(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記軸部の軸線方向に沿って前記軸部の内腔内に配置され、前記軸部の軸線に沿って相対的に移動可能な針部を含む請求項1または4のいずれか一項に記載の高周波処置具。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および2のデバイスでは、剥離操作をする際、内視鏡と高周波ナイフの両方を操作する必要がある。すなわち、高周波ナイフの進退方向の操作を高周波ナイフのハンドルにて操作し、高周波ナイフの上下左右方向の操作を内視鏡のハンドルで行う必要がある。
【0008】
しばしば、内視鏡ハンドルと高周波ナイフハンドルの操作は、別々の医師が行うことがある。そのため、医師たちはコミュニケーションをはかりながら、剥離作業を行わなければならず、安全性や手術時間の長時間化に問題がある。
【0009】
特許文献3のデバイスでは、病変組織を一括切除するためには、処置電極の長さを病変部の径より長くする必要がある。その場合、処置電極の長さについて目的組織の直径程度またはそれ以上の長さが必要となり、処置電極での電流密度の低下が発生し、剥離(切開)能力の低下や手術時間の長時間化の問題が起こる。
【0010】
また、ESDにおいて、視野の向上のために、内視鏡用デバイスである鉗子などを内視鏡の鉗子口から、もしくは、内視鏡や内視鏡先端フードの側面に固定して、剥離した病変部を持ち上げながら切開をすることがある。上述の特許文献のデバイスを用いた処置では、病変部の平面方向から内視鏡を接近させる。そのため、鉗子を病変部に垂直な方向に移動させるためには、内視鏡ごと移動させなければならず、内視鏡カメラや剥離を行う処置デバイスも動いてしまい、操作性が悪い。
【0011】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものである。そして、その目的は、より簡易で視認性に優れた、内視鏡用高周波処置具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の高周波処置具は、生体組織を電気的に剥離可能な内視鏡用高周波処置具であって、壁面に開口部を有する中空の軸部と、前記軸部の近位側に一端が固定された外周要素と、前記軸部の内腔から前記開口部を通過し前記外周要素の一部に固定される導電性を有するワイヤーと、前記軸部の軸線方向に沿って前記軸部の内腔内に配置された、前記ワイヤーが前記開口部を通過する位置を調整可能な制御要素を持つことを特徴とする。
【0013】
本発明の高周波処置具は、外周要素およびワイヤーに固定された糸状要素をさらに含むことが好ましい。
【0014】
本発明の高周波処置具は、ワイヤーの開口部の通過位置から外周要素のワイヤーの固定位置までの距離を調整できる、ワイヤー長調整手段を含むことが好ましい。
【0015】
本発明の高周波処置具は、前記軸部が、先端に向かって漸次先細りするテーパー構造を有することが好ましい。
【0016】
本発明の高周波処置具は、記軸部の軸線方向に沿って軸部の内腔内に配置され、軸部の軸線に沿って相対的に移動可能な針部を含むことが好ましい。
【0017】
軸部の先端には、先端電極を持つことが好ましい。
【0018】
または、本発明の高周波処置具は、軸部の軸線に沿って相対的に移動可能であり、先端に先端電極を持つ電極部を含むことが好ましい。
【0019】
本発明の高周波処置具は、制御要素の位置操作を行う制御手段を含むことが好ましい。上記制御要素の位置操作は、治具やアクチュエータやロボットなどの手段を用いて行うことができる。
【0020】
本発明の高周波処置具は、高周波処置具を制御する制御手段とともに高周波処置具システムを構成することができる。例えば、高周波処置具の回転操作を、治具やアクチュエータやロボットなどの手段を用いて行うことができる。
【0021】
本発明の高周波処置具は、鉗子とともに高周波処置具システムを構成することができる。1の内視鏡を使用して本発明の高周波処置具を用いる際に、高周波処置具とともにその内視鏡を通じて鉗子をさらに使用することができる。上記鉗子の進退方向の操作を治具やアクチュエータやロボットなどの手段を用いて行うことが望ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、より簡易で処置に際し視認性に優れた、内視鏡用高周波処置具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】は、本発明に係る高周波処置具の斜視図である。
