特許第6629265号(P6629265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6629265放射制御デバイス、熱放射デバイス、および、熱放射における波長選択性の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6629265
(24)【登録日】2019年12月13日
(45)【発行日】2020年1月15日
(54)【発明の名称】放射制御デバイス、熱放射デバイス、および、熱放射における波長選択性の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/10 20060101AFI20200106BHJP
【FI】
   H05B3/10 Z
   H05B3/10 B
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-121962(P2017-121962)
(22)【出願日】2017年6月22日
(65)【公開番号】特開2018-67527(P2018-67527A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年1月23日
(31)【優先権主張番号】特願2016-204853(P2016-204853)
(32)【優先日】2016年10月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】近藤 良夫
(72)【発明者】
【氏名】青木 道郎
【審査官】 河内 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−114497(JP,A)
【文献】 特開2002−198722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長選択性熱放射を行う放射制御デバイスであって、
第1の電極層と、
前記第1の電極層から離れて配置された第2の電極層と、
前記第1の電極層と前記第2の電極層との間に設けられ、電界印加による誘電率可変性を有する材料である誘電率可変材料からなる誘電率可変層と、
前記第1の電極層と前記第2の電極層との間に接続された可変電圧源と、
を備える、放射制御デバイス。
【請求項2】
前記第1の電極層および前記第2の電極層の各々に面する誘電体層と、
前記誘電体層を介して前記第1の電極層および前記第2の電極層の各々に対向する対向電極層と、
をさらに備える、請求項1に記載の放射制御デバイス。
【請求項3】
支持面を有する支持体をさらに備え、前記支持面上に前記第1の電極層と前記誘電率可変層と前記第2の電極層とがこの順に積層されており、
前記支持面に垂直な断面視において、前記第2の電極層は、互いに間隔を空けて配置された複数の部分を含む、
請求項1に記載の放射制御デバイス。
【請求項4】
平面視において、前記第2の電極層の前記複数の部分は前記第2の電極層自身によって互いにつながっている、請求項3に記載の放射制御デバイス。
【請求項5】
前記第2の電極層には複数の孔部が設けられている、請求項3または4に記載の放射制御デバイス。
【請求項6】
前記可変電圧源の最大出力電圧は電圧Vmaxであり、前記第1の電極層と前記第2の電極層との間は寸法dの前記誘電率可変層によって隔てられており、電界Emax=Vmax/dと定義すると、前記誘電率可変材料は、電界Emaxの印加に対して30%以上の誘電率変化を有する材料である、請求項1から5のいずれか1項に記載の放射制御デバイス。
【請求項7】
前記誘電率可変材料は、30%以上の誘電率変化を得るための第1および第2の電極層間への印加電圧が100V以下であるように選択されている、請求項1から6のいずれか1項に記載の放射制御デバイス。
【請求項8】
前記誘電率可変材料は、Y原子と、Mn原子と、AlおよびGaの少なくとも一方の原子と、を含む複合酸化物を含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の放射制御デバイス。
【請求項9】
前記誘電率可変材料はV原子を含む酸化物を含む、請求項1から8のいずれか1項に記載の放射制御デバイス。
【請求項10】
