(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
気体の音速関連固有値であるγ/M値(但し、γ:比熱容量比γ、M:1モルの気体の質量であり、γ/M値は、γとMとの比に関連する値であって、γ/M、SQRT(γ/M)、M/γ、及び、SQRT(M/γ)を含む。)を測定するための音速関連固有値測定装置であって、
熱的に互いに接する2つのセル及び各セルに組み込まれた2組の超音波送信子及び超音波受信子を備えるセル構造体と、
前記超音波送信子を駆動制御し、前記超音波送信子から送信された超音波が前記超音波受信子に到達するのに要する時間を計測して音速を測定する計測・制御部と、を備え、
一方のセルにはγ/M値が既知の標準気体が入れられ、他方のセルにはγ/M値の測定対象である被測定気体が入れられ、
前記計測・制御部は、同じ環境の下で前記一方のセルにおける前記標準気体の音速測定及び前記他方のセルにおける前記被測定気体の音速測定を行い、前記標準気体の音速と前記被測定気体の音速とに基づいて前記被測定気体のγ/M値を求めることを特徴とする気体の音速関連固有値測定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
出典によって大きな差異のあるデータがあり、差異がなくても高精度とは言えないデータもあるため、まずは文献から音速データの現状を把握した上で、差異やバラツキの要因について考察し、高精度化の方法を探るべきである。しかし、まず考察すべきは差異やバラツキの要因が気体の持つ性質によるものであるか否かという点である。気体には、測定する音波の周波数に応じた分散が見られる性質があると言われており、周波数に応じて異なる音速が得られる可能性がある。分散を研究テーマにして得られたデータも含まれているかもしれない。しかし、これらのデータについては高精度な音速測定器により、保証精度との関係から分かる明確な差異を確認するしかない。特定の気体について、他の気体と異なる性質があるということが分かれば、それなりに価値のあることである。次に、特異な特性を示さない気体について、音速測定技術上の問題が高精度化を妨げていないことを確認することが測定器を考える上で極めて重要である。過去の測定結果の要因を1点ずつ調べることは不可能に近く、逆に音速測定の測定精度に影響を及ぼす要因については十分に調べられており、以下の問題点をなくしていくことで高精度化が実現できると考えられる。音速測定技術については、既に説明したような被測定気体の取り扱い(例;空気、水蒸気等の混入)及び気体の純度の問題、被測定気体の絶対温度の測定精度の問題、距離測定及び時間測定の精度の問題の3点が重要と考えられる。最近の技術を使えば、距離や時間の測定に精度上の問題があるとは考えられず、前者の2点の問題を確実に解決することこそ高精度音速測定器の実現には欠かせない。
【0008】
比較のため、各種気体の固有値として最も一般的な質量について見てみると、超音波音速測定の対象となった全ての単一気体の分子構造は分かっており、その質量も分かっている。1モルの気体の質量(即ち、モル質量)Mは、気体分子を構成している原子の質量の和で決まる。原子の質量は、例えば、理科年表にある元素の原子量の表から知ることができる。同書には、『地球上に起源を持つ物質中の元素に適用される』とあり、特別の場合を除き、この原子量の不確かさは、0.001%程度又はそれ以下であり、先に述べた音速のデータと比較して2桁以上高精度と言える。
【0009】
もう1つの気体の固有値である比熱容量比(或いは熱容量の比)γのデータについて確認してみると、最新の理科年表にはデータの記載はないが、1993年発行版には、定圧比熱容量Cpと定積比熱容量Cvの比(γ=Cp/Cv)として、各種気体の比熱容量比γのデータがある。データは1.02から1.67まで3桁ないし4桁の数値が書かれており、不確かさは0.1%未満から1%に近いものまである。これらのデータは定圧比熱容量Cpと一緒に書かれていることから、定積比熱容量Cvに対する比として計算されて求められたものと思われるが、音速に基づいて計算される音速関連固有値としての比熱容量比γとの関連も、理科年表には数値が書かれているだけで、情報源他の記述はない。
【0010】
各種気体の比熱容量比γのデータが記載されなくなった理由は、本当のことは分からないが、2つ考えられる。1つは、正確とは言えないと思われるデータが含まれていたためであり、もう1つ、比熱容量比γはデータとしての価値がないとの判断があったためであり、少なくともいずれかであったと想像される。前者の判断については、音速と絶対温度及び質量から計算される比熱容量比γに対する差異の大きいデータがあったこと、後に説明される気体のエネルギーの式から、R/(γ−1)が気体の比熱容量であるのに対し、比熱容量比γのデータとして1.02と言う値で比熱容量に換算すると50Rになるデータもあったことが挙げられる。後者の理由については、正確で且つ高精度なデータがあれば、比熱容量比γは各種気体の固有値としての価値があり、音速だけでなく気体のエネルギーにも関わりがあることから、気体分子の運動や原子振動に関わる物理量として意味があると判断でき、前者の理由だけが残ると思われる。
【0011】
次に比熱容量比γの測定について考える。比熱容量比γの定義通りに、定圧比熱容量Cpと定積比熱容量Cvとを計測し、その比から求める。ここで、比熱はモル比熱とする。系に供給される熱量をδQ、内部エネルギーUの変化をδU、系になされた仕事量をδW、
系の温度変化をδT
、系の体積変化をδVとすると、Cv及びCpは以下となる。
Cv=δQ/δT ・・・(1) 但し、体積Vは一定
Cp=δQ/δT ・・・(2) 但し、圧力Pは一定
δQ=δU−δW ・・・(3a)
δW=−P・δV ・・・(3b)
具体的な測定装置としては、被測定気体を容器に入れて、測定条件を満たすようにコントロールしながら、供給する熱量及び
系の温度変化δTを測定する。例えば、容器としてはシリンダーを使い、体積Vを一定にするためにはピストンを固定し、圧力Pを一定にするためには、ピストンが自由に動くようにする。シリンダーが抵抗なく動くことが難しければ、内圧が一定になるようにシリンダーを駆動制御する。これで測定条件は整うが、投入された熱は、被測定気体を温めるだけではなく、ピストンを含むシリンダーにも伝わり、更にはその外側にも逃げる。熱が外に逃げない対策を施すことはできるとしても、多少の逃げは避けられず、その分と容器のシリンダーを温める熱量とは投入された熱量から減じて、被測定気体に関わる熱量が決まる。減算すべき熱量については予め調べておく必要がある。従って、上記計算式のδQは減算後の熱量である。被測定気体の定積比熱容量Cvは、体積Vが一定の条件であり、δV=0であるため、δQ/δT=δU/δTであり、δQとδTとの比で求められる。一方、定圧比熱容量Cpについては、熱量δQが体積VをδV増やす仕事(=P・δV)をするため、CpであるδQとδTとの比はδU/δTよりもP・δV/δTだけ大きな値となる。従って、CpとCvとの比で求められるγは常に1より大きい。以上、熱の逃げがあり、被測定気体の比熱容量に比べはるかに大きい比熱容量の容器を温めるのに使われた熱量を系に供給された熱量から減算する等、熱を使って気体の比熱容量を高精度に測定することの難しさがあることが分かる。
【0012】
以上、見てきたように、気体の音速にしても、比熱容量比γにしても、それぞれ測定器が市場に供給されていれば、異なる測定方法から得られた結果について、それぞれの結果に対する評価が客観的にできたのではないかと思われる。測定器となれば、測定精度或いは測定誤差についての保証が求められる。誤差ないしバラツキについての記述のないデータについては、表現されている桁数程度の精度と見るのが妥当と思われる。
【0013】
気体の法則について、ケンブリッジ物理公式ハンドブック(Graham Woan著、堤正義訳、共立出版発行)によると、まず第1の式、理想気体の状態方程式として、圧力P、体積Vと絶対温度Tとの関係を示す下式(4)がある。
P・V=n・R・T ・・・(4)
ここで、Rは気体定数
(モル気体定数)であり、nは気体のモル数である。理想気体の内部エネルギーUと絶対温度Tとの関係式として、下式(5)がある。
U=n・R・T/(γ−1) ・・・(5)
ここでRとnとは前記説明と同じ、γは比熱容量比(或いは熱容量の比)であり、下式(6)で説明される定圧比熱容量Cpと定積比熱容量Cvとの比である。
γ=Cp/Cv ・・・(6)
気体分子運動論の中で、気体分子を構成している原子振動の自由度fと上記比熱容量比γとの関係としては、下式(7)がある。
γ=1+2/f ・・・(7)
上式(7)は理想気体のガスの等分配、エネルギー等分配の法則とも言われている。理想気体中の音波の伝搬速度(音速)の式として、下式(8)がある。
v=SQRT(γ・R・T/M) ・・・(8)
ここで、γ、R、Tについては既に説明済みであり、Mは1モルの気体の質量である。この式(8)から、次の式(9)に展開できる。
v・v/(R・T)=γ/M ・・・(9)
この式(9)は、理想気体の音速が絶対温度Tの平方根に比例するのに対し、γ/Mが温度に依存しない固有値であり、音速と絶対温度Tとからこの値が求められることを示している。これらの関係式の中で、上式(6)はγを定義する式であり、上式(9)は上式(8)を書き変えただけの式であり、法則或いは公式と言われるものは、4つの式となる。これらの式の内、上式(7)は独立した式であり、他の3つの式は、相互に関係している式と言える。以上、見てきたように、これらの公式は、全て理想気体に対し適用可能な式として説明されている。
【0014】
これらの関係式は、過去の技術成果であり、工業的にも対象気体にこのような関係式があれば、容易に結果を推定でき、適用可能であれば、演繹し、結果を計算でき、極めて有用性が高く、結果を得る手順が短縮でき、簡略化できる。しかし、理想気体という条件付きの関係式である限り、対象となる気体に適用しようとすれば、確認してから使わざるを得ない。1つの関係式が使えるとなっても、他の関係式も使えるとはならない可能性もあり、使おうとする関係式は全て確認をしてから使うこととなる。工業的に使えるか使えないかの判断は、適用範囲内で温度及び圧力Pを変えた時の結果と関係式の計算結果との差異「ズレ」が保証精度範囲内であるか否かである。差異「ズレ」が補正できて、保証精度以内に収まるのであれば、補正すれば使えることにもなる。実用温度範囲内で且つ実用圧力範囲内で、これらの関係式が補正を含め使用可能と言うことが比較的簡単に分かるようになれば、各種気体に本格的に応用が開けてくると考えられる。各種気体への応用例が数多く公開されることが期待されている。
