(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、各図面において、同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
なお、本実施形態の電動パワーステアリング装置(EPS装置)向け電動機は、EPS装置のみならずその他の自動車補機、例えば電動ブレーキ向け電動機にも適用可能である。さらには、低振動化が好ましい産業用の電動機全般にも適用可能である。
【0011】
以下では、本実施形態の構造を得る際に、回転子磁極の構造と、トルク、熱減磁、コギングトルクとの関係について検討した結果を説明する。その後、実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、「軸方向」は、回転子の回転軸に沿った方向を指す。「周方向」は、回転子の回転方向に沿った方向を指す。「径方向」は、回転子の回転方向に垂直な方向を指す。
【0012】
まず、トルク生成と磁極形状の関係について説明する。回転子磁極の固定子側表面形状に関して、表面形状と固定子内径との平均的距離が小さいほどトルクが向上しやすい。これは、エアギャップの磁気抵抗が小さくなるために、磁石磁束が固定子側に通りやすくなるとともに、固定子からの磁束も磁石側に通りやすくなるためである。また、固定子側の磁極の表面形状には、通常、製造しやすい円弧状の形状が用いられるが、磁極の円弧半径を回転子の外表面の回転半径に一致させたときに、磁極表面と固定子の平均距離が最も小さくなる。このため、磁極の円弧半径を回転子の外表面の回転半径に一致させると、最も有効にトルクを生成できると考えられる。
【0013】
次に、熱減磁と磁極形状の関係について説明する。磁石に端がなく、磁石と固定子のエアギャップの長さのみを考慮すればよい理想極限では、エアギャップの長さが小さいほうが減磁界の影響が小さく、熱減磁が小さくなる。しかし、通常の表面磁石回転子のように、各磁石が距離を隔てて設置されている場合は事情が異なる。永久磁石の表面円弧半径が回転子半径に近い場合は、永久磁石の外周側の端は角であるために固定子からの減磁界の影響を大きく受け、永久磁石の端部に熱減磁が大きくなる。一方、永久磁石の表面円弧半径が回転子半径より小さく、外周側の端と固定子とのエアギャップの長さが磁石中央と比べて大きく、固定子からの減磁界の影響を受けにくい場合は、永久磁石の端部に熱減磁が生じにくい。これらのことから、有効にトルクを生成するために、永久磁石の表面円弧半径を回転子半径に近くする場合は、永久磁石の外周側の端部に熱減磁が大きく生じやすい。このため、通常は、磁石端部でのエアギャップを大きくして熱減磁を緩和しつつ、かつ、コギングトルクとトルクリップルを低減するために、磁極円弧半径を小さくして、エアギャップが大きいことによるトルク低下の副作用を許容する手段が採られている。また、永久磁石の外周側に高透磁率の軟磁性磁極材を設置する場合も、同様の形状にする手段が採られている。
【0014】
ここで、永久磁石を矩形平板型として、磁石の外周側に高透磁率の軟磁性磁極材を設置することを考えると、軟磁性磁極円弧半径が回転子外半径に近い場合は、一見、永久磁石の外周側の端部に熱減磁が大きく生じやすいように見える。しかし、磁石端部の軟磁性磁極厚みが大きい場合は、逆に、磁束が軟磁性磁極内を自由に移動でき、減磁界の端部集中が大きく緩和され、熱減磁が大きく緩和される。このため、磁極円弧半径が回転子外半径に近く、磁石端部の軟磁性磁極厚みを十分確保できる軟磁性磁極形状が好ましい。これにより、熱減磁の影響を抑止するための磁石厚みの増加を抑制し、磁束を有効に利用してトルクを生成可能になる。ただし、このような形状を採用した場合にも、コギングトルクとトルクリップルを低減できることが必要である。
【0015】
次に、コギングトルクと磁極形状の関係について説明する。コギングトルクにおいては、磁石磁極あるいは軟磁性磁極の円弧半径を回転子の外表面の回転半径に一致させたときより、回転子磁極の端と固定子内周との距離が大きいか、あるいは、磁極円弧半径が回転子半径より小さい方が、コギングトルクが小さい傾向にある。このため、安易に表面形状と固定子内径との平均的距離を小さくすると、コギングトルクが増大する。
【0016】
回転子磁極の端と固定子内周との距離が小さいか、あるいは、磁極円弧半径が回転子半径に近い場合は、回転子磁極の端から固定子を経由して隣の回転子磁極への磁束の漏れが増加し、これにより回転子・固定子間の吸引力が増加する。このため、固定子ティースと回転子磁極の位置関係による周方向吸引力の増減が強調されて、コギングトルクの増大につながる。回転子磁極の端と固定子内周との距離が大きいか、あるいは、磁極円弧半径が回転子半径より小さい場合は、回転子・固定子間の周方向吸引力の増減が抑制され、コアバックを経由する磁束による回転子・固定子間の周方向吸引力の増減と相殺し、コギングトルクが小さい傾向になる。
【0017】
一方、回転子外周側の磁極周方向端部において、隣の回転子磁極へ磁束が漏れると、磁束が固定子を経由しないため、この磁束は回転子・固定子間の吸引力を発生させず、コギングトルクに寄与しない。このため、回転子磁極の端と固定子内周との距離が小さいか、あるいは、磁極円弧半径が回転子半径に近い場合、回転子外周側の磁極周方向端部において、隣の回転子磁極へ磁束を漏らすと、固定子と回転子の周方向吸引力の増減が抑制され、コギングトルクを小さくできる。
【0018】
このため、表面形状と固定子内径との平均的距離を小さくして、かつ、コギングトルクを小さくするには、隣の回転子磁極への固定子を経由する磁束の漏れの一部を回転子外周側の磁極周方向端部の突出部を介して漏らす手段が有効になる。ただし、コギングトルクを小さくするために漏らした磁束による、トルクやトルクリップルへの影響が、小さいことが重要である。検討の結果、14:18系列や10:12系列のように、回転子磁極の周方向幅が固定子磁極の周方向幅に対してさほど大きくなく、コギングトルクの次数が大きいときは、コギングトルクを十分低減可能であることが、明らかになった。
