(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6629412
(24)【登録日】2019年12月13日
(45)【発行日】2020年1月15日
(54)【発明の名称】摩擦材組成物、摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20200106BHJP
F16D 69/02 20060101ALI20200106BHJP
【FI】
C09K3/14 520C
C09K3/14 520K
F16D69/02 F
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-199445(P2018-199445)
(22)【出願日】2018年10月23日
(62)【分割の表示】特願2014-22987(P2014-22987)の分割
【原出願日】2014年2月10日
(65)【公開番号】特開2019-44189(P2019-44189A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2018年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】391033078
【氏名又は名称】日本ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100193976
【弁理士】
【氏名又は名称】澤山 要介
(72)【発明者】
【氏名】海野 光朗
(72)【発明者】
【氏名】光本 真理
【審査官】
柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−255051(JP,A)
【文献】
特開2012−255052(JP,A)
【文献】
特開2005−036157(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0219289(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
F16D 69/02
F16D 13/62
C08J 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として0.5質量%以下であり、酸化ジルコニウム、並びにチタン酸塩としてトンネル状結晶構造のチタン酸塩及び層状結晶構造のチタン酸塩を含有する摩擦材組成物。
【請求項2】
前記トンネル状結晶構造のチタン酸塩が6チタン酸カリウム、8チタン酸カリウム及びチタン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の摩擦材組成物。
【請求項3】
前記層状結晶構造のチタン酸塩がチタン酸リチウムカリウム又はチタン酸マグネシウムカリウムである請求項1又は2に記載の摩擦材組成物。
【請求項4】
前記チタン酸塩を合計量で20〜50質量%含有する請求項1〜3のいずれかに記載の摩擦材組成物。
【請求項5】
前記トンネル状結晶構造のチタン酸塩の含有量が10〜35質量%である請求項1〜4のいずれかに記載の摩擦材組成物。
【請求項6】
前記層状結晶構造のチタン酸塩の含有量が10〜35質量%である請求項1〜5のいずれかに記載の摩擦材組成物。
【請求項7】
前記層状結晶構造のチタン酸塩とトンネル状結晶構造のチタン酸塩の含有量比率が30:70〜70:30である請求項1〜6のいずれかに記載の摩擦材組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の摩擦材組成物を成形してなる摩擦材。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の摩擦材組成物を成形してなる摩擦材と裏金とを用いて形成される摩擦部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の制動に用いられるディスクブレーキパッド等の摩擦材に適した摩擦材組成物及び摩擦材組成物を用いた摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等には、その制動のためにディスクブレーキパッド、ブレーキライニング等の摩擦材が使用されている。摩擦材は、ディスクローター、ブレーキドラム等の対面材と摩擦することにより、制動の役割を果たしている。そのため、摩擦材には、良好な摩擦係数、耐摩耗性(摩擦材の寿命が長いこと)、強度、制振性(ブレーキ鳴きが発生しにくいこと)等が要求される。
【0003】
