(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な原油の需要の増加に伴い、従来の中東系原油のみならず、オイルサンド(oil sand)、ビチュメン(bitumen)、オイルシェール(oil shale)、又は天然ガスコンデンセート(condensate)等の中東域外で産出される原油が利用されつつある。特にオイルサンド及びビチュメン等の超重質原油の需要の増加に伴い、今後、超重質原油が中東系原油と比べて安価になることが想定される。
【0003】
しかしながら、超重質原油は、従来の中東系原油と比べて、多量の重質留分を含む。そのため、超重質原油中にスラッジ(sludge)が生成し易い。一般的に、スラッジは、原油等の炭化水素油の一部が、貯蔵・輸送又は使用の過程で変質することによって生成する。スラッジの原因となる成分は、例えば、アスファルテン(asphaltene)、ワックス(wax)、及びレジン(resin)等である。粘調な油状のスラッジ、又は固い炭素質のスラッジなど、種々のスラッジがある。スラッジは、炭化水素油に対して不溶解であるため、炭化水素油中に浮遊する。スラッジは炭化水素油の静置によって次第に沈降して、沈積物又は堆積物になる。スラッジは、タンク(貯槽)の貯蔵能力を低下させる。またスラッジは、ライン(輸送管)、ライン内に設置されたフィルター、又はポンプを詰まらせる。さらにスラッジは熱交換器を汚す。超重質原油の利用に伴う上記問題を解決するためには、超重質原油におけるスラッジの生成を抑制しなければならない。以下では、スラッジを、「不溶解分」と記す場合がある。
【0004】
近年、海外の製油所では、分解系装置の新規建設により、従来の装置では処理が困難であった超重質原油の精製が行われている。一方、従来の日本の製油所の多くは、中東系原油の処理に特化しており、中東域外で産出される超重質原油を処理する経験に乏しい。したがって、国内での超重質原油の利用を促進するためには、従来以上に原油中のスラッジの生成を抑制する技術が重要となる。
【0005】
例えば、下記特許文献1には、ポリアミドの添加により、原油中のスラッジを分散させて、スラッジの沈降及び堆積を抑制する方法が開示されている。しかしながら、貯蔵又は輸送される膨大な原油におけるスラッジの生成を抑制するためには、大量の薬剤を原油に添加しなければならない。したがって、薬剤によりスラッジを抑制する方法は、経済的でなく、実用に適さない。また、薬剤を過剰に原油に添加すると、原油の温度の低下に伴って、原油中に薬剤が析出し易くなる。これも問題である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本発明は下記実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本実施形態に係る炭化水素油の密度は、0.83〜0.89g/cm
3である。
【0015】
本実施形態に係る炭化水素油における潜在アスファルテンの含有量は、0〜6質量%である。一般的に、アスファルテンとは、例えば、縮合環を有する芳香族炭化水素の架橋結合によって形成される高分子化合物である。潜在アスファルテンとは、n‐ヘキサンに溶解しないアスファルテンである。潜在アスファルテンは、炭化水素油中に溶解、分散又は浮遊しており、不溶解分になる可能性を有する。潜在アスファルテンとは、不溶解分(スラッジ)又はデポジット(deposit)として生成又は析出していないアスファルテンと言い換えてもよい。
【0016】
本実施形態に係る炭化水素油における飽和炭化水素の含有量は、40〜75体積%である。
【0017】
本実施形態に係る炭化水素油における芳香族炭化水素の含有量は、20〜45体積%である。
【0018】
炭化水素油の密度、並びに、潜在アスファルテン、飽和炭化水素及び芳香族炭化水素それぞれの含有量が上記の数値範囲内にあることにより、炭化水素油における不溶解分(スラッジ)の生成が抑制される。例えば、本実施形態によれば、炭化水素油の単位体積当たりの不溶解分の質量を、3mg/mL以下、又は1mg/mL以下に抑制することができる。炭化水素油に溶解し難い潜在アスファルテンの含有量と、炭化水素油に溶解し易い飽和炭化水素及び芳香族炭化水素それぞれの含有量が、上記の範囲内においてバランスすることにより、炭化水素油中で潜在アスファルテンが安定するため、潜在アスファルテンが不溶解分として生成し難くなる。ただし、スラッジの生成が抑制されるメカニズムは、上記に限定されるわけではない。
