(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スチレン系単量体単位の含有量が45〜80質量%のスチレン系エラストマーAと、重量平均分子量が1,000,000〜7,000,000のポリオレフィン樹脂Bを、前記スチレン系エラストマーA 100質量部に対して5〜50質量部含有し、A硬度が90以下である、熱可塑性エラストマー組成物であって、前記スチレン系エラストマーAが、スチレン系単量体の重合単位であるハードセグメントと、スチレン系単量体とオレフィン及び共役ジエンの少なくともいずれかとの共重合単位であるソフトセグメントとを有するスチレン系共重合体又はその水素添加物である、熱可塑性エラストマー組成物。
ポリオレフィン樹脂Bの190℃、公称荷重2.16kgでのメルトマスフローレイトが、0.1g/10min以下である、請求項1又は2記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、スチレン系単量体単位の含有量が高いスチレン系エラストマーAと超高分子量ポリオレフィン樹脂Bを含有するものである。一般に、スチレン系単量体単位の含有量が高くなるほど、ベタツキが少なく良好な触感を有するが、その一方で硬くなり、柔軟性が低下する傾向がある。しかしながら、本発明では、スチレン系単量体単位の含有量が高いスチレン系エラストマーに、超高分子量ポリオレフィン樹脂を併用することにより、熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性を補うことができ、さらに、耐摩擦性と耐傷付き性が向上するという優れた効果が奏される。
【0015】
スチレン系エラストマーAにおけるスチレン系単量体単位の含有量は、ベタツキ低減の観点から、45質量%以上であり、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上であり、柔軟性の観点から、80質量%以下であり、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。本発明において、スチレン系単量体には、スチレンだけでなく、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン等の炭素数1〜4のアルキル基により置換されたスチレン誘導体も含まれる。
【0016】
スチレン系単量体以外の単量体としては、共役ジエン、オレフィン、メタクリル酸エステル系単量体、アクリル酸エステル系単量体、不飽和ニトリル系単量体、塩化ビニル系単量体等が挙げられる。
【0017】
共役ジエンとしては、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン等が挙げられる。
【0018】
オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブチレン等が挙げられる。
【0019】
スチレン系エラストマーAは、スチレン系単量体と他の単量体とのブロック共重合体及びランダム共重合体のいずれであってもよく、ブロック共重合単位とランダム共重合単位との両方を有していてもよい。また、これらの混合物であってもよい。
【0020】
本発明におけるスチレン系エラストマーAは、スチレン系単量体単位の増加に伴う柔軟性の低下が抑制される観点から、スチレン系単量体の重合単位であるハードセグメントと、スチレン系単量体とオレフィン及び共役ジエンの少なくともいずれかとの共重合単位であるソフトセグメントとを有するスチレン系共重合体又はその水素添加物であり、このようなスチレン系エラストマーの具体例として、下記の3種が挙げられる。これらは、単独で用いられていても、2種以上が併用されていてもよい。
【0021】
スチレン系エラストマーA1:
スチレン系単量体と共役ジエンとの共重合単位であり、共役ジエン単位を主要構成単位として含有する領域とスチレン系単量体単位を主要構成単位として含有する領域とを有するソフトセグメントと、その両端に、スチレン系単量体の重合単位であるハードセグメントを有する、トリブロック型制御分布ブロック共重合体の水素添加物
スチレン系エラストマーA2:
スチレン系単量体と共役ジエンとのランダム共重合単位であるソフトセグメントの両端に、スチレン系単量体の重合単位であるハードセグメントを有するトリブロック型ランダム共重合体の水素添加物
スチレン系エラストマーA3:
スチレン系単量体とオレフィンとのランダム共重合単位であるソフトセグメントを主鎖とし、側鎖として、スチレン系単量体の重合単位であるハードセグメントを有するクロス共重合体