【0019】
一方、2:3系列のように、固定子磁極の周方向幅に対して回転子磁極の周方向幅が大きいときは、突出部からの漏れを大きくするだけではトルク低下が大きくなるため、磁極円弧半径の縮小やスキューなどの手段を併用することが必要である。
【0020】
また、永久磁石の側壁部側に高透磁率材があり、同一磁石のNS極間に磁束の漏れが生じており、隣接磁極への漏れとともに同一磁石のNS極間の漏れ量が変動する場合は、コギングトルクを小さくしにくい。永久磁石の側壁部側に高透磁率材があり、同一磁石のNS極間に漏れがあっても、同一磁石のNS極間の漏れ量の変動が小さくなるように、隣接する磁極で永久磁石の側壁部との距離が大きいことが必要になる。ただし、少なくとも同一磁石のNS極間に漏れがあるため、磁束の有効利用の点では不利になる。
【0021】
次に、トルクリップルと磁極形状の関係について説明する。トルクリップルについては、コギングトルクと同様に、磁極円弧半径を小さくすると低減する傾向がある。一方、巻線の電流が大きくなると、固定子コアに部分的にあるいは全体的に生じる磁気飽和によって磁気抵抗が増大することにより、トルクリップルが増大する。また、コギングトルクが大きい場合に、小電流においてトルクリップルが大きい場合がある。一方、変動の振幅の絶対値だけでなく位相も関係しており、コギングトルクとトルクリップルが強調する場合も相殺する場合も生じうる。これらの影響が混在して現れるため、トルクリップルに関して一概に論ずることは難しい。
【0022】
3相交流起磁力の場合、トルクリップルの基本次数は回転子のNS磁極一対に対して6次の脈動になる。3相の起磁力の磁束の経路には固定子と回転子の磁極を結ぶものと、固定子内で閉じるものがあるが、隣接する回転子磁極を結んで固定子磁極とつながる経路も影響する。電流の大きさでこれらの経路の重みは変わりうる。また、固定子のティース巻線による磁束は、回転子磁極の一つを吸引し、回転子磁極に隣接する別の回転子磁極を排斥することにより、回転駆動力を発生させる。固定子磁極からの磁束は、回転子磁極以外にも、排斥されにくい隣のティースに向かうことが考えられる。また、排斥力を受ける回転子磁極からの磁束は、排斥するティース内を通りにくいため、排斥されないティースか隣の回転子磁極に向かう。これらの磁束の経路において、回転子の回転に伴って経路の磁束量が変動するが、磁極の構造や電流に複雑に依存するため、トルクリップルの理解は困難である。
【0023】
検討を進めるための仮説として以下を用いた。コギングトルクの値はトルクリップルより小さいため、突出部経由の少量の磁束漏れにより、コギングトルクの値は変化しやすいが、少量の磁束漏れ量の変動のトルクリップルへの影響は小さいと仮定する。すなわち、コギングトルクとトルクリップルの次数が比較的大きく、値が小さく安定しているような極スロット組み合わせでは、隣接回転子磁極への漏れが小さい場合、回転駆動に伴う隣接回転子磁極への漏れ量の変動が小さく、トルクリップルが抑制されやすくなると仮定する。
【0024】
この仮説に基づくと、磁束漏れ量の変動が小さいような形状が重要と考えられる。このような形状として、同一磁石のNS極間の漏れが小さいか変動が小さい形状であり、隣接する回転子磁極間の漏れ量を小さく制御できる形状を検討した。その形状とは、磁極外周円弧の両端が突出部になっており、突出部より内周側で磁極幅が狭まる形状である。このような突出部によって隣接する回転子磁極間の漏れ量を小さく制御できる。また、この磁極材としては、低透磁率の部材または空間によって固定子コア(鉄心)と分離された形状を検討した。これにより、同一磁石のNS極間の漏れが小さく、漏れ量の変動が小さいため、トルクリップルが抑制されやすいと考えられる。
【0025】
検討の結果、14:18系列や10:12系列の集中巻のように、回転子磁極の周方向幅が固定子磁極の周方向幅に対してさほど大きくなく、コギングトルクとトルクリップルの次数が比較的大きいときは、磁極円弧半径が回転子半径に近くても、軟磁性磁極材の突出部からの磁束の漏れを利用して、コギングトルクとトルクリップルを十分低減可能であることが、明らかになった。すなわち、トルクリップルへの影響が小さい少量の磁束漏れでコギングトルクを低減でき、外周表面を延長する形の突出部を有し、突出部より内周側で軟磁性磁極幅が狭まることにより、突出部の形状で磁束の漏れ量を制御できる形状である。
【0026】
ただし、2:3系列の集中巻のように、固定子磁極の周方向幅に対して回転子磁極の周方向幅が大きいときは、コギングトルクとトルクリップルの低減を磁束漏れのみで対策できないため、磁極円弧半径の縮小やスキューなどの手段を併用することが必要である。また、軟磁性磁極材の突出部からの磁束漏れを利用する場合は、しない場合に比べて、磁極円弧半径を大きく設定可能になる。
【0027】
また、通常の埋め込み磁石方式のように、永久磁石の側壁部に高透磁率材があり、同一磁石のNS極間に漏れがある場合は、コギングトルクとトルクリップルを低減するために、高透磁率材の厚みが小さくして同一磁石のNS極間の漏れ量と変動を小さくするか、隣接する磁極の間隔を大きくして同一磁石のNS極間の漏れ量の変動を小さくする必要がある。
【0028】
(第1の実施形態)
以下、
図1〜
図3を参照して、第1の実施形態による電動機を説明する。
図1は、電動機の回転軸に垂直な方向の断面図である。
図2は、
図1に示す回転子の拡大図である。
図3は、
図2に示す回転子の部分拡大図である。本実施形態の電動機は14極18スロット集中巻の電動機である。
【0029】
