特許第6629152号(P6629152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6629152
(24)【登録日】2019年12月13日
(45)【発行日】2020年1月15日
(54)【発明の名称】造形装置及び造形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/386 20170101AFI20200106BHJP
   B29C 64/112 20170101ALI20200106BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20200106BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20200106BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20200106BHJP
【FI】
   B29C64/386
   B29C64/112
   B33Y50/00
   B33Y30/00
   B33Y10/00
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-159875(P2016-159875)
(22)【出願日】2016年8月17日
(65)【公開番号】特開2018-27628(P2018-27628A)
(43)【公開日】2018年2月22日
【審査請求日】2018年11月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100142653
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大川 将勝
(72)【発明者】
【氏名】越智 和浩
【審査官】 神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−168202(JP,A)
【文献】 特開2016−107637(JP,A)
【文献】 特開2015−221515(JP,A)
【文献】 特開平06−015223(JP,A)
【文献】 特開2014−138985(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/099797(WO,A1)
【文献】 特開2015−123685(JP,A)
【文献】 特開2016−093912(JP,A)
【文献】 特表2006−503735(JP,A)
【文献】 特開2002−292798(JP,A)
【文献】 特開2016−043678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00−64/40
B33Y 10/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体的な造形物を造形する造形装置であって、
造形の材料をそれぞれ吐出する複数の吐出ヘッドと、
前記吐出ヘッドの動作を制御する制御部と
を備え、
前記複数の吐出ヘッドとして、少なくとも、
黒色の材料を吐出する黒色材料用ヘッドと、
透光性の材料を吐出する透光性材料用ヘッドと
有彩色の着色用の材料を吐出する着色材料用ヘッドと
を有し、
前記制御部は、前記複数の吐出ヘッドに、
前記造形物において外部から色彩を識別できる部分の少なくとも一部に、前記黒色の材料を用いて黒色に着色される黒色領域を形成させ、
前記黒色領域は、
前記黒色の材料を用いて黒色に着色される第1領域と、
少なくとも前記透光性の材料を用いて形成される、前記第1領域よりも光の透過率が高い領域であり、前記第1領域を外側から覆う第2領域と
を有し、
前記制御部は、前記複数の吐出ヘッドに、前記造形物において外部から色彩を識別できる部分の少なくとも一部に、前記着色用の材料を用いて着色される着色領域を更に形成させ、
前記造形物の表面と垂直な法線方向における厚さについて、前記着色領域の厚さと、前記黒色領域の厚さとを等しくすることを特徴とする造形装置。
【請求項2】
前記吐出ヘッドとして、光反射性の材料を吐出する光反射材料用ヘッドを更に有し、
前記制御部は、
少なくとも前記光反射材料用ヘッドを用いて、前記光反射性の領域である光反射領域を形成させ、
前記複数の吐出ヘッドに、前記着色領域を、前記光反射領域の少なくとも一部の外側に形成させることを特徴とする請求項に記載の造形装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記光反射領域の少なくとも一部の外側のうち、前記着色領域が形成されていない部分の少なくとも一部に、前記複数の吐出ヘッドに、前記黒色領域を形成させることを特徴とする請求項に記載の造形装置。
【請求項4】
前記透光性材料用ヘッドは、前記透光性の材料としてクリアインクを吐出し、
前記制御部は、前記透光性材料用ヘッドに、無色で透明な前記第2領域を形成させることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の造形装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記複数の吐出ヘッドに、前記第1領域よりも薄い黒色に着色された前記第2領域を形成させることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の造形装置。
【請求項6】
前記黒色領域は、前記第1領域と前記第2領域との間に挟まれる領域である中間領域を更に有し、
前記中間領域に対する光の透過率について、前記第1領域の透過率よりも高く、前記第2領域の透過率よりも低い透過率になるように、前記制御部は、前記黒色材料用ヘッド及び前記透光性材料用ヘッドに、前記中間領域を形成させることを特徴とする請求項1から
のいずれかに記載の造形装置。
【請求項7】
前記造形物の表面と垂直な法線方向における厚さについて、前記第1領域は、前記第2領域よりも厚いことを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の造形装置。
【請求項8】
前記造形物の表面と垂直な法線方向における前記第2領域の厚さは、40μm以上であることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の造形装置。
【請求項9】
前記黒色領域は、ピアノブラック色に着色される領域であることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の造形装置。
【請求項10】
立体的な造形物を造形する造形方法であって、
造形の材料をそれぞれ吐出する複数の吐出ヘッドとして、少なくとも、
黒色の材料を吐出する黒色材料用ヘッドと、
透光性の材料を吐出する透光性材料用ヘッドと
有彩色の着色用の材料を吐出する着色材料用ヘッドと
を用い、
前記複数の吐出ヘッドに、
前記造形物において外部から色彩を識別できる部分の少なくとも一部に、前記黒色の材料を用いて黒色に着色される黒色領域を形成させ、
前記黒色領域は、
前記黒色の材料を用いて黒色に着色される第1領域と、
少なくとも前記透光性の材料を用いて形成される、前記第1領域よりも光の透過率が高い領域であり、前記第1領域を外側から覆う第2領域と
を有し、
前記複数の吐出ヘッドに、前記造形物において外部から色彩を識別できる部分の少なくとも一部に、前記着色用の材料を用いて着色される着色領域を更に形成させ、