【0015】
混合気体の分析装置としては、赤外分光法を使った分光分析装置がある。構成している分子ないし原子が光のエネルギーを吸収し、量子化された振動或いは回転の状態が変化する。励起に必要なエネルギーは分子の化学構造により異なり、赤外線吸収スペクトルが得られる。このスペクトルが気体分子により異なることから、どのような分子が含まれているかを検出することができる。吸収スペクトルの谷の深さから、ある程度の成分割合を推定することはできる。どのような成分が含まれているかについては、高感度に検出できるが、成分割合を高精度に求めるための装置には向いていないし、成分割合測定器とは言えない。
【0016】
気体の固有値であるモル質量Mが計測できれば、成分割合を正確に算出することができる。予め既知の気体のモル質量Mに成分割合を乗じたものを全て加えたものが混合気体のモル質量Mである。従って、混合気体のモル質量Mを計測できれば2成分系の成分割合は逆に計算可能である。0℃且つ1気圧下で22.4リットルの混合気体の重量を測ればそれが質量である。22.4リットルの容器に0℃且つ1気圧の気体を入れて重量を測り、次に真空にした容器の重量を測って減算すれば、気体の質量を測ることができるが、もっと少ない量で尚且つ高精度の質量測定の要求にも応える気体の質量測定器となると一層実現のハードルが高くなる。
【0017】
気体の音速は、かつて、主に超音波研究者によって実験装置にて各種気体の測定が行われ、これらのデータがまとめられてデータテーブルとして専門の便覧に公表されてきた。これらのデータについては永い間更新されることなく、別のデータブックにあるデータとの違いもそのままで、今日に至っている。理想気体の法則にもあるように、音速vからも求まる絶対温度Tとモル質量Mとを使って、比熱容量比γが求められることが分かっている。一方、前記データブックには、かつて比熱容量比γ(Cp/Cv)のデータも表記されていた。音速から計算したγの値と前記データブックのγとの値を比較すると、差異が少ないもので0.1%以下、多いもので数%ある。差異のある音速データをそのまま使って計算した結果でもあるため、音速と比熱容量比γ及び理想気体の法則との関係について安易に確認を試みた結果であったとも言える。各種気体に理想気体の法則を適用した時に、どのような違いのある結果が現れるのか、まずは固有値としての比熱容量比γ又はγ/Mが
各種気体の圧力Pや
各種気体の絶対温度
Tについてその値が変動することなく固定であるかを調べることはできそうである。また、別の理想気体の法則は、比熱容量比γから気体の内部エネルギーUが求められることを示している。混合気体である大気について、比熱容量比γが容易に測定でき、気体の内部エネルギーUがリアルタイムで分かることの意義は大きい。
【0018】
本発明は、従来技術が有する上記問題点を解決すべくなされたもので、その目的とするところの課題を以下に示す。
【0019】
まず本発明の主な課題である第1の課題は、高精度な気体の音速関連固有値測定装置を提供することである。精度が保証された各種気体の音速と絶対温度データとが供給されることは気体の科学が新しい世界を開く次の1歩を踏みだすために欠かせない。ここで重要なことは、被測定気体の環境の絶対温度を音速測定と同時に且つ高精度に測定することである。更には、被測定気体の音速vの2乗を絶対温度と気体定数とで除した値に関連するγ/M値を求めることである。ここでγ/M値は、γ/M、SQRT(γ/M)、M/γ、SQRT(M/γ)を含み、単一気体では固定的な値となり、これを音速関連固有値と呼ぶこととする。混合気体では、混合割合に対応して変動する値となる。理想気体の法則を計算式として使って求めたγ/M値は、理想気体では固定値である。しかし、敢えて理想気体と断る以上、各種気体について、同じでない例が存在するから全て同じではないということを言っている、もしくは全て調べているわけではないと理解できる。γ/M値が温度ないし圧力Pに依存して変化することが確認されれば、この理想気体の法則の通りとは言えず、この気体は理想気体と言えないこととなる。しかし、多くの気体で温度範囲或いは圧力範囲を限れば、γ/M値は固定であると考えられている。実用温度範囲及び実用圧力範囲でγ/M値を求め、どのように変化するかを調べることができれば気体の科学知識に新しい世界が広がる。本発明の測定器はこのような調査に大いに貢献できる。
【0020】
本発明の追加的な第2の課題は、被測定気体の測定環境と絶対温度の測定環境とが同じ環境であることを確認すること、温度が変化する速度がどのような状況の時の測定なのかを確認すること、確認方法に伴って音速関連固有値γ/M値の計算方法を選択可能にすること、更には理想気体の必要条件の判断を可能にすることである。
【0021】
本発明の追加的な第3の課題は、外部環境の絶対温度測定には欠かせない測定系が発する熱の影響を確認すること、及びそれを補正して正しい温度測定が行えるようにすることである。
【0022】
本発明の追加的な第4の課題は、混合気体の扱いである。混合気体とは単一気体が複数種類混ざり合った気体で分子同士が特別に結び付くことがない気体を言う。混合気体が扱えるようになることは、単一気体の測定においても、他の気体が多少混ざっても、他の気体の影響をキャンセルする可能性を与える。例えば、水置換法にて被測定気体をセルに入れた場合でも、他の気体の混入は避けられるが、水蒸気の混入は避けられず、その場合には混合気体の測定を行うこととなるからである。まずは、2成分系の混合気体の成分割合を測定することである。
【0023】
本発明の追加的な第5の課題は、多成分系の混合気体の扱いである。特定の成分だけが成分割合を変化させるとすれば、特定の成分の割合を測定することである。
【0024】
本発明の追加的な第6の課題は、混合気体中の1成分の結露の扱いである。結露の始まりの検出方法とその時の成分割合とを求めることである。
【0025】
本発明の追加的な第7の課題は、混合気体中の1成分の結露の関連データが複数得られた場合の扱いである。複数の固有値を求めたり、確認に利用したりすることである。
【0026】
本発明の追加的な第8の課題は、混合気体である大気を被測定気体とすることである。大気の温度も測れるようにし、水蒸気成分割合と大気の内部エネルギーUとを出力することである。
【0027】
本発明の追加的な第9の課題は、大気を継続して測定し、得られたデータを時のデータと共に保存し、水蒸気成分割合と大気の内部エネルギーUとを新たに加えた地球環境モニター装置を供給することである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記諸課題を解決するための本発明に係る気体の音速関連固有値測定装置及びそれを応用した気体の成分割合測定装置、更にはそれを応用した地球環境モニター装置は、課題毎に以下に示す手段を講じることによって対応する課題を解決するものである。
【0029】
第1の課題を解決するめ、本発明に係る音速関連固有値測定装置(100)は、2組の超音波送信子(10a、10b)及び超音波受信子(10c、10d)を組み込まれた2つのセル(2a、2b)を熱的に接した構造のセル構造体(1)と、前記超音波送信子を駆動制御し、2つのセルで超音波が超音波送信子から超音波受信子に到達するまでの時間を計測して音速を測定する計測・制御部(13)とを備え、γ/M値が既知の標準気体と被測定気体とを前記セルにそれぞれ入れ、計測・制御部が、同じ環境下で音速測定を行い、2つの測定結果の音速から、前記環境の絶対温度(T)と被測定気体の音速(vm)及び音速関連固有値(比熱容量比γとモル質量Mとの比)であるγ/M値との高精度データを取得するものとする。具体的には、前記計測・制御部は、同じ環境下にて標準気体が入れられた一方のセル(2a)における音速測定及び被測定気体が入れられた他方のセル(2b)における音速測定を行い、前記標準気体の音速(vs)と前記被測定気体の音速(vm)とに基づいて前記被測定気体のγ/M値を求める。この構成により、上記第1の課題を解決することができる。
【0030】
上記の構成において、前記計測・制御部(13)は、標準気体の音速(vs)から求めた前記環境の絶対温度(T)と被測定気体の音速(vm)とを使って、被測定気体の音速の2乗を前記環境の絶対温度
と気体定数とで除して(v・v/(R・T))計算するか、又は、被測定気体の音速(vm)と標準気体の音速(vs)との比の2乗に標準気体のγ/M値を乗じて計算するかのいずれかの方法を採用、もしくはいずれの方法も採用して被測定気体のγ/M値を求めると良い。或いは、前記計測・制御部(13)は、前記標準気体のγ/M値或いは前記音速の比を同じ気体の過去のデータの代表値と比較することで理想気体の必要条件の判断に利用すると良い。更には、前記計測・制御部(13)は、標準気体と被測定気体との音速測定を繰り返し行い、それぞれの音速の変化を調べること、又は、被測定気体と標準気体との音速の比を調べることで、同じ温度の環境下での音速測定であることを確認すると良い。これらの構成によれば、上記第2の課題を解決することができる。
【0031】
上記の構成において、前記超音波送信子(10a、10b)の瞬時パワー或いは繰り返しの測定周期を変化させることで、前記超音波送信子が発する瞬時熱量及び仕事率によるセル内の温度
の変化を音速測定することにより検出し、測定器がセル内環境に及ぼす影響を自己確認すること、更には設定された測定条件での上昇温度を表示・出力し、上昇温度に基づいて絶対温度(T)を補正すると良い。この構成によれば、上記第3の課題を解決することができる。
【0032】
また、本発明に係る気体の成分割合測定装置(110)は、上記構成の気体の音速関連固有値測定装置(100)を備え、被測定気体をそれぞれのモル質量(M)及び比熱容量比(γ)が既知でγ/M値が異なる2種類の気体の混合気体とし、前記計測・制御部(13)は、前記セル構造体(1)を用いて音速測定を行い、絶対温度(T)と混合気体のγ/M値とを得ることで、混合気体中の2種類の気体の成分割合を求めると良い。この構成によれば、上記第4の課題を解決することができる。
【0033】