前記誘電率可変材料はチタン酸ストロンチウムバリウムを含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の放射制御デバイス。
【請求項11】
波長選択性熱放射を行う放射制御デバイスを備え、前記放射制御デバイスは、
第1の電極層と、
前記第1の電極層から離れて配置された第2の電極層と、
前記第1の電極層と前記第2の電極層との間に設けられ、電界印加による誘電率可変性を有する材料である誘電率可変材料からなる誘電率可変層と、
前記第1の電極層と前記第2の電極層との間に接続された可変電圧源と、
を含み、さらに
前記放射制御デバイスへ熱供給を行う熱源を備える、熱放射デバイス。
【請求項12】
第1の電極層と、前記第1の電極層から離れて配置された第2の電極層と、前記第1の電極層と前記第2の電極層との間に設けられ、電界印加による誘電率可変性を有する材料である誘電率可変材料からなる誘電率可変層と、を含む熱放射デバイスによって、波長選択性を有する熱放射を行う工程と、
前記第1の電極層と前記第2の電極層との間の電圧を変化させることによって前記波長選択性を変化させる工程と、
を備える、熱放射における波長選択性の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射制御デバイスと、熱放射デバイスと、熱放射における波長選択性の制御方法とに関し、特に、波長選択性熱放射を行う放射制御デバイスと、それを用いた熱放射デバイスと、熱放射における波長選択性の制御方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱放射デバイスの重要な特性として、その熱放射のスペクトル分布がある。スペクトル分布において、エネルギー損失を抑えつつ特定波長での強度を特に高める技術、言い換えればエネルギー損失を抑えつつ波長選択性を得る技術、のひとつとして、マイクロキャビティを用いる技術が検討されている。
【0003】
たとえば、下記特許文献1によれば、熱放射デバイスとして、ピーク波長5〜6μmを有する赤外線ヒータの技術が開示されている。この赤外線ヒータは、熱放射源としての発熱体を有している。発熱体の表面には、波長5〜6μmの赤外線を増幅することでエネルギー効率を向上させるためのマイクロキャビティが設けられている。
【0004】
また、たとえば下記特許文献2によれば、特定の光吸収帯を持つ輻射性ガス分子を効率よく加熱するために用いられる波長選択性熱放射材料が開示されている。波長選択性熱放射材料は、多数のマイクロキャビティと、熱放射面と、を有している。マイクロキャビティは、平面上に周期的に繰り返される微細凹凸パターンを形成するように、実質的に二次元配列されている。熱放射面は、マイクロキャビティを覆う被覆層を有し、輻射性ガス分子の特定の光吸収帯の波長領域に対応する熱輻射電磁波を選択的に放射する。マイクロキャビティを輻射性ガス分子の特定の光吸収帯波長と実質的に同じ周期にすると、その周期構造と熱放射光の電磁場とで表面プラズモン共鳴を生じるので、対象ガスの光吸収帯波長域で放射率が増加する(共鳴効果)。また、マイクロキャビティを輻射性ガス分子の特定の光吸収帯波長よりも1μm短い周期にすると、マイクロキャビティ内に閉じ込められた電磁波のなかで最も強い強度を持つモードの波長とガス分子の特定の光吸収帯波長とを一致させることができる。その結果、対象ガスの光吸収帯波長域で放射率が増加する(キャビティ効果)。マイクロキャビティのアスペクト比は0.8〜3.0の範囲が好ましく、アスペクト比が過度に小さいと選択放射強度が低下する。
【0005】
上述したように、マイクロキャビティは、マイクロメートルオーダーのパターンを高アスペクトで形成する必要がある。特に赤外域のように比較的長い波長が制御対象となる場合、深いマイクロキャビティを形成する必要がある。このため、マイクロキャビティの技術が産業上利用される場合、その製造の難易度の高さが問題となり得る。これに対して、マイクロキャビティを用いることなく、熱放射のスペクトル分布を制御する技術も検討されてきている。
【0006】