前記造形物の表面と垂直な法線方向における厚さについて、前記着色領域の厚さと、前記黒色領域の厚さとを等しくすることを特徴とする造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形装置及び造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットヘッドを用いて造形物を造形する造形装置(3Dプリンタ)が知られている(例えば、特許文献1参照。)。このような造形装置においては、例えば、インクジェットヘッドにより形成するインクの層を複数層重ねることにより、積層造形法で造形物を造形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−71282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
造形物を着色する場合においては、例えば黒色のインクを用いて、一部の領域を黒色に着色する場合がある。そして、この場合、外部からの黒色の見え方について、例えばピアノブラック色等の深みのある黒色を表現することが望まれる場合がある。そのため、従来、このような深みのある黒色をより適切に表現できる構成が望まれていた。そこで、本発明は、上記の課題を解決できる造形装置及び造形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
インクジェットヘッドを用いて造形を行う場合、黒色のインクや、その他の着色用のインクを用いて造形を行うことにより、着色された造形物を造形することが考えられる。この場合、例えば、外部から色彩を視認できる表面の領域を着色用のインク等で形成することにより、様々な色の着色を行うことができる。
【0006】
また、この場合、黒色のインクで形成する黒色の領域については、外部から入射した光を十分に吸収するように形成することが望ましい。そのため、黒色の領域の形成に用いる黒色のインクについて、より確実に光を吸収するように、濃い黒色のインクを用いることが考えられる。
【0007】
しかし、濃い黒色のインクで黒色の領域を形成する場合、単に均一に黒色の領域を形成するのみでは、表面のみが黒色に着色されているような印象になり、深みのある黒色を表現することが難しくなる場合がある。より具体的には、例えば、光沢性で深みのある黒色であるピアノブラック色等を表現しようとする場合において、黒色の深みが不十分な印象になり、高級感のあるピアノブラック色等を十分に表現できない場合もある。
【0008】
これに対し、本願の発明者は、鋭意研究により、単に均一に黒色の領域を形成するのではなく、造形物の法線方向において黒色の領域の透過率を変化させることを考えた。また、その構成として、より具体的に、黒色の領域について、造形物の外部に近い側である外側の部分の透過率を造形物の内部に近い側である内側の部分の透過率よりも高くすることを考えた。また、これにより、例えば、単に均一に黒色の領域を形成する場合等と比べ、深みのある黒色をより適切に表現し得ることを見出した。また、更なる鋭意研究により、このような効果を得るために必要な特徴を見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、上記の課題を解決するために、本発明は、立体的な造形物を造形する造形装置であって、造形の材料をそれぞれ吐出する複数の吐出ヘッドと、前記吐出ヘッドの動作を制御する制御部とを備え、前記複数の吐出ヘッドとして、少なくとも、黒色の材料を吐出する黒色材料用ヘッドと、透光性の材料を吐出する透光性材料用ヘッドとを有し、前記制御部は、前記複数の吐出ヘッドに、前記造形物において外部から色彩を識別できる部分の少なくとも一部に、前記黒色の材料を用いて黒色に着色される黒色領域を形成させ、前記黒色領域は、前記黒色の材料を用いて黒色に着色される第1領域と、少なくとも前記透光性の材料を用いて形成される、前記第1領域よりも光の透過率が高い領域であり、前記第1領域を外側から覆う第2領域とを有する。
【0010】
このように構成した場合、例えば、黒色領域の表面のみで光が吸収されることを防いで、黒色領域のある程度内部にまで光を進入させることができる。また、黒色に着色される第1領域を内側に形成することにより、第2領域を介して入射した光について、適切かつ十分に吸収して、黒色を表現できる。そのため、このように構成すれば、例えば、黒色領域において、深みのある黒色をより適切に表現できる。
【0011】
尚、この構成において、黒色領域とは、例えば、表面における所定面積以上の部分が黒で塗りつぶされる領域である。また、この構成において、黒色とは、例えば、求められる着色の精度に応じて、実質的に黒色であればよい。また、黒色とは、例えば、光吸収性の無彩色の色である。
【0012】
また、黒色領域は、造形物において黒色に着色される部分のうち、ユーザや造形データにより指定される一部の領域であってよい。そのため、例えば着色領域の一部を黒色に着色する場合、その部分については、上記の黒色領域ではなく、着色領域の一部と考えてよい。
【0013】
また、この構成において、第2領域は、例えば、無色透明の領域である。また、第2領域は、第1領域よりも薄い黒色に着色された領域等であってもよい。また、黒色領域については、例えば、外側から内側へ向かって徐々に濃い黒色に変化するグラデーション状に形成してもよい。この場合、例えば、黒色領域の内側の一部分を第1の領域と考え、外側の一部分を第2の領域と考えることができる。
【0014】
また、本発明の構成として、上記と同様の特徴を有する造形方法等を用いることも考えられる。この場合も、例えば、上記と同様の効果を得ることができる。また、この造形方法については、例えば、造形物の製造方法と考えることもできる。また、本発明の構成として、この造形装置又は造形方法で造形される造形物の構成を考えることもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、例えば、造形物を造形する造形装置において、深みのある黒色をより適切に表現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る造形装置10の一例を示す図である。図1(a)は、造形装置10の要部の構成の一例を示す。図1(b)は、造形装置10のおけるヘッド部12の構成の一例を示す。
図2】造形装置10により造形する造形物50の構成の一例を示す図である。図2(a)は、造形物50の構成の一例の断面図である。図2(b)は、黒色領域308の特徴等について更に詳しく説明をする図である。図2(c)は、黒色領域308の構成について更に詳しく説明をする図である。
図3】造形物50の特徴について更に詳しく説明をする図である。図3(a)は、造形装置10により造形する造形物50の構成の他の例を示す。図3(b)は、造形物50の構成の変形例を示す。図3(c)は、造形物50の構成の更なる変形例を示す図である。
図4】造形物50の構成の更なる変形例について説明をする図である。図4(a)、(b)は、造形物50の構成の更なる変形例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る造形装置10の一例を示す。図1(a)は、造形装置10の要部の構成の一例を示す。図1(b)は、造形装置10のおけるヘッド部12の構成の一例を示す。
【0018】