【0022】
これらのスチレン系エラストマーにおけるスチレン系単量体単位の含有量は、ハードセグメントのスチレン系単量体単位とソフトセグメント中のスチレン系単量体単位の合計量とする。
【0023】
なお、共役ジエン単位を含むスチレン系エラストマーAは、共役ジエン単位の不飽和結合の一部又は全部が水素添加されていることが好ましい。共役ジエン単位の不飽和結合を水素添加することにより不飽和結合が減少し、耐熱性、耐候性及び機械的特性が向上する。水素添加率は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。本発明において、水素添加率は、スチレン系エラストマーA中の共役ジエンに由来する炭素−炭素二重結合の含有量を、水素添加の前後において、
1H-NMRスペクトルによって測定し、該測定値から求めることができる。
【0024】
スチレン系エラストマーA1は、共役ジエンとスチレン系単量体との共重合体であり、ソフトセグメントとして共役ジエン単位を主要構成単位として好ましくは50質量%以上含有する領域とスチレン系単量体単位を主要構成単位として好ましくは50質量%以上含有する領域とを有する制御分布構造を有するブロック単位を有するものであり、「制御分布ブロック共重合体」と呼ばれている。ソフトセグメントの両端にスチレン系単量体の重合単位であるハードセグメントを有するトリブロック型制御分布ブロック共重合体は、全体のスチレン系単量体単位の含有量が多くなっても柔軟性や溶融流動性が低下しにくく、好ましい。
【0025】
共役ジエン単位とスチレン系単量体単位を含み、制御分布構造を有するブロック単位は、共役ジエン単位を主要構成単位として含有する領域を2個以上、スチレン系単量体単位を主要構成単位として含有する領域を1個以上有し、ハードセグメントブロック単位に隣接する末端は共役ジエン単位を主要構成単位として含有する領域であることが好ましい。
【0026】
共役ジエンがブタジエンである、トリブロック型制御分布スチレン系ブロック共重合体の水素添加物は、制御分布SEBSと呼ばれており、制御分布SEBSの市販品としては、例えば、クレイトンポリマー社製のAシリーズ等が挙げられる。
【0027】
なお、制御分布ブロック共重合体は、当該技術分野において周知のものであり、例えば、特開2007−84821号公報、特表2013−518170号公報等に記載されている。
【0028】
スチレン系エラストマーA2のトリブロック型ランダム共重合体において、ランダム共重合単位中のスチレン系単量体単位の含有量は、好ましくは45〜80質量%、より好ましくは50〜75質量%、さらに好ましくは55〜75質量%である。
【0029】
また、ランダム共重合単位中の共役ジエン単位の含有量は、好ましくは20〜55質量%、より好ましくは25〜50質量%、さらに好ましくは30〜45質量%である。共役ジエンはブタジエンであることが好ましい。
【0030】
トリブロック型ランダム共重合体の市販品としては、旭化成(株)製のS.O.E.シリーズ等が挙げられる。
【0031】
スチレン系エラストマーA3のクロス共重合体の主鎖には、スチレン系単量体として、前記で例示したスチレン系単量体に加えて、側鎖を形成するために、スチレン系ポリエン単量体が用いられる。
【0032】
スチレン系ポリエン単量体は、複数の二重結合(ビニル基)とベンゼン環を有する配位重合可能な化合物であり、二重結合(ビニル基)の1つが配位重合に用いられて重合した状態において残された二重結合がアニオン重合可能な化合物である。好適な芳香族ポリエン単量体としては、o-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン及びm-ジビニルベンゼンからなる群より選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
【0033】
クロス共重合体の主鎖であるオレフィンとスチレン系ポリエン単量体を含むスチレン系単量体とのランダム共重合単位において、スチレン系ポリエン単量体以外のスチレン系単量体単位の含有量は、柔軟性、成形性、耐摩耗性、及び耐傷付き性の観点から、好ましくは8〜28モル%、より好ましくは10〜25モル%である。スチレン系ポリエン単量体単位の含有量は、好ましくは0.01〜0.5モル%、より好ましくは0.01〜0.2モル%である。オレフィン単位の含有量は、好ましくは17〜60モル%、より好ましくは20〜55モル%である。オレフィンとしてはエチレンが好ましい。
【0034】
