(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
本実施の形態に係る光学部品の解析方法は、光軸を屈曲させる反射面を含む光学部品における、光軸全長に亘る複屈折の総和(リタデーション)をシミュレーションする方法である。以下の各実施の形態では、光学部品として光レセプタクルを解析対象とした例について説明する。しかしながら、本発明に係る光学部品の解析方法における解析対象となる光学部品の種類は、光軸を屈曲させる反射面を含む光学部品であれば特に限定されない。解析対象となる光学部品の他の例には、プリズムなどが含まれる。
【0012】
[実施の形態1]
(解析対象の光レセプタクル)
まず、解析対象の光レセプタクルについて説明する。光レセプタクルは、光通信において、垂直共振器面発光レーザー(VCSEL)などの発光素子またはフォトダイオードなどの受光素子と、光ファイバーなどの光伝送体とを光学的に結合させるための光学部品である。
【0013】
図1は、本実施の形態において解析対象とする光レセプタクル100の断面図である。なお、
図1では、光レセプタクル100内の光軸(光路)を示すために、ハッチングを省略している。また、以下の説明では、
図1における紙面上下方向を光レセプタクル100の上下方向として説明する。
【0014】
図1に示されるように、実施の形態1における光レセプタクル100は、第1光学面120と、反射面140と、第2光学面160とを有する。
【0015】
第1光学面120は、光伝送体と対向すべき面であり、光伝送体からの光Lを光レセプタクル100の内部に入射させるか、光レセプタクル100の内部を進行した光Lを外部に出射させる光学面である。本実施の形態では、第1光学面120は、光伝送体からの光Lを光レセプタクル100の内部に入射させる。また、本実施の形態では、第1光学面120は、外部に向かって凸状の凸レンズ面であり、光レセプタクル100の側面に配置されている。
【0016】
反射面140は、第1光学面120で入射した光Lを第2光学面160に向けて反射させるか、第2光学面160で入射した光Lを第1光学面120に向けて反射させる。本実施の形態では、反射面140は、第1光学面120で入射した光Lを第2光学面160に向けて反射させる。反射面140は、光レセプタクル100の下面から上面に向かうにつれて第1光学面120から離れるように、光レセプタクル100の下面側に配置されている。
【0017】
第2光学面160は、受光素子または発光素子と対向すべき面であり、光レセプタクル100の内部を進行した光Lを受光素子に向けて外部に出射させるか、発光素子からの光Lを光レセプタクル100の内部に入射させる光学面である。本実施の形態では、第2光学面160は、光レセプタクル100の内部を進行した光Lを受光素子に向けて外部に出射させる。また、本実施の形態では、第2光学面160の形状は、外部に向かって凸状の凸レンズ面であり、光レセプタクル100の上面に配置されている。
【0018】
図1に示されるように、受信用に用いられている光レセプタクル100では、第1光学面120で入射した光伝送体からの光は、反射面140で第2光学面160に向かって反射され、第2光学面160から受光素子に向けて外部に出射される。このように、光レセプタクル100では、反射面140によって光Lの光軸OAが屈曲(変化)する。
【0019】
光レセプタクル100は、光通信に用いられる波長の光に対して透光性を有する材料を用いて製造される。光レセプタクル100の材料の例には、ポリエーテルイミド(PEI)や環状オレフィン樹脂などの透明な樹脂が含まれる。
【0020】
光レセプタクル100は、例えば、射出成形により製造される。具体的には、まず、金型を型締めする(型締め工程)。型締めされた金型の内部には、光レセプタクル100の設計形状と相補的な形状のキャビティーが形成される。次いで、溶融させた樹脂(組成物)を金型内のキャビティーに充填する(充填工程)。そして、キャビティー内に溶融させた樹脂を充填させた状態で保圧しながら自然冷却する(保圧工程)。最後に、型締めされた金型を型開きして、金型から光レセプタクル100を離型する(型開き工程)。以上の工程により、射出成形により光レセプタクル100を製造できる。
【0021】
(光学部品の解析方法)
次に、本実施の形態に係る光学部品(リタデーション)の解析方法について説明する。
図2は、本実施の形態に係る光学部品の解析方法のフローチャートである。
図2に示されるように、本実施の形態に係る光学部品の解析方法は、計算モデルを準備する工程(S110)と、光軸を設定する工程(S120)と、計算モデルを複数の微小要素に分割する工程(S130)と、複数の微小要素における複屈折を算出する工程(S140)と、光軸上の微小要素における複屈折を積分する工程(S150)と、を有する。本実施の形態に係る光学部品の解析方法は、例えば、所定のプログラムがインストールされたコンピューターにより実行されうる。以下、各工程について説明する。
【0022】
計算モデルを準備する工程(S110)では、解析対象の光学部品(光レセプタクル100)についての各種情報に基づき、計算モデルを準備する。計算モデルには、光学部品の形状や材料、射出成形の条件などの情報が含まれる。光学部品の形状についての情報は、例えば3D CADなど用いて作成される。
【0023】
