特許第6629102号(P6629102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6629102
(24)【登録日】2019年12月13日
(45)【発行日】2020年1月15日
(54)【発明の名称】入力装置とその制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20200106BHJP
   G06F 3/044 20060101ALI20200106BHJP
【FI】
   G06F3/041 520
   G06F3/044 120
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-38693(P2016-38693)
(22)【出願日】2016年3月1日
(65)【公開番号】特開2017-156919(P2017-156919A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2018年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 智
(72)【発明者】
【氏名】早坂 哲
【審査官】 木内 康裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−119931(JP,A)
【文献】 特開2012−150747(JP,A)
【文献】 特開2013−097510(JP,A)
【文献】 特開2015−011558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041
G06F 3/044
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の近接に応じた情報を入力する入力装置であって、
複数の検出位置において物体の近接度合いをそれぞれ検出し、当該検出の結果として、物体の近接度合いに応じた値を持ち、温度の変化に伴って共通の方向に変化する検出値を、前記複数の検出位置についてそれぞれ生成するセンサ部と、
2以上の前記検出位置について生成される2以上の前記検出値の時間的な変化量をそれぞれ算出する変化量算出処理を繰り返し行う変化量算出部と、
1回の前記変化量算出処理によって前記変化量が算出された2以上の前記検出位置のうち、しきい値を超える前記変化量が算出された前記検出位置の数を計数し、当該計数値に基づいて、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じているか否かを判定する第1温度変化判定部と
前記第1温度変化判定部の判定結果に基づいて、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じていない第1状態にあるか、又は、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じている第2状態にあるかを判定する第2温度変化判定部と、
前記検出位置ごとに設定されたベース値に対する前記検出値の差分を、前記複数の検出位置についてそれぞれ算出する差分算出部と、
前記差分算出部において算出された各検出位置の前記検出値の差分に基づいて、前記複数の検出位置の少なくとも一部に物体が近接しているか否かを判定する近接判定部と、
前記近接判定部において物体が近接していると判定され、かつ、前記第2温度変化判定部において前記第2状態にあると判定された場合における前記検出値の時間的な変化量に基づいて、前記近接判定部において物体が近接していると判定される近接判定期間の開始後に生じた前記検出値の温度による変化に関わる温度補正値を繰り返し取得する温度補正値取得処理を、前記複数の検出位置についてそれぞれ行う温度補正値取得部と、
前記近接判定期間における前記ベース値を、当該近接判定期間が始まる直前の前記ベース値と、前記温度補正値取得部において繰り返し取得される前記温度補正値とに基づいて更新する第1ベース値更新処理を、前記複数の検出位置についてそれぞれ行う第1ベース値更新部と
を有する入力装置。
【請求項2】
前記第1温度変化判定部は、第1しきい値を超える正方向への前記変化量が算出された前記検出位置の数、及び、第2しきい値を超える負方向への前記変化量が算出された前記検出位置の数の少なくとも一方を計数し、当該計数値に基づいて、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じているか否かを判定する、
請求項1に記載の入力装置。
【請求項3】
前記第2温度変化判定部は、前記第1状態にあると判定しているとき、前記第1温度変化判定部において温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じているとの判定結果が所定回数以上連続して得られた場合、前記第1状態から前記第2状態へ移行したと判定し、前記第2状態にあると判定しているとき、前記第1温度変化判定部において温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じていないとの判定結果が所定回数以上連続して得られた場合、前記第2状態から前記第1状態へ移行したと判定する、
請求項1又は2に記載の入力装置。
【請求項4】
前記温度補正値取得部は、前記温度補正値取得処理において、前記近接判定期間に算出した前記検出値の時間的な変化量であって、前記第2温度変化判定部において前記第2状態にあると判定された場合に算出した当該変化量を積算し、当該積算の度に得られる積算値に応じた前記温度補正値を取得する、
請求項1乃至3の何れか一項に記載の入力装置。
【請求項5】
前記近接判定部において物体が近接していないと判定される非近接判定期間において、前記検出値の時間平均に応じて前記ベース値を更新する第2ベース値更新処理を、前記複数の検出位置についてそれぞれ行う第2ベース値更新部を有する、
請求項4に記載の入力装置。
【請求項6】
前記第1ベース値更新部は、前記第1ベース値更新処理において、前記第2ベース値更新部による直近の更新で得られた前記ベース値と前記温度補正値との和を更新後のベース値として取得する、
請求項5に記載の入力装置。
【請求項7】
前記第2ベース値更新部は、前記第2ベース値更新処理において、前記第1ベース値更新部による直近の更新で得られた前記ベース値を初期値にして算出した前記検出値の加重平均を更新後のベース値として取得する、
請求項5又は6に記載の入力装置。
【請求項8】
物体の近接に応じた情報を入力する入力装置であって、
複数の検出位置において物体の近接度合いをそれぞれ検出し、当該検出の結果として、物体の近接度合いに応じた値を持ち、温度の変化に伴って共通の方向に変化する検出値を、前記複数の検出位置についてそれぞれ生成するセンサ部と、
2以上の前記検出位置について生成される2以上の前記検出値の時間的な変化量をそれぞれ算出する変化量算出処理を繰り返し行う変化量算出部と、
1回の前記変化量算出処理によって前記変化量が算出された2以上の前記検出位置のうち、しきい値を超える前記変化量が算出された前記検出位置の数を計数し、当該計数値に基づいて、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じているか否かを判定する第1温度変化判定部とを有し、
