【文献】
Sony Corporation,Coordinated Antenna Calibration for CoMP in Hetnet,3GPP TSG-RAN WG1 Meeting #64 R1-110633,3GPP,2011年 1月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記キャリブレーション係数算出部は、基準アンテナ素子と他の各アンテナ素子との間の前記各利得除外推定値の相対差を平均化したものを各アンテナ素子のキャリブレーション係数とすることを特徴とする請求項2に記載のアレーアンテナ装置。
前記配置誤差推定部は、配置推定対象のアンテナ素子と他の各アンテナ素子との間について、前記2つの円の交点座標のうち一方の交点座標の平均値を、前記配置推定対象のアンテナ素子の配置誤差として推定することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアレーアンテナ装置。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(A)主たる実施形態
以下では、本発明に係るアレーアンテナ装置及び無線装置の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
(A−1)実施形態の構成
図1は、実施形態に係る無線装置の構成を示す構成図である。
【0025】
図1において、実施形態に係る無線装置1は、N個のアンテナ素子#0〜#N−1、N個のRF回路(
図1では、「RF」と表記する。)#0〜#N−1、N個のブランチ#0〜#N−1、信号生成/復調/到来方向推定部11、受信キャリブレーション部12、送信キャリブレーション部13、メモリ14、キャリブレーション係数算出部15、配置誤差推定部16を有する。
【0026】
無線装置1は、複数のアンテナ素子#0〜#N−1を有するアレーアンテナを備え、ビームフォーマにおける指向性制御、アレーアンテナによる到来波の到来方向推定処理を行なうものである。
【0027】
無線装置1は、自装置内のアンテナ素子から送出された信号を、他の各アンテナ素子が受信し、各ブランチ#0〜#N−1の受信キャリブレーション係数、送信キャリブレーション係数を算出し、これら受信キャリブレーション係数、送信キャリブレーション係数を用いて、各ブランチ#0〜#N−1の受信キャリブレーション、送信キャリブレーションを行なう。つまり、無線装置1のアンテナ素子から送出された信号を参照信号とする。そのため、従来技術のように、外部装置が送信した外部参照信号を使用せず、RFキャリブレーション及び配置キャリブレーションを行なうことができる。
【0028】
信号生成/復調/到来方向推定部11は、送信する場合には、送信する信号を変調して、その変調した信号を各ブランチ#0〜#N−1に与える。また、受信する場合、信号生成/復調/到来方向推定部11は、各ブランチ#0〜#N−1から取得した信号を復調する。
【0029】
ここで、各ブランチ#0〜#N−1のキャリブレーションを実施する場合、信号生成/復調/到来方向推定部11は、複数のブランチ#0〜#N−1の中から、いずれか1個のブランチを順番に選択し、その選択した1個のブランチに対して送信信号を与える。これは、複数のアンテナ素子#0〜#N−1のうち、いずれか1個のアンテナ素子が送信した信号を参照信号とし、他の各アンテナ素子が受信できるようにするためである。なお、送信するブランチの選択順序は、特に限定されるものではない。
【0030】
また、信号生成/復調/到来方向推定部11は、所定の到来方向推定アルゴリズムにより、到来波の到来方向を推定する。ここで、到来方向推定アルゴリズムは、様々なアルゴリズムを広く適用できる。例えば、到来方向推定アルゴリズムは、ビームフォーマ法、MUSIC法、ESPRIT法、SAGE法等の最尤推定に基づく方法などがある。なお、実施形態では、到来方向推定アルゴリズムとしてMUSIC法を採用し、誤差1度以下を許容範囲としている。
【0031】
各アンテナ素子#0〜#N−1は、到来波を捕捉して、捕捉した電波信号を電気信号に変換して各RF回路#0〜#N−1に与えたり、各RF回路#0〜#N−1からの送信信号を電波として送出したりする。
【0032】
各RF回路#0〜#N−1は、対応する各アンテナ素子#0〜#N−1の高周波回路であり、送信RF回路Tx、受信RF回路Rx、送信RF回路Txと受信RF回路Rxとを切り替えるスイッチSWを備える。
【0033】
各ブランチ#0〜#N−1は、各アンテナ素子#0〜#N−1に送信信号を給電し、送信信号の無線周波数信号へのアップコンバージョンと、位相及び振幅の制御を行なうものである。
【0034】