側鎖となるハードセグメントに用いられるスチレン系単量体は、スチレン系ポリエン単量体以外のスチレン系単量体であり、主鎖に用いられるスチレン系単量体と同一化合物であっても、異なる化合物であってもよい。
【0035】
クロス共重合体における主鎖(ソフトセグメント)と側鎖(ハードセグメント)の質量比(主鎖/側鎖)は、柔軟性及び耐熱性の観点から、好ましくは60/40〜95/5、より好ましくは70/30〜95/5である。
【0036】
クロス共重合体は、例えば、シングルサイト配位重合触媒を用いてエチレンとスチレン系ポリエン単量体を含むスチレン系単量体を、配位重合により共重合した後、得られたランダム共重合体とスチレン系単量体の共存下、アニオン重合開始剤を用いてアニオン重合し、ランダム共重合体を主鎖として、ポリスチレン鎖からなる側鎖を形成することにより得られる。具体的な製造方法については、前記特許文献2を参照することができる。
【0037】
クロス共重合体の市販品としては、電気化学工業(株)製のSEポリマー等が挙げられる。
【0038】
クロス共重合体の融点は、耐熱性の観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上であり、成形性の観点から、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下である。
【0039】
スチレン系エラストマーAとしては、耐油性の観点からは、スチレン系エラストマーA2及び/又はA3が好ましく、スチレン系エラストマーA3がより好ましい。
【0040】
スチレン系エラストマーAは、結晶性成分を含んでいることが好ましい。結晶性成分を含むスチレン系エラストマーは、熱可塑性エラストマー組成物の製造過程において、原料成分を溶融混練後、冷却時に結晶性成分が結晶化により収縮するため、結晶収縮する部分と結晶化しない部分との差により表面にわずかな凹凸を形成する。これにより、熱可塑性エラストマー組成物の触感がさらに向上する。前記スチレン系エラストマーAのなかでは、スチレン系エラストマーA3(クロス共重合体)が結晶性成分を含んでおり、主鎖中のエチレン単位が結晶性成分である。結晶性成分の存在は、DSC分析における結晶融解ピークの有無により確認することができる。クロス共重合体の結晶融解熱は、好ましくは0.05〜0.50J/g、より好ましくは0.10〜0.30J/gである。
【0041】
スチレン系エラストマーAの重量平均分子量は、耐摩耗性が向上する観点から、好ましくは30,000以上、より好ましくは40,000以上であり、成形性の観点から、好ましくは500,000以下、より好ましくは350,000以下である。スチレン系エラストマーAが複数のスチレン系エラストマーからなる場合は、各エラストマーの重量平均分子量の加重平均値が上記範囲内に入るものが好ましい。
【0042】
熱可塑性エラストマー組成物中のスチレン系エラストマーAの含有量は、好ましくは50〜95質量%、より好ましくは60〜90質量%である。
【0043】
ポリオレフィン樹脂Bは、超高分子量を有するものである。超高分子量のポリオレフィン樹脂Bをスチレン系エラストマーAと併用することにより、ポリエステル樹脂Bとスチレン系エラストマーAとの相溶による柔軟性の低下を招くことなく、耐摩耗性が向上する。ポリオレフィン樹脂Bの重量平均分子量は、これらの観点から、1,000,000以上であり、好ましくは1,300,000以上、より好ましくは1,600,000以上であり、7,000,000以下である。
【0044】
また、ポリオレフィン樹脂Bは、組成物製造時にスチレン系エラストマーAとの相溶による柔軟性の低下を防止する観点から、メルトマスフローレイト(MFR)ができるだけ低いことが好ましい。ポリオレフィン樹脂Bの190℃、公称荷重2.16kgでのMFRは、好ましくは0.1g/10min以下、より好ましくは0.05g/10min以下である。
【0045】
ポリオレフィン樹脂Bとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等が挙げられ、この中では、耐摩耗性及び自己潤滑性の観点から、ポリエチレンが好ましい。
【0046】
ポリオレフィン樹脂Bは、スチレン系エラストマーAと相溶させず、分散させる観点から、粉体形状であることが好ましい。粉体の体積基準の平均粒子径は、10〜200μmが好ましい。
【0047】