前記第1温度変化判定部は、第1しきい値を超える正方向への前記変化量が算出された前記検出位置の数、及び、第2しきい値を超える負方向への前記変化量が算出された前記検出位置の数をそれぞれ計数し、当該計数値に基づいて、温度上昇による前記検出値の変化が生じているか否か、及び、温度低下による前記検出値の変化が生じているか否かを判定する、
入力装置。
【請求項9】
物体の近接に応じた情報を入力する入力装置をコンピュータが制御する方法であって、
複数の検出位置において物体の近接度合いをそれぞれ検出したセンサ部から、当該検出の結果として、物体の近接度合いに応じた値を持ち、温度の変化に伴って共通の方向に変化する検出値を、前記複数の検出位置についてそれぞれ取得することと、
2以上の前記検出位置について生成される2以上の前記検出値の時間的な変化量をそれぞれ算出する変化量算出処理を繰り返し行うことと、
1回の前記変化量算出処理によって前記変化量が算出された2以上の前記検出位置のうち、しきい値を超える前記変化量が算出された前記検出位置の数を計数し、当該計数値に基づいて、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じているか否かを判定する第1判定を行うことと
前記第1判定の判定結果に基づいて、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じていない第1状態にあるか、又は、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じている第2状態にあるかを判定する第2判定を行うことと、
前記検出位置ごとに設定されたベース値に対する前記検出値の差分を、前記複数の検出位置についてそれぞれ算出することと、
前記算出された各検出位置の前記検出値の差分に基づいて、前記複数の検出位置の少なくとも一部に物体が近接しているか否かを判定する近接判定を行うことと、
前記近接判定において物体が近接していると判定され、かつ、前記第2判定において前記第2状態にあると判定された場合における前記検出値の時間的な変化量に基づいて、前記近接判定において物体が近接していると判定される近接判定期間の開始後に生じた前記検出値の温度による変化に関わる温度補正値を繰り返し取得する温度補正値取得処理を、前記複数の検出位置についてそれぞれ行うことと、
前記近接判定期間における前記ベース値を、当該近接判定期間が始まる直前の前記ベース値と、前記繰り返し取得される前記温度補正値とに基づいて更新する第1ベース値更新処理を、前記複数の検出位置についてそれぞれ行うことと
を有する入力装置の制御方法。
【請求項10】
前記第1判定において、第1しきい値を超える正方向への前記変化量が算出された前記検出位置の数、及び、第2しきい値を超える負方向への前記変化量が算出された前記検出位置の数の少なくとも一方を計数し、当該計数値に基づいて、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じているか否かを判定する、
請求項9に記載の入力装置の制御方法。
【請求項11】
記第2判定において、前記第1状態にあると判定しているとき、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じているとの前記第1判定の判定結果が所定回数以上連続して得られた場合、前記第1状態から前記第2状態へ移行したと判定し、前記第2状態にあると判定しているとき、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じていないとの前記第1判定の判定結果が所定回数以上連続して得られた場合、前記第2状態から前記第1状態へ移行したと判定する、
請求項9又は10に記載の入力装置の制御方法。
【請求項12】
請求項9乃至1の何れか一項に記載された入力装置の制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量の変化などを利用して物体の近接に応じた情報を入力する入力装置とその制御方法及びプログラムに係り、特に、コンピュータ等の各種の情報機器において指やペンなどの操作に応じた情報を入力する入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
静電容量の変化を検出するセンサは、簡易な構成で物体(指やペンなど)の近接を検出できることから、ノート型コンピュータのタッチパッドや、スマートフォンのタッチパネルなど、各種の電子機器のユーザーインターフェース装置に広く用いられている。
【0003】
一般にこの種のセンサでは、物体が近接していない状態における静電容量の検出値に相当するベース値からの差分値(検出値−ベース値)をもとに、物体の近接の有無が検出される。物体の近接に伴う静電容量の変化は非常に微小なため、センサの検出値は電子回路等の温度特性の影響を受け易い。検出値が温度に応じて変化すると、ベース値からの差分値も変化し、物体の近接の有無が誤って検出される可能性がある。そこで通常は、ベース値に固定の値は使用されず、適当なタイミングでベース値を更新する処理が行われる。下記の特許文献1では、検知対象物が検知電極に触れていない状態でベース値の更新が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−257046
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、温度によるセンサの検出値の変化は、物体の近接の有無を検出する機能などに大きな影響を与える。従って、温度による検出値の変化が生じていることを正しく判定できれば、それに伴う種々の影響を緩和するための対策を立て易くなる。例えば、温度による検出値の変化が生じている場合とそうでない場合とで、それぞれに適したベース値の更新方法を選択することが可能になり、温度による差分値(検出値−ベース値)の変化を抑制し易くなる。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、センサによる物体の近接度合いの検出値が温度によって変化していることを正しく判定できる入力装置とその制御方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点に係る入力装置は、物体の近接に応じた情報を入力する入力装置であって、複数の検出位置において物体の近接度合いをそれぞれ検出し、当該検出の結果として、物体の近接度合いに応じた値を持ち、温度の変化に伴って共通の方向に変化する検出値を、前記複数の検出位置についてそれぞれ生成するセンサ部と、2以上の前記検出位置について生成される2以上の前記検出値の時間的な変化量をそれぞれ算出する変化量算出処理を繰り返し行う変化量算出部と、1回の前記変化量算出処理によって前記変化量が算出された2以上の前記検出位置のうち、しきい値を超える前記変化量が算出された前記検出位置の数を計数し、当該計数値に基づいて、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じているか否かを判定する第1温度変化判定部と、前記第1温度変化判定部の判定結果に基づいて、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じていない第1状態にあるか、又は、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じている第2状態にあるかを判定する第2温度変化判定部と、前記検出位置ごとに設定されたベース値に対する前記検出値の差分を、前記複数の検出位置についてそれぞれ算出する差分算出部と、前記差分算出部において算出された各検出位置の前記検出値の差分に基づいて、前記複数の検出位置の少なくとも一部に物体が近接しているか否かを判定する近接判定部と、前記近接判定部において物体が近接していると判定され、かつ、前記第2温度変化判定部において前記第2状態にあると判定された場合における前記検出値の時間的な変化量に基づいて、前記近接判定部において物体が近接していると判定される近接判定期間の開始後に生じた前記検出値の温度による変化に関わる温度補正値を繰り返し取得する温度補正値取得処理を、前記複数の検出位置についてそれぞれ行う温度補正値取得部と、前記近接判定期間における前記ベース値を、当該近接判定期間が始まる直前の前記ベース値と、前記温度補正値取得部において繰り返し取得される前記温度補正値とに基づいて更新する第1ベース値更新処理を、前記複数の検出位置についてそれぞれ行う第1ベース値更新部とを有する。