たとえば、下記非特許文献1によれば、金属−誘電体−金属の構造を有するメタマテリアルを用いた技術が検討されている。メタマテリアルには、典型的には、下部金属層と、中間部誘電体層と、マイクロメートルまたはナノメートルオーダーの周期的パターンを有する上部金属層とを有する構造が設けられる。時間変化する磁界がこの構造中に導入されると、振動する反平行電流が誘起されることで磁気共鳴が生じる。すなわち磁気ポラリトンが生じる。この文献によれば、様々な周期的パターンの下での磁気共鳴条件を予測することが、等価LC回路モデルによって可能とされている。たとえば、中間部誘電体層が屈折率1.51と厚さ140nmとを有するアルミナから作られ、上部金属層が、100nmの厚みと、1.7μm四方の正方形状が3.2μmピッチで配列された周期的パターンとを有する場合が想定されている。この場合、ピーク波長6.74μmが得られる旨のシミュレーションがなされている。このシミュレーション技術によれば、所望の波長の熱放射を増幅することができるメタマテリアルを、より容易に設計することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−206606号公報
【特許文献2】特開2004−238230号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Atsushi Sakurai, et al., ”PREDICTION OF THE RESONANCE CONDITION OF METAMATERIAL EMITTERS AND ABSORBERS USING LC CIRCUIT MODEL", 2014年8月, Proceedings of the 15th International Heat Transfer Conference, IHTC15−9012, pp.1−10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記非特許文献1に記載の技術によれば、熱放射のスペクトル分布における特定波長での強度がメタマテリアルによって増幅される。この増幅は、上述したように、下部金属層と中間部誘電体層と上部金属層との設計に応じて生じるものであり、熱放射を行うメタマテリアルにおいて定常的に生じるものである。本発明者らは、スペクトル分布を任意のタイミングで制御することができれば極めて有用であろうことに着目した。たとえば、トルエンを蒸発させるための加熱工程として、トルエンが吸収しやすいエネルギーのひとつに対応するピーク波長6.7μmを有する熱放射がメタマテリアルを用いてなされているとする。この工程に何らかの問題が生じるなどして、過度の温度上昇の発生が懸念される事態が生じたとする。その場合、メタマテリアルによるピーク波長6.7μmでの強度の増幅を速やかに抑制することができれば、トルエンの加熱効率が急減するので、過度の温度上昇を防止することができる。しかしながら、メタマテリアルからの熱放射の波長選択性を任意のタイミングで制御する技術は、これまで十分に検討されていなかった。
【0010】
本発明は以上のような課題を解決するためになされたものであり、その一の目的は、熱放射の波長選択性を速やかに変化させることができる放射制御デバイスを提供することである。また他の目的は、熱放射の波長選択性を速やかに変化させることができる放射デバイスを提供することである。またさらに他の目的は、任意のタイミングで波長選択性を抑制することができる、波長選択性熱放射の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の放射制御デバイスは、波長選択性熱放射を行うものである。放射制御デバイスは、第1の電極層と、第2の電極層と、誘電率可変層と、可変電圧源とを有している。第2の電極層は、第1の電極層から離れて配置されている。誘電率可変層は、第1の電極層と第2の電極層との間に設けられており、電界印加による誘電率可変性を有する材料である誘電率可変材料からなる。可変電圧源は第1の電極層と第2の電極層との間に接続されている。
【0012】
本発明の熱放射デバイスは、放射制御デバイスと、熱源とを有している。放射制御デバイスは、波長選択性熱放射を行うものである。放射制御デバイスは、第1の電極層と、第2の電極層と、誘電率可変層と、可変電圧源とを有している。第2の電極層は、第1の電極層から離れて配置されている。誘電率可変層は、第1の電極層と第2の電極層との間に設けられており、電界印加による誘電率可変性を有する材料である誘電率可変材料からなる。可変電圧源は第1の電極層と第2の電極層との間に接続されている。熱源は放射制御デバイスへ熱供給を行うものである。