尚、以下に説明をする点を除き、造形装置10は、公知の造形装置と同一又は同様の構成を有してよい。より具体的に、以下に説明をする点を除き、造形装置10は、例えば、インクジェットヘッドを用いて造形物50の材料となる液滴を吐出することで造形を行う公知の造形装置と同一又は同様の構成を有してよい。また、造形装置10は、図示した構成以外にも、例えば、造形物50の造形や着色等に必要な各種構成を更に備えてよい。
【0019】
本例において、造形装置10は、積層造形法により立体的な造形物50を造形する造形装置(3D造形装置)である。この場合、積層造形法とは、例えば、複数の層を重ねて造形物50を造形する方法である。造形物50とは、例えば、立体的な三次元構造物のことである。また、本例において、造形装置10は、ヘッド部12、造形台14、走査駆動部16、及び制御部20を備える。
【0020】
ヘッド部12は、造形物50の材料を吐出する部分である。この場合、造形物50の材料を吐出するとは、例えば、造形物50の材料となるインクを吐出することである。また、インクとは、例えば、インクジェットヘッドから吐出する液体のことである。インクジェットヘッドとは、例えば、インクジェット方式でインクの液滴(インク滴)を吐出する吐出ヘッドのことである。
【0021】
また、より具体的に、ヘッド部12は、造形物50の材料となる液滴として、複数のインクジェットヘッドから、所定の条件に応じて硬化するインクの液滴を吐出する。そして、着弾後のインクを硬化させることにより、造形物50を構成する各層を重ねて形成する。また、本例では、インクとして、紫外線の照射により液体状態から硬化する紫外線硬化型インク(UVインク)を用いる。
【0022】
また、ヘッド部12は、造形物50の材料に加え、サポート層52の材料を更に吐出する。また、これにより、造形装置10は、造形物50の周囲に、必要に応じて、サポート層52を形成する。サポート層52とは、例えば、造形中の造形物50の外周を囲むことで造形物50を支持する積層構造物のことである。サポート層52は、造形物50の造形時において、必要に応じて形成され、造形の完了後に除去される。また、ヘッド部12のより具体的な構成については、後に詳しく説明をする。
【0023】
造形台14は、造形中の造形物50を支持する台状部材であり、ヘッド部12におけるインクジェットヘッドと対向する位置に配設され、造形中の造形物50を上面に載置する。また、本例において、造形台14は、少なくとも上面が積層方向(図中のZ方向)へ移動可能な構成を有しており、走査駆動部16に駆動されることにより、造形物50の造形の進行に合わせて、少なくとも上面が移動する。この場合、積層方向とは、例えば、積層造形法において造形の材料が積層される方向のことである。また、より具体的に、本例において、積層方向は、主走査方向(図中のY方向)及び副走査方向(図中のX方向)と直交する方向(図中のZ方向)である。
【0024】
走査駆動部16は、造形中の造形物50に対して相対的に移動する走査動作をヘッド部12に行わせる駆動部である。この場合、造形中の造形物50に対して相対的に移動するとは、例えば、造形台14に対して相対的に移動することである。また、本例において、走査駆動部16は、主走査動作(Y走査)、副走査動作(X走査)、及び積層方向走査(Z走査)をヘッド部12に行わせる。
【0025】
ここで、ヘッド部12に主走査動作を行わせるとは、例えば、ヘッド部12が有するインクジェットヘッドに主走査動作を行わせることである。また、主走査動作とは、例えば、主走査方向へ移動しつつインクを吐出する動作である。本例において、走査駆動部16は、主走査方向における造形台14の位置を固定して、ヘッド部12の側を移動させることにより、ヘッド部12に主走査動作を行わせる。造形装置10の構成の変形例においては、例えば、主走査方向におけるヘッド部12の位置を固定して、例えば造形台14を移動させることにより、造形物50の側を移動させてもよい。
【0026】
また、以下において詳しく説明をするように、本例において、ヘッド部12は、紫外線光源を更に有する。そして、主走査動作時において、走査駆動部16は、ヘッド部12における紫外線光源の駆動を更に行う。より具体的に、走査駆動部16は、例えば、主走査動作時に紫外線光源を点灯させることにより、造形物50の被造形面に着弾したインクを硬化させる。造形物50の被造形面とは、例えば、ヘッド部12により次のインクの層が形成される面のことである。
【0027】
また、ヘッド部12に副走査動作を行わせるとは、例えば、ヘッド部12が有するインクジェットヘッドに副走査動作を行わせることである。副走査動作とは、例えば、主走査方向と直交する副走査方向へ造形台14に対して相対的に移動する動作である。副走査動作は、予め設定された送り量だけ副走査方向へ造形台14に対して相対的に移動する動作であってよい。
【0028】
また、本例において、走査駆動部16は、主走査動作の合間に、ヘッド部12に副走査動作を行わせる。この場合、走査駆動部16は、例えば、副走査方向におけるヘッド部12の位置を固定して、造形台14を移動させることにより、ヘッド部12に副走査動作を行わせる。また、走査駆動部16は、副走査方向における造形台14の位置を固定して、ヘッド部12を移動させることにより、ヘッド部12に副走査動作を行わせてもよい。また、走査駆動部16は、造形しようとする造形物50の大きさに応じて、必要な場合にのみヘッド部12に副走査動作を行わせる。そのため、例えばサイズの小さな造形物50を造形する場合等には、副走査動作を行わずに造形物50を造形してもよい。
【0029】
また、ヘッド部12に積層方向走査を行わせるとは、例えば、ヘッド部12が有するインクジェットヘッドに積層方向走査を行わせることである。また、積層方向走査とは、例えば、積層方向へヘッド部12又は造形台14の少なくとも一方を移動させることで造形物50に対して相対的に積層方向へヘッド部12を移動させる動作である。この場合、積層方向へヘッド部12を移動させるとは、例えば、ヘッド部12における少なくともインクジェットヘッドを積層方向へ移動させることである。また、積層方向へ造形台14を移動させるとは、例えば、造形台14における少なくとも上面の位置を移動させることである。
【0030】
また、走査駆動部16は、造形の動作の進行に合わせてヘッド部12に積層方向走査を行わせることにより、ヘッド部12におけるインクジェットヘッドと造形台14との間の距離であるヘッド台間距離を変化させる。ヘッド台間距離とは、例えば、インクジェットヘッドにおいてノズル(ノズル孔)が形成されているノズル面と、造形台14の上面との間の距離であってよい。また、より具体的に、本例において、走査駆動部16は、積層方向におけるヘッド部12の位置を固定して、造形台14を移動させる。走査駆動部16は、積層方向における造形台14の位置を固定して、ヘッド部12を移動させてもよい。
【0031】
制御部20は、例えば造形装置10のCPUであり、造形装置10の各部を制御することにより、造形物50の造形の動作を制御する。制御部20は、例えば造形すべき造形物50の形状情報や、カラー画像情報等に基づき、造形装置10の各部を制御することが好ましい。本例によれば、造形物50を適切に造形できる。
【0032】
続いて、ヘッド部12のより具体的な構成について、説明をする。本例において、ヘッド部12は、複数のインクジェットヘッドを有する。それぞれのインクジェットヘッドは、造形の材料等をそれぞれ吐出する吐出ヘッドの一例であり、造形台14と対向する面に、所定のノズル列方向へ複数のノズルが並ぶノズル列を有する。また、造形装置10は、ヘッド部12における複数のノズル列から材料を吐出することにより、造形物50を造形する。