【0008】
上記の構成によれば、前記2以上の検出位置について生成される2以上の検出値が温度の変化に伴って共通の方向に変化した場合、前記2以上の検出値の時間的な変化量は、それぞれ共通の方向に増大する傾向を持つ。すなわち、前記2以上の検出値の時間的な変化量が共通の方向に増大する傾向がある場合、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じている可能性が高くなる。従って、1回の前記変化量算出処理によって前記変化量が算出された前記2以上の検出位置のうち、前記しきい値を超える前記変化量が算出された検出位置の数の計数値が大きい場合、温度の変化による前記検出値の変化が生じている可能性が高い。逆に、この計数値が小さい場合、前記2以上の検出位置について生成される2以上の検出値に生じる変化が不揃いであるか、又は、前記2以上の検出値の変化が何れも微小であるため、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じている可能性が低い。従って、前記計数値に基づいて、温度の変化に伴う前記検出値の変化の有無を正確に判定することが可能となる。
【0009】
また、上記の構成によれば、前記第1ベース値更新処理によって、前記近接判定期間における前記ベース値が、当該近接判定期間が始まる直前の前記ベース値と、前記温度補正値とに基づいて更新される。前記温度補正値は、前記近接判定期間の開始後に生じた前記検出値の温度による変化に関わるものであり、前記近接判定期間内であって、かつ、前記第2温度変化判定部において温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じている状態(第2状態)にあると判定された場合における前記検出値の時間的な変化量に基づいて取得される。これにより、前記近接判定期間内であっても、前記第2温度変化判定部において温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じていない状態(第1状態)にあると判定されている場合における前記変化量は、前記温度補正値に反映され難くなる。そのため、前記近接判定期間において温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じた場合、その変化に合わせて、前記ベース値を適切に更新することが可能となる。
【0010】
好適に、前記第1温度変化判定部は、第1しきい値を超える正方向への前記変化量が算出された前記検出位置の数、及び、第2しきい値を超える負方向への前記変化量が算出された前記検出位置の数の少なくとも一方を計数し、当該計数値に基づいて、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じているか否かを判定する。
【0011】
上記の構成によれば、正方向への前記変化量と負方向への前記変化量は、互いに異なる方向への温度の変化(温度の上昇又は低下)に対応する。そのため、温度上昇及び温度低下の少なくとも一方に伴う前記検出値の変化の有無を判定することが可能となる。
【0012】
好適に、前記第2温度変化判定部は、前記第1状態にあると判定しているとき、前記第1温度変化判定部において温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じているとの判定結果が所定回数以上連続して得られた場合、前記第1状態から前記第2状態へ移行したと判定し、前記第2状態にあると判定しているとき、前記第1温度変化判定部において温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じていないとの判定結果が所定回数以上連続して得られた場合、前記第2状態から前記第1状態へ移行したと判定する。
【0013】
上記の構成によれば、前記第1温度変化判定部において一連の判定結果とは異なる判定結果が単発的に得られても、前記第2温度変化判定部において当該単発的に得られた判定結果が示す状態にあるとは判定されない。すなわち、物体の近接などの影響によって、時間的な連続性がなく、単発的に生じた前記第1温度変化判定部の判定結果は、前記第2温度変化判定部の判定に影響を与え難くなる。
【0014】
好適に、前記温度補正値取得部は、前記温度補正値取得処理において、前記近接判定期間に算出した前記検出値の時間的な変化量であって、前記第2温度変化判定部において前記第2状態にあると判定された場合に算出した当該変化量を積算し、当該積算の度に得られる積算値に応じた前記温度補正値を取得する。
【0015】
上記の構成によれば、前記近接判定期間の中で、前記第2温度変化判定部において前記第2状態にあると判定された場合に得られた前記検出値の時間的な変化量が積算され、その積算値に応じた前記温度補正値が取得される。前記積算値は、前記近接判定期間の開始後に生じた前記検出値の温度による変化分に近い値となるため、前記温度補正値は、当該変化分に応じた適切な値となる。
【0016】
好適に、上記入力装置は、前記近接判定部において物体が近接していないと判定される非近接判定期間において、前記検出値の時間平均に応じて前記ベース値を更新する第2ベース値更新処理を、前記複数の検出位置についてそれぞれ行う第2ベース値更新部を有する。
【0017】
上記の構成によれば、前記非近接判定期間においては、物体の近接に伴う前記検出値の変化が生じないため、前記検出値の時間平均に応じて前記ベース値を更新することが可能となる。
【0018】
好適に、前記第1ベース値更新部は、前記第1ベース値更新処理において、前記第2ベース値更新部による直近の更新で得られた前記ベース値と前記温度補正値との和を更新後のベース値として取得する。
【0019】
上記の構成によれば、前記ベース値の更新方法を、前記第2ベース値更新処理から前記第1ベース値更新処理へ円滑に切り換えることが可能となる。
【0020】
好適に、前記第2ベース値更新部は、前記第2ベース値更新処理において、前記第1ベース値更新部による直近の更新で得られた前記ベース値を初期値にして算出した前記検出値の加重平均を更新後のベース値として取得する。
【0021】
上記の構成によれば、前記ベース値の更新方法を、前記第1ベース値更新処理から前記第2ベース値更新処理へ円滑に切り換えることが可能となる。
【0022】
