(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6628863
(24)【登録日】2019年12月13日
(45)【発行日】2020年1月15日
(54)【発明の名称】アルミニウム系金属コーティングでコートした鋼板から出発するホスフェート処理可能な部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/12 20060101AFI20200106BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20200106BHJP
C22C 21/10 20060101ALI20200106BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20200106BHJP
C23C 2/26 20060101ALI20200106BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20200106BHJP
C22C 38/60 20060101ALN20200106BHJP
【FI】
C23C2/12
C21D1/18 C
C22C21/10
C21D9/00 A
C23C2/26
!C22C38/00 301T
!C22C38/60
【請求項の数】29
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-504773(P2018-504773)
(86)(22)【出願日】2016年7月29日
(65)【公表番号】特表2018-527461(P2018-527461A)
(43)【公表日】2018年9月20日
(86)【国際出願番号】IB2016001076
(87)【国際公開番号】WO2017017521
(87)【国際公開日】20170202
【審査請求日】2018年3月28日
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2015/001285
(32)【優先日】2015年7月30日
(33)【優先権主張国】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マシャド・アモラン,ティアゴ
(72)【発明者】
【氏名】アレリー,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ルイリエ,グレゴリー
【審査官】
神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/137687(WO,A1)
【文献】
特表2010−535636(JP,A)
【文献】
特開平11−279735(JP,A)
【文献】
特開2000−104153(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/122004(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/12
C21D 1/18
C21D 9/00
C22C 21/10
C23C 2/26
C22C 38/00
C22C 38/60
C23C 22/00
C23C 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスフェート処理された硬化部品の製造方法であって、以下のステップ:
A)4.0から20.0重量%の亜鉛、1.0から3.5重量%のケイ素、場合により1.0から4.0重量%のマグネシウム、および場合によりPb、Ni、ZrまたはHfから選択される追加元素を含み、各追加元素の重量含有量が0.3重量%未満であり、残りがアルミニウムおよび不可避不純物および残留元素である金属コーティングで予めコートされた鋼板を提供するステップであって、ここで、Zn/Si比は3.2から8.0の間である、ステップ、
B)前記コート鋼板を切断して、ブランクを得るステップ、
C)前記ブランクを840から950℃の間の温度で熱処理して、前記鋼中に完全オーステナイト微細構造を得るステップ、
D)前記ブランクをプレスツール内へ移送するステップ、
E)前記ブランクを熱間成形し、部品を得るステップ、
F)マルテンサイトもしくはマルテンサイト−ベイナイトである、または少なくとも75%の等軸フェライト、5から20%のマルテンサイトおよび10%以下の量のベイナイトで構成される微細構造を鋼中に得るために、ステップE)で得られた前記部品を冷却するステップ、ならびに
G)ホスフェート処理ステップ