【0033】
また、より具体的に、本例において、ヘッド部12は、複数のインクジェットヘッド、複数の紫外線光源104、及び平坦化ローラ106を有する。また、複数のインクジェットヘッドとして、図1(b)に示すように、インクジェットヘッド102s、インクジェットヘッド102mo、インクジェットヘッド102w、インクジェットヘッド102y、インクジェットヘッド102m、インクジェットヘッド102c、インクジェットヘッド102k、及びインクジェットヘッド102tを有する。これらの複数のインクジェットヘッドは、例えば、副走査方向における位置を揃えて、主走査方向へ並べて配設される。
【0034】
インクジェットヘッド102sは、サポート層52の材料を吐出するインクジェットヘッド(サポート層用ヘッド)である。本例において、サポート層52の材料としては、造形物50の材料よりも紫外線による硬化度が弱い紫外線硬化型インクを用いる。これにより、インクジェットヘッド102sは、サポート層52の材料となる紫外線硬化型インクを、ノズル列における各ノズルから吐出する。
【0035】
尚、上記においても説明をしたように、サポート層52は、例えば、造形中の造形物50の外周を囲むことで造形物50を支持する。また、より具体的に、サポート層52は、例えば、造形物50のオーバーハング形状を下から支えることにより、オーバーハング部分を有する造形物50の造形を可能にする。また、例えば、造形動作の開始前に、造形台14における造形エリアにサポート層52の材料を吐出し、サポート層52を板状に形成すること等も考えられる。このように構成すれば、例えば、造形台14の表面の凹凸を補正して、平面性をより適切に確保できる。サポート層52の材料としては、造形物50の造形後に水で溶解可能な水溶性の材料を用いることが好ましい。また、この場合、造形物50を構成する材料よりも硬化度が弱く、分解しやすい材料を用いることが好ましい。また、サポート層52の材料としては、例えば、サポート層用の公知の材料を好適に用いることができる。このように構成すれば、例えば、造形の完了後に溶解除去等によりサポート層52を適切に除去できる。
【0036】
インクジェットヘッド102moは、造形材インク(Moインク)を吐出するインクジェットヘッドであり、造形材インクを、ノズル列における各ノズルから吐出する。この場合、造形材インクとは、例えば、造形物50の内部(内部領域)の造形に用いる造形専用のインクである。
【0037】
尚、造形物50の内部については、造形材インクに限らず、他の色のインクを更に用いて形成してもよい。また、例えば、造形材インクを用いずに、他の色のインク(例えば白色のインク等)のみで造形物50の内部を形成することも考えられる。この場合、ヘッド部12において、インクジェットヘッド102moを省略してもよい。
【0038】
インクジェットヘッド102wは、白色(W)のインクを吐出するインクジェットヘッドであり、白色のインクを、ノズル列における各ノズルから吐出する。また、本例において、白色のインクは、光反射性の材料の一例であり、例えば造形物50において光を反射する性質の領域(光反射領域)を形成する場合に用いられる。この光反射領域は、例えば、造形物50表面に対して減法混色によるフルカラー表現での着色を行う場合に、造形物50の外部から入射する光を反射する。フルカラー表現とは、例えば、プロセスカラーのインクによる減法混色の可能な組み合わせで行う色の表現のことである。また、本例において、インクジェットヘッド102wは、光反射性の材料を吐出する光反射材料用ヘッドの一例である。
【0039】
インクジェットヘッド102y、インクジェットヘッド102m、インクジェットヘッド102c、インクジェットヘッド102k(以下、インクジェットヘッド102y〜kという)は、着色された造形物50の造形時に用いる加飾用のインクジェットヘッド(加飾用ヘッド)であり、着色に用いる複数色のインク(加飾インク)のそれぞれのインクを、ノズル列における各ノズルからそれぞれ吐出する。より具体的に、インクジェットヘッド102yは、イエロー色(Y色)のインクを吐出する。インクジェットヘッド102mは、マゼンタ色(M色)のインクを吐出する。インクジェットヘッド102cは、シアン色(C色)のインクを吐出する。また、インクジェットヘッド102kは、ブラック色(K色)のインクを吐出する。また、この場合、YMCKの各色は、フルカラー表現に用いるプロセスカラーの一例である。
【0040】
また、本例において、YMCの各色のインクは、有彩色の着色用の材料の一例である。黒色(K色)のインクは、黒色の材料の一例である。また、加飾用のインクジェットヘッドのうち、インクジェットヘッド102y、インクジェットヘッド102m、インクジェットヘッド102cは、有彩色の着色用の材料を吐出する着色材料用ヘッドの一例である。インクジェットヘッド102kは、黒色の材料を吐出する黒色用ヘッドの一例である。また、インクジェットヘッド102kは、光吸収性の材料を吐出する光吸収性材料用ヘッドの一例でもある。
【0041】
インクジェットヘッド102tは、クリアインクを吐出するインクジェットヘッドであり、クリアインクを、ノズル列における各ノズルから吐出する。クリアインクとは、例えば、無色の透明色(T)であるクリア色のインクのことである。また、本例において、クリアインクは、透光性の材料の一例である。インクジェットヘッド102tは、透光性の材料を吐出する透光性材料用ヘッドの一例である。
【0042】
複数の紫外線光源104は、インクを硬化させるための光源(UV光源)であり、紫外線硬化型インクを硬化させる紫外線を発生する。また、本例において、複数の紫外線光源104のそれぞれは、間にインクジェットヘッドの並びを挟むように、ヘッド部12における主走査方向の一端側及び他端側のそれぞれに配設される。紫外線光源104としては、例えば、UVLED(紫外LED)等を好適に用いることができる。また、紫外線光源104として、メタルハライドランプや水銀ランプ等を用いることも考えられる。
【0043】
平坦化ローラ106は、造形物50の造形中に形成されるインクの層を平坦化するための構成である。平坦化ローラ106は、例えば主走査動作時において、インクの層の表面と接触して、硬化前のインクの一部を除去することにより、インクの層を平坦化する。
【0044】
以上のような構成のヘッド部12を用いることにより、造形物50を構成するインクの層を適切に形成できる。また、複数のインクの層を重ねて形成することにより、造形物50を適切に造形できる。
【0045】
尚、ヘッド部12の具体的な構成については、上記において説明をした構成に限らず、様々に変形することもできる。例えば、ヘッド部12は、着色用のインクジェットヘッドとして、インクジェットヘッド102y〜kに加え、各色の淡色や、R(赤)G(緑)B(青)やオレンジ等の色用のインクジェットヘッド等を更に有してもよい。また、ヘッド部12における複数のインクジェットヘッドの並べ方についても、様々に変形可能である。例えば、一部のインクジェットヘッドについて、他のインクジェットヘッドと副走査方向における位置をずらしてもよい。
【0046】
続いて、本例において造形装置10により造形する造形物50の構成について、説明をする。図2は、造形装置10により造形する造形物50の構成の一例を示す。図2(a)は、造形物50の構成の一例の断面図であり、副走査方向(X方向)と垂直な平面による造形物50の断面の一例を簡略化して示す。