図1に示すように、本実施形態の電動機1は、固定子10と、径方向にエアギャップ30を介して固定子10と向き合う回転子20と、を備える電動機である。固定子10は、コアバック110およびティース130からなる固定子コア100と、巻線140とを有する。回転子20は、
図2に示すように、回転子コアすなわち鉄心200と、鉄心200に支持される永久磁石210と、永久磁石210の固定子10に近い側の面に配置される軟磁性磁極材220とにより磁極を構成する。軟磁性磁極材220は、
図3に示すように、固定子10に近い側である固定子側221と、永久磁石210に近い側である磁石側222とを有しており、固定子側221に円弧状の表面226を有し、かつ永久磁石210よりも大きな幅を周方向に有する突出部223が形成されている。
【0030】
鉄心200には凹部202が形成されており、この凹部202には合成樹脂230が充填されており、合成樹脂230は、軟磁性磁極材220の側壁部224、永久磁石210の側壁部211、鉄心200の側壁部201にそれぞれ接するように充填されている。合成樹脂230の密度および強度は、軟磁性磁極材220、永久磁石210を周方向に固定するために必要な値となるようにそれぞれ設定される。また、凹部202の外周方向の壁部205に接触する部分では、合成樹脂230の密度および強度は、合成樹脂230全体を径方向に固定するために必要な値となるようにそれぞれ設定される。
【0031】
合成樹脂230を充填する場合は、冶具を使用して、永久磁石210および軟磁性磁極材220の位置を鉄心200に対して固定した状態で、実施される。また、合成樹脂230の充填は、軟磁性磁極材220の円弧状の表面226と、軟磁性磁極材220の突出部223の周方向端面とを冶具により覆って実施される。このとき、突出部223の周方向端面に挟まれた冶具部分の内周より内側に充填される。この場合、冶具を外して金属カバー40を設置すると、突出部223の周方向端面に挟まれた部分に空隙231が生じる。このとき、合成樹脂230の外周側表面232は、突出部223の周方向端面に挟まれた冶具部分の内周側表面形状を反映する。合成樹脂230の外周側表面232は、
図3に示すような平面状または円筒状であっても、それより内周側に凹む形状でもよいが、合成樹脂230は、永久磁石210および軟磁性磁極材220を周方向に保持するのに必要な密度・強度を持つ。
【0032】
電動機1の回転子20には、磁極の外周側に金属製のカバー40が装着される。金属製のカバー40で回転子20の表面を抑える構造により、回転子20は径方向に安定に保持される。なお、軟磁性磁極材220の突出部223とカバー40との間には合成樹脂230を充填する空隙が設けられないため、合成樹脂230で軟磁性磁極材220を外周側から内周側に抑える構造にはできない。ただし、軟磁性磁極材220の円弧半径が回転子20の半径に近いため、上記のように金属製のカバー40で回転子20の表面を抑える構造により、径方向のみならず、周方向にも安定的な回転子20の保持ができる。また、軟磁性磁極材220の突出部223より内周側においては、合成樹脂230により、軟磁性磁極材220の磁石側222と永久磁石210とが周方向に保持される。
【0033】
上記のように、回転子20は、軟磁性磁極材220の径方向外側に装着される金属製のカバー40を有している。また、軟磁性磁極材220は磁石側222の周方向に側壁部224を有し、永久磁石210は周方向に側壁部211を有している。さらに、永久磁石210を支持する鉄心200により構成される磁石支持部材206は、永久磁石210の内周側表面と接触する磁石支持接触面207を有している。磁石支持部材206は周方向に前述の側壁部201を有し、凹部202には、軟磁性磁極材220の側壁部224と永久磁石210の側壁部211と磁石支持部材206の側壁部201に接触して、合成樹脂230が充填されている。また、凹部202において、側壁部201の内周側には、充填された合成樹脂230を径方向に固定するための壁部205が形成されている。本実施形態による電動機1の回転子20においては、合成樹脂230と永久磁石210の比透磁率は軟磁性磁極材220と鉄心200に比べて小さく、軟磁性磁極材220と鉄心200とが合成樹脂230及び永久磁石210により分離されている。換言すると、永久磁石210の側壁部211側には高透磁率材が接していない。
【0034】
固定子10は、たとえば、電磁鋼板の分割打ち抜きコアを積層した積層体により固定子コア100を形成し、この固定子コア100に巻線140を形成して、円環に組み、ハウジングに焼嵌めまたは圧入して一体化されることで形成される(
図1参照)。鉄心200には打ち抜き電磁鋼板の積層体を使用できる。軟磁性磁極材220は、固定子コア100や鉄心200に比べて、磁路方向の長さが極めて短く、比透磁率は固定子コア100の数分の1程度でも性能に問題は生じない。そのため、より軟らかい電磁鋼板の打ち抜きによる積層体や、樹脂により柔軟性を高めて成形できる焼結材などの、形状精度を高くできる素材を軟磁性磁極材220として使用できる。磁路方向の長さが極めて短い場合でも、軟らかい電磁鋼板であれば、打ち抜き電磁鋼板の積層体を製造する際に、丸ダボで位置決めした積層が可能になる。既に述べたように、合成樹脂230の充填により鉄心200と永久磁石210と軟磁性磁極材220を周方向に精度よく保持可能であり、SUS316などの金属製のカバー40により固定子10を径方向に保持可能であるため、回転子20を精度よく製造可能である。
【0035】
本実施形態によれば、磁極の端部形状によるトルク生成への寄与を向上させ、より少ない磁石使用量でトルクを生成でき、コギングトルク、トルクリップルに優れた電動機が得られる。
【0036】
(第2の実施形態)
図4は、第2の実施形態に係る回転子20の断面図の部分拡大図である。固定子10の構成は、