【0019】
炭化水素油における潜在アスファルテンの含有量は、0〜5.9質量%、0〜5.6質量%、又は0〜5.5質量%であってもよい。潜在アスファルテンの含有量が多いほど、不溶解分(スラッジ)及びデポジットが生成し易い。なお、潜在アスファルテンは、後述するカラムクロマトグラフィーの前処理によって炭化水素油から分離されるアスファルテン分画とは異なる。炭化水素油における潜在アスファルテンの含有量は、炭化水素油におけるアスファルテン分画の含有量とは必ずしも一致しない。
【0020】
本実施形態に係る炭化水素油における潜在アスファルテンの含有量が、従来の炭化水素油における潜在アスファルテンの含有量と同じ水準である場合であっても、従来の炭化水素油に比べて、本実施形態に係る炭化水素油では、潜在アスファルテンに由来する不溶解分が生成し難い。
【0021】
炭化水素油の密度は、0.831〜0.875g/cm
3であってもよい。なお、「炭化水素油の密度」とは、15℃における炭化水素油の密度である。密度は、日本工業規格のJIS‐K2601‐3に規定された「密度試験方法」によって測定されてよい。炭化水素油が、軽質原油及び超重質原油の混合物を含む場合、炭化水素油の密度の上限値は、超重質原油の密度の下限値と同じであってよく、炭化水素油の密度の下限値は、軽質原油の密度の上限値と同じであってよい。炭化水素油の密度が0.890g/cm
3を超える場合、炭化水素油中に不溶解分が生成し易く、不溶解分が、タンクの貯蔵能力を低下させたり、不溶解分又は炭化水素油そのものが、ライン、フィルター又はポンプを詰まらせたり、熱交換器を汚したりする。
【0022】
炭化水素油における飽和炭化水素の含有量は、52〜66体積%、又は52〜64体積%であってもよい。飽和炭化水素の含有量の測定は、以下の手順で行えばよい。まず、炭化水素油を、アスファルテン分画と、その他の成分と、に分ける。その他の成分はカラムクロマトグラフィーによって3つの分画(fraction)に分けられる。3つの分画とは、飽和分画、芳香族分画、及びレジン分画である。この飽和分画が、炭化水素油に含まれていた飽和炭化水素に相当する。以上の通り、飽和炭化水素の含有量は、カラムクロマトグラフィーによって測定されてよい。飽和炭化水素は、一般的な原油に含まれている化合物であってよい。飽和炭化水素は、例えば、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、2,2‐ジメチルプロパン、シクロペンタン、n‐ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン及びホパンからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。飽和炭化水素の含有量が少ないほど、炭化水素油中における不溶解分の生成が抑制され易い。換言すると、炭化水素油中の飽和炭化水素の含有量の増加に伴い、炭化水素油における潜在アスファルテンの分散性が低下し易い。飽和炭化水素の含有量が75体積%以下であることにより、潜在アスファルテンの凝集が抑制され、不溶解分の生成が抑制される。飽和炭化水素の含有量が40体積%未満である場合、芳香族炭化水素の割合が相対的に更に増加して、潜在アスファルテンの分散性が更に増加する傾向がある。しかし、芳香族炭化水素の含有量の増加に伴い、加熱された配管内で芳香族炭化水素の熱重合が促進され易く、配管内にデポジットが生成し易い。また芳香族炭化水素の含有量の増加に伴い、炭化水素油から製造された石油製品が所望の規格に適合しない可能性が生じる。飽和炭化水素の含有量が75体積%を超える場合、潜在アスファルテンの分散性が低下し易く、潜在アスファルテンの凝集が促進され易く、不溶解分が増加し易い傾向がある。また、飽和炭化水素中のワックス分(ノルマルパラフィン分)の増加に伴い、冬季に炭化水素油が固化し易い。
【0023】