本発明の第2の観点に係る入力装置は、物体の近接に応じた情報を入力する入力装置であって、複数の検出位置において物体の近接度合いをそれぞれ検出し、当該検出の結果として、物体の近接度合いに応じた値を持ち、温度の変化に伴って共通の方向に変化する検出値を、前記複数の検出位置についてそれぞれ生成するセンサ部と、2以上の前記検出位置について生成される2以上の前記検出値の時間的な変化量をそれぞれ算出する変化量算出処理を繰り返し行う変化量算出部と、1回の前記変化量算出処理によって前記変化量が算出された2以上の前記検出位置のうち、しきい値を超える前記変化量が算出された前記検出位置の数を計数し、当該計数値に基づいて、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じているか否かを判定する第1温度変化判定部とを有し、前記第1温度変化判定部は、第1しきい値を超える正方向への前記変化量が算出された前記検出位置の数、及び、第2しきい値を超える負方向への前記変化量が算出された前記検出位置の数をそれぞれ計数し、当該計数値に基づいて、温度上昇による前記検出値の変化が生じているか否か、及び、温度低下による前記検出値の変化が生じているか否かを判定する。
【0023】
本発明の第の観点は、物体の近接に応じた情報を入力する入力装置をコンピュータが制御する方法であって、複数の検出位置において物体の近接度合いをそれぞれ検出したセンサ部から、当該検出の結果として、物体の近接度合いに応じた値を持ち、温度の変化に伴って共通の方向に変化する検出値を、前記複数の検出位置についてそれぞれ取得することと、2以上の前記検出位置について生成される2以上の前記検出値の時間的な変化量をそれぞれ算出する変化量算出処理を繰り返し行うことと、1回の前記変化量算出処理によって前記変化量が算出された2以上の前記検出位置のうち、しきい値を超える前記変化量が算出された前記検出位置の数を計数し、当該計数値に基づいて、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じているか否かを判定する第1判定を行うことと、前記第1判定の判定結果に基づいて、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じていない第1状態にあるか、又は、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じている第2状態にあるかを判定する第2判定を行うことと、前記検出位置ごとに設定されたベース値に対する前記検出値の差分を、前記複数の検出位置についてそれぞれ算出することと、前記算出された各検出位置の前記検出値の差分に基づいて、前記複数の検出位置の少なくとも一部に物体が近接しているか否かを判定する近接判定を行うことと、前記近接判定において物体が近接していると判定され、かつ、前記第2判定において前記第2状態にあると判定された場合における前記検出値の時間的な変化量に基づいて、前記近接判定において物体が近接していると判定される近接判定期間の開始後に生じた前記検出値の温度による変化に関わる温度補正値を繰り返し取得する温度補正値取得処理を、前記複数の検出位置についてそれぞれ行うことと、前記近接判定期間における前記ベース値を、当該近接判定期間が始まる直前の前記ベース値と、前記繰り返し取得される前記温度補正値とに基づいて更新する第1ベース値更新処理を、前記複数の検出位置についてそれぞれ行うこととを有する。
【0024】
好適に、上記入力装置の制御方法は、前記第1判定において、第1しきい値を超える正方向への前記変化量が算出された前記検出位置の数、及び、第2しきい値を超える負方向への前記変化量が算出された前記検出位置の数の少なくとも一方を計数し、当該計数値に基づいて、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じているか否かを判定する。
【0025】
好適に、上記入力装置の制御方法は、前記第2判定においては、前記第1状態にあると判定しているとき、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じているとの前記第1判定の判定結果が所定回数以上連続して得られた場合、前記第1状態から前記第2状態へ移行したと判定し、前記第2状態にあると判定しているとき、温度の変化に伴う前記検出値の変化が生じていないとの前記第1判定の判定結果が所定回数以上連続して得られた場合、前記第2状態から前記第1状態へ移行したと判定する。
【0026】
本発明の第の観点は、本発明の第の観点に係る上記入力装置の制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムに関する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、センサによる物体の近接度合いの検出値が温度によって変化していることを正しく判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態に係る入力装置の構成の一例を示す図である。
図2】第1温度変化判定部における判定方法の例を説明するための図であり、5つの検出位置における検出値の時間的な変化量の例を示す。図2Aは、温度による検出値の変化があると判定される場合を示し、図2Bは、温度による検出値の変化がないと判定される場合を示す。
図3】第1温度変化判定部における判定方法の他の例を説明するための図である。図3A及び図3Bは、温度による検出値の変化があると判定される場合を示し、図3Bは、温度による検出値の変化がないと判定される場合を示す。
図4】温度による検出値の変化の判定とベース値の更新に関わる処理を説明するためのフローチャートである。
図5】温度補正値の取得に関わる処理を説明するための第1のフローチャートである。
図6】温度補正値の取得に関わる処理を説明するための第2のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の実施形態に係る入力装置の構成の一例を示す図である。
図1に示す入力装置は、センサ部10と、処理部20と、記憶部30と、インターフェース部40を有する。本実施形態に係る入力装置は、センサに指やペンなどの物体を近接させることによって、その近接に応じた情報を入力する装置である。なお、本明細書における「近接」とは、近くにあることを意味しており、対象に接触しているか否かを限定しない。すなわち、対象に接触しない状態で近くにあることだけでなく、対象に接触した状態で近くにあることも「近接」に含まれる。
【0030】
[センサ部10]
センサ部10は、複数の検出位置において、指やペンなどの物体の近接度合いをそれぞれ検出し、その検出結果として、物体の近接度合いに応じた値を持つ検出値を検出位置ごとに生成する。以下では一例として、センサ部10の検出位置の数を「n」とし、n個の検出位置に1からnまでのn個の整数を一対一に割り当てる。「i」(iは1からnまでの任意の整数を示す。)が割り当てられた検出位置における検出値を「検出値ADi」と記す。
【0031】
センサ部10が複数の検出位置において生成する複数の検出値(AD1〜ADn)は、温度の変化に伴って共通の方向に変化する。すなわち、温度が一方向(上昇方向又は低下方向)に変化した場合、全ての検出値(AD1〜ADn)が正方向に変化するか、又は、全ての検出値(AD1〜ADn)が負方向に変化する。
【0032】
図1の例において、センサ部10は、物体の近接に応じて静電容量が変化するセンサ素子(キャパシタ)12がマトリクス状に形成されたセンサマトリクス11と、センサ素子12の静電容量に応じた検出値を生成する検出値生成部13と、センサ素子12に駆動電圧を印加する駆動部14を有する。
【0033】