【
図2A】は、本発明に係る高周波処置具の処置部の正面図である。
【
図2B】は、本発明に係る高周波処置具の処置部の断面図である。
【
図2C】は、本発明に係る高周波処置具のワイヤーと制御要素の正面図である。
【
図3】は、収縮形態における高周波処置具の処置部の正面図である。
【
図4】は、
図2Aより制御要素の位置を先端側に移動した際の処置部の正面図である。
【
図5】は、
図4よりさらに制御要素の位置を先端側に移動した際の処置部の正面図である。
【
図6A】は、内視鏡と目的組織の位置関係を示す斜視図である。
【
図6B】は、内視鏡と目的組織の位置関係を示す断面図である、
【
図7A】は、本発明に係る高周波処置具の使用方法を説明した斜視図である。
【
図7B】は、本発明に係る高周波処置具の使用方法を説明した斜視図である。
【
図7C】は、本発明に係る高周波処置具の使用方法を説明した斜視図である。
【
図7D】は、本発明に係る高周波処置具の使用方法を説明した斜視図である。
【
図8】は、鉗子で剥離した目的組織を牽引した際の斜視図である。
【
図9A】は、本発明に係る糸状要素をさらに含む高周波処置具の処置部の正面図である。
【
図9B】は、本発明に係る糸状要素をさらに含む高周波処置具において、糸状要素により目的組織を牽引した際の斜視図である。
【
図10A】は、本発明に係る針部を持つ高周波処置具において、針部先端が軸部先端よりも先端にある場合の断面図である。
【
図10B】は、本発明に係る針部を持つ高周波処置具において、針部先端が軸部先端よりも後端にある場合の断面図である。
【
図11】は、本発明に係る軸部に先端電極を持つ高周波処置具の正面図である。
【
図12A】は、本発明に係る電極部の先端に先端電極を持つ高周波処置具の正面図である。
【
図12B】は、本発明に係る電極部の先端に先端電極を持つ高周波処置具の断面図である。
【
図13A】は、本発明に係るワイヤー長調整手段を持つ高周波処置具において、ワイヤー長調整手段を作動させる前の状態の処置部の正面図である。
【
図13B】は、本発明に係るワイヤー長調整手段を持つ高周波処置具において、ワイヤー長調整手段を作動させた後の状態の処置部の正面図である。
【
図14A】は、本発明に係るワイヤー長調整手段を持つ高周波処置具に好適な目的組織の斜視図である。
【
図14B】は、本発明に係るワイヤー長調整手段を持つ高周波処置具の使用方法を示す斜視図である。
【
図14C】は、本発明に係るワイヤー長調整手段を持つ高周波処置具の使用方法を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、他の図面を参照するものとする。逆に、便宜上、断面図でなくてもハッチングを使用することもある。また、図面における種々部材の寸法は、便宜上、見やすいように調整されている。
【0025】
図1は、本発明に係る内視鏡用高周波処置具10(以下、高周波処置具10と称す)を示す斜視図である。高周波処置具10は、内部に伝達要素を有する円筒状の伝達部12と、伝達部12の先端側に配置された処置部20と、伝達部12の後端に配置された操作部14とから構成される。なお、高周波処置具10において、処置部側を先端側または遠位側といい、操作部側を後端側または近位側という。
【0026】
伝達部12内部に配置された伝達要素は、例えば以下で説明する導電ワイヤー40(以下、ワイヤー40と称す)や制御要素42を含む。伝達要素は、操作部から処置部へエネルギーや運動などを伝達するものであり、伝達対象に応じて複数の伝達要素を含んでいてもよい。これらの部材は、中実または中空の、線材やパイプ材やコイル材などの略直線状部材が望ましい。これらの材料としては、ステンレス、白金、ナイチノールなどを含むあらゆる金属およびそれらの合金、各種プラスチック材料などが挙げられるが、導電ワイヤーおよび制御要素としては、ともにステンレスを使用することが、加工の容易さや、電気エネルギーの伝達性能の面から有利である。伝達要素は、操作部14から入力された運動を処置部20に伝達するために、操作部14から処置部20に延長している。
【0027】