【0047】
尚、図示は省略したが、造形時において、造形装置10は、必要に応じて、造形物50の周囲にサポート層52(図1参照)を形成する。また、例えば主走査方向や積層方向と垂直な平面による断面も、図2(a)に示した場合と同様の領域構成になる。
【0048】
本例において、造形装置10は、外部から色彩を識別できる部分の少なくとも一部が着色された造形物50を造形可能である。また、このような着色された造形物50を造形する場合において、造形装置10は、例えば図示した構成のように、内部領域302、光反射領域304、着色領域306、及び黒色領域308を有する造形物50を造形する。また、この場合、造形装置10の制御部20(図1参照)は、ヘッド部12(図1参照)の各インクジェットヘッドに各種のインクを吐出させることにより、造形物50の各領域を形成させる。
【0049】
内部領域302は、造形物50の内部を構成する領域である。また、内部領域302については、例えば、造形物50の形状を構成する領域と考えることもできる。本例において、造形装置10は、例えば、インクジェットヘッド102mo(図1参照)から吐出する造形材インクの層を重ねて形成することにより、内部領域302を形成する。また、造形装置10は、例えば、インクジェットヘッド102mo以外のインクジェットヘッドを併用することにより、造形材インク以外のインクを更に用いて内部領域302を形成してもよい。また、造形装置10の構成の変形例においては、例えば、インクジェットヘッド102moを用いずに、インクジェットヘッド102w(図1参照)から吐出する白色のインク等で内部領域302を形成すること等も考えられる。この場合、内部領域302と光反射領域304とを区別せずに、両方を合わせた領域を形成してもよい。
【0050】
光反射領域304は、光反射性のインクを用いて形成される光反射性の領域である。本例において、造形装置10は、例えば、インクジェットヘッド102wから吐出する白色のインクの層を重ねて形成することにより、光反射領域304を形成する。また、この場合、図中に示すように、造形装置10は、内部領域302の周囲を囲むように、光反射領域304を形成する。また、より具体的に、本例において、造形装置10は、内部領域302の外側の全体を囲むように、光反射領域304を形成する。
【0051】
尚、着色された造形物50を造形するためには、必ずしも内部領域302の外側の全体を囲むように光反射領域304を形成せずに、内部領域302の外側の一部に光反射領域304を形成してもよい。また、この場合、少なくとも着色領域306を形成する位置の内側(内部側)になる部分に光反射領域304を形成することが好ましい。このように構成すれば、例えば、減法混色法でのフルカラー表現を適切に行うことができる。また、これにより、例えば、着色された造形物50を適切に造形できる。
【0052】
光反射領域304の厚さは、例えば、100μm〜1mm程度で均一の厚さにすることが好ましい。この場合、領域の厚さとは、例えば、造形物50の表面と垂直な法線方向の厚さのことである。また、本例において、造形装置10は、白色のインクのみを用いて、光反射領域304を形成する。造形装置10の構成の変形例において、例えばより高速に造形を行う場合等には、白色のインク以外にクリアインクを更に用いて光反射領域304を形成すること等も考えられる。
【0053】
着色領域306は、造形物50の表面において着色がされる領域である。この場合、造形物50の表面とは、例えば、造形物50において外部から色彩を識別できる部分のことである。本例において、着色領域306は、黒色以外の色が着色可能な領域である。また、着色領域306は、有彩色の着色用の材料を用いて着色される領域の一例である。
【0054】
また、造形装置10は、例えば、インクジェットヘッド102y〜k(図1参照)から吐出するYMCKの各色のインクと、インクジェットヘッド102t(図1参照)から吐出するクリアインクとを用いて、所望の色に着色されたインクの層を形成する。また、このインクの層を重ねて形成することにより、着色領域306を形成する。
【0055】
このように構成した場合、例えば、YMCKの各色のインクに加えてクリアインクを用いることにより、表現する色の違いによるYMCKインクの使用量の変化分を補填することができる。また、これにより、例えば、着色領域306を構成するそれぞれのインクの層を一定の厚さで適切に形成できる。そのため、本例によれば、例えば、フルカラー表現をより適切に行うことができる。着色領域306の厚さは、例えば50〜500μm程度(例えば、300μm程度)で均一の厚さにすることが好ましい。また、着色領域306の厚さは、例えば250μm未満であってよい。また、例えば着色により描かれる画像の解像度をより適切に高めるためには、150μm以下にすることがより好ましい。
【0056】
また、本例において、制御部20は、ヘッド部12における複数のインクジェットヘッドに、着色領域306を、光反射領域304の少なくとも一部の外側に形成させる。また、この場合、より具体的に、制御部20は、造形物50の表面において黒色領域308が形成される部分以外の位置に対し、着色領域306を形成させる。また、これにより、複数のインクジェットヘッドに、黒色領域308と共に光反射領域304の外側の全体を覆うように、着色領域306を形成させる。
【0057】
黒色領域308は、造形物50の表面において黒色に着色がされる領域である。この場合、黒色領域308が黒色に着色がされるとは、例えば、着色領域306の一部において黒色に着色される場合とは異なる条件で黒色に塗りつぶすように着色がされることである。そのため、黒色領域308は、例えば、造形物50において黒色に着色される部分のうち、ユーザや造形データにより指定される一部の領域であってよい。また、黒色領域308は、黒色の材料を用いて黒色に着色される領域の一例である。黒色領域308は、例えば、表面における所定面積以上の部分が黒で塗りつぶされる領域であってよい。
【0058】
また、本例において、黒色とは、例えば、求められる着色の精度に応じて、実質的に黒色であればよい。また、より具体的に、本例において、黒色領域308は、ピアノブラック色に着色される領域である。この場合、ピアノブラック色とは、例えば、光沢性で深みのある黒色のことである。また、反対に、より一般化して考えた場合、黒色について、例えば、光吸収性の無彩色の色と考えることもできる。そのため、黒色領域308については、光吸収性の材料で形成される光吸収性領域と考えることもできる。
【0059】
続いて、本例における黒色領域308の特徴等について、更に詳しく説明をする。図2(b)は、黒色領域308の特徴等について更に詳しく説明をする図である。上記においても説明をしたように、本例において、造形装置10は、造形物50の表面の少なくとも一部に、着色領域306及び黒色領域308を形成する。また、この場合、光反射領域304の外側において、法線方向の厚さが等しくなるように、着色領域306及び黒色領域308を形成する。
【0060】
また、この場合において、造形装置10は、更に、図中に示すように、法線方向において複数の領域に分かれた黒色領域308を形成する。この場合、法線方向における黒色領域308の厚さとは、これらの複数の領域を合わせた領域の厚さのことである。また、より具体的に、本例において、造形装置10は、内側領域312及び表面側領域314の2つの領域に分かれた黒色領域308を形成する。
【0061】