センサマトリクス11は、縦方向に延在した複数の駆動電極Lxと、横方向に延在した複数の検出電極Lyを備える。複数の駆動電極Lxは横方向へ平行に並び、複数の検出電極Lyは縦方向へ平行に並ぶ。複数の駆動電極Lxと複数の検出電極Lyが格子状に交差しており、互いに絶縁されている。駆動電極Lxと検出電極Lyの交差部付近にセンサ素子12が形成される。なお、図1の例では電極(Lx,Ly)の形状が短冊状に描かれているが、他の任意の形状(ダイヤモンドパターンなど)でもよい。
【0034】
駆動部14は、センサマトリクス11の各センサ素子12に駆動電圧を印加する。具体的には、駆動部14は、処理部20の制御に従って、複数の駆動電極Lxから順番に1つの駆動電極Lxを選択し、当該選択した1つの駆動電極Lxの電位を周期的に変化させる。駆動電極Lxの電位が所定の範囲で変化することにより、この駆動電極Lxと検出電極Lyとの交差点付近に形成されたセンサ素子12に印加される駆動電圧が所定の範囲で変化し、センサ素子12において充電や放電が生じる。
【0035】
検出値生成部13は、駆動部14による駆動電圧の印加に伴ってセンサ素子12が充電又は放電される際に各検出電極Lyにおいて伝送される電荷に応じた検出値を生成する。すなわち、検出値生成部13は、駆動部14の駆動電圧の周期的な変化と同期したタイミングで、各検出電極Lyにおいて伝送される電荷をサンプリングし、そのサンプリングの結果に応じた検出値を生成する。
【0036】
例えば、検出値生成部13は、センサ素子12の静電容量に応じた電圧を出力する静電容量−電圧変換回路(CV変換回路)と、CV変換回路の出力信号をデジタル信号に変換し、検出値として出力するアナログ−デジタル変換回路(AD変換回路)を有する。
CV変換回路は、駆動部14の駆動電圧が周期的に変化してセンサ素子12が充電又は放電される度に、処理部20の制御に従って、検出電極Lyにおいて伝送される電荷をサンプリングする。具体的には、CV変換回路は、検出電極Lyにおいて正又は負の電荷が伝送される度に、この電荷若しくはこれに比例した電荷を参照用のキャパシタに移送し、参照用のキャパシタに発生する電圧に応じた信号を出力する。例えば、CV変換回路は、検出電極Lyにおいて周期的に伝送される電荷若しくはこれに比例した電荷の積算値や平均値に応じた信号を出力する。AD変換回路は、処理部20の制御に従って、CV変換回路の出力信号を所定の周期でデジタル信号に変換し、検出値として出力する。
【0037】
なお、上述の例において示したセンサ部10は、電極間(Lx,Ly)に生じる静電容量(相互容量)の変化によって物体の近接を検出するものであるが、この例に限らず、他の種々の方式によって物体の近接を検出してもよい。例えば、センサ部10は、物体の接近によって電極とグランドの間に生じる静電容量(自己容量)を検出する方式でもよい。自己容量を検出する方式の場合、検出電極に駆動電圧が印加される。また、センサ部10は、静電容量方式に限定されるものではなく、例えば抵抗膜方式や電磁誘導式などでもよい。
【0038】
[処理部20]
処理部20は、入力装置の全体的な動作を制御する回路であり、記憶部30に格納されるプログラム35の命令コードに従って処理を行うコンピュータを含む。なお、処理部20における処理は、その全てをコンピュータとプログラムにより実現してもよいし、その一部若しくは全部を専用のロジック回路で実現してもよい。
【0039】
図1の例において、処理部20は、センサ制御部21と、変化量算出部22と、第1温度変化判定部23と、第2温度変化判定部24と、温度補正値取得部25と、第1ベース値更新部26と、第2ベース値更新部27と、差分算出部28と、近接判定部29と、座標算出部210とを有する。
【0040】
センサ制御部21は、n個の検出位置(センサマトリクス11のn個のセンサ素子12による検出位置)における物体の近接度合いを検出してその検出値AD1〜ADnを1サイクルごとに生成する周期的な検出動作を行うようにセンサ部10を制御する。具体的には、センサ制御部21は、駆動部14における駆動電極の選択とパルス電圧の発生、並びに、検出値生成部13における検出電極の選択と検出値の生成が周期的に適切なタイミングで行われるように、これらの回路を制御する。
【0041】
変化量算出部22は、センサ部10における2以上の検出位置について生成される2以上の検出値ADiの時間的な変化量(dADi/dt)をそれぞれ算出する変化量算出処理を繰り返し行う。例えば、変化量算出部22は、1つの検出位置について所定の時間をあけて生成された2つの検出値ADiの差を、当該1つの検出位置における検出値ADiの変化量(dADi/dt)として算出する。変化量算出部22は、1回の変化量算出処理において、所定の2以上の検出位置における変化量(dADi/dt)をそれぞれ算出する。
【0042】
変化量(dADi/dt)の算出を行う2以上の検出位置は、互いに離れていることが望ましい。これにより、指などの物体の近接による変化の成分が、2以上の検出位置の変化量(dADi/dt)へ同時に含まれ難くなるため、後述する第1温度変化判定部23における判定が物体の近接による影響を受け難くなる。
【0043】
第1温度変化判定部23は、変化量算出部22による1回の変化量算出処理によって変化量(dADi/dt)が算出された2以上の検出位置のうち、しきい値を超える変化量(dADi/dt)が算出された検出位置の数を計数し、その計数値に基づいて、温度の変化に伴う検出値ADiの変化が生じているか否かを判定する。以下では、説明の簡略化のため、温度の変化に伴う検出値ADiの変化が生じていることを「変化あり」と記し、温度の変化に伴う検出値ADiの変化が生じていないことを「変化なし」と記す場合がある。
【0044】
図2は、第1温度変化判定部23における判定方法の例を説明するための図である。図2の例において、第1温度変化判定部23は、5つの検出位置における検出値ADiの時間的な変化量(dADi/dt)を算出する。図2A図2Bの横軸は、検出値ADiの時間的な変化量(dADi/dt)を示しており、右に向かうほど変化量(dADi/dt)が正方向に大きくなることを示す。この横軸に沿って並べられた矩形の図形は、それぞれ1つの検出位置の変化量(dADi/dt)を表す。
【0045】
第1温度変化判定部23は、例えば、5つの検出位置における半数以上(すなわち3以上)の検出位置において正方向の変化量(dADi/dt)がしきい値TH1を超える場合、「変化あり」と判定する。図2Aの場合、4つの検出位置において正方向の変化量(dADi/dt)がしきい値TH1を超えるため、第1温度変化判定部23は「変化あり」と判定する。他方、図2Bの場合、2つの検出位置においてのみ変化量(dADi/dt)がしきい値TH1を超えるため、第1温度変化判定部23は「変化なし」と判定する。
【0046】
図3は、第1温度変化判定部23における判定方法の他の例を説明するための図である。
図2の例において、第1温度変化判定部23は、しきい値TH1を超える正方向の変化量(dADi/dt)が算出された検出位置の数に応じて、温度による検出値ADiの変化の有無を判定する。この場合、第1温度変化判定部23は、一方向(上昇方向又は下降方向)の温度変化による検出値ADiの変化のみを判定可能である。これに対し、図3の例において、第1温度変化判定部23は、図2と同様な判定に加えて、しきい値TH2を超える負方向の変化量(dADi/dt)が算出された検出位置の数に応じて、温度による検出値ADiの変化の有無を更に判定する。すなわち、5つの検出位置における半数以上(すなわち3以上)の検出位置において負方向の変化量(dADi/dt)がしきい値TH2を超える場合も、「変化あり」と判定する。