を含む方法。
【請求項2】
前記金属コーティングが1.5から3.5重量%のケイ素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属コーティングが1.5から2.5重量%のケイ素を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属コーティングが2.1から3.5重量%のケイ素を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記金属コーティングが10.0から15.0重量%の亜鉛を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記鋼板の金属コーティングのZn/Si比が4から8の間である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記鋼板の金属コーティングのZn/Si比が4.5から7.5の間である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記鋼板の金属コーティングのZn/Si比が5から7.5の間である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記鋼板の金属コーティングが1.1から3.0重量%のマグネシウムを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記金属コーティングが76重量%を超えるアルミニウムを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記金属コーティングの厚さが5μmから50μmの間である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記金属コーティングの厚さが10μmから35μmの間である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記金属コーティングの厚さが12μmから18μmの間である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記金属コーティングの厚さが26μmから31μmの間である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記金属コーティングがCr、Mn、Ti、Ce、La、Nd、Pr、Ca、Bi、In、SnおよびSbの中から選択される元素またはそれらの組合せを含まない、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ステップC)が、1から12分の間の滞留時間中に、不活性雰囲気または空気を含む雰囲気中で行われる、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ステップE)の間に、前記ブランクの熱間成形が600から830℃の間の温度で行われる、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
鋼板と、4.0から20.0重量%の亜鉛、1.0から3.5重量%のケイ素、場合により1.0から4.0重量%のマグネシウム、および場合によりPb、Ni、ZrまたはHfから選択される追加元素を含み、各追加元素の重量含有量が0.3重量%未満であり、残りがアルミニウムおよび不可避不純物および残留元素であるプレコーティングとの間に合金層を形成する、金属コーティングでコートされた部品であって、前記鋼の微細構造が、マルテンサイトもしくはマルテンサイト−ベイナイトである、または少なくとも75%の等軸フェライト、5から20%のマルテンサイトおよび10%以下の量のベイナイトで構成され、部品が、さらに、前記金属コーティング上にZnO層と、前記ZnO層上にホスフェート結晶層とを含む、部品。
【請求項19】
前記部品表面上のホスフェート結晶の被覆率が90%以上である、請求項18に記載の部品。
【請求項20】
前記部品表面上のホスフェート結晶の被覆率が99%以上である、請求項19に記載の部品。
【請求項21】
前記ホスフェート結晶層上にさらに電着コーティング層を含む、請求項18から20のいずれか一項に記載の部品。
【請求項22】
前記金属コーティングが、金属間化合物層Fe3Al、相互拡散層Fe−Si−Al、前記コーティング中に分布する少量のケイ素を含む、請求項18から21のいずれか一項に記載の部品。
【請求項23】