炭化水素油における芳香族炭化水素の含有量は、22〜34体積%、又は26〜34体積%であってよい。芳香族炭化水素とは、上記のカラムクロマトグラフィーによって得られる芳香族分画に相当する。つまり、芳香族炭化水素の含有量は、カラムクロマトグラフィーによって測定されてよい。芳香族炭化水素は、一般的な原油に含まれている化合物であってよい。芳香族炭化水素は、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ピレン、グリセン、ベンゾ(α)ピレン、フルオレン及びフルオランテンならなる群より選ばれる少なくとも一種であればよい。芳香族炭化水素の含有量が多いほど、炭化水素油における潜在アスファルテンと他の成分との相溶性が向上して、炭化水素油中における不溶解分の生成が抑制され易い。相溶性は、炭化水素油の組成の均一性と言い換えてよい。換言すると、炭化水素油中の芳香族炭化水素の含有量の増加に伴い、炭化水素油における潜在アスファルテンの分散性が向上し易い。また芳香族炭化水素の含有量が多いほど、炭化水素油の動粘度が増加し易い。芳香族炭化水素の含有量が20体積%以上であることにより、潜在アスファルテンの凝集が抑制され、不溶解分の生成が抑制される。芳香族炭化水素の含有量が20体積%未満である場合、潜在アスファルテンの分散性が低下し易く、潜在アスファルテンの凝集が促進され易く、不溶解分が増加し易い傾向がる。芳香族炭化水素の含有量が、45体積%を超える場合、潜在アスファルテンの分散性が更に増加する傾向がある。しかし、芳香族炭化水素の含有量が45体積%を超える場合、加熱された配管内で芳香族炭化水素の熱重合が促進され易く、配管内にデポジットが生成し易い。デポジットは、例えば、炭化水素油から得られる諸留分の水素化処理の際にコーキングを引き起こす。また芳香族炭化水素の含有量の増加に伴い、炭化水素油から製造された石油製品が所望の規格に適合しない可能性が生じる。例えば、炭化水素油の精製によって得られるディーゼル燃料(軽油)中の芳香族炭化水素が多いほど、ディーゼルエンジンの排ガス中の煤が増加し易い。
【0024】
50℃における炭化水素油の動粘度は、例えば、1〜10mm
2/S、2〜8mm
2/S、又は3.2〜7.0mm
2/Sであってよい。動粘度の増加に伴い、炭化水素油の移動に用いるライン、フィルター又はポンプが詰まり易い。また動粘度の増加に伴い、ポンプが詰まり易く、動粘度が高過ぎるとポンプの送液が困難となる傾向がある。動粘度の低下(軽質留分が増加)に伴い、キャビテーション(cavitation)が起き易く、ポンプの送液能力が低下し易い傾向がある。動粘度は、日本工業規格のJIS‐K2601‐5に規定された「動粘度試験方法」によって測定されてよい。
【0025】
炭化水素油における硫黄分の含有量は、例えば、1.1〜2.3質量%であってよい。硫黄分の含有量の増加に伴い、炭化水素油の常圧蒸留によって得られる各留分中の硫黄分が増加する。その結果、各留分中の硫黄分を低減するための脱硫装置の負荷が増加する傾向がある。硫黄分の含有量は、日本工業規格のJIS‐K2601‐8に規定された「硫黄分試験方法」によって測定されてよい。なお本実施形態によれば、硫黄分の含有量に関わりなく、不溶解分の生成を抑制することができる。
【0026】
本実施形態に係る炭化水素油は、軽質原油及び超重質原油の混合物を含んでよい。炭化水素油は、軽質原油及び超重質原油の混合物そのものであってもよい。炭化水素油は、中質原油及び超重質原油の混合物を含んでよい。炭化水素油は、中質原油及び超重質原油の混合物そのものであってもよい。本実施形態に係る炭化水素油は、超軽質原油及び超重質原油の混合物を含んでよい。炭化水素油は、超軽質原油及び超重質原油の混合物そのものであってもよい。本実施形態に係る炭化水素油は、軽質原油、中質原油及び超重質原油の混合物を含んでもよい。本実施形態に係る炭化水素油は、軽質原油、中質原油及び超重質原油の混合物そのものであってもよい。本実施形態に係る炭化水素油は、超軽質原油、中質原油及び超重質原油の混合物を含んでもよい。本実施形態に係る炭化水素油は、超軽質原油、中質原油及び超重質原油の混合物そのものであってもよい。本実施形態に係る炭化水素油は、超軽質原油、軽質原油及び超重質原油の混合物を含んでもよい。本実施形態に係る炭化水素油は、超軽質原油、軽質原油及び超重質原油の混合物そのものであってもよい。本実施形態に係る炭化水素油は、超軽質原油、軽質原油、中質原油及び超重質原油の混合物を含んでもよい。本実施形態に係る炭化水素油は、超軽質原油、軽質原油、中質原油及び超重質原油の混合物そのものであってもよい。
【0027】