【0013】
本発明の、熱放射における波長選択性の制御方法は、次の工程を有している。第1の電極層と、第1の電極層から離れて配置された第2の電極層と、第1の電極層と第2の電極層との間に設けられ、電界印加による誘電率可変性を有する材料である誘電率可変材料からなる誘電率可変層と、を含む熱放射デバイスによって、波長選択性を有する熱放射が行われる。第1の電極層と第2の電極層との間の電圧を変化させることによって波長選択性が変化させられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の放射制御デバイスによれば、可変電圧源からの電圧の大きさにより、放射制御デバイスからの熱放射の波長選択性を速やかに変化させることができる。
【0015】
本発明の熱放射デバイスによれば、可変電圧源からの電圧の大きさにより、放射制御デバイスからの熱放射の波長選択性を速やかに変化させることができる。
【0016】
本発明の、熱放射における波長選択性の制御方法によれば、第1の電極層と第2の電極層との間の電圧を変化させることによって波長選択性を速やかに変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態1における熱放射デバイスの構成を概略的に示すブロック図である。
図2】本発明の実施の形態1における放射制御デバイスの構成を概略的に示す部分斜視図である。
図3図2の線III−IIIに沿う部分断面図である。
図4】本発明の実施の形態2における放射制御デバイスの構成を概略的に示す部分平面図である。
図5】本発明の実施の形態2の変形例における放射制御デバイスの構成を概略的に示す部分平面図である。
図6】本発明の実施の形態3における放射制御デバイスの構成を概略的に示す部分斜視図である。
図7図6の線VII−VIIに沿う部分断面図である。
図8図6の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0019】
<実施の形態1>
(構成)
図1を参照して、本実施の形態の加熱装置(熱放射デバイス)は、放射板81(放射制御デバイス)と、ヒータ71(熱源)とを有している。ヒータ71は放射板81へ熱供給SAを行うものである。放射板81は、加熱装置による加熱対象(図1において図示せず)へ、波長選択性を有する熱放射SBを行うものである。すなわち、特定の波長において特に大きな強度を有する熱放射SBを行うものである。この波長選択性は放射板81によって得られるものであることから、ヒータ71による熱供給SAは、特段の波長選択性を有する必要はない。このためヒータ71としては、通常の抵抗加熱式ヒータが用いられてもよく、たとえばセラミックヒータが用いられてもよい。ヒータ71は放射板81上に直接または何らかの接合部材を介して固定されていてもよい。またヒータ71と放射板81とは一体に構成されてもよい。ヒータ71から放射板81に供給される熱供給SAの量によって、放射板81の温度が変化し、それにより放射板81が放射する熱放射SBの(選択波長における)エネルギー密度が変化するが、当該SAの量により熱放射SBの波長選択性は変化しない。すなわち、熱供給SAは熱放射SBのエネルギー密度調整のためのみに用いられる。
【0020】
図2および図3を参照して、放射板81は、基板10と、対向電極層11と、誘電体層15と、電界制御層20と、誘電率可変層16と、可変電圧源60と、配線経路50とを有している。電界制御層20は、第1の電極層21と、第2の電極層22とを有している。
【0021】
対向電極層11は基板10上に設けられている。対向電極層11の厚みは、たとえば100nm程度である。誘電体層15は、対向電極層11上に設けられており、対向電極層11を覆っている。誘電体層15の厚みは、たとえば、100nm程度以上、数μm以下である。第1の電極層21および第2の電極層22は誘電体層15上に設けられている。よって誘電体層15は第1の電極層21および第2の電極層22の各々に面している。第1の電極層21および第2の電極層22は互いに離れて配置されている。誘電率可変層16は、第1の電極層21と第2の電極層22との間に設けられている。第1の電極層21と第2の電極層22との間が寸法dの誘電率可変層16によって隔てられているとすると、寸法dは数百nmであることが好ましい。