前記金属コーティングの微細構造が、Zn2Mg相もしくはMg2Si相、または両相を含む、請求項18から22のいずれか一項に記載の部品。
【請求項24】
前記金属コーティングの微細構造が金属亜鉛を含まない、請求項18から23のいずれか一項に記載の部品。
【請求項25】
可変厚さを有するプレス硬化鋼部品である、請求項18から24のいずれか一項に記載の部品。
【請求項26】
前記可変厚さが連続フレキシブル圧延法によって製造される、請求項25に記載の部品。
【請求項27】
テーラード圧延ブランクである、請求項25または26のいずれか一項に記載の部品。
【請求項28】
フロントレール、シートクロス部材、サイドシル部材、ダッシュパネルクロス部材、フロントフロア補強材、リアフロアクロス部材、リアレール、Bピラー、ドアリングまたはショットガンである、請求項25から27のいずれか一項に記載の部品。
【請求項29】
自動車の製造のための、請求項18から28のいずれか一項に記載の、または請求項1から17のいずれか一項に記載の方法に従って得ることができる、部品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム系コーティングでコートした鋼板から出発する硬化部品の製造方法に関する。該部品は、ホスフェート処理に関して良好な特性を有し、従って良好な塗料付着性および良好な耐食性を示す。本発明は、自動車の製造に特に好適である。
【背景技術】
【0002】
硬化部品は、良好な耐食性および熱特性を有するアルミニウ系コーティングでコートすることができる。通常、これらの部品の製造方法は、鋼板の提供、ブランクを得るための該鋼板の切断、ブランクの熱処理、ホットスタンピング、これに後続する、マルテンサイト変態またはマルテンサイト−ベイナイト変態による硬化を得るための冷却を含む。
【0003】
一般に、塗膜は、硬化部品、特に電着コーティング層(e−coating layer)上に塗布される。これまでは、ホスフェート処理がよく行われている。このようにして、コートされるべき部品表面上にホスフェート結晶が形成され、塗料付着性、特に電着コーティング層を増加させる。
【0004】
アルミニウム系金属合金でコートした硬化部品は、ホスフェート処理可能ではなく、即ちホスフェート結晶が表面上にほとんどまたは全く形成されていない。このため、塗膜の塗布は、予めホスフェート処理ステップなしに直接行われる。アルミニウム系合金でコートした部品表面の微小粗さは、塗料の付着を可能にする。しかし、場合によっては、塗料が部品表面に均等に分布されず、赤錆領域が生じる。
【0005】
特許出願US2012/0085466は、金属コーティングを備えた鋼構成部品を製造する方法であって、以下の製造ステップ:
a)合金化熱処理鋼から製造された鋼平板製品を、少なくとも85重量%のAlおよび場合により最大15重量%のSiを含むAlコーティングでコートするステップ、
b)Alコーティングを備えた鋼平板製品を、少なくとも85重量%のZnを含むZnコーティングでコートするステップ、
c)Alコーティングおよびこれの上に位置するZnコーティングを備えた鋼平板製品へ、リン酸または二リン酸の金属塩少なくとも1種の主成分を含む最上層をコートするステップ、
d)少なくとも750℃の熱処理温度にて鋼平板製品を熱処理するステップ、
e)鋼平板製品を熱成形温度に加熱するステップ、
f)加熱された鋼平板製品から作った鋼構成要素を熱間成形するステップ、および
g)熱間成形鋼構成要素を、焼戻しまたはマルテンサイト組織を形成するのに十分な冷却速度で冷却することによって、仕上げ成形鋼構成要素を成形するステップ
を含む方法を開示している。
【0006】
熱間成形鋼構成要素は、少なくとも30重量%のAl、少なくとも20重量%のFe、少なくとも3重量%のSiおよび最大30重量%のZnを含む基層、少なくとも60重量%のZn、少なくとも5重量%のAl、最大10重量%のFおよび最大10重量%のSiを含む中間層、ならびに少なくとも8重量%のZn、ならびにZnO、PおよびAlを含み、Pの含有量が最大1重量%であり、主成分がZnOである最上層を含む。最上層によって、塗料の付着が可能になる。
【0007】
しかし、この方法は、金属コーティングを形成するために3層の堆積が必要である。Alコーティングは、溶融亜鉛めっきによって堆積することができる。Znコーティングは、溶融亜鉛めっき、物理蒸着法または電気亜鉛めっきによって堆積することができる。最上層は、スプレーコーティング、浸漬コーティング、蒸着またはゲル/ゾルミストによって堆積することができる。
【0008】