軽質原油は、例えば、中東系軽質油であってよい。中東系軽質油は、例えば、ウムシャイフ原油、アラビアンエクストラライト原油及びロアーザクム原油からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。15℃における軽質原油の密度は、例えば、0.80〜0.85g/cm
3、又は0.8228〜0.8323g/cm
3であってよい。軽質原油における硫黄分の含有量は、例えば、1.0〜1.3質量%であってよい。50℃における軽質原油の動粘度は、例えば、2.0〜3.0mm
2/Sであってよい。軽質原油における潜在アスファルテンの含有量は、例えば、0.0〜1.0質量%であってよい。軽質原油における飽和炭化水素の含有量は、例えば、60.0〜70.0体積%であってよい。軽質原油における芳香族炭化水素の含有量は、例えば、25.0〜35.0体積%であってよい。
【0028】
超重質原油は、例えば、ビチュメン、オイルサンド(例えばカナダ産)、オイルシェール(例えばアメリカ産)、オリノコタール(ベネゼエラ産)、その他南米原油であってよい。15℃における超重質原油の密度は、例えば、0.90〜0.98g/cm
3、0.93〜0.95g/cm
3、又は0.936〜0.9402g/cm
3であってよい。
【0029】
超軽質原油は、例えば、コンデンセート又は中東系超軽質原油であってよい。中質原油は、例えば、アラビアンライト又はドバイ原油であってよい。
【0030】
本発明の一側面に係る炭化水素油の製造方法は、上記の炭化水素油を製造する方法であって、軽質原油及び超重質原油をタンクブレンド又はラインブレンドのいずれの方法で混合する混合工程を備えてよい。つまり混合工程により、潜在アスファルテンの含有量が高い超重質原油を、潜在アスファルテンの含有量が少ない軽質原油で希釈してよい。その結果、不溶解分が生成し難い炭化水素油が得られる。ただし、単に任意の軽質原油と任意の超重質原油とを無作為に混合するだけで、本実施形態に係る炭化水素油が得られるわけではない。炭化水素油の密度、並びに、炭化水素油における潜在アスファルテン、飽和炭化水素及び芳香族炭化水素それぞれの含有量は、炭化水素油の製造に用いる軽質原油及び超重質原油それぞれの種類、産地又は諸性状に依存する。また炭化水素油の上記の諸性状は、軽質原油及び超重質原油の混合比にも依存する。したがって、軽質原油及び超重質原油の組合せ方、及びこれらの混合比の調整により、炭化水素油の上記の諸性状を所望の数値範囲内に制御することができる。なお、軽質原油で希釈された超重質原油は、例えば、常圧蒸留用(トッパー用)の原料油として利用することもできる。
【0031】
混合工程では、超軽質原油、軽質原油及び中質原油からなる群より選ばれる少なくとも一種と、超重質原油とを、タンクブレンド又はラインブレンドのいずれの方法で混合してもよい。超軽質原油、軽質原油、中質原油及び超重質原油其々の性状、これ等の原油の組合せ方、並びにこれ等の原油の混合比の調整により、炭化水素油の上記の諸性状を所望の数値範囲に制御することもできる。炭化水素油の製造に、複数種の超軽質原油を用いてよい。炭化水素油の製造に、複数種の軽質原油を用いてよい。炭化水素油の製造に、複数種の中質原油を用いてよい。炭化水素油の製造に、複数種の超重質原油を用いてよい。
【0032】
タンクブレンドとは、タンク(貯槽)内にある複数種の原油を、ジェットミキサー又はプロペラミキサー等の攪拌装置を用いて、例えば数時間程度混合して、原油の混合物の諸性状を調整する混合方式である。ラインブレンドとは、ライン(輸送管)内で複数種の原油を乱流にすることにより、これらを混合して、原油の混合物の諸性状を調整する混合方式である。タンクブレンド又はラインブレンドは、例えば、原油の備蓄基地、又は製油所で行えばよい。なお、本実施形態に係る炭化水素油の製造方法で採用される原油の混合方法は、タンクブレンド又はラインブレンドに限定されるものではない。
【0033】