伝達部は、伝達要素を内部に配置するチューブを含む。チューブは、コイル状の金属や合成樹脂によって形成された筒体や、合成樹脂から形成された筒体が用いられる。形状は円筒状であることが好ましい。チューブの外径は、用いる内視鏡の鉗子口に挿入可能なサイズであればよく、適宜選択することができる。チューブの外表面に潤滑性の塗布膜を設けてもよい。チューブは、処置部の近位端から操作部の遠位端までを覆うことが好ましい。
【0028】
操作部14は、ホイルやギアやスライダやトリガーなどの運動入力手段16を有する。
図1では、運動入力手段16としてホイルを1つ持つ操作部14が例示されているが、これに限定されることなく、運動入力手段の数は複数でも可能であり、ホイルとスライダなど異なる運動入力手段を備えていても構わない。運動入力手段16から入力された直動もしくは回転運動などは、各々の運動入力手段に対応する伝達要素を介して処置部20まで伝達される。
【0029】
操作部14は、外部電源から供給される電力を第一外部電源入力口から入力でき、ワイヤー40を介して処置部20まで電力を供給することが可能である。その他にも、操作部14は、複数の外部電源入力口や気体や液体やゲルや固体を、伝達手段を介して処置部に供給もしくは、処置部から伝達要素を介して気体や液体やゲルや固体を排出できる入出力口などを持っていてもよい。伝達要素によって処置部に到達した電力、気体等は、伝達要素から処置部の構成要素に対して供給され、排出されてもよい。
【0030】
以下の説明で用いられる図(
図2Aから
図14C)の内視鏡用高周波処置具10に関しては、説明の簡易性のために、伝達部12および操作部14を省略し、処置部20のみを描く。
【0031】
処置部20について説明する。
図2Aは処置部20の正面図であり、
図2Bは、
図2Aの断面図である。処置部20は、以下に説明する軸部22と外周要素30および、操作部14から伝達部12を介して延びるワイヤー40および制御要素42を含んで構成される。
【0032】
軸部22の好適な一例として、先端に鋭利なテーパーの付いた円筒形状の中空針構造が挙げられる。軸部22の先端側では、壁面に軸方向に延びる開口部24を有する。開口部24の位置は、ワイヤー40が以下で説明する動きができるならば特に制限はないが、軸部先端26から外周要素30の軸部22との固定位置34までが望ましい。開口部24の大きさは、ワイヤー40は軸部外部に延びることができ、制御要素42が外部に突出することがなく、軸部内部で軸部の軸方向に移動可能なように、ワイヤー40が開口部を通過できる程度に大きいことが望ましい。
【0033】
生体内で高周波処置具10を使用時に、軸部22周辺の生体組織に電力を供給しないよう、軸部22は例えばプラスチックやポリマーなどの絶縁物、もしくは、金属に絶縁コートを施したものが望ましい。
【0034】
軸部22は、伝達部のチューブと連結していていることが好ましい。軸部22とチューブを連結することで、軸部先端26または後述する針部または先端電極を目的組織に差し込んだ際に、軸部22が近位方向に押し戻されることがなく、適切に差し込むことができる。軸部とチューブの連結は、溶接や溶着、接着など軸部とチューブの材質に合わせて適宜選択することができる。軸部とチューブの断面同士で、または軸部とチューブの一部を重ね合わせるなどして連結することができる。軸部とチューブとは別の連結部材を用いて連結してもよい。軸部とチューブと一体的に形成することもできる。
【0035】
軸部は、先端に向かって漸次先細りするテーパー構造を有していてもよい。テーパー構造を有することで、目的組織に差し込みやすくなる。テーパー構造は、開口部と24と重なっていてもよく、開口部より先端側に配置されていてもよい。テーパー構造に代わりまたはテーパー構造に加えて、上述する針部や先端電極を設けることもできる。
【0036】
本発明の高周波処置具は、収縮形態と拡張形態とを含む形態をとることができる。外周要素30は、以下で説明する収縮形態の際に、軸部22と重なり配置できるように半円筒形状であることが望ましい。外周要素30の後端は、軸部の開口部の後端28付近で軸部22と固定される。
【0037】
外周要素30は、高周波処置具10の処置部が内視鏡70の鉗子口72内に配置された際には、
図3のように軸部22の軸線と平行となる収縮形態をとる。また、処置部が鉗子口を経由して、内視鏡70の鉗子口72外に配置された際には、