結果として、この方法の時間は非常に長く、生産性の損失および生産性コストの増加をもたらす。さらに、この特許出願は、実際には最上層が主としてジホスフェートおよび酸化亜鉛および/または酸化アルミニウムで構成されることを開示している。アルミナとも呼ばれる酸化アルミニウムは、ホスフェート処理可能ではない。最後に、この特許出願は、コートされた熱間成形鋼上のホスフェート結晶の被覆率については言及していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2012/0085466号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、コート鋼板から出発して、結果として良好な塗料付着性を有する、ホスフェート処理可能な硬化部品の製造のために容易に実施できる方法を提供することである。特に本発明は、部品表面におけるホスフェート結晶の高い被覆率、即ち80%以上の率を得るために、ホスフェート処理できる硬化部品を入手可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本目的は、請求項1に記載のホスフェート処理可能な硬化部品の製造方法を提供することによって達成される。該方法は、請求項2から17の特徴も含むことができる。
【0012】
第2の目的は、請求項18に記載の部品を提供することによって達成される。硬化部品は、請求項19から28の特徴も含むことができる。
【0013】
第4の目的は、請求項29に記載の自動車の製造にこのような部品の使用を提供することによって達成される。
【0014】
本発明の他の特徴および利点は、本発明の以下の詳細な説明から明らかになる。
【0015】
本発明を説明するために、非限定的な例の各種の実施形態および試験を、特に以下の図を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】VDA 233−102規格の168時間に相当する1腐食サイクルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
「ホスフェート結晶の被覆率」は、パーセンテージで定義される。0%は、部品の表面がホスフェート結晶によって全く被覆されていないことを意味し、100%は、部品の表面がホスフェート結晶によって完全に被覆されていることを意味する。
【0019】
「鋼鉄」または「鋼板」という呼称は、500MPa以上、好ましくは1000MPa以上、有利には1500MPa以上のより高い引張強さを部品に達成させる組成を有する、プレス硬化処理用鋼板を意味する。鋼板の重量組成は、好ましくは以下の通り:0.03%≦C≦0.50%;0.3%≦Mn≦3.0%;0.05%≦Si≦0.8%;0.015%≦Ti≦0.2%;0.005%≦Al≦0.1%;0%≦Cr≦2.50%;0%≦S≦0.05%;0%≦P≦0.1%;0%≦B≦0.010%;0%≦Ni≦2.5%;0%≦Mo≦0.7%;0%≦Nb≦0.15%;0%≦N≦0.015%;0%≦Cu≦0.15%;0%≦Ca≦0.01%;0%≦W≦0.35%であり、残りは鉄および鋼鉄の製造による不可避不純物である。
【0020】
例えば、鋼板は、以下の組成:0.20%≦C≦0.25%;0.15%≦Si≦0.35%;1.10%≦Mn≦1.40%;0%≦Cr≦0.30%;0%≦Mo≦0.35%;0%≦P≦0.025%;0%≦S≦0.005%;0.020%≦Ti≦0.060%;0.020%≦Al≦0.060%;0.002%≦B≦0.004%を有し、残りは鉄および鋼鉄の製造による不可避不純物である、22MnB5である。
【0021】
鋼板は、以下の組成:0.24%≦C≦0.38%;0.40%≦Mn≦3%;0.10%≦Si≦0.70%;0.015%≦Al≦0.070%;0%≦Cr≦2%;0.25%≦Ni≦2%;0.020%≦Ti≦0.10%;0%≦Nb≦0.060%;0.0005%≦B≦0.0040%;0.003%≦N≦0.010%;0.0001%≦S≦0.005%;0.0001%≦P≦0.025%を有するUsibor
(R)2000であり得て;チタンと窒素の含有量がTi/N>3.42を満足すること;ならびに炭素、マンガン、クロムおよびケイ素の含有量が:
【0022】
【数1】
を満足することが理解され、該組成が以下:0.05%≦Mo≦0.65%;0.001%≦W≦0.30%;0.0005%≦Ca≦0.005%の1種以上を場合により含み、残りが鉄および鋼鉄の製造による不可避不純物である。
【0023】