混合工程では、超重質原油の体積Vehに対する軽質原油の体積Vlの比Vl/Vehを、(99/1)〜(40/60)、(99/1)〜(50/50)、(99/1)〜(60/40)、(99/1)〜(80/20)(90/10)〜(40/60)、(90/10)〜(50/50)、(90/10)〜(60/40)又は(90/10)〜(80/20)に調整してよい。Vl/Vehが小さいほど、炭化水素油における潜在アスファルテンの含有量が多く、炭化水素油中に不溶解分が生成し易い。つまり、炭化水素油に占める超重質原油の体積Vehの割合が高いほど、炭化水素油中に不溶解分が生成し易い。換言すれば、Vl/Vehが大きいほど、炭化水素油における潜在アスファルテンの含有量が少なくなり、炭化水素中に不溶解分が生成し難い。つまり、炭化水素油に占める軽質原油の体積Vlの割合が高いほど、炭化水素油中に不溶解分が生成し難い。超重質原油は軽質原油よりも安いため、Vl/Vehの減少(超重質原油の比率の増加)に伴って、炭化水素油の製造コストは低減する。
【0034】
本実施形態に係る炭化水素油は、不溶解分(スラッジ)を生じ難いので、貯蔵時の安定性に優れている。本実施形態に係る炭化水素油の貯蔵安定性は、スラッジ用の分散剤等の薬剤の添加なしで、確保される。したがって、本実施形態に係る炭化水素油は、例えば、備蓄基地における備蓄、又はタンカー等による大量輸送に適している。また、本実施形態に係る炭化水素油の貯蔵安定性が確保されるので、後段の熱交換器において、酸化防止剤の添加なしで、炭化水素油の酸化安定性を確保することができる。さらに、本実施形態に係る炭化水素油では、スラッジの生成が抑制されるので、スラッジに起因する装置のトラブルの発生も抑制することができる。例えば、スラッジに起因する熱交換器の汚れが抑制される。
【0035】
上記の通り、本実施形態によれば、スラッジを分散させるための分散剤を炭化水素油へ添加しない場合あっても、炭化水素油中におけるスラッジの生成を抑制することができる。ただし、本実施形態に係る炭化水素油は分散剤を含んでいてもよい。
【0036】
上記の通り、本実施形態によれば、酸化防止剤を炭化水素油へ添加しない場合であっても、炭化水素油の酸化安定性を確保することができる。ただし、本実施形態に係る炭化水素油は、酸化防止剤を含んでもよい。酸化防止剤は、例えば、フェノール系の酸化防止剤であってよい。酸化防止剤の添加量を低減するために、炭化水素油がフェノール系の潤滑性向上剤を含んでもよい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
[原油]
試料1〜20それぞれの炭化水素油の原料として、下記表1に示す6種類の原油を準備した。つまり、超軽質原油1、超軽質原油2、軽質原油1、軽質原油2、超重質原油1及び超重質原油2を準備した。各原油の諸性状は、下記表1に示す通りであった。
【0039】
下記表中の「CCの分画」とは、各原油のカラムクロマトグラフィー(Column Chromatography)によって得られる分画を意味する。
【0040】
下記表1中の「潜在アスファルテンの含有量」は、以下に示す手順で測定した。ビーカー内に所定の質量Mcоの原油を入れた。ビーカー内の原油へ、溶媒として、所定量のn‐ヘキサンを添加した。ビーカー内の原油及びn‐ヘキサンをガラス棒で撹拌して、混合物を得た。ビーカー内の混合物を室温で静地した後、混合物の吸引濾過を行った。吸引濾過に用いたメンブレンフィルターの目開き(メッシュサイズ)は、0.45μmであった。吸引濾過後のメンブレンフィルターを、100℃の恒温槽内で1時間乾燥した。乾燥後のメンブレンフィルターの質量m
1を測定した。吸引濾過に使う前のメンブレンフィルターの質量m
0も予め測定した。原油における潜在アスファルテンの含有量は、{(m
1−m
0)/Mcо}×100と定義される。
【0041】
(試料1)
下記表2に示す2種類の原油を、下記表2に示す体積の割合(つまり混合比Vl/Veh)で混合することにより、試料1の炭化水素油を得た。先述の方法により、下記表2に示す炭化水素油の諸性状を測定した。測定の結果を下記表2に示す。
【0042】
試料1の炭化水素油における「潜在アスファルテンの含有量」は、以下に示す手順で測定した。ビーカー内に所定量の超重質原油を入れた。他方の原油(軽質原油)をビーカー内に添加して、2種類の原油をガラス棒で攪拌することにより、混合油(試料1の炭化水素油)を得た。2種類の原油それぞれの体積の割合は、下記表2に示す値に調整した。ビーカー内の炭化水素油の質量Mhcоを測定した。ビーカー内の炭化水素油へ、溶媒として、所定量のn‐ヘキサンを添加した。ビーカー内の炭化水素油及びn‐ヘキサンを、ガラス棒で撹拌して、混合物を得た。ビーカー内の混合物を室温で静地した後、混合物の吸引濾過を行った。吸引濾過に用いたメンブレンフィルターの目開き(メッシュサイズ)は、0.45μmであった。吸引濾過後のメンブレンフィルターを、100℃の恒温槽内で1時間乾燥した。乾燥後のメンブレンフィルターの質量m