上記の構成において、前記計測・制御部(13)は、被測定気体が3種類以上の複数の気体の混合気体であっても、1種類の気体だけが成分割合を大きく変化させ、他の気体の成分割合の変化が極めて少ない場合には、成分割合の変化の大きい気体と変化の極めて少ない気体との2種類の気体として扱うと良い。この構成によれば、上記第5の課題を解決することができる。
【0034】
上記の構成において、前記計測・制御部(13)は、2種類と見做される気体が混合された混合気体であって、成分割合測定対象の成分が測定温度・圧力範囲内で結露する可能性のある結露気体である場合、セル(2b)に封入後の被測定気体のγ/M値の変化から結露を検出すること及び結露発生時に露点温度から混合気体中の結露気体の成分割合を知ること、γ/M値とセル内圧力とから結露気体の露点温度における蒸気圧を知ること、更には、γ/M値から求められた成分割合と比較表示することで測定の確からしさを確認できるようにして、結露により成分割合が変わる過程を調査・利用すると良い。この構成によれば、上記第6の課題を解決することができる。
【0035】
上記の構成において、前記計測・制御部(13)は、結露時のγ/M値及び成分割合の露点温度が異なるデータが得られた場合、これらのデータから結露気体を含まない被測定気体の固有値である比熱容量比(γ)、モル質量(M)、結露気体の固有値である比熱容量比(γ)を1つか2つ又は全て求め、既知として使用してきた固有値データと比較表示することで、データの確からしさを確認すると良い。この構成によれば、上記第7の課題を解決することができる。
【0036】
上記の構成において、前記セル構造体(1)を外気に晒し、大気(水蒸気含有空気)を被測定気体として前記計測・制御部(13)が音速測定を行い、得られた絶対温度(T)と被測定気体のγ/M値とから気温(大気の温度)及び大気中の水蒸気成分割合を得て、前記被測定気体のγ/M値と水蒸気成分割合とから大気のモル質量(M)と比熱容量比(γ)とを得て、大気の比熱容量比から大気の1モル当りの内部エネルギー(U)を得て、更には測定中に結露があった時にそこから上記確からしさを確認できるデータを得ることを特徴とする。この構成によれば、上記第8の課題を解決することができる。
【0037】
また、本発明に係る地球環境モニター装置(120)は、上記構成の気体の成分割合測定装置(110)を備え、前記計測・制御部(13)は、気温(大気の温度)、大気中の水蒸気成分割合、大気の1モル当りの内部エネルギー(U)、大気の音速(v)及びγ/M値、計算に使われた諸データ及び途中結果、結露の有無と結露時データとから得られた参照データを年・月・日・時・分・秒の時のデータと共に保存し、統計処理して変化の様子を辿れるようにし、更にはそれらを選択的に利用し、表示し且つ出力する。この構成によれば、上記第9の課題を解決することができる。
【0038】
更にまた本発明は、同じ環境下に置く標準気体と被測定気体とを2種類の気体に限定するものではなく、3種類以上の気体を標準気体及び被測定気体として同時測定を行い、2つの測定結果の組み合わせを複数にしてデータを取得することを含むものである。
【発明の効果】
【0039】
このように本発明によれば、高精度な気体の音速関連固有値測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0042】
まず、発明の第1の課題を解決する手段について説明する。
図1に本発明の音速関連固有値測定装置100の1例のブロックダイアグラムを示す。
図1に示すように、音速関連固有値測定装置100は、熱的に互いに接する2つのセル2(2a、2b)を有するセル構造体1を備えている。一方のセル2は標準気体測定用の圧力容器(以下、標準セル2aと言う。)であり、他方のセル2は被測定気体測定用の圧力容器(以下、被測定セル2bと言う。)であり、
2つのセル2は互いに同じ構造を有している。標準セル2aには、管状の標準セル入口3a及び標準セル出口4aが設けられている。被測定セル2bには、管状の被測定セル入口3b及び被測定セル出口4bが設けられている。標準セル入口3aには標準セル入口バルブ5aが設けられ、被測定セル入口3bには被測定セル入口バルブ5bが設けられている。標準セル出口4aには標準セル出口バルブ5cが設けられ、被測定セル出口4bには被測定セル出口バルブ5dが設けられている。被測定セル入口バルブ5bは入口バルブ制御線6bによって、被測定セル出口バルブ5dは出口バルブ制御線6dによって、それぞれ計測・制御部13に接続されており、少なくとも被測定セル2bは、解放と密閉とを計測・制御部13によりコントロールでき、また、気体の入れ替えができるようになっている。また、少なくとも被測定セル2bは、配管を工夫すれば液体(主に水)で満たすこともできる。標準セル2aには必要に応じて補助温度計8、被測定セル2bには圧力計7が組み込まれていて、補助温度計8は補助温度計出力ライン8cによって、圧力計7は圧力計出力ライン7dによって計測・制御部13へそれぞれ接続されている。気体用音響ユニット9(標準セル音響ユニット9a及び被測定セル音響ユニット9b)は、セル2とは別の構造体として、セル2内に置かれ、セル2内外の圧力差の影響を受けないよう固定されている。気体用音響ユニット9のそれぞれには超音波送信子10a、10
bと超音波受信子10
c、10dとが対向して組み込まれており、これらに接続された標準セル2a用の2本の信号ライン12a及び被測定セル2b用の2本の信号ライン12bは対応するセル2の壁を通して、それぞれの時間測定ユニット22、23へ接続されている。セル2の信号ライン12a、12bが貫通する部分にはハーメチックシール12が設けられ、セル2が密閉されている。超音波送信子10a、10
bと超音波受信子10
c、10dとは、セル2内で使用するため、両者間の距離は固定である。この距離を決める構造体には、温度が距離に影響し難い材料が使われる。気体用音響ユニット9の距離に関わる固有データとして、距離変化の温度係数(熱膨張係数相当)と決められた温度での距離とが保存され、これらのデータは音速
vを求める時に使う超音波伝搬距離を補助温度計8の温度で補正する際に利用される。これらのデータは、別途予め測定しておき、絶対温度Tを校正する時にいつも確認される。2つのセル2は、セル2間の熱抵抗が外部とのそれより小さい熱伝導の良い熱伝導材料11で熱的に接続されたセル構造体1として利用される。気体用音響ユニット9の超音波送信子10a、10
bと超音波受信子10
c、10dとは、1つの送受信子として構成することもできる。この場合には、送受信子から送信した超音波が反射体に当たって反射して送受信子に再び戻ってくるように構成する。超音波伝搬距離は送受信子と反射体との距離の2倍であり、上記同様に補正されて利用される。これは1探触子法と言われる。反射体をもう1つの送受信子とすることで、2つの測定法が利用可能となる。
【0043】
計測・制御部13は、補助温度計出力ライン8cが接続される補助温度計インターフェース14a、圧力計出力ライン7dが接続される圧力計インターフェース14b、入口バルブ制御線6bが接続される被測定セル入口バルブ制御インターフェース14c、及び、出口バルブ制御線6dが接続される被測定セル出口バルブ制御インターフェース14dを備えている。また、計測・制御部13は、空気入替装置28の空気入替制御ライン15が接続される空気入替制御インターフェース14e、圧力制御装置33の圧力制御ライン16が接続される圧力制御インターフェース14f、環境試験装置41の環境試験制御ライン17が接続される環境試験インターフェース14gを備えている。空気入替装置28、圧力制御装置33及び環境試験装置41については後に詳述する。更に計測・制御部13は、外部メモリー18が接続される外部メモリーインターフェース14h、液晶表示部19が接続される液晶表示部インターフェース14i、操作用キーボード20が接続される操作部キーボードインターフェース14j、パソコン21が接続されるパソコンインターフェース14kを備えている。標準セル音響ユニット9aの2本の信号ライン12aは、それぞれ分岐し、一方が標準セル信号入力アナログスイッチ26aに、他方が標準セルパルス出力アナログスイッチ26bに接続されている。標準セル信号入力アナログスイッチ26aは、標準セルパルス発生回路24aを介して標準セル用の時間測定ユニット22に接続されている。標準セルパルス出力アナログスイッチ26bは、標準セル信号増幅・高速A/D変換回路25aを介して
標準セル用の時間測定ユニット2
2に接続されている。被測定セル音響ユニット9bの2本の信号ライン12bは、それぞれ分岐し、一方が被測定セル信号入力アナログスイッチ26cに、他方が被測定セルパルス出力アナログスイッチ26dに接続されている。被測定セル信号入力アナログスイッチ26cは、被測定セルパルス発生回路24bを介して被測定セル用の時間測定ユニット23に通信可能に接続されている。被測定セルパルス出力アナログスイッチ26dは、被測定セル信号増幅・高速A/D変換回路25bを介して被測定セル用の時間測定ユニット23に通信可能に接続されている。時間測定ユニット22、23はマイコン制御部27と通信可能に接続されている。また、マイコン制御部27は上記インターフェース(14a〜14k)と通信可能に接続されている。計測・制御部13は、外部メモリー18に記憶されたプログラムをマイコン制御部27が実行することで、超音波送信子10a、10
bを駆動制御し、以下に説明する各種計測や各種演算を実行する。
【0044】
音速測定は以下のように行われる。2つのセル2の一方には標準気体が他方には被測定気体が入れられる。時間測定ユニット22、23から信号を受けると超音波送信子10a、10
bが超音波パルスを発信する。超音波受信子10
c、10dはセル2内の気体中を伝搬してきた超音波パルスを受信し、これを時間測定ユニット22、23に送る。時間測定ユニット22、23は、送信から受信までの時間、即ち超音波送信子10a、10
bから送信された超音波が超音波受信子10
c、10dに到達するのに要する時間を計測することで伝搬時間を算出する。時間測定ユニット22、23が受信波形を記憶しておき、相関法にて時間測定すると、揺らぎが少なければ10nS(10の−8乗秒)単位で時間が求められる。音速
vは超音波伝搬距離を時間で除すことで求められる。
【0045】
まず、標準気体の音速vsから絶対温度Tを求める。計算式は、上式(9)を書き換えた下式(10)を使って計算する。
T=(vs・vs/R)/(γ/M)s ・・・(10)