【0047】
例えば、温度の低下によって正方向の変化量(dADi/dt)が増大するものとする。図3Aの場合、4つの検出位置において正方向の変化量(dADi/dt)がしきい値TH1を超えるため、第1温度変化判定部23は、温度低下による検出値ADiの変化が生じていると判定する。また、図3Bの場合、3つの検出位置において負方向の変化量(dADi/dt)がしきい値TH2を超えるため、第1温度変化判定部23は、温度上昇による検出値ADiの変化が生じていると判定する。他方、図3Cの場合、4つの検出位置において算出された変化量(dADi/dt)がしきい値TH2からしきい値TH1までの範囲に含まれるため、第1温度変化判定部23は「変化なし」と判定する。
【0048】
図1に戻る。
第2温度変化判定部24は、第1温度変化判定部23の判定結果に基づいて、温度の変化に伴う検出値ADiの変化が生じていない状態(以下、「第1状態」と記す場合がある。)にあるか、又は、温度の変化に伴う検出値ADiの変化が生じている状態(以下、「第2状態」と記す場合がある。)にあるかを判定する。
【0049】
具体的には、第2温度変化判定部24は、第1状態(「変化なし」の状態)にあると判定しているとき、第1温度変化判定部23において「変化あり」の判定結果が所定回数以上連続して得られた場合、第1状態から第2状態へ移行したと判定する。また、第2温度変化判定部24は、第2状態(「変化あり」の状態)にあると判定しているとき、第1温度変化判定部23において「変化なし」の判定結果が所定回数以上連続して得られた場合、第2状態から第1状態へ移行したと判定する。
【0050】
すなわち、第2温度変化判定部24は、第1温度変化判定部23の同一の判定結果が所定回数以上連続して得られた場合、この連続して得られた第1温度変化判定部23の判定結果が示す状態にあると判定する。このように、第1温度変化判定部23における同一の判定結果の連続回数に応じて第1状態(「変化なし」の状態)にあるか、又は、第2状態(「変化あり」の状態)にあるかを判定することにより、指などの物体が一時的に近接することによる検出値ADiの一時的な変化を温度による変化と誤って判定し難くなる。
【0051】
なお、第1状態から第2状態へ移行したと判定する条件である第1温度変化判定部23の「変化あり」の連続判定回数と、第2状態から第1状態へ移行したと判定する条件である第1温度変化判定部23の「変化なし」の連続判定回数は、同一でもよいし異なっていてもよい。
【0052】
差分算出部28は、検出位置ごとに設定されたベース値BSiに対する検出値ADiの差分ΔADi(=ADi−BSi)を、n個の検出位置についてそれぞれ算出する。差分算出部28は、1サイクルの検出動作によってn個の検出位置の検出値AD1〜ADnが生成される度に、n個の検出位置の差分ΔAD1〜ΔADnを算出し、記憶部30に格納する。
【0053】
近接判定部29は、差分算出部28において算出された各検出位置の検出値ADiの差分ΔADiに基づいて、センサ部10が有するn個の検出位置の少なくとも一部に物体が近接しているか否かを判定する。例えば、近接判定部29は、一定以上の広さを持つ領域内の各検出位置において所定のしきい値を超える差分ΔADiが算出された場合、指などの物体が近接していると判定する。以下、近接判定部29において物体が近接していると判定される期間を「近接判定期間」、物体が近接していないと判定される期間を「非近接判定期間」とそれぞれ記す場合がある。
【0054】
温度補正値取得部25は、温度補正値DTiを繰り返し取得する温度補正値取得処理を、センサ部10におけるn個の検出位置についてそれぞれ行う。すなわち、温度補正値取得部25は、検出位置ごとに温度補正値DTiを繰り返し取得する。温度補正値DTiは、近接判定期間の開始後に生じた検出値ADiの温度による変化に関するものであり、後述の第1ベース値更新部26においてベース値BSiを補正するために使用される。
【0055】
温度補正値取得部25は、近接判定部29において物体が近接していると判定され、かつ、第2温度変化判定部24において第2状態(「変化あり」の状態)にあると判定された場合における検出値ADiの時間的な変化量D_DTiに基づいて、温度補正値DTiを取得する。
例えば、温度補正値取得部25は、1つの検出位置の温度補正値取得処理において、近接判定期間の検出値ADiの時間的な変化量D_DTiを繰り返し算出する。具体的には、温度補正値取得部25は、近接判定期間において1つ検出位置について所定の時間をあけて生成された2つの検出値ADiの差を、当該1つの検出位置における変化量D_DTiとして算出する。温度補正値取得部25は、1つの近接判定期間の開始から終了までの間、第2温度変化判定部24において第2状態にあると判定された場合に算出した変化量D_DTiを積算する。温度補正値取得部25は、変化量D_DTiの積算を行う度に、その積算結果として得られる積算値に応じた温度補正値DTiを取得する。
【0056】
第1ベース値更新部26は、近接判定期間のベース値BSiの更新処理である第1ベース値更新処理を、センサ部10のn個の検出位置についてそれぞれ行う。第1ベース値更新部26は、1つの検出位置の第1ベース値更新処理において、近接判定期間のベース値BSiを、その近接判定期間が始まる直前のベース値BSi(以下、「ベース値BSRi」と記す場合がある。)と、温度補正値取得部25において繰り返し取得される温度補正値DTiとに基づいて更新する。例えば、第1ベース値更新部26は、1つの検出位置の第1ベース値更新処理において、第2ベース値更新部27による直近の更新で得られたベース値BSiと温度補正値DTiとの和を更新後のベース値BSiとして取得する。
【0057】
第2ベース値更新部27は、非近接判定期間のベース値BSiの更新処理である第2ベース値更新処理を、センサ部10のn個の検出位置についてそれぞれ行う。第2ベース値更新部27は、1つの検出位置の第2ベース値更新処理において、非近接判定期間の検出値ADiの時間平均に応じてベース値BSiを更新する。例えば、第2ベース値更新部27は、1つの検出位置の第2ベース値更新処理において、第1ベース値更新部26による直近の更新で得られたベース値BSiを初期値にして検出値ADiの加重平均を算出し、その算出した加重平均を更新後のベース値BSiとして取得する。
【0058】
座標算出部210は、センサ部10における検出動作の1サイクルごとに、センサ部10の検出結果に基づいて、n個の検出位置に近接した物体の位置の座標を算出する。例えば座標算出部210は、n個の検出位置について算出されたn個の差分値ΔADiに基づいて、n個の検出位置が分布する検出面上における物体の近接領域を特定し、特定した近接領域の形状や当該近接領域内のデータ値の分布などから物体の座標を算出する。
【0059】
[記憶部30]
記憶部30は、処理部20において処理に使用される定数データや変数データ(変化量dADi/dt、温度補正値DTi、ベース値BSi、差分値ΔADi)、処理部20のコンピュータにおいて実行されるプログラム31などを記憶する。記憶部30は、例えば、DRAMやSRAMなどの揮発性メモリ、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリ、ハードディスクなどを含んで構成される。
【0060】
[インターフェース部40]