受信キャリブレーション部12は、後述するキャリブレーション係数算出部15により算出された受信キャリブレーション係数を用いて、受信キャリブレーションを行なうものである。
【0035】
送信キャリブレーション部13は、後述するキャリブレーション係数算出部15により算出された送信キャリブレーション係数を用いて、送信キャリブレーションを行なうものである。
【0036】
メモリ14は、複数のアンテナ素子#0〜#N−1のうち、いずれか1個のアンテナ素子が送信した信号を参照信号とし、他の各アンテナ素子#0〜#N−1が受信した伝搬路特性(伝搬路推定値の結果)を保持するものである。
【0037】
キャリブレーション係数算出部15は、メモリ14に保持されている各ブランチ#0〜#N−1の伝搬路推定結果を用いて、受信キャリブレーション係数、送信キャリブレーション係数を算出するものである。なお、キャリブレーション係数算出部15によるキャリブレーション係数の算出処理の詳細な説明は、動作の項で説明する。
【0038】
配置誤差推定部16は、キャリブレーション係数算出部15により算出されたキャリブレーション係数を用いて、アンテナ素子#0〜#N−1の配置誤差を推定するものである。配置誤差推定部16による配置誤差推定処理の詳細な説明は動作の項で説明する。
【0039】
(A−2)実施形態の動作
次に、実施形態に係る無線装置1におけるアレーアンテナのキャリブレーション方法の動作を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0040】
(A−2−1)全体動作
図2は、実施形態に係るキャリブレーション処理の動作を示すフローチャートである。
【0041】
アレーアンテナの各ブランチ#0〜#N−1の送信キャリブレーション係数、受信キャリブレーション係数を全て初期化する(例えば、「1」とする)(S101)。次に、アレーアンテナの各アンテナ素子#0〜#N−1の現在の位置座標を理想位置に初期化する(S102)。
【0042】
次に、キャリブレーションに係る処理の実施回数iを初期化する(S103)。キャリブレーションに係る処理は、後述するように、自装置1の各アンテナ素子#mからの参照信号を受信した各アンテナ素子#nの伝搬路推定値を用いたRFキャリブレーション係数の算出処理(S104〜S109)と、アンテナ素子配置推定処理(S110)とを含む処理である。
【0043】
自装置1のN個のブランチ#0〜#N−1のうち、参照信号を送信するアンテナ素子#mを特定するため、m=0(0≦m<N)をセットし(S104)、信号生成/復調/到来方向推定部11は、ブランチ#m(0≦m<N)に対して送信信号を与え、アンテナ素子#mが参照信号を送信する(S105)。アンテナ素子#m以外の全てのアンテナ素子が参照信号を受信する(S106)。
【0044】
参照信号を送信した各アンテナ素子#m以外の全てのアンテナ素子の各ブランチは、各アンテナ素子からの受信信号に基づいて、参照信号を送信したアンテナ素子#mとの間の伝搬路特性としての伝搬路推定値を算出する。参照信号を送信したアンテナ素子#m以外の全てのアンテナ素子の各ブランチにより算出された伝搬路推定値は、メモリ14に保持される(S107)。
【0045】
ここで、信号生成/復調/到来方向推定部11は、全てのアンテナ素子#0〜#N−1が参照信号を送信するアンテナ素子#mとなるように、参照信号を送信するアンテナ素子#mをN個のアンテナ素子#0〜#N−1の中から順番に切り替えて、S104〜S107の処理を繰り返す(S108)。
【0046】
全てのアンテナ素子#0〜#N−1はそれぞれ参照信号を送出するアンテナ素子#mとなり、参照信号を送信するアンテナ素子#mとなると、キャリブレーション係数算出部15が、メモリ14に保持されている伝搬路推定値を用いて、各ブランチ#0〜#N−1の受信キャリブレーション係数、送信キャリブレーション係数を算出する(S109)。
【0047】
次に、配置誤差推定部16は、全てのアンテナ素子#0〜#N−1のそれぞれの配置推定を行なう(S110)。
【0048】
参照信号の送受信の処理から配置誤差推定までのキャリブレーションに係る実施回数i(S104〜S110)を所定回数だけ繰り返す(S111)。
【0049】
キャリブレーション係数算出部15により算出された、送信キャリブレーション係数と、受信キャリブレーション係数とが更新され(S112)、推定したアンテナ素子#0〜#N−1の配置におけるアレー応答ベクトルを算出する(S113)。なお、アレー応答ベクトルの計算方法は、アレー構成(例:一様線形アレー、一様円形アレーなど)によって異なるため割愛する。
【0050】
(A−2−2)RFキャリブレーション係数の算出処理
次に、
図2のキャリブレーション処理におけるRFキャリブレーション係数(送信キャリブレーション係数、受信キャリブレーション係数)の算出処理を、図面を参照しながら説明する。