第1の電極層21と、第2の電極層22と、誘電率可変層16との各々の厚みは、たとえば100nm程度である。対向電極層11は誘電体層15を介して第1の電極層21および第2の電極層22の各々に対向している。具体的には、第1の電極層21および第2の電極層22はx方向(一の方向)において誘電率可変層16を介して交互に配置されている。第1の電極層21および第2の電極層22の各々はy方向(一の方向に交差する方向)に延在している。本実施の形態においては、x方向において、第1の電極層21と誘電率可変層16と第2の電極層22とを有する1組の構成が周期的に繰り返されている、これにより、図2の左上に示されているように、ストライプパターンが設けられている。
【0022】
上述した構造により、いわゆるメタマテリアルが構成されている。たとえば、赤外域における特定のピーク波長を有する波長選択性を得ることを意図したメタマテリアルが構成され得る。メタマテリアルの設計、すなわち上記各構成の具体的な設計、は、たとえば、前述した等価LC回路モデルを用いて行うことができる。図2の構造体では、対向電極層11と(それと誘電体15を挟んで存在する)第1の電極層21および第2の電極層22、の間に誘起される磁気共鳴と、第1の電極層21と(それと誘電率可変層16を挟んで存在する)第2の電極層22の間に誘起される磁気共鳴と、の相互作用により、熱放射SBにおいて高い波長選択性を実現する。
【0023】
可変電圧源60は、その出力電圧が変更され得る電圧源である。可変電圧源60は、最低限、2つの異なる電圧を出力することができるものであればよい。ここでいう2つの異なる電圧の一方はゼロ電圧であってもよく、その場合、可変電圧源60は、ゼロと異なる出力電圧を発生する電圧源と、この電圧の発生を停止することで出力電圧をゼロとするスイッチング機構とによって構成され得る。あるいは可変電圧源60は、3つ以上の異なる電圧を出力することができるものであってもよく、出力電圧を実質的に連続的に変化させることができるものであってもよい。
【0024】
可変電圧源60は、第1の電極層21と第2の電極層22との間の電圧を調整するために、第1の電極層21と第2の電極層22との間に接続されている。この接続のために配線経路50が設けられている。配線経路50は、第1の配線経路51および第2の配線経路52を有している。可変電圧源60は、典型的には、一方端および他方端子を有し、かつこれらの間に、大きさが可変の電圧を発生させるものである。第1の配線経路51は、可変電圧源60の一方端子と第1の電極層21との間を接続している。第2の配線経路52は、可変電圧源60の他方端子と第2の電極層22との間を接続している。
【0025】
可変電圧源60の最大出力電圧を電圧Vmaxとすると、最大出力電圧は電圧Vmaxは、たとえば数十V程度であってよい。可変電圧源60の出力は、直流電圧であることが好ましいが、交流電圧であってもよい。可変電圧源60の出力の大きさは、外部からの制御によって変更され得る。たとえば、出力電圧が、ゼロ電圧、およびゼロよりも大きな一の電圧のいずれかとなるように、可変電圧源60が制御される。
【0026】
誘電率可変層16は、電界印加による誘電率可変性を有する材料である誘電率可変材料からなる。誘電率可変材料とは、電界印加に対して実質的な誘電率変化を有する材料である。誘電率可変材料は、30%以上の誘電率変化を得るための第1の電極層21および第2の電極層22間への印加電圧が100V以下であるように選択されていることが好ましく、数十V程度以下であるように選択されていることがより好ましい。前述した寸法dおよび最大電圧Vmaxを用いて最大電界Emax=Vmax/dと定義すると、誘電率可変材料は、最大電界Emaxの印加に対して30%以上の誘電率変化を有する材料であることが好ましい。
【0027】
たとえば、誘電率可変材料は、Y原子と、Mn原子と、AlおよびGaの少なくとも一方の原子と、を含む複合酸化物であってよい。具体的には誘電率可変材料は複合酸化物YMn1-x-yAlxGay3であってよい。好ましくは0.05≦x+y≦0.3が満たされる。Y原子の一部は他の希土類元素によって置換されてもよい。あるいは、誘電率可変材料は、たとえば、V原子を含む酸化物であってもよく、特に酸化バナジウムであってもよい。また、たとえば、誘電率可変材料はチタン酸ストロンチウムバリウムであってもよい。なお、誘電率可変層16における異なる箇所に、異なる材料が適用されてもよい。