インターフェース部40は、入力装置と他の制御装置(入力装置を搭載する情報機器のコントロール用ICなど)との間でデータをやり取りするための回路である。処理部20は、記憶部30に記憶される情報(物体の近接位置の座標、近接する物体の数など)をインターフェース部40から図示しない制御装置へ出力する。また、インターフェース部40は、処理部20のコンピュータにおいて実行されるプログラムを不図示のディスクドライブ装置(非一時的記録媒体に記録されたプログラムを読み取る装置)やサーバなどから取得して、記憶部30にロードしてもよい。
【0061】
次に、上述した構成を有する入力装置の動作について説明する。図6は、温度による検出値ADiの変化の判定とベース値BSiの更新に関わる処理を説明するためのフローチャートである。
【0062】
近接判定部29は、センサ部10における検出動作の1サイクルごとに、n個の検出位置についてそれぞれ差分算出部28により算出された差分値ΔADiに基づいて、n個の検出位置の少なくとも一部に指等の物体が近接しているか否かを判定する(ST100)。
【0063】
また、変化量算出部22は、検出動作の1サイクルごとに、2以上の所定の検出位置についてそれぞれ生成された検出値ADiについて、ノイズフィルタ処理(例えば時間加重平均)を行なう(ST105)。ノイズフィルタ処理により、各検出値ADiに含まれる急激な変化の成分(例えば、指などの瞬間的な接触による変化の成分など)が減衰する。
【0064】
変化量算出部22は、2以上の所定の検出位置について、ステップST105におけるノイズフィルタ処理を経た検出値ADiの時間的な変化量(dADi/dt)をそれぞれ算出する(ST110)。
【0065】
第1温度変化判定部23は、ステップST110において算出された2以上の所定の検出位置における検出値ADiの時間的な変化量(dADi/dt)を、それぞれ所定のしきい値と比較し、しきい値を超える変化量(dADi/dt)が算出された検出位置の数を計数する。第1温度変化判定部23は、この計数値が所定の数「X」を超えているか否かにより、温度の変化に伴う検出値ADiの変化が生じているか否か(「変化あり」又は「変化なし」)を判定する(ST115)。第1温度変化判定部23は、「変化あり」と判定する場合に第1フラグFL1をオンに設定し、「変化なし」と判定する場合に第1フラグFL1をオフに設定する。
【0066】
第2温度変化判定部24は、第1温度変化判定部23の判定結果に基づいて、第1状態(「変化なし」の状態)にあるか、又は、第2状態(「変化あり」の状態)にあるかを判定する(ST120)。
具体的には、第2温度変化判定部24は、第1状態(「変化なし」の状態)にあると判定しているとき、第1温度変化判定部23において「変化あり」の判定結果(第1フラグFL1をオンに設定する判定結果)が所定回数「Y」以上連続して得られた場合、第1状態から第2状態へ移行したと判定し、第2フラグFL2をオンに設定する。また、第2温度変化判定部24は、第2状態(「変化あり」の状態)にあると判定しているとき、第1温度変化判定部23において「変化なし」の判定結果(第1フラグFL1をオフに設定する判定結果)が所定回数「Y」以上連続して得られた場合、第2状態から第1状態へ移行したと判定し、第2フラグFL2をオフに設定する。
【0067】
温度補正値取得部25は、近接判定期間の開始後に生じた検出値ADiの温度による変化に関する温度補正値DTiを、センサ部10のn個の検出位置についてそれぞれ取得する(ST125)。温度補正値取得部25の温度補正値取得処理については、後で図5図6を参照して詳しく説明する。
【0068】
n個の検出位置の少なくとも一部に物体が近接していると近接判定部29において判定された場合(ST130)、第1ベース値更新部26は、n個の検出位置のそれぞれについて第1ベース値更新処理を行う(ST135)。1つの検出位置の第1ベース値更新処理において、第1ベース値更新部26は、近接判定期間が始まる直前のベース値BSRiと、温度補正値取得部25において取得される温度補正値DTiとに基づいて、例えば次式により更新後のベース値BSiを算出する。
【0069】
BSi = BSRi + DTi …(1)
【0070】
他方、近接判定部29において物体が近接していないと判定された場合(ST130)、第2ベース値更新部27は、n個の検出位置のそれぞれについて第2ベース値更新処理を行う。1つの検出位置の第2ベース値更新処理において、第2ベース値更新部27は、第1ベース値更新部26による直近の更新で得られたベース値BSiを初期値にして、検出値ADiの加重平均を例えば次式により算出する。
【0071】
BSi = (ADi + W*BSi)/(W+1) …(2)
【0072】
式(2)における「W」は、加重平均において更新前のベース値BSiに与える重みを示す。
【0073】
ステップST135又はステップST45におけるベース値BSiの更新を行うと、処理部20は再びステップST100に戻り、ステップST100以降の処理を反復する。
【0074】
図5及び図6は、温度補正値取得部25による温度補正値取得処理を説明するためのフローチャートである。電源投入後やリセット後の初期状態において、温度補正値取得部25は、ステートを「初期ステート」に設定する(ST200)。センサ部10において1サイクルの検出動作(検出値AD1〜ADnの生成)が行われる一定の時間(例えば10m秒)を待った後、温度補正値取得部25は、現在のステートが「初期ステート」であるか否かを判定する(ST210)。
【0075】
現在のステートが「初期ステート」である場合(ST210)、温度補正値取得部25は、近接判定部29の判定結果を確認する(ST215)。近接判定部29において物体が近接していないと判定されている場合、温度補正値取得部25は、温度補正値DTiとその時間的な変化量D_DTiをそれぞれゼロに初期化する(ST220)。近接判定部29において物体が近接していると判定されている場合、温度補正値取得部25は、現在のステートを「待ちステート」に変更するとともに、検出動作のサイクル数によって待ち時間を指定する待ちサイクル数CNTをゼロに初期化する(ST225)。
【0076】
現在のステートが「初期ステート」でない場合も(ST210)、温度補正値取得部25は、近接判定部29の判定結果を確認する(ST230)。近接判定部29において物体が近接していないと判定されている場合、温度補正値取得部25は、現在のステートを「初期ステート」に変更するとともに、温度補正値DTiとその時間的な変化量D_DTiをそれぞれゼロに初期化する(ST235)。
【0077】
現在のステートが「初期ステート」でなく、かつ、近接判定部29において物体が近接していると判定されている場合、温度補正値取得部25は、現在のステートが「待ちステート」であるかを更に確認する(ST240)。現在のステートが「待ちステート」である場合、温度補正値取得部25は、待ちサイクル数CNTが所定値T1に達したか否か判定する(ST245)。待ちサイクル数CNTが所定値T1より小さい場合、温度補正値取得部25は、待ちサイクル数CNTに1を加算して、「待ちステート」を継続する(ST250)。他方、待ちサイクル数CNTが所定値T1に達した場合、温度補正値取得部25は、現在のステートを「計算ステート」に変更し、待ちサイクル数CNTをゼロに初期化するとともに、後述のステップST275で変化量D_DTiの算出に用いられる「OLD_ADi」をゼロに初期化する(ST255)。
【0078】
近接判定部29において物体が近接していると判定され(ST230)、かつ、現在のステートが「計算ステート」である場合(ST260)、温度補正値取得部25は、待ちサイクル数CNTが所定値T2に達したか否かを判定する(ST265)。待ちサイクル数CNTが所定値T2より小さい場合、温度補正値取得部25は、待ちサイクル数CNTに1を加算して、「計算ステート」を継続する(ST270)。