【0051】
図3は、実施形態に係るRFキャリブレーション係数算出処理を示すフローチャートである。
【0052】
キャリブレーション係数算出部15は、アンテナ素子間の伝搬路推定値から対応する伝搬路の利得成分(以下、「伝搬路ゲイン」と呼ぶ。)を打ち消す処理(以下、伝搬路ゲインキャンセル処理と呼ぶ。)と、伝搬路ゲインキャンセル処理結果同士の比(除算)の平均化処理とを行なうことで、各ブランチ#0〜#N−1のRFキャリブレーション係数を算出する。
【0053】
まず、キャリブレーション係数算出部15は、アンテナ素子#mとアンテナ素子#nとの全ての組み合わせの伝搬路推定値を算出するため、m=0をセットし(S201)、n=0をセットする(S202)。なお、m=nの場合(S203)、処理はS205に移行し、m=nとならないように、nの値を更新する(S206)。
【0054】
ここで、アンテナ素子#mにおける送信RF回路#mの係数(利得)をt
mB、受信RF回路#mの係数(利得)をr
mBとする。また、アンテナ素子#mからアンテナ素子#nへの参照信号の伝搬路における伝搬路ゲインをh
〜n,mとする。
【0055】
キャリブレーション係数算出部15は、アンテナ素子#mからアンテナ素子#nへの伝搬路の伝搬路推定値h
n,mをメモリ14から読み出し、後述するように伝搬路ゲインキャンセル処理を行なう(S204)。
【0056】
ここで、アンテナ素子#nが、アンテナ素子#mから送出された参照信号を受信したとき、アンテナ素子#mからアンテナ素子#nへの伝搬路の伝搬路推定値h
n,mは、式(1)となる。
【数1】
【0057】
式(1)は、アレーアンテナのアンテナ素子間の伝搬であるため、アンテナ素子#mからアンテナ素子#nの伝搬路は見通し内であり、かつ、アンテナ素子間の強い反射波が無い伝搬環境であると考えられる。したがって、アンテナ素子#mからアンテナ素子#nの伝搬路ゲインh
〜n,mを、自由空間伝搬モデルの理論式を用いて式(2)のように推定する。
【数2】
【0058】
ここで、式(2)において、d
n,mはアンテナ素子#mとアンテナ素子#nとの間の距離(単位はmとする)を示しており、λは電波の波長(単位はmとする)を示している。
【0059】
キャリブレーション係数算出部15は、式(1)のh
n,mから、式(2)で算出される伝搬路ゲインh
〜n,mを打ち消す。これにより、式(3)ように、z
n,m=r
nB・t
mBが得られる。なお、zを利得除外推定値とも呼ぶ。
【数3】
【0060】
キャリブレーション係数算出部15は、nの値を更新していき(S206)、S204〜S206の処理を繰り返し、アンテナ素子#mからの参照信号を受信した全てのアンテナ素子#nについてz
n,mの値を算出する。
【0061】
さらに、キャリブレーション係数算出部15は、mの値を更新していき(S207)、S201〜S207の処理を繰り返し、参照信号を送出するアンテナ素子を変えた場合の全てアンテナ素子間の組み合わせのz
n,mを算出する。
【0062】
そして、キャリブレーション係数算出部15は、全ての組み合わせのz
n,mの値を算出し、z
n,mの比をとることで、アンテナ素子間の送信係数キャリブレーション係数、受信キャリブレーション係数を算出する(S208)。
【0063】
図4は、実施形態に係る送信/受信キャリブレーション係数算出処理を示すフローチャートである。
【0064】
キャリブレーション係数算出部15は、m=1をセットして(S302)、後述する式(5)で示す送信係数の比(
図4では「tmp1」と表記)及び式(4)で示す受信係数の比(
図4では「tmp2」と表記)を初期化する(S302)。
【0065】
次に、キャリブレーション係数算出部15は、n=0をセットする(S303)。なお、m=nのときには処理はS306に移行する(S304)。
【0066】
S305では、キャリブレーション係数算出部15は、後述する式(5)により送信係数の比(tmp1)を求め、後述する式(4)により受信係数の比(tmp2)を求める。
【0067】
また、キャリブレーション係数算出部15は、m=1としたときのアンテナ素子に対して、nの値を更新してS303〜S307の処理を繰り返し行ない、全てのアンテナ素子#0〜#N−1の送信係数の比及び受信係数の比を求める(S307)。
【0068】
そして、キャリブレーション係数算出部15は、後述する式(7)に従い、複数の送信係数の比の演算結果を平均化した結果に基づいて、送信キャリブレーション係数を求める。また、キャリブレーション係数算出部15は、後述する式(8)に従い、複数の受信係数の比の演算結果を平均化した結果に基づいて、受信キャリブレーション係数を求める(S308)。
【0069】