ポリオレフィン樹脂Bの含有量は、スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、耐摩耗性の観点から、5質量部以上、好ましくは7質量部以上、より好ましくは10質量部以上であり、柔軟性の観点から、50質量部以下、好ましくは45質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。
【0048】
また、本発明の組成物中のポリオレフィン樹脂Bの含有量は、好ましくは3〜35質量%、より好ましくは6〜30質量%である。
【0049】
本発明の組成物は、耐摩耗性がより向上する観点から、さらに、滑剤Cを含有していることが好ましい。
【0050】
滑剤Cとしては、オイルブリードが発生し難い観点から、シリコーン、フッ素、及びアミド系からなる群より選ばれた少なくとも1種の滑性成分とスチレン系エラストマーAとの相溶性を上げるポリマー成分からなる、固体滑剤が好ましい。このような固体滑剤のなかでも、シリコーン変性(メタ)アクリルポリマー、シリカ担持超高分子量シリコーンペレット(シリコンコンセントレート)等のシリコーン系高分子滑剤が好ましく、シリコーン変性(メタ)アクリルポリマーがより好ましい。
【0051】
シリコーン変性(メタ)アクリルポリマーは、少なくとも一つのポリシロキサン部分と少なくとも一つの(メタ)アクリル酸ポリマー部分を含む構造を有するものであり、例えば、信越化学工業(株)製の(アクリレーツ/アクリル酸エチルヘキシル/メタクリル酸ジメチコン)コポリマー(商品名:KP578)、ワックスタイプの(アクリレーツ/アクリル酸ステアリル/メタクリル酸ジメチコン)コポリマー(商品名:KP561P)、(アクリレーツ/アクリル酸ベヘニル/メタクリル酸ジメチコン)コポリマー(KP562P)、東亞合成(株)のサイマック、日信化学工業(株)のシャリーヌ等、様々な構造や特性を有するものが知られている。
【0052】
シリコーン変性(メタ)アクリルポリマーの融点は、高いほど耐摩耗性が高くなる傾向があり、好ましくは50℃以上、より好ましくは100℃以上である。また、組成物を溶融混練した際には、シリコーン変性(メタ)アクリルポリマーも溶融して組成物の成分とより均一に混ざるほうが好ましいため、好ましくは220℃以下、より好ましくは200℃以下である。これらの観点から、シリコーン変性(メタ)アクリルポリマーの融点は、50〜220℃が好ましく、100〜200℃がより好ましい。
【0053】
他の滑剤Cとしては、パラフィン及び炭化水素樹脂系滑剤(パラフィンワックス、流動パラフィン、ポリエチレンワックス等)、脂肪酸系滑剤(ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、複合型ステアリン酸系滑剤、硬化油等)、脂肪酸アミド系滑剤(ステアロアミド、オキシ・ステアロアミド、オレイル・アミド、エルシル・アミド、リシノール・アミド、ベヘン・アミド、メチロール・アミド、高級脂肪酸のモノアミド型、メチレンビス・ステアロアミド、メチレンビス・ステアロ・ベヘンアミド、エチレンビス・ステアロアミド、高級脂肪酸のビスアミド型滑剤、ステアロアミド系滑剤、複合型アミド系滑剤等)、脂肪酸エステル系滑剤(メチル・ヒドロキシ・ステアレート、多価アルコール脂肪酸エステル、飽和脂肪酸エステル、エステル系ワックス、複合エステル系滑剤等)、脂肪酸ケトン系滑剤、脂肪族アルコール(高級アルコール、高級アルコール系複合型、高級アルコール・エステル等)、脂肪酸と多価アルコールの部分エステル(グリセリン脂肪酸エステル、ヒドロキシステアリン酸トリグチセリド、ソルビタン脂肪酸エステル等)、複合系滑剤、ジステアリル・エポキシ・ヘキサヒドロフタレート、無水フタル酸誘導体等が挙げられ、これらは単独で含まれていても、2種以上が併用されていてもよい。
【0054】
滑剤Cの含有量は、スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは3〜10質量部である。
【0055】
また、本発明の組成物中の滑剤Cの含有量は、好ましくは0.5〜16質量%、より好ましくは1〜10質量%である。
【0056】
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーを含有していてもよい。なかでも極性エラストマーは、組成物の極性樹脂への融着性を向上させることができる。極性エラストマーとしては、特に制限されないが、例えばNBR(ニトリルゴム)、ポリウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0057】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、カーボンブラック、シリカ、炭素繊維、ガラス繊維等の補強剤、無機充填剤、絶縁性熱伝導性フィラー、顔料、水和金属化合物、赤燐、ポリリン酸アンモニウム、アンチモン、シリコーン等の難燃剤、帯電防止剤、粘着付与剤、架橋剤、架橋助剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、離型剤、着色剤、香料等の各種添加剤を含有していてもよい。