1を測定した。吸引濾過に使う前のメンブレンフィルターの質量m
0も予め測定した。試料1の炭化水素油における潜在アスファルテンの含有量は、{(m
1−m
0)/Mhcо}×100と定義される。
【0043】
試料1の炭化水素油における「不溶解分の含有量」は、以下に示す手順で測定した。この測定は、国際標準化機構によって規定されたISO−10307の試験方法に準拠する。
【0044】
濾過器内に試料1の炭化水素油を入れた。濾過器内に入れた試料1の質量M’hcоを予め測定した。加圧ケース及び吸引ポンプによる試料1の加圧濾過を行った。加圧濾過に用いたメンブレンフィルターの目開き(メッシュサイズ)は、10μmであった。加圧濾過後のメンブレンフィルターを、100℃の恒温槽内で1時間乾燥した。乾燥後のメンブレンフィルターの質量m’
1を測定した。加圧濾過に使う前のメンブレンフィルターの質量m’
0も予め測定した。試料1の炭化水素油における不溶解分の含有量は、{(m’
1−m’
0)/M’hcо}×100と定義される。
【0045】
試料1の炭化水素油のスポットテストを行った。このスポットテストは、米国材料試験協会によって規定されたASTM‐D4740の試験方法に準拠する。スポットテストでは、試料1の炭化水素油の一滴をクロマト紙上に滴下し、クロマト紙上のスポットを乾燥した。乾燥後のスポットを目視で観察した。スポットテストの結果は、以下のスポット番号で表される。スポット番号が小さいほど、炭化水素油における潜在アスファルテンと他の成分との相溶性が良く、炭化水素油中で潜在アスファルテンが安定し易く、潜在アスファルテンに由来する不溶解分の生成又は析出が抑制され易い。
スポット番号No.1は、「インナーリングがなく、スポットが均質な状態」を意味する。
スポット番号No.2は、「薄く、または、わずかにインナーリングが現れた状態」を意味する。
スポット番号No.3は、「薄いインナーリングがNo.2の場合に比べてよりはっきり現れるが、スポットがバックグラウンドよりもわずかに暗くなっただけの状態」を意味する。
スポット番号No.4は、「インナーリングがNo.3の場合に比べてさらにはっきり現れ、インナーリングの厚みがNo.3の場合に比べて増し、かつスポットがバックグラウンドよりも多少暗くなった状態」を意味する。
スポット番号No.5は、「インナーリングの中央部に粒子または粒子状の物があり、かつスポットがバックグラウンドよりも非常に暗くなった状態」を意味する。
スポット番号No.6は、「インナーリング全体が粒子で、暗くなり、インナーリングの厚みがある状態」を意味する。
【0046】
(試料2〜10)
試料2〜10それぞれの炭化水素油の調製には、下記表2中の各試料の列に示す軽質原油及び超重質原油を用いた。各試料の調製に用いた2種類の原油の体積の割合(つまり混合比Vl/Veh)は、下記表2に示す値に調整した。原油の種類及び原油の混合比を除いて、試料1の場合と同様の方法で、試料2〜10それぞれの炭化水素油を個別に調製した。そして、試料1の場合と同様の方法で、各試料の炭化水素油の諸性状を個別に測定した。各測定結果を、下記表2に示す。
【0047】
(試料11〜20)
試料11〜20それぞれの炭化水素油の調製には、下記表3中の各試料の列に示す超軽質原油及び超重質原油を用いた。各試料の調製に用いた2種類の原油の体積の割合(単位:体積%)は、下記表3に示す値に調整した。原油の種類及び各原油の体積の割合を除いて、試料1の場合と同様の方法で、試料11〜20それぞれの炭化水素油を個別に調製した。そして、試料1の場合と同様の方法で、各試料の炭化水素油の諸性状を個別に測定した。各測定結果を、下記表3に示す。
【0048】
炭化水素油における不溶解分の含有量は、2.0質量%以下であることが好ましい。炭化水素油における不溶解分の含有量は、1.0質量%未満であることがより好ましい。炭化水素油のスポット番号は、4以下であることが好ましい。炭化水素油のスポット番号は、3以下であることがより好ましい。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】