図2Aのように軸部先端26と外周要素先端32が一定の距離を置いた拡張形態をとる。拡張形態では、軸部先端26と外周要素先端32を結ぶ線分が、軸部22の軸方向と垂直であることが望ましい。収縮形態から拡張形態への変形は、可逆的に行うことが可能である。
【0038】
上記変形を行うためには、拡張形態の形状を記憶させた外周要素30を弾性変形の範囲で鉗子口内に挿入する必要がある。従って、外周要素30の材料は、弾性の高い材料が望ましい。このような変形が可能な材料として、各種バネ線やバネ板の他に、ナイチノールなどの形状記憶合金などが好ましい。外周要素30をこのような材料とすることで、生体内で高周波処置具10は、収縮形態から拡張形態へ容易に変形することができる。したがって、処置部20は、収縮形態の生体内で高周波処置具10が鉗子口から排出されると、拡張形態へ変形する。
【0039】
生体内で高周波処置具10を使用時に、外周要素30周辺の生体組織に電力を供給しないよう、外周要素33は、ポリマーなどの絶縁物を表面に塗布するなどして、絶縁コートを施したものが望ましい。
【0040】
ワイヤー40は、導電性の線状物である。ワイヤー40は単線でも良く、複数の線材を撚り合わせた撚り線でも良い。ワイヤー先端は外周要素先端32に固定される。ワイヤー40は外周要素先端32から、軸部の開口部24、軸部内空、伝達部12内空に配置され、操作部14にて後端が固定される。さらに、操作部14にて第一外部電源入力口に接続される。第一外部電源入力口から供給される電力は、ワイヤー40を導線として、処置部まで伝達される。
【0041】
制御要素42は、ワイヤー40の外周に軸部22の軸方向に相対移動可能に配置される、円環状もしくは円筒状もしくは円弧環状もしくは円弧筒状の先端構造44を持つ。円弧環状もしくは円弧筒状の要素を持つ場合、以下で説明するワイヤー操作の容易性の観点から、円弧の角度は、180度以上360度未満が望ましい。
図2Cでは、円筒状の先端構造44持つ制御要素が示されている。制御要素の先端構造44より後端は、ワイヤーに沿って伸び、操作部にて制御要素42に対応する運動入力手段16に固定される。制御要素の先端構造44より後端側の形状は、特に制限はなく、
図2Cに示す半円筒状の形状の他、円筒状、円弧筒状あるいは、棒状などから選択される。
図2Cでは、制御要素の先端構造44と先端構造より後端側の構造は、一体で描かれているが、これに限らず、各構造を別々に作製した後、溶接・接着・組み立て固定などの手段を用いて、接合しても構わない。
【0042】
高周波処置具10の拡張形態から、制御要素42に対応する運転入力手段16を動かすと、制御要素の先端構造44は軸部22の軸線に沿って先端方向へ移動する。その際、制御要素の先端構造44より後端側にあるワイヤー40は、制御要素の先端構造に制御され、軸部22の軸線に沿って伝達部内を移動する。制御要素の先端構造44より先端側にあるワイヤー40は、軸部の開口部24を通過し、外周要素の先端部32まで延びる。すなわち、制御要素の先端構造44を軸部22内で軸線に沿って移動することで、ワイヤー40が軸部の開口部24を通過する位置が移動し、軸部22の外に延びるワイヤー40の軌道が変化をする。
【0043】
図2Aは、制御要素42の先端構造44を軸部開口部の最後端28より後端側に移動させた際の正面図である。ワイヤー40は、軸部の開口部の最後端28を通過し、外周要素先端32に延びる。すなわち、ワイヤー40は、外周要素30に沿って延びる軌道を描く。
図4は、
図2Aより、制御要素の先端構造44を先端側に移動させた際の正面図である。制御要素の先端構造44より後端側のワイヤー40は軸部22内に収納されており、先端構造44より先端側のワイヤー40が、外周要素先端32に向かって延びる。この際、ワイヤー40が通過する軸部の開口部24の位置は、
図2Aと比較し先端側に移動する。
【0044】
図5は、
図4より、制御要素の先端構造44を先端側にさらに移動させ軸部の開口部24の最先端付近に制御要素の先端構造を移動させた際の正面図である。ワイヤー40は、軸部の開口部の最先端を通過し、外周要素先端32に延びる。すなわち、ワイヤーは、軸部先端26において、軸部先端26と外周要素先端32を結ぶ直線状の軌道を描く。この際、ワイヤー40が通過する軸部の開口部24の位置は、
図4と比較し先端側に移動する。
【0045】