光軸を設定する工程(S120)では、計算モデル(仮想の光レセプタクル100)における、入射面、反射面および出射面を経由する光軸OAを3次元的に設定する。光軸OAは、例えば3D CADなどを用いて設定されうる。なお、光軸OAは、光線の太さを考慮して設定されてもよい。なお、「光線の太さ」は、実際の伝搬光より太い径を適宜設定する。また、光レセプタクル100において、「入射面」は第1光学面120であり、「反射面」は反射面140であり、「出射面」は第2光学面160である。また、本実施の形態では、入射面(第1光学面120)から反射面140までの第1光軸OA1と、反射面140から出射面(第2光学面160)までの第2光軸OA2とにより、光軸OAが設定される。
【0024】
微小要素に分割する工程(S130)では、計算モデル(仮想の光レセプタクル100)を複数の微小要素に分割する。なお、この工程では、少なくとも光軸を設定する工程で設定された光軸OAを含む部分を微小要素に分割すればよく、計算モデル全体を複数の微小要素に分割する必要はない。
【0025】
複屈折を算出する工程(S140)では、微小要素に分割する工程で分割された各複数の微小要素における複屈折を算出する。たとえば、各微小要素における応力をそれぞれ算出し、当該応力に基づいて各微小要素における複屈折を算出する。
【0026】
応力の算出では、まず、計算モデルに含まれる射出成形の条件と、樹脂のレオロジー物性データベースと、金型の物性データベースとから、金型の内表面温度の変化と、金型内に充填される溶融樹脂の速度、温度および圧力の変化と、樹脂粘度の変化と、流動応力の変化とを算出する。固化収縮における応力の変化は、樹脂のpvt特性、実験により得た収縮特性を用いて算出する。なお、流動応力における応力の変化および固化収縮における応力の変化は、応力緩和効果を含めて演算してもよい。また、計算方法は、計算コスト、計算の安定性などを勘案して適宜選択できる。
【0027】
複屈折の算出では、前述の手順で求められた各微小要素における応力の値から3つの主応力(σ
1、σ
2、σ
3)を算出する。なお、この3つの主応力は、直交座標系におけるX軸、Y軸、Z軸に対応する。複屈折(Δn
ij)は、式(1)〜式(3)に示されるように、光弾性係数(C)と主応力差(σ
i―σ
j)との積により算出される。なお、3つの主応力のうち、どの主応力を用いるかは、光軸OAの向きに基づいて決定する。
Δn
12=C×(σ
1−σ
2) ・・・(1)
Δn
23=C×(σ
2−σ
3) ・・・(2)
Δn
13=C×(σ
1−σ
3) ・・・(3)
【0028】
ここで、光弾性係数(C)は、樹脂の溶融時(流動時)と、固化時とで異なることが知られている。そこで、流動応力に適用する光弾性係数と、固化収縮力に適用する光弾性係数とを別々に定義してもよい。なお、上記微小要素に分割する工程および複屈折を算出する工程は、市販のプログラムを用いても実行することができる。市販のプログラムの例には、東レ株式会社の3次元樹脂流動解析ソフトウェア「3D TIMON(登録商標)」、オートデスク株式会社のプラスチック射出成形シミュレーションソフトウェア「Moldflow(登録商標)」、Core Tech System Co.,Ltdの3次元樹脂流動解析プログラム「Moldex3D」などが含まれる。
【0029】
複屈折を積分する工程(S150)では、光軸OA上の微小要素における複屈折を積分する。より具体的には、光軸を設定する工程で設定した光軸OAに沿って、複屈折を算出する工程で得られた各微小要素における複屈折を積分する(リタデーションを得る)。なお、複屈折(リタデーション)は、光軸OA上の一箇所の出力としてもよいし、光軸を設定する工程(S120)で設定した光線における分布を出力としてもよい。
【0030】
以上の手順により、光学部品(光レセプタクル100)が光軸を屈曲させる反射面を含んでいても、光軸全長に亘る複屈折の総和(リタデーション)を算出することができる。
【0031】
なお、このように得られた光軸全長に亘る複屈折の総和(リタデーション)を用いて、光学部品から出射された光L(透過光)の強度を求めることにより、光学部品の直交ニコル法による測定結果をシミュレーションできる。透過光の強度は、以下の式(4)および式(5)により見積もることができる。
I=sin
22θsin
2(φ/2) ・・・(4)
φ=2πR/λ ・・・(5)
(上記式において、Iは透過光の強度を示し、θは入射する光Lの偏光面と応力主軸の方向とのなす角度を示し、φは位相差を示し、Rはリタデーションを示し、λは光の波長を示す。)
【0032】
なお、光学部品の複屈折を直交ニコル法で測定するためには、光学部品における光入射面側に検光子を配置し、出射面側に偏光子を配置する。そして、検光子を介して光Lを入射させ、偏光子介して出射された光の像を検出する。
【0033】
(変形例)
図3は、実施の形態1の変形例において解析対象とする光レセプタクル100’の断面図である。なお、
図3では、光レセプタクル100’内の光軸(光路)を示すために、ハッチングを省略している。
【0034】
図3に示されるように、光レセプタクル100’は、複数の反射面140a、140b、140cを有していてもよい。
【0035】
