内蔵されていてもよい。例えば、造形部12は3次元造形装置40に内蔵されていてもよい。また、固定治具作製部14およびサポート除去部15は、切削加工機50に内蔵されていてもよい。
【0042】
以上、3次元造形システム1の構成について説明した。以下に、この3次元造形システム1を用いて3次元造形物を製造する方法について説明する。図5は、本実施形態に係る3次元造形物の製造方法のフロー図である。ここに開示される3次元造形物の製造方法は、全体造形物66の3次元形状を表す3次元データを記憶する工程S1と、全体造形物66を造形する工程S4と、3次元データから非サポート面(被支持面)62aの形状を特定する工程S2と、固定治具72の形状を決定する工程S3と、固定治具72を作製する工程S5と、全体造形物66を固定治具72上に配置する工程S6と、全体造形物66のサポート64を除去する工程S7、とを包含している。
【0043】
工程S1では、例えば、外部のコンピュータから制御装置10の記憶部11に3次元データが送信され、記憶部11が3次元データを記憶する。あるいは、制御装置10にデータ作成用のソフトウェアがインストールされており、ユーザが当該ソフトウェアを用いて3次元データを作成し、記憶部11がその3次元データを記憶する。
【0044】
工程S4は、造形部12および3次元造形装置40によって実施される。工程S2およびS3は、形状決定部13によって実施される。工程S5は、固定治具作製部14および切削加工機50によって実施される。工程S6は、例えばユーザによって実施される。あるいは、全体造形物66を固定治具72上に配置する配置機構が3次元造形システム1に設けられ、その配置機構が工程S6を実施してもよい。工程S7は、サポート除去部15および切削加工機50によって実施される。
【0045】
工程S4と工程S2〜S5とは同時に実施してもよく、工程S4の終了後に工程S2〜S5を実施してもよく、工程S4の開始前に工程S2〜S5を実施してもよい。工程S4、S5、S6、S7は、それぞれ「造形工程」、「治具作製工程」、「配置工程」、「サポート除去工程」の一例である。
【0046】
以上のように、本実施形態によると、3次元造形装置40により造形した全体造形物66から、切削加工機50を使用してサポート64を除去することができる。これにより、人の手によるサポート64の除去を行うことなく、3次元造形物(対象造形物62)を製造することができる。サポート64除去時に、全体造形物66は固定治具72に載置される。これにより、サポート64除去が完了するまで対象造形物62は安定して支持され、落下や破損等のトラブルを未然に防ぐことができる。また、本実施形態では、切削加工機50は、3次元造形装置40と比較して、加工速度が速い。また、切削加工機50は、3次元造形装置40と比較して、加工精度が高い。したがって、全体造形物66の形状に好適に対応した固定治具72を、全体造形物66の造形中に作製することができる。
【0047】
なお、従来技術である特許文献2においては、図8に示すように、対象造形物162の一部とホルダ143との間にサポート164を形成するとともに、これら対象造形物162とサポート164とを取り囲む枠状にブロック部168をさらに造形していた。ここで、ブロック部168は、対象造形物162とサポート164との周囲に配設されるため、自ずと体積が増大される。またブロック部168は、NC加工機によるサポート切削時の応力に対して対象造形物162を十分に支持するため、その厚みも厚く形成される。そのため、ブロック部168を形成するために、多量の光硬化性樹脂が必要になるという問題があった。光硬化性樹脂は比較的高価であるため、製造後廃棄されるブロック部168に造形対象である対象造形物162と同じ高価な材料を使用するのは、不経済であるという欠点もあった。また、造形の際に、重量の嵩むブロック部168はホルダ143の直下に形成する必要があり、製造可能な対象造形物162の寸法が縮小されるという問題もあった。本発明の技術によると、このような従来技術の問題が解消されている点においても好ましい。
【0048】