ここで(γ/M)sは、標準気体のγ/M値を意味する。標準気体には、広い温度範囲でγ/M値が固定値である気体が使われる。このような気体としては、例えば、ヘリウム(He)ガスが良く知られている。標準気体の候補としては、単原子気体が挙げられるが、単原子からなる不活性ガスについても十分調査をした上で採用可能か否かを見極める必要がある。計算式にもあるように、γ/M値が固定値であれば、Rは気体定数で一定であるから、絶対温度Tは音速vsの2乗に比例し、原理的に直線性に優れた絶対温度計と言える。絶対温度計が測定器として認定されるためには、より原器に近い温度計と基準温度にて較正をすることとが必要であり、これらにより測定の直線性も同時に確認される。また、測定器として定期的な検査も欠かせない。また、気体の音速
vは圧力Pの影響をほとんど受けないと言われているが、広い圧力範囲で絶対温度計として使う場合は、セル2の内外をそのような環境にして確認を行ってから使用することが必要になる。このように、標準気体の音速vsから絶対温度Tが求められ、同時に被測定気体の音速
vmが高精度に測定できる。
【0046】
次に、被測定気体の音速vmと求めた絶対温度Tとから被測定気体のγ/M値を求める。計算式は下式(9)である。
v・v/(R・T)=γ/M ・・・(9)
このように、本発明の音速関連固有値測定装置100は、同じ環境下の標準気体と被測定気体とで音速測定を行うことで、被測定気体の絶対温度Tと音速
vmとを同時に高精度に測定でき、尚且つ音速関連固有値であるγ/M値を高精度に求めることができる。各種気体の高精度γ/M値データは理想気体との関係を含めて学術的にも産業的にも極めて有用なデータであり、更には、実用圧力範囲及び実用温度範囲にてγ/M値が変化するのか否か、また変化する場合にはどのように変化するのかを測定できる高精度な音速関連固有値測定装置100を供給することは意義のあることと言える。本発明の測定器では、常にγ/M値を求めており、この値に同一気体の過去のデータと比較して異なる変化があれば変化量を知らせる等、新たな情報提供の可能性を秘めている。但し、超音波方式にも弱点があり、低い圧力
範囲では感度上の問題が発生し、測定ができなくなる可能性がある点は考慮しておく必要がある。改善の余地はあると思われるが、基本的な問題でもある。
【0047】
次に発明の第2の課題を解決する手段について説明する。これまでに、標準気体と被測定気体とを入れるための2つのセル2が必要であることと、更にそれらのセル2内の気体が同じ環境(温度)で測定が行われないと高精度測定にならないことは十分説明されてきた。音速vは絶対温度Tの平方根に比例して変化するからである。しかしこのことを逆に考えれば、2つのセル2の音速測定過程において環境が整ってきたことを音速vの変化が知らせてくれることになる。"温度差があれば熱の移動がある。温度
が変化していない状態は熱の移動がない。"これが熱力学の第0法則と言われる基本原理である。混合気体の成分割合が変化する(結露が起こる等による)ことがない環境であれば、音速vを調べていれば温度
の変化の様子が分かる。音速vの変化が要求測定精度に影響しない範囲の変化以下になったところで測定を行えば、同じ環境で測定が行われたと言えることになる。温度が同じであることを自己確認できることになる。以下、詳細に説明する。
【0048】
まずは2つのセル2間の熱の移動に関することである。温度差があり熱の移動があれば、供給側は温度が下がり、音速vは遅くなる方向に変化し、受ける側は温度が上がり、音速vは早くなる方向に変化する。熱の移動がなくなったところで音速vの変化が両方ともなくなる。セル2とその外側の環境とに温度差があり、熱の移動がある場合には、セル2間で熱の移動がなければ、2つのセル2と外側の環境との間で熱の移動がある。セル2が熱をもらう場合には、温度が上がり、音速vは共に早くなる方向に変化する。セル2が熱を供給する場合には、温度は下がり、音速vは共に遅くなる方向に変化する。熱の移動がなくなったところで音速vの変化はなくなる。セル2とその外側の環境とに温度差があり、セル2間でも熱の移動がある場合には、2つのセル2内の温度
の変化に差が現れ、音速vの変化にも差が出てくる。外部環境の温度で音速vと絶対温度Tとを測定したい場合は、2つのセル2内の気体の音速vの変化が共に少なくなったことを確認した上で測定を行うようにすれば、外部温度を含め、同じ環境下での測定と言える。2つのセル2内の気体の音速vの比を求め、この比が変化しなくなったところで測定することとすれば2つのセル2が同じ環境である条件で測定することになり、外部環境の温度がなかなか定まらない場合でも、外部環境に関係なく測定を進めることを可能とする。2つのセル2内の気体の環境(温度)を同じにして、且つ音速vが十分安定した条件での測定を保証するよう作用する2つの測定方法を選択可能とする。
【0049】
外部環境(温度)は多少変化していても標準気体と被測定気体とが同じ環境であることの確認する時には、被測定気体の音速vmと標準気体の音速vsとの比(vm/vs)を取って、比が安定したところで被測定気体のγ/M値(以下、(γ/M)mとする。)を求めるが、その時には、音速vの比を2乗して標準気体のγ/M値(以下、(γ/M)sとする。)を乗じることによって計算する。計算式は下式(11)となる。
(γ/M)m=(vm/vs)・(vm/vs)・(γ/M)s ・・・(11)
一方、外部環境(温度)、標準気体及び被測定気体が同じ環境であることの確認する時には、被測定気体の音速vmと標準気体の音速vsとの変化が共に少なくなったところで被測定気体のγ/M値(γ/M)mを求めるが、その時には、標準気体の音速vsの2乗を気体定数で除し、更に標準気体のγ/M値(γ/M)sで除すことによりまずは絶対温度Tを計算する。計算式は上式(10)である。この温度を使って、被測定気体のγ/M値(γ/M)mを求める方法は既に説明済みである。計算式を以下に示す。
(γ/M)m=vm・vm/(R・T) ・・・(12)
外部環境の絶対温度Tを測定したい時はこの方法になるが、外部環境の温度が定まらない時にも被測定気体の絶対温度Tを求めたい時には上記方法で計算はできる。被測定気体のγ/M値の求め方は環境に関連づけて説明してきたが、計算方法の選択の自
由を制限するものではない。
【0050】
同一環境の確認及び温度
の変化が少なくなったことの確認には、音速測定を繰り返し行い、それぞれについての音速測定結果を比較していく過程が入るため、時間がかかる。測定の仕方として、一定時間毎に結果を出力したいか、同一環境或いは温度
の変化が少なくなったと判断する閾値を設定して閾値以下になったところで結果を出力することにするか選択できるようにすることも可能である。一定時間毎に結果を出力するようにした場合でも、結果を出力する直前の音速変化速度(或いは温度換算した温度
の変化速度)を出力することも可能であり、選択できるようにすることも可能である。どのような測定をしたいかを選択できるようにした方が、利用者には便利である。絶対温度Tについては、白金抵抗温度計等の別の測定方法の測定器(例えば補助温度計8)を備え付け、大きな狂いのないことの確認ができるようにしておく。この確認ができていれば音速測定結果を計測された絶対温度Tで再補正する必要はなくなる。以上、見てきたように、絶対温度Tにしてもγ/M値にしても、予め設定された環境が整ってから出力するか、出力した前後の環境条件がどうであったかを後から調べることができるようにするか、音速関連固有値測定装置100は環境を利用者に知らせるように作用する。原理的に自己確認システムを構成する確認手段である。
【0051】
理想気体の必要条件としてはγ/M値が固定、或いは、被測定気体の音速vmと標準気体の音速vsとの比が固定であることが挙げられる。理想気体である標準気体の音速vsとの比が一定であれば、被測定気体も標準気体と言えるか、少なくとも必要条件を満たしていると言える。同一気体の過去の代表値と比較して、その差の絶対値が閾値以下であれば固定と判断することとする。過去の代表値と言っても、過去のデータの平均値を参考にしてユーザーが入力した値とする。測定値の代表値との差を取り、更には差の割合(%)も計算する。閾値と比較し閾値以下であれば固定と判断する。閾値は音速関連固有値測定装置100の保証精度を参考にしてユーザーが入力した値(保証誤差より大きい値)である。測定を始める時に、ユーザーは被測定気体の名前を入力或いは選択し、その名前を付けて、各種データは保存される。基本的には各種データは全て外部メモリー18に保存されるが、同時にホストコンピュータ(パソコン21)にも転送される。データ処理はこのコンピュータにて行われることとする。音速関連固有値測定装置100では、固定と判定されたデータは、毎回古い平均値とデータの数に応じて加重平均されて、最新の平均値だけが残る。以上、被測定気体について、測定環境における理想気体との差異を知ることができる。
【0052】
次に発明の第3の課題を解決する手段について説明する。絶対温度測定を行うセル2は標準気体を入れたセル2であるが、測定したい温度は、被測定気体を入れたセル2内の温度(セル内環境)であると同時に外部環境の温度の場合がある。この2つの環境(温度)の確認方法については既に説明済みであるが、2つのセル2内に熱源があるとすれば、その熱の影響については確認しておかなければならない。2つのセル2内の熱源は同じものと考えられることから、被測定気体の環境(温度)の、標準気体の入ったセル2との関係についてはこれまでの説明で特に問題はないと思われる。一方、被測定気体の環境(温度)の外部環境との関係については、平衡状態においてもセル2側から外部環境に向けて熱の流れが考えられる。熱の流れがあれば温度差があることになり、外部環境の温度を表示・出力する時には、標準気体で測定された温度にその分補正をすることとなる。この温度差は熱源のする仕事率に依存する。仕事率は測定条件の設定により決められる。測定条件とは、超音波パルスを発信する時の瞬時パワーと発信する周期(測定周期に相当)とにより決められる。従って、予め測定条件によりどのような温度差が発生するのか調べておくことが、設定された条件での温度差と補正した外部環境温度とを表示・出力するように作用する。この機能は、温度測定器としての定期的な校正及び検査時にも確認が必要な項目でもある。更には、測定中に可能な限り温度差を少なくして測定したいという要求や測定条件を変えて確認したいといった要求に応えられるようにする機能としての利用も考えられる。以下、詳細に説明する。