本発明に係る高周波処置具10の使用方法を説明する。
図6Aは、内視鏡70およびESDにて剥離したい目的組織74の位置関係を示す。目的組織74は予め局注針などを用いて粘膜下層に生理食塩水やヒアルロン酸ナトリウムなどの薬剤を注入し、目的組織のある粘膜下層を浮き上がらせておくことが望ましい。内視鏡70は、目的組織74と対面する様に配置し固定する。
【0046】
図6Bは、内視鏡70の鉗子口72内に収納された高周波処置具の処置部20と内視鏡70の断面図を示す。図中、高周波処置具の伝達部は省略されている。処置部20は収縮形態で鉗子口72内に収納される。鉗子口72内を先端側に移動させることで、処置部20は鉗子口72から排出され、拡張形態に変形し生体内に挿入される。
【0047】
次に、
図7Aに示すとおり、軸部22を目的組織74の中央に差し込む。差し込む位置は、必ずしも目的組織の中央部でなくてもよいが、目的組織以外の組織の切開を防ぐために、中央部に差し込むことが好ましい。目的組織の形状は一定ではないので、その形状に応じて適宜差し込む位置を選択することができる。差し込み深さは、目的組織74のある臓器の壁面を貫通しない程度であればよく、差し込み深さは外周要素先端32の位置を見ながら判断できる。この際、制御要素の先端構造44の位置は、軸部の開口部24の最後端よりも後端側であることが望ましい。
【0048】
軸部22を穿刺した後、外部電源からワイヤー40に電力を供給する。この電力の大きさは、生体組織を切開可能な程度であれば特に指定はない。
図7Bおよび
図7Cに示すとおり、制御要素の先端構造44を先端側に移動させることで、ワイヤー40を目的組織74内部に進入させる。ワイヤー40に供給される電力により、ワイヤー40に触れた生体組織は焼き切られ切開が行われていく。制御要素42の移動は操作部の運動入力手段16を直接医師が操作してもよく、また、治具やアクチュエータやロボットなどを用いて操作してもよい。
【0049】
軸部22および外周要素部30は絶縁体であるため、電力が供給されても接触している生体組織に電力は供給されない。そのため、ワイヤー40に触れた組織以外の不要な切開を防止することができる。
【0050】
図7Cは、制御要素の先端構造44を先端側に完全に移動させた状態を示す。この際、ワイヤー40は、軸部先端26で軸部先端26から外周要素先端36を結ぶ直線状となり、粘膜下層に完全に進入することができる。
【0051】
次に、ワイヤー40に電力を供給したまま、処置部20を軸部22の軸線を軸に1回転させる。ワイヤー40に接触した生体組織が切開されるため、目的組織を一度に剥離することが可能である。
図7Dは、処置部20を180度回転させた際の斜視図である。ワイヤー40が通過すると、目的組織が剥離される。処置部20の回転操作は、直接医師が人力で回転させてもよく、また、治具やアクチュエータやロボットなどを用いて操作してもよい。生体組織の切開のために、ワイヤー40を長さ方向に振動させる加振装置を設けてもよい。また、切開を容易にするために、開口部から外周要素に固定された区間の内、少なくとも一部の区間において、ワイヤー40の形状を鋸状とすることができる。あるいは、当該一部の区間において、ワイヤーの外表面が絶縁性である部分と導電性である部分とが交互に並べてもよい。ワイヤー40の形状が鋸状である場合と同様に、切開を容易にすることができる。
【0052】
本発明に係る使用方法は、内視鏡70を目的組織74と対面させた後は、内視鏡70の操作を必要としない。一人の医師だけで高周波処置具の制御要素42の操作および高周波処置具の処置部20の回転操作を行うことができる。従って、医師間のコミュニケーションが不要となり手術時間の短縮が可能である。また、医師間でタイミングを合わせて共同作業を行う必要がなく、手術の安全性を高めることができる。
【0053】
本発明に係る目的組織74の剥離に必要なワイヤー40の長さは、目的組織74の半径と略一致する。そのため、従来の発明のような直径程度の長さは不要のため、電流密度の低下を防ぐことが可能であり、高効率の切開が可能である。
【0054】
本発明に係る高周波処置具10は、切開箇所を内視鏡下で視認可能なように、剥離した組織を持ち上げる機構を有してもよい。このような機構としては、鉗子や把持用クリップがある。例えば