その後、キャリブレーション係数算出部15は、mの値を更新して、S301〜S307の処理を繰り返し行う(S309)。
【0070】
ここで、キャリブレーション係数算出部15による送信キャリブレーション係数、受信キャリブレーション係数の算出処理の詳細を説明する。
【0071】
キャリブレーション係数算出部15は、z
n,mの比をとることで、アンテナ素子間の受信係数の比(相対差)を式(4)のように求めることができ、また、アンテナ素子間の送信係数の比(相対差)を式(5)のように求めることができる。
【0072】
なお、式(4)は、受信キャリブレーション係数の算出の一例であり、例えば、アンテナ素子#lが送出した参照信号をアンテナ素子#m及びアンテナ素子#nが受信したときのz
n,lとz
m,lとの比を示している。
【0073】
また、式(5)は、送信キャリブレーション係数の算出の一例であり、例えば、アンテナ素子#nが送出した参照信号をアンテナ素子#lが受信したときのz
l,nと、アンテナ素子#mが送出した参照信号をアンテナ素子#lが受信したときのz
l,mとの比を示している。ただし、n≠m、m≠l,l≠nである。
【数4】
【0074】
式(4)、式(5)は、アンテナ素子#0を基準アンテナ素子とし、各アンテナ素子における送信係数(利得)及び受信係数(利得)と、アンテナ素子#0の送信係数(利得)及び受信係数(利得)との相対差を打ち消すことで、アンテナ素子間の振幅、位相係数を同一と考えることができる。
【0075】
例えば、アンテナ素子#mのブランチ#mの送信係数(利得)がt
mBであるとする。そうすると、信号gは送信係数t
mBが乗算されて、送信信号g・t
mBがアンテナ素子#mから送出される。このとき、キャリブレーション係数算出部15が、式(5)に従って、アンテナ素子#mについての送信キャリブレーション係数(補正係数)t
0B/t
mBを算出したとする。この場合、アンテナ素子#mのブランチ#mの送信係数t
mBに、送信キャリブレーション係数t
0B/t
mBを乗算することで、アンテナ素子#mの送信係数は、t
mB・t
0B/t
mB=t
0Bに変換することができる。すなわち、送信キャリブレーション係数を乗じることにより、アンテナ素子#mの送信係数をt
mBからt
0Bに校正できる。
【0076】
また例えば、アンテナ素子#mのブランチ#mの受信係数(利得)がr
mBであるとする。そうすると、アンテナ素子#mにより受信された信号gは受信係数r
mBが乗算されて、受信RF回路Rx#mから受信信号g・r
mBが出力される。このとき、キャリブレーション係数算出部15が、式(4)に従って、アンテナ素子#mについての受信キャリブレーション係数(補正係数)r
0B/r
mBを算出したとする。この場合、アンテナ素子#mのブランチ#mの受信係数r
mBに、受信キャリブレーション係数r
0B/r
mBを乗算することで、アンテナ#mの受信係数は、r
mB・r
0B/r
mB=r
0Bに変換することができる。すなわち、受信キャリブレーション係数を乗じることにより、アンテナ素子#mの受信係数をr
mBからr
0Bに校正できる。
【0077】
従って、キャリブレーション係数算出部15は、任意のアンテナ素子を基準アンテナ素子とし(例えば、式(4)、式(5)の場合、n=0とし)、式(4)で求まる値を受信キャリブレーション係数とし、式(5)で求まる値を送信キャリブレーション係数として算出する。ただし、l,mの組み合わせによっては、複数のt
0B/t
mB、r
0B/r
mBの演算結果を得ることが可能となる。
【0078】
キャリブレーション係数算出部15は、式(6)に従って、複数のr
0B/r
mBの演算結果を平均化した結果を、アンテナ素子#mの受信キャリブレーション係数として用いる。また、キャリブレーション係数算出部15は、式(7)に従って、複数のt
0B/t
mBの演算結果を平均化した結果を、アンテナ素子#mの送信キャリブレーション係数として用いる。
【数5】
【0079】
上記のように、キャリブレーション係数算出部15は、複数のアンテナ素子#0〜#N−1のうち、基準アンテナ素子と他のアンテナ素子との間のそれぞれの組み合わせについて、双方向の伝搬路推定値を求める。
【0080】
そして、基準アンテナ素子と他のアンテナ素子との間のそれぞれの組み合わせについて、基準アンテナ素子と他のアンテナ素子との間の伝搬路推定値から、伝搬路ゲインを打ち消した利得除外推定値を求め、伝搬路特性を求めるアンテナ素子間のそれぞれの利得除外推定値を用いて、各アンテナ素子の送信キャリブレーション係数、受信キャリブレーション係数を算出する。また、算出した送信キャリブレーション係数、送信キャリブレーション係数を用いて、各ブランチ#0〜#N−1の送信係数、受信係数を校正する。