【0028】
なお、誘電体層15は、上述した誘電率可変性を有している必要はない。誘電体層15の材料としては、たとえば、上述した誘電率可変性を有しない材料である酸化アルミニウムを用い得る。
【0029】
(使用方法)
次に、加熱装置(図1)の使用方法、言い換えれば熱放射における波長選択性の制御方法、について、以下に説明する。
【0030】
ヒータ71により放射板81へ熱供給SA(図1)が行われる。熱供給SAを受けた放射板81からは、波長選択性を有する熱放射SBが行われる。第1の電極層21と第2の電極層22との間の電圧を変化させることによって波長選択性が変化させられる。言い換えれば、熱照射SBのスペクトル分布が、第1の電極層21と第2の電極層22との間の電圧を変化させることによって変化させられる。波長選択性の変化は、電圧の変化に追随して、ほぼ瞬間的に生じる。よって本実施の形態によれば、可変電圧源60からの電圧の大きさにより、熱放射SBの波長選択性を速やかに変化させることができる。さらに、電圧の大きさが微調整される場合は、波長選択性を微調整することができる。
【0031】
シミュレーションによる推測によれば、寸法d(図3)が200nm、第1の電極層21および第2の電極層22の各々の幅寸法(図3における横方向の寸法)が4μmとして、可変電圧源60の出力電圧を0から40Vへ増大させることによって、誘電率可変層16の比誘電率が100から70へと抑制され(すなわち30%抑制され)、それにより熱放射SBにおけるピーク波長が4.5μmから3.5μmへと変化させられる。よって、可変電圧源60の出力電圧が0または40Vのいずれかへスイッチングされる場合は、ピーク波長として4.5μmと3.5μmとのいずれかを選択することができる。このように、誘電率可変層16の誘電率を30%程度以上変化させることができれば、ピーク波長を十分に有意に変化させることができると考えられる。
【0032】
<実施の形態2>
図2(実施の形態1)においては、電界制御層20の第1の電極層21および第2の電極層22の各々が、y方向に沿って直線状に延びている。図4を参照して、これに対して本実施の形態においては、電界制御層20aの第1の電極層21aおよび第2の電極層22aは、複数の微小な領域の各々において、曲線状の形状を有している。これにより、上記各領域には、微小円環回路の一部が欠損した回路が設けられる。これにより、スプリットリングとも称されるメタサーフェス構造が設けられる。スプリットリングは共振器(アンテナ)として機能し得る。
【0033】
変形例として、図5に示すように、第1の電極層21bおよび第2の電極層22bを有する電界制御層20bが用いられてもよい。この変形例においては、一部が欠損した複数の微小円環回路を連結するための配線部が、別途、設けられている。
【0034】
なお、上記以外の構成については、上述した実施の形態1の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0035】
<実施の形態3>
(構成)
図6および図7を参照して、本実施の形態の放射板83(放射制御デバイス)は、放射板81(図2および図3:実施の形態1)と同様、波長選択性熱放射を行う放射制御デバイスである。放射板83は、基板10(支持体)と、第1の電極層41と、誘電率可変層36と、第2の電極層42と、可変電圧源60と、配線経路50とを有している。
【0036】
基板10は、図中、xy面に平行な支持面SS(図中、上面)を有している。支持面SS上に、第1の電極層41と誘電率可変層36と第2の電極層42とが、厚み方向(図中、xy面に垂直なz方向)においてこの順に積層されている。すなわち、第1の電極層41は基板10の支持面SS上に配置されており、誘電率可変層36は第1の電極層41上に配置されており、第2の電極層42は誘電率可変層36上に配置されている。よって、第2の電極層42は第1の電極層41から離れて配置されている。また第1の電極層41と第2の電極層42との間に誘電率可変層36が配置されている。誘電率可変層36の材料は、誘電率可変層16(図2および図3:実施の形態1)と同様、誘電率可変材料からなる。本実施の形態においては、誘電率可変層16の寸法dは、実施の形態1および2と異なり、誘電率可変層16の厚み方向(図中、z方向)における寸法dである。寸法dは、実施の形態1と同様、数百nmであることが好ましい。