【0053】
時間測定ユニット
22、23からの送信信号により超音波送信子10a、10
bが電気パルス駆動される。超音波送信子10a、10
bではこの信号により超音波パルスを発信する。超音波パルス波はセル2内の気体中を伝搬し、超音波受信子10
c、10dに受信されると同時に反射される。何回か反射を繰り返しながら、波は減衰していく。超音波送信子10a、10
bに加えられたエネルギーは、超音波送信子10a、10
bである電気音響変換素子の変換ロスにより一部は熱に換わり、残りは超音波として気体中を伝搬していき、減衰していく過程で熱に換わると考えられる。このように、瞬時パワーは熱(瞬時熱量)に換わり、熱源となると考えられる。仕事率或いは平均電力は、この瞬時パワーを測定周期で除したものである。瞬時パワーは超音波送信子10a、10
bへの駆動電圧と電流の積であるが、最近のデジタル技術を駆使すれば、瞬時電力は計算可能と思われる。一方、測定周期は、送・受信子間の伝搬時間の数倍から数十倍程度として、瞬時パワーのデューティーは1/1,000程度であり、平均電力とすればかなり小さなものとなる。しかし、高精度な温度測定のためには、この熱源の影響についてはしっかり把握しておかないと、精度を保証することはできない。駆動電圧と測定周期の基準を決めておいて、駆動電圧は基準の1/1、1/1.4、1/2、1/2.8.1/4、測定周期は基準の1倍、2倍、4倍、8倍、16倍と変えられるようにして、これらの全ての組み合わせに対し、温度差を調べておき、設定された条件での温度差とする。以下、本発明の音速関連固有値測定装置100を使って、本発明である測定条件変更に対する温度差データを取得する方法について説明する。
【0054】
この測定には、外環境が温度
の変化の少ない環境であることが必要である。1例としては、定義定点である水の3重点の273.16kと言う温度を使う方法がある。氷と水と水蒸気との共存する環境を作って、その気体中に本発明のセル構造体1を入れ、この環境にて、上記25通りの測定条件にて、標準気体と被測定気体との音速測定を行い、音速vの変化が少なくなったところで温度を求め、その温度と273.16kとの差(温度差)データを取得し保存する。外環境が温度
の変化の少ない環境であることが確認されている場合には、測定周期を2倍、4倍、8倍と変えていくと、平均電力はそれぞれ1/2、1/4、1/8と確実に変化するので、平均電力に温度差が比例すると考えられることから、それぞれの温度データから、1/1の温度と1/2の温度との差に比べ次の1/2と1/4との温度差が半分になっていることが確認でき、更に1/4と1/8との温度差が更にその半分になっていることが確認できれば温度差データとしては正しく測定されていることになる。これにより、セル
2内の温度
の変化を検出し、これを確認することができる。外環境との温度差としては、1/1の温度差が1/1と1/2との温度差の2倍となり、1/2の温度差は1/2と1/4との温度差の2倍となり、以下同様となる。上記25通りの条件にて温度差データを取得する。この条件は、平均電力として256倍の範囲をカバーすることになる。
【0055】
測定系が及ぼす熱影響をできるだけ少なくするには、駆動電圧を下げて、瞬時パワーを測定可能な範囲で小さくすることで、温度差も下げられる。超音波振動発生エネルギーが外環境の温度測定に及ぼす熱影響の自己確認方法は、外環境の正確な温度測定器の実現を助けるべく作用する。
【0056】
次に発明の第4の課題を解決する手段について説明する。成分割合測定装置110は、
図1に示す音速関連固有値測定装置100を備え、計測・制御部13が混合気体の成分割合を求めるものである。異なる2種類の気体分子が化学的に結合することなく分散している混合気体のγ/M値は構成している単一気体成分の固有値γ/M値の中間的な値になる。上記混合気体の成分割合とγ/M値との関係が分かれば、成分割合を求めることができる。以下、詳細に説明する。
【0057】
上記混合気体については、以下のことが言える。その1として、1モルの混合気体の内部エネルギーUは成分気体分子の持つ内部エネルギーUの総和である。その2として、1モルの混合気体の質量は成分気体分子の持つ質量の総和である。その3として、気体成分分子の数について、数の割合は混合気体のモル成分割合と同じであり、総和は1モルの混合気体の分子の数と同じである。以上を式にすると以下となる。ここで、第1気体と第2気体との混合気体として、M;1モルの混合気体の質量、M1;1モルの第1気体の質量、M2;1モルの第2気体の質量、γ;混合気体の比熱容量比、γ1;第1気体の比熱容量比、γ2;第2気体の比熱容量比、γ/M;混合気体のγ/M値、n;混合気体のモル値、n1;第1気体のモル値、n2;第2気体のモル値、U;混合気体の内部エネルギー、U1;第1気体の内部エネルギー、U2;第2気体の内部エネルギー、v;混合気体の音速、v1;第1気体の音速、v2;第2気体の音速とする。その1とその3とを式にすると、以下となる。
U=U1+U2 ・・・(13)
内部エネルギーUと絶対温度Tとの関係として、上式(5)があり、U1とU2とにもこの式を当てはめれば、下式(14)及び(15)となり、これらの関係から、下式(16)ができる。
U1=n1・R・T/(γ1−1) ・・・(14)
U2=n2・R・T/(γ2−1) ・・・(15)
n・R・T/(γ−1)=n1・R・T/(γ1−1)+n2・R・T/(γ2−1) ・・・(16)
この式(16)を書き換えると、γ1、γ2、γ及び(n1/n)の関係式として下式(17)ができる。
1/(γ−1)=(n1/n)/(γ1−1)+(n2/n)/(γ2−1) ・・・(17)
更に、下式(18)の関係から、下式(19)ができる。
(n2/n)=1−(n1/n) ・・・(18)
1/(γ−1)={1/(γ1−1)−1/(γ2−1)}・(n1/n)+1/(γ2−1) ・・・(19)
その2とその3とを式にすると、以下となる。
M=(n1/n)・M1+(n2/n)・M2=(M1−M2)・(n1/n)+M2 ・・・(20)
混合気体の音速測定から得られるγ/M値と成分割合(n1/n)との関係は上式(19)及び(20)を使って求めたγ/Mの式とγ/M値との関係となる。この式は成分割合(n1/n)の2次方程式になり、根を求める公式を使って、γ1、γ2、M1、M2及びγ/M値より(n1/n)を求めることができる。以下、詳細の説明は省略するが、関係式は以下となる。
【0058】
まずは、n1/n=xとして、xの2次方程式を以下とする。
a・x・x+b・x+c=0 ・・・(21)
この根は、以下となる。
x={−b+−SQRT(b・b−4・a・c)}/(2・a) ・・・(22)
ここで、a、b、cは以下とする。
a=A・(M1−M2) ・・・(23)
b=A・M2+B・(M1−M2)−A/(γ/M) ・・・(24)
c=B・M2−(B+1)/(γ/M) ・・・(25)
ここでA、Bは以下とする。
A=1/(γ1−1)−1/(γ2−1) ・・・(26)
B=1/(γ2−1) ・・・(27)
以上で、混合気体の音速vと絶対温度Tからγ/M値との高精度データを得て、そのγ/M値から成分割合(n1/n)を計算して求められることが、高精度な気体の成分割合測定装置110の実現に作用する。γ/M値を求める環境(圧力P及び温度)で成分気体が理想気体の必要条件を満たす範囲内であれば、比熱容量比γは固定値であり、同じ値を使って計算可能であるが、前記範囲を外れることがある場合には、比熱容量比γは固定値でなくなるため、前記環境における比熱容量比γを使って計算する必要がある。成分割合測定環境全てについて、比熱容量比γは既知であることが求められることから、前記範囲内での測定であるかは重要な確認事項となる。尚、成分気体のモル質量Mが固定であることは混合気体の条件となっている。
【0059】
次に発明の第5の課題を解決する手段について説明する。気体は混合気体として存在するのが自然である。気体を扱う測定器は混合気体も扱えるようにする必要性がある。混合気体にも比熱容量比γ、モル質量M及びγ/M値が存在し、成分割合が変わらなければ固定的な値となる。被測定気体が3種類以上の気体を含んでいても、成分割合が1種類しか変化しない気体であれば、変化する気体と変化しない気体との2種類の混合気体として扱える。ここで、以下の説明のために、第1気体、第2気体及び対象気体を次のように定義する。第1気体は単一気体で、第2気体は内部の成分割合の変化は極めて少ない複数の単一気体の混合気体で、対象気体は第1気体と第2気体との混合気体とする。対象気体では、第1気体の成分割合が変化するのに伴い、第2気体の成分割合もその分逆に変化する。発明の第4の課題を解決する手段と同じように扱えるためには、第1気体の比熱容量比γ及びモル質量M、第2気体の比熱容量比γ及びモル質量Mを予め知る必要がある。第1気体は単一気体であるから、比熱容量比γ及びモル質量Mは既知と言える。単一気体の正確な値を知りたければ、本発明の測定器を使ってγ/M値を求め、分子式から決まるモル質量Mを使って比熱容量比γも求めることができる。第2気体の比熱容量比γ及びモル質量Mはどうやって知ることができるかについて以下説明する。
【0060】