摩擦材には、結合材、繊維基材、無機充填材及び有機充填材等を含む摩擦材組成物が用いられ、前記特性を発現させるために、一般的に、各成分を1種又は2種以上を組合せた摩擦材組成物が用いられる。無機充填材として、摩擦係数や耐摩耗性を向上させるために、チタン酸カリウムを配合することが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。また、銅は、特に高温・高速での制動における耐摩耗性向上や摩擦係数向上に効果が高く、繊維基材として摩擦材に配合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−020986号公報
【特許文献2】特許第4313458号公報
【特許文献3】特許第4144817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、銅や銅合金を含有する摩擦材は、制動時に生成する摩耗粉に銅を含み、河川、湖や海洋汚染等の原因となる可能性が示唆されているため、使用を制限する動きが高まっている。しかし、銅を含有しない摩擦材は、無機充填材として特許文献1〜3に記載のチタン酸カリウムを配合したとしても、高温・高速での制動における摩擦材の摩耗が極端に大きく、摩擦係数が低く安定しないという課題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、環境負荷の高い銅を含有せず、高温・高速での制動における耐摩耗性、摩擦係数の安定性に優れた摩擦材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、銅や銅合金を含有せず、トンネル状結晶構造のチタン酸塩を層状結晶構造のチタン酸塩を両方含有する摩擦材組成物を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は下記のとおりである。
(1)結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として0.5質量%以下であり、チタン酸塩としてトンネル状結晶構造のチタン酸塩及び層状結晶構造のチタン酸塩を含有する摩擦材組成物。
(2)トンネル状結晶構造のチタン酸塩が6チタン酸カリウム又は8チタン酸カリウム若しくはチタン酸ナトリウムである上記(1)に記載の摩擦材組成物。
(3)前記層状結晶構造のチタン酸塩がチタン酸リチウムカリウム又はチタン酸マグネシウムカリウムである上記(1)又は(2)に記載の摩擦材組成物。
(4)前記チタン酸塩を合計量で20〜50質量%含有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の摩擦材組成物。
(5)前記トンネル状結晶構造のチタン酸塩の含有量が10〜35質量%である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の摩擦材組成物。
(6)前記層状結晶構造のチタン酸塩の含有量が10〜35質量%である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の摩擦材組成物。
(7)前記層状結晶構造のチタン酸塩とトンネル状結晶構造のチタン酸塩の含有量比率が30:70〜70:30である上記(1)〜(6)のいずれかに記載の摩擦材組成物。
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の摩擦材組成物を成形してなる摩擦材。
(9)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の摩擦材組成物を成形してなる摩擦材と裏金とを用いて形成される摩擦部材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、自動車用ディスクブレーキパッド等の摩擦材に用いた際に、環境負荷の高い銅を用いなくとも高温・高速での制動における耐摩耗性、摩擦係数の安定性に優れた摩擦材組成物、摩擦材及び摩擦部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の摩擦材組成物、これを用いた摩擦材及び摩擦部材について詳述する。なお、本発明の摩擦材組成物は、ノンアスベスト摩擦材組成物である。
【0010】
[摩擦材組成物]
本実施形態の摩擦材組成物は、銅の含有量が銅元素として0.5質量%以下である摩擦材組成物である。銅の含有量を銅元素として0.5質量%以下とすることで、従来の摩擦材と比較して環境負荷の少ないものとすることができる。
【0011】
(チタン酸塩)
本実施形態においては、銅の少ない組成における高温・高速での制動における耐摩耗性、摩擦係数の安定性向上のために、トンネル状結晶構造のチタン酸塩と層状結晶構造のチタン酸塩とを共に含有する。
チタン酸塩は摩擦係数の安定性向上や耐摩耗性向上を目的として摩擦材に添加されるが、トンネル状結晶構造のチタン酸塩は特に低速制動での摩擦係数の安定性が高く、層状結晶構造のチタン酸塩は高温での摩耗抑制効果が高い。しかし、これらのチタン酸塩の単独添加では、高速制動における摩擦係数保持や耐摩耗性の改善効果は小さい。