図1に示した第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。本実施形態の電動機は14極18スロット集中巻の電動機であり、第1の実施形態と共通の部分は説明を省略する。
【0037】
図4に示すように、鉄心200は、磁石支持部材206の周方向端部に永久磁石210を周方向に挟み保持する突起部203を有する。永久磁石210は、第1の実施形態と同様に、周方向に側壁部211を有する。軟磁性磁極材220は、第1の実施形態と同様である。すなわち、
図4に示すように、固定子10に近い側である固定子側221に、回転子20の回転によって回転子20の外周に形成される回転面内で、円弧状の表面226を有し、かつ永久磁石210に近い側である磁石側222の周方向の幅より固定子側221の周方向の幅が大きくなるように突出部223が形成されている。また、軟磁性磁極材220は、磁石側222の周方向に側壁部224を有する。回転子20は、軟磁性磁極材220の外周側に装着される金属製のカバー40を有する。また、鉄心200は、側壁部201の内周側に、合成樹脂230が充填される凹部202を有する。
【0038】
凹部202には、鉄心200、永久磁石210、軟磁性磁極材220の各側壁部201、211、224に接触するように、合成樹脂230が充填されている。合成樹脂230の密度および強度は、軟磁性磁極材220を周方向に固定するために必要な値となるようにそれぞれ設定される。また、凹部202の外周側の壁部205に接触する部分では、合成樹脂230の密度および強度は、合成樹脂230全体を径方向に固定するために必要な値となるようにそれぞれ設定される。一方、永久磁石210は突起部203により周方向に固定されているため、合成樹脂230の充填時に、永久磁石210の側壁部211に接触する部分において、合成樹脂230の密度や強度を、永久磁石210を周方向に保持するために高める必要がなくなる。
【0039】
凹部202に合成樹脂230を充填する際には、鉄心200の突起部203における側壁部201の一部と、永久磁石210の側壁部211の一部と、軟磁性磁極材220の側壁部224の一部と、軟磁性磁極材220の円弧状の表面226と、軟磁性磁極材220の突出部223の周方向端部とが、冶具により覆われる。これにより、永久磁石210および軟磁性磁極材220の位置を鉄心200に対して固定した状態で、合成樹脂230を充填することが可能になる。このとき、隣り合う突出部223の端部に挟まれた冶具部分の内周側に合成樹脂230が充填されるため、冶具を外すと、冶具の内周側の形状に対応して、合成樹脂230の外周側表面232と、空隙231とが形成される。また、合成樹脂230の外周側表面232は、突出部223の周方向端部に挟まれた冶具部分の内周側形状が反映されるため、
図4に示すような形状や、それより内周側に凹む形状であってよい。ただし、この場合も、合成樹脂230は軟磁性磁極材220を周方向に保持するのに必要な密度・強度を持つことが好ましい。
【0040】
本実施形態による電動機1の回転子20においては、第1の実施形態と同様に、合成樹脂230と永久磁石210の比透磁率は小さく、軟磁性磁極材220と鉄心200とが合成樹脂230及び永久磁石210により分離されている。換言すると、永久磁石210の側壁部211側には高透磁率材が接していない。
【0041】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と比べて、合成樹脂230の強度が少なくても、磁石使用量に対するトルク出力が大きく、コギングトルク、トルクリップルに優れた電動機が得られる。ただし、永久磁石210の径方向の厚さが小さい場合には、鉄心200の突起部203と固定子10との間で磁束漏れが増加するため、第1の実施形態と比較すると、磁石使用量あたりのトルク出力は低下する傾向にある。
【0042】
(第3の実施形態)
図5は、第3の実施形態に係る回転子20の断面図の部分拡大図である。固定子10の構成は、
図1に示した第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。本実施形態の電動機は14極18スロット集中巻の電動機であり、第1、2の実施形態と共通の部分は説明を省略する。
【0043】
図5に示すように、回転子20は、軟磁性磁極材220の外周側に装着される金属製のカバー40を有し、軟磁性磁極材220と鉄心200が合成樹脂230及び永久磁石210により分離されている。さらに、第1、2の実施形態と同様に、軟磁性磁極材220は、磁石側222の周方向に側壁部224を有し、永久磁石210は、周方向に側壁部211を有する。また、第2の実施形態と同様に、鉄心200は、磁石支持部材206に永久磁石210を周方向に挟み保持できる突起部203を有し、この突起部203の周方向に側壁部201を有する。そして、各側壁部224、211、201に接触して充填された合成樹脂230を有する。これにより、軟磁性磁極材220の磁石側と永久磁石210を合成樹脂230により周方向に保持する。また、鉄心200は、側壁部201の内周側に、合成樹脂230が充填される凹部202を有する。
【0044】
合成樹脂230の密度および強度は、軟磁性磁極材220を周方向に固定するために必要な値となるようにそれぞれ設定される。また、凹部202の外周側の壁部205に接触する部分では、合成樹脂230の密度および強度は、合成樹脂230全体を径方向に固定するために必要な値となるようにそれぞれ設定される。一方、永久磁石210は突起部203により周方向に固定されているため、合成樹脂230の充填時に、永久磁石210の側壁部211に接触する部分において、合成樹脂230の密度や強度を、永久磁石210を周方向に保持するために高める必要がなくなる。
【0045】