まずは変化しない成分割合が正確に分かっているのであれば、成分の単一気体のそれぞれの比熱容量比γ及びモル質量M及び成分割合を使って、それらの混合気体である第2気体についての比熱容量比γ及びモル質量Mを計算することができることはこれまでの説明から容易に想像できる。全ての高純度の単一気体が得られれば、計測可能なことは既に述べた通り。次に、成分割合が全く分からない場合、第2気体の比熱容量比γ及びモル質量Mはどうやって知ることができるかについて以下説明する。音速測定方式の測定装置の弱点は、γ/M値は求められるが、比熱容量比γ或いはモル質量Mを分離して求めることができない点である。他の測定器と組み合わせて、上記混合気体のいずれかを測定できれば、γ/M値からもう一方も計算できる。しかし、ここでは、発明の第4の課題を解決する手段の方法とは逆の方法にて、上記混合気体の比熱容量比γ及びモル質量Mを求める方法について説明する。それは、比熱容量比γ及びモル質量Mが既知の気体を第2気体に成分割合が一定になるように混ぜて第3気体を作り、本発明の音速測定装置にて、第3気体のγ/M値を求める方法である。第3気体においては成分割合が異なる2種類について測定を行う。求めた第3気体の2種類のγ/M値と2種類の成分割合で混ぜた気体の比熱容量比γ及びモル質量Mとを使って、第2気体の比熱容量比γ及びモル質量Mを含む2つの関係式が得られ、この連立方程式を解くことによって、上記第2気体の比熱容量比γ及びモル質量Mを求めることができる。ここでは、詳細説明は省くが、後に出てくる説明から容易に類推できると思われる。混ぜる気体を水蒸気とすれば、後に出てくる結露現象利用の方が成分割合を一定にするより容易な方法と思われる。ここでは、第2気体のモル質量Mが分かることが重要で、成分割合不変の混合気体のモル質量Mは固定であり、結露現象利用の方法等でモル質量Mが確定したとなれば、第2気体について本発明の音速測定装置にて得たγ/M値から比熱容量比γが求められる。以上で、対象気体の成分割合測定の必要条件が整ったことになり、発明の第4の課題を解決する手段と同じように扱えば測定は可能である。但し、発明の第4の課題を解決する手段での説明にもあるように、γ/M値を求める環境(圧力P及び温度)で第1気体及び第2気体が理想気体の必要条件を満たす範囲内であれば、比熱容量比γは固定値であり、同じ値を使って計算可能であるが、前記範囲を外れることがある場合には、比熱容量比γは固定値でなくなるため、前記環境における比熱容量比γを使って計算する必要がある。成分割合測定環境全てについて、比熱容量比γは既知であることが求められることから、前記範囲内での測定であるかは重要な確認事項となる。以上、本発明が多成分混合気体中の1種類の気体成分割合測定に作用する説明である。
【0061】
発明の第6の課題を解決する手段について説明する。発明の第4ないし第5の課題を解決する手段は、与えられた混合気体が持つそれぞれの気体成分の割合を知るための測定器であるのに対し、発明の第6ないし第7の課題を解決する手段は、結露と言う現象により気体成分割合が変化していく過程において測定を行い、成分割合やそれぞれの気体の固有値を結露から得られるデータとして提供するものであり、結露現象の始まりの検出と結露の利用法とに関する。結露は条件が整わないと起こらない。結露が起こった時(結露発生時)に知ることができることを以下、説明する。
【0062】
結露現象の始まりの検出の原理は、成分割合が変わることによりγ/M値が変化することである。つまり、密閉容器(セル2
b)内では、結露により、成分割合測定対象の成分が測定温度・圧力範囲内で結露する可能性のある気体(以下、結露気体と呼ぶ)の一部が液体に変わることによって結露気体が減少することにより、混合気体の成分割合が変わり、γ/M値が変化する。継続的にγ/M値を測定していて、密閉容器(セル2
b)内に結露気体を含有している被測定気体のγ/M値が変化を始めた時、絶対温度Tが下降中で尚且つγ/M値が被測定気体との関係で結露気体の成分割合を減ずる方向への変化である場合には、結露が始まったと判断する。通常、他の気体の混入を防ぐために容器(セル2
b)は密閉された状態で、測定も行われるが、大気を被測定気体とする場合には、他の気体の混入を考える必要がない。大気の場合も測定時に密閉すればこれまでの説明と同じであるが、密閉しない測定も考えられる。結露気体が水蒸気の場合、γ/M値から水蒸気成分割合を求め、大気圧から水蒸気圧を知る。同時に、絶対温度Tから飽和蒸気圧を知る。水蒸気圧と飽和水蒸気圧の比をパーセントにしたものが湿度(%)である。湿度100%前後の絶対温度T及びγ/M値の変化から結露を知ることができる。絶対温度Tが下降していて、湿度100%に達した時にγ/M値が水蒸気成分割合減少方向に変化し始めたら結露と判断できる。
【0063】
結露が始まったと判断できれば、同時に露点温度から飽和蒸気圧を知り、更にはセル
2b内圧力との比から結露気体の成分割合を知る。露点温度から飽和蒸気圧を知るためには、データテーブルが必要。温度と飽和蒸気圧との関係は各種気体について調べられているが、水蒸気のように1℃ステップのデータが揃っている気体は少ない。水蒸気以外の結露気体を利用する場合、予めその気体について詳細な飽和蒸気圧データを用意しておくことが必要となる。発明の第4ないし第5の課題を解決する手段の説明において既に説明している通り、γ/M値から成分割合(n1/n)を求めることができる。モル比である成分割合と圧力比とは互いに等しいことから、セル
2b内圧力に成分割合を乗じれば、結露気体の圧力Pを求めることができる。水蒸気以外の結露気体について、温度をコントロールする環境試験装置41と正確な圧力計7と本発明の成分割合測定装置110とを使い、各種条件で測定を行うことにより詳細な飽和蒸気圧データを集めることができることになる。
【0064】
結露の始まりから結露気体の成分割合を知ることができたが、もう一方、その時のγ/M値からも成分割合を知ることができ、音速vから求めた成分割合と結露から求めた成分割合との2つの結果を同時に表示する成分割合測定装置110とすることができる。本発明は、2つの結果を比較することで、測定の確からしさを自己確認することができるように作用する。この測定の基本は、結露以外でγ/M値が変化しないことが前提となっている。被測定気体が理想気体の必要条件を満たす環境であること、或いは被測定気体に測定環境でγ/M値或いは比熱容量比γが変化する気体が含まれていないこと、更には、被測定気体が混合気体であれば結露以外で成分割合が変化しないこと等が、結露現象利用のためには必要条件となる。
【0065】
発明の第7の課題を解決する手段について説明する。同じ被測定気体について測定を継続している場合には、各種温度での結露を経験することができる。この時のデータを蓄積していくことにより、複数の異なる温度における結露時のγ/M値及び露点温度から得られる成分割合(n1/n)のデータが得られることになる。結露気体を含まない被測定気体の比熱容量比γ、M値、結露気体の比熱容量比γ、M値と上記γ/M値データ及び(n1/n)データとの関係については、発明の第4の課題を解決する手段の説明で示されている。結露現象利用のための必要条件については、発明の第6の課題を解決する手段に説明されている。上記γ/M値データ及び(n1/n)データが複数あれば、複数の独立した関係式ができる。複数の連立方程式を解くことで、複数の比熱容量比γ及びモル質量Mが得られる。ここで、結露気体は単一気体であり、結露気体の固有値であるモル質量Mは分子構造から計算される固定値であり、既知である。従って、結露気体を含まない被測定気体の比熱容量比γ、モル質量M、結露気体の比熱容量比γが計算対象となる。
【0066】
1組のデータから計算可能な比熱容量比γ、モル質量Mは、結露気体を含まない被測定気体の比熱容量比γ、モル質量M、結露気体の比熱容量比γの内の1つであるが、どれか2つは既知であることが必要である。例えば、結露気体の比熱容量比γと結露気体を含まない被測定気体のモル質量Mとが既知の場合、結露気体を含まない被測定気体の比熱容量比γを計算可能である。2組のデータから計算可能な比熱容量比γ、モル質量Mは、結露気体を含まない被測定気体の比熱容量比γ、モル質量M、結露気体の比熱容量比γの内の2つであるが、どれか1つは既知であることが必要である。3組のデータから計算可能な比熱容量比γ、モル質量Mは、結露気体を含まない被測定気体の比熱容量比γ、モル質量M、結露気体の比熱容量比γの全てである。
【0067】
以上で、結露を捉えることにより、固定値として利用してきた結露気体を含まない被測定気体の比熱容量比γ、モル質量M、結露気体の比熱容量比γを計算できることが説明できた。これらのデータをこれまで利用してきたデータと比較表示することで、データの確からしさを確認できる。更には、長期間に亘りこれらのデータを蓄積し、統計処理することにより、より高精度化できる可能性を持たせることができる。本発明は、測定器として自己チェック機能を持った高信頼性測定に作用する。
【0068】
本発明の有効な使い方の例を以下に示す。音速測定のために被測定セル2bに被測定気体を入れる時、脱気水を予め充填しておき、液体を押し出しながら、被測定気体を送り込む方法が考えられる。この水置換法は他の気体との混合を避ける方法として有効な方法である。但し、水蒸気が気体に混ざることになることは避けられない。そこで、水蒸気を含む被測定気体を混合気体として扱った測定が考えられる。水蒸気の結露現象から水蒸気成分割合(n1/n)は求められる。密閉容器内でγ/M値の変化を調べていれば結露の始まりを検知できる。露点温度から飽和蒸気圧を知り、更にはセル内圧力との比から水蒸気成分割合(n1/n)を知る。水蒸気については絶対温度Tと飽和蒸気圧との関係は詳細に調べられており、これらのデータを利用することで、かなりの精度で飽和蒸気圧は内挿可能と言える。正確なセル内圧力測定値があれば、水蒸気成分割合(n1/n)は高精度に求めることができる。同時にこの時のγ/M値のデータが得られる。被測定気体が単一気体の場合には、水蒸気を含まない単一気体のモル質量Mは既知であり、比熱容量比γが未知であるとして測定対象となっている。水蒸気の比熱容量比γ及びモル質量Mは既知として、水蒸気を含む単一気体の(n1/n)データ及びγ/M値データの1組から水蒸気を含有しない単一気体の比熱容量比γが求められる。一方、被測定気体が混合気体の場合には、水蒸気を含まない混合気体の比熱容量比γだけでなくモル質量Mも未知である。この場合には異なる露点温度の水蒸気を含む混合気体の(n1/n)データ及びγ/M値データの2組から連立方程式を解いて、水蒸気を含有しない混合気体の比熱容量比γ及びモル質量Mが求められる。予め成分割合が正確に分かっている混合気体であればモル質量Mは計算可能で、既知であり、2組のデータは必要ない。結露現象を利用した測定であるため、結露が起こるようにしなければならず、水蒸気が多く含まれるような工夫が必要となる。本発明の方法を使えば、水蒸気を含む被測定気体を測定することにより、水蒸気を含まない被測定気体の比熱容量比γ及びモル質量Mを求めることができるように作用する。
【0069】