トンネル状結晶構造のチタン酸塩と層状結晶構造のチタン酸塩を組み合わせて用いることで、低速制動での摩擦係数安定性や高温での摩耗抑制効果に優れるだけでなく、高速制動における摩擦係数保持や耐摩耗性にも優れる摩擦材が得られる。
前記チタン酸塩の含有量は、合計で20〜50質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましく、20〜30質量%であることが更に好ましい。チタン酸塩の含有量が20質量%以上であると高温・高速での制動における耐摩耗性、摩擦係数の安定性が良好であり、50質量%以下であると摩擦係数が低下することがない。前記チタン酸塩としては、繊維状、鱗片状、柱状、板状のものを使用することができるが、人体有害性の観点で鱗片状、柱状、板状のものが好ましい。
トンネル状結晶構造のチタン酸塩としては、8チタン酸カリウム、6チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウムを用いることができ、含有量は10〜35質量%が好ましく、10〜25質量%がより好ましい。10質量%以上であると高温・高速での制動における耐摩耗性、摩擦係数の安定性が良好であり、35質量%以下であると摩擦係数が低下することがない。
層状結晶構造のチタン酸塩としては、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウムを用いることができ、含有量は10〜35質量%が好ましく、10〜25質量%が更に好ましい。10質量%以上であると高温・高速での制動における耐摩耗性、摩擦係数の安定性が良好であり、35質量%以下であると摩擦係数が低下することがない。
また、層状構造の結晶構造のチタン酸塩とトンネル構造の結晶構造のチタン酸塩の含有量比率は、30:70〜70:30であることが好ましい。この比率でチタン酸塩を含有させることで、高速での制動において、高い耐摩耗性、摩擦係数保持効果を得ることができる。
【0012】
(無機充填材)
無機充填材は、摩擦材の耐熱性の悪化を避けるためや、耐摩耗性を向上させるため、摩擦係数を向上する目的で添加される摩擦調整剤として含まれるものである。本実施形態のノンアスベスト摩擦材用組成物は、通常、摩擦材に用いられる無機充填材であれば特に制限はない。
【0013】
上記無機充填材としては、例えば、硫化錫、二硫化モリブデン、硫化鉄、三硫化アンチモン、硫化ビスマス、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ドロマイト、コークス、黒鉛、マイカ、酸化鉄、バーミキュライト、硫酸カルシウム、タルク、クレー、ゼオライト、ケイ酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、ムライト、クロマイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、シリカ、酸化鉄、γ−アルミナなどの活性アルミナを用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0014】
本実施形態のノンアスベスト摩擦材組成物中における、無機充填材の含有量は、30〜80質量%であることが好ましく、40〜70質量%であることがより好ましく、50〜60質量%であることが更に好ましい。無機充填材の含有量を30〜80質量%の範囲とすることで、耐熱性の悪化を避けることができ、摩擦材のその他成分の含有量バランスの点でも好ましい。
【0015】
(有機充填材)
有機充填材は、摩擦材の音振性能や耐摩耗性などを向上させるための摩擦調整剤として含まれるものである。本実施形態のノンアスベスト摩擦材組成物に含まれる有機充填材としては、上記性能を発揮できるものであれば特に制限はなく、通常、有機充填材として用いられる、カシューダストやゴム成分などを用いることができる。
【0016】
上記カシューダストは、カシューナッツシェルオイルを硬化させたものを粉砕して得られる、通常、摩擦材に用いられるものであればよい。
【0017】
上記ゴム成分としては、例えば、タイヤゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、NBR(ニトリルブタジエンゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)、塩素化ブチルゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム、などが挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
【0018】
本実施形態のノンアスベスト摩擦材組成物中における、有機充填材の含有量は、1〜20質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましく、3〜8質量%であることが更に好ましい。有機充填材の含有量を1〜20質量%の範囲とすることで、摩擦材の弾性率が高くなること、鳴きなどの音振性能の悪化を避けることができ、また耐熱性の悪化、熱履歴による強度低下を避けることができる。