凹部202に合成樹脂230を充填する際には、鉄心200の側壁部201の一部と、永久磁石210の側壁部211の一部とが、冶具により覆われる。これにより、永久磁石210および軟磁性磁極材220の位置を鉄心200に対して固定した状態で、合成樹脂230を充填することが可能になる。また本実施形態では、冶具が、軟磁性磁極材220の磁石接触面と一致する形状を有する冶具を用いることにより、かつ、軟磁性磁極材220の磁石側側壁部224の表面と一致する形状を内周側で有する冶具を用いることにより、永久磁石210設置後に合成樹脂230を形成可能になる。このとき、軟磁性磁極材220の内周側の表面と、永久磁石210の外周側の表面とが、互いに合致する形状を有しており、合成樹脂230の形成後に、軟磁性磁極材220を設置可能になる。
【0046】
このとき、隣り合う軟磁性磁極材220の側壁部224の間における、冶具の内周側の形状に対応して、合成樹脂230の外周側表面232Bが形成され、空隙231Bが形成される。また、隣り合う軟磁性磁極材220の側壁部224の間における、冶具の内周側の形状において、軟磁性磁極材220の側壁部224の内周側のみと形状が一致し、他の冶具形状が内周側に存在する場合は、
図5に示すように、合成樹脂230に生じる空隙231Bは、軟磁性磁極材220の磁石側側壁部224に達する。一方、隣り合う軟磁性磁極材220の側壁部224の間における、冶具の内周側の形状において、軟磁性磁極材220の側壁部224と、軟磁性磁極材220の突出部223の内周側表面の一部と形状が一致し、他の冶具形状が内周側に存在する場合は、合成樹脂230に生じる空隙231Bは、軟磁性磁極材220の突出部223の内周側表面に達するが、側壁部224には達しない。
【0047】
なお、本実施形態において、磁石支持部材206は、永久磁石210を周方向に挟み保持できる突起部203を有さずともよい。この場合は、永久磁石210の側壁部211に接触する部分の合成樹脂230の密度および強度は、第1の実施形態と同様に、永久磁石210を周方向に固定するために、必要な値となるようにそれぞれ設定される。
【0048】
第3の実施形態によれば、第2の実施形態と同様に、合成樹脂230の強度が少なくても、磁石使用量に対するトルク出力が大きく、コギングトルク、トルクリップルに優れた電動機が得られる。ただし、永久磁石210の径方向の厚さが小さい場合には、鉄心200の突起部203と固定子10との間で磁束漏れが増加するため、第1の実施形態と比較すると、磁石使用量あたりのトルク出力は低下する傾向にある。
【0049】
(第4の実施形態)
図6は、第4の実施形態に係る回転子20の断面図の部分拡大図である。固定子10の構成は、
図1に示した第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。本実施形態の電動機は14極18スロット集中巻の電動機であり、第1、3の実施形態と共通の部分は説明を省略する。
【0050】
図6に示すように、回転子20は、軟磁性磁極材220の外周側に装着される金属製のカバー40を有し、軟磁性磁極材220と鉄心200が合成樹脂230、空隙231C及び永久磁石210により分離されている。さらに、軟磁性磁極材220は、磁石側222の周方向に、側壁部224と、永久磁石210を周方向に挟み保持できる突起部225とを有する。また、第1の実施形態と同様に、永久磁石210は、周方向に側壁部211を有し、磁石支持部材206は、周方向に側壁部201を有する。また、永久磁石210の側壁部211と磁石支持部材206の側壁部201に接触して充填された合成樹脂230を有する。これにより、軟磁性磁極材220と永久磁石210を合成樹脂230により周方向に保持する。また、鉄心200は、側壁部201の内周側に、合成樹脂230が充填される凹部202を有する。
【0051】
合成樹脂230の密度および強度は、軟磁性磁極材220と永久磁石210を周方向に固定するために必要な値となるようにそれぞれ設定される。また、凹部202の外周側の壁部205に接触する部分では、合成樹脂230の密度および強度は、合成樹脂230全体を径方向に固定するために必要な値となるようにそれぞれ設定される。ただし、軟磁性磁極材220は、突起部225が永久磁石210を周方向に挟み保持することで、永久磁石210と共に周方向に固定される。そのため、合成樹脂230が軟磁性磁極材220の側壁部224に接触する必要がなくなる。このため、本実施形態では、
図6に示すように、合成樹脂230は永久磁石210の側壁部211と鉄心200の側壁部201に接触するように充填される。
【0052】
凹部202に合成樹脂230を充填する際には、鉄心200の側壁部201の一部と、永久磁石210の側壁部211の一部とが、冶具により覆われる。これにより、永久磁石210および軟磁性磁極材220の位置を鉄心200に対して固定した状態で、合成樹脂230を充填することが可能になる。また本実施形態では、永久磁石210の側壁部211の内周側と一致する形状を有する冶具を用いることにより、かつ、永久磁石210の内周側の表面と一致しかつ磁石支持部材206の外周側表面207と密着できる形状を有する冶具を用いることにより、合成樹脂230の形成後に、前記磁石と前記軟磁性磁極材220を設置可能になる。これにより、永久磁石210の内周側の表面と、磁石支持部材206の外周側の表面、すなわち磁石支持接触面207とが密着できる。このとき、隣り合う永久磁石210の側壁部211の間における、冶具の内周側の形状に対応して、合成樹脂230の外周側表面232Cが形成され、空隙231Cが形成される。
【0053】