内側領域312は、黒色領域308を構成する領域のうちの内側の領域である。また、内側領域312は、第1領域の一例であり、少なくとも黒色のインクを用いて形成されることにより、黒色に着色される。また、より具体的に、本例において、造形装置10の制御部20は、インクジェットヘッド102kに、黒色の内側領域312を形成させる。また、これにより、内側領域312は、黒色のインクのみで形成される。造形装置10の構成の変形例においては、例えば、黒色のインクとクリアインクとを用いて内側領域312を形成してもよい。
【0062】
表面側領域314は、黒色領域308を構成する領域のうちの外側の領域である。また、表面側領域314は、第2領域の一例であり、少なくともクリアインクを用いて形成されることにより、内側領域312よりも光の透過率が高くなるように形成され、内側領域312を外側から覆う。また、より具体的に、本例において、制御部20は、インクジェットヘッド102tに、無色透明の表面側領域314を形成させる。また、これにより、表面側領域314は、クリアインクのみで形成される。
【0063】
このように構成した場合、例えば、黒色領域308における造形物50の表面側に透明な表面側領域314を形成することにより、黒色領域308の表面のみで光が吸収されることを防いで、黒色領域308のある程度内部にまで光を進入させることができる。また、黒色に着色される内側領域312を表面側領域314の内側に形成することにより、表面側領域314を介して入射した光について、適切かつ十分に吸収できる。また、これにより、黒色を適切に表現できる。
【0064】
このように、本例においては、黒色領域308のある程度内部まで光を進入させつつ、黒色を適切に表現できる。そのため、本例によれば、例えば、黒色領域308において、深みのある黒色をより適切に表現できる。
【0065】
ここで、法線方向における表面側領域314の厚さについては、例えば、30μm以上にすることが好ましい。このように構成すれば、例えば、黒色領域308内に十分に光を進入させることができる。また、これにより、深みのある黒色をより適切に表現できる。また、法線方向における表面側領域314の厚さは、60μm以上にすることがより好ましい。また、表面側領域314と内側領域312との厚さについては、互いに異ならせてもよい。この場合、法線方向における厚さについて、黒色の内側領域312を表面側領域314よりも厚くすることが好ましい。このように構成すれば、黒色領域308内において、進入した光をより確実に吸収できる。また、これにより、例えば、濃い黒色をより適切に表現できる。
【0066】
また、内側領域312等の形成に用いる黒色のインクとしては、例えば、黒色領域308の一部に形成する内側領域312のみで十分な濃さの黒色を表現できるように、適切かつ十分に濃い黒色のインクを用いることが好ましい。より具体的に、黒色のインクとしては、例えば、色材として黒色の顔料を含むインクを好適に用いることができる。このように構成すれば、濃い黒色をより適切に表現できる。
【0067】
図2(c)は、黒色領域308の構成について更に詳しく説明をする図であり、法線方向が積層方向(Z方向)と平行となる位置における黒色領域308の様子の一例を簡略化して、周囲の着色領域306と共に示す。上記においても説明をしたように、本例において、造形装置10は、積層造形法で造形物50を造形する。また、この場合、造形物50の各位置の断面に対応する複数のスライスデータに基づき、各スライスデータに対応するインクの層を重ねて形成することにより、造形物50を造形する。
【0068】
例えば、本例において、造形装置10は、黒色のインクで形成されるインクの層402を重ねることにより、黒色領域308における内側領域312を形成する。また、クリアインクで形成される層404を重ねることにより、黒色領域308における表面側領域314を形成する。また、YMCKの各色のインクとクリアインクとで形成されるインクの層406を重ねて形成することにより、着色領域306を形成する。この場合、層402、層404、及び層406は、一つのスライスデータに対応して形成される1層のインクの層内の領域である。このように構成すれば、造形物50を構成する各領域を適切に形成できる。
【0069】
ここで、上記のように、図2(c)においては、法線方向が積層方向と平行となる位置における黒色領域308等の様子を示している。そのため、この場合、各領域の法線方向における厚さは、積層方向の厚さになる。また、その結果、法線方向における各領域の厚さは、積層される層数に比例することになる。この場合において、法線方向における内側領域312の厚さについては、例えば、インクの層402の3層分程度以上(例えば、3〜5層分程度)の厚さにすることが好ましい。このように構成すれば、例えば、内側領域312により黒色を適切に表現できる。
【0070】
また、この場合、法線方向における表面側領域314の厚さについては、例えば、インクの層404の2層分程度(例えば、1〜2層分程度)にすることが好ましい。このように構成すれば、例えば、黒色領域308内に適切に光を進入させることができる。また、これにより、例えば、深みのある黒色をより適切に表現できる。
【0071】
また、造形物50においては、例えば、法線方向が積層方向と平行にならない位置に黒色領域308等を形成する場合もある。そして、このような場合にも、法線方向に並ぶ内側領域312及び表面側領域314を有する黒色領域308を形成する。また、この場合、内側領域312及び表面側領域314については、法線方向における厚さが上記と同様になるように形成することが好ましい。このように構成すれば、例えば、法線方向が積層方向と平行にならない位置の黒色領域308においても、深みのある黒色を適切に表現できる。
【0072】
また、上記においては、主に、黒色領域308における内側領域312を黒色のインクのみで形成し、表面側領域314をクリアインクのみで形成する場合について、説明をした。しかし、造形装置10により造形する造形物50の変形例においては、内側領域312や表面側領域314等について、上記と異なる構成で形成してもよい。
【0073】
例えば、内側領域312の厚さを十分に確保できる場合等には、単位厚さあたりの濃さを薄くして内側領域312を形成すること等も考えられる。この場合、例えば、黒色のインクに加え、クリアインクを更に用いて内側領域312を形成してもよい。この場合も、十分な厚さで内側領域312を形成することにより、内側領域312の全体で濃い黒色を適切に表現できる。また、この場合、例えば、色材として黒色の染料を含むインク等を用いることも考えられる。
【0074】
また、表面側領域314についても、完全に透明にするのではなく、例えば、薄い黒色で形成してもよい。この場合、例えば、内側領域312よりも薄い黒色に着色された表面側領域314を形成することが考えられる。このように構成した場合も、例えば、黒色領域308のある程度内部まで光を進入させつつ、黒色を適切に表現できる。また、これにより、例えば、黒色領域308において、深みのある黒色をより適切に表現できる。
【0075】
また、より具体的に、この場合、例えば、黒色のインクとクリアインクとを用いて表面側領域314を形成することにより、内側領域312よりも薄い黒色に着色された表面側領域314を形成する。また、例えば内側領域312及び表面側領域314のそれぞれについて、黒色のインクとクリアインクとを用いて形成し、表面側領域314におけるクリアインクの含有比率を内側領域312よりも多くすること等も考えられる。また、表面側領域314について、例えば、黒色のインクで着色される黒色ではなく、Y(イエロー)色、M(マゼンタ)色、及びC(シアン)色の混色で表現される実質的な黒色に着色すること等も考えられる。