【0019】
(結合材)
結合材は、摩擦材用組成物に含まれる有機充填材、無機充填材及び繊維基材などを一体化し、強度を与えるものである。本実施形態の摩擦材用組成物に含まれる結合材としては特に制限は無く、通常、摩擦材の結合材として用いられる熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0020】
上記熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂;アクリルエラストマー分散フェノール樹脂及びシリコーンエラストマー分散フェノール樹脂などの各種エラストマー分散フェノール樹脂;アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、カシュー変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂及びアルキルベンゼン変性フェノール樹脂などの各種変性フェノール樹脂などが挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。特に、良好な耐熱性、成形性及び摩擦係数を与えることから、フェノール樹脂、アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0021】
本実施形態のノンアスベスト摩擦材組成物中における、結合材の含有量は、5〜20質量%であることが好ましく、5〜10質量%であることがより好ましい。結合材の含有量を5〜20質量%の範囲とすることで、摩擦材の強度低下をより抑制でき、また、摩擦材の気孔率が減少し、弾性率が高くなることによる鳴きなどの音振性能悪化をより抑制できる。
【0022】
(繊維基材)
繊維基材は、摩擦材において補強作用を示すものである。
本実施形態のノンアスベスト摩擦材組成物は、通常、繊維基材として用いられる、前記チタン酸塩の繊維以外の無機繊維、金属繊維、有機繊維、炭素系繊維などを用いることができ、これらを単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
上記チタン酸塩の繊維以外の無機繊維としては、セラミック繊維、生分解性セラミック繊維、鉱物繊維、ガラス繊維、シリケート繊維などを用いることができ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これら、無機繊維の中では、SiO
2、Al
2O
3、CaO、MgO、FeO、Na
2Oなどを任意の組み合わせで含有した生分解性鉱物繊維が好ましく、市販品としてはLAPINUS FIBERS B.V製のRoxulシリーズなどが挙げられる。
【0024】
上記金属繊維としては、通常、摩擦材に用いられるものであれば特に制限はないが、例えば、アルミ、鉄、亜鉛、錫、チタン、ニッケル、マグネシウム、シリコンなどの銅及び銅合金以外の金属単体又は合金形態の繊維や、鋳鉄繊維などの金属を主成分とする繊維が挙げられる。
【0025】
なお、本実施形態品は、環境有害性の高い銅及び銅合金を実質的に含有せず、元素としての銅の含有量が0.5質量%以下であり、好ましくは含有量0質量%である。
【0026】
上記有機繊維としては、アラミド繊維、セルロース繊維、アクリル繊維、フェノール樹脂繊維などを用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
上記炭素系繊維としては、耐炎化繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、活性炭繊維などを用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
本実施形態のノンアスベスト摩擦材組成物における、繊維基材の含有量は、摩擦材組成物において5〜40質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましく、5〜15質量%であることが更に好ましい。繊維基材の含有量を5〜40質量%の範囲とすることで、摩擦材としての最適な気孔率が得られ、鳴き防止ができ、適正な材料強度が得られ、耐摩耗性を発現し、成形性をよくすることができる。
【0029】
[摩擦材]
本実施形態の摩擦材は、本実施形態の摩擦材組成物を一般に使用されている方法で成形して製造することができ、好ましくは加熱加圧成形して製造される。詳細には、例えば、本実施形態の摩擦材組成物をレーディゲミキサー(「レーディゲ」は登録商標)、加圧ニーダー、アイリッヒミキサー(「アイリッヒ」は登録商標)等の混合機を用いて均一に混合し、この混合物を成形金型にて予備成形し、得られた予備成形物を成形温度130〜160℃、成形圧力20〜50MPa、成形時間2〜10分間の条件で成形し、得られた成形物を150〜250℃で2〜10時間熱処理することで製造される。また更に、必要に応じて塗装、スコーチ処理、研磨処理を行うことで製造される。