また、合成樹脂230を充填することは、永久磁石210を設置後に実施することも可能である。この場合は、永久磁石210の外周側の表面と一致する形状を有する冶具を用いることにより、かつ、永久磁石210の側壁部211の外周側と一致する形状を有する冶具を用いることにより、合成樹脂230の形成後に、前記軟磁性磁極材220を設置可能になる。これにより、軟磁性磁極材220と永久磁石210とが密着でき、合成樹脂230の形成後に、軟磁性磁極材220を設置可能になる。このとき、隣り合う永久磁石210の側壁部211の間における、冶具の内周側の形状に対応して、合成樹脂230の外周側表面232Cが形成され、空隙231Cが形成される。
【0054】
軟磁性磁極材220は、金属製のカバー40により径方向に保持される。また、軟磁性磁極材220の円弧状表面226の半径が回転半径に近く、金属製のカバー40の半径にも近いため、軟磁性磁極材220は周方向にも保持される。
【0055】
第4の実施形態によれば、合成樹脂230の量が少なくても、磁石使用量に対するトルク出力が大きく、コギングトルク、トルクリップルに優れた電動機が得られる。ただし、第1の実施形態と比較すると、軟磁性磁極材220の突起部225と固定子10との間の磁束漏れと、隣り合う軟磁性磁極材220の側壁部224同士の距離が近づくことによる磁束漏れとが増加するため、磁石使用量あたりのトルク出力は低下する傾向にある。前者の磁束漏れは永久磁石210の径方向の厚さが小さい場合に問題になるが、鉄心200と一体の側壁を有する場合よりは有利である。後者の磁束漏れは対向する突出部223の距離を大きくすることで調整可能である。
【0056】
(第5の実施形態)
図7は、第5の実施形態に係る回転子20の断面図の部分拡大図である。固定子10の構成は、
図1に示した第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。本実施形態の電動機は14極18スロット集中巻の電動機であり、第3、4の実施形態と共通の部分は説明を省略する。
【0057】
図7に示すように、回転子20は、軟磁性磁極材220の外周側に装着される金属製のカバー40を有し、軟磁性磁極材220と鉄心200が合成樹脂230、空隙231C及び永久磁石210により分離している。さらに、第4の実施形態と同様に、軟磁性磁極材220は、磁石側222の周方向に、側壁部224と、永久磁石210を周方向に挟み保持できる突起部225とを有する。さらに、永久磁石210は、周方向に側壁部211を有し、第2、第3の実施形態と同様に、鉄心200は、磁石支持部材206に永久磁石210を周方向に挟み保持できる突起部203を有し、この突起部203の周方向に側壁部201を有する。
【0058】
回転子20は、上記のように軟磁性磁極材220が突起部225を有し、磁石支持部材206が突起部203を有するため、合成樹脂230を充填しなくても、永久磁石210および軟磁性磁極材220の周方向の位置決めと保持を行うことができる。また、合成樹脂230を充填する場合は、冶具から永久磁石210および軟磁性磁極材220の周方向の位置決め部材を省くことができる。
【0059】
以下では、第5の実施形態における
図7を用いて、永久磁石210の周方向の側壁部211の内周側まで、合成樹脂230を充填し、周方向保持を2重に実施する場合について述べる。
第5の実施形態における
図7では、永久磁石210の周方向の側壁部211と磁石支持部材206の周方向の側壁部201とに接触して、合成樹脂230が充填されている。そのため、突起部203、225と合成樹脂230により、軟磁性磁極材220と永久磁石210を周方向に保持することができる。また、鉄心200は、側壁部201の内周側に、合成樹脂230が充填される凹部202を有する。合成樹脂230の密度および強度は、軟磁性磁極材220と永久磁石210を周方向に固定するために必要な値となるようにそれぞれ設定される。また、凹部202の外周側の壁部205に接触する部分では、合成樹脂230の密度および強度は、合成樹脂230全体を径方向に固定するために必要な値となるようにそれぞれ設定される。
【0060】
本実施形態では、合成樹脂230を充填製造する際に、永久磁石210の側壁部211の内周側と一致する形状を有する冶具を用いることにより、かつ、永久磁石210の内周側の表面と一致する形状を有する冶具を用いることにより、合成樹脂230の形成後に、永久磁石210と軟磁性磁極材220を設置可能になる。このとき、永久磁石210の内周側の表面と、磁石支持部材206の外周側の表面、すなわち磁石支持接触面207とが、互いに合致する形状を有している。このとき、隣り合う永久磁石210の側壁部211の間における、冶具の内周側の形状に対応して、合成樹脂230の外周側表面232Cが形成され、空隙231Cが形成される。また、合成樹脂230を充填することは、永久磁石210を設置後に実施することも可能であり、冶具が、永久磁石210の外周側の表面と一致する形状を有し、永久磁石210の側壁部211の外周側と一致する形状を有して、永久磁石210の表面と密着できることにより、合成樹脂230の形成後に、軟磁性磁極材220を設置可能になる。
【0061】
軟磁性磁極材220は、金属製のカバー40により径方向に保持される。また、軟磁性磁極材220の円弧状表面226の半径が回転半径に近く、金属製のカバー40の半径に近いため、周方向にも保持される。
【0062】
第5の実施形態によれば、合成樹脂230の量が少なくても、磁石使用量に対するトルク出力が大きく、コギングトルク、トルクリップルに優れた電動機が得られる。ただし、永久磁石210の外周側と内周側に高透磁率材の突起部203、225がそれぞれ存在するため、第1の実施形態に比べてNS極間の磁束の漏れが大きくなり、出力に対する磁石使用量比が低下する傾向にある。これについては、永久磁石210の径方向の厚さが小さい場合に問題になるが、鉄心200と一体の側壁を有する場合よりは有利である。また、隣り合う軟磁性磁極材220の側壁部224同士の距離が近づくことによる磁束漏れが増加するため、磁石使用量あたりのトルク出力は低下する傾向にあるが、これは対向する突出部223の距離を大きくすることで調整可能である。