図8は、高周波処置具10に鉗子50をさらに配置した例である。目的組織を鉗子50で把持し、剥離の最中は鉗子50を後端方向に引き上げることで、剥離された目的組織76を持ち上げることができる。このような鉗子は、内視鏡の鉗子口に配置したり、内視鏡側面に固定したりして高周波処置具10とともに用いることができる。鉗子50の持ち上げ操作は、医師による人力でもよく、またバネ機構やモーターなどを用いるほか、その他治具やアクチュエータやロボットを用いてもよい。目的組織を持ち上げる方向は、鉗子50の長さ方向と一致する。従って、従来の発明よりも容易に、鉗子操作を行うことができる。
【0055】
別の例として、例えば
図9Aは高周波処置具10にさらに糸状要素52を備えた例である。
図9Aでは、糸状要素52の一方端はワイヤー40の一部に、他方端は外周要素30の後端に固定されているが、これに限定されることなく、ワイヤー40と軸部22と外周要素30のいずれかに固定されていればよい。また、
図9Aは糸状要素を1本備えた例であるが、これに限定されることはなく、糸状要素を複数本備えていてもよい。糸状要素の材質は特に限定されずデンタルフロスや縫合糸やナイロン糸などの医療用糸なども使用可能である。金属の針金などを糸状要素として用いることも可能であるが、糸状要素周辺の生体組織に電力を供給しないよう、外周要素部は絶縁コートを施したものが望ましい。
【0056】
図9Aは、糸状要素52を持つ高周波処置具10の使用例である。糸状要素52を持たない高周波処置具10の使用例(
図7D)とは異なり、剥離された目的組織76は、外周要素30とワイヤー40と軸部22で構成される空間を通過せず、糸状要素52に沿って持ち上げられる。糸状要素52を配置することで、切開時の処置具の回転に伴って、自動的に目的組織76を持ち上げることができる。
【0057】
本発明に係る高周波処置具10は、処置中に軸部22が目的組織壁を貫通しないために、貫通防止機構を有していてもよい。貫通防止機構は、後述するバルンとすることができる。
【0058】
図10Aおよび10Bは、本発明に係る高周波処置具10の軸部22の内腔に、先端にテーパー構造を有する針部60をさらに配置した例である。この実施例では、軸部22の先端はテーパー構造を有しておらず、目的組織74を穿刺することができない。目的組織74に軸部22を差し込む際は、
図10Aに示すように、針部60先端を軸部先端26より先端側に配置し、目的組織74に差し込まれた針部60に沿って軸部22を挿入していく。軸部22の挿入が完了後、
図10Bに示すように、針部60は軸部先端26より後端側に配置される。これにより、以後の操作中に目的組織を貫通することを防ぐことができる。針部60の軸部22の軸線方向の進退運動は、操作部14に配置された針部運動用の運動入力手段16から伝達要素を介して入力された運動を基に実現が可能である。また、針部を、伝達要素を介して操作部の入出力口と連結することもできる。これにより、目的組織に差し込んだ針部から粘膜下層に生理食塩水やヒアルロン酸ナトリウムなどの薬剤を注入し、目的組織を粘膜下層から浮き上がらせておくことができる。
【0059】
別の実施例として、軸部22の先端に先端電極62を配置してもよい。先端電極62をワイヤー40とは異なる伝達要素を経由して第二外部電源に接続することで、操作部14に設けた第二外部電源入力口から供給された電力は、伝達要素を介して、操作部14、伝達部12を通過し、軸部22の内腔を経て先端電極62に供給される。伝達要素は、軸部22の内腔内に配置される。また、先端電極62は、ワイヤー40と電気的に接続しない構造とする。すなわち、第一外部電源入力口から供給される電力は、先端電極62には供給されず、第二外部電源入力口から供給される電力は、ワイヤー40には供給されない。
【0060】
図11は、軸部22先端に半球状の先端電極62を設けた例である。先端電極62の形状はこれに限定されることなく、任意の形状を選択できるが、生体組織を不用意に傷つけないために、曲面を有するほうが有利である。先端電極62に用いる材料は任意の金属から選択でき、加工の容易性や耐腐食性の面からステンレスが望ましい。
【0061】
先端電極62を配置した高周波処置具10の使用方法を説明する。まず、第二外部電源入力口から電力を供給し、先端電極62に切開用電力を供給する。切開用電力にて組織を切開しながら、目的組織74深部に軸部22を挿入していく。軸部22を適切な深さに挿入した後、第二外部電源入力口からの電力供給を停止する。その後は、