【0037】
可変電圧源60は、第1の配線経路51および第2の配線経路52を有する配線経路50によって、第1の電極層41と第2の電極層42との間に接続されている。可変電圧源60は、第1の電極層41および第2の電極層42のそれぞれに、第1の配線経路51および第2の配線経路を介して接続されている。
【0038】
第2の電極層42には、厚み方向に貫通している複数の孔部HCが設けられている。よって、図7、すなわち支持面SSに垂直な断面視、において、第2の電極層42は、孔部HCの存在によって互いに間隔を空けて配置された複数の部分42a,42bを含む。孔部HC内は空洞であってよい。すなわち、孔部HC内は、空気などの気体によって満たされていてよく、あるいは真空であってもよい。代わりに、孔部HC内が、絶縁体からなる充填部材によって充填されていてもよい。
【0039】
第2の電極層42の複数の部分42a,42b(図7)は、図6におけるxy面の視野、すなわち平面視、において、第2の電極層42自身によって互いにつながっている。具体的には、孔部HCはxy面内において円形を有しており、よって部分42aと部分42bとは、当該円形の円周に沿って互いにつながっている。
【0040】
なお、上記以外の構成については、上述した実施の形態1の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0041】
(実施の形態1との比較)
放射板81(図2および図3:実施の形態1)においては、第1の電極層21および第2の電極層22が、誘電率可変層36の同じ面(図中、上面)上に配置されている。このため、第1の電極層21および第2の電極層22が誘電率可変層36の上面上において互いに短絡しないようにする必要がある。具体的には、誘電率可変層36の上面上において、第1の電極層21および第2の電極層22が互いに離れるように配置し、かつ、第1の電極層21および第2の電極層22の各々との電気的接続を設ける必要がある。このため配線構造がやや複雑なものとなりやすい。
【0042】
これに対して本実施の形態の放射板83によれば、第1の電極層41および第2の電極層42が、誘電率可変層36の異なる面(図中、上面および下面)上に配置されている。これにより、第1の電極層41と第2の電極層42とは誘電率可変層36によって互いに絶縁される。よって、第2の電極層42が第1の電極層41と誘電率可変層36の上面上において短絡する懸念がない。よって、誘電率可変層36の上面上に配置された第2の電極層42のパターン形状を、より自由に選択することができる。具体的には、第2の電極層42に、メタマテリアルとして求められる特性に応じて断面視において互いに離れた複数の部分42a,42b(図7)を設けつつも、平面視において複数の部分42a,42bを第2の電極層42自身によって互いにつなげることができる。これにより、複数の部分42a,42bの各々に対して配線を設けることなく、例えば、部分42aにつながった一の配線だけで、部分42a,42bの両方に、可変電圧源60によって電位を印加することができる。よって、実施の形態1の場合に比して、配線構造を簡素化することができる。
【0043】
(変形例)
図9を参照して、変形例の放射板83Vは、複数の孔部HC(図6)に代わって、複数の孔部HSを有している。複数の孔部HSはストライプ形状を有している。言い換えれば、複数の孔部HSの各々はy方向に延在しており、これら複数の孔部HSがx方向に配列されている。
【0044】
なお、第2の電極層42に設けられる孔部は、孔部HC(図6)または孔部HS(図8)に限定されるものではない。孔部の形状および配置は、メタマテリアルとして求められる特性に応じて定められればよい。
【符号の説明】
【0045】
10 基板(支持体)
11 対向電極層
15 誘電体層
16,36 誘電率可変層
20,20a,20b 電界制御層
21,21a,21b,41 第1の電極層
22,22a,22b,42 第2の電極層
50 配線経路
51 第1の配線経路
52 第2の配線経路
60 可変電圧源
71 ヒータ(熱源)
81,83,83V 放射板(放射制御デバイス)
HC,HS 孔部
SS 支持面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8