発明の第8の課題を解決する手段について説明する。まずは言葉の定義から始めると、乾燥空気は水蒸気以外の空気成分であるとすると、大気(水蒸気含有空気)は乾燥空気成分と水蒸気成分との混合気体である。乾燥空気もまた混合気体であり、成分は窒素が78%、酸素が21%、アルゴンが0.93%、炭酸ガスが0.040%、ネオンが0.0018%となり、主成分は、窒素と酸素とである。地球温暖化の原因物質としてその増加が危惧されている炭酸ガスは最近の10年で見ると、成分割合で2ppm/年の率で増加している。この増加率が100年維持されると、100年後は、成分割合が5割増しの0.060%となる計算となる。炭酸ガスが増えた場合にはその分だけ酸素の成分割合は減少することが考えられるが、その他の成分については成分割合の変化は現状では考えられない。乾燥空気の比熱容量比γ及びモル質量Mについては、成分割合が正確に分かれば、各成分の固有値からも計算できるはずであるが、現状では、成分割合及び固有値共に不正確で、参考値程度の結果しか得られない。一方、水蒸気については、単一気体であり、固有値として比熱容量比γ、モル質量M及びγ/M値を持つ。蒸気圧の範囲内で水蒸気が存在し、蒸気圧は温度に依存し、温度が上がれば指数関数的に蒸気圧は上がる。従って、大気中の水蒸気成分割合は、0℃では最大0.6%、30℃では最大4.16%にもなる。地表の7割は海面を含む水面であり、上空の雲は水蒸気が結露したものであり、気化すればいずれも水蒸気になり、地球環境である大気は、水蒸気の供給源に溢れていると言っても過言ではない。大気中の水蒸気成分割合が大きく変化するのに対し、乾燥空気成分割合についてはppm単位の変化が報告されているだけで、比熱容量比γ及びモル質量Mも固定値として既知であり、後の説明にあるように本測定器でも測定・確認でき、発明の第5の課題を解決する手段の混合気体に相当すると考えられる。
【0070】
セル構造体1を外気に晒し、大気を被測定気体として音速測定を行い、γ/M値を求め、水蒸気成分割合を得る。絶対温度Tも同時に求める。大気の水蒸気成分割合から、大気のモル質量Mが計算でき、γ/M値から大気の比熱容量比γも得られる。大気のエネルギーは絶対温度Tに比例するだけでなく、比熱容量比γによっても変化する。比熱容量比γと絶対温度Tとを使って、大気の内部エネルギーUは上式(5)により計算できる。1モル当りの内部エネルギーUは、n=1として計算する。内部エネルギーUという言葉は系になされる仕事量δWと区別して使われているが、系に供給された熱量
δQであり、気体分子が持つエネルギーである。単一気体及び成分割合の変化のない混合気体では、R/(γ−1)はまさに気体が持つモル比熱容量である。しかし、成分割合の変化する混合気体においては、R/(γ−1)は固定値ではなく、成分割合の変化により値を変え、1モル当りの内部エネルギーUをも変化させる。前者が絶対温度Tによってのみその内部エネルギーUを変えるのに対し、後者は絶対温度Tだけでなく、成分割合の変化によってもその内部エネルギーUを変える。大気が持つ内部エネルギーレベルは、自然現象である気候変動のエネルギーレベルとも関係していると思われる。
【0071】
大気の測定を長期間に亘り続け、結露現象を利用した測定により、水蒸気の比熱容量比γデータと共に、乾燥空気の比熱容量比γ及びモル質量Mデータを取得することができる。これらのデータの変化を調べることで、混合気体である乾燥空気の成分割合が変化していないことが確認できる。同時に、水蒸気の比熱容量比γデータ及び乾燥空気の比熱容量比γデータ及びモル質量Mデータをより高精度化できる。また、乾燥空気のデータに変化が見られるということになれば、成分割合の変化等、地球環境の変化に関する情報となる可能性もあるが、ppm単位の変化を検知することは難しいと思われる。自然環境における測定であるため、結露を起こすのではなく結露が起こるのを待って、得られるデータは多くはないが、使用してきたデータの確からしさを確認することはできる。以上、本発明は、気温で主に評価してきた大気について、内部エネルギーU及び水蒸気成分割合を求めることができ、表示・出力・記録していくことができるよう作用する。
【0072】
発明の第9の課題を解決する手段について説明する。我々を取り巻く自然環境に何が起きているのかを知る手がかりを与えてくれるのが地球環境モニターである。現在、地球環境として、最大の課題となっているのが地球温暖化の問題である。世界規模で、100年で0.7℃の温度上昇が続いている。日本では、100年で1.14℃の上昇となっている。これまでのモニターとしては気温を測る温度計が主に使われてきている。世界規模での各地の気温測定結果を集めて、表層の海水温度上昇も参考にして、統計処理して求められたのが前記温度上昇である。日本でも同様の処理が行われたものと思われる。地球温暖化の原因として最も関心を集めているのが、人間活動の結果として成分割合が増加し続けている炭酸ガスである。これ以上の増加を少しでも減らそうと世界的に取り組みがなされている。しかし、統一した対策にはなりえていないのが現状である。新しい統一した尺度を持つことで解決に繋がることが期待される。
【0073】
以下、大気中の水蒸気の成分割合(モル比)について説明する。人間の生活環境として、敢えて意識することもなく、日々生きていく上において最も欠かせないものが空気である。大気を直接計測する測定器の開発が待たれている。これまでは地球環境で水蒸気或いは湿度についてほとんど取り上げられて来なかった。湿度と言えば相対湿度が一般的である。相対湿度の定義は、水蒸気の蒸気圧と飽和蒸気圧との比(%)である。飽和蒸気圧とは、蒸気がその温度で生み出しうる圧力Pの最大値であり、絶対温度Tに対し1℃ステップで測定されていて、データテーブルとして公表されている。正確な絶対温度Tにおける正確な飽和蒸気圧は前後の飽和蒸気圧のデータから比例計算することができる。水蒸気の蒸気圧と大気の圧力Pとの比が大気中の水蒸気の成分割合(モル比)と互いに等しい。水蒸気の成分割合は大気圧には依存せず独立である。一方、湿度も圧力Pの比(%)で、大気圧には依存していない。しかし、相対湿度と大気中の水蒸気の成分割合との関係には、大気の圧力Pが関係している。絶対温度Tから飽和蒸気圧を知り、それに相対湿度を乗じたものが水蒸気の蒸気圧であり、それを大気の圧力Pで除したものが大気中の水蒸気成分割合となる。以上が相対湿度から水蒸気成分割合を求める方法であり、これと全く逆の計算をすれば、大気中の水蒸気成分割合から相対湿度を大気の圧力Pを介して求めることができる。これまで説明してきたように、音速測定からは極めて正確な大気中の水蒸気成分割合が求められるが、相対湿度の定義にある大気中の水蒸気の蒸気圧を大気の圧力Pの中で計測する困難さを考えると、従来、相対湿度に求められてきた精度とはどうであったのか、従来の相対湿度への換算が可能な新しい概念の尺度の評価が待たれる。
【0074】
以下、大気の1モル当りの内部エネルギーUについて説明する。発明の第8の課題を解決する手段で既に内部エネルギーUの計算式は説明済みであり、その意味するところを中心に記述したい。大気の比熱容量比γは水蒸気成分割合に依存し、水蒸気成分割合が増えると比熱容量比γは減少する。一方、T値は気温を絶対温度Tで表したもの。従って、大気の1モル当りの内部エネルギーUは絶対温度Tで表した気温に比例するだけでなく、水蒸気成分割合が増えることによっても大きくなる。一般的に大気を内部エネルギーUの面から見ると、水蒸気成分割合が増えることで気温上昇が抑えられることや、逆に水蒸気成分割合が増えずに気温上昇がその分大きくなることが実際に起きている。地球温暖化で大気の気温も体温以上に上昇し、尚且つ水蒸気成分割合も飽和に近く増えるとなると大気の内部エネルギーUは高くなり、人間には極めて過酷な環境となる。人間は体温を下げようと汗をかいても、汗が気化することもなく、気化熱を奪ってもらえないため、体温調節能力を奪われた状態となり、このままでは熱中症の危険性が高い状況となる。このように人間の住む環境という意味では、大気の1モル当りの内部エネルギーUをモニター項目として、エネルギー的視点で環境を考えることは欠かせないこととなっていると言える。
【0075】
大気を継続的にモニターするためには、定期的ないし不定期に被測定セル2bの気体を新しい大気に入れ替える。水蒸気成分割合ないし湿度から、結露現象を予測でき、結露の確認と測定とを済ませてから作業を行うこともできる。飽和蒸気圧を越える水蒸気は存在できないように水蒸気成分割合にも気温に応じた範囲があることから、結露が始まる直前であることは分かる。γ/M値の変化からリアルタイムに近い条件で結露の始まりを知ることができ、結露により得られる情報(結露時データ)を蓄えることができる。どのようなモニターの仕方をするかは選択でき且つプログラムできるようにして各種確認もできるようにする。
【0076】
図2に示すように、地球環境モニター装置120は、
図1に示した成分割合測定装置110と、空気入替装置28とを備え、計測・制御部13が以下に説明する演算や処理を行うことでモニターとして機能する。空気入替装置28は、空気取入口29、空気送出口30、排気入口31及び排気出口32を備えている。空気送出口30はセル構造体1の被測定セル入口3bに接続されており、排気入口31はセル構造体1の被測定セル出口4bに接続されている。空気入替装置28は、計測・制御部13から空気入替制御ライン15を介して制御され、空気入替指令を受けると、空気取入口29から取り入れた空気を空気送出口30から送出し、被測定セル入口3bからセル構造体1の被測定セル2b内に供給する。空気入替装置28は、空気の供給によって被測定セル出口4bから排出される被測定セル2b内の空気を、排気入口31から取り込み、排気出口32から外部に排出する。
【0077】
地球環境モニター装置120が計測・計算、取得・確認できるデータを以下、箇条書きにする。
(1)大気の音速v(計測)
(2)大気の絶対温度T (標準気体の音速vsから計算 気温)
(3)大気のγ/M値(計算)
(4)水蒸気の比熱容量比γ、乾燥空気の比熱容量比γ及びモル質量M(結露ありで取得・確認)
(5)大気中の水蒸気成分割合(γ/M値より計算)
(6)大気の1モル当りのモル質量M(計算)
(7)大気の比熱容量比γ(計算)
(8)大気の1モル当りの内部エネルギーU(計算)
この他、計算に使っている各種データとして、水蒸気の比熱容量比γ、乾燥空気の比熱容量比γ及びモル質量M、標準気体のγ/M値、計算の途中結果の大気と標準気体との音速の比、γ/M値を求める前後の音速及び音速の比の変化分、結露の有無・露点温度等がある。
【0078】