本実施形態によると、3次元造形装置40と切削加工機50とで3次元データを共用している。そして、固定治具72の支持面72aは、全体造形物66の非サポート面(被支持面)62aを反転させた形状としている。これにより、固定治具72の作製を簡便かつ好適に行うことができる。例えば、支持面72aと全体造形物66の被支持面62aとを精密に対応させて、支持面72aと被支持面62aとを嵌め合わせることができる。このことにより、支持面72aと被支持面62aとの密着性が高まり、固定治具72の全体造形物66の保持性を高めることができる。例えば、サポート除去時に全体造形物66の位置や姿勢がずれるのを抑制することができる。
【0049】
以上の本実施形態によれば、固定治具72は対象造形物62と異なる別部材として作製される。また、切削加工機50は、3次元造形装置40と比較して、被加工物70の材料に対する制約が少ない。したがって、固定治具72の材料として、対象造形物62の造形に用いる光硬化性樹脂とは異なる材料を使用することができる。例えば、固定治具72は、光硬化性樹脂よりも安価な材料(例えば、ケミカルウッド)で形成することができる。また、固定治具72は、光硬化性材樹脂よりも高強度の材料(例えば、石膏)で形成することができる。したがって、複数の異なる形状の対象造形物62を作製する場合でも、コストを気にすることなく、固定治具72を作製することができる。また、同一形状の対象造形物62を作製する場合には、一つの固定治具72を繰り返し2つ以上の対象造形物62の製造に利用することができる。
【0050】
以上の本実施形態によれば、対象造形物62のサポート面とは反対側の、造形方向の終端側にて安定して固定治具72に保持させることができる。3次元造形装置40にて造形を行う時、全体造形物66のホルダ43に対向する面にサポート64を設けることが行われている。そのため、全体造形物66を固定治具72に載置したとき、サポート64は全体造形物66の上方に多く配置される。したがって、全体造形物66からサポート64を効率良く除去することができる。
【0051】
本実施形態では、固定治具72は、全体造形物66の下方(造形方向の終端側)の非サポート面(被支持面)62aにおいて全体造形物66を支持することとした。つまり、全体造形物66は、造形時と同様の姿勢で固定治具72上に載置されていた。しかしながら、固定治具72に支持される時の全体造形物66の姿勢はこれに制限されない。被支持面62aは、対象造形物62のうちサポート64が配置された面(サポート面)と反対側の面に限らず、他の面であってもよい。被支持面62aは対象造形物62の下面に限らず、側面62dであってもよい。
【0052】
また、上記実施態様では、対象造形物62の非サポート面62aの形状と、固定治具72の支持面72aの形状とが一致するように固定治具72の加工を行った。しかしながら、固定治具72の支持面72aの加工形状はこれに限定されない。例えば、図6に示すように、対象造形物62によっては、非サポート面62aに複雑な形状の表面62cを有している場合があり得る。また、十分な強度が得られない表面62cである場合があり得る。また、切削加工機50では加工が困難な立体的に複雑な形状の表面62cである場合があり得る。このような場合、固定治具72の支持面72aの形状を表面62cに精密に対応させると、全体造形物66の固定治具72への装着や、切削加工機50によるサポート除去の際に、表面62cが傷ついたり破損したりする虞がある。したがって、このようなときは、固定治具72の支持面72aが表面62cに接触しないように、支持面72aの形状を適宜調整することができる。
【0053】
また、図7に示したように、支持面72aを非サポート面62aよりも簡単な形状にしてもよい。これにより、固定治具72を簡単に形成することができる。
【0054】
また、上記実施態様では、加工機として、回転する加工ツールを被加工物70に接触させて切削を行う切削加工機50を用いた。固定治具72の作製およびサポート64の除去を行う加工機としては、被加工部材に接触して加工する加工機に限らず、例えば、非接触で加工を行う加工機を用いることもできる。非接触の加工機としては、例えば、電子ビームやレーザの照射により被加工物70の加工を行う電子線加工機やレーザ加工機が挙げられる。これらはいずれか一つの加工機を単独で使用しても良いし、複数の加工機を併用しても良い。
【符号の説明】
【0055】
1 3次元造形システム
10 制御装置
40 3次元造形装置
50 切削加工機
62 対象造形物
64 サポート
62 全体造形物
70 被加工物
72 固定治具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8