例えば、鋼板は、以下の組成:0.040%≦C≦0.100%;0.80%≦Mn≦2.00%;0%≦Si≦0.30%;0%≦S≦0.005%;0%≦P≦0.030%;0.010%≦Al≦0.070%;0.015%≦Nb≦0.100%;0.030%≦Ti≦0.080%;0%≦N≦0.009%;0%≦Cu≦0.100%;0%≦Ni≦0.100%;0%≦Cr≦0.100%;0%≦Mo≦0.100%;0%≦Ca≦0.006%を有し、残りが鉄および鋼鉄の製造による不可避不純物である、Ductibor
(R)500である。
【0024】
鋼板は、例えば0.7から3.0mmの間であり得る所望の厚さに応じて、熱間圧延、および場合により冷間圧延により得ることができる。
【0025】
本発明は、ホスフェート処理可能なコーティングでコートした硬化部品の製造方法に関する。第1に、該方法は、4.0から20.0重量%の亜鉛、1.0から3.5重量%のケイ素、場合により1.0から4.0重量%のマグネシウム、および場合によりPb、Ni、ZrまたはHfから選択される追加元素を含む金属コーティングで予めコートした鋼板の提供を含み、各追加元素の重量含有量が0.3重量%未満であり、残りがアルミニウムおよび不可避不純物および残留元素であり、Zn/Si比が3.2から8.0の間である。
【0026】
いずれの理論にも拘束されることを意図しないが、これらの条件が満足されない場合、特にケイ素の量が3.5%を超えると、亜鉛がアルミニウムマトリックス中に局在する、または金属間化合物Zn−Alが形成されるリスクがあると思われる。このため、亜鉛はコート鋼板の表面にまで上昇することができない。コート鋼板の表面には、ホスフェート処理可能でないアルミナ層が形成されている。
【0027】
ほとんどの場合、ホスフェート結晶の被覆率が低いと、塗料付着性が不十分となるリスクがある。しかし、場合により、ホスフェート結晶の被覆率は低いものの塗料付着性は良好であるが、塗装後の耐食性が不十分である。実際、コートされた部品表面の微小粗さによって、塗料付着性が可能となる。しかし、塗料は部品表面に均一に分布していない。この場合、ホスフェート結晶は、塗料とコーティングとの間の結合剤の役割を果たすことができない。結果として、腐食性環境では、水が塗料の下に容易に浸透し、赤錆領域が生じる。
【0028】
好ましくは、金属コーティングは、Cr、Mn、Ti、Ce、La、Nd、Pr、Ca、Bi、In、SnおよびSbの中から選択される元素またはそれらの組合せを含まない。別の好ましい実施形態では、金属コーティングは、以下の化合物:Cr、Mn、Ti、Ce、La、Nd、Pr、Ca、Bi、In、SnおよびSbのいずれも含まない。実際に、いかなる理論にも拘束されることを意図しないが、これらの化合物がコーティング中に存在すると、電気化学ポテンシャルなどのコーティングの特性が、コーティングの必須元素との該化合物の考えられる相互作用のために変化するリスクがあると思われる。
【0029】
有利には、金属コーティングは1.5から3.5重量%のケイ素、好ましくは1.5から2.5重量%のケイ素を含む。別の好ましい実施形態では、コーティングは2.1から3.5重量%のケイ素を含む。
【0030】
好ましくは、金属コーティングは10.0から15.0重量%の亜鉛を含む。
【0031】
好ましい実施形態では、金属コーティング中のZn/Si比は、5から4から8の間、好ましくは4.5から7.5の間、有利には5から7.5の間である。
【0032】
いずれの理論にも拘束されることを意図しないが、Zn/Si比が3.2から8の間でない場合、コーティング表面におけるAlおよびFeの含有量が高すぎるために、ホスフェート結晶の被覆率が低下するリスクがあることが判明している。
【0033】
有利には、コーティングは1.1から3.0重量%のマグネシウムを含む。
【0034】
有利には、コーティングは76重量%を超えるアルミニウムを含む。
【0035】
コーティングは、当業者に公知の任意の方法、例えば溶融亜鉛めっき法、電気亜鉛めっき法、ジェット蒸着またはスパッタリングマグネトロンなどの物理蒸着法によって堆積させることができる。好ましくは、コーティングは、溶融亜鉛めっき法によって堆積される。この方法では、圧延により得られた鋼板を溶融金属浴に浸漬する。
【0036】
該浴は、亜鉛、ケイ素、アルミニウムおよび場合によりマグネシウムを含む。該浴は、Pb、Ni、ZrまたはHfから選択される追加元素を含むことができ、各追加元素の重量含有量は0.3重量%未満である。これらの追加元素は、とりわけ延性、鋼板上のコーティング付着性を改善することができる。
【0037】
該浴には、インゴットの供給または溶融浴中での鋼板の通過による不可避不純物および残留元素が含まれることもある。残留元素は、最大3.0重量%の含有量を有する鉄であり得る。