そして、光学部品の解析方法における光軸を設定する工程(S120)では、第1光学面120から反射面140aまでの第1光軸OA1と、反射面140aから反射面140bまでの第2光軸OA2と、反射面140bから反射面140cまでの第3光軸OA3と、反射面140cから第2光学面160までの第4光軸OA4との合計の経路を光軸OAとして設定する。そして、光レセプタクル100’に対応する計算モデルを微小要素に分割し(S130)、前述したように複屈折を求めればよい(S140およびS150)。
【0036】
(効果)
以上のように、本実施の形態に係る光学部品の解析方法によれば、計算モデルにおける、光学部品の内部を進行する光の経路(光軸OA)に沿って複屈折を算出するため、光軸OAが屈曲していても、光学部品の複屈折やリタデーションなどを適切に解析できる。これにより、複屈折やリタデーションなどを考慮して光学部品の設計を行うことにより、所望の性能を有する光学部品を製造できる。
【0037】
[実施の形態2]
(解析対象の光レセプタクル)
実施の形態2において解析対象とする光レセプタクル200は、反射面240で光Lの偏光状態が変化する点においてのみ実施の形態1における光レセプタクル100と異なる。そこで、実施の形態1における光レセプタクル100と同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0038】
図4は、実施の形態2において解析対象とする光レセプタクル200の断面図である。なお、
図4では、光レセプタクル200内の光軸(光路)を示すために、ハッチングを省略している。
図4に示されるように、実施の形態2における光レセプタクル200は、第1光学面120と、反射面240と、第2光学面160とを有する。反射面240は、入射した光Lを反射させるときに、入射した光Lの偏光状態を変化させる。反射面240の例には、平面アルミ全反射ミラー、誘導体全反射ミラーなどが含まれる。ここで「偏光状態を変化させる」とは、例えば、TE偏光とTM偏光とを相互に変化させることや、円偏光を楕円偏光に変化させること、直線偏光を楕円偏光に変化させることを意味する。
【0039】
(光学部品の解析方法)
次に、本実施の形態に係る光学部品の解析方法について説明する。本実施の形態に係る光学部品の解析方法は、変換データベースを準備する工程をさらに有する点と、複屈折を積分する工程において前記変換データベースを用いる点とにおいて実施の形態1に係る光学部品の解析方法と異なる。そこで、実施の形態1に係る光学部品の解析方法と同一の工程については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0040】
図5は、本実施の形態に係る光学部品の解析方法のフローチャートである。
図5に示されるように、実施の形態2に係る光学部品の解析方法は、計算モデルを準備する工程(S110)と、光軸を設定する工程(S120)と、計算モデルを複数の微小要素に分割する工程(S130)と、複数の微小要素における複屈折を算出する工程(S140)と、変換データベースを準備する工程(S145)と、光軸上の微小要素における複屈折を積分する工程(S250)と、を有する。
【0041】
変換データベースを準備する工程(S145)では、光学部品に含まれる偏光状態を変化させる面による偏光状態の変化についての変換データベースを準備する。本実施の形態では、光レセプタクル200の反射面240による偏光状態の変化についての変換データベースを準備する。なお、変換データベースは、解析毎に準備する必要はなく、あらかじめ準備されていてもよい。
【0042】
変換データベースに含まれる偏光状態の変化についての情報としては、実測値を用いてもよいし、FDTD(Finite difference time domain method)などによるマクスウェルの方程式を用いたシミュレーションで求めた値を用いてもよい。反射面での反射前後における偏光状態の変化を実測する方法は、特に限定されない。たとえば、偏光状態の変化は、位相差測定装置(KOBRAシリーズ;王子計測機器株式会社)を用いて測定できる。
【0043】
複屈折を積分する工程(S250)では、工程S145で準備した変換データベースを用いて偏光状態を変化させつつ、光軸OA上の微小要素における複屈折を積分する。より具体的には、第1光学面120から反射面240までの第1光軸OA1における微小要素の複屈折は、実施の形態1と同様に積分する。また、反射面240から第2光学面160までの第2光軸OA2における微小要素の複屈折は、工程S145で準備した変換データベースを用いて偏光状態を変化させた状態で積分する。
【0044】
(効果)
以上のように、本実施の形態に係る光学部品の解析方法によれば、実施の形態1に係る光学部品の解析方法による効果に加え、反射面240で光の偏光状態が変化する場合であっても、光軸OAにおける複屈折やリタデーションを適切に解析できる。
【0045】
図6は、複数の光軸OAを有する光レセプタクル300の斜視図である。
図6に示されるように、光軸OAは複数であってもよい。この場合の光レセプタクル300は、複数の第1光学面320と、反射面340と、複数の第2光学面360と有する。そして、光学部品の解析方法では、光軸OAを設定する工程において複数の光軸OAを設定すればよい。この場合も光軸OA1(OA2)は、光線の太さを考慮して設定してもよい。そして、各光軸OA1(OA2)について、微小要素に分割し、複屈折を算出し、複屈折を積分してリタデーションを算出すればよい。これにより、光軸OA1(OA2)と、他の光軸OA1(OA2)との複屈折(リタデーション)の差異を容易に確認できる。