【0076】
また、上記においても説明をしたように、本例において、黒色領域308は、ピアノブラック色に着色される領域である。これに対し、黒色領域308により表現される黒色の見え方は、例えば、光沢性の有無等によっても変化する。また、色の光沢性は、例えば造形物50の表面の状態の影響を大きく受ける。そのため、例えばピアノブラック色等の光沢性の黒色を表現する場合、少なくとも黒色領域308が形成される領域での造形物50の表面について、グロス状の平滑な状態で形成することが好ましい。また、深みのある黒色としては、ピアノブラック色等の光沢性の黒色以外に、つや消しの黒色等を表現したい場合もある。このような場合には、造形物50の表面について、マット状の状態で形成することが考えられる。
【0077】
続いて、本例において造形する造形物50の特徴について、補足説明や変形例の説明等を行う。図3は、造形物50の特徴について更に詳しく説明をする図である。尚、以下に説明をする点を除き、図3において、図1及び図2と同じ符号を付した構成は、図1及び図2における構成と同一又は同様の特徴を有してよい。
【0078】
図3(a)は、造形装置10により造形する造形物50の構成の他の例を示す。図2(a)においては、図示及び説明の便宜上、外周面が平面状の形状の造形物50を図示した。この場合、造形物50の法線方向は、外周面を構成する平面と垂直な方向になる。
【0079】
しかし、造形装置10においては、外周面が平面状の形状の造形物50に限らず、様々な形状の造形物50を造形してよい。例えば、図3(a)においては、球形状の造形物50について、構成の一例を図示している。このような場合、造形物50の外周面は、曲面状になる。また、造形物50の法線方向は、造形物50の各位置において表面と直交する方向になる。この場合も、図2等を用いて説明をした場合と同一又は同様にして複数の領域に分かれた黒色領域308を形成することにより、深みのある黒色を適切に表現できる。
【0080】
また、造形装置10の造形動作の変形例においては、造形物50を構成する領域として、上記において説明をした各領域以外の領域を更に形成すること等も考えられる。より具体的には、例えば、光反射領域304と着色領域306との間に分離領域を形成すること等が考えられる。この場合、分離領域とは、例えば、クリアインクで形成される透明な領域であり、光反射領域304を構成する白色のインクと着色領域306を構成する各色のインクとが混ざることを防止する。また、この場合、黒色領域308と内部領域302との間にも分離領域を形成することが好ましい。
【0081】
また、例えば着色領域306及び黒色領域308の外側に、透明な保護領域を更に形成すること等も考えられる。この場合、保護領域とは、例えば、クリアインクで形成される透明な領域であり、着色領域306及び黒色領域308の外側を覆うことで着色領域306及び黒色領域308を保護する。
【0082】
また、この場合、黒色領域308の外側を覆う透明な領域を形成することにより、黒色領域308で表現される黒色について、より深みのある印象を与えること等もできる。また、例えば保護領域の表面をグロス状の平滑な状態で形成することにより、ピアノブラック等の光沢性の黒色をより適切に表現すること等も可能になる。
【0083】
また、黒色領域308の外側を覆う透明な領域については、造形装置10で造形時に形成するのではなく、例えば、塗装等の方法(クリアコート)で形成することも考えられる。この場合、例えば、黒色領域308において表面側領域314を形成することで深さ(奥行)感を高めて深みのある黒色を表現した上で、造形物50の表面を覆う塗装(オーバーコート)を透明な材料によりグロス状に行うことが考えられる。このように構成すれば、例えば、造形物50の表面の平滑性を適切に高めることができる。また、これにより、例えば、ピアノブラック等の光沢性の黒色を適切に表現できる。また、造形物50に求められる品質によっては、例えば、造形物50の表面に対して透明な材料によりマット状の塗装(マット塗装)をすること等も考えられる。
【0084】
また、上記においては、黒色領域308の構成について、主に、内側領域312及び表面側領域314の2つの領域に分けて形成する場合の構成等を説明した。しかし、黒色領域308については、法線方向においてより多くの領域に分けてもよい。
【0085】
図3(b)は、造形物50の構成の変形例を示す。この場合、造形装置10は、黒色領域308を構成する領域として、内側領域312と表面側領域314との間に挟まれる中間領域316を更に形成する。また、これにより、積層方向において内側領域312、中間領域316、及び表面側領域314に分かれた黒色領域308を形成する。
【0086】
また、この場合、中間領域316について、例えば、内側領域312よりも薄い黒色で形成する。また、これにより、中間領域316に対する光の透過率について、内側領域312よりも高く、表面側領域314よりも低い透過率にする。また、より具体的に、この場合、造形装置10の制御部20(図1参照)は、インクジェットヘッド102k及びインクジェットヘッド102t(図1参照)にインクを吐出させることにより、黒色のインクとクリアインクとで中間領域316を形成させる。
【0087】
このように構成した場合、黒色領域308の色は、内側領域312、中間領域316、及び表面側領域314においてこの順番で色が薄くなるように、グラデーション状に変化する。このように構成すれば、例えば、黒色領域308内での法線方向における色の濃さをより自然に変化させることができる。また、これにより、例えば、深みのある黒色をより適切に表現できる。
【0088】
また、この場合、内側領域312と表面側領域314との間に、それぞれ濃さが異なる複数の中間領域316を形成してもよい。この場合、内側から外側へ向けて徐々に黒色の濃度が低くなるように、それぞれの中間領域316の黒色の濃度を設定することが好ましい。
【0089】
図3(c)は、造形物50の構成の更なる変形例を示す図であり、内側領域312と表面側領域314との間に複数の中間領域316を形成して、黒色の濃度をグラデーション状に変化させる場合の構成の一例を示す。このように構成すれば、例えば、深みのある黒色をより適切に表現できる。
【0090】
尚、図3(c)においては、法線方向が積層方向と平行になる部分について、内側領域312及び表面側領域314のそれぞれを一つのインクの層で形成する場合の構成を図示している。この場合、内側領域312及び表面側領域314のそれぞれの法線方向における厚さは、一つのインクの層分の厚さになる。また、内側領域312及び表面側領域314のそれぞれについては、例えば複数のインクの層で形成して、法線方向における厚さが複数のインクの層の厚さと等しくなるように形成してもよい。
【0091】
また、図3(c)においては、それぞれの中間領域316についても、一つのインクの層で形成している。そのため、一つの中間領域316の法線方向における厚さも、一つのインクの層分の厚さになっている。また、それぞれの中間領域316についても、例えば、法線方向における厚さが複数のインクの層の厚さと等しくなるように形成してもよい。
【0092】