【0058】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、例えば、スチレン系エラストマーA及びポリオレフィン樹脂B、さらに必要に応じて、滑剤C、その他添加剤等を含む原料を溶融混練し、冷却により固化させて得られる。
【0059】
溶融混練においては、耐傷付き性をより向上させる観点から、ポリオレフィン樹脂Bが、溶融によりスチレン系エラストマーAに相溶しないように、原料成分を混練することが好ましい。かかる観点から、溶融混練の温度は、好ましくは100〜230℃、より好ましくは140〜200℃である。
【0060】
溶融混合する場合には、ニーダーや一般的な溶融押出機を用いることができ、混練状態の向上のため、単軸の押出機を使用することが好ましい。押出機への供給は、各種成分を直接押出機に供給しても良く、予めヘンシェルミキサー等の混合装置を用いて各種成分を混合したものを一つのホッパーから供してもよいし、二つのホッパーにそれぞれの成分を仕込みホッパー下のスクリュー等で定量しながら供してもよい。
【0061】
熱可塑性エラストマー組成物は、溶融混合して得たものを直接成形体に成形して利用する他に、用途に応じて、最終製品として利用される成形体にする前に、いったんペレット、粉体、シート等の中間製品とすることができる。例えば、押出機によって溶融混合してストランドに押出し、冷水中で冷却しつつカッターによって円柱状や米粒状等のペレットに切断される。得られたペレットは、通常、射出成形、押出成形、プレス成形等の成形方法によって所定のシート状成形品や金型成形品とすることができる。
【0062】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物のA硬度は、柔軟性の観点から、90以下、好ましくは85以下、より好ましくは80以下であり、また、好ましくは20以上、より好ましくは25以上、さらに好ましくは30以上である。
【0063】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を、常法に従って、適宜加熱成形することにより、成形体が得られる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物を加熱成形して得られる成形体の用途は、特に限定されるものではなく一般的なスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アクリル系エラストマーやポリエステル系エラストマー等が用いられる分野に用いることができる。
【0064】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いた成形体の製造に用いられる装置は、成形材料を溶融できる任意の成形機を用いることができる。例えば、ニーダー、押出成形機、射出成形機、プレス成形機、ブロー成形機、ミキシングロール等が挙げられる。
【0065】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、複合成形用材料としても用いることができ、非極性樹脂と良好に融着する他、極性エラストマー等を併用すると、金属、セラミック、ガラス及び極性樹脂等の極性のある部材に対しても良好な接着性を示す。
【0066】
従って、本発明はさらに、本発明の熱可塑性エラストマー組成物と部材、好ましくは非極性樹脂とが融着し、一体となった複合成形体を提供する。これにより、複雑な接合面を有する部材や、互いに異なる形状の接合面を有する部材の複合化も可能となる。
【0067】
非極性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等が挙げられる。この中では、耐寒性や耐衝撃性が高く、本発明の熱可塑性エラストマー組成物との融着性に優れる観点から、ポリエチレンが好ましい。共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体及びグラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0068】