【0081】
なお、上記の例では、N個のアンテナ素子#0〜#N−1のうち、いずれか1個のアンテナ素子を順番に選択していき、全てのアンテナ素子のそれぞれが参照信号を送出して、アンテナ素子間の組み合わせの双方向の伝搬路推定値を算出して、キャリブレーション係数を算出する場合を例示した。このとき、上記の例では、N個のアンテナ素子から選択した基準アンテナ素子と、この基準アンテナ素子以外の全ての他のアンテナ素子との間の組み合わせの双方向の伝搬路遅延値を算出する場合を例示した。
【0082】
しかし、本発明は、N個のアンテナ素子から選択した1個の基準アンテナ素子と、当該基準アンテナ素子以外の全ての他のアンテナ素子との間の組み合わせの双方向の伝搬路遅延値を算出することに限定されるものではなく、基準アンテナ素子と、他のアンテナ素子の一部のアンテナ素子との間の組み合わせの双方向の伝搬路遅延値を求めるようにしても良い。その場合、キャリブレーション係数算出部15が算出する最低限必要な伝搬路推定値の数は、2×{3×(N−2)−(N−3)}=4N−6個となる。
【0083】
これは、式(4)、式(5)に示すように、基準アンテナ素子、キャリブレーション対象のアンテナ素子、仲介となるアンテナ素子の3つのアンテナ素子(式(4)、式(5)のl、m、nに対応)が1組として求められる。そして、1組の3個のアンテナ素子で構成される三角形をいくつ形成できるかということと、重複する三角形の辺がいくつあるかによって、伝搬路推定値の数は決定される。
【0084】
そのため、アンテナ素子がN個の場合、「3×(N−2)」が、辺の数3×三角形の数(N−2)を示し、重複する辺の数(N−3)となり、アンテナ素子間の双方向であるため、最低限必要な伝搬路推定値の数は、上記のように、2×{3×(N−2)−(N−3)}=4N−6個となる。
【0085】
(A−2−3)配置キャリブレーション
次に、
図2のキャリブレーション処理におけるアンテナ素子の配置推定処理を、図面を参照しながら説明する。
【0086】
図5は、実施形態に係るアンテナ配置推定処理を示すフローチャートである。
【0087】
配置誤差推定部16は、各アンテナ素子#0〜#N−1の配置を推定し、推定した配置に基づいて、アレー応答ベクトルを再計算することで、各アンテナ素子の誤差推定のキャリブレーションを行なう。
【0088】
図5に示すように、アンテナ素子配置推定処理は、RFキャリブレーションと同様の伝搬路ゲインキャンセル処理および、後述するオフセット量C^
0=t
0B・r
0Bの算出処理(S401)と、アンテナ間距離誤差算出処理(S402)と、実配置推定処理(S403)とにより実施される。そして、配置誤差推定部16は、各アンテナ素子の現在の座標を、推定した座標に更新する(S404)。
【0089】
図6は、実施形態に係る伝搬路ゲインキャンセル処理及びオフセット量C^
0の算出処理を示すフローチャートである。
【0090】
配置誤差推定部16は、
図3のS201〜S207で説明した処理と同様に、伝搬路ゲインキャンセル処理を行なう(S501〜S507)。なお、キャリブレーション係数算出部15が
図3のS201〜S207の処理を行なっている場合、配置誤差推定部16は、キャリブレーション係数算出部15による演算結果を利用できる。
【0091】
次に、配置誤差推定部16は、オフセット量C^
0=t
0B・r
0Bの値を初期化し(S508)、m=1をセットする(S509)。
【0092】
配置誤差推定部16は、伝搬路ゲインキャンセル処理により得られたz´
m,0に、式(7)で算出して得た送信キャリブレーション係数を乗じて送信係数をキャリブレーションする。また、配置誤差推定部16は、伝搬路ゲインキャンセル処理により得られたz´
0,mに、式(6)で算出して得た受信キャリブレーション係数を乗じて受信係数をキャリブレーションする(S510)。
【0093】
このとき、後述する式(8)に示すように、キャリブレーション実施後は、オフセット量t
0B・r
0Bの値が残留する(S511)。
【0094】
配置誤差推定部16は、mの値を更新して、S509〜S512の処理を繰り返し行う(S512)。なお、RF誤差について、キャリブレーション係数の算出処理で説明した方法と同様の方法により、送信キャリブレーション係数、受信キャリブレーション係数を乗算することでキャリブレーションできる。
【0095】
ここで、RFキャリブレーション実施後に、配置キャリブレーションを実施する場合の詳細な説明を行なう。
【0096】
RFキャリブレーション実施後、式(8)に示すように、オフセット量C^
0=r
0B・t
0Bの係数が残留してしまう。
【数6】
【0097】
r
0B・t
0Bの係数が残留すると、この係数の位相回転量によって、後述する式(16)で検出するアンテナ素子距離誤差量を正しく推定できなくなる。そのため、r