【0038】
金属コーティングの厚さは、通常5から50μmの間、好ましくは10から35μmの間、有利には12から18μmの間、または26から31μmの間である。浴温は通常、580から660℃の間である。
【0039】
コーティングの堆積後、鋼板は、通常、コート鋼板の両面にガスを放出するノズルで拭き取られる。次いでコート鋼板を冷却する。好ましくは、冷却速度は、固化の開始から固化の終了までの間で15℃/秒以上である。有利には、固化の開始と終了との間の冷却速度は、20℃/秒以上である。
【0040】
次いで、スキンパスを実現することができ、スキンパスはコート鋼板を加工硬化させ、後続の成形を容易にする粗さを該鋼板に付与する。例えば付着結合または耐食性を改善するために、脱脂および表面処理を適用することができる。
【0041】
次いで、コート鋼板を切断してブランクを得る。非保護雰囲気下の炉内のブランクに、通常840から950℃の間、好ましくは880から930℃のオーステナイト化温度Tmで熱処理を加える。有利には、前記ブランクは、1から12分の間、好ましくは3から9分の間の滞留時間tmの間、維持される。熱間成形前の熱処理の間、コーティングは、高い耐食性、耐摩損性、耐摩耗性および耐疲労性を有する合金層を形成する。
【0042】
熱処理後、ブランクは次いで熱間成形ツールに移され、600から830℃の間の温度で熱間成形される。熱間成形は、ホットスタンピングおよびロールフォーミングを含む。好ましくは、ブランクはホットスタンプされる。部品は次いで、熱間成形ツール内で、または特定の冷却工具に移された後に冷却される。
【0043】
冷却速度は、鋼組成に依存して、熱間成形後の最終微細構造がほとんどマルテンサイトを含み、好ましくはマルテンサイトもしくはマルテンサイトおよびベイナイトを含むか、または少なくとも75%の等軸フェライト、5から20%のマルテンサイトおよび10%以下の量のベイナイトから構成されるように制御される。
【0044】
好ましい実施形態では、部品は、可変厚さを有するプレス硬化鋼部品であり、即ち、本発明のプレス硬化鋼部品は、均一ではないが変化可能である厚さを有することができる。実際に、外部応力に最も供される区域において所望の機械抵抗レベルを達成すること、およびプレス硬化部品の他の区域における重量を低減することが可能であるため、車両の軽量化に寄与する。特に、厚さが不均一な部分は、連続フレキシブル圧延によって、即ち、圧延工程中に鋼板にローラーを介して印加された荷重との関係で、圧延後に得た板厚が圧延方向に可変である工程によって製造することができる。
【0045】
このように、本発明の条件の範囲内では、例えばテーラード圧延ブランクを得るために、各種の厚さを有する車両部品を有利に製造することが可能である。具体的には、該部品は、フロントレール、シートクロス部材、サイドシル部材、ダッシュパネルクロス部材、フロントフロア補強材、リアフロアクロス部材、リアレール、Bピラー、ドアリングまたはショットガンであることができる。
【0046】
本発明によるホスフェート処理可能な硬化部品が得られる。
【0047】
好ましくは、部品の金属コーティングの微細構造は、金属間化合物層Fe
3Al、相互拡散層Fe−Si−Al、コーティング中に分布する少量のケイ素、およびコーティングの表面におけるZnO層を含む。マグネシウムがコーティング中に存在する場合、微細構造はZn
2Mg相および/またはM
g2Si相も含む。有利には、微細構造は金属亜鉛を含まない。
【0048】
自動車用途では、ホスフェート処理ステップの後、部品を脱脂およびホスフェート処理して、電気泳動を確実に付着させる。ホスフェート処理の後、部品の表面上にホスフェート結晶の高い被覆率が得られる。部品の表面上のホスフェート結晶の被覆率は、80%以上、好ましくは90%以上、有利には99%以上である。
【0049】
次に、部品を電着コーティング浴に浸漬する。通常、ホスフェート層の厚さは1から2μmの間であり、電着コーティング層の厚さは15から25μmの間、好ましくは20μm以下である。電気泳動層は、腐食に対する追加保護を確保する。
【0050】
電着コーティングステップの後、他の塗料層、例えば塗料の下塗り塗料、ベースコート層およびトップコート層を堆積させることができる。
【0051】
本発明を、参考のみのために実施した試験で説明する。これらは限定的ではない。
【実施例】
【0052】