本発明において、融着は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の融点以上の熱を加えて、融液にした後、融点以下の温度にして固化することで、融着対象の界面に固着する現象をいう。熱を加えるには、熱プレス機、加熱ロール機、熱風発生機、加熱蒸気、超音波ウェルダー、高周波ウェルダー、レーザー等を用いることができる。従って、融着部の界面が複雑な立体形状であっても、複雑な立体形状にうまくなじみ成形一体化することができる。熱可塑性エラストマー組成物と部材との融着は、全体にわたっていても、一部であってもよい。
【0069】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が部材に融着した複合成形体は、射出成形、射出圧縮成形、インサート成形、多色成形、真空成形、圧空成形、ブロー成形、熱プレス成形、発泡成形、レーザー融着成形、押出成形等の方法により、成形加工して得ることができるが、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、接着剤のように自身が粘着性を有するものではなく、取り扱いが容易であるため、射出成形にも適用することができる。
【0070】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が部材に融着した複合成形体としては、熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体に非極性樹脂がインサートされたインサート成形体、熱可塑性エラストマー組成物と、非極性樹脂とを多色成形して得られる複合成形体等が挙げられる。
【0071】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の成形体は、自動車、機械、建設資材、衣料、食品容器、家電、電気機器、医療用具、包装資材、文具・雑貨用品等に用いられる各種成形品として用いることができるが、なかでも、柔軟で触感がよく、かつ耐摩耗性及び耐傷付き性も良好であるという特徴を生かして、家具・自動車内装材等のシート材や表皮材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0072】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。実施例及び比較例で使用した原料等の各種物性は、以下の方法により測定した。
【0073】
<スチレン系エラストマー>
〔スチレン系単量体単位の含有量〕
核磁気共鳴装置(ドイツ国BRUKER社製、DPX-400)によって、プロトンNMR測定を行い、スチレンの特性基の定量を行うことによってスチレン及び/又はスチレン誘導体の含有量を決定する。
【0074】
〔重量平均分子量(Mw)〕
以下の測定条件で、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより、ポリスチレン換算で分子量を測定し、重量平均分子量を求める。
【0075】
測定装置
・ポンプ:JASCO(日本分光(株)製)、PU-980
・カラムオーブン:昭和電工(株)製、AO-50
・検出器:日立製、RI(示差屈折計)検出器 L-3300
・カラム種類:昭和電工(株)製「K-805L(8.0×300mm)」及び「K-804L(8.0×300mm)」各1本を直列使用
・カラム温度:40℃
・ガードカラム:K-G(4.6×10mm)
・溶離液:クロロホルム
・溶離液流量:1.0ml/min
・試料濃度:約1mg/ml
・試料溶液ろ過:ポリテトラフルオロエチレン製0.45μm孔径ディスポーザブルフィルタ
・検量線用標準試料:昭和電工(株)製ポリスチレン
【0076】
〔結晶融解熱〕
JIS K 7121に準拠した方法により、示差走査熱量計「DSC8500」((株)パーキンエルマージャパン製)を用い、試料を230℃で10分間保った後に毎分10℃の速度で50℃まで冷却し、230℃まで毎分10℃の速度で加熱する。得られたDSC曲線より得られる融解ピークの面積を結晶融解熱とする。
【0077】
〔融点〕
JIS K 7121に準拠した方法により、示差走査熱量計「DSC8500」((株)パーキンエルマージャパン製)を用い、試料を230℃で10分間保った後に毎分10℃の速度で50℃まで冷却し、230℃まで毎分10℃の速度で加熱する。得られたDSC曲線より融解ピークの頂点を融点とする。
【0078】
<ポリオレフィン樹脂>
〔重量平均分子量(Mw)〕