【0079】
待ちサイクル数CNTが所定値T2に達した場合、温度補正値取得部25は、待ちサイクル数CNTをゼロに初期化するとともに、検出値ADiの時間的な変化量D_DTiを次の式により算出する。
【0080】
D_DTi = ADi − OLD_ADi …(3)
【0081】
温度補正値取得部25は、式(3)により変化量D_DTiを算出すると、「OLD_ADi」として現在の検出値ADiを記憶する(ST280)。「OLD_ADi」は、前回の変化量D_DTiの算出に用いられた検出値ADiを記憶するための変数である。
【0082】
温度補正値取得部25は、変化量D_DTiを算出した場合、第2温度変化判定部24において判定された状態を示す第2フラグFL2を確認する(ST285)。第2フラグFL2がオンの場合、すなわち、第2温度変化判定部24において第2状態(「変化あり」の状態)にあると判定された場合、温度補正値取得部25は、現在の温度補正値DTiにステップST275で算出した変化量D_DTiを加算したものを、新たな温度補正値DTiとして記憶する(ST290)。
【0083】
DTi = DTi + D_DTi …(4)
【0084】
温度補正値DTiは、近接判定部29において物体が近接しているとの判定が継続する「計算ステート」の開始時点から、第2温度変化判定部24において第2状態(「変化あり」の状態)にあると判定されたときの変化量D_DTiを積算した値となる。
【0085】
温度補正値取得部25は、ステップST205〜ST290の処理を行うと、再びステップST205に戻り、ステップST205以降の処理を反復する。
【0086】
以上説明したように、本実施形態に係る入力装置によれば、2以上の検出位置について生成される2以上の検出値ADiが温度の変化に伴って共通の方向に変化した場合、変化量算出部22によって算出される当該2以上の検出値ADiの時間的な変化量(dADi/dt)は、それぞれ共通の方向に増大する傾向を持つ。すなわち、センサ部10における2以上の検出値ADiの時間的な変化量(dADi/dt)が共通の方向に増大する傾向がある場合、温度の変化に伴う検出値ADiの変化が生じている可能性が高くなる。従って、1回の変化量算出処理によって変化量(dADi/dt)が算出された2以上の検出位置のうち、所定のしきい値を超える変化量(dADi/dt)が算出された検出位置の数の計数値が大きいほど、温度の変化による検出値ADiの変化が生じている可能性が高い。逆に、この計数値が小さい場合、2以上の検出位置について生成される2以上の検出値ADiに生じた変化が不揃いであるか、又は、2以上の検出値ADiの変化が何れも微小であるため、温度の変化に伴う検出値ADiの変化が生じている可能性が低い。従って、上記の計数値に基づく第1温度変化判定部23の判定によって、温度の変化に伴う検出値ADiの変化の有無を正確に判定できる。
【0087】
本実施形態に係る入力装置によれば、第1温度変化判定部23において同一の判定結果が所定回数以上連続して得られた場合、この連続して得られた判定結果が示す状態にあると第2温度変化判定部24において判定される。そのため、第1温度変化判定部23において一連の判定結果とは異なる判定結果が単発的に得られても、第2温度変化判定部24では、当該単発的に得られた判定結果が示す状態にあるとは判定されない。すなわち、物体の近接などの影響によって、時間的な連続性がなく、単発的に生じた第1温度変化判定部23の判定結果は、第2温度変化判定部24の判定に影響を与え難くなる。従って、温度の変化による検出値ADiの変化が生じている状態にあるか否かを、第2温度変化判定部24において正確に判定できる。
【0088】
本実施形態に係る入力装置によれば、第1温度変化判定部23の第1ベース値更新処理において、近接判定期間のベース値BSiが、この近接判定期間が始まる直前のベース値BSiと、温度補正値DTiとに基づいて更新される。温度補正値DTiは、近接判定期間の開始後に生じた検出値ADiの温度による変化に関わるものであり、近接判定期間内であって、かつ、第2温度変化判定部24において第2状態(「変化あり」の状態)にあると判定された場合における検出値ADiの時間的な変化量D_DTiに基づいて取得される。これにより、近接判定期間内であっても、第2温度変化判定部24において第1状態(「変化なし」の状態)にあると判定されている場合における変化量D_DTiは、温度補正値DTiに反映され難くなる。そのため、近接判定期間において温度の変化に伴う検出値ADiの変化が生じた場合、その変化に合わせて、ベース値BSiを適切に更新することが可能となる。従って、近接判定期間において大きな温度の変化がある場合でも、温度の変化に合わせて更新されたベース値BSiにより適切な差分値ΔADi(ADi−値BSi)が算出されるため、近接判定部29において物体の近接の有無を正確に判定できる。
【0089】
本実施形態に係る入力装置によれば、近接判定期間の中で、第2温度変化判定部24において第2状態(「変化あり」の状態)にあると判定された場合に得られた検出値ADiの時間的な変化量D_DTiが積算され、その積算値に応じた温度補正値DTiが取得される。変化量D_DTiの積算値は、近接判定期間の開始後に生じた検出値ADiの温度による変化分に近い値となるため、温度補正値DTiは、この変化分に応じた適切な値となる。従って、温度補正値DTiを用いることにより、近接判定期間の温度の変化に伴う検出値ADiの変化に合わせて、ベース値BSiを適切に更新できる。
【0090】
本実施形態に係る入力装置によれば、第1ベース値更新部26の第1ベース値更新処理において、第2ベース値更新部27による直近の更新で得られたベース値BSiと温度補正値DTiとの和が更新後のベース値BSiとして取得される。そのため、ベース値BSiの更新方法を、第2ベース値更新処理から第1ベース値更新処理へ円滑に切り換えることができる。
【0091】
本実施形態に係る入力装置によれば、第2ベース値更新部27の第2ベース値更新処理において、第1ベース値更新部26による直近の更新で得られたベース値BSiを初期値にして算出した検出値ADiの加重平均が更新後のベース値BSiとして取得される。そのため、ベース値BSiの更新方法を、第1ベース値更新処理から第2ベース値更新処理へ円滑に切り換えることができる。
【0092】
以上、本発明の種々の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、種々のバリエーションを含んでいる。
【0093】
本発明の入力装置は、指等の操作による情報を入力するユーザーインターフェース装置に限定されない。すなわち、本発明の入力装置は、人体に限定されない様々な物体の近接に応じた情報を入力する種々の装置に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0094】
10…センサ部、11…センサマトリクス、12…センサ素子、13…検出値生成部、14…駆動部、20…処理部、21…センサ制御部、22…変化量算出部、23…第1温度変化判定部、24…第2温度変化判定部、25…温度補正値取得部、26…第1ベース値更新部、27…第2ベース値更新部、28…差分算出部、29…近接判定部、210…座標算出部、30…記憶部、31…プログラム、40…インターフェース部40
図1
図2
図3
図4
図5
図6