地球環境モニター装置120に求められている機能は、第1に地球環境に関する上記各種情報を参照データとして、年・月・日・時・分・秒の時のデータと共に蓄積していくことである。第2には、過去のデータと比較して、現在のデータを表示・出力することである。統計処理して、変わりつつあるデータを探し、その傾向を抽出して表示出力することである。第3には、地球環境の歴史を伝える資料としての役割の他、歴史と環境との関係資料として過去のデータを活用できるようにすることであると考える。長年に亘って必要とされる情報を漏らさず蓄積していくことが求められる。しかし長期間に亘る情報管理はホストコンピュータ(パソコン21)に任せ、定期的に原始データを全て送付する。或いは、記憶媒体に移し、保存する。ある程度の期間装置に保存されたデータについては、一部を残し、統計処理し、消去される。これらのデータは選択的に利用され、表示し且つ出力される。一部データとしては例えば、日毎の全ての項目の最高値及び最低値データ及び中間値データであり、統計処理されたデータとしての時間毎の平均値データ及び1日の平均値データ等が考えられる。情報として残すべき代表的なデータはこれに限られず、適宜改良されて良い。
【0079】
以上まとめると、本発明は、地球環境モニター装置120として、大気中の水蒸気成分割合と大気の1モル当りの内部エネルギーUとが出力できるようになり、地球温暖化に関わる情報として、気温だけでなく新たな目安と視点が加えられるべく作用する。
【0080】
他の実施形態としては、"各種気体について理想気体からの差異を調べる装置"が挙げられる。具体的な内容としては、発明の第2の課題を解決する手段で説明してきたように、理想気体の法則の1つを使って被測定気体の固有値を求め、或いは、理想気体である標準気体と被測定気体との音速の比を求め、これらの値が各種条件により固定値からどの程度且つどのように差異が生まれてくるかを知ることである。このことにより、被測定気体の理想気体の法則からの適用限界或いは誤差を知ることができる。各種条件とは、絶対温度Tであり、圧力Pである。絶対温度Tをコントロールする環境試験装置41(
図3)と被測定装置との圧力Pをコントロールする装置が必要となる。
【0081】
図3に示すように、圧力制御装置33は、被測定気体取入口34、被測定気体圧送口35、被測定気体吸引口36及び被測定気体排出口37を備えている。被測定気体取入口34は被測定気体タンク38の被測定気体出口39に接続されており、被測定気体圧送口35はセル構造体1の被測定セル入口3bに接続されている。被測定気体吸引口36はセル構造体1の被測定セル出口4bに接続されており、被測定気体排出口37は被測定気体タンク38の被測定排気入口40に接続されている。圧力制御装置33は、計測・制御部13から圧力制御ライン16を介して加圧制御されると、被測定気体取入口34から取り入れた被測定気体を被測定気体圧送口35から圧送し、被測定セル入口3bからセル構造体1の被測定セル2b内に供給する。圧力制御装置33は、計測・制御部13から圧力制御ライン16を介して減圧制御されると、被測定気体吸引口36から被測定セル2b内の被測定気体を吸引し、余分な被測定気体を被測定気体排出口37から排出して被測定気体タンク38に戻す。環境試験装置41はセル構造体1を含んでおり、計測・制御部13によって環境試験制御ライン17を介して制御される。
【0082】
環境試験装置41には標準気体と被測定セル2bを入れる部屋とがあって、部屋内の温度は変動しないか極めてゆっくり変化するように各種温度にコントロールできる装置が望ましい。当然、被測定セル2bは耐圧構造にして、尚且つ圧力変化により測定精度に影響のないように蓋をして、圧力Pが変わらなくするか、極めてゆっくり変わるようにしなければならない。これらの装置と本発明の装置とを組み合わせて、各種温度及び被測定気体のセル2内の各種圧力に対してγ/M値或いは音速の比を求めることができる。求められたデータを同じ気体の過去の代表値と比較することで理想気体の必要条件の判断に利用できる。転送されたこれらのデータは、ホストコンピュータ(パソコン21)にてデータ処理される。X軸に温度、Y軸に圧力P、Z軸に差のデータの3D表示ができれば、理想気体との差異の様子が一目瞭然となる。我々は、各種気体に理想気体の法則がどの程度適用できるのか実態を知ることになる。各種気体について、理想気体との差異或いは使用する関係式との差異を簡単に或いは簡単でなくとも確実に確認できる道具(ツール)の必要性が大いにあることが分かる。本格的な道具(ツール)が提供されてこなかったことが、応用の妨げになっていたとも言える。工業的応用への展開の道が開けてくることが期待される。前記"各種気体について理想気体からの差異を調べる装置"の1例のブロックダイアグラムは
図3に示した通りである。
【0083】
図4は、
図2に示す地球環境モニター装置120について、大気中の水蒸気の成分割合(n1/n)が気温の変化に対し最大でどのような値になるのか、その時に大気の比熱容量比γ、モル質量M及びγ/M値は乾燥空気のそれぞれの値に対しどのような変化割合となるかを示すグラフである。飽和水蒸気圧データを使って大気圧を1気圧として計算している。
【0084】
図5は、
図2に示す地球環境モニター装置120について、大気の1モル当りの内部エネルギーUが気温の変化に対し、水蒸気によって最大でどのような値になるのか乾燥空気の内部エネルギーUと対比させて示すグラフである。前記同様飽和水蒸気圧データを使って大気圧を1気圧として計算している。
【0085】
本発明に係る音速関連固有値測定装置100、成分割合測定装置110及び地球環境モニター装置120には次に記載する効果が期待できる。まずは、本発明の音速関連固有値測定装置100により期待される効果として、何が分かるようになったか、つまり、どのような気体に対し、何が得られるようになったかをまとめて、以下、箇条書きにする。
(1)各種気体の音速v
(2)上記音速測定時の環境の絶対温度T
(3)各種気体のγ/M値
(4)単一気体の比熱容量比γ、混合気体(モル質量Mが既知ないし求められる)の比熱容量比γ
(5)それぞれの比熱容量比γ及びモル質量Mが既知の2成分或いは2成分と見做される混合気体の成分割合n1/n
(6)各種気体(モル質量Mが既知ないし可測)の1モル当りの内部エネルギーU
(7)結露現象により得られた複数の異なる結露データ(結露の始まりのγ/M値及び成分割合n1/n)より知り得る情報;単一気体である結露気体の比熱容量比γ及び結露気体と混合気体をなすもう一方の成分気体との比熱容量比γ及びモル質量M
【0086】
本発明の音速関連固有値測定装置100を使って、単一気体から順次上記データが取得されることにより、各種気体のデータテーブルが作られ、新しい学術データとして普及が図られることが期待される。以下、データとしては、各種気体の(1)γ/M値データ(新規)、(2)比熱容量比γデータ(更新)、(3)モル質量Mデータ(従来と同じ)、(4)比熱容量データ(R/(γ−1))(新規)、(5)0℃の音速データ(更新)となる。関連データが1つのデータテーブルに勢揃いすることになる。単一気体の固有値であるγ/M値にR・Tを乗じ、平方根を取れば音速となり、T=273.15Kとすれば0℃の音速となり、γ/M値は意味ある固定値として利用価値が高い。上記測定データは従来データと比較して高精度であり、高信頼性データと言うことができる。絶対温度測定装置については校正作業及び定期検査作業を行うが、構成ないし検査により音速測定装置としての精度及び信頼性の確認がなされる。これが、測定結果に対する保証となる。また、測定前後の環境の確認及びその証拠データ、測定装置自らの発する熱の影響の確認、結露が教えてくれるデータによる成分割合測定結果との照合、或いは使用してきたデータとの照合等、音速関連固有値測定装置100が持つ自己チェック機能を使った結果をデータと一緒に添付できることが信頼性の高さの証明になる。
【0087】
地球環境モニター装置120に期待される効果について記述する。地球環境については"現状をどう認識するか"がまず第1歩で、現状認識が世界の共通認識となることが重要である。"地球環境が変化しつつある。"ことの認識、将来に及ぼす影響、原因究明とその対策、世界的な協議、その全てのステップにおいて共通認識は欠かせない。共通認識を助けるもの、それは誰もが認めざるを得ない測定結果、経過そして再現性である。測定結果の確からしさ、つまり測定精度及びその信頼性については本発明の音速関連固有値測定装置100について既に説明してきた通りであり、その測定装置を使って作られた地球環境モニター装置120は上記ニーズに十分応えられるものである。
【0088】
一方、地球温暖化に関して、現状は温度上昇だけが取り上げられているが、気体の1モル当りの内部エネルギーUで見ると、水蒸気が無視できない影響を与えている。湿度が取り上げられないことについては疑問もあるが、ここでは馴染みの深い湿度の上昇を仮定して、エネルギーに及ぼす影響を計算してみることにする。気温だけが1℃上昇しただけの場合と、湿度も10%上昇した場合とのエネルギー上昇を比較し、エネルギーの変化割合と湿度の影響を温度換算した換算上昇温度とを求める。以下の2通りについて結果を箇条書きにする。
(1)気温32℃及び湿度60%から気温33℃及び湿度70%に変化した場合;エネルギー上昇分の37ジュール/モル(温度だけでは21ジュール/モル)、変化割合0.58%(同0.33%)、換算上昇温度0.8℃相当
(2)気温34℃及び湿度70%から気温35℃及び湿度80%に変化した場合;エネルギー上昇分の40ジュール/モル(温度だけでは21ジュール/モル)、変化割合0.62%(同0.33%)、換算上昇温度0.9℃相当
尚、ここで計算に使われた圧力Pは大気圧=1,013hPa、水蒸気の比熱容量比γは1.289、乾燥空気の比熱容量比γは1.401とした。低温の気温ではエネルギーに及ぼす水蒸気の影響は小さいが、体温近くの気温ではこのように影響も大きくなる。以上見てきたように、水蒸気が持つエネルギーの影響を地球環境として考慮する必要性が理解され、本発明の地球環境モニター装置120が出力する大気中の水蒸気成分割合と大気の1モル当りの内部エネルギーUとが地球環境の重要なパラメータとして採用され、環境評価に使われることが望まれる。過去の湿度データとの整合性は今後の検討に待つとして、今後のデータ蓄積による環境評価に及ぼす効果に期待したい。
【0089】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、制御手順、数式など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。一方、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。