尚、法線方向が積層方向と平行にならない位置に形成する黒色領域308においても、各領域の法線方向における厚さを上記と同様にして形成してよい。また、黒色領域308における黒色の濃度をグラデーション状に変化させる場合について、より一般化して考えた場合、例えば、黒色領域308における内側の一部分を内側領域312と考えてよい。また、例えば、外側の一部分を表面側領域314と考えてよい。
【0093】
また、造形装置10により造形をする造形物50の構成については、更に様々な変形をすることもできる。図4は、造形物50の構成の更なる変形例について説明をする図である。尚、以下に説明をする点を除き、図4において、図1〜3と同じ符号を付した構成は、図1〜3における構成と同一又は同様の特徴を有してよい。
【0094】
図4(a)は、造形物50の構成の更なる変形例を示す。上記においては、主に、着色領域306及び黒色領域308の両方について、光反射領域304の外側に形成する場合の構成を説明した。しかし、黒色領域308において黒色をより適切に表現しようとする場合、黒色領域308の内側に光反射領域304を形成しない方が好ましい場合もある。そのため、光反射領域304については、黒色領域308の内側になる部分には形成せずに、着色領域306の内側になる部分にのみ形成してもよい。
【0095】
また、この場合、内部領域302と黒色領域308との間には、例えば図中に示すように、光反射領域304とは別の領域320を形成する。領域320としては、例えば、クリアインクを用いて、透明な領域を形成することが考えられる。このように構成すれば、例えば、黒色領域308において、深みのある濃い黒色をより適切に表現できる。
【0096】
また、領域320については、例えば、黒色のインクを用いて黒色に形成することも考えられる。この場合、黒色領域308と領域320とを合わせた部分が連続的な黒色の領域になる。また、この黒色の領域は、周囲の着色領域306よりも法線方向において厚い領域になる。このように構成すれば、例えば、深みのある濃い黒色をより適切に表現できる。
【0097】
また、黒色領域308等において深みのある濃い黒色等をより適切に表現するためには、例えば、造形物50の内部の色についても考慮することが好ましい場合がある。より具体的には、例えば、サイズの小さな造形物50を造形する場合や、薄い部分を有する造形物50を形成する場合、造形物50を観察する視線に対する造形物50の裏側から入射した光が造形物50を透過して、造形物50の色の見え方に影響を与える場合もある。そのため、造形物50の構成の更なる変形例においては、このような透過光の影響をより適切に抑え得る構成を用いること等も考えられる。
【0098】
図4(b)は、造形物50の構成の更なる変形例を示す図であり、造形物50の内部の色を光吸収性の色にする場合の構成の一例を示す。この場合、制御部20(図1参照)は、ヘッド部12(図1参照)における複数のインクジェットヘッドに、光吸収性の色で内部領域302を形成させる。そして、着色領域306及び黒色領域308等の各領域を、内部領域302の外側に形成させる。また、これにより、内部に黒色の餡を挟んでいるような構成(あん包み方式)で、造形物50を造形する。
【0099】
また、この場合、図4(a)を用いて説明をした場合と同様に、光反射領域304については、黒色領域308の内側になる部分には形成せずに、着色領域306の内側になる部分にのみ形成することが好ましい。より具体的に、図示した構成の場合、内部領域302と黒色領域308との間に、例えばクリアインク又は黒色のインク等により、領域320を形成する。
【0100】
このように構成した場合、例えば、内部領域302を光吸収性の色で形成することにより、造形物50の内部を通過して反対側へ抜ける光の影響を適切に抑えることができる。また、これにより、例えば、黒色領域308において深みのある濃い黒色をより適切に表現することができる。また、この場合、着色領域306についても、造形物50の裏面側の色等の影響を適切に抑えることができる。また、これにより、着色領域306についても、より適切に様々な色を表現できる。
【0101】
ここで、この構成において、内部領域302は、例えば黒色に形成することが好ましい。このように構成すれば、例えば、光吸収性の内部領域302を適切に形成できる。また、この場合、例えば、黒色のインク用のインクジェットヘッド102k(図1参照)を用いて、内部領域302を形成することが考えられる。また、内部領域302の色については、例えば、黒色のインクで着色される黒色ではなく、Y(イエロー)色、M(マゼンタ)色、及びC(シアン)色の混色で表現される実質的な黒色に着色してもよい。この場合、例えば、YMCの各色用のインクジェットヘッド102y〜k(図1参照)を用いて、内部領域302を形成する。また、この場合、インクジェットヘッド102k等を更に用いて内部領域302を形成してもよい。また、図1等を用いて説明をしたヘッド部12のように、造形材インク用のインクジェットヘッド102mo(図1参照)を用いる場合、黒色等の光吸収性の色の造形材インクを用いることも考えられる。
【0102】
続いて、造形装置10の構成等の更なる変形例について、説明をする。上記においては、主に、カラー表現に用いるプロセスカラーの1色として用いる黒色のインクを用いて黒色領域308を形成する場合について、説明をした。しかし、造形装置10の構成の変形例においては、プロセスカラー用の黒色のインクとは別に、黒色領域308の形成に用いる黒色のインクを更に用いてもよい。
【0103】
また、上記においては、主に、法線方向における厚さを黒色領域308と着色領域306とで等しくする場合について、説明した。しかし、法線方向における黒色領域308の厚さについては、例えば、着色領域306と異ならせてもよい。この場合、例えば、黒色領域308を着色領域306よりも厚くすることが好ましい。また、この場合、黒色領域308と着色領域306との厚さの違いに応じて、黒色領域308の内側と着色領域306の内側とで光反射領域304の厚さを異ならせることが好ましい。また、黒色領域308の内側には光反射領域304を形成せずに、光反射領域304と着色領域306とを合わせた厚さと等しい厚さで黒色領域308を形成してもよい。
【0104】
また、本例の特徴について、より一般化して考えた場合、本例と同様の構成により、黒色に限らず、その他の光吸収性の色について、深みのある色を表現することも考えられる。この場合、光吸収性の色とは、例えば、いずれかの有彩色と黒色との混色により得られる色や、濃い灰色等の色である。また、光吸収性の色は、明度の低い色であってよい。このような場合も、黒色領域308に対応する光吸収性の色の領域について、黒色に代えて他の光吸収性の色を用いて、内側領域312に対応する領域を形成し、その外側に表面側領域314を形成することで、深みのある色を表現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、例えば造形装置に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0106】
10・・・造形装置、12・・・ヘッド部、14・・・造形台、16・・・走査駆動部、20・・・制御部、50・・・造形物、52・・・サポート層、102・・・インクジェットヘッド、104・・・紫外線光源、106・・・平坦化ローラ、302・・・内部領域、304・・・光反射領域、306・・・着色領域、308・・・黒色領域、312・・・内側領域、314・・・表面側領域、316・・・中間領域、320・・・領域、402・・・層、404・・・層、406・・・層
図1
図2
図3
図4