以下の測定条件で、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより、ポリスチレン換算で分子量を測定し、重量平均分子量を求める。
・ポンプ:JASCO(日本分光(株))製、PU-980
・カラムオーブン:昭和電工(株)製、AO-50
・検出器:日立製、RI(示差屈折計)検出器 L-3300
・カラム種類:TSKgel GNH6-HT(7.5×300mm)2本を直列使用
・カラム温度:140℃
・ガードカラム:K-G(4.6×10mm)
・溶離液:o−ジクロロベンゼン(和光純薬工業)と酸化防止剤としてBHT(武田薬品)0.025質量%
・溶離液流量:1.0ml/min
・試料濃度:約1mg/ml
・検量線用標準試料:昭和電工(株)製ポリスチレン
【0079】
〔メルトマスフローレイト(MFR)〕
ASTM D1238に準拠して、190℃、公称荷重2.16kgの条件で測定する。
【0080】
〔平均粒子径〕
デカン中に分散したポリオレフィン粒子を、ベックマン・コールター社製のコールターカウンター マルチサイザー(II)で測定し、体積基準の平均粒子径を測定する。
【0081】
<滑剤>
〔平均粒子径〕
走査型電子顕微鏡(SEM)装置を用い、測定する。
一次粒子の形状は、走査型電子顕微鏡観察によって直接観察することができ、任意の粒子を30個選んで長径と短径を測長し、楕円に規格化して断面積を算出することで面積基準の平均粒子径を算出することができる。
【0082】
測定装置
・SEM:VE-8800(KEYENCE製)
・加速電圧:1.3kV
【0083】
〔融点〕
示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、JIS K 7121で規定される方法に準拠して10℃/minで昇温して得られる融解ピークの温度を融点とする。融解ピークが複数表れる場合は、より低い温度で表れる融解ピークを融点とする。
【0084】
実施例1〜9及び比較例1〜10
(1) 熱可塑性エラストマー組成物の作製
表4、5に示す材料をドライブレンドし、混合物を下記の条件で、押出機で溶融混合して、ストランドに押出し、冷水中で冷却しつつカッターによって、直径3mm程度、厚さ3mm程度に切断し、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを製造した。
【0085】
〔溶融混合条件〕
押出機:(株)テクノベル製、KZW32TW-60MG-NH
スクリュー回転数:200〜650r/min
シリンダー温度:160℃〜200℃
【0086】
実施例及び比較例で使用した表4、5に記載の原料の詳細は以下の通り。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
(2) 熱可塑性エラストマー組成物の成形体の作製
ペレットを、下記の条件で射出成形し、厚さ2mm×幅125mm×長さ125mmのプレートAを作製した。
【0091】
<射出成形条件>
射出成形機:三菱重工業(株)製、100MSIII-10E
射出成形温度: 200℃
射出圧力:98MPa、射出速度:50%、保持圧:20%、保持時間:10sec
射出時間:2sec
金型温度:40℃
【0092】
プレートAを用い、実施例1〜9及び比較例1〜10で得られた組成物について、下記の測定又は評価を行った。結果を表4、5に示す。
【0093】
〔柔軟性〕
プレートAを雰囲気温度23℃で24時間静置したものを用い、測定時間:針が試料に接触してから1秒後、荷重:5kg、それ以外の条件はJIS K 6253で規定される方法に準拠してデュロメータA硬度を測定した。
【0094】
〔耐摩耗性(テーバー摩耗試験)〕
JIS K 7204に準拠し、23℃、摩耗輪;H-22、回転速度;72r/min、回転回数;1,000回、荷重;1000gでプレートAの摩耗損失量(mg)を測定した。摩耗損失量は、200mg以下が好ましく、より好ましくは100mg以下である。
【0095】
〔耐傷付き性〕
JIS K5600-5-4(塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第4節:引っかき硬度(鉛筆法))に準拠し、安田精機製作所の鉛筆硬度試験機を用いて鉛筆によるひっかき試験を行った。
試験片:プレートA
荷重:100g
鉛筆:H
0.5〜1mm/sの速度で、少なくても7mmの距離ひっかき試験を行い、試験開始地点より5mmの範囲を拡大観察し、傷の様子を以下の評価基準に基づいて目視にて観察した。
〔評価基準〕
○:傷が確認されない。