【0063】
(第6の実施形態)
図8は、第6の実施形態に係る回転子20の断面図の部分拡大図である。本実施形態の電動機は10極60スロット分布巻ブラシレスの電動機である。
【0064】
図8に示すように、回転子20は、軟磁性磁極材220の外周側に装着される金属製のカバー40を有し、軟磁性磁極材220と鉄心200が永久磁石210および合成樹脂230により分離されている。さらに、軟磁性磁極材220は、磁石側222の周方向に側壁部224を有し、永久磁石210は、周方向に側壁部211を有し、磁石支持部材206は、周方向に側壁部201を有する。そして、各側壁部224、211、201に接触して合成樹脂230が充填されている。各側壁部224、211、201と合成樹脂230が接触することにより、軟磁性磁極材220と永久磁石210とが周方向に保持されている。また、鉄心200は、側壁部201の内周側に、合成樹脂230が充填される凹部202を有する。第6の実施形態において、第4、第5の実施形態と共通する合成樹脂230に関する説明は、省略する。
【0065】
第6の実施形態では、
図8に示すように、軟磁性磁極材220の固定子側の表面226の円弧半径が金属製のカバー40の内周の半径より小さい。そのため、軟磁性磁極材220の周方向突出部223の先端の対向距離が、NS極間の距離より大きい。すなわち、軟磁性磁極材220の端部の厚みが大きいことによる磁束漏れでのコギングトルクの増加を抑制するために、隣接磁極間距離が大きくなっている。また、隣接磁極間距離が大きいことによるトルクリップルの増加を抑制するために、表面226の円弧半径が小さくなっている。
図8に示すように、軟磁性磁極材220の周方向突出部223と金属製のカバー40の間に空隙(約1mm以下)がある。この空隙にも樹脂を充填することで軟磁性磁極材220を径方向に保持することができる。
【0066】
なお、本実施形態において、軟磁性磁極材220は、第4、第5の実施形態と同様に、永久磁石210を周方向に挟み保持できる突起部225を有してもよい。また、第2、第3、第5の実施形態と同様に、磁石支持部材206は、永久磁石210を周方向に挟み保持できる突起部203を有してもよい。この場合は、永久磁石210は突起部203により周方向に固定できているため、合成樹脂230の密度や強度を、永久磁石210の保持に必要な値に高める必要がなくなる。一方、突起部225、203と固定子10との間の磁束漏れが小さいように設計する必要が生じる。
【0067】
鉄心200と軟磁性磁極材220の説明は省略する。固定子10は、円環状のコアバック110の内周側に60本のティース130を有する形状を有している。固定子10は、たとえば、電磁鋼板を打ち抜いた単層コアを積層した積層体により固定子コア100を形成し、この固定子コア100に巻線140を挿入して溶接により結線することで形成される。固定子10は、ハウジングに焼嵌めまたは圧入して一体化される。
【0068】
第6の実施形態によれば、磁石使用量に対するトルク出力が大きく、コギングトルク、トルクリップルに優れた電動機が得られる。
【0069】
(第7の実施形態)
図9は、第7の実施形態に係る回転子20の断面図の部分拡大図である。本実施形態の電動機は12極18スロット集中巻の電動機である。
【0070】
図9に示すように、回転子20は、軟磁性磁極材220の外周側に装着される金属製のカバー40を有し、軟磁性磁極材220と鉄心200が永久磁石210および合成樹脂230により分離されている。さらに、軟磁性磁極材220は、磁石側222の周方向に側壁部224を有し、永久磁石210は、周方向に側壁部211を有し、磁石支持部材206は、周方向に側壁部201を有する。そして、各側壁部201、211、224に接触して合成樹脂230が充填されている。各側壁部201、211、224と合成樹脂230が接触することにより、軟磁性磁極材220と永久磁石210とが周方向に保持されている。また、鉄心200は、側壁部201の内周側に、合成樹脂230が充填される凹部202を有する。第7の実施形態において、第4、第5の実施形態と共通する合成樹脂230に関する説明は、省略する。
【0071】
第7の実施形態では、
図9に示すように、軟磁性磁極材220の固定子側の表面226の円弧半径が金属製のカバー40の内周の半径より小さい。しかし、軟磁性磁極材220の表面226の円弧半径は、軟磁性磁極材220が周方向に突出部223を有さない場合や、従来の表面磁石型の電動機で用いられる回転子の半径よりも大きくすることができる。これにより、よりトルクを有効に生成可能になる。ただし、コギングトルクとトルクリップルを十分低減するためには、スキューなどの他の手段を併用することが好ましい。
図9に示すように、軟磁性磁極材220の周方向突出部223と金属製のカバー40の間に空隙(約1mm以下)がある。この空隙にも樹脂を充填することで軟磁性磁極材220を径方向に保持することができる。
【0072】
なお、本実施形態においても、軟磁性磁極材220は、第4、第5の実施形態と同様に、永久磁石210を周方向に挟み保持できる突起部225を有してもよい。また、第2、第3、第5の実施形態と同様に、磁石支持部材206は、永久磁石210を周方向に挟み保持できる突起部203を有してもよい。この場合は、永久磁石210は突起部203により周方向に固定できているため、合成樹脂230の密度や強度を、永久磁石210の保持に必要な値に高める必要がなくなる。一方、突起部225、203と固定子10との間の磁束漏れが小さいように設計する必要が生じる。固定子10のコアと鉄心200と軟磁性磁極材220の説明は省略する。固定子10の巻線140に関しては、12極18スロットに対応した巻線配置が必要になる。