【0030】
[摩擦部材]
本実施形態の摩擦部材は、上記の本実施形態の摩擦材を摩擦面となる摩擦材として用いてなる。上記摩擦部材としては、例えば、下記の構成が挙げられる。(1)摩擦材のみの構成(2)裏金と、該裏金の上に摩擦面となる本発明の摩擦材組成物からなる摩擦材とを有する構成(3)上記(2)の構成において、裏金と摩擦材との間に、裏金の接着効果を高めるための表面改質を目的としたプライマー層、及び、裏金と摩擦材との接着を目的とした接着層を更に介在させた構成
【0031】
上記裏金は、摩擦部材の機械的強度の向上のために、通常、摩擦部材として用いるものであり、材質としては、金属又は繊維強化プラスチック等、具体的には、鉄、ステンレス、無機繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック等が挙げられる。プライマー層及び接着層は、通常、ブレーキシュー等の摩擦部材に用いられるものであればよい。
【0032】
本実施形態の摩擦材組成物は、摩擦係数、耐クラック性、耐摩耗性等に優れるため、自動車等のディスクブレーキパッドやブレーキライニング等の上張り材として特に有用であるが、高い耐クラック性を有するため、摩擦部材の下張り材として成形して用いることもできる。なお、「上張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材であり、「下張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材と裏金との間に介在する、摩擦材と裏金との接着部付近のせん断強度、耐クラック性向上等を目的とした層のことである。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の摩擦材組成物、摩擦材及び摩擦部材について、実施例及び比較例を用いて更に詳細に説明するが、本発明は何らこれらに制限されるものではない。
【0034】
[実施例1〜8及び比較例1〜8](ディスクブレーキパッドの作製)
表2に示す配合比率に従って材料を配合し、実施例1〜8及び比較例1〜8の摩擦材組成物を得た。この摩擦材組成物をレーディゲミキサー(株式会社マツボー製、商品名:レーディゲミキサーM20)で混合し、得られた混合物を成形プレス(王子機械工業株式会社製)で予備成形した。得られた予備成形物を成形温度140〜160℃、成形圧力30MPa、成形時間5分間の条件で、成形プレス(三起精工株式会社製)を用いて鉄製の裏金(日立オートモティブシステムズ株式会社製)と共に加熱加圧成形した。得られた成形品を200℃で4.5時間熱処理し、ロータリー研磨機を用いて研磨し、500℃のスコーチ処理を行って、実施例1〜4及び比較例1〜2のディスクブレーキパッドを得た。なお、実施例及び比較例では、裏金の厚さ6mm、摩擦材の厚さ11mm、摩擦材投影面積52cm
2のディスクブレーキパッドを作製した。
なお、実施例及び比較例において使用したチタン酸塩は表1のとおりである。
【0035】
【表1】
【0036】
(摩擦係数の評価)
摩擦係数は、自動車技術会規格JASO C406に基づき測定し、第2効力試験の車速50km/h、減速度0.6G、及び車速180km/h、減速度0.6Gにおける摩擦係数の平均値を算出した。評価結果を表2に示す。
【0037】
(高温、高速における制動での耐摩耗性の評価)
耐摩耗性は、自動車技術会規格JASO C427に基づき測定し、ブレーキ温度400℃、車速50km/h、減速度0.3Gの制動1000回相当の摩擦材の摩耗量を評価し、高温での耐摩耗性とした。また、ブレーキ温度200℃、車速100km/h、減速度0.3Gの制動1000回相当の摩擦材の摩耗量を評価し、高速制動における耐摩耗性とした。評価結果を表2に示す。
なお、上記摩擦係数、耐摩耗性の評価はダイナモメーターを用い、イナーシャ7kgf・m・sec
2で評価を行った。また、ベンチレーテッドディスクロータ(株式会社キリウ製、材質FC190)、一般的なピンスライド式のコレットタイプのキャリパを用いて実施した。
【0038】
【表2】
【0039】
表2に示すように、実施例1〜8は、銅を含有する比較例8と同水準の摩擦係数、耐摩耗性を示した。また、実施例1〜8は、トンネル型結晶構造のチタン酸塩と層状結晶構造のチタン酸塩の一方だけを含有する比較例1〜7に対して高速での摩擦係数が高く、低速と高速の摩擦係数の差が少なく安定している。更に高速及び高温の耐摩耗性が優れることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の摩擦材組成物は、従来品と比較して、環境負荷の高い銅を用いなくとも高温・高速での制動における耐摩耗性、摩擦係数の安定性に優れるため、該摩擦材組成物は乗用車用ブレーキパッド等の摩擦材及び摩擦部材に好適である。