0B・t
0Bを推定して打ち消す必要がある。ここで、式(9)、式(10)によって、r
0B・t
0Bを推定する。
【数7】
【0098】
h
〜n,m/h^
n,mは、r
0B・t
0Bを推定するための誤差要因となる。mあるいはnを変えることで複数のr
0B・t
0Bを含む結果を得ることができる。そのため、配置誤差推定部16は、mあるいはnの値を更新して得た複数のt
0B・r
0Bを平均化する(S513)。平均化によって誤差要因を抑圧し、r
0B・t
0Bを推定する。式(11)のように平均化を行い、r
0B・t
0Bの推定値C^
0を算出する。
【数8】
【0099】
送信キャリブレーション、受信キャリブレーションに加え、式(11)で算出した推定値C^
0により補正を行うことで、後述する式(22)のように、式(14)と等価な結果を得ることができる。
【0100】
図7は、実施形態に係るアンテナ素子間距離誤差算出処理を示すフローチャートである。
【0101】
配置誤差推定部16は、アンテナ素子#0〜#N−1の配置誤差によって生じるアンテナ素子間距離誤差を、自装置1のアンテナ素子#mからの参照信号によって検出する。また、配置誤差推定部16は、アンテナ素子間距離誤差を用いて、
図9を用いて後述する円の交点からアンテナ素子の実際の配置を推定する。
【0102】
以降では、配置誤差推定部16によるアンテナ素子の配置推定処理の動作を説明する。なお、アレー応答ベクトルの計算方法は、アレー構成(例:一様線形アレー、一様円形アレーなど)によって異なるため割愛する。
【0103】
配置誤差推定部16は、m=1をセットし(S601)、n=0をセットする(S602)。なお、m=nのとき、処理は、S608に移行する(S603)。
【0104】
次に、配置誤差推定部16は、z
n,mの位相を検出し(S604、S605)、z
n,mの位相から、参照信号を送出したアンテナ素子#mと、参照信号を受信したアンテナ素子#nとの間のアンテナ素子間距離誤差を算出し(S606)、アンテナ素子間距離の更新を行なう(S607)。
【0105】
その後、配置誤差推定部16は、nの値を更新して、S602〜S607の処理を繰り返し行う(S609)。また、配置誤差推定部16は、mの値を更新して、S601〜S609の処理を繰り返し行う(S610)。
【0106】
以下では、配置誤差推定部16によるアンテナ素子間距離誤差の算出処理の詳細を説明する。
【0107】
理想的な配置におけるアンテナ素子#mとアンテナ素子#nとのアンテナ素子間距離をd
n,mとし、実配置におけるアンテナ素子間距離をd´
n,mとする。d´
n,mとd
n,mは式(12)のように表せる。ただし、Δd
n,mは配置誤差に起因するアンテナ素子間距離の誤差である。
【数9】
【0108】
アンテナ素子#mからアンテナ素子#nの電波伝搬について、自由空間伝搬と仮定すると、伝搬路ゲインは式(13)となる。
【数10】
【0109】
ここで、配置誤差が無いものとして伝搬路ゲインを式(13)によって求め、伝搬路ゲインキャンセル処理を行う。そうすると、式(14)のようにアンテナ素子間距離誤差Δd
n,mに起因した位相回転が残る。ただし、式(14)ではRF誤差が無いものとする。
【数11】
【0110】
したがって、z´
n,mの位相からアンテナ素子間距離誤差Δd
n,mを式(15)、式(16)のように求めることができ、式(12)によって、d´
n,mも算出することができる。
【数12】
【0111】
配置誤差推定部16は、各アンテナ素子間距離d´
n,mをそれぞれ算出する。
【0112】
図8は、実施形態に係るアンテナ素子の実配置の推定処理を示すフローチャートである。
【0113】
配置誤差推定部16は、l=0、m=0、n=0をセットする(S701〜S703)。なお、l≠m、m≠n、n≠l以外の場合、処理はS706に移行する(S704)。
【0114】
配置誤差推定部16は、アンテナ素子#mとアンテナ素子#nとの間のアンテナ素子間距離長を半径として、アンテナ素子#mを中心とした円と、アンテナ素子#nとアンテナ素子#lとの間のアンテナ素子間距離長を半径として、アンテナ素子#mを中心とした円との交点を求める(S705)。
【0115】
配置誤差推定部16は、2つの円の2つの交点のうち、現在のアンテナ素子#lの座標に近い方を選択し(S706)、選択した円の交点の座標の平均化を行なう(S707)。
【0116】
その後、配置誤差推定部16は、nの値を更新してS705〜S707の処理を繰り返し行う(S709)。次に、配置誤差推定部16は、mの値を更新してS705〜S709の処理を繰り返し行う(S710)。
【0117】