△:試験初期(ひっかき始めの3mm以内)のみに傷が確認される。
×:試験面全体に傷が確認される。
【0096】
〔耐ペレットブロック性〕
プレートAに射出成形する前のペレット1kgを150mm×150mm×高さ200mmのステンレス製容器に静かに投入して、23℃、50%RHで24時間静置した後、容器を逆さにしてペレットを排出した。排出後のペレットの状態を目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
〔評価基準〕
○:ペレットが個々に分かれている。
△:ペレットが部分的に塊になっている。
×:ペレットが全体的に一塊になっている。
【0097】
〔触感〕
カトーテック(株)製の摩擦感テスターKSE-SEを用い、指先を模した10mm×10mmのピアノワイヤセンサーをプレートAの表面に25g荷重で接触させ、1mm/secの定速で20mm滑らせたときの摩擦力とその変動とから触感をMIU及びMMDとして数値化した。MIUは摩擦係数であり、値が大きい程、すべりにくいことを意味する。MIUは、1.5以下が好ましい。また、MMDは摩擦係数の変動値であり、値が大きい程、なめらかさが低く、ざらつきが大きいことを意味する。MMDは、0.1以下が好ましい。MIU及びMMDの両方が同時に好適範囲にあり、A硬さが90以下のものは、柔らかでスムーズな触感を惹起し、特に好ましい。
【0098】
〔耐油性〕
JIS K6258に準拠し、日本サン石油(株)製のIRM903オイルにプレートAを浸漬して、浸漬前後での質量を測定した。浸漬前の試験片の質量を100%として浸漬によって増加した分の質量分率(%)を膨潤率として算出した。試験油によるプレートAの膨潤が全くなかった場合は0%となるが、膨潤が大きいほど数字は大きくなるため、膨潤率は0%以上で、値が小さいほど、耐油性に優れることを意味する。膨潤率は、100%以下が好ましく、より好ましくは50%以下である。
【0099】
【表4】
【0100】
【表5】
【0101】
以上の結果より、実施例1〜9の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟で触感がよく、かつ耐摩耗性、耐傷付き性、及び耐ペレットブロック性にも優れ、耐油性も良好であることが分かる。
これに対し、スチレン系エラストマーがスチレン系単量体とオレフィン及び/又は共役ジエンとの共重合部を有しておらず、スチレン系単量体単位の含有量も少ない比較例1は、触感及び耐油性に欠けている。
制御分布SEBSであってもスチレン系単量体単位の含有量が少ない比較例2は、耐摩耗性、触感、及び耐油性に欠けている。
スチレン系単量体単位の含有量が多くても、スチレン系エラストマーがスチレン系単量体とオレフィン及び/又は共役ジエンとの共重合部を有していない比較例3は、耐摩耗性及び耐傷付き性に欠け、柔軟性にも劣る。
ポリオレフィン樹脂を含有していない比較例4〜7は、耐ペレットブロック性等に欠けている。
ポリオレフィン樹脂を含有していても、重量平均分子量が小さい比較例8、9は、耐傷付き性等に欠けている。
ポリオレフィン樹脂が多すぎる比較例10は、柔軟性に欠けている。
【0102】
(3) 複合成形体の作製
実施例1、3、4、6のプレートAを、幅25mm、長さ120mmの大きさに切断した。
厚さ2mm、幅25mm、長さ120mmプレートAと、該プレートAと同じ大きさの下記非極性樹脂とを重ね合わせ、熱プレス成形(温度200℃、予熱2分、加圧3分、冷却2分、プレス圧力10MPa)した。いずれのプレートも各非極性樹脂と融着し、厚さ4mmの複合シートを作製した。
【0103】
〔非極性樹脂〕
低密度ポリエチレン(LDPE):ノバテックJ802(日本ポリプロ(株)製)
高密度ポリエチレン(HDPE):ニポロンハード1200(東ソー(株)製)
ブロックポリプロピレン(ブロックPP):PM870A(サンアロマー(株)製)
【0104】
JIS K6854-2「接着剤はく離接着強さ試験方法(180度はく離)」に準拠した方法により、雰囲気温度23℃で複合シートの剥離強度を測定した。熱可塑性エラストマー層をたわみ性被着材、非極性樹脂層を剛性被着材として、熱可塑性エラストマー層を180°方向に50mm/minで引張試験を行い、熱可塑性エラストマー層と非極性樹脂層の剥離強度(単位:N/25mm)を測定した。結果を表6に示す。
【0105】
【表6】
【0106】
以上の結果より、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いて、非極性樹脂との複合成形体が得られることが分かる。