【0073】
第7の実施形態によれば、磁石使用量に対するトルク出力が大きく、コギングトルク、トルクリップルに優れた電動機が得られる。なお、同じ2:3系列の8極12スロット集中巻の電動機に対しても、本実施形態と同様の形状の軟磁性磁極材を適用可能である。
【0074】
以下に、本実施形態の優位性について比較例1、2を参照して説明する。
図10は比較例1であり、14極18スロット集中巻の電動機であって、回転子の部分拡大図を示す。比較例1は表面磁石式であり、
図10に示すように、電動機1は、ティース130を有する固定子10と、径方向にエアギャップ30を介して固定子10と向き合う回転子20とを備える。固定子10は第1の実施例と同様である。回転子20は、外周表面に永久磁石210を備える。永久磁石210は、鉄心200に設けられた磁石止299の間に設置されて周方向に保持され、金属製のカバー40により径方向に保持される。回転子20の半径は第1の実施例と同様である。比較例1は、軟磁性磁極材がないため、永久磁石210の厚みが増加し、磁極円弧半径が小さくなる。
【0075】
図11は比較例2であり、14極18スロット集中巻の電動機であって、回転子の部分拡大図を示す。比較例2は埋込磁石式であり、
図11に示すように、電動機1は、ティース130を有する固定子10と、径方向にエアギャップ30を介して固定子10と向き合う回転子20とを備える。固定子10は第1の実施例と同様である。回転子20は、鉄心200と一体に形成された軟磁性磁極220を有し、軟磁性磁極220の孔部に永久磁石210が設置される。固定子10の内周半径と回転子20の外周半径との差を0.5mmとして短縮し、永久磁石210の周方向側の軟磁性磁極220の側壁部の厚みを0.5mmとした。また、軟磁性磁極220の円弧半径を小さくした。固定子10の内周半径と回転子20の外周半径との差を短縮したのは、トルクを大きくするためであり、永久磁石210の周方向側の軟磁性磁極220の側壁部の厚みを0.5mmとしたのは、問題なく量産できる寸法とするためである。また、軟磁性磁極220の円弧半径を小さくしたのはコギングトルクとトルクリップルを抑制するためである。
【0076】
図12は、比較例と実施形態との特徴を説明する図である。
図12において、表面磁石式の比較例1と、埋込磁石式の比較例2と、第1の実施形態について、比較例1を基準としてブロック換算した磁石体積の比と、コギングトルク/5mNmと、トルクリップル(%)を比較した。これらの物理量は、固定子10、回転子20、および、固定子10と回転子20の間のエアギャップ30の磁束分布と、エアギャップ30の電磁応力を有限要素法による磁界解析で計算し、回転角に対応するトルクを算出することにより得たものである。トルクリップルは回転面内の2次元的な解析から得ることができる。磁石体積とコギングトルクについては、上記3例のトルク定数を一致させることで、3例の軸方向の積厚の関係が得られるため、磁石体積とコギングトルクを得ることができる。埋込磁石式の比較例2においては、磁石体積は比較例1に近い。ただし、トルクを大きくするためにエアギャップ30を短縮したが、永久磁石210の周方向側の軟磁性磁極220の側壁部の厚みによる磁束もれとトルク低加およびトルクリップルの増加の影響の方が大きい結果となり、また、積厚は第1の実施形態の1.25倍となったため、効果は認められなかった。一方、
図12において、磁石体積は第1の実施形態が最小であり、コギングトルクとトルクリップルも小さく、効果のあることが示された。
【0077】
本実施形態によれば、軟磁性磁極材220の円弧半径が回転子半径に近く、軟磁性磁極材220と固定子内径との平均的距離が小さいためトルクが向上する効果がある。また、軟磁性磁極材220の円弧半径が大きいため、コギングトルクとトルクリップルが増加する傾向になるが、これについては、軟磁性磁極材220の外周面を延長させる形で突出部を設けて回転子磁極間に磁束漏れを生じさせることにより、コギングトルクを小さくできる。また、突出部より内周側は、軟磁性磁極材220の磁石側の軟磁性磁極材220であり、回転子の鉄心200と分離されており、かつ、突出部の周方向の幅より小さく形成された形状になっており、回転子磁極間の磁束漏れを抑制できるため、コギングトルクを小さくでき、かつ、トルクリップルの増加を抑制する形状にできる。また、軟磁性磁極材220の円弧半径が回転子半径に近いと、永久磁石210の周方向端部の磁極材が厚くなり、磁束が軟磁性磁極材220を自由に移動できることから、減磁界の端部集中が大きく緩和され、熱減磁が抑制される。これにより、磁石厚みを低減し、磁石質量あたりのトルク出力の向上が可能になる。このように、磁極端部形状と隣接磁極間の空間とを有効に利用して、少ない磁石使用量でトルクを生成できる回転子構造を提供可能になる。
【0078】
以上説明した実施形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)電動機1は、固定子10と、固定子10と対向して設けられ、径方向に、鉄心200と、永久磁石210と、軟磁性磁極材220とを配置して磁極を構成する回転子20と、を備え、軟磁性磁極材220は、固定子10に近い側に円弧状の表面を有し、かつ永久磁石210よりも大きな幅を回転子20の周方向に有する突出部223が形成されている。これにより、磁極の端部形状によるトルク生成への寄与を向上させ、より少ない磁石使用量でトルクを生成できる。
【0079】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の特徴を損なわない限り、本発明の技術思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。また、上述の実施形態を組み合わせた構成としてもよい。