そして、配置誤差推定部16は、S707で得られた円の交点の座標と、アンテナ素子#lの現在の座標との差分diffをとり(S711)、差分diffにステップ係数を乗じた値を、アンテナ素子#lの現在の座標に加えて、アンテナ素子#lの新座標を算出し、このアンテナ素子#lの新座標を保持する(S712)。
【0118】
さらに、配置誤差推定部16は、lの値を更新して、全てのアンテナ素子#〜#N−1の実際の配置推定を行なう(S713)。
【0119】
以下では、
図8及び
図9を参照しながら、配置誤差推定部16によるアンテナ素子の実際の配置推定処理の詳細を説明する。
【0120】
図9は、実施形態に係るアンテナ素子の配置推定処理を説明する説明図である。
【0121】
図9(A)及び
図9(B)では、8個のアンテナ素子#0〜#7を有する一様円形アレーアンテナである場合を例示している。
【0122】
図9(A)及び
図9(B)の第1象限のx軸上のアンテナ素子をアンテナ素子#0とし、アンテナ素子#0から反時計回りに位置する各アンテナ素子を順番にアンテナ素子#1、アンテナ素子#2、…、アンテナ素子#7としている。
【0123】
また、
図9(A)及び
図9(B)において、「×」は各アンテナ素子の理想位置を示し、「●」は各アンテナ素子の実際の位置を示す。
【0124】
例えば、アンテナ素子#m=1の配置を推定する場合、アンテナ素子#n=0の現在の位置(座標)を中心として、半径d´
n,m(=d´
0,1)の円の方程式を設定する。また、アンテナ素子#l=2の現在の位置(座標)を中心に、半径d´
l,m(=d´
2,1)の円の方程式を設定する。ただしx
n、y
nはアンテナ素子#nの現在の座標を表す。
【数13】
【0125】
式(17)と式(18)の交点座標(x
n,l,y
n,l)を求める。円の交点(
図9(A)及び
図9(B)では「■」で示す。)は最大2点で求まる。このとき、2個の円の交点のうち、アンテナ素子#m=1の現在座標からのユークリッド距離が近い方の座標を交点座標として採用する。
【0126】
その後、同様に、アンテナ素子#m=1の配置誤差を推定するために、アンテナ素子n、アンテナ素子l(n≠m、m≠l,l≠n)の組み合わせを変えながら、円の交点を算出する。
【0127】
そして、配置誤差推定部16は、式(19)に従って、算出した全ての交点座標の平均化処理を行う。式(19)において、Pは平均に用いた交点の数である。交点が存在しない場合は、平均化の対象としない。
【数14】
【0128】
推定した座標は誤差を含む可能性があるため、現在の座標と推定した座標の差分にステップ係数αを乗算して、アンテナ座標の推定値を算出する。
【数15】
【0129】
全てのmについて(x^
m,y^
m)を算出したら、(x
m,y
m)=(x^
m,y^
m)として現在座標を更新する。更新された座標を用いて、式(14)〜式(20)のアンテナ素子配置推定を繰り返し行い、徐々にアンテナ素子座標を更新してゆく。
【0130】
式(14)〜式(20)では、RF誤差が無いものとして説明を行った。送信、受信RF係数を考慮すると、式(14)は式(21)のように書き直される。
【数16】
【0131】
送信キャリブレーション、受信キャリブレーションに加え、式(21)で算出した推定値C^
0により補正を行うことで、式(22)のように、式(14)と等価な結果を得ることができる。
【数17】
【0132】
式(22)によって求めた値を使って、式(15)〜式(20)を行うことで、RF誤差を含む場合にも配置キャリブレーションが可能となる。
【0133】
ただし、RFキャリブレーションは、式(2)についてアンテナ素子間距離誤差の影響を受け、推定精度が劣化する。一方、配置キャリブレーションは、残留するRF誤差の影響を受け、推定精度が劣化する。したがって、RFキャリブレーションと、配置キャリブレーションを繰り返し行うことによって、互いの処理の精度を徐々に向上させることができる。
【0134】
(A−3−1)RFキャリブレーションの効果確認
次に、キャリブレーション係数算出部15によるRFキャリブレーション実施後の到来方向推定精度を計算して、RFキャリブレーションの効果を評価する。
【0135】
ここでは、アンテナ素子間の電波伝搬が式(2)の通りであり、アンテナ素子の配置誤差は存在しないという条件とする。また、RFキャリブレーションの効果は、計算機シミュレーションにより確認した。
【0136】
図10は、キャリブレーション係数算出部15によるRFキャリブレーション実施後の到来方向推定精度のシミュレーション結果を示す図である(その1)。
【0137】
図10において、横軸は、到来信号電力値と雑音信号電力値との比(SNR)であり、縦軸は、到来方向推定精度を示すRMSE(Root Mean Square Error)である。
【0138】