図7Bおよび7Dで説明したように、第一外部電源入力口から電力を供給し、ワイヤー40を目的組織74内に挿入し、目的組織を剥離していく。
【0062】
本実施例は、軸部22先端に先端電極62を配置する例を説明したが、これに限定されず、例えば、
図12A、Bのように、先端に先端電極62を持った電極部64を軸部22内腔に配置しても構わない。この実施例の場合、処置部20が収縮形態をとる際に、ワイヤー40先端より先端電極62を先端側に配置することができるため、よりコンパクトに処置部20を収縮できるので有利である。
【0063】
さらに別の実施例として、図示はしないが、軸部22先端にバルン要素を設けることもできる。バルン要素は開口部24より先端側の軸部に形成することが好ましい。伝達要素を介して操作部の入出力口から流体をバルン要素に供給することで、バルンを膨張させることができる。上記に示す通りの手段で、目的組織部に対して垂直に軸部もしくは針部のテーパーを穿刺後、バルンを膨張させることで、膨張したバルンが軸部もしくは針部のテーパー部分を取り囲み、バルンの外表面と目的組織とが強く接し、針部の移動や上記穿刺作業以降の手順にて組織壁を穿孔することを防止できる。バルンの拡張時の長軸方向に垂直な断面の直径は、軸部の同断面の直径と同程度であることが好ましい。
【0064】
本発明に係る高周波処置具10は、ワイヤー長調整手段として、操作部にワイヤー長調節機能を持つ運動入力手段をさらに有していてもよい。
図13A、Bは、ワイヤー長調節機能を持つ運動入力手段(図示せず)を作動させる前と後での、処置部の形状を示している。ワイヤー長調節機能を持つ運動入力手段を作動させることで、ワイヤーが後端側に引っ張られる。その際、ワイヤー先端が外周要素の先端と固定されているため、外周要素先端も軸部側へ引き寄せられ、軸部開口部から外部へ延びるワイヤーの長さは短くなる(
図13B)。
【0065】
このようなワイヤー長調節機能を持つ運動入力手段の例として、ワイヤー40後端が固定されたスライダを後端側へスライドさせる手段や、ワイヤー40後端を固定した回転体にワイヤー40を巻き取る手段などが考えられ、これらを任意に選択できる。これらの手段を、伝達要素を介して操作部に配置することで、手元側でワイヤー長を制御可能となる。
【0066】
操作部14にワイヤー長調節機能を持つ運動入力手段を備える高周波処置具10の使用方法を説明する。しばしば、ESDにて剥離したい目的組織の形状が複雑であり、中心から端部までの距離が一定ではない場合がある。
図14Aは、その一例として、楕円形の目的組織74を示している。楕円形の目的組織では、中心から端部までの距離は楕円の長半径から短半径まで変化する。
【0067】
図14B、Cは、ワイヤー長調節機能を持つ運動入力手段を備える高周波処置具10の軸部22を目的組織74中央に差し込み、制御要素42を先端側に移動させワイヤー40を目的組織74の長軸に沿って下ろし、ワイヤー40を目的組織74の内部に挿入させた際の様子である。次に、処置部20を軸部22の軸線に沿って回転させる。その際に、ワイヤー長調節機能を持つ運動入力手段を操作し、ワイヤー40を後端側に引っ張ることで、軸部の開口部24から外周要素30に向かって延びるワイヤー40の長さを短くする。すなわち、目的組織の輪郭に沿って、軸部の開口部24から外周要素30に向かって延びるワイヤー40の長さを制御する。
【0068】
ワイヤー長調整機能を持つ運転入力手段は、内視鏡から得られる情報を元に医師が直接操作をしてもよく、また、内視鏡から得られた画像を元に、軸部から目的組織端部までの距離を演算し、演算結果に合わせて治具やアクチュエータやロボットなどの制御手段が自動で操作をしてもよい。
【0069】
本例では、目的組織の長軸側から切開を行ったがこれに限定することなく、短軸側からの操作も可能であり、その場合は予め開口部から外周要素までのワイヤーの距離を短く調整しておけばよい。
【0070】
目的組織の形状がさらに複雑な場合であっても、本例の使用方法をさらに応用することで、目的組織の輪郭線に沿って剥離が可能である。目的組織の形状が複雑な場合、軸部の開口部から外部に突出するワイヤー長を一定のまま高周波処置具を回転させると、目的組織以外の正常な組織にワイヤーが触れ切開や穿孔のリスクが高まる。ワイヤー長調整機能を持つことで、より安全に剥離作業が可能となる。