すべてのサンプルについて、使用する鋼板は22MnB5である。鋼の組成は以下の通りである:C=0.2252%;Mn=1.1735%;P=0.0126%,S=0.0009%;N=0.0037%;Si=0.2534%;Cu=0.0187%;Ni=0.0197%;Cr=0.180%;Sn=0.004%;Al=0.0371%;Nb=0.008%;Ti=0.0382%;B=0.0028%;Mo=0.0017%;As=0.0023%およびV=0.0284%。
【0053】
すべてのコーティングは、溶融亜鉛めっき法によって堆積させた。
【0054】
[実施例1]
<ホスフェート処理検査>
ホスフェート処理検査は、部品表面の被覆率を評価することによって、硬化部品上のホスフェート結晶の付着性を求めるために使用する。
【0055】
試験品1から10を調製し、ホスフェート処理検査に供した。
【0056】
この目的のために、コート試験品を切断してブランクを得た。次いでブランクを900℃の温度で5から10分間の間で変化する滞留時間にわたって加熱した。ブランクをプレスツールに移し、ホットスタンプして部品を得た。最後に、部品を冷却してマルテンサイト変態による硬化を得た。
【0057】
次いで脱脂を行った。続いて、Gardobond
(R)24 TA、Gardobond
(R)Add H7141、Gardobond
(R)H7102、Gardobond
(R)Add H7257、Gardobond
(R)Add H7101、Gardobond
(R)Add H7155の溶液を含む浴に50℃にて3分間浸漬することによって、ホスフェート処理ステップを行った。次いで、部品を水を用いて拭き取り、熱風で乾燥させた。部品表面をSEMで観察した。結果を以下の表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
上記の結果は、試験品7から10が硬化部品でホスフェート結晶の高い被覆率を有することを示している。
【0060】
[実施例2]
<塗料付着性検査>
この検査は、硬化部品の塗料付着性を求めるために使用される。
【0061】
実施例1で調製した試験品1から5および7から10に、20μmの電着コーティング層を堆積させる。この目的のために、すべての試験品をPPG Industriesの顔料ペースト(Pigment paste)
(R)W9712−N6および樹脂ブレンド(Resin blend)
(R)W7911−N6を含む水溶液を含む浴に30℃にて180秒間浸漬した。200Vの電流を印加した。次いでパネルを拭き取り、180℃のオーブン内で35分間硬化させた。
【0062】
次いで50℃の温度で10日間、脱塩水を含む密閉箱に塗装部品を浸漬する。浸漬後、カッターを用いてグリッドを作製する。塗料をスコッチによって剥ぎ取る。
【0063】
除去された塗料を肉眼で評価する。0は優れていることを意味し、即ち、塗料の除去がほとんどまたは全くなく、5は非常に悪いことを意味し、即ち、塗料の除去が多い。結果を以下の表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
本発明による試験品15から18は、試験品10および14と同様に良好な塗料付着性を示す。
【0066】
[実施例3]
<剥離検査>
この検査は、硬化部品の塗装後の腐食を判定するために使用される。
【0067】
実施例1で調製した試験品1から5、8および10に、20μmの電着コーティング層を堆積させる。この目的のために、すべての試験品をPPG Industriesの顔料ペースト(Pigment paste)
(R)W9712−N6および樹脂ブレンド(Resin blend)
(R)W7911−N6を含む水溶液を含む浴に30℃にて180秒間浸漬した。200Vの電流を印加した。次いでパネルを拭き取り、180℃のオーブン内で35分間硬化させた。
【0068】
次いで、電着コーティング層にカッターでひっかき傷をつけた。
【0069】
最後に、VDA 233−102規格に従う腐食サイクルにパネルを供することからなる検査を行った。試験品をチャンバに入れ、チャンバ内で1重量%の塩化ナトリウム水溶液を3mL/時の流速で試験品上に気化させた。温度を50から−15℃まで変化させ、湿度を50から100%まで変化させた。
図1は、168時間、即ち1週間に相当する1サイクルを示す。
【0070】
剥離の存在を肉眼で観察した。0は優れていることを意味し、即ち、剥離がなく、5は非常に悪いことを意味し、即ち、剥離が多い。結果を以下の表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
本発明による試験品(試験品23および24)は、試験品18から22とは対照的に、2および5週間の腐食サイクル後にわずかに剥離を生じる。