図10における「従来技術」は非特許文献2によるキャリブレーション方式の特性を示す。
図10における「理想」は、RF誤差無しの場合の特性である。
【0139】
図10に示すように、実施形態の技術(
図10では「提案技術」と示す)の特性は、「理想」の特性とほぼ一致しており、キャリブレーションが精度良く実施されていることがわかる。
【0140】
図10では、アンテナ素子間の電波伝搬が式(2)の通りとしたが、アンテナ素子間の近傍の通信でも、アンテナ素子を支えるアームからの反射波が存在することも考えられる。
【0141】
そこで、アンテナ素子間の電波伝搬を、直接波と反射波の2波から構成される大地反射2波モデル(キャリブレーションの伝搬路ゲインキャンセル処理で算出する伝搬路ゲインは式(2)のまま)における特性評価を行った。
図11が、シミュレーション結果を示す図である。
【0142】
図11は、キャリブレーション係数算出部15によるRFキャリブレーション実施後の到来方向推定精度のシミュレーション結果を示す図である(その2)。
【0143】
アンテナ素子高は0.1mとする。反射面の複素相対屈折率は、比較的強い反射が生じる5−0.1j、5−1.0jと、反射は弱いが反射時に位相が大きく回転する、2.5+1.0j、2.5+1.0j、2.5+2.0jについて評価を行った。また、電波の電界方向に対し、反射面が水平であるとし、仰角俯角方向の指向性は無いものとして評価を行った。
【0144】
図11に示すように、反射波が存在し、伝搬モデルに想定と誤差がある場合、理想条件の特性と比較すると、到来方向推定精度が劣化していることがわかる。しかし、SNR=0dB以上では、到来方向推定精度も1度以下の誤差を達成している。したがって、実伝搬環境が想定するモデルと異なるとしても、本発明によりRFキャリブレーションは可能であると考えられる。
【0145】
(A−3−2)配置キャリブレーションの効果確認
次に、配置誤差推定部16による配置キャリブレーションの効果を評価する。
【0146】
図12は、配置誤差推定部16による配置キャリブレーションの効果を示す図である。
【0147】
図12において、横軸はアンテナ素子配置誤差[%]であり、縦軸は到来方向推定のRMSEである。
【0148】
配置キャリブレーションの基礎評価のため、RF誤差が存在せず、配置誤差が存在する条件において、キャリブレーションの効果を計算機シミュレーションにより確認した。
【0149】
なお、アンテナ素子間の電波伝搬と、伝搬路ゲインキャンセル処理で用いる伝搬路モデルの誤差も含んでおり、アンテナ素子間の電波伝搬は大地反射2波モデルとし、相対複素屈折率は5.0−1.0jとしている。アンテナ素子配置誤差は、波長に対する割合で配置誤差の半径を求め、その半径内に99.7%収まるような正規分布に従い、ランダムに配置誤差を決定した。またキャリブレーションの繰り返し数は5回、ステップ係数は0.5とした。
【0150】
図12に示すように、アンテナ素子配置誤差10%において、配置キャリブレーションを実施いない場合と比較して、到来方向推定精度が約30%程度改善している。また、到来方向推定精度も1度以内の誤差を達成している。
【0151】
(A−3−3)RFキャリブレーションと配置キャリブレーションとの効果確認
次に、RFキャリブレーションと配置キャリブレーションとの両方を実施したときの効果を確認する。
【0152】
図13は、RFキャリブレーション及び配置キャリブレーションの効果を示す図である。
【0153】
ここでは、RF誤差、配置誤差の両方ともが存在する条件における、キャリブレーション効果の確認を行った。RF誤差が存在する以外は、配置キャリブレーションの効果確認時と同じ条件とする。
【0154】
図13に示すように、配置キャリブレーションまで実施することによって、アンテナ素子配置誤誤差約3%以上の場合に到来方向推定精度が改善しており、アンテナ素子配置誤差に対するロバスト性が向上していることがわかる。また、RFキャリブレーションと配置キャリブレーションとを実施することで、アンテナ素子配置誤差6%でも、到来方向推定精度も1度以下の誤差を達成できる。
【0155】
(A−4)実施形態の効果
以上のように、実施形態によれば、外部参照信号を用いずに、到来方向推定を行なうことができ、かつ演算処理負荷を軽減して、RFキャリブレーション、配置キャリブレーションを実施できる。
【0156】
(B)他の実施形態
上述した実施形態では、RFキャリブレーションを実施した後に、アンテナ素子間の配置キャリブレーションを実施する場合を例示した。しかし、本発明は、RFキャリブレーションのみを実施する場合も上述した実施形態と同等の有効な効果を奏し、又配置キャリブレーションのみを実施する場合にも上述した実施形態と同等の有効な効果を奏する。